説明

インクジェットカートリッジ

【課題】 既存のカートリッジを利用しながら容量の異なる記録カートリッジを提供する。
【解決手段】 吸収体と、記録カートリッジの蓋リブ形状のみを変更することによって、容量の異なる記録カートリッジを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録液を記録媒体へ吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリンタ本体の仕様・お客様のニーズに合わせて、インクジェット記録カートリッジに注入するインク容量は決められる。
【0003】
通常、インク量の調整において、インク量を減量する場合は、既存のインクジェット記録カートリッジに注入するインク量を少なくすることで対応できる。しかしながら、この構成ではインク量に対して相対的に吸収体サイズが大きくなるため、無駄なスペースができてしまう。吸収体の繊維は非常に高価な材料であるから、無駄なスペースのために吸収体を入れておくのはコストの観点からも好ましくない。
【0004】
そのような難点から見れば、吸収体サイズをインク量に合わせて適正化するべきであるが、その度にインクジェット記録カートリッジそのもののサイズも変えてしまうと、生産性の観点から無駄が生じてしまう。
【0005】
そこで、従来の技術としては、以下の2つの特許文献、
(1)特開2001−138535
ジョイント針でインク供給する構成における、リブと吸収体のサイズを変更してインク量を調整する構成
(2)USP6899417
ジョイント針でインク供給する構成における、リブと吸収体のサイズを変更してインク量を調整する構成のUSP版
にあるように、吸収体サイズを調整することによりインク量を調整することが可能となるように、吸収体の高さに対応して吸収体をフィルターに押圧するリブの長さまたは形状を調整するという技術がある。
【0006】
また、フタ部材に異なる高さのリブを設け、ブラック、カラーそれぞれのカートリッジに共通に使用可能な従来技術もあり、特開2005−193387に開示されている。
【0007】
これらにより、外観的にはサイズの変更がなく、生産ライン上での搬送機構や組立て機構の共通化が図れるため、生産性を損ねることがなく、インク量のバリエーションを増やすことが可能になる。
【特許文献1】特開2001−138535号公報
【特許文献2】米国特許6899417明細書
【特許文献3】特開2005−193387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術のような構成にする場合、特に吸収体サイズが既存の吸収体サイズに対して約1/2程度にまで小さくする場合は、その分だけフタ部材に配置される吸収体押圧リブの長さを延長するため、フタ部材の成形性、特に反りが懸念される。
【0009】
通常、フタ部材の基本肉厚は1.5〜2.0mm程度であるから、フタ部材に垂直に設置したリブの長さが垂直方向に長くなると、リブを設置した面側を凸にした反り変形が生じることは一般的によく知られている。
【0010】
一方、フタ部材における、リブを設置した面と反対側の面には、大気連通口を形成する溝が設けられている。この溝は、カートリッジ内のインクの蒸発をできるだけ抑制するという目的でできるだけ細くて長い溝が設けられている。細さは金型の精度や耐久性等から、おおよそ0.4mm程度にしてある。長さはできるだけ長く取るため、0.4mm幅の溝と0.4mm幅の壁が交互になるように設けられている。
【0011】
前述したように、リブを設置した面側を凸にした反り変形を生じるため、大気連通口を形成する溝を配置した面側は凹となり、溝の幅は0.4mm程度と非常に狭いため、反りのレベルによっては、溝をつぶす可能性もある。
【0012】
さらにいえば、フタ部材の表面に配置された溝の上に、シール部材を貼り付けて末端部を一部露出することで、細くて長い大気連通口が形成されるため、凹側に反れば、シール部材の貼り付けが困難になる。そのため、溝と溝との間の壁を確実にシールできなくなる可能性が生じてしまい、信頼性の高い大気連通口を形成できなくなる可能性がある。
【0013】
このような状況を鑑みると、フタ部材の反り変形を抑制するような吸収体押圧リブの構成は非常に重要であり、これを解決する手段が非常に有効であるといえる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
インクを保持するための吸収体を収容したインク収容部と、大気連通口を形成する溝部と吸収体をフィルターに押圧するための吸収体押圧リブを備えたフタ部材と、インクを吐出するためのノズルを複数列に配列したインク吐出部材と、プリンタ本体から受け取った電気信号をインク吐出部材に送るための電気信号接続部材と、を一体に備えたインクジェット記録カートリッジにおいて、
吸収体サイズを調整することによりインク量を調整することが可能であり、吸収体の高さに対応して吸収体をフィルターに押圧する吸収体押圧リブの一部が、インク吐出部材のノズル配列方向と同一方向に延在しており、フタ部材に複数配置された吸収体押圧リブは、ノズル配列方向と直交する方向からみて、連続的につながるか、もしくはオーバーラップして配置されていることを特徴とするインクジェット記録カートリッジであり、
