説明

インクジェット捺染装置及び捺染物の製造方法

【課題】裏面側からも印捺画像が見える捺染を、インク滲みが抑制された品質で、専用の布帛を用いなくても行えるようにすることにある。
【解決手段】本発明に係るインクジェット捺染装置は、搬送される被捺染材1の一方の面2に浸透液3を付着させる浸透液付着部4と、前記被捺染材1の他方の面5に顔料インク6を吐出するインクジェット式第1ヘッド7とを備えている。前記浸透液付着部4は、浸透液3を吐出するインクジェット式第2ヘッド9で構成され、前記インクジェット式第1ヘッド7及び前記インクジェット式第2ヘッド9の各駆動を制御する制御部10を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛すなわち被捺染材に対してインクジェット方式で捺染を行うインクジェット捺染装置及び捺染物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布帛の一方の面(表側)にインクを吐出して図柄等の画像の印捺を行うと共に、前記インクを布帛の他方の面(裏側)にまで積極的に浸透させて、該他方の面(裏側)からも前記画像が見えるようにする捺染技術が知られている。
例えば、米国特許公開US2008/00130公報(特許文献1)には、布帛裏面へのインクの浸透を促進させるために、補助剤として低粘度の浸透液をインクとともに吐出させてインクジェット捺染を行う方法が開示されている。
【0003】
また、特開2002−105875号公報(特許文献2)には、インクジェット捺染を行う前に、高濡れ性の処理液および低濡れ性の処理液の両方で布帛を処理した布帛を使用することにより、インクの浸透性を高めつつ滲みを制御できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許公開US2008/00130公報
【特許文献2】特開2002−105875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、布帛の印捺面に浸透液とインクとを同時に付着させるため、印捺面においてインクが滲み易い問題がある。
また、特許文献2に記載の方法では、インクジェット印捺する前に予め布帛を二種類の処理液で前処理する設備が必要である、或いはそのような前処理を行った専用の布帛を用いなければ意図する印捺を行えない問題がある。
【0006】
本発明の課題は、裏面側からも印捺画像が見える捺染を、インク滲みが抑制された品質で、専用の布帛を用いなくても行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明に係るインクジェット捺染装置の第1の態様は、搬送される被捺染材の一方の面に浸透液を付着させる浸透液付着部と、前記被捺染材の他方の面に顔料インクを吐出するインクジェット式第1ヘッドと、を備えている。
【0008】
ここで「被捺染材」とは、捺染の対象となる「布地」を意味し、綿、絹、羊毛等の天然繊維やナイロン等の化学繊維あるいはこれらを混ぜた複合繊維の織物、編物、不織布等が含まれ、ロール状に巻かれた長尺のものと、所定の長さにカットされたものの両方が含まれる。更に、縫製後のハンカチ、スカーフ、タオル、カーテン、シーツ、ベッドカバー等のファニチャーの類の他、縫製前の状態のパーツとして存在する裁断前後の布地等も含まれる。
また、「インクジェット式第1ヘッド」は、被捺染材の搬送方向と交差する方向に往復移動するキャリッジに搭載された構造のものと、ラインヘッド構造のもののいずれでもよい。
また、「顔料インク」は、「染料インク」と区別されるインクである。「顔料インク」は、色材が水等の溶剤に溶けずに粒子の状態で分散している。一方「染料インク」は色材が水等の溶剤に溶けている。本発明は顔料インクを用いる発明である。
【0009】
本態様に係るインクジェット捺染装置を用いれば、被捺染材の一方の面に浸透液付着部によって浸透液層を形成し、前記被捺染材の反対側の面にインクジェット式第1ヘッドによってインクを吐出して図柄等の画像を形成するので、以下の作用効果が得られる。
すなわち、被捺染材の一方の面(以下、「裏側の面」と言うこともある)に付着された浸透液が作る浸透液層によって、反対側の面(以下「表側の面」と言うこともある)に吐出されたインクは、前記浸透液層によって前記裏側の面に導かれる。これにより、専用の布帛を用いることなく、裏面側からも印捺画像が見える捺染を実行することができる。
そして、当該浸透液の付着量を、付着された浸透液が被捺染材の表側の面にまで到達しないように、或いは表側の面に到達する浸透液の量が少なくなるように調整することで、インクの滲みを抑制することができ、高品質の捺染物を得ることができる。
