説明

インクジェットヘッド

【構成】 マイクロマシニング技術により加工したSi基板及び/またはガラス基板を構成部材とし、振動板を変形させるためのギャップ部を金属または半導体の薄膜で形成し、該構成部材間を陽極接合法により接合する。または、ギャップ部をSiと共晶を形成する物質で形成する。
【効果】 ギャップ部の寸法精度が高いことにより、印字品質が優れたインクジェットヘッドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、マイクロマシニング技術を応用して作製した小型高密度のインクジェット記録装置の主要部であるインクジェットヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】インクジェット記録装置は、記録時の騒音がきわめて小さく、また、高速印字が可能であり、安価な普通紙にも印字が可能であるなど多くの利点を有しているが、中でも記録に必要な時にのみインク滴を吐出する、いわゆるインク・オン・デマンド方式が、記録に不要なインク滴の回収を必要としないため、現在主流となってきている。
【0003】このインク・オン・デマンド方式のインクジェットヘッドには、特公平2−51734号公報に示されるように、駆動手段が圧電素子であるものや、特公昭61−59911号公報に示されるように、インクを加熱し気泡を発生させることによる圧力でインクを吐出する方式がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前述の従来のインクジェットヘッドでは以下に述べるような課題があった。
【0005】前者の圧電素子を用いる方式においては、圧力室に圧力を生じさせるためのそれぞれの振動板に圧電素子のチップを貼り付ける工程が煩雑で、特に、最近のインクジェット記録装置による印字には、高速・高印字品質が求められてきており、これを達成するためのマルチノズル化・ノズルの高密度化において、圧電素子を微細に加工し各々の振動板に接着することはきわめて煩雑である。又、高密度化においては、圧電素子を幅数10〜100数十ミクロンで加工する必要が生じてきているが、従来の機械加工における寸法・形状精度では、印字品質のバラツキが大きくなってしまうという課題があった。
【0006】又、後者のインクを加熱する方式においては、駆動手段が薄膜の抵抗加熱体により形成されるため、上記のような課題は存在しなかったが、駆動手段の急速な加熱・冷却の繰り返しや、気泡消滅時の衝撃により抵抗加熱体がダメージを受けることにより、インクジェットヘッドの寿命が短いという課題があった。
【0007】これらの課題を解決するものとして本出願人は、駆動手段として圧力室に圧力を生じさせる振動板を、静電気力で変形させる方式のインクジェット記録装置について特許出願(特願平3−234537号)を行っているが、この方式は小型高密度・高印字品質及び長寿命であるという利点を有している。
【0008】本発明の目的は、静電気力を駆動源とするインクジェットヘッドにおいて、さらに高い印字品質のインクジェットヘッドを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明のインクジェットヘッドは、インクを吐出するための単一、または複数のノズルと、該ノズルのそれぞれに対応する圧力室と、該圧力室の少なくとも一方の壁を構成する振動板と、該振動板に変形を生じさせる駆動手段と、該圧力室にインクを供給する共通のインク室とを備え、前記駆動手段が前記振動板を静電気力により変形させる電極からなるインクジェットヘッドにおいて、前記振動板が形成される第1の基板と前記電極が形成される第2の基板が金属または半導体の薄膜層を介して接合されており、前記第1の基板はSi単結晶からなり、前記第2の基板はSi単結晶またはSi単結晶の熱膨張率と同等の熱膨張率を有するガラスであることを特徴とする。
【0010】Si単結晶は、アルカリ液を用いてエッチングする際、その結晶面方位によりエッチング速度が大きく異なるいわゆる異方性エッチングが可能であり、このことを利用して様々な立体形状を精度良く加工することができる。さらに、これまでIC製造技術において培われてきた、フォトリソグラフィ・薄膜形成・エッチング等の各技術を利用しての加工を組み合わせることによる微小なデバイスを形成する、いわゆる“マイクロマシニング技術”が現在注目を浴びているが、本発明はマイクロマシニング技術によりSi単結晶に様々な加工を施し、高性能なインクジェットヘッドを提供するものである。また、前記第1の基板と前記第2の基板は金属または半導体の薄膜層を介して接合されることを特徴とするが、前記振動板と前記電極の間隔は精度良く保たれ各振動板の振動特性は均一となり、従って均一な印字品質が得られる。
