説明

インクジェット捺染方法

【課題】簡便に前処理工程と記録工程を行い、ムラのない高画質な画像を形成するインクジェット捺染方法を提供する。
【解決手段】表面に接着手段を有する粘着性ベルトに貼り付けた布帛に、ライン型インクジェットヘッドにより前処理液を付与する工程Aと、該布帛にライン型インクジェットヘッドにより色材含有インクを付与する工程Bとを有し、該工程Aと工程Bとをこの順序でオンラインに配置し、かつ該工程Aと工程Bにおける布帛の搬送速度が同一であることを特徴とするインクジェット捺染方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類等の布帛に画像をプリントするインクジェット捺染方法に関し、より詳しくは、インクジェットヘッドから水性記録インクを吐出させ、布帛に画像をプリントする際に、画質向上の機能を有する前処理液を布帛に付与するインクジェット捺染方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の捺染記録方法は、版を用いるスクリーン捺染などが広く行われているが、これに対して、インクジェット方式を用いた捺染記録方法は無版で、スクリーン捺染では難しいグラデーションを描写させることができ、また、同一の画像を記録する布帛が1枚であっても、効率的なプリント処理が可能であるという少量多品種対応に適した優れた特徴を備えている。
【0003】
水性記録インクをインクジェットヘッドから布帛に吐出するインクジェット捺染方式は、Nassenger(登録商標、コニカミノルタIJ社製)等で実現されている。これらに用いられているインクジェットヘッドは、いわゆるシリアル方式の記録ヘッドであって、記録ヘッドを搭載したキャリッジが、記録媒体(布帛)の搬送方向に対して垂直方向に操作して画像を形成するものである。このとき画像が形成される布帛は間欠的に搬送されることになる。
【0004】
ところで、布帛にインクジェット記録する場合、布帛の繊維に沿ってインクが拡散することによる滲みが発生するので、通常、布帛には滲み防止と、布帛に対する色材の定着性向上を目的とした前処理が施される。具体的には滲み防止剤や定着性向上剤などを含む水溶液に、布帛を浸漬、あるいはコーティングした後、乾燥する処理を行う。
【0005】
このような布帛の前処理工程は、捺染記録方式では必要なものではあるが、従来の前処理方法では、インクジェット方式で画像記録する工程に入る前に、前もって前処理を施す、いわゆるオフライン方式であるがゆえに、下記のような課題を抱えている。
【0006】
1)布帛に前処理液を付与した後、一旦乾燥させる工程が必要となるため、該布帛を巻きとる操作等、時間と工数を要する。
【0007】
2)予め前処理を施しても、その機能は長期間にわたる保存過程で劣化するために、長期保存することができない。
【0008】
前述のNassenger等で実現されているインクジェット捺染装置によるインクジェット捺染方式においても、前処理工程は依然として、被記録媒体である布帛を前処理液に浸漬させる方法、塗布ロールで塗布する方法などの工程の後に、前処理液を乾燥させ、巻き取った形態にする必要がある。その後に、インクジェット捺染装置を用いて色材を含有するインクを付与しているため、前述した1)や2)のような課題を解決するに至っていない。
【0009】
上記課題に対し、インクジェット方式による前処理液付与方法と、色材含有インク付与方法として、プリントしようとする部分にだけ前処理液を付与し、その後色材含有インクを着弾させて画像記録を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、特許文献1に開示されているインクジェット捺染装置は、シリアル型ヘッドを搭載した2台のインクジェットプリンタを準備し、1台で前処理液を布帛に付与した後に、2台目のインクジェットプリンタに搭載したシリアル型ヘッドで色材含有インクを付与する方法のみが開示されている。
【0010】
しかしながら、インクジェット捺染記録においては、記録媒体である布帛が柔軟であるために、これを搬送するためには搬送支持体に担持させ、布帛の伸縮を抑えるために搬送支持体に固着させ、捺染画像形成後には該搬送支持体から布帛を速やかに剥がさなくてはならない。すなわち、粘着性ベルトに布帛を貼り付けて、前処理工程とインクジェット記録工程を連続して行う必要があり、両工程の間で布帛をたわませたり、搬送支持体から一旦剥がしたりすると、布帛のよれ、のび、縮みが発生するため、色材含有インクの付与工程に速やかに移動することができない。特許文献1に記載された事項のいずれからも、この点を課題としている形跡はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−124842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のような課題を解決するために、布帛に予め前処理を施す工程を、インクジェット記録工程と連続して行う、いわゆるオンライン方式による前処理液付与方法を検討した結果、一定の量の前処理液を一定の速度で連続的に塗布する必要があることが判明した。具体的には、一定の量の前処理液を布帛上に付与する方法としては、スプレー塗布やロール塗布方式が考えられる。但し、このような場合には布帛は、間欠的にではなく連続的に搬送されることになる。従って、前述したように、間欠的に布帛を搬送することになるシリアル方式では、インクジェット記録ヘッドから吐出する色材含有インクによる画像記録と、前処理工程とを同期して行うことができない。一方、色材含有インク付与に合わせて、間欠式に前処理液を塗布する方法を採用した場合には、布帛搬送方向に対して垂直方向の前処理液の塗布ムラが生じる不都合を引き起こすことになる。
【0013】
従って、前処理液を付与する工程では布帛を連続的に搬送し、水性記録インクを付与する工程では布帛を間欠的に搬送する、というように、搬送タイミングの異なる方法を採用することは難しいということが、本発明者の検討により判明した。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、簡便に前処理工程と記録工程を行い、ムラのない高画質な画像を形成するインクジェット捺染方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0016】
1.表面に接着手段を有する粘着性ベルトに貼り付けた布帛に、ライン型インクジェットヘッドにより前処理液を付与する工程Aと、該布帛にライン型インクジェットヘッドにより色材含有インクを付与する工程Bとを有し、該工程Aと工程Bとをこの順序でオンラインに配置し、かつ該工程Aと工程Bにおける布帛の搬送速度が同一であることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【0017】
2.前記工程Aと前記工程Bの間に、該布帛を乾燥する乾燥手段を備えたことを特徴とする前記1に記載のインクジェット捺染方法。
【0018】
3.前記粘着性ベルトが有する接着手段が、地貼り剤を有する手段であることを特徴とする前記1または2に記載のインクジェット捺染方法。
【0019】
4.前記色材含有インクが水性記録インクであり、前記前処理液が水性処理液であることを特徴とする前記1から3のいずれか1項に記載のインクジェット捺染方法。
【0020】
更に、本発明のインクジェット捺染方法において、下記に示す構成であることが、好ましい態様である。
【0021】
5.前記前処理液が、水溶性高分子、pH調整剤及びヒドロトロピー剤から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする前記1に記載のインクジェット捺染方法。
【0022】
6.前記前処理液が、水溶性高分子、pH調整剤及びヒドロトロピー剤を含有することを特徴とする前記1に記載のインクジェット捺染方法。
【0023】
7.前記前処理液が、水溶性高分子を含有し、該水溶性高分子は、水酸基価が50mgKOH/g未満であり、重量平均分子量が1000以上、100000以下であり、かつ25℃の水あるいはアルカリ水溶液に対して10質量%以上の溶解度を有することを特徴とする前記1に記載のインクジェット捺染方法。
【0024】
8.前記前処理液が水溶性高分子を含有し、該水溶性高分子が、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合物、グリセリンのポリエチレンオキサイド付加物、グリセリンのポリプロピレン付加物、ジグリセリンのポリエチレンオキサイド付加物、ジグリセリンのポリプロピレン付加物及びアクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記1に記載のインクジェット捺染方法。
【0025】
9.前記前処理液がpH調整剤を含有し、該pH調整剤が、無機塩基化合物であることを特徴とする前記1に記載のインクジェット捺染方法。
【0026】
10.前記前処理液が無機塩基化合物を含有し、該無機塩基化合物が、カリウム塩を含有することを特徴とする前記1に記載のインクジェット捺染方法。
【0027】
11.前記前処理液がpH調整剤を含有し、該pH調整剤が、有機酸または強酸のアンモニウム塩であることを特徴とする前記1に記載のインクジェット捺染方法。
