説明

インクジェット用インク、インクジェット記録方法、及びインクカートリッジ

【課題】 インクジェット記録装置におけるインクの吐出安定性、画像の滴下耐水性及び耐フェザリング性に優れたインクジェット用インクを提供すること。
【解決手段】 顔料及びポリウレタン樹脂を含有するインクジェット用インクであって、
前記ポリウレタン樹脂が、酸基を有さない炭素数13以上250以下のポリオール、酸基を有する炭素数1以上7以下のジオール、シロキサン構造を有するポリオール及びポリイソシアネートのそれぞれに由来するユニットを有し、かつ、その酸価が40.0mgKOH/g以上80.0mgKOH/g以下であることを特徴とするインクジェット用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット用インク、かかるインクを用いたインクジェット記録方法、及びインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録装置は画質や記録速度の向上に伴い、ビジネス分野で使用される機会が増加している。ビジネス分野に用いられるインクジェット用インクに求められる性能としては、インクの信頼性(吐出安定性など)、画質(高画像濃度、耐フェザリング性など)及び画像の堅牢性(耐擦過性、耐マーカー性、耐水性など)が挙げられる。これらの性能を向上するために、種々のポリウレタン樹脂を添加した顔料インクが検討されている(特許文献1及び2)。特許文献1には、酸基を有するポリウレタン樹脂分散体と自己分散顔料を含有する水性インクジェットインクが開示されている。特許文献2には、カルボキシ基を含む長鎖ポリオールとシロキサン化合物からなるポリウレタン樹脂を含有する水性顔料インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005−515289号公報
【特許文献2】特開2008−143960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、ポリウレタン樹脂を添加した従来の顔料インクは、インクの信頼性及び画像の堅牢性の改善が図られてはいるものの、近年ビジネス分野で要求されるレベルを満足するまでには至っていないことが分かった。特に、画像の耐マーカー性や耐擦過性といった従来の課題を解決しながら、更に、インクジェット記録装置におけるインクの吐出安定性、画像の耐フェザリング性、及び、滴下耐水性を同時に実現するには至っていない。尚、本発明において、滴下耐水性とは、耐水性として一般的に評価されるような水を流しかけるものではなく、画像上に水を一定時間滞留させたような厳しい条件下での耐水性のことを示す。
【0005】
本発明者らの検討によると、特許文献1のようなポリウレタン樹脂を用いた場合、酸価が20〜30mgKOH/g程度と低く、インクの吐出安定性が十分でないことが分かった。特許文献2のようなポリウレタン樹脂を用いた場合、酸価が50〜100mgKOH/gと高いため吐出安定性は改善する。しかしながら、長鎖ポリオールなどで構成されるソフトセグメント中にカルボキシ基を有するため、強度と柔軟性のバランスが崩れてしまい画像の耐擦過性が十分でなかった。尚、ソフトセグメントに関しては後述する。また、特許文献1及び2において、流水に対する耐水性は改善されているものの、画像上に水を一定時間滞留させたような厳しい条件下での滴下耐水性は共に不十分であった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、耐マーカー性や耐擦過性といった課題を解決しながら、更に、インクジェット記録装置におけるインクの吐出安定性、画像の滴下耐水性及び耐フェザリング性を両立させたインクジェット用インクを提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記本発明のインクを用いたインクジェット記録方法及びインクカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明にかかるインクジェット用インクは、
顔料及びポリウレタン樹脂を含有するインクジェット用インクであって、前記ポリウレタン樹脂が、酸基を有さない炭素数13以上250以下のポリオール、酸基を有する炭素数1以上7以下のジオール、シロキサン構造を有するポリオール及びポリイソシアネートに由来するユニットを有し、かつ、前記ポリウレタン樹脂の酸価が40.0mgKOH/g以上80.0mgKOH/g以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクジェット記録装置におけるインクの吐出安定性、画像の滴下耐水性及び耐フェザリング性に優れたインクジェット用インクを提供することができる。また、本発明の別の実施態様によれば、前記インクを用いたインクジェット記録方法及びインクカートリッジを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明のインクジェット用インク(以下「インク」とする)は、酸基を有さない炭素数13以上250以下のポリオール、酸基を有する炭素数1以上7以下のジオール、シロキサン構造を有するポリオール及びポリイソシアネートに由来するユニットを有し、かつ、前記ポリウレタン樹脂の酸価が40.0mgKOH/g以上80.0mgKOH/g以下であるポリウレタン樹脂と顔料を含有する。
【0010】
本発明者らは、高いレベルの画像の耐擦過性及び耐マーカー性、更にはインクの吐出安定性に優れるインクを提供するために、種々のポリウレタン樹脂を添加した顔料インクについて検討を行った。その結果、インク中にポリウレタン樹脂を含有することで、画像の耐擦過性及び耐マーカー性は改善されるが、一方でインクの吐出安定性が低下することが分かった。そこで、インクの吐出安定性の向上を目的として、ポリウレタン樹脂の水溶性を高めるべくポリウレタン樹脂の酸価を高くしたところ、インクの吐出安定性は向上するが、画像の耐擦過性及び耐マーカー性が低下するという結果が得られた。即ち、インクの吐出安定性と、画像の耐擦過性及び耐マーカー性はトレードオフの関係にあることが分かった。また、親水性の高いポリウレタン樹脂を含有するインクを用いると、画像の滴下耐水性や耐フェザリング性が低下するという課題が更に生じることが分かった。これは、インク中のポリウレタン樹脂の親水性が高いとインク中の液体成分と共に記録媒体に浸透・拡散し易く、画像のエッジが滲み、フェザリングが発生してしまうためである。更に得られた画像も、吸水による顔料の再分散が起きやすいため、画像の滴下耐水性が低くなる。つまり、インクの吐出安定性と画像の滴下耐水性及び耐フェザリング性もトレードオフの関係にある。これらの結果を受け、本発明者らは、画像の耐マーカー性や耐擦過性を解決し、更にインクの吐出安定性、画像の滴下耐水性及び耐フェザリング性を両立させるべくインク中に含有するポリウレタン樹脂の検討を行い、本発明に至った。詳細を以下に述べる。
【0011】
インクの吐出安定性の向上を目的に、インク中に含有するポリウレタン樹脂の親水性を高めるためには、ポリウレタン樹脂の酸価を高くする必要がある。そこで、酸価が40.0mgKOH/g以上のポリウレタン樹脂を用いたところ、上述の通り、インクの吐出安定性は向上したが、画像の耐擦過性及び耐マーカー性、更に画像の滴下耐水性及び耐フェザリング性は低下してしまった。そこで本発明者らは、酸価が40.0mgKOH/g以上のポリウレタン樹脂が良好なインクの吐出安定性を保ちつつ、更に画像の耐擦過性及び耐マーカー性や画像の滴下耐水性及び耐フェザリング性を向上するように、ポリウレタン樹脂の構造を検討した。
【0012】
まず、本発明者らは、画像の耐擦過性及び耐マーカー性、インクの吐出安定性の観点から、ポリウレタン樹脂構造中のどの位置に酸基を導入するのが最適かを検討した。そこで、酸価が同じで、酸基の導入位置が異なるポリウレタン樹脂2種、及び、参考として酸基を有さないポリウレタン樹脂Aを合成し、それぞれを含有させた顔料インクを比較検討した。酸基の導入位置が異なるポリウレタン樹脂としては、まず酸基を有する炭素数13以上250以下のポリオール(以下、「炭素数13以上250以下のポリオール」を「長鎖ポリオール」とする)を用いて合成したポリウレタン樹脂Bを用いた。更に、酸基を有さない長鎖ポリオールと酸基を有する炭素数1以上7以下のジオール(以下、「炭素数1以上7以下のジオール」を「短鎖ジオール」とする)を用いて合成したポリウレタン樹脂Cを用いた。ポリウレタン樹脂BとCに関しては、酸価が同じ40.0mgKOH/gになるようにした。表1に3種のポリウレタン樹脂A〜Cの組成を示す。
【0013】
【表1】

【0014】
