インクジェット捺染装置及び捺染物の製造方法
【課題】印捺画像のイメージすなわち捺染結果をユーザーの意図に応じて容易に変化させることができるようにすること。
【解決手段】搬送される被捺染材1にインク6を吐出するインクジェット式のインク吐出ヘッド7と、前記被捺染材1に対して前記インクと異なる液体である第1前処理液(コート液)3と第2前処理液(浸透液)30を吐出する第1前処理液吐出ヘッド9と第2前処理液吐出ヘッド90とを備えて構成され、第1前処理液吐出ヘッド9は、被捺染材1に対してインク吐出ヘッド7と同じ側の上流と反対側の上流の一方の側に一つ以上設けられ、第2前処理液吐出ヘッド90は、被捺染材1に対して第1前処理液吐出ヘッド9の設けられていない他方の側に一つ以上設けられている。
【解決手段】搬送される被捺染材1にインク6を吐出するインクジェット式のインク吐出ヘッド7と、前記被捺染材1に対して前記インクと異なる液体である第1前処理液(コート液)3と第2前処理液(浸透液)30を吐出する第1前処理液吐出ヘッド9と第2前処理液吐出ヘッド90とを備えて構成され、第1前処理液吐出ヘッド9は、被捺染材1に対してインク吐出ヘッド7と同じ側の上流と反対側の上流の一方の側に一つ以上設けられ、第2前処理液吐出ヘッド90は、被捺染材1に対して第1前処理液吐出ヘッド9の設けられていない他方の側に一つ以上設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛すなわち被捺染材に対してインクジェット方式で捺染を行うインクジェット捺染装置及び捺染物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被捺染材に印捺したときにインクの色材が被捺染材の組織内部へ浸透して発色性が低下するのを抑制することを目的として、或いは発色性を高め、滲みを抑制することを目的として、被捺染材内部へインクが浸透することを抑制する機能を有するコート液を該被捺染材に付着することが従来行われている(例えば、特許文献1、特許文献2)。コート液は一般的には色材を含まず無色であり、上記の機能を発揮するための樹脂が主要成分の一つとして含まれている。
【0003】
従来は、コート液を被捺染材の表面に付着させ、その上にテキスタイルインクを用いて図柄等の画像を印捺していた。これにより、コート液によるコート層にインクが吐出されるので、発色性が高まり、滲みも抑制される。しかし、コート液が前記画像が印捺された面と同じ被捺染材の表面を覆っているため、被捺染材が本来的に持っている風合いが損なわれる。
【0004】
また従来、布帛の一方の面(表側)にインクを吐出して図柄等の画像の印捺を行うと共に、前記インクを布帛の他方の面(裏側)にまで積極的に浸透させて、該他方の面(裏側)からも前記画像が見えるようにする捺染技術が知られている。
例えば、米国特許公開US2008/00130公報(特許文献3)には、布帛裏面へのインクの浸透を促進させるために、補助剤として低粘度の浸透液をインクとともに吐出させてインクジェット捺染を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−137283号公報
【特許文献2】特開2009−30014号公報
【特許文献1】米国特許公開US2008/00130公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術は、印捺画像の発色性を高め、滲みは抑制するという目的(特許文献1、特許文献2)、或いは被捺染材の裏面側からも印捺画像が見えるようにするという目的(特許文献3)と言った一面的な目的の下でなされている限りである。発色性はただ高ければ良いというものではないし、滲みも適度であれば印捺画像に味が出るという感じ方もある。また、被捺染材の裏面側から見える印捺画像の見え方も単に表側の印捺画像と同じであればよいと言うだけではなく、その見え方にバリエーションをつけたい場合もある。
すなわち、ユーザーが印捺画像に求めるものは、単純に発色性を高める、滲みを低減する、裏面側からも表面側と同じに見えるといった画一的なものではなく、自らの意図に合ったイメージの印捺画像に仕上げたいということが多い。
しかし、従来は、そのようなユーザーの意図は必ずしも充分に考慮されていなかった。
【0007】
本発明の課題は、印捺画像のイメージすなわち捺染結果をユーザーの意図に応じて容易に変化させることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係るインクジェット捺染装置の第1の態様は、搬送される被捺染材にインクを吐出するインクジェット式のインク吐出ヘッドと、前記被捺染材に対して前記インクと異なる液体を付着させる複数の液体付着部と、前記インク吐出ヘッド及び複数の前記液体付着部の各駆動を制御する制御部と、を備えている。
【0009】
ここで「被捺染材」とは、捺染の対象となる「布地」や「衣服その他の服飾製品」等を意味する。「布地」には、綿、絹、羊毛等の天然繊維やナイロン等の化学繊維あるいはこれらを混ぜた複合繊維の織物、編物、不織布等が含まれ、ロール状に巻かれた長尺のものと、所定の長さにカットされたものの両方が含まれる。
また、「衣服その他の服飾製品」には、縫製後のTシャツ、ハンカチ、スカーフ、タオル、手提げ袋、布製のバッグ、カーテン、シーツ、ベッドカバー等のファニチャーの類の他、縫製前の状態のパーツとして存在する裁断前後の布地等も含まれる。
また、ここで、「インクジェット式のインク吐出ヘッド」は、被捺染材の搬送方向と交差する方向に往復移動するキャリッジに搭載された構造のものと、ラインヘッド構造のもののいずれでもよい。
【0010】
本態様に係るインクジェット捺染装置を用いれば、複数の液体付着部によって被捺染材にインクと異なる液体をそれぞれ付着させることができると共に、制御部によって前記複数の液体付着部の駆動を制御することで、例えば、前記液体の付着量や付着領域等を調整することができる。従って、ユーザーはそれらを調整することで、印捺画像のイメージすなわち捺染結果を自らの意図に合わせて容易に変化させることができ、もってユーザーの意図に合うイメージの印捺画像(捺染結果)を容易に得ることができる。
【0011】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第2の態様は、前記第1の態様において、前記液体付着部は、液体を吐出するインクジェット式の液体吐出ヘッドで構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
本態様によれば、前記液体付着部は、液体を吐出するインクジェット式の液体吐出ヘッドで構成されている。即ち前記液体も液体吐出ヘッドのノズル列の各ノズル孔から吐出して被捺染材に付着させることができるので、図柄等の画像に対応する範囲だけに前記液体を付着させることを容易に行うことができる。これにより、不要な箇所に前記液体を付着させずに済み、該液体を無駄なく有効に使用することが可能になる。
【0013】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第3の態様は、前記第2の態様において、前記インクと異なる液体は、前記インクの吐出に先行して付着される前処理用の液体であり、前記複数の液体吐出ヘッドは、第1前処理液を吐出する第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液を吐出する第2前処理液吐出ヘッドとを備えて構成され、前記第1前処理液吐出ヘッドは、前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと同じ側の上流と反対側の上流の一方の側に一つ以上設けられ、前記第2前処理液吐出ヘッドは、前記被捺染材に対して前記第1前処理液吐出ヘッドの設けられていない他方の側に一つ以上設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
本態様によれば、前記第1前処理液吐出ヘッドは、前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと同じ側の上流と反対側の上流の一方の側に一つ以上設けられ、前記第2前処理液吐出ヘッドは、前記被捺染材に対して前記第1前処理液吐出ヘッドの設けられていない他方の側に一つ以上設けられている。従って、被捺染材の両側にそれぞれ位置する第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液吐出ヘッドの各駆動を前記制御部で制御することで、すなわちそれぞれの前処理液の吐出量や吐出領域等を被捺染材の両側から調整することで、前処理の仕方にバリエーションを多くつけることが可能となる。これにより、印捺画像(捺染結果)にも一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーの意図に一層合わせ易くなる効果が得られる。
【0015】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第4の態様は、前記第2の態様において、前記インクと異なる液体は、前記インクの吐出に先行して付着される前処理用の液体であり、前記複数の液体吐出ヘッドは、第1前処理液を吐出する第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液を吐出する第2前処理液吐出ヘッドとを備えて構成され、前記第1前処理液吐出ヘッド及び前記第2前処理液吐出ヘッドは、いずれも前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと同じ側又は反対側の上流に一組以上設けられていることを特徴とするものである。
【0016】
本態様によれば、前記第1前処理液吐出ヘッド及び前記第2前処理液吐出ヘッドは、いずれも前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと同じ側の上流に一組以上設けられている。或いは、前記第1前処理液吐出ヘッド及び前記第2前処理液吐出ヘッドは、いずれも前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと反対側の上流に一組以上設けられている。
第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液吐出ヘッド同士は、同じ側に位置するが、それらの前処理液の吐出量や吐出領域等を調整することで、前記第3の態様とは質の異なる観点から前処理の仕方にバリエーションを多くつけることが可能となる。これにより、印捺画像(捺染結果)にも一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーの意図に一層合わせ易くなる効果が得られる。
【0017】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第5の態様は、前記第3の態様において、前記第1前処理液を吐出する他の第1前処理液吐出ヘッドが、更に前記第1前処理液吐出ヘッドの設けられていない他方の側に一つ以上設けられ、前記第2前処理液を吐出する他の第2前処理液吐出ヘッドが、更に前記第2前処理液吐出ヘッドの設けられていない他方の側に一つ以上設けられていることを特徴とするものである。
【0018】
本態様によれば、前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと同じ側に第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液吐出ヘッドが配置され、更に反対側にも第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液吐出ヘッドが配置された構造である。従って、被捺染材の両側に位置する前記四つ以上の前処理液吐出ヘッドから吐出される各前処理液の吐出量や吐出領域等を調整することで、更に前記四つ以上の前処理液吐出ヘッドの用いる組合せを変えることで、前処理の仕方にバリエーションを一層多くつけることが可能となる。これにより、印捺画像(捺染結果)にも更に一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーの意図に更に一層合わせ易くなる効果が得られる。
【0019】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第6の態様は、前記第4の態様において、前記第1前処理液吐出ヘッド及び前記第2前処理液吐出ヘッドが設けられていない他方の側に、前記第1前処理液を吐出する他の第1前処理液吐出ヘッドと前記第2前処理液を吐出する他の第2前処理液吐出ヘッドの少なくとも一方が一つ以上設けられていることを特徴とするものである。
【0020】
本態様によれば、前記第5の態様とほぼ同様に、被捺染材の両側に位置する複数の前記前処理液吐出ヘッドから吐出される各前処理液の吐出量や吐出領域等を調整することで、更に複数の前記前処理液吐出ヘッドの用いる組合せを変えることで、前処理の仕方にバリエーションを一層多くつけることが可能となる。
【0021】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第7の態様は、前記第3の態様から第6の態様のいずれか一つの態様において、前記第1前処理液はコート液、前記第2前処理液は浸透液であることを特徴とするものである。
【0022】
コート液は、被捺染材の内部組織中へインクが浸透することを抑制する機能を有するもので、印捺画像の発色性を高め、また滲みを抑制する。被捺染材の印捺面にコート液によるコート層を設け、その上にインクを吐出して捺染を行うと、前記発色や滲み防止の点では好ましいが、被捺染材が本来的に持っている風合いが損なわれる。
