説明

インクジェットプリンタ用処理剤液塗布装置および画像形成システム

【課題】被記録媒体に対して適切な処理が可能なインクジェットプリンタ用処理剤液塗布装置を提供する。
【解決手段】処理剤液塗布装置101とインクジェットプリンタ102での被記録媒体Wの搬送状態の差によって、被記録媒体W上に形成された処理剤液の未塗布部分を有する被記録媒体Wの部分を第2のバッフア手段18で保持して、未塗布部分が処理剤液塗布手段13の被記録媒体搬送方向上流側に到達するように、下流側被記録媒体搬送手段14により被記録媒体Wを戻す構成になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク滴の吐出を行い被記録媒体上に画像を形成するインクジェットプリンタの画像滲みを抑制する滲み抑制剤などの処理剤液を画像形成に先立って被記録媒体上に塗布するインクジェットプリンタ用処理剤液塗布装置および画像形成システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の画像記録は、低騒音、低ランニングコストに加えて、カラー化が容易といった利点を有していることから、近年、急速に普及してきている。しかし、専用紙以外の被記録媒体に画像を記録すると、滲み、濃度、色調や裏写りなどといった初期品質問題に加えて、耐水性,耐候性といった画像の堅牢性に関わる問題を有しているため、これらの問題を解決する提案がなされている。
それらの解決手段として、被記録媒体である用紙にインク液滴が着弾する前にインクを凝集させる機能を有する処理剤液を塗布して画質を改善する方法がある。
【0003】
図16は、従来、特開2002−103583号公報(特許文献1)で提案された画像記録装置の概略構成図である。
この画像記録装置は、大きく分けて、用紙供給ユニット200、処理剤液塗布ユニット201、画像記録ユニット202から構成されている。前記用紙供給ユニット200は用紙203を送り出す給紙ローラ204を有している。
【0004】
前記処理剤液塗布ユニット201は、処理剤液205を貯留する処理剤液タンク206、処理剤液205を汲み上げる汲み上げローラ207、汲み上げた処理剤液205を均一な薄膜にする薄膜化ローラ208、塗布ローラ209ならびカウンタローラ210などを有している。
前記画像記録ユニット202は、用紙203を搬送する搬送ローラ211、キャリッジ212に搭載されて移動するインクジェット記録ヘッド213、記録された用紙203を排出する排出ローラ214などを有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図16に示す画像記録装置は、カット紙からなる用紙203を使用する場合には好適であるが、連続紙などの長尺状被記録媒体への処理剤液の塗布と画像形成を連続して行なう画像形成システム特有の課題、例えば後述する被記録媒体上に処理剤液の未塗布部分が発生するという課題に対する配慮などはなされていない。
【0006】
本発明の目的は、長尺状被記録媒体に対して適切な処理が可能なインクジェットプリンタ用処理剤液塗布装置を提供することができ、また適切な処理が行なわれて品質の高い画像が得られる画像形成システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、第1の発明は、
長尺状被記録媒体の搬送経路上に搬送方向上流側から下流側に沿って、例えば後述するインフィードローラとフィードニップローラの対からなる上流側被記録媒体搬送手段と、例えば後述する第1のダンシングユニットからなる第1のバッフア手段と、処理剤液塗布手段と、例えば後述するアウトフィードローラとフィードニップローラの対からなる下流側被記録媒体搬送手段と、例えば後述する第2のダンシングユニットからなる第2のバッフア手段を備えている。
【0008】
そして、前記上流側被記録媒体搬送手段は前記被記録媒体を挟持して所定の搬送方向に移送する機能を有し、
前記第1のバッフア手段は前記上流側被記録媒体搬送手段と前記下流側被記録媒体搬送手段の間の長尺状被記録媒体の弛み量を吸収することのできる機能を有し、
前記処理剤液塗布手段は前記被記録媒体上に処理剤液を塗布する機能を有し、
前記下流側被記録媒体搬送手段は被記録媒体の搬送方向ならびにその搬送方向とは逆の方向に被記録媒体を挟持して移送する機能を有し、
前記第2のバッフア手段は前記下流側被記録媒体搬送手段と当該処理剤液塗布装置の後続のインクジェットプリンタとの間の長尺状被記録媒体の弛み量を吸収することのできる機能を有し、
