説明

インクジェットインク及び画像形成方法

【課題】湿度の影響が少なく、密着性、柔軟性に優れ、着色や臭気の低いカチオン硬化型のインクジェットインクと該インクジェットインクを用いた画像形成方法を提供する。
【解決手段】カチオン重合性化合物と光酸発生剤を含有するインクジェットインクにおいて、該カチオン重合性化合物として、少なくとも下記一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aと、該一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを除くビニルエーテル化合物Bとを含有することを特徴とするインクジェットインク。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性光線照射装置を具備したインクジェットプリンタに用いるカチオン重合型のインクジェットインクとそれを用いた画像形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的簡単な装置で高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。また、使用される分野も多岐に亘り、それぞれの目的に応じて各種記録媒体あるいはインクジェットインクが使用されている。特に、近年では記録速度の大幅な向上がみられ、軽印刷用途にも耐え得る性能を持つインクジェットプリンタの開発も行われている。
【0003】
このインクジェット記録方式は、インクジェットヘッドよりインクジェットインクを吐出し、記録媒体に着弾させて、画像を形成する。インクジェットヘッドより吐出させるためには、インクは低粘度であることが必要な条件となる。一方、色相の異なった複数のインクジェットインクが記録媒体の同一領域に着弾するために、ブリードと呼ばれる色混ざりを防止するためには、高粘度のインクが必要となる。
【0004】
この様なジレンマを解決するための1つの方法として、活性光線硬化性インクジェットインクを用いる活性光線硬化型インクジェット記録方式が実用化されている。これは、インクジェットインク中に光硬化性モノマーと光開始剤を含有させ、記録媒体上に着弾した後、インクジェットインク液滴に活性光線を照射して、インクを硬化させることで、出射安定性の確保とブリードの防止を両立させている。
【0005】
光重合性化合物としては、主に、ラジカル重合性化合物とカチオン重合性化合物に分類される。
【0006】
ラジカル重合は、光照射によって光ラジカル重合開始剤から活性なラジカルが生成され、これがラジカル重合性化合物をアタックすることで重合反応が進行し、ポリマーが形成される。しかし、酸素による重合阻害があるため、小液滴化するほどインク液滴表面積が増加し、酸素による重合阻害が大きくなるという致命的な欠点がある。そのため、ラジカル重合を用いたラジカル重合型硬化性インクジェットインクは、高精彩画像を形成することができない、という本質的な欠点を有している。
【0007】
一方、カチオン重合は、光照射によって光酸発生剤から酸が発生し、その酸が、オキセタン、エポキシ、ビニルエーテルなどカチオン重合性化合物を活性化することで、付加重合あるいは開環重合で、ポリマーが形成される。このカチオン重合では、ラジカル重合のような酸素阻害がなく、高精細な画像を得るには適しているが、水による硬化阻害があるために、高精細画像を得るためには、湿度を適切に管理しなければならないという欠点があった。
【0008】
一方、ビニルエーテル系化合物は、酸と水が存在すると、容易に加水分解し、アルデヒドを生じることが知られている。この加水分解の速度は、D.M.Jones,N.F.Wood J.Chem.Soc.,5400(1964)などで調べられており、無置換のビニルエーテルに対しβ位に置換基を導入すると、加水分解が遅くなる。これらのビニルエーテル系化合物の光硬化性は、β位にメチル基やエチル基が置換したビニルエーテル(プロペニルエーテル)は、ビニルエーテルとほぼ同じ光硬化性であり(例えば、非特許文献1、2参照。)、β位にメチル基が2つ置換したビニルエーテル化合物は、単独重合しないなど、置換基によって大きく反応性が異なることが示されていた(例えば、非特許文献3参照)。
【0009】
また、2官能以上のプロペニル末端を有する化合物と光酸発生剤で構成される、光硬化性印刷インキの技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。同様の技術として、数平均分子量が500以上の無置換のプロペニルエーテルと光酸発生剤からなる光硬化性樹脂組成物の技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0010】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、これらのプロペニルエーテル化合物を単独で用いた光硬化性インクジェットインクは、形成した画像の記録媒体への密着性はある程度は向上するものの、実用的には決して十分でないことが判明した。
【0011】
また、本発明者らの検討の結果、ビニルエーテル化合物は、光照射による硬化後に、膜が黄色に着色することや、加水分解によって生成されるアルデヒドに起因すると推定される臭気が問題であることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平09−137108号公報
【特許文献2】特開平10−7754号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Crevello,Journal of Polymer Science: Part A:Polymer Chemistry, Vol.31,1473−1482(1993)
【非特許文献2】Crevello,Journal of Polymer Science: Part A:Polymer Chemistry, Vol.33,1381 −1389 (1995)
【非特許文献3】Oskar Nuyken,et,al,Macromol.Chem.Phys.199,191−196(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、湿度の影響が少なく、密着性、柔軟性に優れ、着色や臭気の低いカチオン硬化型のインクジェットインクと該インクジェットインクを用いた画像形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0016】
1.カチオン重合性化合物と光酸発生剤を含有するインクジェットインクにおいて、該カチオン重合性化合物として、少なくとも下記一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aと、該一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを除くビニルエーテル化合物Bとを含有することを特徴とするインクジェットインク。
【0017】
【化1】

【0018】
〔式中、R、Rは、それぞれ水素原子、炭素数が1から6のアルキル基、炭素数が1から6のアルコキシ基、または炭素数が2から6のアルケニル基を表す。ただし、RとRが同時に水素原子をとることはない。また、RとRが互いに結合して環を形成してもよい。Aは1価以上の有機連結基を表す。mは1から6の整数を表す。〕
2.前記光酸発生剤は、対アニオンとしてフッ素化アルキルフルオロリン酸イオンを有することを特徴とする前記1に記載のインクジェットインク。
【0019】
3.前記一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aと、前記一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを除くビニルエーテル化合物Bとの総質量が、前記カチオン重合性化合物の総質量の50質量%以上であることを特徴とする前記1または2に記載のインクジェットインク。
【0020】
4.前記一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aと、前記一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを除くビニルエーテル化合物Bとの総質量に対する前記ビニルエーテル化合物Bの比率が、20質量%以上、80質量%以下であることを特徴とする前記1から3のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【0021】
5.前記1から4のいずれか1項に記載のインクジェットインクを、インクジェットヘッドより記録媒体上に吐出した後、該インクジェットインクに活性光線を照射、硬化して画像を形成することを特徴とする画像形成方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、湿度の影響が少なく、密着性、柔軟性に優れ、着色や臭気の低いカチオン硬化型のインクジェットインクと該インクジェットインクを用いた画像形成方法を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0024】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、カチオン重合性化合物と光酸発生剤を含有するインクジェットインクにおいて、該カチオン重合性化合物として、少なくとも前記一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aと前記一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを除くビニルエーテル化合物Bとを含有することを特徴とするインクジェットインクにより、湿度の影響を受けにくく、密着性、柔軟性に優れた画像を得ることができ、かつ着色や臭気の低いカチオン硬化型のインクジェットインク(以下、単にインクともいう)を実現することができることを見出したものである。
