説明

インクジェット捺染方法、インクジェット捺染装置

【課題】インクジェット捺染において、装置の複雑化・大型化を抑制しつつ、印捺面からインクジェット捺染をすることにより印捺面と非印捺面の双方から印刷が視認できる捺染を可能とする。
【解決手段】第1の布帛の第1の面に第1の浸透液を第1のノズルから吐出する工程と第1の布帛の第1の面に第1の捺染用着色液体を第2のノズルから吐出する工程とを用いて第1の布帛に第1の捺染用着色液体による印捺をし、第2の布帛の第1の面に第2の浸透液を第1のノズルから吐出する工程と第2の布帛の第1の面に第2の捺染用着色液体を第2のノズルから吐出する工程とを用いて第2の布帛に第2の捺染用着色液体による印捺をするインクジェット捺染方法において、第1の捺染用着色液体による印捺と第2の捺染用着色液体による印捺との間に、第1の浸透液と第2の浸透液の少なくとも一方を第2のノズルから吐出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染方法およびインクジェット捺染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体に向けてノズルからインクを吐出することにより記録媒体に画像を形成するインクジェットプリンターが知られている。また、インクジェットプリンターにより、記録媒体としての布帛にインクを吐出して印捺を行う技術(以下、「インクジェット捺染」とも呼ぶ)が知られている。インクジェット捺染は、スクリーン捺染、ローラー捺染、ロータリースクリーン捺染、転写捺染といった他の捺染方法では必要とされる版の作成が不要であるため他品種少量生産への対応が容易であり、また廃液が少ないといった利点がある。
【0003】
インクジェット捺染において、色材を含むインクに加えて透明のインク等を用いることにより、画像の質の向上を図る技術が知られている(例えば、特許文献1−4参照)。特許文献1は、シート状物のインクジェット印刷方法について、複数のインクジェットノズルのうちの少なくとも1つを色素に対して分散または溶解能のある媒体を含有し色素を含有しない無色インクの専用ノズルとし、印刷部分のうちの淡色や均染化を必要とする部分に色素を含有するインクと該インクと混和性のある前記無色インクとを付与する技術を開示している。特許文献2は、反応性染料、水溶性有機溶剤及び水を含む記録インクと、水溶性高分子、無機塩基を含有する透明インクからなる捺染用インクジェットインクセットにより、前処理を施してない布帛に対してもにじみ、インク混じりを押さえ、かつ高濃度の発色が可能な捺染用インクジェットインクセット及びインクジェット捺染方法を提供する技術を開示している。特許文献3は、インクジェットヘッド内のゴミを確実に排出し、人手作業を省く等のため、インクジェットヘッドを支持する固定台の回転部を回転させ、ヘッドの向きに適した洗浄を行い、ヘッド内のゴミや泡を取り除く技術を開示している。特許文献4は、インクジェットによる捺染装置に関し、ヘッドのインク吐出面に付着したインクがプリント媒体に付着するのを防止したり、各ノズルより吐出されるインクのばらつきを無くすために、インク吐出面を払拭する、所謂ワイパリング処理を短時間に行う技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−10278号公報
【特許文献2】特開2010−65209号公報
【特許文献3】特開2006−181804号公報
【特許文献4】特開平6−320743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェット捺染では記録媒体である布帛の種類や印刷する図柄等によって異なる種類のインクが使用される場合がある。プリンターで使用するインクの種類を固定すると、布帛および図柄の組み合わせに応じて多数のプリンターが必要となるため、1台のプリンター上で使用するインクの種類を変更する方がスペース等の効率がよい。使用するインクの種類を変更する(あるノズルから吐出するインクを変更する)と、変更前のインクと変更後のインクが混色して本来の色調で捺染できない場合がある。また、変更前のインクと変更後のインクとで化学変化を生じる等して、インクの粘度が上がったり、固形化したりする等して、ノズルの目詰まりが生じる場合がある。インクジェット捺染装置は、一般に家庭等で使用するインクジェットプリンターに比べて大型で複雑でもあり、上記の課題を解決する際に、装置の更なる大型化や複雑化をできるだけ避けたい。また、例えばインクジェット捺染によりハンカチやスカーフを作成する場合のように、印捺面とその反対側の面(以下、「非印捺面」とも呼ぶ)との間で画像の濃度差が抑制されることが好ましい場合がある。印捺面からインクジェットでインクを吐出することにより、非印捺面からも印捺面から見たと同様な濃度で印捺されることにより、印捺を可能とする場合である。このようにすると印捺面からインクジェット捺染をすることにより、印捺面と非印捺面の双方から印刷が視認できる捺染が可能となる。また、インクジェット捺染は、通常、装置が大きく、できるだけ小型化したい。
【0006】
ここで、上記特許文献1に開示された発明は、「積極的にインクを滲ませることにより、モアレ状模様の発現や均染性を解決しようとするものである」(段落0012)。また、特許文献2に開示された発明は、その目的が「前処理を施してない布帛に対してもにじみ、インク混じりを押さえ、かつ高濃度の発色が可能な捺染用インクジェットインクセット及びインクジェット捺染方法を提供することにある」(段落0012)。また、特許文献3に開示された発明は、「インクジェットヘッド内のゴミを確実に排出し、人手作業を省く」(段落0008)等を目的としている。また、特許文献4に開示された発明は、「短時間にインクジェットヘッドの払拭を行うことができるインクジェットプリント装置とその方法を提供すること」(段落0006)を目的としている。発明者は、捺染の技術開発をする中で、インクジェット捺染で、印捺面からインクジェット捺染をすることにより、印捺面と非印捺面の双方から印刷が視認できる捺染を可能とし、装置の大型化、複雑化を極力なくすことがインクジェット捺染技術の実用化上で重要であることに気がつき、かかる課題を解決せんとしたものであるが、上記文献にはかかる課題の開示がなく示唆もされない。上記発明を組み合わせてもかかる課題を見出せず、またかかる課題を解決できない。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、インクジェット捺染において、装置の複雑化・大型化を抑制しつつ、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差を低減し、印捺面からインクジェット捺染をすることにより印捺面と非印捺面の双方から印刷が視認できる捺染を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本発明は、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]第1の布帛の第1の面に向けて第1の捺染用着色液体の前記第1の布帛への浸透を促進する第1の浸透液を第1のノズルから吐出する浸透液吐出工程と、前記第1の布帛の前記第1の面上の前記浸透液吐出部に向けて前記第1の捺染用着色液体を第2のノズルから吐出する捺染用着色液体吐出工程と、を用いて、前記第1の布帛に前記第1の捺染用着色液体による印捺をし、
第2の布帛の第1の面に向けて第2の捺染用着色液体の前記第2の布帛への浸透を促進する第2の浸透液を前記第1のノズルから吐出する浸透液吐出工程と、前記第2の布帛の前記第1の面上の前記浸透液吐出部に向けて前記第2の捺染用着色液体を前記第2のノズルから吐出する捺染用着色液体吐出工程と、を用いて、前記第2の布帛に前記第2の捺染用着色液体による印捺をするインクジェット捺染方法であって、
前記第1の捺染用着色液体による印捺と前記第2の捺染用着色液体による印捺との間に、前記第1の浸透液と前記第2の浸透液の少なくとも一方を前記第2のノズルから吐出させる工程を設けたことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【0010】
このインクジェット印捺方法では、第1,2の布帛に対する第1,2の捺染用着色液体による印捺が、布帛の第1の面に向けて捺染用着色液体の布帛への浸透を促進する浸透液を第1のノズルから吐出する浸透液吐出工程と、布帛の第1の面上の浸透液吐出部に向けて捺染用着色液体を第2のノズルから吐出する捺染用着色液体吐出工程と、を用いて実行されるため、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差を低減し、印捺面からインクジェット捺染をすることにより印捺面と非印捺面の双方から印刷が視認できる捺染を実現することができる。また、このインクジェット印捺方法では、第1の捺染用着色液体による印捺と第2の捺染用着色液体による印捺との間に、第1の浸透液と第2の浸透液の少なくとも一方を第2のノズルから吐出させる工程が実行され、この工程により第2のノズルが洗浄されるため、専用の浸透液と専用の洗浄液とを個別に準備する場合と比較して、インクジェット捺染のための装置の複雑化・大型化を抑制することができる。
【0011】
[適用例2]適用例1に記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1の捺染用着色液体による印捺により前記第1の布帛の両面から視認可能な印捺が行われ、
前記第2の捺染用着色液体による印捺により前記第2の布帛の両面から視認可能な印捺が行われることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【0012】
このインクジェット印捺方法では、第1の捺染用着色液体による印捺および第2の捺染用着色液体による印捺において、印捺面からインクジェット捺染をすることにより印捺面と非印捺面の双方から印刷が視認できる捺染を実現することができる。
【0013】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1の捺染用着色液体による印捺の後、前記第2の捺染用着色液体による印捺の前に、前記第1の浸透液を前記第2のノズルから吐出させる工程を設けたことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【0014】
このインクジェット印捺方法では、第1の捺染用着色液体による印捺の後、第2の捺染用着色液体による印捺の前に、第1の浸透液を第2のノズルから吐出させるため、第2のノズル中の第1の捺染用着色液体をよく洗浄することができる。
【0015】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1の捺染用着色液体と前記第2の捺染用着色液体とが、酸性インク、反応インク、分散インク、顔料インクの中の異なるインクである場合、前記第1の浸透液と前記第2の浸透液とを異なる浸透液としたことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【0016】
このインクジェット印捺方法では、第1の捺染用着色液体と第2の捺染用着色液体とが、酸性インク、反応インク、分散インク、顔料インクの中の異なるインクである場合に、第1の浸透液と第2の浸透液とを異なる浸透液とすることにより、対応する捺染用着色液体により適した第1,2の浸透液を使用することができ、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差をより低減することができると共に、上述の第2のノズルの洗浄効果も得ることができる。
【0017】
[適用例5]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1の捺染用着色液体と前記第2の捺染用着色液体の一方が酸性インク、他方が反応インクである場合、前記第1の浸透液と前記第2の浸透液とを同じ浸透液としたことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【0018】
このインクジェット印捺方法では、第1の捺染用着色液体と第2の捺染用着色液体の一方が酸性インク、他方が反応インクである場合に、第1の浸透液と第2の浸透液とを同じ浸透液とすることにより、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差の低減効果や第2のノズルの洗浄性をある程度確保しつつ、使用する浸透液の種類を低減することができる。
【0019】
[適用例6]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1の捺染用着色液体と前記第2の捺染用着色液体の一方が分散インク、他方が顔料インクである場合、前記第1の浸透液と前記第2の浸透液とを同じ浸透液としたことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【0020】
このインクジェット印捺方法では、第1の捺染用着色液体と第2の捺染用着色液体の一方が分散インク、他方が顔料インクである場合に、第1の浸透液と第2の浸透液とを同じ浸透液とすることにより、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差の低減効果や第2のノズルの洗浄性をある程度確保しつつ、使用する浸透液の種類を低減することができる。
【0021】
[適用例7]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1の捺染用着色液体と前記第2の捺染用着色液体とが、共に、酸性インク、反応インク、分散インク、顔料インクのいずれかである場合、前記第1の浸透液と前記第2の浸透液とを同じ浸透液としたことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【0022】
このインクジェット印捺方法では、第1の捺染用着色液体と第2の捺染用着色液体とが、共に、酸性インク、反応インク、分散インク、顔料インクのいずれかである場合に、第1の浸透液と第2の浸透液とを同じ浸透液とすることにより、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差の低減効果や第2のノズルの洗浄性を確保しつつ、使用する浸透液の種類を低減することができる。
【0023】
[適用例8]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1の浸透液は、前記第1の捺染用着色液体から着色用色材を除いた成分を主成分とする液体であり、前記第2の浸透液は、前記第2の捺染用着色液体から着色用色材を除いた成分を主成分とする液体であることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【0024】
このインクジェット印捺方法では、第1,2の浸透液が第1,2の捺染用着色液体から着色用色材を除いた成分を主成分とする液体であるため、浸透液を簡単に準備できながら、印捺における印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差を良好に低減しつつ画像の滲みを抑制することができ、また、浸透液によって第2のノズルを良好に洗浄することができる。
【0025】
[適用例9]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1及び第2の捺染用着色液体として複数の異なる捺染用着色液体を使用し、
前記第1の捺染用着色液体による印捺及び前記第2の捺染用着色液体による印捺における前記捺染用着色液体吐出工程では、前記複数の異なる捺染用着色液体を前記第2のノズルの異なるノズルから吐出させることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【0026】
このインクジェット印捺方法では、第1の捺染用着色液体による印捺及び第2の捺染用着色液体による印捺における捺染用着色液体吐出工程において、複数の異なる捺染用着色液体を第2のノズルの異なるノズルから吐出させることにより、多様な図柄の捺染を実現することができる。
【0027】
[適用例10]適用例9に記載のインクジェット捺染方法であって、
前記浸透液は、前記複数の異なる捺染用着色液体に共通する溶媒を主成分とするものであることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【0028】
このインクジェット印捺方法では、浸透液が複数の異なる捺染用着色液体に共通する溶媒を主成分とするものであるため、複数の異なる捺染用着色液体を用いた印捺における印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差を良好に低減しつつ画像の滲みを抑制することができると共に、浸透液によって第2のノズルを良好に洗浄することができ、装置の複雑化・大型化を抑制することができる。
