説明

インクジェットプリントシート及び原図用シート

【目的】本発明は、顔料を色材とするインクジェットインクの吸収,乾燥性に優れ、色材の定着性が優れ、インク溶剤を吸収しない基材をベースとしたインクジェットプリントシートを得ること等を目的とする。
【構成】インク溶剤非吸収性基材シート(1) 上にサブミクロンの孔径の多孔質の透光性アンダーコート層(2) を設け、このアンダーコート層(2) 上にプラスチックビーズを含み、ビースの間隙によって作られるミクロンオーバーの空孔を有するオーバーコート層(3) を設けたことを特徴とするインクジェットプリントシート(4) 。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、インクジェットプリントシート及び原図用シートに関する。
【0002】
【従来の技術】水,有機溶剤等の溶剤中に着色成分である染料を溶解してなるインクをプリントヘッドから噴射してプリントシート上に画像を形成する技術は、インクジェクトプリントとして公知であり、広く実用化されている。
【0003】インクジェクトプリントに於けるプリントシートとしては、普通紙をベースにして、インクの吸収性や染料の定着性を改良したものが知られている。普通紙はパルプを原料として、それ自体多孔質でインク溶剤の吸収性があるので、わずかな改良を加えることによってインクジェクトプリントに好適な特性を得ることができる。
【0004】ところが、インクジェクトプリントに適用するシートでOHP用シートに代表される透明プラスチックベースのプリントシートやパルプの叩解度を高めて透光性を増すトレーシングペーパーの場合には、シート自体には溶剤吸収性が全く無いか、極めて少ない為にインクが吸収乾燥されず、そのままではプリントを行うことができない。
【0005】このような問題を解決するために溶剤非吸収性のシート表面にインクを吸収し、染料を吸着するコーティング層を設けることが知られている。例えば、特開平2−276670,特開平6−199034に於いては、基材上に2次凝集粒子直径が100〜160nmのベーマイトゾルから形成された平均細孔径半径が3〜8nmの細孔を有するアルミナ水和物多孔質層を5〜40μmの厚さで設け、更にその上層に2次凝集粒子直径が300〜500nmのベーマイトゾルから形成された平均細孔半径が5〜10nmのアルミナ水和物多孔質層を1〜20μmの厚さで設けたプリントシートが示されている。
【0006】上記シートはOHP用の透明なプリントシートとして好適なものであって、コーティング層は透明であってインク溶剤を瞬時に吸収する作用があり、かつ染料分子を吸着する作用があって、染料インクを用いるインクジェットプリンタには極めて好適に適用される。
【0007】また、別の例として特開平4−235086に於いては、透明プラスチックフィルムからなる基材上にポリスチレンビーズ又はその共重合ビーズをバインダーにより固定させてインク移送層としたインクジェット記録シートが示されている。
【0008】上記シートはバックプリントシートと呼ばれ、記録層側からプリントした画像を透明ベース側から見る様にして用いられ、画像の観察側表面がフィルムによって保護されると共に背面側から照明を行う用途に供せられる。その為に記録層はインクのベースシート方向に移送する作用に加えて高い白色不透明度が要求され、その要求に合う白色不透明性が得られることが特徴となっている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】ところで、従来インクジェットインクは水ベースで染料を着色剤とするものがほとんどであったが、水ベース染料インクはプリント画像の耐水性や耐光性が悪く、普通紙プリントでのベタ画像部で用紙が吸水して波打ちを生じてしまうという重大な欠点がある。
【0010】この様な欠点を解消するために顔料を着色剤とするインクジェットインクが鋭意研究されており、一部実用化例はあるが、まだ十分に実用化されるにいたっていない。なお、顔料の方が染料に比べて粒子、分子が大きい。また、染料は溶媒に溶けるが、顔料は溶けない。
【0011】上記インクジェット顔料インクが実用化される為には、顔料インクやこれに適合するプリントヘッドが開発されるのに加え、各種プリントシートも開発されなければならない。
【0012】本発明者は、顔料インクを用いたインクジェットプリント方法を研究した結果、顔料と染料の粒子,分子の大きさの著しい差によってその定着,吸着のメカニズムに大きな差があり、染料インクに適合して実用化されているプリントシートが顔料インクに対しては適用し得ないことを確認した。
