説明

インクジェット捺染用インクセット及びそれを用いた繊維の捺染方法

【課題】工業用インクジェットヘッドが搭載されたプリンタでの吐出安定性に優れ、インクの染料安定性及び繊維への固着性に優れ、かつ印刷物に粒状感がないインクジェット捺染用インクセットを提供する。
【解決手段】少なくとも1種類の着色剤を含むカラーインク組成物と着色剤を含まないクリアーインク組成物を備えるインクセットであり、両インク組成物が平均分子量が340から2200の特定の構造を有するポリオキシアルキレンエーテル化合物及び水を含有することを特徴とするインクジェット捺染用インクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット捺染用インク及びそれを用いたインクジェット捺染方法に関し、更に詳しくは発色性に優れ、粒状感のないインクジェット捺染用のインクセットに関し、特に1種類以上のカラーインクとクリアーインクの組み合わせにより、階調表現時の色再現性に優れ、吐出安定性が良好なインクジェット捺染用インクセット、及びそれを用いたセルロース系繊維のインクジェット捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタを用いた繊維のインクジェット捺染は、スクリーン捺染、ローラー捺染、ロータリー捺染等の捺染方法に比べ、製版工程が不要であり工程が短縮できること;デジタル化されたデザインを、コンピューターを介してそのままプリントできること;多品種の製品を少量ずつであっても生産することが可能であること;染料色糊の廃液などが大幅に削減できること;などの多くのメリットがあるが、従来の製版捺染に比べ、プリント加工速度が遅いこと、及び濃色を再現し難いことなどの課題があり、見本反の製造や少量生産の範囲で使用されることが多かった。
近年、コンピューターの画像処理やプリントヘッド製造の技術的進歩によりインクジェットプリンタのプリント速度が大幅に向上されてきた事;プリントデザインのデジタル化;プリント加工の多様化;及び小ロット化;が市場で要求されてきたことなどを背景に、インクジェット捺染の普及が進んでいる。
インクジェット捺染用の染料インクとしては、シルク、ナイロン等のポリアミド系繊維用の酸性染料インク;ポリエステル系繊維用の分散染料インク;綿、レーヨンなどのセルロース系繊維用の反応性染料(反応染料)インク;等が販売されている。
【0003】
近年では特許文献1に記載されているように、吐出安定性を確保する為のインクの物性として、8〜20mPa・s程度の粘度が必要とされる工業用の高耐久性のインクジェットヘッド及びそれらが搭載された高速プリンタが開発されており、このような粘度範囲に調整を行うためにポリプロピレングリコールを使用することが知られている。
ここで、上記のような特殊な性質を有する反応染料以外の染料又は顔料を着色剤として含有するインク組成物としては、ポリオキシアルキレンジグリセリルエーテルを含有するものも知られている。これらのインク組成物は、反応染料を使用しないこと、及び着色する対象が繊維又はその構造物である布帛等ではないこと等の理由から、その用途は異なるが、そのようなインク組成物の例としては特許文献2乃至3の筆記具用水性インキ(組成物)、及びインクジェット用インク組成物が挙げられる。
【0004】
反応染料を用いたインクジェット捺染においては、通常、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4色の染料インクを備えたインクセットが用いられており、高画質、高堅牢性の印捺物の提供が可能で、且つ吐出安定性にも優れたインクセットの開発が要望されている。この要望に対しこれまで種々のインクジェット捺染用インクセットが提案されてきたが、従来のインクセットでは、インクジェット特有の粒状感が表現されてしまうという問題があった。この問題の解決を図る方法としては通常のインクよりも染料濃度を低減させた低濃度インク、つまりライトインクを使用する方法が一般的であるが、この方法では色ごとにライトインクを調製する必要があり、通常のブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4色の染料インクセットに対し、ライトブラック、ライトイエロー、ライトマゼンタ、及びライトシアンの4色のライトインクセットが必要になり、装置設計が複雑になる。これに対し、1種類のクリアーインクを併用する方法があり、特許文献4に記載のものでは、紙上に特定の溶解性を有する溶剤を含有するクリアーインク組成物をインクジェット吐出することにより、顔料インクの混色を防止し印画品質を向上させることが知られている。また、特許文献5に記載のものでは、紙上に多価金属塩を有するクリアーインク組成物をインクジェット吐出することにより、染顔料インクの発色性を向上させることが知られている。
捺染インクジェット分野ではこのようなクリアーインクとして、特許文献6に記載のものでは前処理を施していない布帛に対して、にじみ、インク混じりを押さえ、かつ高濃度の発色が可能なクリアーインク組成物が提案されているが、このクリアーインクはインクジェット捺染の前処理工程を代替するものであり、本発明が目的とする階調表現時の粒状感を低減し、印画画質を向上させるものとは異なる。また特許文献7には特定の化合物を混合し、吐出安定性、保存安定性、繊維への固着性を改善するカラーインク組成物が提案されている。しかし、このカラーインク組成物も階調表現時の粒状感の低減に関するものではない。そのため産業用インクジェットヘッド用の高粘度で、十分な階調表現時の印画品質を有する捺染用クリアーインク及び、カラーインクとのインクセットは未だ提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−520015号公報
【0006】
【特許文献2】特開平4−36362号公報
【0007】
【特許文献3】特開2004−346134号公報
【0008】
【特許文献4】特開2000−204305号公報
【0009】
【特許文献5】特許第2675001号
【0010】
【特許文献6】特開2010−65209号公報
【0011】
【特許文献7】国際公開2009/104547号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発色性に優れ、粒状感が無く、吐出安定性も良好なインクジェット捺染用の、カラーインク組成物及びクリアーインク組成物を備えるインクセットの提供。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは前記したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、少なくとも一種類の着色剤を含有すると共に、水及び下記式(1)で表される特定の化合物を含有することを特徴とするインク組成物と着色剤を含まないクリアーインク組成物のインクセットが、上記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させたものである。即ち本発明は、以下1)〜9)に関する。
1)少なくとも1種類の着色剤を含むカラーインク組成物と着色剤を含まないクリアーインク組成物を備えるインクセットであり、両インク組成物が下記式(1)で表される平均分子量が340から2200の化合物及び水を含有することを特徴とするインクジェット捺染用インクセット。
【化1】

[式中、
