説明

インクジェット捺染用インク

【目的】 色相範囲が拡大され、全体的に鮮明な色相を有するインクジェット捺染による布帛用染料インクを提供すること。
【構成】 布帛上での色相範囲が下記に示す値である染料インクの組合せであるインクジェット捺染用インク。(a,bは、CIE1976(L,a,b)空間に於いて定義される知覚色度指数)。
イエロー:(a)−20〜0, (b)50〜70マゼンタ:(a)50〜70, (b) 0〜20シアン :(a)−50〜−10,(b)−50〜−20

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、インクジェット捺染による布帛用染料インクに関する。更に詳しくは、色相範囲が拡大され鮮明な色相を有する該染料インクに関する。
【0002】
【従来技術】従来、合成繊維からなる織布や不織布あるいはこれらの繊維と他の繊維との混紡織布等のプリントにインクジェットによる方法が提案されている。インクジェット方式による染料インクとしては、イエロー,マゼンタ,シアン,ブラックの酸性染料又は直接染料等の水溶性染料を主体とする水性インクが用いられている。しかしながら、従来のインクジェット捺染に用いられるインクの布帛上での色相は、紙用のカラーコピーから発展し、紙用の場合、白度を上げ鮮明に見えるタルク等の微粒子が配合されるため、また布の場合、染料固着率が若干落ちるため布帛上に捺染したイエロー,マゼンタ,シアンの色相のa,b値は下記の如くである。(a,bは、CIE1976(L,a,b)空間に於いて定義される知覚色度指数)
イエロー:(a)0〜20, (b)50〜70マゼンタ:(a)50〜70, (b)−20〜0シアン :(a)−25〜0,(b)−20〜0
【0003】
【発明が解決しようとする問題点】前述の如きa,b値の範囲であるため、通常のローラー捺染,スクリーン捺染,ロータリー捺染等で得られる色相範囲がインクジェット方式による捺染においてはカバー出来ず、又鮮明な色相が得られない等の欠点がある。本発明は、色相範囲が拡大され、全体的に鮮明な色相を有するインクジェット捺染による布帛用染料インクを提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決するため以下の構成をとる。即ち、本発明は、布帛上での色相範囲が、下記に示す値である染料インクの組合せであるインクジェット捺染用インクである。(a,bは、CIE1976(L,a,b)空間に於いて定義される知覚色度指数)。
イエロー:(a)−20〜0 (b)50〜90マゼンタ:(a)50〜70, (b) 0〜20シアン :(a)−50〜−10,(b)−50〜−20ここで、染料インクの組合せとは、イエロー,マゼンタ,シアンのうち、1色又は2色又は3色を使用することをいう。
【0005】各々の染料インクのa,b値について説明する。イエローについて、a値は−20〜0であり、−20より低い染料は実用に耐える染料としてはなく、0以上であれば、赤みのくすんだイエローになってしまう。b値は50〜90であり50以下であれば鮮明性が劣り、90以上の染料で実用に耐える染料はない。
【0006】マゼンタについて、a値は50〜70であり、50以下では鮮明性が劣り、70以上の染料で実用に耐える染料はない。b値は0〜20であり、0以下であれば青みのレッドになり、20以上であればスカーレット色になってしまう。
【0007】シアンについて、a値は−50〜−10であり、−50以下の染料で実用に耐える染料はなく、−10以上ではロイヤルブルーになってしまう。b値は−50〜−20であり、−50以下の染料で実用に耐える染料はなく、−20以上ではくすんだブルーになってしまう。
【0008】好ましい布帛素材と染料の組み合せを以下に述べる。
綿等セルロース系天然繊維:反応染料絹等タンパク質系天然繊維:反応染料,酸性染料,直接染料,カチオン染料ポリエステル,トリアセテート合成繊維:分散染料ポリアミド合成繊維:酸性染料,直接染料アクリル系合成繊維:カチオン染料
【0009】使用される染料としては下記のものが用いられる。
<反応染料>(1)モノクロルトリアジン系(i)イエローCI Reactive Yellow 2,Yellow 18,Yellow 81,Yellow 85,Yellow 95.
(ii)マゼンタCI Reactive Red 24,Red 29,Red 45,Red 226.
(iii)シアンCI Reactive Blue 15,Blue 71.
(2)ジクロルトリアジン系(i)イエロー CI Reactive Yellow 1,Yellow 22,Yellow 86.
(ii)マゼンタ CI Reactive Red 5,Red 8.
(iii)シアン −(3)ビニルスルホン系(i)イエロー CI Reactive Yellow 15,Yellow 37,Yellow 57.
(ii)マゼンタ CI Reactive Red 21,Red 22.
(iii)シアン CI Reactive Blue 21,Blue 77.
【0010】<酸性染料>(1)イエロー CI Acid Yellow 17,Yellow 72,Yellow 127,Yellow 19,Yellow 29,Yellow 61.
