説明

インクジェットプリンター及びそのインク循環制御方法

【課題】インクの循環初期から循環安定状態までの間に、ノズルからインクが垂れたり、空気を吸い込む等の不具合を起こすことなく、インクを循環供給できるインクジェットプリンター及びそのインク循環制御方法を提供する。
【解決手段】上流インクタンク及び下流インクタンクに対し、そのインク温度を徐々に上昇させるインク温度調節部を設け、循環路に充填されたインクを室温状態のまま予定時間循環させると共に、予定時間経過後に、インクを循環させながら上流インクタンク及び下流インクタンクのインク温度を予め設定した温度まで徐々に上昇させるように構成したインクジェットプリンター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、循環路にインクを流し、インクジェットヘッドのノズルから前記インクを吐出可能なインクジェットプリンター及びそのインク循環制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェットヘッドを介してインクを循環させながら、そのインクジェットヘッドのノズルからインクを吐出することが可能なインクジェットヘッド及びインク循環機構を有するインクジェットプリンターが知られている。このようなインクジェットプリンターでは、上流側、及び下流側のインクタンク、及びインクジェットヘッド(印字ヘッドとも呼ぶ)を備え、これら上流側、及び下流側のインクタンクと印字ヘッドとの間でインクを循環させて印字ヘッドのノズルからインクを吐出させて印字し、記録するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなインクジェットプリンターにおいて、高粘度インクを吐出する場合は、予めインク温度を上げ(インク粘度を下げ)、ヘッドにインクを供給する必要がある(低粘度インクの場合は温度を下げる)。すなわち、一般的にUVインクや機能性インクは常温での粘度が高いために、インクジェットヘッドの使用粘度域よりも大きく、そのままではインクを吐出することが難しいからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−313884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、インク温度を上げておく場合、インクの循環初期からインク循環が安定するまでには循環経路内でインクの温度(粘度)が大きく変化する。この際に、ノズルからインクが垂れたり、空気を吸い込む等の不具合を引き起こすという問題点があった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、インクの循環初期から循環安定状態までの間に、ノズルからインクが垂れたり、空気を吸い込む等の不具合を起こすことなく、インクを循環供給できるインクジェットプリンター及びそのインク循環制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施の形態によるインクジェットプリンターは、上流インクタンクからインクジェットヘッドを経て下流インクタンクに通じ、この下流インクタンクから前記上流インクタンクに通じる循環路にインクを流し、前記インクジェットヘッドのノズルから前記インクを吐出可能なインクジェットプリンターであって、前記上流インクタンク及び下流インクタンクにおけるインク温度を計測するインク温度計測手段と、前記上流インクタンク及び下流インクタンクのインク温度を徐々に上昇させるインク温度調節部と、前記循環路に充填されたインクを室温状態のまま予定時間循環させる循環制御手段と、前記予定時間経過後に、前記インクを循環させながら前記インク温度調節部を動作させ、前記上流インクタンク及び下流インクタンクのインク温度を予め設定した温度まで上昇させるインク温度制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の他の実施の形態によるインクジェットプリンターでは、前記上流インクタンク及び下流インクタンク、並びにインクジェットヘッド内におけるインク温度を計測するインク温度計測手段と、前記上流インクタンク及び下流インクタンクのインク温度を徐々に上昇させるインク温度調節部と、前記循環路の、上流インクタンクからインクジェットヘッドまでの上流側の管路部材、及びインクジェットヘッドから下流インクタンクまでの下流側の管路部材の、それぞれ最もインクジェットヘッド寄りの部分に設置された加熱部と、前記循環路に充填されたインクを室温状態のまま予定時間循環させる循環制御手段と、前記予定時間経過後に、前記インクを循環させながら前記インク温度調節部により前記上流インクタンク及び下流インクタンクのインク温度を予め設定した温度まで上昇させるインク温度制御手段と、前記上流インクタンク及び下流インクタンクのインク温度が所定温度に達すると、前記加熱部を動作させインクジェットヘッド内温度を所定温度に上昇させる加熱部制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明の一実施の形態によるインクジェットプリンターのインク循環制御方法は、上流インクタンクからインクジェットヘッドを経て下流インクタンクに通じ、この下流インクタンクから前記上流インクタンクに通じる循環路にインクを流し、前記インクジェットヘッドのノズルから前記インクを吐出可能なインクジェットプリンターのインク循環制御方法であって、前記循環路に充填されたインクを室温状態のまま予定時間循環させ、前記予定時間経過後に、前記インクを循環させながら前記上流インクタンク及び下流インクタンクに設けたインク温度調節部によりインク温度を予め設定した温度まで徐々に上昇させる
ことを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の他の実施の形態によるインクジェットプリンターのインク循環制御方法では、前記循環路に充填されたインクを室温状態のまま予定時間循環させ、前記予定時間経過後に、前記インクを循環させながら前記上流インクタンク及び下流インクタンクに設けたインク温度調節部により、インク温度を予め設定した温度まで徐々に上昇させ、前記上流インクタンク及び下流インクタンクのインク温度が所定温度に達すると、前記循環路の、上流インクタンクからインクジェットヘッドまでの上流側の管路部材、及びインクジェットヘッドから下流インクタンクまでの下流側の管路部材の、それぞれ最もインクジェットヘッド寄りの部分に設置された加熱部によりインクジェットヘッド内温度を所定温度に上昇させることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態に係るインクジェットプリンターのインク循環部を表す構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るインクジェットプリンターの制御装置部分を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係るプリンターのインク循環部を電気回路に模擬して表す回路図である。
【図4】本発明の他の実施の形態に係るインクジェットプリンターのインク循環部を表す構成図である。
【図5】本発明の他の実施の形態に係るインクジェットプリンターの制御装置部分を示すブロック図である。
【図6】本発明の他の実施の形態に係るインクジェットプリンターのインクジェットヘッド部分におけるインク温度の変化を説明するグラフである。
【図7】本発明の他の実施の形態に係るインクジェットプリンターの動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0013】
図1は、この実施の形態におけるインクジェットヘッド11を備えたプリンターのインクジェット装置部分を示している。インクジェットヘッド11は、詳細な構成の図示は省略したが、特開2009−20275号公報で説明されているような構成であり、インクを循環させる複数の流路を有し、これら各流路の内面に薄膜状の駆動電極がそれぞれ設けられ、かつこれら流路に対応してインク吐出口(以下、ノズルと呼ぶ)が設けられている。そして、この駆動電極に電界をかけることによりノズルからインク滴を吐出させるものである。
【0014】
インクジェットヘッド11に対しては、上流インクタンク12と下流インクタンク13とが管路部材14,15を介して連結されている。下流インクタンク13は管路部材16を介して循環ポンプ17の吸い込み側に連結し、この循環ポンプ17の吐出側は管路部材18、フィルター19、管路部材20を順次介して上流インクタンク12と連結している。上述した管路部材14,15は、インクジェットヘッド11の前述した流路と連通しており、この流路とともにインクの循環路を構成する。したがって、インクジェットヘッド11は、流路の内面に設けられた薄膜状の駆動電極を動作させることにより、流路毎に対応して設けられたノズルから循環路に流れるインクを吐出させる。