【0028】
12.前記前処理液がヒドロトロピー剤を含有し、該ヒドロトロピー剤が、尿素誘導体、アミド化合物及びスルホンアミド化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記1に記載のインクジェット捺染方法。
【0029】
13.前記前処理液が、低表面張力溶剤及び界面活性剤から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする前記1に記載のインクジェット捺染方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、簡便に前処理工程と記録工程を行い、ムラのない高画質な画像を形成するインクジェット捺染方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のインクジェット捺染方法に適用可能なラインヘッド方式のインクジェット捺染装置の一例を示す模式図である。
【図2】各ヘッド底部におけるノズルの配置を示す底面図である。
【図3】ヘッドユニット構成の一例を示す模式図である。
【図4】乾燥手段として温風による乾燥手段及びホットプレートを用いた乾燥手段を備えたインクジェット捺染装置の一例を示す概略構成図である。
【図5】ホットプレートを用いた乾燥手段を備えたインクジェット捺染装置の一例を示す概略構成図である。
【図6】乾燥手段としてマイクロ波照射部を用いた乾燥手段及びホットプレートを用いた乾燥手段を備えたインクジェット捺染装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0033】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、表面に接着手段を有する粘着性ベルトに貼り付けた布帛に、ライン型インクジェットヘッドにより前処理液を付与する工程Aと、該布帛にライン型インクジェットヘッドにより色材含有インクを付与する工程Bとを有し、該工程Aと工程Bとをこの順序でオンラインに配置し、かつ該工程Aと工程Bを同一搬送速度で搬送させて画像形成するインクジェット捺染方法によって、簡便で、ムラのない高画質画像を形成することができることが分かった。
【0034】
本発明のインクジェット捺染方法において、記録媒体として用いる布帛は、搬送支持体である粘着性ベルトに貼り付けて固定された状態にある。前処理液を付与する工程Aと、色材含有インクを付与する工程Bとを、この順序でオンラインに配置し、かつ該工程Aと工程Bにおける布帛の搬送速度を同一に設定して搬送することにより、工程Aと工程Bとの間で布帛がたわんだり、過度に引っ張られたりすることがない。加えて、ライン型インクジェットヘッドを用いることによって、特に広い幅の布帛に記録する際に、高速記録で高画質画像を形成することができるというメリットを発揮できる。
【0035】
仮に、該工程A及び工程Bでシリアル型インクジェットヘッドを用いて記録すると、該ヘッドを保持するキャリッジが布帛の短尺方向の往路を移動する間は布帛の搬送は止まり、キャリッジが復路に移行する際に布帛が搬送され、またキャリッジが復路を移動する間は布帛の搬送が止まる。従って、該布帛は間欠的に搬送されることになり、短尺方向に並行して画像ムラを生じるおそれが高い。
【0036】
従って、本発明で規定する前処理液を付与する工程Aと、色材含有インクを付与する工程Bとを、この順序でオンラインに配置し、工程Aと工程Bにおける布帛の搬送速度を同一の搬送速度にて、ライン型インクジェットヘッドを用いて行うことによって、高速に、かつ高画質な捺染画像を形成することができるものである。
【0037】
以下、本発明に係る各構成要件について説明する。
【0038】
〔インクジェット捺染装置の概要〕
本発明のインクジェット捺染方法に適用可能なインクジェット捺染装置の概要について、簡単に説明する。
【0039】
本発明で用いることのできるインクジェット捺染装置においては、布帛は、ニップロール等を介して粘着ベルトに貼り付けられた後、前処理液を付与する工程A領域に搬送される。ここで前処理液が、ライン型インクジェットヘッドを用いて付与され、その下流部にて、好ましくは該前処理液を乾燥する乾燥工程を経て、色材含有インクを付与するライン型インクジェットヘッドを備えた工程B領域に搬送されて、該ヘッドより色材含有インクが付与され、画像が形成される。この間の連続的工程において、布帛をひとつの粘着性ベルト上に貼り付けたまま搬送することにより、布帛の伸びや収縮を実質的に抑えることができる。色材含有インクで画像記録を行った後、布帛は粘着性ベルトから剥がされて、必要に応じて乾燥工程を経た後、巻き取りロールなどに巻き取られ、記録物が得られる。この様に、本発明のインクジェット捺染方法においては、布帛を粘着ベルトに貼り付けられた状態のまま、上流側に工程Aを、下流側に工程Bを配置し、途中段階で布帛を粘着ベルトから剥離させることなく、固定された状態で、工程Aと工程Bを連続してオンラインで、かつ同一の布帛搬送速度で処理を行う。本発明でいうオンラインとは、工程Aと工程Bを途中で中断、あるいは分離するバッチ方式ではなく、工程Aと工程Bを同一工程ライン上に配置し、連続して行うことをいう。
【0040】
本発明において、布帛の搬送速度は、特に制限はないが概ね10m/分〜80m/分である。なお、本発明でいう工程Aと工程Bにおける布帛の搬送速度が同一であるとは、それぞれの工程を通過する布帛の搬送速度が、±5%の範囲であることをいう。
【0041】
(粘着ベルト)
本発明においては、布帛の搬送手段として「表面に接着手段を有する粘着性ベルト」を用いることを特徴とする。布帛は、工程Aにて前処理液を付与することで一旦湿潤し、次いで、前処理液の一部あるいは全部を乾燥させると、布帛は伸びたり収縮したりすることにより、最終的に形成した画像がゆがんでしまうことが懸念される。本発明では、このような布帛の伸縮に起因する上記課題に対し、布帛が湿潤したり乾燥したりする際に、伸びたり収縮することを防止するため、連続した無端の粘着性ベルトを用いて、布帛を強く貼り付けた状態で搬送及び画像形成を行うことが必須の要件である。
【0042】
このようなインクジェット捺染装置において使用する粘着性ベルトは、連続した無端ベルトを駆動ロールにて駆動、搬送させて、粘着手段で保持した布帛を搬送する。本発明に係る粘着性ベルトは、ベルト表面に有する接着手段は、特に制限されないが、ベルト表面に地貼り剤を付与した手段で、布帛を接する側の全面に地貼り剤を設けて、粘着性を有することが好ましい。
【0043】
本発明に係る粘着手段として好適に用いられる地貼り剤としては、加熱によって粘着性が発揮される感熱型の地貼り剤と加圧することで粘着性が発揮される感圧型の地貼り剤などを用いることができる。市販されているものとしては、例えば、株式会社 横浜ポリマー研究所製の捺染用地貼り剤HAシリーズ(感熱型地貼り剤)、同SIシリーズ(感圧型地貼り剤)等がある。また、特開2006−176267号、特開2006−199498号、特開2006−264805号、特開2006−264806号等の各公報に記載の地貼り剤を用いることができる。
【0044】
地貼り剤の粘着性ベルトへの付与方法としては、例えば、無端ベルト基材上に、塗布、または貼り付けにより付与することができる。
【0045】
以下、各種地貼り剤の詳細について説明する。
【0046】
本発明において、地貼り剤として感熱型地貼り剤を用いることが好ましい。インクジェット捺染装置内の乾燥機による熱で、地貼り剤と布帛の密着性が向上し、布帛はがれ故障が起こりにくくなり、貼り付け位置が固定されるので、記録画像のゆがみなどを引き起こすおそれがない。
【0047】
特に、前処理液や色材含有インクなどの液体が布帛に付与されると、布帛と地貼り剤との密着性が低下しやすくなるが、インクジェット捺染装置内の乾燥機などによる熱で感熱型地貼り剤と布帛の密着性を向上させることは、特に好ましい態様のひとつである。
【0048】
さらに、感熱性地貼り剤をベルト上に塗布する際に熱エネルギーを付与するのが好ましいが、本発明で好ましく用いる乾燥手段を、この塗布時の加熱に使用することが可能である。
【0049】
地貼り剤を有し、布帛を貼り付けて搬送する本発明に係る粘着性ベルトには、布帛の厚さや、付与する前処理液や色材含有インクの量によっては、汚れが発生する場合がある。このような場合に備え、色材含有インクで記録して、布帛が剥がされた以降、再度、次にくる布帛を貼り付けるまでの間に、ベルト洗浄機構を設けることは好ましい。前処理液や色材含有インクに高分子化合物を添加した場合、該ベルト洗浄機構で、該高分子の溶解性のある洗浄液を用意し、洗浄することは好ましい。
【0050】
(前処理液を付与する工程A)
本発明に係る「前処理液を付与する工程A」とは、粘着性ベルトに貼り付けた布帛に前処理液を付与する工程であって、下流に配置した工程Bと、同じ布帛搬送速度にて、ライン型インクジェットヘッドを用いて記録を行うものであって、引き続き、連続して該布帛にライン型インクジェットヘッドを用いて色材含有インクを付与する工程Bを施す。
【0051】
(色材含有インクを付与する工程B)
本発明に係る「色材含有インクを付与する工程B」とは、前処理液を付与する工程Aに引き続き、連続して、工程Aと同じ布帛搬送速度にて、ライン型インクジェットインクを用いて、布帛に画像形成する工程である。
