説明

インクジェットヘッド

【課題】記録画像に濃度ムラを生じにくくする、インクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】本発明のインクジェットヘッドは、複数の種類のインクを吐出するための複数の吐出口列11と、インクの種類に対応して設けられインクを供給するためのインク流路15とを有する。さらに、インク流路15からのインクを吐出口列11に供給するための、吐出口列11ごとに設けられた供給溝13を有する。少なくとも1種類のインクは、インク流路15から分岐した第1分岐流路16と第2分岐流路16とを介して別々の供給溝13に供給されている。また、第1分岐流路16と供給溝13とをつなぐ接続口14と、第2分岐流路16と供給溝13とをつなぐ接続口14の位置が、吐出口列11に沿った方向で異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に用いられる、インクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体に記録を行う記録装置の1つとして、インクを吐出するインクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置がある。インクジェットヘッドの1つの形態として、同一のインクタンクから並列に並んだ複数の吐出口列へ同色のインクを供給するように分岐したインク流路を有する構成が、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1では、このインク流路は、インクタンク側の端部では分岐しておらず、吐出口列側の端部で2つに分岐する分岐流路を有している。このインクジェットヘッドでは、シアンインクとマゼンダインクが各々1つのインクタンクから2つの吐出口列へ供給されるようになっている。イエローのインクが流れるインク流路は分岐していない。
【0003】
各々のインクは、インクタンクからインク流路、供給溝、液室を経て吐出口列へ供給される。同一の吐出口列に属するインク吐出口からは同一色のインク液滴が吐出される。なお、シアンインクとマゼンダインクが流れるインク流路は、吐出口列側の端部で2つに分岐する分岐流路を有するため、このインクジェットヘッドのインク吐出口付近では5つの流路を有することになる。
【0004】
吐出口列は、複数のインク吐出口が1列に並んで構成されており、液室から吐出口列の各インク吐出口にインクが供給されるため、液室は吐出口列に沿った方向の長さとほぼ同じである。一方、分岐流路を含むインク流路の径は、液室の長さに比べると小さい。そのため、吐出口列に沿った方向において、供給溝のインク流路とつながる一方の端の長さは、液室とつながる他方の端の長さに比べると短くなっている。つまり、供給溝の、吐出口列に沿った断面の形状は、略三角形となっている。断面形状が略三角形の供給溝は、断面形状が略四角形など他の形状に比べ、インクの淀み点となる隅部が少ない。そのため、断面形状が略三角形の供給溝は、供給溝内に不要な気泡が滞留しにくい点で優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−86730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、記録速度向上のため、インク液滴の吐出周波数の引き上げと吐出口列の長さの拡大とがなされている。吐出口列の長さの拡大に伴い、液室の長さも長くなっている。一方、インク流路の径は大きく変化していない。そのため、供給溝の、吐出口列に沿った断面の形状は、液室と接する辺(液室側の端面)の両端部の角の角度がより小さくなる。供給溝の、インク流路とつながる部分が吐出口列に沿った方向で中央付近に位置しない場合、特に問題が生じる。具体的には、供給溝の、吐出口列に沿った断面の形状における、液室と接する辺の両端部のうち、角度が小さい方の端部(以降、「小鋭角端部」と称する)付近では気泡が滞留しやすくなる。突発的なインク流阻害要因、例えば供給溝の液室側に、気泡である泡だまり(以下、「先端泡」と称する)があると、記録品位に影響する可能性が生じる。
【0007】