ポリウレタン樹脂Aと比較して、ポリウレタン樹脂B及びCはいずれもインクの吐出安定性が向上した。しかし、ポリウレタン樹脂Bは、ポリウレタン樹脂Cと比較して、画像の耐擦過性及び耐マーカー性が著しく低下してしまうことが分かった。酸基の導入位置の違いにより、このような差が生じる理由は明らかではないが、本発明者らはポリウレタン樹脂に特有のミクロ相分離構造に由来するのではないかと考えている。ポリウレタン樹脂の構造は、ポリイソシアネート、短鎖ジオールや鎖延長剤などで構成されるハードセグメントと、長鎖ポリオールなどで構成されるソフトセグメントの主に2つのセグメントを有する。そして、ハードセグメントが強度、ソフトセグメントが柔軟性に主に寄与しており、両セグメントがミクロ相分離構造をとることで、ポリウレタン樹脂は強度と柔軟性を併せ持った高い弾性を発現できる。ポリウレタン樹脂Bは、長鎖ポリオールで構成されるソフトセグメント中に酸基を有するため、強度と柔軟性のバランスが崩れてしまったと考えられる。以上の検討から、酸基の導入位置は、ハードセグメントとなる短鎖ジオールにすることが重要であるという知見を得た。つまり、酸基を有するポリウレタン樹脂を合成する際には、酸基を有さない長鎖ポリオールと酸基を有する短鎖ジオールの両方を使用することが必要である。
【0015】
以上の検討の通り、本発明に用いるポリウレタン樹脂は、「ポリイソシアネート、酸基を有さない長鎖ポリオール、及び酸基を有する短鎖ジオールに由来するユニット」を有する必要がある。そして、酸基を有さない長鎖ポリオールによってポリウレタン樹脂に強度と柔軟性を付与し、画像の耐擦過性及び耐マーカー性の向上を達成することができる。それに加えて、得られたポリウレタン樹脂の酸価が40.0mgKOH/g以上となるように酸基を有する短鎖ジオールの量を調整することで、インクの吐出安定性の向上をも達成することができる。一方、ポリイソシアネートと酸基を有する長鎖ポリオールを用いて合成されたポリウレタン樹脂を用いた場合では、インクの吐出安定性と画像の耐擦過性及び耐マーカー性を両立させることはできない。
【0016】
次に本発明者らは、良好な画像の耐擦過性及び耐マーカー性やインクの吐出安定性に加えて、更に画像の滴下耐水性及び耐フェザリング性を両立できるインクを得るために検討を重ねた。その結果、ポリウレタン樹脂が更に「シロキサン構造を有するポリオールに由来するユニット」を有することが必要であることが分かった。本発明において、シロキサン構造とはSi−O構造を意味する。シロキサン構造を有する化合物は非常に撥水性が高いことで知られている。この撥水性の高い構造を適度な親水性を有する上記のポリウレタン樹脂中に持たせることで、撥水性と親水性という反対の性質が共存することができる。その結果、インクの吐出安定性と画像の滴下耐水性及び耐フェザリング性という従来では達成し得なかったトレードオフの関係にある効果を両立することができたものである。このような効果が得られる理由は明らかではないが、本発明者は以下のように考えている。
【0017】
インク中では、ポリウレタン樹脂は適度な親水性により安定に分散しているため、インク吐出口付近に樹脂が堆積しづらく、インクの吐出安定性は良好となる。一方、画像形成後は、撥水性の高いポリウレタン樹脂が画像中に含まれることで、画像自体の撥水性が高くなる。そのため、画像上に水を一定時間滞留させたような場合でも、顔料が再分散しづらく、画像の滴下耐水性が良好となる。
【0018】
また、インクジェット方式で記録された画像や文字は、インク滴によって形成したドットの集合体である。インク滴は、インク滴によって形成する各ドット間が近接するように記録媒体に付与されるため、インク滴が記録媒体に接触後、インクが拡散することで、各ドットが重なる部分が発生してしまう。そして、画像や文字の縁部では、ドットが重なることで溢れたインクがセルロース繊維の網目に沿って非記録部に流れ出てしまう。そのような画像がフェザリングとして認識されるのである。つまり、フェザリングの発生を抑制するには、各ドットの重なる部分がより小さくなるようなインクを設計する必要がある。本発明のインクは、インク滴によって形成したドットの撥水性が高い。そのため、例えば、あるドットAに近接した位置にインク滴Bが付与されても、ドットAがインク滴Bを撥水することで、インク滴Bによって形成されるドットBは、ドットAとの重なりが小さくなるように記録される。画像や文字の縁部においても、同様にしてドット間の重なりが小さくなるように記録されるため、インクが非記録部に流れ出しにくく、結果として、耐フェザリング性が向上するものと考えられる。
【0019】
ただし、上記の効果は本発明のインクに使用する「酸基を有さない長鎖ポリオール、酸基を有する短鎖ジオール、シロキサン構造を有するポリオール及びポリイソシアネートに由来するユニット」を有するポリウレタン樹脂を用いた際に初めて得られるものである。つまり、特許文献2のように酸基を有する長鎖ポリオール、シロキサン構造を有するポリオール及びポリイソシアネートに由来するユニットを有するポリウレタン樹脂では得られない効果であることが分かった。ポリウレタン樹脂を構成するシロキサン構造ユニット以外の撥水性に寄与しないと考えられるユニットの違いにより、このような差が生じる理由は明らかではないが、本発明者らはポリウレタン樹脂に特有のミクロ相分離構造に由来するのではないかと考えている。本発明のインクに使用するポリウレタン樹脂においては、親水性に寄与する酸基がハードセグメントに存在し、撥水性に寄与するシロキサン構造がソフトセグメントに存在することで、親水性と撥水性という2つの反対の性質が機能分離して発現すると考えられる。これとは反対に、特許文献2のポリウレタン樹脂では、ソフトセグメントに酸基とシロキサン構造の両方を有するため、親水性に寄与する構造と撥水性に寄与する構造が近傍に存在することとなる。そのため、2つの反対の性質がうまく発現せず、インクの吐出安定性と画像の滴下耐水性及び耐フェザリング性を両立することができない。
【0020】
また、本発明のインクに使用するポリウレタン樹脂の酸価は40.0mgKOH/g以上80.0mgKOH/g以下とすることが必要である。上述の通り、酸価が40.0mgKOH/gより小さいと吐出安定性が得られない。一方、ポリウレタン樹脂の親水性を向上するために酸基を有する短鎖ジオールの割合を高めると、ポリウレタン樹脂中の酸基を有さないポリオール成分由来のユニット及びシロキサン構造を有するポリオールに由来するユニットの占める割合が相対的に減少する。このとき、ポリウレタン樹脂の酸価が80.0mgKOH/gより大きくなると、ポリウレタン樹脂の親水性が高くなり、画像の撥水性が弱くなるため、画像の滴下耐水性及び耐マーカー性と耐フェザリング性が十分に得られない。以上のメカニズムのように、各構成が相乗的に効果を及ぼし合うことによって、本発明の効果を達成することが可能となると推測される。
【0021】
[インクジェット用インク]
以下、本発明のインクジェット用インクを構成する各成分について、それぞれ説明する。
【0022】
<ポリウレタン樹脂>
本発明に用いられるポリウレタン樹脂は、酸基を有さない炭素数13以上250以下のポリオール、酸基を有する炭素数1以上7以下のジオール、シロキサン構造を有するポリオール及びポリイソシアネートに由来するユニットを有し、かつ、前記ポリウレタン樹脂の酸価が40.0mgKOH/g以上80.0mgKOH/g以下である。以下、本発明におけるポリウレタン樹脂を構成する各ユニットに関して詳細に述べる。
【0023】
(ポリイソシアネート)
本発明において「ポリイソシアネート」とは、2つ以上のイソシアネート基を持つ化合物を指す。具体的に、本発明で用いられるポリイソシアネートとしては、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートを挙げることができる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネートなどを挙げることができる。脂環族ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどを挙げることができる。芳香族ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、2,2−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4−ジベンジルジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネートなどを挙げることができる。芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。これらのポリイソシアネートは、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。本発明においては、上記ポリイソシアネートの中でも、特に、脂環族ポリイソシアネートを用いることが好ましい。更に、脂環族ポリイソシアネートの中でも、イソホロンジイソシアネートを用いることがより好ましい。
【0024】
(酸基を有さない炭素数13以上250以下のポリオール)
