説明

インクジェット捺染装置

【課題】縫い目等の盛り上がり部分を有する被捺染材であっても、その盛り上がり部分と捺染ヘッドとの接触を回避しながら、より適切な捺染結果を得ることができるインクジェット捺染装置を提供する。
【解決手段】インクジェット捺染装置1は、被捺染材Pの盛り上がり部分が落ち込む凹部19b、19cが形成された、被捺染材Pを載置する載置台17Aと、載置台17Aに載置された被捺染材Pの捺染側の面に向けてインクを吐出して所望の捺染を実行するインクジェットヘッド23と、を備えている。被捺染材Pにおいて縫い目等の盛り上がり部分が凹部19b、19cに落ち込むことで、当該盛り上がり部分とインクジェットヘッド23との擦れが回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送される被捺染材の捺染側の面に向けてインクを吐出して所望の捺染を実行する捺染ヘッドを備えたインクジェット捺染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アパレル(衣服)メーカーやテキスタイル(布地)メーカーでは、従来から生地本体表面に図柄等をプリントする「捺染」が広く行われている。
そして、捺染を行う捺染装置として、捺染ヘッドから吐出されたインクを被捺染材に直接付着させて捺染を実行するインクジェット捺染装置も開発されている。
【0003】
この様なインクジェット捺染装置に特有の技術的課題として、被捺染材(例えば、布帛)の捺染側の面の盛り上がりに起因する課題がある。例えば、衣服には縫い合わせ部分やファスナー、ポケットなどの盛り上がり部分(隆起部分)が存在する。その為、捺染時、インクジェット捺染ヘッドのヘッド面と前記盛り上がり部分とが接してしまい、捺染結果に悪影響を及ぼす虞がある。また逆に、この様な問題を解消する為にインクジェット捺染ヘッドを被捺染材から遠ざけると、それに起因する画質低下が生じてしまう虞がある。
【0004】
一方、特許文献1には、縫製品に存在する縫い目や折り畳み部が、縫製品を平面状に置いた際に厚み差を生じさせることに鑑みた技術が記載されている。即ち、キャリヤー(縫製品を載置する台)と、縫製品の画像記録部分との間に発泡シート等の台紙を挟み、画像記録部分を浮き上がらせて記録ヘッドと画像記録部分との距離を極小化する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−96729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1記載の技術によれば、台紙によって画像記録部分を縫い目部分より浮き上がらせることで縫い目部分と記録ヘッドとの接触は回避することができる。しかし、画像記録部分を台紙によって浮き上がらせるため、台紙の厚みばらつきがそのまま記録ヘッドと縫製品との間の距離のばらつきに繋がり、必ずしも良好な記録結果が得られない場合がある。
【0007】
そこで本発明はこの様な状況に鑑みなされたものであり、その目的は、縫い目等の盛り上がり部分を有する被捺染材であっても、その盛り上がり部分と捺染ヘッドとの接触を回避しながら、より適切な捺染結果を得ることができるインクジェット捺染装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する為の、本発明の第1の態様に係るインクジェット捺染装置は、被捺染材の盛り上がり部分が落ち込む凹部を備えた、被捺染材を載置する載置台と、前記載置台に載置された被捺染材の捺染側の面に向けてインクを吐出して所望の捺染を実行する捺染ヘッドとを備えたことを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、インクジェット捺染装置において被捺染材を載置する載置台は、被捺染材の盛り上がり部分が落ち込む凹部を備えている。従って、被捺染材の盛り上がり部分を前記凹部に落とし込むことで当該盛り上がり部分と捺染ヘッドとが接触する虞を低減することができる。そして、載置台において前記凹部を除く領域で被捺染材を支持することで、被捺染材における捺染側の面の平坦性を確保することができる。即ち捺染側の面と捺染ヘッドとの間の距離ばらつきを防止し或いは前記距離ばらつきの程度を軽減でき、良好な捺染結果を得ることができる。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記凹部内に、被捺染材を吸引する吸引孔が設けられていることを特徴とする。
