説明

インクジェット印刷用アクリル系樹脂フィルム

【課題】柔軟性、印刷適正(印字及び印刷画像の鮮明性及び発色性)及び非カール性に優れるインクジェット印刷用アクリル系樹脂フィルムの提供。
【解決手段】アクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体を重合して得られる重合体を主成分とし、かつガラス転移温度が30℃以下であるゴム層を内部に有し、メタクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体を重合して得られる重合体を含み、かつガラス転移温度が50℃以下である熱可塑性樹脂層を最外部に有するアクリル系軟質多層構造重合体粒子48〜95重量部%、メタクリル酸メチルの単独重合体またはメタクリル酸メチルとこれと共重合可能な単量体を重合して得られる重合体を含み、かつガラス転移温度が50〜110℃であるアクリル系樹脂4〜40重量%、及び安定剤0.1〜4重量%を含むインクジェット印刷用アクリル系樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、看板、ポスター、ステッカー及びマーキングフィルム等の表示類や、横断幕及び懸垂幕等の広告幕等に用いられるインクジェット印刷用フィルムに関し、更に詳しくは、柔軟性、印刷適正(印字及び印刷画像の鮮明性及び発色性)に優れるインクジェット印刷用アクリル系樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、看板、ポスター、ステッカー及びマーキングフィルム等の表示類や広告幕用フィルム材料としては着色性、加工性、印刷性に優れるポリ塩化ビニル系樹脂フィルムが多用されてきた。
近年、これらの分野では多品種小ロットの多様化するニーズに対してデザインから印刷加工までの一連の生産作業を合理的に行う方法として、コンピューターとインクジェットプリンターを組合せて用いる印刷方式が注目されており、パソコン上で作成したデザインまたは画像を大型インクジェットプリンターにて印刷処理する生産方式は、作業、納期の大幅短縮と作業効率の無駄を省く新しい印刷システムとして急速に実用化が進んでいる。
印刷用基材としてのポリ塩化ビニル系樹脂フィルムは、溶剤系インクに対する初期の印刷適性を有するものの、長期間保管した場合には、可塑剤等のブリードにより印刷が不良となる等の問題があり、また廃棄処理する場合のコストが必要となる等の諸問題が指摘されている。
【0003】
最近では、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの代替材料として一部用途に於いてはポリオレフィン系樹脂フィルムが実用化されているが、ポリオレフィン系樹脂は非極性樹脂であるため印字及び画像の鮮明性、インクの密着性等が大幅に劣る欠点があり、フィルム上にインクを吸収させるための受容層を設ける必要があった。
ポリオレフィン系樹脂フィルム上に受容層を形成したインジェット印刷用フィルムとしては、(1)プラスチック基材上にイソシアネート化合物とポリエーテルポリオールの反応生成物を含有する組成物からなる受容層を基材上に設けたインクジェット記録用記録材(特許文献1)、(2)軟質ポリオレフィン樹脂層を有する基材フィルム上に受容層を設けたフィルム(特許文献2)等が開示されている。
しかしながら、これら公知のインクジェット印刷用フィルムは、受容層を形成するため、経済性に欠けるとともに、物性の異なる樹脂層が積層されているので、フィルム自体がカールするといった問題を抱えており、用途、使用量が拡大していないのが実状である。
【0004】
【特許文献1】特公平3−42590公報
【特許文献2】特開2000−37949
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリ塩化ビニル系樹脂を用いず、かつ受容層を設けなくても十分な印刷適正を有するインクジェット印刷用プラスチックフィルムを提供することを主目的とし、特に、柔軟性、印字及び画像の鮮明性、インクの密着性に優れるインクジェット印刷用アクリル系樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の要旨とするところは、(1)アクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体を重合して得られる重合体を主成分とし、かつガラス転移温度が30℃以下であるゴム層を内部に有し、メタクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体を重合して得られる重合体を含み、かつガラス転移温度が50℃以下である熱可塑性樹脂層を最外部に有するアクリル系軟質多層構造重合体粒子48〜95重量部%、メタクリル酸メチルの単独重合体またはメタクリル酸メチルとこれと共重合可能な単量体を重合して得られる重合体を含み、かつガラス転移温度が50〜110℃であるアクリル系樹脂4〜40重量%、及び安定剤0.1〜4重量%を含むインクジェット印刷用アクリル系樹脂フィルム、(2)前記アクリル系軟質多層構造重合体粒子のゴム層が、アルキル基の炭素原子数が1