本発明に用いられる酸基を有さない炭素数13以上250以下のポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオール、その他の酸基を有さないポリオール(例えば、ポリヒドロキシポリアセタール、ポリヒドロキシポリアクリレート、ポリヒドロキシポリエステルアミド、ポリヒドロキシポリチオエーテルなど)が挙げられる。これらのポリオールは、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。本発明に用いられる酸基を有さないポリオールの炭素数は13以上250以下である。炭素数が13以上250以下であると、膜の柔軟性が適度となり、画像の耐擦過性及び耐マーカー性の向上効果が十分に得られる。前記酸基を有さないポリオールのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により得られるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、400以上4,000以下であることが好ましい。400未満であると、膜が剛直になり柔軟性が低くなるため、画像の耐擦過性及び耐マーカー性の向上効果が十分に得られない場合がある。また、4,000より高くなると、膜の柔軟性が高くなり過ぎてしまい、画像の耐擦過性及び耐マーカー性の向上効果が十分に得られない場合がある。また、本発明に用いられる酸基を有さない炭素数13以上250以下のポリオール1分子内に存在するヒドロキシ基の数は、2つ又は3つが好ましい。
【0025】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、アルキレンオキサイドとポリアルキレングリコールや2価乃至3価以上の多価アルコールとの付加重合物が挙げられる。前記アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、α−オレフィンオキサイドなどが挙げることができる。前記ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体などが挙げられる。前記2価アルコールとしては、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、4,4−ジヒドロキシフェニルプロパン、4,4−ジヒドロキシフェニルメタンなどが挙げられる。前記3価以上の多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,5−ヘキサントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。これらのポリエーテルポリオールは、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、酸成分とポリアルキレングリコールや2価乃至3価以上の多価アルコールとのエステルが挙げられる。ポリエステルポリオールを構成する酸成分として、芳香族カルボン酸、脂環族カルボン酸、脂肪族カルボン酸などが挙げられる。前記芳香族カルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルトフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸などが挙げられる。前記脂環族カルボン酸としては、前記芳香族カルボン酸の水素添加物などが挙げられる。前記脂肪族カルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、酒石酸、シュウ酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アルキルコハク酸、リノレイン酸、マレイン酸、フマール酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸などが挙げられる。また、これらの酸成分の無水物、アルキルエステル又はハライドなどの反応性誘導体などもポリエステルポリオールを構成する酸成分として用いることができる。更に、上記のポリエステルポリオールを構成する酸成分は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。上記の酸成分と反応するポリアルキレングリコールや2価乃至3価以上の多価アルコールとしては、上記のポリエーテルポリオールで例示したものが挙げられる。ポリエステルポリオールは、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。
【0027】
ポリカーボネートジオールとしては、1,6−ヘキサンジオールを基本骨格として有するものの他に、公知の方法で製造されるポリカーボネートジオールが使用できる。例えば、アルキレンカーボネート、ジアリールカーボネート、ジアルキルカーボネートなどのカーボネート成分又はホスゲンと、脂肪族ジオール成分とを反応させて得られるポリカーボネートジオールが挙げられる。これらのポリカーボネートジオールは、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。
【0028】
本発明においては、上記ポリオールの中でも、特に、ポリエーテルポリオールを用いることが好ましい。ポリエーテルポリオールを用いることによってポリウレタン樹脂の柔軟性が適度に発現するため、画像の耐擦過性及び耐マーカー性が更に向上する。ポリエーテルポリオールの中でも、特にポリプロピレングリコールを用いることがより好ましい。本発明者らの検討によって、ポリプロピレングリコールを用いるとポリウレタン樹脂の水溶性が向上し、インクの吐出安定性がより向上することが確認された。
【0029】
(酸基を有する炭素数1以上7以下のジオール)
本発明における「酸基を有する炭素数1以上7以下のジオール」とは、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基などの酸基を分子内に有する炭素数1以上7以下のジオールを指す。酸基を有するジオールの炭素数が8以上の場合は、得られるポリウレタン樹脂が、ソフトセグメントに酸基を有する構造になりやすく、強靭性と柔軟性のバランスが崩れ、耐擦過性や耐マーカー性が十分に得られない。本発明に用いられる酸基を有するジオールとしては、例えば、以下の一般式(1)及び(2)で表される化合物が挙げられる。
【0030】
【化1】


(一般式(1)中、Rは水素原子、メチル基又はエチル基であり、Rは炭素数1乃至3のアルキレン基であり、nは1乃至3であり、mは1乃至3である。)
【0031】
【化2】


(一般式(2)中、Rは炭素数1乃至4のアルキレン基であり、nは1乃至4であり、mは1乃至4である。)
【0032】
更に具体的には、一般式(1)で表される化合物としては、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸など、一般式(2)で表される化合物としては、N,N−ジ(2−ヒドロキシルエチル)グリシン、N,N−ジ(2−ヒドロキシルエチル)アラニンなどが挙げられる。特に、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、及びN,N−ジ(2−ヒドロキシルエチル)グリシンから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。尚、ポリウレタン樹脂の酸価は酸基を有する炭素数1以上7以下のジオールに由来するユニットがポリウレタン樹脂中に占める割合で調整することができる。
【0033】
(シロキサン構造を有するポリオール)
本発明において、「シロキサン構造を有する」とは、Si−O構造を有することを意味する。本発明に用いられるシロキサン構造を有するポリオールとしては、式(I)で表される繰り返し構造を有するポリシロキサンにヒドロキシ基が2つ結合された有機化合物が挙げられる。
【0034】
【化3】


(式(I)中、nは4以上60以下である。)
【0035】
nが4より小さいと、撥水性の発現が十分でなく滴下耐水性及び耐フェザリング性の向上効果が十分に得られない場合がある。nが60より大きいと、撥水性が高くなり過ぎて適度な親水性が得られず吐出安定性の向上効果が十分に得られない場合がある。
【0036】
本発明に用いられるシロキサン構造を有するポリオールとして、より具体的には以下の一般式(3)のようにポリシロキサンの主鎖の両末端にヒドロキシ基を有するもの、及び、一般式(4)で表されるポリシロキサンの主鎖の片末端にヒドロキシ基を有するものが挙げられる。
【0037】
【化4】


(一般式(3)中、nは4乃至60である。)
【0038】
【化5】


(一般式(4)中、Rは水素原子又は炭素数が1乃至120のアルキル基であり、nは4乃至60である。)
【0039】
また、一般式(3)及び(4)で表される化合物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により得られるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、1,000以上5,000以下が好ましい。上記一般式(3)で表されるシロキサン構造を有するポリオールの市販品としては、例えば、チッソ(株)製のサイラプレーンFM−4411、FM−4421、FM−4425や、信越化学工業(株)製のX−22−160AS、KF−6001、KF−6002、KF−6003などが挙げられる。上記一般式(4)で表されるシロキサン構造を有するポリオールの市販品としては、例えば、チッソ(株)製のサイラプレーンFM−DA11、FM−DA21、FM−DA26や、信越化学工業(株)製のX−22−176DX、X−22−176Fなどが挙げられる。
