説明

インクジェットヘッドのインク流路構成

【課題】高速記録を行なっても昇温を抑え画質が劣化しないインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】液体の吐出口列を有する素子基板14にインクを供給する該素子基板14の支持プレート18内の開口部に、複数の梁36構造を持つ。このように開口部内に梁36を設けたことにより、該梁36の内部に熱移動手段を埋め込んだ構成が可能となる。熱移動手段としてはヒートパイプを埋め込む方法や、梁の内部に流路を設け水などを流す方法等がある。これにより素子基板14が発熱しても素子基板14に熱が蓄積されるのを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吐出口を複数有し液体を吐出して記録を行なう液体吐出ヘッド、該液体吐出ヘッドを用いた液体吐出装置、および該液体吐出装置を出力手段とする記録装置に関する。
【0002】
また本発明は紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の被記録媒体に対し記録を行うプリンター、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサ等の装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業用記録装置に適用できる発明である。
【0003】
なお、本発明における、「記録」とは、文字や図形等の意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を付与することをも意味するものである。
【背景技術】
【0004】
従来、インクジェット記録装置は、ランニングコストが安く、装置の小型化も可能であり、さらに、複数色のインクを用いてカラー画像記録に対応することも容易であることから、コンピュータ関係の出力機器等に幅広く利用され、商品化されている。
【0005】
一方、記録ヘッドの吐出口からインクを吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子としては、ピエゾ素子などの電気機械変換体を用いたもの、レーザーなどの電磁波を照射して発熱させ、この発熱による作用でインク滴を吐出させるもの、あるいは、発熱抵抗体を有する電気熱変換素子によって液体を加熱させるもの等がある。
【0006】
とりわけ、熱などのエネルギーをインクに与えることで、インクに急峻な体積変化を伴う状態変化(気泡の発生)を生じさせ、この状態変化に基づく作用力によって吐出口からインクを吐出し、これを被記録媒体上に付着させて画像形成を行なうインクジェット記録方法、いわゆるバブルジェット(登録商標)記録方法が従来から知られている。このバブルジェット(登録商標)記録方法を用いる液体吐出ヘッドには、特公昭61−59911号公報や特公昭61−59914号公報に開示されているように、インクを吐出するための吐出口と、この吐出口に連通するインク流路と、インク流路内に配されたインクを吐出するためのエネルギー発生手段としての発熱体(電気熱変換体)とが一般的に設けられている。このバブルジェット(登録商標)記録方法によれば、品位の高い画像を高速、低騒音で記録することができるとともに、この記録方法を用いる液体吐出ヘッドではインクを吐出するための吐出口を高密度に配置することができるため、小型の装置で高解像度の記録画像、さらにカラー画像をも容易に得ることができるなどの多くの優れた点を有している。このため、このバブルジェット(登録商標)記録方法は、プリンター、複写機、ファクシミリなどの多くのオフィス機器に適用されており、さらに、捺染装置などの産業用システムにまで利用されるようになってきている。
【0007】
なお、上述したインクの吐出方式においては、電気熱変換素子が配列された素子基板の主面に対して平行にインクを吐出させるエッジシュータ方式と、電気熱変換素子が配列された素子基板の主面に対して垂直にインクを吐出させるサイドシュータ方式が知られている。このようなインクジェット記録に用いられる従来の記録ヘッドとしては、例えば図5に示すように、電気熱変換素子(図示せず)が設けられた素子基板101と、インク吐出口104が設けられたオリフィス形成部材102と、素子基板101を支持するプレート103とを備えて構成されているものがある。この従来の記録ヘッドにおいては、素子基板101の主面上に、オリフィス形成部材102が形成されており、このオリフィス形成部材102のインク吐出口104に対応する位置に電気熱変換素子が設けられ、また、素子基板101に、インク流路を介して電気熱変換素子側にインクを供給するためのインク供給口105が設けられている。また、プレート103に、素子基板101のインク供給口105に対応する位置に、インク供給口105にインクを供給するためのインク供給用の開口部106が設けられている。そして、素子基板101とプレート103は、接着剤等で接合されて、インク供給口105とインク供給用の開口部106が連通されている。
