説明

インクジェット印刷用インク組成物

【課題】密着性、低粘度、保存安定性、臭気及び皮膚刺激性に優れ、さらに硬化性にも優れたインクジェット印刷用インク組成物を提供する。
【解決手段】光重合性化合物と光重合開始剤とを含むインクジェット印刷用インク組成物であって、エポキシ基含有ポリマーをさらに含み、前記エポキシ基含有ポリマーは該インク組成物の総量に対して0.3〜10質量%含まれるインクジェット印刷用インク組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷用インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紙などの印刷メディアに、画像データ信号に基づき画像を形成する画像記録方法として、種々の方式が利用されている。このうち、インクジェット方式は、安価な装置で、必要とされる画像部のみにインクを吐出し印刷メディア上に直接画像形成を行うため、インクを効率良く使用でき、ランニングコストが安い。さらに、インクジェット方式は騒音が小さいため、画像記録方式として優れている。
【0003】
近年、高い耐水性、耐溶剤性や耐擦過性等を有する印字を印刷メディアの表面に形成するために、紫外線等の放射線を照射すると硬化する光硬化性のインクジェット印刷用インクが使用されている。ところが、かかる光硬化性インクジェット印刷用インク組成物は、印刷メディアへの密着性に劣る。そのため、前記密着性を改善する試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、密着成分としてビニルカプロラクタム等のN−ビニルラクタム類を含むインク組成物が開示されている。また、特許文献2には、密着成分としてテトラヒドロフルフリルアクリレート(THF−A)等のオリゴマーを5〜30質量%含むインク組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−201876号公報
【特許文献2】特許第3619778号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように、密着性向上のためにモノマーであるN−ビニルラクタム類を用いた場合、皮膚刺激性や臭気が強くなり、かつ、保存安定性及び耐光性に劣るインク組成物が生じやすくなる。また、特許文献2のように、密着性向上のためにオリゴマーを用いた場合、その種類や添加量によってはインク組成物として、密着性が不十分であったり、硬化性に悪影響を及ぼしたり、臭気や皮膚刺激性が強くなったりする場合がある。このように、従来の光硬化性のインクジェット印刷用インク組成物は、印刷メディアへの密着性に問題があるか、又は前記密着性に問題がない場合でも臭気、皮膚刺激性や保存安定性に問題がある。そのため、これらの問題を有さないインクジェット印刷用インク組成物が求められている。
【0007】
そこで、本発明に係るインクジェット印刷用インク組成物は、密着性、低粘度、保存安定性、臭気及び皮膚刺激性に優れ、さらには硬化性にも優れたインクジェット印刷用インク組成物を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。まず、本発明者らは、密着成分としてグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリレートモノマーを含むインク組成物を検討した。前記インク組成物は、密着性が向上するものの、皮膚刺激性や臭気が強い等の問題を有することを確認した。上記の検討結果に基づきさらに検討を重ねた結果、密着成分としてモノマーやオリゴマーでなくポリマーを使用することにより、密着性は低下するものの、上記の問題を克服したインク組成物が得られることが分かった。そこで、密着性が向上する上、上記の問題も有しないインク組成物をさらに鋭意検討した。その結果、密着成分として所定量のエポキシ基含有ポリマーをインク組成物に使用することにより、密着性、低粘度、保存安定性、臭気及び皮膚刺激性に優れ、さらには硬化性にも優れるインクが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は下記のとおりである。
[1]
光重合性化合物と光重合開始剤とを含むインクジェット印刷用インク組成物であって、エポキシ基含有ポリマーをさらに含み、前記エポキシ基含有ポリマーは該インク組成物の総量に対して0.3〜10質量%含まれる、インクジェット印刷用インク組成物。
[2]
前記エポキシ基含有ポリマーは、スチレン系ポリマー、スチレン−アクリル系コポリマー及びアクリル系ポリマーからなる群より選択される1種以上である、[1]に記載のインクジェット印刷用インク組成物。
[3]
前記エポキシ基含有ポリマーのエポキシ当量が2,000g/eq以下である、[1]又は[2]に記載のインクジェット印刷用インク組成物。
[4]
前記エポキシ基含有ポリマーの重量平均分子量が200,000以下である、[1]〜[3]のいずれかに記載のインクジェット印刷用インク組成物。
