説明

インクジェット捺染装置及びインクジェット捺染による捺染物の製造方法

【課題】被捺染材の生地本体表面の毛羽に付着した固化前のインクを効果的に除去でき、且つ当該毛羽の立毛状態を維持できるようにすること。
【解決手段】搬送装置7によって搬送される被捺染材Tの捺染側の面に向けてインクCを吐出して所望の捺染を実行する捺染ヘッド10を備えた捺染実行部9と、前記捺染実行部の前記搬送方向Aにおける下流側に設けられ、前記被捺染材に印捺されたインクを固化させて定着するインク定着部11と、生地本体表面26の毛羽27に接触して当該毛羽に付着しているインクDを除去するインク除き部材31を備えたインク除去装置2と、前記インク除去装置による前記インクの除去に先立って、前記毛羽を立毛状態にする立毛作用部5と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送される被捺染材の捺染側の面に向けてインクを吐出して所望の捺染を実行する捺染ヘッドを備えた捺染実行部と、前記捺染実行部の前記搬送方向における下流側に設けられ、前記被捺染材に印捺されたインクを固化させて定着するインク定着部を備えたインクジェット捺染装置及びインクジェット捺染による捺染物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アパレル(衣服)メーカーやテキスタイル(布地)メーカーでは、従来から生地本体表面に図柄等をプリントする「捺染」が広く行われている。
従来の捺染は、スクリーンや彫刻ロールを使用した製版を必要とする「スクリーン捺染」や「ローラー捺染」が主流であった。そして、印捺された被捺染材である布に溶融塊を発生させることなく、生地本体表面を平滑にして図柄等を描出させる技術として、下記の特許文献1に示すようなレーザー光線を使用した「布帛表面仕上法」という技術が開発されている。
【0003】
また、捺染ヘッドから吐出されたインクを被捺染材に直接付着させて記録を実行する製版を必要としない下記の特許文献2に示すような染料インクを使用した「インクジェット捺染方法」という技術も開発されている。
この「インクジェット捺染方法」では、熱プレス機やアイロン等からなる加熱圧着手段を使用して被捺染材を加熱圧着させることで、生地本体表面に印捺された染料インクを蒸熱染着するようにしている。
【0004】
被捺染材は布であるため布表面に通常毛羽が存在する。また、起毛処理等によって布表面の毛羽を増やし、この増やした毛羽によって触感を一層柔らかくし風合いを持たせ、更には保温性を高めた布も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−100257号公報
【特許文献2】特開2003−293272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記毛羽を有する被捺染材にインクジェット捺染を行うと、捺染ヘッドから吐出されたインク滴の一部が被捺染材の生地本体表面まで到達せずに、前記毛羽に「だま」のように付着して「インクだま」が形成される場合が多い。この「インクだま」は、そのまま乾燥固化させた場合、耐擦性を低下し、色移りの問題を生じさせる。
また、「インクだま」は、生地本体表面から立ち上がっている毛羽に付いているため、本来インクが付着すべき染着位置である生地本体表面の位置より上方に位置することになる。そのため、前記「インクだま」の存在によって捺染物の品質を低下する問題がある。
上記した問題は、染料インクよりも色材粒子の大きな顔料インクにおいて顕著に現れる傾向が見られる。
【0007】
特許文献1や特許文献2の技術は、前記毛羽を有する被捺染材に対する捺染に適用すると、前記立毛状態の毛羽を除去したり、押し潰してしまうので、被捺染材の素材の持つ肌触りや風合を大きく損ねてしまう問題がある。
前記毛羽を有する被捺染材に対する捺染においては、印捺された図柄や画像等が鮮明に捺染されているだけでなく、被捺染材の素材の持つ肌触りや風合といった感覚がそのまま維持されていることが捺染物の品質を評価する上で重要になってくる。
【0008】
また、捺染領域に供給される被捺染材の毛羽は、常に立毛状態を保って供給されるのではなく、生地本体表面に沿うように横たわった状態で供給されたり、隣接する他の毛羽と絡み合った状態で供給されるもの等がある。
そして、このような種々の状態で供給される毛羽に対して付着する「インクだま」の付着部位は、毛羽の先端だけでなく、毛羽同士が交わっている部位や毛羽の根元等、多岐に及んでいる。
従って、このように一様でない毛羽の状態や多岐に及んでいる「インクだま」の付着部位の存在は、当該「インクだま」の除去を困難にしている大きな要因になる。
【0009】
本発明の課題は、被捺染材の生地本体表面の毛羽に付着した固化前のインクを効果的に除去でき、且つ当該毛羽の立毛状態を維持できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明の第1の態様に係るインクジェット捺染装置は、搬送装置によって搬送される被捺染材の捺染側の面に向けてインクを吐出して所望の捺染を実行する捺染ヘッドを備えた捺染実行部と、前記捺染実行部の前記搬送方向における下流側に設けられ、前記被捺染材に印捺されたインクを固化させて定着するインク定着部と、生地本体表面の毛羽に接触して当該毛羽に付着しているインクを除去するインク除き部材を備えたインク除去装置と、前記インク除去装置による前記インクの除去に先立って、前記毛羽を立毛状態にする立毛作用部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0011】
ここで「被捺染材」とは、捺染の対象となる「布地」や「衣服その他の服飾製品」等を意味する。「布地」には、綿、絹、羊毛等の天然繊維やナイロン等の化学繊維あるいはこれらを混ぜた複合繊維の織物、編物、不織布等が含まれ、ロール状に巻かれた長尺のものと、所定の長さにカットされたものの両方が含まれる。
また、「衣服その他の服飾製品」には、縫製後のTシャツ、ハンカチ、スカーフ、タオル、手提げ袋、布製のバッグ、カーテン、シーツ、ベッドカバー等のファニチャーの類の等の他、縫製前の状態のパーツとして存在する裁断前後の布地等も含まれる。
【0012】
また、「生地本体表面」とは、被捺染材のうち織り加工、編み加工等が施され、あるいはこれらの加工を施すことなく繊維を絡み合わせることで被捺染材の基本的外観形状を形作っている生地本体における捺染側の面を意味する。
