説明

インクジェット用のインク、インクカートリッジ及びインクジェット記録方法

【課題】優れた吐出安定性及び保存安定性を有し、「見え」の良い画像を記録可能なインク、該インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】C.I.ピグメントオレンジ71と、炭素数4以上の1,2−アルカンジオールと、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種とを含有することを特徴とするインクジェット用のインク。
一般式(1)
HO−R−OH
(一般式(1)で表される化合物は主鎖の両末端にOH基を有する多価アルコールであり、前記一般式(1)中、Rは直鎖部分の炭素数が4以上10以下のアルキレン基である。)
一般式(2)
HO−(CH2−CH2−O)n−H
(前記一般式(2)中、nは2又は3の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレンジの色相を有するインクジェット用のインク、インクカートリッジ及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを用いて記録された画像の耐光性、耐ガス性、さらには耐水性などの堅牢性を優れたものとするために、色材として顔料を含有する顔料インクが用いられるようになってきている。しかし、顔料と同様に色材として用いられる染料を含有する染料インクと比較して、例えば、光沢を有する記録媒体(光沢紙など)などに記録した場合における、画像の発色性や光沢性が十分でないという課題がある。また、顔料は染料に比べて水への親和性が低いため、顔料インクの保存安定性は染料インクに比べて劣る場合がある。
【0003】
発色性向上のために、基本の3原色であるシアン、マゼンタ、及びイエローに加えて、レッド、グリーン、ブルー、オレンジ、バイオレットといった色材を含有するインク、いわゆる特色インクを用いて画像を記録する方法がある。その中でも、オレンジインクとして、C.I.ピグメントオレンジ71を用いたインクは、顔料の非常に高い透明性を活かして、カラーフィルターの作製に用いられている。また、C.I.ピグメントオレンジ16を用いたインクについて、保存安定性の向上、及び画像の発色性(彩度)や光沢度(グロス値)の向上に関する提案がなされている(特許文献1)。
【0004】
上述の通り、オレンジ顔料を含有するインクを用いて、光沢を有する記録媒体に記録した画像において、画像品位を高めるために、彩度やグロス値を向上する試みはこれまでにもなされている。しかし、所望の色を有し、かつ、その色濃度の高い画像、すなわち「見え」の良い画像を記録することは非常に難しい。それは、光沢を有する記録媒体に顔料インクを付与した際に、顔料が粒子として記録媒体の表面及びその近傍に定着し、画像の平滑性が低下して、光の散乱が生じるためである。この光の散乱は画像に白みを加えてしまうために、「見え」を著しく低下させる。つまり、単純に彩度やグロスという数値を高めることだけでは、「見え」が良い画像とはならないのである。画像の散乱光を低減させ、「見え」を良くするためには、画像の平滑性を高めることが考えられる。顔料インクにより記録される画像の平滑性を向上させる点に着目すると、1,2−アルカンジオールを用いるインク組成の提案がある(特許文献2)。
【0005】
一方、顔料インクに、水溶性有機溶剤であるグリコールエーテルと1,2−アルカンジオールを含有させて、保存安定性を向上させることに関する提案がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−152145号公報
【特許文献2】特開2005−194500号公報
【特許文献3】特開2009−235155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記方法を用いても、「見え」の良い画像を記録可能なオレンジインクを得ることができなかった。特許文献1に記載のC.I.ピグメントオレンジ16を用いたインクによる画像は、詳細は後述するが、光沢度が高すぎることによる「見え」の低下を生じていた。また、特許文献1には比較例としてC.I.ピグメントオレンジ36や43を用いた各オレンジインクが挙げられているが、これらのインクを用いた画像に関しても、「見え」に関して満足できるレベルではなかった。
【0008】
そこで本発明者らが、透明性の高いC.I.ピグメントオレンジ71に着目し検討を行ったところ、「見え」がある程度向上した画像を記録可能なオレンジインクを提供し得ることが分かった。しかし、C.I.ピグメントオレンジ71を含有するインクは、インクジェット方式の記録ヘッドから吐出させると、インク流路や吐出口付近に顔料が堆積し、吐出よれを生じることがわかった。すなわち、C.I.ピグメントオレンジ71を含有するインクジェット用のインクには、吐出安定性が低いという特有の課題がある。
【0009】
そこで、吐出安定性の向上、また、記録された画像の「見え」のさらなる向上のために、種々の水溶性有機溶剤や界面活性剤をインクに添加する検討を行った。この検討の中で、特許文献2に記載の1,2−アルカンジオールを用いたインクは、記録された画像の「見え」を向上させるだけでなく、上記課題のインク流路や吐出口付近の堆積物により生じる吐出安定性の低下を抑制する作用があることがわかった。しかし、上記インクの信頼性を詳しく評価したところ、インクを保存した際に顔料の分散状態が不安定になり、保存安定性が低いことがわかった。また、特許文献3に記載の、グリコールエーテルと1,2−アルカンジオールに、C.I.ピグメントオレンジ71を組み合わせたインク組成としても、保存安定性は不十分であった。つまり、特許文献3に記載の方法では、顔料がC.I.ピグメントオレンジ71である場合には、インクの保存安定性を向上できないことがわかった。