【0010】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第2の態様は、前記第1の態様において、前記浸透液付着部は、浸透液を吐出するインクジェット式第2ヘッドで構成され、前記インクジェット式第1ヘッド及び前記インクジェット式第2ヘッドの各駆動を制御する制御部を備えていることを特徴とするものである。
【0011】
本態様によれば、浸透液もインクジェット式第2ヘッドのノズル列の各ノズル孔から吐出して被捺染材に付着させることができるので、図柄等の画像に対応する範囲だけにコート液を付着させることを容易に行うことができる。これにより、不要な箇所に浸透液を付着させずに済み、浸透液を無駄なく有効に使用することが可能になる。
また、制御部によってインクジェット式第1ヘッド及びインクジェット式第2ヘッドの各駆動が制御されるので、被捺染材の種類に応じた印捺条件の調整が可能であり、ユーザーの要求に対応し易くなっている。
【0012】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第3の態様は、前記第2の態様において、前記インクジェット式第1ヘッドは、前記インクジェット式第2ヘッドに対して搬送方向における同じ位置に配置されていることを特徴とするものである。
【0013】
本態様によれば、浸透液とインクが被捺染材の表裏の同じ位置に吐出されるので、浸透液が裏側の面から表側に向って浸透を進めて浸透液層が形成中の状態で、表側の面に吐出されたインクが前記浸透液層に接触することになる。これにより、インクの滲みを一層効果的に抑制することができる。
また、本態様によれば、浸透液が揮発性の溶剤を含むものである場合、その揮発で溶剤が減少することによる浸透液組成の変動の影響を小さく抑えることができ、高品質の捺染を実現することができる。
【0014】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第4の態様は、前記第2の態様において、前記インクジェット式第1ヘッドと前記インクジェット式第2ヘッドを搬送方向に対して相対的に接離させる接離駆動部を備え、前記制御部は、前記インクジェット式第1ヘッド、前記インクジェット式第2ヘッド及び前記接離駆動部の各駆動を制御可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0015】
本態様によれば、前記インクジェット式第1ヘッドと前記インクジェット式第2ヘッドは搬送方向に対して相対的に接離可能であるので、両ヘッドの搬送方向における間隔を変えることが可能となり、この間隔を変えることで、他の駆動条件は変えなくても、捺染された画像の発色性の程度や滲みの程度を調整することが可能となり、ユーザーの意図や好みに基づいた捺染結果のバリエーションを容易につけることができる。
【0016】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第5の態様は、前記第4において、前記インクジェット式第2ヘッドの部位を通過した被捺染材は反転部で反転されて前記インクジェット式第1ヘッドの捺染実行領域に至るように構成されていることを特徴とするものである。
【0017】
本態様によれば、被捺染材に浸透液が吐出された状態で、当該被捺染材は搬送経路における反転部での反転に伴う軽い扱き作用を受ける。これにより、被捺染材の組織に馴染んだ浸透液層になり、一層高品質の捺染を実現することができる。
【0018】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第6の態様は、前記第2の態様から第5の態様のいずれか一つの態様において、前記制御部は、前記インクジェット式第1ヘッドと前記インクジェット式第2ヘッドの各液体吐出量を制御可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0019】
本態様によれば、前記インクジェット式第1ヘッドと前記インクジェット式第2ヘッドの各液体吐出量を変えることによって、捺染結果のバリエーションを一層多くつけることができる。
【0020】
本発明の第7の態様となる捺染物の製造方法は、前記第1の態様から第6の態様のいずれか一つに記載されたインクジェット捺染装置を用いて被記録材に捺染を実行するものである。
【0021】
本態様によれば、前記第1の態様から第6の態様のいずれか一つに記載されたインクジェット捺染装置の作用効果に基いて発色性の高い、滲みの少ない、且つ風合いが損なわれない捺染物を、専用の布帛を用いることなく製造することができる。
或いは、ユーザーの望む程度の発色性、滲み抑制、更に風合いの捺染物を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例1に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図2】(A)(B)(C)は同実施例に係るインクジェット捺染装置の作用を説明する図。