一方、浸透液は、被捺染材の内部組織中へインクが浸透することを促進する機能を有するもので、インクの定着性を高め、またその浸透の程度によって裏面側からも捺染画像が見えるようにすることができる。被捺染材の印捺面に浸透液による浸透液層を設け、その上にインクを吐出して捺染を行うと、前記インク定着や裏面側からも捺染画像が見えるようにできる点で好ましいが、その浸透性故に印捺画像に滲みが生じ易い。
【0023】
本態様によれば、制御部によってコート液の吐出量や吐出領域等を調整でき、また浸透液の吐出量や吐出領域等も調整できる。これらの調整を行うことにより、コート液の長所及び短所、浸透液の長所及び短所を踏まえて、バリエーションに富んだ印捺の実行が可能となる。従って、ユーザーは自らの求めるイメージの印捺画像(捺染結果)を容易に得易くなっている。
【0024】
本発明の第8の態様となる捺染物の製造方法は、前記第1の態様から第7の態様のいずれか一つに記載されたインクジェット捺染装置を用いて被記録材に捺染を実行するものである。
【0025】
本態様によれば、前記第1の態様から第7の態様のいずれか一つに記載されたインクジェット捺染装置の作用効果に基いて、捺染物の製造に際して前処理の仕方にバリエーションを多くつけることが可能となる。これにより、印捺画像(捺染結果)にも一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーの意図に一層合った捺染物の製造が可能となる効果が得られる。
【0026】
本発明に係る捺染物の製造方法の第9の態様は、前記第8の態様において、前記コート液は、皮膜伸度が300%以上400%以下、抗張力が40N/mm2以上50N/mm2以下のウレタン樹脂を含む液であることを特徴とするものである。
本態様によれば、高品質の捺染物を製造することができる。
【0027】
本発明に係る捺染物の製造方法の第10の態様は、前記第8の態様において、前記コート液は、樹脂酸価が10mgKOH/g以上30mgKOH/g以下を満たすウレタン樹脂を含む液であることを特徴とするものである。
本態様によれば、高品質の捺染物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例1に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図2】本発明の実施例2に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図3】本発明の実施例3に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図4】本発明の実施例4に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図5】本発明の実施例5に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図6】本発明の実施例6に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図7】本発明の実施例7に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図8】本発明の実施例8に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図9】本発明の実施例9に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図10】本発明の実施例10に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図11】本発明の実施例11に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図12】(A)(B)(C)(D)は各実施例に係るインクジェット捺染装置の作用を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[実施例1](図1参照)
図1に示したように、本発明の実施例1に係るインクジェット捺染装置は、搬送される被捺染材1にインク6を吐出するインクジェット式のインク吐出ヘッド7と、前記被捺染材1に対して前記インク6と異なる液体3、30を付着させる二つの液体付着部4、40とを備えている。
【0030】
前記インク吐出ヘッド7は、インク6を吐出するためのノズル孔が被捺染材1の搬送方向Aに複数並んだノズル列8を有する公知の構造のものである。
本実施例では、インク吐出ヘッド7は、前記搬送方向Aと交差する方向(図1の紙面と直交する方向)に往復移動するキャリッジ13に搭載されている。図1において、符号16、17はキャリッジ13のガイド軸を示し、該ガイド軸16、17は公知の構造のものであり、その両端は装置本体のサイドフレーム(図示せず)に軸支されている。尚、インク吐出ヘッド7はラインヘッドであってもよい。
【0031】
前記液体付着部4、40は、スプレー式やロールコート式等の塗布装置、インクジェット式の液体噴射ヘッドが挙げられる。本実施例では、液体付着部4、40は、前記インク吐出ヘッド7と同構造で、液体を吐出するノズル列8を有するインクジェット式の液体吐出ヘッド9、90で構成されている。
【0032】
前記インクと異なる液体3、30は、前記インク6の吐出に先行して付着される前処理用の液体、すなわち第1前処理液(以下符号3を用いる)と第2前処理液(以下符号30を用いる)である。
前記液体吐出ヘッド9は第1前処理液3を吐出する第1前処理液吐出ヘッド(符号9を用いる)であり、液体吐出ヘッド90は第2前処理液30を吐出する第2前処理液吐出ヘッド(符号90を用いる)である。
【0033】
前記第1前処理液吐出ヘッド9は、前記被捺染材1に対して前記インク吐出ヘッド7と反対側の上流に本実施例では一つ設けられている。また、前記第2前処理液吐出ヘッド90は、前記被捺染材1に対して前記第1前処理液吐出ヘッド9の設けられていない他方の側に、即ち前記インク吐出ヘッド7と同じ側に本実施例では一つ設けられている。
【0034】
本実施例では、第1前処理液吐出ヘッド9も、前記搬送方向Aと交差する方向に往復移動するキャリッジ14に搭載されている。符号18、19はキャリッジ14のガイド軸を示す。また、第2前処理液吐出ヘッド90も、前記搬送方向Aと交差する方向に往復移動するキャリッジ140に搭載されている。符号180、190はキャリッジ140のガイド軸を示す。
尚、第1前処理液吐出ヘッド9と第2前処理液吐出ヘッド90はラインヘッドであってもよい。
【0035】
前記インク吐出ヘッド7、第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90の各駆動は制御部10によって制御されるようになっている。すなわち、捺染実行指令15が制御部10に送られると、該制御部10は各制御信号11、12、120をインク吐出ヘッド7、第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90にそれぞれ送る。これにより、第1前処理液吐出ヘッド9から被捺染材1の一方の面(裏側の面)2に第1前処理液3が前記指令15に基づいて吐出され、第2前処理液吐出ヘッド90から被捺染材1の他方の面5(表側の面)に第2前処理液30が前記指令15に基づいて吐出され、インク吐出ヘッド7から被捺染材1の他方の面(表側の面)5にインク6が前記指令15に基づいて吐出される。
【0036】
ユーザーの意図によって前記捺染実行指令15の内容が変えられると、前記第1前処理液3と第2前処理液30の各吐出量や吐出領域等が変り、これにより前処理の仕方を適宜変更できるようになっている。即ち、それぞれの前処理液3、30の吐出量や吐出領域等を被捺染材の両側から変更調整することで、前処理の仕方にバリエーションを多くつけることができる。従って、印捺画像(捺染結果)にも多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーのイメージに合う捺染結果を得易くなっている。
更に、制御部10によってインクの吐出に関しても変更調整可能であるので、前記前処理の仕方とインクの吐出状態の調整によって、印捺画像(捺染結果)に一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーのイメージに合う捺染結果を一層得易くなっている。
【0037】
本実施例では、前記第1前処理液3はコート液(以下、同じ符号3を用いる)であり、前記第2前処理液30は浸透液(以下、同じ符号30を用いる)である。コート液3と浸透液30の具体的説明は後述する。
【0038】
コート液3は、被捺染材1の内部組織中へインク6が浸透することを抑制する機能を有するもので、印捺画像の発色性を高め、また滲みを抑制する。被捺染材1の表側の面2(印捺面)にコート液3によるコート層を設け、その上にインク6を吐出して捺染を行うと、前記発色や滲み防止の点では好ましいが、被捺染材1が本来的に持っている風合いが損なわれる。
一方、浸透液30は、被捺染材1の内部組織中へインク6が浸透することを促進する機能を有するもので、インク6の定着性を高め、またその浸透の程度によって裏側の面5からも捺染画像が見えるようにすることができる。被捺染材1の表側の面2(印捺面)に浸透液30による浸透液層を設け、その上にインク6を吐出して捺染を行うと、前記インク定着や裏面側からも捺染画像が見えるようにできる点で好ましいが、その浸透性故に印捺画像に滲みが生じ易い。
【0039】
本実施例によれば、制御部10によってコート液3の吐出量や吐出領域等を調整でき、また浸透液30の吐出量や吐出領域等も調整できる。これらの調整を行うことにより、コート液3の長所及び短所、浸透液30の長所及び短所を踏まえて、バリエーションに富んだ印捺の実行が可能となっている。従って、ユーザーは自らの求めるイメージの印捺画像(捺染結果)を容易に得易くなっている。
【0040】
更に、本実施例では、インク吐出ヘッド7は、第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90に対して搬送方向Aにおける下流側に離間して配置されている。
更に、第1前処理液吐出ヘッド9等の部位を通過した被捺染材1は反転部20で反転されて前記インク吐出ヘッド7の部位に至るように構成されている。符号21は反転用ローラを示す。尚、第1前処理液吐出ヘッド9等の上流側にも反転用ローラ22が配設されている。
【0041】
次に、図12を用いて、上記実施例1のインクジェット捺染装置を用いて被捺染材1に捺染を実行して捺染物を製造する場合の作用効果を従来と対比しつつ説明する。
【0042】
図12(A)は、従来の捺染を示し、被捺染材1の全面にコート液3を付着させ、その上にインク6を吐出して印捺画像23を得た場合を示す。高い発色性で滲みも少ない印捺画像23が得られるが、その限りであって、印捺画像23にバリエーションをつけることはほとんど考慮されていない。また、コート液3を被捺染材1の全面に付着させているので、画像を印捺する箇所以外に付着されたコート液3は無駄になり、更にそれを選択して洗い流す工程が必要となる。
【0043】
図2(B)は、本実施例で得られる印捺画像の一例を示し、コート液3を被捺染材1の裏側の面2の画像形成に必要な領域にのみ吐出し、或いは浸透液30を被捺染材1の表側の面5の画像形成に必要な領域にのみ吐出し、その状態で表側の面5にインク6を吐出して印捺画像23を得たものである。前処理液にコート液3を用いるか浸透液30を用いるかによって、得られる印捺画像のイメージが大きく変る。
前処理として、コート液3と浸透液30の両方を使えば、また違った印捺画像が得られる。更にコート液3と浸透液30の吐出領域を変化させることによっても、前処理の仕方が変り、得られる印捺画像のイメージも変る。尚、コート液3等を被捺染材1の全面に付着させず必要な箇所にのみ吐出しているので、従来のような無駄の発生を防止できる。
【0044】
図2(C)も、本実施例で得られる印捺画像の他の一例を示し、コート液3を被捺染材1の裏側の面2の画像形成に必要な領域にのみ吐出するに際して吐出量の多い所と少ない所を設け、その状態で表側の面5にインク6を吐出して印捺画像23を得たものである。或いは浸透液30を被捺染材1の表側の面5の画像形成に必要な領域にのみに前記コート液3と同様に吐出し、その状態で表側の面5にインクを吐出して印捺画像23を得たものである。
これにより、印捺画像のコントラストを変えることができ、この点からも得られる印捺画像のイメージが大きく変る。また、前処理液にコート液3を用いるか或いは浸透液30を用いるかによっても当該コントラストは大きく変ってくるので、印捺画像のバリエーションが更に多くなる。
更に前処理として、コート液3と浸透液30の両方を使えば、更に違った印捺画像が得られる。
【0045】
図2(D)も、本実施例で得られる印捺画像の他の一例を示す。非印捺材1の印捺領域25にコート液3と浸透液30を格子状に分けて裏側の面2と表側の面5にそれぞれ吐出する。その状態で表側の面5にインク6を吐出して印捺画像23を得たものである。
コート液3を吐出した箇所では発色が高く滲みも少ないが、浸透液30を吐出した箇所では発色が低く、ぼかした画像(例えば水墨画のイメージ)が得られる。このようにバリエーションに富んだ印捺画像が簡単に得られる。
尚、図2(B)(C)(D)に基づいて、本実施例で得られる印捺画像のバリエーションを説明したが、これらの例は一部に過ぎず、ユーザーの意図によって印捺画像のイメージを限りなく変えることが可能である。
【0046】
更に上記実施例によれば、以下に記す作用効果が得られる。
インク吐出ヘッド7は、第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90に対して搬送方向Aにおける下流側に離間して配置されているので、被捺染材1に前処理液であるコート液3、浸透液30又はその両方が吐出されて前処理液の層が形成された後に、間をおいて図柄等の画像を形成するためのインク6を吐出することができる。従って、形成される前処理液の層の安定性が進んだタイミングで前記画像が形成されることになり、画質の安定性を向上することができる。