【0025】
詳しくは、本発明者らの検討の結果、カチオン重合性化合物として、ビニルエーテル化合物Bのみを用いた場合、活性光線、例えば、紫外線照射時の湿度によって、硬化感度が大きく異なる(低湿度側の感度が高く、高湿度の感度が低い)ことが判明した。ユーザーがプリンタで印刷をする環境は様々であり、環境によらず一定の性能を発揮することは重要であるが、ビニルエーテル化合物Bを単独で使用したインクジェットインクでこれを達成することはできないことが分かった。また、ビニルエーテル化合物B単独では、紫外線照射によってアルデヒド臭気が発生することも上記検討により明らかとなった。その原因としては、光照射によって発生する酸がビニルーテル化合物Bのα位をカチオン化し、そこに水が反応すると加水分解が起こり、アルデヒドが発生するためと考えられる。
【0026】
また、検討を進めるなかで、ビニルエーテル化合物B単独の系では、記録媒体に対する密着性が低く、実用上は問題があることが分かった。
【0027】
一方、無置換のビニルエ−テル化合物に対して、β位に置換基が導入されたビニルエーテル化合物Aを適用することにより、上記の印字湿度環境の違いによる硬化感度の変動を抑制することができることが判明した。これは、上述の様な置換基の導入による加水分解速度と関係すると考えられる。すなわち、β位に置換基を導入することで、α位よりも電子密度が高まり、光によって発生する酸により、α位に比べ、β位がよりカルボカチオン化されやすい。この場合、高湿条件でも加水分解は起こりにくいと考えられる。この結果、硬化感度の湿度依存性が小さくなり、同時に加水分解によるアルデヒド臭も発生しにくいという利点が得られる。
【0028】
しかしながら、β位に置換基が導入されたビニルエーテル化合物Aは、形成した画像の記録媒体への密着性は若干向上するものの未だ十分とは言えず、更には、柔軟性は逆に低下することが判明した。この原因は明らかではないが、非特許文献1に記載されているように、β置換されたビニルエーテル化合物Aは、無置換のビニルエーテル化合物に比べ、より高速で硬化することが示されている。これは、初期の重合速度は速いが、重合度が十分高くなる前に、反応が停止することで、塗膜内の分子量分布が不均一となることと関係しているのではないかと考えられる。
【0029】
これに対して、ビニルエーテル化合物Bとβ位に置換を有するビニルエーテル化合物Aを併用した場合、高湿環境下で、β位に置換基を有するビニルエーテル基のβ位が、ビニルエーテル基のα位よりも電子密度が高く、β位がカチオン化される。これにより、系内の水が反応しても、加水分解は起こらずに水酸基の付加で留まり、かつアルデヒド臭がない硬化膜が出来る。一方、共存する置換基を有しないビニルエーテル化合物Bは、低湿環境下では効率的に重合に寄与できることから、湿度依存性を低下させることができる。また、ビニルエーテル化合物Bとβ置換のビニルエーテル化合物Aの共存により、硬化感度、記録媒体との密着性が向上する機構については不明だが、両者を含む系の光重合が共重合的に進行することで、発現できる効果であるものと考えられる。
【0030】
また、本発明者らの検討の結果、ビニルエーテル化合物Bとβ位に置換を有するビニルエーテル化合物Aを併用した場合、硬化膜の着色が軽減されることも分かった。詳しいメカニズムは不明であるが、着色の度合いは、湿度依存性やアルデヒド臭の発生の程度と相関があることから、上述の加水分解抑制効果によるものではないかと考えている。
【0031】
また、本発明のインクジェットインクにおいては、エポキシ化合物、オキセタン環を有するオキセタン化合物といった他のカチオン重合性化合物を併用できる。具体的には、本発明に係る前記一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aと前記一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを除くビニルエーテル化合物B(以下、本発明に係るビニルエーテル化合物群と称す)の総和が、全カチオン性重合化合物に対して50質量%以上の場合、本発明の効果をより高めることができる。
【0032】
本発明に係るビニルエーテル化合物群とエポキシ化合物/オキセタン化合物では重合の機構が異なるために、両者は共重合しないが、エポキシ化合物/オキセタン化合物の含有量が多い場合は、本発明に係るビニルエーテル化合物群に比べ性能には改良効果がみられない。これは、エポキシ化合物/オキセタン化合物が湿度依存性、密着性に劣る部分を、本発明に係るビニルエーテル化合物群が相殺しているためと推定できる。
【0033】
一方、エポキシ化合物/オキセタン化合物の含有量が少ない場合は、多い場合に比べ、湿度依存性、密着性が向上する。これは、エポキシ化合物/オキセタン化合物の湿度依存性の悪さ、密着性の低さを、本発明に係るビニルエーテル化合物群がそれを補っているためと考えられる。
【0034】
本発明に係るビニルエーテル化合物群の総和に対するビニルエーテル化合物Bの比率は20質量%以上、80質量%以下に設定することで、本発明の効果がより一層高まる。これは、ビニルエーテル化合物Bの比率が20%以上であれば、β置換のビニルエーテル化合物Aの比率をある程度抑制でき、記録媒体(以下、基材ともいう)への密着性や柔軟性の低下を防止することができる。一方、その含有率が80質量%以下であれば、ビニルエーテル化合物B特有の性質を抑制することができ、硬化感度の湿度依存性を低減し、臭気を低く抑えることができるため、好ましい。
【0035】
以下に、本発明のインクジェットインクの構成要素の詳細について説明する。
【0036】
〔一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物A〕
前記一般式(I)において、R、Rは、それぞれ水素原子、炭素数が1〜6のアルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、イソブチル、ヘキシル等の各基)、炭素数が1〜6のアルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ヘキシルオキシ等の各基)、または炭素数が2〜6のアルケニル基(例えば、1−プロピレン基、2−プロピレン基、2−ブチレン基等)を表す。ただし、RとRが同時に水素原子をとることはない。
【0037】
また、RとRが互いに結合して環を形成してもよい。形成しても良い環としては、例えば、シクロヘキサン環、ジオキサン環、アダマンチル環、ノルボルネン環が挙げられる。mは1〜6の整数を表す。
【0038】
Aは、1価以上の有機連結基を表し、詳しくはビニルエーテル基を結合してひとつの有機分子を形成するために必要な有機残基を示す。
【0039】
価数毎にAで表される有機連結基の具体例を以下に示す。
【0040】
(1価の有機連結基)
1価の有機連結基としては、例えば、置換、もしくは未置換のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、3−クロロブチル基、4−メトキシブチル基、ベンジル基等)、炭素数が1〜8のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ヘキシルオキシ基等)、エポキシ変性したアルキル基(例えば、グリシジル、エポキシプロピル基等)、エポキシ変性したアルキルアルケニル基(例えば、グリシジルプロペニル基等)、オキセタンを置換したアルキル基(例えば、2−オキセタニルエチル、3−オキセタニルブチル等)、アルコキシポリアルキレン基(例えば、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシエトキシ基等)、置換、もしくは未置換のフェニル基(例えば、フェニル基、トリル基、ドデシルフェニル基等)、ヘテロ環基(例えば、フラニル基、ピラニル基等)等を挙げることができる。
【0041】
(2価の有機連結基)
2価の有機連結基としては、例えば、アルキレン基(例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基等)、アルキレンエーテル類(例えば、−(OCHCH−、−(CHCH(CH)O)−、−(CHCHCHO)−、−(CHCHCHCHO)−等)、シクロアルキレン類(例えば、シクロヘキシレン基、アダマンチリレン基、ノルボルニレン基等)、あるいはそれらのエチレンオキシド付加物(例えば、1,2−、1,3−、1,4−シクロアルキレン、1,2−、1,3−、1,4−シクロアルキレンポリエチレンオキシド)、フェニレン基(例えば、フェニレン基、ビスフェノールA骨格を有するもの等)、ヘテロ環基(例えば、フラニル基、ピラニル基等)、トリシクロデカンジメタノール、テレフタル酸ビス(エチレングリコール)、水添ビスフェノールA、イソソルバイドなどの2価のアルコキシ基、またはそれらのアルキレンオキシド付加物の2価のアルコキシ基等を挙げることができる。
