インクジェットヘッドおよびインクジェット記録装置
【課題】アクチュエータの圧電素子に電圧を印加する経路から絶縁膜を省略することができ、製造プロセスを簡略化できるインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】インクジェットヘッドは、インクを加圧してノズル11から吐出させる複数のアクチュエータ20とを備えている。アクチュエータ20は、絶縁層の上に設けられた圧電素子と、圧電素子に電気的に接続された共通電極と、圧電素子に電気的に接続されるとともに共通電極と協働して圧電素子を挟み込んだ個別電極と、を含んでいる。全てのアクチュエータ20の共通電極は、絶縁層に設けられた共通した第1の通電パターン30に電気的に接続されている。全てのアクチュエータ20の個別電極は、絶縁層に設けられた複数の第2の通電パターン31に個別に電気的に接続されている。第1の通電パターン30および第2の通電パターン31は、絶縁層の上で互いに重なり合うことなく離れている。
【解決手段】インクジェットヘッドは、インクを加圧してノズル11から吐出させる複数のアクチュエータ20とを備えている。アクチュエータ20は、絶縁層の上に設けられた圧電素子と、圧電素子に電気的に接続された共通電極と、圧電素子に電気的に接続されるとともに共通電極と協働して圧電素子を挟み込んだ個別電極と、を含んでいる。全てのアクチュエータ20の共通電極は、絶縁層に設けられた共通した第1の通電パターン30に電気的に接続されている。全てのアクチュエータ20の個別電極は、絶縁層に設けられた複数の第2の通電パターン31に個別に電気的に接続されている。第1の通電パターン30および第2の通電パターン31は、絶縁層の上で互いに重なり合うことなく離れている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクを吐出する複数のノズルを有するインクジェットヘッドおよび当該インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドは、複数のノズルと、個々のノズルに対応した複数のアクチュエータと、を備えている。
【0003】
アクチュエータは、例えばシリコン基板のような母材の上に設けられている。アクチュエータは、圧電素子と、圧電素子に電圧を印加する共通電極および個別電極と、を有している。圧電素子は、共通電極と個別電極との間で挟み込まれている。
【0004】
共通電極および個別電極は、母材の上に形成された複数の導体パターンを介してインクジェットヘッドの外部のテープキャリアパッケージに電気的に接続されている。テープキャリアパッケージは、アクチュエータを駆動する駆動回路を搭載している。
【0005】
駆動回路から共通電極および個別電極を介して圧電素子に電界が印加されると、圧電素子が変形してインクを加圧する。加圧されたインクの一部はインク滴となってノズルから記録媒体に向けて吐出し、記録媒体の上に画像を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−96128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
圧電素子を共通電極と個別電極との間で挟み込んだアクチュエータを有するインクジェットヘッドによると、二種類の電極が母材の上で母材の厚み方向に積層されている。
【0008】
そのため、共通電極に接続された導体パターンと、個別電極に接続された導体パターンとを電気的に切り離すために、導体パターンの間に絶縁膜を介在させる必要がある。
【0009】
したがって、導体パターンの間に専用の絶縁膜を形成しなくてはならず、インクジェットヘッドを製造するプロセスが煩雑化するのを避けられない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態によれば、インクジェットヘッドは、間隔を存して配列された複数のノズルと、前記ノズル毎に設けられ、インクを加圧して前記ノズルから吐出させる複数のアクチュエータと、を備えている。
【0011】
前記アクチュエータは、絶縁層の上に設けられた圧電素子と、前記圧電素子に電気的に接続された共通電極と、前記圧電素子に電気的に接続されるとともに前記共通電極と協働して前記圧電素子を挟み込んだ個別電極と、を含んでいる。全てのアクチュエータの前記共通電極は、前記絶縁層に設けられた共通した第1の通電パターンに電気的に接続されている。全てのアクチュエータの前記個別電極は、前記絶縁層に設けられた複数の第2の通電パターンに個別に電気的に接続されている。前記第1の通電パターンおよび前記第2の通電パターンは、前記絶縁層の上で互いに重なり合うことなく離れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態に係るインクジェット記録装置を概略的に示す側面図。
【図2】第1の実施形態に係るインクジェットヘッドの平面図。
【図3】図2のF3−F3線に沿う断面図。
【図4】図3のF4−F4線に沿う断面図。
【図5】第1の実施形態において、アクチュエータの共通電極に接続された配線部と、アクチュエータの個別電極に接続された配線部との位置関係を示す平面図。
【図6】第1の実施形態において、保護層を構成するベースに振動板を積層した状態を示す断面図。
【図7】第1の実施形態において、振動板の上に第1の電極の基となる薄膜を形成した状態を示す断面図。
【図8】第1の実施形態において、振動板の上に第1の電極を形成した状態を示す断面図。
【図9】第1の実施形態において、圧電体膜で振動板および第1の電極を覆った状態を示す断面図。
【図10】第1の実施形態において、第1の電極の上に圧電体層を形成した状態を示す断面図。
【図11】第1の実施形態において、圧電体層の上に第2の電極の基となる薄膜を形成した状態を示す断面図。
【図12】第1の実施形態において、圧電体層の上に第2の電極を形成した状態を示す断面図。
【図13】第1の実施形態において、第2の電極および振動板の上に電極保護膜を積層した状態を示す断面図。
【図14】第1の実施形態において、第1の基板にインク圧力室を形成した状態を示す断面図。
【図15】第1の実施形態において、振動板から電極保護膜を除去した状態を示す断面図。
【図16】第1の実施形態において、第2の電極および振動板の上に保護層を積層した状態を示す断面図。
【図17】第1の実施形態において、保護層の上に撥液膜を形成するとともに、保護層および撥液膜にノズルを形成した状態を示す断面図。
【図18】第1の実施形態において、撥液膜の上にノズル保護膜を形成した状態を示す断面図。
【図19】第1の実施形態において、第1の基板の上にインク流通室を有する第2の基板を接着した状態を示す断面図。
【図20】第1の実施形態において、ノズル保護膜を剥離してノズルを露出させた状態を示す断面図。
【図21】第2の実施形態に係るインクジェットヘッドの平面図。
【図22】第2の実施形態に係るインクジェットヘッドの断面図。
【図23】第2の実施形態において、アクチュエータの共通電極に接続された配線部と、アクチュエータの個別電極に接続された配線部との位置関係を示す平面図。
【図24】第3の実施形態に係るインクジェットヘッドの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態について、図1ないし図20を参照して説明する。
【0014】
図1は、インクジェット記録装置100の一例を概略的に示している。インクジェット記録装置100は、インクジェット記録装置100の外郭を構成する箱形の筐体101を備えている。図1に示すように、給紙カセット102、排紙トレイ103、搬送路104および保持ドラム105が筐体101の内部に収容されている。
【0015】
給紙カセット102は、記録媒体の一例である用紙Sを収容する要素であって、筐体101の底部に配置されている。用紙Sとしては、例えば無地の用紙、アート紙あるいはOHPシート等を用いることができる。排紙トレイ103は、筐体101の上部に設けられて、筐体101の外に露出されている。
【0016】
搬送路104は、給紙カセット102に連続する上流部104aと、排紙トレイ103に連続する下流部104bとを備えている。給紙カセット102に収容された用紙Sは、ローラ106により一枚づつ搬送路104の上流部104aに送り出される。
【0017】
保持ドラム105は、給紙カセット102と排紙トレイ103との間に配置されている。給紙カセット102から搬送路104の上流部104aに送り出された用紙Sは、保持ドラム105の外周面105aを経由して搬送路104の下流部104bに導かれる。具体的には、保持ドラム105は、その外周面105aに用紙Sを保持した状態で周方向に一定の速度で回転するように構成されている。
【0018】
図1に示すように、保持ドラム105の周囲に、用紙押圧装置108、画像形成装置109、除電装置110およびクリーニング装置111が配置されている。用紙押圧装置108、画像形成装置109、除電装置110およびクリーニング装置111は、保持ドラム105の回転方向に沿う上流から下流に向けて順番に並んでいる。
【0019】
用紙押圧装置108は、搬送路104の上流部104aから保持ドラム105の外周面105aに供給された用紙Sを保持ドラム105の外周面105aに押し付ける。保持ドラム105の外周面105aに押し付けられた用紙Sは、静電力により保持ドラム105の外周面105aに吸着される。
【0020】
画像形成装置109は、保持ドラム105の外周面105aに吸着された用紙Sに画像を形成するための要素である。本実施形態の画像形成装置109は、例えばシアン画像を形成する第1のインクジェットヘッド1A、マゼンダ画像を形成する第2のインクジェットヘッド1B,イエロー画像を形成する第3のインクジェットヘッド1Cおよびブラック画像を形成する第4のインクジェットヘッド1Dを備えている。第1ないし第4のインクジェットヘッド1A,1B,1C,1Dは、保持ドラム105の回転方向に間隔を存して配列されている。保持ドラム105の回転方向は、保持ドラム105の外周面105aに沿って搬送される用紙Sの搬送方向と言い換えることができる。
【0021】
除電装置110は、所望の画像が形成された用紙Sの除電を行うとともに、除電後に用紙Sを保持ドラム105の外周面105aから剥離させる機能を有する。保持ドラム105の外周面105aから剥離された用紙Sは、搬送路104の下流部104bを通って排紙トレイ103に導かれる。
【0022】
クリーニング装置111は、用紙Sが剥離された保持ドラム105の外周面105aを清掃する機能を有する。クリーニング装置111は、除電装置110よりも保持ドラム105の回転方向に沿う下流側において、保持ドラム105の外周面105aに接する位置と、保持ドラム105の外周面105aから離脱する位置との間で移動可能となっている。
【0023】
さらに、本実施形態のインクジェット記録装置100は、用紙Sの表と裏を反転させる反転装置112を備えている。反転装置112は、除電装置110により保持ドラム105の外周面105aから剥離された用紙Sを反転させて搬送路104の上流部104aに戻す。これにより、用紙Sは、表と裏が反転された状態で再び保持ドラム105の外周面105aに供給される。よって、用紙Sの表と裏の両面に所望の画像を形成することができる。
【0024】
画像形成装置109を構成する第1ないし第4のインクジェットヘッド1A,1B,1C,1Dは、基本的に共通の構成を有している。そのため、本実施形態では、第1のインクジェットヘッド1Aの構成を代表して説明する。
【0025】
図2ないし図4に示すように、第1のインクジェットヘッド1Aは、用紙Sの搬送方向と直交する方向に延びる細長い形状を有している。図3に示すように、第1のインクジェットヘッド1Aは、ノズルプレート2とヘッド本体3とで構成されている。ノズルプレート2は、振動板4、保護層5および撥液膜6を有する三層構造である。
【0026】
振動板4は、絶縁層の一例であって、例えば電気絶縁性を有するシリコン酸化膜で形成されている。振動板4は、表面4aおよび裏面4bを有している。振動板4の厚さは、概ね10μmである。第1の実施形態では、シリコン酸化膜は、熱酸化により基板温度を約1000℃として形成した。シリコン酸化膜の製法としては、CVD(化学的気相成長法)、RFマグネトロンスパッタリング法を用いることができる。
