説明

インクジェットプリンタ

【課題】インク経路中に気泡が発生しても記録動作を停止させることなく気泡を除去することができるインクジェットプリンタを提供することを目的とする。
【解決手段】気泡除去部50は、空間Bのインクに含まれる気泡等をフィルタ51で除去し、除去されたインクを空間Aからチューブ8を介してインクヘッド11に供給する。気泡除去部50は、消泡部40からの気泡によって、空間Bのインク液面高さが所定量のインクを流すために必要なフィルタ51の面積(高さh)よりも低くなると、つまり、空気溜まり部56の空気圧が所定値以上に高まると、圧縮バネ55の付勢力に抗して遮蔽部材54が押し上げられ、空気開放路58がチューブ25を介して下部サブインクタンク13に連通する。これにより、空間Bの所定の空気圧まで低下し、液面60が所定の高さに戻る。この時、遮蔽部材54は圧縮バネの付勢力によって下がり、空気開放路58が遮蔽される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタに係わり、更に詳しくはインク供給経路に気泡が発生しても記録動作を停止することなく気泡を除去するインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式による記録装置(インクジェットプリンタ)は、サーマルヘッド方式あるいは電気機械変換素子(ピエゾ)方式等の記録ヘッドにより、記録用紙等の記録媒体上にインクを飛翔させることで記録(印刷)が行われる。
【0003】
このようなインクジェットプリンタでは、インク経路中、例えばタンク、記録ヘッド、これらを連結する配管等において、インク内に気泡が発生することがある。
このような気泡は、インク経路中のインクの流れを阻害し、記録ヘッドに対するインクの供給不足を引き起こしてしまう。これにより、記録ヘッドがインクを吐出できないなどの不具合が発生する。また、インクは吐出できても、正しい方向にインクが吐出されず、印字品質に不具合を起こすこともある。
【0004】
このような不具合を防止するために、インク経路中に、気泡を除去するごみ除去装置(気泡除去部)を備えたインクジェット記録装置が特許文献1に開示されている。
特許文献1に示されるインクジェット記録装置の気泡除去部は、フィルタと、インクの流れに応じて漂うように揺れ動くことが可能な、フィルタの面積よりも小さい弁部材と、フィルタと弁部材の中央部を保持するための保持部材とを備えている。
【0005】
この弁部材は、その中央部が保持部材によってフィルタに押し付けられることで保持されているが、その弁部材の中央部以外はフィルタに密着しておらず、画像記録時に必要なインクの流れを妨げないようになっている。
【0006】
そして、気泡除去時には、ポンプによりインクに圧力をかけて、インクをフィルタに向けて早く流すことで弁部材をフィルタ側に押圧し、弁部材の大部分をフィルタ表面に密着させ、フィルタ前後に大きな圧力差を生じさせる。これにより気泡はフィルタを通過する。
【0007】
この時のフィルタの有効面積、すなわち弁部材がフィルタ表面を覆っていない面積は、弁部材がない場合と比較して約1/6となっている。
また、たとえ弁部材の下流側に気泡が侵入していても、弁部材がフィルタの中央部で保持されているため、弁部材の気泡が付着していない部分はフィルタ表面と密着するのでフィルタの有効濾過面積を小さくなり、気泡はフィルタを通過する。
【0008】
このようにフィルタ前後に大きな圧力差を生じさせることで、気泡はフィルタを通過し、インク経路中の気泡を除去することができるようになっている。
【特許文献1】特開平7−329311号公報([要約]、図1、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のインクジェット記録装置では、ポンプによりインクをフィルタに向けて早く流し、弁部材をフィルタ表面に密着させることで、フィルタ前後に圧力差を生じさせて気泡除去を行なう方式であるため、画像記録中には、この気泡除去処理を行なうことはできない。
【0010】
しかし、インク経路中の気泡は画像記録中でも発生する。したがって、上記のインクジェット記録装置では、画像記録中に発生した気泡を除去するためには、画像記録を一且停止させなければならない。
【0011】
もし、上記インクジェット記録装置において、画像記録中に気泡除去を行なおうとすると、ポンプから加えられるインクの圧力によりフィルタ上流側で停留していた気泡がフィルタを通過して記録ヘッドの方へ流れる。すると、記録ヘッドでインクを吐出しようとノズル内の液滴に圧をかけても流れ込む気泡によって圧が吸収されてしまい、正常のインク吐出が行えなくなるという不具合が発生する。