「毛羽」には、前記生地本体表面に起毛によって増やされた毛羽の他、前記織り加工等によって自然に発生する毛羽が含まれる。
【0013】
本態様によれば、前記インク除去装置は、生地本体表面の毛羽に接触して当該毛羽に付着しているインクを除去するインク除き部材を備えているので、被捺染材の生地本体表面の毛羽に付着した固化前のインクを、当該毛羽の立毛状態を維持した状態で除去することが可能となる。
すなわち、前記インク除き部材を毛羽に接触する際に、該毛羽を押し潰すような強い圧接力を作用させずに接触させることで、当該毛羽はインク除き部材との接触時に一時的に傾倒しても、直ぐに復元して当初の立毛状態に戻ることができる。その状態でインク硬化部によって被捺染材に印捺されたインクを硬化することによって、当該毛羽の立毛状態は最終的な捺染物においても維持される。
尚、「毛羽の立毛状態を維持した状態で除去する」とは、立毛状態の毛羽を押し潰す作用を及ぼさずに捺染する意味で使われており、捺染工程で自重等によって毛羽が自然に傾いて立毛姿勢が崩れる程度は「毛羽の立毛状態を維持した状態」に含まれる。
従って、毛羽の立毛状態を維持したまま当該毛羽に付着したインクを当該インク除き部材で除去する動作を行うことによって、毛羽を有する被捺染材の素材の持つ肌触りや風合を維持したまま、耐擦性低下による色移りの問題の発生を低減することができる。
【0014】
また、本態様によれば、立毛作用部によって、インク除去装置による前記インクの除去に先立って、倒れていたり、絡み合っていた毛羽を立毛状態にすることができる。従って、毛羽に付着したインクだまの除去が容易になり、インクだまの除去効率が向上する。
【0015】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係るインクジェット捺染装置において、前記搬送装置、前記捺染実行部、前記インク定着部、前記インク除去装置、前記立毛作用部の動作を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記立毛作用部による立毛作用動作を「実行する」「実行しない」、及び前記インク除去装置によるインク除去の動作を「実行する」「実行しない」を選択可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0016】
本態様によれば、前記制御部は、前記立毛作用部による立毛作用動作を「実行する」「実行しない」、及び前記インク除去装置によるインク除去の動作を「実行する」「実行しない」のいずれかを選択可能に構成されているので、毛羽を有する被捺染材の素材の持つ肌触りや風合を求められる場合や、耐擦性を求められる場合にだけインク除去装置を作動させ、毛羽を有する被捺染材であっても前記耐擦性等を然程問題としない捺染である場合等は、インク除去装置によるインク除去の動作を省くことができるようになっている。これにより、インク除去装置の動作に伴う制約を受けずにインクジェット捺染を実行することが可能となり、例えば、捺染の高速化を図ることが可能となる。
【0017】
本発明の第3の態様は、前記第1の態様または第2の態様に係るインクジェット捺染装置において、前記インク除き部材と被捺染材の生地本体表面との間隔は、マニュアル操作によって、又は前記制御部の制御信号によって調整可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0018】
本態様によれば、被捺染材の毛羽の長さや性状の違い等に対応してインク除き部材の当該毛羽に対する接触作用高さを調整することが可能になる。従って、毛羽の長さ等が異なる種々の被捺染材に対応できるようになり、当該被捺染材の毛羽に付着したインクを除くのに効果的な接触作用高さになるようインク除き部材の取付け位置を調整することが可能になる。
【0019】
本発明の第4の態様は、前記第1の態様から第3の態様のいずれか1つの態様に係るインクジェット捺染装置において、前記立毛作用部は、被捺染材に静電気を帯電させて前記毛羽を電気的に立毛状態にする帯電装置であることを特徴とするものである。
【0020】
本態様によれば、印捺後の被捺染材に触れることなく、インクだまが付着した状態で倒れていたり、絡まっている毛羽を、インク除去装置による前記インクの除去に先立って、当該帯電装置によって電気的に立毛状態にすることができるため、被捺染材に吐出されたインクに触れることによって生ずる捺染不良や捺染実行品質の劣化が防止される。
また、前記毛羽に付着したインクだまの除去は、前記毛羽を立毛状態にした後に行われるため、インクだまの除去が容易になり、捺染実行品質が向上する。
【0021】
本発明の第5の態様は、前記第1の態様から第4の態様のいずれか1つの態様に係るインクジェット捺染装置において、前記立毛作用部は、被捺染材の搬送経路に設けられた凸曲面部を備え、被捺染材が該凸曲面部を通過する際に湾曲されて毛羽が機械的に立毛状態に移行するように構成されていることを特徴とするものである。
【0022】
本態様によれば、既存の搬送経路を利用して、或いは一部変更するだけの簡単な構成によって、インク除去装置による前記インクの除去に先立って、倒れていたり、絡み合っていた毛羽を機械的に立毛状態に移行することができるので、前記第4の態様と同様の作用、効果を奏することができる。
すなわち、新たな装置等を付加することなく少ない部品点数で安価に毛羽を立毛状態にすることができるようになって、捺染品質の向上を図ることができる。また、凸曲面部を複数設けた場合には、被捺染材に無理をかけることなく毛羽を段階的に立毛状態にしたり、複数の個所で毛羽の立毛状態を形成することが可能になる。
【0023】
本発明の第6の態様は、前記第1の態様から第5の態様のいずれか1つの態様に係るインクジェット捺染装置において、前記インク除去装置は、前記インク除き部材に静電気を帯電させて前記毛羽に付着したインクを吸着除去するように構成されていることを特徴とするものである。
【0024】
本態様によれば、インク除き部材が毛羽に接触することによるかき取り作用に加えて、静電気を利用した電気的な吸着作用が発揮されるようになる。従って、毛羽に付着したインクだまの除去効率が向上し、捺染品質の一層の向上が図られる。
【0025】
