説明

インクジェット印刷物

【課題】
画像の白抜け・白スジ、色間滲みが抑制され、かつ、耐水性に優れた印刷物を提供すること。
【解決手段】
2つ以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(A)、カルボキシル基と1つのエチレン性不飽和基とを有する単量体(B)および炭素数1〜12の疎水基と1つのエチレン性不飽和基とを有する単量体(C)を少なくとも含む単量体混合物を乳化重合してなる既架橋ビニル系エマルジョンを含むインクジェットインキ受容層形成用コート剤を、基材の少なくとも一方の面に用いてインクジェットインキ受容層を形成する第1の工程及び前記インクジェットインキ受容層上に水系顔料インクジェットインキによって画像を形成する第2の工程を含むことを特徴とする印刷物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインキ受容層上に水系顔料インクジェットインキによって画像を形成した印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は騒音の発生が少なく、高速印字、多色印刷が可能であり、近年、急速に普及している。インクジェットインキを受容する記録媒体としては、従来、紙やプラスチックフィルムなどの基材表面にインキ受容層を設けたもの等が使用されている。
また、近年の環境保護の意識の高まりから、インクジェットインキとしては、有機溶剤を含まない、あるいは含むとしても少量である、いわゆる水系インキが好ましく用いられるようになってきた。
【0003】
インキ受容層には、インキの吸収、乾燥が速やかであるだけでなく、インキの定着性、発色性、鮮明性、画像階調性が優れていることが要求される。更に、記録媒体にインクジェット印刷を行った印刷物に対しては、画像の耐久性、特に、水系インキを用いる場合には耐水性に優れることが要求される。
【0004】
又、インクジェット印刷方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を吐出し、記録媒体上にインキのドットを付着させて文字や画像を得る記録方式であるが、インキ液滴の不吐出、インキドットの位置及び体積のずれ等により、記録媒体上にドット抜け(インキのドットが存在すべき箇所に、インキのドットが存在しない状態)が発生する場合がある。
ドット抜けは、印刷領域をドットで埋め尽くすベタ印刷において特に問題となり、印刷画像に白抜け・白スジを生じさせ、高精細な画像を得ることができない。
【0005】
上記白抜け・白スジの防止手段としては、単位面積当たりのドット数を増加させる方法がある。しかし、この方法は、記録媒体に過剰な量のインキを付与することになるため、インキの乾燥性や滲みを招くおそれがあり、又、ランニングコストの点でも好ましくない。
【0006】
少ないインキ量で、白抜け・白スジの少ない印刷画像を提供し得る印刷技術は未だ提供されていない。
【0007】
画像の耐水性に優れ、かつ、できるだけ少ないインキ量で、白抜け・白スジが少ない印刷画像を提供するには、基材表面に、インキドットが、他色のインキドットと接して滲まない程度に、適度に拡がり、定着したインキドットが、水によって剥がれることがないようなインキ受容層を形成しなければならない。
【0008】
即ち、インキのヌレが良く、適度に広がる親水部と、過度にインキが広がらず、乾燥後に耐水性を発現する疎水部とが、バランス良く、均一に配置された受容層を、基材表面に形成することが必要である。親水性成分と疎水性成分とを単に混合するだけでは、多色のインキドットにより形成される高精彩な画像が得られるインキ受容層を提供することはできない。
【0009】
又、インクジェットインキは、印刷物としての耐久性が要求される場合は、着色剤として顔料を配合したものが使用される。顔料インキは、顔料が溶媒に不溶であるため、インキ中での顔料分散を保つために顔料分散樹脂を用いて溶媒中での分散安定化を図っている。
【0010】
顔料分散樹脂は、一般に、アニオン性のものが多く使用されているが、例えば、このようなアニオン性の顔料分散樹脂を含むインクジェットインキを使用して、カチオン性の化合物からなる受容層に画像を形成した場合、受容層表面で顔料が凝集し、インキのドットが十分に拡がらず、白抜け・白スジが少ない印刷画像を提供することが困難である。
【0011】
一方、特許文献1〜3では、製紙の工程の中で、紙の表面サイジングを行う場合があり、この表面サイジング剤として、スチレン―マレイン酸共重合物、カルボキシル基含有アクリル樹脂等のアニオン性化合物が提案されている。これらはインキのヌレ性と吸収、乾燥性に優位に働くカルボキシル基を有しているため、インキのドットを拡げる効果がある。しかし、これらは耐水性に劣るという欠点があった。
【0012】
また、特許文献4〜5では、基材上に、特定のガラス転移温度と粒子径を有するアクリル樹脂エマルジョンを含む表面コート層を形成したインクジェット記録媒体や、特定の最低造膜温度と粒子径を有する水分散性樹脂粒子を含むコート層を形成した記録媒体が提案されている。しかし、これらはインキのヌレ性と吸収、乾燥性に優位に働くカルボキシル基を必須成分として含んでおらず、白抜け・白スジ、色間滲みが少ない印刷画像を提供することができないという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−161885号公報
【特許文献2】特許第3854165号公報
【特許文献3】特開2001−232932号公報
【特許文献4】特許第3721651号公報
【特許文献5】特許第3950688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、インクジェットインキ受容層上に水系顔料インクジェットインキによって形成された画像の白抜け・白スジ、色間の滲みが抑制され、かつ、耐水性に優れた印刷物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下に示すインクジェットインキ受容層上に水系顔料インクジェットインキによって画像を形成することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明の一態様は、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(A)、カルボキシル基と1つのエチレン性不飽和基とを有する単量体(B)および炭素数1〜12の疎水基と1つのエチレン性不飽和基とを有する単量体(C)を少なくとも含む単量体混合物を乳化重合してなる既架橋ビニル系エマルジョンを含むインクジェットインキ受容層形成用コート剤を、基材の少なくとも一方の面に用いてインクジェットインキ受容層を形成する第1の工程及び前記インクジェットインキ受容層上に水系顔料インクジェットインキによって画像を形成する第2の工程を含むことを特徴とする印刷物に関する。
前記乳化重合に供する単量体の合計100重量%中、前記単量体(A)の割合が0.1〜5重量%であり、前記単量体(B)の割合が20〜80重量%であることが好ましい。
前記既架橋ビニル系エマルジョンの樹脂粒子の酸価が、100〜500mgKOH/gであることが好ましい。
前記既架橋ビニル系エマルジョンの樹脂粒子のガラス転移温度が0〜100℃であることが好ましい。
前記水系顔料インクジェットインキは顔料、水溶性溶剤、水及び顔料分散樹脂を含むことが好ましい。
前記顔料分散樹脂は、炭素数が10〜24のアルキル基の(メタ)アクリレートエステルを有する単量体(D)、スチレン、α−メチルスチレンもしくはベンジル(メタ)アクリレートを有する単量体(E)及び(メタ)アクリル酸を有する単量体(F)を共重合組成に含むコポリマー(共重合体)であることが好ましい。
前記顔料分散樹脂の酸価が50〜400mgKOH/g以下であることが好ましい。
前記水溶性溶剤が、グリコールエーテル類、ジオール類から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、インクジェットインキ受容層上に水系顔料インクジェットインキによって画像を形成することにより、画像の白抜け・白スジ、色間滲みが抑制され、かつ、耐水性に優れた印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を更に詳しく説明する。しかし、本発明は本発明の技術的思想を逸脱しない限り、以下の説明あるいは実施の形態に限定されるものではない。
【0019】
まず、本発明のインクジェットインキ受容層(以下インキ受容層)を形成する第1の工程について詳細に説明する。
【0020】
≪インキ受容層≫
本発明のインキ受容層は、既架橋ビニル系エマルジョンを主成分とするインキ受容層形成用コート剤によって形成される。
【0021】
<既架橋ビニル系エマルジョン>
前記既架橋ビニル系エマルジョンは、2つ以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(A)、カルボキシル基と1つのエチレン性不飽和基とを有する単量体(B)および炭素数1〜12の疎水基と1つのエチレン性不飽和基とを有する単量体(C)を含む単量体混合物を、乳化重合して作られる。
【0022】
前記2つ以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(A)は、主にα,β-不飽和二重結合を有する、いわゆるビニル系化合物と称され、(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体や(メタ)アリル基、あるいはその他のビニル基を有する単量体を含むものである。