当該処理剤液塗布装置内と前記インクジェットプリンタ内での被記録媒体の例えば搬送速度などの搬送状態の差によって、被記録媒体上に形成された処理剤液の未塗布部分を有する被記録媒体の部分を前記第2のバッフア手段で保持して、
前記処理剤液の未塗布部分が前記処理剤液塗布手段の被記録媒体搬送方向上流側に到達するように、前記下流側被記録媒体搬送手段により被記録媒体を戻す構成になっていることを特徴とするものである。
【0009】
前記目的を達成するため、第2の発明は、被記録媒体の搬送方向に沿って、搬送方向上流側に画像形成前の被記録媒体に対して処理剤液を塗布する処理剤液塗布装置が設置され、その処理剤液塗布装置の被記録媒体の搬送方向下流側に処理済の被記録媒体上にインク滴を吐出して画像を形成するインクジェットプリンタが設置された画像形成システムにおいて、
前記処理剤液塗布装置が前記第1の発明の処理剤液塗布装置であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は前述のような構成になっており、長尺状被記録媒体に対して適切な処理が可能なインクジェットプリンタ用処理剤液塗布装置を提供することができ、また適切な処理が行なわれて品質の高い画像が得られる画像形成システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る画像形成システムの流れを示すフローチャートである。
【図2】その画像形成システムに用いられる処理剤液塗布装置の概略構成図である。
【図3】その処理剤液塗布装置におけるFIローラ付近の一部斜視図である。
【図4】その処理剤液塗布装置におけるパスシャフトとエッジガイドの集合体の一部斜視図である。
【図5】その処理剤液塗布装置におけるインフィードローラ(あるいはアウトフィードローラ)付近の一部斜視図である。
【図6】その処理剤液塗布装置における塗布手段の概略構成図である。
【図7】その処理剤液塗布装置の動作を説明するための図である。
【図8】被記録媒体の戻し量を説明するための図であり、同図(a)は被記録媒体を戻す前の状態、同図(b)は被記録媒体を戻した後の状態、をそれぞれ示した図である。
【図9】被記録媒体の戻し動作中の状態を示す概略構成図である。
【図10】被記録媒体の戻し動作が終了して停止した状態を示す概略構成図である。
【図11】本発明者らが行なった被記録媒体に印加する必要な張力を評価した結果を示す図である。
【図12】第1実施例に係る張力調整手段を第1のダンサーユニットに適用した例を示す分解斜視図である。
【図13】第1実施例に係る張力調整手段を第2のダンサーユニットに適用した例を示す分解斜視図である。
【図14】第2実施例に係る張力調整手段を第1のダンサーユニットに適用した例を示す分解斜視図である。
【図15】第2実施例に係る張力調整手段を第2のダンサーユニットに適用した例を示す分解斜視図である。
【図16】従来提案された画像記録装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の実施形態を図面とともに説明する。図1は、本発明の実施形態に係る画像形成システムの流れを示すフローチャートである。
【0013】
同図に示しているように、給紙装置100から繰り出された例えば長尺状の連続紙などからなる被記録媒体Wは、最初、処理剤液塗布装置101に送り込まれ、被記録媒体Wの表裏にそれぞれ前記抑制剤などの処理剤液が塗布されて前処理が行われる。次に処理された被記録媒体Wは第1のインクジェットプリンタ102aに送り込まれて、被記録媒体Wの表側にインク滴を吐出して所望の画像が形成され、その後に反転装置103により被記録媒体Wの表裏が反転され、引き続き被記録媒体Wは第2のインクジェットプリンタ102bに送り込まれて、被記録媒体Wの裏側にインク滴を吐出して所望の画像が形成される。
このようにして被記録媒体Wの両面に印刷が施された後、後処理装置(図示せず)に送られて所定の後処理がなされるシステムになっている。
【0014】
図2はこの画像形成システムに用いられる処理剤液塗布装置101の概略構成図であり、処理剤液の塗布時の状態を示している。
同図に示すように、ローラの端部に軸受け(図示せず)を有し、回転自在のガイドローラ1が処理剤液塗布装置101内に多数本設置されて、被記録媒体Wの搬送パスを確保している。
【0015】
図中の符号2はモータなどの駆動源(図示せず)で回転駆動するFIローラ(フィードインローラ)であり、図3に示すようにこのFIローラ2にはばね3の引張力でFIニップローラ(フィードインニップローラ)4が押し付けられるようになっている。
【0016】