【0008】
インク吐出口列を3列有する場合の模式図を図4に示す。図4(a)A-A断面が図5に対応している。模式図においてはオリフィス形成部材102とインク供給口105は省略している。また、吐出口104も概略の形で描かれている。3列のそれぞれの吐出口列に対応した開口部がプレート103にありインクを供給している。図4(b)は中央部の断面図であり、図4(c)は端部の断面図である。図に示すようにプレート103にある開口部106は中央付近が深く構成されている。
【特許文献1】特公昭61−59911号公報
【特許文献2】特公昭61−59914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、近年、記録速度を高速化する要求に伴って、記録ヘッドは、より多数のインク吐出口を設けるために、素子基板のノズル列の長手方向に対応する素子基板の長手方向の長さが、0.5インチから1インチに長くされ、更にそれ以上に延長されつつある。このような記録ヘッドにおいてはヘッドの発熱が大きく、素子基板及び該基板周辺の温度上昇が大きくなり、さらに素子基板上の記録ノズルの中央部と端部の温度差も大きくなるため、記録濃度が変化したり吐出が不安定になり記録画像の品位が悪化する問題があった。
【0010】
そこで本発明の目的は、記録素子基板の熱拡散を好適にする構成の記録ヘッド及び該記録ヘッドを用いた記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するため、本発明に係る液体吐出ヘッドは、液滴を吐出させるためのエネルギを発生する複数の吐出エネルギ発生素子からなる一列または複数列の吐出エネルギ発生素子列と、この吐出エネルギ発生素子側に液体を供給するための供給口とを有する素子基板と、素子基板の供給口に連通される開口部を有して素子基板を支持する支持部材とを備え、支持部材の主面上に、素子基板が当接されて配置されている。そして、該支持部材の内部に設置された該素子基板の供給口に連通される該開口部に梁を複数設けた構成とするものである。また本構成により該素子基板の供給口に連通される該開口部に設けた梁の内部に熱伝達手段を設置し熱の移動を促進する構成を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
上述した本発明によれば吐出エネルギ発生素子列を有する素子基板の支持プレートの開口部内に梁を複数もうけたので、熱の拡散が良好になり温度分布を平坦にし、ピーク温度を低下させる効果がある。複数列の吐出エネルギ発生素子列を有する場合は効果がより顕著である。また本構成により吐出エネルギ発生素子列を有する素子基板の支持プレートの開口部内に梁を複数もうけたので該梁の内部に熱移動手段を設けることができるようになり、液冷管やヒートパイプを設置することにより更なる効果を得ることができる。よって昇温が抑えられ、温度分布が平坦になるので、記録画像の品質向上に大いに寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係る記録ヘッドは、インクジェット記録方式の中でも特に、液体のインクを吐出するために利用されるエネルギとして熱エネルギを発生する手段を備え、その熱エネルギによってインクの状態変化を生起させる方式が採用された記録ヘッドである。この方式が用いられることにより、記録される文字や画像等の高記録密度化および高精細化を達成している。特に本実施形態では、熱エネルギを発生する手段として発熱抵抗素子を用い、この発熱抵抗素子によりインクを加熱して膜沸騰させたときに発生する気泡による圧力を利用してインク滴を吐出しており、いわゆるバブルジェット(登録商標)方式のサイドシュータ型として構成されている。
【0015】
本実施例では3組のノズル列を有する場合について説明する。
【0016】
素子基板14は、厚さ0.2mm〜1mm程度のSiによって形成されている。
【0017】
素子基板14は、図6に示すようにインクをそれぞれ吐出する3組のノズル列24を有している。素子基板14の各ノズル列24には、3つのインク供給口25がそれぞれ並列して設けられている。素子基板14には、各インク供給口25を間に挟んだ両側に、複数の発熱抵抗素子26がそれぞれ設けられている。素子基板14には、インク流路として貫通されて設けられた長溝状の3つのインク供給口25が、Siの結晶方位を利用した異方性エッチングやサンドブラスト等の加工処理によってそれぞれ形成されている。また、素子基板14には、各インク供給口25を挟んで対向する両側に、複数の発熱抵抗素子が各ノズル列24毎に互いにピッチをずらした千鳥状に配列されている。素子基板14には、各発熱抵抗素子26と、これら発熱抵抗素子26に電力を供給するAl等からなる接続配線が、成膜加工によってそれぞれ形成されている。さらに、素子基板14の主面上には、長手方向の両端部に、接続配線に電力を供給するための電極部28がそれぞれ設けられている。