【0052】
〈前処理液及び色材含有インクを付与するインクジェットヘッド〉
本発明に係る前処理液及び色材含有インクを吐出して画像形成を行う工程Aと工程Bで使用するインクジェットヘッドとしては、ピエゾ方式、サーマル方式、コンティニュアス方式などさまざまな方法から選択することができる。ピエゾ方式、コンティニュアス方式は、高分子材料を含むインクなどでも安定に射出する可能性が高く好ましい、特にピエゾ方式は小型で集積度が高く好ましい。
【0053】
本発明に係る前処理液及び色材含有インクを付与するのに用いるインクジェットヘッドは、ライン型インクジェットヘッドであることを特徴とし、好ましくは同じ記録速度を有するものを使用する。ライン型インクジェットヘッドとは、印刷範囲の幅以上の長さを持つインクジェットヘッドのことを指す。ライン型インクジェットヘッドを担持するキャリッジの下を、記録媒体である布帛が通過した際に、一度の通過でドットの形成されるべきすべての画素にインク滴が打たれるインクジェット記録方式である。ライン型インクジェットヘッドとしては、ひとつのヘッドで印刷範囲の幅以上であってもよいし、特開2007−320278号公報に開示のように、複数のヘッドを組み合わせて印刷範囲の幅を超えるよう構成してもよい。
【0054】
色材含有インク付与に用いるときのライン型インクジェットヘッドは、一つの色について複数用いることもできる。この場合、同色同士のヘッドは隣接していることが好ましい。これは前処理液が付与されてから、色材含有インクが着弾するまでの時間がなるべく同色内で同じほうが、ドットの不均化を引き起こすことなく、高画質画像を形成することができる。
【0055】
本発明に用いるライン型インクジェットヘッドを使用するインクジェット捺染装置の好ましい具体例を、図を用いて説明する。
【0056】
図1は、本発明のインクジェット捺染方法に適用可能なラインヘッド方式のインクジェット捺染装置の一例を示す模式図である。
【0057】
図1において、11がラインヘッド型のヘッドユニットであり、それぞれ色相の異なる色材含有インクを吐出するヘッド111〜114で構成され、各ヘッドのノズルピッチは360dpi程度であることが好ましい。なお、本発明でいうdpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す。
【0058】
記録媒体である布帛Pは、ロール状に積層された状態で、搬送機構(不図示)より矢印方向に繰り出され、次いで、サポートロール2及び搬送ロール3により保持され、表面に接着手段を有する無端の粘着性ベルト1と会合する位置で、ニップロール4により加圧されて粘着性ベルト1上に固定される。
【0059】
次いで、搬送された布帛は、上流側に設けたラインヘッド型のヘッドユニット14から構成される前処理液を付与する工程Aにより、所定量の前処理液を、布帛P上に付与する。
【0060】
次いで、前処理液を付与した布帛Pは、色材含有インクを付与する工程Bへと搬送されるが、工程Bで色材含有インクを付与する前に、布帛上に付与した前処理インクを乾燥するための乾燥手段を、工程Aと工程Bの間に設けることが好ましい。図1においては、工程Aの前処理液付与部14から工程Bのヘッドユニット11までの間に、布帛Pの背面に配置したホットプレート13により、搬送する布帛Pを所定の温度に加熱して、色材含有インクを付与する前に、布帛上に付与した前処理インクを乾燥させることが好ましい態様である。
【0061】
次いで、前処理液中を一定量まで乾燥された布帛Pは、工程Bを構成するヘッドユニット11の下部に搬送され、布帛Pの全巾をカバーするように配置された各ヘッド111〜114より、各色インクが吐出され画像形成を行う。
【0062】
図2は、各ヘッド底部におけるノズルの配置を示す底面図である。
【0063】
図2に示すように、それぞれヘッド111とヘッド112、ヘッド113とヘッド114のノズルNは、半ピッチずつずらした千鳥配列となっている。この様なヘッド構成とすることにより、より緻密な画像を形成することができる。
【0064】
図3は、ヘッドユニット構成の一例を示す模式図である。
【0065】
印字幅の広い布帛Pを用いる場合は、布帛Pの全巾をカバーするように複数個のヘッドHを千鳥格子に配置したヘッドユニットHUを用いることも好ましい。
【0066】
本発明においては、前処理液を付与する工程Aと、色材含有インクを付与する工程Bとの間に、記録媒体である布帛に付与された前処理液を乾燥するための他の乾燥手段を備えることができる。
【0067】
本発明のインクジェット捺染方法においては、乾燥工程では、付与された前処理液の機能を最大限に発現する程度まで乾燥することが好ましい。多くの場合、前処理液と色材含有インクでの記録と合わせて、総インク量が増えて、それにより滲みが発生しやすくなるため、可能な限り、布帛に付与された前処理液の水分及び有機溶剤を乾燥、除去することが好ましい。但し、乾燥条件としては、布帛が加熱しすぎで変質、変色しない程度にとどめることが好ましい。
【0068】
また、熱によって粘着性ベルトの特性劣化、寿命の短縮化を引き起こす恐れがない適度な温度がよい。このためには、布帛の温度を計測し、布帛温度に応じて加熱強度、加熱時間を制御することが好ましい。例えば、乾燥工程部の布帛表面温度を概ね30℃から80℃で、布帛や前処理液の組成ごとに適した温度設定をすることが好ましい。
【0069】
乾燥工程においては、乾燥により前処理液が保持していた水分や有機溶剤がプリンター内部に充満して、乾燥速度を低下させ、プリンター内部のセンサーなどの電気系統の腐食などを引き起こすことのないように、これらの揮発成分をプリンター外部に排出することが好ましく、例えば、排気塔を設け、ファンなどを利用し強制的に排出することが好ましい。
【0070】
以下に、本発明のインクジェット捺染方法において、インクジェット捺染装置に適用可能な、図1で説明したホットプレートを含めた乾燥手段の具体的な方法について説明するが、これらに限定されるものではない。
【0071】
本発明に適用可能な乾燥手段の代表的なものは、(1)温度制御可能な風または温風による乾燥手段、(2)ホットプレートを用いた乾燥手段、(3)可視光あるいは遠赤外光を用いた乾燥手段、(4)ヒートロールを用いた乾燥手段、(5)マイクロ波を照射する手段を用いた乾燥手段などが挙げられる。これらについてそれぞれ以下に説明する。
【0072】
(1)温度制御可能な風または温風による乾燥手段
本発明で用いることのできる乾燥手段の1つとして、温度制御可能な風または温風を、前処理液が付与された布帛に吹き付ける手段であることが、好ましい態様のひとつである。このような方法により乾燥を行う際には、布帛に吹き付けた温度制御可能な風または温風が、隣接して配置されている吐出用のヘッドやそのヘッドか出射されたインク液滴に影響を与えないような最適の送風条件に制御すること、あるいは、防風手段を設けることが好ましい。なお、温風付与手段としては、主には温度を付与する電熱線等の発熱体と、温風を布帛に供給するための送風ファンとで構成されている。
【0073】
(2)ホットプレートを用いた乾燥手段
別の態様の好ましい乾燥手段としては、図1に例示した様なホットプレートを用いた乾燥手段が挙げられ、これは前処理液が付与された布帛を保持搬送する粘着性ベルト裏面に接触して配置された温度制御可能なホットプレートを用いるものである。この乾燥手段においても、布帛表面温度を測定して、ホットプレートの加熱温度を最適条件に制御することが好ましい。
【0074】
(3)可視光あるいは遠赤外光を用いた乾燥手段
他の態様の好ましい乾燥手段としては、可視光あるいは遠赤外光を前処理液が付与された布帛に照射する手段が挙げられる。可視光あるいは遠赤外光の照射光源としては、例えば、遠赤外線ヒーターとしては、ハイベック社製のHYG−CG(加熱長1700mm、定格出力4.25kW)などを用いることができる。
【0075】
(4)ヒートロールを用いた乾燥手段
他の態様の好ましい乾燥手段としては、前処理液が付与された布帛を保持搬送する粘着性ベルトの裏面から温度制御が可能な加熱方式のヒートロールを用いる方法が挙げられる。この加熱手段においても、布帛表面温度を測定して、ヒートロールの加熱温度を最適条件に制御することが好ましい。
【0076】
ヒートロールとは、中心部に外周部を加熱するための温度制御可能な熱源(例えば、金属抵抗発熱体、ハロゲンランプなど)を装着した熱伝導性のよい金属(例えば、アルミニウム、ステンレス、鉄、銅等)またはプラスチック素材(例えば、ベークライト等)を用いたロールで構成され、その最外周部がテフロン(登録商標)またはシリコンゴムなどによって被覆され、外周が適度に加熱されている搬送ロールであることが好ましい。
【0077】
(5)マイクロ波を照射する手段を用いた乾燥手段
別の態様の好ましい乾燥手段としては、前処理液が付与された布帛にマイクロ波を照射するマイクロ波照射部を用いるものである。マイクロ波は、周波数1GHz〜3THz、波長0.1〜300mm位のUHF〜EHF帯の総称で、2.45GHzの周波数のマイクロ波発生装置が一般的であるが、1〜100GHzの周波数のマイクロ波を用いることができる。例えば、2.45GHzのマイクロ波照射機(四国計測工業社製、μ−reactor)、2.45GHzのマイクロ波を照射するマイクロ波発生装置(マグネトロン)等を挙げることができる。