【0042】
(3価の有機連結基)
3価の有機連結基としては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、およびそれらのアルキレンオキシド付加物など3つのアルコキシ基等を挙げることができる。
【0043】
(4価の有機連結基)
4価の有機連結基としては、例えば、ペンタエリスリトールのエチレンオキシド付加物などの4つのアルコキシ基等を挙げることができる。
【0044】
(6価の有機連結基)
6価の有機連結基としては、例えば、ジペンタエリスリトールのエチレンオキシド付加物などの6つのアルコキシ基等を挙げることができる。
【0045】
上記例示したAで表される有機連結基のうち、好ましくは2価以上の有機連結基であり、さらに好ましくは、ポリアルキレンオキシ部を有する2価以上の有機連結基である。
【0046】
一般に、ビニルエーテル化合物は、光により発生した酸により、分子内のビニル基がビニルカチオンに変化して重合を開始する。この場合、分子中のほかの部分にエステル結合、エーテル結合が少ない場合は、直ちに多くの重合が発生するために、比較的重合度の低いポリマーしか得られない。一方、モノ、ジ、トリエチレンオキシド鎖を分子内に導入することで、反応速度を適切に調節出来るために、高分子量のものができ、密着性、柔軟性などの膜物性が向上する。これらの理由により上記化合物を適用するのが好ましい。
【0047】
本発明野インクジェットインクでは、本発明に係る一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを、全カチオン性重合性化合物の全質量に対し、20質量%以上、80質量%以下含有していることが好ましい。20質量%以上、または80質量%以下であれば、相対的にビニルエーテル化合物Bとの含有量の比率が適切な条件となり、湿度に対する相補完的な関係を維持することができ、結果として、湿度変化での光硬化感度の変化を抑制することができる。
【0048】
本発明のインクジェットインクにおいては、本発明に係る一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aの数平均分子量が100〜2000が好ましい。さらに好ましくは、200〜1200である。この範囲の数平均分子量であれば、重合基の密度がよく、重合基と重合基の距離が十分に離れているために、高速で柔軟性のよい画像を形成することが出来る。
【0049】
以下に、本発明に係る一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aの具体例を示す。なお、以下に示す例示化合物は、本発明の効果を得ることのできる化合物の一例を示すものであり、これら例示する化合物にのみ限定されない。
【0050】
【化2】

【0051】
【化3】

【0052】
【化4】

【0053】
〔ビニルエーテル化合物B〕
本発明に係るビニルエーテル化合物Bとは、本発明に係る一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを除くビニルエーテル基を有する有機化合物を指し、好ましくは数平均分子量が100から2000までの化合物である。さらに好ましくは、200〜1200である。数平均分子量が100以上であれば、光照射による重合後の膜強度が強く、耐擦性、基材密着性が向上する。一方、数平均分子量が2000以下であれば、ビニルエーテル化合物B自身の粘度を抑制でき、成膜後の耐刷性に優れ、インクジェットヘッドによる吐出安定性を得ることができる。上記の数平均分子量の範囲ならば、耐擦性に優れ、重合基の密度がよく、重合基と重合基との距離が十分に離れているために、高速で柔軟性のよい画像をインクジェット方式によって形成することが出来る。具体的には、以下の化合物が好適に用いることが出来る。
【0054】
(1価のモノビニルエーテル化合物)
1価のモノビニルエーテル化合物としては、例えば、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、エチルエトキシビニルエーテル、アセチルエトキシエトキシビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、アダマンチルビニルエーテル等を挙げることができる。
【0055】
(2価のビニルエーテル化合物)
2価のビニルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールビニルエーテル、ブチレンジビニルエーテル、ジブチレングリコールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ノルボルニルジメタノールジビニルエーテル、イソバイニルジビニルエーテル、ジビニルレゾルシン、ジビニルハイドロキノン等を挙げることができる。
【0056】
(3価のビニルエーテル化合物)
3価のビニルエーテル化合物としては、例えば、グリセリントリビニルエーテル、グリセリンエチレンオキシド付加物トリビニルエーテル(エチレンオキシドの付加モル数6)、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、トリビニルエーテルエチレンオキシド付加物トリビニルエーテル(エチレンオキシドの付加モル数3)等を挙げることができる。
【0057】
(テトラビニルエーテル化合物)
テトラビニルエーテル化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、ペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物トリビニルエーテル(エチレンオキシドの付加モル数9)等を挙げることができる。
【0058】
(6価のビニルエーテル化合物)
6価のビニルエーテル化合物としては、例えば、ジトリメチロールプロパンヘキサビニルエーテル、ジトリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物ヘキサビニルエーテル(エチレンオキシドの付加モル数6)等を挙げることができる。
【0059】
上記各ビニルエーテル化合物Bのうち、特に好ましくは、2価以上のビニルエーテル化合物である。2価以上のビニルエーテル化合物を用いることにより、光により生じる酸による重合反応が速やかに起こり、光硬化感度が高くより好ましい。
【0060】
本発明に係る一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aと共に用いることのできるビニルエーテル化合物Bの一例を以下に示す。
【0061】
【化5】

【0062】
本発明に係るビニルエーテル化合物Bと一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aは、従来公知のビニルエーテル化合物の合成方法に準じて合成することができる。また、一部の化合物は市販品として入手することもできる。
【0063】
〔その他の併用可能なカチオン重合性化合物〕
本発明のインクジェットインクにおいては、他のカチオン重合性化合物、例えば、従来公知のエポキシ化合物、オキセタン環含有化合物等を、本発明の目的効果を損なわない範囲で用いることができる。
【0064】
〈エポキシ化合物〉
本発明に適用可能なエポキシ化合物としては、通常、エポキシ樹脂として用いられるモノマー、オリゴマー又はポリマー等を挙げることができる。具体的には、従来公知の芳香族エポキシド、脂環族エポキシド及び脂肪族エポキシドが挙げられる。尚、以下、エポキシドとは、モノマー又はそのオリゴマーを意味する。これらの化合物は1種又は必要に応じて2種以上用いてもよい。
【0065】
芳香族エポキシドとして好ましいものは、少なくとも1個の芳香族核を有する多価フェノール又はそのアルキレンオキサイド付加体とエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジ又はポリグリシジルエーテルであり、例えば、ビスフェノールAあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、並びにノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0066】
脂環式エポキシドとしては、少なくとも1個のシクロへキセン又はシクロペンテン環等のシクロアルカン環を有する化合物を、過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化することによって得られる、シクロヘキセンオキサイド又はシクロペンテンオキサイド含有化合物が好ましく、具体例としては、例えば、ダイセル化学工業社製のセロキサイド2021、セロキサイド2021A、セロキサイド2021P、セロキサイド2080、セロキサイド2000、エポリードGT301、エポリードGT302、エポリードGT401、エポリードGT403、EHPE−3150、EHPEL3150CE;ユニオンカーバイド社製のUVR−6105、UVR−6110、UVR−6128、UVR−6100、UVR−6216、UVR−6000等を挙げることができる。
【0067】