【図3】実施例2に係り、浸透液とインクが被捺染材の表裏の同じ位置に吐出されるインクジェット捺染装置の要部概略の側面図。
【図4】実施例3に係り、インクジェット第2ヘッドが移動可能である要部概略の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施例1](図1、図2参照)
図1に示したように、本発明の実施例1に係るインクジェット捺染装置は、搬送される被捺染材1の一方の面2に浸透液3を付着させる浸透液付着部4と、前記被捺染材1の他方の面5に顔料インク6を吐出するインクジェット式第1ヘッド7とを備えている。インクジェット式第1ヘッド7は、被捺染材1の搬送方向Aに顔料インク6を吐出するためのノズル孔が複数並んだノズル列8を有する公知の構造のものである。
該インクジェット式第1ヘッド7は、前記搬送方向Aと交差する方向(図1の紙面と直交する方向)に往復移動するキャリッジ13に搭載されている。図1において、符号16、17はキャリッジ13のガイド軸を示し、該ガイド軸16、17は公知の構造のものであり、その両端は装置本体のサイドフレーム(図示せず)に軸支されている。尚、インクジェット式第1ヘッド7はラインヘッドであってもよい。
【0024】
浸透液付着部4は、スプレー式やロールコート式等の塗布装置、インクジェット式の液体噴射ヘッドが挙げられる。本実施例では、浸透液付着部4は、前記インクジェット式第1ヘッド7と同構造で浸透液3を吐出するノズル列8を有するインクジェット式第2ヘッド9で構成されている。該インクジェット式第2ヘッド9も、前記搬送方向Aと交差する方向に往復移動するキャリッジ14に搭載されている。符号18、19はキャリッジ14のガイド軸を示す。尚、インクジェット式第2ヘッド9もラインヘッドであってもよい。
【0025】
前記インクジェット式第1ヘッド7及び前記インクジェット式第2ヘッド9の各駆動は制御部10によって制御されるようになっている。すなわち、捺染実行指令15が制御部10に送られると、該制御部10は各制御信号11、12をインクジェット式第1ヘッド7及びインクジェット式第2ヘッド9に送る。これにより、インクジェット式第2ヘッド9から被捺染材1の一方の面2に浸透液3が吐出され、インクジェット式第1ヘッド7から被捺染材1の他方の面5に顔料インク6が吐出されるようになっている。
【0026】
本実施例では、前記インクジェット式第1ヘッド7は、前記インクジェット式第2ヘッド9に対して搬送方向Aにおける下流側に離間して配置されている。
更に、前記インクジェット式第2ヘッド9の部位を通過した被捺染材1は反転部20で反転されて前記インクジェット式第1ヘッド7の部位に至るように構成されている。符号21は反転用ローラを示す。尚、インクジェット式第2ヘッド9の上流側にも反転用ローラ22が配設されている。両反転用ローラ21、22によって、当該インクジェット式第2ヘッド9による浸透液3の吐出を上方側から下方側に向けて行えるように搬送経路が構成されている。
また、前記制御部10は、前記インクジェット式第1ヘッド7と前記インクジェット式第2ヘッド9の各液体吐出量を増減調整して吐出する制御を実行可能に構成されている。
【0027】
次に、図2を用いて、上記実施例1のインクジェット捺染装置を用いて被捺染材1に捺染を実行して捺染物を製造する場合の作用効果を従来と対比しつつ説明する。
図2(A)は、被捺染材1に浸透液による浸透液層を形成しないで、顔料インク6を吐出した場合を示す。浸透液層がないため、顔料インク6は被捺染材1の表側の面5に止まり、裏側の面2にまで到達していないので、裏側の面2は印捺画像は見えない状態を示している。
【0028】
図2(B)は、上記実施例のインクジェット捺染装置によって、前記従来提供されている専用の布帛ではなく、通常の被捺染材に対して捺染が行われて製造された捺染物を示している。浸透液3は被捺染材1の裏側の面2に吐出されるので、浸透液層25は裏面側に形成され、表面付近には浸透液層25は存在しない。即ち、表面には浸透液層25の非存在部26がある。そのため、被捺染材1の表側の面5に吐出される顔料インク6は、浸透液層25の非存在部26によって面に沿う方向への浸透は進まず、内部には浸透する。そして浸透液層25に接触して浸透が促進されるため、顔料インク6は裏側の面2にまで到達する。
これにより、裏面側からも印捺画像が見える、インク滲みの抑制された捺染物を、専用の布帛を用いなくても得ることが可能となる。
【0029】
