説明

インクジェットインク組成物

【課題】非吸収性の被記録媒体に対して、密着性が良好で、かつ耐擦過性や耐溶剤性も良好なインクジェットインク組成物を提供。
【解決手段】少なくとも、感光性化合物と、光重合開始剤と、有機溶剤と、電荷調整剤とを含有するインクジェットインク組成物であって、前記感光性化合物においては、25℃における粘度が100mPa・s以上の感光性化合物を組成物中に10〜70重量%含有し、また、前記有機溶剤においては、常温常圧で沸点が100℃以下の有機溶剤を組成物中に25〜80重量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物、特にコンティニュアス型インクジェットプリンター用のインクジェットインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンターは、文字や画像の出力機器として、広く利用されている。
【0003】
現在、インクジェットプリンターで利用されているインクジェット記録方式は、コンティニュアス方式とオンデマンド方式の2つに大別される。ここで、コンティニュアス方式とは、インク液滴を連続的に飛翔させ、電気的な力で飛翔進路を偏向させることにより、記録画像形成に必要なインク液滴のみを被記録媒体に着弾させ、残りのインク液滴を回収して繰り返し利用することを特徴とするインクジェット記録方式である。一方、オンデマンド方式とは、記録画像形成に必要なインク液滴のみを間欠的に飛翔させて、そのまま被記録媒体に着弾させることを特徴とするインクジェット記録方式である。
【0004】
この様な原理上の違いから、コンティニュアス方式の記録装置は、インクを加圧下でノズルから直接噴射または超音波により小液滴として飛翔させる装置に加えて、飛翔進路を偏向させるための、インク液滴を帯電および偏向させる電極が必要となり、オンデマンド方式の記録装置と比較して、構成は複雑で大掛かりとなる。しかしながら、常にインク液滴を飛翔させておくと、タイミングを計って飛翔させるよりも応答性に優れるために、より高速での記録が可能となり、また、乾燥の速いインクを用いても、吐出信頼性が高いという特徴がある。そこで、大量の被記録媒体があり、長時間にわたって記録を行う分野、また、非吸収性の被記録媒体のために速乾燥性のインクが必要となる分野において、主に産業用として使用されている。
【0005】
また、この種のインクジェットインク組成物は、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の各種プラスチック樹脂基材、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮等の各種金属基材、さらにセラミック、ガラス等の各種の非吸収性の被記録媒体にマーキングのための印字を行なうのに使用されるため、これらの被記録媒体に対する良好な密着性が要求されている。また、工業部品などのマーキングにも多用されるため、耐擦過性や耐溶剤性も必要とされる。
【0006】
良好な密着性を満たすインクとしては、結着樹脂としてロジン変性マレイン酸樹脂を使用した組成物(特許文献1)や、水酸基を有する塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂を使用した組成物(特許文献2)、さらには、アミノ基含有塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール系共重合体を使用した組成物(特許文献3)が提案されている。
【0007】
しかし、これらの結着樹脂としてロジン変性マレイン酸樹脂や水酸基を有する塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂、さらにはアミノ基含有塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール系共重合体を使用したインクジェットインク組成物では、密着性は大幅に改善されるものの、耐擦過性や耐溶剤性は未だ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平02−155963号公報
【特許文献2】特開平06−240192号公報
【特許文献3】特開2008−297446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、非吸収性の被記録媒体に対して、密着性が良好で、かつ耐擦過性や耐溶剤性も良好なインクジェットインク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく研究した結果、結着樹脂成分として、25℃における粘度が100mPa・s以上の感光性化合物を組成物中に10〜70重量%含有させることにより、非吸収性の被記録媒体への密着性および耐擦過性や耐溶剤性を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、(1)少なくとも、感光性化合物、光重合開始剤、有機溶剤、電荷調整剤を含有するインクジェットインク組成物であって、前記感光性化合物においては、25℃における粘度が100mPa・s以上の感光性化合物を10〜70%含有し、また、前記有機溶剤においては、常温常圧で沸点が100℃以下の有機溶剤を25〜80%含有することを特徴とするインクジェットインク組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、(2)インクジェットインク組成物の粘度が、25℃において2〜20mPa・sである前記(1)項に記載のインクジェットインク組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、(3)上記インクジェットインク組成物が、コンティニュアス型インクジェットプリンターに使用される前記(1)項または(2)項に記載のインクジェットインク組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、(4)前記(3)項に記載のインクジェットインク組成物を使用して得られる印刷物に関する。
