説明

インクジェットプリントヘッドの製造方法及びインクジェットプリントヘッド

【目的】 PZT素子の高密度・高精度実装、PZT素子の薄膜化、PZT膜の低温焼成を可能にする。
【構成】 多数の個別インク路2を形成したヘッド基台1上に、ITO電極(共通電極5)付きの振動板3を接合し、個別インク路2上に位置する共通電極5上の部分にPZTオクチル酸塩混合物をスクリーン印刷してPZTを成膜し、その後にPZT膜を焼成してPZT素子4とし、各PZT素子4上に個別電極6を設け、次いで各PZT素子4を分極させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、インク吐出の駆動源にPZTからなる圧電素子を使用するインクジェットプリントヘッドの製造方法及びインクジェットプリントヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】インク吐出の駆動源である電気−機械変換素子としてPZTからなるPZT素子(以下、PZT素子という)を使用した圧電型インクジェットプリントヘッドがある。このプリントヘッドは一般には、多数の個別インク路を形成したヘッド基台と、全ての個別インク路を覆うようにヘッド基台に取付けた振動板と、個別インク路上に相当する振動板上の各部分に貼付したPZT素子とで構成される。そして、PZT素子に電界を加えてPZT素子を変位させることにより、個別インク路内のインクを個別インク路の先端口(ノズル)から押し出す。
【0003】ヘッド基台の個別インク路とPZT素子との位置関係をもう少し詳しくみてみる。例えば図5に示すヘッド基台10においては、その一端から他端に等間隔で延びる個別インク路11が形成され、個別インク路11は、供給路12、圧力室13及びノズル14で構成され、このような個別インク路11の各圧力室13上にPZT素子20が位置する。勿論、図5には便宜上示していないが、ヘッド基台10上には振動板が取付けられ、この振動板上にPZT素子20が貼付されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような従来の圧電型インクジェットプリントヘッドの製造には、次の問題点■〜■がある。
■:市販されているPZT素子の厚みは最小150μm程度までであり、PZT素子の駆動電圧を低くするのに、これ以上薄いPZT素子を用いることができない。
■:PZT素子の作製時にPZT素子を個別インク路の圧力室サイズに切断するが、その際にチッピング等の不具合が生ずるため、切断が容易でない。
■:PZT素子のハンドリングが難しく、各圧力室に対応する振動板上の位置にPZT素子を一枚一枚接着剤で貼り付けて加圧する作業に時間が掛かり、量産性に欠ける。
■:貼付したPZT素子を加圧する時に、全てのPZT素子に対して均一な加圧制御を行うのが難しく、貼付後にPZT素子の密着強度にバラツキが生ずる。甚だしい場合、実駆動中にPZT素子が剥がれることもある。
■:例えば図6に示すように、ヘッド基台30に形成する個別インク路31のノズル32を集結させたような高密度プリントヘッドでは、PZT素子40を実装するのが困難である。
【0005】これら問題点■〜■を解決するためにペースト化したPZTを用い、このペーストを個別インク路上に位置する振動板上の部分にスクリーン印刷し、得られたPZT膜を焼成・分極させる手法も考えられている。しかし、焼成温度が1000℃以上と高温であるため、それに耐え得る振動板(及び電極)の材料や振動板の厚さを選定するのが難しい。
【0006】従って、本発明の目的は、上記問題点■〜■及びPZTペーストを用いる場合の短所に鑑み、PZT素子の切断・貼付工程を省き、高密度・高精度でPZT素子を実装することができると共に、非常に薄いPZT素子を形成することができ、しかもPZT膜を低温で焼成することが可能であるインクジェットプリントヘッドの製造方法、並びにインクジェットプリントヘッドを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために、本発明のインクジェットプリントヘッドの製造方法は、多数の個別インク路を有するヘッド基台に取付けた振動板上に、PZTオクチル酸塩混合物をスピンコートしてPZTを成膜し、次いで個別インク路上に位置する振動板上の各部分にPZT膜が残るようなパターンでPZT膜をエッチングするか、若しくは個別インク路上に位置する振動板上の各部分にPZTオクチル酸塩混合物をスクリーン印刷してPZTを成膜し、その後にPZT膜を焼成し、更にPZT膜をそれぞれ分極させることにより振動板上にPZT素子を形成することを特徴とする。
