説明

インクジェットヘッド及びその製造方法

【課題】インクジェットヘッドのイオンマイグレーション耐性を向上させる。
【解決手段】吐出ダイ17は、吐出口、圧電素子、プリント配線パターン、駆動IC、第1端子部32を有する。フレキシブル配線回路基板12は、第2端子部34を有し、この第2端子部34が吐出ダイ17の第1端子部32に接合される。第2端子部34の銅または銅合金配線の表面には、1,2,3トリアゾールまたは/および1,2,4トリアゾールを含む処理液を接触させて、銅イオン拡散抑制皮膜77を形成する。第1端子部32に第2端子部34を接合し、これらを電気的に接続する。銅イオン拡散抑制皮膜77により銅イオンが拡散することがなく、銅イオンによるマイグレーションの発生が抑えられる。マイグレーションの発生に起因する誤動作がなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンタにおいても高機能化が進み、一部の機種では、オフセット印刷に迫る高画質な解像度、例えば1200dpiの出力解像度が要求されている。高解像度を実現するためには、吐出口やインクを吐出するための圧電素子などのアクチュエータを高密度に実装することが求められる。例えば、特許文献1では、半導体処理技法によりノズルやインク流路、ポンプ室、圧電素子などを有する吐出ダイを製造することにより、吐出口の高密度な実装を実現している。
【0003】
吐出ダイ内には、ポンプ室及び吐出口を有するインク流路が形成され、吐出口は吐出ダイの下面に開口する。吐出ダイの上面には、前記ポンプ室に対応する位置で圧電素子などのアクチュエータ、このアクチュエータを駆動する配線回路パターンが形成される他に、アクチュエータを駆動するための集積回路も実装される。このように、吐出口を高密度に実装する場合には、アクチュエータを駆動する電気信号を送るための配線回路パターンも高密度になる。
【0004】
吐出ダイの配線回路基板には、互いの端子部同士を合せるようにして、半田や異方性導電接着剤などの接合材により、フレキシブル配線回路基板が接合されて、電気接続部が構成される。フレキシブル配線回路基板は、例えばポリイミド(PI)製の絶縁層(基材シート)に銅配線を形成したもので、端子部を除く領域は、接着層を介してPI製の保護層が接着される。このフレキシブル配線回路基板によって電気信号がダイ側の配線回路パターンに入力され、アクチュエータを個別に駆動することで、インクが吐出される。
【0005】
インクジェットヘッドの構造上、前記電気接続部近傍を、水やインク、及びインクを除去するための溶剤などの液体が通過する。したがって、液体がフレキシブル配線回路基板の接続部へと侵入すると、駆動時に配線間にイオンマイグレーションが発生し、回路間でのショートを引き起こす懸念がある。特に、配線間が100μm未満の狭いピッチになると、イオンマイグレーションしやすくなり、絶縁に対する要求性能が高くなる。
【0006】
フレキシブル配線回路基板は可撓性を考慮し、保護層と接着剤の厚みが50μm未満程度の薄さのものを使用している。フレキシブル配線回路基板の配線は非常に薄い樹脂でのみ保護されている状態であるため、長期間の使用においては吸湿によるイオンマイグレーションが問題となる。
【0007】
イオンマイグレーションとは、電極間に電界が発生している(電位差がある)状態で水分が存在すると、水分が媒体となって金属イオンが移動する現象である。このイオンマイグレーションが発生すると、本来の電気的回路とは異なる部分で短絡を起こす。この短絡は、本来予期しない部分での導通となるため、製品の動作不良や最悪の場合には製品の故障を引き起こす。特に配線間が100μm未満の狭ピッチになるとイオンマイグレーションが起こりやすくなり、絶縁に対する要求性能は高くなる。
【0008】
特に、インクジェットヘッドにおいては、フレキシブル配線回路基板の保護層の端部については、銅配線は接着剤のみで保護されている状態であるため、構造上最もマイグレーション耐性が弱い。イオンマイグレーション耐性が弱いと、駆動時にイオンマイグレーションが発生し、回路間での短絡を引き起こす懸念が高くなる。短絡が発生すると正しく描画することができない他に、画質悪化といった印刷不良や故障が発生する。したがって、イオンマイグレーション耐性を向上させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7052117号明細書
【特許文献2】特開2008−126629号公報
【特許文献3】特開平9−64493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
インクジェットヘッド用のフレキシブル配線回路基板におけるイオンマイグレーション防止方法としては、一般には液体が侵入することがないように、封止材を盛ることが考えられる。しかし、封止材には様々な性能が要求され、満足のいく封止材の選定・開発には長い開発期間が必要と考えられる。また、封止材内を湿気が時間を経て侵入することも考えられるので、吸湿性・透湿性が低いもの(耐湿性が高いもの)が必要である。しかも構造上、応力がかかることがあり、柔軟性も要求される。さらに、インクジェットヘッドでは、インクを除去するために溶剤を使用することがあり、溶剤耐性も要求される。長期的には封止材は溶剤で劣化してしまうため、封止材が持つ耐湿性も同時に劣化してしまい、封止材のみではイオンマイグレーションを防止することができない。このため、フレキシブル配線回路基板自体での耐性が必要となる。