【0040】
本発明においては、ポリウレタン樹脂に占めるシロキサン構造を有するポリオールに由来するユニットの割合が、0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。0.5質量%未満の場合、滴下耐水性及び耐フェザリング性の向上効果が十分に得られない場合がある。また、5.0質量%より大きい場合、撥水性が強くなり吐出安定性が十分に得られない場合がある。
【0041】
また、ポリウレタン樹脂に占める酸基を有さない炭素数13以上250以下のポリオールに由来するユニットの割合(質量%)が、シロキサン構造を有するポリオールに由来するユニットの割合(質量%)に対して、質量比率で0.80倍以上20.00倍以下であることが好ましい。0.80倍未満の場合は、適度な親水性が得られず撥水性が強くなり吐出安定性が十分に得られない場合がある。20.00倍より大きい場合は、ポリウレタン樹脂の柔軟性が高くなりすぎて耐擦過性及び耐マーカー性が十分に得られない場合がある。尚、ポリウレタン樹脂に占める各ユニットの割合は、ポリウレタン樹脂の全質量を基準とする。
【0042】
(鎖延長剤)
鎖延長剤は、ウレタンプレポリマー中のポリイソシアネートユニットのうち、ウレタン結合を形成しなかった残存イソシアネート基と反応する化合物である。本発明のインクに使用するポリウレタン樹脂を合成する際に使用することができる鎖延長剤としては、トリメチロールメラミン及びその誘導体、ジメチロールウレア及びその誘導体、ジメチロールエチルアミン、ジエタノールメチルアミン、ジプロパノールエチルアミン、ジブタノールメチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、ヘキシレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、水素添加ジフェニルメタンジアミン、ヒドラジンなどの多価アミン化合物、ポリアミドポリアミン、ポリエチレンポリイミンなどが挙げられる。これらの鎖延長剤は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。本発明においてはより良好な吐出安定性を得るためにジアミン化合物から選ばれる鎖延長剤が好ましい。これは、ジアミン化合物による結合によって適度な分子量制御と親水性の付与がなされるためである。
【0043】
尚、本発明のインクに使用するポリウレタン樹脂は、上記の4種のユニットをそれぞれ有し、その他の要件も満たせば、本発明の効果を得られる範囲で異なるユニットを含んでいても良い。
【0044】
本発明のインクに用いるポリウレタン樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により得られるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、10,000以上60,000以下であることが好ましい。
【0045】
本発明においては、インク中のポリウレタン樹脂の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として2.0質量%未満であることが好ましい。より好ましくは、0.1質量%以上2.0質量%未満である。0.1質量%未満であると、画像の耐擦過性及び耐マーカー性の向上効果が小さい場合がある。また、2.0質量%以上の場合、インクの吐出安定性が十分に得られない場合がある。インクには、本発明の効果を損なわない限り、上記ポリウレタン樹脂以外の樹脂を更に含有させてもよい。また、ポリウレタン樹脂の含有量(質量%)が、顔料のインク全質量を基準とした含有量(質量%)に対して、質量比率で0.1倍以上1.0倍以下であることが好ましい。上記の質量比率で0.1倍未満の場合、画像の滴下耐水性及び耐フェザリング性の向上効果が十分でない場合がある。また、上記の質量比率で1.0倍より大きい場合、インクの吐出安定性の向上効果が十分でない場合がある。
【0046】
(ポリウレタン樹脂の合成方法及び解析方法)
本発明のインクに使用するポリウレタン樹脂の合成方法は、ワンショット法や多段法など、従来、一般的に用いられている方法をいずれも用いることができる。また、ポリウレタン樹脂の組成、分子量、酸価に関しては、従来公知の方法により解析を行うことができる。即ち、インクを遠心分離し、その沈降物と上澄み液を調べることで確認することができる。顔料は一般的な有機溶剤に不溶であるため、ポリウレタン樹脂を溶剤抽出によって分離することもできる。インクの状態でも各確認は行うことができるが、ポリウレタン樹脂を抽出しておくと、精度がより高まる。具体的な手法としては、インクを80,000rpmで遠心分離し、その上澄み液を塩酸などで酸析する。そして、乾燥させた酸析物を熱分解ガスクロマトグラフィ/質量分析計(熱分解GC/MS)を用いて分析することで、ポリウレタン樹脂を構成している化合物の種類を確認できる。また、乾燥させた酸析物をクロロホルムなどに溶解し核磁気共鳴法(NMR)により測定することで酸基を有さないポリオール、酸基を有するジオール、シロキサン構造を有するポリオールの種類、分子量、これらに由来するユニットの割合を定量することができる。更に、乾燥させた酸析物をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、水酸化カリウムエタノール滴定液を用いた電位差滴定により、酸価を測定することができる。また、上澄み液をICP発光分光分析によってSi濃度を測定することでポリウレタン樹脂中のシロキサン構造を有するポリオールに由来するユニットの割合を測定できる。また、ポリウレタン樹脂の平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により得られる。本発明におけるGPCの測定条件は以下の通りである。
・装置:Alliance GPC 2695(Waters製)
・カラム:Shodex KF−806Mの4連カラム(昭和電工製)
・移動相:THF(特級)
・流速:1.0mL/min
・オーブン温度:40.0℃
・試料溶液の注入量:0.1mL
・検出器:RI(屈折率)
・ポリスチレン標準試料:PS−1及びPS−2(Polymer Laboratories製)
(分子量:7,500,000、2,560,000、841,700、377,400、320,000、210,500、148,000、96,000、59,500、50,400、28,500、20,650、10,850、5,460、2,930、1,300、580の17種)。
【0047】
(顔料)
本発明のインクに用いる顔料としては、分散剤として樹脂を用いる樹脂分散タイプの顔料(高分子分散剤を使用した樹脂分散顔料、顔料粒子の表面を樹脂で被覆したマイクロカプセル顔料、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基が化学的に結合したポリマー結合型自己分散顔料)や顔料粒子の表面に親水性基を結合した自己分散タイプの顔料(自己分散顔料)が挙げられる。無論、分散方法の異なる顔料を併用することも可能である。
【0048】
本発明のインクに使用することのできる顔料としては、カーボンブラックなどの無機顔料及び有機顔料が挙げられ、インクジェット用インクに使用可能なものとして公知の顔料をいずれも使用することができる。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、更には、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。含有量が1.0質量%未満であると、画像濃度が十分に得られない場合がある。含有量が15.0質量%より大きいと、耐固着性などのインクジェット特性が十分に得られない場合がある。
【0049】
<水性媒体>
本発明のインクには、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、従来、インクジェット用のインクに一般的に用いられているものをいずれも用いることができる。例えば、炭素数1乃至4のアルキルアルコール類、アミド類、ケトン類、ケトアルコール類、エーテル類、ポリアルキレングリコール類、グリコール類、アルキレン基の炭素原子数が2乃至6のアルキレングリコール類、多価アルコール類、アルキルエーテルアセテート類、多価アルコールのアルキルエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などが挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。尚、25℃におけるインクの粘度は5cps以下であることが好ましく、例えば水性媒体の構成や含有量によって調整することができる。25℃におけるインクの粘度が5cpsより大きいと、インクの吐出安定性の向上効果が十分に得られない場合がある。