〜12である少なくとも1種のアクリル酸アルキルエステル30〜99重量%、アルキル基の炭素原子数が1〜8である少なくとも1種のメタクリル酸アルキルエステル0〜69.9重量%、これらと共重合可能な不飽和単量体0〜30重量%及び多官能性単量体0.1〜10重量%を重合して得られる重合体からなり、熱可塑性樹脂層が、アルキル基の炭素原子数が1〜12である少なくとも1種のアクリル酸アルキルエステル30〜99重量%、アルキル基の炭素原子数が1〜8である少なくとも1種のメタクリル酸アルキルエステル1〜70重量%及びこれらと共重合可能な不飽和単量体0〜30重量%を重合して得られる重合体からなる上記(1)に記載のインックジェット印刷用アクリル系樹脂フィルム、(3)前記安定剤が脂肪酸亜鉛を含有する上記(1)または(2)のいずれかに記載のインクジェット印刷用アクリル系樹脂フィルムに存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のインクジェット印刷用アクリル系樹脂フィルムは、フィルム表面に受容層を形成せずとも、優れた印刷適正を有し、また優れた柔軟性、非カール性を有するため、経済性にも優れ、実用上極めて有用であるとともに、ポリ塩化ビニル系樹脂を使用しないため、一般廃棄物としての処理が可能であることから、看板、ポスター、ステッカー及びマーキングフィルム等の表示類や、横断幕及び懸垂幕等の広告幕等や、産業、住宅、医療、雑貨用等の屋内及び屋外用の粘着フィルム(テープ)、ラミネートフィルム及びシート類として広範囲の用途に使用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明の詳細を説明する。
本発明のインクジェット印刷用アクリル系樹脂フィルム(以下「本フィルム」と記載する)に使用されるアクリル系軟質多層構造重合体粒子は、乳化重合法等によって得ることができ、例えば、水性媒体中における乳化重合によってゴム層となる重合体を製造し、次に単量体混合物を加え重合させることにより熱可塑性樹脂層を形成する等の方法により製造される。
該粒子の内部を構成するゴム層は、アクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体を重合して得られる重合体を主成分とし、かつガラス転移温度が30℃以下であり、好ましくは前記重合体の量が50〜100重量%である。
【0009】
特に、ゴム層はアルキル基の炭素原子数が1〜12である少なくとも1種のアクリル酸アルキルエステル30〜99重量%、アルキル基の炭素原子数が1〜8である少なくとも1種のメタクリル酸アルキルエステル0〜69.9重量%、これらと共重合可能な不飽和単量体0〜30重量%及び多官能性単量体0.1〜10重量%を重合して得られる重合体であって、Tgが30℃以下の軟質重合体からなるのが好ましく、更に前記アクリル酸アルキルエステルの量はより好ましくは40〜90重量%である。該アクリル酸アルキルエステルの量が30重量%より少ないとアクリル系軟質多層構造重合体粒子の柔軟性が低下する傾向となり好ましくない。また、多官能性単量体の量は0.1〜10重量%が好ましく、0.1重量%より少ないとベトツキが生じる場合があり、10重量%を超えると柔軟性が低下する恐れがあり好ましくない。
ゴム層のTgは30℃以下、好ましくは25℃以下、さらに好ましくは0℃以下であり、30℃を超えるとやはりアクリル系軟質多層構造重合体粒子の柔軟性が低下し好ましくない。
【0010】
一方、アクリル系軟質多層構造重合体粒子の最外層となる熱可塑性樹脂層は、メタクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体を重合して得られる重合体を含み、かつガラス転移温度が50℃以下であり、好ましくは前記重合体の量が50〜100重量%である。熱可塑性樹脂層は特に、アルキル基の炭素原子数が1〜12である少なくとも1種のアクリル酸アルキルエステル30〜99重量%、アルキル基の炭素原子数が1〜8である少なくとも1種のメタクリル酸アルキルエステル1〜70重量%及びこれらと共重合可能な不飽和単量体0〜30重量%を重合して得られる重合体であって、Tgが50℃以下の重合体からなるのが好ましく、前記アクリル酸アルキルエステルの量はより好ましくは40〜90重量%である。アクリル酸アルキルエステルの量が30重量%より少ないと内部層と同様、柔軟性が低下する傾向となり好ましくない。また熱可塑性樹脂層のTgは50℃以下、好ましくは−10〜40℃であり、ゴム層との組成比率が物性に大きく影響するが、50℃を超えるとやはり良好な柔軟性が得られなくなる。アクリル系軟質多層構造重合体粒子中のゴム層および熱可塑性樹脂層に関して、各層中の重合体を構成する単量体の種類、組成比率は同一であっても、異なっていてもよいが、より良好な透明性を得るためにはゴム層および熱可塑性樹脂層間の屈折率の差の最大値が、0.003以下であることが好ましい。
【0011】
本発明でいうアクリル系軟質多層構造重合体粒子の各層のTgとは、通常知られている
FOXの式:1/Tg=a/Tg+a/Tg+a/Tg+・・・
