説明

インクジェット式プリントヘッドおよびその製造方法

【課題】比較的高価な部材である電気配線テープのコストダウンと、電気接続部の封止信頼性を向上させた高品質のインクジェット式プリントヘッドを安価に供給する。
【解決手段】HBチップの四隅部に、インク供給口側からインク吐出口側になるに従い小さくなる切欠きを設けることを特徴とし、HBチップには、Si基板として〈100〉面の結晶方位をもつSiウエハーを用い、Si異方性エッチングによりインク供給口と同時に開口部を形成し、その後ダイシング法による機械切断加工により個々のHBチップに分離することで、HBチップの四隅部に切欠きを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式プリントヘッドおよびその製造方に関するもので、記録素子基板に配線基板が接続され、その接続部を封止剤により保護するインクジェット式プリントヘッドに適用される。
【背景技術】
【0002】
従来までのインクジェット式プリントヘッドでは、Si(Si 線膨張係数:4.2×10−6)ウエハーを基板とし、〈100〉面または〈110〉面の結晶方位をもつSiウエハーを用い、その上に記録素子基板(以下HBチップと称する)としてのインクを吐出する吐出口群と吐出口からインクを吐出させるための吐出エネルギー発生素子およびプリンタなどからの電気パルス信号、電力を供給するための電極などの機能素子を多数個形成する。その後、Si異方性エッチングによりインク供給口を形成する。
【0003】
Si異方性エッチングによるインク供給口の形成は、Si異方性エッチングの開始面を液体噴射記録ヘッドの機能素子が形成された面の反対側面から行なわれ、Si異方性エッチングの停止層が、HBチップの機能素子が形成された面側に形成されている。また、Si異方性エッチングの停止層が、機能素子を保護するための保護機能層を兼用している(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
HBチップをSiウエハー基板上に多数配列して作成し、これらを半導体製造方法において一般に用いられているダイシング法による機械切断加工が採用し(例えば、特許文献2参照)、個々のHBチップに分離する。
【0005】
記録素子基板を取り付ける支持部材(以下チッププレートと称する)には、記録素子基板の液室にインクを連通する液体供給路が形成されており、代表的な材料はアルミナ(Al線膨張係数:7.2×10−6)が用いられている。
【0006】
配線基板(以下電気配線テープと称する)は、記録素子基板の電極に対応した電極端子と、プリンタなどからの電気パルス信号を受け取るための外部入力端子を持ち、ベースフィルム、電気導体層、および電気導体層を保護するカバーフィルムの積層体からなり、記録素子基板が露出するための開口部を持つ。ベースフィルムはプリンタなどのキャッピング部材などが当接するためポリイミド樹脂で出来た平滑な面となっている。
【0007】
電気配線テープと支持部材との間に配置され電気配線テープを保持固定する支持板(以下マクラと称する)の材料にも、アルミナ(Al)が使われる。マクラ、チッププレートともにアルミナ(Al)の粉末を圧縮成形し形成されている。
【0008】
マクラはHBチップの外形より大きく、電気配線テープの開口部と略同一形状の開口部を持った一枚のプレート形状をしており、開口部以外の全面を接着剤でチッププレートに接着固定している。
【0009】
マクラの接着されたチッププレートとの接合体にHBチップを接着し、電気配線テープはカバーフィルム側をマクラのチッププレートと接着面と反対側の面に、熱硬化型接着剤などを用いて加熱して接着固定している(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
チッププレートにマクラ、HBチップおよび電気配線テープを接合した後、HBチップの電極部上に予め設けられたバンプと電気配線テープの電極端子をシングルポイントのインナーリードボンディング(以下ILBと称する)により接合している。
【0011】
マクラの開口部とHBチップの電極部が配置されていない一側面に隣接した側面の隙間に出来た凹部には、インクが溜ることでHBチップの外周側面を腐食させないため、さらにはワイピング性能を低下させないために十分な量の第一の封止剤を充填している(例えば、特許文献4参照)。
【0012】