本発明の第7の態様は、前記第1の態様から第6の態様のいずれか1つの態様に係るインクジェット捺染装置において、前記インク除き部材は、前記被捺染材の生地本体表面に非接触で、前記毛羽に接触するように設けられていることを特徴とするものである。
【0026】
前記生地本体は、生地の性状から多少のうねりを有し、生地本体表面には必然的に小さな凹凸が存在する。従って、前述した「非接触」の語には、インク除き部材が前記生地本体表面に完全に接触していない状態の他、被捺染材の搬送抵抗が問題とならない範囲で僅かに接触しているような状態も含まれる。
【0027】
本態様によれば、捺染画像等の情報が形成されている被捺染材の生地本体表面に対してインク除き部材で除去したインクを再付着させることなく、毛羽に付着したインクを効果的に除去することが可能になる。また、前記「非接触」としたことで、所定の搬送方向に搬送されている被捺染材には、インク除き部材に因る搬送抵抗は殆んどかからないので、被捺染材の円滑な搬送によって高品質の捺染を実現できる。
【0028】
本発明の第8の態様は、前記第1の態様から第7の態様のいずれか1つの態様に係るインクジェット捺染装置において、前記インク除き部材は、被捺染材の捺染側の面が下向きになる経路に対して設けられていることを特徴とするものである。
ここで、「被捺染材の捺染側の面が下向きになる経路」とは、該捺染側の面が真下を向く水平反転搬送経路と、斜め下方を向く傾斜反転搬送経路の両方を含む意味で使われている。
【0029】
本態様によれば、インク除き部材によって毛羽から除かれたインクが垂れて下方に落下することがあっても被捺染材上に付着する虞れはない。従って、毛羽から除かれたインクの被捺染材への再付着を防止できるので、高品質の捺染を実現することができる。
また、前記除かれたインクは、インク除き部材を伝って下方に流れ落ちることができるため、当該インクの回収が容易になり、インク除き部材のインク除去作用面におけるインクの残留やインクの固着等が防止される。
【0030】
本発明の第9の態様は、前記第1の態様から第8の態様のいずれか1つの態様に係るインクジェット捺染装置において、前記捺染実行部の上流側に、被捺染材の有する毛羽を立毛状態にする立毛処理部を備えていることを特徴とするものである。
【0031】
本態様によれば、立毛処理部によって被捺染材の有する毛羽を立毛状態にする処理を行って、該毛羽の立毛状態の不揃いが低減された状態で、被捺染材の捺染側の面に向けてインクを吐出することが可能となる。従って、毛羽を有する被捺染材の捺染側の面に対するインク滴の着弾において、前記「不揃い」に基づく影響が小さくなる。すなわち、毛羽及び生地本体表面へのインク滴着弾の均一性を高めることができる。
毛羽の量が少なめの被捺染材においては、吐出されたインクは毛羽にその進行を邪魔されることが少なくなって殆んどのインクは生地本体表面に到達するようになることが期待できる。従って、捺染品質を向上できると共に、毛羽に付着してできるインクだまの数が少なくなり、インク除き部材によるインク除去の負荷も小さくなり、インク除去効果が一段と向上する。
【0032】
本発明の第11の態様に係るインクジェット捺染による捺染物の製造方法は、被捺染材の捺染領域に供給された被捺染材の捺染側の面に向けてインクを吐出して所望の捺染を実行する捺染実行工程と、捺染が実行された被捺染材の生地本体表面の毛羽を立毛状態にする立毛作用工程と、前記立毛作用工程後に行われる、前記被捺染材の前記毛羽に接触して当該毛羽に付着している固化前のインクを除去するインク除去工程と、前記インク除去工程後に行われる、前記被捺染材に付着したインクを固化させて定着するインク定着工程と、を有することを特徴とするものである。
【0033】
本態様によれば、前記各工程の一連の流れの中で、毛羽に付着したインクを固化前の段階で取り除くことができる。これにより、毛羽を有する被捺染材の素材の持つ肌触りや風合を維持したまま、耐擦性低下による色移りの問題の少ない、商品価値の高い捺染物を効率良く製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例1に係るインクジェット捺染装置の概略を示す側断面図。
【図2】同上、立毛作用部及びインク除去装置周辺を示す側断面図。
【図3】同上、立毛作用部及びインク除去装置周辺を示す平面図。
【図4】同上、立毛作用部とインク除去装置の作用説明図(A)、及び図(A)中のB部の拡大図(B)。
【図5】本発明の実施例2に係るインクジェット捺染装置を示す側断面図。
【図6】本発明の実施例3に係るインクジェット捺染装置の立毛作用部周辺を拡大して示す側断面図。
【図7】本発明の実施例4に係るインクジェット捺染装置を示す側断面図。
【図8】本発明の実施例5に係るインクジェット捺染装置を示す側断面図。
【図9】本発明の実施例6に係るインクジェット捺染装置を示す側断面図。
【図10】本発明の実施例7に係るインクジェット捺染装置を示す側断面図。
【図11】本発明の実施例8に係るインクジェット捺染装置の立毛作用部とインク除去装置周辺を拡大して示す側断面図。
【図12】本発明の実施例9に係るインクジェット捺染装置の立毛作用部とインク除去装置周辺を拡大して示す作用説明図(A)、及び図(A)中のB部の拡大図(B)。
【図13】本発明の適用対象である被捺染材を拡大して示す側断面図。
【図14】本発明の捺染実行の制御の一例を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図1〜図4に示す実施例1と、図5に示す実施例2と、図6に示す実施例3と、図7に示す実施例4と、図8に示す実施例5と、図9に示す実施例6と、図10に示す実施例7と、図11に示す実施例8と、図12に示す実施例9と、を例にとって、本発明のインクジェット捺染装置1の構造と作動態様について具体的に説明する。
尚、以下の説明では、最初に図1に基づいて本発明のインクジェット捺染装置1の全体構成の概略について説明し、次いで本発明の特徴的構成であるインク除去装置2と立毛作用部5の構成と作動態様について前述した実施例1〜9の9つの実施例を例にとって順番に説明して行く。
【0036】
図1にインクジェット捺染装置1の全体構成の概略が図示されている。また、図13には、インクだまDを除去している時の被捺染材Tが図示されている。