【0050】
更に、本発明のインクにおいて、水溶性有機溶剤として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により得られるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が400以上2,000以下のポリエチレングリコールを含むことが好ましい。これは、数平均分子量400以上2,000以下のポリエチレングリコールは、ポリウレタン樹脂構造中の酸基を有さないポリオールに由来するユニットとの親和性が高いからである。そのため、インク中に数平均分子量400以上2,000以下のポリエチレングリコールを含有することで、得られる画像を均一に形成することができ、画像の滴下耐水性及び耐フェザリング性がより向上する。具体的には、ポリエチレングリコール1000(数平均分子量1,000)が挙げられる。
【0051】
<その他の添加剤>
本発明のインクは、上記の成分以外にも必要に応じて、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類や、尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体など、常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。更に、本発明のインクは必要に応じて、上記ポリウレタン樹脂以外の樹脂、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及びその他の樹脂などの種々の添加剤を含有してもよい。ポリウレタン樹脂以外の樹脂を更に含有するインクとする場合、インク中における全ての樹脂の含有量の合計がインク全質量を基準として0.01質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0052】
[インクカートリッジ]
本発明のインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部を備えてなり、前記インク収容部に、上記で説明した本発明のインクが収容されてなるものである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、液体のインクを収容するインク収容室、及び負圧によりその内部にインクを保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室で構成されるものが挙げられる。又は、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容量の全量を負圧発生部材により保持する構成のインク収容部であるインクカートリッジであってもよい。更には、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0053】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法は、記録信号に応じて、インクジェット方式により記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させて記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法であり、上記で説明した本発明のインクを使用するものである。このとき、本発明の構成を満たす複数のインクを併用して画像を形成することが好ましいが、本発明の構成を満たすインクと本発明の構成を満たさないインクとを併用して画像を形成してもよい。これは、高い撥水性と高い堅牢性を有する本発明のインク中のポリウレタン樹脂が少しでも画像中に存在すれば、本発明の効果が達成されるためである。本発明においては特に、インクに熱エネルギーを作用させて記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させる方式のインクジェット記録方法が好ましい。尚、本発明における「記録」とは、普通紙やインク受容層を有する記録媒体に対して本発明のインクを用いて記録する態様、ガラス、プラスチック、フィルムなどの非吸液性の基材に対して本発明のインクを用いてプリントを行う態様を含む。本発明においては、普通紙に用いることがより好ましい。尚、本発明において普通紙とはプリンタや複写機等で大量に使用されている市販の上、中質紙、PPC用紙等のコピー用紙や、ボンド紙等のことを言う。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、以下の実施例の記載において、「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0055】
<ポリウレタン樹脂分散体の調製>
(ポリウレタン樹脂分散体PU−1〜PU−36の調製)
酸基を有さないポリオール(B部)とシロキサン構造を有するポリオール(C部)をメチルエチルケトン中で十分撹拌溶解し、次いでポリイソシアネート(A部)、酸基を有するジオール(D部)を加え、75℃で1時間反応させウレタンプレポリマー溶液を得た。次いで得られたウレタンプレポリマー溶液を60℃まで冷却して、水酸化カリウム水溶液を加え、酸基を中和した後、40℃まで冷却してイオン交換水を添加し、ホモミキサーで高速撹拌することで乳化した。乳化後、鎖延長剤(E部)を加え、鎖延長反応を30℃にて12時間行った。FT−IRによりイソシアネート基の存在が確認されなくなったところで、この樹脂溶液を加熱減圧下、メチルエチルケトンを留去し、ポリウレタン樹脂が水中に分散されたポリウレタン樹脂分散体PU−1〜PU−36を得た。得られたポリウレタン樹脂分散体のうち、ポリウレタン樹脂の含有量は20.0質量%であった。得られたポリウレタン樹脂の酸価は、電位差滴定装置AT510(京都電子製)を用いて、上記の水酸化カリウムメタノール滴定液を用いた電位差滴定により測定した。また、ポリウレタン樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により得られるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、下記のようにして測定した。測定対象のポリウレタン樹脂の0.1質量%THF溶液を調製し、ポアサイズ0.45μmの耐溶剤性メンブランフィルター(商品名:TITAN2 Syringe Filter、PTFE、0.45μm;SUN−SRi製)でろ過したものを試料溶液とした。この試料溶液を用いて、下記の条件で重量平均分子量の測定を行った。
・装置:Alliance GPC 2695(Waters製)
・カラム:Shodex KF−806Mの4連カラム(昭和電工製)
・移動相:THF(特級)
・流速:1.0mL/min
・オーブン温度:40.0℃
・試料溶液の注入量:0.1mL
・検出器:RI(屈折率)
・ポリスチレン標準試料:PS−1及びPS−2(Polymer Laboratories製)
(分子量:7,500,000、2,560,000、841,700、377,400、320,000、210,500、148,000、96,000、59,500、50,400、28,500、20,650、10,850、5,460、2,930、1,300、580の17種)。
【0056】
更に、ポリウレタン樹脂鎖中のシロキサン構造を有するポリオール由来成分の含有量は上述の通りNMR法により測定した。各ポリウレタン樹脂分散体の調製条件及び特性を表2に示す。尚、表2には、酸基を有さない炭素数13以上250以下のポリオールの数平均分子量(Mn)を示した。この数平均分子量(Mn)の測定条件は、上述の重量平均分子量(Mw)と同様である。
【0057】
【表2】

【0058】
(ポリウレタン樹脂分散体PU−37の調製)
シロキサン構造を有するポリオール(サイラプレーンFM−4411(数平均分子量は1,000);チッソ(株)製)(1.50部)をメチルエチルケトン中で十分撹拌溶解し、次いでイソホロンジイソシアネート(53.8部)、カルボン酸変性ポリカプロラクトンジオール(プラクセル205BA(数平均分子量は500);ダイセル化学工業(株)製)(44.7部)を加え、75℃で1時間反応させウレタンプレポリマー溶液を得た。次いで得られたウレタンプレポリマー溶液を60℃まで冷却して、水酸化カリウム水溶液を加え、酸基を中和した後、40℃まで冷却してイオン交換水を添加し、ホモミキサーで高速撹拌することで乳化した。乳化後、エチレンジアミン(1.43部)を加え、鎖延長反応を30℃にて12時間行った。FT−IRによりイソシアネート基の存在が確認されなくなったところで、この樹脂溶液を加熱減圧下、メチルエチルケトンを留去し、ポリウレタン樹脂が水中に分散されたポリウレタン樹脂分散体PU−37(ポリウレタン樹脂の含有量は20.0質量%)を得た。得られたポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、30,000で、酸価は50.0mgKOH/gであった。ポリウレタン樹脂に占めるシロキサン構造を有するポリオールに由来するユニットの割合(質量%)は1.5質量%であった。