HBチップから吐出したインク滴や記録媒体から跳ね上がったインク滴がHBチップ電極部や電気配線テープの電極端子、およびその接合部に付着し、電極部やその下地、電極端子およびその電気接合部を腐食する恐れがあるので、第二の封止剤にて被覆している。
【0013】
第一の封止剤には流動性が高く、かつ硬化後に硬化収縮などの応力を与えない弾力性の高いものが選定されている。一方、第二の封止剤にはHBチップの吐出口の形成面に付着したインク滴を適時払拭するためのゴムなどのワイパーブレードに対する磨耗耐久性および電気接合部の変形を防止することを考慮した硬質なものが選定されている。
【0014】
第一の封止剤の上に第二の封止剤が位置し、第一の封止剤の硬化収縮などによる変形が大きい部分では、第一の封止剤と第二の封止剤の界面付近にひび割れが生じることがあり、このひび割れ部分からインクが沁み込み、電気接合部を腐食させる可能性がある。また、電気配線テープの開口の四隅に張り出し部を設けた形状が提案されているが(例えば、特許文献5参照)、これを適用した場合、電気配線テープの電極端子の配列した両脇に、HBチップとマクラの開口との隙間部分を覆うように電気配線テープを張り出し、第二の封止剤で電気接合部を被覆するとともに当核張り出し部の上にも塗布されるようになる。しかし、第一の封止剤の硬化収縮などが起き変形した場合、電気配線テープの硬さや厚さによっては電気配線テープの開口部に設けた張り出し部も、HBチップとチッププレート接着面側へ引き込まれるように変形する。第2の封止剤は硬質なものが使用されるため接着剤の変形には追従できず、封止信頼性を損ねる可能性があった。
【特許文献1】特開平10−157149公報
【特許文献2】特開平2−212162号公報
【特許文献3】特開2002−019120公報
【特許文献4】特開2001−130001公報
【特許文献5】特開2002−187273公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明では、
・比較的高価な部材である電気配線テープのコストダウン要素である導体層やベースフィルムの厚さを薄くすることを可能とし、
かつ、
・電気接続部の封止信頼性を向上させた
高品質のインクジェット式プリントヘッドを安価に供給することを課題とする。
【0016】
電気配線テープのコストダウン要素である導体層やベースフィルムの厚さを薄くすることは、電気配線テープの剛性を落とすことになるため、電気配線テープ開口部の4つの隅部に設けた張り出し部が、第一の封止剤の硬化収縮による変形に追従し易くなり、電気配線テープを介してその上にある第二の封止剤が電気配線テープから剥離する可能性がある。
【0017】
第一の封止剤の塗布領域であるHBチップの電極部が配置されていない一側面に隣接したマクラの開口部とHBチップの隙間に出来た凹部(以下、封止溝と称する)の幅を狭くすることで、第一の封止剤の硬化収縮によるTABの引き込みを小さく出来るが、第一の封止剤がHBチップの外周全域に回りこみ難くなったり、第一の封止剤の塗布タクトが増加したり、電気配線テープの上に付着した封止剤がプリンタなどのワイピングなどによりノズル部に詰まり印字不良を引起すなどの問題をともなうものである。
【0018】
そこで、第一の封止剤の硬化収縮による電気配線テープの変形を抑え、第一の封止剤の塗布タクトが延びることなく、第一の封止剤をHBチップ外周全域へ回り込ませ、かつ第二の封止剤によるHBチップの電極部と電気配線テープの電極端子およびその接合部の封止信頼性を向上させたインクジェット式プリントヘッドを安価に提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第一の形態は、
HBチップの四隅部に、インク供給口側からインク吐出口側になるに従い小さくなる切欠きとマクラの開口部に第二の封止剤を受けるための一体となった出っ張り部を設けることを特徴とするものである。
【0020】
HBチップには、Si基板として〈100〉面の結晶方位をもつSiウエハーを用い、Si異方性エッチングによりインク供給口と同時に開口部を形成し、その後ダイシング法による機械切断加工により個々のHBチップに分離することで、HBチップの四隅部に切欠きを形成することを特徴とするものである。
【0021】
なお、さらに詳細に説明すれば、本発明は下記の構成によって前記課題を解決できた。
【0022】