【0008】又、本発明のインクジェットプリントヘッドは、一端から他端に延びる多数の個別インク路を一定間隔を置いて形成したヘッド基台と、全ての個別インク路を覆うようにヘッド基台に取付けた振動板と、個別インク路上に位置する振動板上の部分に、PZTオクチル酸塩混合物の成膜・焼成・分極により形成したPZT素子とを備えることを特徴とする。
【0009】本発明の製造方法によれば、スピンコート・エッチング又はスクリーン印刷によりPZTオクチル酸塩混合物を振動板上に成膜するため、PZT素子の切断・貼付工程は不要になるだけでなく、数μm程度の非常に薄いPZT素子を形成することができる。しかも、500℃程度の焼成温度で原料(PZTオクチル酸塩混合物)が原子或いは分子レベルで混合されるため、PZT膜を低温で焼成することが可能となり、振動板及び電極の材料や振動板の厚さの選定が容易になる。
【0010】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて説明する。図1は本発明の製造方法によって作製したインクジェットプリントヘッドの一部省略要部断面図である。このプリントヘッドは、基本的には図5に示した従来の構造と変わらず、複数の個別インク路2を有するヘッド基台1と、ヘッド基台1上に取付けられた振動板3と、個別インク路2に対応する振動板3上の位置に形成されたPZT素子4とを備える。但し、PZT素子4は実際には振動板3上に設けられた共通電極5上に形成され、PZT素子4上には個別電極6が設けられている。
【0011】個別インク路2は、図5に示すような形状であり、ヘッド基台1の後端から前端に向かって供給路、圧力室及びノズルを有する。振動板3は全ての個別インク路2を密封するようにヘッド基台1に接合され、PZT素子4は個別インク路2の圧力室に対応する位置にある。かかるプリントヘッドでは、共通電極5と個別電極6に電圧を印加することで、両電極5、6で挟持されたPZT素子4に電界が加わり、PZT素子4が変位する。この変位によって振動板3の対応部分が変形し、個別インク路2のインク容積が増減し、インク容積が減少に転じた個別インク路2のインクがノズルから吐出される。
【0012】次に、上記プリントヘッドの製造方法を図2R>2〜図4を参照して述べる。まず、図2において、ヘッド基台1に複数の個別インク路2を等間隔で形成する。個別インク路2の形状は前述したとおりである。このヘッド基台1上に、例えばITO電極付きのガラス製振動板3を陽極接合等で接合する。このITO電極が共通電極5となる。但し、共通電極5は、振動板3上に例えば白金をスクリーン印刷することにより形成してもよい。
【0013】一方、PZTオクチル酸塩混合物としては、オクチル酸鉛(Pbの含有量:40%)、オクチル酸ジルコニル(Zrの含有量:22.5%)、オクチル酸チタン(Tiの含有量:12.2%)を、原子比Pb:Zr:Ti=1:0.53:0.47で混合し、これに溶剤とレジンを添加し、十分混練する。得られたPZTオクチル酸塩混合物の液体を、個別インク路2の圧力室に対応する振動板3上の部分にスクリーンにて所定パターンで印刷し、PZTを成膜する。その後、120℃で3時間放置し、PZT膜中の溶媒を蒸発させ、続いて500℃で15分程度焼成する。これにより焼結したPZT膜をPZT素子4とする(図3参照)。なお、1回のスクリーン印刷ではPZT膜厚が2〜3μmまでであるため、厚膜にするにはスクリーン印刷・焼成の作業を繰り返す。
【0014】次いで、図4に示すように、各PZT素子4上に例えば白金からなる個別電極6をスクリーン印刷やスパッタ等によって形成する。この後、共通電極5と個別電極6に電圧を印加し、各PZT素子4を所定方向(上下方向)に分極させる。ここで参考までに、市販されている厚さ150μmのPZT素子、及び本発明の製造方法で得られる厚さ7μmのPZT素子の印加電圧と歪量(変位量)とを比較してみる。PZT素子のサイズは、共に縦(個別インク路の長手方向)×横(個別インク路の幅方向)=8×0.8mmであり、ヤング率は共に6.53×103 kgf/mm2 である。又、振動板の厚さは0.05mmで、ヤング率は8×103 kgf/mm2 である。そして、PZT素子の圧電定数を3.81×10-7mm/Vとし、電界強度をV/t(厚さ)とする。