【0015】
インク循環路を構成する管路部材16には、インク供給ポンプ22を有する管路部材23が連結され、この管路部材23によりインク供給タンク24に通じている。このインク供給ポンプ22は、正転によりインク供給タンク24内のインクをインク循環路へ供給し、逆転によりインク循環路からインクをインク供給タンク24へ戻すようになっている。
【0016】
また、上流インクタンク12及び下流インクタンク13に対しては、圧力計25が設けられており、これらにより計測された圧力信号はインク供給ポンプ22を制御して、上流インクタンク12及び下流インクタンク13の圧力を調整する。
【0017】
さらに、上流インクタンク12及び下流インクタンク13に対しては、そのインク温度を徐々に上昇させるインク温度調節部26が設けられている。このインク温度調節部26は、容器内に液体を収容した所謂ウォータバス構造であり、この液体内に上流インクタンク12及び下流インクタンク13を浸漬させている。そして、この液体を、図示しない電気ヒータなどで加熱し、この液体を介して上流インクタンク12及び下流インクタンク13内のインクを加熱する。すなわち、このインク温度調節部26は、沸騰した高温の液体を容器内に注入してインクタンク12,13を加熱するのではなく、容器内の液体を常温から加熱することにより、この液体の温度上昇に伴って、インクタンク12、13を加熱する。したがって、インクタンク12、13内のインク温度を徐々に上昇させることができる。
【0018】
また、上流インクタンク12及び下流インクタンク13と、上流側管路部材14及び下流側管路部材15のインクジェットヘッド近くには、それぞれ温度計測手段として熱電対27,28,29,30が設けられている。また、インクジェットヘッド11内にも上流側及び下流側に温度計測手段としてサーミスタ31,32が設けられている。これら温度検出手段27〜32は、循環路の上流側管路部材14、下流側管路部材15、及びインクジェットヘッド11内に流れるインクの温度を検出する。
【0019】
これら温度計測手段27〜32、及び前述した圧力計25は、図2で示すようにコンピュータなどによる制御装置35と接続されており、これらの検出信号は制御装置35に入力される。また、この制御装置35は、図1で示した循環ポンプ17及び供給ポンプ22、インク温度調節部26とも接続しており、前述した圧力検出信号や温度検出信号に基づき、これら機器を制御する。
【0020】
すなわち、制御装置35は、循環制御手段35aとインク温度制御手段35bとを有する。循環制御手段35aは、前述した循環路に充填されたインクを、循環ポンプ17により室温状態のまま予定時間循環させる。インク温度制御手段35bは、上述した予定時間経過後に、インクを循環させながらインク温度調節部26を動作させ、上流インクタンク12及び下流インクタンク13内のインク温度を予め設定した温度まで徐々に上昇させる。
【0021】
上述した循環路において、上流インクタンク12と下流インクタンク13との圧力差が一定の場合、上流インクタンク13からインクジェットヘッド11、下流インクタンク13までの経路における流量と流路抵抗の積の和は、上流インクタンク12と下流インクタンク13が持つエネルギー差に等しい。ここで、上流インクタンク12が持つエネルギーをPu、下流インクタンク13が持つエネルギーをPd、上流側における管路部材14の流路抵抗をRu、同じく上流側におけるインクジェットヘッド11内の流路抵抗ru、下流側における管路部材14の流路抵抗をRd、同じく下流側におけるインクジェットヘッド11内の流路抵抗rdとした場合、これらは図3のように電気回路図を用いて模式的に表すことができる。この図3の電気回路の各要素と図1で示した各部との対応関係を表すと以下のとおりとなる。
【0022】
電位差 : V[V] エネルギー差 : ΔP[Pa]
電流 : I[A] 流量 : Q[m/s]
抵抗 : R[V/I] 流路抵抗 : R[Pa・s/m
この循環路内の関係は、電気回路におけるオームの法則に対応して次式のように表される。
【0023】
ΔP=Pu−Pd
ΔP=(Ru+ru)Q+(Rd+rd)Q
このとき、上流側と下流側でのエネルギー損失が次式(1)のように等しいときは、インクジェットヘッド11のノズル圧力は適正な所定圧(若干の負圧)となる。
【0024】
(Ru+ru)Q=(Rd+rd)Q ・・・ (1)