(1)インクを吐出する吐出口群と吐出口からインクを吐出させるための吐出エネルギー発生素子と前記吐出エネルギー発生素子を駆動させるための電気パルス信号および電力供給を受容する電極部と前記吐出口群の反対の面にインク供給口とを具備する記録素子基板と、
前記記録素子基板が取り付けられ、前記記録素子基板の液室にインクを連通する液体供給路が形成されている支持部材と、
前記記録素子基板を組み込むための開口部を有し、前記記録素子基板に対してインクを吐出するための電気パルス信号および電力を印加するための可撓性の配線基板と、
前記記録素子基板が前記支持部材に接するための開口部を持ち、前記支持部材と前記配線基板の間に配置され前記配線基板を保持固定する支持板と、
前記支持板の開口部に配置された前記記録素子基板の周囲を封止する第一の封止剤と、
前記記録素子基板と前記配線基板の電気接続部を封止する第二の封止剤を備えたインクジェット式プリントヘッドにおいて、
前記記録素子基板の四隅部に、インク供給口側よりインク吐出口側になるに従い小さくなる切欠き構造と第二の封止剤を受ける部材とを持つことを特徴としたインクジェット式プリントヘッド。
【0023】
(2)前記第二の封止剤を受ける部材が前記支持板の開口部に出っ張り部として一体に設けられていることを特徴とする前記(1)に記載のインクジェット式プリントヘッド。
【0024】
(3)前記記録素子基板は、〈100〉面の結晶方位をもつSiウエハー上に、前記吐出口と前記吐出エネルギー発生素子と前記電極部を複数の記録素子基板分形成した後、
前記インク吐出口が形成された面の反対側面からSi異方性エッチングによるインク供給口の形成を行ない、
同時にSi異方性エッチングにより記録素子基板の四隅部に開口を形成し、
その後各記録素子基板を分離分割することで、記録素子基板の四隅に前記切欠き構造を形成することを特徴とするインクジェット式プリントヘッドの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、電気配線テープの開口の四隅にもうけた張り出し部を支持固定するためのマクラ開口部の四隅に出っ張り部を設け、封止溝に塗布された第一の封止剤は、HBチップの四隅に設けられた切欠き部を通り、HBチップの電極が設けられた側面側への流動性が悪化することなく回り込み封止される。マクラの開口部とHBチップの隙間に出来た凹部の幅は、マクラの出っ張り部以外は狭くせず、電気配線テープの開口についても変更しないため、第一の封止剤が電気配線テープ上にはみ出したり、塗布タクトが長くなることはない。
【0026】
HBチップの四隅に、インク供給口側からインク吐出口側になるに従い小さくなる切欠きを設けることで、第二の封止剤が塗布される領域の電気配線テープを、マクラに設けた出っ張り部で支持することができ、第一の封止剤の硬化収縮しても電気配線テープがチッププレート側へ変形を起こすことがない。そのため、第二の封止剤と電気配線テープの位置関係は塗布時と変化することがないのでHBチップと電気配線テープの接合部の封止信頼性が向上する。
【0027】
また、電気配線テープを構成するベースフィルム、カバーフィルムや銅箔の厚さを薄くするなどの部品コストダウンの要素を盛り込むことが可能となり、封止信頼性の向上したインクジェット式プリントヘッドを低コストで供給することが可能となった。
【0028】
さらに、HBチップには、Si基板として〈100〉面の結晶方位をもつSiウエハーを用い、Si異方性エッチングによりインク供給口と同時に開口部を形成し、その後従来と同様にダイシング法による機械切断加工により個々のHBチップに分離し、HBチップの四隅に切欠き部を形成することで、新たな工程を追加することなく、HBチップの四隅にインク供給口側からインク吐出口側になるに従い小さくなる切欠き部を形成することができ、コストの増加なくインクジェット式プリントヘッドを供給可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下本発明を実施するための最良の形態を、実施例により詳しく説明する。
【実施例1】
【0030】
本発明によるインクジェット式プリントヘッドについて図1〜図8を参照しながら説明する。
【0031】
図2は、本実施例におけるインクジェット式プリントヘッドの分解構造図である。
【0032】
図3は、本実施例におけるインクジェット式プリントヘッドの外観図である。
【0033】