【0078】
以下に、上記説明した各乾燥手段のうち、(1)項の風または温風による乾燥手段及び(2)ホットプレートを用いた乾燥手段、(5)マイクロ波を照射する手段を用いた乾燥手段を備えたインクジェット捺染装置について説明するが、本発明は、これら例示する図面に示す構成のプリンターを用いることに限定されるものではない。
【0079】
図4は、乾燥手段として温風による乾燥手段及びホットプレートを用いた乾燥手段と、ライン型インクジェットヘッドを用いたインクジェット捺染装置の一例を示す概略構成図である。
【0080】
図4で示すインクジェット捺染装置においては、粘着性ベルト1と、粘着性ベルト1を駆動するロール2、粘着性ベルト1を保持するサポートロール2と、工程Aとして前処理液を付与するライン型インクジェットヘッド14と、布帛に前処理液を付与した後に布帛を乾燥するための乾燥手段として、前処理液付与部14とヘッドユニット11の間の布帛Pの上部には温風付与手段6を設け、布帛Pの背面にはホットプレート13を配置し、布帛の両面より加熱、乾燥させることにより、前処理液中の水分等の除去を行う。更に、下流側には、工程Bとして色材含有インクを付与するためのヘッドユニット11が設置されている。本発明に係るインクジェット捺染装置においては、その他に、前処理液及び色材含有インクを付与する制御手段等を備えている。
【0081】
具体的には、図4において、粘着性ベルト1は、サポートロール2、搬送ロール3に保持され、無端基材ベルト上に粘着手段、特に好ましくは感熱性地貼り剤を有する。
【0082】
右方向より搬送された布帛Pは、ニップロール4と粘着性ベルト1とで挟持され、粘着性ベルト1に固定される。次いで、布帛をライン型インクジェットヘッドを用いた前処理液付与部14に搬送する。この時、前処理液付与部14により前処理液を布帛に付与すると同時に、布帛Pの背面に設けたホットプレート13による加熱を開始する。なお、ホットプレート13は、前処理液付与部14と色材含有インク付与用のライン型のヘッドユニット11、及び前処理液付与部14とヘッドユニット11の間を背面からカバーする様に配置して加熱するものであるのが好ましい。
【0083】
前処理液付与部14と色材含有インク付与用のヘッドユニット11との間には、内部にファン6A及び発熱体6Bを備えた温風付与手段6を設置し、搬送する布帛の表面温度が概ね40〜65℃程度になるよう制御して、更に前処理液の乾燥を行う態様が好ましい。このとき、温風によってヘッドユニット14と同11の働きが阻害されないよう、温風の強さを調整し、風除け部分を設けるなどの構成部分を有すると更に良い。
【0084】
次いで、図1と同様に、付与した前処理液中の水分や溶剤の除去が行われた布帛Pを、色材含有インクを付与する工程Bへと搬送して、画像形成を行う。
【0085】
図5は、ホットプレートを用いた乾燥手段を備えたインクジェット捺染装置の一例を示す概略構成図である。
【0086】
図5は、前述の図4に対し、乾燥手段としては、温風による乾燥手段は用いずに、ホットプレート13のみを用いて、布帛に付与された前処理液を乾燥させる方式である。
【0087】
図6は、乾燥手段としてマイクロ波照射部を用いた乾燥手段及びホットプレートを備えたインクジェット捺染装置の一例を示す概略構成図である。
【0088】
図6においては、前述の図4に対し、乾燥手段として、温風による乾燥手段6に代えて、マイクロ波の照射により乾燥を行うマイクロ波照射部20を備えたインクジェット捺染装置である。
【0089】
本発明に適用可能なマイクロ波照射装置としては、前述の2.45GHzのマイクロ波照射機(四国計測工業社製、μ−reactor)、2.45GHzのマイクロ波を照射するマイクロ波発生装置(マグネトロン)等を適用することができる。
【0090】
〔色材含有インク〕
本発明に係る色材含有インクは、色材のほか水溶性有機溶剤や、各種添加剤を含有することができる。
【0091】
(色材)
色材含有インクが含有する色材としては、特に限定されないが、反応性染料、酸性染料、分散染料、顔料などを用いることができる。
【0092】
各色材の含有量としては、特に制限はないが、例えば、反応性染料の含有量としては、3質量%以上、20質量%未満であることが好ましく、更には、5質量%以上、15質量%未満であることが好ましい。特に、同一色の水性インクで最も染料濃度の高い水性インク中の反応性染料の含有量は、10質量%以上、15質量%未満であることが好ましい。
【0093】
〈染料〉
以下、本発明に係る色材含有インクに適用可能な染料の具体例を列挙するが、本発明では、これら例示する染料にのみ限定されるものではない。
【0094】
本発明で用いることのできる反応性染料としては、例えば、アゾ染料、メチン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、キノン染料、フタロシアニン染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料等を挙げることができる。
【0095】
具体的には、
C.I.Reactive Yellow2、3、7、15、17、18、22、23、24、25、27、37、39、42、57、69、76、81、84、85、86、87、92、95、102、105、111、125、135、136、137、142、143、145、151、160、161、165、167、168、175、176、
C.I.Reactive Orange1、4、5、7、11、12、13、15、16、20、30、35、56、64、67、69、70、72、74、82、84、86、87、91、92、93、95、107、
C.I.Reactive Red2、3、3:1、5、8、11、21、22、23、24、28、29、31、33、35、43、45、49、55、56、58、65、66、78、83、84、106、111、112、113、114、116、120、123、124、128、130、136、141、147、158、159、171、174、180、183、184、187、190、193、194、195、198、218、220、222、223、226、228、235、
C.I.Reactive Violet1、2、4、5、6、22、23、33、36、38、
C.I.Reactive Blue2、3、4、7、13、14、15、19、21、25、27、28、29、38、39、41、49、50、52、63、69、71、72、77、79、89、104、109、112、113、114、116、119、120、122、137、140、143、147、160、161、162、163、168、171、176、182、184、191、194、195、198、203、204、207、209、211、214、220、221、222、231、235、236、
C.I.Reactive Green8、12、15、19、21、
C.I.Reactive Brown2、7、9、10、11、17、18、19、21、23、31、37、43、46、
C.I.Reactive Black5、8、13、14、31、34、39等が挙げられる。
【0096】
本発明に適用可能な酸性染料としては、
C.I.Acid Yellow1、3、11、17、18、19、23、25、36、38、40、40:1、42、44、49、59、59:1、61、65、67、72、73、79、99、104、159、169、176、184、193、200、204、207、215、219219:1、220、230、232、235、241、242、246、
C.I.Acid Orange3、7、8、10、19、22、24、51、51S、56、67、74、80、86、87、88、89、94、95、107、108、116、122、127、140、142、144、149、152、156、162、166、168、
C.I.Acid Red1、6、8、9、13、18、27、35、37、52、54、57、73、82、88、97、97:1、106、111、114、118、119、127、131、138、143、145、151、183、195、198、211、215、217、225、226、249、251、254、256、257、260、261、265、266、274、276、277、289、296、299、315、318、336、337、357、359、361、362、364、366、399、407、415、
C.I.Acid Vioret17、19、21、42、43、47、48、49、54、66、78、90、97、102、109、126、
C.I.Acid Blue 1、7、9、15、23、25、40、61:1、62、72、74、80、83、90、92、103、104、112、113、114、120、127、127:1、128、129、138、140、142、156、158、171、182、185、193、199、201、203、204、205、207、209、220、221、224、225、229、230、239、258、260、264、277:1、278、279、280、284、290、296、298、300、317、324、333、335、338、342、350、