しかし、インク循環路内部での温度変化によって流路抵抗が変化する場合は、一般的に次式のように上流側と下流側でのエネルギー損失は等しくならない。
【0025】
(Ru+ru)Q≠(Rd+rd)Q
このような問題を解決するためには、流路抵抗Ru及びRdを可変抵抗のように変化させる事によって式(1)が成立するように制御すればよい。すなわち、流路抵抗比がRu:Rd=1:1となるように制御すればよい。
【0026】
ここで、流路抵抗Ru及びRdは次のようにして求められる。
円管の流路抵抗Rは次の基本式(2)により求められる。
【数1】

【0027】
つまり、円管の直径d[m]、円管の長さL[m]、円管を流れる流体(インク)の粘度μ[Pa・sec]から上述の式(2)から求められる。従って、単位長さ当りの流路抵抗は下式(3)で表される。
【数2】

粘度μが温度依存性を示す場合、温度Tとは次式(4)の関係となる。
μ=μ(T) ・・・ (4)
さらに、この温度が円管の長さLを用いて表現できる場合次式(5)の関係となる。
μ=μ(T(L)) ・・・ (5)
そこで、粘度の温度依存性を、アレニウス型を仮定して、次式(6)のように表現する。
【数3】

【0028】
なお、α、βはインクの物性による。
また、温度Tが円管の長さLに比例すると仮定して次式(7)とする。
T=aL+b ・・・ (7)
これらの関係を、式(3)に代入すると次式(8)となる。
【数4】

【0029】
上式(8)について積分を実行すると次式(9)となる。
【数5】

【0030】
上記関数は初等積分では難しいので、区分求積法を用いて次式(10)により求める。
【数6】

【0031】
さらに、管路部材として、異なる円管を接続させた場合は、各円管の流路抵抗をRj(j=1,2,・・・,N)として、次式(11)により各流路抵抗の和を求める。
【数7】

但し、添え字jは各円管の種類を示し、添え字iは円管を分割して考えたうちの一部分を示す。
【0032】
上述の関係から、流路抵抗比Ru:Rdがほぼ1:1となるよう制御するには、式(2)から、上流側及び下流側管路14,15である円管の長さL、円管の直径dを変えない場合、上流・下流のインク循環経路内のインク粘度(μ)の変化、つまり式(6)で示すように、インク循環経路内の温度Tの変化がなるべくなだらかになるようにすると良い。
【0033】
そこで、図1に示すようなインク循環路を構成することとする。まず、インク供給ポンプ22を駆動させインク供給タンク24より、フィルター19を介し、上流インクタンク12にインクを充填する。その後、ヘッド11にインクを充填し、さらに下流インクタンク13へインクを充填する。このようにして循環路にインクを充填した後、循環ポンプ17を駆動させ、この循環路内でインクを室温循環させる。このとき、フィルター19により、インク中の異物除去及びインク内の気泡除去を行う。
【0034】
この循環初期から循環安定(ヘッド11の温度が必要域に到達する)までは以下に示す順序での制御を行う。このような制御が、インク循環路内の温度変化をなだらかにできるため、最も良い。
【0035】
すなわち、前述のように循環ポンプ17を駆動し、a.室温でインク循環をしばらく行う(約5分)。その後、b.上流側インクタンク12と下流側インクタンク13とを、ウォータバス構造のインク温度調節部26により徐々に加熱する。この場合、ウォータバス構造のインク温度調節部26の容器内の液体を図示しない加熱ヒータにより加熱することで、インクタンク12,13内のインク温度を徐々に上昇させる。この制御により、インク温度(熱電対27,30の検出温度)はヘッド温度(サーミスタ31,32の検出温度)とほぼ等しくなる。
【0036】
なお、制御の詳細条件は、熱電対27〜30及びサーミスタ31,32の温度特性を調査することにより求められる。
【0037】
以下、図2により全体的な制御動作を説明する。図2において、装置電源オン信号が制御装置35に入力されると、制御装置35は供給ポンプ22を動作させ、インク供給タンク24からインク循環路へインクを供給する。一定時間経過後、インク循環路内にインクが充填されると、インク供給ポンプ22は信号を制御装置に送る。制御装置35はインク供給ポンプ22を停止させる。
【0038】