被記録媒体WはFIローラ2とFIニップローラ4の間で弾性的に挟持されており、前記駆動源によりFIローラ2を回転することで、この処理剤液塗布装置101の内部に前記給紙装置100から被記録媒体Wを引き込むことができる。
【0017】
また、FIローラ2とFIニップローラ4から送り出された被記録媒体Wは若干弛ませてエアループALを形成しており、このエアループAL内の弛み量を光学センサ(図示せず)で監視しており、弛み量が一定になるように前記FIローラ2が駆動制御されている。
【0018】
エアループALを経た被記録媒体Wは、パスシャフト5とエッジガイド6の間を通る。その状態が図4に示されており、被記録媒体Wの搬送方向(矢印方向)と直交する方向に2本のパスシャフト5が配置され、被記録媒体Wがそのパスシャフト5の間をSの字状に通る。このパスシャフト5に一対のエッジガイド6が支持されており、エッジガイド6の間隔は被記録媒体Wの幅寸法と同寸に設定されている。
【0019】
そのためパスシャフト5とエッジガイド6の働きにより、被記録媒体Wの幅方向の走行位置が規制され、安定した走行が可能となる。なお、エッジガイド6は、パスシャフト5に例えばねじなどの固定手段によって固定されており、使用する被記録媒体Wの幅寸法に応じてエッジガイド6の位置が調整可能になっている。
【0020】
パスシャフト5とエッジガイド6の間を通過した被記録媒体Wは、固定状態にあるテンションシャフト7により走行安定化のための張力が付加される。
【0021】
テンションシャフト7を通過した被記録媒体Wは、モータなどの駆動源(図示せず)で回転駆動するインフィードローラ8とフィードニップローラ9の間を通る。フィードニップローラ9は図5に示すように、インフィードローラ8の軸方向に沿って複数個配置されており、各フィードニップローラ9はばね10によりインフィードローラ8側に押し付けられている。
【0022】
インフィードローラ8とフィードニップローラ9の間を通過した被記録媒体Wは、回転自在な1本の第1のダンサーローラ11の下側から巻き掛けられている。
【0023】
第1のダンサーローラ11はローラ端部に設けた軸受け(図示せず)を介して第1の可動フレーム12に回転自在に取り付けられて、第1のダンサーユニット17を構成している。従って、この第1のダンサーユニット17は被記録媒体Wで吊り下げられた状態になっている。
【0024】
この第1のダンサーユニット17は、重力方向Aに沿って移動可能になっている。第1のダンサーユニット17の位置を検出する第1のダンサーユニット位置検出手段(図示せず)が設けられており、この位置検出手段の出力に応じて前記インフィードローラ8の駆動源を駆動制御することで、第1のダンサーユニット17の位置が調整できる構成になっている。
【0025】
第1のダンサーユニット17を通過した被記録媒体Wは、それの表面側に処理剤液を塗布する表面塗布手段13f、ならびに被記録媒体Wの裏面側に処理剤液を塗布する裏面塗布手段13rを順次通過することにより、被記録媒体Wの両面に処理剤液が塗布される。処理剤液の塗布手段13については、後で説明する。
【0026】
裏面塗布手段13rを通過した被記録媒体Wは、モータなどの駆動源(図示せず)で回転駆動するアウトフィードローラ14とフィードニップローラ9の間を通る。フィードニップローラ9は図5に示すように、アウトフィードローラ14の軸方向に沿って複数個配置されており、各フィードニップローラ9はばね10によりアウトフィードローラ14側に押し付けられている。
【0027】
アウトフィードローラ14とフィードニップローラ9の間を通過した被記録媒体Wは、回転自在な第2のダンサーローラ15a,15bならびに両ダンサーローラ15a,15bの間に配置されたガイドローラ1にわたってW型に巻き掛けられている。
【0028】
2本のダンサーローラ15a,15bはそれぞれローラ端部に設けた軸受け(図示せず)を介して第2の可動フレーム16に回転自在に取り付けられて、第2のダンサーユニット18を構成している。従って、この第2のダンサーユニット18は被記録媒体Wによって吊り下げられた状態になっている。
【0029】
この第2のダンサーユニット18も重力方向Aに沿って移動可能になっており、第2のダンサーユニット18の位置を検出する第2のダンサーユニット位置検出手段(図示せず)が設けられており、この位置検出手段の出力に応じて前記アウトフィードローラ14の駆動源を駆動制御することで、第2のダンサーユニット18の位置が調整できる構成になっている。
【0030】
図6は、前記塗布手段13の概略構成図である。
カートリッジ21内に貯留されている処理剤液22は、ポンプ23により汲み上げられ、供給経路24、電磁弁25を経由して供給パン26に供給される。処理剤液22としては、水溶性の色材を凝集させるか又は不溶化させる機能を有する水溶性の凝集剤を水あるいは有機溶剤に溶解又は分散させた液が用いられる。