また、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アリル」、及び「(メタ)アクリロイル」と表記した場合には、それぞれ、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」、「アクリレート及び/又はメタクリレート」、「アリル及び/又はメタリル」、及び「アクリロイル及び/又はメタクリロイル」を示すものとする。
【0023】
前記単量体(A)は、乳化重合法により得られる、ビニル系エマルジョンの樹脂粒子内部に架橋構造を導入するものである。
【0024】
前記単量体(A)としては、以下の例には限定されないが、例えば、エチレンオキサイド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、若しくはエチレンオキサイド変性リン酸トリ(メタ)アクリレートなどのエチレンオキサイド変性リン酸ポリ(メタ)アクリレート類;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート,ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、若しくは2−エチル,2−ブチル−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート等などの(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;
トリメチロールプロパン(トリ)(メタ)アクリレート、若しくはグリセロール(トリ)(メタ)アクリレートなどのトリオールのポリ(メタ)アクリレート類;
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ポリエステルポリオールポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタンポリオールポリ(メタ)アクリレート、若しくはポリカーボネートポリオールポリ(メタ)アクリレート等のポリオールポリ(メタ)アクリレート類;
ジ(メタ)アクリル酸亜鉛などのポリ(メタ)アクリル酸金属塩類;
ブタジエン、イソプレン、若しくはクロロプレンなどのジエン類;
ジビニルベンゼンなどのジビニル化合物類;
ジアリルフタレートなどのジアリル化合物類、及び
アリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ビニル、クロトン酸ビニルなどの二つの異なる種類のエチレン性不飽和基を有する単量体類などが挙げられる。耐水性とエマルジョンの樹脂粒子の安定性の観点から、ジビニルベンゼン、またはジアリルフタレートが好ましい。これらの単量体は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
前記単量体(A)の含有量は、耐水性およびエマルジョンの樹脂粒子の安定性の観点から、乳化重合に供する単量体の合計100重量%中、0.1〜5重量%が好ましく、0.1〜4重量%がより好ましい。
【0026】
前記単量体(B)は、インキ受容層とインキとの濡れ性を増大させ、かつ、インキを速やかに吸収、基材表面を乾燥させる目的で用いられる。
インクジェットインキにより高精細な画像を形成させるためには、インクジェットインキとインキ受容層表面との親和性を制御して、好ましいドット径、色濃度のインキドットを形成することが重要である。インキ液滴がインキ受容層表面に接触した瞬間に、適切に濡れ拡がり、速やかに吸収、乾燥することにより、好ましいドット径、色濃度のインキドットを形成することができる。
本発明においては、前記単量体(B)を用いることにより、上記のような効果が著しく向上する。この機構は定かではないが、インクジェットインキに含まれる顔料分散樹脂や添加剤が有する官能基と、インキ受容層に含まれるエマルジョンの樹脂粒子が有するカルボキシル基の電気的な親和性と、インクジェットインキに含まれる親水性溶剤との組み合わせにより、好ましいドット径、色濃度のインキドットを形成することができる。
【0027】
前記単量体(B)の具体例としては、以下の例には限定されないが、例えば、アクリル酸、アクリル酸ダイマー、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタレート、エチレンオキサイド変性コハク酸(メタ)アクリレート、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、若しくはω−カルボキシポリカプロラクトン(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸類、及びその無水物類や塩類が挙げられる。中でも、共重合性の観点からアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、若しくはマレイン酸が好ましい。これらの単量体は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記単量体(B)の含有量は、インキ受容層上のインキドットの拡がりおよび耐水性の観点から、乳化重合に供する単量体の合計100重量%中、20〜80重量%が好ましく、25〜80重量%がより好ましい。20重量%以上だと、インキの濡れ性と、インキの吸収・乾燥性が優れ、インキのドットがインキ受容層上で十分に広がり、白ぬけ・白スジが発生することがない。多色印刷の場合には、異なる色のインキ液滴どうしが接触して、色間の滲みが発生する問題がない。また、80重量%以下だと、耐水性が十分である。
【0029】
本発明で使用される、炭素数1〜12の疎水基と1つのエチレン性不飽和基とを有する単量体(C)は、インキ受容層の耐水性、及びインキの色間滲みの防止性を向上する目的で用いられる。
【0030】
ここに、本発明においては、1つのエチレン性不飽和基とカルボキシル基と炭素数1〜12の疎水基とを有する単量体は、単量体(B)として取扱うものとする。
なお、ここでいう疎水基とは、極性が低く、水となじみにくい炭素数1〜12の炭化水素基を指す。
【0031】
単量体(C)の具体例としては、以下の例には限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、若しくはラウリル(メタ)アクリレート等の鎖状アルキル(メタ)アクリレート;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、若しくはジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、等の環状アルキル(メタ)アクリレート単量体類;
ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族系(メタ)アクリレート;及び、
スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−メトキシスチレン、3−メトキシスチレン、4−メトキシスチレン、4−t−ブトキシスチレン、4−t−ブトキシ−α−メチルスチレン、4−(2−エチル−2−プロポキシ)スチレン、4−(2−エチル−2−プロポキシ)−α−メチルスチレン、4−(1−エトキシエトキシ)スチレン、4−(1−エトキシエトキシ)−α−メチルスチレン、1−ブチルスチレン、1−クロロ−4−イソプロペニルベンゼンなどの芳香族ビニル系単量体類が挙げられる。中でも、耐水性の観点から、芳香族系の単量体が好ましく、より好ましくは、α−メチルスチレン、スチレンである。
これらの単量体は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。炭素数が12より多い疎水性基を有するエチレン性不飽和単量体は、共重合性が悪いため、好ましくない。
【0032】
前記単量体(C)の含有量は、画像形成性と耐水性のバランスの観点から、乳化重合に供する単量体の合計100重量%中、19.9〜79.9重量%が好ましく、25〜79.9重量%がより好ましい。
【0033】
本発明において、共重合性、他の成分との相溶性、造膜性、塗膜物性を調節するために、必要に応じて単量体(A)〜(C)以外の単量体を共重合することができる。
そのような単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル(メタ)フタレート;
ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート;
ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、又はグリセロール(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート類;
2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、2−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル(メタ)アクリレート、若しくはポリエチレングリコールモノステアリルエーテル(メタ)アクリレート等のエーテル構造を有する(メタ)アクリレート類;
グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,2−グリシドキシエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシブチル(メタ)アクリレート、若しくは4,5−エポキシペンチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリレート類;
ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルエトキシシラン、若しくはビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン類;
γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、若しくはγ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン等の(メタ)アクリロイルオキシシラン類;
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチル(メタ)アクリレート、若しくはテトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート等のフルオロアルキル(メタ)アクリレート類;
(メタ)アクリロイルオキシ変性ポリジメチルシロキサン(シリコーンマクロマー)類;及びアクリロニトリル等が挙げられるが、これらの単量体に限定されない。これらの単量体は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
本発明において、乳化重合に供する単量体が、カチオン性官能基を有するエチレン性不飽和単量体を含まないことが好ましい。カチオン性官能基を有するエチレン性不飽和単量体を共重合すると、インキの顔料分散樹脂や、添加剤等に含まれる官能基と、相互作用を生じ、インキ受容層表面でインキが凝集したり、インキのドットの広がりを阻害したりする場合がある。また、単量体(B)のカルボキシル基と酸塩基結合を生じ、エマルジョンの重合時にブツを生じたり、極端な増粘がみられたりする場合がある。
【0035】
前記カチオン性官能基を有するエチレン性不飽和単量体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、若しくはN−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0036】
本発明の既架橋ビニル系エマルジョンは、従来既知の乳化重合法により合成される。乳化重合法では、ポリマーの重合反応が水中、又は親水性の有機溶剤を含む水中で進行するため、疎水性と親水性のモノマーを共重合する場合には、エマルジョンの樹脂粒子の中心部は疎水性が高く、粒子の表面部は親水性が高い構造になる。
即ち、エマルジョンの樹脂粒子の中心部は耐水性が高く、さらに、単量体(A)を共重合することにより架橋構造が導入され、より耐水性を高めることができる。
【0037】
本発明の既架橋ビニル系エマルジョンは、エマルジョンの樹脂粒子内部に架橋構造が導入された疎水部を有し、エマルジョンの樹脂粒子表面部に親水基であるカルボキシル基を有する。そのため、塗膜になった時に、エマルジョンの樹脂粒子内部が架橋され、かつ疎水性が高くなる。したがって、印刷した際には、インキに含まれる水や水溶性溶剤に対して、膨潤しにくい構造となり、また、樹脂粒子表面は、複数のカルボキシル基が存在し、樹脂粒子間で会合した構造をとるため、インキとの相互作用が大きく、インキの濡れ性に優位に働くが、耐水性は低下しない。このように、アニオン性の親水部と、疎水部との構造を形成することができるため、耐水性を損なうことなく、インキのドットを適度に広げ、滲みの無い高精彩な画像を提供できる。
【0038】
本発明においてエマルジョンの乳化重合の際に界面活性剤を用いることができる。界面活性剤としては、アニオン系、及びノニオン系が挙げられ、エチレン性不飽和基を有する反応性界面活性剤やエチレン性不飽和基を有しない非反応性界面活性剤等、従来公知のものを任意に使用することができる。
【0039】
前記エチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性界面活性剤としては、例えば、アルキルエーテル類(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンKH−05、KH−10、KH−20、株式会社ADEKA製アデカリアソープSR−10N、SR−20N、花王株式会社製ラテムルPD−104等);
スルフォコハク酸エステル類(市販品としては、例えば、花王株式会社製ラテムルS−120、S−120A、S−180P、S−180A、三洋化成株式会社製エレミノールJS−2等);
アルキルフェニルエーテル類若しくはアルキルフェニルエステル類(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンH−2855A、H−3855B、H−3855C、H−3856、HS−05、HS−10、HS−20、HS−30、株式会社ADEKA製アデカリアソープSDX−222、SDX−223、SDX−232、SDX−233、SDX−259、SE−10N、SE−20N、等);
(メタ)アクリレート硫酸エステル類(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製アントックスMS−60、MS−2N、三洋化成工業株式会社製エレミノールRS−30等);及びリン酸エステル類(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製H−3330PL、株式会社ADEKA製アデカリアソープPP−70等)が挙げられる。
【0040】
本発明で用いることのできるノニオン系反応性界面活性剤としては、例えば、アルキルエーテル類(市販品としては、例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープER−10、ER−20、ER−30、ER−40、花王株式会社製ラテムルPD−420、PD−430、PD−450等);
アルキルフェニルエーテル類若しくはアルキルフェニルエステル類(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50、株式会社ADEKA製アデカリアソープNE−10、NE−20、NE−30、NE−40等);及び
(メタ)アクリレート硫酸エステル類(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製RMA−564、RMA−568、RMA−1114等)が挙げられる。
【0041】
非反応性ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、若しくはポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;
ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、若しくはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;
ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、若しくはソルビタントリオレエート等のソルビタン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等のポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンモノラウレート若しくは、ポリオキシエチレンモノステアレート等のポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類;
オレイン酸モノグリセライド、若しくはステアリン酸モノグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル類;及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、若しくはポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル等が挙げられる。
【0042】
又、非反応性アニオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類;
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類;
ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩類;
ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類;
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;
モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、若しくはポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸エステル塩及びその誘導体類;及びポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩類等が挙げられる。