分岐をしないインク流路に接続される供給溝の場合、インク流路が分岐していないため、インクの流速の低下が少ない状態でインク流路から供給溝にインクが供給される。一方、分岐流路に接続される供給溝の場合、インク流路を流れるインクが分岐流路で二分されるため、インクの流速が低下した状態で供給溝にインクが供給される。そのため、先端泡は分岐流路に接続された供給溝の、小鋭角端部付近に先端泡が生じる場合が多い。
【0008】
先端泡は小鋭角端部に対応する位置のインク吐出口付近のインクリフィルを妨げ、インクリフィルが妨げられた付近のインク吐出口から吐出されるインク液滴の体積は減少する可能性がある。
【0009】
またインクジェット記録装置の工場出荷時にインクジェットヘッドのインク流路や吐出口列にインクが存在していない形態(以下、「ドライ形態」と称する)となっている場合がある。この場合、インクジェット記録装置の使用を開始するときに初期動作にて吸引動作などによりインク吐出口からインクを吸引し、インクタンクからインク流路、供給溝、液室を介して吐出口列の各インク吐出口へインクを充填する。その場合、供給溝の小鋭角端部付近に排出が非常に困難な先端泡が発生する場合がある。いったん先端泡が形成されると、供給溝における、小鋭角端部付近の実質的な容積が減少し、小鋭角端部付近におけるインク供給性はますます低下してしまう。
【0010】
ドライ形態から吸引動作などによってインク吐出口までインクを満たす場合、生じる先端泡はインク中に浮いた泡ではなく、先端泡の一部は、まだ乾いた状態のインク供給溝の側面(供給溝の、インク流路と液室をつなぐ面)に付着している。先端泡を排出するためには、一般的に行われる吸引回復動作を行う必要があるが、先端泡はインク中に浮遊する泡ではないため、容易には排出されない。
【0011】
特に、特許文献1のように、同じインク流路から分岐した分岐流路につながる2つの供給溝の小鋭角端部が、吐出口列に沿った方向で同じ位置に配置される場合、小鋭角端部付近のインク吐出口から十分なインクが吐出されない。そのため、高負荷記録の際には記録画像に濃度ムラとして認識されてしまう。
【0012】
そこで本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、供給溝に気泡が生じた場合でも、記録画像に濃度ムラを生じにくくする、インクジェットヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のインクジェットヘッドは、複数の種類のインクを吐出するための複数の吐出口列と、インクの種類に対応して設けられインクを供給するためのインク流路とを有する。さらに、インク流路からのインクを吐出口列に供給するための、吐出口列ごとに設けられた供給溝を有する。また、少なくとも1種類のインクは、インク流路から分岐した第1分岐流路と第2分岐流路とを介して別々の供給溝に供給されている。さらに、第1分岐流路と供給溝とをつなぐ接続口と、第2分岐流路と供給溝とをつなぐ接続口の位置が、吐出口列に沿った方向で異なっている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、供給溝に気泡が生じても、インクが吐出されにくいインク吐出口の位置が、吐出口列に沿った方向において、吐出口列ごとに異なるため、記録画像の濃度ムラを減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】先端泡の発生過程を説明する図である。
【図2】本発明に係るインクジェットヘッドの概略分解斜視図である。
【図3】インク流路から吐出口列までのインクジェットヘッドの構成を示す概略図である。
【図4】一方の記録素子をインク流路側からみた拡大概略図である。
【図5】供給溝の、吐出口列に沿った断面の形状を示す概略図である。
【図6】記録媒体に付着するインクのドットの大きさと位置の関係を示す図である。
【図7】各接続口の位置を変化させた一方の記録素子の例を説明するための図であり、記録素子をインク流路側からみた拡大概略図である。
【図8】4色のインクが吐出される記録素子をインク流路側からみた拡大概略図である。