本態様によれば、前記凹部に落ち込んだ被捺染材の盛り上がり部分を、吸引孔によって吸引することで、前記盛り上がり部分をより確実に前記凹部内に落とし込むことができる。特に被捺染材の剛性が高い場合であっても、前記盛り上がり部分をより確実に前記凹部内に落とし込むことができる。
【0011】
本発明の第3の態様は、前記第2の態様において、前記吸引孔による吸引の強弱を調整可能に構成されていることを特徴とする。
本態様によれば、前記吸引孔による吸引の強弱を調整可能に構成されているので、前記盛り上がり部分の記凹部内への落とし込みの程度を調整することができる。これによって前記盛り上がり部分と捺染ヘッドとの間の距離をより適切に設定することができる。
【0012】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、被捺染材の剛性に応じ、相対的に剛性が高い被捺染材の場合には剛性が低い被捺染材の場合よりも、前記吸引孔による吸引の程度を相対的に強くすることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、被捺染材の剛性に応じ、相対的に剛性が高い被捺染材の場合には剛性が低い被捺染材の場合よりも、前記吸引孔による吸引の程度を相対的に強くする。これにより、被捺染材の剛性が高い場合であっても前記盛り上がり部分を確実に前記凹部内に落とし込むことができ、より確実に適切な捺染結果を得ることができる。
【0014】
本発明の第5の態様は、第3のまたは第4の態様において、少なくとも前記盛り上がり部分へインクを吐出する際には、当該インク吐出時以外の場合よりも、前記吸引孔による吸引の程度を相対的に弱くすることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、少なくとも前記盛り上がり部分へインクを吐出する際には、当該インク吐出時以外の場合よりも、前記吸引孔による吸引の程度を相対的に弱くする。これにより、前記盛り上がり部分へインクを吐出する際に吸引がインク着弾精度に悪影響を及ぼすことを防止し、或いは前記悪影響を軽減させることができる。
【0016】
本発明の第6の態様は、第1から第5の態様において、前記凹部の周囲に、被捺染材を保持する保持部材が設けられていることを特徴とする。
本態様によれば、前記凹部の周囲に、被捺染材を保持する保持部材が設けられている。これにより、前記盛り上がり部分を前記凹部に落とし込んだ後に、被捺染材における前記凹部の周囲が引っ張られて前記盛り上がり部分が浮き上がってしまうことを防止することができ、或いは前記浮き上がりの程度を軽減させることができる。
【0017】
本発明の第7の態様は、第1から第6の態様において、前記凹部の深さが調整可能に構成されていることを特徴とする。
本態様によれば、前記凹部の深さが調整可能に構成されているので、前記凹部の深さを前記盛り上がりの程度に応じた適切な深さとすることができる。これによって前記盛り上がり部分と捺染ヘッドとの間の距離をより適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るインクジェット捺染装置の外観斜視図。
【図2】本発明に係るインクジェット捺染装置の側面図。
【図3】被捺染材(第1実施形態)及び載置台に載置された被捺染材の状態を示す斜視図。
【図4】載置台(第1実施形態)及び被捺染材の断面図。
【図5】本発明に係るインクジェット捺染装置(第2実施形態)の側面図。
【図6】(A)は載置台(第2実施形態)に載置プレートを載置する前の状態の斜視図、(B)は載置台(第2実施形態)に載置プレートを載置した後の斜視図。
【図7】(A)、(B)は載置台(第2実施形態)及び被捺染材の断面図。
【図8】載置台(第3実施形態)の断面図。
【図9】載置台(第4実施形態)及び被捺染材の断面図。
【図10】載置台(第3実施形態)の構造の他の例を示す断面図。
【図11】(A)は被捺染材(第5実施形態)、(B)は対応する載置台の斜視図。