これら電極部28には、Au等からなる複数のバンプ接点29が形成されている。これらの接点は図示しない配線部材に接続され図示しない制御回路との信号のやり取りを行なう。また、素子基板14の主面上には、各発熱抵抗素子26に対応するインク流路を構成する複数のインク流路壁31とインク吐出口33とがそれぞれ設けられたオリフィス形成部材17が、樹脂材料によるフォトリソグラフィ加工によって形成されている。オリフィス形成部材17には、複数のインク吐出口33が配列された吐出口群が設けられている。そして、素子基板14には、各発熱抵抗素子26に対向する位置に、複数のインク吐出口33がそれぞれ設けられているため、各インク供給口25からインク流路を介して供給された各インクが、各発熱抵抗素子26によって発生された気泡により各インク吐出口33からインク滴としてそれぞれ吐出される。
【0018】
図1は本発明の開口部の構成を示す模式図である。図中プレート18は、アルミナ(Al2O3)によって平板状に形成されており、プレート18には、素子基板14のインク供給口25(模式図では省略)に連通されてインクを供給するインク供給用の開口部35が設けられている。図1(a)は吐出口中心の列方向断面図であり、開口部内に開口部を横切るように梁36が設置されている。本実施例では梁は2つである。図1(b)は中央部、図1(c)は端部の列に直角方向の断面図である。上述のようにプレート18の開口部内にそれぞれ開口部を横切るように梁36を複数設けた構成である。
【0019】
上記実施例のように開口部内に梁を設けたことにより、該梁の内部に熱移動手段を埋め込んだ構成が可能となる。該梁の内部に熱移動手段を埋め込んだ構成を次に示す。
【0020】
図2は熱移動手段としてヒートパイプを設置した例である。プレート18の開口部内の梁36の内部にヒートパイプ40を埋め込む。
【0021】
図中ヒートパイプの端部が露出しているが完全に内部に埋め込んでも良い。また、図示しないヒートシンクや別な熱移動手段に接続することもできる。
【0022】
図3は熱伝移動段として液流路を設ける場合の構成例である。プレート18の開口部35内の梁36の内部に流路を設け水などの液体を流す。
【0023】
液流路の流入流出先は図示しないが、ポンプなどの循環手段やヒートシンク等の冷却手段に接続されるのが通例である。
【0024】
熱移動手段はこの他にも熱伝導の良い材料などが考えられこの限りではない。またヘッドの構成もこの限りでなく複数の素子基板を組み合わせたり、吐出口列の数も1列以上いくつでも可能である。
【0025】
本発明は吐出口列が長い場合に特に有効であり吐出口列の長さに制限はなく、長さに応じて梁を多数設けることができる。
【0026】
以上のように本発明により記録により素子基板が発熱しても素子基板に熱が蓄積されるのを抑制することができ、記録K画像品位の向上に大いに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明インクジェットヘッドの梁構成の一例の模式図。
【図2】ヒートパイプを有する一例の模式図。
【図3】液冷管を有する一例の模式図。
【図4】図5従来例の模式図。
【図5】素子基板と開口部従来例の断面図。
【図6】素子基板の詳細図。
【符号の説明】
【0028】
14 素子基板
18 支持プレート
25 インク供給口
35 開口部
36 梁
40 ヒートパイプ
41 水冷管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出させるためのエネルギを発生する一列または複数列の吐出エネルギ発生素子列と、この吐出エネルギ発生素子側に液体を供給するための供給口とを有する素子基板と、素子基板の供給口に連通される開口部を有して素子基板を支持する支持部材と、を備え、支持部材の主面上に、素子基板が当接されて位置し
該素子基板の供給口に連通される開口部に内部を横切る梁を複数設けたことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記素子基板の供給口に連通される前記開口部に設けた梁を複数有する前記支持部材の該梁の内部に熱移動手段を有することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記熱移動手段はヒートパイプであること特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記熱移動手段は液冷手段であること特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−301730(P2007−301730A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129213(P2006−129213)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】