図2(C)は、被捺染材1の表側の面5に浸透液3による浸透液層25が形成されているものに、同じく表側の面5から顔料インク6を吐出した場合を示す。浸透液層25の存在によって顔料インク6の内部への浸透は促進され、全体として図2(A)の場合よりも内部深く浸透するが、同時に面に沿う方向への浸透も進む。すなわち、顔料インク6は被捺染材1の面に沿う横方向にも拡がりつつ、裏側の面2にまで到達することになる。そのため、画像が滲むと共に、薄い色合いの画像になってしまう。
【0030】
更に上記実施例によれば、以下に記す作用効果が得られる。
先ず、浸透液3もインクジェット式第2ヘッド9のノズル列8の各ノズル孔から吐出して被捺染材1に付着させることができるので、図柄等の画像形成領域に対応する範囲だけに浸透液3を付着させることを容易に行うことができる。これにより、不要な箇所に浸透液3を付着させずに済み、浸透液3を無駄なく有効に使用することが可能になる。
また、制御部10によってインクジェット式第1ヘッド7及びインクジェット式第2ヘッド9の各駆動が制御されるので、被捺染材の種類に応じた印捺条件の調整が可能であり、ユーザーの要求に対応し易くなっている。
【0031】
また、インクジェット式第1ヘッド7は、インクジェット式第2ヘッド9に対して搬送方向Aにおける下流側に離間して配置されているので、被捺染材1の一方の面2に浸透液層25を形成した後に、間をおいて反対側の面5に図柄を形成するための顔料インク6を吐出することができる。従って、浸透液3が吐出されて形成される浸透液層25の安定性が進んだタイミングで前記図柄が形成されることになり、前記安定性に基づく捺染品質の向上を図れる。
【0032】
また、前記インクジェット式第2ヘッド9の部位を通過した被捺染材1は反転部20で反転されて前記インクジェット式第1ヘッド7の捺染実行領域(ノズル列8のカバーする領域)に至るように構成されているので、被捺染材1に浸透液3が吐出された状態で、当該被捺染材1は搬送経路における反転部20での反転に伴う軽い扱き作用を受ける。これにより、被捺染材1の組織に馴染んだ浸透液層25になり、捺染品質の向上を図れる。
【0033】
また、前記制御部10は、前記インクジェット式第1ヘッド7と前記インクジェット式第2ヘッド9の各液体吐出量を増減調整して吐出する制御を実行可能に構成されているので、前記インクジェット式第1ヘッド7と前記インクジェット式第2ヘッド9の各液体吐出量を変えることによって、発色性の程度や滲み抑制の程度、更に裏側の面2への到達度合いの程度について調整を細かく行うことが可能となり、捺染結果のバリエーションを一層多くつけることができる。
【0034】
[実施例2](図3参照)
図3に示したように、実施例2に係るインクジェット捺染装置は、前記インクジェット式第1ヘッド7は、前記インクジェット式第2ヘッド9に対して搬送方向における同じ位置に配置されている。本実施例では、搬送方向Aが鉛直上方となる搬送経路に前記インクジェット式第1ヘッド7とインクジェット式第2ヘッド9が配設されている。その他の構成は図1の実施例と同様なので、その説明は省略する。
【0035】
本実施例によれば、浸透液3と顔料インク6が被捺染材1の表裏において同じ位置に吐出されるので、浸透液3が裏側の面2から表側に向って浸透を進めて浸透液層25が形成中の状態で、表側の面5に吐出された顔料インク6が前記浸透液層25に接触することになる。これにより、顔料インク6の滲みを一層効果的に抑制することができる。
特に、本実施例によれば、浸透液3が揮発性の溶剤を含むものである場合、その揮発で溶剤が減少することによる浸透液組成の変動の影響を小さく抑えることができ、高品質の捺染を実現することができる。
【0036】
[実施例3](図4参照)
実施例3に係るインクジェット捺染装置は、前記インクジェット式第1ヘッド7と前記インクジェット式第2ヘッド9を搬送方向Aに対して相対的に接離させる接離駆動部30を備えている。そして、前記制御部10は、インクジェット式第1ヘッド7、インクジェット式第2ヘッド9及び前記接離駆動部30の各駆動を制御可能に構成されている。その他の構成は前記実施例2と同じであるので、その説明は省略し、相違点を詳しく説明する。
【0037】
前記接離駆動部30は、本実施例ではラック・ピニオン機構によって構成されている。すなわち、キャリッジガイド軸18、19の両端を支持する軸受部が、前記装置本体のサイドフレーム(図示せず)とは別個独立して設けられ、図4に示したように、ラック31と一体的に設けられている。ラック31と組をなすピニオン32は、制御部10からの制御信号33を受けて正転及び逆転方向に回動し、これにより、ラック31が搬送方向Aにスライドするようになっている(矢印34)。図4において、破線で示した位置はインクジェット式第2ヘッド9がインクジェット式第1ヘッド7に接近した状態を示している。
【0038】