【0011】
例えば特許文献2に開示されているように、フレキシブル配線回路基板の保護層上に、金などの無機材料を有する保護フィルムを貼り、イオンマイグレーションを防止する方法がある。これによって、外部からの水分の侵入を防止し、配線間のイオンマイグレーションの発生を抑制することができると考えられる。
【0012】
また、例えば特許文献3に開示されているように、周囲のベース剤や接着剤に銅が拡散することがないように、銅配線に導電性皮膜を形成し、イオンマイグレーションを防止する方法がある。この方法では、樹脂材料を透過した水分が直接に銅配線を腐食させることはないため、イオンマイグレーションの発生を抑制することができる。
【0013】
しかしながら、特許文献2の場合には、無機材料からなる保護フィルムを精度良く貼ることは困難である。したがって、先端に隙間ができることがあり、この隙間による欠損部分から液体が侵入し、イオンマイグレーション耐性が低下するという懸念がある。また、保護層の端部を保護フィルムで完全に覆うようにすると、構造上ダイ側の配線回路基板に干渉してしまい、電気接続部が正しく接続されないおそれがある。
【0014】
また、特許文献3の場合には、銅配線を形成する際に、その工程途中で、銅配線とマスク層との隣接領域に数μm程度の隙間を形成するための再露光・現像処理工程や、この隙間に対してニッケル皮膜からなる導電性皮膜を形成する工程が必要となり、複雑且つ煩雑な工程処理となる他に、コストアップが懸念される。
【0015】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、配線間が狭ピッチであるフレキシブル配線回路基板の接続部構造において、水分や溶剤に対して高い耐性を持ち、イオンマイグレーションの発生を防止することできるインクジェットヘッド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、インクを吐出するための素子、前記素子を駆動させる配線回路、前記配線回路に駆動信号を入力する第1端子部が形成されたノズル付配線回路基板と、前記第1端子部に電気的に接続される第2端子部を有するフレキシブル配線回路基板とを有するインクジェットヘッドにおいて、前記第2端子部は、銅または銅合金配線と、前記銅または銅合金配線の表面に形成され、1,2,3トリアゾールまたは/および1,2,4トリアゾールを有する銅イオン拡散抑制皮膜とを有することを特徴とする。なお、前記第1端子部と第2端子部との接合部分を外側から覆うように封入される樹脂製封止部を有することが好ましい。また、前記第1端子部の銅または銅合金配線に対し、銅イオン拡散抑制皮膜を有することが好ましい。前記ノズル付き配線回路基板及び前記フレキシブル配線回路基板の銅または銅合金配線に対し、銅イオン拡散抑制皮膜を有することが好ましい。
【0017】
また、本発明は、インクを吐出するための素子、前記素子を駆動させる配線回路、前記配線回路に駆動信号を入力する第1端子部が形成されたノズル付配線回路基板と、前記第1端子部に電気的に接続される第2端子部を有するフレキシブル配線回路基板とを有するインクジェットヘッドの製造方法において、前記第2端子部を構成する銅または銅合金配線に、1,2,3トリアゾールまたは/および1,2,4トリアゾールを含む処理液を接触させ、次に前記処理液を溶剤で洗浄して前記銅または銅合金配線の表面以外の処理液を除去し、前記銅または銅合金配線の表面に銅イオン拡散抑制皮膜を形成する皮膜形成工程と、前記皮膜形成工程を経たフレキシブル配線回路基板の前記第2端子部を前記第1端子部に接合する接合工程と、前記接合工程により接合された前記第1端子部と第2端子部との接合部分を外側から覆うように樹脂を封入する封止工程とを含むことを特徴とする。なお、前記皮膜形成工程の前に、前記銅または銅合金配線に、銅または銅合金以外の金属メッキを施すメッキ工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フレキシブル配線回路基板の第2端子部の銅または銅合金配線に、1,2,3トリアゾールまたは/および1,2,4トリアゾールを有する銅イオン拡散抑制皮膜を有することにより、簡単な構成によって、イオンマイグレーション耐性を付与することができる。また、イオンマイグレーション耐性に優れたインクジェットヘッドをコストマップすることなく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】インクジェットヘッドを示す全体斜視図である。
【図2】インクジェットヘッドを分解して示す斜視図である。
【図3】吐出ダイの斜視図である。
【図4】吐出ダイとヘッド本体の一部を示す断面図である。
【図5】吐出ダイとフレキシブル配線回路基板との接続を示す分解斜視図である。
【図6】インクジェットヘッドを切り欠いて示す斜視図である。
【図7】本発明の製造方法を示すフローチャートである。
【図8】フレキシブル配線回路基板の接続状態を示すもので、(A)はフレキシブル配線回路基板の底面図、(B)はフレキシブル配線回路基板と吐出ダイの配線回路基板との接合を示す断面図、(C)は吐出ダイの配線回路基板の平面図である。
【図9】フレキシブル配線回路基板の電気接合部を示す斜視図である。
【図10】フレキシブル配線回路基板を示す図9における X−X 線相当の断面図である。
【図11】処理液接触工程を経たフレキシブル配線回路基板を示すもので、絶縁層の表面に処理液膜が形成された状態を示す図9における X−X 線相当の断面図である。
