説明

インクジェットインクのブロンジングを排除する添加剤

【課題】
インク受容層上に印刷されたインクジェットインクのブロンジングを低減又は排除することのできるインクジェット印刷システム、及び方法を提供する。
【解決手段】
本発明のインクジェット印刷システムでは、種々の媒体上に印刷された際にインクのブロンジングを防止すべく、インクジェットインクに抗ブロンジング剤が含まれている。当該抗ブロンジング剤は、印刷媒体上に印刷された際にプロトン化するところのアミン抗ブロンジング添加剤とし得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用インクジェットインクに関する。より詳細には、本発明は、印刷媒体上において、ブロンジングの軽減又は排除された改良型インクジェットインクに関する。
本出願は、2003年7月28日付け米国特許出願第10/628,903号の一部継続出願である。
【背景技術】
【0002】
ブロンジング(ブロンズ現象、bronzing)は、印刷画像を特定の角度で見る場合に観察される金属光沢を生ずる光学現象であり、それは特定の染料に関連して起こる。詳細には、ブロンジングは、インク乾燥後の、茶褐色の反射色を意味する。ブロンジングは、光学濃度の低減を引き起こすため、特にブラックインクに関して顕著であるとはいえ、シアンのような他の色に関してもブロンジングは起こり、その場合には赤みを帯びた色調が生成し得る。さらに、ブロンジングは、カラー特性の測定を妨害することもある望ましくない印刷特性である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ブロンジングの排除又は低減のために提案された1つの解法は、インクのpHを高めることであった。しかしながら、インクのpHを高めることによって、インク噴射に用いられる印刷ヘッドの材料劣化が起こる場合のあることが見出されている。よって、印刷媒体上に印刷されるインクジェットインクのブロンジングを低減又は排除さえする代替の手段を開発することは、当分野の進展につながるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
特定の添加剤をインクジェットインクに含有させることで、写真用媒体(特殊な急速乾燥性のインクジェット写真用多孔質媒体、又は特殊な比較的緩慢乾燥性のインクジェット写真用膨潤性媒体など)上におけるブロンジングを低減させ得ることが確認された。この認識に基づき、本発明のインクジェット印刷システムは、インク受容層を有する印刷媒体と、当該インク受容層上に印刷できるよう構成されたインクジェットインクから構成することができる。当該インクジェットインクは、液体ビヒクル、染料、及び当該インクジェットインクがインク受容層上に印刷された際に少なくとも部分的にプロトン化するところのアミン抗ブロンジング剤を含むことができる。抗ブロンジング剤は、インク受容層上に印刷されたインクジェットインクのブロンジングを少なくとも低減させ得るのに有効な濃度にて存在させ得る。
【0005】
別の実施形態では、印刷媒体上に印刷されたインクジェットインクのブロンジングを低減させる方法は、インク受容層を備える印刷媒体上にインクジェットインクを噴射するステップを包含する。当該インクジェットインクは、液体ビヒクル、染料、及び当該インクジェットインクがインク受容層上に印刷された際に少なくとも部分的にプロトン化するところのアミン抗ブロンジング剤を含むことができる。抗ブロンジング剤は、インク受容層上に印刷されたインクジェットインクのブロンジングを少なくとも低減させ得るのに有効な濃度にて存在させ得る。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、インク受容層上に印刷されたインクジェットインクのブロンジングを低減又は排除することのできるインクジェット印刷システム、及び方法を提供することができる。本発明のその他の特徴並びに利点は、例示目的で本発明の特徴を図解する添付の図面と共に以下の詳細な説明を読むことによって明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の特定の実施形態を開示、説明するにあたり、本発明が、本明細書に開示される特定のプロセス並びに材料に限定されないことを理解されたい。何故ならば、それらは幾分変更し得るからである。また、本明細書で用いる用語は、特定の実施形態を専ら記述するだけの目的で用いるものであり、本発明の範囲を限定する意のないことを理解されたい。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義されるものとする。
【0008】
本発明を説明し範囲請求するにあたっては、以下の用語を用いることとする。
【0009】
単数形は、別途明確な指示のない限り、複数形の意味を包含する。従って、例えば、「染料」とは、1つ又は複数の染料を意味する。
【0010】