本実施例によれば、前記インクジェット式第1ヘッド7と前記インクジェット式第2ヘッド9は、搬送方向Aに対して相対的に接離することができるので、両ヘッド7、9の搬送方向Aにおける間隔を変えることが可能となる。この間隔を変えることによって被捺染材1の裏側の面2に吐出された浸透液3と表側の面5に吐出された顔料インク6とが、互いに内部に逆方向から浸透して接触するタイミングが変ることになる。これにより、他の駆動条件は変えなくても、捺染された画像の発色性の程度や滲みの程度を調整することが可能となり、ユーザーの意図や好みに基づいた捺染結果のバリエーションを容易につけることができる。
【0039】
次に、本発明のインクジェット捺染装置で用いる浸透液3と顔料インク6について説明する。上記説明から容易に理解できるように、本発明において用いることができる浸透液3と顔料インク6は、特定の種類のもの、或いは特定の種類の組合せに限定されない。従って、従来公知の浸透液3と顔料インク6を全て用いることができるが、以下に具体的に示す。
【0040】
<顔料インク>
顔料インクは、色材と、耐擦性向上用樹脂と、少なくとも溶剤を含む他の成分によって構成されている。顔料インクは、染料インクに対して耐光性、耐水性等の保存性にも優れていることが知られている。前記色材としては、公知の有機顔料、無機顔料、およびカーボンブラック等が挙げられる。
【0041】
例えば、黒色インク用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類が特に好ましいが、銅酸化物、鉄酸化物(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料が挙げられる。
【0042】
また、カラーインク用の顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83(ジスアゾイエローHR)、93、94、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、128、138、153、155、180、185、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、202、206、209、219、C.I.ピグメントバイオレット19、23、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)、15:4、15:6(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36等が挙げられる。
【0043】
インクにおける色材の含有量としては、0.5%〜30%が好ましいが、さらに1.0%〜15%が好ましい。これ以下の添加量では、印捺濃度が確保できなくなり、またこれ以上の添加量では、インクの粘度増加や粘度特性に構造粘性が生じ、インクジェット捺染ヘッドからのインクの吐出安定性が悪くなる傾向になる。
【0044】
次に、耐擦性向上用樹脂について説明する。この耐擦性向上用樹脂は、インクの洗濯堅牢性、耐擦性、定着性を向上させることを目的として添加される樹脂であり、公知の樹脂、例えば、特開2006−307165号公報に記載の樹脂成分を挙げることができる。具体的には、親水性樹脂と疎水性樹脂との複合成分樹脂が挙げられる。親水性樹脂としては、カルボキシル基、スルホン基等の親水性基を有するスチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等である。疎水性樹脂としては、疎水性を示すスチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等である。
また、これらは公知の方法、例えば、特開2010−189626号公報に記載の方法(高分子微粒子の作成方法)によって、製造することができる。
【0045】
また、耐擦性向上用樹脂のガラス転移温度は、0℃以下であることが好ましい。このことによって、布帛用インクとしての顔料の定着性が向上する。0℃を超えると顔料の定着性が徐々に低下してくる。好ましくは−5℃以下であり、より好ましくは−10℃以下である。更に、前記耐擦性向上用樹脂の酸価は、10mgKOH/g以上で100mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が100mgKOH/gを超えると、被捺染材に印捺した場合の洗濯堅牢性が低下する。好ましくは50mgKOH/g以下であり、より好ましくは30mgKOH/g以下である。
また、耐擦性向上用樹脂の分子量は、10万以上が好ましく、より好ましくは20万以上である。10万未満では布帛に印捺した場合の洗濯堅牢性が低下する。
【0046】