図示のインクジェット捺染装置1は、ロール状に巻かれた長尺な布地等の被捺染材Tに対応した構成になっており、搬送方向Aの上流位置に繰出しローラー4を備えた繰出し機構部3、搬送方向Aの下流位置に巻取りローラー14を備えた巻取り機構部13が設けられている。
【0037】
また、前記繰出し機構部3と巻取り機構部13との間には、複数のガイドローラー16が配設された被捺染材Tの搬送経路15が形成されている。当該搬送経路15の上流位置で印捺前の被捺染材Tのしわ取りが図示しないしわ取り機構部によって行われるようになっている。
そして、その下流位置には、前記しわ取りが実行された被捺染材Tを、該被捺染材Tの捺染領域17及び印捺されたインクCの乾燥領域19に向けて搬送する搬送ベルト8を備えた搬送装置7が配設されている。
【0038】
また、前記被捺染材Tの捺染領域17には、被捺染材Tの捺染側の面に向けて顔料インクCを吐出して所望の捺染を実行する捺染ヘッド10と、被捺染材Tの捺染側の面と反対側の被支持面を支持する支持部21と、を備えた捺染実行部9が設けられている。前記捺染ヘッド10は、被捺染材Tの搬送方向Aと交差する被捺染材Tの幅方向B(図4)に往復移動可能なキャリッジ23によって一例として保持されている。
また、前記印捺されたインクCの乾燥領域19には、被捺染材Tの生地本体25の表面26に付着したインクCを乾燥させて定着させるインク定着部11を成すアフターヒーター12が配設されている。
【0039】
また、前記被捺染材Tの捺染領域17と前記印捺されたインクCの乾燥領域19との間の領域には、被捺染材Tの生地本体25の表面26の毛羽27に付着した固化前のインクD(以下、毛羽に付着したインクを「インクだま」と言うこともある)を除去する、後述する本発明の実施例1に係るインク除去装置2A(他の実施例と区別する場合に「2A」と記し、区別しない場合は単に「2」と記す)が設けられている。インク除去装置2Aは、生地本体表面26の毛羽27に接触して当該毛羽27に付着しているインクDを除去するインク除き部材31を備えている。インク除去装置2Aは、一例としてインクジェット捺染装置1の左右の支持フレーム37L,37R等を利用して取り付けられている。
尚、前記インクだまDは、図4及び図13に示すように生地本体25の表面26に達する前に該表面26から伸びている毛羽27の毛先部等に付着したインクCが「だま」になった部分であり、捺染後の「色移り」の要因になっている。
【0040】
更に、前記インク除去装置2Aによる前記インクの除去に先立って、前記毛羽27を立毛状態にする立毛作用部5Aを備えている。
【0041】
そして、このような構成のインクジェット捺染装置1を使用することによって本発明に係るインクジェット捺染による捺染物の製造方法が実行されて、捺染品質及び手触り、風合の良い捺染物が得られる。
本発明に係るインクジェット捺染による捺染物の製造方法は、被捺染材Tの捺染領域17に供給された被捺染材Tの捺染側の面に向けて顔料インクCを吐出して所望の捺染を実行する捺染実行工程を有する。このように、捺染後のインクCの定着力が強く、色落ちの少ない顔料インクCを使用することによって捺染された画像等の鮮明さが長期に亘って持続される。
【0042】
また、本発明に係るインクジェット捺染による捺染物の製造方法は、捺染が実行された被捺染材Tの生地本体表面26の毛羽27を立毛状態にする立毛作用工程を有する。この立毛作用工程によって、インク除去工程による前記インクDの除去に先立って、倒れていたり、絡み合っていた毛羽27を立毛状態にすることができる。これにより、毛羽27に付着したインクだまDの除去が容易になり、インクだまDの除去効率が向上する。
【0043】
また、本発明に係るインクジェット捺染による捺染物の製造方法は、前記立毛作用工程後に行われる、前記被捺染材Tの毛羽27に接触して当該毛羽27に付着している固化前のインクDを除去するインク除去工程を有する。
顔料インクCは、染料インクに比べてインクだまDになり易い性質を有しているが、本発明では当該インク除去工程を有することによって当該インクだまDは固化前の段階で除去される。
【0044】
更に、本発明に係るインクジェット捺染による捺染物の製造方法は、インクだまDが除去され、前記印捺されたインクCの乾燥領域19に供給された被捺染材Tを加熱して当該被捺染材Tに付着したインクCを乾燥して固化させるインク定着工程を有する。
顔料インクCは乾燥されることで捺染強度が増す。そして、毛羽27に付着していたインクだまDは既に前工程で取り除かれているので、捺染実行品質及び手触り風合の良い捺染物が効率良く製造される。
【0045】
[実施例1](図1〜図4及び図13、図14参照)
実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aでは、前記被捺染材Tの捺染領域17の下流位置に立毛作用部5Aが設けられており、該立毛作用部5の下流位置にインク除去装置2Aが設けられている。
このうちインク除去装置2Aは、被捺染材Tの生地本体25の表面26の毛羽27に接触して当該毛羽27に付着しているインクだまDを除去するインク除き部材31Aを被捺染材Tの捺染側の面に作用するように設けることによって基本的に構成されている。
【0046】
〔制御部〕
インク除去装置2Aを備えるインクジェット捺染装置1において、搬送装置7、捺染実行部9、立毛作用部5A、インク除去装置2A及びインク定着部11の動作を制御する制御部5を備えている。そして、前記制御部5は、被捺染材Tが生地本体表面26に毛羽27を有するものである場合に、該インク除去装置2Aによるインク除去の動作を「実行する」「実行しない」のいずれかを選択可能に構成されている。
【0047】
図14に示したフローチャートによって、本実施例の捺染実行の制御の一例を説明する。
先ず捺染実行部9において被捺染材Tに捺染が実行される(ステップS1)。続いて被捺染材Tが毛羽27を有するものであるか否か決定される(ステップS2)。この決定は、制御部5の図示しない情報入力部にユーザーが入力した被捺染材Tに関する情報に基づいて行われる。
従って、被捺染材Tが毛羽27を有するものか否かはユーザーの主観で決定できるようになっており、客観的には毛羽27がある被捺染材Tであっても、例えばユーザーがその毛羽27による前記肌触りや風合を維持する捺染を必要としない、或いは耐擦性を高く求めない場合は、「毛羽なし(No)」としてその後のフローを進めることができるようになっている。
【0048】