【0047】
また、第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90の部位を通過した被捺染材1は反転部20で反転されて前記インク吐出ヘッド7の捺染実行領域(ノズル列8のカバーする領域)に至るように構成されているので、被捺染材1に前記前処理液が吐出された状態で、当該被捺染材1は搬送経路における反転部20での反転に伴う軽い扱き作用を受ける。これにより、被捺染材1の組織に馴染んだ前処理液の層になり、画像の安定性を向上することができる。
【0048】
[実施例2](図2参照)
実施例2に係るインクジェット捺染装置は、第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90の被捺染材1に対する配置が実施例1と逆である点以外は実施例1と変わらない。従って、構造の詳しい説明は省略する。
本実施例によっても、得られる印捺画像のバリエーションを多くつけることが可能である。本実施例では、第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90の被捺染材1に対する配置が実施例1と逆であるので、当然に実施例1のインクジェット捺染装置を用いた場合とは、異なるバリエーションになる。その異なるバリエーションを前提にすれば、本実施例においても図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0049】
[実施例3](図3参照)
実施例3に係るインクジェット捺染装置は、被捺染材1の表側と裏側にそれぞれ配置される液体付着部のいずれもが第1前処理液であるコート液3を吐出する第1前処理液吐出ヘッド9で構成されている点が実施例1と異なる。従って、構造の詳しい説明は省略する。
【0050】
本実施例では、被捺染材1の両側の各面にそれぞれ吐出される前処理液は、同種のコート液3であるので、実施例1や実施例2よりも得られる印捺画像のバリエーションは少なくなる。しかし、被捺染材1の裏側の面2と表側の面5にそれぞれ吐出されるコート液3の吐出量、吐出領域等を変えれば前処理の仕方は多く有り、本実施例によっても、得られる印捺画像のバリエーションを多くつけることが可能である。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0051】
[実施例4](図4参照)
実施例4に係るインクジェット捺染装置は、被捺染材1の表側と裏側にそれぞれ配置される液体付着部のいずれもが第2前処理液である浸透液30を吐出する第2前処理液吐出ヘッド90で構成されている点が実施例1と異なる。従って、構造の詳しい説明は省略する。
【0052】
本実施例では、被捺染材1の両側の各面にそれぞれ吐出される前処理液は、同種の浸透液30であるので、実施例1や実施例2よりも得られる印捺画像のバリエーションは少なくなる。しかし、被捺染材1の裏側の面2と表側の面5にそれぞれ吐出される浸透液30の吐出量、吐出領域等を変えれば前処理の仕方は多く有り、本実施例によっても、得られる印捺画像のバリエーションを多くつけることが可能である。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0053】
[実施例5](図5参照)
実施例5に係るインクジェット捺染装置は、前記第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90が、いずれも前記被捺染材1に対して前記インク吐出ヘッド7と反対側の上流に設けられている。第1前処理液吐出ヘッド9と第2前処理液吐出ヘッド90の並ぶ順番は、図5と逆に第1前処理液吐出ヘッド9が第2前処理液吐出ヘッド90より上流となる配置も可能である。
【0054】
本実施例では第1前処理液吐出ヘッド9と第2前処理液吐出ヘッド90同士は、同じ側に位置するが、それらの前処理液3、30の吐出量や吐出領域等を調整することで、前記第1の実施例や第2の実施例とは質の異なる観点から前処理の仕方にバリエーションを多くつけることが可能となる。これにより、印捺画像(捺染結果)にも一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーの意図に一層合わせ易くなる効果が得られる。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0055】
[実施例6](図6参照)
実施例6に係るインクジェット捺染装置は、前記第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90が、いずれも前記被捺染材1に対して前記インク吐出ヘッド7と同じ側の上流に設けられている。第1前処理液吐出ヘッド9と第2前処理液吐出ヘッド90の並ぶ順番は、図6と逆に第1前処理液吐出ヘッド9が第2前処理液吐出ヘッド90より上流となる配置も可能である。
【0056】
本実施例では第1前処理液吐出ヘッド9と第2前処理液吐出ヘッド90同士は、同じ側に位置するが、それらの前処理液3、30の吐出量や吐出領域等を調整することで、前記第1の実施例や第2の実施例とは質の異なる観点から前処理の仕方にバリエーションを多くつけることが可能となる。これにより、印捺画像(捺染結果)にも一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーの意図に一層合わせ易くなる効果が得られる。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0057】
[実施例7](図7参照)
実施例7に係るインクジェット捺染装置は、前記実施例5において、前記第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90が設けられていない他方の側に、即ち液体吐出ヘッド7と同じ側に第1前処理液3を吐出する他の第1前処理液吐出ヘッド9aが本実施例では一つ設けられている。
【0058】
本実施例によれば、被捺染材1の裏側の面2に位置する第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90と、更に被捺染材1の表側の面5に位置する他の第1前処理液吐出ヘッド9aからそれぞれ吐出される各コート液3及び浸透液30の吐出量や吐出領域等を調整することで、更に三つの前記前処理液吐出ヘッド9、90、9aの用いる組合せを変えることで、前処理の仕方にバリエーションを一層多くつけることが可能となる。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0059】
[実施例8](図8参照)
実施例7に係るインクジェット捺染装置は、前記実施例5において、前記第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90が設けられていない他方の側に、即ち液体吐出ヘッド7と同じ側に第2前処理液30を吐出する他の第2前処理液吐出ヘッド90aが本実施例では一つ設けられている。
【0060】
本実施例によれば、被捺染材1の裏側の面2に位置する第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90と、更に被捺染材1の表側の面5に位置する他の第2前処理液吐出ヘッド90aからそれぞれ吐出されるコート液3及び各浸透液30の吐出量や吐出領域等を調整することで、更に三つの前記前処理液吐出ヘッド9、90、90aの用いる組合せを変えることで、前処理の仕方にバリエーションを一層多くつけることが可能となる。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0061】
[実施例9](図9参照)
実施例9に係るインクジェット捺染装置は、前記実施例6において、前記第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90が設けられていない他方の側に、即ち液体吐出ヘッド7と反対側に第1前処理液3を吐出する他の第1前処理液吐出ヘッド9aが本実施例では一つ設けられている。
【0062】
本実施例によれば、被捺染材1の裏側の面2に位置する第1前処理液吐出ヘッド9aと、更に被捺染材1の表側の面5に位置する第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90からそれぞれ吐出される各コート液3及び浸透液30の吐出量や吐出領域等を調整することで、更に三つの前記前処理液吐出ヘッド9、90、9aの用いる組合せを変えることで、前処理の仕方にバリエーションを一層多くつけることが可能となる。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0063】
[実施例10](図10参照)
実施例10に係るインクジェット捺染装置は、前記実施例6において、前記第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90が設けられていない他方の側に、即ち液体吐出ヘッド7と反対側に第2前処理液30を吐出する他の第2前処理液吐出ヘッド90aが本実施例では一つ設けられている。
【0064】
本実施例によれば、被捺染材1の裏側の面2に位置する第2前処理液吐出ヘッド90aと、更に被捺染材1の表側の面5に位置する第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90からそれぞれ吐出されるコート液3及び各浸透液30の吐出量や吐出領域等を調整することで、更に三つの前記前処理液吐出ヘッド9、90、90aの用いる組合せを変えることで、前処理の仕方にバリエーションを一層多くつけることが可能となる。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0065】
[実施例11](図11参照)
実施例11に係るインクジェット捺染装置は、第1前処理液であるコート液3を吐出する他の第1前処理液吐出ヘッド9aが、更に前記第1前処理液吐出ヘッド9の設けられていない他方の側に本実施例では一つ設けられている。そして、第2前処理液である浸透液30を吐出する他の第2前処理液吐出ヘッド90aが、更に前記第2前処理液吐出ヘッド90の設けられていない他方の側に本実施例では一つ設けられている。
【0066】
本実施例によれば、被捺染材1に対して前記インク吐出ヘッド7と同じ側に第1前処理液吐出ヘッド9と第2前処理液吐出ヘッド90が配置され、更に反対側にも第1前処理液吐出ヘッド9aと第2前処理液吐出ヘッド90aが配置された構造である。従って、被捺染材1の両側に位置する前記四つの前処理液吐出ヘッド9、90、9a、90aから吐出される各前処理液の吐出量や吐出領域等を調整することで、更に前記四つの前処理液吐出ヘッド9、90、9a、90aの用いる組合せを変えることで、前処理の仕方にバリエーションを一層多くつけることが可能となる。これにより、印捺画像(捺染結果)にも更に一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーの意図に更に一層合わせ易くなる効果が得られる。
【0067】
また、本実施例によれば、前記四つの前処理液吐出ヘッド9、90、9a、90aの組合せ及び使用するヘッドの選択を変えることによって、前記実施例1から実施例10の全ての実施例と同様の印捺を実行することが可能である。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0068】
次に、本発明のインクジェット捺染装置で用いるインク6とコート液3と浸透液30について説明する。上記説明から容易に理解できるように、本発明において用いることができるインク6とコート液3と浸透液30は、特定の種類のもの、或いは特定の種類の組合せに限定されない。従って、従来公知のインク6とコート液3と浸透液30を全て用いることができるが、以下に具体的に示す。
【0069】
<インク>
インクは、色材と、耐擦性向上用樹脂と、少なくとも溶剤を含む他の成分によって構成されている。被捺染材の捺染に用いるインクとしては、耐光性、耐水性等の保存性に優れる顔料インクを用いることが好ましく、前記色材としては、公知の顔料、すなわち、有機顔料、無機顔料、およびカーボンブラック等が挙げられる。
【0070】
例えば、黒色インク用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類が特に好ましいが、銅酸化物、鉄酸化物(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料が挙げられる。
【0071】
また、カラーインク用の顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83(ジスアゾイエローHR)、93、94、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、128、138、153、155、180、185、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、202、206、209、219、C.I.ピグメントバイオレット19、23、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)、15:4、15:6(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36等が挙げられる。
【0072】