【0011】前記第2の基板がガラスであり、前記金属または半導体の薄膜層が前記第1の基板、すなわちSi基板上に形成される場合は、該第1の基板と該第2の基板は陽極接合法により接合されることを特徴とする。この工程では、前記金属または半導体の薄膜層は変形しないため、前記第1及び第2の基板間は該金属または半導体の薄膜層の厚みだけ隔てられて接合され、すなわち、該金属または半導体の薄膜層の成膜時の膜厚精度と同等の精度で、前記振動板と前記電極の間隔は精度良く保たれる。
【0012】前記第2の基板がSi基板である場合は、前記金属または半導体の薄膜層は前記第1または第2の基板のどちらか一方の上に形成され、または前記第2の基板がガラス基板である場合は、前記金属または半導体の薄膜層は前記ガラス基板上に形成され、該金属または半導体の薄膜層は上記のごとく、金、またはアルミニウム、またはスズ、またはゲルマニウム、または金・アルミニウム・スズ・ゲルマニウムのうち少なくとも一つを含有する化合物であることを特徴とする。
【0013】上記の金属または半導体は、Siと共晶を形成するため、前記第1の基板と前記第2の基板とは強固に接合される。また、圧力・温度等の接合条件が決定されれば、金属または半導体の薄膜層の厚みに対し、一義的に共晶層の厚みが決定されるため、前記両基板に形成されている前記振動板と前記電極の間隔は正確に規定される。
【0014】
【作用】本発明のインクジェットヘッドの動作原理は、前記電極または前記振動板に形成された電極にパルス電圧を印加し、正または負の電荷をそれらに与えることにより、前記振動板を静電的吸引または反発により変形させ、前記圧力室内のインクをノズルより吐出するものである。本動作原理においては、前記振動板と前記電極間の間隔寸法を高精度に形成することが、インクジェットヘッドの高性能化にとって不可欠である。これまで述べてきた本発明の構成により、前記間隔寸法の精度の向上がはかられ、従ってインクジェットヘッドの高性能化が達成できる。
【0015】
【実施例】
(実施例1)以下、本発明の第1の実施例に基づき詳細に説明する。
【0016】図1は、本発明の第1の実施例におけるインクジェットヘッドの構造を分解して示す斜視図であり、一部断面を示してある。また、図2は本発明の第1の実施例におけるインクジェットヘッドの一部を拡大して示す斜視図であり、一部断面を示してある。
【0017】図1に示したように、本実施例のインクジェットヘッドは、ノズル4・キャビティ5・振動板6等が形成された第1の基板1と、電極11が形成された第2の基板2と、第3の基板3とを積層してなる構造を有する。
【0018】第1の基板1は、結晶面方位が(100)である単結晶Si基板であって、該第1の基板1の表側の面(図1では上側)には、複数のノズル4と、各々のノズル4に連通し底部の壁が振動板6であるようなキャビティ(凹部)5と、各々のキャビティ5においてノズル4と反対側の端部に形成されるインク供給路8と、各々のインク供給路8にインクを供給するための共通のインク室7とが形成され、該第1の基板1の裏側の面には、振動板6と、第2の基板2上に形成される電極11との間隔を正確に規定するためのギャップスペーサ9であるAl膜が形成されている。前記Al膜は、前記第1の基板1の裏側の面の振動板6に相当する箇所を除く部分に形成されている。第2の基板2は、Siの熱膨張率とほぼ等しい熱膨張率を有するホウケイ酸系ガラスであって、該第2の基板2の表側の面(図1では上側)には、前記振動板6と対応した位置に電極11が形成されている。第3の基板3も第2の基板2と同様ホウケイ酸系ガラスであって、該第3の基板3は、前記第1の基板1との間にインクを加圧するための圧力室13・ノズル4等を形成するように、前記第1の基板1の表側の面に接合される(図2)。
【0019】図1に示した第1の基板1の製造工程を図3R>3に示す。
【0020】まず、(100)面方位のSi基板の両面を鏡面研磨し、厚み200ミクロンのSi基板1を形成し(図3(a))、該Si基板1にO2 及び水蒸気雰囲気中で摂氏1100度、4時間の熱酸化処理を施し、該Si基板1の両面に厚さ1ミクロンのSiO2 膜15及び16を形成する(図3(b))。前記SiO2 膜15及び16は、耐エッチング材として使用するものである。