本明細書で用いるとき、「液体ビヒクル」は、着色剤を基材にまで輸送するのに用い得る液体組成物を包含するものと定義される。液体ビヒクルは当分野で周知であり、本発明の実施形態に従って広範なインクビヒクルを使用することができる。当該インクビヒクルは、限定はしないが、界面活性剤、溶媒、共溶媒、緩衝剤、殺生物剤、粘度修正剤、金属イオン封止剤、安定化剤、及び水をはじめとする、種々の薬剤からなる混合物から構成し得る。いくつかの実施形態では、液体ビヒクルはまた、ポリマー、UV硬化性材料、可塑剤、及び/又は共溶媒のようなその他の添加剤を保持することもできる。
【0011】
本明細書における用語「抗ブロンジング剤」には、それをインクジェットインクに添加することで、当該インクを印刷媒体上に印刷する際にブロンジングを防ぐことのできる組成物が包含される。第1の概略的な実施形態においては、抗ブロンジング剤として、インクジェットインクが印刷媒体に適用された際に少なくとも部分的にプロトン化しているアミン組成物を挙げることができる。即ち、アミンの水中pKaを、媒体に適用されたインクのpHより高く、又は媒体に適用されたインクのpHより僅かに低く(例えば、1pH単位以下の差にて低い)することによって、少なくとも比較的多くのアミンを媒体上でプロトン化されたままとすることができる。そのようなアミン組成物は、適切な濃度にて添加されると、媒体上において染料の凝集(ブロンジングを引き起こす傾向がある)を解くよう(即ち、染料凝集体を崩壊させるよう)作用し得る。印刷媒体のインク受容層上に印刷する際に染料の凝集を解くこの作用によって、ブロンジングが低減し得る。ブロンジング低減の程度に関していえば、本明細書の教示に従って印刷媒体上にインクジェットインクを印刷することで、許容レベルのブロンジングにまで低減させたり、又はブロンジングを排除したりさえすることができる。インクpHを高めるなどの他のアプローチと比較した場合の、本明細書において教示されるアプローチの利点として、印刷ヘッドにおけるpH感応性材料が劣化の危険にさらされないこと、並びに本明細書記載の実施形態を実施する際には広範な化合物を利用できることが挙げられる。
【0012】
アミン組成物に言及する際の用語「プロトン化している」又は「少なくとも部分的にプロトン化している」とは、アミンのpKa値が、印刷媒体に印刷されたインクジェットインクのpHより高いか、又は印刷媒体に印刷されたインクジェットインクのpHより僅かに低く(例えば、1pH単位以下の差にて低い)、それによって、少なくとも比較的多くのアミンが印刷媒体上においてプロトン化していることを表す。相対値に応じて、実質的に全てのアミンがプロトン化し得るか、又はかなり多くのアミンがプロトン化し得る。
【0013】
「pKa」は、組成物の半分がプロトン化されており、残りの半分が脱プロトン化されている際のpHとして定義される。pHが高くなるにつれ、プロトン化した分子は少なくなる。同様に、pHが低くなるにつれ、より多くの分子がプロトン化する。例えば、(実験的に決定された)固定pKa値を有する本発明のアミン抗ブロンジング剤を考えることができる。アミン抗ブロンジング剤自体のpKa値と比較してアミン抗ブロンジング剤を含有する組成物のpHが1単位高くなる毎に、存在するプロトン化したアミンは10倍少なくなるであろう。従って、本発明の一実施形態によれば、pKaは、印刷媒体上に印刷されたインクジェットのpHより高いか、あるいはまた、印刷媒体上に印刷されたインクジェットのpHよりも1pH単位以下の差にて低いかのいずれかとし得る。いずれの場合でも、アミン抗ブロンジング剤は、本発明の実施形態に従って「プロトン化している」若しくは「少なくとも部分的にプロトン化している」ものと考えることができる。
【0014】
「プロトン化したアミン」又は「少なくとも部分的にプロトン化したアミン」は、ブロンジングを阻害するためにインクジェットインク中に含まれている。しかしながら、ブロンジングは、インクが液体状態にある間(インクジェット機器内に貯蔵されている間など)は起こらず、インクが印刷媒体上に一旦印刷された後に起こる現象である。従って、pH値とpKa値が本発明の基準を満たすかどうかについて問題となるのは、印刷媒体上に印刷された後のインクジェットインク組成物のpHである。例えば、pH6の印刷媒体上にインクジェットインクによってpKa約5のアミン抗ブロンジング剤を印刷した場合にはブロンジングを防止できないが、pH約4の印刷媒体上に同じアミン抗ブロンジング剤を含んで成る同じインクジェットインクを印刷する場合にはブロンジングを防止できる。このことは、比較的低いpHを有する印刷媒体は、(印刷画像を形成すべく組み合わせられた後の)インクジェットインク/印刷媒体の組合せのpHを低下させて、それによって、より多くのアミンのプロトン化がもたらされるというふうに説明し得る。勿論、これは、あらゆる情況に対して完全に説明し得るものではなく、インクと媒体の両要素の相対的な濃度もまた、ブロンジングが起こるか否かに関して同じく主要な役割を演ずる。よって、一実施形態では、印刷画像のブロンジングが減じる程度にまで十分にインクジェットインクの染料の凝集を解くことができるほどアミンがプロトン化されるかどうかは、印刷媒体のpHとインクジェットインクのpHとの組合せによって決まるということを理解されたい。他の実施形態では、印刷された媒体のpHは、アミン抗ブロンジング剤のpKaとインクのpHとの間に十分大きい差があるかどうかに関連して、より低くすることもできる。しかしながら、いずれの場合においても、ブロンジングの抑制がもたらされるかどうかを予測する際には、アミンのプロトン化は、印刷媒体上に印刷されたインクジェットインクにより関連がある。