に従い計算より求めたものであり、式中のTg、TgおよびTgは各層を形成する重合体を構成する単量体を単独で重合した際に得られる重合体のガラス転移温度を表し、式中のa、aおよびaは各層を形成する重合体を構成する単量体単位の重量分率を表わす。
【0012】
本発明のアクリル系軟質多層構造重合体粒子に用いられるアクリル酸エステルとしては、アルキル基の炭素原子数が1〜12である少なくとも1種のアクリル酸アルキルエステルが挙げられ、具体的にはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらは単独または併用して用いることができる。中でも特にアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシルまたはこれらの2種以上の混合物が好ましい。
【0013】
メタクリル酸エステルとしては、アルキル基の炭素原子数が1〜8である少なくとも1種のメタクリル酸アルキルが挙げられ、具体的にはメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等が挙げられ、これらは単独または併用して用いることができる。中でもメタクリル酸メチルが好ましい。
【0014】
アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルと共重合可能な単量体としては、ブタジエン、イソプレン、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、N−シクロヘキシルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−オルソクロロフェニルマレイミド等の不飽和単量体が挙げられ、これらは単独または併用して用いることができる。
また、多官能性単量体としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、アリルマレエート、アリルフマレート、ジアリルフマレート、トリアリルシアヌレート等が挙げられ、それらは単独で用いてもまたは併用してもよい。
【0015】
本発明に用いるメタクリル酸メチルの単独重合体またはメタクリル酸メチルとこれと共重合可能な単量体を重合して得られる重合体を含み、かつガラス転移温度が50〜110℃であるアクリル系樹脂としては、該重合体のいずれかまたはこれらの混合物を50〜100重量%含有するものが好ましい。前記重合体を構成する単量体のうち、メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル及びその他の不飽和単量体が挙げられ、これらの単量体は単独で用いても併用してもよい。前記のアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル及びその他の不飽和単量体としては、アクリル系軟質多層構造重合体粒子の説明において挙げたものを用いることができる。
該アクリル系樹脂のガラス転移温度が110℃より高いとフィルムの柔軟性が低下するので好ましくない。また、50℃より低い場合には、耐溶剤性が低下し、溶剤系印刷インクの吸収が早くなりすぎ、印刷適正が低下するので好ましくない。
【0016】
本フィルムは、上記のアクリル系軟質多層構造重合体粒子及びアクリル系樹脂に加え、安定剤を含有することを特徴としている。
安定剤としては、脂肪酸カルシウム、脂肪酸亜鉛及び脂肪酸バリウム等の金属石ケン、オレフィン系ワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、ハイドロタルサイトなどを用いることができる。
中でも、アクリル系樹脂フィルムへの溶剤系印刷インクの吸収を遅らせる効果から、金属石ケンが好ましく、特に脂肪酸亜鉛が好ましい。
安定剤の量は、0.1〜4重量%であり、特に0.2〜2重量%が好ましい。0.1重量%より少ないと、加工性が低下するとともに、印刷インクの吸収が速くなりすぎ、印刷適正が低下し、また、4重量部より多いと安定剤の表面濃度が高くなりすぎ、印刷インクの吸収が遅くなりすぎるので好ましくない。
【0017】
その他、本フィルムには、インク吸収性、耐ブロッキング性を改善する目的で無機フィラー、有機フィラー等のフィラーを配合してもよく、また耐候性等を改善する目的で紫外線吸収剤やヒンダードアミン系光安定剤等を配合してもよい。
無機フィラーとしては、合成シリカ、セルロース粉末、カオリン、クレー、タルク、ケイソウ土、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ゼオライト及びアルミナ等が挙げられ、有機フィラーとしては、平均粒子径1〜5μmのポリアクリル樹脂ビーズ、ポリウレタン樹脂ビーズ及びポリカーボネート樹脂ビーズ等の樹脂粒子が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、2−(2'−ヒドロキシ−3'ラウリル−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、メチル−3−[3−t−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネート−ポリエチレングリコールの縮合物及びヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール誘導体等が挙げられる。