【0027】
保護層5は、振動板4の裏面4bに積層されている。保護層5は、例えばポリイミドのような樹脂材料で形成されている。保護層5の厚さは、6μmである。第1の実施形態では、保護層5は、例えばスピンコーティングにより形成されている。保護層5の材料としては、例えばポリ尿素のような樹脂材料、SiO2のような酸化膜を用いることも可能である。この場合、保護層5の膜厚は、概ね3〜20μmである。
【0028】
撥液膜6は、保護層5に積層されている。撥液膜6は、例えばフッ素樹脂のようなインクをはじく特性を有する材料で形成されている。第1の実施形態では、撥液膜6は、例えばスピンコーティングにより形成されている。撥液膜6の膜厚は、概ね0.1〜5μm、好ましくは1μmである。撥液膜6は、ノズルプレート2の表面となるノズル面7を構成している。ノズル面7は、用紙Sの被印字面と向かい合うように第1のインクジェットヘッド1Aの外に露出されている。
【0029】
図2に示すように、複数のノズル列10がノズルプレート2に形成されている。ノズル列10は、矢印Xで示す第1のインクジェットヘッド1Aの長手方向に間隔を存して一列に並んでいる。第1のインクジェットヘッド1Aの長手方向とは、矢印Yで示す用紙Sの搬送方向と直交する方向のことを指しており、用紙Sの幅方向と一致する。
【0030】
各ノズル列10は、例えば10個のノズル11を有している。ノズル11は、用紙Sの搬送方向(Y方向)に対し一定の角度αを有する斜めの方向に互いに間隔を存して直線状に規則的に配列されている。
【0031】
ノズル11は、ノズルプレート2を厚み方向に貫通する孔である。ノズル11の直径は、例えば20μmである。ノズル11は、ノズルプレート2のノズル面7およびノズル面7の反対側に位置された振動板4の表面4aに開口されている。
【0032】
第1の実施形態によると、ノズル列10は、用紙Sの搬送方向(Y方向)に沿って延びているとともに、用紙Sの搬送方向と直交するノズルプレート2の長手方向(X方向)に沿って120列に亘って配置されている。
【0033】
したがって、第1の実施形態のノズルプレート2は、1200個のノズル11を有している。これらノズル11は、少なくとも用紙Sの幅方向に沿う長さに亘って二次元的にマトリクス状に配列されたノズル群を構成している。
【0034】
さらに、ノズル面7に開口された全てのノズル11は、所望の解像度を得るために、ノズルプレート2の長手方向(X方向)に一定のピッチPで並べられている。
【0035】
ヘッド本体2は、第1の基板12および第2の基板13を有している。第1の基板12は、例えば単一のシリコン基板で形成されている。第1の基板12の厚さは、675μmである。第1の基板12は、振動板4の表面4aに積層されて振動板4と一体化されている。
【0036】
ノズル11と同数のインク圧力室14が第1の基板12に形成されている。インク圧力室14は、例えば直径が250μmの円筒状であり、ノズル11と同軸となるように第1の基板12を厚み方向に貫通している。このため、ノズル11のピッチPは、各ノズル11に付随するインク圧力室14が隣り合うノズル11のインク圧力室14と干渉することがない値に定められている。
【0037】
インク圧力室14の一方の開口端は、振動板4によって塞がれている。言い換えると、振動板4は、インク圧力室14に露出されている。インク圧力室14は、ノズル11に対応するように設けられており、各インク圧力室14の中央に各ノズル11が連通されている。
【0038】
第2の基板13は、例えばステンレスのような金属材料で構成されている。第2の基板13の厚さは、例えば4mmである。第2の基板13は、第1の基板12の表面12aに積層されているとともに、例えばエポキシ系の接着剤を用いて第1の基板12に固定されている。
【0039】
複数のインク流通室15が第2の基板13の内部に形成されている。インク流通室15は、第2の基板13の厚み方向に沿う深さが2mmの円筒状である。画像形成用のインクは、第1のインクジェットヘッド1Aの外部からインク供給口16を通じてインク流通室15に供給される。
【0040】
インク流通室15は、連通口17を通じてインク圧力室14に通じている。連通口17は、ノズル11よりも小径な孔である。連通口17は、ノズル11と同軸となるように第2の基板13に形成されている。そのため、インク供給口16からインク流通室15に分配されたインクは、連通口17を通じてインク圧力室14に供給される。
【0041】
第1の実施形態では、インク供給口16は、インク流通室15の中央に位置されている。さらに、連通口17にしてもインク流通室15の中央およびインク圧力室14の中央に位置されている。この結果、インクが複数のインク流通室15から複数のインク圧力室14に供給される際の流路抵抗が均等化されて、インク圧力室14に供給されるインク量のばらつきが抑制されている。
【0042】
第2の基板13は、ステンレスに限らず、例えばアルミニウム合金、チタンのようなその他の金属材料で形成してもよい。加えて、第2の基板13を形成する材料は金属に限らない。例えば、ノズルプレート2および第1の基板12との膨張係数の差異を考慮して、インク吐出圧力に影響を及ぼさない範囲内で他の材料を用いることができる。
【0043】
具体的には、セラミック材料としてのアルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウムなどの窒化物・酸化物を用いることができる。さらに、例えばABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材料を用いることができる。
【0044】
図3および図4に示すように、第1の実施形態のノズルプレート2は、インクを加圧する複数のアクチュエータ20を内蔵している。アクチュエータ20は、ノズル11毎に設けられている。
【0045】
言い換えると、アクチュエータ20は、複数のノズル列10に対応する複数のアクチュエータ列21を構成している。各アクチュエータ列21は、10個のアクチュエータ20を有している。
【0046】
したがって、アクチュエータ列21は、用紙Sの搬送方向(Y方向)に沿って延びているとともに、用紙Sの搬送方向と直交するノズルプレート2の長手方向(X方向)に沿って120列に亘って配置されている。
【0047】
アクチュエータ20は、ノズル11を同軸状に取り囲むように振動板4の裏面4bにリング状に形成されている。さらに、アクチュエータ20は、保護層5で覆われている。
【0048】
各アクチュエータ20は、圧電体層22、第1の電極23および第2の電極24を備えている。圧電体層22は、圧電素子の一例であり、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)で構成されている。圧電体層21の材料としては、PTO(PbTiO3:チタン酸鉛)、PMNT(Pb(Mg1/3NB2/3)O3−PbTiO3)、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)、ZnO、AlN等を用いることが可能である。
【0049】
圧電体層22は、例えばRFマグネトロンスパッタリング法により基板温度350℃で形成されている。圧電体層22は、その膜厚が3μm、直径が250μmのリング形である。第1の実施形態では、圧電体層22を形成した後、圧電体層22に圧電性を付与するため、500℃で3時間に亘る熱処理を施している。これにより、圧電体層22は、良好な圧電性能を得ることができる。圧電体層22が形成されると、圧電体層22の厚み方向に沿う分極が発生する。
【0050】
圧電体層22の製法としては、CVD(化学的気相成長法)、ゾルゲル法、AD法(エアロゾルデポジション法)、水熱合成法等を用いることができる。この場合、圧電体層22の厚さは、概ね0.1μmから10μmの範囲内となる。
【0051】
第1の電極23および第2の電極24は、圧電体層22を駆動するための電気信号を伝送するための要素であって、例えばPt(白金)/Ti(チタン)の薄膜で形成されている。薄膜は、例えばスパッタリング法により形成され、その膜厚が0.5μmである。
【0052】
第1の電極23および第2の電極24を形成する他の材料としては、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Au(金)を用いることができるとともに、前記各種の金属を積層することも可能である。
【0053】
第1の電極23および第2の電極24を形成する方法としては、例えば蒸着、鍍金を用いることも可能である。この場合、第1の電極23および第2の電極24の望ましい膜厚は、0.01〜1μmである。
【0054】
図3に示すように、第1の電極23は、振動板4の裏面4bに形成されている。第1の電極23は、夫々電極部分25および配線部26を備えている。図5に示すように、電極部分25は、圧電体層22よりも小径のリング形である。電極部分25は、圧電体層22で同軸状に覆われているとともに、圧電体層22に電気的に接続されている。
【0055】
配線部26は、アクチュエータ列21毎に隣り合う電極部分25の外周部の間を結ぶように、アクチュエータ列21に沿って直線状に延びている。このため、配線部26は、圧電体層22の外周部から振動板4の裏面4bの上に突出されているとともに、各アクチュエータ列21の五番目のアクチュエータ20と六番目のアクチュエータ20との間を結ぶ配線部26の長さが最も長くなっている。
【0056】
第2の電極24は、電極部分27と配線部28とを備えている。電極部分27は、圧電体層22よりも小径のリング形である。電極部分27は、圧電体層22に同軸状に積層されて、圧電体層22に電気的に接続されている。
【0057】
したがって、圧電体層22は、第1の電極23の電極部分25と第2の電極24の電極部分27との間で挟み込まれている。ノズル11は、圧電体層22の中央部、第1の電極23の電極部分25の中央部および第2の電極24の電極部分27の中央部を同軸状に貫通している。
【0058】
配線部28は、電極部分27の外周縁から圧電体層22の外周部を経て振動板4の裏面4bに向けて導かれている。配線部28は、アクチュエータ列21が延びる方向と交差するように、例えばノズルプレート2の長手方向に沿って延びている。
【0059】
言い換えると、第2の電極24の配線部28は、前記第1の電極23の配線部26が延びる方向とは異なる方向に延びている。そのため、配線部28は、アクチュエータ列21毎に用紙Sの搬送方向であるY方向に互いに間隔を存して配列されている。
【0060】
このことから、第1の電極23の配線部26と第2の電極24の配線部28とは、振動板4の同一の裏面4bの上で互いに重なり合うことなく離れている。
【0061】
図2および図5に示すように、第1の通電パターン30および複数の第2の通電パターン31が振動板4の裏面4bに形成されている。第1の通電パターン30および第2の通電パターン31は、アクチュエータ20と一緒に保護層5で覆われている。
【0062】
第1の通電パターン30は、共通した一本の基幹配線32を備えている。基幹配線32は、各アクチュエータ列21の五番目のアクチュエータ20と六番目のアクチュエータ20との間を通してノズルプレート2の長手方向に直線状に延びている。
【0063】
さらに、基幹配線32は、延長部33を有している。延長部33は、ノズルプレート2の端部で基幹配線32と直交する方向に延びている。延長部33の先端は、ノズルプレート2の長手方向に沿う外周縁部に導かれている。延長部33を含む基幹配線32の配線幅は、概ね100μmである。
【0064】
図2および図5に示すように、基幹配線32は、各アクチュレータ列21の第1の電極23の配線部26に電気的に接続されている。言い換えると、各アクチュエータ列21の五番目のアクチュエータ20と六番目のアクチュエータ20との間に跨る配線部26が基幹配線32と交差されている。そのため、配線部26は、アクチュエータ列21に対応する位置で基幹配線32から分岐されている。
【0065】