【0029】
[適用例11]適用例9または適用例10に記載のインクジェット捺染方法であって、
前記複数の異なる捺染用着色液体は、酸性インク、反応インク、分散インク、顔料インクのいずれか1つであり、かつ、互いに色の異なる捺染用着色液体であることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【0030】
このインクジェット印捺方法では、浸透液が、酸性インク、反応インク、分散インク、顔料インクのいずれか1つであって互いに色の異なる複数の捺染用着色液体に共通する溶媒を主成分とするものであるため、複数色の捺染用着色液体を用いた印捺における印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差を良好に低減しつつ画像の滲みを抑制することができると共に、浸透液によって第2のノズルを良好に洗浄することができ、装置の複雑化・大型化を抑制することができる。
【0031】
[適用例12]第1のノズルと、第2のノズルと、を有するインクジェット捺染装置であって、
第1の布帛の第1の面に向けて第1の捺染用着色液体の前記第1の布帛への浸透を促進する第1の浸透液を前記第1のノズルから吐出する浸透液吐出手段と、前記第1の布帛の前記第1の面上の前記浸透液吐出部に向けて前記第1の捺染用着色液体を前記第2のノズルから吐出する捺染用着色液体吐出手段と、を有し、前記第1の布帛に前記第1の捺染用着色液体による印捺を行う手段と、
第2の布帛の第1の面に向けて第2の捺染用着色液体の前記第2の布帛への浸透を促進する第2の浸透液を前記第1のノズルから吐出する浸透液吐出手段と、前記第2の布帛の前記第1の面上の前記浸透液吐出部に向けて前記第2の捺染用着色液体を前記第2のノズルから吐出する捺染用着色液体吐出手段と、を有し、前記第2の布帛に前記第2の捺染用着色液体による印捺を行う手段と、
前記第1の捺染用着色液体による印捺と前記第2の捺染用着色液体による印捺との間に、前記第1の浸透液と前記第2の浸透液の少なくとも一方を前記第2のノズルから吐出させる手段と、
を有することを特徴とするインクジェット捺染装置。
【0032】
このインクジェット捺染装置は[適用例1]で記載した作用効果を奏する。なお、[適用例1]−[適用例11]で述べたインクジェット捺染方法は、それぞれインクジェット捺染装置としても、各適用例で述べた作用効果を奏する。
【0033】
[適用例13]捺染染用着色液体の布帛への浸透を促進する浸透液を貯蔵する浸透液貯蔵タンクと、
前記捺染用着色液体を貯蔵する捺染用着色液体貯蔵タンクと、
前記浸透液貯蔵タンクと第1のノズルとを連通する第1の流路と、
前記捺染用着色液体貯蔵タンクと第2のノズルとを連通する第2の流路と、
前記第1の流路と前記第2の流路を連通し前記浸透液を前記第2のノズルに供給する流路を形成する第3の流路とを備えたことを特徴とするインクジェット捺染装置。
【0034】
このインクジェット印捺装置では、浸透液貯蔵タンクから第1の流路を介して第1のノズルに浸透液を供給して吐出すると共に、捺染用着色液体貯蔵タンクから第2の流路を介して第2のノズルに捺染用着色液体を供給して吐出することにより、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差を低減し、印捺面からインクジェット捺染をすることにより印捺面と非印捺面の双方から印刷が視認できる捺染を実現することができる。また、このインクジェット印捺装置は、第1の流路と第2の流路を連通し浸透液を第2のノズルに供給する流路を形成する第3の流路を備えるため、浸透液貯蔵タンクから第3の流路を介して浸透液を第2のノズルに供給して第2のノズルを洗浄することができ、専用の浸透液と専用の洗浄液とを個別に準備する場合と比較して、インクジェット捺染装置の複雑化・大型化を抑制することができる。
【0035】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、インクジェット捺染方法、インクジェット捺染装置、インクジェット捺染装置を有する印捺システム、インクジェット捺染装置または印捺システムの制御方法、これらの方法、装置またはシステムの機能を実現するためのコンピュータープログラム、そのコンピュータープログラムを記録した記録媒体、そのコンピュータープログラムを含み搬送波内に具現化されたデータ信号、等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施例におけるインクジェットプリンター100の構成を概略的に示す説明図である。
【図2】液体供給系50を中心としたインクジェットプリンター100の一部の要素の構成を概略的に示す説明図である。
【図3】吐出ヘッド41の構成を示す説明図である。
【図4】液体供給系50の具体的な構成を示す説明図である。
【図5】本実施例のインクジェットプリンター100による印捺処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】本実施例のインクジェットプリンター100におけるインク交換処理の概要を示す説明図である。
【図7】本実施例のインクジェットプリンター100におけるインク交換処理の概要を示す説明図である。
【図8】本実施例のインクジェットプリンター100におけるインク交換処理の概要を示す説明図である。
【図9】本実施例のインクジェットプリンター100におけるインク交換処理の概要を示す説明図である。
【図10】本実施例のインクジェットプリンター100におけるインク交換処理の概要を示す説明図である。
【図11】本実施例のインクジェットプリンター100におけるインク交換処理の概要を示す説明図である。
【図12】評価試験に使用した捺染用液体の組成の一例を示す説明図である。
【図13】評価試験に使用した捺染用液体の組成の一例を示す説明図である。
【図14】評価試験に使用した捺染用液体の組成の一例を示す説明図である。
【図15】評価試験に使用した捺染用液体の組成の一例を示す説明図である。
【図16】評価試験に使用した捺染用液体の組成の一例を示す説明図である。
【図17】評価試験結果を示す説明図である。
【図18】第2実施例における液体供給系50の構成を概略的に示す説明図である。
【図19】第2実施例のインクジェットプリンター100におけるインク交換処理の概要を示す説明図である。
【図20】第2実施例のインクジェットプリンター100におけるインク交換処理の概要を示す説明図である。
【図21】第3実施例におけるインクジェットプリンター100の吐出ヘッド41の構成を示す説明図である。
【図22】変形例における吐出ヘッド41の構成を示す説明図である。
【図23】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【図24】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【図25】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【図26】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【図27】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【図28】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【図29】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【図30】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【図31】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【図32】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【図33】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【図34】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【図35】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【図36】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【図37】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【図38】印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1実施例:
A−1.装置構成:
A−2.捺染用液体の組成:
A−2−1.インクの組成:
A−2−2.浸透液の組成:
A−3.印捺処理:
A−4.インク交換処理:
A−5.評価試験:
B.第2実施例:
C.第3実施例:
D.変形例:
【0038】
A.第1実施例:
A−1.装置構成:
図1は、本発明の第1実施例におけるインクジェットプリンター100の構成を概略的に示す説明図である。図1では、インクジェットプリンター100の構成をわかりやすく示すために、構成の一部を適宜省略したり、各部の寸法を適宜変更したりして示している。
【0039】
本実施例のインクジェットプリンター100は、記録媒体PMとしての布帛の表面(印捺面)に向けてインクを吐出することによって画像を記録するインクジェット捺染を実行可能な印刷装置である。また、後述するように、本実施例のインクジェットプリンター100は、インク滲みを抑制しつつ印捺面とその反対側の面(非印捺面)との間の画像の濃度差を低減するために、布帛の印捺面に向けて浸透液を吐出する。なお、本実施例において、「画像」とは、文字、図形、記号、模様等を含むものとする。また、本実施例におけるインクは、本発明における捺染用着色液体に相当する。また、インクと浸透液とをまとめて「捺染用液体」とも呼ぶ。
【0040】
記録媒体PMの布帛としては、例えば、ポリアミド系繊維・絹・羊毛により製造された織物・網物・不織布が用いられる。また、インクとしては、酸性染料インク(以下、単に「酸性インク」とも呼ぶ)や反応染料インク(同「反応インク」)、分散染料インク(同「分散インク」)、顔料インクといった複数種類のインクの中から、使用する布帛の種類や形成する画像の種類に応じて選択されたインクが用いられる。また、本実施例で使用される浸透液は、布帛に付着したインクの色材を溶かして布帛への浸透を促進する作用と共に、インクの洗浄作用を有する液体である。インクおよび浸透液の組成やその作用については、後に詳述する。
【0041】
図1に示すように、インクジェットプリンター100は、プリンター本体部10と、プラテン11と、キャリッジ駆動系20と、液体供給系50と、キャッピングユニット70と、制御部80(図2参照)とを有している。プリンター本体部10は、インクジェットプリンター100のベースとなる部材であり、キャリッジ駆動系20等を搭載する。
【0042】
キャリッジ駆動系20は、キャリッジ22を主走査方向Dc(図1における左右方向)に往復移動させる機構であり、ガイド21と、キャリッジ22と、キャリッジモーター23と、駆動プーリー24と、従動プーリー25と、駆動ベルト26とを含んでいる。ガイド21は、主走査方向Dcに沿って延伸する一対の部材であり、プリンター本体部10に設置されている。キャリッジ22は、吐出ヘッド41(詳細は後述)を搭載するための部材であり、主走査方向Dcに沿って移動可能なように一対のガイド21に支持されている。なお、本実施例では、サブタンク53(詳細は後述)もキャリッジ22に搭載される。
【0043】
キャリッジモーター23は、キャリッジ22を往復移動させるための電動機であり、プリンター本体部10に設置されている。駆動プーリー24は、キャリッジモーター23の回転軸と連結された滑車であり、従動プーリー25は、プリンター本体部10に設置された滑車である。駆動ベルト26は、駆動プーリー24および従動プーリー25の間に架け渡されており、所定の箇所でキャリッジ22と固定的に接続されている。キャリッジモーター23が回転駆動されると、駆動プーリー24が回転し、駆動プーリー24と従動プーリー25との間に架け渡された駆動ベルト26が循環移動し、駆動ベルト26に接続されたキャリッジ22が主走査方向Dcに沿って移動する。これにより、キャリッジ22の主走査方向Dcに沿った移動(「主走査」と呼ばれる)が実現される。
【0044】
プラテン11は、記録媒体PMである布帛を平らな状態で支持するための支持部材である。プリンター本体部10には、図示しない搬送機構が設けられており、記録媒体PMは、搬送機構によりプラテン11上で主走査方向Dcに略直交する副走査方向Dfに沿って搬送される。これにより、キャリッジ22に搭載された吐出ヘッド41に対する、記録媒体PMの副走査方向Dfに沿った相対移動(「副走査」と呼ばれる)が実現される。
【0045】
液体供給系50は、捺染用液体(インクおよび浸透液)を収容・搬送・吐出するための機構である。図2は、液体供給系50を中心としたインクジェットプリンター100の一部の要素の構成を概略的に示す説明図である。図2には、主として、液体供給系50とキャッピングユニット70と制御部80との概略構成を示している。図2に示すように、液体供給系50は、メインタンク31と、サブタンク53と、吐出ヘッド41と、それらを接続する配管類とを有している。
【0046】
吐出ヘッド41は、捺染用液体が貯留する液溜まり部44と、ノズル面42に形成された複数のノズル43とを有する。吐出ヘッド41は、図示しない圧電素子を有しており、圧電素子の駆動により、液溜まり部44に貯留された捺染用液体がノズル43から吐出される。吐出ヘッド41は、ノズル面42がプラテン11に対向するような向きで、キャリッジ22(図1)に搭載されている。
【0047】
液体供給系50は、吐出ヘッド41に供給する捺染用液体(インクおよび浸透液)を収容する収容室であるメインタンク31を複数有している。各メインタンク31は、プリンター本体部10に設けられている。各メインタンク31の内部空間32には、捺染用液体を可撓性の袋内に収容した液体パック(インクを収容したインクパック35や浸透液を収容した浸透液パック36)が、着脱可能に設置される。サブタンク53は、吐出ヘッド41への捺染用液体の安定供給を維持するために、所定量の捺染用液体を収容する収容室であり、キャリッジ22上に、メインタンク31の個数と同数だけ設置されている。なお、本実施例では、サブタンク53の圧力を検出することにより、メインタンク31内の捺染用液体の残量検出を行っている。メインタンク31の容量は、サブタンク53の容量の10倍ないし30倍の範囲であることが好ましい。ただし、メインタンク31の容量とサブタンク53の容量との関係は、必ずしも上記範囲内にある必要はない。
【0048】
各メインタンク31に収容されたインクパック35および浸透液パック36と各サブタンク53とは、それぞれに対応する第1供給管54を介して接続されている。本実施例では、サブタンク53がキャリッジ22上に搭載されるため、第1供給管54は、可撓性を有する材料(例えばポリエチレン)で形成されている。各第1供給管54の経路上には、第1供給管54を開閉する第1バルブ61が設けられている。各第1バルブ61は、通常動作時(印捺処理時)には、開状態となっている。
【0049】
各サブタンク53と吐出ヘッド41とは、それぞれに対応する第2供給管56を介して接続されている。各第2供給管56の経路上には、第2供給管56を開閉する第2バルブ62が設けられている。各第2バルブ62は、通常動作時には、開状態となっている。なお、図2には示していないが、第2供給管56と吐出ヘッド41との接続部には圧力調整弁68(図4参照)が設けられている。圧力調整弁68は、吐出ヘッド41に捺染用液体を吸い上げる際に圧力調整(減圧)を行う。
【0050】
液体供給系50は、また、供給ポンプ55を有している。供給ポンプ55は、空気供給管34を介して各メインタンク31の内部空間32に空気を圧送する。供給ポンプ55による空気の圧送により、各メインタンク31の内部空間32内の気圧が上昇し、内部空間32に設置されたインクパック35や浸透液パック36が収縮し、パック内に収容された捺染用液体(インクや浸透液)が第1供給管54を介してサブタンク53に供給され、さらに第2供給管56を介して吐出ヘッド41の液溜まり部44に供給される。
【0051】
キャッピングユニット70は、吐出ヘッド41のノズル43を介して吸引を行い、液体供給系50内から捺染用液体を除去する機構であり、プリンター本体部10におけるキャリッジ22のホームポジションに設けられている(図1参照)。なお、ホームポジションは、キャリッジ22の移動範囲内であり、かつ、プラテン11における記録媒体PMの支持範囲外の位置に設定されている。