【0021】次いで、前記SiO2 膜15の上にノズル4・キャビティ5等の形状に相当するフォトレジストパターン17(図示しない)を形成し、フッ酸系エッチング液にて前記SiO2 膜15の露出部分をエッチング除去し、フォトレジストパターン17を除去する(図3(c))。
【0022】次に、アルカリ液によるSiの異方性エッチングを行う。単結晶Siにおいては、周知のごとく、水酸化カリウム水溶液やヒドラジン等のアルカリでエッチングする場合、結晶面によるエッチング速度の差が大きいため、異方性エッチングが可能となる。具体的には(111)結晶面のエッチング速度が最も小さいため、エッチングの進行と共に(111)面が平滑面として残留する構造が得られる。本実施例では、イソプロピルアルコールを含む水酸化カリウム水溶液を用いてエッチングを行った。振動板6の機械的変形特性は、該振動板の各部寸法によって決定されるため、本構成のインクジェットヘッドに要求されるインク吐出特性上から該振動板6の各部の設計寸法が決定される。本実施例では、振動板6の幅hを500ミクロン、厚みtを30ミクロンとした。(100)Si基板において、(111)面は基板表面である(100)面に対して結晶構造上約55度の角度をもって交わっているため、上記のように、(100)Si基板中に形成する構造の寸法が決定されると、第1の基板1の厚みに対し耐エッチング材のマスクパターン寸法は一義的に決定される。図4に示すように、キャビティ5の上端の幅dを740ミクロンとし、170ミクロンのエッチングを施すと、幅hが500ミクロン、厚みtが30ミクロンである振動板6が得られる。実際のエッチングでは、(111)面はわずかずつエッチング(アンダーカット)され、図4における寸法dはマスクパターン幅d´より若干大きくなる。従って、マスクパターン17の幅d´は、(111)面18のアンダーカット寸法の分だけ小さくしなければならないので、本実施例では730ミクロンとし、上記のアルカリエッチング液にて所定量(170ミクロン)のエッチングを行った(図3(d))。
【0023】次いで、Si基板1上の耐エッチング材であるSiO2 膜15及び16をフッ酸系エッチング液により全て除去し、該Si基板1の裏側の面に真空蒸着法により0.5ミクロンのAl膜10を形成する。前記Al膜10は、前記振動板6と前記電極11との間隔を規定するギャップスペーサとして機能するものである。次に、前記Al膜10上に前記振動板6に相当する形状のフォトレジストパターン19(図示しない)を形成し、リン酸系エッチング液にて前記Al膜10の露出部分をエッチング除去し、フォトレジストパターン19を除去する(図3(e))。
【0024】以上のような工程を経て、図1に示した第1の基板が形成される。
【0025】図1に示した第2の基板2の製造工程を図5R>5に示す。
【0026】まず、厚み1mmのホウケイ酸系ガラス基板2の鏡面研磨された表側の面(図5では上側)14に、真空蒸着法により電極11となるAl膜20を厚み0.1ミクロンで形成する(図5(a))。次に、前記Al膜20上に電極11の形状に相当するフォトレジストパターン22(図示しない)を形成し、前記Al膜20の不要部分をリン酸系エッチング液によりエッチング除去し、フォトレジストパターン22を除去し、電極11を形成する(図5(b))。
【0027】次に、前記電極11の保護膜として、前記ガラス基板2の表側の面14全面に0.1ミクロンの厚みのガラス薄膜21をスパッタリングにより形成する。スパッタリングターゲットとしては、前記ガラス基板2と同一の組成のガラスを用いた。上記の工程により第2の基板2が形成される。
【0028】以上の工程により形成された第1の基板1及び第2の基板2は、陽極接合法により接合される。接合工程は、以下の通りである。まず、第1の基板1と第2の基板2を洗浄、乾燥後前記第1の基板1及び第2の基板2の対応するパターン同士の位置合わせを行い、両基板を重ね合わせる。次に、両基板をホットプレート上で摂氏300度に加熱し、前記第1の基板1すなわちSi基板側を正、前記第2の基板2すなわちガラス基板側を負として500Vの直流電圧を10分間印加し、接合を行った。