【0013】例えば、顔料インクのインクジェットプリントに適用するOHPシートの様な透明シートして、前述した特開昭6−199034に基づいて作られたと思われる。セイコーエプソン社製のインクジェットプリンタ,MJ−700V2C用の専用OHPシートMJOHPS1を適用した場合、インク溶媒は瞬時に吸収され乾燥状態となるが、顔料はシートの表面に集っているだけで全く定着してないことが分かった。
【0014】また、前述した特開平4−235086に基づいて作られていると思われる日清紡株式会社製のプリントシートピーチコートWE110は、顔料インクに対して乾燥性定着性共に優れているが、記録層が不透明であって、透明性を必要とするプリントシートには適用することができない。
【0015】更に、インクジェットプリント方式に基づいてCADの出力装置であるプロッタを構成する場合、この用途分野で多用されている第2原図用紙が必要となるが、第2原図用紙としては半透明性とインクの吸収,定着性が優れていることはもちろん、表面に加筆,捺印のための適度なマット性が要求されるが、顔料タイプのインクジェットインクに適合するものはもとより、染料タイプのインクジェットインクに良好に適合する第2原図用紙も得られていない。
【0016】本発明は上記事情を考慮してなされたもので、第1に、顔料タイプのインクジェットインクに適合し、インク吸収性及びインク定着性に優れて透明な記録層を有するインクジェットプリント用シートを実現することを目的とする。
【0017】また、本発明の別の目的は、顔料タイプ及び染料タイプのインクジェットインクに適合し、インクの吸収性及びインク定着性に優れると共に、プリント面の筆記性,捺印性に優れた半透明のインクジェットプリント第2原図用シートを実現することにある。
【0018】更に、本発明の別の目的は、顔料タイプ及び染料タイプのインクジェットインクに適合し、インクの吸収性及びインク定着性に優れると共に、プリント面の筆記性,捺印性に優れ、低コストにて製作可能な半透明のインクジェットプリント第2原図用紙シートを実現することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】本願第1の発明は、インク溶剤非吸収性基材シート上に、サブミクロンの孔径の多孔質の透光性アンダーコート層を設け、このアンダーコート層上にプラスチックビーズを含み、ビースの間隙によって作られるミクロンオーダーの空孔を有するオーバーコート層を設けたことを特徴とするインクジェットプリントシートである。
【0020】本願第2の発明は、半透明のインク溶剤非吸収性基材シート上にサブミクロンの孔径の多孔質の透光性のアンダーコート層を設け、このアンダーコート層上にプラスチックビーズを含み、ビースの間隙によって作られるミクロンオーダーの空孔を有するオーバーコート層を設けたことを特徴とするインクジェクトプリント第2原図用シートである。
【0021】本願第3の発明は、半透明のインク溶剤非吸収性基材シート上にプラスチック球形ビーズをバインダーにより固定させ、ミクロンオーダーの空孔を有するコート層を形成し、全体の光透過率が50〜85%となるようにしたことを特徴とするインジェクトプリント第2原図用シートである。
【0022】
【作用】第1の発明のインクジェットプリントシートに顔料インクを用いてインクジェットプリントを行うと、インク溶剤は直ちに透光性のアンダーコート層の空孔に吸収されて、画像を構成する顔料はオーバーコート層のミクロンオーダーの空孔の中にトラップされる。
【0023】トラップされた顔料は層を構成する材料に対して接着する力はないが、プリント面から他の部材で接触したりこすったりしても、外力はオーバーコート層を構成するプラステックビーズに遮られて直接顔料に作用せず、優れた定着性が得られる。
【0024】しかも、コート層はアンダーコート層は透光性であり、オーバーコート層もプラスチックビーズを主体とするために透光性である。従って、透明なベースシート上にコーティングを施せば、透明なプリントフィルムを得ることができる。また、金属蒸気紙のような特異な表面の基材シート上にコーティングを施せば、その表面の見え方を損なうことなく、イングジェットプリントのインク受容性を得ることができる。
【0025】第2の発明のプリントシートは、多孔質のアンダーコート層によって迅速にインクの溶剤を吸収すると共に、大径の空孔を有するオーバーコート層の空孔部分にインク顔料がトラップされるので、インクの吸収定着性に極めて優れた第2原図用プリントシートを実現することができる。しかも、オーバーコート層はプラスチックビーズからなる多孔質層であるために鉛筆で筆記したり、捺印する場合にも良好な筆記,捺印特性が得られ、第2原図用シートとして必要な特性を保有させることができる。上記プリントシートは顔料タイプのイングジェットインクのみならず、染料タイプのインクであってもアンダーコート層部分でインクを吸収することができるので、適用可能である。