【0010】
上記のように、C.I.ピグメントオレンジ71を用いたオレンジインクについては、インクジェット用インクとしての吐出安定性と保存安定性を両立することは困難であった。つまり、インクの保存安定性及び吐出安定性と、記録された画像の「見え」との全てに優れたオレンジインクは従来の技術では得られていない。
【0011】
したがって、本発明の目的は、優れた吐出安定性及び保存安定性を有し、「見え」の良い画像を記録可能なインク、該インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、C.I.ピグメントオレンジ71と、炭素数4以上の1,2−アルカンジオールと、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種とを含有することを特徴とするインクジェット用のインクである。
一般式(1)
HO−R−OH
(一般式(1)で表される化合物は主鎖の両末端にOH基を有する多価アルコールであり、前記一般式(1)中、Rは直鎖部分の炭素数が4以上10以下のアルキレン基である。)
一般式(2)
HO−(CH2−CH2−O)n−H
(前記一般式(2)中、nは2又は3の整数ある。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた吐出安定性及び保存安定性を有し、「見え」の良い画像を記録可能なインク、該インクを用いたインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、好適な実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。
先ず、本発明者らの考える「見え」の良い画像について詳細に説明する。「見え」の良い画像とは、所望の色を有し、かつ、その色濃度が高い画像である。一般に、色材が上記所望の色以外の光を多く吸収することで、画像の濃度を高めることができる。しかし、色材として顔料を含有する顔料インクを用いて、光沢を有する記録媒体に画像を記録した場合、顔料の粒子性に起因して、画像の平滑性が低下した状態となる。すると、画像に入射した光が画像によって乱反射され、白色の散乱光が生じてしまう。この白色の散乱光には、上記所望の色以外の波長の光も含まれる。例えば、オレンジインクにより記録された画像であれば、オレンジ以外の波長の光も反射してしまうため、オレンジの色濃度が低下してしまう。したがって、画像の平滑性を高めることによって光の散乱が抑制され、「見え」の良い画像となる。また、高屈折率の材料を含有するインクを用いるなどの方法により、記録した画像から反射される光の強度、すなわち画像の光沢度を高めると、画像がぎらついて見え、色濃度が低下して見える。
【0015】
以上のことから、本発明者らが考える「見え」の良い画像とは、散乱光が少なく、反射光の強度が適正でぎらつかないことにより、色濃度が高く見える画像である。C.I.ピグメントオレンジ71は、インクジェット用のインクに用いられる他のオレンジ顔料と比べて屈折率が低く、画像の平滑性を向上させた画像においても、反射光が強すぎないため、「見え」の良い画像を提供し得る顔料である。
【0016】
本発明は、上記のように、「見え」の良い画像を提供し得るという特徴を持つ、C.I.ピグメントオレンジ71を含有するインクにおいて特有に生じる、インクの吐出安定性や保存安定性の低下という課題を解決するためになされたものである。本発明者らはC.I.ピグメントオレンジ71を用いたインクにおいて検討を行った結果、先ず、吐出安定性の低下が生じる原因について、以下の知見を得た。
【0017】
C.I.ピグメントオレンジ71はジケトピロロピロール骨格を有する顔料である。一般的に、ジケトピロロピロール骨格(下記式(3))を有する化合物は、分子間の水素結合やπ−π相互作用により、非常に高い結晶性を持ち、顔料粒子の凝集が生じやすい。
【0018】

【0019】
しかし、下記式(4)にその構造を示す通り、C.I.ピグメントオレンジ71は、ジケトピロロピロール骨格に置換基としてシアノ基(−C≡N)が導入されている。このため、シアノ基の強い電子吸引性により、ジケトピロロピロール骨格がプラスに、シアノ基がマイナスに、というように、分子が分極したような状態になっている。これにより、複数の分子間において、ジケトピロロピロール骨格同士のπ−π相互作用が弱まり、また、マイナスに分極したシアノ基同士が反発する。これらの要因から、C.I.ピグメントオレンジ71はジケトピロロピロール骨格を有する顔料の中では結晶性が比較的弱く、その顔料粒子は小さくなりやすい。
【0020】

【0021】
また、インクジェット記録方法では、記録ヘッドの吐出口近傍でのインクの激しい流動により、顔料粒子同士の衝突や、インク流路の内壁への顔料粒子の衝突が頻繁に起こる。この衝突は、インクの吐出が高駆動周波数で行われるほどより顕著に生じる。なお、インクの吐出方式には熱エネルギーを利用した方式や力学的エネルギーを利用した方式があるが、このような現象は吐出方式に関わらずに生じる。この衝突により、分散状態が不安定となった顔料粒子が生じる。以上のようなプロセスで記録された、分散状態が不安定な顔料粒子が、分子間の水素結合などによって凝集し、インク流路や吐出口付近に付着して堆積することで、吐出されるインク滴が吐出される方向が曲がり、吐出よれが起こる。このため、インクの吐出安定性が低下するので、これを抑制するためには、上記の堆積を抑制する必要がある。