【0015】
数値又は範囲に言及する際の用語「約」は、測定実施時に起こり得る実験誤差から生ずる値も包含する意がある。
【0016】
本明細書で用いるとき、「有効量」又は「有効濃度」とは、所望の効果を達成するのに十分であるところの、物質又は薬剤の少なくとも最小の量を意味する。例えば、「インクビヒクル」の有効量とは、効果的なインク噴射に必要な諸性質を維持しながら、インク組成物を作り出すのに必要となる少なくとも最小の量である。
【0017】
本明細書では、比率、濃度、量、及びその他の数値データを範囲形式で提示する場合がある。そのような範囲形式は、単に便利且つ簡潔のために用いるものであり、範囲の限界値として明記した数値を含むだけでなく、各数値及び副範囲があたかも明記されているようにその範囲内に包含される個別の数値又は副範囲を全て包含するものと柔軟に解釈すべきことを理解されたい。例えば、約1wt%〜約20wt%という重量範囲は、1wt%、約20wt%という明記された濃度限界を含むだけではなくて、2wt%、3wt%、4wt%のような個別の濃度及び5wt%〜15wt%、10wt%〜20wt%等のような副範囲も含むものと解釈すべきである。
【0018】
本発明によれば、インクジェット印刷システムは、インク受容層を有する印刷媒体と、当該インク受容層上に印刷できるよう構成されたインクジェットインクとから構成することができる。当該インクジェットインクは、液体ビヒクル、染料、及び当該インクジェットインクがインク受容層上に印刷された際に少なくとも部分的にプロトン化しているところのアミン抗ブロンジング剤を含むことができる。抗ブロンジング剤は、インク受容層上に印刷されたインクジェットインクのブロンジングを少なくとも低減させ得るのに有効な濃度にてインク中に存在させ得る。
【0019】
別の実施形態では、印刷媒体上に印刷されたインクジェットインクのブロンジングを低減させる方法は、インク受容層を備える印刷媒体上にインクジェットインクを噴射するステップを包含する。当該インクジェットインクは、液体ビヒクル、染料、及び当該インクジェットインクがインク受容層上に印刷されたときに少なくともその一部がプロトン化しているアミン抗ブロンジング剤を含むことができる。抗ブロンジング剤は、インク受容層上に印刷されたインクジェットインクのブロンジングを少なくとも低減させ得るのに有効な濃度にてインク中に存在させ得る。
【0020】
上記実施形態に関しては、i)媒体のpHに関係なくブロンジングを低減できる程度にインクジェットインク中でアミンを十分プロトン化することができるか、ii)比較的低いpHを有する媒体によってブロンジングを低減できる程度に印刷媒体上でアミンを十分プロトン化することができるか、又はiii)印刷媒体上に印刷した時にブロンジングを低減又は排除できる程度に十分にアミンをプロトン化したままにすることができる。即ち、印刷媒体上に印刷された後のインク中においてアミンがどのようにプロトン化されるか又はプロトン化状態となるかは、最終的な印刷画像がブロンジングを低減できる程十分にプロトン化したアミンを含んでいるという事実よりも重要ではない。ブロンジングが低減されるかどうかを決めるにあたっては、媒体基材上に印刷された抗ブロンジング剤含有のインクジェットインクに関して起こるブロンジングを、同じ種類の媒体上に印刷された抗ブロンジング剤不含のインクジェットインクに関して起こるブロンジングと比較することができる。
【0021】
アミン抗ブロンジング剤の有効濃度は、インクジェットインクがインク受容層上に印刷された際に、染料の凝集状態を減じる量とし得る。何故なら、種々の写真媒体上においてブロンジングを引き起こすのは、典型的に、染料の凝集だからである。また、抗ブロンジング剤を過多に添加することによっても、印刷媒体上に印刷される際に染料を凝集させるべく作用し得る。ブロンジングを低減するのに用い得る濃度範囲は、ある程度、場合に応じて変わる。従って、インクジェットインクに抗ブロンジング剤をどれだけ添加するかを決める際には、存在する染料の種類と量、添加される抗ブロンジング剤の種類、及び存在する液体ビヒクル成分の種類と量など、幾つかの考察を行うことができる。どれだけの抗ブロンジング剤を添加すべきかの決定は、本開示を考察後に当業者であれば容易に理解できるであろう。一般に、抗ブロンジング剤の濃度を0.2wt%〜30wt%の範囲とすることで、許容される結果がもたらされる。