【0026】第3の発明によれば、インク吸収記録層は単層コートによって構成されるが、第2原図用シートであるためにコート層は若干の光吸収性が許容されるので、プラスチック粒子を含むコート層の厚さを厚くすることができる。その結果、単層であってもインク溶剤を吸収することができ、また顔料を空孔内にトラックして良好な定着性が得られる。しかも、プラスチック粒子を含むコート層であるために良好な筆記性,捺印性が得られ、第2原図用紙として好適である。インクは顔料タイプのみならず、染料タイプのインクであっても適用可能である。そして、プリントシートはコート層が簡易であるので低コストで作成可能である。
【0027】
【実施例】以下、この発明の一実施例を図1を参照して説明する。図中の符号1は、インク溶剤非吸収性の基材シートである。この基材シート1上には、サブミクロンの孔径の多孔質の透光性アンダーコート層2が設けられている。このアンダーコート層2上には、プラスチックビーズを含み,ビーズの間隙によって作られるミクロンオーダーの空孔を有するオーバーコート層3が設けられている。
【0028】こうした構成のインクジェットプリントシート4において、前記基材シート1については、該基材シート1が普通紙,布,不織布等の多孔質のものである場合は、インク溶剤を吸収するのでインクの乾燥性や定着性の問題は少ない。これに対し、プラスチックシート,トレーシングペーパー,金属蒸着紙,金属箔,プラスチックラミネート紙等はインク溶剤を全く吸収しないか、インク溶剤の吸収性が悪く、インクジェットプリントを行った場合にインクが容易に乾燥しなかったり、定着しないものであって、本発明ではこの様なインク溶剤非吸収性基材シートにコーティングを施す。
【0029】前記基材シート1上に設けるアンダーコート層2は、インク吸収性と同時に顔料インクの顔料を定着する作用があり、かつ透光性に優れたコート層であることを特徴とする。前記アンダーコート層2は、サブミクロンの孔径の多孔質層によって構成する。
【0030】前記アンダーコート層2の具体例としては、アルミナ水和物多孔性層が好適である。アルミナ水和物多孔性層の製作については、特開平2−276670,特開平6−199034に記載される方法が適用可能である。
【0031】具体的には、ベーマイト(γ−Al23 ・H2 O)結晶粒子をゾル粒子として分散したコロイド溶液であるベーマイトゾルであって、一次粒子が凝集して二次粒子を形成したものが好ましい。レーザー法によって測定した2次粒子径が1〜5ミクロンであるものを用いる。
【0032】処方例としては、アルミニウムイソプロキシドの加水分解膠法で合成した(020)面方向の結晶厚さ80ミクロン,2次 凝集粒子直径1.5〜4ミクロンのベーマイトゾル100重量部に、ポリビニールアルコール11重量部(いずれも固形分換算)と水を加え、塗工液とし、乾燥膜厚が5〜40ミクロン程度の塗膜とする。この様にして作った塗工膜はアルミナ水和物多孔質層の細孔径がが50〜60ミリミクロンの透明な多孔質膜となっている。
【0033】また、別の処方例としては、触媒化成工業(株)より市販されているベーマイト結晶の凝集体ゾルである「カタロイドAS−3」5部(固形分)とポリビニルアルコール1部(固形分)に水を加え、固形分10%のコート液を作成し、乾燥膜厚が5〜40ミクロンの塗料膜とする。
【0034】次に、前記オーバーコート層3について説明する。オーバーコート層にはプラスチックビーズが用いられるが、プラスチックビーズの屈折率がコート層の透明性に影響する。各種プラスチックビーズの屈折率は、酢酸ビニル(1.45〜1.47),メチルメタアクリル酸メチル(1.49),ポリエチレン(1.51),ナイロン(1.53),ポリエステル(1.52〜1.57),ポリビニルアルコール(1.49〜1.58),尿素樹脂(1.54〜1.56),塩化ビニル(1.54〜1.55),ポリスチレン(1.59〜1.60)である。
【0035】高い透明性を得るには、低い屈折率の粒子を用いて空気界面での光散乱を防止する必要がある。この点から酢酸ビニル,メチルメタアクリル酸メチル,ポリエチレン,ナイロン等1.55以下の屈折率のものが好ましく、特に1.5に近い屈折率の酢酸ビニル,メチルメタアクリル酸メチル,ポリエチレン等が好ましい。なお、プラスチックビーズの中には中空の構造の物があるが、光散乱が大きく透明コート層が得られないので不適当である。
【0036】粒径は、粒子間にミクロンオーダーの空孔が作られる必要がある事と、コート層の透明性を確保してかつ表面の著しいザラツキが生じない様にするために3〜20ミクロンのものが好ましく、特に5〜15ミクロンのものが透明度と定着性の条件を同時に満たすものとして好ましい。