【0052】
図2に示すように、キャッピングユニット70は、キャップ71と、廃液タンク72と、排出管73と、吸引ポンプ74とを有している。キャップ71は、キャリッジ22に搭載された吐出ヘッド41がキャッピングユニット70の位置に移動したときに、吐出ヘッド41のノズル面42との間に密閉空間を形成する部材である。キャップ71の開口端の周囲には、ノズル面42との間の機密性を高めるための弾性体が設けられていてもよい。
【0053】
廃液タンク72は、例えばノズル43が目詰まりしたときのクリーニングの際や、使用するインク種類を変更するときのノズル43や供給管54,56等の洗浄の際に、吐出ヘッド41のノズル43を介して排出された捺染用液体を貯留するためのタンクである。キャップ71と廃液タンク72とは、排出管73で接続されている。吸引ポンプ74は、排出管73の経路上に設けられ、キャップ71と吐出ヘッド41のノズル面42との間に密閉空間が形成された状態において、当該密閉空間を吸引する。
【0054】
制御部80は、図示しないCPUおよびメモリーを有するコンピューターによって構成され、インクジェットプリンター100の各部の動作を制御する。例えば、制御部80は、図2に示すように、第1バルブ61および第2バルブ62の開閉動作を制御したり、吸引ポンプ74の吸引動作を制御したりする。また、制御部80は、キャリッジモーター23(図1)の動作や記録媒体PMの搬送機構の動作、吐出ヘッド41の動作等も制御する。
【0055】
図3は、吐出ヘッド41の構成を示す説明図である。本実施例のインクジェットプリンター100は、6色のインクを用いて印捺を行う。そのため、吐出ヘッド41のノズル面42には、主走査方向Dcに沿って並んで配置された6色のインク用のノズル列45が形成されている。各インク色用のノズル列45は、副走査方向Dfに沿って並んだ複数のノズル43(図2参照)から構成されている。なお、本実施例では、6色は、黒(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ライトシアン(LC)、ライトマゼンタ(LM)である。各インク色用のノズル列45を構成する各ノズル43は、本発明における第2のノズルに相当する。
【0056】
また、本実施例のインクジェットプリンター100は、印捺の際に、浸透液の吐出も行う。そのため、吐出ヘッド41のノズル面42には、浸透液用のノズル列45も形成されている。浸透液用のノズル列45も、インク用のノズル列45と同様に、副走査方向Dfに沿って並んだ複数のノズル43から構成されている。本実施例では、浸透液用のノズル列45は、主走査方向Dcに沿って、6色のインク用のノズル列45の両外側に1つずつ配置されている。すなわち、2つの浸透液用のノズル列45は、6色のインク用のノズル列45を挟むような配置となっている。各浸透液用のノズル列45を構成する各ノズル43は、本発明における第1のノズルに相当する。
【0057】
図4は、液体供給系50の具体的な構成を示す説明図である。図4には、液体供給系50の具体的構成の一部とキャッピングユニット70の構成の一部とを示している。図4に示すように、液体供給系50は、8つのノズル列45(図3)に対応する8つのサブ液体供給系59を含んでいる。より具体的には、液体供給系50は、6色のインク用のノズル列45に対応する6つのサブ液体供給系59と、2つの浸透液用のノズル列45に対応する2つのサブ液体供給系59と、を含んでいる。各サブ液体供給系59は、メインタンク31と、第1供給管54と、第1バルブ61と、サブタンク53と、第2供給管56と、第2バルブ62と、圧力調整弁68とを含んでいる。各サブ液体供給系59のメインタンク31には、対応する液体パック(インクパック35または浸透液パック36)が設置される。なお、図4に示す状態では、インク用の各サブ液体供給系59のメインタンク31には、各色の酸性インクを収容したインクパック35が設置されており、浸透液用の各サブ液体供給系59のメインタンク31には、酸性インクに対応する浸透液Aを収容した浸透液パック36が設置されている。各サブ液体供給系59は、メインタンク31に設置された液体パックに収容された捺染用液体を吐出ヘッド41のノズル43に供給する流路を構成する。インク用の各サブ液体供給系59により構成される流路は、本発明における第2の流路に相当し、浸透液用の各サブ液体供給系59により構成される流路は、本発明における第1の流路に相当する。
【0058】
A−2.捺染用液体の組成:
A−2−1.インクの組成:
本実施例のインクジェットプリンター100に用いられるインク(捺染用着色液体)は、例えば、酸性インクや反応インク、分散インク、顔料インクである。
【0059】
酸性インクは、色材として、酸性染料を含有する。酸性染料の含有量は適宜決定されてよいが、インクの全質量に対して0.1〜15質量%程度が好ましく、1.0〜10質量%程度がより好ましい。
【0060】
酸性インクに用いられる酸性染料は、加熱蒸着により布帛と化学接合して定着する性質を有する限り、特に制限されないが、例えば、アゾ染料、アントラキノン染料、カルボニウム染料、ニトロ染料、金属錯塩染料を用いることができる。その具体例としては、印刷の基本4色又はそれに近い色として、C.I.アシッドイエロー1、3、7、11、17、19、23、25、29、36、38、40、42、44、49、59、61、70、72、75、76、78、79、98、99、110、111、112、114、116、118、119、127、128、131、135、141、142、161、162、163、164、165、169、207、219、246、C.I.アシッドレッド1、6、8、9、13、14、18、19、24、26、27、28、32、35、37、42、51、52、57、62、75、77、80、82、83、85、87、88、89、92、94、95、97、106、111、114、115、117、118、119、129、130、131、133、134、138、143、145、149、154、155、158、168、180、183、184、186、194、198、199、209、211、215、216、217、219、249、252、254、256、257、260、262、265、266、274、276、282、283、303、317、318、320、321、322、361、C.I.アシッドブルー1、7、9、15、22、23、25、27、29、40、41、43、45、49、54、59、60、62、72、74、78、80、82、83、90、92、93、100、102、103、104、112、113、117、120、126、127、129、130、131、133、138、140、142、143、151、154、158、161、166、167、168、170、171、175、182、183、184、185、187、192、199、203、204、205、225、229、234、236、300、C.I.アシッドブラック1、2、7、24、26、29、31、44、48、50、51、52、58、60、62、63、64、67、72、76、77、94、107、108、109、110、112、115、118、119、121、122、131、132、139、140、155、156、157、158、159、172、191、234等が挙げられる。
【0061】
また、印捺画像の色表現範囲を広げるために又は特定の色を削減するため、適宜オレンジ、バイオレット、グリーン、ブラウン等基本4色以外の酸性染料を用いることもできる。このような染料の具体例としては、C.I.アシッドオレンジ1、7、8、10、19、20、24、28、33、41、43、45、51、56、63、64、65、67、74、80、82、85、86、87、88、95、122、123、124、C.I.アシッドバイオレット7、11、15、31、34、35、41、43、47、48、49、51、54、66、68、75、78、97、106、C.I.アシッドグリーン3、7、9、12、16、19、20、25、27、28、35、36、40、41、43、44、48、56、57、60、61、65、73、75、76、78、79、C.I.アシッドブラウン2、4、13、14、19、20、27、28、30、31、39、44、45、46、48、53、100、101、103、104、106、160、161、165、188、224、225、226、231、232、236、247、256、257、266、268、276、277、282、289、294、295、296、297、299、300、301、302等が挙げられる。また好みの色に合わせるためにこれらの染料を適宜混合して使用することもできる。特に良好な黒色を印捺するために補色を加えることも好ましい。
【0062】
反応インクは、色材として、反応染料を含有する。なお、本明細書において反応染料とは、カラーインデックス中で反応染料に分類されている化合物をいう。反応染料の含有量は特に限定されず適宜決定することができるが、インクの全質量に対して1.0〜15質量%程度が好ましく、6.0〜12質量%程度がより好ましい。反応染料の含有量を1.0質量%以上にすることにより、充分な印捺濃度を得ることができ、15質量%以下にすることにより、インクジェット用インクに求められる吐出安定性を維持し、特に高温下で吐出不良となることを防止することができる。
【0063】
反応インクに用いられる反応染料は、加熱蒸着により布帛と化学接合して定着する性質を有する限り、特に制限されないが、例えば、モノクロロトリアジニル基、ジクロロトリアジニル基、クロルピリミジル基、ビニルスルホン基、又はアルキル硫酸基等を反応基として有する染料が好ましい。これらの染料は、個々の目的により選択される。例えば、高濃度の黒色を特に所望する際はビニルスルホン系反応染料が好適である。また、捺染用インクジェットインクを長時間保存することが必要な際は、モノクロロトリアジニル骨格、即ちモノクロロ置換1、3、5−トリアジン2−イル骨格を有する染料が好ましい。モノクロロトリアジニル骨格を有する反応染料は比較的熱安定性が優れているため、長時間保存安定性が要求されるインクジェットインク用染料として特に好適である。捺染用インクジェットインクに含まれる反応染料の具体例を以下に列挙する。C.I.リアクティブイエロー3、6、12、18、86、C.I.リアクティブレッド3、4、7、12、13、15、16、24、29、31、32、33、43、45、46、58、59、C.I.リアクティブブルー2、3、5、7、13、14、15、25、26、39、40、41、46、49、176、C.I.リアクティブブラック1、2、3、8、10、12、13等が挙げられる。
【0064】
また、印捺画像の色表現範囲を広げるために又は特定の色を削減するため、適宜オレンジ、バイオレット、グリーン、ブラウン等基本4色以外の染料を用いることもできる。このような染料の具体例としては、C.I.リアクティブオレンジ2、5、12、13、20、C.I.リアクティブバイオレット1、2、C.I.リアクティブグリーン5、8、C.I.リアクティブブラウン1、2、7、8、9、11、14等が挙げられる。また好みの色に合わせるためにこれらの染料を適宜混合して使用することもできる。特に良好な黒色を印捺するために補色を加えることも好ましい。また、印捺階調性を特に得たい場合は、上記インクに加えて、染料濃度6.0質量%以下の淡色系インクを加えることで、中濃度ないし低濃度の階調性が向上する。
【0065】
分散インクは、色材として、分散染料を含有する。分散染料の含有量は特に限定されず適宜決定することができるが、インクの全質量に対して0.1〜15質量%程度が好ましく、3.0〜10質量%程度がより好ましい。
【0066】
分散インクに用いられる分散染料としては、アゾ系分散染料、キノン系分散染料、アントラキノン系分散染料、キノフタロン系分散染料等種々の分散染料を用いることができる。以下にその具体的化合物名を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。C.I.ディスパースブルー3、7、9、14、16、19、20、26、27、35、43、44、54、55、56、58、60、62、64、71、72、73、75、79、81、82、83、87、91、93、94、95、96、102、106、108、112、113、115、118、120、122、125、128、130、139、141、142、143、146、148、149、153、154、158、165、167、171、173、174、176、181、183、185、186、187、189、197、198、200、201、205、207、211、214、224、225、257、259、267、268、270、284、285、287、288、291、293、295、297、301、315、330、333、C.I.ディスパースレッド1、4、5、7、11、12、13、15、17、27、43、44、50、52、53、54、55、56、58、59、60、65、72、73、74、75、76、78、81、82、86、88、90、91、92、93、96、103、105、106、107、108、110、111、113、117、118、121、122、126、127、128、131、132、134、135、137、143、145、146、151、152、153、154、157、159、164、167、169、177、179、181、183、184、185、188、189、190、191、192、200、201、202、203、205、206、207、210、221、224、225、227、229、239、240、257、258、277、278、279、281、288、298、302、303、310、311、312、320、324、328、C.I.ディスパースイエロー3、4、5、7、9、13、23、24、30、33、34、42、44、49、50、51、54、56、58、60、63、64、66、68、71、74、76、79、82、83、85、86、88、90、91、93、98、99、100、104、108、114、116、118、119、122、124、126、135、140、141、149、160、162、163、164、165、179、180、182、183、184、186、192、198、199、202、204、210、211、215、216、218、224、227、231、232、C.I.ディスパースブラック1、3,10,24が挙げられる。
【0067】
顔料インクは、色材として、顔料を含有する。顔料の含有量は特に限定されず適宜決定することができるが、インクの全質量に対して0.5〜30質量%程度が好ましく、1.0〜15質量%程度がより好ましい。これ以下の含有量では、印字濃度が確保できなくなり、またこれ以上の含有量では、インクの粘度増加や粘度特性に構造粘性が生じ、吐出ヘッド41からのインクの吐出安定性が悪くなる傾向になる。
【0068】
顔料インクに用いられる顔料としては、黒色インク用として、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類が特に好ましいが、銅酸化物、鉄酸化物(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料を用いることもできる。また、カラーインク用の顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83(ジスアゾイエローHR)、93、94、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、128、138、153、155、180、185、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、202、206、209、219、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)、15:4、15:6(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63等が使用できる。
【0069】
インクには、インクジェットプリンター100の吐出ヘッド41のノズル43からの吐出安定性を向上させる観点から、保湿剤を含有させることが好ましい。保湿剤を含有させる場合の含有量は適宜決定されてよいが、インクの全質量に対して、好ましくは4.0〜40質量%である。保湿剤としては、通常のインクジェット捺染用インクに保湿剤として使用されている化合物を用いることができ、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、またはペンタエリスリトール等のポリオール類、およびそのエーテルまたはエステル等の誘導体;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、またはε−カプロラクタム等のラクタム類;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、または1,3−ジメチルイミダゾリジノン類等の尿素類;マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、またはマルトース等の糖類等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。