インクにおける色材の含有量としては、0.5%〜30%が好ましいが、さらに1.0%〜15%が好ましい。これ以下の添加量では、印捺濃度が確保できなくなり、またこれ以上の添加量では、インクの粘度増加や粘度特性に構造粘性が生じ、インクジェット捺染ヘッドからのインクの吐出安定性が悪くなる傾向になる。
【0073】
次に、耐擦性向上用樹脂について説明する。この耐擦性向上用樹脂は、インクの洗濯堅牢性、耐擦性、定着性を向上させることを目的として添加される樹脂であり、公知の樹脂、例えば、特開2006−307165号公報に記載の樹脂成分を挙げることができる。具体的には、親水性樹脂と疎水性樹脂との複合成分樹脂が挙げられる。親水性樹脂としては、カルボキシル基、スルホン基等の親水性基を有するスチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等である。疎水性樹脂としては、疎水性を示すスチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等である。
また、これらは公知の方法、例えば、特開2010−189626号公報に記載の方法(高分子微粒子の作成方法)によって、製造することができる。
【0074】
また、耐擦性向上用樹脂のガラス転移温度は、0℃以下であることが好ましい。このことによって、布帛用インクとしての顔料の定着性が向上する。0℃を超えると顔料の定着性が徐々に低下してくる。好ましくは−5℃以下であり、より好ましくは−10℃以下である。更に、前記耐擦性向上用樹脂の酸価は、10mgKOH/g以上で100mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が100mgKOH/gを超えると、被捺染材に印捺した場合の洗濯堅牢性が低下する。好ましくは50mgKOH/g以下であり、より好ましくは30mgKOH/g以下である。
また、耐擦性向上用樹脂の分子量は、10万以上が好ましく、より好ましくは20万以上である。10万未満では布帛に印捺した場合の洗濯堅牢性が低下する。
【0075】
次に、前記色材および耐擦性向上用樹脂以外の他の成分について説明する。前記他の成分は、少なくとも溶剤を含む成分であり、例えば、1、2−へキサンジオール、ブチルトリグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、トリエタノールアミン等の溶剤の他、界面活性剤、イオン交換水等である。前記界面活性剤としては、アセチレングリコール系、アセチレンアルコール系等の公知の界面活性剤を用いることができる(例えば、特開2010−189626号公報を参照)。
【0076】
また、放置安定性の確保、インクジェットヘッドからの安定吐出、目詰まり改善、あるいはインクの劣化防止等を目的として、保湿剤、溶解助剤、浸透制御剤、粘度調整剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、腐食防止剤、分散に影響を与える金属イオンを捕獲するためのキレート等種々の添加剤を添加することもできる。
【0077】
<コート液>
コート液は、前記インクにおける色材を含まず、捺染前の布帛表面、あるいは捺染後のインク表面を覆うコート層を形成するために用いることができるものである。コート液としては、前記インクの色材以外の成分、すなわち、耐擦性向上用樹脂と、前記インクについての説明における「色材および耐擦性向上用樹脂以外の他の成分」を含む成分を用いることができる。特に、コート液における当該他の成分の組成(例えば、各成分の重量%)も、前記インクと同じであることが好ましい。
【0078】
また、本発明に係る捺染物の製造方法で用いるコート液は、皮膜伸度が300%以上400%以下、抗張力が40N/mm2以上50N/mm2以下のウレタン樹脂を含む液であることが望ましい。このコート液を用いることで、高品質の捺染物を製造することができる。
【0079】
また、本発明に係る捺染物の製造方法で用いるコート液は、樹脂酸価が10mgKOH/g以上30mgKOH/g以下を満たすウレタン樹脂を含む液であることが望ましい。このコート液を用いることで、高品質の捺染物を製造することができる。
【0080】
表1に、本発明に用いられるインクとコート液の成分組成の一例を示す。
【0081】
【表1】
【0082】
<浸透液>
浸透液としては、インクジェット捺染インクにおいて通常用いられる浸透剤や界面活性剤を好適に用いることができる。
このような浸透剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル(日本乳化剤社製:ニューコール1006)、テトラエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル(日本乳化剤社製:ニューコール1004)などの多価アルコールのアルキルエーテル類、尿素、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどが挙げられる。また、多価アルコールのアルキルエーテル類としては、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテルを一種または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
また、界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩類;アルキル硫酸エステル塩類等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤;サーフィノール61、82、104、440、465、485(何れも商品名、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)、オルフィンE1010、オルフィンSTG、オルフィンY(何れも商品名、日信化学社製)等のアセチレングリコ−ル系界面活性剤;カチオン性界面活性剤;両イオン性界面活性剤、KF−353A、KF6017、X−22−6551、AW−3(何れも商品名、信越化学工業社製)等のオルガノポリシロキサン系界面活性剤等を挙げることができる。
浸透液は、上記した浸透剤を、浸透液の全質量に対して概ね10〜30質量%、また、界面活性剤を概ね0.1〜3.0質量%含むことが好ましい。
【0084】
本発明において用いられる浸透液は、被捺染材の濡れ性を高めて顔料インクの浸透性を向上させ、また、インク組成物とのpHの調整を行うために、有機アミンを含有していてもよい。有機アミンとしては、三級アミンが好ましく使用でき、例えば、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。
有機アミンの含有量は、浸透液の全質量に対して、概ね0.05〜3.0質量%である。
【0085】
本発明においては、浸透液の表面張力が28.0mN/m以上、好ましくは29.0〜30.0mN/mの範囲となるように、上記した各成分の添加量を調整することが好ましい。表面張力が上記範囲にある浸透液を用いることにより、インクの滲みを最小限に抑えながら被捺染材の内部まで顔料インクを浸透させることができ、その結果、滲みがなく、表裏で図柄等の画像の濃度に差の少ない捺染物得ることができる。当業者であれば、表面張力が上記範囲となるように、上記した各成分の添加量を適宜調整することができる。
なお、浸透液の表面張力は、例えば、自動動的表面張力計CBVP−Z(協和界面科学社製)を用いて白金プレート上で測定できるが、これに限られるものではない。
【0086】
インクジェット方式により浸透液の吐出を行う場合、インクジェット第2ヘッドのノズルからの吐出安定性を向上させる観点から、保湿剤を含有させることが好ましい。
保湿剤としては、通常のインクジェット捺染用インク組成物に保湿剤として使用されている化合物を用いることができる。例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、またはペンタエリスリトール等のポリオール類、およびそのエーテルまたはエステル等の誘導体;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、またはε−カプロラクタム等のラクタム類;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、または1,3−ジメチルイミダゾリジノン類等の尿素類;マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、またはマルトース等の糖類等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。
前記保湿剤の含有量は、浸透液の全質量に対して、好ましくは4〜40質量%である。
【0087】
また、浸透液は、上記した各成分に加えて、バランスとして水を含む。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
また、必要に応じて、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤等のような、インクジェット捺染用のインク組成物において通常用いることができる各種添加剤の一種または二種以上を含有させることができる。
【符号の説明】
【0088】
1 被捺染材、 2 一方の面(裏側の面)、 3 コート液(第1前処理液)、
4 コート液付着部、 5 他方の面(表側の面)、 6 インク、
7 インク吐出1ヘッド、 8 ノズル列、9 第1前処理液吐出ヘッド、
9a 他の第1前処理液吐出ヘッド、 10 制御部、 11 制御信号、
12 制御信号、 13 キャリッジ、 14 キャリッジ、 15 捺染実行指令、
16 ガイド軸、 17 ガイド軸、 18 ガイド軸、 19 ガイド軸、
20 反転部、 21 反転用ローラ、 22 反転用ローラ、 23 印捺画像、
25 印捺領域、 30 浸透液(第2前処理液)、90 第2前処理液吐出ヘッド、
90a 他の第2前処理液吐出ヘッド、 120 制御信号、 140 キャリッジ、
180 ガイド軸、190 ガイド軸、 A 搬送方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛すなわち被捺染材に対してインクジェット方式で捺染を行うインクジェット捺染装置及び捺染物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被捺染材に印捺したときにインクの色材が被捺染材の組織内部へ浸透して発色性が低下するのを抑制することを目的として、或いは発色性を高め、滲みを抑制することを目的として、被捺染材内部へインクが浸透することを抑制する機能を有するコート液を該被捺染材に付着することが従来行われている(例えば、特許文献1、特許文献2)。コート液は一般的には色材を含まず無色であり、上記の機能を発揮するための樹脂が主要成分の一つとして含まれている。
【0003】
従来は、コート液を被捺染材の表面に付着させ、その上にテキスタイルインクを用いて図柄等の画像を印捺していた。これにより、コート液によるコート層にインクが吐出されるので、発色性が高まり、滲みも抑制される。しかし、コート液が前記画像が印捺された面と同じ被捺染材の表面を覆っているため、被捺染材が本来的に持っている風合いが損なわれる。
【0004】
また従来、布帛の一方の面(表側)にインクを吐出して図柄等の画像の印捺を行うと共に、前記インクを布帛の他方の面(裏側)にまで積極的に浸透させて、該他方の面(裏側)からも前記画像が見えるようにする捺染技術が知られている。
例えば、米国特許公開US2008/00130公報(特許文献3)には、布帛裏面へのインクの浸透を促進させるために、補助剤として低粘度の浸透液をインクとともに吐出させてインクジェット捺染を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−137283号公報
【特許文献2】特開2009−30014号公報
【特許文献1】米国特許公開US2008/00130公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術は、印捺画像の発色性を高め、滲みは抑制するという目的(特許文献1、特許文献2)、或いは被捺染材の裏面側からも印捺画像が見えるようにするという目的(特許文献3)と言った一面的な目的の下でなされている限りである。発色性はただ高ければ良いというものではないし、滲みも適度であれば印捺画像に味が出るという感じ方もある。また、被捺染材の裏面側から見える印捺画像の見え方も単に表側の印捺画像と同じであればよいと言うだけではなく、その見え方にバリエーションをつけたい場合もある。
すなわち、ユーザーが印捺画像に求めるものは、単純に発色性を高める、滲みを低減する、裏面側からも表面側と同じに見えるといった画一的なものではなく、自らの意図に合ったイメージの印捺画像に仕上げたいということが多い。
しかし、従来は、そのようなユーザーの意図は必ずしも充分に考慮されていなかった。
【0007】
本発明の課題は、印捺画像のイメージすなわち捺染結果をユーザーの意図に応じて容易に変化させることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係るインクジェット捺染装置の第1の態様は、搬送される被捺染材にインクを吐出するインクジェット式のインク吐出ヘッドと、前記被捺染材に対して前記インクと異なる液体を付着させる複数の液体付着部と、前記インク吐出ヘッド及び複数の前記液体付着部の各駆動を制御する制御部と、を備えている。
【0009】
ここで「被捺染材」とは、捺染の対象となる「布地」や「衣服その他の服飾製品」等を意味する。「布地」には、綿、絹、羊毛等の天然繊維やナイロン等の化学繊維あるいはこれらを混ぜた複合繊維の織物、編物、不織布等が含まれ、ロール状に巻かれた長尺のものと、所定の長さにカットされたものの両方が含まれる。