【0012】
そこで本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、インク経路中に気泡が発生しても記録動作を停止させることなく気泡を除去することができるインクジェットプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のインクジェットプリンタは、インクを吐出するためのインクヘッドと、インクヘッドにインクを供給するインク経路と、インク経路中に設けられた気泡除去部と、を有し、気泡除去部は、当該気泡除去部の内部空間において重力方向に延在するフィルタと、内部空間のフィルタよりもインク経路の上流側の空間で、フィルタの重力方向上部側に設けられた当該空間と連通する空気開放路と、空間の圧力により空気開放路を開放、又は遮蔽する圧力弁と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本名発明によれば、インク経路中に気泡が発生しても記録動作を停止せず気泡を除去することができるインクジェットプリンタを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態におけるインクジェットプリンタのインク経路の構成図である。このインクジェットプリンタにはシアン(C)、ブラック(K)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)の各色のインク液2−1、2−2、2−3、2−4を夫々収容する複数のインクタンク1−1、1−2、1−3、1−4が設けられている。
【0016】
尚、図1では1色のインク液2−1に対するインク経路と構成を中心に示しているが、その他の色のインク経路についても同様の構成である。
図1において、インクタンク1−1には、開放弁3とフィルタ26を設けたインク経路チューブ4が接続されている。このインク経路チューブ4は、一端をインクタンク1−1に接続し、他端を本発明の気泡除去部を備える上部サブインクタンク5に接続している。
【0017】
上部サブインクタンク5は、インク液供給チューブ8によってインク分配器7と接続されている。さらに、上部サブインクタンク5は、チューブ10によって共通気室9と接続されている。この上部サブインクタンク5の詳細については後述する。
【0018】
共通気室9には、この内部を大気に開放することが可能な開放弁21が設置されている。
また、インク分配器7には、インクジェット方式のインクヘッド11が接続され、画像記録部を形成している。本実施の形態では、例えば、複数のインクヘッド11(図1には2個のみ示し他は図示を省略している)が、搬送される記録媒体の幅方向に、各色ごとに、その記録媒体の幅以上の範囲に配置されている。そして、インクヘッド11は、下方に搬送される記録媒体に対して複数のノズルからインク液2を吐出して、画像記録を行なう。
【0019】
複数のインクヘッド11内部に入ったインク液2−1の中で、ノズル面から吐出されなかったインク液2−1は、再びインクヘッド11外部に出て、インク集積器12に集められる。そして、インク経路チューブ14を通り下部サブインクタンク13に導かれる。
【0020】
下部サブインクタンク13には、インク供給量調節器17が配置された一端を下部サブタンク13内のインク液2−1に浸して接続し、他端を密閉されたバッファタンク27内のインク液2−1に浸して接続するインク液供給チューブ16が設けられている。
【0021】
インク液供給チューブ16には、ポンプ15によってバッファタンク内を減圧した(負圧にした)際にのみ、下部サブタンク13のインク液をバッファインク27に供給するための一方向弁28が設けられている。
【0022】
インク供給量調節器17は、送液ポンプ15によってバッファタンク27に吸い上げられるインク液の量を下部サブインクタンク13のインク液面の高さによって自己調整するものである。
【0023】
また、下部サブインクタンク13には、一端を下部サブインクタンク13内のインク液2−1に浸すことなく接続し、他端を圧力調整共通気室18に接続するチューブ19が設けられている。
【0024】
圧力調整共通気室18には、この内部を大気に開放することが可能な開放弁20が圧力調整共通気室18−1側に設置されている。また、下部サブインクタンク13内のインク液が進入できないよう壁でさえぎられている圧力調整共通気室18−2側には、圧力調整機構22が設置されている。
【0025】