プリントヘッド1は、インクを吐出する吐出口群と、この吐出口からインクを吐出させるための吐出エネルギーを発生する電気熱変換素子とを具備するHBチップおよびHBチップの液室にインクを連通する液体供給路が形成されているチッププレートを含むチッププレートユニット2と、HBチップへ供給するインクを貯留するインクタンクの取り付け部(以下チップタンクと称する)を含むチップタンクユニット3と、放熱部材4から構成される。プリントヘッド1は、電気パルス信号に応じて膜沸騰をインクに対して生じせしめるための熱エネルギーを生成する電気熱変換素子を用いて記録を行なうバブルジェット(登録商標)方式のサイドシュータ型とされるプリントヘッドである。
【0034】
図7は本発明のインクジェット式プリントヘッドに用いられるHBチップの製造方法の各工程を示す模式的断面図(図4のA−A’断面)である。
【0035】
図1に図示する単一のHBチップ201において、Si基板4001は〈100〉面の結晶方位をもつSiウエハーを基板として用いて、Si異方性エッチングによりHBチップの四隅部に切欠き部4009を持つ、単一のHBチップである。その基板4001には、インク供給口4002がSi異方性エッチングによって形成されるのと同時に、切欠き部4009と成る開口8002に形成される。基板4001の一面にはインクを吐出させるための吐出エネルギーを発生するための電気熱変換素子4003やそれらを駆動する信号を伝達する電極部4004等からなる機能素子、及びその耐久寿命を向上させるための保護膜9002を備え、さらにその保護膜9002にはインク流路4005及び吐出口4007が形成されている。
【0036】
本発明のインクジェット式プリントヘッドの製造方法は、このような構造をもつ単一のHBチップを、基板としての〈100〉面の結晶方位をもつSiウエハーに多数個作成し、その後にダイシング工程を経てそれらを個々に分離分割して単一のHBチップを形成するものである。
【0037】
以下、本発明のHBチップの製造方法を図7に図示する各工程にしたがって詳細に説明する。
【0038】
〈100〉面の結晶方位をもつSiウエハー8001を基板として用い、その上に所望のサイズや形状を有する多数のHBチップ201を、開口8002の大きさを考慮して、レイアウトする。
【0039】
図4に図示するように所望のレイアウトに沿って、各HBチップとしての電気熱変換素子4003や電極部4004等からなる機能素子を所定の数だけそれぞれ配置して形成する。そして機能素子にはその耐久寿命を向上させるための保護膜9002を形成する。この保護膜9002は、後述するSi異方性エッチングによりSi基板をエッチングする際のエッチング停止層として機能させるために、保護膜の材質としては、SiNまたはSiOが好ましい。
【0040】
そして、HBチップ201の機能素子が形成されていない反対側の面(以下、単に「裏面」という。)に保護膜9002と同様のSiNまたはSiOを全面的に成膜して、膜9004とする。なお、裏面に成膜する膜9004としては、後述するSi異方性エッチングの際の耐エッチングマスクとして機能させるためのものであって、Cr、Mo、W、Au、Pt等の金属膜とすることもできるが、後述するように工程管理の面から、保護膜9002と同じ材質を用いることが好ましく、SiNを用いた場合にはその膜厚が約1μmとなるように成膜する。
【0041】
次に、HBチップのインク流路および吐出口形成部9003を保護膜9002に形成する(図7の(a)参照)。
【0042】
これらは、通常のフォトリソグラフィー技術を用いて従来の手法と同様に形成することができる。
【0043】
次に、所望のパターンを設けたフォトマスクを用いて、Si基板の裏面に形成されたSiN膜をフォトリソグラフィー技術(レジスト塗布、露光、現像)によりパターニングして、フォトマスクに設けたパターンと相似のレジストパターン9008を形成する(図7の(b)〜(c)参照)。即ち、Si基板の裏面にフォトレジスト9005を塗布し(図7の(b)参照)、その後、所望のインク供給口パターンとHBチップ四隅部に切欠き部4009を形成させるための開口パターンを設けたフォトマスクを用いて露光して現像する。かくしてフォトマスクに設けたパターンと相似のインク供給口部パターン9007と開口部パターン9006を備えたレジストパターン9008が形成される(図7の(c)参照)。
【0044】