また、「衣服その他の服飾製品」には、縫製後のTシャツ、ハンカチ、スカーフ、タオル、手提げ袋、布製のバッグ、カーテン、シーツ、ベッドカバー等のファニチャーの類の他、縫製前の状態のパーツとして存在する裁断前後の布地等も含まれる。
また、ここで、「インクジェット式のインク吐出ヘッド」は、被捺染材の搬送方向と交差する方向に往復移動するキャリッジに搭載された構造のものと、ラインヘッド構造のもののいずれでもよい。
【0010】
本態様に係るインクジェット捺染装置を用いれば、複数の液体付着部によって被捺染材にインクと異なる液体をそれぞれ付着させることができると共に、制御部によって前記複数の液体付着部の駆動を制御することで、例えば、前記液体の付着量や付着領域等を調整することができる。従って、ユーザーはそれらを調整することで、印捺画像のイメージすなわち捺染結果を自らの意図に合わせて容易に変化させることができ、もってユーザーの意図に合うイメージの印捺画像(捺染結果)を容易に得ることができる。
【0011】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第2の態様は、前記第1の態様において、前記液体付着部は、液体を吐出するインクジェット式の液体吐出ヘッドで構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
本態様によれば、前記液体付着部は、液体を吐出するインクジェット式の液体吐出ヘッドで構成されている。即ち前記液体も液体吐出ヘッドのノズル列の各ノズル孔から吐出して被捺染材に付着させることができるので、図柄等の画像に対応する範囲だけに前記液体を付着させることを容易に行うことができる。これにより、不要な箇所に前記液体を付着させずに済み、該液体を無駄なく有効に使用することが可能になる。
【0013】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第3の態様は、前記第2の態様において、前記インクと異なる液体は、前記インクの吐出に先行して付着される前処理用の液体であり、前記複数の液体吐出ヘッドは、第1前処理液を吐出する第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液を吐出する第2前処理液吐出ヘッドとを備えて構成され、前記第1前処理液吐出ヘッドは、前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと同じ側の上流と反対側の上流の一方の側に一つ以上設けられ、前記第2前処理液吐出ヘッドは、前記被捺染材に対して前記第1前処理液吐出ヘッドの設けられていない他方の側に一つ以上設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
本態様によれば、前記第1前処理液吐出ヘッドは、前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと同じ側の上流と反対側の上流の一方の側に一つ以上設けられ、前記第2前処理液吐出ヘッドは、前記被捺染材に対して前記第1前処理液吐出ヘッドの設けられていない他方の側に一つ以上設けられている。従って、被捺染材の両側にそれぞれ位置する第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液吐出ヘッドの各駆動を前記制御部で制御することで、すなわちそれぞれの前処理液の吐出量や吐出領域等を被捺染材の両側から調整することで、前処理の仕方にバリエーションを多くつけることが可能となる。これにより、印捺画像(捺染結果)にも一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーの意図に一層合わせ易くなる効果が得られる。
【0015】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第4の態様は、前記第2の態様において、前記インクと異なる液体は、前記インクの吐出に先行して付着される前処理用の液体であり、前記複数の液体吐出ヘッドは、第1前処理液を吐出する第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液を吐出する第2前処理液吐出ヘッドとを備えて構成され、前記第1前処理液吐出ヘッド及び前記第2前処理液吐出ヘッドは、いずれも前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと同じ側又は反対側の上流に一組以上設けられていることを特徴とするものである。
【0016】
本態様によれば、前記第1前処理液吐出ヘッド及び前記第2前処理液吐出ヘッドは、いずれも前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと同じ側の上流に一組以上設けられている。或いは、前記第1前処理液吐出ヘッド及び前記第2前処理液吐出ヘッドは、いずれも前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと反対側の上流に一組以上設けられている。
第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液吐出ヘッド同士は、同じ側に位置するが、それらの前処理液の吐出量や吐出領域等を調整することで、前記第3の態様とは質の異なる観点から前処理の仕方にバリエーションを多くつけることが可能となる。これにより、印捺画像(捺染結果)にも一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーの意図に一層合わせ易くなる効果が得られる。
【0017】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第5の態様は、前記第3の態様において、前記第1前処理液を吐出する他の第1前処理液吐出ヘッドが、更に前記第1前処理液吐出ヘッドの設けられていない他方の側に一つ以上設けられ、前記第2前処理液を吐出する他の第2前処理液吐出ヘッドが、更に前記第2前処理液吐出ヘッドの設けられていない他方の側に一つ以上設けられていることを特徴とするものである。
【0018】
本態様によれば、前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと同じ側に第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液吐出ヘッドが配置され、更に反対側にも第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液吐出ヘッドが配置された構造である。従って、被捺染材の両側に位置する前記四つ以上の前処理液吐出ヘッドから吐出される各前処理液の吐出量や吐出領域等を調整することで、更に前記四つ以上の前処理液吐出ヘッドの用いる組合せを変えることで、前処理の仕方にバリエーションを一層多くつけることが可能となる。これにより、印捺画像(捺染結果)にも更に一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーの意図に更に一層合わせ易くなる効果が得られる。
【0019】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第6の態様は、前記第4の態様において、前記第1前処理液吐出ヘッド及び前記第2前処理液吐出ヘッドが設けられていない他方の側に、前記第1前処理液を吐出する他の第1前処理液吐出ヘッドと前記第2前処理液を吐出する他の第2前処理液吐出ヘッドの少なくとも一方が一つ以上設けられていることを特徴とするものである。
【0020】
本態様によれば、前記第5の態様とほぼ同様に、被捺染材の両側に位置する複数の前記前処理液吐出ヘッドから吐出される各前処理液の吐出量や吐出領域等を調整することで、更に複数の前記前処理液吐出ヘッドの用いる組合せを変えることで、前処理の仕方にバリエーションを一層多くつけることが可能となる。
【0021】
本発明に係るインクジェット捺染装置の第7の態様は、前記第3の態様から第6の態様のいずれか一つの態様において、前記第1前処理液はコート液、前記第2前処理液は浸透液であることを特徴とするものである。
【0022】
コート液は、被捺染材の内部組織中へインクが浸透することを抑制する機能を有するもので、印捺画像の発色性を高め、また滲みを抑制する。被捺染材の印捺面にコート液によるコート層を設け、その上にインクを吐出して捺染を行うと、前記発色や滲み防止の点では好ましいが、被捺染材が本来的に持っている風合いが損なわれる。
一方、浸透液は、被捺染材の内部組織中へインクが浸透することを促進する機能を有するもので、インクの定着性を高め、またその浸透の程度によって裏面側からも捺染画像が見えるようにすることができる。被捺染材の印捺面に浸透液による浸透液層を設け、その上にインクを吐出して捺染を行うと、前記インク定着や裏面側からも捺染画像が見えるようにできる点で好ましいが、その浸透性故に印捺画像に滲みが生じ易い。
【0023】
本態様によれば、制御部によってコート液の吐出量や吐出領域等を調整でき、また浸透液の吐出量や吐出領域等も調整できる。これらの調整を行うことにより、コート液の長所及び短所、浸透液の長所及び短所を踏まえて、バリエーションに富んだ印捺の実行が可能となる。従って、ユーザーは自らの求めるイメージの印捺画像(捺染結果)を容易に得易くなっている。
【0024】
本発明の第8の態様となる捺染物の製造方法は、前記第1の態様から第7の態様のいずれか一つに記載されたインクジェット捺染装置を用いて被記録材に捺染を実行するものである。
【0025】
本態様によれば、前記第1の態様から第7の態様のいずれか一つに記載されたインクジェット捺染装置の作用効果に基いて、捺染物の製造に際して前処理の仕方にバリエーションを多くつけることが可能となる。これにより、印捺画像(捺染結果)にも一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーの意図に一層合った捺染物の製造が可能となる効果が得られる。
【0026】
本発明に係る捺染物の製造方法の第9の態様は、前記第8の態様において、前記コート液は、皮膜伸度が300%以上400%以下、抗張力が40N/mm2以上50N/mm2以下のウレタン樹脂を含む液であることを特徴とするものである。
本態様によれば、高品質の捺染物を製造することができる。
【0027】
本発明に係る捺染物の製造方法の第10の態様は、前記第8の態様において、前記コート液は、樹脂酸価が10mgKOH/g以上30mgKOH/g以下を満たすウレタン樹脂を含む液であることを特徴とするものである。
本態様によれば、高品質の捺染物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例1に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図2】本発明の実施例2に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図3】本発明の実施例3に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図4】本発明の実施例4に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図5】本発明の実施例5に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図6】本発明の実施例6に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図7】本発明の実施例7に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図8】本発明の実施例8に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図9】本発明の実施例9に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図10】本発明の実施例10に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図11】本発明の実施例11に係るインクジェット捺染装置の要部概略を示す側面図。
【図12】(A)(B)(C)(D)は各実施例に係るインクジェット捺染装置の作用を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[実施例1](図1参照)
図1に示したように、本発明の実施例1に係るインクジェット捺染装置は、搬送される被捺染材1にインク6を吐出するインクジェット式のインク吐出ヘッド7と、前記被捺染材1に対して前記インク6と異なる液体3、30を付着させる二つの液体付着部4、40とを備えている。
【0030】
前記インク吐出ヘッド7は、インク6を吐出するためのノズル孔が被捺染材1の搬送方向Aに複数並んだノズル列8を有する公知の構造のものである。
本実施例では、インク吐出ヘッド7は、前記搬送方向Aと交差する方向(図1の紙面と直交する方向)に往復移動するキャリッジ13に搭載されている。図1において、符号16、17はキャリッジ13のガイド軸を示し、該ガイド軸16、17は公知の構造のものであり、その両端は装置本体のサイドフレーム(図示せず)に軸支されている。尚、インク吐出ヘッド7はラインヘッドであってもよい。
【0031】
前記液体付着部4、40は、スプレー式やロールコート式等の塗布装置、インクジェット式の液体噴射ヘッドが挙げられる。本実施例では、液体付着部4、40は、前記インク吐出ヘッド7と同構造で、液体を吐出するノズル列8を有するインクジェット式の液体吐出ヘッド9、90で構成されている。
【0032】