したがって、第1の通電パターン30の基幹配線32は、全てのアクチュエータ20の第1の電極23に共通して繋がっている。これにより、第1の電極23は、全ての圧電体層22に一定の電圧を印加する共通電極として作用する。
【0066】
図2、図3および図5に示すように、第2の通電パターン31は、アクチュエータ列21毎に個々に独立して設けられている。
【0067】
具体的には、第2の通電パターン31は、アクチュエータ列21毎に、五本の第2の通電パターン31を一組とする第1のパターン群35aと、同じく五本の第2の通電パターン31を一組とする第2のパターン群35bとに分けられている。第1のパターン群35aは、一番目から五番目のアクチュエータ20に対応している。第2のパターン群35bは、六番目から十番目のアクチュエータ20に対応している。
【0068】
第1のパターン群35aは、振動板4の裏面4bの上で基幹配線32よりも用紙Sの搬送方向に沿う下流側に位置されている。第1のパターン群35aは、アクチュエータ列21に沿うように基幹配線32と交差する方向に互いに間隔を存して平行に配置されているとともに、基幹配線32から遠ざかる方向に延びている。
【0069】
第1のパターン群35aを構成する五本の第2の通電パターン31の一端は、一番目から五番目のアクチュエータ20の第2の電極24の配線部28の先端に個別に電気的に接続されている。第2の通電パターン31の他端は、ノズルプレート2の長手方向に沿う外側縁部に導かれている。
【0070】
第2のパターン群35bは、振動板4の裏面4bの上で基幹配線32よりも用紙Sの搬送方向に沿う上流側に位置されている。第2のパターン群35bは、アクチュエータ列21に沿うように基幹配線32と交差する方向に互いに間隔を存して平行に配置されているとともに、基幹配線32から遠ざかる方向に延びている。
【0071】
第2のパターン群35bを構成する五本の第2の通電パターン31の一端は、六番目から十番目のアクチュエータ20の第2の電極24の配線部28の先端に個別に電気的に接続されている。第2の通電パターン31の他端は、ノズルプレート2の長手方向に沿う外側縁部に導かれている。
【0072】
第1の実施形態によると、第2の通電パターン31は、隣り合うアクチュエータ列21の間を通して配線するため、その配線幅が概ね15μmとなっている。
【0073】
第2の通電パターン31は、全てのアクチュエータ20の第2の電極24に個別に繋がっている。これにより、第2の電極24は、個々の圧電体層22を独立して動作させる個別電極として作用する。
【0074】
以上のことから、第2の通電パターン31は、振動板4の裏面4bの上で第1の通電パターン30を外れた位置に形成されている。この結果、第1の通電パターン30および第2の通電パターン31は、振動板4の同一の裏面4bの上で互いに重なり合うことなく電気的に切り離された状態に保たれている。
【0075】
ノズルプレート2の外周縁部に導かれた第1および第2の通電パターン30,31は、第1のインクジェットヘッド1Aの外部でテープキャリアパッケージに電気的に接続されている。テープキャリアパッケージは、第1のインクジェットヘッド1Aを駆動するための駆動回路を実装している。
【0076】
駆動回路は、各アクチュエータ20の第1の電極23および第2の電極24に駆動電圧を供給する。圧電体層22の分極の方向と同じ向きの電界が第1および第2の電極23,24から圧電体層22に印加されると、アクチュエータ20が電界の向きと直交する方向に伸縮を繰り返そうとする。ここで、電界の向きと直交する方向とは、振動板4の裏面4bに沿う方向のことを指している。
【0077】
アクチュエータ20は、振動板4の裏面4bに形成されているので、振動板4がアクチュエータ20の伸縮を妨げる働きをする。このため、アクチュエータ20と振動板4との接触部分に応力が発生し、発生した応力は振動板4を厚み方向に撓むように変形させる。
【0078】
アクチュエータ20が電界の向きと直交する方向に伸縮を繰り返すことで、インク圧力室14に露出された振動板4が厚み方向に振動する。この結果、インク圧力室14内のインクの圧力が高まる。したがって、インク圧力室14内で加圧されたインクの一部がインク滴となってノズル11から用紙Sに向けて吐出される。
【0079】
次に、前記のような構成を有する第1のインクジェットヘッド1Aを製造する手順の一例について、図6ないし図20を参照して簡単に説明する。
【0080】
まず、図6に示すように、第1の基板12の基となるベース40に振動板4を積層した積層体41を形成する。この後、振動板4に例えばフォトリソグラフィーおよびドライエッチングを施すことで、開口部42を形成する。
【0081】
引き続いて、図7に示すように、振動板4の上に白金又はチタンの薄膜43を例えばスパッタリング法により形成する。
【0082】
さらに、図8に示すように、薄膜43に例えばフォトリソグラフィーおよびドライエッチングを施すことで、振動板4の上にリング状の第1の電極23を形成する。
【0083】
この後、図9に示すように、振動板4および第1の電極23の上にPZT製の圧電体膜44を例えばスパッタリング法により形成する。引き続いて、圧電体膜44に例えばフォトリソグラフィーおよびウエットエッチングを施すことで、振動板4の上に第1の電極23を覆う圧電体層22を形成する。(図10を参照)
この後、図11に示すように、振動板4および圧電体層22の上に白金又はチタンの薄膜45を例えばCVD法又はスパッタリング法により形成する。引き続いて、薄膜45に例えばフォトリソグラフィーおよびドライエッチングを施すことで、振動板4および圧電体層22の上にリング状の第2の電極24を形成する。この結果、振動板4の上にアクチュエータ20が形成される。(図12を参照)
この後、図13に示すように振動板4の上に電極保護膜46を形成する。これにより、アクチュエータ20が電極保護膜46で被覆された中間成形物47が形成される。
【0084】
この後、図14に示すように中間成形物47を上下に反転させて、ベース40を上向きとする。この状態で、ベース40に例えばDeep Reactive Ion Etching(シリコン深堀エッチング)を施すことで、ベース40にインク圧力室14を形成する。
【0085】
引き続いて、図15に示すように、再び中間成形物47を上下に反転させるとともに、電極保護膜46を除去する。これにより、振動板4およびアクチュエータ20が露出される。
【0086】
この後、図16に示すように、振動板4の上に保護層5となるノズル保護膜48を例えばフォトリソグラフィーにより形成し、ノズル保護膜48でアクチュエータ20を被覆する。さらに、ノズル保護膜48の上に撥液膜6を例えば蒸着等の手段により積層する。この結果、アクチュエータ20を内蔵したノズルプレート2が形成される。
【0087】
この後、図17に示すように、ノズル保護膜48および撥液膜6に例えばドライエッチングおよびアッシングを施すことで、ノズル保護膜48および撥液膜6を貫通する貫通孔49を形成する。貫通孔49は、振動板4の開口部42に同軸状に連通することでノズル11を構成する。
【0088】
引き続いて、図18に示すように、撥液膜6の上にノズル保護膜50を積層する。これにより、ノズル11の開口端およびノズル面7がノズル保護膜50で保護される。
【0089】
この後、図19に示すように中間成形物47を再び上下に反転させ、インク圧力室14が形成された第1の基板12を上向きとする。この状態で、予めインク流通室15、インク供給口16および連通口17が形成された第2の基板13を第1の基板12の上に接着する。これにより、第1の基板12と第2の基板13とが一体化されたヘッド本体3が形成される。
【0090】
最後に、ノズル保護膜50を撥液膜6から剥離させてノズル面7を露出させるとともに、中間成形物47を予め決められた大きさに裁断する。このことにより、一連の第1のインクジェットヘッド1Aの成形工程が完了する。
【0091】
第1のインクジェットヘッド1Aでは、第1の通電パターン30および複数の第2の通電パターン31が振動板4の裏面4bに形成されている。第1の通電パターン30の基幹配線32は、各アクチュエータ列21の五番目のアクチュエータ20と六番目のアクチュエータ20との間を通ってノズルプレート2の中央部をノズルプレート2の長手方向に沿って直線状に延びている。
【0092】
アクチュエータ20の第1の電極23(共通電極)は、アクチュエータ列21毎にアクチュエータ列21に沿って延びる配線部26を介して電気的に接続されている。各アクチュエータ列21の配線部26は、ノズルプレート2の中央部で基幹配線32に電気的に接続されている。
【0093】
一方、第2の通電パターン31は、アクチュエータ列21に隣り合う第1および第2のパターン群35a,35bを有している。第1および第2のパターン群35a,35bは、基幹配線32を間に挟むように互いに振り分けられている。
【0094】
アクチュエータ20の第2の電極24(個別電極)は、アクチュエータ列21毎にアクチュエータ列21が延びる方向と交差するように、ノズルプレート2の長手方向に沿って延びる配線部28を有している。配線部28の先端は、第1および第2のパターン群35a,35bを構成する第2の通電パターン31に電気的に個別に接続されている。
【0095】
このような構成によると、第1の電極23の配線部26と第2の電極24の配線部28とは、圧電体層22に対し互いに異なる方向を向くように振動板4の裏面4bに導かれている。このため、配線部26,28が振動板4の裏面4bの上で互いに重なり合うことはなく、配線部26,28が互いに電気的に切り離されている。
【0096】
さらに、第2の通電パターン31は、振動板4の裏面4bの上で第1の通電パターン30を外れた位置に形成されている。このため、第1の通電パターン30および第2の通電パターン31にしても、振動板4の裏面4bの上で互いに重なり合うことなく電気的に切り離されている。
【0097】
加えて、第1および第2の通電パターン30,31は、夫々ノズルプレート2の外周縁部に導かれて、ノズルプレート2の外部でテープキャリアパッケージに電気的に接続されている。
【0098】
このため、共通の振動板4の裏面4bの上に第1の通電パターン30および第2の通電パターン31が存在するにも拘らず、第1の通電パターン30と第2の通電パターン31とが互いに重なり合うことはない。
【0099】
したがって、第1の通電パターン30と第2の通電パターン31との短絡を防ぐ絶縁膜を省略することが可能となり、第1のインクジェットヘッド1Aの製造プロセスを簡略化することができる。
【0100】
第1の実施形態では、第1の通電パターン30の基幹配線32は、各アクチュエータ列21の長手方向に沿う中央部を通ってノズルプレート2の長手方向に延びている。これにより、第2の通電パターン31は、基幹配線32を境として第1のパターン群35aと第2のパターン群35bとに分けられている。
【0101】
このような構成とすることで、隣り合うアクチュエータ列21の間には、少なくとも五本の第2の通電パターン31を配置するスペースを確保すればよいことになる。よって、隣り合うアクチュエータ列21の間隔が狭くとも、隣り合うアクチュエータ列21の間に第2の通電パターン31を無理なく配置することができる。
【0102】
さらに、基幹電極32は、アクチュエータ列21毎に10個並んだアクチュエータ20のうち五番目のアクチュエータ20と六番目のアクチュエータ20との間を通過する。このため、各アクチュエータ列21において、一番目のアクチュエータ20から五番目のアクチェータ20に対する配線抵抗と、六番目のアクチュエータ20から十番目のアクチュエータ20に対する配線抵抗とを均等化することができる。
【0103】
そのため、アクチュエータ列21毎に10個並んだアクチュエータ20を精度よく動作させることができる。
【0104】
第1の実施形態では、10個のノズルによって構成されるノズル列を、用紙の搬送方向と直交するX方向に120列に亘って配置している。しかしながら、ノズル列の数および一つのノズル列が有するノズルの数は、第1の実施形態に特定されるものではなく、インクジェットヘッドに要求される画像の解像度等に応じて適宜変更することができる。
【0105】