【0037】プラスチックビーズを固定するバインダーとしては、ポリビニルアルコール及びその誘導体、スチレンブタジエン共重合体又はメチルメタアクリレートブタジエン共重合体又はメチルメタクリレートブタジエン共重合体等の共役ジエン系重合体ラテックス,アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの重合体又は共重合体等のアクリル系重合体ラテックス,塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等のビニル系共重合体ラテックス,酸化澱粉粉・エステル化澱粉等の澱粉類、ガゼイン,ゼラチン,大豆蛋白等が使用できる。
【0038】プラスチックビーズの重量に対し、バインダーの固形成分量が5分の1から20分の1程度のバインダー溶液を作り、プラスチックビーズを加えてポットミルで十分に分散させて塗工液とする。
【0039】前述の透光性アンダーコート層を設けたシート上に上記塗工液を塗布し、プラスチックビーズ単層程度の薄いオーバーコート層を形成する。なお、ビーズ層は完全にシートの表面を隙間なく覆いつくす必要はなく、ビーズの隠蔽面積率で2分の1から3分の1程度の粗さであってもよい。
【0040】オーバーコート層の加工時にアンダーコート層の表面,空孔の1部が塞がれる部分もあるが、バインダーの量をビーズの接着に必要な最小限量に抑えることによって、アンダーコート層の機能を保つことができる。
【0041】更に、好ましくは、オーバーコート層のコーティング液の処方にベーマイトゾルを加えておくことによってプラスチックビーズのバインダーによるアンダーコート層の目づまりは有効に防止される。即ち、図1(B)はアンダーコート層2の上に、プラスチックビーズとベーマイトゾルとバインダーの混合物からなるコート層3aを形成した状態を示している。プラスチックビーズの量に対するベーマイトゾルとバインダーの重量比を2分の1から10分の1程度の低い値にすることによって、コート層3aが乾燥した後にはコート層の表面側にはミクロンオーダーの空孔があり、中側にはサブミクロンの空孔を有するアルミナ水和物とバインダーの混合物がプラスチックビーズを接着する構造となる。
【0042】この様な構成とすることによって、バインダーの量を増量することが可能になり、十分な膜強度が得られると共に、十分なインク溶剤吸収性,インク顔料の定着性が得られる。
【0043】溶剤非吸収性基材シート1として透明シートを用いることによって、OHP用フィルムやCAD出力用透明フィルム,バックライト照明用フィルム等を作成することができる。この目的に沿うフィルムとしては、ポリエステルフィルム,ポリプロピレンフィルム,塩化ビニルフィルム,ポリスチレンフィルム等を挙げることができる。
【0044】既に述べたように、金属箔,金属蒸着フィルム,金属蒸着紙等の表面にコーティングすれば、金属の質感を失うことなくインクジェットプリントが可能なプリントシートを作ることができる。また、プラスチックコートしたシートの表面に加工し、インクジェットプリントを可能とすることができる。
【0045】この様にして構成したインクジェットプリントシートに対して顔料を溶媒中に分散させたインクジェットインクにてプリントを行うと、インク溶剤は直ちにアンダーコート層の空孔内に一旦吸収保持され、その後徐々に気化して乾燥する。そして、色材である顔料はオーバーコート層のミクロンオーダーの空孔にトラップされる。従って、表面から指触したりしても、顔料はプラスチックビーズにカバーされているために剥がれたり、移動したりすることがなく、実質的に定着された状態となる。
【0046】基材シートを透明フィルムとすれば、マクベス濃時計TD504A型の測定値で、透過率90%程度の透明フィルムを得ることができ、OHP用フィルム,CAD出力用のフィルム,透過照明用プリントフィルム等の用途に適合する。
【0047】また、金属箔,金属蒸着紙,プラスチックラミネート紙などにコーティングしてプリントシートとすれば、装飾用プリントや、ラベルプリント、包装材用プリント等の特殊プリント用紙とすることができる。
【0048】更に、紙の表面にプラスチック溶液を塗布したり、プラスチックシートをラミネートしたプラスチックコート紙で外装用の箱等が作られることがあるが、その表面の全部又は一部に本発明のコート層をコーティングすることによって、インクジェットプリントが可能となる。
【0049】次に、インクジェットプリント第2原図用紙として好適なプリントシートの構成について説明する。その構成は、半透明のインク溶剤非吸収性基材シート上にサブミクロンの孔径の多孔質の透光性のアンダーコート層を設け、その上にプラスチックビーズを含み、ビーズの間隙によって作られるミクロンオーダーの空孔を有するオーバーコート層を作るようにする。