【0031】
供給パン26内の処理剤液22の量は、供給パン26に付設されている液面検知センサ27により検知され、印刷の繰り返しにより処理剤液22が消費されて、供給パン26内の処理剤液22の液面位置が規定の高さより下がると、電磁弁25が開き、ポンプ23が駆動して、カートリッジ21内の処理剤液22が供給パン26に供給される。供給パン26内の処理剤液22の液面位置が規定の高さに達すると、液面検知センサ27の検知信号に基づいて電磁弁25が閉じ、ポンプ23が停止することにより、供給パン26内の処理剤液22の液量を一定に保持している。
【0032】
このように電磁弁25は、処理剤液22の供給時のみ開き、動作時間が短いため、通電時以外は弁閉鎖となる、ノーマルクローズドタイプのものを使用すれば、電磁弁25の消費電力を抑え、ランニングコストの低減を図ることができる。
【0033】
供給パン26に貯留されている処理剤液22は、モータ28により駆動されるスクイーズローラ29の回転により汲み上げられる。このスクイーズローラ29としては、例えばアノニックスローラやワイヤーバーなどのように、ローラ周面に溝加工を施したものを用いると、汲み上げ時に処理剤液22の粘度、印刷速度の影響などを受け難く、液量コントロールが容易であるという特長がある。
【0034】
スクイーズローラ29により汲み上げられた処理剤液22は、余剰分をメータリングブレード30により掻き落され、規定量が塗布ローラ31とのニップ部に運ばれる。スクイーズローラ29と塗布ローラ31のニップ部に運ばれた処理剤液22は、両ローラ29,31の間で軸方向に均一に引き伸ばされて薄膜化されつつ、塗布ローラ31に塗布される。塗布ローラ31は、周面をゴムなどの弾性体で覆われており、モータ32により回転駆動される。
【0035】
塗布ローラ31に塗布された処理剤液22は、塗布ローラ31と加圧ローラ33の間で挟持・搬送される被記録媒体Wに転写される。
加圧ローラ33は、揺動可能なアーム34のほぼ中央位置に軸受け(図示せず)を介して回転自在に支持されており、搬送移動する被記録媒体Wに従動して回転する。アーム34の揺動中心35とは反対側の端部に引張ばね36が接続されており、てこの原理により加圧ローラ33を塗布ローラ31側に押し付けている。加圧ローラ33と引張ばね36の間に設けられた偏芯カム37はアーム34に接触しており、偏芯カム37の回転により引張ばね36の弾性に抗して、加圧ローラ33を塗布ローラ31から離れる方向に移動させることができる。
【0036】
供給パン26には加圧ローラ33が離接する部分に開口部38が設けられており、この開口部38には処理剤液22の水分あるいは有機溶剤の蒸発を抑制するためのシャッタ39が開閉可能に設けられている。そして図6に示しているように、加圧ローラ33が塗布ローラ31側に移動している間はシャッタ39が開き、加圧ローラ33が塗布ローラ31から離れている間はシャッタ39が閉じる機構になっている。
塗布ローラ31は、被記録媒体Wに処理剤液22を転写した後、クリーナブレード40により清掃され、次の処理剤液22の転写に備えられる。
【0037】
図7は、本実施形態に係る処理剤液塗布装置の動作を説明するための図である。
図中の実線はインクジェットプリンタ102の印刷速度、破線は処理剤液塗布装置101(ともに図1参照)内の塗布ローラ31の周速度、一点鎖線は処理剤液塗布装置101内の被記録媒体Wの搬送速度、をそれぞれ示している。
【0038】
なお、時間点C〜Jの間において、被記録媒体Wの搬送速度は塗布ローラ31の周速度と同一速度であるから、一点鎖線と破線が重なり合った状態で示している。
【0039】
図7において破線で示しているように、塗布ローラ31は印刷が開始される前に駆動を始め、スクイーズローラ29は塗布ローラ31に圧接されて、塗布ローラ31とともに連れ回りし、処理剤液22がスクイーズローラ29ならびに塗布ローラ31に塗布される。そして時間点Dに達したところで、供給パン26のシャッター39を開けて待機する。
【0040】
時間点Aで、インクジェットプリンタ102が処理剤液塗布装置101内の被記録媒体Wの搬送に先立って被記録媒体Wの搬送を開始する。時間点Bに到達したときに、処理剤液塗布装置101内の被記録媒体Wの搬送を開始し、時間点Cから塗布ローラ31によって処理剤液22が被記録媒体Wに塗布される。
【0041】