この圧力調整機構22は、ベローズ形状部22−1と、錘部22−2と、アーム22−3とで構成されている。アーム22−3によって錘部22−2を上下動させることでベローズ形状部22−1は伸縮する。尚、ベローズ形状部22−1のバネ定数は極めて小さい値で作られている。これによりベローズ形状部22−1が伸縮することで圧力調整共通気室18内の圧力を調整している。つまり、圧力調整共通気室18は、チューブ19を介して下部サブインクタンク13と連通しているため下部サブインクタンク13内の圧力を調整している。 さらに、下部サブタンク13には、上部サブタンク5の後述する圧力弁53と連通するチューブ25が接続されている。
【0026】
また、バッファタンク27は、チューブ24を介して上部サブタンク5と接続されている。
チューブ24には、ポンプ15によってバッファタンク内を加圧にした際にのみ、バッファタンク27内のインク液2−1を上部サブタンク5に供給するために一方向弁29が設けられている。
(第1の実施の形態)
図2は、上記インクジェットプリンタのインク経路の構成において、第1の実施の形態としての、上部サブタンク5の構造について詳細に説明する図である。
【0027】
図2に示すように、上部サブタンク5は、熱交換部30、消泡部40、本発明の気泡除去部50で構成されている。
まず、熱交換部30から説明する。熱交換部30には、チューブ24が接続されている。バッファタンク27からチューブ24を介して供給されるインク液2−1は、経由してきたインクヘッド11の発熱によって高温となっている。
【0028】
インク液が高温になると粘度が低下し、インクヘッド11から吐出するインク液の量が増加するため、得られる画像の画像濃度が濃くなってしまう。これを避けるため、熱交換部30は、インクヘッド11で正常なインク吐出が行えるように、所定の温度の範囲内にインク液を冷却するための冷却機構として機能している。
【0029】
この熱交換部30は、熱伝導性のよいアルミなどで形成された熱交換フィン34によって、矢印a、b、cで示すインク液の流路が形成されている。ここで、熱交換フィン34の構造を簡単に説明する。
【0030】
図3(a)は、熱交換部30の主要部を示し、図3(b)は、図3(a)のA−A´断面矢視図を示している。図3(b)に示すように、熱交換フィン34は対向する側壁44−1、44−2から交互に突設された形状の複数のフィンからなる。図3(a)に示すように、チューブ24から流入したインク液2−1は、同図(b)の矢印で示すように流れて、図2に示す矢印bから矢印cまでの流路を形成する。
【0031】
図3(a)において、上記の熱交換フィン34は、例えばペルチェ素子33によって温度を制御される。インク液2−1は、この熱交換フィン34に挟まれた図3(b)に示す流路を流れていくうちに、熱交換フィン34と熱交換を行って冷却される。
【0032】
ぺルチェ素子33が奪った熱量は、素子の放熱側端から、ヒートシンク32、冷却フアン31によって、機外へ放出される。
また、ここで冷却されたインク液2−1は、画像記録を行うために発熱しているインクヘッド11の熱を奪い、再度この熱交換部30で冷却されるという循環を行うことにより、インクヘッド11が印字品質を保てなくなるほど高温になってしまうことも防止している。
【0033】
次に、消泡部40について説明する。消泡部40には、熱交換部30で冷却されたインク液2−1が、上記の矢印cから側壁44と仕切り壁45の間を通って、矢印dで示すように流入する。
【0034】
消泡部40は、底板42に超音波振動子41が取り付けられている。ここでの消泡は、インク循策中に超音波振動子41を駆動させることによって行うものである。
すなわち、超音波振動子41の振動により、消泡部40内のインク液2−1が微小に振動し、その結果、インク液中の微小気泡がインク液面(上方)へと浮かぶ。
【0035】
微小気泡は、気泡除去部50側に向けて昇り傾斜面を形成している傾斜壁43を伝って、インク液2−1と共に矢印eで示すように気泡除去部50へと流れる。
次に、本発明の特徴である気泡除去部50について説明する。気泡除去部50の内部空間には、フィルタ51を介して左側(インク経路中における下流側)に空間A、右側(インク経路中における上流側)に空間Bが設けられている。
【0036】
フィルタ51は、インクヘッド11に供給されるインク液2−1に含まれる異物を除去し、ノズルの目詰まりなどに起因する印字不良をなくすために配置されている。フィルタ51は、メッシュ状部材から成り、メッシュの目がヘッドノズルの大きさに対して充分小さい異物まで除去できるようなサイズのものが選択される。