【0029】次いで、Si基板1と第3の基板3であるガラス基板3との接合を行う。ガラス基板3には、インク供給パイプ26が接合される部分に、機械加工により貫通穴27が穿孔されている。前記貫通穴27と前記Si基板1に形成されたインク室7との位置合わせを行った後、前記した陽極接合法により、前記Si基板1と前記ガラス基板3を接合した。
【0030】上記の工程により、前記第1の基板1と第2の基板2と第3の基板3とは積層一体化された。その接合方法は、陽極接合法によるものであり、接合のために接着剤を用いず、また、各基板やギャップスペーサであるAl膜10は、形状・厚みが変化しないため、それぞれの基板の加工上がりでの寸法精度が保たれたまま接合ができる。また、ギャップスペーサ9及び電極11であるAl膜は、真空蒸着法により厚み精度を正確に形成できるため、振動板6と電極11とのギャップ間隔長gは正確に規定される。
【0031】最後に、ノズル4の長さが設計値となるよう、ダイシング及びポリシングによりインク吐出口28を形成し、インクタンク(図示しない)を前記インク供給パイプ26に接続して、発振回路12をSi基板1及び電極11に接続し、インクジェットヘッド29が完成する。
【0032】本実施例では、前記間隔gの設計値は0.5ミクロンであり、従ってギャップスペーサ9の目標厚みを0.5ミクロン、また電極11の目標厚みを0.1ミクロン、また保護膜であるガラス薄膜21の目標厚みを0.1ミクロンとした。
【0033】本実施例の一連の工程により形成された100個のインクジェットヘッドのギャップ間隔gの長さは、0.5±0.05ミクロンという範囲に分布していた。また、これらのインクジェットヘッドを100V、5kHzで駆動したところ、インク滴の吐出速度は5±0.5m/s、インク滴体積は(0.1±0.01)×10-6ccという範囲に分布し、実印字試験において良好な印字が得られた。
【0034】本実施例では、ギャップスペーサとしてAl膜を用いたが、この他にNi−Cr2層膜、Ti、Ta、W、Cu、Fe等様々な金属の薄膜やSi等の半導体薄膜を用いても同様の効果が得られる。
【0035】(実施例2)以下、本発明の第2の実施例に基づき詳細に説明する。
【0036】図6は、本発明の第2の実施例におけるインクジェットヘッドの構造を分解して示す斜視図であり、一部断面を示してあるが、該インクジェットヘッドは、本発明の第1の実施例におけるインクジェットヘッドと構造上ほぼ同一である。
【0037】第1の基板1は、結晶面方位が(100)である単結晶Si基板であり、該第1の基板1上に形成されるノズル4・キャビティ5等の形成方法は、本発明の第1の実施例の場合と同様であるので説明は省略する。
【0038】第2の基板2は、Si単結晶基板である。本実施例においては、結晶面方位として(100)面であるSi単結晶基板を使用したが、他の結晶面方位の基板を使用することもできる。
【0039】第2の基板2の製造工程について図7を用いて説明する。まず、(100)面方位のSi基板の一方の面31を鏡面研磨し、厚み400ミクロンのSi基板2を形成し(図7(a))、該Si基板2にO2 及び水蒸気雰囲気中で摂氏1100度、4時間の熱酸化処理を施し、該Si基板の両面に厚さ1ミクロンのSiO2 膜32及び33を形成する(図7(b))。前記SiO2 膜32は、後に前記Si基板2の鏡面である一方の面31上に形成される電極11と、前記Si基板2との電気的絶縁のために使用される。
【0040】次に、前記SiO2 膜32に、真空蒸着法により電極11となるAl膜34を厚み0.1ミクロンで形成し(図7(c))、該Al膜34上に電極11の形状に相当するフォトレジストパターン35(図示しない)を形成し、前記Al膜34の不要部分をリン酸系エッチング液によりエッチング除去し、フォトレジストパターン35を除去し、電極11を形成する(図7(d))。
【0041】次に、SiO2 膜32の不要部分をフッ酸系エッチング液を用いたフォト・エッチング工程により除去する(図7(e))。
【0042】次に、第1の基板1と第2の基板2との接合材及びギャップスペーサ9として機能するAl膜36を該第2の基板2上に形成する。まず、前記Si基板2上に、空所が前記ギャップスペーサ9の所望形状であるようなフォトレジストパターン37を形成し(図7(f))、次いでAl膜36を前記フォトレジストパターン37上に真空蒸着法により1.62ミクロンの厚みで形成し(図7(g))、続いて前記Si基板2をアセトン中に浸漬し、超音波振動を加えて前記フォトレジストパターン37及び前記Al膜36のうち該フォトレジストパターン37上に堆積した分のみを除去し、ギャップスペーサ9を形成し(図7(h))、第2の基板2を得る。