なお、ここでフォトマスクの開口パターンの幅及びレジストパターンの開口パターン9006の幅Wmについては、後述するように記録ヘッドの所望の分離幅Woに基づいて算出することができる。また露光に際しては、機能素子が形成されている表面と裏面を正確に位置合わせすることが必要であって、フォトレジスト9008としてOFPR−800(東京応化工業)を約2μm塗布し、機能素子が形成された表面のパターンを認識して、位置合わせが可能な露光装置を用いて、所定のフォトマスクを位置合わせして紫外線露光を行ない、前記レジストを専用現像液にて所定の方法で現像を行なった。
【0045】
そして、このように形成されたレジストパターン9008を耐エッチングマスクとして、SiN膜9004をエッチングする(図7の(d)参照)。このエッチング方法は公知のWetエッチング方法またはDryエッチング方法によりエッチングすることができ、本発明はDryエッチング方法により反応ガスとしてCF、Oの混合ガスを用いてRIE(リアクティブイオンエッチング)装置を使用した。
【0046】
なお、SiN膜のパターニングに用いたレジストは、通常は次工程で不要であるために剥離されるのが一般的であるけれども、ポジ型レジストを用いた場合にはレジストは次工程のSi異方性エッチングの際にエッチングと同時に除去することができることから、特に剥離する必要はない。
【0047】
次に、パターニングされたSiN膜9002を耐エッチングマスクとして、Si異方性エッチングを行なう。エッチング液としては、一般に知られているTMAH、KOH、NaOH等のアルカリ性エッチング液を用い、この加熱した浴液にSi基板を浸漬させる。エッチング液の濃度や加熱温度を適宜設定して最適なエッチング速度やエッチング面の平滑性を得ることができる。
【0048】
かくして、Si異方性エッチングされるSi基板は、裏面からエッチングが進行し、表面側のSiN膜(保護膜)9002に達した段階でエッチングが完了する(図7の(e)参照)。ここで、インク流路及び吐出口形成部9003が形成された表面側がSi異方性エッチングのエッチング液に対して耐性がない場合には、表面側を保護するための保護層を予め設けておくか、適当な治具等を用いるべきである。
【0049】
Si異方性エッチングが完了した後に、表面のSiN膜9002を、前記したSiNパターニングに用いた方法と同様のDryエッチング方法により裏面側からエッチングすることにより、個々のインクジェット記録ヘッドが所定の分離幅Woによって分離分割され、分離されたインクジェット記録ヘッドが多数得られる。この際にインク供給口4002も同時にエッチングされて、インク流路4005及び吐出口4007と貫通する。
【0050】
なお、表面側のSiN膜9002のエッチングに関連して、裏面のSiN膜9004の膜厚を表面側のSiN膜9002の膜厚と等しくするか、または裏面のSiN膜9004の膜厚を若干厚く形成しておくことによって、先にエッチング処理を行なう裏面のSiN膜9004の除去状態を監視することで、その後の裏面側から異方性エッチングにより露出した表面側のSiN膜9002の除去状態が判断可能となり、その工程管理を効率良く行なうことが可能となる。
【0051】
また、レジストパターンの開口パターン9006の幅Wmやフォトマスクの開口パターンの幅については、Siウエハーにレイアウトされた複数の記録ヘッドの開口部の幅をWo(例えば、約500μm)としたときに、レジストパターンの開口パターン9006の幅Wmやフォトマスクの開口パターンの幅は、次のように算出して適宜設計することができる。〈100〉面の結晶方位をもつSiウエハーは、異方性エッチングによってV字状または逆台形状の開口が形成されるために、Si異方性エッチングにおいて周知の計算式
Wm=Wo+√2T (T:Siウェハーの厚さ)
から、開口パターン9006の幅Wmを算出することができ、このWmに基づいて、レジストパターンやフォトマスクの開口パターンを設計することができる。
【0052】
Siウェハーに機能素子やインク供給口、開口部を形成後、図8に示すように切断ブレード10001を用い切断分離し、切欠き部4009を備えたHBチップ201となる。
【0053】
図2の分解斜視図に示すように、チッププレートユニット2は、HBチップ201、チッププレート202、電気配線テープ203、マクラ204で構成されており、また、チップタンクユニット3は、チップタンク301、流路プレート302、ジョイントゴム303、フィルター304、シールゴム305から構成されている。