C.I.Acid Green 9、12、16、19、20、25、27、28、40、43、56、73、81、84、104、108、109、
C.I.Acid Brown 2、4、13、14、19、28、44、123、224、226、227、248、282、283、289、294、297、298、301、355、357、413、
C.I.Acid Black 1、2、3、24、24:1、26、31、50、52、52:1、58、60、63、63S、107、109、112、119、132、140、155、172、187、188、194、207、222、
本発明に適用可能な分散染料としては、
C.I.Disperse Yellow3、4、5、7、9、13、23、24、30、33、34、42、44、49、50、51、54、56、58、60、63、64、66、68、71、74、76、79、82、83、85、86、88、90、91、93、98、99、100、104、108、114、116、118、119、122、124、126、135、140、141、149、160、162、163、164、165、179、180、182、183、184、186、192、198、199、202、204、210、211、215、216、218、224、227、231、232、
C.I.Disperse Orange1、3、5、7、11、13、17、20、21、25、29、30、31、32、33、37、38、42、43、44、45、46、47、48、49、50、53、54、55、56、57、58、59、61、66、71、73、76、78、80、89、90、91、93、96、97、119、127、130、139、142、
C.I.Disperse Red1、4、5、7、11、12、13、15、17、27、43、44、50、52、53、54、55、56、58、59、60、65、72、73、74、75、76、78、81、82、86、88、90、91、92、93、96、103、105、106、107、108、110、111、113、117、118、121、122、126、127、128、131、132、134、135、137、143、145、146、151、152、153、154、157、159、164、167、169、177、179、181、183、184、185、188、189、190、191、192、200、201、202、203、205、206、207、210、221、224、225、227、229、239、240、257、258、277、278、279、281、288、298、302、303、310、311、312、320、324、328、
C.I.Disperse Violet 1、4、8、23、26、27、28、31、33、35、36、38、40、43、46、48、50、51、52、56、57、59、61、63、69、77、
C.I.Disperse Green9、
C.I.Disperse Brown1、2、4、9、13、19
C.I.Disperse Blue3、7、9、14、16、19、20、26、27、35、43、44、54、55、56、58、60、62、64、71、72、73、75、79、81、82、83、87、91、93、94、95、96、102、106、108、112、113、115、118、120、122、125、128、130、139、141、142、143、146、148、149、153、154、158、165、167、171、173、174、176、181、183、185、186、187、189、197、198、200、201、205、207、211、214、224、225、257、259、267、268、270、284、285、287、288、291、293、295、297、301、315、330、333、
C.I.Disperse Black1、3、10、24等が挙げられる。
【0097】
分散染料を用いたインクジェット捺染において、高温処理で発色させる場合は、機械や布地の白場に染料が昇華することで汚染の原因とならないために、昇華堅牢度のよい分散染料を選定することが好ましい。
【0098】
〈顔料〉
本発明に係る色材含有インクにおいては、色剤として顔料を用いることができる。
【0099】
本発明に適用可能な顔料としては、
カーボンブラック、
C.I.Pigment Yellow1、3、12、13、14、16、17、43、55、74、81、83、109、110、120、138、
C.I.Pigment Orange13、16、34、43、
C.I.Pigment Red2、5、8、12、17、22、23、41、112、114、122、123、146、148、149、150、166、170、220、238、245、258、
C.I.Pigment Violet19、23、
C.I.Pigment Blue15、15:1、15:3、15:5、29、
C.I.Pigment Brown 22、
C.I.Pigment Black 1、7、
C.I.Pigment White 6、
(水溶性溶剤)
本発明に係る色材含有インクに用いることのできる水溶性溶剤としては、以下に示す具体例の有機溶剤を含有することができる。
【0100】
アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)等が挙げられる。
【0101】
(水溶性高分子)
本発明に係る色材含有インクは、水溶性高分子を含有することが、にじみ抑制の観点から好ましい。水溶性高分子としては、酸価が100mgKOH/g以上、300mgKOH/g以下であり、かつ重量平均分子量が3000以上、30000以下であることが好ましい。
【0102】
色材含有インクに適用可能な高分子化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合物、グリセリンのポリエチレンオキサイド付加物、グリセリンのポリプロピレン付加物、ジグリセリンのポリエチレンオキサイド付加物、ジグリセリンのポリプロピレン付加物及びアクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0103】
ポリビニルピロリドンは、分子量と相関する粘性特性値で分類されており、K(コリドン)15、K30、K60(以上、東京化成工業社製)などが好ましく用いることができ、特に、K15、K30がインクジェット射出安定性が高く、かつ、にじみ抑制に効果があり好ましい。前処理インクへの添加量としては、固形分として2〜20質量%添加することが好ましい。
【0104】
ポリエチレングリコールとしては、重量平均分子量が600以上のものを好ましく用いることが出来る。さらに1000以上、4000以下のものが特ににじみ抑制に効果があり好ましい。前処理インクへの添加量としては、2質量%〜20質量%添加することが好ましい。
【0105】
エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合物としては、ポリプロピレングリコールの末端にポリエチレンオキサイドを付加させた構造のもの、ポリエチレングリコールの末端にポリプロピレンオキサイドを付加させた構造のもの、エチレンオキサイド−プロピレノキサイドのランダム共重合体などが挙げられる。
【0106】
ポリプロピレングリコールの末端にポリエチレンオキサイドを付加させた構造のものとしては、ADEKA株式会社のアデカプルロニックL、P、Fシリーズに種々のエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド配合比率品や種々の分子量のものが市販されており、それらから選択することが出来る。特に、ポリプロピレングリコール部の分子量が2000以下で水溶性のものを好ましく用いることが出来る。具体的には、L−62、L−64、F−68、F−88,F−108、L−44、L−34、L−23などを挙げることができる。
【0107】
ポリエチレングリコールの末端にポリプロピレンオキサイドを付加させた構造のものとしては、同じくADEKA株式会社のリバースタイプ、17R−2、17R−3、17R−4などから選択して用いることが出来る。
【0108】
エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合物の前処理インクへの添加量としては、2質量%〜20質量%添加することが好ましい。
【0109】
ジグリセリンのポリエチレンオキサイド付加物としては、坂本薬品工業株式会社のSC−Eシリーズから選択して用いることができる。SC−E450、SC−E750、SC−E1000、SC−E1500などを好ましく用いることが出来る。前処理インクへの添加量としては、2〜20質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0110】
ジグリセリンのポリプロピレン付加物としては、坂本薬品工業株式会社のSC−Pシリーズから選択して用いることができ、SC−P400、SC−P750、SC−P1000などを好ましく用いることが出来る。前処理インクへの添加量としては、2〜20質量%の範囲が好ましい。
【0111】
(その他の添加剤)