【0070】
また、インクには、布帛への濡れ性を高めてインクの浸透性を高める観点から、浸透剤(インクに浸透性を付与する物質)を含有させることが好ましい。浸透剤を含有させる場合の含有量は適宜決定されてよいが、インクの全質量に対して、好ましくは2.0〜15質量%である。そのような浸透性有機溶剤としては、通常のインクジェット捺染用インクに浸透性有機溶剤として使用されている化合物を用いることができ、例えば、エタノールまたはプロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、またはエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等のセロソルブ類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、またはジエチレングリコール−n−ブチルエーテル等のカルビトール類;トリエチレングリコール−n−メチルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル等のグリコールエーテル類等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。
【0071】
さらに、同様の観点からインクには、浸透剤として、浸透性有機溶剤に加えて、浸透性界面活性剤をさらに加えてもよい。浸透性界面活性剤を加える場合の添加量は適宜決定されてよいが、インクの全質量に対して、好ましくは0.2〜2.0質量%である。そのような浸透性界面活性剤としては、通常のインクジェット捺染用インクに浸透性界面活性剤として使用されている化合物を用いることができ、例えば、脂肪酸塩類;アルキル硫酸エステル塩類等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコ−ル系界面活性剤;カチオン性界面活性剤;両イオン性界面活性剤;ポリオルガノシロキサン系界面活性剤等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を加えることができる。なお、上記の界面活性剤は市販品を用いることが可能であり、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤として、サーフィノール61、82、104、440、465、485(何れも商品名、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)、オルフィンE1010、オルフィンSTG、オルフィンY(何れも商品名、日信化学社製)等を用いることが可能である。
【0072】
また、インクには、上記した各成分に加えて、水を含有させる。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。また、インクには、さらに必要に応じて、防黴剤、防腐剤(例えば、プロキセル XL−2)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤、pH調整剤(例えば、トリエタノールアミン等の3級アルカノールアミン)、または溶解助剤等のように、インクジェット捺染用のインクにおいて通常用いることができる各種添加剤の一種または二種以上を含有させることができる。
【0073】
A−2−2.浸透液の組成:
本実施例のインクジェットプリンター100に用いられる浸透液は、浸透剤を含有する。浸透剤の含有量は適宜決定されてよいが、浸透液の全質量に対して10〜30質量%程度が好ましい。浸透剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル(日本乳化剤社製:ニューコール1006)、テトラエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル(日本乳化剤社製:ニューコール1004)などの多価アルコールのアルキルエーテル類、尿素、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどが挙げられる。また、多価アルコールのアルキルエーテル類としては、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテルを一種または二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、これらの浸透剤の少なくとも一部は、インクジェットプリンター100の吐出ヘッド41のノズル43からの吐出安定性を向上させる保湿剤としても機能する。
【0074】
また、浸透液には、界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤を含有させる場合の含有量は適宜決定されてよいが、浸透液の全質量に対して0.1〜3.0質量%程度が好ましい。界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩類;アルキル硫酸エステル塩類等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤;サーフィノール61、82、104、440、465、485(何れも商品名、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)、オルフィンE1010、オルフィンSTG、オルフィンY(何れも商品名、日信化学社製)等のアセチレングリコ−ル系界面活性剤;カチオン性界面活性剤;両イオン性界面活性剤、KF−353A、KF6017、X−22−6551、AW−3(何れも商品名、信越化学工業社製)等のオルガノポリシロキサン系界面活性剤等を挙げることができる。
【0075】
また、浸透液には、布帛の濡れ性を高めてインクの浸透性を向上させ、また、インクとのpHの調整を行うために、有機アミンを含有させてもよい。有機アミンとしては、三級アミンが好ましく使用でき、例えば、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。
【0076】
また、浸透液には、インクジェットプリンター100の吐出ヘッド41のノズル43からの吐出安定性を向上させる観点から、保湿剤を含有させることが好ましい。保湿剤を含有させる場合の含有量は適宜決定されてよいが、浸透液の全質量に対して1.0〜10質量%程度が好ましい。保湿剤としては、通常のインクジェット捺染用の保湿剤として使用されている化合物を用いることができ、例えば、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、またはペンタエリスリトール等のポリオール類、およびそのエーテルまたはエステル等の誘導体;ε−カプロラクタム等のラクタム類;チオ尿素、またはエチレン尿素等の尿素類;マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、またはマルトース等の糖類等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。
【0077】
また、浸透液には、上記した各成分に加えて、水を含有させる。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。また、浸透液には、必要に応じて、防黴剤、防腐剤(例えば、プロキセル XL−2)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤等のような、インクジェット捺染用の浸透液において通常用いることができる各種添加剤の一種または二種以上を含有させることができる。
【0078】
ここで、本実施例では、浸透液は、布帛に付着したインクの浸透を促進する作用を有し、印捺面とその反対側の非印捺面との間の画像の濃度差を低減するために使用される。このインクの浸透を促進する作用は、主として、浸透液に含まれる浸透剤や界面活性剤によって達成される。より具体的には、浸透液は、浸透剤や界面活性剤の作用により、布帛に付着したインクの色材を溶かして、布帛の厚み方向に移動させる機能を有する。すなわち、浸透液は、インク中の色材を溶かす機能を有する。
【0079】
他方、インクジェットプリンター100において、印捺に使用するインクを異なる種類のインクに交換する場合等には、吐出ヘッド41をはじめとする液体供給系50の洗浄が行われる。上述したように、本実施例のインクジェットプリンター100で使用される浸透液は、インク中の色材を溶かす機能を有するため、液体供給系50内に付着したインクの色材を溶かして洗浄するための洗浄液としても使用することができる。
【0080】
A−3.印捺処理:
図5は、本実施例のインクジェットプリンター100による印捺処理の流れを示すフローチャートである。印捺処理は、記録媒体PMとしての布帛の表面(印捺面)にインクジェット捺染により画像を記録する処理である。本実施例では、制御部80は、記録する画像を表す画像データを有しており、画像データに基づき印捺の際の各画素におけるインクドット形成態様を示す印刷データを生成し、印刷データに基づきインクジェットプリンター100の各部を制御して印捺処理を実行する。
【0081】
まず、制御部80は、搬送機構を制御して、記録媒体PMとしての布帛を記録開始位置まで搬送する初期搬送を行う(ステップS110)。次に、制御部80は、キャリッジ駆動系20および液体供給系50を制御して、キャリッジ22を主走査方向Dcに沿って移動させつつ、吐出ヘッド41のノズル列45から捺染用液体を吐出する主走査を行う(ステップS120)。
【0082】
本実施例の印捺処理では、記録媒体PMとしての布帛の印捺面に対して浸透液の吐出を行った後に、同じ印捺面に対してインクの吐出を行う。そのため、主走査の際には、吐出ヘッド41に設けられた2つの浸透液用のノズル列45の内(図3参照)、主走査開始時において記録媒体PMに近い側の1つのノズル列45を用いた浸透液の吐出と、6色のインク用のノズル列45を用いた各色インクの吐出と、が行われる。なお、浸透液の吐出は、布帛におけるインクの吐出が行われる領域に対して実行される。また、吐出される浸透液は、使用するインクの種類(例えば、酸性インクや反応インク)に対応する種類の浸透液である。インクの種類に対応する浸透液とは、当該種類のインクに好適に使用されるものとして予め設定された種類の浸透液である。
【0083】
また、本実施例の印捺処理では、キャリッジ22の主走査方向Dcに沿った一方方向の主走査と逆方向の主走査との双方で捺染用液体の吐出を行う双方向印刷が行われる。2つの浸透液用のノズル列45は、6色のインク用のノズル列45を挟むように、6色のインク用のノズル列45の両外側に1つずつ配置されているため、いずれの方向の主走査においても、浸透液の吐出を行った後にインクの吐出を行うことができる。
【0084】
主走査の後、制御部80は、印捺処理が完了したか否かを判断し(ステップS130)、まだ完了していない場合には、記録媒体PMを所定の移動量だけ搬送する副走査を行った後(ステップS140)、主走査を行う(ステップS120)。この後、制御部80は、印捺処理が完了するまで副走査と主走査とを繰り返し実行し、印捺が完了した場合には、記録媒体PMを排出して(ステップS150)、印捺処理を終了する。
【0085】
このように、本実施例のインクジェットプリンター100による印捺処理では、記録媒体PMとしての布帛の印捺面に対する浸透液の吐出と、同じ印捺面に対するインクの吐出とが行われる。そのため、布帛に付着した浸透液の作用により、布帛に付着したインクの色材が溶かされて厚み方向への浸透が促進され、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差を低減することができ、印捺面からインクジェット捺染をすることにより印捺面と非印捺面の双方から印刷が視認できる捺染を実現することができる。
【0086】
特に、本実施例のインクジェットプリンター100は、吐出ヘッド41において浸透液用のノズル列45が6色のインク用のノズル列45の主走査方向Dcに沿った隣接位置に配置されているため、浸透液の吐出が行われた直後の浸透効果の大きいときにインクの吐出を実行することができ、布帛に付着したインクの厚み方向への浸透がより促進され、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差をより低減することができる。また、本実施例のインクジェットプリンター100は、吐出ヘッド41において、6色のインク用のノズル列45を挟むように6色のインク用のノズル列45の両外側に1つずつ配置された2つの浸透液用のノズル列45を有するため、いずれの方向の主走査においても浸透液の吐出を行った直後に、布帛における浸透液の吐出が行われた領域に対してインクの吐出を行うことができ、印捺に要する時間の増加を抑制しつつ印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差をより低減することができる。
【0087】
なお、印捺処理に使用する記録媒体PMとしての布帛は、使用するインクの種類に応じて選択されることが好ましい。印捺処理に酸性インクを使用する場合には、例えば、動物性繊維、又はアミド系繊維からなる布帛又は少なくともこれらの繊維の一つを含む混紡からなる布帛が用いられる。好ましくは、アミド系繊維からなる布帛であり、好適に使用されるのは、羊毛、絹、又はナイロン等の繊維からなる布帛である。
【0088】
また、印捺処理に反応インクを使用する場合には、例えば、植物性繊維、好ましくは、セルロース系繊維からなる布帛が用いられる。好適に使用されるのは、木綿、麻、レーヨン(ビスコスレーヨン又はキュプラレーヨン)、又はポリノジックの繊維からなる布帛である。
【0089】
また、印捺処理に分散インクを使用する場合には、例えば、合成繊維からなる布帛又は合成繊維の混紡からなる布帛が用いられる。好ましくは、ポリエステル、アセテート又はこれらの混紡からなる布帛が用いられる。
【0090】
また、印捺処理に顔料インクを使用する場合には、使用される布帛に特に限定は無く、例えば、動物性繊維、アミド系繊維、植物性繊維、セルロース系繊維、合成繊維からなる布帛が用いられ、好ましくは、木綿、麻、絹、ポリエステル又はこれらの混紡からなる布帛が用いられる。
【0091】
また、上記印捺処理の前に、予め、記録媒体PMとしての布帛に対して前処理を行ってもよい。前処理により、染着性の向上と滲みの抑制を図ることができる。布帛の前処理は、公知の前処理剤を用いて実行できる。
【0092】
印捺処理に酸性インクを使用する場合には、前処理剤は、一般に、糊剤、ヒドロトロピー剤、及びpH調整剤を含み、更に場合によりシリカを含むことができる。糊剤としては、例えば、グアー、ローカストビーン等の天然ガム類、澱粉類、アルギン酸ソーダ、ふのり等の海草類、ペクチン酸等の植物皮類、メチル繊維素、エチル繊維素、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素誘導体、焙焼澱粉、アルファ澱粉、カルボキシメチル澱粉、カルボキシエチル澱粉、ヒドロキシエチル澱粉等の加工澱粉、シラツガム系、ローストビーンガム系等の加工天然ガム、アルギン誘導体、あるいは、ポリビニールアルコール、ポリアクリル酸エステル等の合成糊、エマルジョン等が用いられる。また、pH調整剤としては、酸アンモニウム塩、例えば、硫酸アンモニウム、酒石酸アンモニウムが望ましい。更に、ヒドロトロピー剤としては、尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、モノメチルチオ尿素、又はジメチルチオ尿素等のアルキル尿素を挙げることができる。前処理剤を布帛に付着させる方法としては、常法通り、コーティング又はパディング法が望ましい。例えば、パディング時のピックアップ率は、布帛の厚さ、繊維の太さ等で適宜決めることができ、50%以上が望ましく、更に好適には65%以上である。
【0093】