1、X2、X3、X4はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を、
j、k、m及びnは、総和で4以上40以下の数を、それぞれ表す。]。
2)式(1)におけるX1、X2、X3及びX4の全てがメチル基である1)に記載のインクジェット捺染用インクセット。
3)式(1)で表される平均分子量が340から2200の化合物のクリアーインク組成物中における含有量が10質量%以上である1)又は2)に記載のインクジェット捺染用インクセット。
4)着色剤が、モノクロルトリアジン系の反応染料である1)乃至3)のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
5)両インク組成物が水溶性有機溶剤を含有する1)乃至4)のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
6)両インク組成物がpH調整剤を含有する1)乃至5)のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
7)両インク組成物の粘度が8〜20mPa・sの範囲である1)乃至6)のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
8)1)乃至7)のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセットを、インクジェットプリンタを用いてセルロース系繊維に付与する工程と、該工程により付与したインク組成物中の染料を熱により繊維に反応固着させる工程と、繊維中に残存する未固着染料を洗浄する工程とを含むことを特徴とするセルロース系繊維の捺染方法。
9)1種以上の糊材、アルカリ性物質、及びヒドロトロピー剤を少なくとも含む水溶液を、インク組成物を付与する前の繊維に含浸させる、繊維の前処理工程をさらに含むことを特徴とする8)に記載のセルロース系繊維の捺染方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインクセット、及びこれを使用することを特徴とする捺染方法により、吐出安定性、インクの染料安定性及び繊維への固着性に優れ、かつ印刷物の粒状感がないインクセットを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のインクセットは、セルロース系繊維及び該繊維からなる布帛(以下便宜上、この両者を含めて「セルロース系繊維」と記載する)等のインクジェット捺染に用いられるインクセットであり、少なくとも、カラーインク及びクリアーインクの2種のインク組成物を備えるインクセットである。
なお、以下において、本発明のインクセットにおけるカラーインク及びクリアーインクをそれぞれ「本発明のカラーインク」、「本発明のクリアーインク」と記載する場合がある。
【0016】
本発明のインクセットが備えるカラーインク組成物は、色素として少なくとも一種類の着色剤、式(1)で表される平均分子量が340から2200の化合物、及び水を含有する。このカラーインク組成物について以下詳述する、
【0017】
本発明のカラーインク組成物としては、ブラック及びイエロー、マゼンタ、シアンを加えた4色のインク組成物を備えるインクセットとすることにより、フルカラーの捺染を実現できる。ブラック及びイエロー、マゼンタ、シアンインク組成物に含有する着色剤は公知のもので良く、特に制限されないが、顔料よりも染料であることが好ましく、反応染料であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明のインクセットを、上記4色のインク組成物を備えるインクセットとして用いる場合に使用できるイエローインク組成物に含有される着色剤としては、例えばC.I.Reactive Yellow 2、3、18、81、84、85、95、99、102等が挙げられ、C.I.Reactive Yellow 2及び/又は95が好ましい。また、イエローインク組成物の総質量中における該着色剤の含有量は、通常0.5〜20質量%、好ましくは7〜15質量%である。
【0019】
本発明のインクセットを、上記4色のインク組成物を備えるインクセットとして用いる場合に使用できるマゼンタインク組成物に含有される着色剤としては、例えばC.I.Reactive Red 3、3:1、4、13、24、29、31、33、125、151、206、218、226、245等のレッド系の染料が挙げられ、C.I.Reactive Red 3:1及び/又は31及び/又は245が好ましい。また、マゼンタインク組成物の総質量中における該着色剤の含有量は、通常0.5〜20質量%、好ましくは7〜15質量%である。
【0020】
本発明のインクセットを、上記4色のインク組成物を備えるインクセットとして用いる場合に使用できるシアンインク組成物に含有される着色剤としては、例えばC.I.Reactive Blue 2、5、10、13、14、15、15:1、49、63、71、72、75、162、176等のブルー系の染料が挙げられ、C.I.Reactive Blue 15:1及び/又は49が好ましい。また、シアンインク組成物の総質量中における該着色剤の含有量は、通常0.5〜20質量%、好ましくは7〜15質量%である。
【0021】
本発明のインクセットを、上記4色のインク組成物を備えるインクセットとして用いる場合に使用できるブラックインク組成物に含有される着色剤としては、例えばC.I.Reactive Black 1、8、23、39等のブラック系の染料が挙げられ、特にC.I.Reactive Black 8が好ましい。また、ブラックインク組成物の総質量中における該着色剤の含有量は、通常0.5〜20質量%、好ましくは10〜20質量%である。
【0022】
上記ブラックインク組成物においてはブルー系染料を主体とし、オレンジ系及びレッド系染料を配合した混合染料も着色剤として用いることができる。またブラックインク組成物には色調調整の目的で、更に他の染料を含んでも良い。
【0023】
上記ブラックインク組成物に配合される着色剤としては、C.I.Reactive Orange 5、9、12、13、35、45、99等のオレンジ系の染料;C.I.Reactive Brown 2、8、9、10、11、17、33等のブラウン系の染料;C.I.Reactive Red 3、3:1、4、13、24、29、31、33、125、151、206、218、226、245等のレッド系の染料;C.I.Reactive Violet 1、24等のバイオレット系の染料;C.I.Reactive Blue 2、5、10、13、14、15、15:1、49、63、71、72、75、162、176等のブルー系の染料;C.I.Reactive Green 5、8、19等のグリーン系の染料が挙げられ、特にオレンジ系、レッド系、ブルー系の染料の配合が好ましい。また、ブラックインク組成物の総質量中における着色剤の総含有量は、これらの配合可能な着色剤も含めて、通常0.5〜20質量%、好ましくは10〜20質量%である。
【0024】
本発明のインクセットには、上記の4色のインクセット、即ちシアン、マゼンタ、イエロー及びブラックの各インク組成物を備えるインクセットに、必要に応じてライトイエロー、ライトマゼンタ、ライトシアン、ライトブラック、ブルー、バイオレット、レッド、オレンジ、グリーン、ゴールデンイエロー、ブラウン等の、一般に「特色」とも呼称されるインク組成物を加えた5〜15色のインクセットとし、より色相に富んだ捺染を実現することもできる。