さらに、本発明は、(5)前記(3)項に記載のインクジェットインク組成物を使用する印刷方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、結着樹脂成分として、25℃における粘度が100mPa・s以上の感光性化合物を組成物中に10〜70重量%含有させることにより、非吸収性の被記録媒体に対して、密着性が良好で、かつ耐擦過性や耐溶剤性も良好なインクジェットインク組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0017】
本発明のインクジェットインク組成物は、活性エネルギー線により硬化可能な特定の感光性化合物を含むことを特徴とする。
【0018】
すなわち、本発明のインクジェットインク組成物は、25℃における粘度が100mPa・s以上の感光性化合物を組成物中に10〜70重量%含有することを特徴とする。
【0019】
当該インク組成物は、25℃における粘度が100mPa・s以上の感光性化合物を組成物中に10〜70重量%含有することが好ましい。含有量が10重量%に満たないと、非吸収性の被記録媒体に対して耐擦過性や耐溶剤性が不足しやすい。また、含有量が70重量%より多いとインク粘度が20mPa・sより高くなりやすく、インクジェットプリンターから安定的にインクを吐出、印字出来ないことがある。インク組成物のインク粘度が小さ過ぎると、印刷時の画像形成に劣りやすく、少なくとも2mPa・s以上であることが好ましい。なお、本発明に使用する感光性化合物の粘度は、25℃における粘度が100mPa・s以上であればよく、特に制限されず、固体でも許容される。
【0020】
また、併用する有機溶剤は、常温常圧で沸点が100℃以下の有機溶剤を25〜80%含有することが好ましく、沸点がこれより大きい場合は乾燥性が悪く、生産性が低下する。さらに、有機溶剤の含有量が25%に満たないと、インクの粘度が高くなりインクジェットプリンターから安定的にインクを吐出、印字出来ない。また、有機溶剤の含有量が80%より多いと、非吸収性の被記録媒体に対して耐擦過性や耐溶剤性に劣る。
【0021】
さらに、当該感光性化合物の粘度は100mPa・s以上あることが好ましく、より好ましくは200mPa・s以上であることが好ましい。当該感光性化合物の粘度が100mPa・sより少ないと、インクの定着が遅くなり、画像形成性が低下する。
【0022】
なお、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、25℃における粘度が100mPa・s以下の感光性化合物や常温常圧で沸点が100℃以上の有機溶剤を併用することが可能である。本発明におけるインク組成物の粘度は、25℃において、コーンプレート型粘度計などの市販の粘度計を用いて測定することができる。測定条件は、インク組成物の粘度に応じて適切に設定する。
【0023】
当該感光性化合物として、ラジカル重合やカチオン重合、アニオン重合性化合物が一般的であるが、分子中に重合性反応性基を1個以上有していれば特に制限はない。具体的には、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物、オキソラン化合物、(メタ)アクリレート化合物、環状アセタール化合物、環状ラクトン化合物、チイラン化合物、チオビニルエーテル化合物、スピロオルソエステル化合物、エチレン性不飽和化合物、環状エーテル化合物、環状チオエーテル化合物、等を挙げることができ、これらの感光性化合物は単独でも二種以上組み合わせて使用しても良い。これらの感光性化合物のうち、特に(メタ)アクリレート化合物、エポキシ化合物およびオキセタン化合物が好ましく用いられる。なお、25℃における粘度が100mPa・s以上の感光性化合物としては、次の化合物が例示される。
エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマー、N−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、パラクミルフェノールEO変性アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクロイロキシエチルコハク酸、2−アクロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−アクロイロキシエチルフタル酸、2−アクロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールA−EO変性ジアクリレート、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジオキサングリコールジアクリレート、キシリレンビスオキセタン、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートなどが挙げられる。
【0024】
また、本発明で用いられる光重合開始剤としては、ラジカル重合性の光重合開始剤として、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−[4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルフォリニル)フェニル]−1−ブタノン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)フェニル)チタニウム、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(o−ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(o−アセチルオキシム)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルフォスフィンオキサイド、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、トリメチルベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