さらに、第1の実施形態では、複数のノズルを用紙の搬送方向に対し一定の角度を有する斜めの方向に直線状に規則的に配列している。しかしながら、ノズルは、前記斜め方向の直線に対し千鳥状に配置したり、あるいは用紙の搬送方向に沿う直線に対しV字状に配置することが可能であり、ノズルのレイアウトに特に制約はない。
【0106】
[第2の実施形態]
図21ないし図23は、第2の実施形態を開示している。第2の実施形態は、アクチュエータ20の第1の電極23と第2の電極24との相対的な位置関係が第1の実施形態と相違している。これ以外の第1のインクジェットヘッド1Aの構成は、第1の実施形態と同様である。そのため、第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0107】
第2の実施形態では、アクチュエータ20の第2の電極24(個別電極)が振動板4の裏面4bに形成されている。第2の電極24は、リング形の電極部分27と配線部28とを備えている。
【0108】
電極部分27は、圧電体層22で同軸状に覆われているとともに、圧電体層22に電気的に接続されている。配線部28は、電極部分27の外周縁から圧電体層22を貫通して振動板4の裏面4bに導かれている。図21に示すように、配線部28は、アクチュエータ列21が延びる方向と交差するように、例えばノズルプレート2の長手方向に沿って延びている。
【0109】
したがって、配線部28は、アクチュエータ列21毎に用紙Sの搬送方向(Y方向)に互いに間隔を存して配列されている。
【0110】
一方、アクチュエータ20の第1の電極23(共通電極)は、リング形の電極部分25と配線部26とを備えている。電極部分25は、圧電体層22に同軸状に積層されて、圧電体層22に電気的に接続されている。配線部26は、電極部分25の外周縁から圧電体層22の外周部を経て振動板4の裏面4bに向けて導かれている。
【0111】
配線部26は、アクチュエータ列21が延びる方向と交差するように、例えばノズルプレート2の長手方向に沿って延びている。さらに、配線部26は、圧電体層22に対し第2の電極24の配線部28とは反対側に導かれている。
【0112】
第1の電極23の配線部26は、アクチュエータ列21毎に中継配線部60を介して電気的に接続されている。中継配線部60は、アクチュエータ列21に沿って延びるように振動板4の裏面4bに形成されている。
【0113】
このことから、第1の電極23の配線部26と第2の電極24の配線部28とは、振動板4の裏面4bの上で互いに重なり合うことなく離れている。
【0114】
図21に示すように、第1の通電パターン30の基幹配線32は、アクチュエータ列21の五番目のアクチュエータ20と六番目のアクチュエータ60との間で中継配線部60と交差されて、中継配線部60に電気的に接続されている。
【0115】
したがって、第1の通電パターン30の基幹配線32は、全てのアクチュエータ20の第1の電極23に共通して繋がっている。これにより、第1の電極23は、全ての圧電体層22に一定の電圧を印加する共通電極として作用する。
【0116】
第2の通電パターン31は、一番目から五番目のアクチュエータ20に対応する第1のパターン群35aと、六番目から十番目のアクチュエータ20に対応する第2のパターン群35bとを備えている。
【0117】
第1のパターン群35aを構成する五本の第2の通電パターン31の一端は、一番目から五番目のアクチュエータ20の第2の電極24の配線部28の先端に個別に電気的に接続されている。第2の通電パターン31の他端は、ノズルプレート2の長手方向に沿う外側縁部に導かれている。
【0118】
第2のパターン群35bを構成する五本の第2の通電パターン31は、六番目から十番目のアクチュエータ20の第2の電極24の配線部28の先端に個別に電気的に接続されている。第2の通電パターン31の他端は、ノズルプレート2の長手方向に沿う外側縁部に導かれている。
【0119】
この結果、第2の通電パターン31は、全てのアクチュエータ20の第2の電極24に個別に繋がっている。これにより、第2の電極24は、個々の圧電体層22を独立して動作させる個別電極として作用する。
【0120】
このような第2の実施形態によると、第2の通電パターン31は、振動板4の裏面4bの上で第1の通電パターン30を外れた位置に形成されている。この結果、第1の通電パターン30および第2の通電パターン31は、振動板4の裏面4bの上で互いに重なり合うことなく電気的に切り離された状態に保たれている。
【0121】
したがって、第1の実施形態と同様に、第1の通電パターン30と第2の通電パターン31との短絡を防ぐ絶縁膜を省略することができる。
【0122】
[第3の実施形態]
図24は、第3の実施形態を開示している。第3の実施形態は、一つのアクチュエータ列21を構成するアクチュエータ20の数および第1の通電パターン30に関する事項が第1の実施形態と相違している。これ以外のインクジェットヘッド1の構成は、基本的に第1の実施形態と同様である。そのため、第3の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0123】
第3の実施形態では、各ノズル列10が5個のノズル11を有している。ノズル11は、用紙Sの搬送方向(Y方向)に対し一定の角度αを有する斜めの方向に互いに間隔を存して直線状に配列されている。
【0124】
各ノズル11に付随するアクチュエータ20は、複数のノズル列10に対応する複数のアクチュエータ列21を構成している。各アクチュエータ列21は、5個のアクチュエータ20を有している。
【0125】
第1の通電パターン30の基幹配線32は、ノズルプレート2の長手方向に沿う一つの外側縁2aとアクチュエータ列21の一端との間に配置されている。すなわち、基幹配線32は、アクチュエータ列21の長手方向に沿う一端に位置されたアクチュエータ20とノズルプレート2の外側縁2aとの間を通してノズルプレート2の長手方向に沿って直線状に配置されている。
【0126】
第1の通電パターン30の延長部33は、基幹配線32の一端から基幹配線32の直交する方向に延びている。延長部33の先端は、第2の通電パターン31の引き出し方向と同方向に導かれている。
【0127】
第3の実施形態では、アクチュエータ列21の長手方向に沿う一端に位置された配線部26が基幹配線32に接続されている。このため、各アクチュレータ列21の配線部26は、基幹配線32から同じ方向に分岐されている。
【0128】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0129】
2…ノズルプレート、3…ヘッド本体、4…絶縁層(振動板)、11…ノズル、14…インク圧力室、20…アクチュエータ、22…圧電素子(圧電体層)、23…第1の電極(共通電極)、24…第2の電極(個別電極)、26,28…配線部、30…第1の通電パターン、31…第2の通電パターン。
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクを吐出する複数のノズルを有するインクジェットヘッドおよび当該インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドは、複数のノズルと、個々のノズルに対応した複数のアクチュエータと、を備えている。
【0003】
アクチュエータは、例えばシリコン基板のような母材の上に設けられている。アクチュエータは、圧電素子と、圧電素子に電圧を印加する共通電極および個別電極と、を有している。圧電素子は、共通電極と個別電極との間で挟み込まれている。
【0004】
共通電極および個別電極は、母材の上に形成された複数の導体パターンを介してインクジェットヘッドの外部のテープキャリアパッケージに電気的に接続されている。テープキャリアパッケージは、アクチュエータを駆動する駆動回路を搭載している。
【0005】
駆動回路から共通電極および個別電極を介して圧電素子に電界が印加されると、圧電素子が変形してインクを加圧する。加圧されたインクの一部はインク滴となってノズルから記録媒体に向けて吐出し、記録媒体の上に画像を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−96128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
圧電素子を共通電極と個別電極との間で挟み込んだアクチュエータを有するインクジェットヘッドによると、二種類の電極が母材の上で母材の厚み方向に積層されている。
【0008】
そのため、共通電極に接続された導体パターンと、個別電極に接続された導体パターンとを電気的に切り離すために、導体パターンの間に絶縁膜を介在させる必要がある。
【0009】
したがって、導体パターンの間に専用の絶縁膜を形成しなくてはならず、インクジェットヘッドを製造するプロセスが煩雑化するのを避けられない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態によれば、インクジェットヘッドは、間隔を存して配列された複数のノズルと、前記ノズル毎に設けられ、インクを加圧して前記ノズルから吐出させる複数のアクチュエータと、を備えている。
【0011】
前記アクチュエータは、絶縁層の上に設けられた圧電素子と、前記圧電素子に電気的に接続された共通電極と、前記圧電素子に電気的に接続されるとともに前記共通電極と協働して前記圧電素子を挟み込んだ個別電極と、を含んでいる。全てのアクチュエータの前記共通電極は、前記絶縁層に設けられた共通した第1の通電パターンに電気的に接続されている。全てのアクチュエータの前記個別電極は、前記絶縁層に設けられた複数の第2の通電パターンに個別に電気的に接続されている。前記第1の通電パターンおよび前記第2の通電パターンは、前記絶縁層の上で互いに重なり合うことなく離れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態に係るインクジェット記録装置を概略的に示す側面図。
【図2】第1の実施形態に係るインクジェットヘッドの平面図。
【図3】図2のF3−F3線に沿う断面図。
【図4】図3のF4−F4線に沿う断面図。
【図5】第1の実施形態において、アクチュエータの共通電極に接続された配線部と、アクチュエータの個別電極に接続された配線部との位置関係を示す平面図。
【図6】第1の実施形態において、保護層を構成するベースに振動板を積層した状態を示す断面図。
【図7】第1の実施形態において、振動板の上に第1の電極の基となる薄膜を形成した状態を示す断面図。
【図8】第1の実施形態において、振動板の上に第1の電極を形成した状態を示す断面図。
【図9】第1の実施形態において、圧電体膜で振動板および第1の電極を覆った状態を示す断面図。
【図10】第1の実施形態において、第1の電極の上に圧電体層を形成した状態を示す断面図。
【図11】第1の実施形態において、圧電体層の上に第2の電極の基となる薄膜を形成した状態を示す断面図。
【図12】第1の実施形態において、圧電体層の上に第2の電極を形成した状態を示す断面図。
【図13】第1の実施形態において、第2の電極および振動板の上に電極保護膜を積層した状態を示す断面図。
【図14】第1の実施形態において、第1の基板にインク圧力室を形成した状態を示す断面図。
【図15】第1の実施形態において、振動板から電極保護膜を除去した状態を示す断面図。
【図16】第1の実施形態において、第2の電極および振動板の上に保護層を積層した状態を示す断面図。
【図17】第1の実施形態において、保護層の上に撥液膜を形成するとともに、保護層および撥液膜にノズルを形成した状態を示す断面図。
【図18】第1の実施形態において、撥液膜の上にノズル保護膜を形成した状態を示す断面図。
【図19】第1の実施形態において、第1の基板の上にインク流通室を有する第2の基板を接着した状態を示す断面図。
【図20】第1の実施形態において、ノズル保護膜を剥離してノズルを露出させた状態を示す断面図。
【図21】第2の実施形態に係るインクジェットヘッドの平面図。
【図22】第2の実施形態に係るインクジェットヘッドの断面図。
【図23】第2の実施形態において、アクチュエータの共通電極に接続された配線部と、アクチュエータの個別電極に接続された配線部との位置関係を示す平面図。