ステップS2において「毛羽あり(Yes)」と決定された場合、毛羽27に対して立毛作用部5Aによる立毛作用処理を「実行する」「実行しない」のいずれかが選択されるようになっている(ステップS3)。これも、制御部5の前記情報入力部にユーザーが入力した選択情報に基づいて行われる。
【0049】
ステップS3において立毛作用処理を「実行する」と決定された場合、毛羽27に対して立毛作用処理が実行される(ステップS4)。
次いで、毛羽27に付着したインクに対して、インク除去の動作を「実行する」「実行しない」のいずれかが選択されるようになっている(ステップS5)。これも、制御部5の前記情報入力部にユーザーが入力した選択情報に基づいて行われる。
【0050】
ステップS5でインク除去の動作を「実行する」が選択されたときは、インク除去装置2Aによるインク除去が実行され(ステップS6)、次いでインク定着部11でインク定着処理が実行される(ステップS7)。
一方、ステップS5でインク除去の動作を「実行しない」が選択されたときは、インク除去装置2Aによるインク除去が実行されずに(ステップS8)、インク定着部11によるインク定着処理(ステップS7)に進む。
【0051】
また、前記ステップS3において,立毛作用処理を「実行しない」と決定された場合、インク除去装置2Aによるインク除去が実行されずに(ステップS8)、インク定着部11によるインク定着処理(ステップS7)に進む。
【0052】
また、前記ステップS2において「毛羽なし(No)」と決定された場合、インク除去装置2Aによるインク除去が実行されずに(ステップS8)、インク定着部11によるインク定着処理(ステップS7)に進む。
【0053】
上記制御により、耐擦性等を求められる場合にだけ立毛作用部5A及びインク除去装置2Aを作動させ、毛羽を有す被捺染材であっても耐擦性等を然程問題としない捺染である場合等は、立毛作用部5A及びインク除去装置2Aの各動作を省くことができる。これにより、立毛作用部5A及びインク除去装置2Aの動作に伴う制約を受けずにインクジェット捺染を実行することが可能となり、例えば、捺染の高速化を図ることが可能となる。
【0054】
〔インク除き部材〕
また、本実施例では、前記インク除き部材31Aは、ブレード様の形状をしたワイパー55によって構成されている。該ワイパー55の下方には、被捺染材Tと前記搬送ベルト8とを挟んで、インクだまDを除去する際の被捺染材Tの下方への撓みを防止する支持部材53の一例である支持ローラ53Aが配置されている。
そして、前記ワイパー55は、被捺染材Tの生地本体25の表面26に非接触で、前記毛羽27のインクだまDの付着部位に接触するように設けられている。
【0055】
ここで前記「非接触」の語の中には、前記ワイパー55が前記表面26に完全に接触していない物理的な非接触状態と、前記ワイパー55が被捺染材Tの搬送抵抗とならない範囲で僅かに前記表面26に接触している実質的非接触状態と、の両方の状態が含まれている。
尚、前記生地本体25は、生地の性状から多少のうねりを有し、表面26には必然的に小さい凹凸が存在する。従って、前述した「非接触」の語には、駆動ローラー35が前記表面26に完全に接触していない状態の他、被捺染材Tの搬送抵抗とならない範囲で僅かに接触しているような状態も含まれている。
【0056】
更に、本実施例では前記ワイパー55の先端面55aと前記生地本体25の表面26との間に間隔Gを形成し、該ワイパー55が立毛状態の毛羽27に接触するときの接触作用高さHが当該毛羽27に付着しているインクだまDを除去するのに効果的な高さになるように当該間隔Gの値が設定されている。
また、このようなワイパー55の材料としては、硬質、軟質の合成樹脂、合成樹脂発泡体、ゴム、金属、木材等やこれらの複合材料が適用でき、更に、当該ワイパー55の周囲に吸インク性を有するフェルトやその他の布地等を貼設したものであってもよい。
【0057】
〔立毛作用部〕
一方、立毛作用部5Aは、前記インク除去装置2によるインクだまDの除去に先立って、倒れていたり、絡み合っている毛羽27を立毛状態にする立毛処理を実行する装置である。
そして、本実施例の立毛作用部5Aは、被捺染材Tに静電気を帯電させることによって前記毛羽27を電気的に立毛状態にする帯電装置41採用されている。
【0058】
この立毛作用部5Aは、アースGND(0V)に対してマイナス(−)またはプラス(+)の高電圧を出力する、一例としてコロナ放電式の帯電装置41を捺染領域17の下流における被捺染材Tの捺染側の面の上方に設けて構成されている。そして、その下方に被捺染材Tと搬送ベルト8を挟んで一例としてステンレス製で平板状の電極板43が配置されている。
また、上記帯電装置41にも一例としてステンレス製の電極42が設けられており、この電極42と前記電極板43は、共にアースGND(0V)に接続されている。
【0059】
そして、このようにして構成される本実施例に係るインクジェット捺染装置1Aの搬送ベルト8上に被捺染材Tが供給されると、捺染領域17において捺染ヘッド10から吐出されたインクCによって所定の捺染画像が被捺染材Tの捺染側の面に形成される。
次に、前記印捺された被捺染材Tは、立毛作用部5Aの帯電装置41が設けられている立毛処理領域78に送られ、帯電装置41から放電される静電気を帯びる。そして、倒れていたり、絡み合っていた毛羽27は、前記静電気の作用によって、毛羽27に触れることなく立毛状態に移行する。
【0060】
また、前記毛羽27の立毛処理が施された被捺染材Tは、下流に設けられているインク除去装置2Aのインク除き部材31Aの一例であるワイパー55の先端面55aに前記毛羽27が接触することで、当該毛羽27に付着していた硬化前のインクだまDは、かき取られるようにして除去される。
更に、インクだまDが除去された被捺染材Tは、下流の乾燥領域19に送られてアフターヒーター12によって捺染されたインクCの硬化定着が実行される。
【0061】
そして、このような構成の本実施例に係るインクジェット捺染装置1Aによれば、毛羽27を押し潰すような強い圧接力を毛羽27に作用させることなく、「色移り」の生じない鮮明な画像を、被捺染材Tの素材の持つ肌触りや風合を損なわせることなく捺染することが可能になる。
また、立毛作用部5Aによって、印捺後の被捺染材Tに触れることなく前記毛羽27の立毛処理が実行できるため、捺染されたインクCに触れることによって生ずる捺染不良を防止し、インクだまDの除去を容易にして捺染品質の向上が図られる。