[5]
前記光重合性化合物は、芳香環骨格、飽和脂環骨格、及び不飽和脂環骨格からなる群より選択される1種以上の骨格を有する単官能(メタ)アクリレートを10〜50質量%含む、[1]〜[4]のいずれかに記載のインクジェット印刷用インク組成物。
[6]
前記単官能(メタ)アクリレートは、フェノキシエチル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレートのうち少なくとも一方である、[5]に記載のインクジェット印刷用インク組成物。
[7]
25℃における粘度が5〜45mPa・sである、[1]〜[6]のいずれかに記載のインクジェット印刷用インク組成物。
[8]
顔料及び染料のうち少なくとも一方の色材をさらに含む、[1]〜[7]のいずれかに記載のインクジェット印刷用インク組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル、及びこれに対応するメタクリルの双方を意味する。
【0012】
[インクジェット印刷用インク組成物]
本発明の一実施形態は、インクジェット印刷用インク組成物に係る。より具体的には、本実施形態は、光硬化性のインクジェット印刷用インク組成物に係る。当該インクジェット印刷用インク組成物は、光重合性化合物と光重合開始剤とエポキシ基含有ポリマーとを含む。
【0013】
ここで、本明細書における「オリゴマー」とは、二個〜数十個程度のモノマーが反応することにより合成され、比較的少ない数の繰り返し単位を持ち、かつ、一以上の放射線重合性基を有する分子を意味する。本明細書における「ポリマー」とは、一種以上のモノマー及びオリゴマーのうち少なくとも一方の繰り返し単位を有し、モノマー数としては数百個以上の大きな繰り返し単位を持つ分子を意味する。なお、前記ポリマーは、その構造中にさらなる放射線重合性基を有する分子と有さない分子のいずれも含む。
【0014】
以下、本実施形態に係るインクジェット印刷用インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)に含まれる成分を説明する。
【0015】
〔エポキシ基含有ポリマー〕
本実施形態のインク組成物は、密着成分としてエポキシ基含有ポリマーを含むことにより、特に皮膚刺激性や臭気が強い等の問題を克服することができる。
【0016】
前記エポキシ基含有ポリマーは、当該ポリマー中にエポキシ基を有するポリマー、より具体的には、当該ポリマーの主鎖末端及び側鎖末端の少なくともいずれかにエポキシ基を有するポリマーである限り、特に限定されない。前記エポキシ基含有ポリマーの具体例は、当該ポリマー中にエポキシ基が存在する、アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、スチレン−アクリル系コポリマー、ロジン変性ポリマー、テルペン系ポリマー、変性テルペンポリマー、ポリエステル、ポリアミド、塩化ビニルポリマー、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、並びにセルロースアセテートブチレート及びヒドロキシプロピルセルロース等の繊維素系ポリマー、ポリビニルブチラール、ポリアクリルポリオール、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、並びに水素添加石油ポリマーがあり得る。
【0017】
上記で列挙したものの中でも、インク組成への溶解性、及び他の(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性の観点から、当該ポリマー中にエポキシ基が存在する、スチレン系ポリマー、スチレン−アクリル系コポリマー及びアクリル系ポリマーからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。より好ましくは、当該ポリマー中にエポキシ基が存在する、スチレン系ポリマー及びアクリル系ポリマーのうち少なくともいずれかである。
【0018】
上記のスチレン系ポリマーの市販品として、特に限定されないが、例えば、マープルーフ(登録商標)G−0115S(粉体、重量平均分子量11,000、ガラス転移温度69℃、エポキシ当量1,000g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−0130S−P(粉末、重量平均分子量9,000、ガラス転移温度69℃、エポキシ当量530g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−0250S(粉体、重量平均分子量20,000、ガラス転移温度74℃、エポキシ当量310g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−1005S(粉体、重量平均分子量100,000、ガラス転移温度96℃、エポキシ当量3,300g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−1005SA(粉体、重量平均分子量100,000、ガラス転移温度98℃、エポキシ当量3,300g/eq)、及びマープルーフ(登録商標)G−1010S(粉体、重量平均分子量100,000、ガラス転移温度93℃、エポキシ当量1,700g/eq)(以上、日油社(NOF CORPORATION)製)が挙げられる。