【0022】
使用するために選択する抗ブロンジング剤が本発明の実施形態によるアミンである場合には、インクジェット媒体のpHより高いpKaを有するアミンを選択することができる。あるいはまた、アミンのpKaが媒体のpHより低い場合には、少なくとも比較的多くのアミン誘導体がプロトン化されるように、そのpKaは、印刷媒体上に印刷されたインクジェットインクのpHより僅かに低く(例えば、1pH単位以下の差にて低い)することができる。本発明の実施形態に従ってプロトン化し且つ使用し得るアミンの例としては、エチルアミン誘導体をはじめとするアルキルアミン;アンモニア;エタノールアミン誘導体をはじめとするエタノールアミン;ピリジン;ナフタレン;モルホリン;アニリン;アミノ酸;及びそれらの混合物がある。特に、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、メチルモルホリン、モルホリン、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、及びピリジルカルビノールはそれぞれ、種々の染料に関し、種々の濃度範囲にてブロンジングを低減させ得ることが確認されている。第四アミンは、有効な抗ブロンジング剤には含まれない組成物の一例である。何故なら、第四アミンは、適切な脱凝集挙動を起こさないからである。
【0023】
以上の通り、アミンのpKaが印刷媒体上のインクジェットのpHより高いか又は僅かに低くなるように、アミンをインクジェットインクに添加することができる。どのシステムが用いられるかに関係なく、印刷媒体のpHより高いpKa(実験的に測定)を有するアミンは、好ましく使用することができる。比較的低いpHの印刷媒体が比較的高いpHの印刷媒体よりも一般的であるため、アミンを使用することで、より酸性の印刷媒体上において、ブロンジングを起こさずに印刷することが可能となる。比較的高いpHの印刷媒体に関しては、ブロンジングの問題はそれ程重要ではない。従って、特に、比較的酸性の印刷媒体を用いて印刷する際に、これらの添加剤をインクに含有させてブロンジングを抑制することが有益である。特定の理論にとらわれることなく、プロトン化したアミン抗ブロンジング剤の存在は、比較的酸性の印刷媒体上において染料が凝集しなくなるようにするのに役立つものと考えられる。
【0024】
抗ブロンジング剤に加え、インクジェットインクの残部は、在来の共溶媒(有機及び水性)及び少なくとも1つの染料を、在来の範囲にて含有し得る。例えば、インクジェットインク用の適切な共溶媒、染料及びそれらの濃度範囲のリストに関しては、米国特許第6,117,485号を参照のこと(参照することで、その内容を本明細書に取り入れることとする)。本明細書で議論する被覆媒体上でのブロンジングに関しては、全ての染料が起こすものではないことが理解されよう。しかしながら、インクジェット印刷に使用されるような染料がブロンジングを起こすことが確認された場合、本教示は、そのようなブロンジングを排除するための1つのアプローチを提供するものである。
【0025】
液体ビヒクルに関してより詳細に説明すれば、本発明のインクジェットインク組成物は、典型的に、水、共溶媒、界面活性剤、緩衝剤、殺生物剤、金属イオン封鎖剤、粘度修正剤、湿潤剤、及び/又はその他の既知の添加剤から構成することのできる水性調合物又は液体ビヒクルを用いて調製される。本発明の一態様では、当該液体ビヒクルは、インクジェットインク組成物の約70wt%〜約99.9wt%を構成することができる。他の態様では、液体ビヒクルは、着色剤以外に、高分子バインダ、ラテックス微粒子、及び/又はその他の固形物を含有することもできる。
【0026】
前述のように、本発明のインクジェット組成物に共溶媒を含有させることができる。本発明において用い得る共溶媒としては、水溶性有機共溶媒が挙げられ、それらには、限定はしないが、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、ジオール、グリコールエーテル、ポリ(グリコール)エーテル、ラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、長鎖アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、グリコールブチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アミド、エーテル、カルボン酸、エステル、オルガノスルフィド、オルガノスルホキシド、スルホン、アルコール誘導体、カルビトール、ブチルカルビトール、セロソルブ、エーテル誘導体、アミノアルコール、及びケトンが含まれる。