(2)マゼンタ CI Acid Red 114,Red 138,Red 35,Red 37,Red 57.
(3)シアン CI Acid Blue 185,Blue 7,Blue 9.
【0011】<直接染料>(1)イエロー CI Direct Yellow 142,Yellow 50,Yellow 106.
(2)マゼンタ CI Direct Red 225,Red 226,Red 39,Red 80.
(3)シアン CI Direct Blue 86,Blue 189,Blue 199.
【0012】<分散染料>(1)イエロー CI Disperse Yellow 3,Yellow 33,Yellow 79,Yellow 160,Yellow 5,Yellow 64.
(2)マゼンタ CI Disperse Red 1,Red 137,Red 283,Red 135,Red 191.
(3)シアン CI Disperse Blue 198,Blue 60,Blue 143.
【0013】<カチオン染料>(1)イエロー CI Basic Yellow 67,Yellow 13,Yellow 21.
(2)マゼンタ CI Basic Red 29,Red 46,Red 70.
(3)シアン CI Basic Blue 75.
【0014】かかるインクジェット捺染用インクの適用は、ノズル内に発熱抵抗素子を埋め込み、その発熱によりインクを沸騰させ、その泡の圧力によりインクを吐出させるバブルジェット方式,圧電素子に電気信号を加えて変形させインク室の体積変化を励起してインク粒子を飛ばすパルスジェット方式,超音波振動しているノズルからインクを加圧連続噴射させて粒子化し、粒子を荷電量に制御一定電界中を通過偏向させ、記録,非記録粒子に分けて記録する荷電制御方式等が挙げられる。
【0015】本発明において染料を溶解もしくは分散せしめる媒体としては、従来の一般的捺染における媒体,従来のインクジェット方式に用いられる媒体が使用出来、水又は水と有機溶剤との混合物が挙げられるが、水を用いるのが一般的である。また、染料インクには各種の分散剤,界面活性剤,粘度調整剤,表面張力調整剤,PH調整剤,電導度調整剤,乾燥防止剤,染着性向上剤,噴射性向上剤等を必要に応じて添加する。前処理としては、染料固着剤,浸透防止剤,滲み防止剤等の処理剤にて処理をする。かかる印捺を施した布帛は次に80〜120℃で乾燥し、次いで染料に応じた方法で染料を固着し、洗浄,乾燥する。
【0016】
【実施例】次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。尚、実施例中の数値の基本となる試験方法は、マクベス分光光度計M−2020型を用い、プリント布の表面を測色しCIE表色系のLab値として表示を行った。
【0017】実施例1経糸50番単糸,緯糸50番単糸からなる経密度29本/インチ,緯密度76本/インチの綿100%の平織物を通常公知の方法にて、毛焼,糊抜,精練,晒,シルケット処理を行ったものを用いた。該平織物を下記に示す前処理剤をパッディングした後、直ちにマングルでピックアップ率70%で絞り、120℃で2分間乾燥した。
炭酸ナトリウム(固着反応剤) 2部 尿素(染着性向上剤) 5部 ダックアルギンNSPH(紀文(株)製高粘度アルギン)0.2部
【0018】次に、下記に示す配合処方にて反応染料のインクを調整した。
反応染料 30部水 70部イエロー:Cibacron Yellow CG liq(Ciba−Geigy(株)製,CI Reactive Yellow 95)
マゼンタ:Cibacron Red B liq(Ciba−Geigy(株)製,CI Reactive Red 24)
シアン :Cibacron Turquoise GF liq(Ciba−Geigy(株)製,CI Reactive Blue 15)
ブラック:Cibacron Black BG liq(Ciba−Geigy(株)製,CI Reactive Black 1)
【0019】前記平織物に、該染料インクを用いパルスジェット方式のインクジェットプリンターにて8ドット/mmの連続プリントを行い、イエロー単色,マゼンタ単色,シアン単色及び配合にてオレンヂ,スカーレット,グリーンをプリントした。その後、120℃にて2分間乾燥した後、飽和蒸気105℃にて10分間蒸熱処理をし、その後洗浄し、実施例1の製品を得た。
【0020】比較例1実施例1と下記に示す染料インク以外は同様に処理を行った。
イエロー:Kayacion Yellow PNA(日本化薬(株)製,C.I.Reactive Yellow102)
マゼンタ:Cibacron Red 6B liq(Ciba Geigy(株)製,C.I.ReactiveRed 218)
シアン :Cibacron Turquoise GR liq(Ciba Geigy(株)製,C.I.ReactiveBlue 72)
ブラック:Cibacron Black BG liq(Ciba Geigy(株)製,C.I.ReactiveBlack 1)
【0021】実施例1及び比較例1により得られた綿織物布帛の反応染料インクプリントの色相結果を表1に示す。
【表1】