【0019】
また、上記のアクリル系ポリマーの市販品として、特に限定されないが、例えば、マープルーフ(登録商標)G−0150M(粉体、重量平均分子量8,000〜10,000、ガラス転移温度71℃、エポキシ当量310g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−0150M―LM(液体、MEK40%含有、重量平均分子量10,000、ガラス転移温度71℃、エポキシ当量520g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−2050M(粉体、重量平均分子量200,000〜250,000、ガラス転移温度74℃、エポキシ当量340g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−2050M―LM(液体、MEK70%含有、重量平均分子量200,000〜250,000、ガラス転移温度74℃、エポキシ当量1,100g/eq)、マープルーフ(登録商標)G−01100(粉体、重量平均分子量12,000、ガラス転移温度47℃、エポキシ当量170g/eq)、及びマープルーフ(登録商標)G−017581(ブロック、重量平均分子量10,000、ガラス転移温度0℃以下、エポキシ当量240g/eq)(以上、日油社製)が挙げられる。
【0020】
また、エポキシ基含有ポリマーは、前記エポキシ基含有ポリマー1分子あたり、好ましくは2以上のエポキシ基を有する。また、インク組成中に含有されるエポキシ基の数を増やし、効果を高める観点から、エポキシ当量が後述する好ましい範囲の値を採ることがよい。
【0021】
本実施形態のインク組成物は、その総量に対して0.3〜10質量%のエポキシ基含有ポリマーを含む。前記エポキシ基含有ポリマーの含有量が0.3質量%以上である場合、インク組成物の密着性が向上する。一方、前記エポキシ基含有ポリマーの含有量が10質量%以下である場合、インク組成物の粘度が低くなって射出が一層容易になる。
【0022】
より具体的に、上記インク組成物は、その総量に対して、好ましくは0.5〜7質量%、より好ましくは0.7〜5質量%、さらに好ましくは1〜3質量%のエポキシ基含有ポリマーを含む。
【0023】
前記エポキシ基含有ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは200,000以下であり、より好ましくは100,000以下であり、さらに好ましくは20,000以下であり、さらにより好ましくは5,000〜20,000である。当該分子量が200,000以下である場合、モノマーに対する溶解性に優れ、かつ、より高分子量のポリマーと比較した場合、モノマーに溶解した場合の粘度上昇が少ない。ここで、本明細書における重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法により測定される。
【0024】
これに加えて、前記エポキシ基含有ポリマーのエポキシ当量は、好ましくは2,000g/eq以下であり、より好ましくは1,500g/eq以下であり、さらに好ましくは1,000g/eq以下であり、さらにより好ましくは100〜1,000g/eqである。当該エポキシ当量が2,000g/eq以下である場合、前記エポキシ基含有ポリマーの添加の際に、同じ質量中に含まれるエポキシ基の個数が相対的に増えるため、エポキシ基に由来する密着性改善効果が現れやすい。ここで、本明細書におけるエポキシ当量は、例えば、JIS K7236に規定される方法により測定される。
【0025】
〔光重合性化合物〕
本実施形態のインク組成物に含まれる光重合性化合物は、後述する光重合開始剤の作用により光照射時に重合されて、印刷されたインクを硬化させることができる。前記光重合性化合物としては、従来公知の、単官能、2官能、及び3官能以上の多官能といった種々のモノマー及びオリゴマーが使用可能である。前記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、並びに不飽和ウレタンが挙げられる。また、前記オリゴマーとしては、例えば、直鎖アクリルオリゴマー等の上記のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレート及びポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0026】
上記で列挙したものの中でも(メタ)アクリル酸のエステル、即ち(メタ)アクリレートが好ましい。
【0027】
