説明

インクジェット用インクとそれを用いたインクジェット記録方法及びインクジェット記録物

【課題】 耐候性及び光学濃度が向上したインクジェット用ブラックインク及びそれを用いたインクジェット記録方法、インクジェット記録物を提供すること。
【解決手段】 支持体上にインクを受容するための多孔体を備えた表面pHが3.0以上5.0以下の記録媒体上に記録するインクジェット用ブラックインクにおいて、該インクが少なくとも、カルボキシル基を有する染料及びヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料を有し、pHが上記記録媒体よりも高いことを特徴とするインクジェット用ブラックインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インク及びこれを用いるインクジェット記録方法及びインクジェット記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インクの微小液滴を種々の作動原理により飛翔させて、紙などの記録媒体に付着させ、画像、文字などを記録するものであり、その特徴は、高速低騒音、多色化が容易であり、記録パターンの融通性が大きい、又、現像、定着が不要である為、近年、各種画像の記録装置として情報機器をはじめ各種の用途において急速に普及している。更に多色インクジェット方式により形成される画像は、製版方式による多色印刷や、カラー写真方式による印画と比較して遜色のない記録を得ることも可能であり、作成部数が少ない場合には通常の多色印刷や印画によるよりも安価であることから、フルカラー画像記録分野にまで広く応用されつつある。
【0003】
又近年、インクジェット用の記録媒体として、銀塩写真に匹敵或いはそれを凌ぐ画質を得るためにアルミナやシリカのような多孔体をインク受容材料に使用した記録媒体が使用されている。
【0004】
特にアルミナ水和物を用いた記録媒体は、アルミナ水和物が正電荷を持っているため、アニオン性のインク染料を色材として用いた場合、定着が良く、発色の良い画像が得られ、特にフルカラー画像における画質及び光沢の点で従来の記録媒体に比べ好ましいなどの長所を有している。
【0005】
インクジェット記録方法で用いるインクには、インクジェットに用いる際の信頼性のほかにも、記録物が十分な光学濃度(OD)を与えること、乾燥性がよいこと、記録画像ににじみのないこと、水、アルコールなどと接触しても記録画像の流れ出しのないこと、記録画像の耐候性が良好であること、などが求められる。中でも記録画像の耐候性が良好であることは非常に強く要求されている。耐候性とはすなわち、太陽光や各種照明光などによる変腿色を起こさないこと(耐光性)や、大気中に微量に含まれる酸化性ガス(オゾン、NOx、SOx等)に対して変腿色を起こさない(耐ガス性)といった画像堅牢性である。
【0006】
この画像堅牢性は、従来は主として太陽光や各種照明光による褪色が問題視され、これらの褪色の問題は耐光性に優れた染料の選択によって解決が図られてきた。しかしながら高画質化と共に室内展示の機会が増えたため、耐光性とともに大気中の酸化性ガスによって起こる褪色又は変色が問題とされるようになった。
【0007】
特にブラックインクにおいては、耐ガス性に劣る染料を用いると褪色するだけではなく黒色が茶色に変色する傾向があるため、フルカラー画像に対する画像品質を急激に低下させる要因となる。
【0008】
又、インクの鮮明性、色調再現性や光学濃度を高める為使用される、基材上に顔料とバインダーとを含むインク受容層を形成した被記録材においては、著しく変褪色を示す場合があり、その点においても耐ガス性の改良が望まれる。
【0009】
この技術課題に対しては例えば、色調及びオゾンガスに対する変褪色の改良がなされているが(特許文献1、特許文献2)、銀塩写真に匹敵するほどの高画質な記録画像を得ることができる近年のインクジェット記録方式においては、耐ガス性のより一層の改善が依然として必要であるとの認識を得ている。
【0010】
又、画像堅牢性以外の面でもブラックインクに関しては、アルミナ、シリカ等の多孔体をインク受容材料として使用した記録媒体へ写真画像を形成する際、十分な階調性、シャドウ部の深みを得るために高いO.D.が発現できることが特に求められている。
【0011】
これまで、ブラックの画像濃度を向上させる技術としては、例えば、特定の二種類の染料を使用した技術が示されている(特許文献3)。又、高分子物質を含む記録媒体に対し、色材、水溶性有機溶媒及び水を含有するインクを付着させるインクジェット記録方法において、前記高分子物質が、前記色材を凝集させる技術が開示されている(特許文献4)。更に、高O.D.を発現する染料として、新規なジスアゾ、トリスアゾの染料を用いたインクが開示されている(特許文献5、特許文献6)。