【図9】マットブラックの吐出口列を2列した状態を説明する、記録素子をインク流路側から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明について説明する前に、吐出口列に沿った断面における、供給溝の液室と接する辺(液室側の端面)の端部のうち、角度が小さいほうの端部である小鋭角端部に気泡である泡だまり(以降「先端泡」と称する)ができやすい理由を、図1を用いて説明する。なお、角度が大きいほうの端部を大鋭角端部とする。また、インク流路と供給溝とがつながる位置は、吐出口列に沿った方向で、中央からずれている。また、吐出口列に沿った方向においてインク流路の径のほうが、吐出口列の長さよりも短い。
【0017】
インク流路15にインクがないドライ形態では(図1(a)参照)、インク吐出口から吸引を始めると不図示のインクタンクにつながるインク流路15を介し供給溝13へインク30が流入をはじめる(図1(b)参照)。やがてインク流の一部は吐出口列11に達するが、その時点では供給溝13全体がインク30で満たされていないため、インク30は吐出口列11の各インク吐出口から外部へ流出せずに、吐出口列11に沿って分流する(図1(c)参照)。同時に、インク流路15から供給溝13の側面に沿ったインク流が進行する。液室12と共に小鋭角端部17を形成する側面13’は他の側面に比べて長いため、側面13’に沿ったインク30が吐出口列11に達する前に、吐出口列11に沿って分流したインク30が小鋭角端部17に達する。すると、吐出口列11に沿って分流したインク30と液室12と共に小鋭角端部17を形成する側面13’に沿って流れたインク30とで供給溝13に残留していた空気が囲まれて気泡が形成され、先端泡19となる(図1(d)参照)。このとき供給溝13はほぼインクで満たされた状態となり、インク吐出口からのインクの吐出が始まり、供給溝13内のインク流の乱れは安定する。
【0018】
インクの充填過程で、角度が大きいほうの端部である大鋭角端部18付近にも孤立した気泡が残るが、インク流入時の供給溝13内の乱流により剥離し、インク30中に浮遊した気泡となり排出される。
【0019】
また、供給溝13に大きな気泡が存在する状態では、インク30の毛管力により、吐出口列11がインク30で閉塞されている(図1(e)参照)。インク30の吐出状態を保つために一般的に行われる吸引回復動作によりインク流路15からインク30が供給されると、インク吐出口からインク30の流出が始まり、それに伴い気泡の一部がインクとともにインク吐出口から押し出される。インク流路15から近い位置のインク吐出口から気泡の一部が排出されていくので、インク流路15から遠い位置である小鋭角端部17付近のインク吐出口からは気泡の一部がなかなか排出されない。そのため、気泡は小さくなりながら小鋭角端部17方向へ移動する(図1(f)参照)。やがて、吸引回復動作で排出しきれなかった気泡が先端泡として小鋭角端部17付近に残る(図1(d)参照)。
【0020】
以下に、添付の図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。なお、同一の機能を有する構成には添付図面中、同一の番号を付与し、その説明を省略することがある。
【0021】
図2は本発明に係るインクジェットヘッドの概略分解斜視図である。図3は、インク流路(または分岐流路)から吐出口列までのインクジェットヘッドの構成を示す概略図である。図4は一方の記録素子を流路(または分岐流路)側からみた拡大概略図である。
【0022】
インクジェットヘッド1は記録ユニット2と、ジョイントシール部材7と、流路プレート6と、インク供給ユニット3とを組み付けてなる。インク供給ユニット3は、独立した複数の種類、本実施形態では4色(シアン:C、マゼンダ:M、イエロー:Y、マットブラック:Bk)のインクタンク9(実際は別々のインクタンクだが、まとめてインクタンク9としている)が搭載される。また、流路プレート6は、各色のインクタンク9から対応する吐出口列11へインクを供給するインク流路15を形成するためのものである。
【0023】
インクタンク9に連通するインク流路15は、インク供給ユニット3と流路プレート6とを超音波溶着することによって形成される。ちなみに、流抵抗を左右する要因の1つである各インクの粘度は2〜3mPa・sである。