【0043】次に、以上の工程により製造された第2の基板2であるSi基板と第1の基板1の、各々の対応する部位同士の位置合わせを行い両基板を重ね合わせ、ホットプレートまたはオーブン等の加熱手段により、両基板を摂氏585度に20分間保持して両基板を接合し、インクジェットヘッドのギャップ部分を形成する。
【0044】周知の通り、SiとAlは共晶を形成する。本実施例においては、第2の基板2とAl膜36間及び第1の基板1とAl膜36間で共晶が形成され、第1の基板1と第2の基板2は強固に接合される。本実施例におけるインクジェットヘッドでは、前記振動板6と前記電極11とのギャップ間隔長を正確に規定する必要があるが、本実施例においても、ギャップ間隔長の設計値は0.5ミクロンである。
【0045】第1の基板1と第2の基板2とを重ね合わせた際のギャップ間隔長gの値は、Al膜36の厚み1.62ミクロンから電極11であるAl膜の厚み0.1ミクロン及びSiO2 膜32の厚み1ミクロンを差し引いた0.52ミクロンであるが、前記の接合条件(摂氏585度、20分)によって加熱・接合を行った後には、Al膜36の厚みは、共晶の形成により実質的には1.6ミクロンとなり、すなわちギャップ間隔長は設計値通りの0.5ミクロンとなる。
【0046】本実施例では、ギャップスペーサとしてAl膜を用いたが、この他にSiと共晶を形成する物質であるAu、Sn、Ge、あるいはこれらの物質を含有する化合物を用いても、各々の物質または化合物に最適な圧力・温度等の接合条件により、同様にインクジェットヘッドのギャップ部が構成できる。
【0047】また、本実施例では、ギャップスペーサであるAl膜36を第2の基板2上に形成したが、該Al膜36を第1の基板1の裏側の面に形成しても同様の効果が得られる。
【0048】本実施例において製造されたインクジェットヘッド100個のギャップ間隔長gの実測値は、0.5±0.05ミクロンの範囲に入っており、また、実印字試験においても良好な印字が得られた。
【0049】(実施例3)以下、本発明の第3の実施例に基づき詳細に説明する。
【0050】本発明の第3の実施例におけるインクジェットヘッドは、本発明の第2の実施例におけるインクジェットヘッドと構造上同一であるので、図6を用いて説明する。
【0051】第1の基板1は、結晶面方位が(100)面である単結晶Si基板であり、該第1の基板1上に形成されるノズル4・キャビティ5等の形成方法は、本発明の第1の実施例の場合と同様であるので説明は省略する。
【0052】第2の基板2は、ホウケイ酸系ガラスであり、該第2の基板2の製造工程について図8を用いて説明する。
【0053】まず、厚み1mmのホウケイ酸系ガラス基板2の鏡面研磨された表側の面41(図8では上側)に、真空蒸着法により電極11となるAl膜42を厚み0.1ミクロンで形成し(図8(a))、次に前記Al膜42上に電極11の形状に相当するフォトレジストパターン43(図示しない)を形成し、前記Al膜42の不要部分をリン酸系エッチング液によりエッチング除去し、フォトレジストパターン43を除去する(図8(b))。次に、前記ガラス基板2上にギャップスペーサ9を形成する。まず、空所が前記ギャップスペーサ9の所望形状であるようなフォトレジストパターン44を形成し(図8(c))、次いでCr及びAuからなる2層膜45(Cr:0.01ミクロン、Au:0.62ミクロン)をスパッタリングにより該フォトレジストパターン44上に形成し(図8(d))、続いて前記ガラス基板2をアセトン中に浸漬し、超音波振動を加えて前記フォトレジストパターン44及び前記Cr・Auの2層膜45のうち該フォトレジストパターン44上に堆積した分のみを除去し、該2層膜45をギャップスペーサ9とする(図8(e))。
【0054】以上の工程を経て第2の基板2が形成される。
【0055】次に、以上の工程により製造された第2の基板2と第1の基板1の、各々の対応する部位同士の位置合わせを行い、両基板を重ね合わせ、ホットプレート等の加熱手段により両基板を摂氏380度で20分間保持して、両基板を接合し、インクジェットヘッドのギャップ部分を形成する。