【図12】(A)は被捺染材(第6実施形態)、(B)は対応する載置台の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。本発明は、以下説明する実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることを前提として、以下本発明の一実施形態を説明する。
【0020】
図1は本発明の一実施形態に係るインクジェット捺染装置1の外観斜視図、図2は同側面図、図3は被捺染材P及び載置台17Aに載置された被捺染材Pの状態を示す斜視図、図4は第1実施形態に係る載置台17A及び被捺染材Pの断面図である。
【0021】
また、図5は第2実施形態に係るインクジェット捺染装置1’の側面図、図6(A)、(B)は第2実施形態に係る載置台17Bの斜視図、図7(A)、(B)は載置台17B及び被捺染材Pの断面図、図8は第3実施形態に係る載置台17Cの断面図、図9は第4実施形態に係る載置台17Dの断面図である。
図10は第3実施形態に係る載置台17Cの構造の他の例を示す断面図、図11は第5実施形態に係る被捺染材と対応する載置台17Eの斜視図、図12は第6実施形態に係る被捺染材と対応する載置台17Fの斜視図である。
【0022】
尚、図中においてx−y−z座標系は説明の便宜上方向を示したものである。z方向は鉛直(重力)方向、y方向が被捺染材Pの搬送方向(載置台の移動方向)、x方向がy方向及びz方向と直交する方向である。
【0023】
図1、図2に示す様にインクジェット捺染装置1は、装置本体2の底部にガイドテーブル10を備え、このガイドテーブル10上を載置台17Aが移動するよう構成されている。より詳しくは、ガイドテーブル10にはy方向に平行なガイド軸11が配置されており、このガイド軸11によって、ベース15がy方向にガイドされる。
【0024】
また、無端ベルト12が、y方向に沿って駆動プーリー13と従動プーリー14との間に係回されており、この無端ベルト12の一部に下部ベース15が固定されている。駆動プーリー13はトレイ駆動モーター9によって回転駆動され、これにより無端ベルト12が稼働すると、下部ベース15がy方向に移動する。
【0025】
このベース15には軸16が立設され、この軸16上に載置台17Aが取り付けられている。載置台17Aは、その上面が被捺染材Pを載置する載置面19aとなっている。そして、前記載置面19a上に被捺染材Pを図3に示す様に載置し(図3の被捺染材Pは一例としてTシャツを示している)、被捺染材Pが載置された載置台17Aがy方向に移動する。これにより、被捺染材Pは捺染ヘッドとしてのインクジェットヘッド23の下を通過できる。
【0026】
次いで、インクジェット捺染装置1の装置前面右側には各種操作を行う為の操作パネル6が配置されている。該装置1の前面において載置台17Aを挟んで操作パネル6の反対側(装置左側)には、インクカートリッジを収容するインクカートリッジ収容部8が設けられている。
【0027】
捺染実行部を構成するインクジェットヘッド23は、インクカートリッジ収容部8に収容されたインクカートリッジからインクが供給される。該インクジェットヘッド23は、インクを吐出するためのノズル孔(不図示)が複数並んだノズル列(不図示)を複数有する、公知の構造のインクジェットヘッドである。そして、このインクジェットヘッド23は、搬送方向yと交差するx方向(図2において紙面面裏方向)に往復駆動されるキャリッジ22に搭載されている。
【0028】
尚、インクジェット捺染装置1は、インクジェットヘッド23が搬送方向yと交差するx方向に移動しながらインクを吐出する所謂シリアル式として説明したが、インクジェットヘッド23はラインヘッドであってもよい。またこのラインヘッドが固定的に設けられていても、或いは搬送方向yに移動可能に設けられていても、いずれであっても良いのは勿論である。
【0029】
そして載置台17Aが仮想線及び符号17A’で示す位置にまで搬送され(捺染開始位置)、載置台17Aの装置前方側(図2において左側)への移動と、インクジェットヘッド23からのインク吐出と、が交互に行われ、捺染が実行される。被捺染材Pへのインクの吐出が終了すると、載置台17Aは図2の実線で示す位置(被捺染材Pのセット位置)にまで戻り、インクが吐出された被捺染材Pを取り出すことができる。