【0043】
これらの界面活性剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
本発明において用いられる界面活性剤の使用量は、必ずしも限定されるものではなく、既架橋ビニル系エマルジョンが最終的にインキ受容層形成用コート剤として使用される際に求められる物性に従って適宜選択できる。例えば、エチレン性不飽和単量体の合計100重量部に対して、界面活性剤は通常0.1〜30重量部であることが好ましく、0.3〜20重量部であることがより好ましく、0.5〜10重量部の範囲内であることが更に好ましい。
界面活性剤が0.1重量部以上だと、重合安定性及び機械安定性が良好である。一方、30重量部以下だと、得られるインキ受容層の耐水性が優れる。
【0045】
本発明の既架橋ビニル系エマルジョンを得るための乳化重合に際しては、水溶性保護コロイドを併用することもできる。水溶性保護コロイドとしては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、若しくは変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類;
ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、若しくはカルボキシメチルセルロース塩等のセルロース誘導体;及びグアガム等の天然多糖類等が挙げられる。これらは、単独でも複数種併用の態様でも利用できる。水溶性保護コロイドの使用量としては、エチレン性不飽和単量体の合計100重量部当り0.1〜5重量部であり、更に好ましくは0.5〜2重量部である。
【0046】
本発明の既架橋ビニル系エマルジョンを得るに際して重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。
油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、若しくはジ−tert−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;及び
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、若しくは1,1’−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリル等のアゾビス化合物を挙げることができる。
これらは1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これら重合開始剤は、エチレン性不飽和単量体100重量部に対して、0.1〜10.0重量部の量を用いるのが好ましい。
【0047】
本発明においては水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、若しくは2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等、従来既知のものを好適に使用することができる。
【0048】
前記乳化重合を行うに際して、所望により重合開始剤とともに還元剤を併用することができる。これにより、乳化重合速度を促進したり、低温において乳化重合を行ったりすることが容易になる。このような還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エルソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、若しくはホルムアルデヒドスルホキシラート等の金属塩等の還元性有機化合物、
チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、若しくはメタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物、
塩化第一鉄、ロンガリット、又は、二酸化チオ尿素等を例示できる。
【0049】
これら還元剤は、エチレン性不飽和単量体の合計100重量部に対して、0.05〜5.0重量部の量を用いるのが好ましい。なお、前記した重合開始剤によらずとも、光化学反応や、放射線照射等によっても重合を行うことができる。重合温度は各重合開始剤の半減期温度以上とする。例えば、過酸化物系重合開始剤では、通常70℃程度とすればよい。重合時間は特に制限されないが、通常2〜24時間である。
【0050】
本発明において、乳化重合の際に使用される水性媒体としては、水が挙げられ、水溶性溶剤も本発明の目的を損なわない範囲で使用できる。
【0051】
更に必要に応じて、緩衝剤及び連鎖移動剤を使用できる。緩衝剤として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、及び重炭酸ナトリウム等が挙げられる。連鎖移動剤として、オクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸オクチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、及びt−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類が挙げられる。
【0052】
本発明においては、単量体(B)の酸性官能基の全部又は一部を、重合前や重合後に塩基性化合物で中和することができる。
中和剤としては、アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミン、若しくはブチルアミン等のアルキルアミン類;2−ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、若しくはアミノメチルプロパノール等のアルコールアミン類;又は、モルホリン等の塩基を使用することができる。
【0053】
本発明において、既架橋ビニル系エマルジョンの樹脂粒子の酸価は、重合に供するエチレン性不飽和単量体の組成により調節することができるが、100mgKOH/g以上500mgKОH/g以下の範囲であることが好ましい。100mgKОH/g以上だと、インキの濡れ性と、インキの吸収・乾燥性が優れ、インキのドットがインキ受容層上で十分に広がり、白抜け・白スジが発生しにくい。また、多色印刷の場合には、異なる色のインキ液滴どうしが接触して、色間滲みが発生することがない。また、500mgKОH/g以下だと、耐水性が優れる。
【0054】
なお、ここでいう酸価は、下記の操作で測定される値である。
<酸価の測定方法>
共栓三角フラスコ中に試料、約1gを精密に量り採り、トルエン/エタノール(容積比:トルエン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解する。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間保持した後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定する。
乾燥状態の樹脂の値として、酸価(mgKOH/g)を次式により求める。
酸価(mgKOH/g)={(5.611×a×F)/S}/(不揮発分濃度/100)
ただし、S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
【0055】
本発明において、既架橋ビニル系エマルジョンの樹脂粒子のガラス転移温度(Tg)は、重合に供するエチレン性不飽和単量体の組成により調節することができるが、0〜100℃であることが好ましい。0℃以上だと、印刷物の積層時にブロッキング(印刷面と基材裏面とが融着して容易に剥がれない状態をいう)が生じない。100℃以下だと、印刷物の質感が優れる。
【0056】
なお、ここでいうガラス転移温度は、Fox法により計算することができる値である。
ここで、Fox法(T. G. Fox, Phys. Rev., 86, 652(1952))とは、下記式で示される個々の単独重合体のTgから共重合体のTgを推算する方法である。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn
[式中、Tgは共重合体のガラス転移温度(絶対温度表示)、Tg1、Tg2・・・Tgnは各単量体成分の単独重合体のガラス転移温度(絶対温度表示)、W1、W2・・・Wnは各単量体成分の重量分率を示す。]
【0057】
本発明の既架橋ビニル系エマルジョンの体積平均粒子径は、重合に供するエチレン性不飽和単量体の組成、重合時に使用する界面活性剤の種類と量、重合操作等により調節することができるが、粒子の安定性の点から、40〜400nmであることが好ましく、40〜250nmであることがより好ましい。又、粒子の安定性を考慮すると、1μmを超える粗大粒子は5重量%以下であることが好ましい。
【0058】
なお、本発明における体積平均粒子径は、動的光散乱法により測定され、より具体的には、下記の操作で測定される値である。
<体積平均粒子径の測定方法>
既架橋ビニル系エマルジョンは固形分濃度に応じて200〜1000倍に水希釈しておく。該希釈液約5mlを測定装置[(株)日機装製 マイクロトラック]のセルに注入し、サンプルに応じた溶剤(本発明では水)及び樹脂の屈折率条件を入力後、測定を行う。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを本発明の体積平均粒子径とする。