例えば、共溶媒には、炭素数30以下の第一脂肪族アルコール、炭素数30以下の第一芳香族アルコール、炭素数30以下の第二脂肪族アルコール、炭素数30以下の第二芳香族アルコール、炭素数30以下の1,2−ジオール、炭素数30以下の1,3−ジオール、炭素数30以下の1,5−ジオール、エチレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)アルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)アルキルエーテルの高次の同族体、ポリ(プロピレングリコール)アルキルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)アルキルエーテルの高次の同族体、ラクタム、置換ホルムアミド、未置換ホルムアミド、置換アセトアミド、及び未置換アセトアミドを含むことができる。この発明の実施に際して好ましく用いられる共溶媒の具体例としては、限定はしないが、1,5−ペンタンジオール、2−ピロリドン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、3−メトキシブタノール、及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンがある。共溶媒を添加することで、インクジェットインク中の水の蒸発速度を低下させたり、詰まりを最小限としたり、又は粘度、pH、表面張力、光学濃度、及び印刷品質のようなインクのその他の諸性質を変更することができる。共溶媒の濃度は、約0.01wt%〜約40wt%の範囲とし得、一実施形態においては、約5wt%〜約15wt%である。当分野で知られているように、複数の共溶媒を用いることもできる。
【0027】
任意に、種々の緩衝剤又はpH調節剤を、本発明のインクジェットインク組成物中に用いることもできる。代表的な緩衝剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのような、アルカリ金属の水酸化物;クエン酸;トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びジメチルエタノールアミンのような、アミン;並びに本発明のブリード抑制又は光学濃度特性に実質的に干渉しないその他の塩基性又は酸性成分のようなpH制御溶液が挙げられる。用いる場合、緩衝剤は、典型的に、インクジェットインク組成物の約10wt%未満にて含有される。
【0028】
本発明の別の態様では、望ましくない微生物の成長を阻害するために種々の殺生物剤を用いることができる。適切な殺生物剤の幾つかの非限定例としては、安息香酸塩、ソルビン酸塩、NUOSEPT(ヒュルス アメリカの1部門、ヌデックス社)、UCARCIDE(ユニオンカーバイド社)、VANCIDE(RTヴァンダービルト社)、及びPROXEL(アイシーアイ アメリカ社)のような市販品、及びその他の既知殺生物剤がある。典型的には、前述の殺生物剤は、インクジェットインク組成物の約5wt%未満、多くの場合、約0.1wt%〜約0.25wt%にて含有される。
【0029】
インク調合分野における当業者には周知のように、1つ又は複数の種々の界面活性剤を用いることもできる。適切な界面活性剤の非限定例には、アルキルポリエチレンオキシド、アルキルフェニルポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシドブロックコポリマー、アセチレン系ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド(ジ)エステル、ポリエチレンオキシドアミン、プロトン化ポリエチレンオキシドアミン、プロトン化ポリエチレンオキシドアミド、ジメチコンコポリオール、置換アミンオキシド、TERGITOLS、SURFYNOLS、ZONYLS、TRITONS、MERPOLSのような市販製品、及びそれらの組合せが含まれる。本発明のインクジェットインクに添加される界面活性剤の量は、0wt%〜10wt%の範囲とし得る。
【0030】
本発明の一実施形態では、インクジェットインクは、サーマルインクジェットペンから適用されるよう構成することができる。サーマルインクジェットシステムは、圧電式インクジェットシステムとはそれらの噴射特性において全く異なっている。それ故、圧電式インクジェットシステムにおいて有効に使用できる組成物が、サーマルインクジェットシステムでの使用においては必ずしも有効ではない。しかしながら、逆は必ずしも真ではない。換言すれば、サーマルインクジェットシステムに対してよく機能するポリマーは、その逆(圧電式インクジェットシステムに対してよく機能するポリマーをサーマルインクジェットシステムに用いる場合)よりは、圧電式インクジェットシステムに対しても機能しそうである。それ故、サーマルインクジェットシステムは、圧電式インクジェットシステムほど寛大でないので、サーマルインクジェットシステムと共に用いられる液体ビヒクル又はその他の添加剤の選択は、多くの場合より注意を払う必要がある。
【0031】