次に、制御装置35は循環ポンプ17を動作させる。一定時間(約5分程度)経過後、インク温度調節部26を動作させ、インクタンク12,13内のインク温度を徐々に上昇させる。このとき、制御装置35はサーミスタ31,32及び熱電対27,30の検出温度に応じて、インク温度調節部26の制御を行う。また、制御装置35は圧力計25の検出値に応じて、供給ポンプ22を制御し、インク循環路を前述した圧力関係に保つ。
【0039】
これらの制御により、循環初期から循環安定までにおけるインクの循環経路内での温度Tの変化を小さくすることができる。その結果、ノズルからインクが垂れたり、空気を吸い込む等の不具合を防止できる。
【0040】
次に、本発明の他の実施の形態を説明する。この実施の形態は、図4で示すように、循環路の、上流インクタンク12からインクジェットヘッド11までの上流側の管路部材14、及びインクジェットヘッド11から下流インクタンク13までの下流側の管路部材15に、チューブヒータによる加熱部41,42がそれぞれ設けられ、これらに流れるインクを加熱する。これら加熱部41,42は、上流側管路部材14及び下流側管路部材15の、最もインクジェットヘッド11寄りの部分に設置されている。
【0041】
この加熱部41,42は、図5で示すように制御装置35に接続されており、制御装置35に設けられた加熱部制御手段35cにより温度制御される。加熱部制御手段35cは、上流インクタンク12及び下流インクタンク13のインク温度が所定温度に達すると、加熱部41,42を動作させ、インクジェットヘッド11内温度を所定温度に上昇させる。すなわち、この加熱部制御手段35cは、前記インクジェットヘッド11内のインク温度が、上流インクタンク及び下流インクタンク内のインク温度と略等しくなるように加熱部41,42を制御する。
【0042】
他の構成は図1及び図2と同じである。この実施の形態は、インク温度調節部26を備えたインクタンク12,13をインクジェットヘッド11の近傍に配置できず、上流側及び下流側の管路部材14,15が長くなり、管路部材14,15内のインク温度が放熱により変化してしまう場合、もしくはインクタンク12,13内のインク温度とヘッド11との温度差が非常に大きくなってしまう場合、に対処する構成である。
【0043】
この実施の形態では、上述のような構成においても、流路抵抗比Ru:Rdがほぼ1:1となるように、上流側及び下流側管路14,15である円管の長さL、円管の直径dを同じにすると共に、上流・下流のインク循環経路内のインク粘度(μ)の変化、つまり、インク循環経路内の温度Tの変化がなるべくなだらかになるように、インクジェットヘッド11近傍にチューブヒータによるインク温度調節部41,42を追加したインク循環系の構成とする。
【0044】
この他の、上流インクタンク12、下流インクタンク13、ウォータバス構造のインク温度調節部26、インク供給タンク24、供給ポンプ22、循環ポンプ17、フィルター19、圧力計25、温度計測手段(熱電対27,28,29,30、サーミスタ31,32)は、図1と同様に備えられている。
【0045】
ここで、例えば、高粘度インクを吐出する場合、あらかじめインク温度を上げて(インク粘度を下げて)インクをヘッド11に供給する必要がある。ただし、インク温度は上げすぎるとインク特性が壊れてしまう(乾燥、顔料凝集や沈降、分散の不安定など)ので、インク温度はインク特性が壊れない範囲を上限とする。この場合、ウォータバス構造の温度調節部26により、上流インクタンク12及び下流側インクタンク13内のインクを十分加熱し循環するが、チューブヒータによる加熱部41,42を使用せずにインク循環を行うと、循環初期における印字ヘッド11の上流側サーミスタ31と下流側サーミスタ32との温度差が大きくなり、ヘッド11のノズルからインクが垂れるという問題が発生する。また、このとき上流インクタンク12のインク温度(熱電対27)〜印字ヘッド11の上流インク温度(熱電対28)〜印字ヘッド11の上流サーミスタ31間も温度差が大きくなる。また、印字ヘッド11を必要域の温度にするには、上流インクタンク12の温度(熱電対27)、つまりインク温度を非常に高くしなくてはならなくなり、前述のように、インク特性を壊してしまう問題も発生する。
【0046】
そこで、図4に示したようなインク循環路を構成することとする。高粘度インクを循環する場合であっても、循環初期から循環安定(ヘッド温度が必要域に到達する)までは以下に示す順序で制御を行い、インク循環経路内の温度変化をなだらかにする。
【0047】