【0059】
(ポリウレタン樹脂分散体PU−38の調製)
シロキサン構造を有するポリオール(サイラプレーンFM−4411(数平均分子量は1,000);チッソ(株)製)(1.50部)、1,4−ブタンジオール(23.0部)をメチルエチルケトン中で十分撹拌溶解し、次いでイソホロンジイソシアネート(37.0部)、数平均分子量500のカルボン酸変性ポリカプロラクトンジオール(35.5部)を加え、75℃で1時間反応させウレタンプレポリマー溶液を得た。次いで得られたウレタンプレポリマー溶液を60℃まで冷却して、水酸化カリウム水溶液を加え、酸基を中和した後、40℃まで冷却してイオン交換水を添加し、ホモミキサーで高速撹拌することで乳化した。乳化後、エチレンジアミン(1.30部)を加え、鎖延長反応を30℃にて12時間行った。FT−IRによりイソシアネート基の存在が確認されなくなったところで、この樹脂溶液を加熱減圧下、メチルエチルケトンを留去し、ポリウレタン樹脂が水中に分散されたポリウレタン樹脂分散体PU−38(ポリウレタン樹脂の含有量は20.0質量%)を得た。得られたポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、11,600で、酸価は12.6mgKOH/gであった。ポリウレタン樹脂に占めるシロキサン構造を有するポリオールに由来するユニットの割合(質量%)は1.5質量%であった。
【0060】
(ポリウレタン樹脂分散体PU−39の調製)
温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管を設置した4つ口フラスコに、カルボン酸変性ポリカプロラクトンジオール(プラクセル205BA;ダイセル化学工業(株)製)98.0g、シロキサン構造を有するポリオール(サイラプレーンFM−4411(数平均分子量は1,000);チッソ(株)製)22.0g、メチルエチルケトン120.0gを投入した。これらを30分間撹拌後、イソホロンジイソシアネート60.0gを4つ口フラスコに投入し、室温で1時間窒素雰囲気下で撹拌後、70℃に昇温し4時間反応を行った。反応後、室温まで冷却し、濃度が60質量%であるウレタンプレポリマー溶液を得た。17.6gの50質量%KOH水溶液および350gのイオン交換水を四つ口フラスコ中に投入し、250gのウレタンプレポリマー溶液とともに室温で30分間撹拌した。窒素雰囲気下で80℃に昇温後、80℃で2時間鎖延長反応を行った。反応後、ロータリーエバポレーターとアスピレーターを用いてメチルエチルケトンと一部の水を除去した後、回収量が429gになるようにイオン交換水を添加し、ポリウレタン樹脂の含有量が35質量%のポリウレタン樹脂分散体PU−39を得た。得られたポリウレタン樹脂分散体の酸価は74.0mgKOH/g、重量平均分子量は18,000であった。
【0061】
(ポリウレタン樹脂分散体PU−40の調製)
ポリマーは一段階付加反応を用いて合成した。1−メチル−2−ピロリジノン(141g)、アセトン(165g)及びジメチロールプロピオン酸(30.6g)を反応器に加え、混合物を65℃に加熱し、すべてのジメチロールプロピオン酸が溶解するまで保持した。そして、ポリエステルジオール(アジピン酸/ヘキサンジオール/イソフタル酸)(559.4g)を加え、均質な混合物が形成されるまで成分を混合した。イソホロンジイソシアネート(210.1g)を添加漏斗から15分にわたって加え、1−メチル−2−ピロリジノン(42.9g)のリンスがこれに続いた。温度を75℃に昇温させ、イソシアネート基とヒドロキシル基との間の反応が完了するまで保持した。これを反応混合物を30℃に冷却し、50%1−ジメチルアミノ−2−プロパノール(42.5g)水溶液(1258g)を加え、ドワノール(Dowanol)DPM(372g)中の低分子量スチレン/アリルアルコールポリマー(リオンデルSAA101)(199.9g)を添加した。さらに、DI水を室温で15分にわたって加えることによって反転を行った。水を添加後直ちに、鎖延長のために6.25%エチレンジアミン水溶液(314g)を5分にわたって加えた。最後に、アセトンを減圧蒸留した。得られたポリウレタン樹脂は、酸価が21.4mgKOH/g、ポリウレタン樹脂の含有量が32質量%及び平均粒径が200〜400nmであった。
【0062】
<顔料分散体の調製>
(顔料分散体Aの調製)
自己分散顔料として市販されているCab−O−Jet400(Cabot製)を水で希釈し、十分撹拌して顔料分散体Aを得た。得られた顔料分散体中における顔料の含有量は10.0質量%、pHは9.0であり、顔料の平均粒子径は110nmであった。
【0063】
(顔料分散体Bの調製)
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で4−アミノ−1,2−ベンゼンジカルボン酸1.5gを加えた。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れることで溶液を常に10℃以下に保った状態にし、これに5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かした溶液を加えた。この溶液を更に15分間撹拌後、比表面積が220m/g、DBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。その後、更に15分間撹拌し、得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗した。これを110℃のオーブンで乾燥させ、自己分散カーボンブラックを調製した。更に、得られた自己分散カーボンブラックに水を加えて顔料の含有量が10.0質量%となるように分散させ、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−C−(COONa)基が結合されてなる自己分散カーボンブラックが水中に分散された状態の顔料分散体を得た。その後、イオン交換法を用いて顔料分散体のナトリウムイオンをカリウムイオンに置換することによって、カーボンブラックの表面に−C−(COOK)基を結合した自己分散カーボンブラックが分散された顔料分散体Bを得た。得られた顔料分散体中における顔料の含有量は10.0%、pHは8.0であり、顔料の平均粒子径は80nmであった。
【0064】
(顔料分散体Cの調製)
比表面積が220m/g、DBP吸油量が112mL/100gであるカーボンブラック500g、アミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン45g、蒸留水900gを反応器に入れ、温度55℃、回転数300rpmで20分間撹拌した。その後、25%の亜硝酸ナトリウム40gを15分間滴下し、更に蒸留水50gを加え、60℃で2時間反応させた。得られた反応物を蒸留水で希釈しながら取り出し、固形分含有量が15.0質量%となるように調製した。更に、遠心分離処理及び精製処理を行い、不純物を除去して、分散液(1)を得た。分散液(1)中のカーボンブラックは、表面にアミノフェニル(2−スルホエチル)スルホンの官能基が結合した状態であった。この分散液(1)中における、カーボンブラックに結合した官能基のモル数を以下のようにして求めた。分散液(1)中のナトリウムイオンを、プローブ式ナトリウム電極で測定し、得られた値をカーボンブラック粉末当りに換算して、カーボンブラックに結合した官能基のモル数を求めた。次に、分散液(1)をペンタエチレンヘキサミン溶液中に滴下した。この際、ペンタエチレンヘキサミン溶液を強力に撹拌しながら室温に保ち、1時間かけて分散液(1)を滴下した。このとき、ペンタエチレンヘキサミンの含有量は、先に測定したナトリウムイオンのモル数の1〜10倍とし、溶液の量は分散液(1)と同量とした。更に、この混合物を18乃至48時間撹拌した後、精製処理を行い、固形分含有量が10.0質量%の分散液(2)を得た。分散液(2)中のカーボンブラックは、表面にペンタエチレンヘキサミンが結合した状態であった。
【0065】
次に、重量平均分子量が8,000、酸価が140.0mgKOH/g、多分散度Mw/Mn(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)が1.5であるスチレン−アクリル酸樹脂を190g秤量した。これに1,800gの蒸留水を加え、樹脂を中和するのに必要な水酸化カリウムを加えて、撹拌して樹脂を溶解することで、スチレン−アクリル酸樹脂水溶液を調製した。次に、分散液(2)500gを、上記で得られたスチレン−アクリル酸樹脂水溶液中に撹拌下で滴下した。この分散液(2)及びスチレン−アクリル酸樹脂水溶液の混合物を蒸発皿に移し、150℃で15時間加熱して、乾燥させた後、乾燥物を室温に冷却した。
【0066】