【特許文献1】特登録02919615号公報
【特許文献2】特公平8−26263号公報
【特許文献3】特開2000−290552号公報
【特許文献4】特開2000−318300号公報
【特許文献5】特開2002−275380号公報
【特許文献6】特開2003−292808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上に述べたように、耐候性に優れ、且つ、光学濃度が高いインクが求められているが、通常、耐候性に優れたインクは、光学濃度が低い傾向にあり、光学濃度が高いインクは耐候性に劣る傾向にある。そこで、本発明者らは、相反するこれらの性能を満足する為に技術解析を行った。その結果、光学濃度が高いインクは、インク中の色材の記録媒体への浸透が浅い傾向にあり、耐候性に優れたインクは、インク中の色材の記録媒体への浸透が深い傾向にあるため、これらが相反する性能を有するものだという知見を得た。
【0013】
そこで、更に検討を行った結果、カルボキシル基を有する染料を含有するインクを、支持体上にインクを受容するための多孔体を備えた記録媒体の表面pHが3.0以上5.0以下の記録媒体上に印字すると、インク中の色材の記録媒体への浸透が浅くなり、高い画像濃度が得られるが、ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料を含有するインクを、支持体上にインクを受容するための多孔体を備えた記録媒体の表面pHが3.0以上5.0以下の記録媒体上に印字しても、インク中の色材の記録媒体への浸透は浅くならないということがわかった。
【0014】
このことから、カルボキシル基を有する染料を含有するインクを、支持体上にインクを受容するための多孔体を備えた記録媒体の表面pHが3.0以上5.0以下の記録媒体上に印字し、更にその後、ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する耐候性に優れた染料を含有するインクを、重ねて印字させることを検討した。そうしたところ、光学濃度が高く、耐候性にも優れた印字画像を得ることができた。逆に、ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する耐候性に優れた染料を含有するインクを、支持体上にインクを受容するための多孔体を備えた記録媒体の表面pHが3.0以上5.0以下の記録媒体上に印字し、更にその後、カルボキシル基を有する染料を含有するインクを、重ねて印字させることによっても同等の結果を得た。
【0015】
上述した各知見に基づいて、本発明では、更に光学濃度が高く、耐候性にも優れた印字画像を得ることができるインクジェット用ブラックインク及びそれを用いたインクジェット記録方法、インクジェット記録物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明の第一発明は、支持体上にインクを受容するための多孔体を備えpHが3.0以上5.0以下の記録媒体上に記録するインクジェット用ブラックインクであって、該ブラックインクが少なくとも、カルボキシル基を有する染料、ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料を有し、pHが上記記録媒体のpHよりも高いことを特徴とするインクジェット用ブラックインクである。このインクを用いることによって、耐候性及び光学濃度の向上を達成することができる。
【0017】
又、特に後述する一般式I及びIIで表される染料は、スルホン基が溶解性に寄与しているだけでなく、発色に寄与している分子結合を守る役目も担っていることから、それ自身が非常に優れた耐候性を有している。
【0018】
これらを用いる第2発明ではカルボキシル基を有する染料によって優れた光学濃度を実現し、スルホン基のみを有する染料、特に一般式I及びIIで表される染料によって優れた耐候性を実現していると考えられる。
【0019】
本発明の詳細なメカニズムは不明であるが、本発明の構成をとる場合は、カルボキシル基を有する染料が記録媒体上の表面上で強い凝集を行い、ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料は、記録媒体中、深くに浸透するということで、両者の染料の相乗効果が明確になされるということが考えられる。
【0020】
一般にカルボキシル基を有する化合物はpH依存性が大きいことが知られている。したがってカルボキシル基を有する染料も又pH依存性を有しており、低pH領域で凝集を起こしやすくなる。したがって記録媒体の表面pHが3.0以上5.0以下の領域では記録媒体上で速やかに凝集を起こすために光学濃度の高い記録物が得られる。このことは、特にインクのpHが上記記録媒体のpHよりも高い場合に特に顕著であるということもわかった。インクのpHが上記記録媒体のpHを越えると、記録媒体の表面pHが3.0以上5.0以下であっても、定着時にインクのpHが低下せず、記録媒体の表面上での染料の凝集を起こす効果が薄まる為であると考えられる。