【0037】
また、本実施例では、フィルタ51は、空間Bから空間Aへ流れるインク液2−1に対して、重力方向に略垂直にその面を配置している。そして、設計流量を流すのに必要なフィルタ51の面積(図2の高さh×図の奥行き方向の幅)は、後述する液面検出装置によって制御される液面の高さよりも低い位置に設定されている。
【0038】
上記の空間Aには、上部サブインクタンク5内(気泡除去部50内)のインク液面を所定の一定高さに保つために液面検出装置である例えばフロート52が設けられている。
フロート52は、液面の高さに応じて回動可能に支持軸61により軸支されている。このフロート52には、磁石62が取り付けられており、不図示の磁気センサによってフロート52の位置が検出されることによって、液面60の高さが検出されるようになっている。
【0039】
画像記録によってインク液2−1が消費され、液面60の高さが低くなった場合には、図1に示す開放弁3を開放することによって、インクタンク1−1のインク液2−1を、フィルタ26を介してインク経路チューブ4により空間Aすなわち上部サブインクタンク5へ供給する。
【0040】
液面60の高さが所定の高さになると、開放弁3は閉じられ、インク供給を停止する。また、フロート52によって液面60の高さは、前述した熱交換部30の熱交換フィン34よりも高い位置に設定されているので、熱交換フィン34はすべてインク液中に浸るため、効率のよい熱交換ができる。
【0041】
また、インク液の目標温度と実際の温度との差を検出して熱交換部30を制御するために温度センサ57が設けられている。温度センサ57は、循環するインク液2−1の温度を検出するために設けられている。
【0042】
この温度センサ57で常にインク温度を監視し、インク温度が許容範囲に対して高くなった場合に、前述した熱交換部30のペルチェ素子33を駆動して、インクの温度が許容の範囲内に収まるように温度調節を行う。これにより、最適なインク温度での画像記録が可能となる。
【0043】
さらに、気泡除去部50の空間Aには、インク分配器7に空間A内のインク液2−1を供給するためのインク供給チューブ8の一端がインク液内に浸されて配置されている。また、空間A内を大気開放するために共通気室9と接続するチューブ10の一端が配置されている。
【0044】
空間Bの上部、つまり、重力方向におけるフィルタ51の上部には消泡部40で発生した気泡を収容する空気溜まり部56が形成されている。この空気溜まり部56は、通常フロート52によって定まるインク液面60よりも上方に形成されるため、フィルタ51の設定流量を流すだけに必要な高さhは十分に確保されている。
【0045】
また、空気溜まり部56の上方に空気開放路58を介して圧力弁53が配置されている。この圧力弁53は、遮蔽部材54と付勢手段である圧縮バネ55とで構成されている。
圧力弁53は、下方では遮蔽部材54を介して空気開放路58と連通し、上方はチューブ25によって図1に示す下部サブタンク13と連結されている。
【0046】
図4は、圧力弁53の動作を説明する図である。図4に示すように、圧力弁53は、空気溜まり部56の圧力が設定値以上になると、空気溜まり部56中の空気が遮蔽部材54を上方に押し上げることによって、空気開放路58が開放され、チューブ25を介して下部サブタンク13と連通することにより、空気溜まり部56の圧力を一定値以下に戻すことが出来る。
【0047】
次に、このインクジェットプリンタのインク経路の動作を、再び図1乃至図4を用いて説明する。
図1のインクタンク1−1内のインク液2−1は、気泡除去部50内(上部サブインクタンク5)のフロート52によって一定時間の間にインクの液面が所定の高さに達しないときに開放弁3を開くことによって供給される。
【0048】
このインク経路を除いた部分のインク液の動きは、前述した如く、上部サブインクタンク5→インクヘッド11→下部サブインクタンク13→バッファタンク27→上部サブインクタンク5といったように、循環を繰り返すよう構成されている。
【0049】
一般的に、インクジェットヘッド11のノズル部は負圧に保たれ、これによって、ノズル部に、内側に球面状に凹むインクのメニスカスが形成され、正常な印字動作ができるように構成されている。
【0050】
本インク経路は、インクを前述した如く循環させながら、ノズル部における負圧を作るために、以下のような構成をとっている。