、イソプロピルチオキサントン、o−ベンゾイル安息香酸メチル−4−フェニルベンゾフェノン、4−,4’−ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジメチル−2−ヒドロキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ミヒラ−ケトン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、トリメチルベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン混合物、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントンL−クロロフォルム−4−プロポキシチオキサントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、L−フェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパノン、10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−エチルアンスラキンン、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノンなどが挙げられる。
【0025】
さらには、カチオン重合性の光重合開始剤としてルイス酸のジアゾニウム塩、ルイス酸のヨードニウム塩、ルイス酸のスルホニウム塩等が挙げられ、これらはカチオン部分がそれぞれ芳香族ジアゾニウム、芳香族ヨードニウム、芳香族スルホニウムであり、アニオン部分がBF、PF、SbF、[BX(但しここで、Xは少なくとも2つ以上のフッ素又はトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基)等により構成されたオニウム塩である。具体例としては、四フッ化ホウ素のフェニルジアゾニウム塩、六フッ化リンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化アンチモンのジフェニルヨードニウム塩、六フッ化ヒ素のトリ−4−
メチルフェニルスルホニウム塩、四フッ化アンチモンのトリ−4− メチルフェニルスルホニウム塩、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素のジフェニルヨードニウム塩、アセチルアセトンアルミニウム塩とオルトニトロベンジルシリルエーテル混合体、フェニルチオピリジウム塩、六フッ化リンアレン−鉄錯体等を挙げることができる。本発明の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は、重合開始剤を含むことが好ましい。重合開始剤の種類や含有量は、重合性モノマーの種類や、照射する活性エネルギー線に応じて適宜選択することができる。
【0026】
また、これらカチオン重合性の光重合開始剤は、後述する電荷調整剤としても作用する場合がある。
【0027】
これらの重合開始剤の添加量は、インク組成物中において、1〜15重量%であることが好ましい。
これらの重合開始剤は、単独でも2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0028】
本発明のインクジェットインク組成物は、光増感剤を含んでいても良い。光増感剤の例には、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシル等のアミン化合物などや、ジブトキシアントラセンなどのアントラセン化合物などが挙げられる。
これらの光増感剤の添加量は、インク組成物中において、0.01〜10重量%であることが好ましい。
これらの光増感剤は、単独でも二種以上組み合わせて使用しても良い。
【0029】
本発明で用いられる有機溶剤は、常温常圧で沸点が100℃以下の有機溶剤を使用する。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン、シクロヘキサンなどの炭化水素類などを挙げることが出来る。これらの有機溶剤は、単独でも2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0030】
本発明のインクジェットインク組成物に使用する電荷調整剤としては、従来から使用されているものが使用でき、具体的には、無機塩類、アミンの塩酸塩類、アニオンが有機アニオンである第4級アンモニウム塩、アゾ鉄錯体、ホウ素系錯体、トリアリルスルホニウム塩およびその誘導体、ジアリルヨウドニウム塩およびその誘導体等を挙げることができる。
また、水を添加することで、電荷調整が容易になる場合もある。
【0031】
これら電荷調整したインクの電気伝導率は、吐出安定性や画像形成性の観点から、0.5〜5mS/cmの範囲であることが好ましい。
【0032】
本発明の活性エネルギー線硬化型インクジェットインク組成物は、用途に応じて、非反応性化合物、無機充填剤、有機充填剤、カップリング剤、粘着付与剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、可塑剤、酸化防止剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、顔料、染料、顔料誘導体などを含んでいても良い。公知慣用のものであればいかなるものも、その硬化性、インク組成物の特性を損なわない範囲で、特に制限なく使用することができる。
【0033】
本発明のインクジェットインク組成物を使用するには、まずこのインクジェットインクをインクジェットプリンターに供給して、このプリンターから基材上に吐出し、必要に応じて溶剤乾燥を手当した後、活性エネルギー線を照射する。これにより印刷媒体上の組成物は速やかに硬化、定着する。
【0034】
本発明のインクジェットインク組成物は、特に非吸収性基材への適用に優れるが、それ以外にも、紙や木材などの吸収性基材にも使用できる。
【0035】