また、印捺処理に反応インクを使用する場合には、前処理剤は、一般に、糊剤、ヒドロトロピー剤、及びアルカリ剤を含み、更に場合によりシリカを含むことができる。糊剤としては、例えば、グアー、ローカストビーン等の天然ガム類、澱粉類、アルギン酸ソーダ、ふのり等の海草類、ペクチン酸等の植物皮類、メチル繊維素、エチル繊維素、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素誘導体、焙焼澱粉、アルファ澱粉、カルボキシメチル澱粉、カルボキシエチル澱粉、ヒドロキシエチル澱粉等の加工澱粉、シラツガム系、ローストビーンガム系等の加工天然ガム、アルギン誘導体、あるいは、ポリビニールアルコール、ポリアクリル酸エステル等の合成糊、エマルジョン等が用いられる。また、アルカリ剤としては、好適には、ナトリウム灰、水酸化ナトリウム、第三リン酸ナトリウム、又は酢酸ナトリウム等を挙げることができ、特に好適には重炭酸ナトリウムを挙げることができる。更に、ヒドロトロピー剤としては、尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、モノメチルチオ尿素、又はジメチルチオ尿素等のアルキル尿素を挙げることができる。
【0094】
また、印捺処理に分散インクを使用する場合には、前処理剤は、一般に、糊剤、酸性化剤、及びヒドロトロピー剤を含み、更に場合により均染剤、シリカを含むことができる。糊剤としては、例えば、グアー、ローカストビーン等の天然ガム類、澱粉類、アルギン酸ソーダ、ふのり等の海草類、ペクチン酸等の植物皮類、メチル繊維素、エチル繊維素、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素誘導体、焙焼澱粉、アルファ澱粉、カルボキシメチル澱粉、カルボキシエチル澱粉、ヒドロキシエチル澱粉等の加工澱粉、シラツガム系、ローストビーンガム系等の加工天然ガム、アルギン誘導体、あるいは、ポリビニールアルコール、ポリアクリル酸エステル等の合成糊、エマルジョン等が用いられる。更に、ヒドロトロピー剤としては、尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、モノメチルチオ尿素、又はジメチルチオ尿素等のアルキル尿素を挙げることができる。更に、酸性化剤としては、例えば、クエン酸、酒石酸、又は乳酸等を用いることができる。
【0095】
また、上記印捺処理の後に、布帛を加熱し必要により洗浄する染料固着処理を行うことが好ましい。染料固着処理により、定着性の向上を図ることができると共に、余分な染料や前処理剤を落とすことができる。
【0096】
印捺処理に酸性インクを使用する場合には、染料固着処理は、例えば、公知のスチーマー(マチス社製;スチーマーDHe型)を用いて定着操作を行うことができる。具体的には、例えば、温度102℃の高加湿条件下で30分間スチーミング処理を行う。その後、洗浄操作を行う。具体的には、布帛を水道水で揉み洗いした後に、50℃程度の温水中に、ノニオン性ソーピング剤を添加し、時々撹拌しながら15分間程度浸ける。浴比(印捺布質量/浴質量)は1/50であることが好ましい。更に洗浄液中に水道水を入れながら手揉み洗いをする。十分に水洗した後に布を乾燥させ、アイロンを掛けて印捺布を得ることができる。
【0097】
印捺処理に反応インクを使用する場合には、染料固着処理は、例えば、公知のスチーマー(マチス社製;スチーマーDHe型)を用いて定着操作を行うことができる。具体的には、例えば、温度102℃の高加湿条件下で10分間スチーミング処理を行う。その後、洗浄操作を行う。具体的には、布帛を水道水で揉み洗いした後に、95℃程度の温水中に、ノニオン性ソーピング剤を添加し、時々撹拌しながら15分間程度浸ける。浴比(印捺布質量/浴質量)は1/50であることが好ましい。更に洗浄液中に水道水を入れながら手揉み洗いをする。十分に水洗した後に布を乾燥させ、アイロンを掛けて印捺布を得ることができる。
【0098】
印捺処理に分散インクを使用する場合には、染料固着処理は、例えば、公知のスチーマー(マチス社製;スチーマーDHe型)を用いて定着操作を行うことができる。具体的には、例えば、温度170℃の高加湿条件下で8分間スチーミング処理を行う。その後、洗浄操作を行う。具体的には、布帛を水道水で揉み洗いした後に、85℃程度の温水中に、ノニオン性ソーピング剤、水酸化ナトリウム、亜ニチオン酸ナトリウムを添加し、時々撹拌しながら10分間程度浸ける。浴比(印捺布質量/浴質量)は1/50であることが好ましい。更に洗浄液中に水道水を入れながら手揉み洗いをする。十分に水洗した後に布を乾燥させ、アイロンを掛けて印捺布を得ることができる。
【0099】
印捺処理に顔料インクを使用する場合には、染料固着処理は、例えば、公知のスチーマー(マチス社製;スチーマーDHe型)を用いて定着操作を行うことができる。具体的には、例えば、温度160℃の条件下で5分間加熱処理を行う。
【0100】
A−4.インク交換処理:
図6ないし図11は、本実施例のインクジェットプリンター100におけるインク交換処理の概要を示す説明図である。インク交換処理は、印捺に使用するインクを異なる種類のインクに交換するための処理であり、制御部80の制御の下で実行される。インク交換処理は、例えば、記録媒体PMの変更時や記録する画像の変更時等に実行される。以下では、酸性インク(図4参照)を使用して印捺処理を実行した後、インクの種類を反応インク(図11)に変更して印捺処理を実行する場合に行われるインク交換処理について説明する。インク交換処理の後は、交換後のインクを用いて上述した印捺処理が実行される。
【0101】
図6(a)には、インク交換処理前における、1つのインク色のサブ液体供給系59の状態を示している。インク交換処理前においては、メインタンク31に酸性インクを収容したインクパック35が設置されており、第1バルブ61および第2バルブ62は共に開状態となっている。以下では、1つのインク色のサブ液体供給系59に注目してインク交換処理を説明するが、他のインク色についても同様に実行される。
【0102】
まず始めに、図6(a)に示すように、制御部80は、キャリッジ22(図1)をキャッピングユニット70の位置に移動し、キャッピングユニット70のキャップ71(図2)をキャリッジ22に搭載された吐出ヘッド41のノズル面42に当接させ、キャップ71とノズル面42との間に密閉空間を形成する。
【0103】
次に、制御部80は、インク吐出用のサブ液体供給系59について、サブ液体供給系59内の酸性インクを空気に置換する処理を行う。まず、図6(b)に示すように、制御部80は、インクパック35をメインタンク31から取り外すようにユーザーに促す。インクパック35の取り外しの際には、第1バルブ61は開状態のままである。ただし、第1供給管54からインクが漏出するおそれがある場合等には、インクパック35の取り外しの際に第1バルブ61を閉状態とし、取り外し後に第1バルブ61を開状態に戻すとしてもよい。
【0104】
インクパック35が取り外された後、制御部80は、吸引ポンプ74を所定時間動作させる。吸引ポンプ74の吸引動作により、キャップ71と吐出ヘッド41のノズル面42との間の密閉空間や、当該密閉空間に連通しているノズル43(図2)が吸引される。この吸引により、サブ液体供給系59内の酸性インクが排出される。排出された酸性インクは、排出管73(図2)を介して廃液タンク72に貯留される。なお、一般に、この吸引では、サブ液体供給系59の内の特にサブタンク53や第1供給管54内の酸性インクを完全に排出することは困難である。
【0105】
吸引ポンプ74の動作完了後、図6(c)に示すように、制御部80は、第1バルブ61を閉状態にし、再び吸引ポンプ74を動作させる。吸引ポンプ74の吸引動作により、サブ液体供給系59における第1バルブ61よりも吐出ヘッド41側の部分に負圧が発生する。
【0106】
次に、図6(d)に示すように、制御部80は、吸引ポンプ74の動作を停止すると共に、第1バルブ61を開状態にする。第1バルブ61を開状態にすると、大気圧とサブ液体供給系59内の負圧との圧力差により、メインタンク31側から第1供給管54内に空気が急激に流入し、流入した空気によって、第1供給管54やサブタンク53、第2供給管56に残存していた酸性インクがキャップ71を介して排出管73に排出される。なお、第1バルブ61の開放は、吸引ポンプ74の動作を停止する前に行ってもよい。
【0107】
次に、図6(e)に示すように、制御部80は、第2バルブ62を閉状態にし、再び吸引ポンプ74を動作させる。吸引ポンプ74の吸引動作により、サブ液体供給系59における第2バルブ62よりも吐出ヘッド41側の部分に負圧が発生する。
【0108】
次に、図6(f)に示すように、制御部80は、吸引ポンプ74の動作を停止すると共に、第2バルブ62を開状態にする。第2バルブ62を開状態にすると、大気圧とサブ液体供給系59内の負圧との圧力差により、メインタンク31側から第1供給管54内に空気が急激に流入し、流入した空気によって、第1供給管54やサブタンク53、第2供給管56に残存していた酸性インクがキャップ71を介して排出管73に排出される。なお、第2バルブ62の開放は、吸引ポンプ74の動作を停止する前に行ってもよい。
【0109】
以上の処理により、インク吐出用のサブ液体供給系59内の酸性インクが空気に置換される。
【0110】
次に、制御部80は、インク吐出用のサブ液体供給系59について、サブ液体供給系59内の空気を浸透液に置換する処理を行う。まず、図7(a)に示すように、制御部80は、浸透液を収容する浸透液パック36をメインタンク31に設置するようにユーザーに促す。ここで、設置される浸透液パック36は、浸透液用のサブ液体供給系59(図4参照)に設置されている浸透液パック36と同じものであり、本実施例では酸性インクに対応する浸透液Aを収容した浸透液パック36である。上述したように、本実施例で使用される浸透液は、布帛に付着したインクの色材を溶かして浸透を促進する作用と共にインクの洗浄作用を有する捺染用液体である。
【0111】
浸透液パック36が設置された後、制御部80は、吸引ポンプ74を所定時間動作させる。吸引ポンプ74の吸引動作により、キャップ71と吐出ヘッド41のノズル面42との間の密閉空間や、当該密閉空間に連通しているノズル43(図2)が吸引される。このとき、供給ポンプ55を動作させるとしてもよい。この吸引により、サブ液体供給系59内の空気が吸い出され、浸透液パック36内に収容された浸透液がサブ液体供給系59内に流入する。浸透液パック36に収容された浸透液はインクの色材を溶かして洗浄する作用を有するため、流入した浸透液によりサブ液体供給系59内は洗浄される。なお、一般に、この吸引では、サブ液体供給系59の内の特にサブタンク53や第2供給管56内の空気を完全に排出することは困難であり、浸透液中に気泡が残存する。
【0112】
吸引ポンプ74の動作完了後、図7(b)に示すように、制御部80は、第1バルブ61を閉状態にし、再び吸引ポンプ74を動作させる。吸引ポンプ74の吸引動作により、サブ液体供給系59における第1バルブ61よりも吐出ヘッド41側の部分に負圧が発生する。
【0113】
次に、図7(c)に示すように、制御部80は、吸引ポンプ74の動作を停止すると共に、第1バルブ61を開状態にする。第1バルブ61を開状態にすると、大気圧とサブ液体供給系59内の負圧との圧力差により、メインタンク31に設置された浸透液パック36から第1供給管54内に浸透液が急激に流入し、流入した浸透液によって、第1供給管54やサブタンク53、第2供給管56に残存していた空気がさらに排出される。また、流入した浸透液によって、サブ液体供給系59内の洗浄効果が高められる。なお、第1バルブ61の開放は、吸引ポンプ74の動作を停止する前に行ってもよい。
【0114】
次に、図7(d)に示すように、制御部80は、第2バルブ62を閉状態にし、再び吸引ポンプ74を動作させる。吸引ポンプ74の吸引動作により、サブ液体供給系59における第2バルブ62よりも吐出ヘッド41側の部分に負圧が発生する。
【0115】
次に、図7(e)に示すように、制御部80は、吸引ポンプ74の動作を停止すると共に、第2バルブ62を開状態にする。第2バルブ62を開状態にすると、大気圧とサブ液体供給系59内の負圧との圧力差により、メインタンク31に設置された浸透液パック36から第1供給管54内に浸透液が急激に流入し、流入した浸透液によって、第1供給管54やサブタンク53、第2供給管56に残存していた空気がさらに排出される。また、流入した浸透液によって、サブ液体供給系59内の洗浄効果がさらに高められる。
【0116】
以上の処理により、インク吐出用のサブ液体供給系59内の空気が浸透液に置換される。このとき、液体供給系50は、図8に示すように、すべてのメインタンク31に、酸性インクに対応する浸透液(浸透液A)を収容する浸透液パック36が設置され、すべてのサブ液体供給系59に浸透液が充填された状態となる。
【0117】
次に、制御部80は、インク吐出用のサブ液体供給系59および浸透液吐出用のサブ液体供給系59の両方について、サブ液体供給系59内の浸透液を空気に置換する処理を行う。まず、図9(a)に示すように、制御部80は、浸透液パック36をメインタンク31から取り外すようにユーザーに促す。浸透液パック36の取り外しの際には、第1バルブ61は開状態のままである。ただし、第1供給管54から浸透液が漏出するおそれがある場合等には、浸透液パック36の取り外しの際に第1バルブ61を閉状態とし、取り外し後に第1バルブ61を開状態に戻すとしてもよい。
【0118】
浸透液パック36が取り外された後、制御部80は、吸引ポンプ74を所定時間動作させる。吸引ポンプ74の吸引動作により、キャップ71と吐出ヘッド41のノズル面42との間の密閉空間や、当該密閉空間に連通しているノズル43(図2)が吸引される。この吸引により、サブ液体供給系59内の浸透液が排出される。排出された浸透液は、排出管73(図2)を介して廃液タンク72に貯留される。なお、一般に、この吸引では、サブ液体供給系59の内の特にサブタンク53や第1供給管54内の浸透液を完全に排出することは困難である。
【0119】
吸引ポンプ74の動作完了後、図9(b)に示すように、制御部80は、第1バルブ61を閉状態にし、再び吸引ポンプ74を動作させる。吸引ポンプ74の吸引動作により、サブ液体供給系59における第1バルブ61よりも吐出ヘッド41側の部分に負圧が発生する。
【0120】
次に、図9(c)に示すように、制御部80は、吸引ポンプ74の動作を停止すると共に、第1バルブ61を開状態にする。第1バルブ61を開状態にすると、大気圧とサブ液体供給系59内の負圧との圧力差により、メインタンク31側から第1供給管54内に空気が急激に流入し、流入した空気によって、第1供給管54やサブタンク53、第2供給管56に残存していた浸透液がキャップ71を介して排出管73に排出される。なお、第1バルブ61の開放は、吸引ポンプ74の動作を停止する前に行ってもよい。
【0121】
次に、図9(d)に示すように、制御部80は、第2バルブ62を閉状態にし、再び吸引ポンプ74を動作させる。吸引ポンプ74の吸引動作により、サブ液体供給系59における第2バルブ62よりも吐出ヘッド41側の部分に負圧が発生する。
【0122】
次に、図9(e)に示すように、制御部80は、吸引ポンプ74の動作を停止すると共に、第2バルブ62を開状態にする。第2バルブ62を開状態にすると、大気圧とサブ液体供給系59内の負圧との圧力差により、メインタンク31側から第1供給管54内に空気が急激に流入し、流入した空気によって、第1供給管54やサブタンク53、第2供給管56に残存していた浸透液がキャップ71を介して排出管73に排出される。なお、第2バルブ62の開放は、吸引ポンプ74の動作を停止する前に行ってもよい。
【0123】
以上の処理により、インク吐出用のサブ液体供給系59および浸透液吐出用のサブ液体供給系59内の浸透液が空気に置換される。
【0124】
次に、制御部80は、インク吐出用のサブ液体供給系59について、サブ液体供給系59内の空気を反応インクに置換する処理を行うと共に、浸透液吐出用のサブ液体供給系59について、サブ液体供給系59内の空気を浸透液に置換する処理を行う。まず、図10(a)に示すように、制御部80は、インク吐出用のサブ液体供給系59について、反応インクを収容するインクパック35をメインタンク31に設置するようにユーザーに促す。また、図示しないが、制御部80は、浸透液吐出用のサブ液体供給系59について、反応インクに対応する浸透液(浸透液B)を収容する浸透液パック36をメインタンク31に設置するようにユーザーに促す。以下では、インク吐出用のサブ液体供給系59内の空気を反応インクに置換する処理を説明するが、浸透液吐出用のサブ液体供給系59内の空気を浸透液に置換する処理も同様に実行される。
【0125】
インクパック35が設置された後、制御部80は、吸引ポンプ74を所定時間動作させる。吸引ポンプ74の吸引動作により、キャップ71と吐出ヘッド41のノズル面42との間の密閉空間や、当該密閉空間に連通しているノズル43(図2)が吸引される。このとき、供給ポンプ55を動作させるとしてもよい。この吸引により、サブ液体供給系59内の空気が吸い出され、インクパック35内に収容された反応インクがサブ液体供給系59内に流入する。なお、一般に、この吸引では、サブ液体供給系59の内の特にサブタンク53や第2供給管56内の空気を完全に排出することは困難であり、反応インク中に気泡が残存する。