【図12】洗浄工程・乾燥工程を経たフレキシブル配線回路基板を示すもので、銅配線の表面に銅イオン拡散抑制皮膜が形成された状態を示す図9における X−X 線相当の断面図である。
【図13】他の実施形態におけるフレキシブル配線回路基板を示すもので、銅配線にメッキ層が形成された状態を示す図9における X−X 線相当の断面図である。
【図14】同じく、洗浄工程・乾燥工程を経たフレキシブル配線回路基板を示すもので、絶縁層の表面に処理液膜が形成された状態を示す図9における X−X 線相当の断面図である。
【図15】同じく、洗浄工程・乾燥工程を経たフレキシブル配線回路基板を示すもので、銅配線の表面に銅イオン拡散抑制皮膜が形成された状態を示す図9における X−X 線相当の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示すように、インクジェットヘッド10は、ヘッド本体11、1対のフレキシブル配線回路基板12、1対の取付枠13から構成される。図2に示すように、ヘッド本体11は矩形体状に形成され、上部にチューブ接続ノズル15が、下部に吐出ダイ17が形成される。チューブ接続ノズル15は供給用と回収用の2本が形成され、不図示のインクジェットプリンタに実装されたときに、インク供給タンク及びインク回収タンクからのインクチューブがそれぞれ接続される。
【0021】
ヘッド本体11の両側部には、フレキシブル配線回路基板12が取り付けられる。また、このフレキシブル配線回路基板12を保護するようにヘッド本体11の両側部に、取付枠13が接合される。フレキシブル配線回路基板12及び取付枠13の接合は、例えば2液タイプの接着剤が用いられる。
【0022】
図3に示すように、吐出ダイ17は平行四辺形状の板部材からなる。図4に示すように、内部にはインク流路21が形成され、このインク流路21の一部にポンプ室22が形成される。このポンプ室22に対応する位置で薄膜23を介し上部には、圧電素子24が形成される。圧電素子24は薄膜23を変形させ、ポンプ室22の容量を変化させる。この変形によって、吐出口25からインク滴が吐出する。
【0023】
図5に示すように、吐出ダイ17の上部には、圧電素子24の他に、インク通路開口30、駆動IC31、フレキシブル配線回路基板接続用の第1端子部32が形成される。圧電素子24はプリント配線パターン33を介し駆動IC31に接続される。駆動IC31は第1端子部32に接続される。この第1端子部32には、フレキシブル配線回路基板12の第2端子部34が電気的に接続される。
【0024】
図6に示すように、フレキシブル配線回路基板12の取り付け後に、吐出ダイ17の上面を覆うように、支持体35やハウジング36、仕切り板37などが被せられて、これらが接着剤にて固着され、ヘッド本体11が形成される。
【0025】
ヘッド本体11は、仕切り板37を挟むようにハウジング36を両側から取り付けて構成される。この仕切り板37によってヘッド本体11内にはインク入口室40及びインク出口室41が形成される。さらに、各室40,41には、各室40,41の対角線方向にステンレス製のフィルタ42,43が収納される。
【0026】
図4に示すように、フレキシブル配線回路基板12は支持体35の両側の湾曲部35aに沿って密着し、90°に折り曲げられて、ヘッド本体11の両側面に沿うように配置される。なお、図4は、微小な圧電素子24や駆動IC31を図示するために、高さ方向に誇張して記載しており、図6に切り欠いて示す全体の断面図とは寸法的には対応していない。
【0027】
次ぎに、図2に示すように、ヘッド本体11の両側から取付枠13によりヘッド本体11を挟むようにし、例えば2液混合タイプの接着剤を用いて、ヘッド本体11、フレキシブル配線回路基板12、取付枠13が固着され一体化される。
【0028】
図4に示すように、一体化されたヘッド本体11の吐出ダイ17と取付枠13との隙間45には、封止用の接着剤46が充填され、封止部47が形成される。接着剤46としては、エポキシ接着剤、ウレタン接着剤、シリコン系接着剤、フッ素ゲル系接着剤などの重合の進行に温度依存性がある2液タイプ(主剤と可塑剤(硬化剤))のものを用いる。本実施形態では、耐薬品性及び耐久性に優れる信越化学工業製のSIFELというフッ素ゲル系の接着剤46を用いている。
【0029】
フレキシブル配線回路基板12は、図示しない制御回路に接続される。そして制御回路からの駆動信号がフレキシブル配線回路基板12、駆動IC31に送られる。駆動IC31では、制御信号に基づき圧電素子24の駆動信号を生成して、各圧電素子24を個別に駆動する。これにより各吐出口25から駆動信号に応じたインク滴が吐出される。インク滴は不図示の記録材料に主走査方向に記録され、インク滴の吐出に応じて記録材料が主走査方向に交差する副走査方向に移動するため、記録材料には画像が記録される。
【0030】
吐出ダイ17において各吐出口25は、主走査方向に沿う行方向と、主走査方向に対して直交せずに一定の交差角度を有する斜めの列方向とに沿って千鳥状に隣接するもの同士をずらしてマトリックスに配置される。これにより、吐出口25の高密度実装が可能になり、複数の吐出口列によって例えば1200dpiでの出力解像度で画像が記録される。
【0031】
図5に示すように、吐出ダイ17にはヘッド本体11(図4参照)を組み立てる前に、吐出ダイ17の第1端子部32に、フレキシブル配線回路基板12の第2端子部34を重ね合わせて、両者が加熱圧着されることにより、半田付けされる。