ここで、点ACDで囲まれた面積部分(インクジェットプリンタ102の用紙送り量)と、点BCDで囲まれた面積部分(処理剤液塗布装置101の用紙送り量)の差分である点ABDで囲まれた面積部分、被記録媒体Wが不足して張力が大となり、被記録媒体Wが破断される恐れがある。そのためその差分を第2のダンサーローラ18の上昇による被記録媒体Wのパス長の変化で吸収するようになっている(バッファ機能)。
【0042】
時間点Dから時間点Eは塗布ローラ31の加速領域を、時間点Dから時間点Fはインクジェットプリンタ102における印刷速度の加速領域を、それぞれ示している。塗布ローラ31の周速度がインクジェットプリンタ102の印刷速度を上回ることがある。この場合、点DEFで囲まれた面積部分、被記録媒体Wが過剰に送られるわけであるが、この過剰分を第2のダンサーローラ18の下降による被記録媒体Wのパス長の変化で吸収して(バッファ機能)、弛みの無い被記録媒体Wの搬送ができる。
【0043】
時間点Fから時間点Gの間では、インクジェットプリンタ102の印刷速度、処理剤液塗布装置101内での塗布ローラ31の周速度ならびに被記録媒体Wの搬送速度が一致しており、この間で被記録媒体Wに対する処理剤液22の塗布と、被記録媒体Wに対する印刷が連続して行われる。
【0044】
時間点Gでインクジェットプリンタ102の印刷速度の減速が開始されるが、処理剤液塗布装置101内での被記録媒体Wの搬送および処理剤液22の塗布は継続して行われる。そして、時間点Hで塗布ローラ31が減速を開始し、時間点Iで処理剤液22の塗布を停止して、さらに時間点Kに到達した時点で処理剤液塗布装置101内での被記録媒体Wの搬送が停止し、時間点Lでインクジェットプリンタ102の駆動が停止する。
【0045】
点GHIで囲まれた面積部分は、印刷速度の減速が開始されてから処理剤液22の塗布が停止するまでの間、処理剤液22が塗布された被記録媒体Wが余分に送られた被記録媒体Wの量に相当し、この過剰分は第2のダンサーローラ18の下降による被記録媒体Wのパス長の変化で吸収される(バッファ機能)。
【0046】
点IJKで囲まれた面積部分は、処理剤液22が塗布されないで被記録媒体Wの搬送が継続して行なわれた量に相当し、この過剰分も第2のダンサーローラ18の下降による被記録媒体Wのパス長の変化で吸収されるが、この処理剤液22が塗布されないで送られた被記録媒体Wは塗布ローラ31側に戻す必要がある。
【0047】
図8は、被記録媒体Wの戻し量を説明するための図である。同図(a)は被記録媒体Wを戻す前の状態、同図(b)は被記録媒体Wを戻した後の状態、をそれぞれ示した図である。
図中の符号41はインクジェットプリンタ102が被記録媒体Wの搬送を開始(時間点A 図7参照)してから処理剤液塗布装置101内の被記録媒体Wの搬送が終了(時間点K 図7参照)するまでの1回分の被記録媒体Wのスパンを示している。
【0048】
また、符号42はインクジェットプリンタ102が被記録媒体Wの搬送を開始してから点BCDで囲まれた面積部分に相当する処理剤液22が塗布されていない部分を示している。さらに、符号43は、被記録媒体Wの搬送終了間際の点IJKで囲まれた面積部分に相当する処理剤液22が塗布されていない部分を示している。また、符号42´は、次回の処理剤液22の塗布の際に、被記録媒体Wの搬送を開始してから点BCDで囲まれた面積部分に相当する処理剤液22が塗布されない部分を示している。
【0049】
図8(a)に示されているように、1回分の処理剤液22の塗布終了から次回の処理剤液22の塗布に移る過程で、処理剤液22が塗布されていない部分43と部分42´が連なって形成される。
【0050】
そのため本実施形態では、処理剤液塗布装置101内にある被記録媒体搬送機構(アウトフィードローラ14 図2参照)を逆転して、図7に示すように時間点K→M→N→Pのように被記録媒体Wを戻す動作を行う。この被記録媒体Wの戻し量は、前述の「点IJKで囲まれた面積部分に相当する処理剤液22が塗布されていない部分43」と、「点BCDで囲まれた面積部分に相当する処理剤液22が塗布されていない部分42´」の合計量以上である。
【0051】
図8(b)は、被記録媒体Wを戻した後の状態を示している。このように被記録媒体Wを戻すことにより、次回、被記録媒体Wを塗布してインクジェットプリンタ102側に送り出す際に、処理剤液22が塗布されていない部分が形成されることが無く、処理剤液22を連続して塗布することが可能となる。
【0052】
図9は、被記録媒体Wを所定の長さ塗布手段13(塗布ローラ31)側に戻すときの状態を示している。同図に示すように、表塗布手段13aならびに裏塗布手段13bの加圧ローラ33を塗布ローラ31から離して、アウトフィードローラ14を被記録媒体Wの搬送方向とは逆方向に回転駆動する。