【0126】
吸引ポンプ74の動作完了後、図10(b)に示すように、制御部80は、第2バルブ62を閉状態にし、再び吸引ポンプ74を動作させる。吸引ポンプ74の吸引動作により、サブ液体供給系59における第2バルブ62よりも吐出ヘッド41側の部分に負圧が発生する。
【0127】
次に、図10(c)に示すように、制御部80は、吸引ポンプ74の動作を停止すると共に、第2バルブ62を開状態にする。第2バルブ62を開状態にすると、大気圧とサブ液体供給系59内の負圧との圧力差により、メインタンク31に設置されたインクパック35から第1供給管54内に反応インクが急激に流入し、流入した反応インクによって、第1供給管54やサブタンク53、第2供給管56に残存していた空気が排出される。
【0128】
以上の処理により、インク吐出用のサブ液体供給系59内の空気が反応インクに置換される。また、浸透液吐出用のサブ液体供給系59内の空気が浸透液に置換される。このとき、液体供給系50は、図11に示すように、インク用の各メインタンク31に各色の反応インクを収容するインクパック35が設置され、浸透液用の各メインタンク31に反応インクに対応する浸透液(浸透液B)を収容する浸透液パック36が設置された状態となる。
【0129】
以上説明したように、本実施例のインクジェットプリンター100におけるインク交換処理では、サブ液体供給系59内の空気を反応インクまたは浸透液に置換する際に、サブ液体供給系59内に反応インクや浸透液を急激に流入させることができるため、サブ液体供給系59内の空気を迅速かつ効果的に排出することができ、迅速かつ効果的にインクの交換を実現することができる。また、サブ液体供給系59内の洗浄のために空気を洗浄効果のある浸透液に置換する際に、サブ液体供給系59内に浸透液を急激に流入させることができるため、サブ液体供給系59内の洗浄効果を高めることができ、洗浄効率を向上させることができる。
【0130】
本実施例のインクジェットプリンター100では、インクジェット捺染において記録媒体PMに吐出する浸透液をサブ液体供給系59内の洗浄用にも使用することができるため、浸透液と洗浄液とを個別に準備して使用する場合と比較して、装置の複雑化・大型化を抑制することができる。また、必要な捺染用液体の種類を減らすことができる。
【0131】
A−5.評価試験:
本実施例のインクジェットプリンター100において、各種のインクと各種の浸透液とを用いて、インクジェット捺染試験と液体供給系50の洗浄試験を行い、評価を行った。図12ないし図16は、評価試験に使用した捺染用液体(インクおよび浸透液)の組成の一例を示す説明図である。
【0132】
図12には、各色の酸性インクの組成(単位は質量パーセント)を示している。図12に示すように、各色の酸性インクは、各色の酸性染料と、保湿剤および/または浸透剤として機能するグリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、2−ピロドリンと、界面活性剤として機能するオルフィン E1010と、pH調整剤として機能するトリエタノールアミンと、防腐剤として機能するプロキセル XL−2と、超純水とから実質的に構成されている。
【0133】
図13には、各色の反応インクの組成(単位は質量パーセント)を示している。図13に示すように、各色の反応インクは、各色の反応染料と、保湿剤および/または浸透剤として機能するプロピレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、尿素、2−ピロリドンと、界面活性剤として機能するオルフィン E1010と、pH調整剤として機能するトリエタノールアミンと、防腐剤として機能するプロキセル XL−2と、超純水とから実質的に構成されている。
【0134】
図14には、各色の分散インクの組成(単位は質量パーセント)を示している。図14に示すように、各色の分散インクは、各色の分散染料と、保湿剤および/または浸透剤として機能するグリセリン、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテルと、界面活性剤として機能するオルフィン E1010と、pH調整剤として機能するトリエタノールアミンと、防腐剤として機能するプロキセル XL−2と、超純水とから実質的に構成されている。
【0135】
図15には、各色の顔料インクの組成(単位は質量パーセント)を示している。図15に示すように、各色の顔料インクは、各色の顔料と、保湿剤および/または浸透剤として機能するグリセリン、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテルと、界面活性剤として機能するオルフィン E1010と、pH調整剤として機能するトリエタノールアミンと、防腐剤として機能するプロキセル XL−2と、超純水とから実質的に構成されている。
【0136】
図16には、8種類の浸透液P1−P8の組成(単位は質量パーセント)を示している。浸透液P1およびP2は、浸透剤(または浸透剤および保湿剤)として機能するグリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、2−ピロドリンと、界面活性剤として機能するオルフィン E1010と、超純水とから実質的に構成されている。浸透液P1およびP2は、含有成分は互いに実質的に同じであるが、2−ピロドリンおよび超純水の含有割合が異なっている。浸透液P1およびP2は、図12に示す酸性インクの組成から酸性染料を除いた成分を主成分としている。また、浸透液P1およびP2は、図12に示す各色の酸性インクに共通して使用される溶媒を主成分としているともいえる。
【0137】
浸透液P3およびP4は、浸透剤(または浸透剤および保湿剤)として機能するプロピレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、尿素、2−ピロリドンと、界面活性剤として機能するオルフィン E1010と、超純水とから実質的に構成されている。浸透液P3およびP4は、含有成分は互いに実質的に同じであるが、2−ピロドリンおよび超純水の含有割合が異なっている。浸透液P3およびP4は、図13に示す反応インクの組成から反応染料を除いた成分を主成分としている。また、浸透液P3およびP4は、図13に示す各色の反応インクに共通して使用される溶媒を主成分としているともいえる。
【0138】
浸透液P5およびP6は、浸透剤(または浸透剤および保湿剤)として機能するグリセリン、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテルと、界面活性剤として機能するオルフィン E1010と、超純水とから実質的に構成されている。浸透液P5およびP6は、含有成分は互いに実質的に同じであるが、トリエチレングリコールおよび超純水の含有割合が異なっている。浸透液P5およびP6は、図14に示す分散インクの組成から分散染料を除いた成分を主成分としている。また、浸透液P5およびP6は、図14に示す各色の分散インクに共通して使用される溶媒を主成分としているともいえる。
【0139】
浸透液P7およびP8は、浸透剤(または浸透剤および保湿剤)として機能するグリセリン、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテルと、界面活性剤として機能するオルフィン E1010と、超純水とから実質的に構成されている。浸透液P7およびP8は、含有成分は互いに実質的に同じであるが、トリエチレングリコールおよび超純水の含有割合が異なっている。浸透液P7およびP8は、図15に示す顔料インクの組成から顔料を除いた成分を主成分としている。また、浸透液P7およびP8は、図15に示す各色の顔料インクに共通して使用される溶媒を主成分としているともいえる。
【0140】
図17は、評価試験結果を示す説明図である。評価試験では、各種のインクと各種の浸透液との各組み合わせを用いてインクジェット捺染を行い、表裏濃度差と滲み性と洗浄性との3項目について評価を行った。なお、試験条件は、以下の通りである。
【0141】
酸性インクについては、前処理として、2.0質量%のグアガム(三昌社:メイプロガムNP)、10.0質量%の尿素、4.0質量%の硫酸アンモニウム、及び84.0質量%の水からなる前処理剤をパッダー(マチス社:水平垂直パッダーHVF350)により、絞り率80%の条件下でパディング処理を施した、生地目付が53g/m2の絹を使用した。この絹に、上記したブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの酸性インク、及び浸透液P1をインクジェットプリンター(PX−G930、セイコーエプソン社製)を用いて印刷した。このプリンターは、各色180ノズルで8色印刷が、解像度5760dpi(ヘッドの移動方向)×1440dpi(各色の180ノズルの並び方向)まで可能であるが、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの各色インクと浸透液P1とでそれぞれ180ノズルを使用し(8色中5色のノズルを使用し、残りの3色のノズルは不使用)、720dpi(ヘッドの移動方向)×1440dpi(各色の180ノズルの並び方向)で印刷した。シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの各色インクは、文字および白抜き文字(各色インクで文字以外の領域を印刷することで白抜き文字として形成したもの)を720dpi(ヘッドの移動方向)×1440dpi(各色の180ノズルの並び方向)で印刷し、同時に浸透液P1については同じく1440×720dpiの解像度で文字および白抜き文字と重なるように、全面ベタ印刷(布帛の単位面積あたりの塗布量が20mg/inch2)を行った。浸透液P2−P8についても同様に印刷を行った(浸透液P1の替わりに浸透液P2〜P8のいずれかを使用した)。
また、反応インクについては、布帛としては、2.0質量%のグアガム、10.0質量%の尿素、5.0質量%の重炭酸ナトリウム、1.0質量%のシリカ、及び82.0質量%の水からなる前処理剤によりパディング処理を施した、生地目付が122g/m2の綿を用い、上記酸性インクの場合と同様に浸透液P1−P8を用いて印刷を行った。
また、分散インクについては、布帛としては、2.0質量%のグアガム、10.0質量%の尿素、2.0質量%のクエン酸、及び86.0質量%の水からなる前処理剤によりパディング処理を施した、生地目付が120g/m2のポリエステルを用い、上記酸性インクの場合と同様に浸透液P1−P8を用いて印刷を行った。
また、顔料インクについては、布帛としては、前処理を施していない生地目付が122g/m2の綿を用い、上記酸性インクの場合と同様に浸透液P1−P8を用いて印刷を行った。
【0142】
酸性インクと各浸透液で印捺した布帛については、スチーマー(スチーマーDHe、マチス社製)を用いて102℃で30分間のスチーミングで定着させた後、ラッコールSTA(明成化学社製)0.2%水溶液を用いて、55℃において10分間洗浄し、乾燥させたものを試験片とした。反応インクと各浸透液で印捺した布帛については、スチーマー(スチーマーDHe、マチス社製)を用いて102℃で10分間のスチーミングで定着させた後、ラッコールSTA(明成化学社製)0.2%水溶液を用いて、95℃において10分間洗浄し、乾燥させたものを試験片とした。分散インクと各浸透液で印捺した布帛については、スチーマー(スチーマーDHe、マチス社製)を用いて170℃で8分間のスチーミングで定着させた後、ラッコールSTA(明成化学社製)0.2%、水酸化ナトリウム0.2%、亜ニチオン酸ナトリウム0.2%水溶液を用いて、85℃において10分間洗浄し、乾燥させたものを試験片とした。顔料インクと各浸透液で印捺した布帛については、スチーマー(スチーマーDHe、マチス社製)を用いて160℃で5分間の加熱処理で定着したものを試験片とした。
【0143】
表裏濃度差の評価は、インクジェット捺染によって画像が記録された布帛(試験片)の表面(印捺面)と裏面(非印捺面)との濃度差を目視で判定した。評価基準は以下の通りである。
○:表裏面の濃度差が見られない
△:表裏面の濃度差が若干見られる
×:表裏面の濃度差が大きい
【0144】
滲み性の評価は、インクジェット捺染によって布帛(試験片)について、印捺領域のエッジ部分を目視にて観察し、滲みの程度を目視で判定した。評価基準は以下の通りである。
◎:滲みが見られない
○:微小な滲みが見られる
△:やや滲みが見られる
×:滲みが激しい
【0145】
洗浄性の評価は、各インクセットを充填していた吐出ヘッドのノズル、及びインク供給流路について、各浸透液を用いて洗浄を行った。また、洗浄が有効に行われた吐出ヘッドについては、その後のインク交換処理直後の印刷においても、ノズル目詰まりがなく、またクリーニングによるノズル目詰まりの回復性も良好であることから、全ノズルの吐出が可能となるまでに要するクリーニングの動作回数より、下記の評価基準に基づき判定をした。
◎:ノズル目詰まりが全くない。
○:ノズル目詰まりがクリーニング1回で回復できる。
△:ノズル目詰まりがクリーニング2〜5回で回復できる。
×:ノズル目詰まりの回復にクリーニング6回以上を必要とする。
【0146】
図17に示すように、酸性インクについては、浸透液P1およびP2を使用したときに、すべての評価項目で評価が高い。上述したように、浸透液P1およびP2は、酸性インクの組成から酸性染料を除いた成分を主成分としており、また、各色の酸性インクに共通して使用される溶媒を主成分としている。このように、酸性インクの組成から酸性染料を除いた成分を主成分とした浸透液、または、各色の酸性インクに共通して使用される溶媒を主成分とした浸透液を用いれば、インクジェット捺染における印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差を良好に低減しつつ画像の滲みを抑制することができると共に、浸透液によって吐出ヘッド41を含む液体供給系50を良好に洗浄することができ、装置の複雑化・大型化を抑制することができる。さらに、このような浸透液を使用すれば、少ない浸透液量で十分な浸透性を得られると共に、少ない浸透液量で十分な洗浄性を得られるため、メインタンク31や廃液タンク72を小型化して装置のさらなる小型化を図ることができる。なお、酸性インクについては、浸透液P3およびP4を使用したときにも、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差の低減効果は多少落ちるものの、画像の滲みを抑制できると共に、浸透液によって吐出ヘッド41を含む液体供給系50を良好に洗浄することができる。
【0147】
また、反応インクについては、浸透液P3およびP4を使用したときに、すべての評価項目で評価が高い。上述したように、浸透液P3およびP4は、反応インクの組成から反応染料を除いた成分を主成分としており、また、各色の反応インクに共通して使用される溶媒を主成分としている。このように、反応インクの組成から反応染料を除いた成分を主成分とした浸透液、または、各色の反応インクに共通して使用される溶媒を主成分とした浸透液を用いれば、インクジェット捺染における印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差を良好に低減しつつ画像の滲みを抑制することができると共に、浸透液によって吐出ヘッド41を含む液体供給系50を良好に洗浄することができ、装置の複雑化・大型化を抑制することができる。さらに、このような浸透液を使用すれば、少ない浸透液量で十分な浸透性を得られると共に、少ない浸透液量で十分な洗浄性を得られるため、メインタンク31や廃液タンク72を小型化して装置のさらなる小型化を図ることができる。なお、反応インクについては、浸透液P1およびP2を使用したときにも、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差の低減効果は多少落ちるものの、画像の滲みを抑制できると共に、浸透液によって吐出ヘッド41を含む液体供給系50を良好に洗浄することができる。
【0148】