すなわち、循環ポンプ17を駆動し、a.室温でインク循環をしばらく(約5分)行う、その後、b.上流側インクタンク12と下流側インクタンク13をウォータバス構造のインク温度調節部26により徐々に加熱する。このとき、インク調節部26の上限温度は、前述のようにインク特性を壊さない範囲とする。その後すぐ、c.上流側、下流側のチューブヒータによる加熱器41,42を駆動し、チューブ内のインクを加熱する。
【0048】
図6に上述した循環初期から循環安定までのサーミスタ31,32の温度例を示す。ここでは、上述したb.での、インク温度調節部26によるインク加熱開始からの温度特性を示しており、上述のa.における室温でのインク循環中の温度特性は省略している。すなわち、図6中、b点でインク温度調節部26により加熱を開始し、c点で加熱部41,42による加熱を行う。これらの操作後、サーミスタ31,32の差が小さくなり循環安定(ヘッド温度が必要域に到達する)となる。
【0049】
以下、図5及び図7のフローチャートを用いて全体的な動作の説明を行う。装置電源オン信号が制御装置35に入力されると(動作701)、制御装置35は供給ポンプ22を動作させる(動作702)。一定時間経過後、インク循環路内にインクが充填されると、インク供給ポンプ22は信号を制御装置35に送り、制御装置35はインク供給ポンプ22を停止させる。
【0050】
次に、制御装置35は、その循環制御手段35aにより循環ポンプ17を動作させる(動作703)、インクを室温循環(動作704)させる。予め設定した時間(5分程度)経過後、インク温度調節部26をインク温度制御手段35bにより動作させ(動作705)、インク温度を徐々に上昇させる。その過程で、インク温度が所定温度に達したか確認し(動作706)、加熱部制御手段35cにより加熱部41,42を動作させる(動作707)。このとき制御装置35は、サーミスタ31,32、熱電対27,28,29,30の計測温度に応じて、インク温度調節部26及び加熱部41,42の制御を行う。また、制御装置35は圧力計25の検出値に応じて、供給ポンプ22を制御し、インク循環路を前述した圧力関係に保つ。
【0051】
これらの制御により、循環初期から循環安定まではインクの循環路内での温度変化を小さくすることができる。その結果、ノズルからインクが垂れたり、空気を吸い込む等の不具合を防できる。
【0052】
このように、上述した各実施の形態では、インクを循環させつつインクジェットヘッド11のノズルからインクを吐出する循環式インクジェットヘッドの循環初期から循環安定状態までの間に、ノズルからインクが垂れたり、空気を吸い込む等の不具合を発生させることなく、インクを循環供給することができる。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
11・・・インクジェットヘッド
12・・・上流インクタンク
13・・・下流インクタンク
14・・・上流側の管路部材
15・・・下流側の管路部材
26・・・インク温度調節部
27〜32・・・温度計測手段
35・・・制御装置
35a…循環制御手段
35b…インク温度制御手段
35c…加熱部制御手段
41,42・・・加熱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流インクタンクからインクジェットヘッドを経て下流インクタンクに通じ、この下流インクタンクから前記上流インクタンクに通じる循環路にインクを流し、前記インクジェットヘッドのノズルから前記インクを吐出可能なインクジェットプリンターであって、
前記上流インクタンク及び下流インクタンクにおけるインク温度を計測するインク温度計測手段と、
前記上流インクタンク及び下流インクタンクのインク温度を徐々に上昇させるインク温度調節部と、
前記循環路に充填されたインクを室温状態のまま予定時間循環させる循環制御手段と、
前記予定時間経過後に、前記インクを循環させながら前記インク温度調節部を動作させ、前記上流インクタンク及び下流インクタンクのインク温度を予め設定した温度まで上昇させるインク温度制御手段と、
を備えたことを特徴とするインクジェットプリンター。
【請求項2】
上流インクタンクからインクジェットヘッドを経て下流インクタンクに通じ、この下流インクタンクから前記上流インクタンクに通じる循環路にインクを流し、前記インクジェットヘッドのノズルから前記インクを吐出可能なインクジェットプリンターであって、
前記上流インクタンク及び下流インクタンク、並びにインクジェットヘッド内におけるインク温度を計測するインク温度計測手段と、