【0050】図2は、上記構成に基づくインクジェットプリント第2原図用紙の構成を説明する模式図である。まず、半透明のインク溶剤比吸収性基材シートであるが、図2(A)では符号21がプラスチックフィルムからなる基材シートで、その裏面側にマット化処理を施しておくことが好ましい。前記基材シート21上には、透光性のアンダーコート層22,オーバーコート層23が設けられている。前記基材シート21は寸法安定性が優れているのに加え、マット化処理によってシート21の搬送特性が改良され、また加筆性が得られて裏面側からの書き込みが可能となる。前記フィルムとしては、ポリエステルフィルム,ポリプロピレンフィルム,塩化ビニルフィルム,ポリスチレンフィルム等が好適である。
【0051】図2(B)は別の基材シート24が用いられ、この基材シート24はパルプを原料とするトレーシングペーパーである。公知のようにトレーシングペーパーは、パルプの叩解度を高めて、パルプ密度を高めた紙に抄紙することで強度及び透明度を高めたシートであって第2原図用紙として一般的に用いられているものである。裏面の加筆性を有し、搬送性も良く、低コストであるという利点を有している。しかしながら、このシートはパルプが高密度で空孔が少なく、インクの吸収性が悪いので本発明ではインク溶剤非吸収性シートとして扱う。
【0052】次に、前記アンダーコート層22について説明する。第2原図用紙の場合、シート全体での光透過率はマクベスTD504A型濃度計の測定値にて50〜85%,より好ましくは70%前後であることが好ましく、各構成層に若干の吸光性を許容することができる。
【0053】従って、アンダーコート層22が透明であれば、他の層の吸光性が増えてもよく、また他の層の吸光性が低ければアンダーコート層22の吸光性が高い組み合わせであってよい。
【0054】まず、アンダーコート層22の透明度を高くする場合には、図1のアンダーコート層22で説明した、2次凝集粒子径が1〜5ミクロンのベーマイトゾルから形成されたアルミナ水和物の多孔質層が好適である。塗工液のためのベーマイトゾルの作成は図1で説明したようにアルミニムイソプロポキシドの加水分解膠法で合成してもよいし、また触媒化成工業(株)から市販されている「カタロイドAS−3」等のベーマイト結晶の凝集ゾル液を希釈して用いてもよい。
【0055】5〜10ミクロンの上記アルミナ水和物多孔質層で、透光率90%以上の高い透明度を有し、溶媒吸収性に優れた膜を得ることができる。アンダーコート層に若干の吸収がある構成も許容され、上記膜厚をより厚くして溶媒吸収性は高められる。別の透光性アンダーコート層として、上記アルミナ水和物多孔質層中に多孔質のシリカ粒子を加えて溶剤吸収性を高めることが可能である。第2原図シートとして許容されるシリカの添加量は乾燥重量比でベーマイトの0.1〜0.5程度が有効であり、かつ好適である。
【0056】次に、前記オーバーコート層23について説明する。オーバーコート層23はプラスチックの球形ビーズを主体としてこれに少量のバインダーを加えて調整した液を塗工して作成する。塗工液の構成は図1のオーバーコート層3の処方と基本的に同じものが好適である。但し、本第2原図用シートの場合、基材シートやアンダーコート層の透光性が若干悪くともさしつかえない。
【0057】そのために用いるプラスチックビーズの好適な直径も30ミクロン値度の大きなものまで可能である。それ以上の大径のビーズも、透光性の点からは用いることができるが、ビーズ径が大きくなるにしたがってシート表面のざらつきが多くなり好ましくない。
【0058】コートの膜厚もビーズが複層で重なりあう程度に厚くしても、必要な透明度の確保は可能である。なお、本コート層に用いるプラスチックビーズは、若干の光吸収や散乱が許容されるために屈折率の高いポリスチレン等のプラスチックビーズや、中空のプラスチックビーズの適用も可能である。
【0059】また、オーバーコート層のプラスチックビーズのバインダーがアンダーコート層の空孔をふさぐ場合がある。バインダー量が多くなると、その影響が強くなるので対策が必要となる。その場合には、オーバーコート層はプラスチックビーズとアルミナ化合物ゾルとバインダーの混合物をコーティングして形成して、ミクロンオーバーの空孔とサブミクロンの空孔を作るようにする。図2(C)はコート層の構成を示す模式図で、符号25は改良されたオーバーコート層を示している。バインダーとアルミナ化合物のプラスチックビーズに対する乾燥重量比は、1/2から10分の1が好適である。
【0060】このように構成された第2原図用シートは全体としての光透過率が50%〜85%、最も好適には65〜80%程度に仕上げるようにする。その場合各層の透過率の配分は層の構成材料に応じて調整可能である。
【0061】上記のインクジェットプリント第2原図用シートによれば、インク溶剤はアンダーコート層に迅速に吸収され、着色剤である顔料粒子はオーバーコート層に保持され、良好な乾燥性と定着性を得ることができ、しかもシートの表面は適度なざらつきがあって、筆記性,捺印性等も良好なものとすることができる。