【0032】
図7に示すように、フレキシブル配線回路基板12の接続に際しては、大きく分けて、フレキシブル配線回路基板12に対し銅イオン拡散抑制皮膜77を形成する皮膜形成工程S1、接合する配線回路基板同士を位置合せする位置合せ工程S2、位置合せした後に圧着加熱する圧着加熱工程S3を順に行い、フレキシブル配線回路基板12と配線回路基板55とを接合する。これらの各工程S1〜S3により、図8に示すように、第1端子部32及び第2端子部34が加熱圧着されて半田付けされる。
【0033】
図8及び図9に示すように、フレキシブル配線回路基板12は、PI製の絶縁層71に銅配線73を形成したもので、第1端子部32を除く領域は、接着層74を介してPI製の保護層75が接着される。なお、銅配線73は銅製の他に銅合金製であってもよい。絶縁層71は例えば25μmの厚みであり、銅配線73は12μm、接着層74は17.5μm、保護層75は12.5μmの厚みである。なお、端子部32,34の表面には、これらの接合を容易に行うために、半田、金錫などのメッキ層(図示省略)が形成される。これらメッキ層は、加熱圧着による接合時に溶けて端子部32,34と一体化される。
【0034】
皮膜形成工程S1では、図10〜図12に示すように、フレキシブル配線回路基板12の銅配線73に対し、銅イオン拡散抑制皮膜77を形成する。図8に示すように、フレキシブル配線回路基板12は、基板本体となる絶縁層71と、この絶縁層71上に配置される銅配線73と、この銅配線73の一部が露出するように銅配線73を覆う保護層75と、保護層75を接着するための接着層74とを有する。
【0035】
図7に示すように、皮膜形成工程S1は、液接触工程S11、洗浄工程S12、乾燥工程S13を有する。液接触工程S11では、フレキシブル配線回路基板12の銅配線73が形成されている面に、処理液を例えば塗布により接触させる。洗浄工程S12では、処理液を塗布した後に、溶剤を用いてフレキシブル配線回路基板12に塗布した余剰の処理液を洗浄により除去する。乾燥工程S13では、フレキシブル配線回路基板12に付着した洗浄液を乾燥させる。
【0036】
液接触工程S11で用いる処理液は、1,2,3−トリアゾール、または1,2,4トリアゾール(以下、両者の総称としてアゾール化合物とも称する)を含む液から構成される。なお、両者を混合したものであってもよい。本発明では、上記アゾール化合物を使用することにより所定の効果が得られており、例えばアミノトリアゾールを代わりに使用した場合には所望の効果が得られない。
【0037】
処理液中におけるアゾール化合物の総含有量は特に制限されないが、銅イオン拡散抑制皮膜77の形成のし易さ、及び銅イオン拡散抑制皮膜77の付着量制御の点から、処理液全量に対して、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.25質量%以上5質量%以下が特に好ましい。アゾール化合物の総含有量が多すぎると、銅イオン拡散抑制皮膜77の堆積量の制御が困難になる。アゾール化合物の総含有量が少なすぎると、所望の銅イオン拡散抑制皮膜77の堆積量になるまで時間がかかり、生産性が低下する。
【0038】
処理液には溶剤が含まれていてもよい。使用される溶剤は特に制限されず、例えば、水、アルコール系溶剤(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール)、ケトン系溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、アミド系溶剤(例えば、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン)、二トリル系溶剤(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル)、エステル系溶剤(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル)、カーボネート系溶剤(例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)、エーテル系溶剤、ハロゲン系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は、2種以上混合して使用してもよい。なかでも、フレキシブル配線回路基板の製造における安全性の点で、水、アルコール系溶剤が好ましい。特に、溶剤として水を使用すると、基板と処理液を接触させる際に浸漬法を採用する場合に、特異的にアゾール化合物が銅配線表面に自己堆積し易いことから、好ましい。処理液中における溶剤の含有量は特に制限されないが、処理液全量に対して、90質量%以上99.99質量%以下が好ましく、95質量%以上99.99質量%以下がより好ましく、95質量%以上99.75質量%以下が特に好ましい。
【0039】
一方、フレキシブル配線回路基板12の銅配線73間の絶縁信頼性を高める点で、処理液には銅イオンが実質的に含まれていないことが好ましい。過剰量の銅イオンが含まれると、銅イオン拡散抑制皮膜77を形成する際に該皮膜77中に銅イオンが含まれることになり、銅イオンのマイグレーションを抑制する効果が薄れ、銅配線73間の絶縁信頼性が損なわれることがある。なお、銅イオンが実質的に含まれないとは、処理液中における銅イオンの含有量が、1μmol/L(リットル)以下であることを指し、0.1μmol/L以下であるがより好ましく、最も好ましくは0μmol/Lである。