次に、前記色材および耐擦性向上用樹脂以外の他の成分について説明する。前記他の成分は、少なくとも溶剤を含む成分であり、例えば、1、2−へキサンジオール、ブチルトリグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、トリエタノールアミン等の溶剤の他、界面活性剤、イオン交換水等である。前記界面活性剤としては、アセチレングリコール系、アセチレンアルコール系等の公知の界面活性剤を用いることができる(例えば、特開2010−189626号公報を参照)。
【0047】
また、放置安定性の確保、インクジェットヘッドからの安定吐出、目詰まり改善、あるいはインクの劣化防止等を目的として、保湿剤、溶解助剤、浸透制御剤、粘度調整剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、腐食防止剤、分散に影響を与える金属イオンを捕獲するためのキレート等種々の添加剤を添加することもできる。
【0048】
<浸透液>
浸透液としては、インクジェット捺染インクにおいて通常用いられる浸透剤や界面活性剤を好適に用いることができる。
このような浸透剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル(日本乳化剤社製:ニューコール1006)、テトラエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル(日本乳化剤社製:ニューコール1004)などの多価アルコールのアルキルエーテル類、尿素、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどが挙げられる。また、多価アルコールのアルキルエーテル類としては、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテルを一種または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
また、界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩類;アルキル硫酸エステル塩類等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤;サーフィノール61、82、104、440、465、485(何れも商品名、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)、オルフィンE1010、オルフィンSTG、オルフィンY(何れも商品名、日信化学社製)等のアセチレングリコ−ル系界面活性剤;カチオン性界面活性剤;両イオン性界面活性剤、KF−353A、KF6017、X−22−6551、AW−3(何れも商品名、信越化学工業社製)等のオルガノポリシロキサン系界面活性剤等を挙げることができる。
浸透液は、上記した浸透剤を、浸透液の全質量に対して概ね10〜30質量%、また、界面活性剤を概ね0.1〜3.0質量%含むことが好ましい。
【0050】
本発明において用いられる浸透液は、被捺染材の濡れ性を高めて顔料インクの浸透性を向上させ、また、インク組成物とのpHの調整を行うために、有機アミンを含有していてもよい。有機アミンとしては、三級アミンが好ましく使用でき、例えば、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。
有機アミンの含有量は、浸透液の全質量に対して、概ね0.05〜3.0質量%である。
【0051】
本発明においては、浸透液の表面張力が28.0mN/m以上、好ましくは29.0〜30.0mN/mの範囲となるように、上記した各成分の添加量を調整することが好ましい。表面張力が上記範囲にある浸透液を用いることにより、インクの滲みを最小限に抑えながら被捺染材の内部まで顔料インクを浸透させることができ、その結果、滲みがなく、表裏で図柄等の画像の濃度に差の少ない捺染物得ることができる。当業者であれば、表面張力が上記範囲となるように、上記した各成分の添加量を適宜調整することができる。
なお、浸透液の表面張力は、例えば、自動動的表面張力計CBVP−Z(協和界面科学社製)を用いて白金プレート上で測定できるが、これに限られるものではない。
【0052】
インクジェット方式により浸透液の吐出を行う場合、インクジェット第2ヘッドのノズルからの吐出安定性を向上させる観点から、保湿剤を含有させることが好ましい。