【0025】
上記特色の内、ライトイエロー、ライトマゼンタ、ライトシアン、ライトブラックのインク組成物としては、上記の4色のインク組成物、即ちシアン、マゼンタ、イエロー及びブラックの各インク組成物中に含まれる染料濃度をそれぞれ低減して調製したインク組成物を使用するのが良い。その染料濃度は質量基準で通常1/2以下、好ましくは1/4以下、より好ましくは1/6以下、下限はおおよそ1/20、好ましくは1/10である。
また、ライトイエローインク、ライトマゼンタインク、ライトシアンインク、ライトブラックインク組成物に含有される着色剤は上記の4色のインクセット、即ちシアン、マゼンタ、イエロー及びブラックの各インク組成物と同じものが良い。
【0026】
上記特色の内、オレンジインク組成物に含有される着色剤としては、例えばC.I.Reactive Orange 5、9、12、13、35、45、99等が挙げられ、C.I.Reactive Orange 13が好ましい。また、オレンジインク組成物の総質量中における該着色剤の含有量は、通常0.5〜20質量%、好ましくは7〜15質量%である。
【0027】
上記特色の内、ゴールデンイエローインク組成物に含有される着色剤としては、例えばC.I.Reactive Orange 5、9、12、13、35、45、99等が挙げられ、C.I.Reactive Orange 12及び/又は99が好ましい。また、ゴールデンイエローインク組成物の総質量中における該着色剤の含有量は、通常0.5〜20質量%、好ましくは7〜15質量%である。
【0028】
上記特色の内、レッドインク組成物に含有される着色剤としては、例えばC.I.Reactive Red 3、3:1、4、13、24、29、31、33、125、151、206、218、226、245等が挙げられ、C.I.Reactive Red 3:1及び/又は245が好ましい。また、レッドインク組成物の総質量中における該着色剤の含有量は、通常0.5〜20質量%、好ましくは7〜15質量%である。
【0029】
上記特色の内、ブルーインク組成物に含有される着色剤としては、例えばC.I.Reactive Blue 2、5、10、13、14、15、15:1、49、63、71、72、75、162、176等が挙げられ、C.I.Reactive Blue 49が好ましい。また、ブルーインク組成物の総質量中における該着色剤の含有量は、通常0.5〜20質量%、好ましくは7〜15質量%である。
【0030】
上記特色の内、グリーンインク組成物に含有される着色剤としては、例えばC.I.Reactive Green 5、8、19等が挙げられ、C.I.Reactive Green 5及び/又は8及び/又は19が好ましい。また、グリーンインク組成物の総質量中における該着色剤の含有量は、通常0.5〜20質量%、好ましくは7〜15質量%である。
【0031】
上記特色の内、バイオレットインク組成物に含有される着色剤としては、例えばC.I.Reactive Violet 1、24等が挙げられ、C.I.Reactive Violet 1及び/又は24が好ましい。また、バイオレットインク組成物の総質量中における該着色剤の含有量は、通常0.5〜20質量%、好ましくは7〜15質量%である。
【0032】
上記特色の内、ブラウンインク組成物に含有される着色剤としては、例えばC.I.Reactive Brown 2、8、9、10、11、17、18、33等が挙げられ、C.I.Reactive Brown 9及び/又は18が好ましい。また、ブラウンインク組成物の総質量中における該着色剤の含有量は、通常0.5〜20質量%、好ましくは7〜15質量%である。
【0033】
上記の反応染料は、粉末状;塊状;又はウエットケーキ;等の染料等を使用することもできる。市販のこれら反応染料には、工業染色用粉末、捺染用液状品、インクジェット捺染用などの各種の品質があり、製造方法、純度等がそれぞれ異なり、中には塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を相当量(製品の総質量中において、おおよそ10質量%〜40質量%)含有するものもある。本発明のインクセットを構成する各インク組成物は、保存安定性及びインクジェットプリンタからの吐出精度への悪影響を少なくするため、できるだけ不純物の少ない材料を使用して調製するのが好ましい。又、特に精製操作を行わない水等は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の金属イオンを含むため、このような水等をインク組成物の調製に使用した場合にも、微量ながら該イオン等が混入する。上記の無機塩及び金属イオンを含めて、本明細書においては便宜上、「無機不純物」と以下記載する。これらの無機不純物は、染料のインク組成物に対する溶解度及び貯蔵安定性を著しく悪くするだけでなく、インクジェットプリンタヘッドの腐食・磨耗の原因ともなる。これらの無機不純物を除去するために限外濾過法、逆浸透法、イオン交換法等の公知の方法を利用し、インク組成物中に含有する無機不純物をできるだけ除去することが好ましい。インク組成物の総質量中に含有する無機不純物の含有量は、通常1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。下限は検出機器の検出限界以下、すなわち0%でよい。
【0034】
本発明のカラーインク組成物が含有する、式(1)で表される平均分子量が340から2200の化合物について以下詳述する。
該化合物において、X1、X2、X3、X4はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を;j、k、m及びnは、総和で4以上40以下の数を;それぞれ表す。
1乃至X4は、同一であっても異なっていてもよいが、入手容易性の観点から同一であることが好ましい。また、X1乃至X4の全てが水素原子であるか、又はメチル基であるものがより好ましく、全てがメチル基であるものが特に好ましい。インク組成物の高粘度が容易であり、かつ着色剤との相溶性も優れる為である。
【0035】
式(1)で表される化合物は、ジグリセリンに酸化プロピレン又は酸化エチレンを付加重合して得られる化合物であり、k、j、m及びnは、付加重合の平均値である。
【0036】
式(1)で表される化合物が、酸化プロピレンを付加重合して得られる化合物、すなわち式(1)において、X1乃至X4がいずれもメチルで表される化合物である場合、k、j、m及びnは、その総和でおよそ4以上24以下を表す。各k、j、m及びnの範囲は、これらが平均値であるため、特定することは困難であるが、同じ程度の値であることが好ましい。具体的にはk、j、m及びnのいずれもが、およそ1程度から6程度の範囲であるのがよい。この場合、上記式(1)で表される化合物の平均分子量は、通常340程度から2200程度、好ましくは380程度から2000程度、より好ましくは400程度から1600程度である。
【0037】