また、分散インクについては、浸透液P5およびP6を使用したときに、すべての評価項目で評価が高い。上述したように、浸透液P5およびP6は、分散インクの組成から分散染料を除いた成分を主成分としており、また、各色の分散インクに共通して使用される溶媒を主成分としている。このように、分散インクの組成から分散染料を除いた成分を主成分とした浸透液、または、各色の分散インクに共通して使用される溶媒を主成分とした浸透液を用いれば、インクジェット捺染における印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差を良好に低減しつつ画像の滲みを抑制することができると共に、浸透液によって吐出ヘッド41を含む液体供給系50を良好に洗浄することができ、装置の複雑化・大型化を抑制することができる。さらに、このような浸透液を使用すれば、少ない浸透液量で十分な浸透性を得られると共に、少ない浸透液量で十分な洗浄性を得られるため、メインタンク31や廃液タンク72を小型化して装置のさらなる小型化を図ることができる。なお、分散インクについては、浸透液P7およびP8を使用したときにも、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差の低減効果は多少落ちるものの、画像の滲みを抑制できると共に、浸透液によって吐出ヘッド41を含む液体供給系50を良好に洗浄することができる。
【0149】
また、顔料インクについては、浸透液P7およびP8を使用したときに、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差の低減効果はやや低いものの、すべての評価項目で比較的評価が高い。上述したように、浸透液P7およびP8は、顔料インクの組成から顔料を除いた成分を主成分としており、また、各色の顔料インクに共通して使用される溶媒を主成分としているともいえる。このように、顔料インクの組成から顔料を除いた成分を主成分とした浸透液、または、各色の顔料インクに共通して使用される溶媒を主成分とした浸透液を用いれば、インクジェット捺染における印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差を良好に低減しつつ画像の滲みを抑制することができると共に、浸透液によって吐出ヘッド41を含む液体供給系50を良好に洗浄することができ、装置の複雑化・大型化を抑制することができる。さらに、このような浸透液を使用すれば、少ない浸透液量で十分な浸透性を得られると共に、少ない浸透液量で十分な洗浄性を得られるため、メインタンク31や廃液タンク72を小型化して装置のさらなる小型化を図ることができる。
【0150】
B.第2実施例:
図18は、第2実施例における液体供給系50の構成を概略的に示す説明図である。第2実施例の液体供給系50は、浸透液用のサブ液体供給系59の第1供給管54における第1バルブ61とサブタンク53との間の位置と、各色インク用のサブ液体供給系59の第1供給管54における第1バルブ61とサブタンク53との間の位置と、を接続するバイパス管67を有している。図18の例では、黒(Bk)とシアン(C)とマゼンタ(M)のインク色用の第1供給管54のそれぞれは、バイパス管67によって一方の浸透液用の第1供給管54と接続され、イエロー(Y)とライトシアン(LC)とライトマゼンタ(LM)のインク色用の第1供給管54のそれぞれは、バイパス管67によって他方の浸透液用の第1供給管54と接続されている。各バイパス管67には、バイパス管67を開閉する第3バルブ69が設けられている。各第3バルブ69は、通常動作時(印捺処理時)には、閉状態となっている。また、浸透液パック36の容量は、インクパック35よりも大容量である。液体供給系50のその他の構成は、図4に示す図1実施例と同様である。なお、バイパス管67により構成される流路は、本発明における第3の流路に相当する。
【0151】
図18に示す状態では、インク用の各サブ液体供給系59のメインタンク31には、各色の酸性インクを収容したインクパック35が設置されており、浸透液用の各サブ液体供給系59のメインタンク31には、酸性インクに対応する浸透液Aを収容した浸透液パック36が設置されている。また、第1バルブ61および第2バルブ62は、すべて開状態となっている。そのため、第2実施例においても、第1実施例と同様に、記録媒体PMとしての布帛の印捺面に対する浸透液の吐出と同じ印捺面に対するインクの吐出とを行う印捺処理を実行することができる。
【0152】
図19および図20は、第2実施例のインクジェットプリンター100におけるインク交換処理の概要を示す説明図である。第2実施例におけるインク交換処理は、第1実施例のインク交換処理と同様に実行される。すなわち、酸性インク(図18)から反応インク(図20)へのインク交換処理では、まず、サブ液体供給系59内の酸性インクが空気に置換される(図11参照)。
【0153】
次に、サブ液体供給系59内の空気を浸透液に置換する際に、第1実施例では、インク吐出用のサブ液体供給系59のメインタンク31に設置された浸透液パック36が用いられるが、第2実施例では、浸透液吐出用のサブ液体供給系59のメインタンク31に設置された浸透液パック36が用いられる。すなわち、図19に示すように、インク吐出用のサブ液体供給系59の第1バルブ61が閉状態にされると共に、各バイパス管67に設けられた第3バルブ69が開状態にされ、吸引ポンプ74による吸引動作が行われる。これにより、浸透液吐出用のサブ液体供給系59のメインタンク31に設置された浸透液パック36に収容された浸透液が、インク吐出用のサブ液体供給系59内に供給され、サブ液体供給系59内の空気が浸透液に置換される。なお、この際には、第1実施例と同様に、第3バルブ69や第2バルブ62を閉状態として吸引動作を行うことにより、サブ液体供給系59内に負圧を発生させ、サブ液体供給系59内に浸透液を急激に流入させるとしてもよい。
【0154】
インク吐出用のサブ液体供給系59内の空気が浸透液に置換された後は、各バイパス管67に設けられた第3バルブ69が閉状態にされる。その後は、第1実施例と同様に、各サブ液体供給系59内の浸透液が空気に置換され(図9参照)、最後に、インク吐出用のサブ液体供給系59内の空気が反応インクに置換されると共に、浸透液吐出用のサブ液体供給系59内の空気が浸透液に置換される(図10参照)。このとき、液体供給系50は、図20に示すように、インク用の各メインタンク31に各色の反応インクを収容するインクパック35が設置され、浸透液用の各メインタンク31に反応インクに対応する浸透液(浸透液B)を収容する浸透液パック36が設置された状態となる。
【0155】
以上説明したように、第2実施例のインクジェットプリンター100では、第1実施例と同様に、記録媒体PMとしての布帛の印捺面に対する浸透液の吐出と、同じ印捺面に対するインクの吐出とが行われる。そのため、布帛に付着した浸透液の作用により、布帛に付着したインクの厚み方向への浸透が促進され、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差を低減することができる。
【0156】
また、第2実施例のインクジェットプリンター100では、インクジェット捺染において記録媒体PMに吐出する浸透液をサブ液体供給系59の洗浄用にも使用することができるため、浸透液と洗浄液とを個別に準備して使用する場合と比較して、装置の複雑化・大型化を抑制することができる。
【0157】
また、第2実施例のインクジェットプリンター100におけるインク交換処理では、インク吐出用のサブ液体供給系59内の空気を浸透液に置換する際に、浸透液吐出用のサブ液体供給系59のメインタンク31に設置された浸透液パック36が用いられるため、インク吐出用のサブ液体供給系59のメインタンク31に浸透液パック36を設置する必要がなく、インク交換処理における液体供給系50の洗浄処理を容易に実行することができる。
【0158】
C.第3実施例:
図21は、第3実施例におけるインクジェットプリンター100の吐出ヘッド41の構成を示す説明図である。第3実施例の吐出ヘッド41は、インク用ヘッド41Iと浸透液用ヘッド41Pとを含んでいる。インク用ヘッド41Iのノズル面42には、インク用のノズル列45が形成されている。また、浸透液用ヘッド41Pには、浸透液用のノズル列45が形成されている。浸透液用ヘッド41Pは、インク用ヘッド41Iに対して、副走査方向Dfの上流側に位置している。
【0159】
第3実施例における印捺処理は、第1実施例(図5)と同様に実行される。ただし、第3実施例では、記録媒体PMの各位置に対する浸透液の吐出とインクの吐出とが同一主走査ではなく、前後の主走査にずれて実行される。具体的には、記録媒体PMの各位置において、浸透液が吐出される主走査が行われた後、次回以降の主走査でインクが吐出される。従って、第3実施例のインクジェットプリンター100でも、第1実施例と同様に、記録媒体PMとしての布帛の印捺面に対する浸透液の吐出を行った後に、同じ印捺面に対するインクの吐出を行う印捺処理を実現することができ、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差を低減することができる。
【0160】
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0161】
D1.変形例1:
上記実施例におけるインクジェットプリンター100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施例では、インクジェットプリンター100は、6色のインクを用いて印捺を行う印刷装置であるとしているが、インクジェットプリンター100は、5色以下、あるいは7色以上のインクを用いて印捺を行う印刷装置であってもよい。使用されるインク色数に関わらず、インクジェットプリンター100には、各インク色に対応するサブ液体供給系59が設けられる。
【0162】
また、上記実施例では、サブタンク53はキャリッジ22に搭載されるとしているが、サブタンク53はキャリッジ22ではなくプリンター本体部10に搭載されるとしてもよい。また、キャリッジ22に、サブタンク53に加えてメインタンク31も搭載されるとしてもよい。また、液体供給系50は、サブタンク53を有さないとしてもよい。また、インクパック35や浸透液パック36は、必ずしも可撓性の袋で構成される必要はなく、内部に収容する捺染用液体を送出できる構成であれば、任意の構成を採用可能である。また、上記実施例では、搬送機構により記録媒体PMを搬送して副走査を行っているが、副走査は、記録媒体PMと吐出ヘッド41とを副走査方向Dfに沿って相対移動させればよく、吐出ヘッド41を移動させることによって副走査を行うとしてもよい。
【0163】
また、上記実施例のインクジェットプリンター100は、電圧を加えると変形するピエゾ素子(圧電素子)を用いたピエゾ式のインクジェットプリンターであるとしているが、本発明は、加熱により供給管内のインクに気泡を発生させてインクを吐出するサーマル式や、ポンプにより印刷媒体にインクを連続的に吐出するコンティニュアス式といった他の方式のインクジェットプリンターにも適用可能である。
【0164】
また、上記実施例において、吐出ヘッド41のノズル面42を構成するノズルプレートの表層部分に撥インク処理が施されているとしてもよい。撥インク処理を施すことにより、インクの飛行曲がりが発生しにくくなり、布帛上に再現性の優れた所望の画像を印捺することができる。この飛行曲がり防止効果は、上記した捺染用インクに、アルキレングリコールーモノーアルキルエーテルあるいは1,2−ヘキサンジオールを添加することで著しく向上させることができる。また、ノズル面42に形成されたノズル43の孔内面にも撥インク処理が施されているとしてもよい。ノズル43の孔内面にも撥インク処理を施すことにより、インクメニスカス位置が安定し、さらに吐出安定性が向上すると共に、ノズルプレート表面にインクが出にくくなり、ノズル表面の撥インク性をより長時間維持することができる。
【0165】
また、ノズル43の口径は任意の口径とすることができる。また、ノズルプレートの構成材料としては、金属、セラミックス、シリコン、硝子、又はプラスチック等を挙げることができ、好ましくはチタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、錫、又は金等の単一材、若しくはニッケル−リン合金、錫−銅−リン合金、銅−亜鉛合金、又はステンレス鋼等の合金や、ポリカーボネート、ポリサルフォン、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリサルフォン、又は各種の感光性樹脂で形成されていることが好ましい。これらの材料表面を撥インク処理する方法は、特に限定されないが、例えば、ニッケルイオンと撥水性高分子樹脂粒子を電荷により分散させた電解液中に浸漬し、電解液を攪拌しながら浸漬されているノズルプレート表面に共析メッキする方法が好ましい。この共析メッキに使用する撥水性高分子樹脂材料としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリパーフルオロアルコキシブタジエン、ポリフルオロビニリデン、ポリフルオロビニル、又はポリジパーフルオロアルキルフマレート等の樹脂を単独に又は混合して用いることが好適である。また、金属材料としては、ニッケルに限定する必要はなく、例えば銅、銀、錫、又は亜鉛等を適宜選択することができる。好ましくは、ニッケル、ニッケル−コバルト合金、又はニッケル−ホウ素合金等のように、表面硬度が大きく、対摩耗性に優れる材料が適している。
【0166】
また、上記第3実施例では、浸透液用ヘッド41Pがインク用ヘッド41Iに対して副走査方向Dfの上流側に位置しているとしているが、反対に、浸透液用ヘッド41Pがインク用ヘッド41Iに対して副走査方向Dfの下流側に位置しているとしてもよい。この場合には、記録媒体PMとしての布帛の印捺面に対するインクの吐出を行った後に、同じ印捺面に対する浸透液の吐出を行う印捺処理を実現することができる。
【0167】
また、上記実施例では、インクジェットプリンター100は、吐出ヘッド41を搭載したキャリッジ22の主走査方向Dcに沿った移動(主走査)と、キャリッジ22に搭載された吐出ヘッド41に対する記録媒体PMの副走査方向Dfに沿った相対移動(副走査)とを繰り返しつつ印捺を行うプリンターである。本発明は、吐出ヘッド41とキヤリッジ22の一方を固定して他方を固定された側に対して相対的に移動させて印刷をおこなうラインプリンターにも適用可能である。この場合、吐出ヘッド41のノズルは記録媒体PMの巾方向(記録媒体がノズル列45に対して相対移動する方向と交差する方向)に配列されている。複数のノズル43からなるライトマゼンタ(LM)のインクを吐出するノズル列45は記録媒体PMに最も近い位置で紙面上左右方向に形成されている。複数のノズル43からなるライトシアン(LC)のインクを吐出するノズル列45はその次の列(紙面上左右方向)に形成され、以下同様に、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)のインクと、浸透液を吐出するノズル列45が紙面上左右方向に形成されている。図22は、変形例における吐出ヘッド41の構成を示す説明図である。図22(a)に示すように、変形例における吐出ヘッド41のノズル面42には、記録媒体PMの移動方向Dpと交差する方向に沿って並んで配置された6色のインク用のノズル列45と浸透液用のノズル列45とが形成されている。各ノズル列45は、記録媒体PMの移動方向Dpと交差する方向に沿って並んだ複数のノズル43から構成されている。紙面上左右方向に、順次、浸透液、LMインク、LCインク、Yインク、Mインク、Cインク、Bkインク、浸透液を吐出する複数のノズル43からなるノズル列45が形成されている。図22(a)に示す吐出ヘッド41を備えるプリンターでは、記録媒体PMを移動方向Dpに送りつつ、各ノズル列45からインクおよび浸透液を吐出することにより印捺を行う。すなわち、ノズル列(ヘッド)の移動がない。これにより印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差を低減することができ、印捺面からインクジェット捺染をすることにより印捺面と非印捺面の双方から印刷が視認できる捺染を実現することができる。
【0168】
また、図22(b)に示すように、吐出ヘッド41のノズル面42に、記録媒体PMの移動方向と交差する方向に配列された6色のインク用のノズル列45を、記録媒体PMの移動方向の上流側及び下流側で挟むように配置された浸透液用のノズル列45が形成されているとしてもよい。このようにすれば、印捺処理において、浸透液吐出後に記録媒体PMを移動させ浸透液吐出部にインクを吐出すること、インクを吐出後に記録媒体PMを移動させインク吐出部に浸透液を吐出すること、浸透液を吐出後に記録媒体PMを移動させ浸透液吐出部にインクを吐出し更に記録媒体を移動させてインク吐出部に再び浸透液を吐出すること、のいずれも可能となる。なお、図22(a)、(b)の例では、ノズル列45(ヘッド)を固定し、ノズル列45に対して記録媒体PMを相対移動させたが、ノズル列45(ヘッド)を固定しノズル列45に対して記録媒体PMを相対移動させでもよい。
【0169】
また、上記実施例では、制御部80が記録する画像を表す画像データを有しており、制御部80が、画像データに基づき印刷データを生成して印捺処理を実行するとしているが、インクジェットプリンター100を制御する制御装置としての外部コンピューターが画像データを有しており、外部コンピューターが、画像データに基づき印刷データを生成してインクジェットプリンター100に供給するとしてもよい。