【0021】
これに対し、カルボキシル基を有する染料を含有するインクを、支持体上にインクを受容するための多孔体を備え表面pHが3.0以上5.0以下の記録媒体上に印字し、更にその後、ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する耐候性に優れた染料を含有するインクを、重ねて印字させた場合は、カルボキシル基を有する染料が記録媒体上の表面上で強い凝集を行うものの、後に印字させたヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料を含有するインクの影響を受け、カルボキシル基を有する染料も記録媒体の深くに浸透し、本発明の時のような両者の染料の機能分離が十分でなくなるということが考えられる。
【0022】
更に、ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する耐候性に優れた染料を含有するインクを、支持体上にインクを受容するための多孔体を備えた記録媒体の表面pHが3.0以上5.0以下の記録媒体上に印字し、更にその後、カルボキシル基を有する染料を含有するインクを、重ねて印字させた場合は、先に印字させたヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する耐候性に優れた染料を含有するインクの影響で記録媒体の表面pHが上がり、やはり、カルボキシル基を有する染料も記録媒体の深くに浸透し、本発明の時のような両者の染料の機能分離が十分でなくなるということが考えられる。
【0023】
又、記録媒体として多孔質を備えた記録媒体を用いる理由は以下の通りである。近年、インクジェット用の記録媒体として、銀塩写真に匹敵或いはそれを凌ぐ画質を得るためにアルミナやシリカのような多孔体をインク受容材料に使用した記録媒体が使用されている。特にアルミナ水和物を用いた記録媒体は、アルミナ水和物が正電荷を持っているため、アニオン性のインク染料を色材として用いた場合定着が良く、発色の良い画像が得られ、特にブラックインクでは高いO.D.を発現するのに効果的である。
【0024】
以上のことから、支持体上にインクを受容するための多孔体を備えた記録媒体の表面pHが3.0以上5.0以下の記録媒体上に記録することを目的とするインクジェット用ブラックインクであって、該ブラックインクが少なくともカルボキシル基を有する染料、ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料、水、水溶性有機溶媒を含むことを特徴とするインクジェット用ブラックインクを用いることによって、耐候性及び光学濃度の向上を達成することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、少なくとも、カルボキシル基を有する染料とヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料とを有し、pHが上記記録媒体のpHよりも高いことを特徴とするインクジェット用ブラックインクとすることで、単純に、カルボキシル基を有する染料を含有するインクを支持体上にインクを受容するための多孔体を備えた記録媒体の表面pHが3.0以上5.0以下の記録媒体上に印字し、更にその後、ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する耐候性に優れた染料を含有するインクを重ねて印字させた場合や、逆に、ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する耐候性に優れた染料を含有するインクを支持体上にインクを受容するための多孔体を備えた記録媒体の表面pHが3.0以上5.0以下の記録媒体上に印字し、更にその後、カルボキシル基を有する染料を含有するインクを重ねて印字させた場合と比較しても、光学濃度が高く、耐候性も優れたインクを提供することができた。
【0026】
本発明によれば、充分な耐候性を有し、且つ、光学濃度の高いインクを提供することができる。更にそのインクを用いることにより、耐候性に優れた記録物、且つ、印字濃度の高い記録物を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、支持体上にインクを受容するための多孔体を備えた記録媒体の表面pHが3.0以上5.0以下の記録媒体上に記録することを目的とするインクジェット用ブラックインクであって、該ブラックインクが少なくともカルボキシル基を有する染料、ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料、水、水溶性有機溶媒を含むことを特徴とするインクジェット用ブラックインク、及びこのインクを用いたインクジェット記録方法、インクジェット記録物である。