【図24】第3の実施形態に係るインクジェットヘッドの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態について、図1ないし図20を参照して説明する。
【0014】
図1は、インクジェット記録装置100の一例を概略的に示している。インクジェット記録装置100は、インクジェット記録装置100の外郭を構成する箱形の筐体101を備えている。図1に示すように、給紙カセット102、排紙トレイ103、搬送路104および保持ドラム105が筐体101の内部に収容されている。
【0015】
給紙カセット102は、記録媒体の一例である用紙Sを収容する要素であって、筐体101の底部に配置されている。用紙Sとしては、例えば無地の用紙、アート紙あるいはOHPシート等を用いることができる。排紙トレイ103は、筐体101の上部に設けられて、筐体101の外に露出されている。
【0016】
搬送路104は、給紙カセット102に連続する上流部104aと、排紙トレイ103に連続する下流部104bとを備えている。給紙カセット102に収容された用紙Sは、ローラ106により一枚づつ搬送路104の上流部104aに送り出される。
【0017】
保持ドラム105は、給紙カセット102と排紙トレイ103との間に配置されている。給紙カセット102から搬送路104の上流部104aに送り出された用紙Sは、保持ドラム105の外周面105aを経由して搬送路104の下流部104bに導かれる。具体的には、保持ドラム105は、その外周面105aに用紙Sを保持した状態で周方向に一定の速度で回転するように構成されている。
【0018】
図1に示すように、保持ドラム105の周囲に、用紙押圧装置108、画像形成装置109、除電装置110およびクリーニング装置111が配置されている。用紙押圧装置108、画像形成装置109、除電装置110およびクリーニング装置111は、保持ドラム105の回転方向に沿う上流から下流に向けて順番に並んでいる。
【0019】
用紙押圧装置108は、搬送路104の上流部104aから保持ドラム105の外周面105aに供給された用紙Sを保持ドラム105の外周面105aに押し付ける。保持ドラム105の外周面105aに押し付けられた用紙Sは、静電力により保持ドラム105の外周面105aに吸着される。
【0020】
画像形成装置109は、保持ドラム105の外周面105aに吸着された用紙Sに画像を形成するための要素である。本実施形態の画像形成装置109は、例えばシアン画像を形成する第1のインクジェットヘッド1A、マゼンダ画像を形成する第2のインクジェットヘッド1B,イエロー画像を形成する第3のインクジェットヘッド1Cおよびブラック画像を形成する第4のインクジェットヘッド1Dを備えている。第1ないし第4のインクジェットヘッド1A,1B,1C,1Dは、保持ドラム105の回転方向に間隔を存して配列されている。保持ドラム105の回転方向は、保持ドラム105の外周面105aに沿って搬送される用紙Sの搬送方向と言い換えることができる。
【0021】
除電装置110は、所望の画像が形成された用紙Sの除電を行うとともに、除電後に用紙Sを保持ドラム105の外周面105aから剥離させる機能を有する。保持ドラム105の外周面105aから剥離された用紙Sは、搬送路104の下流部104bを通って排紙トレイ103に導かれる。
【0022】
クリーニング装置111は、用紙Sが剥離された保持ドラム105の外周面105aを清掃する機能を有する。クリーニング装置111は、除電装置110よりも保持ドラム105の回転方向に沿う下流側において、保持ドラム105の外周面105aに接する位置と、保持ドラム105の外周面105aから離脱する位置との間で移動可能となっている。
【0023】
さらに、本実施形態のインクジェット記録装置100は、用紙Sの表と裏を反転させる反転装置112を備えている。反転装置112は、除電装置110により保持ドラム105の外周面105aから剥離された用紙Sを反転させて搬送路104の上流部104aに戻す。これにより、用紙Sは、表と裏が反転された状態で再び保持ドラム105の外周面105aに供給される。よって、用紙Sの表と裏の両面に所望の画像を形成することができる。
【0024】
画像形成装置109を構成する第1ないし第4のインクジェットヘッド1A,1B,1C,1Dは、基本的に共通の構成を有している。そのため、本実施形態では、第1のインクジェットヘッド1Aの構成を代表して説明する。
【0025】
図2ないし図4に示すように、第1のインクジェットヘッド1Aは、用紙Sの搬送方向と直交する方向に延びる細長い形状を有している。図3に示すように、第1のインクジェットヘッド1Aは、ノズルプレート2とヘッド本体3とで構成されている。ノズルプレート2は、振動板4、保護層5および撥液膜6を有する三層構造である。
【0026】
振動板4は、絶縁層の一例であって、例えば電気絶縁性を有するシリコン酸化膜で形成されている。振動板4は、表面4aおよび裏面4bを有している。振動板4の厚さは、概ね10μmである。第1の実施形態では、シリコン酸化膜は、熱酸化により基板温度を約1000℃として形成した。シリコン酸化膜の製法としては、CVD(化学的気相成長法)、RFマグネトロンスパッタリング法を用いることができる。
【0027】
保護層5は、振動板4の裏面4bに積層されている。保護層5は、例えばポリイミドのような樹脂材料で形成されている。保護層5の厚さは、6μmである。第1の実施形態では、保護層5は、例えばスピンコーティングにより形成されている。保護層5の材料としては、例えばポリ尿素のような樹脂材料、SiO2のような酸化膜を用いることも可能である。この場合、保護層5の膜厚は、概ね3〜20μmである。
【0028】
撥液膜6は、保護層5に積層されている。撥液膜6は、例えばフッ素樹脂のようなインクをはじく特性を有する材料で形成されている。第1の実施形態では、撥液膜6は、例えばスピンコーティングにより形成されている。撥液膜6の膜厚は、概ね0.1〜5μm、好ましくは1μmである。撥液膜6は、ノズルプレート2の表面となるノズル面7を構成している。ノズル面7は、用紙Sの被印字面と向かい合うように第1のインクジェットヘッド1Aの外に露出されている。
【0029】
図2に示すように、複数のノズル列10がノズルプレート2に形成されている。ノズル列10は、矢印Xで示す第1のインクジェットヘッド1Aの長手方向に間隔を存して一列に並んでいる。第1のインクジェットヘッド1Aの長手方向とは、矢印Yで示す用紙Sの搬送方向と直交する方向のことを指しており、用紙Sの幅方向と一致する。
【0030】
各ノズル列10は、例えば10個のノズル11を有している。ノズル11は、用紙Sの搬送方向(Y方向)に対し一定の角度αを有する斜めの方向に互いに間隔を存して直線状に規則的に配列されている。
【0031】
ノズル11は、ノズルプレート2を厚み方向に貫通する孔である。ノズル11の直径は、例えば20μmである。ノズル11は、ノズルプレート2のノズル面7およびノズル面7の反対側に位置された振動板4の表面4aに開口されている。
【0032】
第1の実施形態によると、ノズル列10は、用紙Sの搬送方向(Y方向)に沿って延びているとともに、用紙Sの搬送方向と直交するノズルプレート2の長手方向(X方向)に沿って120列に亘って配置されている。
【0033】
したがって、第1の実施形態のノズルプレート2は、1200個のノズル11を有している。これらノズル11は、少なくとも用紙Sの幅方向に沿う長さに亘って二次元的にマトリクス状に配列されたノズル群を構成している。
【0034】
さらに、ノズル面7に開口された全てのノズル11は、所望の解像度を得るために、ノズルプレート2の長手方向(X方向)に一定のピッチPで並べられている。
【0035】
ヘッド本体2は、第1の基板12および第2の基板13を有している。第1の基板12は、例えば単一のシリコン基板で形成されている。第1の基板12の厚さは、675μmである。第1の基板12は、振動板4の表面4aに積層されて振動板4と一体化されている。
【0036】
ノズル11と同数のインク圧力室14が第1の基板12に形成されている。インク圧力室14は、例えば直径が250μmの円筒状であり、ノズル11と同軸となるように第1の基板12を厚み方向に貫通している。このため、ノズル11のピッチPは、各ノズル11に付随するインク圧力室14が隣り合うノズル11のインク圧力室14と干渉することがない値に定められている。
【0037】
インク圧力室14の一方の開口端は、振動板4によって塞がれている。言い換えると、振動板4は、インク圧力室14に露出されている。インク圧力室14は、ノズル11に対応するように設けられており、各インク圧力室14の中央に各ノズル11が連通されている。
【0038】
第2の基板13は、例えばステンレスのような金属材料で構成されている。第2の基板13の厚さは、例えば4mmである。第2の基板13は、第1の基板12の表面12aに積層されているとともに、例えばエポキシ系の接着剤を用いて第1の基板12に固定されている。
【0039】
複数のインク流通室15が第2の基板13の内部に形成されている。インク流通室15は、第2の基板13の厚み方向に沿う深さが2mmの円筒状である。画像形成用のインクは、第1のインクジェットヘッド1Aの外部からインク供給口16を通じてインク流通室15に供給される。
【0040】
インク流通室15は、連通口17を通じてインク圧力室14に通じている。連通口17は、ノズル11よりも小径な孔である。連通口17は、ノズル11と同軸となるように第2の基板13に形成されている。そのため、インク供給口16からインク流通室15に分配されたインクは、連通口17を通じてインク圧力室14に供給される。
【0041】
第1の実施形態では、インク供給口16は、インク流通室15の中央に位置されている。さらに、連通口17にしてもインク流通室15の中央およびインク圧力室14の中央に位置されている。この結果、インクが複数のインク流通室15から複数のインク圧力室14に供給される際の流路抵抗が均等化されて、インク圧力室14に供給されるインク量のばらつきが抑制されている。
【0042】
第2の基板13は、ステンレスに限らず、例えばアルミニウム合金、チタンのようなその他の金属材料で形成してもよい。加えて、第2の基板13を形成する材料は金属に限らない。例えば、ノズルプレート2および第1の基板12との膨張係数の差異を考慮して、インク吐出圧力に影響を及ぼさない範囲内で他の材料を用いることができる。
【0043】
具体的には、セラミック材料としてのアルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウムなどの窒化物・酸化物を用いることができる。さらに、例えばABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材料を用いることができる。
【0044】
図3および図4に示すように、第1の実施形態のノズルプレート2は、インクを加圧する複数のアクチュエータ20を内蔵している。アクチュエータ20は、ノズル11毎に設けられている。
【0045】
言い換えると、アクチュエータ20は、複数のノズル列10に対応する複数のアクチュエータ列21を構成している。各アクチュエータ列21は、10個のアクチュエータ20を有している。
【0046】
したがって、アクチュエータ列21は、用紙Sの搬送方向(Y方向)に沿って延びているとともに、用紙Sの搬送方向と直交するノズルプレート2の長手方向(X方向)に沿って120列に亘って配置されている。
【0047】
アクチュエータ20は、ノズル11を同軸状に取り囲むように振動板4の裏面4bにリング状に形成されている。さらに、アクチュエータ20は、保護層5で覆われている。
【0048】
各アクチュエータ20は、圧電体層22、第1の電極23および第2の電極24を備えている。圧電体層22は、圧電素子の一例であり、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)で構成されている。圧電体層21の材料としては、PTO(PbTiO3:チタン酸鉛)、PMNT(Pb(Mg1/3NB2/3)O3−PbTiO3)、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)、ZnO、AlN等を用いることが可能である。