次いで、水酸化カリウムを用いてpHを9.0に調整した蒸留水に上記で得られた乾燥物を加えて、分散機を用いて分散し、更に撹拌下で1.0規定の水酸化カリウム水溶液を添加して、液体のpHを10乃至11に調整した。その後、脱塩、精製処理を行って不純物及び粗大粒子を除去した。上記の方法により、樹脂結合型自己分散カーボンブラックが水中に分散された状態の顔料分散体Cを得た。尚、上記で調製した顔料分散体Cの顔料の含有量は10.0質量%、pHは10.1であり、顔料の平均粒子径は130nmであった。
【0067】
(顔料分散体Dの調製)
酸価が200.0mgKOH/gで重量平均分子量が10,000のスチレン−アクリル酸共重合体を10%水酸化カリウム水溶液で中和した。その後、この樹脂20部、比表面積が210m/gでDBP吸油量が74mL/100gであるカーボンブラック10部、及び水70部を混合した。この混合物を、サンドグラインダーを用いて1時間分散した後、遠心分離処理を行って粗大粒子を除去し、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過を行った。上記の方法により、樹脂分散カーボンブラックが水中に分散された状態の顔料分散体Dを得た。尚、上記で調製した顔料分散体Dの顔料の含有量は10.0質量%、pHは10.0であり、顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0068】
(顔料分散体Eの調製)
n−ブチルメタクリレート175部、n−ブチルアクリレート10.5部、β−ヒドロキシエチルメタクリレート37.5部、メタクリル酸26.8部及びtert−ブチルパーオキシオクトエート20部の組成の混合液を調製した。メチルエチルケトン250部を窒素雰囲気下で撹拌しながら75℃に加熱し、これに上記で得られた混合液を2時間かけて滴下した。更に、溶液の温度を75℃に維持して15時間反応を行い、樹脂溶液を調製した。得られた樹脂溶液11.6部、ジエタノールアミン1.6部及びカーボンブラック(米国Cabot製Black Pearls 880)30部に水を加えて総量を150部とした。この混合液に平均粒径0.5mmのジルコニアビーズ500gを加えて、ペイントシェイカーで4時間混練した。その後、ジルコニアビーズを濾別して樹脂とカーボンブラックを含有する分散液を得た。得られた分散液に、更に純水を加えて2倍に希釈した。更に、撹拌下で1規定の塩酸を加えていき、カーボンブラック粒子に樹脂が被覆してマイクロカプセル化するまで塩酸を滴下した。尚、この時の液体のpHは3乃至5であった。次いで、吸引ろ過を行い、塩を水洗して含水ケーキを得た。液体のpHが8.5乃至9.5となるように10%ジエタノールアミン水溶液を加えた。更にこの液体を1時間撹拌した後に、水を加え、カーボンブラック粒子がマイクロカプセル化した状態のカーボンブラック分散液Eを得た。尚、上記で調製した顔料分散体Eの顔料の含有量は10質量%、pHは9.0であり、顔料の平均粒子径は102nmであった。
【0069】
(顔料分散体F)
上記顔料分散体DにおいてカーボンブラックをC.I.ピグメントブルー15:3に変えた以外は同様にして樹脂分散型マゼンタ顔料が水中に分散された状態の顔料分散体Fを得た。尚、上記で調製した顔料分散体Fの顔料の含有量は10質量%、pHは9.5であり、顔料の平均粒子径は95nmであった。
【0070】
(顔料分散体G)
上記顔料分散体DにおいてカーボンブラックをC.I.ピグメントレッド122に変えた以外は同様にして樹脂分散型マゼンタ顔料が水中に分散された状態の顔料分散体Gを得た。尚、上記で調製した顔料分散体Gの顔料の含有量は10質量%、pHは10.0であり、顔料の平均粒子径は100nmであった。
【0071】
<インクの調製>
(インク1)
上記で得られた顔料分散体A及びポリウレタン樹脂分散体PU−1を下記各成分と混合し、十分撹拌して分散した後、ポアサイズ1.2μmのメンブレンフィルター(HDCIIフィルター;ポール製)にて加圧ろ過を行い、インク1を調製した。
・顔料分散体A(顔料の含有量は10.0質量%) 30.0部
・ポリウレタン樹脂分散体PU−1(樹脂の含有量は20.0質量%) 4.5部
・グリセリン 9.0部
・ジエチレングリコール 5.0部
・ポリエチレングリコール(数平均分子量1,000)(PEG1000) 5.0部
・アセチレノールEH(界面活性剤:川研ファインケミカル製) 0.1部
・イオン交換水 46.4部
【0072】
(インク2〜40)
ポリウレタン樹脂分散体PU−1をPU−2〜40とした以外はインク1と同様にしてインク2〜40を得た。
【0073】
(インク41〜46)
顔料分散体Aを顔料分散体B〜Gとした以外はインク1と同様にしてインク41〜46を得た。
【0074】
(インク47〜51)
ポリウレタン樹脂の含有量(質量%)と前記顔料のインク全質量を基準とした含有量(質量%)に対する比(ポリウレタン樹脂の含有量(質量%)/顔料の含有量(質量%))が表3の値となるように調製した以外はインク1と同様にしてインク47〜51を得た。
【0075】
(インク52、53)
ポリウレタン樹脂分散体PU−1を0部として、イオン交換水を50.9部とした以外はインク1、43と同様にしてインク52、53を得た。
(インク54)
インク組成中の水溶性有機溶剤をPEG1000からトリエチレングリコール(TEG)とした以外はインク1と同様にしてインク54を得た。
【0076】
<評価>
本発明においては下記の各評価項目の評価基準において、AA〜Bが好ましいレベルとし、C以下は許容できないレベルとした。尚、下記の各評価は、インクジェット記録装置PIXUS iP3100(キヤノン製)を用いて行った。記録条件は、温度:23℃、相対湿度:55%、1滴あたりの吐出量:28ng±10%以内とした。また、上記インクジェット記録装置では、解像度600dpi×600dpiで1/600dpi×1/600dpiの単位領域に約28ngのインクを1滴付与する条件を、記録デューティが100%であると定義される。
【0077】
(1)インクの吐出安定性
上記で得られた各インクをインクカートリッジに充填し、インクジェット記録装置PIXUS iP3100(キヤノン製)に装着した。そして、A4サイズのPPC用紙GF−500(キヤノン製)に対して、19cm×26cmのベタ画像(記録デューティ100%の画像)を、10枚印刷した。このときの5枚目及び10枚目のベタ画像の画像を目視で観察することにより、インクの吐出安定性を評価した。インクの吐出安定性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表3に示す。
【0078】
AA:5枚目においては正常に記録されていた。10枚目において、白スジやカスレがあるが、許容できるレベルであった
A:5枚目においては、僅かに白スジやカスレがあるが、ほとんど気にならないレベルであった。10枚目において、白スジやカスレがあるが、許容できるレベルであった
B:5枚目及び10枚目において、僅かに白スジやカスレがあるが、許容できるレベルであった
C:5枚目及び10枚目において、白スジやカスレが見られた。
D:吐出が不安定であり、正常な画像が記録できなかった。
【0079】
(2)滴下耐水性
上記で得られた各インクをインクカートリッジに充填し、インクジェット記録装置PIXUS iP3100(キヤノン製)に装着した。そして、a)A4サイズのPPC用紙GF−500(キヤノン製)、b)A4サイズのゼロックスペーパー4200(ゼロックス製)、及びc)A4サイズの高品位専用紙HR−101(キヤノン製)の3種類の記録媒体に対して、19cm×26cmのベタ画像(記録デューティ100%の画像)を印刷した。得られた各ベタ画像を1時間放置した後、ベタ画像に1mLのイオン交換水を滴下し、更に60秒後にシルボン紙を用いてイオン交換水を吸い取った。その後、ベタ画像に残存しているインクの状態を目視で確認して、画像の滴下耐水性を評価した。画像の滴下耐水性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表3に示した。
【0080】
AA:3種の記録媒体において、インクが溶出しなかった、又は、僅かにインクが溶出していたが水滴跡はほとんど気にならないレベルであった
A:2種の記録媒体において、インクが溶出しなかった、又は、僅かにインクが溶出していたが水滴跡はほとんど気にならないレベルであった。更に、1種の記録媒体において、インクが溶出しており、水滴跡が僅かにわかった
B:1種の記録媒体において、インクが溶出しなかった、又は、僅かにインクが溶出していたが水滴跡はほとんど気にならないレベルであった。更に、2種の記録媒体において、インクが溶出しており、水滴跡が僅かにわかった
C:3種の記録媒体において、インクが溶出しており、2種の記録媒体において、水滴跡が僅かにわかり、更に、1種の紙において、インクが溶け出して記録媒体の白地部分の汚れが目立っていた
D:3種の記録媒体において、インクが溶出しており、2種以上の記録媒体において、インクが溶け出して記録媒体の白地部分の汚れが目立っていた。
【0081】
(3)耐フェザリング性