【0024】
ジョイントシール部材7は記録ユニット2と流路プレート6との間に、インクの漏洩を防止するために装着される。
【0025】
記録ユニット2には、複数のインク吐出口が1列に並んだ吐出口列11が並列して複数設けられた、2つの記録素子4、5がマウントされている。シアン、マゼンダ、イエローの3色のインク液滴は記録素子4から吐出される。マットブラックは記録素子5から吐出される。
【0026】
各記録素子4、5の吐出口列11からインク流路15(または後述する分岐流路16)までの構成を説明する。インクタンク9から供給されたインクはインク流路15をとおり(後述するがシアン、マゼンダの場合は分岐流路16も通過する)、接続口14を介して供給溝13に導入される。供給溝13に導入されたインクは、液室12を経て、複数のインク吐出口が1列に並んだ吐出口列11の各インク吐出口に送られる。なお、液室12から吐出口列11の各インク吐出口にインクを供給するため、吐出口列11の長さと液室12の長さはほぼ同じである。
【0027】
なお、本発明では、シアン、マゼンダ、イエローのインクが吐出する記録素子4に特徴があるので、以降では記録素子4について説明する。なお、記録素子5の吐出口列は1つであるとし、説明を省略する。
【0028】
ちなみに、5つの供給溝13は記録素子4の投影面積に収まるように設けられる必要があり、また、インク流路15と分岐流路16は互いに干渉しないように配置の制約を受ける。本実施形態の記録素子4は特許文献1の記録素子よりも吐出口列11が長いため投影面積が大きく、特許文献1に比べ、インク流路15と分岐流路16の配置の自由度が増える。一方で必然的に供給溝13が長くなり、特にドライ形態では先端泡が生じやすくなる。そこで、本発明では、接続口14の位置を適宜変化させることでこの問題を解決している。このことを以下で説明する。
【0029】
インクの色と各吐出口列11の位置、および各吐出口列11に沿った方向における各接続口14の位置の関係について図4を用いて説明する。なお、素子4に水平な方向で吐出口列11の配置と供給溝13の配置は同じである。そのため、インクの色と吐出口列11の位置の関係と、インクの色と供給溝13の位置の関係は同じである。上述したように、図4では、記録素子4を流路15(または分岐流路16)側からみた図であるため、供給溝13と吐出口列11として説明する。
【0030】
記録素子4には複数の吐出口列11が設けられており、本実施形態では5つの吐出口列11が設けられている。少なくとも1種類のインク、本実施形態ではシアンインクとマゼンダインクは各々1つのインクタンク9から第1分岐流路と第2分岐流路の2つの分岐流路16を有するインク流路15によって2つの供給溝13にインクが供給される。イエローは1つのインクタンク9からインク流路15によって1つの供給溝13にインクが供給される。
【0031】
なお、以降の説明では、特定の色のインクの流れについて説明する場合は、符号の後ろにシアンの場合はC、マゼンダの場合はM、イエローの場合はY、マットブラックの場合はBkを付与する。例えば、シアンのインク流路の場合「15C」、マゼンダのインク流路の場合「15M」となる。
【0032】
イエローの吐出口列11Yを挟むようにマゼンダの吐出口列11M1、11M2が位置し、マゼンダの吐出口列11M1、11M2の外側には、シアンの吐出口列11C1、11C2がそれぞれ位置する。
【0033】
シアンの流路15Cが分岐した一方の分岐流路16C1は、吐出口列11C1に沿った方向で吐出口列11C1の一方の端部側に位置する接続口14C1に接続される。そして、他方の分岐流路16C2は、吐出口列11C2に沿った方向で吐出口列11C2の他方の端部側に位置する接続口14C2に接続される。
【0034】
イエローのインク流路15Yは、吐出口列11Yに沿った方向で吐出口列11Yの中央からわずかに他方の端部側にずれて位置する接続口14Yに接続される。
【0035】
マゼンダ色の流路15Mが分岐した一方の分岐流路16M1は、吐出口列11M1に沿った方向で吐出口列11M1のほぼ中央に位置する接続口14M1に接続される。そして、他方の分岐流路16M2は、吐出口列11M2に沿った方向で吐出口列11M2の一方の端部側に位置する接続口14M2に接続される。