【0049】
圧電体層22は、例えばRFマグネトロンスパッタリング法により基板温度350℃で形成されている。圧電体層22は、その膜厚が3μm、直径が250μmのリング形である。第1の実施形態では、圧電体層22を形成した後、圧電体層22に圧電性を付与するため、500℃で3時間に亘る熱処理を施している。これにより、圧電体層22は、良好な圧電性能を得ることができる。圧電体層22が形成されると、圧電体層22の厚み方向に沿う分極が発生する。
【0050】
圧電体層22の製法としては、CVD(化学的気相成長法)、ゾルゲル法、AD法(エアロゾルデポジション法)、水熱合成法等を用いることができる。この場合、圧電体層22の厚さは、概ね0.1μmから10μmの範囲内となる。
【0051】
第1の電極23および第2の電極24は、圧電体層22を駆動するための電気信号を伝送するための要素であって、例えばPt(白金)/Ti(チタン)の薄膜で形成されている。薄膜は、例えばスパッタリング法により形成され、その膜厚が0.5μmである。
【0052】
第1の電極23および第2の電極24を形成する他の材料としては、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Au(金)を用いることができるとともに、前記各種の金属を積層することも可能である。
【0053】
第1の電極23および第2の電極24を形成する方法としては、例えば蒸着、鍍金を用いることも可能である。この場合、第1の電極23および第2の電極24の望ましい膜厚は、0.01〜1μmである。
【0054】
図3に示すように、第1の電極23は、振動板4の裏面4bに形成されている。第1の電極23は、夫々電極部分25および配線部26を備えている。図5に示すように、電極部分25は、圧電体層22よりも小径のリング形である。電極部分25は、圧電体層22で同軸状に覆われているとともに、圧電体層22に電気的に接続されている。
【0055】
配線部26は、アクチュエータ列21毎に隣り合う電極部分25の外周部の間を結ぶように、アクチュエータ列21に沿って直線状に延びている。このため、配線部26は、圧電体層22の外周部から振動板4の裏面4bの上に突出されているとともに、各アクチュエータ列21の五番目のアクチュエータ20と六番目のアクチュエータ20との間を結ぶ配線部26の長さが最も長くなっている。
【0056】
第2の電極24は、電極部分27と配線部28とを備えている。電極部分27は、圧電体層22よりも小径のリング形である。電極部分27は、圧電体層22に同軸状に積層されて、圧電体層22に電気的に接続されている。
【0057】
したがって、圧電体層22は、第1の電極23の電極部分25と第2の電極24の電極部分27との間で挟み込まれている。ノズル11は、圧電体層22の中央部、第1の電極23の電極部分25の中央部および第2の電極24の電極部分27の中央部を同軸状に貫通している。
【0058】
配線部28は、電極部分27の外周縁から圧電体層22の外周部を経て振動板4の裏面4bに向けて導かれている。配線部28は、アクチュエータ列21が延びる方向と交差するように、例えばノズルプレート2の長手方向に沿って延びている。
【0059】
言い換えると、第2の電極24の配線部28は、前記第1の電極23の配線部26が延びる方向とは異なる方向に延びている。そのため、配線部28は、アクチュエータ列21毎に用紙Sの搬送方向であるY方向に互いに間隔を存して配列されている。
【0060】
このことから、第1の電極23の配線部26と第2の電極24の配線部28とは、振動板4の同一の裏面4bの上で互いに重なり合うことなく離れている。
【0061】
図2および図5に示すように、第1の通電パターン30および複数の第2の通電パターン31が振動板4の裏面4bに形成されている。第1の通電パターン30および第2の通電パターン31は、アクチュエータ20と一緒に保護層5で覆われている。
【0062】
第1の通電パターン30は、共通した一本の基幹配線32を備えている。基幹配線32は、各アクチュエータ列21の五番目のアクチュエータ20と六番目のアクチュエータ20との間を通してノズルプレート2の長手方向に直線状に延びている。
【0063】
さらに、基幹配線32は、延長部33を有している。延長部33は、ノズルプレート2の端部で基幹配線32と直交する方向に延びている。延長部33の先端は、ノズルプレート2の長手方向に沿う外周縁部に導かれている。延長部33を含む基幹配線32の配線幅は、概ね100μmである。
【0064】
図2および図5に示すように、基幹配線32は、各アクチュレータ列21の第1の電極23の配線部26に電気的に接続されている。言い換えると、各アクチュエータ列21の五番目のアクチュエータ20と六番目のアクチュエータ20との間に跨る配線部26が基幹配線32と交差されている。そのため、配線部26は、アクチュエータ列21に対応する位置で基幹配線32から分岐されている。
【0065】
したがって、第1の通電パターン30の基幹配線32は、全てのアクチュエータ20の第1の電極23に共通して繋がっている。これにより、第1の電極23は、全ての圧電体層22に一定の電圧を印加する共通電極として作用する。
【0066】
図2、図3および図5に示すように、第2の通電パターン31は、アクチュエータ列21毎に個々に独立して設けられている。
【0067】
具体的には、第2の通電パターン31は、アクチュエータ列21毎に、五本の第2の通電パターン31を一組とする第1のパターン群35aと、同じく五本の第2の通電パターン31を一組とする第2のパターン群35bとに分けられている。第1のパターン群35aは、一番目から五番目のアクチュエータ20に対応している。第2のパターン群35bは、六番目から十番目のアクチュエータ20に対応している。
【0068】
第1のパターン群35aは、振動板4の裏面4bの上で基幹配線32よりも用紙Sの搬送方向に沿う下流側に位置されている。第1のパターン群35aは、アクチュエータ列21に沿うように基幹配線32と交差する方向に互いに間隔を存して平行に配置されているとともに、基幹配線32から遠ざかる方向に延びている。
【0069】
第1のパターン群35aを構成する五本の第2の通電パターン31の一端は、一番目から五番目のアクチュエータ20の第2の電極24の配線部28の先端に個別に電気的に接続されている。第2の通電パターン31の他端は、ノズルプレート2の長手方向に沿う外側縁部に導かれている。
【0070】
第2のパターン群35bは、振動板4の裏面4bの上で基幹配線32よりも用紙Sの搬送方向に沿う上流側に位置されている。第2のパターン群35bは、アクチュエータ列21に沿うように基幹配線32と交差する方向に互いに間隔を存して平行に配置されているとともに、基幹配線32から遠ざかる方向に延びている。
【0071】
第2のパターン群35bを構成する五本の第2の通電パターン31の一端は、六番目から十番目のアクチュエータ20の第2の電極24の配線部28の先端に個別に電気的に接続されている。第2の通電パターン31の他端は、ノズルプレート2の長手方向に沿う外側縁部に導かれている。
【0072】
第1の実施形態によると、第2の通電パターン31は、隣り合うアクチュエータ列21の間を通して配線するため、その配線幅が概ね15μmとなっている。
【0073】
第2の通電パターン31は、全てのアクチュエータ20の第2の電極24に個別に繋がっている。これにより、第2の電極24は、個々の圧電体層22を独立して動作させる個別電極として作用する。
【0074】
以上のことから、第2の通電パターン31は、振動板4の裏面4bの上で第1の通電パターン30を外れた位置に形成されている。この結果、第1の通電パターン30および第2の通電パターン31は、振動板4の同一の裏面4bの上で互いに重なり合うことなく電気的に切り離された状態に保たれている。
【0075】
ノズルプレート2の外周縁部に導かれた第1および第2の通電パターン30,31は、第1のインクジェットヘッド1Aの外部でテープキャリアパッケージに電気的に接続されている。テープキャリアパッケージは、第1のインクジェットヘッド1Aを駆動するための駆動回路を実装している。
【0076】
駆動回路は、各アクチュエータ20の第1の電極23および第2の電極24に駆動電圧を供給する。圧電体層22の分極の方向と同じ向きの電界が第1および第2の電極23,24から圧電体層22に印加されると、アクチュエータ20が電界の向きと直交する方向に伸縮を繰り返そうとする。ここで、電界の向きと直交する方向とは、振動板4の裏面4bに沿う方向のことを指している。
【0077】
アクチュエータ20は、振動板4の裏面4bに形成されているので、振動板4がアクチュエータ20の伸縮を妨げる働きをする。このため、アクチュエータ20と振動板4との接触部分に応力が発生し、発生した応力は振動板4を厚み方向に撓むように変形させる。
【0078】
アクチュエータ20が電界の向きと直交する方向に伸縮を繰り返すことで、インク圧力室14に露出された振動板4が厚み方向に振動する。この結果、インク圧力室14内のインクの圧力が高まる。したがって、インク圧力室14内で加圧されたインクの一部がインク滴となってノズル11から用紙Sに向けて吐出される。
【0079】
次に、前記のような構成を有する第1のインクジェットヘッド1Aを製造する手順の一例について、図6ないし図20を参照して簡単に説明する。
【0080】
まず、図6に示すように、第1の基板12の基となるベース40に振動板4を積層した積層体41を形成する。この後、振動板4に例えばフォトリソグラフィーおよびドライエッチングを施すことで、開口部42を形成する。
【0081】
引き続いて、図7に示すように、振動板4の上に白金又はチタンの薄膜43を例えばスパッタリング法により形成する。
【0082】
さらに、図8に示すように、薄膜43に例えばフォトリソグラフィーおよびドライエッチングを施すことで、振動板4の上にリング状の第1の電極23を形成する。
【0083】
この後、図9に示すように、振動板4および第1の電極23の上にPZT製の圧電体膜44を例えばスパッタリング法により形成する。引き続いて、圧電体膜44に例えばフォトリソグラフィーおよびウエットエッチングを施すことで、振動板4の上に第1の電極23を覆う圧電体層22を形成する。(図10を参照)
この後、図11に示すように、振動板4および圧電体層22の上に白金又はチタンの薄膜45を例えばCVD法又はスパッタリング法により形成する。引き続いて、薄膜45に例えばフォトリソグラフィーおよびドライエッチングを施すことで、振動板4および圧電体層22の上にリング状の第2の電極24を形成する。この結果、振動板4の上にアクチュエータ20が形成される。(図12を参照)
この後、図13に示すように振動板4の上に電極保護膜46を形成する。これにより、アクチュエータ20が電極保護膜46で被覆された中間成形物47が形成される。
【0084】
この後、図14に示すように中間成形物47を上下に反転させて、ベース40を上向きとする。この状態で、ベース40に例えばDeep Reactive Ion Etching(シリコン深堀エッチング)を施すことで、ベース40にインク圧力室14を形成する。
【0085】
引き続いて、図15に示すように、再び中間成形物47を上下に反転させるとともに、電極保護膜46を除去する。これにより、振動板4およびアクチュエータ20が露出される。
【0086】
この後、図16に示すように、振動板4の上に保護層5となるノズル保護膜48を例えばフォトリソグラフィーにより形成し、ノズル保護膜48でアクチュエータ20を被覆する。さらに、ノズル保護膜48の上に撥液膜6を例えば蒸着等の手段により積層する。この結果、アクチュエータ20を内蔵したノズルプレート2が形成される。
【0087】
この後、図17に示すように、ノズル保護膜48および撥液膜6に例えばドライエッチングおよびアッシングを施すことで、ノズル保護膜48および撥液膜6を貫通する貫通孔49を形成する。貫通孔49は、振動板4の開口部42に同軸状に連通することでノズル11を構成する。
【0088】