前記(メタ)アクリレートのうち、単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0028】
前記(メタ)アクリレートのうち、2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0029】
前記(メタ)アクリレートのうち、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、及びカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0030】
これらの中でも、光重合性化合物は単官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。この場合、低粘度となり、光開始剤、及び本実施形態におけるエポキシ基含有ポリマー等の他の添加剤の溶解性に優れ、かつ、インクジェット記録時の射出安定性が得られやすい。さらに塗膜の強靭性、耐熱性及び耐薬品性が増すという観点から、単官能(メタ)アクリレートと2官能(メタ)アクリレートとを併用することがより好ましい。
【0031】
さらに、前記単官能(メタ)アクリレートは、芳香環骨格、飽和脂環骨格及び不飽和脂環骨格からなる群より選択される1種以上の骨格を有することが好ましい。前記光重合性化合物が前記骨格を有する単官能(メタ)アクリレートであることにより、インク組成物の粘度を低下させ、かつ、上記のエポキシ基含有ポリマーをインク組成物中に効果的に溶解させることができる。
【0032】
芳香環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、飽和脂環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、不飽和脂環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、低粘度及び低臭気の観点から、フェノキシエチル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレートのうち少なくとも一方が好ましい。より好ましくはフェノキシエチルアクリレートである。
【0033】
本実施形態のインク組成物は、その総量に対して、好ましくは70〜95質量%、より好ましくは80〜90質量%の光重合性化合物を含む。上記の範囲内である場合、光開始剤などの重合性化合物以外の添加剤の溶解性が確保され、かつ、硬化後にも塗膜表面に当該添加剤がブリードアウトしにくくなる。
【0034】
また、前記光重合性化合物は、芳香環骨格、飽和脂環骨格及び不飽和脂環骨格からなる群より選択される1種以上の骨格を持つ単官能(メタ)アクリレートを10〜50質量%含むことが好ましい。前記光重合性化合物は、より好ましくは15〜45質量%、さらに好ましくは20〜40質量%の上記単官能(メタ)アクリレートを含む。前記光重合性化合物は、上記の範囲内である場合、環状骨格を持つことによる、硬化時の収縮率を低減させる作用が十分発揮され、かつ、塗膜の耐熱性が一層良好となる。
上記の光重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
〔光重合開始剤〕
本実施形態のインク組成物に含まれる光重合開始剤は、放射線の照射による光重合によって、印刷メディアの表面に存在するインクを硬化させて印字を形成するために用いられる。ここで、前記放射線としては、γ線、β線、電子線、紫外線(UV)、可視光線及び赤外線が挙げられる。中でも、安全性や光源ランプのコストの観点から、紫外線が好ましい。光重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤やカチオン重合開始剤といった公知の重合開始剤を使用することができ、中でもラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
【0036】
上記のラジカル重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、芳香族ケトン類、アシルホスフィン化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。上記の特許文献1に開示されたラジカル重合開始剤及びカチオン重合開始剤が参照によって本願に取り込まれる。
【0037】
ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2,4−ジエチルチオキサントン及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシドが挙げられる。
【0038】
ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、チバ・ジャパン社(Ciba Japan K.K.)製)、DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製)、及びユベクリルP36(UCB社製)が挙げられる。