また、吸収体押圧リブの延在方向と、大気連通口を形成する溝の延在方向とが、直交する方向であることを特徴とするインクジェット記録カートリッジである。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明を用いれば、
既存のカートリッジをそのまま利用しながら、吸収体とフタ部材のみを新規設計するだけで構成できるという利点を生かすことができるため、コスト抑制を図ることが可能になる。
【0016】
同時に、フタ部材の成形時の反り変形を抑制することで、大気連通口を形成する溝の機能性を確保した、信頼性の高いインクジェット記録カートリッジを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
(第1の実施例)
図1は、本発明の構成を最もよく表したブラック用インクジェット記録ヘッド1000の斜視図および6面図である。
【0019】
図1におけるブラック用インクジェット記録ヘッド1000の構成は、インクを保持するための吸収体1300を収容したインク収容部1200と、大気連通口1102につながって細くて長い連通口を形成する溝1101と吸収体押圧リブ1103を備えたフタ部材1100と、インクを吐出するためのノズル1501を複数列に配列したインク吐出部材1500と、プリンタ本体から受け取った電気信号をインク吐出部材1500に送るための電気信号接続部材1600と、を一体で構成している。
【0020】
図2は、ブラック用インクジェット記録ヘッド1000に使用するフタ部材1100を表した平面図であり、表面側には大気連通口1102につながる溝1101が配置され、裏面側には吸収体1300を押圧するための吸収体押圧リブ1103が配置されている。大気連通口1102には、蒸発抑制のため細くて長い溝1101がつながっており、溝1101の上には、ラベル部材(不図示)をラベル貼付領域に貼り付けることで、溝1101の末端部を一部露出させて、細くて長い大気連通口を形成している。ここで、大気連通口1102の径はφ0.5mm、溝1101の幅は0.4mmでそれぞれ形成されている。
【0021】
本発明のブラック用インクジェット記録ヘッド1000は、吸収体1300のサイズを調整することによりインク量を調整することが可能である。本発明では吸収体1300の高さを14.8mmとした。吸収体1300の高さに対応して吸収体1300をフィルター1400に押圧する吸収体押圧リブ1103の一部が、インク吐出部材1500に配列されたノズル1501の配列方向と同一方向に延在している。ここで、吸収体押圧リブ1103の幅は1.2mm、高さ方向の長さを16mmとしている。また、フタ部材1100に複数配置された吸収体押圧リブ1103は、図1のA−A断面図に示すように、ノズル配列方向と直交する方向からみて、連続的につながるか、もしくはオーバーラップして配置されている。
【0022】
本発明のように、吸収体押圧リブ1103の長さが長い場合は、フタ部材1100の成形時に、図2に示すようなリブを設置した面側を凸にした反り変形が生じる。
【0023】
この対策として、図2の右側面図のように、すべての吸収体押圧リブ1103を切れ目がないように配置している。特に下面図に示すように、大気連通口1102の周囲を開放形状にしながらも、2つの吸収体押圧リブ1103を互い違いにオーバーラップさせることで、側面から見た時に連続的になるように配置している。このような連続配置は、成形時の反り変形に対して非常に有効であり、切れ目がある場合に比べて反り変形量が少なくなることはシミュレーション結果からも明らかである。ノズル配列方向にまったく延在しない構成では反り変形量が0.18mmなのに対し、本発明の構成では0.05mmとなり、約1/3以下の反り変形量に抑制している。実際の測定結果も0.02mmであり、ほとんど反り変形を抑制できている。この結果から、切れ目の数が増えれば増えるほど反り変形量が大きくなることは言うまでもない。
【0024】
また、吸収体押圧リブ1103の延在方向と、大気連通口1102につながる溝1101の延在方向とが常に直交する関係であれば、反り変形と溝の機能性の確保について更なる効果を奏でる。
【0025】
(第2の実施例)
図3は、本発明の構成を最もよく表したカラー用インクジェット記録ヘッド2000の斜視図および6面図である。
【0026】
図3におけるカラー用インクジェット記録ヘッド2000の構成は、インクを保持するための吸収体2300を収容したインク収容部2200と、大気連通口2102につながって細くて長い連通口を形成する溝2101と吸収体押圧リブ2103を備えたフタ部材2100と、インクを吐出するためのノズル2501を複数列に配列したインク吐出部材2500と、プリンタ本体から受け取った電気信号をインク吐出部材2500に送るための電気信号接続部材2600と、を一体で構成している。
【0027】
図4は、カラー用インクジェット記録ヘッド2000に使用するフタ部材2100を表した平面図であり、表面側には大気連通口2102につながる溝2101が配置され、裏面側には吸収体2300を押圧するための吸収体押圧リブ2103が配置されている。大気連通口2102には、蒸発抑制のため細くて長い溝2101がつながっており、溝2101の上には、ラベル部材(不図示)をラベル貼付領域に貼り付けることで、溝2101の末端部を一部露出させて、細くて長い大気連通口を形成している。ここで、大気連通口2102の径はφ0.5mm、溝2101の幅は0.4mmでそれぞれ形成されている。