上記式(1)で表される化合物が、酸化エチレンを付加重合して得られる化合物、すなわち式(1)において、X1乃至X4がいずれも水素原子で表される化合物である場合、k、j、m及びnは、その総和でおよそ6以上40以下を表す。各k、j、m及びnの範囲は、上記と同様に、同じ程度の値であることが好ましく、具体的にはk、j、m及びnのいずれもが、およそ1.5程度から10程度の範囲であるのがよい。この場合、上記式(1)で表される化合物の平均分子量は、通常390程度から2200程度、好ましくは430程度から2200程度、より好ましくは450程度から2000程度である。
【0038】
本発明で用いる上記式(1)で表される化合物は、一般に、ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルまたはポリオキシエチレンジグリセリルエーテルとして知られており、市場から入手することもできる。その具体例としては、例えば、いずれも阪本薬品工業株式会社製 商品名SC−P400[上記式(1)において、k+j+m+n=4、平均分子量400の化合物]、SC−P750(同様にk+j+m+n=9、平均分子量750の化合物)、SC−P1000(同様にk+j+m+n=14、平均分子量1000の化合物)、SC−P1200(同様にk+j+m+n=18、平均分子量1200の化合物)、SC−P1600(同様にk+j+m+n=24、平均分子量1600の化合物)等のポリオキシプロピレンジグリセリルエーテル;SC−E450[上記式(1)において、k+j+m+n=6、平均分子量450の化合物]、SC−E750(同様にk+j+m+n=13、平均分子量750の化合物)、SC−E1000(同様にk+j+m+n=20、平均分子量1000の化合物)、SC−E1500(同様にk+j+m+n=30、平均分子量1500の化合物)、SC−E2000(同様にk+j+m+n=40、平均分子量2000の化合物)等のポリオキシエチレンジグリセリルエーテル;等が挙げられる。
これらの具体例のうちでは、平均分子量がおよそ340〜2200、好ましくは400から2000のものがよい。なお平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる重量平均分子量を意味する。
【0039】
上記式(1)で表される化合物は、本発明のカラーインク組成物において、i)少ない添加量でインク組成物の粘度を上げられ、ii)任意の比率で水と混合でき、iii)また、高分子量になっても性状が液体である為、水と任意の比率で混合でき、iv)反応染料と反応せず、染色を阻害せず、v)インク組成物の吐出性に悪影響を与えないという利点を有する。従って、該化合物は、主に本発明のインク組成物の粘度調整を目的として使用され、更には本発明のカラーインク組成物に色素として含有する反応染料と反応することなく、該インク組成物の粘度を、高速での吐出応答性等を要求される工業用インクジェットヘッドに適する値の範囲に調整することを可能とする。
該インク組成物の総質量中における式(1)で表される化合物の含有量は、通常3〜50質量%、好ましくは4〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%である。
【0040】
本発明のインクセットが備えるクリアーインク組成物は式(1)記載の平均分子量が340から2200の化合物、及び水を含有する。このクリアーインク組成物について以下詳述する。
【0041】
本発明のクリアーインク組成物は、式(1)で表される平均分子量が340から2200の化合物を含有する。
【0042】
該化合物において、X1、X2、X3、X4はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を;j、k、m及びnは、総和で4以上40以下の数を;それぞれ表す。
1乃至X4は、同一であっても異なっていてもよいが、入手容易性の観点から同一であることが好ましい。また、X1乃至X4の全てが水素原子であるか、又はメチル基であるものがより好ましく、全てがメチル基であるものが特に好ましい。インク組成物の高粘度が容易であり、かつ着色剤との相溶性も優れる為である。
【0043】
式(1)で表される化合物は、ジグリセリンに酸化プロピレン又は酸化エチレンを付加重合して得られる化合物であり、k、j、m及びnは、付加重合の平均値である。
【0044】
式(1)で表される化合物が、酸化プロピレンを付加重合して得られる化合物、すなわち式(1)において、X1乃至X4がいずれもメチルで表される化合物である場合、k、j、m及びnは、その総和でおよそ4以上24以下を表す。各k、j、m及びnの範囲は、これらが平均値であるため、特定することは困難であるが、同じ程度の値であることが好ましい。具体的にはk、j、m及びnのいずれもが、およそ1程度から6程度の範囲であるのがよい。この場合、上記式(1)で表される化合物の平均分子量は、通常340程度から2200程度、好ましくは380程度から2000程度、より好ましくは400程度から1600程度である。
【0045】
上記式(1)で表される化合物が、酸化エチレンを付加重合して得られる化合物、すなわち式(1)において、X1乃至X4がいずれも水素原子で表される化合物である場合、k、j、m及びnは、その総和でおよそ6以上40以下を表す。各k、j、m及びnの範囲は、上記と同様に、同じ程度の値であることが好ましく、具体的にはk、j、m及びnのいずれもが、およそ1.5程度から10程度の範囲であるのがよい。この場合、上記式(1)で表される化合物の平均分子量は、通常390程度から2200程度、好ましくは430程度から2200程度、より好ましくは450程度から2000程度である。
【0046】
本発明で用いる上記式(1)で表される化合物は、一般に、ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルまたはポリオキシエチレンジグリセリルエーテルとして知られており、市場から入手することもできる。その具体例としては、例えば、いずれも阪本薬品工業株式会社製 商品名SC−P400[上記式(1)において、k+j+m+n=4、平均分子量400の化合物]、SC−P750(同様にk+j+m+n=9、平均分子量750の化合物)、SC−P1000(同様にk+j+m+n=14、平均分子量1000の化合物)、SC−P1200(同様にk+j+m+n=18、平均分子量1200の化合物)、SC−P1600(同様にk+j+m+n=24、平均分子量1600の化合物)等のポリオキシプロピレンジグリセリルエーテル;SC−E450[上記式(1)において、k+j+m+n=6、平均分子量450の化合物]、SC−E750(同様にk+j+m+n=13、平均分子量750の化合物)、SC−E1000(同様にk+j+m+n=20、平均分子量1000の化合物)、SC−E1500(同様にk+j+m+n=30、平均分子量1500の化合物)、SC−E2000(同様にk+j+m+n=40、平均分子量2000の化合物)等のポリオキシエチレンジグリセリルエーテル;等が挙げられる。
これらの具体例のうちでは、平均分子量がおよそ340〜2200、好ましくは400から2000のものがよい。なお平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる重量平均分子量を意味する。
【0047】
上記式(1)で表される化合物は、本発明のクリアーインク組成物において、i)少ない添加量でインク組成物の粘度を上げられ、ii)任意の比率で水と混合でき、iii)また、高分子量になっても性状が液体である為、水と任意の比率で混合でき、iv)インク組成物の塗出性に悪影響を与えないという利点を有する。従って、該化合物は、主に本発明のインク組成物の粘度調整を目的として使用され、本発明のクリアーインク組成物の粘度を、高速での吐出応答性等を要求される工業用インクジェットヘッドに適する値の範囲に調整することを可能とする。