本教示から利益を得る染料の例を幾つかを挙げれば、限定はしないが、Direct Blue 199(CI 74180)、Black 287(Projet Fast Black 2)、並びに米国特許第5,062,893号に概略的に記載される他の染料が含まれる。インク中の成分の濃度は、場合に応じて決定されることを強調したい。より詳細には、抗ブロンジング剤の濃度及びその種類の選択は、染料の種類及び特性、染料の濃度、染料のpKa、存在するビヒクル成分、インクのpH、アミンのpKa、媒体のpH、媒体の種類等に応じて決定し得る。一般的に用いられるほとんどの添加剤のpKa値は既知であり出版されているか、又は簡単な滴定によって決定し得るため、そうした濃度の決定は困難とは考えられず、また印刷媒体とインクの両方のpHの決定もpH計を用いて容易に実施することができる。そのような工程の例を説明するために、DB199染料とBlack287染料との差異を考えることができる。DB199は、Black287より高感度のアミン塩であるフタロシアニン染料である。それ故、抗ブロンジングの結果(ブロンジング抑制効果)を得るために、幾つかの実施形態ではより少量の抗ブロンジング剤(例えば、アミン)で足りる場合がある。さらに、必要とするより多くの抗ブロンジング剤の混入が逆の結果をもたらす場合もある。換言すれば、抗ブロンジング剤の濃度が高すぎても低すぎても、染料の不安定性に帰着し得、従って、濃度は、場合毎に決定する。
【0032】
インクジェットインク成分への依存性に加えて、印刷媒体特性へのブロンジング依存性も存在する。例えば、普通紙上でブロンジングを呈さない多くの染料が、その他の種類の印刷媒体(写真ベース基材と、その上に被覆されている無機顔料(例えば、シリカ又はアルミナ)とバインダーとからなる速乾性インク受容層と、任意選択のトップコートとを含んで成る写真紙など)上でブロンジングを呈することが見出されている。従って、インクシステムは、当該インクシステムと組み合わせて用いられる媒体の種類を考慮しつつ調製することができる。
【0033】
印刷媒体のインク受容層に関していえば、これは、画像を生成するためにインクジェットインクを受容するのに用いられる任意のコーティングを含むことができる。用い得るインク受容層には少なくとも2つの種類があり、それらには、金属酸化物又は半金属酸化物の微粒子をベースとするインク受容層(例えば、アルミナ又はシリカをベースとしたもの)と、ポリマー膨潤性インク受容層(例えば、ゼラチン又はポリビニルアルコール)とが包含される。媒体基材には、例えば、紙、プラスチック、コーテッド紙、布地、アート紙、又はインクジェット印刷技術に使用されるその他の既知の基材を用いることができる。一実施形態では、基材に写真ベースを用いることができる。写真ベースは、典型的に、ポリエチレンの層のような2つの高分子層で挟持された単層の紙からなる3層構成である。
【0034】
インク受容層に関しては、金属酸化物又は半金属酸化物の微粒子をベースとするインク受容層を用いる場合には、無機半金属又は金属酸化物の微粒子、高分子バインダー、及び、任意に媒染剤及び/又はその他の多孔質コーティング組成物剤を含有させることができる。一実施形態では、無機半金属又は金属酸化物の微粒子は、シリカ、アルミナ、ベーマイト、ケイ酸塩(ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等)、チタニア、ジルコニア、炭酸カルシウム、粘土、及びそれらの組合せとし得る。より詳細な態様では、当該微粒子には、アルミナ、シリカ、又はアルミノケイ酸塩を用いることができる。これらの無機微粒子の各々は、多孔質のインク受容層を形成すべく媒体基材に適用し得る、多孔質コーティング組成物中に分散させることができる。半金属酸化物又は金属酸化物の微粒子は、官能性部分の結合したシランカップリング剤を用いて、化学的に表面修飾することができる。
【0035】
媒体基材上にコーティングし得る有機膨潤性インク受容層に関して説明すると、ゼラチン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース等のような親水性組成物を適用することができる。これらの組成物は、天然に存在するポリマーであり、インクジェットインクがその上に印刷されると、インク受容層を構成する当該ポリマーコーティングはインクを吸収し且つ捕捉する。これらの親水性高分子材料を媒体基材の片面もしくは両面にコーティングして、インクジェットインクの適用に向く良好な印刷表面を形成すると同時に、基材の裏面にバランスを与えて、紙基材で起こり得る基材のカールを防ぐことができる。媒体にバックコートを適用することで、印刷後に媒体を積み重ねる際のインクの転移を防ぐこともできる。そのような媒体の一例は、米国特許第6,638,585号に記載されており、参照することでその内容を本明細書に取り入れることとする。
【0036】