すなわち、図1に示すように、インクヘッド11のノズルに対して、上部サブインクタンク5の液面までの間に距離がAを持たせ、開放弁21を開放することによって、上部サブインクタンク5内を大気開放にする。これによりインクヘッド11には、一定の正圧力がかかる。さらに、下部サブインクタンク13の液面とインクヘッド11のノズルまでの間に距離Bを持たせ、開放弁20を開けた状態で圧力調整機構22のベローズ形状部22−1、及び錘部22−2をアーム22−3で持ち上げ、開放弁20を閉じた後、アーム22−3を下げることで、下部サブインクタンク13内の圧力を一定の負圧になるように設定する。これによりインクヘッド11には、一定の負圧がかかる。
【0051】
下部サブインクタンク13内の負圧力は、錘22−2の重さを変えることによって可変である。この負圧力とインクヘッド11と上部サブインクタンク5のインク液面との距離Aによる正圧力とのバランスをとることで、インクヘッド11のノズルにおいて、所定の負圧を発生させることが可能となる。これと共に、インクが上部サブインクタンク5から、インクヘッド11内部を通過して、下部サブインクタンク13に流れることが可能になる。
【0052】
尚、上記距離Bは、インクを循環させていないとき、開放弁21を大気に対して閉じ、開放弁20を大気に対して開放した際、インクヘッド11のノズルに正常なメニスカスが形成できるように、その距離が設定されている。
【0053】
下部サブインクタンク13に流れたインク液を再び上部サブインクタンク5に戻すために、バッファタンク27及びポンプ15が設置されている。
尚、インクチューブ16の下部サブインクタンク13側の供給口の先端に設けられたインク供給量調節器17は、下部サブインクタンク13のインク液面が下がってくると、バッファタンク27へのインク供給量土を減らし、インク液面が上がってくると、バッファタンク27へのインク供給量土を増やす機構となっている。
【0054】
上記動作を繰り返す際、図2に示すように、通常、空間A及び空間Bのインク液面60は前述のとおりフロート52によって同じ高さに制御されている。しかし、消泡部40で発生する気泡は時間と共に増大し、空気溜まり部56の量が変化する。
【0055】
また、フィルタ51は非常に細かい目のメッシュで構成されているため、特に設定流量を流すのに必要な高さhより上方のフィルタ部分が何らかの理由でインクに濡れてしまうと空間Bから空間Aへの空気の流れが悪くなり、極端な場合は、空気の流通がなくなるおそれがある。
【0056】
これにより空間Bの空気圧が高まり、空間Bにおける液面の高さが極端に低くなってしまい、フィルタ51を通して空間Aへインク液2−1を流すためのフィルタ51の有効面積(液面下の部分)が小さくなる。フィルタ51の有効面積が小さくなると、インクが設計値通りに流れなくなる。
【0057】
また、ポンプ15によってバッファタンク27内のインク液2−1を熱交換部30上部サブインクタンク5に通常通りに流そうとするので、上部サブインクタンク5内のフィルタ51の上流側の部分の圧力も上昇するといった問題が発生する。
【0058】
そこで、空間Bの空気溜まり部56の上方に配置された圧力弁53によって空間Bの圧力を一定値以下にする。
図4に示したように、空間B内のインク液面がhになるまで空間B内の空気圧力が高まると、その空気圧が圧縮バネ55の付勢力に抗して遮蔽部材54を押し上げて空気開放路58を開放する。
【0059】
空気開放路58が開放されると、空気溜まり部56の空気は、チューブ25を介して下部サブインクタンク13へと流れる。
下部サブインクタンク13に流入した空気は、チューブ19を介して圧力調整共通気室18へ流れる。圧力調整共通気室18内は、印字中密閉されているが、流れ組んだ空気の分だけ錘22−2によってベローズ形状部22−1が伸縮するため、ヘッドノズル部分での圧力は一定に保たれる。
【0060】
ある程度の空気が空間Bから逃げると、空気溜まり部56の圧力が下がり圧縮バネ55の付勢力が勝って再び伸び、遮蔽部材54が空気開放路58に押圧されて、空気開放路58と空間Bとの連通を遮断する。
【0061】
空気溜まり部56の圧力が下がることにより、空間Bのインク液面は上昇し、hよりも高い位置まで戻る。これによって、循環するインクの流量が確保される。
以上のように、本実施の形態では、画像記録中に気泡が発生し、空気溜まり部56の体積(空気圧力)が所定値以上に増大しても、圧力弁53によって当該空気溜まり部56の体積(空気圧力)が所定値となるように空気を逃がすため、フィルタ下流側へ通過するインク流量の減少や気泡除去部50の空間Bにかかる内部圧力の増大といった問題を解決することができる。これにより適切に気泡を除去しながら画像記録を行うことができる。
【0062】