保湿剤としては、通常のインクジェット捺染用インク組成物に保湿剤として使用されている化合物を用いることができる。例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、またはペンタエリスリトール等のポリオール類、およびそのエーテルまたはエステル等の誘導体;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、またはε−カプロラクタム等のラクタム類;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、または1,3−ジメチルイミダゾリジノン類等の尿素類;マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、またはマルトース等の糖類等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。
前記保湿剤の含有量は、浸透液の全質量に対して、好ましくは4〜40質量%である。
【0053】
また、浸透液は、上記した各成分に加えて、バランスとして水を含む。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
また、必要に応じて、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤等のような、インクジェット捺染用のインク組成物において通常用いることができる各種添加剤の一種または二種以上を含有させることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 被捺染材、 2 一方の面(裏側の面)、 3 コート液、
4 コート液付着部、 5 他方の面(表側の面)、 6 インク、
7 インクジェット式第1ヘッド、 8 ノズル列、
9 インクジェット式第2ヘッド、 10 制御部、 11 制御信号、
12 制御信号、 13 キャリッジ、 14 キャリッジ、 15 捺染実行指令、
16 ガイド軸、 17 ガイド軸、 18 ガイド軸、 19 ガイド軸、
20 反転部、 21 反転用ローラ、 22 反転用ローラ、 23 色材、
24 樹脂層、 25 コート層、 26 非存在部、 30 接離駆動部、
31 ラック、 32 ピニオン、 33 制御信号、34 矢印、 A 搬送方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される被捺染材の一方の面に浸透液を付着させる浸透液付着部と、
前記被捺染材の他方の面に顔料インクを吐出するインクジェット式第1ヘッドと、を備えているインクジェット捺染装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記浸透液付着部は、浸透液を吐出するインクジェット式第2ヘッドで構成され、
前記インクジェット式第1ヘッド及び前記インクジェット式第2ヘッドの各駆動を制御する制御部を備えていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記インクジェット式第1ヘッドは、前記インクジェット式第2ヘッドに対して搬送方向における同じ位置に配置されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項4】
請求項2に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記インクジェット式第1ヘッドと前記インクジェット式第2ヘッドを搬送方向に対して相対的に接離させる接離駆動部を備え、
前記制御部は、前記インクジェット式第1ヘッド、前記インクジェット式第2ヘッド及び前記接離駆動部の各駆動を制御可能に構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項5】
請求項4に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記インクジェット式第2ヘッドの部位を通過した被捺染材は反転部で反転されて前記インクジェット式第1ヘッドの捺染実行領域に至るように構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項6】
請求項2から5のいずれか一項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記制御部は、前記インクジェット式第1ヘッドと前記インクジェット式第2ヘッドの各液体吐出量を制御可能に構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載されたインクジェット捺染装置を用いて被捺染材に捺染を実行する捺染物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−197531(P2012−197531A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62208(P2011−62208)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】