【0030】
■■■第1実施形態■■■
続いて、本発明の第1実施形態に係る載置台17Aについて詳説する。載置台17Aは、図1、図4に示す様に、被捺染材Pの盛り上がり部分(図3においてM1、M2)が落ち込む凹部19b、19cを備えている。
【0031】
より詳しくは、図3に示す様に被捺染材Pの一例であるTシャツは、首回り部分M1及び胸ポケット部分M2(一例)が肉厚に形成されている。これにより仮に平坦面上に載置しただけでは、捺染側の面(被捺染材Pの上面)から前記首回り部分M1及び胸ポケット部分M2が上方に盛り上がった状態となり、インクジェットヘッド23と擦れる虞がある。
【0032】
従って、載置台17Aには、首回り部分M1に対応する位置に、首回り部分M1に対応する形状を成す凹部19cが形成されている(図1)。また、胸ポケット部分M2に対応する位置に、胸ポケット部分M2に対応する形状を成す凹部19bが形成されている(図1)。尚、凹部19cは、首回り部分M1よりやや大きい領域(面積)となる様形成されており、同様に凹部19bは、胸ポケット部分M2よりやや大きい領域(面積)となる様形成されている。
【0033】
図4において破線Lは、被捺染材Pの上面(被捺染面)の高さを示している。図示する様に載置台17Aには凹部19cが形成されているため、盛り上がり部分の一例である首回り部分M1が該凹部19cに落ちこみ、これによって当該首回り部分M1の高さが他の捺染領域と同じ高さとなる。また、胸ポケット部分M2も、同様に凹部19bに落ち込むことができる。従ってこれにより、ヘッド擦れを起こすことがなく、またヘッド擦れを防止する為にインクジェットヘッド23と被捺染材Pとの間の距離を大きくする必要もなくなり、良好な捺染結果を得ることができる。
【0034】
尚、凹部19b、19cは、交換可能なプレート19に形成されている。プレート19は、載置台17A本体の上面17a(図6(A)も参照)にセットすることができ、プレート19をセットした状態で載置台17Aの上面は凹部19b、19cを除く全領域が同じ高さとなる。従って被捺染材Pの形態(盛り上がり部分の位置、形状、大きさ)が異なる場合、これに対応したプレート19を作成しておけば、被捺染材Pの形状に形態したプレート19に交換することで、容易に異なる形態の被捺染材Pに対応することができる。
【0035】
■■■第2実施形態■■■
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図5に示す、本発明の第2実施形態に係るインクジェット捺染装置1’が備える載置台17Bは、被捺染材Pの盛り上がり部分が落ち込む凹部内に、被捺染材Pを吸引する吸引孔が設けられている。
【0036】
より詳しくは、図5に示す様に載置台17Bの内側には空洞部17bが形成されている。そして、ベース15上に配置された吸引手段としての吸引ファン装置25と前記空洞部17bとがチューブ26によって接続されている。載置台17Bには、空洞部17bと連通する多数の吸引孔18(図6(A))が載置台17B本体の上面17aに形成されている。そして、吸引ファン装置25の稼働により、吸引孔18を介した被捺染材Pの吸引が可能となっている。尚、吸引ファン装置25は、制御部3の制御のもと、吸引の強弱を調製可能となっている。
【0037】
この様に構成された載置台17Bにプレート19を載置すると、図6(B)に示す様に凹部19b、19cの底部のみに吸引孔18が表れる状態となる。従ってこの様な載置台17Bに被捺染材Pを載置し、盛り上がり部分である首回り部分M1及び胸ポケット部分M2をそれぞれ凹部19c、19bを落とし込むと、各盛り上がり部分をそれぞれの凹部に確実に落とし込むことができる。特に被捺染材Pの剛性が高い場合であっても、被捺染材Pの盛り上がり部分をより確実に凹部内に落とし込むことができる。
【0038】
また、吸引孔18による吸引の強弱を調整可能に構成されているので、被捺染材Pの盛り上がり部分の凹部内への落とし込みの程度を調整することができる。例えば相対的に剛性が高い被捺染材Pは、剛性が低い被捺染材Pよりも吸引の程度を相対的に強く設定すれば、首回り部分M1及び胸ポケット部分M2をそれぞれ凹部19c、19bの内部に確実に落とし込むことができる。