更に、圧力弁53の先をチューブ25によって下部サブタンク13に連結しておくとで、何らかの原因で、ここにインクが流れ込んでも下部サブタンク13に戻すことが出来るので、インクを無駄にすることがない。
【0063】
尚、本実施例では、Y、M、C、およびKなどの複数色のインクを用いて、記録媒体にフルカラー記録を行なっているが、Kのみなどの1色の画像記録を行うモノクロのインクジェットプリンタであってもよい。
【0064】
また、インクヘッド11は、サーマルインクジェットヘッド、インク室の振動板振動することによりインクを吐出するいわゆるピエゾタイプのインクジェットヘッド等、各種のインクヘッドを好適に利用可能である。
【0065】
さらに、本実施例では、インクヘッドを記録媒体の幅以上に延存したライン型ヘッドとして記録媒体上に記録を行ったが、これに限らず、記録媒体上を走査することで記録を行うシリアル型ヘッドにも適用できる。
(第1の実施の形態の変形例1)
上述した第1の実施の形態では、フィルタ51は、空間Aと空間Bとの境界面で鉛直に立設されて配置されているが、フィルタ51の配置方法はこれに限るものではない。
【0066】
図5は、第1の実施の形態の変形例1としてのフィルタ51の他の配置例を示す図である。図5に示すように、本変形例では、フィルタ51は、鉛直以外の斜めの角度に配置されている。
【0067】
同図に示す例では、上部が空間B側に寄り、下部が空間A側に寄るように斜めの角度に配置されているが、上部と下部の片寄り方は、上記と逆であっても良い。すなわち、Bに流入してきた気泡が、フィルタ面上で停留することなく、上方の空気溜まり部56に集まるような傾きとなっていればよい。
【0068】
いずれにしても、フィルタ51の上部が気泡除去部50(上部サブインクタンク5)の上面壁46と接する位置が、圧力弁53よりも空間A側であるように配置される。つまり、第1の実施形態の場合と同様に、圧力弁53は、フィルタ51に対して、その上端側で且つ空間B側に配置されている。
【0069】
本変形例においても、空間Bに流れてきたインク液中の気泡は、フィルタ51にぶつかってとまり、その位置にとどまることなく、液面(上方)へ移動する。
そして、上方に空気溜まり部56を形成する。空気溜まり部56が形成される位置に圧力弁53を配置してあるので、フィルタ51の配置角度によらず、第1の実施形態の動作と同様にして、空気溜まり部56の空気量を所定の量以下に保つことが出来る。
(第1の実施の形態の変形例2)
上述した第1の実施の形態、及びその変形例1では、いずれもフィルタ51は、空間Aと空間Bとを仕切る境界面の全面に亘って形成されているが、フィルタ51の形成方法はこれに限るものではない。
【0070】
図6は、第1の実施の形態の変形例2としてのフィルタ51の他の形成例を示す図である。図6に示すように、上部サブインクタンク5の気泡除去部50における上面壁46から液面より下方へ、底面42から高さhのところまで壁59が延び出して形成されている。そして、この壁59とタンク下面との間に、フィルタ51が所定流量を流すのに必要な面積(高さh)を満たすように介在している。
【0071】
これは、フィルタ51が液面よりも下に配置されて、且つフィルタの全面がインクの通過に使われるようにしたものである。
このように、フィルタ51は、空間Aと空間Bとを仕切る境界面の全面に亘って形成される必要はなく、上下方向の一部にのみフィルタを配置して、後の部分には上部サブインクタンク5の壁と一体な仕切りを配置するような構成でも、他の実施形態と同様の作用を実現することが出来る。
(第1の実施の形態の変形例3)
上述した第1の実施の形態、その変形例1及び2では、いずれも圧力弁53として、遮蔽部材54と圧縮バネ55とで構成された圧力弁53が示されているが、圧力弁の構成はこれに限るものではない。
【0072】
図7は、第1の実施の形態の変形例3としての圧力弁の他の構成例及びその動作状態を示す図である。図7の上には、本変形例3における圧力弁近傍の構成を部分的に示し、図7の下には、その減圧時の動作を示している。
【0073】
尚、図7には、図1乃至図6までに示した構成と同一の構成部分には図1乃至図6と同一の番号を付与して示している。
本変形例3の圧力弁は、フロートによってチューブ25と空気溜まり部56の開閉を行うものである。
【0074】
すなわち、図7(a)に示すように、上部サブインクタンク5の上面壁46の、チューブ25との係合部には、空気開放路58を形成する円環部63が上面壁46と一体に形成されている。
【0075】
円環部63は、上端開口部63−2がチューブ25の端部に嵌入し、下端開口部63−1は空気量が正常な時の液面60よりも下方に位置している。