【0040】
フレキシブル配線回路基板の配線間の絶縁信頼性を高める点で、処理液には銅または銅合金のエッチング剤が実質的に含まれていないことが好ましい。処理液中にエッチング剤が含まれていると、フレキシブル配線回路基板と処理液とを接触させる際に、銅配線または銅合金配線がエッチングされ、処理液中に銅イオンが溶出することがある。そのため、結果として、銅イオン拡散抑制皮膜中に銅イオンが含まれることになり、銅イオンのマイグレーションを抑制する効果が薄れ、配線間の絶縁信頼性が損なわれることがある。
【0041】
エッチング剤としては、例えば、有機酸(例えば、硫酸、称賛、塩酸、酢酸、ぎ酸、ふっ酸)、酸化剤(例えば、過酸化水素、濃硫酸)、キレート剤(例えば、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、エチレンジアミン4酢酸、エチレンジアミン、エタノールアミン、アミノプロパノール)、チオール化合物などが挙げられる。また、エッチング剤としては、イミダゾールや、イミダゾール誘導体化合物などのように自身が銅のエッチング作用を持つものも含まれる。なお、エッチング剤が実質的に含まれないとは、処理液中におけるエッチング剤の含有量が、処理液全量に対して、0.01質量%以下であることを指し、配線間の絶縁信頼性をより高める点で、0.001質量%以下であることが好ましい。最も好ましくは、0質量%である。
【0042】
処理液中のpHは特に規定されないが、銅イオン拡散抑制皮膜77の形成性の点から、5以上12以下を示すことが好ましい。なかでも、フレキシブル配線回路基板12中の銅配線73間の絶縁信頼性がより優れる点から、pHは5以上9以下であることが好ましく、6以上8以下であることがより好ましい。処理液のpHが5未満であると、銅配線73から銅イオンの溶出が促進され、銅イオン拡散抑制皮膜77に銅イオンが多量に含まれることになり、結果として銅イオンのマイグレーションを抑制する効果が低下する場合がある。また、処理液のpHが12を超えると、水酸化銅が析出し、酸化溶解し易くなり、結果として銅イオンのマイグレーション抑制効果が低下する場合がある。なお、pHの調整は、公知の酸(例えば、塩酸、硫酸)や、塩基(例えば、水酸化ナトリウム)を用いて行うことができる。また、pHの測定は、公知の測定手段(例えばpHメータ(水溶媒の場合))を用いて実施することができる。また、処理液には、他の添加剤(例えば、pH調整剤、界面活性剤、防腐剤、析出防止剤など)が含まれていてもよい。
【0043】
洗浄工程S12で用いる溶剤としては、銅配線73以外の表面に堆積した余分なアゾール化合物などを除去することができるものであればよく、特に制限されない。溶剤としては、例えば、水、アルコール系溶剤(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール)、ケトン系溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、アミド系溶剤(例えば、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン)、二トリル系溶剤(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル)、エステル系溶剤(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル)、カーボネート系溶剤(例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)、エーテル系溶剤、ハロゲン系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤を、2種以上混合して使用してもよい。なかでも、微細配線間への液浸透性の点から、水、アルコール系溶剤、及びメチルエチルケトンからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む溶剤であることが好ましく、アルコール系溶剤と水の混合液であることがより好ましい。
【0044】
使用される溶剤の沸点(25℃、1気圧)は特に制限されないが、安全性の観点で75℃以上100℃以下が好ましく、80℃以上100℃以下がより好ましい。使用される溶剤の表面張力(25℃)は特に制限されないが、銅配線73間の洗浄性がより優れ、銅配線73間の絶縁信頼性がより向上する点から、10mN/m以上80mN/m以下であることが好ましく、15mN/m以上60mN/m以下であることがより好ましい。
【0045】
液接触工程S11では、フレキシブル配線回路基板12と処理液とを接触させる。図10に示すような、絶縁層71に銅配線73を形成したフレキシブル配線回路基板12に対し、図11に示すように、処理液を接触させて、絶縁層71上の銅配線73や、銅配線73の間の絶縁層71の表面に、アゾール化合物を含む処理液膜76を形成する。処理液膜76にはアゾール化合物が含有され、この含有量は、銅イオン拡散抑制皮膜77中の含有量と同義である。また、その付着量は特に制限されず、後述する洗浄工程S12を経て、所望の付着量の銅イオン拡散抑制皮膜77を得ることができるような付着量であることが好ましい。処理液と絶縁層71との接触方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、ディップ浸漬、シャワー噴霧、スプレー塗布、スピンコートなどが挙げられる。処理の簡便さ、処理時間の調整の容易さから、ディップ浸漬、シャワー噴霧、スプレー塗布が好ましい。また、微小領域への処理液の浸透性を向上させる点で、ディップ浸漬時に超音波処理を行うことが好ましい。接触の際の処理液の液温としては、銅イオン拡散抑制皮膜77の付着量制御の点で、5℃以上60℃以下の範囲が好ましく、15℃以上30℃以下の範囲がより好ましい。接触時間としては、生産性、及び銅イオン拡散抑制皮膜77の付着量制御の点で、10秒以上30分の範囲が好ましく、15秒以上10分の範囲がより好ましく、30秒以上5分の範囲がさらに好ましい。