インク受容層は、それが主として無機多孔性であろうと又は有機膨潤性であろうと、十分な量のインクを吸着するか又は吸収して高品質の印刷画像を生成し得るよう設計された単一層又は複数層からなるコーティングとし得る。当該コーティング組成物は、ブレードコーティング、エアナイフコーティング、ロッドコーティング、ワイヤロッドコーティング、ロールコーティング、スロットコーティング、スライドホッパーコーティング、グラビア、カーテン、及びカスケードコーティングをはじめとする、当業者に周知の任意の手段によって、媒体基材に適用してインク受容層を形成することができる。当該インク受容層を媒体基材の1面又は両面上に印刷することができる。
【0037】
実施例
現在最もよく知られている本発明の実施形態を以下の実施例において説明する。ここで、以下の実施例は、本発明の原理の応用についての単なる模範例又は説明に過ぎないことを理解されたい。当業者は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、多数の修正及び代替の組成物、方法及びシステムを案出できよう。添付の特許請求の範囲は、前述の修正並びに代替の構成を網羅するものとする。これまで特定のものに関して本発明を説明してきたが、以下の実施例は、本発明の最も実用的であり且つ好ましい実施形態と現在思われるものに関連してさらに詳述するものである。
【実施例1】
【0038】
2つの典型的なインクジェットインク組成物を調製した。1つはBlack 287(Projet Fast Black 2)(インク1)を含有し、もう1つはDB199Na(CI 74180)(インク2)を含有している。これらの2つのインクジェットインクの各々を、6つの等しい容積に分割して、全体で12容積部のインクジェットインクとした。6つ(インク1a、1b、1c、1d、1e、及び1f)はBlack 287を含有し、そして他の6つ(インク2a、2b、2c、2d、2e、及び2f)はDB199Naを含有する。インク1aと2aは、さらに修飾することはせず、その他のインクのブロンジング改善性を決定するための基準、即ちコントロールとした。インク1b〜f及び2b〜fの各々は、アミン抗ブロンジング剤で修飾した。即ち、インク1bと2bは、各々、メチルモルホリンで修飾し、1cと2cは、各々、モルホリンで修飾し、1dと2dは、各々、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンで修飾し、1eと2eは、各々、トリエチルアミンで修飾し、そして1fと2fは、各々、3−ピリジルカルビノールで修飾した。調製したインクジェットインクのpHは全て、約8〜8.5であった。検討に用いた印刷媒体は、1)写真ベース基材とその上にコーティングされたpH約4のシリカ系インク受容層とを含んで成る実験用写真紙(「多孔質媒体」と称する)、2)HP Premium Plus Photo Paper,Glossyとして市販されているpH約6のポリビニルアルコールコーティング膨潤性媒体(「膨潤性媒体」と称する)であった。等価の写真印刷物をもたらすために、これら両タイプの印刷媒体をカラーインクジェット印刷に用いた。多孔質媒体に関しては、印刷媒体上のシリカコーティングは、米国特許第5,275,867号、第5,436,178号、第5,576,088号、第5,605,750号、第5,989,378号、及び第6,187,430号に記載されている(参照することで、それらの内容を本明細書に取り入れることとする)。検討した結果を、以下の表1及び2に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
表1及び表2から見てとれるように、アミン添加剤を含有させないとブロンジングが生じた(これを、比較のためのブロンジングコントロールとした)。しかしながら、インクジェットインクが印刷媒体上に印刷された際にプロトン化したアミン添加剤を含有する場合には、ブロンジングは低減、即ち改善された。ブロンジング改善に関する当該検討における唯一の例外は、インク1fを膨潤性媒体上に印刷したときに起こった。媒体のpHがピリジルカルビノール添加剤のpKaより高いので、印刷媒体上で染料の凝集を解く程度にまでは十分にアミンがプロトン化されず、従って、ブロンジングが改善されなかった。
【0042】
特定の好ましい実施形態を参照して本発明を説明してきたが、当業者であれば、本発明の趣旨から逸脱することなく種々の修正、変更、省略、並びに置換をなし得ることが分かるであろう。それ故、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット印刷システムであって、
a)インク受容層を有する印刷媒体と、
b)前記インク受容層上に印刷できるよう構成されたインクジェットインクと、
を含み、前記インクジェットインクが、
i)液体ビヒクルと、
ii)染料と、
iii)前記インクジェットインクが前記インク受容層上に印刷された時に、少なくとも部分的にプロトン化しているアミン抗ブロンジング剤と、
を含んで成り、前記抗ブロンジング剤が、前記インク受容層上に印刷された前記インクジェットインクのブロンジングを少なくとも低減させるのに有効な濃度にて存在する、システム。