そして、この空間B側に、支持軸64により回動可能に軸支されたフロート65が配置されている。フロート65の上面には、円環部63の下端開口部63−1を封止することのできる形状の弾性部材を有する。本変形例では、ゴム製リング66が取り付けられている。
【0076】
図7(a)に示すように、空気溜まり部56の空気量が正常な時、液面60の高さは、フロート65に働く浮力がその上面に取り付けられているゴム製リング66を空気開放路58を形成する円環部63の下端開口部63−1に密着するような高さに設定されているため、下端開口部63−1を封止される。
【0077】
尚、フロート65の高さは、空間Aに配置されたフロート52よりも距離aだけ低い位置に配置されている。従って空気溜まり56の空気量が正常な場合には、フロート65はインク液中に沈み込んでいる。
【0078】
このインクに沈みこんだ状態で、フロート65はインクから受ける浮力により上方へ付勢され、ゴム部が弾性変形した状態で、上述したように、空気開放路58を形成する円環部63の下端開口部63−1に密着して空気開放路58を封止する。これにより、空気溜まり部56とチューブ25の連通が遮断されている。
【0079】
空気溜まり56の空気が何らかの理由で増加してインク液面60が下がってくると、図7(b)に示すように、フロート65は液面60の低下に連動して下方に下がる。
そのため、ゴム製リング66が円環部63の下端開口部63−1から離間して、空気開放路58が開放され、チューブ25と空気溜まり部56が連通される。
【0080】
このようにチューブ25と空気溜まり部56が連通すると、空気溜まり部56の空気がチューブ25に逃げ、空気溜まり部56の圧力が低下する。この圧力低下により、空間Bの液面60は上昇し、図7(a)に示すように正常位置に戻り、フロート65のゴム製リング66が円環部63の下端開口部63−1を封止して空気開放路58を遮断する。
【0081】
尚、本変形例では、フロート65側にゴム製リング66を設けたが、円管部63の下端開口部63−1側に設けてもよい。
(第2の実施の形態)
ところで、上記第1の実施形態の構成において上述した動作を実現するためには、タンク内圧力が負圧である下部サブタンク13から所定量のインク液をバッファタンク27に移動させるために必要なポンプ15の体積・圧力変化と、バッファタンク27から上部サブインクタンク5までインクを持ち上げるときに必要なポンプ15の体積・圧力変化が一致している必要がある。
【0082】
しかし、一致していない場合でも、ポンプ15の設計を若干変更するだけで、上記と同様に動作させることができる。これを、第2の実施形態として以下に説明する。尚、各部の構成は第1の実施形態の場合と同様であり、ポンプ15の設計のみが異なる。
【0083】
本例では、ポンプ15の設計を、例えばタンク内圧力が負圧である下部サブタンク13からインクを所定量Qだけバッファタンク27に移動させることが出来るようにポンプ15を設計する。
【0084】
この設計のポンプ15では、バッファタンク27から上部サブインクタンク5までインクを持ち上げるインク量Q´は、Q´=Qとはならない。
そこで、Q´>Qとなるように、ポンプ15を設計する。このようなポンプ15では、上部サブインクタンク5にインクが必要以上に送られる。
【0085】
ポンプ15から上部サブインクタンク5のフィルタ51左側までの、つまり空間Aまでの流路で一番抵抗の大きいのはインク中の異物除去目的で配置されているフィルタ51である。
【0086】
従ってポンプ15で送られたインクは、フィルタ51の手前で停留し、フィルタ51の右側(空間B)の空気溜まり部56を圧縮し、空気圧が上昇する。
フィルタ51を通過するインク流量が所定の流量となるように圧力弁53の作動値を設定すれば、そのタンク内圧が設定圧以上になったとき圧力弁53が開くため、空気と余分なインクをチューブ25を介して下部サブタンク13へ戻し、上部サブインクタンク5のフィルタ51右側の空気圧を所定流量となる一定の空気圧に制御することができる。
【0087】
このように構成することで、ポンプ15で加圧タンクへインクを送る際に一番の抵抗となるフィルタ51の流量を所定の流量に保ちつつ、余分なインクを下部サブタンク13に戻すことが出来るためインクを無駄にすることがない。
【0088】
これにより、部品のバラツキや設計条件によるポンプ吸引・押し出し流量の違いを圧力弁による流量制御で吸収することが出来る。