【0039】
上記の光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記インク組成物は、その総量に対して、好ましくは2〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%の光重合開始剤を含む。上記の範囲内である場合、UV硬化速度が十分大きく、かつ光重合開始剤の溶け残りや開始剤に由来する着色が殆どない。
【0040】
〔色材〕
本実施形態のインク組成物は、色材をさらに含んでもよい。前記色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方である。
【0041】
(顔料)
本実施形態において、色材として顔料を用いることにより、インク組成物の耐光性を向上させることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
【0042】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
【0043】
また、有機顔料として、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(たとえば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水に不溶であればいずれも使用できる。
【0045】
(染料)
本実施形態において、色材として染料を用いることにより、インクの低粘度化が一層容易になり、かつ、顔料の付着や分散性の低下による吐出不良を防止できる。前記染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料及び塩基性染料が使用可能である。前記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー9,45,249、C.I.アシッドブラック1,2,24,94、C.I.フードブラック1,2、C.I.ダイレクトイエロー1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック3,4,35が挙げられる。
上記の色材は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
〔溶剤〕
本実施形態のインク組成物は、溶剤を含んでもよい。前記溶剤としては、水以外であれば特に限定されることなく、好ましくは有機溶剤、より好ましくは極性有機溶媒(溶剤)を用いることができる。前記有機溶剤として、特に限定されないが、例えば、アルコール類(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、又はフッ化アルコール等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、又はシクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、又はプロピオン酸エチル等)、又はエーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、又はジオキサン等)等を用いることができる。これらの有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
中でも、前記有機溶剤は、常温常圧下で液体であるアルキレングリコールエーテルを1種類以上含むことが好ましい。前記アルキレングリコールエーテルには、メチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、ヘキシル、及び2−エチルヘキシルの脂肪族、並びに二重結合を有するアリル及びフェニルの各基をベースとするエチレングリコール系エーテルとプロピレングリコール系エーテルとがある。これらは、無色で臭いも少なく、分子内にエーテル基と水酸基を有しているので、アルコール類とエーテル類の両方の特性を備えた、常温で液体の成分である。また、片方の水酸基だけを置換したモノエーテル型と両方の水酸基を置換したジエーテル型があり、これらを複数種組み合わせて用いることができる。
【0048】
また、前記有機溶剤は、アルキレングリコールモノエーテル、アルキレングリコールジエーテル及びラクトンからなる群より選択される2種以上の混合物であることがより好ましい。
【0049】
上記アルキレングリコールモノエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。
【0050】
上記アルキレングリコールジエーテルとしては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。
【0051】