【0054】
図4は、HBチップ201の構成を説明するために一部分解した斜視図である。HBチップ201は、例えば、厚さ0.5〜1mmのSi基板4001にインク流路として長溝状の貫通口からなるインク供給口4002と四隅の切欠き4009がSiの〈100〉面の結晶方位を利用した異方性エッチング方法で形成され、インク供給口4002を挟んだ両側に電気熱変換素子4003がそれぞれ1列ずつ千鳥状に配列され、前記電気熱変換素子4003と、電気熱変換素子4003に電力を供給するAl等の電気配線は成膜技術により形成されている。さらに、前記電気配線に電力を供給するための電極部4004が電気熱変換素子4003の両外側に配列されており、電極部4004にはAu等のバンプが形成されている。そして、前記Si基板4001上には、電気熱変換素子4003に対応したインク流路4005を形成するためのインク流路壁4006と吐出口4007が樹脂材料でフォトリソ技術によりに形成され、吐出口群4008を形成している。したがって、前記電気熱変換素子4003に対向して前記吐出口4007が設けられているため、インク供給口4002から供給されたインクはインク流路4005を通り、電気熱変換素子4003により発生した気泡により吐出される。
【0055】
次に、チッププレート202は、アルミナ(Al)の粉末を圧縮成形し焼成して形成され、厚さ0.5〜10mmである。なお、チッププレート202の素材は、アルミナに限られることなく、HBチップ201の材料の線膨張率と同等の線膨張率を有し、かつ、HBチップ201の材料の熱伝導率と同等もしくは同等以上の熱伝導率を有する材料で作られてもよい。チッププレート202の素材は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si)、炭化珪素(SiC)のうちいずれであってもよい。
【0056】
マクラ204は、例えば、厚さ0.5〜10mmの板状部材で、アルミナ(Al)材料で成型加工により形成されている。マクラの材質も、アルミナに限られることなく、チッププレート202の材料と同じか、もしく同等の線膨張率を有するセラミックやAl、SUSなどの金属材料で形成されてもよい。そして、チッププレート202に接着固定されるHBチップ201が3つ並べられた外形寸法よりも大きな開口部208を有する形状となっている。また、HBチップ201と電気配線テープ203(後述)を平面的に電気接続できるように、マクラの厚さがHBチップ201の厚さと同じになっている。
【0057】
チッププレート202とマクラ204の接合は、マクラ204の片側全面に第一の接着剤を転写し、チッププレート202のX方向の基準位置6007およびY方向の基準位置6008に対して、マクラ204の開口部208の位置が一定になるように位置決めを行ない接着する。接着に用いられる第一の接着剤は、耐インク性があり、硬化後の硬度が比較的低いものが望ましい。接着層の厚みは50μm以下が望ましい。
【0058】
また、チッププレートとマクラが一体で成形された形状のものを用いてもかまわない。
【0059】
次に、チッププレート202とマクラ204の接合体にHBチップ201を接着固定する。
【0060】
HBチップ201のインク供給口4002がチッププレート202のインク供給口205にそれぞれ対応し、かつ、3つのHBチップ201はそれぞれチッププレート202に対して位置精度良く接着固定する。接着に用いられる第二の接着剤は、低粘度で、硬化後比較的高い硬度を有し、かつ、耐インク性のあるものが望ましい。その第2の接着剤は、例えば、エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化接着剤であり、接着層の厚みは20μm以下が望ましい。
【0061】
電気配線テープ203は、HBチップ201に対してインクを吐出するための電気パルス信号を印加するものであり、HBチップ201の電極部4004に対応する電極端子206と、この配線テープ端部に位置しプリンタ本体などからの電気パルス信号を受け取るための外部信号入力端子207を有している。
【0062】
電気配線テープ203は、マクラ204のチッププレート208接合面と反対側の面に第三の接着剤を転写し、HBチップ201の電極部4004に、それに対応する電極端子206を位置合わせし接着する。
【0063】