【0059】
本発明において、既架橋ビニル系エマルジョンの、固形分濃度10重量%における粘度は、重合に供するエチレン性不飽和単量体の組成、重合時に使用する界面活性剤の種類と量、重合操作等により調節することができるが、0.1〜300mPa・sであることが好ましい。固形分濃度10重量%における粘度が300mPa・s以下だと、インクジェットインキ受容層を形成するときに、希釈して塗工する必要がない。
【0060】
なお、ここでいう粘度は、下記の操作で測定することができる値である。
<エマルジョンの粘度の測定方法>
固形分濃度10重量%に調整した試料をガラス瓶中に採り、振動式粘度計(セコニック社製 VM−10A)にて1分後の粘度を測定した。
【0061】
本発明において、既架橋ビニル系エマルジョンの樹脂粒子の、Fedor法によるSP値〔R.F.Fedor,Polym.Eng.Sci.,14(2) 147 (1974)〕は、重合に供するエチレン性不飽和単量体の組成により調節することができるが、3.9〜6.8(J・cm-31/2であることが好ましく、4.9〜5.9(J・cm-31/2であることがより好ましい。3.9(J・cm-31/2以上だと、インキの濡れ性と、インキの吸収・乾燥性が優れ、インキのドットがインキ受容層上で十分に拡がり、白抜け・白スジが発生しない。また、異なる色のインキ液滴同士が接触して、色間滲みが発生することもない。6.8(J・cm-31/2以下だと、耐水性が十分である。
【0062】
本発明において、既架橋ビニル系エマルジョンの樹脂粒子の、Macleod−Sugden法による表面張力〔Maclead,Trans,Faraday Soc.,19,38 (1923)〕は重合に供するエチレン性不飽和単量体の組成により調節することができるが、22〜35×10-3(N/m)であることが好ましい。22×10-3(N/m)以上だと、インキの濡れ性と、インキの吸収・乾燥性が優れ、インキのドットがインキ受容層上で十分に拡がり、白抜け・白スジが発生しない。また、異なる色のインキ液滴同士が接触して、色間滲みが発生することがない。35×10-3(N/m)以下だと、耐水性が優れる。
【0063】
本発明のインキ受容層は、後述する水系インキを使用して画像を形成するときに、インキ受容層表面の表面張力の値と、水系インキの動的表面張力の値が近い値になることが重要である。インキ受容層表面の表面張力値と、使用する水系インキの動的表面張力の値が近いと、インキ受容層上のインキドットが適切に広がり、高精細な画像が得られる。
【0064】
このように、既架橋ビニル系エマルジョンの樹脂粒子のSP値と表面張力値は、水系インキとの間の相溶性(相互作用)を判断する基準となり、これらの値によって、画像の善し悪しが変化するため、高詳細な画像を得るためには、これらの数値が非常に重要となる。
【0065】
<インキ受容層形成用コート剤>
本発明におけるインキ受容層形成用コート剤は、前述の既架橋ビニル系エマルジョンの1種から構成されるか、あるいは2種以上を併用して構成される。
特に、白抜け・白スジ、色間滲みといった画像形成性と耐水性のバランスの観点から、単量体(C)として芳香族系の単量体を用いてなる共重合体(X)と、単量体(C)として芳香族系以外の単量体のみを用いてなる共重合体(Y)とを併用することが好ましい。ここに、共重合体(X)においては、単量体(C)として、芳香族の単量体と芳香族系以外の単量体とを併用してもよい。
なお、共重合体(X)において、芳香族系の単量体(C)は、乳化重合に供する単量体の合計100重量%中、好ましくは1〜79.9重量%、より好ましくは1〜50重量%含まれる。また、芳香族系以外の単量体(C)は、好ましくは0〜78.9重量%、より好ましくは0〜75重量%含まれる。
【0066】
また、本発明のインキ受容層形成用コート剤には、必要に応じて、成膜助剤、粘性調整剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤、または他の化合物等を配合してもよい。これらの添加剤については従来公知の化合物から目的に応じて任意に選択することができる。
【0067】
成膜助剤は、塗膜の形成を助け、塗膜が形成された後においては比較的速やかに蒸発して塗膜の強度を向上させる一時的な可塑化機能を担うものであり、沸点が110〜200℃の有機溶剤が好適に用いられる。
具体的には、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、カルビトール、ブチルカルビトール、ジブチルカルビトール、又は、ベンジルアルコール等が挙げられる。
中でも、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びプロピレングリコールモノブチルエーテル、は少量で高い成膜助剤効果を有するため特に好ましい。これら成膜助剤は、インクジェットインキ受容層形成用コート剤中に0.5〜15重量部含まれることが好ましい。
【0068】
前記粘性調整剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース等の多糖類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(及びその塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、又はカゼイン等が挙げられる。これら粘性調整剤は、既架橋ビニル系エマルジョン100重量部に対して1〜100重量部用いてもよい。
【0069】
本発明のインクジェットインキ受容層形成用コート剤は、前記既架橋ビニル系エマルジョン単独で構成されてもよく、あるいは、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、若しくはシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム、タルク、カオリン、焼成カオリン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、セッコウ、ケイソウ土、ゼオライト、ベントナイトクレイ等の無機フィラーと併用してもよい。
【0070】
前記無機フィラーは、本発明の既架橋ビニル系エマルジョンに後から配合してもよく、既架橋ビニル系エマルジョンの合成時に、水性媒体中に無機フィラーの水分散体を配合しておいてもよい。
【0071】
また、本発明のインクジェットインキ受容層形成用コート剤は、インキ受容層にグロスを付与するために、水性の光沢樹脂を配合しても良い。具体的には、BASF社製ジョンクリル52J、ジョンクリル62J、ジョンクリル70J、ジョンクリル7667、日本ポリマー社製ルシデン400SF、ギフセラック社製エマポリーSG−5157等が挙げられる。
【0072】
本発明のインクジェットインキ受容層形成用コート剤は、更に、架橋剤を含んでいてもよく、例えば、メチロール化メラミン、メチロール化尿素、メチロール化ヒドロキシプロピレン尿素、多官能イソシアネート化合物、又は、多官能エポキシ化合物等が挙げられる。
【0073】
<基材>
次に基材について説明する。本発明のインクジェットインキ受容層形成用コート剤を塗工する基材としては、特に限定されないが、例えば、
上質紙、中質紙、コート紙、アート紙、光沢紙、新聞用紙、各種情報用紙、各種特殊紙、若しくは板紙等の紙、又は、ポリエチレンテレフタレート、ジアセテート、トリアセテート、ポリアセテート、アセチルセルロース、セロハン、セルロイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリビニルクロライド、ポリビニリデンクロライド、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ナイロン、若しくはポリプロピレン等の通常使用されるプラスチックからなるフィルム等を使用することができる。
これらの中では、優れた画像の形成を得る観点からは、コート紙、アート紙、光沢紙等の加工紙が好ましい。
さらにコート紙の場合は、平滑度の高いものほど、インクジェットインキ受容層と基材との密着がよいため好ましい。
【0074】
また、上記以外にも、適度なサイジングが施された紙である無サイズ紙、コート紙、無機物の充填もしくは微細な発泡により不透明化されたフィルムからなるシート状物質(合成紙など)を使用することもできる。また、ガラスまたは金属などからなるシートなどを使用しても良い。さらに、これらの基材とインキ受容層との密着強度を向上させるため、基材の表面にコロナ放電処理や各種アンダーコート処理を施すことも可能である。
【0075】
前記基材の表面は、滑らかな表面であっても、凹凸のついたものであっても良いし、透明、半透明、不透明のいずれであっても良い。又、これらの基材の2種以上を互いに張り合わせたものでも良い。更に印刷面の反対側に剥離粘着層等を設けても良く、又印刷後、印刷面に粘着層等を設けても良い。
【0076】
<インクジェットインキ受容層の形成方法>
本発明のインキ受容層は、インキ受容層形成用コート剤を前記基材に公知の方法で塗工及び印刷により行う事が好ましい。例えば、ロールコート法、ブレードコート法、エアナイフコート法、ゲートロールコート法、バーコート法、サイズプレス法、スプレーコート法、ダイコート法、リップコート法、コンマコート法、スピンコート法、又はグラビアコート法、カーテンコート法、フレキソ印刷、スクリーン印刷、ディスペンサー印刷、インクジェット印刷、等が挙げられる。