【0039】
更に、吸引孔18による吸引の強弱を調整可能であるので、例えば図7(A)に示す様に盛り上がり部分が必要以上に凹部内に落ち込んでしまい、所望する捺染結果が得られない場合には、以下の対応が可能である。即ち、吸引の強さを調整することで、図7(B)に示すように、盛り上がり部分の上面高さを適切にする(周囲と高さを揃える)ことができる。
【0040】
加えて、被捺染材Pの盛り上がり部分へインクを吐出する際には、当該インク吐出時以外の場合よりも、吸引孔18による吸引の程度を相対的に弱くすることも好適である。即ち、吸引孔18による吸引がインク着弾精度に悪影響を及ぼす虞があるので、被捺染材Pの盛り上がり部分にもインクを吐出する場合に以下の対応が可能である。即ち、当該盛り上がり部分へのインク吐出時の吸引を弱めることで、当該盛り上がり部分の捺染結果を良好に得ることができる。
【0041】
以上説明した第2実施形態は、上述した様に、第1の特徴は凹部内側に吸引孔18が設けられた点であり、第2の特徴は吸引孔18を介した吸引の強弱が調整可能な点であり、第3の特徴は被捺染材Pの剛性に応じて吸引の強弱を調整する点であり、第4の特徴は被捺染材Pの盛り上がり部分へのインク吐出時に吸引孔18を介した吸引を弱める点である。但し、これら第1〜第4の特徴の全てを備えている必要はなく、いずれか1つのみを備えていても良いことは勿論であるし、その他任意の組み合わせであっても良い。
【0042】
■■■第3実施形態■■■
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図8に示す、本発明の第3実施形態に係る載置台17Cは、凹部19c(或いは凹部19b)の深さが調整可能に構成されている。符号20A、20B、20Cは厚みの異なるスペーサーである。この様なスペーサー20A、20B、20Cを凹部19c(或いは凹部19b)に入れることにより、その深さを、被捺染材Pの盛り上がり部分の盛り上がり程度に応じた適切なものとすることができる。
【0043】
尚、符号20B、20Cで示すスペーサーには貫通孔20aが形成されている。一方、符号20Aで示すスペーサーには貫通孔20aが形成されていない。この様に、貫通孔20aを設ける/設けないを選択することで、吸引孔18を介した被捺染材Pを吸引する/吸引しないの選択を容易に行うことができる。また吸引する場合には吸引の強弱を調整でき、以上によって吸引の自由度を向上させることができる。
尚、上記の様な凹部深さを調整する手段は一例であり、これに限られないことは言うまでもない。
【0044】
<凹部深さを調整する他の構造>
図10は、前記凹部19c(或いは凹部19b)の深さを調整する構造の他の例を示す。
この例では、載置台17Cの前記凹部19c(或いは凹部19b)に対応する部分が吸引方向に可動に構成されている。即ち、この可動部17C’は、載置台17Cの固定部17C”に対して上下方向に移動可能であり、且つ適宜の移動位置で固定具28によって固定可能に構成されている。該固定具28の構造は、着脱可能な図示のL型固定具に限定されず、公知の固定具が利用可能である。
【0045】
またこの例では、前記載置台17Cの前記固定部17C”は、前記可動部17C’の移動をガイドするガイド部分27が他の部分よりも肉厚に形成されている。これにより、ガイド部分27のガイド範囲が長くなり、前記可動部17C’の移動が安定化する。
この可動部17C’による構造によっても、前記凹部19c(或いは凹部19b)の深さを、被捺染材Pの盛り上がり部分の盛り上がり程度に応じた適切なものとすることができる。
【0046】
■■■第4実施形態■■■
次に、本発明の第4実施形態について説明する。図9に示す、本発明の第4実施形態に係る載置台17Dは、凹部19c(或いは凹部19b)の周囲に、被捺染材Pを保持する保持部材21が設けられている。本実施形態では、保持部材21は、被捺染材Pとの間で高い摩擦係数を実現する部材(例えば、ゴム、コルク、スポンジ等)で形成されている。これにより、被捺染材Pの盛り上がり部分を凹部19c(或いは凹部19b)に落とし込んだ後に、当該保持部材21の周囲面よりも高い摩擦係数によって、前記盛り上がり部分が浮き上がってしまうことを防止することができ、或いは前記浮き上がりの程度を軽減させることができる。