前記インクと異なる液体3、30は、前記インク6の吐出に先行して付着される前処理用の液体、すなわち第1前処理液(以下符号3を用いる)と第2前処理液(以下符号30を用いる)である。
前記液体吐出ヘッド9は第1前処理液3を吐出する第1前処理液吐出ヘッド(符号9を用いる)であり、液体吐出ヘッド90は第2前処理液30を吐出する第2前処理液吐出ヘッド(符号90を用いる)である。
【0033】
前記第1前処理液吐出ヘッド9は、前記被捺染材1に対して前記インク吐出ヘッド7と反対側の上流に本実施例では一つ設けられている。また、前記第2前処理液吐出ヘッド90は、前記被捺染材1に対して前記第1前処理液吐出ヘッド9の設けられていない他方の側に、即ち前記インク吐出ヘッド7と同じ側に本実施例では一つ設けられている。
【0034】
本実施例では、第1前処理液吐出ヘッド9も、前記搬送方向Aと交差する方向に往復移動するキャリッジ14に搭載されている。符号18、19はキャリッジ14のガイド軸を示す。また、第2前処理液吐出ヘッド90も、前記搬送方向Aと交差する方向に往復移動するキャリッジ140に搭載されている。符号180、190はキャリッジ140のガイド軸を示す。
尚、第1前処理液吐出ヘッド9と第2前処理液吐出ヘッド90はラインヘッドであってもよい。
【0035】
前記インク吐出ヘッド7、第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90の各駆動は制御部10によって制御されるようになっている。すなわち、捺染実行指令15が制御部10に送られると、該制御部10は各制御信号11、12、120をインク吐出ヘッド7、第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90にそれぞれ送る。これにより、第1前処理液吐出ヘッド9から被捺染材1の一方の面(裏側の面)2に第1前処理液3が前記指令15に基づいて吐出され、第2前処理液吐出ヘッド90から被捺染材1の他方の面5(表側の面)に第2前処理液30が前記指令15に基づいて吐出され、インク吐出ヘッド7から被捺染材1の他方の面(表側の面)5にインク6が前記指令15に基づいて吐出される。
【0036】
ユーザーの意図によって前記捺染実行指令15の内容が変えられると、前記第1前処理液3と第2前処理液30の各吐出量や吐出領域等が変り、これにより前処理の仕方を適宜変更できるようになっている。即ち、それぞれの前処理液3、30の吐出量や吐出領域等を被捺染材の両側から変更調整することで、前処理の仕方にバリエーションを多くつけることができる。従って、印捺画像(捺染結果)にも多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーのイメージに合う捺染結果を得易くなっている。
更に、制御部10によってインクの吐出に関しても変更調整可能であるので、前記前処理の仕方とインクの吐出状態の調整によって、印捺画像(捺染結果)に一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーのイメージに合う捺染結果を一層得易くなっている。
【0037】
本実施例では、前記第1前処理液3はコート液(以下、同じ符号3を用いる)であり、前記第2前処理液30は浸透液(以下、同じ符号30を用いる)である。コート液3と浸透液30の具体的説明は後述する。
【0038】
コート液3は、被捺染材1の内部組織中へインク6が浸透することを抑制する機能を有するもので、印捺画像の発色性を高め、また滲みを抑制する。被捺染材1の表側の面2(印捺面)にコート液3によるコート層を設け、その上にインク6を吐出して捺染を行うと、前記発色や滲み防止の点では好ましいが、被捺染材1が本来的に持っている風合いが損なわれる。
一方、浸透液30は、被捺染材1の内部組織中へインク6が浸透することを促進する機能を有するもので、インク6の定着性を高め、またその浸透の程度によって裏側の面5からも捺染画像が見えるようにすることができる。被捺染材1の表側の面2(印捺面)に浸透液30による浸透液層を設け、その上にインク6を吐出して捺染を行うと、前記インク定着や裏面側からも捺染画像が見えるようにできる点で好ましいが、その浸透性故に印捺画像に滲みが生じ易い。
【0039】
本実施例によれば、制御部10によってコート液3の吐出量や吐出領域等を調整でき、また浸透液30の吐出量や吐出領域等も調整できる。これらの調整を行うことにより、コート液3の長所及び短所、浸透液30の長所及び短所を踏まえて、バリエーションに富んだ印捺の実行が可能となっている。従って、ユーザーは自らの求めるイメージの印捺画像(捺染結果)を容易に得易くなっている。
【0040】
更に、本実施例では、インク吐出ヘッド7は、第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90に対して搬送方向Aにおける下流側に離間して配置されている。
更に、第1前処理液吐出ヘッド9等の部位を通過した被捺染材1は反転部20で反転されて前記インク吐出ヘッド7の部位に至るように構成されている。符号21は反転用ローラを示す。尚、第1前処理液吐出ヘッド9等の上流側にも反転用ローラ22が配設されている。
【0041】
次に、図12を用いて、上記実施例1のインクジェット捺染装置を用いて被捺染材1に捺染を実行して捺染物を製造する場合の作用効果を従来と対比しつつ説明する。
【0042】
図12(A)は、従来の捺染を示し、被捺染材1の全面にコート液3を付着させ、その上にインク6を吐出して印捺画像23を得た場合を示す。高い発色性で滲みも少ない印捺画像23が得られるが、その限りであって、印捺画像23にバリエーションをつけることはほとんど考慮されていない。また、コート液3を被捺染材1の全面に付着させているので、画像を印捺する箇所以外に付着されたコート液3は無駄になり、更にそれを選択して洗い流す工程が必要となる。
【0043】
図2(B)は、本実施例で得られる印捺画像の一例を示し、コート液3を被捺染材1の裏側の面2の画像形成に必要な領域にのみ吐出し、或いは浸透液30を被捺染材1の表側の面5の画像形成に必要な領域にのみ吐出し、その状態で表側の面5にインク6を吐出して印捺画像23を得たものである。前処理液にコート液3を用いるか浸透液30を用いるかによって、得られる印捺画像のイメージが大きく変る。
前処理として、コート液3と浸透液30の両方を使えば、また違った印捺画像が得られる。更にコート液3と浸透液30の吐出領域を変化させることによっても、前処理の仕方が変り、得られる印捺画像のイメージも変る。尚、コート液3等を被捺染材1の全面に付着させず必要な箇所にのみ吐出しているので、従来のような無駄の発生を防止できる。
【0044】
図2(C)も、本実施例で得られる印捺画像の他の一例を示し、コート液3を被捺染材1の裏側の面2の画像形成に必要な領域にのみ吐出するに際して吐出量の多い所と少ない所を設け、その状態で表側の面5にインク6を吐出して印捺画像23を得たものである。或いは浸透液30を被捺染材1の表側の面5の画像形成に必要な領域にのみに前記コート液3と同様に吐出し、その状態で表側の面5にインクを吐出して印捺画像23を得たものである。
これにより、印捺画像のコントラストを変えることができ、この点からも得られる印捺画像のイメージが大きく変る。また、前処理液にコート液3を用いるか或いは浸透液30を用いるかによっても当該コントラストは大きく変ってくるので、印捺画像のバリエーションが更に多くなる。
更に前処理として、コート液3と浸透液30の両方を使えば、更に違った印捺画像が得られる。
【0045】
図2(D)も、本実施例で得られる印捺画像の他の一例を示す。非印捺材1の印捺領域25にコート液3と浸透液30を格子状に分けて裏側の面2と表側の面5にそれぞれ吐出する。その状態で表側の面5にインク6を吐出して印捺画像23を得たものである。
コート液3を吐出した箇所では発色が高く滲みも少ないが、浸透液30を吐出した箇所では発色が低く、ぼかした画像(例えば水墨画のイメージ)が得られる。このようにバリエーションに富んだ印捺画像が簡単に得られる。
尚、図2(B)(C)(D)に基づいて、本実施例で得られる印捺画像のバリエーションを説明したが、これらの例は一部に過ぎず、ユーザーの意図によって印捺画像のイメージを限りなく変えることが可能である。
【0046】
更に上記実施例によれば、以下に記す作用効果が得られる。
インク吐出ヘッド7は、第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90に対して搬送方向Aにおける下流側に離間して配置されているので、被捺染材1に前処理液であるコート液3、浸透液30又はその両方が吐出されて前処理液の層が形成された後に、間をおいて図柄等の画像を形成するためのインク6を吐出することができる。従って、形成される前処理液の層の安定性が進んだタイミングで前記画像が形成されることになり、画質の安定性を向上することができる。
【0047】
また、第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90の部位を通過した被捺染材1は反転部20で反転されて前記インク吐出ヘッド7の捺染実行領域(ノズル列8のカバーする領域)に至るように構成されているので、被捺染材1に前記前処理液が吐出された状態で、当該被捺染材1は搬送経路における反転部20での反転に伴う軽い扱き作用を受ける。これにより、被捺染材1の組織に馴染んだ前処理液の層になり、画像の安定性を向上することができる。
【0048】
[実施例2](図2参照)
実施例2に係るインクジェット捺染装置は、第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90の被捺染材1に対する配置が実施例1と逆である点以外は実施例1と変わらない。従って、構造の詳しい説明は省略する。
本実施例によっても、得られる印捺画像のバリエーションを多くつけることが可能である。本実施例では、第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90の被捺染材1に対する配置が実施例1と逆であるので、当然に実施例1のインクジェット捺染装置を用いた場合とは、異なるバリエーションになる。その異なるバリエーションを前提にすれば、本実施例においても図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0049】
[実施例3](図3参照)
実施例3に係るインクジェット捺染装置は、被捺染材1の表側と裏側にそれぞれ配置される液体付着部のいずれもが第1前処理液であるコート液3を吐出する第1前処理液吐出ヘッド9で構成されている点が実施例1と異なる。従って、構造の詳しい説明は省略する。
【0050】
本実施例では、被捺染材1の両側の各面にそれぞれ吐出される前処理液は、同種のコート液3であるので、実施例1や実施例2よりも得られる印捺画像のバリエーションは少なくなる。しかし、被捺染材1の裏側の面2と表側の面5にそれぞれ吐出されるコート液3の吐出量、吐出領域等を変えれば前処理の仕方は多く有り、本実施例によっても、得られる印捺画像のバリエーションを多くつけることが可能である。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0051】
[実施例4](図4参照)
実施例4に係るインクジェット捺染装置は、被捺染材1の表側と裏側にそれぞれ配置される液体付着部のいずれもが第2前処理液である浸透液30を吐出する第2前処理液吐出ヘッド90で構成されている点が実施例1と異なる。従って、構造の詳しい説明は省略する。
【0052】
本実施例では、被捺染材1の両側の各面にそれぞれ吐出される前処理液は、同種の浸透液30であるので、実施例1や実施例2よりも得られる印捺画像のバリエーションは少なくなる。しかし、被捺染材1の裏側の面2と表側の面5にそれぞれ吐出される浸透液30の吐出量、吐出領域等を変えれば前処理の仕方は多く有り、本実施例によっても、得られる印捺画像のバリエーションを多くつけることが可能である。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0053】
[実施例5](図5参照)
実施例5に係るインクジェット捺染装置は、前記第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90が、いずれも前記被捺染材1に対して前記インク吐出ヘッド7と反対側の上流に設けられている。第1前処理液吐出ヘッド9と第2前処理液吐出ヘッド90の並ぶ順番は、図5と逆に第1前処理液吐出ヘッド9が第2前処理液吐出ヘッド90より上流となる配置も可能である。
【0054】
本実施例では第1前処理液吐出ヘッド9と第2前処理液吐出ヘッド90同士は、同じ側に位置するが、それらの前処理液3、30の吐出量や吐出領域等を調整することで、前記第1の実施例や第2の実施例とは質の異なる観点から前処理の仕方にバリエーションを多くつけることが可能となる。これにより、印捺画像(捺染結果)にも一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーの意図に一層合わせ易くなる効果が得られる。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0055】
[実施例6](図6参照)
実施例6に係るインクジェット捺染装置は、前記第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90が、いずれも前記被捺染材1に対して前記インク吐出ヘッド7と同じ側の上流に設けられている。第1前処理液吐出ヘッド9と第2前処理液吐出ヘッド90の並ぶ順番は、図6と逆に第1前処理液吐出ヘッド9が第2前処理液吐出ヘッド90より上流となる配置も可能である。
【0056】