【0077】
又、本発明のインキ受容層をインクジェット印刷により形成する際には、インキ受容層形成用コート剤を、インクジェットプリンターのインクカートリッジに充填し、印刷用インキと同時に、又は先んじて印刷することもできる。

【0078】
前記インキ受容層形成用コート剤の乾燥方法には特に制限はなく、熱風乾燥、赤外線や減圧法を利用したものが挙げられる。乾燥条件としてはインキ受容層形成用コート剤の成膜性、塗工量、あるいは選択した添加剤にもよるが、通常60〜180℃程度の熱風加熱でよいし、20〜160℃程度の赤外線加熱でもよい。熱風乾燥と赤外線乾燥を併用してもよい。
【0079】
本発明のインキ受容層形成用コート剤の塗工量としては、特に限定されないが、乾燥重量として、0.2〜50g/m2 が好ましく、より好ましくは0.5〜30g/m2 の範囲である。塗工量が0.2g/m2 以上だと、インキ受容層を設けなかった場合に比べてインキの発色性が優れる。一方、50g/m2 以下だと、カールの発生を抑えることができる。
【0080】
なお、本発明のインキ受容層は、基材の一方の面のみに設けられていてもよく、両方の面に設けられていてもよい。
【0081】
更に、必要に応じて、インキ受容層の平滑化、光沢向上あるいは表面強度向上のためにカレンダー処理やキャスト処理等を施すこともできる。
【0082】
以上説明した本発明のインキ受容層上に、水系顔料インクジェットインキによって画像を形成することにより、画像の白スジ・白抜け、色間滲みが抑制され、かつ、耐水性に優れた印刷物を好ましく得ることが出来る。
【0083】
≪画像形成工程≫
次に、前記インキ受容層上に、水系顔料インクジェットインキによって画像を形成する第2の工程について説明する。
【0084】
<水系顔料インクジェットインキ>
本発明で使用する水系顔料インクジェットインキ(以下水系インキ)は、顔料、水溶性溶剤、水および顔料分散樹脂を含むことが好ましい。以下、これらの各成分について説明する。
【0085】
本発明の水系顔料インキに含まれる顔料としては、従来既知のものが使用できる。
【0086】
水系顔料インキに含まれる黒色の顔料としては、
ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックが挙げられる。例えば、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11〜40nm、BET法による比表面積が50〜400m2/g、揮発分が0.5〜10質量%、pH値が2〜10等の特性を有するものが好適である。このような特性を有する市販品としては下記のものが挙げられる。例えば、No.33、40、45、52、900、2200B、2300、MA7、MA8、MCF88(以上、三菱化学製)、RAVEN1255(コロンビアンカーボン製)、REGAL330R、400R、660R、MOGUL L、ELFTEX415(以上、キャボット製)、Nipex90、Nipex150T、Nipex 160IQ、Nipex 170IQ、Nipex 75、Printex 85、Printex 95、Printex 90、Printex 35、Printex U(以上、エボニックデグサ製)等があり、何れも好ましく使用することができる。
【0087】
水系顔料インキに含まれるイエローの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213等が挙げられる。
【0088】
水系顔料インキに含まれるマゼンタの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 5、7、9、12、31、48、49、52、53、57、97、112、122、147、149、150、168、177、178、179、202、206、207、209、238、242、254、255、269、C.I.Pigment Violet 19、23、29、30、37、40、50等が挙げられる。
【0089】
水系顔料インキに含まれるシアンの顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 1、2、3、15:3、15:4、16、22、C.I.Vat Blue 4、6等が挙げられる。
【0090】
水系顔料インキに含まれる顔料としては、上記以外の色の顔料、及び自己分散型顔料、等、新たに製造された顔料も使用することができる。これらの顔料は、各色インキにおいて、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0091】
水系顔料インキに含まれる顔料の含有量としては、インキの全質量中に、重量比で、0.1〜20重量%、より好ましくは0.1〜12重量%の範囲である。
【0092】
水系インキに含まれる好適な媒体は、水及び水溶性溶剤の混合溶媒であるが、水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0093】
前記水溶性溶剤としては、従来既知のものが使用できるが、グリコールエーテル類、ジオール類が好ましく使用される。
【0094】
グリコールエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。中でも、インキ受容層への濡れ性、浸透性、インキの保湿性の観点から、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルを使用することが好ましい。
【0095】
ジオール類の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、2,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。
中でも、インキ受容層への濡れ性、浸透性、インキの保湿性の観点から、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールが好ましい。
【0096】
これらの水溶性溶剤は、各色インキにおいて、単独で使用しても良く、複数を混合して使用することもできる。
【0097】
さらに印刷する基材の種類によっては、その溶解性の向上を目的に、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N−メチルオキサゾリジノン、N−エチルオキサゾリジノンなどの水溶性の含窒素複素環化合物を添加することもできる。
【0098】
上記したような水溶性有機溶剤のインキ中における含有量は、一般的には、インキの全質量の3質量%以上60質量%以下の範囲であり、より好ましくは3質量%以上50質量%以下の範囲である。また、水の含有量としては、インキの全質量の10質量%以上90質量%以下、更に好ましくは、30質量%以上80質量%以下の範囲である。
【0099】
前記顔料分散樹脂は、炭素数10以上24以下のアルキル基の(メタ)アクリレートエステルを有する単量体(D)、スチレン、α−メチルスチレンもしくはベンジル(メタ)アクリレートを有する単量体(E)及び(メタ)アクリル酸を有する単量体(F)を共重合組成に含むコポリマー(共重合体)であることが好ましい。
【0100】
このような顔料分散樹脂を使用した場合、水系インキとインキ受容層表面との親和性が適切に制御され、インキドットが適度に拡がるため、白抜け・白スジ、色間滲みの抑制された画像の形成、および印刷物の耐水性の点で有益であり、また、インキ自体の保存安定性の点でも有益である。
【0101】
前記炭素数10以上24以下のアルキル基の(メタ)アクリレートエステルを有する単量体(D)としては、例えば、
デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
中でも、保存安定性の向上をより高度に図るためには、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。
【0102】
前記単量体(E)として、スチレン、α−メチルスチレンもしくはベンジル(メタ)アクリレートを有する単量体が挙げられるが、中でも、保存安定性の向上をより高度に図るためには、スチレンを使用することが好ましい。
【0103】
前記顔料分散樹脂は、上記したような単量体(D)、(E)及び(F)を共重合組成に含むコポリマーであればよいが、これらの単量体に加えて更に、単量体(E)以外の芳香族を有する単量体、および、単量体(F)以外の酸性官能基を有する単量体を共重合させてなるものであってもよい。
【0104】
前記単量体(F)以外の酸性官能基を有する単量体としては、下記のような酸性官能基を有するビニル化合物としては、例えば、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸ハーフエステル、イタコン酸、イコタン酸ハーフエステル、フマル酸、フマル酸ハーフエステル、ビニルスルホン酸、ビニルホスホン酸等が挙げられる。
【0105】
さらに、単量体(D)、単量体(E)の比率は、単量体(D)/単量体(E)=1/9〜9/1であることが好ましく、単量体(D)/単量体(E)=1/4〜4/1であることがさらに好ましい。単量体(D)と単量体(E)の比率が1/9より少ないと、顔料分散樹脂の疎水性が低くなり、顔料表面に対する顔料分散樹脂の付着力が低下し、水系顔料インクの保存安定性が低下する傾向がある。単量体(D)と単量体(E)の比率が9/1より多いと、顔料分散樹脂の顔料表面との親和性が低くなり、顔料表面に対する顔料分散樹脂の付着力が低下し、水系顔料インクの保存安定性が低下する傾向がある。