【0028】
以下に好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
【0029】
尚、本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。
【0030】
(記録媒体)
まず、本発明で使用するインクジェット用ブラックインクは、支持体上にインクを受容するための多孔体を備えた記録媒体の表面pHが3.0以上5.0以下の記録媒体上に記録することを目的とする。そこで、この特定の記録媒体について詳述する。
【0031】
本発明に用い得る記録媒体としては、多孔質層のインク受容層を有し、インクが付着することで記録を行う記録媒体であり、かつ記録媒体表面のpHが3.0以上5.0以下であればいずれのものでも使用することができる。記録媒体表面のpHが3.0以上5.0以下の記録媒体上に本発明のインクを印字することにより、本発明のインクに使用される染料は記録媒体表面上で速やかに凝集するので、光学濃度の高い記録物が得られる。
【0032】
尚、記録媒体表面のpHが3.0以上5.0以下としているのは、本発明のインクを使用した場合、pHが3.0未満の記録媒体においては、染料の凝集効果が強すぎてブロンズを引き起こしてしまうという弊害を生じさせ、pHが5.0を超える記録媒体においては、染料の凝集効果が弱すぎて本発明の効果が得られづらいためである。
【0033】
本発明にかかる特に好適な記録媒体は、上述の微粒子として、平均粒子径が1μm以下の微粒子を主体として、インク受容層を形成したものが好ましい。上記の微粒子として、特に好ましいものは、例えばシリカ又は酸化アルミニウム微粒子等が挙げられる。シリカ微粒子として好ましいものは、コロイダルシリカに代表されるシリカ微粒子である。コロイダルシリカ自体も市場より入手可能なものであるが、特に好ましいものとして、例えば特許第2803134号、同2881847号公報に掲載されたものを挙げることができる。酸化アルミ微粒子として好ましいものとしては、アルミナ水和物微粒子を挙げることができる。このようなアルミナ系顔料の一つとして下記式により表されるアルミナ水和物を好適なものとして挙げることができる。
Al3−n(OH)2n・mH
上記式中、nは1、2又は3の整数のいずれかを表し、mは0〜10、好ましくは0〜5の値を表す。但し、mとnは同時には0にはならない。mHOは、多くの場合mHO結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水相をも表すものである為、mは整数又は整数でない値を取ることもできる。又この種の材料を加熱するとmは0の値に達することがありうる。
【0034】
アルミナ水和物は一般的には、米国特許第4,242,271号、米国特許第4,202,870号に記載されているようなアルミニウムアルコキシドの加水分解やアルミン酸ナトリウムの加水分解のような、又特公昭57−44605号公報に記載されているアルミン酸ナトリウム等の水溶液に硫酸ナトリウム、塩化アルミニウム等の水溶液を加えて中和を行う方法などの公知の方法で製造されたものを使用したものが好適である。
【0035】
更に、これらのアルミナ水和物を使用したインクジェット用記録媒体は、本発明にかかる画像堅牢性向上剤との親和性、吸収性、定着性が優れる上、前述したような写真画質を実現するために必要とされる光沢、透明性及び染料等の記録液中の色材の定着性等が優れていることより、本発明を適用するのに更に好適である。
【0036】
バインダーとして好適に使用されているものには水溶性高分子やラテックスを挙げることができる。例えば、ポリビニルアルコール又はその変性体、澱粉又はその変性体、ゼラチン又はその変性体、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体、SBRラテックス、NBRラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、官能基変性重合体ラテックス、エチレン酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス、ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸又はその共重合体、アクリル酸エステル共重合体などが使用され、これらから選択した1種、あるいは必要に応じて2種以上を組み合せて用いることができる。
【0037】