該インク組成物の総質量中における式(1)で表される化合物の含有量は、通常10〜50質量%、好ましくは11〜45質量%、より好ましくは12〜35質量%である。
【0048】
本発明のインクセットを構成する上記各インク組成物は、工業用インクジェットヘッドが搭載されたプリンタでの使用時において、高速での吐出応答性を改善することを目的とし、25℃における粘度がE型粘度計にて測定したときに通常3〜20mPa・s、好ましくは8〜20mPa・sの範囲であるのがよい。
この際の表面張力は、プレート法にて測定したときに通常20〜40mN/mの範囲が好ましい。より詳細には、使用するプリンタの吐出量、応答速度、インク液滴の飛行特性、及び該インクジェットヘッドの特性などを考慮し、適切な物性値に調整するのがよい。
【0049】
本発明のインクセットを構成する上記各インク組成物は水溶性有機溶剤を含有しても良い。水溶性有機溶剤は、粘度調整剤や乾燥防止剤としての機能を有する場合もあるため、本発明のインクセットを構成するインク組成物中には含有する方が好ましい。また、本発明のインクセットは反応染料を含有するインク組成物で構成されるため、インク組成物中において該染料と反応せず、またインクジェットプリンタにおけるノズルでの目詰まりの防止等を目的とし、湿潤効果の高いものが好ましい。
上記のような水溶性有機溶剤としては多価アルコール類、ピロリドン類等を挙げることができる。多価アルコール類としては、例えばアルコール性水酸基を2〜3個有するC2−C6多価アルコール及び、又は繰り返し単位が4以上で、分子量20,000程度以下のポリC2−C3アルキレングリコール、好ましくは液状のポリアルキレングリコール等が挙げられる。これらの中ではC2−C3アルキレングリコール及びピロリドン類が好ましく、前者がより好ましい。
水溶性有機溶剤の具体例としては、グリセリン、1,3−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール性水酸基を2〜3個有するC2−C6多価アルコール;ジグリセリン、ポリグリセリン等のポリグリセリルエーテル;ポリオキシエチレンポリグリセリルエーテル、ポリオキシプロピレンポリグリセリルエーテル等のポリオキシC2−C3アルキレンポリグリセリルエーテル;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の、モノ、ジ又はトリC2−C3アルキレングリコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリC2−C3アルキレングリコール;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン類;等が挙げられる。これらの中ではプロピレングリコール及び2−ピロリドンが特に好ましい。
水溶性有機溶剤は、単独、又は併用して使用される。
【0050】
本発明のインクセットを構成する各インク組成物は、上記の水溶性有機溶剤以外に、例えば界面活性剤、pH調整剤、防腐防黴剤等のインク調製剤をさらに含有してもよい。
インク組成物の表面張力は各種の界面活性剤、すなわちアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤などで調製するのが好ましい。
【0051】
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸又はその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩などが挙げられる。
カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体などが挙げられる。
【0052】
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体などが挙げられる。
【0053】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどのアセチレンアルコール系;他の具体例として、例えば、日信化学社製 商品名サーフィノール104、82、440、465、オルフィンSTG;等が挙げられる。好ましくはサーフィノール系、より好ましくはサーフィノール440である。
【0054】
本発明のインクセットを構成する各インク組成物は、pH調整剤として、さらにトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを含有することが好ましい。トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンは、pH維持性に優れ、かつ反応染料の分解を防ぎ、高い経時安定性を示す為である。該各インク組成物の総質量中におけるトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンの含有量は、通常0.1〜2質量%、好ましくは0.3〜1.5質量%である。
【0055】
また本発明のインクセットを構成する各インク組成物には、必要に応じて、防腐防黴剤;トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン以外のpH調整剤;などのインク調製剤を添加することもできる。これらのインク調製剤は合計で、インク組成物の総質量に対して、通常0〜10質量%程度であり、好ましくは0.05〜5質量%程度である。
防腐防黴剤としては例えばデヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ソジウムピリジンチオン−1−オキサイド、ジンクピリジンチオン−1−オキサイド、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、1−ベンズイソチアゾリン−3−オンのアミン塩、アベシア社製プロクセルGXL等、好ましくはプロクセルGXLを;pH調整剤としては例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化アルカリ類、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等の3級アミン類などが挙げられる。本発明の各インク組成物は上記各成分を適宜、攪拌などそれ自体公知の方法で水に混合することによって調製することができる。
【0056】
本発明のインクセットを構成するカラーインク組成物の好適な具体例としては、特に限定される訳ではないが、その総質量中において、色素として少なくとも一種類の着色剤、式(1)で表される平均分子量が340から2200の化合物、水及びこれらに加えて、水溶性有機溶剤を含有するのが好ましく、さらにpH調整剤を含有するのがより好ましい。
以下に該各インク組成物の総質量中における、各成分の含有量を記載するが、これらはいずれも質量基準である。
色素として含有する着色剤は、通常0.5〜20質量%、好ましくは7〜15質量%である。また、式(1)で表される平均分子量が340から2200の化合物は 3〜50質量%、好ましくは4〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%である。