【0170】
また、上記各実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
【0171】
また、本発明の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータープログラム)は、コンピューター読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。この発明において、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピューター内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピューターに固定されている外部記憶装置も含んでいる。
【0172】
D2.変形例2:
上記第1実施例では、布帛の表面の各位置において、浸透液の吐出が行われた後にインクの吐出が行われるとしているが、反対に、インクの吐出が行われた後に浸透液の吐出が行われるとしてもよい。この場合にも、インクの吐出が行われた直後という色材が布帛に固着する前のタイミングで浸透液の吐出を実行することができ、布帛に付着したインクの厚み方向への浸透がより促進され、印捺面と非印捺面との間の画像の濃度差をより低減することができる。また、上記第1実施例の印捺処理は、双方向印刷により行われるとしているが、単方向印刷により行われるとしてもよい。吐出ヘッド41には、浸透液の吐出とインクの吐出との前後関係や単方向印刷と双方向印刷との別に応じて、浸透液用のノズル列45が設けられる。例えば、単方向印刷で印捺処理を行う場合には、吐出ヘッド41のノズル面42における6色のインク吐出用のノズル列45の一方の側のみに浸透液用のノズル列45が設けられているとしてもよい。このとき、浸透液の吐出後にインクの吐出を行う場合には、浸透液用のノズル列45は、主走査開始時においてインク吐出用のノズル列45より記録媒体PMに近い方の側に設けられ、インクの吐出後に浸透液の吐出を行う場合には、浸透液用のノズル列45は、主走査開始時においてインク吐出用のノズル列45より記録媒体PMから遠い方の側に設けられる。
【0173】
同様に、上記第3実施例では、布帛の表面の各位置において、浸透液の吐出が行われた後にインクの吐出が行われるとしているが、反対に、インクの吐出が行われた後に浸透液の吐出が行われるとしてもよい。インクの吐出が行われた後に浸透液の吐出が行われる場合には、浸透液用ヘッド41Pは、インク用ヘッド41Iに対して、副走査方向Dfの下流側に配置される。また、上記第3実施例の印捺処理は、双方向印刷により行われても単方向印刷により行われてもよい。
【0174】
また、上記実施例では、浸透液の吐出は、布帛におけるインクの吐出が行われる領域に対して実行されるとしているが、インクの吐出が行われるか否かに関わらず、布帛の表面の略全体に浸透液の吐出が行われるとしてもよい。
【0175】
D3.変形例3:
上記実施例や評価試験例における捺染用液体(インクおよび浸透液)の組成はあくまで一例であり、種々変形可能である。
【0176】
D4.変形例4:
上記実施例では、(a)酸性インクに対応する浸透液Aを浸透液用のノズル列45を構成する各ノズル43(第1のノズル)から第1の布帛の第1の面に向けて吐出すると共に酸性インクをインク用のノズル列45を構成する各ノズル43(第2のノズル)から第1の布帛の第1の面上の浸透液吐出部に向けて吐出する印捺処理と、(b)反応インクに対応する浸透液Bを浸透液用のノズル列45を構成する各ノズル43(第1のノズル)から第2の布帛の第1の面に向けて吐出すると共に反応インクをインク用のノズル列45を構成する各ノズル43(第2のノズル)から第2の布帛の第1の面上の浸透液吐出部に向けて吐出する印捺処理と、の間に、(c)酸性インクに対応する浸透液Aをインク用のノズル列45を構成する各ノズル43(第2のノズル)から吐出させる処理を行っている。
【0177】
しかし、本発明は、このような実施例に限られず、(A)第1の布帛の第1の面に向けて第1の捺染用着色液体の第1の布帛への浸透を促進する第1の浸透液を第1のノズルから吐出する浸透液吐出工程と、第1の布帛の第1の面上の浸透液吐出部に向けて第1の捺染用着色液体を第2のノズルから吐出する捺染用着色液体吐出工程と、を用いて、第1の布帛に第1の捺染用着色液体による印捺を行う処理(以下、「印捺A」と呼ぶ)と、(B)第2の布帛の第1の面に向けて第2の捺染用着色液体の第2の布帛への浸透を促進する第2の浸透液を第1のノズルから吐出する浸透液吐出工程と、第2の布帛の第1の面上の浸透液吐出部に向けて第2の捺染用着色液体を第2のノズルから吐出する捺染用着色液体吐出工程と、を用いて、第2の布帛に第2の捺染用着色液体による印捺を行う処理(以下、「印捺B」と呼ぶ)と、の間に、(C)第1の浸透液と第2の浸透液の少なくとも一方を第2のノズルから吐出させる処理(以下、「印捺間浸透液吐出」と呼ぶ)を行う場合に適用可能である。
【0178】
また、印捺Aおよび印捺Bに用いる布帛、浸透液、捺染用着色液体や、印捺間浸透液吐出に用いる浸透液としては、種々の組み合わせを採用することができる。図23ないし図38は、印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出のバリエーションを示す説明図である。図23ないし図38の左側には、各工程(印捺A、印捺Bおよび印捺間浸透液吐出)において使用される布帛、浸透液、捺染用着色液体の組み合わせを示している。例えば、図23の1行目の組み合わせでは、まず印捺Aとして布帛1に対する浸透液P1および酸性インクの吐出が行われ、次に印捺間浸透液吐出として浸透液P1の第2のノズルからの吐出が行われ、その後、印捺Bとして布帛1に対する浸透液P1および酸性インクの吐出が行われる。
【0179】
なお、図23ないし図38において、酸性インクを用いた印捺の際に利用される布帛1は、前処理として、2.0質量%のグアガム(三昌社:メイプロガムNP)、10.0質量%の尿素、4.0質量%の硫酸アンモニウム、及び84.0質量%の水からなる前処理剤をパッダー(マチス社:水平垂直パッダーHVF350)により、絞り率80%の条件下でパディング処理を施した、生地目付が53g/m2の絹である。また、反応インクを用いた印捺の際に利用される布帛2は、2.0質量%のグアガム、10.0質量%の尿素、5.0質量%の重炭酸ナトリウム、1.0質量%のシリカ、及び82.0質量%の水からなる前処理剤によりパディング処理を施した、生地目付が122g/m2の綿である。また、分散インクを用いた印捺の際に利用される布帛3は、2.0質量%のグアガム、10.0質量%の尿素、2.0質量%のクエン酸、及び86.0質量%の水からなる前処理剤によりパディング処理を施した、生地目付が120g/m2のポリエステルである。また、顔料インクを用いた印捺の際に利用される布帛4は、前処理を施していない生地目付が122g/m2の綿である。また、図23ないし図38において、浸透液P1ないしP8は、上述した評価試験に使用した浸透液P1ないしP8(図16)を指している。
【0180】
また、図23ないし図38の右側には、上述の評価試験と同様に、左側に示した各組み合わせに従い、インクジェットプリンター(PX−G930、セイコーエプソン社製)を用いて印捺A、印捺間浸透液吐出および印捺Bを行ったときの状態(評価結果)を示している。なお、印捺A,Bにおける濃度差、滲み性や、印捺間浸透液吐出における第2のノズルの洗浄性といった評価項目における評価基準は、上述の評価試験と同様である。また、図23ないし図38の評価項目としては、印捺A時および印捺B時における第2のノズルの目詰まりと、印捺Aに使用したインクと印捺B時に使用したインクとの混色の有無とを含んでいる。図23ないし図38に示したいずれの組み合わせにおいても、第2のノズルの目詰まりは発生せず、インクの混色も発生しなかった。
【0181】
D5.変形例5:
図23ないし図38からも明らかなように、上記実施例において、酸性インクに対応する浸透液と反応インクに対応する浸透液とが同じ浸透液であるとしてもよい。例えば、図17に示した浸透液P1−P4のいずれか1つを、酸性インクおよび反応インクの両方に対応する浸透液として使用してもよい。また、上記実施例において、分散インクに対応する浸透液と顔料インクに対応する浸透液とが同じ浸透液であるとしてもよい。例えば、図17に示した浸透液P7,P8のいずれかを、分散インクおよび顔料インクの両方に対応する浸透液として使用してもよい。
【0182】
D6.変形例6:
図23ないし図38からも明らかなように、上記実施例では、使用するインクを、酸性インク、反応インク、分散インク、顔料インクのいずれか1種類のインク(例えば酸性インク)から別の種類のインク(例えば反応インク)へと変更するインク交換処理の際に、ノズルを含むサブ液体供給系59の洗浄を行うとしているが、使用するインクを、酸性インク、反応インク、分散インク、顔料インクのいずれか1種類の特定のインク(例えば酸性インクの特定のインク)から同じ種類の別のインク(例えば酸性インクの別のインク)へと変更するインク交換処理の際に、ノズルを含むサブ液体供給系59の洗浄を行うとしてもよい。なお、この場合には、インクの変更前後で、同じ浸透液を使用するとしてもよいし、異なる浸透液を使用するとしてもよい。
【符号の説明】
【0183】
10…プリンター本体部
11…プラテン
20…キャリッジ駆動系
21…ガイド
22…キャリッジ
23…キャリッジモーター
24…駆動プーリー
25…従動プーリー
26…駆動ベルト
31…メインタンク
32…内部空間
34…空気供給管
35…インクパック
36…浸透液パック
41…吐出ヘッド
42…ノズル面
43…ノズル
44…液溜まり部
45…ノズル列
50…液体供給系
53…サブタンク
54…第1供給管
55…供給ポンプ
56…第2供給管
59…サブ液体供給系
61…第1バルブ
62…第2バルブ
67…バイパス管
68…圧力調整弁
69…第3バルブ
70…キャッピングユニット
71…キャップ
72…廃液タンク
73…排出管
74…吸引ポンプ
80…制御部
100…インクジェットプリンター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の布帛の第1の面に向けて第1の捺染用着色液体の前記第1の布帛への浸透を促進する第1の浸透液を第1のノズルから吐出する浸透液吐出工程と、前記第1の布帛の前記第1の面上の前記浸透液吐出部に向けて前記第1の捺染用着色液体を第2のノズルから吐出する捺染用着色液体吐出工程と、を用いて、前記第1の布帛に前記第1の捺染用着色液体による印捺をし、
第2の布帛の第1の面に向けて第2の捺染用着色液体の前記第2の布帛への浸透を促進する第2の浸透液を前記第1のノズルから吐出する浸透液吐出工程と、前記第2の布帛の前記第1の面上の前記浸透液吐出部に向けて前記第2の捺染用着色液体を前記第2のノズルから吐出する捺染用着色液体吐出工程と、を用いて、前記第2の布帛に前記第2の捺染用着色液体による印捺をするインクジェット捺染方法であって、
前記第1の捺染用着色液体による印捺と前記第2の捺染用着色液体による印捺との間に、前記第1の浸透液と前記第2の浸透液の少なくとも一方を前記第2のノズルから吐出させる工程を設けたことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1の捺染用着色液体による印捺により前記第1の布帛の両面から視認可能な印捺が行われ、
前記第2の捺染用着色液体による印捺により前記第2の布帛の両面から視認可能な印捺が行われることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1の捺染用着色液体による印捺の後、前記第2の捺染用着色液体による印捺の前に、前記第1の浸透液を前記第2のノズルから吐出させる工程を設けたことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1の捺染用着色液体と前記第2の捺染用着色液体とが、酸性インク、反応インク、分散インク、顔料インクの中の異なるインクである場合、前記第1の浸透液と前記第2の浸透液とを異なる浸透液としたことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1の捺染用着色液体と前記第2の捺染用着色液体の一方が酸性インク、他方が反応インクである場合、前記第1の浸透液と前記第2の浸透液とを同じ浸透液としたことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1の捺染用着色液体と前記第2の捺染用着色液体の一方が分散インク、他方が顔料インクである場合、前記第1の浸透液と前記第2の浸透液とを同じ浸透液としたことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1の捺染用着色液体と前記第2の捺染用着色液体とが、共に、酸性インク、反応インク、分散インク、顔料インクのいずれかである場合、前記第1の浸透液と前記第2の浸透液とを同じ浸透液としたことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1の浸透液は、前記第1の捺染用着色液体から着色用色材を除いた成分を主成分とする液体であり、前記第2の浸透液は、前記第2の捺染用着色液体から着色用色材を除いた成分を主成分とする液体であることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のインクジェット捺染方法であって、
前記第1及び第2の捺染用着色液体として複数の異なる捺染用着色液体を使用し、
前記第1の捺染用着色液体による印捺及び前記第2の捺染用着色液体による印捺における前記捺染用着色液体吐出工程では、前記複数の異なる捺染用着色液体を前記第2のノズルの異なるノズルから吐出させることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項10】
請求項9に記載のインクジェット捺染方法であって、
前記浸透液は、前記複数の異なる捺染用着色液体に共通する溶媒を主成分とするものであることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載のインクジェット捺染方法であって、
前記複数の異なる捺染用着色液体は、酸性インク、反応インク、分散インク、顔料インクのいずれか1つであり、かつ、互いに色の異なる捺染用着色液体であることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項12】
第1のノズルと、第2のノズルと、を有するインクジェット捺染装置であって、
第1の布帛の第1の面に向けて第1の捺染用着色液体の前記第1の布帛への浸透を促進する第1の浸透液を前記第1のノズルから吐出する浸透液吐出手段と、前記第1の布帛の前記第1の面上の前記浸透液吐出部に向けて前記第1の捺染用着色液体を前記第2のノズルから吐出する捺染用着色液体吐出手段と、を有し、前記第1の布帛に前記第1の捺染用着色液体による印捺を行う手段と、
第2の布帛の第1の面に向けて第2の捺染用着色液体の前記第2の布帛への浸透を促進する第2の浸透液を前記第1のノズルから吐出する浸透液吐出手段と、前記第2の布帛の前記第1の面上の前記浸透液吐出部に向けて前記第2の捺染用着色液体を前記第2のノズルから吐出する捺染用着色液体吐出手段と、を有し、前記第2の布帛に前記第2の捺染用着色液体による印捺を行う手段と、
前記第1の捺染用着色液体による印捺と前記第2の捺染用着色液体による印捺との間に、前記第1の浸透液と前記第2の浸透液の少なくとも一方を前記第2のノズルから吐出させる手段と、
を有することを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項13】
捺染染用着色液体の布帛への浸透を促進する浸透液を貯蔵する浸透液貯蔵タンクと、
前記捺染用着色液体を貯蔵する捺染用着色液体貯蔵タンクと、
前記浸透液貯蔵タンクと第1のノズルとを連通する第1の流路と、
前記捺染用着色液体貯蔵タンクと第2のノズルとを連通する第2の流路と、
前記第1の流路と前記第2の流路を連通し前記浸透液を前記第2のノズルに供給する流路を形成する第3の流路とを備えたことを特徴とするインクジェット捺染装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2013−7126(P2013−7126A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139399(P2011−139399)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】