【0022】
そこで、本発明者らは、C.I.ピグメントオレンジ71を含有するインクに、種々の化合物を添加し、堆積を抑制する効果を得られないか、という点で検討を行った。その結果、従来は記録された画像の光沢性を向上させることを主な目的としてインクに用いてきた1,2−アルカンジオールを添加することで、C.I.ピグメントオレンジ71の堆積を抑制することができ、インクの吐出安定性の向上を実現することができた。炭素数4以上の1,2−アルカンジオールは界面活性剤のように界面に配向しやすいという特性を持つため、インクの表面張力を低くすることができる。そして、画像記録の際には、インクの表面張力が低いため、インクにより形成されるドットの高さが低くなり、画像が平滑となり、散乱光を低減させる。このような性質を持つ炭素数4以上の1,2−アルカンジオールは、吐出の際に上記過程で生じた分散状態が不安定なC.I.ピグメントオレンジ71の粒子に対しても素早く配向する。これにより、顔料粒子同士やインク流路との接触が抑制されることで、インク流路での堆積を抑制していると考えられる。また、インク流路に付着したC.I.ピグメントオレンジ71に対しても、付着が進行して強固に堆積する前であれば、付着物を洗い流す作用を発揮する。
【0023】
しかし、上記1,2−アルカンジオールをインクに添加したところ、インクの保存安定性が低下することがわかった。このことに関しても、以下に示すように、1,2−アルカンジオールの強い配向力が関係していると考えられる。C.I.ピグメントオレンジ71の顔料粒子が樹脂によって分散されている場合、C.I.ピグメントオレンジ71が分極しているため、他のジケトピロロピロール骨格を有する顔料と比較して、樹脂と顔料粒子の吸着力がわずかに弱まる。顔料粒子の表面において、樹脂の吸着力が弱い部分に、1,2−アルカンジオールが配向していくことで、樹脂が脱離し、分散に必要な樹脂が失われることで、顔料の分散状態が不安定化し、インクの保存安定性が低下すると考えられる。分散状態が不安定になった顔料粒子は互いに凝集し、顔料の粒径増大やインクの粘度上昇を引き起こすため、吐出安定性や記録媒体での定着にも影響を及ぼすと考えられる。このため、C.I.ピグメントオレンジ71を含有するインクに1,2−アルカンジオールを添加すると、インクの保存安定性が低下するばかりでなく、記録された画像においても本来期待される散乱光の低減も十分なレベルに達しない場合がある。
【0024】
このような1,2−アルカンジオールによる保存安定性の低下に関して、本発明者らは、上記の顔料粒子の表面における樹脂の吸着力が弱い部分に対する、1,2−アルカンジオールの配向を抑制することで、保存安定性を高められるのではないかと考えた。この予想を基に検討を行った結果、インク流路での堆積抑制による吐出安定性の向上と保存安定性の向上を両立し、かつ、C.I.ピグメントオレンジ71の持つ「見え」の良さという利点を最大限活かすことができるインクの構成を見出した。それが、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を添加する方法である。このメカニズムについて本発明者らは、以下のように考えている。
【0025】
一般式(1)や(2)で表される化合物はいずれも適度な分子サイズを有し、かつ、分子の両末端にOH基を持つ。そして、OH基の酸素原子(O)は電気陰性度が高いため、分子の両末端で分極を生じている。これらの化合物は、C.I.ピグメントオレンジ71の顔料粒子の表面における分極している分子と電気的に引き寄せあい、吸着する。この作用によって、C.I.ピグメントオレンジ71の顔料粒子の表面の電荷の偏りが緩和され、樹脂の吸着を補助する。また、顔料粒子の表面における樹脂の吸着力が弱い部分、すなわち電荷の偏りが生じている場所に、これらの化合物が吸着することで、1,2−アルカンジオールの配向を阻害する。これにより、樹脂の脱離による顔料の分散状態の不安定化が抑制され、インクの保存安定性を向上できる。
【0026】
本発明で使用する、一般式(1)で表される化合物はアルキレン基の両末端にOH基を有する多価アルコール類であり、一般式(2)で表される化合物はアルキレングリコール類である。これらは、分子の両末端にOH基を有し、両末端のOH基間の直鎖部分の距離が4原子以上10原子以下である化合物である。一般式(1)や(2)で表される化合物は、前述の通りC.I.ピグメントオレンジ71の顔料粒子の表面と電気的に引き寄せ合う。しかし、顔料粒子の表面の分極は、おおよそ隣接する分子間の距離、及び単一分子の分極のサイズ程度と考えられる。そのため、多価アルコール類やアルキレングリコール類であっても、分子サイズが小さすぎる場合、吸着できないためにインクの保存安定性が得られない。同様に、分子サイズが大きすぎる場合、その分子鎖の長さによる顔料粒子の表面への吸着性の低下や水への溶解性の低下といった要因により、インクの保存安定性が得られない。
【0027】
以上の通り、本発明のインクは、C.I.ピグメントオレンジ71、1,2−アルカンジオール、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を含有する。これにより、インクの吐出安定性や保存安定性に優れたオレンジインクを得ることができる。さらに、このオレンジインクを用いることにより、「見え」の良い画像を記録することができる。
【0028】
<インク>
以下、オレンジの色調を有する本発明のインクジェット用のインクを構成する各成分について説明する。
(C.I.ピグメントオレンジ71)