本実施例では第1前処理液吐出ヘッド9と第2前処理液吐出ヘッド90同士は、同じ側に位置するが、それらの前処理液3、30の吐出量や吐出領域等を調整することで、前記第1の実施例や第2の実施例とは質の異なる観点から前処理の仕方にバリエーションを多くつけることが可能となる。これにより、印捺画像(捺染結果)にも一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーの意図に一層合わせ易くなる効果が得られる。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0057】
[実施例7](図7参照)
実施例7に係るインクジェット捺染装置は、前記実施例5において、前記第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90が設けられていない他方の側に、即ち液体吐出ヘッド7と同じ側に第1前処理液3を吐出する他の第1前処理液吐出ヘッド9aが本実施例では一つ設けられている。
【0058】
本実施例によれば、被捺染材1の裏側の面2に位置する第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90と、更に被捺染材1の表側の面5に位置する他の第1前処理液吐出ヘッド9aからそれぞれ吐出される各コート液3及び浸透液30の吐出量や吐出領域等を調整することで、更に三つの前記前処理液吐出ヘッド9、90、9aの用いる組合せを変えることで、前処理の仕方にバリエーションを一層多くつけることが可能となる。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0059】
[実施例8](図8参照)
実施例7に係るインクジェット捺染装置は、前記実施例5において、前記第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90が設けられていない他方の側に、即ち液体吐出ヘッド7と同じ側に第2前処理液30を吐出する他の第2前処理液吐出ヘッド90aが本実施例では一つ設けられている。
【0060】
本実施例によれば、被捺染材1の裏側の面2に位置する第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90と、更に被捺染材1の表側の面5に位置する他の第2前処理液吐出ヘッド90aからそれぞれ吐出されるコート液3及び各浸透液30の吐出量や吐出領域等を調整することで、更に三つの前記前処理液吐出ヘッド9、90、90aの用いる組合せを変えることで、前処理の仕方にバリエーションを一層多くつけることが可能となる。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0061】
[実施例9](図9参照)
実施例9に係るインクジェット捺染装置は、前記実施例6において、前記第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90が設けられていない他方の側に、即ち液体吐出ヘッド7と反対側に第1前処理液3を吐出する他の第1前処理液吐出ヘッド9aが本実施例では一つ設けられている。
【0062】
本実施例によれば、被捺染材1の裏側の面2に位置する第1前処理液吐出ヘッド9aと、更に被捺染材1の表側の面5に位置する第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90からそれぞれ吐出される各コート液3及び浸透液30の吐出量や吐出領域等を調整することで、更に三つの前記前処理液吐出ヘッド9、90、9aの用いる組合せを変えることで、前処理の仕方にバリエーションを一層多くつけることが可能となる。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0063】
[実施例10](図10参照)
実施例10に係るインクジェット捺染装置は、前記実施例6において、前記第1前処理液吐出ヘッド9及び前記第2前処理液吐出ヘッド90が設けられていない他方の側に、即ち液体吐出ヘッド7と反対側に第2前処理液30を吐出する他の第2前処理液吐出ヘッド90aが本実施例では一つ設けられている。
【0064】
本実施例によれば、被捺染材1の裏側の面2に位置する第2前処理液吐出ヘッド90aと、更に被捺染材1の表側の面5に位置する第1前処理液吐出ヘッド9及び第2前処理液吐出ヘッド90からそれぞれ吐出されるコート液3及び各浸透液30の吐出量や吐出領域等を調整することで、更に三つの前記前処理液吐出ヘッド9、90、90aの用いる組合せを変えることで、前処理の仕方にバリエーションを一層多くつけることが可能となる。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0065】
[実施例11](図11参照)
実施例11に係るインクジェット捺染装置は、第1前処理液であるコート液3を吐出する他の第1前処理液吐出ヘッド9aが、更に前記第1前処理液吐出ヘッド9の設けられていない他方の側に本実施例では一つ設けられている。そして、第2前処理液である浸透液30を吐出する他の第2前処理液吐出ヘッド90aが、更に前記第2前処理液吐出ヘッド90の設けられていない他方の側に本実施例では一つ設けられている。
【0066】
本実施例によれば、被捺染材1に対して前記インク吐出ヘッド7と同じ側に第1前処理液吐出ヘッド9と第2前処理液吐出ヘッド90が配置され、更に反対側にも第1前処理液吐出ヘッド9aと第2前処理液吐出ヘッド90aが配置された構造である。従って、被捺染材1の両側に位置する前記四つの前処理液吐出ヘッド9、90、9a、90aから吐出される各前処理液の吐出量や吐出領域等を調整することで、更に前記四つの前処理液吐出ヘッド9、90、9a、90aの用いる組合せを変えることで、前処理の仕方にバリエーションを一層多くつけることが可能となる。これにより、印捺画像(捺染結果)にも更に一層多くのバリエーションをつけることが可能となり、ユーザーの意図に更に一層合わせ易くなる効果が得られる。
【0067】
また、本実施例によれば、前記四つの前処理液吐出ヘッド9、90、9a、90aの組合せ及び使用するヘッドの選択を変えることによって、前記実施例1から実施例10の全ての実施例と同様の印捺を実行することが可能である。
本実施例においても、図12(B)(C)(D)で説明した作用効果と同様の作用効果は得られる。
【0068】
次に、本発明のインクジェット捺染装置で用いるインク6とコート液3と浸透液30について説明する。上記説明から容易に理解できるように、本発明において用いることができるインク6とコート液3と浸透液30は、特定の種類のもの、或いは特定の種類の組合せに限定されない。従って、従来公知のインク6とコート液3と浸透液30を全て用いることができるが、以下に具体的に示す。
【0069】
<インク>
インクは、色材と、耐擦性向上用樹脂と、少なくとも溶剤を含む他の成分によって構成されている。被捺染材の捺染に用いるインクとしては、耐光性、耐水性等の保存性に優れる顔料インクを用いることが好ましく、前記色材としては、公知の顔料、すなわち、有機顔料、無機顔料、およびカーボンブラック等が挙げられる。
【0070】
例えば、黒色インク用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類が特に好ましいが、銅酸化物、鉄酸化物(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料が挙げられる。
【0071】
また、カラーインク用の顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83(ジスアゾイエローHR)、93、94、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、128、138、153、155、180、185、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、202、206、209、219、C.I.ピグメントバイオレット19、23、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)、15:4、15:6(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36等が挙げられる。
【0072】
インクにおける色材の含有量としては、0.5%〜30%が好ましいが、さらに1.0%〜15%が好ましい。これ以下の添加量では、印捺濃度が確保できなくなり、またこれ以上の添加量では、インクの粘度増加や粘度特性に構造粘性が生じ、インクジェット捺染ヘッドからのインクの吐出安定性が悪くなる傾向になる。
【0073】
次に、耐擦性向上用樹脂について説明する。この耐擦性向上用樹脂は、インクの洗濯堅牢性、耐擦性、定着性を向上させることを目的として添加される樹脂であり、公知の樹脂、例えば、特開2006−307165号公報に記載の樹脂成分を挙げることができる。具体的には、親水性樹脂と疎水性樹脂との複合成分樹脂が挙げられる。親水性樹脂としては、カルボキシル基、スルホン基等の親水性基を有するスチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等である。疎水性樹脂としては、疎水性を示すスチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等である。
また、これらは公知の方法、例えば、特開2010−189626号公報に記載の方法(高分子微粒子の作成方法)によって、製造することができる。
【0074】
また、耐擦性向上用樹脂のガラス転移温度は、0℃以下であることが好ましい。このことによって、布帛用インクとしての顔料の定着性が向上する。0℃を超えると顔料の定着性が徐々に低下してくる。好ましくは−5℃以下であり、より好ましくは−10℃以下である。更に、前記耐擦性向上用樹脂の酸価は、10mgKOH/g以上で100mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価が100mgKOH/gを超えると、被捺染材に印捺した場合の洗濯堅牢性が低下する。好ましくは50mgKOH/g以下であり、より好ましくは30mgKOH/g以下である。
また、耐擦性向上用樹脂の分子量は、10万以上が好ましく、より好ましくは20万以上である。10万未満では布帛に印捺した場合の洗濯堅牢性が低下する。
【0075】
次に、前記色材および耐擦性向上用樹脂以外の他の成分について説明する。前記他の成分は、少なくとも溶剤を含む成分であり、例えば、1、2−へキサンジオール、ブチルトリグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、トリエタノールアミン等の溶剤の他、界面活性剤、イオン交換水等である。前記界面活性剤としては、アセチレングリコール系、アセチレンアルコール系等の公知の界面活性剤を用いることができる(例えば、特開2010−189626号公報を参照)。
【0076】
また、放置安定性の確保、インクジェットヘッドからの安定吐出、目詰まり改善、あるいはインクの劣化防止等を目的として、保湿剤、溶解助剤、浸透制御剤、粘度調整剤、pH調整剤、溶解助剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、腐食防止剤、分散に影響を与える金属イオンを捕獲するためのキレート等種々の添加剤を添加することもできる。
【0077】
<コート液>
コート液は、前記インクにおける色材を含まず、捺染前の布帛表面、あるいは捺染後のインク表面を覆うコート層を形成するために用いることができるものである。コート液としては、前記インクの色材以外の成分、すなわち、耐擦性向上用樹脂と、前記インクについての説明における「色材および耐擦性向上用樹脂以外の他の成分」を含む成分を用いることができる。特に、コート液における当該他の成分の組成(例えば、各成分の重量%)も、前記インクと同じであることが好ましい。
【0078】
また、本発明に係る捺染物の製造方法で用いるコート液は、皮膜伸度が300%以上400%以下、抗張力が40N/mm2以上50N/mm2以下のウレタン樹脂を含む液であることが望ましい。このコート液を用いることで、高品質の捺染物を製造することができる。
【0079】
また、本発明に係る捺染物の製造方法で用いるコート液は、樹脂酸価が10mgKOH/g以上30mgKOH/g以下を満たすウレタン樹脂を含む液であることが望ましい。このコート液を用いることで、高品質の捺染物を製造することができる。
【0080】
表1に、本発明に用いられるインクとコート液の成分組成の一例を示す。
【0081】
【表1】
【0082】
<浸透液>
浸透液としては、インクジェット捺染インクにおいて通常用いられる浸透剤や界面活性剤を好適に用いることができる。
このような浸透剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル(日本乳化剤社製:ニューコール1006)、テトラエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル(日本乳化剤社製:ニューコール1004)などの多価アルコールのアルキルエーテル類、尿素、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどが挙げられる。また、多価アルコールのアルキルエーテル類としては、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテルを一種または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