【0053】
それに伴い、第2のダンサーユニット18に掛け渡されている被記録媒体Wが矢印方向に送られ、錘付きの第1のダンサーユニット17の自重により被記録媒体Wがスムーズに戻される。この被記録媒体Wの戻し動作により、第1のダンサーユニット17は下降し、第2のダンサーユニット18は上昇する。
図10は被記録媒体Wの戻し動作が終了して停止した状態を示しており、第1のダンサーユニット17は下限位置付近にあり、第2のダンサーユニット18は上限位置付近にあり、次回の処理剤液22の塗布に備えられている。
【0054】
被記録媒体Wの走行の安定性を考慮した場合、被記録媒体Wに適切な張力を印加する必要がある。図11は、本発明者らが行なった被記録媒体Wに印加する必要な張力を評価した結果を示す図である。
【0055】
この評価では、被記録媒体Wの紙幅が6インチと20インチのものを使用し、さらに各紙幅のものでも複数種類の坪量のものを評価した。本評価は、幅方向全域にミシン目を設けた連続紙で評価した。図に示すように評価結果を○、△、×で表した。○印は用紙のジャム頻度(用紙の破断やシワおよび蛇行現象のこと)が低く、実用レベルと判断したもの、△印は許容できると考えられるジャム頻度に対して若干劣る程度と判断したもの、×印は用紙の走行安定性に問題ありと判断したもの、をそれぞれ示している。
【0056】
この図11の評価結果から明らかなように、被記録媒体Wに印加する必要な張力は主に被記録媒体Wの紙幅によって異なり、本実施形態では、基本的には紙幅が6インチの被記録媒体Wを使用する場合は20[N]の張力が与えられるように、紙幅が20インチの被記録媒体Wを使用する場合は50[N]の張力が与えられるようにしている。
【0057】
具体的には、張力調整手段51を第1のダンサーユニット17と第2のダンサーユニット18に各々装着した場合は、被記録媒体Wの張力は50[N]となり、逆に装着しない場合は20[N]となるような重力関係に設計されている。しかしながら、被記録媒体Wは本評価で用いた用紙と傾向が一致するとは限らないため、紙質や用紙重量に応じて、後述するように錘の数が調整できるように構成している。
【0058】
本実施形態では、図2に示すように被記録媒体Wの張力調整手段51が第1のダンサーユニット17と第2のダンサーユニット18にそれぞれ懸垂されており、両張力調整手段51は同一構造を有しており、張力調整手段51の共用化を図っている。
図12はこの張力調整手段51の第1実施例を示す分解斜視図であり、第1のダンサーユニット17に適用した例を示している。
【0059】
前述のように第1のダンサーユニット17は、第1のダンサーローラ11と、それを回転自在に支持した第1の可動フレーム12とから構成されている。第1の可動フレーム12の内側には、第1のダンサーローラ11の両側にそのダンサーローラ11と平行に延びたフックシャフト52が架設されており、各フックシャフト52の軸方向に所定の間隔をおいて2つの溝状のフックカラー53が設けられている。
【0060】
上方が開放された箱型の錘フレーム54の四隅には、ラッチ55a,55b,55c,55dがピボットシャフト56を介してそれぞれ回動可能に立設されている。図12に示すように、ラッチ55aとラッチ55bが対向するように取り付けられ、ラッチ55aの下部内側突出部とラッチ55bの下部内側突出部がカムフォロワ57で連結されている。ラッチ55cとラッチ55dも同様にカムフォロワ57で連結されている。図示していないが、ラッチ55aとラッチ55bの間ならびにラッチ55cとラッチ55dの間には引張ばねが架設され、それの引張力によりラッチ55が互いに閉まる方向に弾性付勢されている。
また、錘フレーム54の四隅には、脚部58が下方を向いて突出している。
【0061】
第1のダンサーユニット17の下方には側面形状がコの字状をしたベースプレート59が固定され、そのベースプレート59にはカムドライブシャフト60が回転可能に支持され、そのカムドライブシャフト60の両端部で前記カムフォロワ57と対向する位置には偏芯カム61が取り付けられている。
【0062】
さらにカムドライブシャフト60の一方の端部には従動プーリ62が取り付けられ、この従動プーリ62は伝達ベルト63ならびに駆動プーリ64を介してラッチ駆動用モータ65に連結されている。板状をした複数枚の錘66が前記錘フレーム54内に載置可能になっており、この錘66は1枚1枚分離でき、必要枚数の錘66が積載可能である。
【0063】
図示していないが、前記錘フレーム54をベースプレート59が固定されている床面に載置すると、錘フレーム54が脚部58を介してベースプレート59を跨いだ状態となり、錘フレーム54のカムフォロワ57をそれぞれ偏芯カム61の周面と対向させる。