尚、保持部材21を設ける場合、載置台17Dの上面(載置面)は、保持部材21を設けることによって凹凸ができない様にすることが好ましい。例えば凹部を形成した上で当該凹部に保持部材21を設けることが好ましい。
【0047】
■■■第5実施形態■■■
次に、本発明の第5実施形態について図11(A)(B)に基づいて説明する。図11(A)に示すように、本実施例の捺染対象の被捺染材Pは、首回り部分M1と、前記ポケット(図3)に代えて袖の取り付け部分M3とが肉厚に形成されている。即ちこれらが前記盛り上がり部分となっている。このTシャツ(P)は、首回り部分M1及び袖の取り付け部分M3が肉厚に形成されているので、仮に平坦面上に載置しただけでは、捺染側の面(被捺染材Pの上面)に対して首回り部分M1及び袖の取り付け部分M3が上方に盛り上がった状態となり、インクジェットヘッド23と擦れる虞がある。
【0048】
そこで、図11(B)に示すように、本実施形態の載置台17Eには、首回り部分M1に対応する位置に、首回り部分M1に対応する形状を成す凹部19cが形成されている。また、袖の取り付け部分M3に対応する位置に、袖の取り付け部分M3に対応する形状を成す凹部19dが形成されている。
尚、凹部19cと凹部19dは、首回り部分M1と袖の取り付け部分M3より、それぞれやや大きい領域(面積)となるように形成されている。
【0049】
本実施形態においては、図11(B)に示すように、載置台17Eには凹部19c、19dが形成されているため、盛り上がり部分である首回り部分M1と袖の取り付け部分M3が凹部19c、19dにそれぞれ落ちこむ。これによって当該首回り部分M1及び袖の取り付け部分M3の高さを他の捺染領域と略同じ高さにしてセットすることが可能となる。従ってこれにより、本実施形態においては、ヘッド擦れを起こす虞を低減することができる。また、ヘッド擦れを防止する為にインクジェットヘッド23と被捺染材Pとの間の距離を大きくする必要もなくなり、良好な捺染結果を得ることができる。
【0050】
■■■第6実施形態■■■
次に、本発明の第6実施形態について図12(A)(B)に基づいて説明する。図12(A)に示すように、本実施例の捺染対象の被捺染材Pは、首回りの襟部分M4と、ボタン部分M5と、袖の取り付け部分M3とが肉厚に形成されている。即ちこれらが前記盛り上がり部分となっている。このシャツ(P)は、首回りの襟部分M4と、ボタン部分M5と、袖の取り付け部分M3が肉厚に形成されているので、仮に平坦面上に載置しただけでは、捺染側の面(被捺染材Pの上面)に対して首回り部分M1及び袖の取り付け部分M3が上方に盛り上がった状態となり、インクジェットヘッド23と擦れる虞がある。
【0051】
そこで、図12(B)に示すように、本実施形態の載置台17Fには、首回りの襟部分M4に対応する位置に、首回りの襟部分M4に対応する形状を成す凹部19eが形成されている。また、ボタン部分M5に対応する位置に、ボタン部分M5に対応する形状を成す凹部19fが形成されている。また、袖の取り付け部分M3に対応する位置に、袖の取り付け部分M3に対応する形状を成す凹部19dが形成されている。
尚、凹部19d、19e、19fは、袖の取り付け部分M3、首回りの襟部分M4、ボタン部分M5より、それぞれやや大きい領域(面積)となるように形成されている。
【0052】
本実施形態においては、図12(B)に示すように、載置台17Fには凹部19d、19e、19fが形成されているため、盛り上がり部分である袖の取り付け部分M3、首回りの襟部分M4、ボタン部分M5とが凹部19d、19e、19fにそれぞれ落ちこむ。これによって当該袖の取り付け部分M3、首回りの襟部分M4及びボタン部分M5の高さを他の捺染領域と略同じ高さにしてセットすることが可能となる。従ってこれにより、本実施形態においては、ヘッド擦れを起こす虞を低減することができる。また、ヘッド擦れを防止する為にインクジェットヘッド23と被捺染材Pとの間の距離を大きくする必要もなくなり、良好な捺染結果を得ることができる。
【0053】