上記で得られた各インクをインクカートリッジに充填し、インクジェット記録装置PIXUS iP3100(キヤノン製)に装着した。そして、a)A4サイズのPPC用紙GF−500(キヤノン製)、b)A4サイズのゼロックスペーパー4200(ゼロックス製)、及びc)A4サイズの高品位専用紙HR−101(キヤノン製)の3種類の記録媒体に対して、「画像」の文字(6ポイント、ボールド)を印刷した。耐フェザリング性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表3に示した。
【0082】
AA:3種の記録媒体においてフェザリングが発生していなかった
A:2種の記録媒体において、フェザリングが発生しておらず、1種の記録媒体において、僅かに滲みが発生した
B:1種の記録媒体において、フェザリングが発生しておらず、2種の記録媒体において、僅かに滲みが発生した
C:2種の記録媒体において、僅かに滲みが発生し、1種の記録媒体にフェザリングが発生した
D:2種以上の記録媒体において、フェザリングが発生した。
【0083】
(4)耐マーカー性
上記で得られた各インクをインクカートリッジに充填し、インクジェット記録装置PIXUS iP3100(キヤノン製)に装着した。そして、PPC用紙GF−500(キヤノン製)に対して、太さ1/10インチの縦罫線を記録した。得られた画像上の縦罫線部に黄色ラインマーカー・OPTEX2(ゼブラ製)を用いてマーキングし、その後すぐに画像上の白地部にマーキングし、マーカーのペン先の汚染及び白地部のマーキングの汚れを確認した。尚、上記評価は記録後5分後、及び1日後にそれぞれ行った。耐マーカー性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表3に示す。
【0084】
A:5分後において、マーカーのペン先に少し着色の汚染があるが、白地部へマーキングしても汚れがほとんど見られなかった。1日後においてはペン先に着色の汚染がなく、白地部へマーキングしても汚れが発生しなかった
B:5分後及び1日後において、マーカーのペン先に少し着色の汚染があるが、白地部へマーキングしても汚れがほとんど見られなかった
C:5分後において、マーカーのペン先に着色の汚染があり、白地部へマーキングすると汚れが見られたが、1日後においてはペン先に着色の汚染がなく、白地部へマーキングしても汚れが発生しなかった
D:5分後及び1日後において、マーカーのペン先に着色の汚染があり、白地部へマーキングすると汚れが見られた。
【0085】
(5)耐擦過性
上記で得られた各インクをインクカートリッジに充填し、インクジェット記録装置PIXUS iP3100(キヤノン製)に装着した。そして、PPC用紙GF−500(キヤノン製)に対して、1インチ×0.5インチのブラックのベタ画像(記録デューティ100%の画像)を印刷した。得られたベタ画像の上に、シルボン紙及び面圧40g/cmの分銅を置き、ベタ画像とシルボン紙を擦り合わせた。その後、シルボン紙及び分銅を取り除き、ベタ画像の汚れ具合やシルボン紙の白地部への転写を目視により観察した。尚、上記評価は記録後10分後、及び1日後に別々のベタ画像を用いて行った。画像の耐擦過性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表3に示す。
【0086】
A:10分後において、白地部の汚れが若干見られたがほとんど気にならないレベルであった。更に、1日後において白地部の汚れが見られなかった
B:10分後及び1日後において、白地部の汚れが若干見られたがほとんど気にならないレベルであった
C:10分後において、白地部の汚れが見られた。更に、1日後において、白地部の汚れが若干見られたがほとんど気にならないレベルであった
D:10分後及び1日後において、白地部の汚れが見られた。
【0087】
【表3】

【0088】
(実施例41、42、比較例15)
実施例41としてインク1及びインク45、実施例42としてインク1及びインク53、比較例15としてインク52及びインク53をそれぞれインクカートリッジに充填し、インクジェット記録装置PIXUS iP3100(キヤノン製)に装着した。そして、2つのインクのそれぞれの記録デューティが50%で、2つのインクを合計した記録デューティが100%となるように、ベタ画像を印刷した。尚、2次色の画像を記録する際には、各記録デューティにおけるインクの付与量の質量比率は、それぞれのインクを1:1とし、同一の記録パスで同じ位置に各インクが付与されるように設定した。そして、得られたベタ画像について、上記(2)画像の滴下耐水性及び(3)耐フェザリング性(4)画像の耐マーカー性(5)画像の耐擦過性の評価方法・基準と同様に評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0089】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料及びポリウレタン樹脂を含有するインクジェット用インクであって、
前記ポリウレタン樹脂が、酸基を有さない炭素数13以上250以下のポリオール、酸基を有する炭素数1以上7以下のジオール、シロキサン構造を有するポリオール及びポリイソシアネートのそれぞれに由来するユニットを有し、かつ、その酸価が40.0mgKOH/g以上80.0mgKOH/g以下であることを特徴とするインクジェット用インク。
【請求項2】
前記酸基を有さない炭素数13以上250以下のポリオールの数平均分子量が、400以上4,000以下の範囲である請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂に占める、シロキサン構造を有するポリオールに由来するユニットの割合(質量%)が、0.5質量%以上5.0質量%以下である請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂に占める、前記酸基を有さない炭素数13以上250以下のポリオールに由来するユニットの割合(質量%)が、前記シロキサン構造を有するポリオールに由来するユニットの割合(質量%)に対して、質量比率で0.80倍以上20.00倍以下である請求項1乃至3の何れか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項5】
前記酸基を有する炭素数1以上7以下のジオールが、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至4の何れか1項に記載のインクジェット用インク。
【化1】


(一般式(1)中、Rは水素原子、メチル基又はエチル基であり、Rは炭素数1乃至3のアルキレン基であり、nは1乃至3であり、mは1乃至3である。)
【化2】


(一般式(2)中、Rは炭素数1乃至4のアルキレン基であり、nは1乃至4であり、mは1乃至4である。)
【請求項6】
前記酸基を有する炭素数1以上7以下のジオールが、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、及びN,N−ジ(2−ヒドロキシルエチル)グリシンから選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至5の何れか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項7】
前記酸基を有さない炭素数13以上250以下のポリオールが、ポリエーテルポリオールである請求項1乃至6の何れか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項8】
前記ポリエーテルポリオールが、ポリプロピレングリコールである請求項7に記載のインクジェット用インク。
【請求項9】
前記シロキサン構造を有するポリオールが、式(I)で表される繰り返し構造を有するポリシロキサンにヒドロキシ基が2つ結合された有機化合物である請求項1乃至8の何れか1項に記載のインクジェット用インク。
【化3】


(式(I)中、nは4以上60以下である。)
【請求項10】
更に、数平均分子量が400以上2,000以下のポリエチレングリコールを含有する請求項1乃至9の何れか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項11】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に記録を行う工程を有するインクジェット記録方法であって、前記インクが、請求項1乃至10の何れか1項に記載のインクジェット用インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項12】
インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジであって、前記インク収容部に収容されたインクが、請求項1乃至10の何れか1項に記載のインクジェット用インクであることを特徴とするインクカートリッジ。

【公開番号】特開2012−31385(P2012−31385A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94157(P2011−94157)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】