【請求項2】
前記アミン抗ブロンジング剤のpKa値が、前記インク受容層上に印刷された前記インクジェットインクのpH値よりも高い、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記アミン抗ブロンジング剤のpKa値が、前記インク受容層上に印刷された前記インクジェットインクのpH値よりも、1pH単位以下の差にて低い、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記アミン抗ブロンジング剤のpKa値が、前記インク受容層のpH値より高い、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記アミン抗ブロンジング剤の前記有効濃度が、前記インクジェットインクが前記インク受容層上に印刷された際に前記染料の安定性を改善する量である、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記アミン抗ブロンジング剤のpKa値が、印刷媒体上に印刷された前記インクジェットインクのpHより高く、且つ前記アミン抗ブロンジング剤が、前記インクジェットインクが前記インク受容層上に印刷された際に、染料凝集体を崩壊させるプロトン化形態を有する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記インク受容層が、金属酸化物又は半金属酸化物の微粒子をベースとするコーティングを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記インク受容層が、ポリマー膨潤性コーティングを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記アミン抗ブロンジング剤が、エチルアミン、アンモニア、エタノールアミン、ピリジン、ナフタレン、モルホリン、アニリン、アミノ酸、及びそれらの混合物から成る群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記アミン抗ブロンジング剤が、前記インクジェットインク中に約0.2wt%〜30wt%にて存在する、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
印刷媒体上に印刷されるインクジェットインクのブロンジングを低減させる方法であって、
インク受容層を備える印刷媒体上にインクジェットインクを噴射させるステップを含み、前記インクジェットインクが、
a)液体ビヒクルと、
b)染料と、
c)前記インクジェットインクが前記インク受容層上に印刷される時に、少なくとも部分的にプロトン化されるアミン抗ブロンジング剤と、
を含んで成り、前記抗ブロンジング剤が、前記インク受容層上に印刷された前記インクジェットインクのブロンジングを少なくとも低減させるのに有効な濃度にて存在する、方法。
【請求項12】
前記アミン抗ブロンジング剤のpKa値が、
i)前記インク受容層上に印刷後の前記インクジェットインクのpH値より高い、
ii)前記インク受容層上に印刷後の前記インクジェットインクのpH値よりも、1pH単位以下の差にて低い、又は
iii)前記インク受容層のpH値より高い、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アミン抗ブロンジング剤の前記有効濃度が、前記インクジェットインクが前記インク受容層上に印刷された際に前記染料の安定性を改善する量である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記アミン抗ブロンジング剤のpKa値が、印刷媒体上に印刷された前記インクジェットインクのpHより高く、且つ前記アミン抗ブロンジング剤が、前記インクジェットインクが前記インク受容層上に印刷された際に染料凝集体を崩壊させるプロトン化形態を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記インク受容層が、金属酸化物又は半金属酸化物の微粒子をベースとするコーティングを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記インク受容層が、ポリマー膨潤性コーティングを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記アミン抗ブロンジング剤が、エチルアミン、アンモニア、エタノールアミン、ピリジン、ナフタレン、モルホリン、アニリン、アミノ酸、及びそれらの混合物から成る群から選択される、請求項11に記載の方法。

【公開番号】特開2006−9005(P2006−9005A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175077(P2005−175077)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】