【0062】なお、本インクジェットプリント第2原図用シートは染料タイプのインクジェットインクに適用しても好適である。インクはアンダーコート層に吸収,定着すると同時にシートの表面に適度な粒状性があるために、必要な筆記性や捺印特性を得ることができる。なお、図2(A)構成において、フィルム21の裏面のマット化が不要な用途においては、フィルム21を透明フィルムとし、他のコート層の光吸収性を増加して全体として50〜85%の光透過率としてもよい。
【0063】次に、より簡易な構成によって高いインク吸収能力と、顔料インクの良好な定着性を示すインクジェットプリント第2原図用シートについて説明する。上記インクジェットプリント第2原図用シートは、半透明のインク溶剤非吸収性基材シート上にプラスチックの球形ビーズをバインダーによって固定し、ビーズの間隙に上って作られるミクロンオーダーの空孔を有するコート層を形成し、全体の光透過率が50〜85%となる様にした。
【0064】図3は、上記構成に基くインクジェットプリント第2原図用シート31の模式的説明図である。同図(A)はプラスチックシートをベースとするインクジェットプリント第2原図用シートである。符号32は、半透明のインク溶剤非吸収性基材シートであるプラスチックシートを示している。裏面側にマット化処理を施すことによって半透明化している。
【0065】符号33はプラスチックの球形ビーズのコート層であって、図2(A),(B)の実施例のコート層23と同様な組成のものが良好に適用可能であるが、他に吸収の多いコート層がないので、コート層33に若干の光吸収性は光散乱性があってもさしつかえない。
【0066】それ故にコート層の厚さを厚くしてインク吸収能力を高めることができる。好ましいビーズの直径は3〜30ミクロンであり、コート層の厚さを10〜50ミクロンとして良好な吸収性と透光性を確保することができる。
【0067】また、使用するビーズの基材については酢酸ビニル,メチルメタアクリル酸エステル,ポリエチレン,ナイロン等の屈折率1.55以下の低屈折率の樹脂を用いれば、コート層33を厚くすることができる。モノクロプリント用紙等の場合は、屈折率の高いポリスチレン等の樹脂ビーズの適用も可能であるが、この場合はコート層を薄くする必要がある。
【0068】次に、図3(B)はインク溶剤非吸収性基材シートとして叩解度を高めたパルプを主体として抄紙した光透過率50%以上のトレーシングペーパーを基材シート11としたインクジェットプリント第2原図用シート35を示している。コーティング層は図3(A)の符号33とおなじものを適用できるので、再度の説明は省略する。
【0069】インクジェットプリント第2原図用シート31,35の全体の光透過率は、マクベスTD504Aの測定値にて50〜85%とすることが好ましく、特に65〜80%の光透過率が最適である。基材シートの光透過率が大きいものを使用すれば、コート層の光透過率を下げることができる。
【0070】ところで、プラスチックシートを基材シートとする図3(A)の構成において、基材シートの裏面のマット化処理が不要の場合は、コート層33の光透過率を更に下げることができる。
【0071】その結果、コート層をより厚くしてインク吸収性を高めることができる。図3(C)に示すようにバインダー中に多孔質シリカ等の溶剤吸収剤36を、ビーズに対する重量比で0.1〜0.3程度加えて溶剤吸収性を高めることができる。
【0072】以上、図3にて説明したインクジェットプリント第2原図用シートでは、インクはコート層の空孔に迅速に吸収保持されるので、指触乾燥性を著しく早めることができる。また、着色剤である顔料粒子は空孔内にトラップされるために指触等に対して安定して保持され、実用的な定着性を得ることができる。しかも、コート層の表面は多孔性であるために加筆性,捺印性に優れていて、第2原図用紙として必要な特性を備えたものである。
【0073】また、本シートは層の構成が簡易であって、低コストにて製作可能である。以上、詳細に説明したが、本出願には以下の発明が含まれる。
(1).インク溶剤非吸収性基材シート上にサブミクロンの孔径の多孔質の透光性アンダーコート層を設け、このアンダーコート層上にプラスチックビーズを含み、ビースの間隙によって作られるミクロンオーダーの空孔を有するオーバーコート層を設けたことを特徴とするインクジェットプリントシート。
【0074】(2).上記(1)のインクジェットプリントシートで、透光性アンダーコート層はベーマイトゾルから形成されたアルミナ水和物の多孔質層であることを特徴とするインクジェットプリントシート。
【0075】(3).上記(1)のインクジェットプリントシートで、オーバーコート層のプラスチックビーズは、直径3〜20μmの球形ビーズであることを特徴とするインクジェットプリントシート。