【0046】
洗浄工程S12では、液接触工程S11で得られたフレキシブル配線回路基板12を溶剤で洗浄して、銅配線73上のアゾール化合物以外の、他の面上のアゾール化合物を除去する。この洗浄によって、銅配線73の露出面にのみアゾール化合物による皮膜77が形成される。具体的には図11に示すように、銅配線73間のアゾール化合物を含む処理液膜76などの余分なアゾール化合物が除去され、銅配線73の露出面にのみアゾール化合物を含む皮膜77が形成される。なお、洗浄工程S12では、フレキシブル配線回路基板12の銅配線73の隙間にあるアゾール化合物を含む膜76が除去されると同時に、図9の保護層75上のアゾール化合物を含む膜(図示せず)も除去される。
【0047】
洗浄方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、液接触工程S11を経たフレキシブル配線回路基板12上に洗浄溶剤を塗布する方法、洗浄溶剤中に接触工程を経たフレキシブル配線回路基板を浸漬する方法などが挙げられる。なお、微小領域への洗浄液の浸透性を向上させる点で、ディップ浸漬時に超音波処理を行うことが好ましい。特に、露出した銅配線73が絶縁層71に支持されている場合には、ディップ洗浄、シャワー洗浄、スプレー洗浄が好ましく、露出した銅配線73の一部が絶縁層71に支持されていない場合には、銅配線73の水圧耐性の観点からディップ洗浄が好ましい。洗浄溶剤の液温としては、銅イオン拡散抑制皮膜77の付着量制御の点で、5℃以上60℃以下の範囲が好ましく、15℃以上30℃以下の範囲がより好ましい。フレキシブル配線回路基板12と洗浄溶剤との接触時間としては、生産性、及び銅イオン拡散抑制皮膜の付着量制御の点で、10秒以上10分の範囲が好ましく、15秒以上5分の範囲がより好ましい。
【0048】
図12に示すように、上記各工程S11〜S13を経ることにより、露出した銅配線73の表面上に、アゾール化合物を含む銅イオン拡散抑制皮膜77が形成される。露出した銅配線73の表面以外の面上においては、アゾール化合物を含む膜76は実質的に除去されていることが好ましい。つまり、実質的に露出した銅配線73の表面上にのみ銅イオン拡散抑制皮膜77が形成されていることが好ましい。なお、銅配線73の表面とは、図12に示すように、基板12と接する下面以外の上面及び側面を意味する。
【0049】
本発明においては、上記の溶剤による洗浄を施した後であっても、銅イオンのマイグレーションを抑制することができる十分な付着量の銅イオン拡散抑制皮膜77を得ることができる。なお、アゾール化合物を含む膜76は、銅と錯体を形成して皮膜となるものであり、基板などの絶縁層上のものは洗浄で洗い流される。よって、銅表面にのみ、銅イオン拡散抑制皮膜77が残る。例えば、ベンゾトリアゾールなどを代わりに使用した場合は、上記溶剤による洗浄によって、大半のベンドトリアゾルが洗い流されてしまい、所望の効果が得られない。また、エッチング剤を処理液に含んだベンゾトリアゾールやエッチング能を持つイミダゾール化合物では、形成有機皮膜中に、銅イオンを含んでしまい、銅イオン拡散抑制能はなく、所望の効果が得られない。
【0050】
銅イオン拡散抑制皮膜77中におけるアゾール化合物の含有量は、銅イオンのマイグレーションをより抑制できる点から、0.1質量%以上100質量%が好ましく、20質量%以上100質量%であることがより好ましく、特に、50質量%以上100質量%が特に好ましい。特に、銅イオン拡散抑制皮膜77は、実質的にアゾール化合物で構成されていることが好ましい。アゾール化合物の総含有量が少なすぎると、銅イオン拡散抑制皮膜77のマイグレーションの抑制効果が低下する。
【0051】
銅イオン拡散抑制皮膜77中には、銅イオンが実質的に含まれていないことが好ましい。銅イオン拡散抑制皮膜77中に所定量以上の銅イオンまたは金属銅が含まれていると、本発明の効果に劣る場合がある。
【0052】
露出した銅配線表面上におけるアゾール化合物の付着量は、銅イオンのマイグレーションをより抑制できる点から、露出した銅配線の全表面積に対して、5×10−9g/mm以上であることが好ましく、1×10−8g/mm以上であることがより好ましい。上記範囲以上であると、銅イオンのマイグレーション効果がより優れる。なお、上限については特に制限されないが、製造上の観点から、1×10−6g/mm以上であることがより好ましい。なお、付着量は、公知の方法(例えば、吸光度法)によって測定することができる。具体的には、先ず水で配線間に存在する銅イオン拡散抑制皮膜を洗浄する(水による抽出法)。その後、有機酸(例えば、硫酸)により銅配線73上の銅イオン拡散抑制皮膜77を抽出し、吸光度を測定し、液量と塗布面積から付着量を算出する。
【0053】