【0028】
本発明のカラー用インクジェット記録ヘッド2000は、吸収体2300のサイズを調整することによりインク量を調整することが可能である。本発明では吸収体2300の高さを14〜17mmとした。吸収体2300の高さに対応して吸収体2300をフィルター2400に押圧する吸収体押圧リブ2103の一部が、インク吐出部材2500に配列されたノズル2501の配列方向と同一方向に延在している。ここで、吸収体押圧リブ2103の幅は1.2mm、高さ方向の長さを16mmとしている。また、フタ部材2100に複数配置された吸収体押圧リブ2103は、図3のA−A断面図に示すように、ノズル配列方向と直交する方向からみて、一部を除いて連続的につながるか、もしくはオーバーラップして配置されている。
【0029】
本発明のように、吸収体押圧リブ2103の長さが長い場合は、フタ部材2100の成形時に、図4に示すようなリブを設置した面側を凸にした反り変形が生じる。
【0030】
この対策として、図4の右側面図のように、できるだけ吸収体押圧リブ2103を切れ目がないように配置している。本発明では、色室の仕切りの都合から1ヶ所だけ切れ目がある構成にした。また、下面図に示すように、大気連通口2102の周囲を開放形状にしながらも、2つの吸収体押圧リブ2103を互い違いにオーバーラップさせることで、側面から見た時に連続的になるように配置している。このような連続配置は、成形時の反り変形に対して非常に有効であり、切れ目がある場合に比べて反り変形量が少なくなることはシミュレーション結果からも明らかである。ノズル配列方向にまったく延在しない構成では反り変形量が0.16mmなのに対し、本発明の構成では0.07mmとなり、約1/2以下の反り変形量に抑制している。実際の測定結果も0.04mmであり、ほとんど反り変形を抑制できている。この結果から、切れ目の数が増えれば増えるほど反り変形量が大きくなることは言うまでもない。
【0031】
また、吸収体押圧リブ2103の延在方向と、大気連通口2102につながる溝2101の延在方向とが常に直交する関係であれば、反り変形と溝の機能性の確保について更なる効果を奏でる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)本発明のブラック用インクジェット記録ヘッド斜視図、(b)上面図、(c)左側面図、(d)正面図、(e)A-A断面図、(f)下面図、(g)背面図。
【図2】(a)ブラック用インクジェット記録ヘッドに使用するフタ部材を表した正面図、(b)右側面図、(c)下面図。
【図3】(a)本発明のカラー用インクジェット記録ヘッドの斜視図、(b)上面図、(c)左側面図、(d)正面図、(e)A-A断面図、(f)下面図、(g)背面図。
【図4】(a)カラー用インクジェット記録ヘッドに使用するフタ部材を表した正面図、(b)右側面図、(c)下面図。
【符号の説明】
【0033】
1000 ブラック用インクジェット記録ヘッド
1100 フタ部材
1101 溝
1102 大気連通口
1103 吸収体押圧リブ
1104 指押え
1105 本体固定ガイド
1200 インク収容部材
1300 吸収体
1400 フィルター
1500 インク吐出部材
1501 ノズル
1600 電気信号接続部材
2000 カラー用インクジェット記録ヘッド
2100 フタ部材
2101 溝
2102 大気連通口
2103 吸収体押圧リブ
2104 指押え
2105 本体固定ガイド
2200 インク収容部材
2300 吸収体
2400 フィルター
2500 インク吐出部材
2501 ノズル
2600 電気信号接続部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを保持するための吸収体を収容したインク収容部と、大気連通口を形成する溝部と吸収体をフィルターに押圧するための吸収体押圧リブを備えたフタ部材と、インクを吐出するためのノズルを複数列に配列したインク吐出部材と、プリンタ本体から受け取った電気信号をインク吐出部材に送るための電気信号接続部材と、を一体に備えたインクジェット記録カートリッジにおいて、
吸収体サイズを調整することによりインク量を調整することが可能であり、吸収体の高さに対応して吸収体をフィルターに押圧する吸収体押圧リブの一部が、インク吐出部材のノズル配列方向と同一方向に延在しており、
フタ部材に複数配置された吸収体押圧リブは、ノズル配列方向と直交する方向からみて、連続的につながるか、もしくはオーバーラップして配置されていることを特徴とするインクジェット記録カートリッジ。
【請求項2】
吸収体押圧リブの延在方向と、大気連通口を形成する溝の延在方向とが、直交する方向であることを特徴とする、請求項1に記載のインクジェット記録カートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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