【0029】
本発明のインクに含有させる顔料は、C.I.ピグメントオレンジ71であり、下記式(4)で表される構造を有する。インク中のC.I.ピグメントオレンジ71の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下、さらには2.0質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0030】

【0031】
本発明は、優れた光沢性を有する画像を記録することができるインクである。通常、光沢性が重視されるのは光沢を有する記録媒体に記録された画像であり、光沢性を優れたものとするためには、インクを構成する水性媒体中に顔料を分散するために樹脂を使用する、いわゆる樹脂分散顔料を用いることが好ましい。以下、インクの色材に、樹脂分散顔料を用いた場合と、顔料粒子の表面にアニオン性基を含む官能基を結合させた自己分散顔料を用いた場合とを比較しながら、その理由を説明する。自己分散顔料は顔料粒子の表面に結合している官能基に含まれるアニオン性基の静電反発により分散している。そのため、光沢を有する記録媒体にインクが付与された際に、インク受容層のカチオンと反応することで、自己分散顔料の分散状態が不安定となり、凝集する。このため、自己分散顔料を用いたインクにより記録された画像では、記録媒体の限りなく表面に近い部位に顔料が定着し、画像の平滑性が低下しやすい。
【0032】
これに対し、樹脂分散顔料では、樹脂のアニオン性基による静電反発に加えて、樹脂の立体構造も凝集を生じにくくする要因となっている。このため、光沢を有する記録媒体にインクが付与された際に、インク受容層のカチオンと反応しても、顔料の分散状態はゆっくりと不安定化するため、自己分散顔料よりも緩やかに凝集する。また、樹脂分散顔料は、インク中の液体成分の浸透とともに、顔料もインク受容層にわずかに入り込む。以上により、樹脂分散顔料を用いると、自己分散顔料に比べて画像の凹凸が低減され、平滑性が高まるため、光沢性を向上させるためには、樹脂分散顔料を使用することが好ましい。
【0033】
樹脂を用いた顔料の分散方法としては、顔料粒子の表面に物理的に樹脂を吸着させる方法、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基を化学的に結合させる方法、顔料粒子の表面の少なくとも一部を樹脂などにより被覆する方法(マイクロカプセル)などが挙げられる。勿論、これらの分散方法の異なる顔料を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
顔料を分散させるために使用する樹脂としては、例えば、以下に挙げるような単量体に由来する親水性ユニットや疎水性ユニットを有する樹脂が挙げられる。なお、以下の記載における(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルを示すものとする。
【0035】
重合により親水性ユニットとなる単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシ基を有する単量体;(メタ)アクリル酸−2−ホスホン酸エチルなどのホスホン酸基を有する単量体;4−スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのスルホン酸基を有する単量体;これらの酸性単量体の無水物や塩などのアニオン性基を有する単量体が挙げられる。また、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−ヒドロキシプロピルなどのヒドロキシ基を有する単量体;(モノ、ジ、トリ、テトラ、ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのエチレンオキサイド基を有する単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなどのアミド基を有する単量体が挙げられる。
【0036】
アニオン性基を有する単量体の塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンが挙げられる。本発明においては、樹脂を構成するアニオン性基を有するユニットが、アクリル酸やメタクリル酸などのカルボキシ基を有する単量体に由来するユニットを少なくとも含むことが好ましい。さらには、前記アニオン性基を有するユニットの全てが、アクリル酸やメタクリル酸などのカルボキシ基を有する単量体に由来するユニットであることが特に好ましい。
【0037】
重合により疎水性ユニットとなる単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ナフチル、ビニルナフタレンなどの芳香族基を有する単量体;(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸(イソ)プロピル、(メタ)アクリル酸(n−、iso−、t−)ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、フマル酸ジメチルなどの脂肪族基を有する単量体が挙げられる。本発明においては、樹脂を構成する疎水性ユニットが、芳香族基を有する単量体に由来するユニットを少なくとも含むことが好ましい。さらには、スチレン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、及び、(メタ)アクリル酸ベンジルから選ばれる少なくとも1つの単量体に由来するユニットを含むことが好ましい。
【0038】