なお、銅配線73の隙間である絶縁層71の表面にはアゾール化合物を含む膜は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で一部アゾール化合物を含む膜が残存していてもよい。
【0054】
乾燥工程S13では、銅イオン拡散抑制皮膜77が形成されたフレキシブル配線回路基板12を加熱乾燥する。フレキシブル配線回路基板12上に水分が残存していると、銅イオンのマイグレーションを促進させるおそれがあるため、乾燥工程S13により水分を除去することが好ましい。なお、乾燥工程S13は任意の工程であり、層形成工程で使用される溶媒が揮発性に優れる溶媒である場合などは、乾燥工程S13は実施しなくてもよい。
【0055】
加熱乾燥条件としては、銅配線73の酸化を抑制する点で、70℃以上120℃(好ましくは、80℃以上110℃以下)で、15秒以上10分間(好ましくは、30秒〜5分)実施することが好ましい。乾燥温度が低すぎる、または乾燥時間が短すぎると、水分の除去が十分でない場合がある。乾燥温度が高すぎるまたは乾燥時間が長すぎると、酸化銅が形成されるおそれがあり、好ましくない。乾燥に使用する装置は特に限定されず、高温槽、ヒーターなど公知の加熱装置を使用することができる。
【0056】
吐出ダイ17の配線回路基板55は、シリコン基板上に銅配線パターンを形成し、配線の最表面に金がメッキされたものを用いるが、これに限るものではない。なお、金メッキに代えて、上記フレキシブル配線回路基板12と同様にして、銅配線または銅合金配線に対してアゾール化合物による銅イオン拡散抑制皮膜を形成してもよい。
【0057】
位置合せ工程S1では、治具を用いて吐出ダイ17の配線回路基板55の第1端子部32とフレキシブル配線回路基板12の第2端子部34との接合すべき各端子同士が対面するように、位置決めされる。
【0058】
圧着加熱工程S2では、位置合せされた状態で両者を圧着・加熱し、第1及び第2端子部32,34同士を半田付けする。これら第1及び第2端子部32,34同士を同じ無機材料を用いて同時に接合することで、接合工程を効率よく1回の操作で行うことができる。圧着加熱では、半田溶融やAuSn共晶といった金属による接合の他に、NCP(Non Conductive Paste)、ACP(Anisotropic Conductive Paste)、ACF(Anisotropic Conductive Film)といった端子部の電気接続が可能な樹脂系接着剤により接合してもよい。NCPは、アンダーフィルの機能を兼ね、接着・絶縁の機能を同時に持つ接続材料である。また、ACP、ACFは、異方性導電フィルムまたはペーストである。また、第1及び第2端子部32,34による電気接続部には、接続信頼性を向上させるために、各端子の間に樹脂を充填してもよい。樹脂の充填は電気接続前でも後でもよい。
【0059】
なお、上記実施形態では、フレキシブル配線回路基板12の銅配線73に対してアゾール化合物を含む処理液を塗布した後に洗浄して、銅配線73に銅イオン拡散抑制皮膜77を形成したが、この他に、図13〜図15に示すように、フレキシブル配線回路基板12の銅配線73に銅とは異なるメッキ皮膜81を形成したものに対して、前記第1実施形態と同じようにアゾール化合物を塗布して塗布液膜82を形成し、銅イオン拡散抑制皮膜83を形成してもよい。この場合には、銅配線73の表面であって、メッキがなされていない部分に対し銅イオン拡散抑制皮膜83が形成されるため、銅イオンに対するマイグレーションの発生を抑制することができる。図13に示すように、銅配線73に対してメッキ工程を行っても、絶縁層に近い部分や、その他の部位であってもピンホール状に、メッキが形成されない部分が発生することが多く、このような非メッキ形成部分に対して、第1実施形態と同様に、銅イオン拡散抑制皮膜83を形成することができる。したがって、メッキ皮膜81を形成する点で工程が増えるものの、メッキ工程で生じるメッキされない部分におけるイオンマイグレーションの発生を抑制することができる。
【0060】
上記実施形態では、フレキシブル配線回路基板12の第2端子部34の銅配線73に対して、アゾール化合物を含む処理液を接触させた後に洗浄して、銅イオン拡散抑制皮膜77を形成しているが、銅イオン拡散抑制皮膜77は第2端子部34以外にも、他のフレキシブル配線回路基板12の銅配線パターンに対して形成してもよい。また、同様にして、吐出ダイ17側の第1端子部のみならず、吐出ダイ17の他の銅配線パターンに対し銅イオン拡散抑制皮膜を形成してもよい。
【0061】
第3実施形態では、図示は省略したが、フレキシブル配線回路基板の全配線パターンに対して、銅イオン拡散抑制皮膜を形成したものである。この場合には、全配線パターンをエッチング等により形成した後に、このフレキシブル配線回路基板に対し、アゾール化合物を含む処理液に接触させて銅イオン拡散抑制皮膜を形成する。この後に、必要に応じて保護層を形成する。また保護層の形成後、または形成前に必要な部品などを配線パターンの取付部位に取り付ける。
【0062】