引き続いて、図18に示すように、撥液膜6の上にノズル保護膜50を積層する。これにより、ノズル11の開口端およびノズル面7がノズル保護膜50で保護される。
【0089】
この後、図19に示すように中間成形物47を再び上下に反転させ、インク圧力室14が形成された第1の基板12を上向きとする。この状態で、予めインク流通室15、インク供給口16および連通口17が形成された第2の基板13を第1の基板12の上に接着する。これにより、第1の基板12と第2の基板13とが一体化されたヘッド本体3が形成される。
【0090】
最後に、ノズル保護膜50を撥液膜6から剥離させてノズル面7を露出させるとともに、中間成形物47を予め決められた大きさに裁断する。このことにより、一連の第1のインクジェットヘッド1Aの成形工程が完了する。
【0091】
第1のインクジェットヘッド1Aでは、第1の通電パターン30および複数の第2の通電パターン31が振動板4の裏面4bに形成されている。第1の通電パターン30の基幹配線32は、各アクチュエータ列21の五番目のアクチュエータ20と六番目のアクチュエータ20との間を通ってノズルプレート2の中央部をノズルプレート2の長手方向に沿って直線状に延びている。
【0092】
アクチュエータ20の第1の電極23(共通電極)は、アクチュエータ列21毎にアクチュエータ列21に沿って延びる配線部26を介して電気的に接続されている。各アクチュエータ列21の配線部26は、ノズルプレート2の中央部で基幹配線32に電気的に接続されている。
【0093】
一方、第2の通電パターン31は、アクチュエータ列21に隣り合う第1および第2のパターン群35a,35bを有している。第1および第2のパターン群35a,35bは、基幹配線32を間に挟むように互いに振り分けられている。
【0094】
アクチュエータ20の第2の電極24(個別電極)は、アクチュエータ列21毎にアクチュエータ列21が延びる方向と交差するように、ノズルプレート2の長手方向に沿って延びる配線部28を有している。配線部28の先端は、第1および第2のパターン群35a,35bを構成する第2の通電パターン31に電気的に個別に接続されている。
【0095】
このような構成によると、第1の電極23の配線部26と第2の電極24の配線部28とは、圧電体層22に対し互いに異なる方向を向くように振動板4の裏面4bに導かれている。このため、配線部26,28が振動板4の裏面4bの上で互いに重なり合うことはなく、配線部26,28が互いに電気的に切り離されている。
【0096】
さらに、第2の通電パターン31は、振動板4の裏面4bの上で第1の通電パターン30を外れた位置に形成されている。このため、第1の通電パターン30および第2の通電パターン31にしても、振動板4の裏面4bの上で互いに重なり合うことなく電気的に切り離されている。
【0097】
加えて、第1および第2の通電パターン30,31は、夫々ノズルプレート2の外周縁部に導かれて、ノズルプレート2の外部でテープキャリアパッケージに電気的に接続されている。
【0098】
このため、共通の振動板4の裏面4bの上に第1の通電パターン30および第2の通電パターン31が存在するにも拘らず、第1の通電パターン30と第2の通電パターン31とが互いに重なり合うことはない。
【0099】
したがって、第1の通電パターン30と第2の通電パターン31との短絡を防ぐ絶縁膜を省略することが可能となり、第1のインクジェットヘッド1Aの製造プロセスを簡略化することができる。
【0100】
第1の実施形態では、第1の通電パターン30の基幹配線32は、各アクチュエータ列21の長手方向に沿う中央部を通ってノズルプレート2の長手方向に延びている。これにより、第2の通電パターン31は、基幹配線32を境として第1のパターン群35aと第2のパターン群35bとに分けられている。
【0101】
このような構成とすることで、隣り合うアクチュエータ列21の間には、少なくとも五本の第2の通電パターン31を配置するスペースを確保すればよいことになる。よって、隣り合うアクチュエータ列21の間隔が狭くとも、隣り合うアクチュエータ列21の間に第2の通電パターン31を無理なく配置することができる。
【0102】
さらに、基幹電極32は、アクチュエータ列21毎に10個並んだアクチュエータ20のうち五番目のアクチュエータ20と六番目のアクチュエータ20との間を通過する。このため、各アクチュエータ列21において、一番目のアクチュエータ20から五番目のアクチェータ20に対する配線抵抗と、六番目のアクチュエータ20から十番目のアクチュエータ20に対する配線抵抗とを均等化することができる。
【0103】
そのため、アクチュエータ列21毎に10個並んだアクチュエータ20を精度よく動作させることができる。
【0104】
第1の実施形態では、10個のノズルによって構成されるノズル列を、用紙の搬送方向と直交するX方向に120列に亘って配置している。しかしながら、ノズル列の数および一つのノズル列が有するノズルの数は、第1の実施形態に特定されるものではなく、インクジェットヘッドに要求される画像の解像度等に応じて適宜変更することができる。
【0105】
さらに、第1の実施形態では、複数のノズルを用紙の搬送方向に対し一定の角度を有する斜めの方向に直線状に規則的に配列している。しかしながら、ノズルは、前記斜め方向の直線に対し千鳥状に配置したり、あるいは用紙の搬送方向に沿う直線に対しV字状に配置することが可能であり、ノズルのレイアウトに特に制約はない。
【0106】
[第2の実施形態]
図21ないし図23は、第2の実施形態を開示している。第2の実施形態は、アクチュエータ20の第1の電極23と第2の電極24との相対的な位置関係が第1の実施形態と相違している。これ以外の第1のインクジェットヘッド1Aの構成は、第1の実施形態と同様である。そのため、第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0107】
第2の実施形態では、アクチュエータ20の第2の電極24(個別電極)が振動板4の裏面4bに形成されている。第2の電極24は、リング形の電極部分27と配線部28とを備えている。
【0108】
電極部分27は、圧電体層22で同軸状に覆われているとともに、圧電体層22に電気的に接続されている。配線部28は、電極部分27の外周縁から圧電体層22を貫通して振動板4の裏面4bに導かれている。図21に示すように、配線部28は、アクチュエータ列21が延びる方向と交差するように、例えばノズルプレート2の長手方向に沿って延びている。
【0109】
したがって、配線部28は、アクチュエータ列21毎に用紙Sの搬送方向(Y方向)に互いに間隔を存して配列されている。
【0110】
一方、アクチュエータ20の第1の電極23(共通電極)は、リング形の電極部分25と配線部26とを備えている。電極部分25は、圧電体層22に同軸状に積層されて、圧電体層22に電気的に接続されている。配線部26は、電極部分25の外周縁から圧電体層22の外周部を経て振動板4の裏面4bに向けて導かれている。
【0111】
配線部26は、アクチュエータ列21が延びる方向と交差するように、例えばノズルプレート2の長手方向に沿って延びている。さらに、配線部26は、圧電体層22に対し第2の電極24の配線部28とは反対側に導かれている。
【0112】
第1の電極23の配線部26は、アクチュエータ列21毎に中継配線部60を介して電気的に接続されている。中継配線部60は、アクチュエータ列21に沿って延びるように振動板4の裏面4bに形成されている。
【0113】
このことから、第1の電極23の配線部26と第2の電極24の配線部28とは、振動板4の裏面4bの上で互いに重なり合うことなく離れている。
【0114】
図21に示すように、第1の通電パターン30の基幹配線32は、アクチュエータ列21の五番目のアクチュエータ20と六番目のアクチュエータ60との間で中継配線部60と交差されて、中継配線部60に電気的に接続されている。
【0115】
したがって、第1の通電パターン30の基幹配線32は、全てのアクチュエータ20の第1の電極23に共通して繋がっている。これにより、第1の電極23は、全ての圧電体層22に一定の電圧を印加する共通電極として作用する。
【0116】
第2の通電パターン31は、一番目から五番目のアクチュエータ20に対応する第1のパターン群35aと、六番目から十番目のアクチュエータ20に対応する第2のパターン群35bとを備えている。
【0117】
第1のパターン群35aを構成する五本の第2の通電パターン31の一端は、一番目から五番目のアクチュエータ20の第2の電極24の配線部28の先端に個別に電気的に接続されている。第2の通電パターン31の他端は、ノズルプレート2の長手方向に沿う外側縁部に導かれている。
【0118】
第2のパターン群35bを構成する五本の第2の通電パターン31は、六番目から十番目のアクチュエータ20の第2の電極24の配線部28の先端に個別に電気的に接続されている。第2の通電パターン31の他端は、ノズルプレート2の長手方向に沿う外側縁部に導かれている。
【0119】
この結果、第2の通電パターン31は、全てのアクチュエータ20の第2の電極24に個別に繋がっている。これにより、第2の電極24は、個々の圧電体層22を独立して動作させる個別電極として作用する。
【0120】
このような第2の実施形態によると、第2の通電パターン31は、振動板4の裏面4bの上で第1の通電パターン30を外れた位置に形成されている。この結果、第1の通電パターン30および第2の通電パターン31は、振動板4の裏面4bの上で互いに重なり合うことなく電気的に切り離された状態に保たれている。
【0121】
したがって、第1の実施形態と同様に、第1の通電パターン30と第2の通電パターン31との短絡を防ぐ絶縁膜を省略することができる。
【0122】
[第3の実施形態]
図24は、第3の実施形態を開示している。第3の実施形態は、一つのアクチュエータ列21を構成するアクチュエータ20の数および第1の通電パターン30に関する事項が第1の実施形態と相違している。これ以外のインクジェットヘッド1の構成は、基本的に第1の実施形態と同様である。そのため、第3の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0123】
第3の実施形態では、各ノズル列10が5個のノズル11を有している。ノズル11は、用紙Sの搬送方向(Y方向)に対し一定の角度αを有する斜めの方向に互いに間隔を存して直線状に配列されている。
【0124】
各ノズル11に付随するアクチュエータ20は、複数のノズル列10に対応する複数のアクチュエータ列21を構成している。各アクチュエータ列21は、5個のアクチュエータ20を有している。
【0125】
第1の通電パターン30の基幹配線32は、ノズルプレート2の長手方向に沿う一つの外側縁2aとアクチュエータ列21の一端との間に配置されている。すなわち、基幹配線32は、アクチュエータ列21の長手方向に沿う一端に位置されたアクチュエータ20とノズルプレート2の外側縁2aとの間を通してノズルプレート2の長手方向に沿って直線状に配置されている。
【0126】
第1の通電パターン30の延長部33は、基幹配線32の一端から基幹配線32の直交する方向に延びている。延長部33の先端は、第2の通電パターン31の引き出し方向と同方向に導かれている。
【0127】
第3の実施形態では、アクチュエータ列21の長手方向に沿う一端に位置された配線部26が基幹配線32に接続されている。このため、各アクチュレータ列21の配線部26は、基幹配線32から同じ方向に分岐されている。
【0128】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0129】
2…ノズルプレート、3…ヘッド本体、4…絶縁層(振動板)、11…ノズル、14…インク圧力室、20…アクチュエータ、22…圧電素子(圧電体層)、23…第1の電極(共通電極)、24…第2の電極(個別電極)、26,28…配線部、30…第1の通電パターン、31…第2の通電パターン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔を存して配列された複数のノズルと、