本発明においては、分散剤として使用する樹脂は、その重量平均分子量が1,000以上30,000以下、さらには3,000以上15,000以下であることが好ましい。また、分散剤として使用する樹脂は、その酸価が、50mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0039】
(炭素数4以上の1,2−アルカンジオール)
本発明のインクは、炭素数が4以上である1,2−アルカンジオールを含有することが必要である。炭素数が3以下の場合、分散状態の不安定な顔料粒子に配向する力が弱く、インクの吐出安定性が得られない。また、インクにより形成されるドットの高さを低くして画像の平滑性を高める作用も低いため、「見え」を良くすることができない。また、炭素数が9以上の場合は、それ自身ではほとんど水に溶解しないので、水に溶解させるために何らかの共溶媒が必要となる場合があるため、1,2−アルカンジオールの炭素数は8以下であることが好ましい。1,2−アルカンジオールの具体例としては、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ノナンジオールなどを挙げることができる。なかでも、炭素数が5又は6の1,2−アルカンジオール、つまり、1,2−ペンタンジオールや1,2−ヘキサンジオールが特に好ましい。
【0040】
本発明においては、インク中の炭素数4以上の1,2−アルカンジオールの含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましい。また、炭素数4以上の1,2−アルカンジオールの含有量(質量%)は、C.I.ピグメントオレンジ71の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.1倍以上5.0倍以下が好ましく、さらには0.3倍以上3.0倍以下であることが好ましい。なお、この場合の各成分の含有量はそれぞれインク全質量を基準とした値である。前記質量比率が0.1倍未満であると、例えば高駆動周波数で吐出をする際に、次々と生じる分散状態が不安定な顔料粒子に対して配向が十分にできない場合があり、吐出安定性をより向上する効果が十分に得られない場合がある。一方、前記質量比率が5.0倍を超えると、顔料の分散方法や樹脂の種類によっては、保存安定性をより向上する効果が十分に得られない場合がある。
【0041】
(一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物)
本発明のインクは、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を含有することが必要である。
【0042】
一般式(1)
HO−R−OH
(一般式(1)で表される化合物は主鎖の両末端にOH基を有する多価アルコールであり、前記一般式(1)中、Rは直鎖部分の炭素数が4以上10以下のアルキレン基である。)
一般式(1)で表される化合物は、主鎖の両末端にOH基を有する多価アルコール類であり、両末端のOH基間の直鎖部分の距離が4原子以上10原子以下であることを要す。上記アルキレン基は当該化合物の主鎖であるため、該アルキレン基よりも炭素数が少なければ分岐や置換基を有しても良い。ただし、分岐部分や置換基部分の炭素数は「直鎖部分の炭素数」には含めない。一般式(1)で表される化合物としては、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオールなどが挙げられる。
【0043】
一般式(2)
HO−(CH2−CH2−O)n−H
(前記一般式(2)中、nは2又は3の整数である。)
一般式(2)で表される化合物は、アルキレングリコール類であり、両末端のOH基間の直鎖部分の距離が4原子以上10原子以下であることを要す。一般式(2)で表される化合物としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが挙げられる。
【0044】
上述の通り、本発明に使用する、一般式(1)や一般式(2)で表される化合物は、両末端のOH基間の直鎖部分の距離が4原子以上10原子以下である化合物である。好ましくは、両末端のOH基間の直鎖部分の距離が5原子以上8原子以下である。なお、一般式(2)で表される化合物の場合、両末端のOH基間の直鎖部分の原子数には、炭素原子の他に酸素原子が含まれる。一般式(1)や一般式(2)で表される化合物の上記距離が3原子以下であると、分子サイズが小さすぎ、顔料粒子の表面に吸着できないためにインクの保存安定性が得られない。一方、上記距離が11以上であると、その分子サイズが大きすぎ、顔料粒子の表面に吸着せず、また、化合物の水への溶解性も低いため、インクの保存安定性が得られない。
【0045】
一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物として複数種の化合物を使用する場合には、それらの合計量を含有量とする。本発明においては、インク中の一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましい。また、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の含有量(質量%)は、C.I.ピグメントオレンジ71の含有量(質量%)に対する質量比率で、質量比率で0.1倍以上5.0倍以下が好ましい。さらには0.3倍以上3.0倍以下であることが好ましい。なお、この場合の各成分の含有量はそれぞれインク全質量を基準とした値である。前記質量比率が0.1倍未満であると、樹脂の種類や含有量、1,2−アルカンジオールの種類や含有量などによっては、C.I.ピグメントオレンジ71の顔料粒子の表面において樹脂の吸着力が弱い部分に対する上記化合物の吸着がやや弱くなる場合がある。そのため、インクの保存安定性をより向上する効果が十分に得られない場合がある。また、前記質量比率が5.0倍を超える場合には、インクの粘度が高くなり、吐出安定性がやや不安定になる場合がある。