以上説明した各実施形態は一例であり、本発明がこれら各実施形態に限られないことは言うまでもない。また、本発明は布帛等の被捺染材にインクを吐出するインクジェット捺染装置に対して適用したが、記録用紙等の被記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置に適用することも可能である。
【0054】
また、前記各実施形態では、載置台17A〜17Fがy方向に移動し、インクジェットヘッド23はy方向に移動しない構造について説明したが、これに限定されず、相対的に前記移動の関係が成立する構造であればよい。従って、上記構造に代えて、インクジェットヘッド23が装置本体2と一体となってy方向にも移動し、載置台17A〜17Fはy方向には移動しない構造であってもよい。或いは載置台17A〜17Fとインクジェットヘッド23は、いずれもy方向に移動する構造でもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 インクジェット捺染装置、2 装置本体、3 制御部、6 操作部、
8 インクカートリッジ収容部、10 ガイドテーブル、11 ガイド軸、
12 無端ベルト、13 駆動プーリー、14 従動プーリー、15 ベース、
16 軸、17A〜17F 載置台、17C’ 可動部、17C” 固定部、
17a 上面、17b 空洞部、18 吸引孔、19 プレート、19a 載置面、
19b〜19f 凹部、20A〜20C スペーサー、20a 貫通孔、
21 保持部材、22 キャリッジ、23 インクジェットヘッド、
25 吸引ファン装置、26 チューブ、27 ガイド部分、28 固定具、
M1 首回り部分、M2 胸ポケット部分、M3 袖の取り付け部分、
M4 首回りの襟部分、M5 ボタン部分、P 被捺染材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被捺染材の盛り上がり部分が落ち込む凹部が形成された、被捺染材を載置する載置台と、
前記載置台に載置された被捺染材の捺染側の面に向けてインクを吐出して所望の捺染を実行する捺染ヘッドと、
を備えたインクジェット捺染装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット捺染装置において、前記凹部内に、被捺染材を吸引する吸引孔が設けられている、
ことを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項3】
請求項2に記載のインクジェット捺染装置において、前記吸引孔による吸引の強弱を調整可能に構成されている、
ことを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項4】
請求項3に記載のインクジェット捺染装置において、被捺染材の剛性に応じ、相対的に剛性が高い被捺染材の場合には剛性が低い被捺染材の場合よりも、前記吸引孔による吸引の程度を相対的に強くする、
ことを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載のインクジェット捺染装置において、少なくとも前記盛り上がり部分へインクを吐出する際には、当該インク吐出時以外の場合よりも、前記吸引孔による吸引の程度を相対的に弱くする、
ことを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のインクジェット捺染装置において、前記凹部の周囲に、被捺染材を保持する保持部材が設けられている、
ことを特徴とするインクジェット捺染装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のインクジェット捺染装置において、前記凹部の深さが調整可能に構成されている、
ことを特徴とするインクジェット捺染装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−63637(P2013−63637A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−150683(P2012−150683)
【出願日】平成24年7月4日(2012.7.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】