さらに、顔料分散樹脂全量中の単量体(D)、(E)、(F)の合計量の比率は、70〜100質量%が好ましい。
【0106】
前記顔料分散樹脂は、重量平均分子量が2,000〜30,000の範囲であることが好ましく、更には、重量平均分子量が5,000〜20,000の範囲のものであることがより好ましい。
【0107】
前記顔料分散剤の酸価は、重合に供するアニオン性官能基を有する単量体の組成により調節する事ができ、50mgKOH/g以上400mgKOH/g以下の範囲であることが好ましく、更には、酸価が80mgKOH/g以上300mgKOH/g以下の範囲であることがより好ましい。前記顔料分散剤の酸価が上記した範囲よりも低いと顔料インキの分散安定性が低下し、吐出安定性が悪化する傾向がある。また、前記顔料分散剤の酸価が上記した範囲より高いと、顔料表面に対する顔料分散剤の付着力が低下し、水系顔料インクの保存安定性が低下する傾向がある。
また、顔料分散剤の酸価が上記した範囲外であると、本発明のインキ受容層上に水系顔料インキによって画像を形成した時、白抜け・白スジ、色間滲みなどの画像形成の悪化や、印刷物の耐水性劣化が起こる。
【0108】
なお、ここでいう重量平均分子量や酸価は、定法によって測定される値であり、インクジェットインキ受容層の形成方法で述べた測定方法で得られる値である。
【0109】
前記顔料分散樹脂は、単量体(F)であるアクリル酸や、前記した別途導入される酸性官能基を有する単量体をイオン化することで、顔料粒子の分散安定化を図ることができる。
このために、インク全体が中性又はアルカリ性に調整されたものであることが好ましい。但し、アルカリ性が強過ぎると、インクジェット記録装置に使われている種々の部材の腐食の原因となる場合があるので、7〜10のpH範囲とするのが好ましい。
この際に使用されるpH調整剤としては、下記のものが挙げられる。例えば、アンモニア水、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等の無機アルカリ剤、有機酸や鉱酸等を使用することができる。上記したような顔料分散樹脂は、水性液媒体中に、分散又は溶解される。
【0110】
前記顔料分散樹脂は、従来既知の溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法等により、合成することができる。
【0111】
上記で説明した顔料分散樹脂は、水系インキの全質量に対して、0.1質量%以上8質量%以下の範囲で含有させるのが好ましい。
【0112】
前記水系顔料インクにおいては、必要に応じて、ロジン、シェラック及びデンプン等の天然樹脂や、前記した顔料分散樹脂でない合成樹脂も好ましく用いることができる。
この場合の天然樹脂や合成樹脂は、前記した顔料分散樹脂の添加量を上回らない程度に含有させることが好ましい。
【0113】
前記水系顔料インキには、印字した塗膜の耐性を向上させるために、水分散性樹脂粒子を含有する事が好ましい。水分散性樹脂粒子を含有することで、インキ粘度をあまり上昇させずに、印字した塗膜の耐性を向上させることができる。これにより、印刷物の耐水性、耐溶剤性、耐擦過性などが向上する。水溶性の樹脂を添加しても、ある程度耐性の向上は期待できるが、インキの粘度が上昇してしまう傾向にある。インクジェットインキの場合、ノズルからインキを吐出できる粘度には好適な範囲があり、あまり粘度が高いとインキを吐出することができなくなることがあるため、粘度の上昇を抑えることは重要である。
【0114】
前記水分散性樹脂粒子の水系顔料インキ中における含有量は、エマルジョンの固形分濃度で、インキの全重量の2〜30重量%の範囲が好ましく、3〜20重量%の範囲がより好ましい。
【0115】
前記水分散性樹脂粒子としては、水分散性ワックスが挙げられ、例えば、天然ワックスおよび合成ワックスの水分散体を挙げることができる。天然ワックスとしては、石油系ワックスであるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等、あるいは植物系ワックスであるカルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木ロウ等、さらにまた動物植物系ワックスであるラノリン、蜜蝋等を挙げることができる。また合成ワックスとしては、合成炭化水素系ワックスであるポリエチレンワックス、フィッシャー・トロブシュワックス等、あるいは変性ワックス系であるパラフィンワックス誘導体、モンタンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等を挙げることができる。これらの水分散性ワックスは、各色インクにおいて、1種または2種以上を併用して使用することができる。水分散性ワックスの市販品としては、例えば、株式会社岐阜セラツク製造所製AF−41、AG−73(HDPE)、A−514(LDPE)、A−329、A−206(マイクロクリスタリン)、AD−62(パラフィン)、X−8512(ラノリン)、XA−35(アマイド樹脂)、AF−20(蜜蝋)、XD−075(カルナバ)、ビックケミー・ジャパン株式会社製AQUACER531(HDPE)が挙げられる。
【0116】
上記したような水分散性ワックスの水系顔料インク中における含有量は、固形分で、インキの全重量の0.2〜5重量%の範囲であり、より好ましくは、0.3〜2重量%の範囲である。
【0117】
また、前記水系顔料インキには、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインキとするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤等の添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量の例としては、水系顔料インキの全質量に対して、0.05質量%以上10質量%以下、好ましくは0.2質量%以上5質量%以下が好適である。
【0118】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例中、「部」は、「重量部」を、「%」は、「重量%」を、それぞれ表す。
【0119】
(既架橋ビニル系エマルジョンの合成例1)
攪拌機、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水136.2部、界面活性剤としてRA−9607(日本乳化剤(株)製)の24%水溶液1.6部、及び緩衝剤として重曹0.13部を仕込んだ。
別途、ジアリルフタレート0.5部、メタクリル酸40部、エチルアクリレート30部、ブチルアクリレート29.5部、イオン交換水80部、及び界面活性剤として前述のRA−9607の24%濃度の水溶液6.4部を混合し、プレエマルジョンを調整した。
次に、プレエマルジョンのうちの5%を、上記の反応容器に加えた。反応容器の内温を75℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%濃度の水溶液6部の10%(つまり、0.6部)を添加し重合を開始した。
反応系内を75℃で5分間保持した後、内温を75〜80℃に保ちながらプレエマルジョンの残りと過硫酸カリウムの5%濃度の水溶液の残り(つまり、5.4部)を2時間かけて滴下し、更に2時間攪拌を継続した。固形分濃度測定にて重合率が98%を超えたことを確認後、温度を30℃まで冷却した。イオン交換水で固形分濃度を30%に調整して既架橋ビニル系エマルジョン1を得た。なお、固形分濃度は、150℃−20分の条件下、熱風オーブンで乾燥し、その残分により求めた。
【0120】
(既架橋ビニル系エマルジョンの合成例2〜26)
表1に示す単量体組成で、合成例1と同様の方法で合成し、既架橋ビニル系エマルジョン2〜26を合成した。
【0121】
合成例1〜26で得られた既架橋ビニル系エマルジョンについて、酸価、ガラス転移温度(Tg)結果を表1に示す。
【0122】
<水系顔料インクジェットインキの調整>
(顔料分散樹脂製造例1)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、トリエチレングリコールモノメチルエーテル93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、ラウリルメタクリレート35.0部、スチレン35.0部、アクリル酸30.0部、およびV−601(和光純薬製)6.0部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬製)0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けて、顔料分散樹脂1の溶液を得た。顔料分散樹脂1の重量平均分子量は約16000であった。
さらに、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール37.1部添加し中和した。これは、アクリル酸を100%中和する量である。さらに、水を200部添加し、水性化した。これを1gサンプリングして、180℃20分加熱乾燥して不揮発分を測定し、先に水性化した樹脂溶液の不揮発分が20%になるように水を加えた。これより、顔料分散樹脂1の不揮発分20%の水性化溶液を得た。
【0123】
(顔料分散樹脂製造例2〜5)