【0062】
[実施例2](図5参照)
実施例2に係るインクジェット捺染装置1Bの基本的な構成は、前記実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aと同様であり、前記ワイパー55に対して静電気を利用したインクだまDの吸引機能を付加した点において相違する。
従って、ここでは前記実施例1と相違するインク除去装置2Bの構成と作動態様とを中心にして説明する。
【0063】
具体的には、ワイパー55にも前述した帯電装置41からの配線の一部が接続されており、アースGND(0V)に接続されている。これにより、前記ワイパー55は接地状態となり、帯電している前記毛羽27に付着したインクだまDがワイパー55に吸着されるようになっている。
【0064】
そして、このような構成の本実施例に係るインクジェット捺染装置1Bによっても前記実施例1と同様の作用、効果を奏することができる。更に、ワイパー55が毛羽27に接触することによるかき取り作用に加えて、電気的な吸着作用が発揮されるため、インクだまDの除去効率の向上が図られる。
【0065】
[実施例3](図6参照)
実施例3に係るインクジェット捺染装置1Cの基本的な構成は、前記実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aと同様であり、前記電極板43に代えてその形状を異ならせた他の電極板45を採用した点において相違する。
従って、ここでは前記実施例1と相違する電極板45の構成と作動態様とを中心にして説明する。
【0066】
即ち、本実施例では、前記電極板45の形状を前記帯電装置41側に突出したなだらかな湾曲した凸形状にしている。そして、このような形状の電極板45を採用することによって、被捺染材Tの搬送経路15の一部に曲率半径の小さな凸曲面部15aを形成し、当該凸曲面部15aを通過する被捺染材Tを上方に湾曲させるようにしている。
この湾曲に伴って、当該凸曲面部15aを通過する際に前記毛羽27は、被捺染材Tが前記凸曲面部15aから機械的な力を受けて立毛状態になる。
【0067】
そして、このような構成の本実施例に係るインクジェット捺染装置1Cによっても前記実施例1と同様の作用、効果を奏することができる。更に、前記毛羽27には、前記帯電装置41による電気的作用と、前記凸曲面部15aによる機械的作用との両方が作用して前記毛羽27の立毛状態への移行が確実になる。
【0068】
[実施例4](図7参照)
実施例4に係るインクジェット捺染装置1Dは、立毛作用部5Dの構成が前記実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aの立毛作用部5Aと相違しており、インク除き部材31Dであるワイパー55の配置を前記実施例1と異ならせている。
尚、その他の構成については、前記実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aと同様であるので、ここでは前記実施例1と相違する立毛作用部5Dの構成とワイパー55の配置及びこれらの作動態様を中心に説明する。
【0069】
即ち、本実施例では、ワイパー55が一例として水平搬送経路15Aの下流端に位置する第1ガイドローラー16Aの設置部位において、前記被捺染材Tと前記搬送ベルト8とを挟んだ対向位置に配置されている。
尚、前記第1ガイドローラー16Aの設置部位では、被捺染材Tの搬送経路15の一部に曲率半径の小さな凸曲面部15bが形成されるため、当該凸曲面部15bを通過する被捺染材Tはワイパー55側に湾曲させる力を受ける。
【0070】
これに伴って、当該凸曲面部15bを通過する際に前記毛羽27は、凸曲面部15bから機械的な力を受けて立毛状態になる。
そして、当該部位にはワイパー55が配設されているため、同じ位置で前記毛羽27の立毛処理と前記ワイパー55によるインクだまDの除去とが同時に実行される。
【0071】
そして、このような構成の本実施例に係るインクジェット捺染装置1Dによっても前記実施例1と同様の作用、効果を奏することができる。更に、新たな装置等を付加することなく既存の搬送経路15の構成を有効利用して、安価に前記毛羽27の立毛処理と前記毛羽27に付着したインクだまDの除去とが効率良く実行されるようになる。
【0072】
[実施例5](図8参照)
実施例5に係るインクジェット捺染装置1Eの基本的な構成は、前記実施例4に係るインクジェット捺染装置1Dと同様であり、立毛処理領域78を搬送方向Aのずれた位置に2個所設け、これら2個所において前記毛羽27の立毛処理と前記毛羽27に付着しているインクだまDの除去とを2回に分けて実行するようにした点において前記実施例4と相違している。
従って、ここでは前記実施例4と相違する立毛作用部5E及びワイパー55の配置とこれらの作動態様を中心に説明する。
【0073】
即ち、本実施例では、第1ワイパー55Aと第2ワイパー55Bの2つのワイパーが設けられており、このうち第1ワイパー55Aは、一例として水平搬送経路15Aの下流端に位置する第1ガイドローラー16Aの設置部位に前記実施例4と同様に配置されている。
一方、第2ワイパー55Bは、前記水平搬送経路15Aの下流に連接されている傾斜搬送経路15Bの下流端に位置する第2ガイドローラー16Bの設置部位に配置されている。
【0074】
また、前記第1ガイドローラー16Aの設置部位では、前記実施例4と同様に被捺染材Tの搬送経路15の一部に曲率半径の小さな凸曲面部15bが形成されており、前記第2ガイドローラー16Bの設置部位では、同様の他の凸曲面部15cが形成されている。
また、これらの凸曲面部15b、15cを被捺染材Tが通過すると、前記毛羽27の立毛処理と前記毛羽27に付着したインクだまDの除去とが2回に亘って実行されるようになる。
【0075】
そして、このような構成の本実施例に係るインクジェット捺染装置1Eによっても前記実施例4と同様の作用、効果を奏することができる。更に、前記2回の立毛処理とインクだまDの除去とを繰り返すことによって、毛羽27の立毛状態とインクだまDの除去とが一層確実に実行されるようになる。
【0076】
[実施例6](図9参照)
実施例6に係るインクジェット捺染装置1Fの基本的な構成は、前記実施例5に係るインクジェット捺染装置1Eと同様であり、単一のワイパー55を使用し、該単一のワイパー55の配設位置を異ならせた点において前記実施例5と相違している。