本発明に係る色材含有インクにおいては、インクの長期保存安定性を保つため、防腐剤、防黴剤をインク中に添加することができる。防腐剤、防黴剤としては、例えば、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(例えば、PROXEL GXL)などが挙げられる。
【0112】
〔前処理液〕
次に、本発明に係る前処理液について説明する。
【0113】
本発明に係る前処理液は、本発明に係る色材含有インクが布帛上で滲むのを防止する機能を有する水性処理液である。以下に、本発明に係る前処理液の各構成要素について説明する。
【0114】
(水溶性高分子)
本発明に係る前処理液は、少なくとも水溶性高分子を含むことが好ましい。
【0115】
本発明に適用しうる水溶性高分子としては、水酸基価が50mgKOH/g未満で、重量平均分子量が1000以上、100000以下で、かつ25℃の水あるいはアルカリ水溶液に対して10質量%以上の溶解度を有するものであることが好ましい。
【0116】
本発明に適用可能な水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合物、グリセリンのポリエチレンオキサイド付加物、グリセリンのポリプロピレン付加物、ジグリセリンのポリエチレンオキサイド付加物、ジグリセリンのポリプロピレン付加物及びアクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0117】
ポリビニルピロリドンは、分子量と相関する粘性特性値で分類されており、K(コリドン)15、K30、K60(以上、東京化成工業社製)などが好ましく用いることができ、特に、K15、K30はインクジェット射出安定性が高く、かつ、にじみ抑制に効果があり好ましい。前処理液への添加量としては、固形分として2〜20質量%添加することが好ましい。
【0118】
ポリエチレングリコールとしては、重量平均分子量が600以上のものを好ましく用いることが出来る。さらに1000以上、4000以下のものが特ににじみ抑制に効果があり好ましい。前処理液への添加量としては、2質量%〜20質量%添加することが好ましい。
【0119】
エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合物としては、ポリプロピレングリコールの末端にポリエチレンオキサイドを付加させた構造のもの、ポリエチレングリコールの末端にポリプロピレンオキサイドを付加させた構造のもの、エチレンオキサイド−プロピレノキサイドのランダム共重合体などが挙げられる。
【0120】
ポリプロピレングリコールの末端にポリエチレンオキサイドを付加させた構造のものとしては、ADEKA株式会社のアデカプルロニックL、P、Fシリーズに種々のエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド配合比率品や種々の分子量のものが市販されており、それらから選択することが出来る。特に、ポリプロピレングリコール部の分子量が2000以下で水溶性のものを好ましく用いることが出来る。具体的には、L−62、L−64、F−68、F−88,F−108、L−44、L−34、L−23などを挙げることができる。
【0121】
ポリエチレングリコールの末端にポリプロピレンオキサイドを付加させた構造のものとしては、同じくADEKA株式会社のリバースタイプ、17R−2、17R−3、17R−4などから選択して用いることが出来る。
【0122】
エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合物の前処理液への添加量としては、2質量%〜20質量%添加することが好ましい。
【0123】
ジグリセリンのポリエチレンオキサイド付加物としては、坂本薬品工業株式会社のSC−Eシリーズから選択して用いることができる。SC−E450、SC−E750、SC−E1000、SC−E1500などを好ましく用いることが出来る。前処理液への添加量としては、2〜20質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0124】
ジグリセリンのポリプロピレン付加物としては、坂本薬品工業株式会社のSC−Pシリーズから選択して用いることができ、SC−P400、SC−P750、SC−P1000などを好ましく用いることが出来る。前処理液への添加量としては、2〜20質量%の範囲が好ましい。2質量%以上であれば十分な滲み抑制効果が発現でき、また、20質量%以下であればインクジェット射出がより安定である。
【0125】
水溶性高分子は単独で用いても複数種を併用してもよい。
【0126】
(pH調整剤)
本発明に係る前処理液においては、pH調整剤を含有することが好ましい。本発明に係る前処理液が含有するpH調整剤は、水性記録インク中の色剤の布帛に対する定着性を向上させる機能を有している。
【0127】
例えば、水性記録インクが色剤として反応性染料を用いる場合には、pH調整剤としてアルカリ成分を添加することができる。アルカリ成分としては、有機塩基、無機塩基から選択することが出来る。中でも水溶性の無機塩基が、発色性、臭気、水性記録インクへの溶解性、排水負荷などの点で好ましく、中でも炭酸塩あるいは重炭酸塩が好ましい。また、カリウム塩は、ナトリウム塩に対して種々の印字環境下での射出安定性に優れており好ましい。炭酸カリウム、炭酸水素カリウムを、単独あるいは他のナトリウム塩と併用して用いることが好ましい。
【0128】
水性記録インクが色剤として酸性染料を用いる場合には、酸成分を添加することができる。酸性成分としては、例えば、有機酸、強酸のアンモニウム塩を挙げることができ、特に、硫酸アンモニウムを好ましく用いることができる。
【0129】
(ヒドロトロピー剤)
本発明に係る前処理液には、発色性向上のためにヒドロトロピー剤を添加することができる。特に、水性記録インクの色材として酸性染料、または、反応性染料を用いた場合、ヒドロトロピー剤を用いることによってプリント後の発色向上の効果を顕著に発揮するという点で好ましい。
【0130】
ヒドロトロピー剤としては、例えば、水溶性のアミド類、スルホンアミド類、尿素、尿素誘導体等が挙げられ、特に尿素が好ましい。
【0131】
ヒドロトピー剤の添加量は、前処理液全質量の2質量%以上、40質量%未満の範囲が好ましい。
【0132】
(水溶性溶剤)
前処理液には、水および水溶性溶剤を含有することができる。
【0133】
水溶性溶剤として以下に示す具体例を挙げられる。例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール等)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド等)等が挙げられる。
【0134】
〔布帛〕
本発明で用いることのできる布帛は特に限定されるものではなく、その種類や厚みに関して種々選ぶことができ、予め通常の前処理が施されていない布帛に対して特に顕著な効果を奏し、適用できる。
【0135】
本発明に使用することができる布帛または編布を構成する繊維素材としては、絹、ナイロン、羊毛、アクリル繊維、ポリウレタン、木綿、麻、レーヨンポリウレタン、ポリエステル、アセテート等を挙げることができ、これらの繊維は、織物、編布、不織布等いずれの形態にしたものでもよい。
【実施例】
【0136】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0137】
《粘着性ベルトの作製》
〔粘着性ベルト1の作製〕
ポリウレタン(厚さ200μm)からなる無端ベルトを搬送させながら、感熱性地貼り剤として、捺染用地貼り剤SH−30(横浜ポリマー研究所製)を、地貼り剤容器より刷毛に順次供給しながら、厚さ6mmになるように塗設して、粘着性ベルト1を作製した。
【0138】
〔粘着性ベルト2の作製〕
ポリウレタン(厚さ200μm)からなる無端ベルトを搬送させながら、感圧性地貼り剤として、捺染用地貼り剤SI−S(横浜ポリマー研究所製)を、地貼り剤容器より刷毛に順次供給しながら、厚さ6mmになるように塗設して、粘着性ベルト2を作製した。
【0139】
《インクジェット捺染装置の作製》
〔インクジェット捺染装置1の作製〕
図4に記載の乾燥手段として温風による乾燥手段6及びホットプレート13を用いた乾燥手段と、前処理液付与部14を備え、粘着性ベルトとして、上記粘着性ベルト1(感熱性地貼り剤を使用)を用いたインクジェット捺染装置を、インクジェット捺染装置1とした。加熱は、内部に送風ファン6Aと発熱体6Bを有する構造の温風による乾燥手段6と、ホットプレート13とを用い、布帛表面温度が57℃になるように制御した。
【0140】
〔インクジェット捺染装置2の作製〕
図5に記載のホットプレート13を用いた乾燥手段と、前処理液付与部14を備え、粘着性ベルトとして、上記粘着性ベルト1(感熱性地貼り剤を使用)を用いたインクジェット捺染装置を、インクジェット捺染装置2とした。加熱手段としてはホットプレート13を用い、布帛表面温度が57℃になるように制御した。
【0141】
〔インクジェット捺染装置3の作製〕
上記インクジェット捺染装置2の作製において、粘着性ベルト1(感熱性地貼り剤を使用)に代えて、粘着性ベルト2(感圧性地貼り剤を使用)を用いた以外は同様にして、インクジェット捺染装置3を作製した。