マクラ開口部の四隅に出っ張り部6001を設け、この出っ張り部6001に電気配線テープ203の開口部の四隅にもうけた張り出し部6002も接着する。
【0064】
第三の接着剤には、低粘度で硬化後比較的高い硬度を有し、耐インク性のあるものが望ましい。この特性を持った接着剤は、例えばエポキシ樹脂を主成分とした熱硬化型の接着剤である。
【0065】
また、電気配線テープ203とHBチップ201は、電気的に接続されており、接続方法は、例えば、HBチップ201の電極部4004と電気配線テープの電極端子206が熱超音波接合法により電気接合されている。
【0066】
HBチップ201と電気配線テープ203の電気接続部分は、第1の封止剤6003及び第2の封止剤6004により封止され、電気接続部分をインクによる腐食や外的衝撃から保護している。第1の封止剤は、主に電気配線テープ203の電極端子206とHBチップ201の電極部4004との接続部の裏面側とHBチップ201の外周部分を封止し、第2の封止剤は、前記接続部を封止している。
【0067】
第一の封止剤6003は、HBチップ201の電極部が配置されていない一側面に隣接したマクラ204の開口部とHBチップ201の隙間に出来た凹部に塗布され、HBチップ201の四隅に設けられた切欠き部4009とマクラ204に設けた出っ張り部6001の間を通り、HBチップ201の電極部4004が設けられた側面側へ回り込み封止される。
【0068】
図6に示すように電気配線テープの開口の四隅部に設けられた張り出し部6002を塗布開始位置及び塗布終了位置として、第二の封止剤6004をHBチップ201の電気配線テープ203との電気接合部が配列された方向に塗布する。
【0069】
放熱部材4は0.5〜3mm程度の金属板、特に熱伝導良好なアルミニウムや銅またはこれらの合金などを、プレス加工または引抜加工することによって低コストにて形成され、チッププレートユニット2下面と熱伝導性に優れた(例えば、銀ペースなど)接着剤などで接合される。
【0070】
チップタンクユニット3は、インクタンク5001からHBチップ201にインクを導くためにあり、チップタンク301と流路プレート302とフィルター304とシールゴム305とジョイントゴム303から構成されている。樹脂成形にて形成されたチップタンク301と流路プレート302とを超音波溶着することによりインク流路を形成している。
【0071】
図5はプリントヘッドにインクタンクが装着する様子を示した模式図である。インクタンク5001と係合するジョイント部には、外部からのゴミの進入を防ぐためのフィルター304が溶着により接合されており、さらに、ジョイント部からのインクの蒸発を防止するために、シールゴム305が装着されている。またチップタンク301は、着脱自在のインクタンク5001を保持する機能も一部有しており、インクタンク5001の第1の爪(不図示)を係合する第1の穴5002およびインクタンク5001の取り外しレバー5003を係合する第2の穴5004を有している。
【0072】
ジョイントゴム303は、チッププレートユニット2のインク供給口(不図示)とチップタンクユニットのインク供給口306をインクがリークしないように連通させるために、チップタンク301にチッププレートユニット2を位置決し、ビス5で固定し接合が完了する。
【0073】
チッププレート202の一つの側面に第三の接着剤(不図示)を塗布し、側面に沿って折り曲げ、押し付けて加熱接着する。第三の接着剤は、耐インク性の良好なエポキシ樹脂を主成分とした熱硬化接着剤が使用される。接着後の接着剤厚さ10〜100μmが好ましい。
【0074】
チッププレートユニット2の電気配線テープ203はチップタンクユニット3の一側面に、端子位置決めピンと端子位置決め穴(2ヶ所)により位置決めされ、チップタンクユニット3に設けられた端子結合ピンをカシメることにより固定し、プリントヘッド1が完成する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明における実施例1に示したHBチップの構造図
【図2】本発明におけるインクジェット式プリントヘッドの分解構造図
【図3】本発明におけるインクジェット式プリントヘッドの斜視図
【図4】本発明におけるSiウェハ上のHBチップの配置模式図
【図5】本発明におけるインクジェット式プリントヘッドとインクタンクの斜視図
【図6】本発明における実施例1に示したチッププレートユニットの模式図