【0015】これらの条件を踏まえると共に、PZT素子を両持梁とみなし、既知の両持梁の歪量の公式(特に示さず)に上記値を代入して歪量を計算する。その結果、本発明では10Vの電圧を印加すると0.11μmの歪量が得られるのに対し、従来では150Vでも0.045μmに過ぎないことが分かる。従って、本発明の製法によれば、PZT素子をかなり薄膜にできることに伴って印加電圧を相当低くすることができ、省エネルギーが実現される。但し、本発明において、PZT素子の歪発生力を強くするためには、PZT素子のサイズは上記のように個別インク路の幅方向よりも長手方向を長くすることが好ましい。
【0016】なお、上記実施例ではスクリーン印刷を用いた場合であるが、スピンコート・エッチングを用いてPZTオクチル酸塩混合物からPZT素子を形成しても同等の作用効果が得られる。又、スクリーン印刷又はスピンコート・エッチングのいずれの場合も、PZTオクチル酸塩混合物を成膜する構成であるため、図6に示すような高密度のプリントヘッドであっても、振動板上の所定位置にPZT素子を実装することは容易である。
【0017】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の製造方法(及びインクジェットプリントヘッド)は、スピンコート・エッチング又はスクリーン印刷によってPZTオクチル酸塩混合物を成膜し、PZT膜を焼成・分極させることによりPZT素子を形成するため、下記の効果を奏する。
(1)PZT素子の切断・貼付工程が不要であり、生産性が向上する。
(2)従来の精精150μm程度の厚さに比べて、数μmと非常に薄いPZT素子を形成することができるので、PZT素子の駆動電圧を下げることができ、省エネルギー化が達成される。
(3)相当高密度なプリントヘッドでも、PZT素子を振動板上に高精度で実装することができる。
(4)PZT膜を500℃程度の低温で焼成することが可能であり、振動板及び電極の材料、振動板の厚さの選定が容易になる。
(5)PZT膜の焼成時に膜中のPbが蒸発する心配がないので、Pbの損失を防ぐために焼成炉や蒸気配管等を特別仕様にする必要がない。
(6)焼成後のPZT膜の組成、組織を均一にできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のインクジェットプリントヘッドの一部省略要部断面図である。
【図2】本発明の製造方法における第1の工程図である。
【図3】本発明の製造方法における第2の工程図である。
【図4】本発明の製造方法における第3の工程図である。
【図5】従来例に係る圧電型インクジェットプリントヘッドの一部省略平面図である。
【図6】高密度インクジェットプリントヘッドの平面図である。
【符号の説明】
1 ヘッド基台
2 個別インク路
3 振動板
4 PZT素子
5 共通電極
6 個別電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】多数の個別インク路を有するヘッド基台に取付けた振動板上に、PZTオクチル酸塩混合物をスピンコートしてPZTを成膜し、次いで個別インク路上に位置する振動板上の各部分にPZT膜が残るようなパターンでPZT膜をエッチングするか、若しくは個別インク路上に位置する振動板上の各部分にPZTオクチル酸塩混合物をスクリーン印刷してPZTを成膜し、その後にPZT膜を焼成し、更にPZT膜をそれぞれ分極させることにより振動板上にPZT素子を形成することを特徴とするインクジェットプリントヘッドの製造方法。
【請求項2】一端から他端に延びる多数の個別インク路を一定間隔を置いて形成したヘッド基台と、全ての個別インク路を覆うようにヘッド基台に取付けた振動板と、個別インク路上に位置する振動板上の部分に、PZTオクチル酸塩混合物の成膜・焼成・分極により形成したPZT素子とを備えることを特徴とするインクジェットプリントヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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