【0142】
〔インクジェット捺染装置4の作製〕
図6に記載の乾燥手段としてマイクロ波照射部20(2.45GHzマイクロ波照射機、四国計測工業社製 μ−reactor)を用いた乾燥手段及びホットプレート13を用いた乾燥手段と、粘着性ベルトとして、上記粘着性ベルト1(感熱性地貼り剤を使用)を用いたインクジェット捺染装置を、インクジェット捺染装置4とした。加熱は、マイクロ波照射部20とホットプレート13とを用い、布帛表面温度が55℃になるように制御した。
【0143】
《布帛の準備》
下記の各布帛を準備した。
【0144】
布帛1:綿ブロード
布帛2:ナイロン(ニット)
布帛3:ポリエステル(サテン)
《前処理液の準備》
〔前処理液1の調製〕
下記の各添加剤を順次混合、溶解して、前処理液1を調製した。
【0145】
水溶性高分子:ポリビニルピロリドンK30、東京化成工業社製の水溶性樹脂、重量平均分子量は約4万、水酸基価、酸価は0mgKOH/mg) 4.0%
水溶性有機溶媒:エチレングリコール 4.0%
水溶性有機溶媒:プロピレングリコール 26.0%
イオン交換水 66.0%
〔前処理液2の調製〕
下記の各添加剤を順次混合、溶解して、前処理液2を調製した。
【0146】
水溶性高分子:ポリビニルピロリドンK30、東京化成工業社製の水溶性樹脂、重量平均分子量は約4万、水酸基価、酸価は0mgKOH/mg) 4.0%
pH調整剤:炭酸カリウム 8.0%
水溶性有機溶媒:エチレングリコール 6.0%
水溶性有機溶媒:プロピレングリコール 19.0%
イオン交換水 63.0%
〔前処理液3の調製〕
下記の各添加剤を順次混合、溶解して、前処理液3を調製した。
【0147】
水溶性高分子:ポリビニルピロリドンK30(東京化成工業社製の水溶性樹脂、重量平均分子量は約4万、水酸基価、酸価は0mgKOH/mg) 4.0%
pH調整剤:炭酸カリウム 8.0%
ヒドロトロピー剤:尿素 21.0%
水溶性有機溶媒:エチレングリコール 3.0%
水溶性有機溶媒:プロピレングリコール 21.0%
イオン交換水 43.0%
〔前処理液4の調製〕
下記の各添加剤を順次混合、溶解して、前処理液4を調製した。
【0148】
水溶性高分子:ジョンクリル70J(東京化成工業社製の水溶性樹脂、重量平均分子量は16500、水酸基価は0mgKOH/mg、酸価は240mgKOH/mg)
3.0%
pH調整剤:炭酸カリウム 8.0%
ヒドロトロピー剤:尿素 21.0%
水溶性有機溶媒:エチレングリコール 3.0%
水溶性有機溶媒:プロピレングリコール 26.0%
イオン交換水 39.0%
〔前処理液5の調製〕
下記の各添加剤を順次混合、溶解して、前処理液5を調製した。
【0149】
水溶性高分子:ポリビニルアルコールPVA210(クラレ社製の水溶性樹脂、重量平均分子量は約10万、水酸基価は500mgKOH/mg、酸価は0mgKOH/mg)
3.0%
pH調整剤:硫酸アンモニウム 4.0%
ヒドロトロピー剤:尿素 21.0%
水溶性有機溶媒:エチレングリコール 3.0%
水溶性有機溶媒:プロピレングリコール 26.0%
イオン交換水 43.0%
実施例1
下記の方法に従って、布帛として綿ブロード(布帛1)に、色材として反応性染料を含有する下記カラーインクセット1を用いてプリントを行い、プリント1−1〜1−11を作成した。
【0150】
《カラーインクセット1の調製:反応性染料》
(イエローインクY1の調製)
下記の各添加剤を混合して、イエローインクY1を調製した。
【0151】
C.I.リアクティブイエロー95 12.0%
エチレングリコール 7.0%
プロピレングリコール 28.0%
グリセリン 3.0%
ジョンクリル70J(前出 東京化成工業社製水溶性樹脂) 4.0%
イオン交換水 46.0%
(マゼンタインクM1、シアンインクC1、ブラックインクBk1、ライトマゼンタインクLM1、ライトシアンインクLC1の調製)
上記イエローインクY1の調製において、色材としてC.I.リアクティブイエロー94(12.0%)に代えて、それぞれC.I.リアクティブレッド24(13.0%)、C.I.リアクティブブルー72(12.0%)、C.I.リアクティブブラック39(14.0%)、C.I.リアクティブレッド24(3.5%)、C.I.リアクティブブルー72(3.0%)を用いた以外は同様にして、マゼンタインクM1、シアンインクC1、ブラックインクBk1、ライトマゼンタインクLM1、ライトシアンインクLC1を調製した。
【0152】
上記調製したイエローインクY1、マゼンタインクM1、シアンインクC1、ブラックインクBk1、ライトマゼンタインクLM1、ライトシアンインクLC1を、カラーインクセット1とした。
【0153】
《プリントの作成》
〔プリント1−1の作成〕
(インクジェット捺染装置)
図4に記載の構成からなるインクジェット捺染装置1を用い、布帛として幅1400mm、長さ1400mmの綿ブロード(布帛1)を使用し、布帛1を、感熱性地貼り剤を表面に有する粘着性ベルトに密着させた。
【0154】
前処理液付与部では、ライン型インクジェットヘッドを用いて、前処理液3を15ml/mの条件で、綿ブロード上に像様に付与した。次いで、温風による乾燥手段とホットプレートとを用い、布帛表面温度を55℃に加温し、付与した前処理インク3を乾燥した。
【0155】
次いで、6つのヘッドから構成されるヘッドユニットに、上記調製したカラーインクセット1を構成する各色インクを装填し、それぞれ11ml/mの条件で、前処理液3を付与した布帛上に吐出した。各ヘッドは、液滴量14pl、駆動周波数10kHzのピエゾ形ヘッド(ノズル数512)に、カラーインクセット1を構成する各色インクを装填し、720dpi×720dpiの解像度で印字した。なお、本発明でいうdpiとは、2.54cmあたりのドット数を表す。
【0156】
印字画像は、Y、M、C、B、G、R、コンポジットBk(Y、M、C各100%)の最大濃度で、半径30mmの水玉(真円、塗りつぶし)及び、1辺30mmの正方形(塗りつぶし)、デザインプリント柄模様3種の画像を複数個連続して描画した。
【0157】
(後処理)
上記印字画像をプリントした後、布帛を粘着性ベルトから剥離し、剥離した布帛を乾燥機に入れて、70℃の送風乾燥条件で乾燥した後、ロール状に一旦巻き取った。次いで、巻き取ったプリント物を、捺染用スチーマーにて加熱発色し、その後、水洗、湯洗、ソーピング、乾燥を行って、プリント1−1を得た。
【0158】
〔プリント1−2の作成〕
上記プリント1−1の作成において、インクジェット捺染装置1に代えて、図5に示す構成からなる乾燥手段としてホットプレートのみを備えたインクジェット捺染装置2を用いた以外は同様にして、プリント1−2を作成した。
【0159】
〔プリント1−3の作成〕
上記プリント1−2の作成において、前処理液3に代えて、前処理液1を用いた以外は同様にして、プリント1−3を作成した。
【0160】
〔プリント1−4の作成〕
上記プリント1−2の作成において、前処理液3に代えて、前処理液2を用いた以外は同様にして、プリント1−4を作成した。
【0161】
〔プリント1−5の作成〕
上記プリント1−2の作成において、インクジェット捺染装置2に代えて、図5に示す構成からなり、感圧性地貼り剤を表面に有する粘着性ベルトを備えたインクジェット捺染装置3を用いた以外は同様にして、プリント1−5を作成した。
【0162】
〔プリント1−6の作成〕
上記プリント1−2の作成において、前処理液3に代えて、前処理液4を用いた以外は同様にして、プリント1−6を作成した。
【0163】
〔プリント1−7の作成〕
上記プリント1−2の作成において、インクジェット捺染装置2に代えて、図6に示す構成からなる乾燥手段としてマイクロ波照射部及びホットプレートを備えたインクジェット捺染装置4を用いた以外は同様にして、プリント1−7を作成した。
【0164】
〔プリント1−8の作成〕
上記プリント1−2の作成において、前処理液3の付与を行わなかった以外は同様にして、プリント1−8を作成した。
【0165】
〔プリント1−9の作成〕
上記プリント1−2の作成において、ホットプレートによる加熱を停止し、付与した前処理液3の乾燥を行わなかった以外は同様にして、プリント1−9を作成した。
【0166】
《プリントの評価》
上記作成した各プリントの評価を、下記に記載の方法に従って行った。
【0167】
〔滲み耐性の評価〕
各プリントで作成した一辺30mmの正方形(塗りつぶし)の境界部分の滲みの有無を目視観察し、下記の基準に従って、滲み耐性を評価した。
【0168】
○:滲みの発生がまったく認められない
△:Y、M、CインクによるコンポジットBkベタ画像(33ml/m)で、画像周辺部で滲みが見られるが、B、G、Rの二次色ベタ画像(22ml/m)では滲みは殆どない
×:Y、M、C単色画像(11ml/m)でも、画像周辺部でも滲みが見られる
〔画像再現性の評価〕
印字画像の形成、発色、洗濯、乾燥後のプリント水玉模様について、真円性を目視観察し、下記の基準に従って画像再現性を評価した。
【0169】
○:デジタルデータと同じ、真円の水玉がきれいに描画できている
△:真円性は若干崩れているところが散見されるが実用レベル
×:水玉が楕円状に変形し、実用上問題がある
〔発色ムラ耐性の評価〕