従って、ここでは前記実施例5と相違するワイパー55の配設位置と、該配設位置に伴なう作動態様を中心に説明する。
【0077】
即ち、本実施例では、ワイパー55が被捺染材Tの捺染側の面が下向きになる図示のような傾斜反転搬送経路15Cに設けられている。或いは図示しない水平反転搬送経路(捺染面が真下を向く経路)に設けられていてもよい。
具体的には、前記傾斜搬送経路15Bに連接する傾斜反転搬送経路15Cに対して先端面55aを上にして前記ワイパー55が設けられており、被捺染材Tと搬送ベルト8を挟んだ上方に支持部材53の一例である平板状の支持板53Bが配設されることによってインク除去装置2Fが構成されている。
【0078】
そして、このような構成の本実施例に係るインクジェット捺染装置1Fによっても前記実施例5と同様の作用、効果を奏することができる。更に、当該インク除去装置2Fによって除去されたインクCは、ワイパー55を伝って下方に流れることができるため、その上方に位置する被捺染材Tに再付着する虞れはなく、インクCの回収が容易になる。
【0079】
[実施例7](図10参照)
実施例7に係るインクジェット捺染装置1Gは、前記捺染実行部9の上流側に、被捺染材Tの有する毛羽27を立毛状態にする立毛処理部5Gを備えている。
具体的には、本実施例では立毛処理部5Gが前記捺染領域17の上流位置に設けられており、前記毛羽27に直接作用して前記毛羽27を立毛状態にする、一例として図示のような回転ブラシ様の構造を有する立毛処理部材79を備えることによって当該立毛作用部5Gが構成されている。
そして、本実施例では搬送ベルト8上に供給された被捺染材Tの毛羽27が倒れていたり、他の毛羽27等と絡んでいるような場合に、捺染に先立って予め生地本体25の表面26の毛羽27を起こして本来の立毛状態にするという役割を担っている。
【0080】
本実施例によれば、立毛処理部5Gによって被捺染材Tの有する毛羽27を立毛状態にする処理を行って、該毛羽27の立毛状態の不揃いが低減された状態で、被捺染材Tの捺染側の面に向けてインクCを吐出することが可能となる。従って、毛羽27を有する被捺染材Tの捺染側の面に対するインク滴の着弾において、前記「不揃い」に基づく影響が小さくなる。すなわち、毛羽27及び生地本体表面26へのインク滴着弾の均一性を高めることができる。
毛羽27の量が少なめの被捺染材Tにおいては、吐出されたインクCは毛羽27にその進行を邪魔されることが少なくなって殆んどのインクCは生地本体表面26に到達するようになることが期待できる。従って、捺染品質を向上できると共に、毛羽27に付着してできるインクだまDの数が少なくなり、インク除き部材31によるインク除去の負荷も小さくなり、インク除去効果が一段と向上する。
【0081】
[実施例8](図11参照)
実施例8に係るインクジェット捺染装置1Hは、インク除去装置2Hにクリーニング機構56を適用した点で前記実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aのインク除去装置2Aと相違しており、その他の構成については、前記実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aと同様である。
従って、ここでは前記実施例1と相違するインク除去装置2Hの構成と作動態様を中心にして説明する。
【0082】
即ち、本実施例では、前記インク除去装置2Hに対して前記実施例1のワイパー55とは構造を異にするインク除き部材31Hとしてのノズル59が設けられている。
該ノズル59は、先端部が基端部よりも小径に形成されている湾曲した偏平なパイプ材によって構成されており、該ノズル59の先端面59aは斜めにカットされていてインクだまDのかき取りが容易にできるようになっている。
【0083】
また、前記ノズル59の軸中心には、外部に設けられる吸引ファン等の図示しない吸引手段と接続される吸引路61が形成されている。
従って、前記ノズル59は、インク除き部材31Hとしての機能と、該インク除き部材31Hに付着したインクCを取り除くクリーニング機構56としての機能を併わせ持った構成になっている。
【0084】
そして、このような構成の本実施例に係るインクジェット捺染装置1Hによっても前記実施例1と同様の作用、効果を奏することができる。更に、クリーニング機構56を設けたことで、ノズル59によってかき取ったインクCは先端面59aに残留することなく、順次、吸引路61を通って外部へと排出される。
従って、ノズル59の継続使用が可能になり、ノズル59の洗浄や交換等のメンテナンスの回数も少なくて済むようになる。
【0085】
[実施例9](図12参照)
実施例9に係るインクジェット捺染装置1Iは、インク除き部材31Iであるかき取り片73の先端面73aと被捺染材Tの生地本体25の表面26との間の間隔Gを調整可能にする調整機構71がインク除去装置2Iに設けられている点で前記実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aのインク除去装置2Aと相違している。
また、その他の構成は前記実施例1に係るインクジェット捺染装置1Aと同様であるので、ここでは前記実施例1と相違するインク除去装置2Iの構成と作動態様を中心にして説明する。
【0086】
即ち、本実施例では、インク除き部材31Iを揺動軸72を中心に所定の角度揺動させることで先端面73aの位置を異ならせて前記接触作用高さH及び前記間隔Gを調整することができるようにする調整機構71が設けられている。
該調整機構71は、インク除き部材31Iの一部に設けられているラック75と、該ラック75に噛合するピニオン76と、該ピニオン76を正逆転方向に回転駆動するモーター77と、を備えることによって一例として構成されている。
【0087】
また、インク除き部材31Iは、一例として湾曲した板状部材によって構成されているかき取り片73と、該かき取り片73と一体に設けられ、前記揺動軸72に対して揺動自在に接続される揺動ブラケット74とを備えることによって構成されている。
また、前記ラック75は、前記湾曲したかき取り片73の基端部寄りの外周面に形成されている。
【0088】