脂肪族エポキシドの好ましいものとしては、脂肪族多価アルコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル等があり、その代表例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル又は1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、グリセリンあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はトリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0068】
更に、これらの化合物の他に、脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル及びフェノール、クレゾールのモノグリシジルエーテル等も用いることができる。これらのエポキシドの内、速硬化性を考慮すると、芳香族エポキシド及び脂環式エポキシドが好ましく、特に脂環式エポキシドが好ましい。
【0069】
これらエポキシ化合物は、本発明に係るビニルエーテル化合物Bと一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aから成る液状成分中、0〜20質量%、好ましくは0〜10質量%配合されることが、硬化性、硬化膜の柔軟性、基材との密着性の点で好ましい。
【0070】
〈オキセタン化合物〉
本発明でいうオキセタン化合物とは、分子内に1つ以上のオキセタン(トリメチレンオキシド)環を有する化合物である。具体的には、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(市販品としては、東亞合成社製のOXT101等)、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ベンゼン(同OXT121等)、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン(同OXT211等)、ジ(1−エチル−3−オキセタニル)メチルエーテル(同OXT221等)、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン(同OXT212等)、ジ(1−メチル−3−オキセタニル)メチルエーテル等を好ましく用いることができ、特に、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ(1−エチル−3−オキセタニル)メチルエーテルが好ましい。これらは、単独、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらオキセタン化合物は、本発明に係るビニルエーテル化合物Bと一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aから成る液状成分中、0〜20質量%、好ましくは0〜10質量%配合されることが硬化性、硬化膜の柔軟性、基材との密着性の点で好ましい。
【0071】
〈その他の化合物〉
この他にも、カチオン重合性化合物としては、本発明に係るビニルエーテル化合物群、上述のエポキシ化合物、オキセタン化合物以外にも、カチオン重合可能な公知の環状化合物を含有しても良い。尚、本発明においては、本発明に係るビニルエーテル化合物群、エポキシ化合物、オキセタン化合物およびその他の環状化合物を、カチオン重合性化合物と称する。
【0072】
〔ラジカル重合性化合物〕
本発明のインクジェットインクは、カチオン重合性化合物と共に、ラジカル重合性の化合物を添加しても良い。ラジカル重合性の化合物としては従来公知の(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸、チオール化合物、アリール化合物、など不飽和二重結合と共重合可能な化合物を挙げることができる。
【0073】
〔光重合開始剤:酸発生剤〕
本発明のインクジェットインクで用いることのできる光重合開始剤としては、公知の光酸発生剤を用いることができる。具体的には、アリールスルホニウム塩誘導体(例えば、ユニオンカーバイド社製のサイラキュアUVI−6990、サイラキュアUVI−6974;旭電化工業社製のアデカオプトマーSP−150、アデカオプトマーSP−152、アデカオプトマーSP−170、アデカオプトマーSP−172、サンアプロ社製のCPI−100、CPI−110P,CPI−110A,三和ケミカル社製のTS−91、Lamberti社製のEsacure1187、Esacure1188等)、アリルヨードニウム塩誘導体(ローディア社製のRP−2074、チバガイギー社製のイルガキュア250等)、アレン−イオン錯体誘導体(チバガイギー社製のイルガキュア250等)、ジアゾニウム塩誘導体、トリアジン系開始剤及びその他のハロゲン化物等の酸発生剤が挙げられる。
【0074】
光重合開始剤としては、カチオン重合性化合物100質量部に対して0.2〜10質量部の比率、更に0.5〜5質量部で含有させるのが好ましい。開始剤の含有量が0.2質量部以上であれば、所望の硬化物を得ることができ、10質量部以下であれば、光重合開始剤自体が紫外線吸収剤となってインク中の遮蔽効果を抑制することができ、良好な硬化性向上効果が得られると共に、低温および高温におけるインクの保存安定性を維持することができる。これら開始剤は、1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0075】
光重合開始剤の増感剤としては、例えば、スルホニウム塩を開始剤とした場合には、アントラセン、アントラセン誘導体(例えば、旭電化工業社製のアデカオプトマーSP−100、ジエトキシアントラセン、ジブトキシアントラセン等)が挙げられる。ヨードニウム塩を開始剤とした場合には、チオキサントン類などが使用できる。これらの増感剤は1種又は複数を組み合わせて使用することができる。その添加量はカチオン重合性化合物100質量部に対して0.2〜5質量部の比率、更に好ましくは0.5〜4質量部で含有させるのが好ましい。0.2質量部以上であれば増感効果を得ることができ、5質量部以下であれば、増感剤自体による着色や増感剤分解物による着色を抑制することができる。
【0076】
また、酸発生剤については、WO2005/116038号明細書において、オニウムフッ素化アルキルフルオロリン酸塩が開示されている。これに記載されている化合物を用いることで、カチオン重合性化合物に対する溶解性が向上し、活性エネルギー線照射による硬化性に優れていることが示されている。本発明者らの検討の結果、上述の効果を確認することができたが、これに加え、活性エネルギー線照射時の湿度による感度変動が小さく、加えて、硬化後の臭気や着色が少ないことが判明し、好ましい酸発生剤の1つである。
【0077】
〔色材〕
本発明のインクジェットインクを着色する場合は、顔料を色材として用いることが好ましい。顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無色無機顔料又は有色有機顔料を使用することができる。有機顔料としては、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッドなどの不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料;アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系有機顔料;キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系有機顔料;ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系有機顔料;イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系有機顔料;ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系有機顔料;チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロンイエロー等のキノフタロン系有機顔料;イソインドリンイエローなどのイソインドリン系有機顔料;その他の顔料として、フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。
【0078】
有機顔料をカラーインデックス(C.I.)No.で以下に例示する。
【0079】
C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、109、110、117、120、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185、
C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、
C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、177、180、192、202、206、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、
C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、
C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64、
C.I.ピグメントグリーン7、36、
C.I.ピグメントブラウン23、25、26、