【0022】実施例2経糸140番双糸,緯糸140番双糸からなる経密度122本/インチ,緯密度105本/インチの絹紡糸の富士絹を通常公知の方法にて毛焼,糊抜,精練,晒を行ったものを用いた。該平織物を下記に示す前処理剤をパッディングした後、直ちにマングルでピックアップ率80%で絞り、120℃で2分間乾燥した。
硫酸アンモニウム(pH調整剤) 2部 尿素(染着性向上剤) 5部 ダックアルギンNSPH(紀文(株)製,高粘度アルギン)0.2部
【0023】次に、下記に示す配合処方にて酸性染料のインクを調整した。
酸性染料 10部水 90部イエロー:Kayanol Milling Yellow 3GW(日本化薬(株)製,CI Acid Yellow 72)
マゼンタ:Kayanol Milling Red BW(日本化薬(株)製,CI Acid Red 138)
シアン :Kayanol Milling Turquoise Blue3G(日本化薬(株)製,CI Acid Blue 185)
ブラック:Kayanol Milling Black VLG(日本化薬(株)製,CI Acid Black 26)
【0024】前記平織物に該染料インクを用いパルスジェット方式のインクジェットプリンターにて8ドット/mmの連続プリントを行い、イエロー単色,マゼンタ単色,シアン単色及び配合にてオレンヂ,スカーレット,グリーンをプリントした。その後、120℃にて2分間乾燥した後、飽和蒸気102℃にて30分間蒸熱処理をし、その後洗浄し実施例2の製品を得た。
【0025】比較例2実施例2と、下記に示す染料インク以外は、同様に処理を行った。
イエロー:Kayanol Milling Yellow O(日本化薬(株)製,CI Acid Yellow 38)
マゼンタ:Kayanol Milling Red 3BW(日本化薬(株)製,CI Acid Red 274)
シアン :Sandolan Brilliant Blue N−5GM(サンド(株)製,CI Acid Blue 142)
ブラック:Kayanol Milling Black VLG(日本化薬(株)製,CI Acid Black 26)
【0026】実施例2及び比較例2により得られた絹織物布帛の酸性染料インクプリントの色相結果を表2に示す。
【表2】


【0027】
【発明の効果】本発明によれば、イエロー/マゼンタの組み合せからなるゴールデンイエロー,オレンジ,スカーレット,レッド及びイエロー/シアンの組み合わせのグリーン系等が鮮明となる。さらに、単色での色相及び配合色の色相が鮮明で色相の範囲も広く、ファッションの多様化に即応出来、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 布帛上での色相範囲が、下記に示す値である染料インクの組合せであるインクジェット捺染用インク。(a,bは、CIE1976(L,a,b)空間に於いて定義される知覚色度指数)。
イエロー:(a)−20〜0, (b)50〜90マゼンタ:(a)50〜70, (b) 0〜20シアン :(a)−50〜−10,(b)−50〜−20