次に、フレキシブル配線回路基板12におけるイオンマイグレーション抑制効果の評価について説明する。評価方法として、図10に示すように、ポリイミド絶縁層上に銅配線を形成したものを使用した。配線間のピッチは、配線幅が100μmで配線間の幅が100μmとした。評価する部分は保護層が無い銅配線のみを用いた。この基板について、図12に示すように、イオンマイグレーション抑制皮膜77を有するものと、図10に示すように、銅配線73のみのものとで比較を行った。イオンマイグレーションの発生を加速させるために、駆動電圧としてDC32V(ボルト)を印加し、試験の態様によっては高温環境の状態で放置して、イオンマイグレーション発生状況を相対比較した。イオンマイグレーションの発生は、配線間の電流値の測定と、顕微鏡による配線間観察との両方を行うことにより、確認した。配線間電流値の測定は、並んでいる配線に対して、32VとGND(0V)を交互に印加する回路を構成し、この回路に例えば10kΩの抵抗を直接に配置し、その間の電圧を測定することにより、電流値を求めている。短絡が発生すると、電流値が上昇するので、この電流値の上昇を検出することにより、イオンマイグレーションの発生有無を判定する。なお、測定機としては、グラフテック製のデータロガーGL820を使用した。
【0063】
以下の3態様にて試験を行った。
(1)フレキシブル配線回路基板を純水に浸漬。
(2)フレキシブル配線回路基板を、ジエチレングリコールモノブチエーテル系溶剤に浸漬。
(3)フレキシブル配線回路基板を、フッ素系樹脂封止材にて保護した状態で、85℃に保持したジエチレングリコールモノブチルエーテル系溶剤に浸漬。
【0064】
(1)の条件では、銅配線無処理の場合には、9分経過後にイオンマイグレーションが発生したが、本願発明の皮膜を形成したものでは、12分経過後にイオンマイグレーションが発生した。(2)の条件では、銅配線無処理の場合には、4分経過後にイオンマイグレーションが発生したが、本発明の皮膜を形成したものでは、16分経過後にイオンマイグレーションが発生した。(3)の条件では、銅配線無処理の場合には、100時間が経過した後にイオンマイグレーションが発生したが、本発明の皮膜を有するものでは、174時間を経過した後にイオンマイグレーションが発生した。
【0065】
以上のように、(1)の水分侵入、(2)の溶剤侵入、(3)の溶剤による樹脂への影響追加という3態様ともに、本発明の皮膜77を形成したものが、皮膜77を形成しないものに比べて、イオンマイグレーション発生までの時間が延びており、抑制効果があることが確認できた。
【符号の説明】
【0066】
10 インクジェットヘッド
11 ヘッド本体
12 フレキシブル配線回路基板
13 ハウジング
17 吐出ダイ
21 インク流路
22 ポンプ室
24 圧電素子
32 第1端子部
34 第2端子部
55 配線回路基板
72 銅配線
76 処理液膜
77,83 銅イオン拡散抑制皮膜
81 メッキ皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するための素子、前記素子を駆動させる配線回路、前記配線回路に駆動信号を入力する第1端子部が形成されたノズル付配線回路基板と、前記第1端子部に電気的に接続される第2端子部を有するフレキシブル配線回路基板とを有するインクジェットヘッドにおいて、
前記第2端子部は、銅または銅合金配線と、前記銅または銅合金配線の表面に形成され、1,2,3トリアゾールまたは/および1,2,4トリアゾールを有する銅イオン拡散抑制皮膜とを有することを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記第1端子部と第2端子部との接合部分を外側から覆うように封入される樹脂製封止部を有することを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記第1端子部の銅または銅合金配線に対し、銅イオン拡散抑制皮膜を有することを特徴とする請求項1または2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記ノズル付き配線回路基板及び前記フレキシブル配線回路基板の銅または銅合金配線に対し、銅イオン拡散抑制皮膜を有することを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
インクを吐出するための素子、前記素子を駆動させる配線回路、前記配線回路に駆動信号を入力する第1端子部が形成されたノズル付配線回路基板と、前記第1端子部に電気的に接続される第2端子部を有するフレキシブル配線回路基板とを有するインクジェットヘッドの製造方法において、
前記第2端子部を構成する銅または銅合金配線に、1,2,3トリアゾールまたは/および1,2,4トリアゾールを含む処理液を接触させ、次に前記処理液を溶剤で洗浄して前記銅または銅合金配線の表面以外の処理液を除去し、前記銅または銅合金配線の表面に銅イオン拡散抑制皮膜を形成する皮膜形成工程と、
前記皮膜形成工程を経たフレキシブル配線回路基板の前記第2端子部を前記第1端子部に接合する接合工程と、
前記接合工程により接合された前記第1端子部と第2端子部との接合部分を外側から覆うように樹脂を封入する封止工程とを含むことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記皮膜形成工程の前に、前記銅または銅合金配線に、銅または銅合金以外の金属メッキを施すメッキ工程を含むことを特徴とする請求項5記載のインクジェットヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−67066(P2013−67066A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206748(P2011−206748)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】