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものでなく、実施段階では、その要旨を変更しない範囲で種々変形することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施形態におけるインクジェットプリンタのインク経路の構成図である。
【図2】本発明のインクジェットプリンタのインク経路の構成において第1の実施の形態としての上部サブインクタンクの構造について詳細に説明する図である。
【図3】本発明のインクジェットプリンタのインク経路の構成における上部サブインクタンクの熱交換部の主要部とそのA−A´断面矢視図を示す図である。
【図4】本発明のインクジェットプリンタのインク経路の構成における上部サブインクタンクの圧力弁の動作を説明する図である。
【図5】第1の実施の形態の変形例1としてのフィルタの他の配置例を示す図である。
【図6】第1の実施の形態の変形例2としてのフィルタの他の形成例を示す図である。
【図7】第1の実施の形態の変形例3としての圧力弁の他の構成例及びその動作状態を示す図である。
【符号の説明】
【0090】
1−1 インクタンク(シアン)
1−2 インクタンク(ブラック)
1−3 インクタンク(マゼンタ)
1−4 インクタンク(イエロー)
2−1 インク液(シアン)
2−2 インク液(ブラック)
2−3 インク液(マゼンタ)
2−4 インク液(イエロー)
3 開放弁
4 インク経路チューブ
5 上部サブインクタンク
7 インク分配器
8 インク液供給チューブ
9 共通気室
10 チューブ
11 インクヘッド
12 インク集積器
13 下部サブインクタンク
14 インク経路チューブ
15 液体ポンプ
16 インク液供給チューブ
17 インク供給量調節器
18 圧力調整共通気室
19 チューブ
20 開放弁
21 開放弁
22 圧力調整機構
22−1 ベローズ形状部
22−2 錘部
22−3 アーム
24 チューブ
25 チューブ
26 フィルタ
27 バッファタンク
28 一方向弁
29 一方向弁
30 熱交換部
31 冷却フアン
32 ヒートシンク
33 ペルチェ素子
34 熱交換フィン
40 消泡部
41 超音波振動子
42 底面
43 傾斜壁
44、44−1、44−2 側壁
45 仕切り壁
46 上面壁
50 気泡除去都
51 フィルタ
52 フロート
53 圧力弁
54 遮蔽部材
55 圧縮バネ
56 空気溜まり部
57 温度センサ
58 空気開放路
59 壁 60 液面
61 支持軸
62 磁石 63 円環部
64 支持軸
65 フロート
66 ゴム製リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するためのインクヘッドと、
前記インクヘッドに前記インクを供給するインク経路と、
前記インク経路中に設けられた気泡除去部と、を有し、
前記気泡除去部は、
当該気泡除去部の内部空間において重力方向に延在するフィルタと、
前記内部空間の前記フィルタよりも前記インク経路の上流側の空間で、前記フィルタの重力方向上部側に設けられた当該空間と連通する空気開放路と、
前記空間の圧力により前記空気開放路を開放、又は遮蔽する圧力弁と、を有することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記圧力弁は、前記空間の圧力が所定値以上になった際に、前記空気開放路を開放することで当該空間の余剰空気を放出し、前記空間の圧力が所定値まで戻ると前記空気開放路を遮蔽することを特徴とする請求項1のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記圧力弁は、前記空気開放路を遮蔽可能な遮蔽部材と、前記空気開放路を遮蔽する方向に前記遮蔽部材を付勢する付勢手段と、を有することを特徴とする請求項2記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記圧力弁は、インク液面の高さに応じて変位するフロートと、
該フロートに設けられた弾性部材と、を有し、
前記インク液面が所定の高さ以上の時、前記弾性体により前記空気開放路を遮蔽することを特徴とする請求項2記載のインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−173827(P2008−173827A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8418(P2007−8418)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】