また、水溶性有機溶剤を含有する場合、その含有比率は通常1〜50質量%、好ましくは5〜40質量%である。
【0057】
また、pH調整剤、好ましくはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンをさらに含有する場合、その含有比率は通常0.1〜2質量%、好ましくは0.3〜1.5質量%である。これ以外の残部は水である。
【0058】
上記の各インク組成物に含有してもよい他のインク調製剤としては、好ましくは、界面活性剤及び防腐防黴剤が挙げられる。また界面活性剤としてはノニオン界面活性剤が好ましく、アニオン界面活性剤やカチオン界面活性剤と併用しても良い。これらを含有する場合、その含有比率は合計でインク組成物の総質量に対して、0〜10質量%、好ましくは0.05〜5質量%である。また、各インク組成物中における着色剤、式(1)で表される平均分子量が340から2200の化合物、水溶性有機溶剤及びインク調製剤等の含有量については、各色で同一である必要は無く、含有する着色剤の性質等に応じて、該組成物の粘度等を考慮しながら適宜調製するのが好ましい。
【0059】
本発明のインクセットを構成するクリアーインク組成物の好適な具体例としては、特に限定される訳ではないが、その総質量中において、式(1)で表される平均分子量が340から2200の化合物、水及びこれらに加えて、水溶性有機溶剤を含有するのが好ましく、さらにpH調整剤を含有するのがより好ましい。
以下に該各インク組成物の総質量中における、各成分の含有量を記載するが、これらはいずれも質量基準である。
該インク組成物の総質量中における式(1)で表される化合物の含有量は、通常10〜50質量%、好ましくは11〜45質量%、より好ましくは12〜35質量%である。
また、水溶性有機溶剤を含有する場合、その含有比率は通常1〜60質量%、好ましくは5〜50質量%である。
また、pH調整剤、好ましくはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンをさらに含有する場合、その含有比率は通常0.1〜2質量%、好ましくは0.3〜1.5質量%である。これ以外の残部は水である。
上記の各インク組成物に含有してもよい他のインク調製剤としては、好ましくは界面活性剤及び防腐防黴剤が挙げられる。また界面活性剤としてはノニオン界面活性剤が好ましく、アニオン界面活性剤やカチオン界面活性剤と併用しても良い。これらを含有する場合、その含有比率は合計でインク組成物の総質量に対して、0〜10質量%、好ましくは0.05〜5質量%である。
【0060】
本発明のインクセットを構成する各インク組成物は、必要に応じて上記成分をそれぞれ混合し、染料等の固形分が溶解するまで攪拌することにより得られる。インクジェット捺染に用いる場合には、該各インク組成物をメンブランフィルター等で濾過することにより、夾雑物を除いたものを使用するのが好ましい。メンブランフィルターの孔径は通常1μm〜0.1μm、好ましくは、0.5μm〜0.1μmである。
なお、該各インク組成物が含有する水溶性有機溶剤及びインク調製剤の種類は、それぞれ独立に上記の中から選択しても良いが、同一のものを使用するのが好ましい。
【0061】
本発明のカラーインク組成物は、工業用インクジェットヘッドが搭載されたプリンタでの使用時において、高速での吐出応答性を改善することを目的とし、25℃における粘度がE型粘度計にて測定したときに通常3〜20mPa・s、好ましくは8〜20mPa・sの範囲であるのがよい。
この際の表面張力は、プレート法にて測定したときに通常20〜40mN/mの範囲が好ましい。より詳細には、使用するプリンタの吐出量、応答速度、インク液滴の飛行特性、及び該インクジェットヘッドの特性などを考慮し、適切な物性値に調整するのがよい。
【0062】
本発明のインクジェット捺染方法は、本発明のインクセットを用いてセルロース系繊維、好ましくは該繊維よりなる布帛に捺染する方法である。その際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。布帛については、セルロース系繊維を主体とするものが好ましく、例えば木綿、麻等の天然繊維、レーヨン等の再生のセルロース繊維、及びこれらを含有する混紡繊維等が挙げられる。
【0063】
本発明のインクセットを用いて、セルロース系繊維に捺染する方法としては、例えば、本発明のインクセットをインクとして用い、インクジェットプリンタによりセルロース系繊維に該インクを付与する工程(工程A);工程Aにより付与したインク中の着色剤を熱により該繊維に反応固着させる工程(工程B);該繊維中に残存する未固着の着色剤を洗浄する工程(工程C);の3工程を順次行う方法等があげられる。好ましくは、セルロース系繊維に対してにじみ防止等の前処理を施す工程(工程D)をさらに含むのが良い。
【0064】
上記の工程Aとしては、例えば上記のインク組成物が充填された容器をインクジェットプリンタの所定位置に装填し、通常のインクジェット記録方法で、各インク組成物をインクとして用い、記録信号に応じて該インクのインク滴を吐出させて、セルロース系繊維にインクを付与すればよい。インクジェット記録方法は、本発明のクリアーインク組成物と共に、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、必要に応じて、ライトイエロー、ライトマゼンタ、ライトシアン、ライトブラック、オレンジ、ブルー、レッド、ゴールデンイエロー、グリーン、バイオレット及びブラウン等の各インク組成物を併用しうる。この場合、各色のインク組成物は、それぞれの容器に注入され、それらの容器をインクジェットプリンタの所定位置に装填して使用すれば良い。
インクジェットプリンタには、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式;加熱により生ずる泡を利用したバブルジェット(登録商標)方式;等を利用したものがある。本発明のインクジェット記録方法は、いかなる方式であっても使用が可能である。
【0065】
上記の工程B、すなわち、染料を反応固着させる工程としては、例えば、上記のようにしてセルロース系繊維にインクを付与した後、該繊維を室温〜130℃に0.5〜30分放置して予備乾燥させ、その後、スチーミング処理を施して、湿熱条件下に該繊維に着色剤を固着させる方法等が挙げられる。スチーミング処理としては、湿度80〜100%、温度95〜105℃の環境に、5〜20分置くことが好ましい。
【0066】
上記の工程C、すなわち、未固着染料を洗浄する工程としては、スチーミング処理後のセルロース系繊維を温水、さらに必要に応じて水により洗浄することが好ましく、該(温)水中には界面活性剤を含んでもよい。
その後、該繊維を50〜120℃で、5〜30分乾燥することにより捺染物を得ることができる。
【0067】
上記の工程D、すなわち、セルロース系繊維に対して前処理を施す工程は、本発明の捺染方法において必須ではないが、捺染物における着色剤のにじみを防止すること等の観点からは、工程Dにより前処理を施した該繊維に対して上記の工程A乃至Cの3工程を行うのが好ましい。
前処理を施す工程としては、糊剤、アルカリ性物質、還元防止剤及びヒドロトロピー剤を含む前処理剤の水溶液を前処理液として用い、セルロース系繊維に付与、好ましくは該繊維を前処理液に含浸させて付与するのが好ましい。