前記ノズル毎に設けられ、インクを加圧して前記ノズルから吐出させる複数のアクチュエータと、を具備し、
前記アクチュエータは、
絶縁層の上に設けられた圧電素子と、前記圧電素子に電気的に接続された共通電極と、前記圧電素子に電気的に接続されるとともに前記共通電極と協働して前記圧電素子を挟み込んだ個別電極と、を含み、
全てのアクチュエータの前記共通電極は、前記絶縁層に設けられた共通した第1の通電パターンに電気的に接続されているとともに、全てのアクチュエータの前記個別電極は、前記絶縁層に設けられた複数の第2の通電パターンに個別に電気的に接続され、
前記第1の通電パターンおよび前記第2の通電パターンは、前記絶縁層の上で互いに重なり合うことなく離れているインクジェットヘッド。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記ノズルは、前記絶縁層を有するノズルプレートに形成され、前記アクチュエータは、前記ノズルを取り囲むように前記ノズルプレートに内蔵されたインクジェットヘッド。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記ノズルの配列方向に隣り合う前記アクチュエータの前記共通電極は、前記圧電素子の外周部の間に跨る配線部を介して電気的に接続されているとともに、前記配線部が前記絶縁層の上で前記第1の通電パターンに電気的に接続されたインクジェットヘッド。
【請求項4】
請求項3の記載において、前記個別電極は、前記圧電素子の外周部から前記共通電極の前記配線部とは異なる方向を向くように前記絶縁層の上に導かれた配線部を有し、前記個別電極の前記配線部が前記絶縁層の上で前記第2の通電パターンに電気的に接続されたインクジェットヘッド。
【請求項5】
複数のノズルと、
前記ノズル毎に設けられ、インクを加圧して前記ノズルから吐出させる複数のアクチュエータと、を具備し、
前記アクチュエータは、
絶縁層の上に設けられた圧電素子と、前記圧電素子に電気的に接続された第1の電極と、前記圧電素子に電気的に接続されるとともに前記第1の電極と協働して前記圧電素子を挟み込んだ第2の電極と、を含み、
前記アクチュエータの前記第1の電極は、前記絶縁層に設けられた第1の通電パターンに電気的に接続されているとともに、前記アクチュエータの前記第2の電極は、前記絶縁層に設けられた第2の通電パターンに電気的に接続され、
前記第1の通電パターンおよび前記第2の通電パターンは、前記絶縁層の上で互いに互いに重なり合うことなく離れているインクジェットヘッド。
【請求項6】
請求項5の記載において、前記ノズルは、前記絶縁層を有するノズルプレートに形成され、前記アクチュエータは、前記ノズルを取り囲むように前記ノズルプレートに内蔵されたインクジェットヘッド。
【請求項7】
インクが供給される複数のインク圧力室を有するヘッド本体と、
前記ヘッド本体に積層され、前記インク圧力室に露出された変位可能な絶縁層を有するとともに、前記絶縁層を貫通して前記インク圧力室に個々に連通された複数のノズルが形成されたノズルプレートと、
前記個々のノズルに対応するように前記絶縁層に設けられ、前記インク圧力室に供給されたインクを加圧して前記ノズルから吐出させる複数のアクチュエータと、を具備し、
前記アクチュエータは、
圧電素子と、前記圧電素子に電気的に接続された第1の電極と、前記圧電素子に電気的に接続されるとともに前記第1の電極と協働して前記圧電素子を挟み込んだ第2の電極と、を含み、
前記第1の電極および前記第2の電極は、夫々前記圧電素子の外周部から前記絶縁層の上に導かれた通電用の配線部を有し、前記第1の電極の前記配線部および前記第2の電極の前記配線部は、前記圧電素子の外周部から互いに異なる方向に導かれて、前記絶縁層の上で互いに重なり合うことなく離れているインクジェットヘッド。
【請求項8】
請求項7の記載において、前記各アクチュエータは、前記各ノズルを取り囲むように前記ノズルプレートに内蔵されたインクジェットヘッド。
【請求項9】
請求項7又は請求項8の記載において、前記絶縁層は、前記アクチュエータの前記第1の電極の前記配線部が電気的に接続された共通の第1の通電パターンと、前記アクチュエータの前記第2の電極の前記配線部が個別に電気的に接続された複数の第2の通電パターンと、を有し、前記第1の通電パターンおよび前記第2の通電パターンは、前記絶縁層の上で互いに離れているインクジェットヘッド。
【請求項10】
請求項9の記載において、前記ノズルプレートは、前記複数のノズルを一組とする複数のノズル列を備えており、各ノズル列は、前記ノズルから吐出されたインクにより画像が形成される記録媒体の搬送方向に延びているとともに、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に互いに間隔を存して配列されたインクジェットヘッド。
【請求項11】
請求項10の記載において、前記第1の通電パターンは、前記ノズル列の長手方向に沿う中央部で隣り合う二つのノズルの間を通して配線されているとともに、前記第1の電極の前記配線部は、前記第1の通電パターンと交差するように前記ノズル列に沿って延びているインクジェットヘッド。
【請求項12】
請求項11の記載において、前記第2の通電パターンは、前記第1の通電パターンから離れた位置で前記ノズル列が延びる方向に沿って互いに間隔を存して並んでいるインクジェットヘッド。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか一項に記載されたインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置。
【請求項1】
間隔を存して配列された複数のノズルと、
前記ノズル毎に設けられ、インクを加圧して前記ノズルから吐出させる複数のアクチュエータと、を具備し、
前記アクチュエータは、
絶縁層の上に設けられた圧電素子と、前記圧電素子に電気的に接続された共通電極と、前記圧電素子に電気的に接続されるとともに前記共通電極と協働して前記圧電素子を挟み込んだ個別電極と、を含み、
全てのアクチュエータの前記共通電極は、前記絶縁層に設けられた共通した第1の通電パターンに電気的に接続されているとともに、全てのアクチュエータの前記個別電極は、前記絶縁層に設けられた複数の第2の通電パターンに個別に電気的に接続され、
前記第1の通電パターンおよび前記第2の通電パターンは、前記絶縁層の上で互いに重なり合うことなく離れているインクジェットヘッド。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記ノズルは、前記絶縁層を有するノズルプレートに形成され、前記アクチュエータは、前記ノズルを取り囲むように前記ノズルプレートに内蔵されたインクジェットヘッド。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記ノズルの配列方向に隣り合う前記アクチュエータの前記共通電極は、前記圧電素子の外周部の間に跨る配線部を介して電気的に接続されているとともに、前記配線部が前記絶縁層の上で前記第1の通電パターンに電気的に接続されたインクジェットヘッド。
【請求項4】
請求項3の記載において、前記個別電極は、前記圧電素子の外周部から前記共通電極の前記配線部とは異なる方向を向くように前記絶縁層の上に導かれた配線部を有し、前記個別電極の前記配線部が前記絶縁層の上で前記第2の通電パターンに電気的に接続されたインクジェットヘッド。
【請求項5】
複数のノズルと、
前記ノズル毎に設けられ、インクを加圧して前記ノズルから吐出させる複数のアクチュエータと、を具備し、
前記アクチュエータは、
絶縁層の上に設けられた圧電素子と、前記圧電素子に電気的に接続された第1の電極と、前記圧電素子に電気的に接続されるとともに前記第1の電極と協働して前記圧電素子を挟み込んだ第2の電極と、を含み、
前記アクチュエータの前記第1の電極は、前記絶縁層に設けられた第1の通電パターンに電気的に接続されているとともに、前記アクチュエータの前記第2の電極は、前記絶縁層に設けられた第2の通電パターンに電気的に接続され、
前記第1の通電パターンおよび前記第2の通電パターンは、前記絶縁層の上で互いに互いに重なり合うことなく離れているインクジェットヘッド。
【請求項6】
請求項5の記載において、前記ノズルは、前記絶縁層を有するノズルプレートに形成され、前記アクチュエータは、前記ノズルを取り囲むように前記ノズルプレートに内蔵されたインクジェットヘッド。
【請求項7】
インクが供給される複数のインク圧力室を有するヘッド本体と、
前記ヘッド本体に積層され、前記インク圧力室に露出された変位可能な絶縁層を有するとともに、前記絶縁層を貫通して前記インク圧力室に個々に連通された複数のノズルが形成されたノズルプレートと、
前記個々のノズルに対応するように前記絶縁層に設けられ、前記インク圧力室に供給されたインクを加圧して前記ノズルから吐出させる複数のアクチュエータと、を具備し、
前記アクチュエータは、
圧電素子と、前記圧電素子に電気的に接続された第1の電極と、前記圧電素子に電気的に接続されるとともに前記第1の電極と協働して前記圧電素子を挟み込んだ第2の電極と、を含み、
前記第1の電極および前記第2の電極は、夫々前記圧電素子の外周部から前記絶縁層の上に導かれた通電用の配線部を有し、前記第1の電極の前記配線部および前記第2の電極の前記配線部は、前記圧電素子の外周部から互いに異なる方向に導かれて、前記絶縁層の上で互いに重なり合うことなく離れているインクジェットヘッド。
【請求項8】
請求項7の記載において、前記各アクチュエータは、前記各ノズルを取り囲むように前記ノズルプレートに内蔵されたインクジェットヘッド。
【請求項9】
請求項7又は請求項8の記載において、前記絶縁層は、前記アクチュエータの前記第1の電極の前記配線部が電気的に接続された共通の第1の通電パターンと、前記アクチュエータの前記第2の電極の前記配線部が個別に電気的に接続された複数の第2の通電パターンと、を有し、前記第1の通電パターンおよび前記第2の通電パターンは、前記絶縁層の上で互いに離れているインクジェットヘッド。
【請求項10】
請求項9の記載において、前記ノズルプレートは、前記複数のノズルを一組とする複数のノズル列を備えており、各ノズル列は、前記ノズルから吐出されたインクにより画像が形成される記録媒体の搬送方向に延びているとともに、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に互いに間隔を存して配列されたインクジェットヘッド。
【請求項11】
請求項10の記載において、前記第1の通電パターンは、前記ノズル列の長手方向に沿う中央部で隣り合う二つのノズルの間を通して配線されているとともに、前記第1の電極の前記配線部は、前記第1の通電パターンと交差するように前記ノズル列に沿って延びているインクジェットヘッド。
【請求項12】
請求項11の記載において、前記第2の通電パターンは、前記第1の通電パターンから離れた位置で前記ノズル列が延びる方向に沿って互いに間隔を存して並んでいるインクジェットヘッド。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか一項に記載されたインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
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【図6】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2013−78933(P2013−78933A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−161723(P2012−161723)
【出願日】平成24年7月20日(2012.7.20)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月20日(2012.7.20)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
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