各プリントの発色ムラの有無を目視評価し、下記の基準に従って発色ムラ耐性を評価した。
【0170】
○:ムラは認められない
△:目立ちにくいムラが数箇所ある
×:明らかなムラが数箇所ある
以上により得られた結果を、表1に示す。
【0171】
【表1】

【0172】
表1に記載の結果より明らかな様に、反応性染料を含むインクセットを用いて本発明のインクジェット捺染方法に従って作成したプリントは、比較例に対し、滲み耐性、画像再現性及び発色ムラ耐性に優れていることが分かる。
【0173】
実施例2
下記の方法に従って、布帛としてナイロンニット(布帛2)に、色材として酸性染料を含有する下記カラーインクセット2を用いてプリントを行い、プリント2−1〜2−4を作成した。
【0174】
《カラーインクセット2の調製:酸性染料》
(イエローインクY2の調製)
下記の各添加剤を混合して、イエローインクY2を調製した。
【0175】
C.I.アシッドイエロー79 6.0%
エチレングリコール 13.0%
プロピレングリコール 12.0%
グリセリン 3.0%
ジョンクリル70J(前出、東京化成工業社製水溶性樹脂) 4.0%
イオン交換水 62.0%
(マゼンタインクM2、シアンインクC2、ブラックインクBk2、ライトマゼンタインクLM2、ライトシアンインクLC2の調製)
上記イエローインクY2の調製において、色材としてアシッドイエロー79(6.0%)に代えて、それぞれC.I.アシッドレッド249(5.0%)、C.I.ダイレクトブルー199(5.0%)、C.I.アシッドブラック52(6.0%)を用いた以外は、イエローインクY2の調製と同じくして、マゼンタインクM2、シアンインクC2、ブラックインクBk2を調製した。また、上記イエローインクY2の調製において、色材としてC.I.アシッドイエロー79(6.0%)に代えて、C.I.アシッドレッド249(1.8%)、C.I.ダイレクトブルー199(1.6%)を用い、更に、プロピレングリコールの添加量を15.0%に、ジョンクリル70Jの添加量を4.5%に変更した以外は、イエローインクY2の調製と同じにして、ライトマゼンタインクM2、ライトシアンインクLC2を調製した。
【0176】
《プリントの作成》
〔プリント2−1の作成〕
実施例1のプリント1−2の作成において、カラーインクセット1に代えて、カラーインクセット2を使用し、布帛1に代えて布帛2を使用し、前処理液3に代えて前処理液5を使用した以外は、プリント1−2の作成と同じにしてプリント2−1を作成した。
【0177】
〔プリント2−2の作成〕
上記プリント2−1の作成において、インクジェット捺染装置2に代えて、図6に示す構成からなる乾燥手段としてマイクロ波照射部及びホットプレートを備えたインクジェット捺染装置4を用いた以外は同様にして、プリント2−2を作成した。
【0178】
〔プリント2−3の作成〕
上記プリント2−1の作成において、前処理液5の付与を行わなかった以外は同様にして、プリント2−3を作成した。
【0179】
〔プリント2−4の作成〕
上記プリント2−1の作成において、ホットプレートによる加熱を停止し、付与した前処理液5の乾燥を行わなかった以外は同様にして、プリント2−4を作成した。
【0180】
《プリントの評価》
上記作成した各プリントについて、実施例1に記載の方法と同様にして、滲み耐性、画像再現性及び発色ムラ耐性の評価を行った。
【0181】
得られた結果を、表2に示す。
【0182】
【表2】

【0183】
表2に記載の結果より明らかな様に、酸性染料を含むインクセットを用いて本発明のインクジェット捺染方法に従って作成したプリントは、比較例に対し、滲み耐性、画像再現性及び発色ムラ耐性に優れていることが分かる。
【0184】
実施例3
下記の方法に従って、布帛としてポリエステル(サテン)(布帛3)に、色材として分散染料を含有する下記カラーインクセット3を用いてプリントを行い、プリント3−1〜3−4を作成した。
【0185】
《カラーインクセット3の調製:分散染料》
(イエローインクY3の調製)
下記の各添加剤を混合して、イエローインクY3を調製した。
【0186】
C.I.ディスパーズイエロー149 8.0%
リグニンスルホン酸ナトリウム 4.0%
エチレングリコール 25.0%
プロピレングリコール 15.0%
グリセリン 3.0%
イオン交換水 45.0%
(マゼンタインクM3の調製)
上記イエローインクY3の調製において、色材としてC.I.ディスパーズイエロー149(8.0%)に代えて、C.I.ディスパーズレッド302(8.0%)を用いた以外は同様にして、マゼンタインクM3を調製した。
【0187】
(シアンインクC3、ブラックインクBk3の調製)
上記イエローインクY3の調製において、色材としてC.I.ディスパーズブルー60(7.0%)、C.I.ディスパーズブラック10(7.0%)にそれぞれ変更し、さらにリグニンスルホン酸ナトリウムの添加量を3.5%に変更した以外は同様にして、シアンインクC3、ブラックインクBk3を調製した。
【0188】
(ライトマゼンタインクLM3の調製)
下記の各添加剤を混合して、ライトマゼンタインクLM3を調製した。
【0189】
C.I.ディスパーズレッド302 2.0%
リグニンスルホン酸ナトリウム 1.0%
エチレングリコール 25.0%
プロピレングリコール 20.0%
グリセリン 4.5%
イオン交換水 47.5%
(ライトシアンインクLC3の調製)
下記の各添加剤を混合して、ライトシアンインクLC3を調製した。
【0190】
C.I.ディスパーズブルー60 2.0%
リグニンスルホン酸ナトリウム 1.0%
エチレングリコール 25.0%
プロピレングリコール 20.0%
グリセリン 4.5%
イオン交換水 47.5%
《プリントの作成》
〔プリント3−1の作成〕
実施例1のプリント1−2の作成において、カラーインクセット1に代えて、カラーインクセット3を使用し、布帛1に代えて布帛3を使用し、前処理液3に代えて前処理液1を使用した以外は、プリント1−2の作成と同じにしてプリント3−1を作成した。
【0191】
〔プリント3−2の作成〕
上記プリント3−1の作成において、インクジェット捺染装置2に代えて、図6に示す構成からなる乾燥手段としてマイクロ波照射部及びホットプレートを備えたインクジェット捺染装置4を用いた以外は同様にして、プリント3−2を作成した。
【0192】
〔プリント3−3の作成〕
上記プリント3−1の作成において、前処理液1の付与を行わなかった以外は同様にして、プリント3−3を作成した。
【0193】
〔プリント3−4の作成〕
上記プリント3−1の作成において、ホットプレートによる加熱を停止し、付与した前処理液1の乾燥を行わなかった以外は同様にして、プリント3−4を作成した。
【0194】
《プリントの評価》
上記作成した各プリントについて、実施例1に記載の方法と同様にして、滲み耐性、画像再現性及び発色ムラ耐性の評価を行った。
【0195】
得られた結果を、表3に示す。
【0196】
【表3】

【0197】
表3に記載の結果より明らかな様に、酸性染料を含むインクセットを用いて本発明のインクジェット捺染方法に従って作成したプリントは、比較例に対し、滲み耐性、画像再現性及び発色ムラ耐性に優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0198】
1 粘着性ベルト
2 サポートロール
3 搬送ロール
4 ニップロール
6 温風付与手段
6A ファン
6B 発熱体
11、HU ヘッドユニット
111〜114、H ヘッド
13 ホットプレート
14 前処理液付与部(ライン型インクジェットヘッド)
20 マイクロ波照射部
N ノズル
P 布帛

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に接着手段を有する粘着性ベルトに貼り付けた布帛に、ライン型インクジェットヘッドにより前処理液を付与する工程Aと、該布帛にライン型インクジェットヘッドにより色材含有インクを付与する工程Bとを有し、該工程Aと工程Bとをこの順序でオンラインに配置し、かつ該工程Aと工程Bにおける布帛の搬送速度が同一であることを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項2】
前記工程Aと前記工程Bの間に、該布帛を乾燥する乾燥手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項3】
前記粘着性ベルトが有する接着手段が、地貼り剤を有する手段であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項4】
前記色材含有インクが水性記録インクであり、前記前処理液が水性処理液であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット捺染方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−255133(P2010−255133A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105067(P2009−105067)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】