【0036】
なお、図示していないが、同色インクの2つの吐出口列は、インク吐出口のピッチが互いに1/2ピッチ分ずれており、離れた2つの吐出口列から吐出した液滴は、1つの記録帯のなかで、インク吐出口のピッチの1/2の密度の記録を行う。
【0037】
ここで、供給溝13の、吐出口列11に沿った断面の形状について図5を用いて説明する。いずれの供給溝13も、吐出口列11に沿った断面では、側面が直線状になっている。
【0038】
シアンのインクが供給される一方の供給溝13C1の断面の形状(図5(a)参照)と他方の供給溝13C2(図5(e)参照)の断面の形状を比べると、ともに不等辺三角形になっている。しかしながら、接続口14C1、14C2の位置が互いに異なるため、互いの小鋭角端部17C1、17C2の向きが、吐出口列11に沿った方向で反対になっている。
【0039】
イエローのインクが供給される供給溝13Yの断面の形状(図5(c)参照)は、二等辺三角形からやや偏った小鋭角端部17Yを有する不等辺三角形となっている。上述したように、イエローのインク流路15Yは分岐しないためインクの流速が低減しない状態で供給溝13Yにインクが供給される。そのため、供給溝13Yには先端泡が残りにくい。
【0040】
シアンのインクが供給される一方の供給溝13M1の断面の形状(図5(b)参照)は二等辺三角形になっており、他方の供給溝13M2の断面の形状(図5(d)参照)は、不等辺三角形になっている。断面が不等辺三角形になっている供給溝13M2の小鋭角端部17M2には先端泡が生じ、その付近のインク吐出口では先端泡の影響を受ける可能性がある。一方、断面が二等辺三角形の供給溝13M1には先端泡が比較的残りにくい。これは、供給溝13M1がインクで充填されるまでの供給溝13M1内のインク乱流による泡剥離効果や、インク吐出口からの泡の押し出し効果が供給溝13M1の液室12M1と接する面の両端部に作用するためと考えられる。このことから、断面が不等辺三角形の供給溝13M2に比べて断面が二等辺三角形の供給溝13M1では各インク吐出口から吐出されるインクの量の変動が小さい。
【0041】
次に、本実施形態のインクジェットヘッドによる効果について説明する。図6に、記録媒体に付着するインクのドットの大きさと位置の関係を示す。図6(a)が本実施形態のインクジェットヘッドのシアンの吐出口列11C1、11C2からインクを吐出した場合、図6(b)が従来技術のインクジェットヘッドの吐出口列からインクを吐出した場合である。なお、主走査方向に垂直な方向が、吐出口列11に沿った方向である。
【0042】
仮にシアンの供給溝13C1、13C2双方の小鋭角端部17C1、17C2に先端泡が生じると、高負荷記録の際には各々の小鋭角端部17C1、17C2付近のインク吐出口から吐出されるインク液滴が小さくなる場合がある。しかしながら、シアンの供給溝13C1、13C3の小鋭角端部17C1、17C2は、吐出口列11に沿った方向で互いに吐出口列11の反対の端部側に位置している。そのため、図6(a)のように、記録帯20の一部に小さなドットが集中せず、記録帯20の上下に分散される。また、一方の吐出口列11C1からの先端泡の影響を受けた小さな液滴によるドットは、他方の吐出口列11C2からの、先端泡の影響を受けない液滴によるドットにより補完され、濃度ムラが緩和される。
【0043】
しかしながら、従来技術のように、いずれの供給溝においても小鋭角端部が吐出口列に沿った方向で同じ方向に位置する場合、図6(b)に示すように、小さなドットが記録帯21の一方に集中するため、高負荷記録の際の濃度ムラが顕著になる。
【0044】
次に、2次色形成時の先端泡の影響について説明する。
【0045】
シアンとマゼンダの液滴を重ねて2次色を作る場合、1次色(単色)で説明した上記の図6(a)と同等の液滴の打ち込み量を得るために、各色のインクタンク9から供給されるインク量は、上記の1次色の場合の約1/2である。つまり、高負荷の2次色記録は、各インク供給の観点から見れば、低負荷記録と同じである。そのため供給溝13C1、13C2、13M1、13M2に先端泡が残っていても、液滴体積の変動要因は低減される。その結果、2次色形成の場合は、1次色と同じ打ち込み量を前提とする限り濃度ムラを心配する必要はない。