また、それらの誘導体として、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートも使用可能である。前記アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートとしては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエーテルアセテート、ジプロピレンモノエチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0052】
上記ラクトンとしては、例えば、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンが挙げられる。
【0053】
〔その他の成分〕
本実施形態のインク組成物は、上記に挙げた成分以外の成分を含んでもよい。このような成分としては、特に制限されないが、例えば従来公知の、分散剤、重合促進剤、スリップ剤、浸透促進剤及び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤があり得る。上記のその他の添加剤として、例えば従来公知の、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤及び増粘剤が挙げられる。また、本実施形態のインク組成物は、上記のエポキシ基含有ポリマー以外の密着成分を含んでもよい。
【0054】
〔インクジェット印刷用インク組成物の物性〕
本実施形態のインク組成物の25℃における粘度は、好ましくは5〜45mPa・sであり、より好ましくは6〜40mPa・sであり、さらに好ましくは7〜35mPa・sである。上記範囲内である場合、吐出安定性を向上させることができる。ここで、本明細書における粘度は、後記の実施例の項において行った方法により測定する。
【0055】
本実施形態のインク組成物の臭気は、後記の実施例において用いた評価基準を用いて評価することができる。
【0056】
本実施形態のインク組成物の皮膚刺激性は、好ましくはPIIが4以下であり、より好ましくはPIIが2以下である。なお、PII値は、皮膚刺激性試験で用いられる評価基準である。
【0057】
本実施形態のインク組成物を印字した印刷物の密着性は、JIS K5600−5−6に準じて、塗膜面にクロスカットを行い、セロハンテープによる剥離試験の結果から、ハガレ率が0〜15%であることが好ましく、より好ましくは0〜5%である。ここで、本明細書における密着性は、後記の実施例の項において行った方法により測定する。
【0058】
ここで、上記のJIS K5600−5−6試験について説明する。JIS K5600−5−6はISO2409に対応している。JIS K5600−5−6試験の概要は、25マスを有する直角の格子パターンが塗膜に切り込まれ、素地まで貫通するときの素地からの剥離に対しての塗膜の耐性を評価することにある。当該試験に用いる道具として、多重刃又は単一刃の切込み工具が用いられる。120μmを超える厚い塗膜か硬い塗膜には多重刃切込み工具が用いられ、その他の塗膜には単一刃切込み工具が用いられる。なお、市販のカッター等の単一刃を用いる場合には、等間隔で切り込むためのガイドが必要となる。また、幅が25±1mmの透明付着テープも用いられる。続いて、試験の手順は、まず、塗膜に対して垂直になるように刃を当てて切込みを行う。次に、6本の切込みを行ったら、90°方向を変えて直行する6本の切込みを行う。次に、約75mmの長さに上記のテープを取り出す。次に、テープを塗膜の格子にカットした部分に貼り、塗膜が透けて見えるようにしっかり指でテープをこする。次に、付着して5分以内に60°に近い角度で、0.5〜1.0秒で確実に引き離す。ここで、本発明における試験結果は、格子状の塗膜面中、格子の総数に対する剥離の生じた格子の割合(以下、「ハガレ率」という。)によって、A〜Eの5段階で評価した。上記の試験結果は、後記の[実施例]の項において詳細に記載している。
【0059】
本実施形態のインク組成物による画像の硬化性は、メタハライドランプを用いて、1PASSあたり250mJ/cm2の照射条件でUV光の照射を行い、照射後の画像部を指蝕試験することで表面タックの有無を評価する。画像表面を指蝕した際に、粘着性が残っていれば表面タック有、粘着性がなければ表面タック無と判断する。表面タックが有る場合には、再度、1PASSのUV照射を行った後、画像部の指蝕試験を行い、表面タックがなくなるまでこれを繰り返す。硬化性のレベルについては、表面タックがなくなるまでのPASS数で評価する。好ましくは2PASS以下であり、より好ましくは1PASSである。
【0060】
このように、本発明によれば、密着性、保存安定性、臭気及び皮膚刺激性に優れ、さらには硬化性も優れたインクジェット印刷用インク組成物が得られる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
[使用成分]
下記の実施例及び比較例において使用した成分は、以下の通りである。
〔顔料〕