そして、このような構成の本実施例に係るインクジェット捺染装置1Iによっても前記実施例1と同様の作用、効果を奏することができる。更に、調整機構71を設けたことで、毛羽27の長さや性状の異なる種々の被捺染材Tに対応して常に効果的な接触作用高さHになるように、間隔Gを調整することが可能になる。
【0089】
[他の実施例]
本発明に係るインクジェット捺染装置1は、以上述べたような構成を有することを基本とするものであるが、本願発明の要旨を逸脱しない範囲内の部分的構成の変更や省略等を行うことも勿論可能である。
例えば、インク除去装置2や立毛作用部5は、前述した単一の構造のものを一組ずつ設ける他、同じ構造あるいは違う構造のものを複数組設けることが可能である。
【0090】
また、前記実施例5、実施例6で採用した凸曲面部は、例示した15b、15cの2個に限らず、3個以上設けることも可能である。
また、前記実施例9で採用した調整機構71の構成は種々の構成が採用でき、ラックピニオン機構に代えて、カム機構等を採用したり、手動操作で調整するネジ式の調整機構であってもよい。
この他、インク除去装置2の取付け位置は、捺染領域17の下流位置の左右の支持フレーム37L、37Rに限らず、捺染ヘッド10やキャリッジ23等に支持させる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 インクジェット捺染装置、2 インク除去装置、3 繰出し機構部、
4 繰出しローラー、5 立毛作用部、7 搬送装置、8 搬送ベルト、
9 捺染実行部、10 捺染ヘッド、11 インク定着部、12 アフターヒーター、
13 巻取り機構部、14 巻取りローラー、15 搬送経路、15a 凸曲面部、
15b 凸曲面部、15c 凸曲面部、16 ガイドローラー、17 捺染領域、
19 乾燥領域、21 支持部、23 キャリッジ、25 生地本体、26 表面、
27 毛羽、31 インク除き部材、37 支持フレーム、41 帯電装置、
42 電極、43 電極板、45 電極板、53 支持部材、53A 支持ローラ、
53B 支持板、55 ワイパー、55a 先端面、56 クリーニング機構、
59 ノズル、59a 先端面、61 吸引路、71 調整機構、72 揺動軸、
73 かき取り片、73a 先端面、74 揺動ブラケット、75 ラック、
76 ピニオン、77 モーター、78 立毛処理領域、79 立毛処理部材、
T 被捺染材、A 搬送方向、B 幅方向、C (顔料)インク、D インクだま、
H 接触作用高さ、S 捺染範囲、G 間隔、GND アース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送装置によって搬送される被捺染材の捺染側の面に向けてインクを吐出して所望の捺染を実行する捺染ヘッドを備えた捺染実行部と、
前記捺染実行部の前記搬送方向における下流側に設けられ、前記被捺染材に印捺されたインクを固化させて定着するインク定着部と、
生地本体表面の毛羽に接触して当該毛羽に付着しているインクを除去するインク除き部材を備えたインク除去装置と、
前記インク除去装置による前記インクの除去に先立って、前記毛羽を立毛状態にする立毛作用部と、を備えていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記搬送装置、前記捺染実行部、前記インク定着部、前記インク除去装置、前記立毛作用部の動作を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記立毛作用部による立毛作用動作を「実行する」「実行しない」、及び前記インク除去装置によるインク除去の動作を「実行する」「実行しない」を選択可能に構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記インク除去部材と被捺染材の生地本体表面との間隔は、マニュアル操作によって、又は前記制御部の制御信号によって調整可能に構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記立毛作用部は、被捺染材に静電気を帯電させて前記毛羽を電気的に立毛状態にする帯電装置であることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記立毛作用部は、被捺染材の搬送経路に設けられた凸曲面部を備え、被捺染材が該凸曲面部を通過する際に湾曲されて毛羽が機械的に立毛状態に移行するように構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記インク除去装置は、前記インク除き部材に静電気を帯電させて前記毛羽に付着したインクを吸着除去するように構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記インク除き部材は、前記被捺染材の生地本体表面に非接触で、前記毛羽に接触するように設けられていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記インク除き部材は、被捺染材の捺染側の面が下向きになる経路に対して設けられていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記捺染実行部の上流側に、被捺染材の有する毛羽を立毛状態にする立毛処理部を備えていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項10】
被捺染材の捺染領域に供給された被捺染材の捺染側の面に向けてインクを吐出して所望の捺染を実行する捺染実行工程と、
捺染が実行された被捺染材の生地本体表面の毛羽を立毛状態にする立毛作用工程と、
前記立毛作用工程後に行われる、前記被捺染材の前記毛羽に接触して当該毛羽に付着している固化前のインクを除去するインク除去工程と、
前記インク除去工程後に行われる、前記被捺染材に付着したインクを固化させて定着するインク定着工程と、を有することを特徴とするインクジェット捺染による捺染物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−112081(P2012−112081A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263789(P2010−263789)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】