また、本発明のインク組成物は、コーター、ディスペンサー、スプレー、グラビアなど、インクジェット以外の塗工方法にも使用できる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例および比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の部は重量部を、%は重量%を意味する。
【0037】
(実施例1〜14、比較例1〜9)
下記表1および2に示す原料を、順次混合し、室温にて1時間攪拌して溶け残りがないことを確認した。その後、孔径2μmのガラスフィルターを用いて加圧濾過を行い、実施例1〜14、比較例1〜9の各インクを作製した。
【0038】
(分散体の調製)
メチルエチルケトン86部に、分散剤(PB821、味の素ファインテクノ社製)4部を溶解させ、次いでカーボンブラック顔料(カーボンブラックMA−7、三菱化学社製)10部を加え、ペイントシェーカーを用いて2時間分散処理を行い、分散体を得た。
【0039】
(実施例15〜17、比較例10〜11)
下記表3に示す原料を、分散体以外順次混合し、室温にて1時間攪拌して溶け残りがないことを確認し、それぞれの分散体を加えてさらに20分間撹拌した。その後、孔径2μmのガラスフィルターを用いて加圧濾過を行い、実施例15〜17、比較例10〜11の各インクを作製した。
【0040】
得られた各インクをインクジェットプリンター(コンティニュアス型インクジェットプリンター「IJプリンターHX−P型」、日立製作所社製)にセットし、ポリエステル製樹脂基材(コスモシャインA4300、東洋紡績社製)上にアルファベットを印字、50℃の温風を1秒間当て、次いで紫外線照射装置(フュージョン社製、F300S/LC6B)120W/cm2、高圧水銀ランプ1灯、コンベア速度12m/分、積算光量150mJ/cm2の条件で硬化させた。
なお、比較例10〜11は、感光性化合物を含有していないので、紫外線照射作業を省略した。
【0041】
<性能評価>
実施例1〜17および比較例1〜11のコンティニュアス型インクジェットインク組成物の粘度、電気伝導率、画像形成性、密着性、耐擦過性、耐溶剤性を以下の方法により測定、評価した。それらの結果を表1〜3に示す。
【0042】
[粘度]
コーンプレート型粘度計TV−22(東機産業社製)を用い、温度25℃、せん断速度192s−1、回転速度50rpmにて測定した。
【0043】
[電気伝導率]
電気伝導率計(東亜ディーケーケー社製)を用い、温度25℃にて測定した。
【0044】
[画像形成性]
印字された印刷物を、次の基準に従って評価した。
○:文字がきれいに印字される(実用可)
△:文字が印字されるが判読しがたい(実用不可)
×:文字が印字されない(実用不可)
【0045】
[密着性]
印字されたインク皮膜表面に「×」状の切れ込みを入れ、その上にセロファンテープを密着させて剥がしたときの状態を、次の基準に従って評価した。
○:剥離ないもの(実用可)
△:パターンの一部に剥離が発生するもの(実用不可)
×:パターンの多くに剥離があるもの(実用不可)。
【0046】
[耐擦過性]
インク皮膜表面を、爪で引っかいたときの状態を、次の基準に従い評価した。
○:傷がまったく付かないもの(実用可)
△:傷あとが少し付くもの(実用可)
×:完全にインク皮膜が剥がれるもの(実用不可)
【0047】
[耐溶剤性]
印刷物を電子天秤の上に乗せてメチルエチルケトン(MEK)を浸した綿棒で、100gの加重で押し付けながら、1秒間に1往復の速さで、20〜30mmの距離の同じ所を5往復擦った後、インク皮膜の状態を、次に基準に従い評価した。
○:インク皮膜が全くとれない(実用可)
△:インク皮膜表面が少し取れる(実用可)
×:MEKが基材まで達し、インク皮膜が取れる(実用不可)
【0048】
表1〜3から、本発明のインクジェットインク組成物は、耐擦過性と耐溶剤性に優れることが分かった。
なお、比較例7および9は印字できなかったため、密着性、耐擦過性、耐溶剤性の評価を行えなかった。また、比較例10および11は、特許文献3をトレースした結果であり、結着樹脂成分として、25℃における粘度が100mPa・s以上の感光性化合物を10〜70%含有させることにより、耐擦過性と耐溶剤性が、大幅に改善できることを確認できた。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のインクジェットインクによれば、非吸収性の被記録媒体に対して、密着性が良好で、かつ耐擦過性や耐溶剤性も良好なインクジェットプリンター用のインクとして有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、感光性化合物と、光重合開始剤と、有機溶剤と、電荷調整剤とを含有するインクジェットインク組成物であって、
前記感光性化合物においては、25℃における粘度が100mPa・s以上の感光性化合物を組成物中に10〜70重量%含有し、また、
前記有機溶剤においては、常温常圧で沸点が100℃以下の有機溶剤を組成物中に25〜80重量%含有することを特徴とするインクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記インクジェットインク組成物の粘度が、25℃において2〜20mPa・sである請求項1記載のインクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記インクジェットインク組成物が、コンティニュアス型インクジェットプリンター用である請求項1または2に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のインクジェットインク組成物を使用して得られる印刷物。
【請求項5】
請求項3に記載のインクジェットインク組成物を使用する印刷方法。

【公開番号】特開2013−23555(P2013−23555A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158615(P2011−158615)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】