【0064】
この状態でラッチ駆動用モータ65により偏芯カム61を回転させ、偏芯カム61の大径部によりカムフォロワ57が上方に押し上げられ、前記引張ばねの引張力に抗して各ラッチ55a〜55dがピボットシャフト56を介して外側に回動して、錘フレーム54の上方が広く開く。
【0065】
この状態で被記録媒体Wの紙幅によって必要枚数の錘66を錘フレーム54内に載置・収容する。錘フレーム54は箱型をしており、四隅にラッチ55a〜55dが立設しているので、錘フレーム54内に積載した錘66がずれることはない。
【0066】
その後、第1のダンサーユニット17を降下させ、フックシャフト52が開いたラッチ55a〜55dの内側まで下がったところで第1のダンサーユニット17の降下を停止する。そしてラッチ駆動用モータ65により偏芯カム61を回転させることにより、各ラッチ55a〜55dは内側に寄ってフックカラー53と係合し、第1のダンサーユニット17を上昇させることによって錘66を積載した錘フレーム54が吊り上げられ、被記録媒体Wに所望の張力が付与される。
錘66の積載枚数を変更して被記録媒体Wの張力を調整したり、錘66を取り除く場合には、前述と逆の操作を行えばよい。
【0067】
図13は、この第1実施例に係る張力調整手段51を第2のダンサーユニット18に適用した例を示す分解斜視図である。
【0068】
図13において図12と相違する点は、第2のダンサーユニット18の構成である。この第2のダンサーユニット18の方は被記録媒体Wのループ長を長く確保するため、2本のダンサーローラ15a,15bが可動フレーム16内に設けられている。この2本のフックシャフト52の間隔と、第1のダンサーユニット17に設けられている2本のフックシャフト52の間隔は同寸に設計されている。
なお、他の構造ならびに操作などは、第1のダンサーユニット17で説明したものと同じである。
【0069】
図14はこの張力調整手段51の第2実施例を示す分解斜視図であり、第1のダンサーユニット17に適用した例を示している。
【0070】
図14に示すように、第1の可動フレーム12の内側には、第1のダンサーローラ11の軸方向と直交する方向に所定の間隔をおいて2本のフックシャフト52が架設されており、各フックシャフト52の軸方向に所定の間隔をおいて2つの溝状のフックカラー53が設けられている。
【0071】
上方が開放された箱型の錘フレーム54の手前側と奥側の端面にはそれぞれラッチ55a,55bがピボットシャフト56を介してそれぞれ矢印方向に回動可能に立設されている。図14に示すように、ラッチ55aとラッチ55bは内側に向けて対向するように取り付けられ、互いにリンク67で接続されている。
【0072】
図14に示すように、ラッチ55aとラッチ55bが垂直に立設した状態でのラッチ55aとラッチ55bの爪部の間隔が、前記第1のダンサーユニット17に取り付けられている2本のフックシャフト52の間隔とほぼ同寸に設計されている。
【0073】
図示していないが、ラッチ55aとラッチ55bの間には引張ばねが架設され、それの引張力によりラッチ55aとラッチ55bが閉まる方向に弾性付勢されている。また、一方のラッチ55aには電磁ソレノイド68が接続されている。
【0074】
この電磁ソレノイド68でラッチ55aを外側に引くことにより、ラッチ55aとラッチ55bが互いに離れる方向に回動し、錘フレーム54の上方が広く開放され、錘66の積載、錘66の取り出し、あるいはラッチ55aとラッチ55bをフックシャフト52から外すなどの操作が可能となる。
【0075】
また、電磁ソレノイド68でラッチ55aを内側に押すことにより、ラッチ55aとラッチ55bが互いに内側に寄って、フックシャフト52に錘フレーム54を係止することができる。
【0076】
図15は、この第2実施例に係る張力調整手段51を第2のダンサーユニット18に適用した例を示す分解斜視図である。
図15において図14と相違する点は、第2のダンサーユニット18の構成である。この実施例の場合、各フックシャフト52のフックカラー53が2本のダンサーローラ15a,15bの間に設けられている点である。なお、他の構造ならびに操作などは、図14で説明したものと同じである。
【0077】
図1では被記録媒体の両面に画像を形成する場合について説明したが、被記録媒体の片面に画像を形成する場合には、図1に示す反転装置103ならびに裏面印刷する第2のインクジェットプリンタ102bは使用しないで、図2に示す処理剤液塗布装置101の裏面塗布手段13rの加圧ローラ33を塗布ローラ31から離せば、そのままのシステムで片面印刷が可能である。