上記糊剤としては、グアー、ローカストビーン等の天然ガム類、澱粉類、アルギン酸ソーダ、ふのり等の海藻類、ペクチン酸等の植物皮類、メチル繊維素、エチル繊維素、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素誘導体、カルボキシメチル澱粉等の加工澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸エステル等の合成糊等があげられる。好ましくはアルギン酸ソーダがあげられる。
上記アルカリ性物質としては、例えば無機酸または有機酸のアルカリ金属塩;アルカリ土類金属の塩;並びに加熱した際にアルカリを遊離する化合物が挙げられ、無機又は有機の、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム化合物及びカリウム化合物等が挙げられる。具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸ナトリウム等の無機化合物のアルカリ金属塩;蟻酸ナトリウム、トリクロル酢酸ナトリウム等の有機化合物のアルカリ金属塩;等が挙げられる。好ましくは、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。
上記還元防止剤としては、メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
上記ヒドロトロピー剤としては、尿素、ジメチル尿素等の尿素類等があり、好ましくは尿素が挙げられる。
上記糊剤、アルカリ性物質、還元防止剤、及びヒドロトロピー剤の4種の前処理剤は、単独で用いても併用しても良いが、併用するのが好ましい。また、各前処理剤のそれぞれについては単独で使用しても併用しても良い。
前処理液の総質量中における各前処理剤の混合比率は、例えば、いずれも質量基準で、糊剤が0.5〜5質量%、炭酸水素ナトリウムが0.5〜5質量%、メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムが0〜5質量%、尿素が1〜20質量%、残部が水である。
前処理剤のセルロース系繊維への付与は、たとえばパディング法が挙げられる。パディングの絞り率は40〜90%程度が好ましく、より好ましくは60〜80%程度である。
【実施例】
【0068】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。実施例において特に断りがない限り、「部」は質量部を、「%」は質量%をそれぞれ意味する。
【0069】
実施例、及び比較例において特に断りがない限り、各インク組成物の総質量は100質量部である。
【0070】
実施例1〜5
下記する各実施例に記載の成分を混合し、固形分が溶解するまでおおよそ1時間攪拌することにより、それぞれのインク組成物を得た後、0.45μmのメンブランフィルター(商品名、セルロースアセテート系濾紙、アドバンテック社製)で濾過することにより、試験用のインク組成物を調製した。
【0071】
実施例1(クリアーインク1)
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 0.5部
SC−P1000 15部
プロピレングリコール 35部
2−ピロリドン 7部
サーフィノール440 0.1部
プロキセルGXL 0.1部
イオン交換水 残部
【0072】
実施例2(クリアーインク2)
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 0.5部
SC−E2000 15部
プロピレングリコール 35部
2−ピロリドン 7部
サーフィノール440 0.1部
プロキセルGXL 0.1部
イオン交換水 残部
【0073】
実施例3(クリアーインク3)
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 0.5部
SC−E450 25部
プロピレングリコール 25部
2−ピロリドン 7部
サーフィノール440 0.1部
プロキセルGXL 0.1部
イオン交換水 残部
【0074】
実施例4(マゼンタインク)
C.I. Reactive Red 3:1 10部
(日本化薬株式会社製 モノクロルトリアジン系反応性染料)
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 0.5部
SC−P400 25部
プロピレングリコール 10部
2−ピロリドン 3部
サーフィノール440 0.1部
プロキセルGXL 0.1部
イオン交換水 残部
【0075】
実施例5(オレンジインク)
C.I. Reactive Orange 13 10部
(日本化薬株式会社製 モノクロルトリアジン系反応性染料)
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 0.5部
SC−E450 25部
プロピレングリコール 10部
2−ピロリドン 3部
サーフィノール440 0.1部
プロキセルGXL 0.1部
イオン交換水 残部
【0076】
比較例1〜5
上記式(1)で表される化合物の代わりに以下に示す化合物をそれぞれ使用する以外は、実施例1と同様にして、比較例1〜5の比較用クリアーインクを調製した。なお、比較例5についてはインク組成物自体が層分離したため、調製することができなかった。
比較例1:グリセリン
比較例2:ポリグリセリン750(平均分子量750のポリグリセリン、阪本薬品工業株式会社製)
比較例3:プロピレングリコール
比較例4:ポリエチレングリコール400
比較例5:ポリプロピレングリコール400
【0077】
比較例6〜7
上記式(1)で表される化合物の代わりに以下に示す化合物をそれぞれ使用する以外は、実施例4と同様にして、比較例6〜7の比較用カラーインクを調製した。
比較例6:グリセリン
比較例7:ポリグリセリン750(平均分子量750のポリグリセリン、阪本薬品工業株式会社製)
【0078】
上記のようにして得られた実施例1〜5及び比較例1〜7のインク組成物を用い、以下のようにして基礎物性値の測定、染布の調製、及び評価を行った。なお、上記の通り、比較例5についてはインクが調製できなかったため、これらについては粘度の測定、染布の調製及び評価等を行わなかった。
【0079】
(1)粘度試験
各実施例、及び各比較例のインク組成物の粘度を25℃においてE型粘度計(R115型粘度計、東機産業社製)を用いて測定した。なお、下記表1中の数値の単位はmPa・sである。
【0080】
表1

【0081】
(2)連続吐出性試験
アルギン酸ナトリウム、尿素、炭酸水素ナトリウムを含む水溶液を用いてパッド法にて前処理を行った綿布に、各実施例、及び各比較例のインク組成物をそれぞれカラーインクとクリアインク有り、又は無しの組み合わせで使用して、工業用インクジェットヘッド(NOVA、フジフィルムダイマティックス社製)を搭載したオンデマンド型インクジェットプリンタ(アポロ2プリンターシステム、フジフィルムダイマティックス社製)にて25℃環境下で印捺し、各インクの吐出性を評価した。吐出性は、ITI Web Transport(インクジェット印刷布搬送機、ITI Corporation社製)を用い、7.5cm幅ロール状の綿布にベタ柄で5mの連続印捺を行い、印捺綿布を得た。得られた印捺画像の状態により、試験結果を以下の基準で評価した。
○:最後まで良好に印捺できる。