【図7】本発明におけるHBチップの製造工程を示す模式図
【図8】従来のインクジェット式プリントヘッドの製造方法における、ダイシング方法による分離工程の模式図
【符号の説明】
【0076】
1 プリントヘッド
2 チッププレートユニット
3 チップタンクユニット
4 放熱部材
5 ビス
201 HBチップ
202 チッププレート
203 電気配線テープ
204 マクラ
205 (チッププレートの)インク供給口
206 電極端子
207 外部信号入力端子
208 (マクラの)開口部
210 チップタンクとのX方向位置決め穴
301 チップタンク
302 流路プレート
303 ジョイントゴム
304 フィルター
305 シールゴム
306 (チップタンクの)インク供給口
401 (放熱部材の)開口部
4001 Si基板
4002 (HBチップの)インク供給口
4003 電気熱変換素子
4004 電極部
4005 インク流路
4006 インク流路壁
4007 吐出口
4008 吐出口群
4009 切欠き部
5001 インクタンク
5002 (インクタンクの第一の爪を係合する第一の)穴
5003 取り外しレバー
5004 (取り外しレバーを係合する第二の)穴
6001 (マクラ開口部の四隅に設けた)出っ張り部
6002 (電気配線テープ開口部の四隅に設けた)張り出し部
6003 第一の封止剤
6004 第二の封止剤
6005 第二の封止剤の塗布領域
6007 チッププレートのX方向の基準位置
6008 チッププレートのY方向の基準位置
8001 Siウェハー
8002 開口
9001 Siウェハー
9002 保護膜
9003 インク流路・吐出口形成部
9004 (裏面の)保護膜(耐エッチングマスク層)
9005 フォトレジスト
9006 切欠き部を形成するための開口パターン
9007 インク供給口パターン
9008 レジストパターン
10001 切断ブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する吐出口群と吐出口からインクを吐出させるための吐出エネルギー発生素子と前記吐出エネルギー発生素子を駆動させるための電気パルス信号および電力供給を受容する電極部と前記吐出口群の反対の面にインク供給口とを具備する記録素子基板と、
前記記録素子基板が取り付けられ、前記記録素子基板の液室にインクを連通する液体供給路が形成されている支持部材と、
前記記録素子基板を組み込むための開口部を有し、前記記録素子基板に対してインクを吐出するための電気パルス信号および電力を印加するための可撓性の配線基板と、
前記記録素子基板が前記支持部材に接するための開口部を持ち、前記支持部材と前記配線基板の間に配置され前記配線基板を保持固定する支持板と、
前記支持板の開口部に配置された前記記録素子基板の周囲を封止する第一の封止剤と、
前記記録素子基板と前記配線基板の電気接続部を封止する第二の封止剤を備えたインクジェット式プリントヘッドにおいて、
前記記録素子基板の四隅部に、インク供給口側よりインク吐出口側になるに従い小さくなる切欠き構造と第二の封止剤を受ける部材とを持つことを特徴としたインクジェット式プリントヘッド。
【請求項2】
前記第二の封止剤を受ける部材が前記支持板の開口部に出っ張り部として一体に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式プリントヘッド。
【請求項3】
前記記録素子基板は、〈100〉面の結晶方位をもつSiウエハー上に、前記吐出口と前記吐出エネルギー発生素子と前記電極部を複数の記録素子基板分形成した後、
前記インク吐出口が形成された面の反対側面からSi異方性エッチングによるインク供給口の形成を行ない、
同時にSi異方性エッチングにより記録素子基板の四隅部に開口を形成し、
その後各記録素子基板を分離分割することで、記録素子基板の四隅に前記切欠き構造を形成することを特徴とするインクジェット式プリントヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−301886(P2007−301886A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133831(P2006−133831)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】