【0018】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物及びポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]等が挙げられる。
【0019】
紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光安定剤の配合量は各々単独または併用した場合でも、フィルムの樹脂成分100重量部に対し0.1〜10重量部の範囲とすることが好ましい。0.1重量部より少ないと耐候性向上効果が得られず、過酷な条件下でのフィルムの劣化及び黄変防止等が不十分となり、一方、10重量部を超えるとブルーム現象が起こる恐れや、インクの吸収性、鮮明性及び密着性等を低下させる恐れがあるので好ましくない。
更に、本フィルムには、本発明の目的を損ねない範囲で、必要に応じ、他の合成樹脂や、顔料、耐水化剤、分散剤及び消泡剤等を配合することができる。
本フィルムの製造方法としては、Tダイ押出し成形法、インフレーション成形法及びカレンダー成形法等の一般的なアクリル系樹脂フィルムの成形方法を用いればよく、特に限定されない。
本フィルムの厚さは通常50〜200μmで、引張弾性率は250〜900MPaであるのが好ましい。フィルムの引張弾性率が250MPaより小さいとフィルムが伸び易く二次加工性及び製品化後の貼りつけ施工性が劣る恐れがあり、900MPaを超えると剛性が強くなり過ぎ曲面追従性が悪化する恐れがあるので好ましくない。
【0020】
更に本フィルムは、インクとの密着性を向上させる為に、予め該フィルム表面に易接着処理を施してもよい。
易接着処理としては、公知のコロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理または火炎処理等の方法が挙げられる。
本フィルムの少なくとも一方の面に必要に応じてコロナ放電処理やアンカーコートを施した後、粘着剤層を設けることにより看板、車両等に貼り付け可能なインクジェット印刷用粘着フィルムが得られる。
粘着剤の種類は特に限定されるものではなく、例えば、天然ゴム系、合成ゴム系、アクリル系、ウレタン系、ビニルエーテル系、シリコーン系、アミド系及びスチレン系粘着剤、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー及びエチレン系不飽和カルボン酸やその無水物でグラフト変性された酸変性オレフィン樹脂等の各種粘着剤が好適に用いられ、また、その形態は、溶液型、エマルジョン型、ホットメルト型等いずれであってもよい。前記粘着剤層には、粘着特性の制御等を目的として必要に応じて、例えばα−ピネンやβ−ピネン重合体、ジテルペン重合体、α−ピネン・フェノール共重合体等のテルペン系樹脂、脂肪族系や芳香族系、脂肪族・芳香族共重合体系等の炭化水素系樹脂、その他ロジン系樹脂やクマロンインデン系樹脂、(アルキル)フェノール系樹脂やキシレン系樹脂など適当な粘着付与剤を配合できる。さらに、液状ポリマーやパラフィン系オイルなどの軟化剤、充填剤、顔料、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤等、用途等に応じて必要な種々の添加剤が配合できる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の実施形態について実施例を用いて詳述するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
<評価方法>
(1)引張弾性率
JIS K 7127に準じて下記の条件で基材フィルムの引張弾性率を測定した。結果を表−1に示した。
なお、試験片は、フィルム成形直後にサンプリングし、23℃雰囲気下で1日放置したものを用いた。ダンベルは1号、引張速度は50mm/分で実施した。
(2)非カール性
インクジェット印刷用フィルムを室温23℃で平面上に放置した直後、端部のカール、ソリ状態を目視判定し、下記に従い○〜×で評価し、結果を表−1に示した。
○:カール、ソリが全く無い
△:カールはしないが端部が浮く(20mm未満)
×:フィルム端部が20mm以上浮く、またはカールする
(3)インクジェット印刷性
インクジェット印刷用フィルムに、下記市販のインクジェットプリンターを用いて、風景写真画像を印刷し、それを試験片として用い、下記の評価項目に記載の評価を行い、結果を表−1に示した。
【0022】
インクジェットプリンター機種:ローランドディー.ジー(株)製SP−300、エコソルインク
印刷出力;720dpi
(評価項目)
(a)鮮明性
試験片の印刷画像の鮮明性を目視観察し、下記に従い○〜×で評価し、結果を表−1に示した。
○:良い
△:普通
×:悪い
(b)発色性
試験片の印刷画像の発色性を目視観察し、下記に従い○〜×で評価し、結果を表−1に示した。
○:良い
△:普通
×:悪い
<実施例1〜3、比較例1〜3>
実施例1〜3及び比較例1〜2
インクジェット印刷用アクリル系樹脂フィルムの作成