上記顔料の中でも、キナクリドン系、フタロシアニン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリノン系、縮合アゾ系、キノフタロン系、イソインドリン系有機顔料等は耐光性が優れているため好ましい。
【0080】
有機顔料は、レーザ散乱による測定値でインク中の平均粒径が10〜150nmの微細粒子であることが好ましい。顔料の平均粒径が10nm未満の場合は、粒径が小さくなることによる耐光性の低下が生じ、150nmを超える場合は分散の安定維持が困難になり、顔料の沈澱が生じ易くなるとともに、吐出安定性が低下し、サテライトと言われる微小のミストが発生する問題が起こる。ただし、酸化チタンの場合は白色度と隠蔽性を持たせるために平均粒径は150〜300nm、好ましくは180〜250nmとする。
【0081】
またインク中の顔料の最大粒径は、1.0μmを越えないよう、十分に分散あるいは、ろ過により粗大粒子を除くことが好ましい。粗大粒子が存在すると、やはり吐出安定性が低下する。
【0082】
また、本発明においては、顔料を分散する際に使用する溶剤として、本発明に係るビニルエーテル化合物群、あるいはその他のカチオン重合性化合物を用いることが好ましい。
【0083】
顔料はその表面に顔料分散剤との吸着を促進するために、酸性処理または塩基性処理、シナージスト、各種カップリング剤など、公知の技術により表面処理を行うことが分散安定性を確保するために好ましい。
【0084】
顔料は、十分な濃度及び十分な耐光性を得るため、インクジェットインク中に白色を除く色の場合1.5〜8質量%、酸化チタンを用いた白色インクの場合、10〜30質量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0085】
〔顔料分散剤〕
顔料分散剤としては、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキル燐酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ステアリルアミンアセテート、顔料誘導体等を挙げることができる。
【0086】
具体例としては、BYK Chemie社製の「Anti−Terra−U(ポリアミノアマイド燐酸塩)」、「Anti−Terra−203/204(高分子量ポリカルボン酸塩)」、「Disperbyk−101(ポリアミノアマイド燐酸塩と酸エステル)、107(水酸基含有カルボン酸エステル)、110(酸基を含む共重合物)、130(ポリアマイド)、161、162、163、164、165、166、170(高分子共重合物)」、「400」、「Bykumen」(高分子量不飽和酸エステル)、「BYK−P104、P105(高分子量不飽和酸ポリカルボン酸)」、「P104S、240S(高分子量不飽和酸ポリカルボン酸とシリコン系)」、「Lactimon(長鎖アミンと不飽和酸ポリカルボン酸とシリコン)」が挙げられる。
【0087】
又、Efka CHEMICALS社製の「エフカ44、46、47、48、49、54、63、64、65、66、71、701、764、766」、「エフカポリマー100(変性ポリアクリレート)、150(脂肪族系変性ポリマー)、400、401、402、403、450、451、452、453(変性ポリアクリレート)、745(銅フタロシアニン系)」;共栄化学社製の「フローレンTG−710(ウレタンオリゴマー)」、「フローノンSH−290、SP−1000」、「ポリフローNo.50E、No.300(アクリル系共重合物)」;楠本化成社製の「ディスパロンKS−860、873SN、874(高分子分散剤)、#2150(脂肪族多価カルボン酸)、#7004(ポリエーテルエステル型)」等が挙げられる。
【0088】
更には、花王社製の「デモールRN、N(ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)、MS、C、SN−B(芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)、EP」、「ホモゲノールL−18(ポリカルボン酸型高分子)」、「エマルゲン920、930、931、935、950、985(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)」、「アセタミン24(ココナッツアミンアセテート)、86(ステアリルアミンアセテート)」;ゼネカ社製の「ソルスパーズ5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13240、13940(ポリエステルアミン系)、17000(脂肪酸アミン系)、24000、32000、7000」;日光ケミカル社製の「ニッコールT106(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)、MYS−IEX(ポリオキシエチレンモノステアレート)、Hexagline4−0(ヘキサグリセリルテトラオレート)」、味の素ファインテクノ製のアジスパー821、822、824等が挙げられる。
【0089】
これらの顔料分散剤は、顔料100質量部に対し5〜70質量部、好ましくは10〜50質量部の範囲で含有させることが好ましい。5質量部以上であれば良好な分散安定性が得られ、70%以下であればインクの吐出安定性に影響を及ぼすことがない。
【0090】
更に、これらの顔料分散剤は、0℃におけるカチオン重合性化合物全質量に対し、5質量%以上の溶解性を有していることが好ましい。溶解性が5質量%以上であれば、インクを低温保存をしたときに、好ましくないポリマーゲルまたは顔料の軟凝集体の発生を防止でき、良好なインクの保存安定性と吐出安定性を維持することができる。
【0091】
〔重合禁止剤〕
〈カチオン重合禁止剤〉
本発明のインクジェットインクにおいては、カチオン重合禁止剤を添加することが好ましい。ビニルエーテル化合物は反応性が高く、残留酸や、保存時に僅かに重合開始剤から発生する酸によって、暗反応が進行しやすいので、重合禁止剤は意図的に添加することが好ましい。重合禁止剤としては、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物もしくは、アミン類を挙げることができる。アルカリ金属イオン類は後述のするようにできるだけ添加しない方が好ましいので、アミン類が適している。
【0092】
アミン類として好ましくは、アルカノールアミン類、N,N−ジメチルアルキルアミン類、N,N−ジメチルアケニルアミン類、N,N−ジメチルアルキニルアミン類などであり、具体的には、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、プロパノールアミン、n−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、2−アミノエタノール、2−メチルアミノエタノール、3−メチルアミノ−1−プロパノール、3−メチルアミノ−1,2−プロパンジオール、2−エチルアミノエタノール、4−エチルアミノ−1−ブタノール、4−(n−ブチルアミノ)−1−ブタノール、2−(t−ブチルアミノ)エタノール、N,N−ジメチルウンデカノール、N,N−ジメチルドデカノールアミン、N,N−ジメチルトリデカノールアミン、N,N−ジメチルテトラデカノールアミン、N,N−ジメチルペンタデカノールアミン、N,N−ジメチルノナデシルアミン、N,N−ジメチルイコシルアミン、N,N−ジメチルエイコシルアミン、N,N−ジメチルヘンイコシルアミン、N,N−ジメチルドコシルアミン、N,N−ジメチルトリコシルアミン、N,N−ジメチルテトラコシルアミン、N,N−ジメチルペンタコシルアミン、N,N−ジメチルペンタノールアミン、N,N−ジメチルヘキサノールアミン、N,N−ジメチルヘプタノールアミン、N,N−ジメチルオクタノールアミン、N,N−ジメチルノナノールアミン、N,N−ジメチルデカノールアミン、N,N−ジメチルノニルアミン、N,N−ジメチルデシルアミン、N,N−ジメチルウンデシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルトリデシルアミン、N,N−ジメチルテトラデシルアミン、N,N−ジメチルペンタデシルアミン、N,N−ジメチルヘキサデシルアミン、N,N−ジメチルヘプタデシルアミン、N,N−ジメチルオクタデシルアミンが挙げられる。これらの他にも、4級アンモニウム塩なども使用することができる。
【0093】
カチオン重合禁止剤の添加量は、10〜5000ppmであることが好ましい。10ppm以上であれば、十分な保存安定性が得られると共に、インクの増粘やインクジェットノズルに対する撥インク性が得られるなど、良好な吐出安定性を維持することができる。また、5000ppm以下であれば十分な硬化感度を得ることができる。
【0094】
〈ラジカル重合禁止剤〉
本発明のインクにおいては、更にラジカル重合禁止剤を添加することができる。ラジカル重合禁止剤を併用することにより、インク中に不純物や残留酸が存在していても飛躍的にインクの保存安定性を向上させられることが分かった。本発明のインクはカチオン重合性化合物としてビニルエーテル化合物を主体としているが、ビニルエーテル化合物はラジカル重合性も有しているため、ラジカル重合禁止剤が相乗効果を発揮すると考えられる。
【0095】