【0076】(4).上記(1)のインクジェットプリントシートで、オーバーコート層のプラスチックビーズの屈折率が1.55以下であることを特徴とするインクジェットプリントシート。
【0077】(5).上記(1)のインクジェットプリントシートで、オーバーコート層はプラスチックビーズとベーマイトゾルとバインダーの混合物をティングして得られたミクロンオーダーの空孔と、サブミクロンの空孔を有するコート層であることを特徴とするインクジェットプリントシート。
【0078】(6).上記(1)のインクジェットプリントシートで、インク溶剤非吸収性基材シートは透明プラスチックであることを特徴とするインクジェットプリントシート。
【0079】(7).上記(1)のインクジェットプリントシートで、インク溶剤非吸収性基材シートは金属表面を有するシートであることを特徴とするインクジェットプリントシート。
【0080】(8).上記(1)のインクジェットプリントシートで、インク溶剤非吸収性基材シートは金属蒸着紙であることを特徴とするインクジェットプリントシート。
【0081】(9).上記(1)のインクジェットプリントシートで、インク溶剤非吸収性基材シートはプラスチックコート紙であることを特徴とするインクジェットプリントシート。
【0082】(10).半透明のインク溶剤非吸収性基材シート上にサブミクロンの孔径の多孔質の透光性のアンダーコート層を設け、このアンダーコート層上にプラスチックビーズを含み、ビースの間隙によって作られるミクロンオーダーの空孔を有するオーバーコート層を設けたことを特徴とするインクジェットプリント第2原図用シート。
【0083】(11).上記(10)のインクジェットプリント第2原図用シートで、アンダーコート層はベーマイトゾルから形成されたアルミナ水和物の多孔質層であることを特徴とするインクジェットプリント第2原図用シート。
【0084】(12).上記(10)のインクジェットプリント第2原図用シートで、アンダーコート層はベーマイトゾルと、乾燥重量比でベーマイトの0.5以下の多孔質シリカを混合して塗布乾燥させたアルミナ水和物の多孔質層であることを特徴とするインクジェットプリント第2原図用シート。
【0085】(13).上記(10)のインクジェットプリント第2原図用シートで、オーバーコート層のプラスチックビーズは直径3〜30ミクロンの球形プラスチックビーズであることを特徴とするインクジェットプリント第2原図用シート。
【0086】(14).上記(10)のインクジェットプリント第2原図用シートで、オーバーコート層はプラスチックビーズとベーマイトゾルとバインダーの混合物をコーティングして得られる、ミクロンオーダーの空孔とサブミクロンの空孔を有するコート層であることを特徴とするインクジェットプリント第2原図用シート。
【0087】(15).上記(10)のインクジェットプリント第2原図用シートで、半透明のインク溶剤非吸収性基材シートは裏面側をマット化処理したプラスチックシートであることを特徴とするインクジェットプリント第2原図用シート。
【0088】(16).上記(10)のインクジェットプリント第2原図用シートで、半透明のインク溶剤非吸収性基材シートは、叩解度を高めたパルプを主体として抄紙した、光透過率50%以上のトレーシングペーパーであることを特徴とするインクジェットプリント第2原図用シート。
【0089】(17).インク溶剤非吸収性の透明プラスチックシート上にサブミクロンの孔径の多孔質の透光性アンダーコート層を設け、その上にプラスチックビーズを含み、ビーズの間隙によって作られる、ミクロンオーダーの空孔を有するオーバーコート層を設け、、全体の光透過率が50〜85%となるようにしたことを特徴とするインクジェットプリント第2原図用シート。
【0090】(18).半透明のインク溶剤非吸収性基材シート上に、プラスチックの球形ビーズをバインダーによって固定し、ビーズの間隙によって作られるミクロンオーダーの空孔を有するコート層を形成し、全体の光透過率を50〜85%としたことを特徴とするインクジェットプリント第2原図用シート。
【0091】(19).上記(18)のインクジェットプリント第2原図用シートで、プラスチックビーズの屈折率が1.55以下の球形ビーズであることを特徴とするインクジェットプリント第2原図用シート。
【0092】(20).上記(18)のインクジェットプリント第2原図用シートで、プラスチックビーズの直径を3〜30μmとしたことを特徴とするインクジェットプリント第2原図用シート。
【0093】(21).上記(18)のインクジェットプリント第2原図用シートで、コート層はプラスチックビーズとベーマイトゾルとバインダーの混合物をコーティングして得られる、ミクロンオーダーの空孔と、サブミクロンの空孔を有するコート層であることを特徴とするインクジェットプリント第2原図用シート。