【符号の説明】
【0078】
8:インフィードローラ、
9:フィードニップローラ、
11:第1のダンサーローラ、
12:第1の可動フレーム、
13f:表面塗布手段、
13r:裏面塗布手段、
14:アウトフィードローラ、
15a,15b:第2のダンサーローラ、
16:第2の可動フレーム、
17:第1のダンサーユニット、
18:第2のダンサーユニット、
22:処理剤液、
26:供給パン、
31:塗布ローラ、
42:処理剤液が塗布されていない部分、
54:錘フレーム、
55:ラッチ、
101:処理剤液塗布装置、
102:インクジェットプリンタ、
W:被記録媒体。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0079】
【特許文献1】特開2002−103583号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状被記録媒体の搬送経路上に搬送方向上流側から下流側に沿って、上流側被記録媒体搬送手段と、第1のバッフア手段と、処理剤液塗布手段と、下流側被記録媒体搬送手段と、第2のバッフア手段を備え、
前記上流側被記録媒体搬送手段は前記被記録媒体を挟持して所定の搬送方向に移送する機能を有し、
前記第1のバッフア手段は前記上流側被記録媒体搬送手段と前記下流側被記録媒体搬送手段の間の長尺状被記録媒体の弛み量を吸収することのできる機能を有し、
前記処理剤液塗布手段は前記被記録媒体上に処理剤液を塗布する機能を有し、
前記下流側被記録媒体搬送手段は被記録媒体の搬送方向ならびにその搬送方向とは逆の方向に被記録媒体を挟持して移送する機能を有し、
前記第2のバッフア手段は前記下流側被記録媒体搬送手段と当該処理剤液塗布装置の後続のインクジェットプリンタとの間の長尺状被記録媒体の弛み量を吸収することのできる機能を有し、
当該処理剤液塗布装置内と前記インクジェットプリンタ内での被記録媒体の搬送状態の差によって、被記録媒体上に形成された処理剤液の未塗布部分を有する被記録媒体の部分を前記第2のバッフア手段で保持して、
前記処理剤液の未塗布部分が前記処理剤液塗布手段の被記録媒体搬送方向上流側に到達するように、前記下流側被記録媒体搬送手段により被記録媒体を戻す構成になっていることを特徴とするインクジェットプリンタ用処理剤液塗布装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェットプリンタ用処理剤液塗布装置において、
前記第1のバッフア手段ならびに(または)第2のバッフア手段が、回転自在に支持されたローラと、そのローラを支持する可動フレームを有する上下動可能なローラ機構部からなり、そのローラ機構部を前記長尺状被記録媒体で吊ることにより、長尺状被記録媒体に所定の張力が印加されていることを特徴とするインクジェットプリンタ用処理剤液塗布装置。
【請求項3】
請求項2に記載のインクジェットプリンタ用処理剤液塗布装置において、
前記ローラ機構部に錘ユニットが着脱可能に装着されることを特徴とするインクジェットプリンタ用処理剤液塗布装置。
【請求項4】
請求項3に記載のインクジェットプリンタ用処理剤液塗布装置において、
前記錘ユニット内の錘の数が変更できる構成になっていることを特徴とするインクジェットプリンタ用処理剤液塗布装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載のインクジェットプリンタ用処理剤液塗布装置において、
前記第1のバッフア手段ならびに第2のバッフア手段が共に同じ錘ユニットを装着する構成になっていることを特徴とするインクジェットプリンタ用処理剤液塗布装置。
【請求項6】
被記録媒体の搬送方向に沿って、搬送方向上流側に画像形成前の被記録媒体に対して処理剤液を塗布する処理剤液塗布装置が設置され、その処理剤液塗布装置の被記録媒体の搬送方向下流側に処理済の被記録媒体上にインク滴を吐出して画像を形成するインクジェットプリンタが設置された画像形成システムにおいて、
前記処理剤液塗布装置が請求項1ないし5のいずれか1項に記載の処理剤液塗布装置であることを特徴とする画像形成システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−91261(P2013−91261A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235089(P2011−235089)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】