ラジカル重合禁止剤としては、例えば、メトキノン(ヒドロキノンモノメチルエーテル)、ハイドロキノン、4−メトキシ−1−ナフトール、ヒンダードアミン系酸化防止剤、含窒素複素環メルカプト系化合物、チオエーテル系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、アスコルビン酸類、硫酸亜鉛、チオシアン酸塩類、チオ尿素誘導体、各種糖類、リン酸系酸化防止剤、亜硝酸塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、ヒドロキシルアミン誘導体、ジシアンジアミドとポリアルキレンポリアミンの重縮合物などが挙げられる。
【0096】
ラジカル重合禁止剤の添加量は10〜5000ppmであることが好ましい。10ppm以上であれば、十分な保存安定性が得られると共に、インクの増粘やインクジェットノズルに対する撥インク性が得られるなど、良好な吐出安定性を維持することができる。また、5000ppm以下であれば、重合開始剤の酸発生効率に影響を及ぼすことがなく、十分な硬化感度を得ることができる。
【0097】
〔水含有量〕
本発明のインクにおいては、水を0.2〜2質量%含有させることが好ましい。これにより硬化感度の低下をさせることなく、保存安定性を向上させることができる。0.2%以上で水添加による保存安定性向上が得られインクの増粘やインクジェットノズルに対する撥液性を保持するなど吐出安定性向上の効果が得られる。2%以下であれば、顔料分散性の維持や、分散剤や各種添加剤の析出といった保存安定性の低下を起こすことがない。
【0098】
〔金属イオン〕
本発明のインクにおいては、インク中のNaイオン、Caイオン及びMgイオンの総量が100ppm以下であることが好ましい。これらのイオンは、インクと純水とを混合し、水相を分離した後に水相に抽出されたイオンをイオンクロマト法によって定量することができる。
【0099】
これらのアルカリ金属イオンは、通常のインク貯蔵時には何ら問題を起こさないが、インクが活性エネルギー線を受け、重合開始剤から様々な分解物や活性種が生成した場合に、難溶性の塩を形成することがある。そのため、長期間インクを吐出すると、インクジェットノズルの開口部付近に難溶性の析出物が生成し吐出精度を低下させてしまう。
【0100】
インク中のアルカリ金属イオン量を低減する方法は、各種使用素材を精製することによって達成される。特に、一般に流通している顔料、スルホニウム塩などの重合開始剤、分散剤、ビニルエーテル化合物・オキセタン化合物・エポキシ化合物などのカチオン重合開始剤は、その製造工程でアルカリ金属イオンを不純物として含む場合があるので、各素材を適宜精製してから使うことが好ましい。これらアルカリ金属の精製により、対アニオンの含有量も減ることになり、不純物によるカチオン重合性の低下が抑えられる効果がある。
【0101】
また、塩素などのハロゲンイオン種も可能な限り減ずることが好ましい。ハロゲンイオン種は高湿条件においてビニルエーテル化合物の反応性を著しく低下させてしまう。ハロゲンイオンの総量は、50ppm未満、好ましくは10ppm未満とすることが好ましい。ハロゲンイオン種の低減は、上述のアルカリ金属イオン種の低減と同様に、原材料の精製を行うことにより達成可能である。
【0102】
〔その他の添加剤〕
本発明のインクには、必要に応じて界面活性剤、滑剤、充填剤、防錆剤、消泡剤、増粘剤、ゲル化剤、ポリマー類など各種の添加剤を含有させることが出来る。
【0103】
また、必要に応じてエステル系溶剤、エーテル系溶剤、エーテルエステル系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素溶剤、含窒素系有機溶剤など少量の溶剤を添加することも出来る。
【0104】
〔インク物性〕
本発明のインクの物性は、通常の硬化型インクジェットインクと同様の物性値を有することが好ましい。即ち、粘度は25℃において5〜50mPa・sで、シェアレート依存性が出来るだけ小さく、表面張力は25℃において22〜35mN/mの範囲にあること、顔料以外に1.0μmを超えるようなゲル状物質が無いこと、電導度は10μS/cm以下の電導度とし、ヘッド内部での電気的な腐食のないインクとすることが好ましい。コンティニュアスタイプにおいては、電解質による電導度の調整が必要であり、この場合には0.5mS/cm以上の電導度に調整する必要がある。
【0105】
加えて本発明のインクの物性として、更に好ましい形態は、毎分5℃の降下速度で25℃から−25℃の範囲でインクのDSC測定を行ったとき、単位質量あたりの発熱量が10mJ/mg以上の発熱ピークを示さないことである。本発明の構成に従って素材の選定を行うことにより、DSC測定において一定量以上の発熱を抑えることが出来る。このような構成とすることにより、インクを低温で保存した場合においてもゲルの発生や、析出物の発生を抑えることが出来る。
【0106】
〔インクの調製方法〕
本発明のインクジェットインクは、カチオン重合性化合物として本発明に係るビニルエーテル化合物Bと一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aと、顔料分散剤と共に、顔料をサンドミル等の通常の分散機を用いてよく分散することにより製造される。予め顔料高濃度の濃縮液を調製しておき、カチオン重合性化合物で希釈することが好ましい。通常の分散機による分散においても充分な分散が可能であり、このため、過剰な分散エネルギーが掛からず、多大な分散時間を必要としないので、インク成分の分散時の変質を招き難く、安定性に優れたインクが調製できる。調製されたインクは、孔径3μm以下、更には1μm以下のフィルターで濾過することが好ましい。
【0107】
〔インクジェット記録方法〕
本発明のインクジェットインクは、インクを重ねて硬化する多数回パス方式のシリアル記録方法において、特に好ましい記録特性を発揮する。具体的には、インクジェットインクを基材上に付与し、基材上のインクに活性エネルギー線を照射してインクを硬化または半硬化状態とし、この上にフレッシュなインクを付与し、活性エネルギー線によりインクを硬化させる工程を含むものである。特に、1回の活性エネルギー線照射により硬化させるインクの膜厚が薄膜であるインクジェット記録方法において効果を発揮する。具体的には、1.0〜20pl程度の小液滴を逐次硬化する記録方法である。更に、これらの小液滴を用いる記録方法においては、生産性を得るために高周波数の吐出を行う必要があるが、このような小液滴、高周波数の吐出を行う際、本発明の活性エネルギー線硬化性のインクジェットインクは優れた吐出安定性を示す。
【0108】
活性エネルギー線としては、紫外線を照射する場合には、例えば、紫外線LED、紫外線レーザ、水銀アークランプ、キセノンアークランプ、低圧水銀灯、螢光ランプ、炭素アークランプ、タングステン−ハロゲン複写ランプ及び太陽光を使用することができる。電子線により硬化させる場合には、通常300eVの以下のエネルギーの電子線で硬化させるが、1〜5Mradの照射量で瞬時に硬化させることも可能である。
【0109】
〔記録媒体〕
本発明のインクジェット記録に用いる記録媒体としては、従来、各種の用途で使用されている広汎な合成樹脂が全て対象となり、具体的には、例えばポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブタジエンテレフタレート等が挙げられ、これらの合成樹脂基材の厚みや形状は何ら限定されない。この他にも金属類、ガラス、印刷用紙なども使用できる。
【実施例】
【0110】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0111】
実施例1
《インクの調製》
(顔料分散液の調製)
PB822(味の素ファインテクノ社製、高分子分散剤) 9.0部
溶剤:ビニルエーテル化合物Bと一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを、表1に記載の比率で使用 総量として71.0部
上記混合液に下記顔料の20部を加えて、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gと共にガラス瓶に入れ密栓し、ペイントシェーカーにて10時間で分散処理した後、ジルコニアビーズを除去して、シアン顔料分散液である各顔料分散液を調製した。
【0112】
顔料:C.I.Pigment Blue 15:4(大日精化社製、ブルーNo.32) 20.0部
〔インク101〜122の調製〕
上記調製した各顔料分散液を用いて、20部の分散液に下記のカチオン重合性化合物を加えた後、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシル)、光重合開始剤を添加、攪拌した後、ADVATEC社製のテフロン(登録商標)3μmメンブランフィルターで濾過を行い、インク101〜122を調製した。
【0113】
顔料:C.I.Pigment Blue 15:4 4.0部
PB822(味の素ファインテクノ社製、高分子分散剤) 1.8部
カチオン重合性化合物:表1に記載のビニルエーテル化合物Bと一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物A(顔料分散液で使用した量を含む) 総量として91.2部
2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシル 0.03部
光重合開始剤:CPI−210S、サンアプロ社製 3.0部