【0094】(22).上記(18)のインクジェットプリント第2原図用シートで、半透明のインク溶剤非吸収性基材シートは、裏面側をマット化処理したプラスチックシートであることを特徴とするインクジェットプリント第2原図用シート。
【0095】(23).上記(18)のインクジェットプリント第2原図用シートで、半透明のインク溶剤非吸収性基材シートは、叩解度を高めたパルプを主体として抄紙した光透過率50%以上の トレーシングペーパであることを特徴とするインクジェットプリント第2原図用シート。
【0096】(24).インク溶剤非吸収性の透明プラスチックシート上にプラスチックの球形ビーズをバインダーによって固定し、ビーズの間隙によって作られるミクロンオーダーの空孔を有するコート層を形成し、全体の光透過率を50〜85%としたことを特徴とするインクジェットプリント第2原図用シート。
【0097】
【発明の効果】本願第1の発明によれば、透明な記録コート層を有し、顔料を色材とするインクジェットインクの吸収,乾燥性に優れ、かつ色材の定着性が優れたインクジェットプリントシートであって、インク溶剤を吸収しない基材をベースとしたインクジェットプリントシートを表現することができる。
【0098】本願第2の発明によれば、半透明の第2原図に適するインクジェットプリント用紙であってインクの吸収乾燥及び定着性に優れ、かつ記録紙表面が好適な筆記,捺印特性を有するインクジェットプリント第2原図シートを実現することができ、更に特に顔料を色材とするインクに対し良好な定着特性を得ることができる。
【0099】本願第3の発明によれば、第2原図作成に適するインクジェットプリント用紙であって、インクの吸収,乾燥及び定着性に優れ、かつ記録紙表面が好適な筆記,捺印特性を有するインクジェット第2原図用シートを実現することができ、更に特には顔料を色材とするインクに対して良好な定着性を得ることができ、しかも全体の構成が簡易で低コストで製造可能なインクジェットプリント第2原図用シートを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係るインクジェットプリントシートの説明図で、図1(A)はミクロンオーダーの空孔を有するオーバーコート層を設けた場合、図1(B)はプラスチックビーズとベーマイトゾルとバインダーの混合物からなるコート層を設けた場合の説明図。
【図2】本発明の実施例に係るインクジェットプリント第2原図用紙の説明図で、図2(A)は基材シートの裏面側にマット化処理した場合、図2(B)はパルプを原料とするトレーシングペーパーを基材シートとした場合、図2(C)は改良されたオーバーコート層を用いた場合の説明図。
【図3】本発明の実施例に係るインクジェットプリント第2原図用シートの説明図で<図3(A)は基材シートの裏面側にマット化処理した場合、図3(B)はパルプを原料とするトレーシングペーパーを基材シートとした場合、図3(C)は改良されたオーバーコート層を用いた場合の説明図。
【符号の説明】
1,21,24,34…基材シート、 2,22…アンダーコート層、3,3a,23,33…オーバーコート層、 31,35…第2原図用シート、35…溶剤吸収剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 インク溶剤非吸収性基材シート上にサブミクロンの孔径の多孔質の透光性アンダーコート層を設け、このアンダーコート層上にプラスチックビーズを含み、ビースの間隙によって作られるミクロンオーダーの空孔を有するオーバーコート層を設けたことを特徴とするインクジェットプリントシート。
【請求項2】 半透明のインク溶剤非吸収性基材シート上にサブミクロンの孔径の多孔質の透光性のアンダーコート層を設け、このアンダーコート層上にプラスチックビーズを含み、ビースの間隙によって作られるミクロンオーダーの空孔を有するオーバーコート層を設けたことを特徴とするインクジェットプリント用第2原図用シート。
【請求項3】 半透明のインク溶剤非吸収性基材シート上にプラスチック球形ビーズをバインダーにより固定させ、ミクロンオーダーの空孔を有するコート層を形成し、全体の光透過率が50〜85%となるようにしたことを特徴とするインクジェットプリント用第2原図用シート。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【公開番号】特開平8−230308
【公開日】平成8年(1996)9月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−40701
【出願日】平成7年(1995)2月28日
【出願人】(000000376)オリンパス光学工業株式会社 (11,466)