△:印捺画像にスジ欠けが確認できるか、又は印捺は不安定だが、最後まで印捺できる。
×:印捺画像の散り、スジ欠けが激しいか、又は印捺が不安定であり、最後まで印捺できない。
【0082】
(3)染色性試験1
上記(2)連続吐出性試験で得られた各印捺綿布の印捺初期部分30cmを、60〜80℃で中間乾燥後、100〜103℃で10分間スチーミング処理を行った。水洗後、95〜100℃の沸騰水で10分間洗浄し、水洗、乾燥することにより試験用の捺染された綿染布を得た。
得られた各染布の状態により、試験結果を以下の基準で評価した。
なお、比較例1及び3については、前記(2)連続吐出性試験で良好な印捺が行えなかったため、本試験は行っていない。
○:印捺画像に粒状感がなく、染布にイラつきがない。
×:印捺画像に粒状感があり、染布にイラつきを感じる。
【0083】
(4)染色性試験2
セルロース繊維への反応染料の固着に対する式(1)で表される化合物の影響を調べる目的で、上記(2)連続吐出性試験で得られた印捺綿布の印捺初期部分20cmを、60〜80℃で中間乾燥後、100〜103℃で10分間スチーミング処理を行った。水洗後、95〜100℃の沸騰水で10分間洗浄し、水洗、乾燥することにより捺染された綿染布を調製し、染料の固着率を測定した。該固着率は測色機(SpectroEye、GRETAG−MACBETH社製)を用いて、各染布のマクベス反射濃度を測色することにより測定した。
試験終了後、上記の測色機を用いて測色し、各固着率を以下の式で求めた。
なお、比較例1及び3については、前記(2)連続吐出性試験で良好な印捺が行えなかったため、本試験は行っていない。
固着率=(A/B)×100(%)
A:カラーインク実施例4〜5又は比較例6〜7とクリアーインク実施例1〜3、比較例1〜4、又はクリアーインクなしの組み合わせにより捺染された綿染布の反射濃度。
B:カラーインク実施例4、又は実施例5の染布の反射濃度。
固着率の試験結果は、以下の基準で評価した。
○:95%以上
△:90%以上で95%未満
×:85%以上で90%未満
××:85%未満
【0084】
試験(2)〜(4)の結果を表2にまとめる。
表2

【0085】
表2の結果から明らかなように、本発明のインクセットにより行った染色性試験では、いずれも良好な固着率、及び印刷画像の粒状感の低減による画質向上が見られた。しかしクリアーインクを使用しなかった場合には印捺画像に粒状感があり、また比較例2、4のクリアーインクを使用した場合では、固着率が低減するといった現象が確認された。また、表1の結果から、各実施例及び比較例のインクの粘度はいずれも工業用インクジェットヘッドで使用可能とされている3〜20mPa・sの範囲にあることが判った。しかし、比較例1及び3の吐出性は他と比較して大きく劣り、そのインクの粘度は5.8〜6.8mPa・sであった。これに対して各実施例のインクは9.0〜11.7mPa・sであり、工業用インクジェットヘッドに適するインクの粘度の範囲としては8〜20mPa・s程度の方が3〜20mPa・sよりも良好な吐出結果を与えることが判った。
従来より粘度調整剤として知られる化合物を使用した各比較例のインクは、工業用インクジェットヘッドに調製することが困難であった。例えば、比較例1、3は、グリセリン及びプロピレングリコールを使用した例であるが、これらの配合比率を本発明の上記式(1)で表される化合物と同一とした場合では、粘度がやや不足となった。一方、粘度を高くするためにポリプロピレングリコールを配合した例であるが、ポリプロピレングリコールを用いた比較例5ではインクで層分離が起こってしまいインク自体の調製ができなかった。同様に、ポリエチレングリコールを使用した比較例4、ポリグリセリン750を使用した比較例2では、粘度において比較的良好な値を示すものの、染料の固着率において大きく劣る結果になった。
また、クリアーインクにポリエチレングリコールを使用した比較例4と、カラーインクにポリグリセリン750を使用した比較例7を組み合わせた場合、吐出性は良好なものの、染料の固着率において実施例4又は5と組み合わせた場合より、さらに劣る結果になった。
以上の結果から本発明のカラーインク組成物とクリアーインク組成物を備えるインクセットは吐出安定性、染料の固着性、及び印刷画像の画質のいずれにも優れ、工業用インクジェットヘッドに好適なインクセットであることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のインクセットはインクジェット捺染用、特に工業用インクジェットヘッドを使用するインクジェット捺染用のインクセットとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の着色剤を含むカラーインク組成物と着色剤を含まないクリアーインク組成物を備えるインクセットであり、両インク組成物が下記式(1)で表される平均分子量が340から2200の化合物及び水を含有することを特徴とするインクジェット捺染用インクセット。
【化1】

[式中、
1、X2、X3、X4はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を、
j、k、m及びnは、総和で4以上40以下の数を、それぞれ表す。]。
【請求項2】
式(1)におけるX1、X2、X3及びX4の全てがメチル基である請求項1に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項3】
式(1)で表される平均分子量が340から2200の化合物のクリアーインク組成物中における含有量が10質量%以上である請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項4】
着色剤が、モノクロルトリアジン系の反応染料である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項5】
両インク組成物が水溶性有機溶剤を含有する請求項1乃至4のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項6】
両インク組成物がpH調整剤を含有する請求項1乃至5のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項7】
両インク組成物の粘度が8〜20mPa・sの範囲である請求項1乃至6のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセットを、インクジェットプリンタを用いてセルロース系繊維に付与する工程と、該工程により付与したインク組成物中の染料を熱により繊維に反応固着させる工程と、繊維中に残存する未固着染料を洗浄する工程とを含むことを特徴とするセルロース系繊維の捺染方法。
【請求項9】
1種以上の糊材、アルカリ性物質、及びヒドロトロピー剤を少なくとも含む水溶液を、インク組成物を付与する前の繊維に含浸させる、繊維の前処理工程をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載のセルロース系繊維の捺染方法。



【公開番号】特開2012−31241(P2012−31241A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170041(P2010−170041)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】