また、界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩類;アルキル硫酸エステル塩類等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤;サーフィノール61、82、104、440、465、485(何れも商品名、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)、オルフィンE1010、オルフィンSTG、オルフィンY(何れも商品名、日信化学社製)等のアセチレングリコ−ル系界面活性剤;カチオン性界面活性剤;両イオン性界面活性剤、KF−353A、KF6017、X−22−6551、AW−3(何れも商品名、信越化学工業社製)等のオルガノポリシロキサン系界面活性剤等を挙げることができる。
浸透液は、上記した浸透剤を、浸透液の全質量に対して概ね10〜30質量%、また、界面活性剤を概ね0.1〜3.0質量%含むことが好ましい。
【0084】
本発明において用いられる浸透液は、被捺染材の濡れ性を高めて顔料インクの浸透性を向上させ、また、インク組成物とのpHの調整を行うために、有機アミンを含有していてもよい。有機アミンとしては、三級アミンが好ましく使用でき、例えば、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。
有機アミンの含有量は、浸透液の全質量に対して、概ね0.05〜3.0質量%である。
【0085】
本発明においては、浸透液の表面張力が28.0mN/m以上、好ましくは29.0〜30.0mN/mの範囲となるように、上記した各成分の添加量を調整することが好ましい。表面張力が上記範囲にある浸透液を用いることにより、インクの滲みを最小限に抑えながら被捺染材の内部まで顔料インクを浸透させることができ、その結果、滲みがなく、表裏で図柄等の画像の濃度に差の少ない捺染物得ることができる。当業者であれば、表面張力が上記範囲となるように、上記した各成分の添加量を適宜調整することができる。
なお、浸透液の表面張力は、例えば、自動動的表面張力計CBVP−Z(協和界面科学社製)を用いて白金プレート上で測定できるが、これに限られるものではない。
【0086】
インクジェット方式により浸透液の吐出を行う場合、インクジェット第2ヘッドのノズルからの吐出安定性を向上させる観点から、保湿剤を含有させることが好ましい。
保湿剤としては、通常のインクジェット捺染用インク組成物に保湿剤として使用されている化合物を用いることができる。例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、またはペンタエリスリトール等のポリオール類、およびそのエーテルまたはエステル等の誘導体;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、またはε−カプロラクタム等のラクタム類;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、または1,3−ジメチルイミダゾリジノン類等の尿素類;マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、またはマルトース等の糖類等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。
前記保湿剤の含有量は、浸透液の全質量に対して、好ましくは4〜40質量%である。
【0087】
また、浸透液は、上記した各成分に加えて、バランスとして水を含む。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
また、必要に応じて、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤等のような、インクジェット捺染用のインク組成物において通常用いることができる各種添加剤の一種または二種以上を含有させることができる。
【符号の説明】
【0088】
1 被捺染材、 2 一方の面(裏側の面)、 3 コート液(第1前処理液)、
4 コート液付着部、 5 他方の面(表側の面)、 6 インク、
7 インク吐出1ヘッド、 8 ノズル列、9 第1前処理液吐出ヘッド、
9a 他の第1前処理液吐出ヘッド、 10 制御部、 11 制御信号、
12 制御信号、 13 キャリッジ、 14 キャリッジ、 15 捺染実行指令、
16 ガイド軸、 17 ガイド軸、 18 ガイド軸、 19 ガイド軸、
20 反転部、 21 反転用ローラ、 22 反転用ローラ、 23 印捺画像、
25 印捺領域、 30 浸透液(第2前処理液)、90 第2前処理液吐出ヘッド、
90a 他の第2前処理液吐出ヘッド、 120 制御信号、 140 キャリッジ、
180 ガイド軸、190 ガイド軸、 A 搬送方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される被捺染材にインクを吐出するインクジェット式のインク吐出ヘッドと、
前記被捺染材に対して前記インクと異なる液体を付着させる複数の液体付着部と、
前記インク吐出ヘッド及び複数の前記液体付着部の各駆動を制御する制御部と、を備えるインクジェット捺染装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記液体付着部は、液体を吐出するインクジェット式の液体吐出ヘッドで構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記インクと異なる液体は、前記インクの吐出に先行して付着される前処理用の液体であり、
前記複数の液体吐出ヘッドは、第1前処理液を吐出する第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液を吐出する第2前処理液吐出ヘッドとを備えて構成され、
前記第1前処理液吐出ヘッドは、前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと同じ側の上流と反対側の上流の一方の側に一つ以上設けられ、
前記第2前処理液吐出ヘッドは、前記被捺染材に対して前記第1前処理液吐出ヘッドの設けられていない他方の側に一つ以上設けられていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項4】
請求項2に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記インクと異なる液体は、前記インクの吐出に先行して付着される前処理用の液体であり、
前記複数の液体吐出ヘッドは、第1前処理液を吐出する第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液を吐出する第2前処理液吐出ヘッドとを備えて構成され、
前記第1前処理液吐出ヘッド及び前記第2前処理液吐出ヘッドは、いずれも前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと同じ側又は反対側の上流に一組以上設けられていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項5】
請求項3に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記第1前処理液を吐出する他の第1前処理液吐出ヘッドが、更に前記第1前処理液吐出ヘッドの設けられていない他方の側に一つ以上設けられ、
前記第2前処理液を吐出する他の第2前処理液吐出ヘッドが、更に前記第2前処理液吐出ヘッドの設けられていない他方の側に一つ以上設けられていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項6】
請求項4に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記第1前処理液吐出ヘッド及び前記第2前処理液吐出ヘッドが設けられていない他方の側に、前記第1前処理液を吐出する他の第1前処理液吐出ヘッドと前記第2前処理液を吐出する他の第2前処理液吐出ヘッドの少なくとも一方が一つ以上設けられていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項7】
請求項3から6のいずれか一項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記第1前処理液はコート液、前記第2前処理液は浸透液であることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載されたインクジェット捺染装置を用いて被捺染材に捺染を実行する捺染物の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載された捺染物の製造方法において、
前記コート液は、皮膜伸度が300%以上400%以下、抗張力が40N/mm2以上50N/mm2以下のウレタン樹脂を含む液であることを特徴とする捺染物の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載された捺染物の製造方法において、
前記コート液は、樹脂酸価が10mgKOH/g以上30mgKOH/g以下を満たすウレタン樹脂を含む液であることを特徴とする捺染物の製造方法。
【請求項1】
搬送される被捺染材にインクを吐出するインクジェット式のインク吐出ヘッドと、
前記被捺染材に対して前記インクと異なる液体を付着させる複数の液体付着部と、
前記インク吐出ヘッド及び複数の前記液体付着部の各駆動を制御する制御部と、を備えるインクジェット捺染装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記液体付着部は、液体を吐出するインクジェット式の液体吐出ヘッドで構成されていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記インクと異なる液体は、前記インクの吐出に先行して付着される前処理用の液体であり、
前記複数の液体吐出ヘッドは、第1前処理液を吐出する第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液を吐出する第2前処理液吐出ヘッドとを備えて構成され、
前記第1前処理液吐出ヘッドは、前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと同じ側の上流と反対側の上流の一方の側に一つ以上設けられ、
前記第2前処理液吐出ヘッドは、前記被捺染材に対して前記第1前処理液吐出ヘッドの設けられていない他方の側に一つ以上設けられていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項4】
請求項2に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記インクと異なる液体は、前記インクの吐出に先行して付着される前処理用の液体であり、
前記複数の液体吐出ヘッドは、第1前処理液を吐出する第1前処理液吐出ヘッドと第2前処理液を吐出する第2前処理液吐出ヘッドとを備えて構成され、
前記第1前処理液吐出ヘッド及び前記第2前処理液吐出ヘッドは、いずれも前記被捺染材に対して前記インク吐出ヘッドと同じ側又は反対側の上流に一組以上設けられていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項5】
請求項3に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記第1前処理液を吐出する他の第1前処理液吐出ヘッドが、更に前記第1前処理液吐出ヘッドの設けられていない他方の側に一つ以上設けられ、
前記第2前処理液を吐出する他の第2前処理液吐出ヘッドが、更に前記第2前処理液吐出ヘッドの設けられていない他方の側に一つ以上設けられていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項6】
請求項4に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記第1前処理液吐出ヘッド及び前記第2前処理液吐出ヘッドが設けられていない他方の側に、前記第1前処理液を吐出する他の第1前処理液吐出ヘッドと前記第2前処理液を吐出する他の第2前処理液吐出ヘッドの少なくとも一方が一つ以上設けられていることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項7】
請求項3から6のいずれか一項に記載されたインクジェット捺染装置において、
前記第1前処理液はコート液、前記第2前処理液は浸透液であることを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載されたインクジェット捺染装置を用いて被捺染材に捺染を実行する捺染物の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載された捺染物の製造方法において、
前記コート液は、皮膜伸度が300%以上400%以下、抗張力が40N/mm2以上50N/mm2以下のウレタン樹脂を含む液であることを特徴とする捺染物の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載された捺染物の製造方法において、
前記コート液は、樹脂酸価が10mgKOH/g以上30mgKOH/g以下を満たすウレタン樹脂を含む液であることを特徴とする捺染物の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−197532(P2012−197532A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62219(P2011−62219)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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