尚、顔料分散液及びインク調製に用いた本発明に係るビニルエーテル化合物A及びビニルエーテル化合物Bは、Journal of Polymer Science :Part A:Polymer Chemisrty, Vol.31, 1473−1482(1983)の記載の方法に従って、各々合成した。
【0114】
《インクの評価》
上記調製した各インクについて、下記の方法に従って印画サンプルの作成及び評価を行った。
【0115】
〔湿度依存性1の評価〕
硬化後の乾燥膜厚が5.0μmとなるようにワイヤーバーを選択し、厚さ10μmのポリエチレンテレフタレートシート上に塗布した後、走査速度を変化させることができる高圧水銀ランプ(光量:320mJ/cm)を搭載したインクジェットプリンタのキャリッジにより、紫外線を照射させた。その後、塗布部分を触診し、べたつきが発生しない時のキャリッジ走査速度の逆数を、各インクの感度と定義した。即ち、高感度であるほど走査速度が高く、感度が低いほど走査速度を低下させて光照射を行う必要がある。
【0116】
湿度依存性評価は、25℃、80%RHの環境下での感度に対する25℃、20%RHの環境下での感度の比(25℃、20%RHの環境下での感度/25℃、80%RHの環境下での感度)をとり、その値が高い程、感度の湿度依存性が低く、湿度依存性が小さいことを表す。次いで、以下の基準に基づきインク101〜122の湿度依存性1を判定した。なお、評価ランクが◎〜△の範囲であれば、実用上許容されると判断した。
【0117】
◎:感度比が0.8以上、1.0以下
○:感度比が0.5以上、0.8未満
△:感度比が0.3以上、0.5未満
×:感度比が0.3未満
〔密着性の評価〕
ピエゾ型のインクジェットヘッドを備えたシリアル方式のインクジェット記録装置に、上記調製したインクを装填し、幅600mm、長さ500mの長尺の記録媒体へ、幅600mm、長さ100mmのインク単色で吐出量100%のベタ画像を印字した。記録媒体としては、厚さ10μmのポリエチレンテレフタレートシートを用いた。
【0118】
インク供給系は、インクタンク、供給パイプ、ヘッド直前の前室インクタンク、フィルター付き配管、ピエゾ型ヘッドから主に構成され、前室タンクからヘッド部分まで断熱して50℃の加温を行った。ピエゾ型ヘッドは14plのインク吐出量で720×720dpi(dpiとは1インチ即ち2.54cm当たりのドット数を表す)の解像度で吐出できるよう駆動して、インクを連続吐出した。着弾した後、キャリッジ両脇のランプユニットによりに硬化した。ヘッドを搭載したキャリッジ速度は300mm/sに設定した。また印字環境は25℃、50%RHの環境下で行った。
【0119】
上記方法に従って形成した各画像について、下記の方法に従って密着性を評価した。
【0120】
作成した硬化済み画像の1平方センチメートルの面積を縦、横1ミリメートル四方にカッターナイフを用いて100等分した。この部分にセロハンテープを貼り付け、記録媒体に対して180°の角度で一気に剥がした。その後、記録媒体上に残存する画像のマス目数を計測し、下記の基準に従って密着性を評価した。なお、評価ランクが◎〜△の範囲であれば、実用上許容されると判断した。
【0121】
◎:残存したマス目数が、80個以上
○:残存したマス目数が、50個以上、79個以下
△:残存したマス目数が、30個以上、49個以下
×:残存したマス目数が、29個以下
〔柔軟性の評価〕
上記密着性の評価と同様の方法で形成した単色ベタ画像を10cm四方に切り取り、印字面を表側にして、4つ折りにした。この時、4つ折りした正方形の中心は2回の折り曲げ力が働くことになる。この中心部分における亀裂発生の有無を目視観察し、下記の基準に従って柔軟性の評価を行った。なお、評価ランクが○、△であれば、実用上許容されると判断した。
【0122】
○:亀裂の発生がまったく認められない
△:2回目の折り曲げで、亀裂の発生が認められる
×:1回目の折り曲げで、亀裂が発生する
〔臭気耐性1の評価〕
上記密着性の評価と同様の方法で形成した単色ベタ画像を、印字直後に無差別に選抜した10人に対して官能評価を行い、以下の基準に従って臭気耐性1を評価した。なお、評価ランクが○、△であれば、実用上許容されると判断した。
【0123】
○:不快な臭気を感じる人が2人以下
△:不快な臭気を感じる人が3人以上、7人以下
×:不快な臭気を感じる人が8人以上
〔着色性の評価〕
重合の副反応によって硬化膜に着色が発生していないかどうかを評価するため、顔料成分のみを取り除いたインク101A〜122Aを調製し、この各インクを用いて上記密着性の評価と同様の方法で形成した透明ベタ画像を目視観察し、下記の基準に従って硬化膜の着色性を評価した。なお、評価ランクが○、△であれば、実用上許容されると判断した。
【0124】
○:着色は見られない
△:画像の50%未満の部分で着色が見られる
×:画像の50%以上の部分で着色が見られる
以上により得られた結果を、表1に示す。
【0125】
【表1】

【0126】
表1に記載の結果より明らかな様に、ビニルエーテル化合物B単独でインクを調製したインク101、あるいは一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aのみを用いたインク102では、湿度依存性が大きく、密着性も低く、硬化膜の着色も発生している。これに対して、インク103、109のように、ビニルエーテル化合物Bと一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを併用することにより、上記3つの性能が向上していることが分かる。更に、インク104〜108では、ビニルエーテル化合物B及び一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aの比率を20〜80質量%の範囲で併用することにより、湿度依存性、密着性、柔軟性、着色性の何れもより一層向上していることが分かる。これらの効果が得られた理由としては、重合速度と加水分解速度が異なるカチオン重合性化合物を組み合わせることで、高湿時に加水分解速度の速い重合性化合物が優先的に加水分解されても、残ったカチオン性重合性化合物で重合する。一方、低湿時には、重合速度の速いものが優先的に重合するために、粘度が増大する。この結果、残った重合性化合物が硬化に寄与できず、可塑剤として機能する。その結果、これら2つの化合物が相補間する関係になり、湿度の影響が低減したものと推定できる。
【0127】
この効果は、類似の化合物によりインクが構成されているインク110〜112、114〜122においても同様の効果があることを確認できた。
【0128】
ただし、化合物を併用する場合でもインク113のように、ビニルエーテル化合物Bを併用しても目的の効果が得られないことは、本発明の構成の優位性を支持すると考えられる。
【0129】
また、臭気については、ビニルエーテル化合物B単独で使用した場合は、その臭気に不快感を示す人の割合が非常に高かったが、本発明の構成のように、ビニルエーテル化合物Bと一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aとを併用することにより、不快感を示す割合が大きく低下していることが分かる。これは、一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aがビニルエーテル化合物Bに比べ加水分解しにくく、アルデヒドの発生が抑制されているためと考えられる。
【0130】
実施例2
《インクの調製》
実施例1に記載の方法と同様にして、表2に記載のカチオン重合性化合物構成からなるインク201〜208を調製した。
【0131】
なお、表2に記載のOXT221及びC3000の詳細は以下の通りである。
【0132】
OXT221:オキセタン化合物(ジ(1−エチル−3−オキセタニル)メチルエーテル)、東亞合成社製
C3000:セロキサイド3000、脂環式エポキシ化合物、ダイセル化学工業社製
《インクの評価》
上記調製したインク201〜208を用いて、実施例1に記載の方法と同様にして、画像形成及び湿度依存性1、密着性、柔軟性、臭気耐性1及び着色性の評価を行い、得られた結果を表2に示す。
【0133】
【表2】

【0134】
表2に記載の結果より明らかな様に、オキセタン化合物、脂環式エポキシ化合物といった開環重合タイプ用の光硬化性モノマーを併用することでも、本発明の効果は得られるが、その効果は、含有率を最適化することにより、より一層発揮されていることが分かる。
【0135】
本発明に係るビニルエーテル化合物B及び一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aの含有率が低いインク201〜203に比べ、インク204〜206では湿度依存性、密着性、柔軟性、着色性がより一層向上していることが分かる。オキセタン化合物、脂環式エポキシ化合物を、本発明に係るビニルエーテル化合物B及び一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aと併用した場合は、本発明に係るビニルエーテル化合物B及び一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aの高湿時の重合性化合物の加水分解が生じたとしても、オキセタン化合物、脂環式エポキシ化合物が重合反応を補うため、湿度依存性が向上する。一方、湿度が低い場合には、本発明に係るビニルエーテル化合物B及び一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aと、オキセタン化合物、脂環式エポキシ化合物では重合速度が異なり、重合速度が両者相補的になり、露光後の重合速度にばらつきがなくなり、均一で堅牢な画像膜が形成される。この結果、インク204〜206で形成した画像は、本発明の効果が更に高まると考えられる。