【0046】
次に、図7を用いて、各接続口14の配置位置を変化させた例について説明する。図7は、各接続口14の位置を変化させた記録素子4の他の実施例における、記録素子4をインク流路側からみた拡大概略図である。
【0047】
本実施例では、シアン、マゼンダの各2つの供給溝13C1、13C2、13M1、13M2の、吐出口列11C1、11C2、11M1、11M2に沿った断面の形状が、全て不等辺三角形となる。具体的には、シアンの一方の供給溝13C1に対応する接続口14C1と他方の供給溝13C2に対応する接続口14C2の位置を、吐出口列11に沿った方向で吐出口列11の中央から一方の端部側と他方の端部側になるように配置する。同様に、マゼンダの一方の供給溝13M1に対応する接続口14M1と他方の供給溝13M2に対応する接続口14M2の位置を、吐出口列11に沿った方向で吐出口列11の中央から一方の端部側と他方の端部側になるように配置する。また、イエローの接続口14Yは、吐出口列11に沿った方向で吐出口列11の中央に配置すればよい。
【0048】
このように接続口14の位置を配置することで、シアンの2つの供給溝13C1、13C2における小鋭角端部17C1、17C2の位置が吐出口列11に沿った方向で互いに吐出口列11の反対の端部側となる。マゼンダ場合も同様である。そのため、上述の実施例と同様に、インクを吐出させたときに記録帯の一部に小さな液滴が集中せず、記録帯の上下に分散されるので、濃度ムラが緩和される。
【0049】
次に、記録素子4から、シアン、マゼンダ、イエローに加えて、フォトブラック(K)の4色が吐出される構成を説明する。図8は、4色のインクが吐出される記録素子4をインク流路側からみた拡大概略図である。シアン、マゼンダ、およびフォトブラックは、分岐流路16からインクが供給溝13に供給されるので、吐出口列11は7つになっている。
【0050】
上述と同様の効果を得るため、シアンの接続口14C1、14C2は吐出口列11に沿った方向で吐出口列11の中央から一方の端部側と他方の端部側にそれぞれ位置するようにする。マゼンダの接続口14M1、14M2も同様である。また、インク流路15Kが分岐し、2つの分岐流路16K1、16K2と接続する接続口14K1、14K2の位置も、吐出口列11K1、11K2に沿った方向で、吐出口列11の中央から一方の端部側と他方の端部側になるようにする。
【0051】
このようにすることで、上述の実施例と同様に、インクを吐出させたときに記録帯の一部に小さな液滴が集中せず、記録帯の上下に分散されるので、濃度ムラが緩和される。
【0052】
図9は、モノクロ記録の高速化のため、マットブラック(Bk)の吐出口列を2列した状態を説明する記録素子4、5をインク流路側から見た概略図である。図9(a)は記録素子5にマットブラックの2つの吐出口列11Bk1、11Bk2を設けた状態、図9(b)は、記録素子5は使用せずに、記録素子4に2つの吐出口列11Bk1、11Bk2を設けた状態である。
【0053】
マットブラックの吐出口列11Bk1、11Bk2の長さを、シアン、マゼンダ、イエローの吐出口列11C、11M、11Yの長さの2倍とする。シアン、マゼンダ、イエローのインク流路15C、15M、15Yは分岐せずに、接続口14C、14M、14Yを介して、供給溝13C、13M、13Yにそれぞれつながっている。
【0054】
マットブラックの吐出口列11Bk1、11Bk2の長さを長くしているため、モノクロ記録を高速で行える一方、小鋭角端部の角度がより小さくなるので、従来技術では、記録画像に濃淡のムラが生じやすい。そこで、マットブラックの供給溝13Bk1、13Bk2につながる2つの接続口14Bk1、14Bk2の位置を吐出口列11に沿った方向で吐出口列11の中央より一方の端部側と他方の端部側となるようにする。接続口14Bk1、14Bk2をこのように配置すれば、小鋭角端部が吐出口列11に沿った方向で互いに吐出口列11の反対の端部側に位置する。そのため、マットブラックでも上述と同様の効果が得られ、記録画像に生じる濃淡のムラが小さくなる。