前記上流インクタンク及び下流インクタンクのインク温度を徐々に上昇させるインク温度調節部と、
前記循環路の、上流インクタンクからインクジェットヘッドまでの上流側の管路部材、及びインクジェットヘッドから下流インクタンクまでの下流側の管路部材の、それぞれ最もインクジェットヘッド寄りの部分に設置された加熱部と、
前記循環路に充填されたインクを室温状態のまま予定時間循環させる循環制御手段と、
前記予定時間経過後に、前記インクを循環させながら前記インク温度調節部により前記上流インクタンク及び下流インクタンクのインク温度を予め設定した温度まで上昇させるインク温度制御手段と、
前記上流インクタンク及び下流インクタンクのインク温度が所定温度に達すると、前記加熱部を動作させインクジェットヘッド内温度を所定温度に上昇させる加熱部制御手段と、
を備えたことを特徴とするインクジェットプリンター。
【請求項3】
前記インク温度調節部は、液体内に前記上流インクタンク及び下流インクタンクを浸漬させたウォータバス構造であり、前記液体を加熱し、この液体を介して前記上流インクタンク及び下流インクタンク内のインクを加熱することで、このインク温度を徐々に上昇させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェットプリンター。
【請求項4】
前記加熱部は、前記上流側、及び下流側の管路部材に設置されたチューブヒータであることを特徴とする請求項2に記載のインクジェットプリンター。
【請求項5】
前記インク温度制御手段は、前記上流インクタンク及び下流インクタンクのインク温度を、インク特性を壊さない範囲で予め設定した温度まで上昇させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のインクジェットプリンター。
【請求項6】
前記加熱部制御手段は、前記インクジェットヘッド内のインク温度が、上流インクタンク及び下流インクタンク内のインク温度と略等しくなるように前記加熱部を制御することを特徴とする請求項2又は請求項4に記載のインクジェットプリンター。
【請求項7】
上流インクタンクからインクジェットヘッドを経て下流インクタンクに通じ、この下流インクタンクから前記上流インクタンクに通じる循環路にインクを流し、前記インクジェットヘッドのノズルから前記インクを吐出可能なインクジェットプリンターのインク循環制御方法であって、
前記循環路に充填されたインクを室温状態のまま予定時間循環させ、
前記予定時間経過後に、前記インクを循環させながら前記上流インクタンク及び下流インクタンクに設けたインク温度調節部によりインク温度を予め設定した温度まで徐々に上昇させる
ことを特徴とするインクジェットプリンターのインク循環制御方法。
【請求項8】
上流インクタンクからインクジェットヘッドを経て下流インクタンクに通じ、この下流インクタンクから前記上流インクタンクに通じる循環路にインクを流し、前記インクジェットヘッドのノズルから前記インクを吐出可能なインクジェットプリンターのインク循環制御方法であって、
前記循環路に充填されたインクを室温状態のまま予定時間循環させ、
前記予定時間経過後に、前記インクを循環させながら前記上流インクタンク及び下流インクタンクに設けたインク温度調節部により、インク温度を予め設定した温度まで徐々に上昇させ、
前記上流インクタンク及び下流インクタンクのインク温度が所定温度に達すると、前記前記循環路の、上流インクタンクからインクジェットヘッドまでの上流側の管路部材、及びインクジェットヘッドから下流インクタンクまでの下流側の管路部材の、それぞれ最もインクジェットヘッド寄りの部分に設置された加熱部によりインクジェットヘッド内温度を所定温度に上昇させる
ことを特徴とするインクジェットプリンターのインク循環制御方法。
【請求項9】
前記上流インクタンク及び下流インクタンクのインク温度を、インク特性を壊さない範囲で予め設定した温度まで徐々に上昇させることを特徴とする請求項7に記載のインクジェットプリンターのインク循環制御方法。
【請求項10】
前記インクジェットヘッド内のインク温度が、温度上流インクタンク及び下流インクタンク内のインク温度と略等しくなるように前記加熱部を制御することを特徴とする請求項8に記載のインクジェットプリンターのインク循環制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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