表2に記載した原料と仕込み量、反応温度を用いた以外は顔料分散樹脂製造例1と同様にして合成を行い、顔料分散樹脂2〜5の溶液を得た。さらに、中和率100%になるようにジメチルアミノエタノールを添加し、顔料分散樹脂製造例1と同様にして水性化し、顔料分散樹脂2〜5の水性化溶液を得た。
【0124】
顔料分散樹脂製造例1〜5で得られた顔料分散樹脂の酸価を表2に示す。
【0125】
(水分散性樹脂微粒子製造例)
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水40部と界面活性剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)0.2部とを仕込み、別途、2−エチルヘキシルアクリレート40部、メチルメタクリレート50部、スチレン7部、ジメチルアクリルアミド2部、メタクリル酸1部、イオン交換水53部および界面活性剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)1.8部をあらかじめ混合しておいたプレエマルジョンのうちの1%をさらに加えた。内温を60℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液10部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液20部の10%を添加し重合を開始した。反応系内を60℃で5分間保持した後、内温を60℃に保ちながらプレエマルジョンの残りと過硫酸カリウムの5%水溶液、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液の残りを1.5時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌を継続した。固形分測定にて転化率が98%超えたことを確認後、温度を30℃まで冷却した。ジエチルアミノエタノールを添加して、pHを8.5とし、さらにイオン交換水で固形分を40%に調整して水分散性樹脂微粒子の水分散体を得た。なお、固形分は、150℃20分焼き付け残分により求めた。
【0126】
(水系インキの調整例)
顔料としてPigment Blue 15:3であるLionol Blue FG−7351(東洋インキ製造(株)製)を20部、顔料分散樹脂1の水性化溶液を42.9部、水37.1部をディスパーで予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間本分散を行い、顔料分散体を得た。このとき、顔料と分散樹脂1の不揮発分の比率は、顔料/分散樹脂(不揮発分)=7/3となっている。得られた顔料分散体を20部、トリエチレングリコールモノメチルエーテルを40部、水を27.5部、水分散性樹脂微粒子1を12.5部混合し、シアンインクを作製した。このとき、水系インキ100部の中に、顔料4部、分散樹脂1.7部、水分散性定着樹脂粒子5部、が含まれている。
顔料として、C.I.Pigment Blue 15:3の代わりに、C.I.Pigment Red 122、C.I.Pigment Yellow 74、C.I.Pigment Black 7を使用することにより、それぞれマゼンタインキ、イエローインキ、ブラックインキを調整し、水系インキ1とした。
【0127】
(水系インキ調整例2〜6)
表3に記載した組成に従い、上記調整例と同様にして分散体の作製、4色水系インキの作製を行った。
【0128】
<インキ受容層形成用コート剤の調製、印刷物の作成>
(実施例1)
合成例1で得られたビニル系エマルジョン100部に、イオン交換水200部を配合し、固形分濃度10%のインクジェットインキ受容層形成用コート剤を調製した。このコート剤を、コート紙[王子製紙(株)製、OKトップコートプラス]に、ワイヤーバーNo.2によって塗工し、60℃の熱風オーブンで2分間乾燥して、インクジェットインキ受容層を積層した記録媒体を作製した。
次に、水系インキ調整例1で得られた4色水系顔料インキをインクジェットプリンター(エプソン社製「PM−750C」)のカートリッジに充填して、パターン印刷を行い、評価用印刷物を作製した。
【0129】
(実施例2〜22)(比較例1〜4)
実施例1において、合成例1の既架橋ビニル系エマルジョンを表4に示す既架橋ビニル系エマルジョンに変えた他は同様にして、評価用印刷物を作製した。
【0130】
(実施例23〜28)
実施例1において、調整例1の4色水系顔料インキを表4に示す4色水系顔料インキに変えた他は同様にして、評価用印刷物を作製した。
【0131】
表4に、白抜け・白スジ、乾燥性、及び耐水性の評価結果を示す。以下に具体的な評価方法を説明する。
【0132】
<白抜け・白スジ>
印字率100%のベタ印刷部において、目視で評価し、明らかに白抜け・白スジが発生しているものを×、若干白抜け・白スジが発生しているものを△、白抜け・白スジがないものを○とした。特に、白抜け・白スジがない上に、濃度ムラがなく均一なベタ印刷部が得られているものを◎とした。
【0133】
<色間滲み>
印字率100%の単色ベタ印刷部を異なる色で掛け合わせた境界部において、目視で明らかに滲みが発生しているものを×、若干滲みが発生しているものを△、滲みがないものを○とした。特に、3色重ねにおいても滲みのない印刷部が得られているものを◎とした。
【0134】
<乾燥性>
印刷直後に、印字率200%のベタ印刷部に、コピー用紙を指で押し当てて、色の転移が見られるものを×、わずかに色の転移が見られるものを△、色の転移が見られないものを○とした。
【0135】
<耐水性>
印字率100%のベタ印刷部に、水をスポイトで一滴垂らし、1分後に水をティッシュペーパーでふき取った後、目視で評価し、インクジェットインキがとれてなくなっているものを×、インクジェットインキがわずかにとれているものを△、変化がないものを○とした。特に、目視での変化がなかったものの中で、さらに、水で濡らした綿棒で5回こすっても、目視での変化がないものを◎とした。
【0136】
【表1】

【0137】
【表2】

【0138】
【表3】

【0139】
【表4】

【0140】
表4に示すように、実施例1〜28の本願発明のインキ受像層形成用コート剤によると、白スジ・白抜け、滲みがほとんどなく、乾燥性及び耐水性が優れる。
中でも、単量体(C)として芳香族基を有する単量体を用いた実施例9、19〜21のインキ受像層形成用コート剤によると、耐水性が非常に優れる。
これに対して、単量体(A)を用いない比較例1のインキ受像層形成用コート剤によると、耐水性が非常に劣る。
また、単量体(B)を用いない比較例2及び4のインキ受像層形成用コート剤によると、白スジ・白抜けの発生が多い。
さらに、単量体(C)を用いない比較例3のインキ受像層形成用コート剤によると、白スジ・白抜け、滲みの発生が多く、乾燥性が劣る。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(A)、カルボキシル基と1つのエチレン性不飽和基とを有する単量体(B)および炭素数1〜12の疎水基と1つのエチレン性不飽和基とを有する単量体(C)を少なくとも含む単量体混合物を乳化重合してなる既架橋ビニル系エマルジョンを含むインクジェットインキ受容層形成用コート剤を、基材の少なくとも一方の面に用いてインクジェットインキ受容層を形成する第1の工程、及び前記インクジェットインキ受容層上に水系顔料インクジェットインキによって画像を形成する第2の工程を含むことを特徴とする印刷物。
【請求項2】
前記乳化重合に供する単量体の合計100重量%中、前記単量体(A)の割合が0.1〜5重量%であり、前記単量体(B)の割合が20〜80重量%であることを特徴とする請求項1記載の印刷物。
【請求項3】
前記既架橋ビニル系エマルジョンの樹脂粒子の酸価が、100〜500mgKOH/gであることを特徴とする請求項1または2記載の印刷物。
【請求項4】
前記既架橋ビニル系エマルジョンの樹脂粒子のガラス転移温度が0〜100℃であることを特徴とする、請求項1〜3いずれか記載の印刷物。
【請求項5】
前記水系顔料インクジェットインキは顔料、水溶性溶剤、水及び顔料分散樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の印刷物。
【請求項6】
前記顔料分散樹脂は、炭素数が10〜24のアルキル基の(メタ)アクリレートエステルを有する単量体(D)、スチレン、α−メチルスチレンもしくはベンジル(メタ)アクリレートを有する単量体(E)及び(メタ)アクリル酸を有する単量体(F)を共重合組成に含むコポリマー(共重合体)であることを特徴とする、請求項1〜5いずれか記載の印刷物。
【請求項7】
前記顔料分散樹脂の酸価が50〜400mgKOH/g以下であることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の印刷物。
【請求項8】
前記水溶性溶剤が、グリコールエーテル類、ジオール類から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜7いずれか記載の印刷物。

【公開番号】特開2013−27979(P2013−27979A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163584(P2011−163584)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】