【0055】
なお、シアン、マゼンダ、イエローが流れるインク流路15C、15M、15Yは分岐していないため、上述したように先端泡の発生が抑えられる。
【0056】
また、図12(b)に示すように、マットブラックの記録素子5とカラーの記録素子4を分割せず、図12(a)で示した記録素子4と記録素子5を1つの記録素子6に一体化することによりインクジェットヘッドの小型化を図ることもできる。
【0057】
以上、説明したように、分岐流路16を介して供給溝13にインクが供給されるとき、同じ色が供給される供給溝13に対応する接続口14の位置を、吐出口列11に沿った方向で吐出口列11の中央より一方の端部方向と他方の端部方向に分けて配置すればよい。なお、接続口14の一方は吐出口列11に沿った方向で吐出口列11の中央付近でも構わない。このようにすることで、インクジェットヘッドからインクを吐出させたときに、インクの吐出されにくい位置が、吐出口列11に沿った方向で1ヶ所に集中せず、分散されるので、記録画像に濃淡が生じにくい。また、本発明のインクジェットヘッドが適応できるインクの種類に限定はない。
【符号の説明】
【0058】
11 吐出口列
13 供給溝
14 接続口
15 インク流路
16 分岐流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の種類のインクを吐出するための複数の吐出口列と、前記インクの種類に対応して設けられインクを供給するためのインク流路と、前記インク流路からのインクを前記吐出口列に供給するための、前記吐出口列ごとに設けられた供給溝と、を有するインクジェットヘッドであって、
少なくとも1種類の前記インクは、前記インク流路から分岐した第1分岐流路と第2分岐流路とを介して別々の前記供給溝に供給されており、
前記第1分岐流路と前記供給溝とをつなぐ接続口と、前記第2分岐流路と前記供給溝とをつなぐ接続口の位置とが、前記吐出口列に沿った方向で異なっている、インクジェットヘッド。
【請求項2】
前記第1分岐流路と前記供給溝とをつなぐ前記接続口が、前記吐出口列に沿った方向で前記吐出口列の中央よりも一方の端部側に位置し、前記第2分岐流路と前記供給溝とをつなぐ前記接続口が前記吐出口列に沿った方向で前記吐出口列の中央よりも他方の端部側に位置する、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記第1分岐流路と前記供給溝とをつなぐ前記接続口が、前記吐出口列に沿った方向で前記吐出口列の中央に位置し、前記第2分岐流路と前記供給溝とをつなぐ前記接続口が前記吐出口列に沿った方向で前記吐出口列の中央ではない位置に位置する、請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記吐出口列に沿った方向の断面において、前記供給溝を形成する前記供給溝の側面が直線状になっている、請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
複数の種類のインクを吐出するための複数の吐出口列と、前記インクの種類に対応して設けられインクを供給するためのインク流路と、前記インク流路からのインクを前記吐出口列に供給するための、前記吐出口列ごとに設けられた供給溝と、を有するインクジェットヘッドによるインクの吐出方法であって、
少なくとも1種類の前記インクがとおる流路を分岐させて、分岐させた流路の一方と他方が前記吐出口列に沿った方向でそれぞれ異なる位置で前記供給溝に接続させることで、前記分岐させた流路の一方から前記インクが供給される前記吐出口列と、前記分岐させた流路の他方から前記インクが供給される前記吐出口列とで吐出されるインクの液滴の大きさを前記吐出口列に沿った方向で変化させる、インクの吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−43428(P2013−43428A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184608(P2011−184608)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】