【0046】
(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)
本発明のインクには、さらに、グリフィン法により求められるHLB値が12.9以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有させることが好ましい。本発明者らの検討によれば、上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルはC.I.ピグメントオレンジ71の顔料粒子の分散を補助し、インクの保存安定性をより向上することが可能であることがわかった。このメカニズムについて、本発明者らは以下のように考えている。C.I.ピグメントオレンジ71は前述の通り、その電気的な性質による疎水部との吸着力の弱さのために、一般的な界面活性剤や分散樹脂を添加しても、分散状態が十分に安定とはならない場合がある。しかし、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、C.I.ピグメントオレンジ71の顔料粒子に吸着して分散状態をより安定化する際に、隣接分子間の疎水基同士、親水基同士の相互作用により、より安定な分子膜を形成することができる。このため、顔料粒子同士の接触機会を低減し、凝集をさらに抑制することができると考えられる。
【0047】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルはR−O−(CH2CH2O)mHで表される構造を有し、Rはアルキル基、mは整数である。本発明のインクに使用するポリオキシエチレンアルキルエーテルは、その疎水基である上記式中のR(アルキル基)の炭素数が界面活性能を有するような範囲、例えば、炭素数が12乃至22であればよい。具体的には、例えば、ラウリル基(12)、セチル基(16)、ステアリル基(18)、オレイル基(18)、ベヘニル基(22)などが挙げられる(括弧内の数値はアルキル基の炭素数である)。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの親水基である上記式中のm、すなわちエチレンオキサイド基の数はRの構造及びHLB値から決定することができ、10以上50以下、さらには10以上40以下であることが好ましい。インク中のHLB値が12.9以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.2質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。
【0048】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルのグリフィン法により求められるHLB値は12.9以上、さらには15.0以上であることが好ましい。HLB値が12.9未満であると、親水性を付与する作用が小さくなり、安定した分散補助能を十分に得られない場合がある。なお、HLB値の上限は後述する通り20.0であり、本発明で使用できるポリオキシエチレンアルキルエーテルのHLB値の上限も20.0である。
【0049】
ここで、本発明において、界面活性剤のHLB値を規定するグリフィン法について説明する。グリフィン法によるHLB値は、界面活性剤の親水基の式量と分子量から下記式(A)により求められ、界面活性剤の親水性や親油性の程度を0.0から20.0の範囲で示すものである。このHLB値が低いほど界面活性剤の親油性すなわち疎水性が高いことを示す。一方、HLB値が高いほど界面活性剤の親水性が高いことを示す。
【0050】

【0051】
(水性媒体)
本発明のインクには、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては脱イオン水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、アルコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上をインクに含有させることができる。インク中の水溶性有機溶剤の合計含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。なお、この水溶性有機溶剤の含有量は、炭素数4以上の1,2−アルカンジオール、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物を含む値である。
【0052】
(その他の成分)
本発明のインクには、上記成分の他に、尿素やその誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。インク中の常温で固体の水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下、さらには3.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。また、必要に応じて、その他の界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有してもよい。