・IRGALITE BLUE GLVO(シアン顔料、チバジャパン社製、表1ではBLUE GLVOと略記した。)
〔分散剤〕
・Solsperse 36000 (LUBRIZOL社製、表1ではSOL36000と略記した。)
〔単官能モノマー〕
・フェノキシエチルアクリレート ビスコート#192(大阪有機化学社(OSAKA ORGANIC CHEMICAL INDUSTRY LTD.)製、表1ではPEAと略記した。)
・イソボルニルアクリレート IBXA(大阪有機化学社製、表1ではIBXAと略記した。)
・ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート FA−512AS(日立化成社(Hitachi Chemical Co., Ltd.)製、表1ではDCPOEAと略記した。)
・ベンジルアクリレート FA−BZA(日立化成社製、表1ではBZAと略記した。)
〔2官能モノマー〕
・トリプロピレングリコールジアクリレート ビスコート#310HP(大阪有機化学社製、表1では3PGAと略記した。)
・テトラエチレングリコールジアクリレート ビスコート#335HP(大阪有機化学社製、表1では4EGAと略記した。)
〔スリップ剤〕
・シリコン系表面調整剤 UV−3500(BYK社製、表1ではUV−3500と略記した。)
【0063】
〔重合促進剤〕
・アミノアクリレート EBECRYL7100(ダイセル・サイテック社(DAICEL-CYTEC Company LTD.)製、表1ではEBECRYL7100と略記した。)
〔密着成分〕
(エポキシ基含有ポリマー)
・スチレン系ポリマー 重量平均分子量9,000 エポキシ当量530 マープルーフG−0130S−P(日油社製、表1ではM−0130と略記した。)
・アクリル系ポリマー 重量平均分子量8,000〜10,000 エポキシ当量310 マープルーフG−0150M(日油社製、表1ではM−0150と略記した。)
・スチレン系ポリマー 重量平均分子量20,000 エポキシ当量310 マープルーフG−0250S(日油社製、表1ではM−0250と略記した。)
・アクリル系ポリマー 重量平均分子量100,000 エポキシ当量3300 マープルーフG−1005S(日油社製、表1ではM−1005Sと略記した。)
(エポキシ基含有ポリマー以外の密着成分;比較対照)
・テトラヒドロフルフリルアクリレート ビスコート#150(大阪有機化学社製、表1ではTHF−Aと略記した。)
・ウレタンアクリレートオリゴマー EBECRYL8301(ダイセル・サイテック社製、表1ではEBECRYL8301と略記した。)
・N−ビニルカプロラクタム(東京化成工業製、表1ではNVCと略記した。)
・ポリメタクリル酸メチル(関東化学製、表1ではPMMAと略記した。)
なお、ポリメタクリル酸メチルはエポキシ基非含有ポリマーである。
〔光重合開始剤〕
・IRGACURE 819(チバジャパン社製、表1では819と略記した。)
・DAROCURE TPO(チバジャパン社製、表1ではTPOと略記した。)
・DETX−S(日本化薬社製、表1ではDETXと略記した。)
【0064】
[測定・評価方法]
〔インクジェット印刷用インク組成物の評価〕
下記の実施例及び比較例で得られたインクジェット印刷用インク組成物に対して、粘度、臭気及びその他安全性を、以下のようにして評価した。
【0065】
(1.粘度)
インクジェット印刷用インク組成物に対して、DVM−E型回転粘度計(東京計器株式会社(TOKYO KEIKI INC.)製)を用いて、25℃における粘度を測定し、下記のランクA〜Eに基づき評価した。
・A:5mPa・s以上35mPa・s未満
・B:35mPa・s以上45mPa・s未満
・C:45mPa・s以上55mPa・s未満
・D:55mPa・s以上65mPa・s未満
・E:65mPa・s以上
【0066】
(2.臭気)
インク組成物の臭気を嗅ぎ、下記のランクA〜Dに基づき評価した。
・A:臭気がないか、又はほとんど気にならない。
・B:わずかに臭気と感じる。
・C:中程度の臭気を感じる。
・D:強い臭気を感じる。
(3.その他安全性)
インク組成物の安全性の観点から、当該組成物中の成分として、PIIが5以上の成分がある場合は、下記の表1中にPII値及び成分名を記載した。なお、PII値は、皮膚刺激性試験で用いられる評価基準である。
【0067】
〔インクジェット印刷用インク組成物の印刷〕
下記の実施例及び比較例で得られたインクジェット印刷用インク組成物を、ピエゾ型インクジェットノズルを備えたインクジェット記録装置に充填し、PVCシート(Flontlite Grossy 120g、Cooley社製)上に印字して各種画像を得た。各印刷物の膜厚は、10μmになるようにインク吐出量を調整した。上記各インクジェット印刷用インク組成物の吐出性は良好で、良好な各種画像が得られた。得られた画像は、メタハライドランプで1PASSあたり250mJ/cm2の照射条件で硬化を行い、表面タックがなくなるまでPASS数を追加した上で、以下の評価を行った。