【0136】
一方、本発明に係るビニルエーテル化合物Bと一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aとを併用しないインク207、208では、所望の効果が得られていない。これは、ビニルエーテル化合物Bの加水分解を補う一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを併用しない場合は、ビニルエーテル化合物Bが重合反応に寄与できないばかりか、一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを取り囲む湿度成分によりオキセタン化合物、脂環式エポキシ化合物の重合反応も阻害されるため、硬化膜形成のための重合反応が十分に進行しないことが発明の効果が得られない原因と推定される。
【0137】
また、臭気耐性については、実施例1と同様に、一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを併用しないインク207により形成した画像は、臭気耐性の評価点が低い。これはエポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物をビニルエーテル化合物Bに併用しても臭気の低減効果が低く、ビニルエーテル化合物Bと一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aとを併用することの利点が現れていることが分かる。
【0138】
実施例3
《インクの調製》
光重合開始剤PI−1〜PI−9を用いて、実施例1に記載の方法と同様にして、表3に記載の構成からなるインク301〜309を調製した。
【0139】
光重合開始剤PI−1〜PI−9の詳細は、以下の通りである。
【0140】
【化6】

【0141】
なお、上記光重合開始剤PI−1〜PI−9は、WO2005−116038号明細書、特開2005−146001号公報、特表2005−501040号公報に記載の方法に従って合成した。
【0142】
《インクの評価》
上記調製したインク301〜309を用いて、実施例1に記載の方法と同様にして着色性の評価と、下記の方法に従って撥インク性、硬化感度、湿度依存性2、臭気耐性2の評価を行った。
【0143】
(撥インク性の評価)
ピエゾヘッド512SH(コニカミノルタIJ社製)に使用しているノズルプレート部材(撥インク性を有する)を、各インクに70℃で7日間浸漬したのち、撥インク性が保たれているかを目視確認し、下記の基準に従って、ノズル撥インク性を評価した。なお、評価ランクが○、△であれば、実用上許容されると判断した。
【0144】
○:インクの浸漬前後で、ノズルプレートの撥インク性に変化は認められない
△:インクに浸漬した後、撥インク性は僅かに劣化するがクリーニングにより回復する
×:インクに浸漬した後、ノズルプレートの撥インク性が無くなり、クリーニングでも回復しない
(硬化感度の評価)
厚さ10μmのポリエチレンテレフタレートシートに、膜厚3μmになるようにワイヤーバーにて各インクを塗布し、25℃、50%RHの環境下で高圧水銀灯にて光照射を行った。この際、積算光量が5〜50mJ/cmの範囲になるように調整し、塗布部分のべたつきがなくなった時の積算光量を各インクの硬化感度とし、下記の基準に基づき評価した。なお、評価ランクが○、△であれば、実用上許容されると判断した。
【0145】
○:積算光量が10mJ/cm未満で硬化する
△:積算光量が10mJ/cm以上、50mJ/cm未満で硬化する
×:積算光量が50mJ/cm以上でも硬化しない
〔湿度依存性2の評価〕
硬化後の乾燥膜厚が5.0μmとなるようにワイヤーバーを選択し、厚さ10μmのポリエチレンテレフタレートシート上に塗布した後、走査速度を変化させることができる高圧水銀ランプ(光量:320mJ/cm)を搭載したインクジェットプリンタのキャリッジにより、紫外線を照射させた。その後、塗布部分を触診し、べたつきが発生しない時のキャリッジ走査速度の逆数を、各インクの感度と定義した。即ち、高感度であるほど走査速度が高く、感度が低いほど走査速度を低下させて光照射を行う必要がある。
【0146】
湿度依存性評価は、30℃、80%RHの環境下での感度に対する20℃、20%RHの環境下での感度の比(20℃、20%RHの環境下での感度/30℃、80%RHの環境下での感度)をとり、その値が高い程、感度の湿度依存性が低く、湿度依存性が小さいことを表す。次いで、以下の基準に基づきインク301〜309の湿度依存性2を判定した。なお、評価ランクが◎〜△の範囲であれば、実用上許容されると判断した。
【0147】
◎:感度比が0.8以上、1.0以下
○:感度比が0.5以上、0.8未満
△:感度比が0.3以上、0.5未満
×:感度比が0.3未満
〔臭気耐性2の評価〕
実施例1に記載の密着性の評価と同様の方法で形成した単色ベタ画像を、印字直後に無差別に選抜した10人に対して官能評価を行い、以下の基準に従って臭気耐性2を評価した。なお、評価ランクが◎〜△の範囲であれば、実用上許容されると判断した。
【0148】
◎:不快な臭気を感じる人がいない
○:不快な臭気を感じる人が、1人以上、2人以下
△:不快な臭気を感じる人が3人以上、7人以下
×:不快な臭気を感じる人が8人以上
以上により得られた結果を、表3に示す。
【0149】
【表3】

【0150】
表3に記載の結果より明らかな様に、光開始剤の対アニオンを変更した場合、湿度依存性や臭気耐性の度合いに違いが見られることが分かる。特に、光開始剤の対アニオンがフッ素化アルキルフルオロリン酸イオンであるインク301〜306では、光開始剤の対アニオンがヘキサフルオロリン酸イオンであるインク307〜309に比べ、湿度依存性や臭気耐性が大きく改善され、撥インク性や硬化感度も同等以上であることが分かる。対アニオンの種類により、表3に示す効果を発現しているかの詳細は不明であるが、以下のように推測している。すなわち、イオン半径の異なるヘキサフルオロリン酸イオンとフッ素化アルキルフルオロリン酸イオンは、重合反応時におけるカルボカチオン安定化効果が異なり、フッ素化アルキルフルオロリン酸イオンがより安定化効果が高いと思われる。フッ素化アルキルフルオロリン酸イオンにより安定化されたカルボカチオンは、水による攻撃よりもビニルエーテルによる攻撃が優位となり、加水分解が抑制されていると推測している。従って、本発明におけるβ置換のビニルエーテル化合物Aの効果をより高める意味において、対アニオンとしては、特にフッ素化アルキルフルオロリン酸イオンを用いることが好ましいといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン重合性化合物と光酸発生剤を含有するインクジェットインクにおいて、該カチオン重合性化合物として、少なくとも下記一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aと、該一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを除くビニルエーテル化合物Bとを含有することを特徴とするインクジェットインク。
【化1】

〔式中、R、Rは、それぞれ水素原子、炭素数が1から6のアルキル基、炭素数が1から6のアルコキシ基、または炭素数が2から6のアルケニル基を表す。ただし、RとRが同時に水素原子をとることはない。また、RとRが互いに結合して環を形成してもよい。Aは1価以上の有機連結基を表す。mは1から6の整数を表す。〕
【請求項2】
前記光酸発生剤は、対アニオンとしてフッ素化アルキルフルオロリン酸イオンを有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
前記一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aと、前記一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを除くビニルエーテル化合物Bとの総質量が、前記カチオン重合性化合物の総質量の50質量%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aと、前記一般式(I)で表されるビニルエーテル化合物Aを除くビニルエーテル化合物Bとの総質量に対する前記ビニルエーテル化合物Bの比率が、20質量%以上、80質量%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェットインクを、インクジェットヘッドより記録媒体上に吐出した後、該インクジェットインクに活性光線を照射、硬化して画像を形成することを特徴とする画像形成方法。

【公開番号】特開2010−248360(P2010−248360A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98761(P2009−98761)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】