【0053】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクとこのインクを収容するインク収容部とを備える。そして、インク収容部に収容されたインクが、上記で説明した本発明のインクである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、液体のインクを収容するインク収容室、及び負圧によりその内部にインクを保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室で構成されるものが挙げられる。また、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容量の全量を負圧発生部材により保持する構成のインク収容部であるインクカートリッジであってもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0054】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット方式の記録ヘッドにより上記で説明した本発明のインクを吐出して、記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式やインクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられ、本発明においては、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
【0055】
本発明においては、記録媒体としては、普通紙や、コート層を有する記録媒体(光沢紙やアート紙)などの、インク吸収能を有する紙などを用いることが好ましい。特に、インク中の顔料を記録媒体の表面上に存在させることができる、コート層を有する記録媒体を用いることが好ましい。このような記録媒体は、画像を記録した記録物の使用目的などに応じて選択することができる。例えば、写真画質の光沢感を有する画像を得るのに適している光沢紙や、絵画や写真、グラフィック画像などを好みに合わせて表現するために、基材の風合い(画用紙調、キャンバス地調、和紙調など)を生かしたアート紙などが挙げられる。
【0056】
本発明のインクは、別のインクと組み合わせて、インクセットとしても用いることができる。別インクの色相は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、レッド、グリーン、及びブルーなどのインクから1種又は2種以上を選択することができる。また、インクセットを構成するインクとして、上記のインクと互いに同じ色相を有し、顔料の含有量がそれぞれ異なる複数のインクを用いてもよい。
【実施例】
【0057】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。なお、成分の使用量の記載についての「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0058】
[顔料分散液の調製]
<顔料分散液1>
顔料(C.I.ピグメントオレンジ71)10.0部、樹脂分散剤(樹脂固形分として)10.0部、イオン交換水80.0部を混合し、バッチ式縦型サンドミルを用いて3時間分散した。樹脂分散剤としては、酸価210mgKOH/g、重量平均分子量8,000のスチレン−アクリル酸共重合体を、10%水酸化ナトリウム水溶液で中和したものを用いた。その後、遠心分離を行い、粗大粒子を除去し、ポアサイズが3.0μmであるセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過を行い、顔料の含有量が10.0%、樹脂分散剤の含有量が10.0%である顔料分散液1を得た。
【0059】
<顔料分散液2>
顔料分散液1の調製に用いた顔料をC.I.ピグメントオレンジ16に変更した以外は同様にして、顔料の含有量が10.0%、樹脂分散剤の含有量が10.0%である顔料分散液2を得た。
【0060】
[インクの調製(実施例1〜23、比較例1〜11)]
表1−1〜1−3の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズが1.2μmであるメンブレンフィルター(HDCIIフィルター;ポール製)にて加圧ろ過を行って各インクを調製した。表1−1〜1−3の下段には、インク中のC.I.ピグメントオレンジ71の含有量A[%]、炭素数4以上の1,2−アルカンジオールの含有量B[%]、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の(合計)含有量C[%]を示した。さらに、B/Aの値及びC/Aの値も示した。インクの調製に用いた「サーフィノール440」はアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(日信化学工業製)である。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、日光ケミカルズ製の下記のものを使用した。
・NIKKOL BL−5(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、アルキル基の炭素数12、エチレンオキサイド基の数5、HLB値10.8)
・NIKKOL BC−10(ポリオキシエチレンセチルエーテル、アルキル基の炭素数16、エチレンオキサイド基の数10、HLB値12.9)
・NIKKOL BC−20(ポリオキシエチレンセチルエーテル、アルキル基の炭素数16、エチレンオキサイド基の数20、HLB値15.7)