【0056】本実施例では、ギャップスペーサであるCr・Au2層膜45のAu部分とSiである第1の基板の裏側の面との間でSi−Au共晶が形成され、両基板は強固に接合される。本実施例においても、ギャップ間隔長gの設計値は0.5ミクロンである。Cr・Au2層膜45は、当初の厚みが0.62ミクロンであったのが、前記接合条件(摂氏380度、20分)による処理によりSi−Au共晶が形成され、該Cr・Au2層膜45の厚みは実質的には0.6ミクロンとなり、ギャップ間隔長gとしては電極11の厚みである0.1ミクロンを差し引いた値である0.5ミクロンとなる。
【0057】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、インクジェットヘッドのギャップスペーサとして金属または半導体の薄膜を用い、陽極接合法により構成部材間の接合を行うことにより、電極と振動板間の間隔を精度良く規定することができるため、インク吐出バラツキの小さい、高性能なインクジェットヘッドを提供することができる。また、Siと共晶を形成する物質をギャップスペーサとして用い、適当な条件で構成部材間を接合することにより、電極と振動板間の間隔を精度良く規定することができ、同様に高性能なインクジェットヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例におけるインクジェットヘッドの構造を分解して示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施例におけるインクジェットヘッドの構造の一部を拡大して示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施例におけるインクジェットヘッドの第1の基板の製造工程図である。
【図4】本発明の第1の実施例におけるインクジェットヘッドの各部寸法の関係を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施例におけるインクジェットヘッドの第2の基板の製造工程図である。
【図6】本発明の第2の実施例におけるインクジェットヘッドの構造を分解して示す斜視図である。
【図7】本発明の第2の実施例におけるインクジェットヘッドの第2の基板の製造工程図である。
【図8】本発明の第3の実施例におけるインクジェットヘッドの第2の基板の製造工程図である。
【符号の説明】
1 第1の基板
2 第2の基板
3 第3の基板
4 ノズル
5 キャビティ
6 振動板
7 インク室
8 インク供給路
9 ギャップスペーサ
11 電極
12 発振回路
26 インク供給パイプ
27 貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】 インクを吐出するための単一または複数のノズルと、該ノズルのそれぞれに対応する圧力室と、該圧力室の少なくとも一方の壁を構成する振動板と、該振動板に変形を生じさせる駆動手段と、該圧力室にインクを供給する共通のインク室とを備え、前記駆動手段が前記振動板を静電気力により変形させる電極からなるインクジェットヘッドにおいて、前記振動板が形成される第1の基板と、前記電極が形成される第2の基板が、金属または半導体の薄膜層を介して接合されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】 前記第1の基板がSi単結晶であり、前記第2の基板はSi単結晶の熱膨張率と同等の熱膨張率を有するガラスであることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】 前記第1の基板と前記第2の基板が、陽極接合法により接合されていることを特徴とする請求項2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】 前記第1の基板と前記第2の基板が、共にSi単結晶であることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】 前記金属または半導体の薄膜層が、金、またはアルミニウム、またはスズ、またはゲルマニウム、または金・アルミニウム・スズ・ゲルマニウムのうち少なくとも一つを含有する化合物であることを特徴とする請求項2または請求項4記載のインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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