【0068】
(1.密着性)
JIS K5600−5−6に準じて、塗膜面にクロスカットを行い、セロハンテープによる剥離試験の結果から、下記のランクA〜Eに基づき密着性を評価した。なお、各ランクの値は、ハガレ率を計算して得られた値の小数点第1位を四捨五入したものである。
・A:ハガレ率 0〜5%
・B:ハガレ率 6〜15%
・C:ハガレ率 16〜35%
・D:ハガレ率 36〜65%
・E:ハガレ率 66〜100%
【0069】
(2.硬化性)
メタハライドランプを用いて、1PASSあたり250mJ/cm2の照射条件で硬化を行い、表面タックがなくなるまでのPASS数で、下記のランクA〜Eに基づき評価した。
・A:1PASS
・B:2PASS
・C:3PASS
・D:4PASS
・E:5PASS
【0070】
[実施例1〜11、比較例1〜5]
下記表1に記載の成分を、表1に記載の組成(単位:質量%)となるように添加し、これを高速水冷式撹拌機により撹拌することにより、シアン色のUV硬化性インクジェット印刷用インクを得た。評価結果を下記表2に示す。なお、表1中の空欄部分は無添加を意味する。
【0071】
[表1]

[表2]

【0072】
実施例1〜11は、比較例1〜7に比して、粘度(保存安定性)、臭気、密着性及び硬化性といったインク組成物の物性に優れることが明らかとなった。実施例1〜11と比較例1〜7との間の上記の相違は、密着成分に起因する。具体的にいえば、密着成分として、実施例1〜11ではエポキシ基含有ポリマーを所定範囲の量で用いた。これに対し、比較例1では密着成分を何ら使用せず、比較例2〜3ではエポキシ基含有ポリマーを所定範囲外の量で用い、比較例4ではモノマーであるテトラヒドロフルフリルアクリレート、比較例5ではウレタンアクリレートオリゴマーを用い、比較例6ではモノマーであるN−ビニルカプロラクタムを用い、比較例7ではエポキシ基非含有ポリマーであるポリメタクリル酸メチルを用いた。即ち、密着成分として、モノマー、オリゴマー、及びエポキシ基を含有しないポリマーではなく、エポキシ基含有ポリマーを所定量用いることにより、インク組成物の上記物性がバランス良く向上することが明らかとなった。
また、実施例1〜11を見ると、実施例1〜10が実施例11に比して上記物性のバランスに一層優れることが分かった。これは、エポキシ基含有ポリマーの重量平均分子量及びエポキシ当量の値に拠る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合性化合物と光重合開始剤とを含むインクジェット印刷用インク組成物であって、
エポキシ基含有ポリマーをさらに含み、
前記エポキシ基含有ポリマーは該インク組成物の総量に対して0.3〜10質量%含まれる、インクジェット印刷用インク組成物。
【請求項2】
前記エポキシ基含有ポリマーは、スチレン系ポリマー、スチレン−アクリル系コポリマー及びアクリル系ポリマーからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のインクジェット印刷用インク組成物。
【請求項3】
前記エポキシ基含有ポリマーのエポキシ当量が2,000g/eq以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット印刷用インク組成物。
【請求項4】
前記エポキシ基含有ポリマーの重量平均分子量が200,000以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット印刷用インク組成物。
【請求項5】
前記光重合性化合物は、芳香環骨格、飽和脂環骨格、及び不飽和脂環骨格からなる群より選択される1種以上の骨格を有する単官能(メタ)アクリレートを10〜50質量%含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット印刷用インク組成物。
【請求項6】
前記単官能(メタ)アクリレートは、フェノキシエチル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレートのうち少なくとも一方である、請求項5に記載のインクジェット印刷用インク組成物。
【請求項7】
25℃における粘度が5〜45mPa・sである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット印刷用インク組成物。
【請求項8】
顔料及び染料のうち少なくとも一方の色材をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット印刷用インク組成物。

【公開番号】特開2011−213933(P2011−213933A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84976(P2010−84976)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】