・NIKKOL BO−50(ポリオキシエチレンオレイルエーテル、アルキル基の炭素数18、エチレンオキサイド基の数50、HLB値17.8)
【0061】

【0062】

【0063】

【0064】
[評価]
上記で得られたインクを用いて、下記の各項目の評価を行った。結果を表2に示す。本発明においては、下記の各項目の評価基準で、「A」及び「B」を許容できるレベル、「C」を許容できないレベルとした。
【0065】
<吐出安定性>
上記で得られたインクをそれぞれインクカートリッジに充填し、インクジェット記録装置PIXUS Pro9500(キヤノン製)に装着した。このインクジェット記録装置は、解像度が600dpi×600dpiで、1/600インチ×1/600インチの単位領域に3.5ナノグラムのインク滴を8滴付与する条件で記録した画像を、記録デューティが100%であると定義するものである。そして、A4サイズの記録媒体(キヤノン写真用紙・光沢ゴールド;キヤノン製)に、記録デューティを150%としたベタ画像を連続して記録した。このベタ画像を100枚記録した後、及び200枚記録した後に、それぞれ、PIXUS Pro9500のノズルチェックパターンを記録し、得られたノズルチェックパターンの吐出よれの状態を目視で確認して、吐出安定性の評価を行った。
A:200枚記録した後に、吐出よれが生じていなかった。
B:100枚記録した後に、吐出よれが生じていなかった。
C:100枚記録した時点で、吐出よれが生じていた。
【0066】
<保存安定性>
上記で得られたインクの20mLを、内容積100mLの密閉可能なガラス容器に入れ、温度60℃の条件で2週間保存した。そして、保存の前後のインクについて、インクの粘度をそれぞれE型粘度計(RE80L;東洋精機製)を用いて測定し、保存前後におけるこれらの値の変化率を求め、保存安定性の評価を行った。
A:保存前後の変化率が5%未満であった。
B:保存前後の変化率が5%以上10%未満であった。
C:保存前後の変化率が10%以上であった。
【0067】
<見え>
上記で得られたインクをそれぞれインクカートリッジに充填し、上記の吐出安定性の評価で使用したものと同様のインクジェット記録装置に装着した。上記のインクジェット記録装置により、記録媒体(商品名:キヤノン写真用紙・光沢ゴールド GL−101;キヤノン製)に、記録デューティを100%としたベタ画像を記録した。上記で得られた画像を常温で24時間保存した後、画像を目視で確認して、見えの評価を行った。
A:白色の散乱光、ぎらつきが共に少なくオレンジの色濃度が高かった。
B:白色の散乱光、又はぎらつきがわずかに見られるが、オレンジの色濃度が高かった。
C:白色の散乱光、及びぎらつきが感じられ、オレンジの色濃度が低かった。
【0068】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C.I.ピグメントオレンジ71と、炭素数4以上の1,2−アルカンジオールと、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種とを含有することを特徴とするインクジェット用のインク。
一般式(1)
HO−R−OH
(一般式(1)で表される化合物は主鎖の両末端にOH基を有する多価アルコールであり、前記一般式(1)中、Rは直鎖部分の炭素数が4以上10以下のアルキレン基である。)
一般式(2)
HO−(CH2−CH2−O)n−H
(前記一般式(2)中、nは2又は3の整数である。)
【請求項2】
前記1,2−アルカンジオールの含有量(質量%)が、前記C.I.ピグメントオレンジ71の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.1倍以上5.0倍以下である請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物の含有量(質量%)が、前記C.I.ピグメントオレンジ71の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.1倍以上5.0倍以下である請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
前記1,2−アルカンジオールの炭素数が、8以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項5】
グリフィン法により求められるHLB値が12.9以上であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを含有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインク。
【請求項6】
インクと、前記インクを収容するインク収容部とを備えたインクカートリッジであって、
前記インクが、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項7】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記インクが、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2013−91704(P2013−91704A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234059(P2011−234059)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】