表−1に示す各アクリル系樹脂組成物(アクリルA〜E)をスーパーミキサーで10分間撹拌混合したのち、180℃に加温したミルロール上で混練し、厚さ0.1mmのアクリル系樹脂フィルムを作成し、基材フィルムとした。該基材フィルムをインクジェット印刷用フィルムとして用い、インクジェット印刷を行い評価した。結果を表−1に示した。なお、アクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体を重合して得られる重合体を主成分とし、かつガラス転移温度が30℃以下であるゴム層を内部に有し、メタクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体を重合して得られる重合体を含み、かつガラス転移温度が50℃以下である熱可塑性樹脂層を最外部に有するアクリル系軟質多層構造重合体粒子として、(株)クラレ製 アクリル系軟質多層構造体粒子「パラペットSA−NP」を用い、メタクリル酸メチルの単独重合体またはタクリル酸メチルとこれと共重合可能な単量体を重合して得られる重合体を含むガラス転移温度が50〜110℃であるアクリル系樹脂として(株)クラレ製 ポリメタクリル酸メチル樹脂「パラペットG−P」を用いた。

比較例3
インクジェット印刷用ポリオレフィン系樹脂フィルムの作成
メルトフローレート7.0(g/10分)、融点140℃のランダムポリプロピレン50重量部、メルトフローレート2.5(g/10分)、融点160℃の低結晶性熱可塑性プロピレン単独重合体(プロピレン系熱可塑性エラストマー)50重量部を混合した組成物を用い、三菱重工(株)製多層押出成形機により、厚さ0.08mmの3層積層体(層比:内層/中間層/外層=1/8/1)を作成し、基材フィルムとした。なお、中間層のみ酸化チタン顔料を中間層樹脂成分100重量部に対して15重量部配合した。
【0023】
次に、基材フィルムの両面をコロナ処理した後、一方のコロナ処理面上に、下記受容層形成用塗布液を乾燥後の厚みが約20μmになる様にナイフコーターで塗工し、100℃の熱風オーブン中に約2.5分間放置して乾燥させ、受容層を形成し、インクジェット印刷用ポリオレフィン系樹脂フィルム(ポリオレフィンA)を得た。
得られた該ポリオレフィン系樹脂フィルムを用い、インクジェット印刷を行い評価した。結果を表−1に示した。
【0024】
(受容層形成用塗布液の調製)
下記組成の受容層形成用塗布液(固形分濃度20重量%)を調製した。
【0025】
疎水性ポリウレタン樹脂(*1) 200重量部
合成シリカ(*2) 8重量部
イロプロピルアルコール 32重量部

*1:疎水性ウレタン樹脂
ポリヘキサメチレンポリカーボネートジオールとイソホロンジイソシアネートをモル比で1:1で混合し、反応させて得られた重量平均分子量50,000のポリカーボネートポリウレタン樹脂
*2:合成シリカ
日本シリカ工業(株)製「NIPGEL AZ400」
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体を重合して得られる重合体を主成分とし、かつガラス転移温度が30℃以下であるゴム層を内部に有し、メタクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体を重合して得られる重合体を含み、かつガラス転移温度が50℃以下である熱可塑性樹脂層を最外部に有するアクリル系軟質多層構造重合体粒子48〜95重量部%、メタクリル酸メチルの単独重合体またはメタクリル酸メチルとこれと共重合可能な単量体を重合して得られる重合体を含み、かつガラス転移温度が50〜110℃であるアクリル系樹脂4〜40重量%、及び安定剤0.1〜4重量%を含むインクジェット印刷用アクリル系樹脂フィルム。
【請求項2】
前記アクリル系軟質多層構造重合体粒子のゴム層が、アルキル基の炭素原子数が1〜12である少なくとも1種のアクリル酸アルキルエステル30〜99重量%、アルキル基の炭素原子数が1〜8である少なくとも1種のメタクリル酸アルキルエステル0〜69.9重量%、これらと共重合可能な不飽和単量体0〜30重量%及び多官能性単量体0.1〜10重量%を重合して得られる重合体からなり、熱可塑性樹脂層が、アルキル基の炭素原子数が1〜12である少なくとも1種のアクリル酸アルキルエステル30〜99重量%、アルキル基の炭素原子数が1〜8である少なくとも1種のメタクリル酸アルキルエステル1〜70重量%及びこれらと共重合可能な不飽和単量体0〜30重量%を重合して得られる重合体からなる請求項1に記載のインックジェット印刷用アクリル系樹脂フィルム。
【請求項3】
前記安定剤が脂肪酸亜鉛を含有する請求項1または2のいずれか1項に記載のインクジェット印刷用アクリル系樹脂フィルム。

【公開番号】特開2007−175950(P2007−175950A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375356(P2005−375356)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000176774)三菱化学エムケーブイ株式会社 (29)
【Fターム(参考)】