本発明に用いられるインクジェット用記録媒体の微粒子と前記のバインダーの混合比は、重量比で、1:1〜100:1の範囲にあることが好ましい。バインダーの量を上記範囲とすることで、インク受容層への画像堅牢性向上剤の含浸に好適な細孔容積の維持が可能となる。酸化アルミニウム微粒子又はシリカ微粒子のインク受容層中の好ましい含有量としては、50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは、80重量%以上であり、99重量%以下であることが最も好適である。インク受容層の塗工量としては、画像堅牢性向上剤の含浸性を良好とするために乾燥固形分換算で10g/m以上であることが好ましく、10〜60g/mが最も好適である。
【0038】
本発明に用いられる記録媒体は上記したインク受容層を支持するための支持体を有することが好ましいが、支持体としては、特段の制限がなく、上記した多孔質構造のインク受容層の形成が可能であって、且つインクジェットプリンタ等の搬送機構によって搬送可能な剛度を与えるものであれば、いずれのものでも使用できる。例えば、支持体とインク受容層の間に硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛等の無機顔料等をバインダーと共に塗工して形成した多孔質層を有するものや、支持体にレジンコート紙を用いても良い。
【0039】
更にインク受容層には、その他の添加剤を使用することもでき、例えば、必要に応じて分散剤、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、流動性変性剤、界面活性剤、消泡剤、離型剤、蛍光増白剤などを挙げることができる。
【0040】
(カルボキシル基を有する染料)
本発明で使用する特定のカルボキシル基を有する染料について詳述する。本発明で使用するカルボキシル基染料は、染料分子中に少なくとも一つのカルボキシル基を有していれば特に限定されるものではない。
【0041】
該染料を含有させる理由は、該染料は、カルボキシル基を有することで、pH依存性が大きく、低pH領域で凝集を起こしやすい。したがって記録媒体の表面pHが3.0以上5.0以下の領域では、記録媒体上で速やかに該染料が凝集を起こし、光学濃度の高い記録物を作成することができる為である。
【0042】
尚、特に好適なカルボキシル基染料としては、下記の一般式(I)で表される染料が挙げられる。
【0043】
一般式(I)
【0044】
【化1】

(上記一般式(I)中、R、Rは各々独立に置換もしくは未置換の炭素数1〜4のアルキル基を表し、少なくともR、Rのうちいずれかは1つの水酸基を有する。Rは水素原子もしくは、置換もしくは未置換のフェニル基を表す。mは0〜1の整数を表し、nは1〜2の整数を表す。Mは対イオンであり、アルカリ金属、アンモニウム或いは有機アンモニウムのいずれかを表す。)
【0045】
以下に、一般式(I)で示される第1の色材の具体例として例示化合物1〜3を示すが、本発明で使用する色材は、これらに限定されるものではない。又、下記に挙げるような色材を同時に2種類以上用いてもよい。
【0046】
【化2】

【0047】
本実施態様にかかるインク中に含まれる一般式Iで表されるようなカルボキシル基染料のインク中における含有量は、インク全量に対して0.5重量%以上、8.0重量%以下の範囲が好ましい。0.5重量%未満であれば、本発明の効果の1つである十分な光学濃度が得られず、8.0重量%を超える場合は、記録媒体上で染料が凝集し金属的な光沢を放つ現象(ブロンズ)を引き起こす為である。又、本発明の効果を十分発揮する為に、該染料のインク中における含有量は、インク全量に対して1.0重量%以上、4.0重量%以下の範囲が更に好ましい。
【0048】
(ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料)
次に、本発明で使用する特定のヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料について詳述する。本発明で使用するヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料は、染料分子中に少なくとも一つのスルホン基を有しており、ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基以外の可溶化基を有さないものであれば特に限定されるものではない。ただし、遊離酸の形での分子量が1000以上2000以下のものが好ましい。
【0049】
該染料を含有させる理由は、スルホン基は水溶液中では溶解しやすい性質をもっているので、ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料はカルボキシル基等を有する染料と比較して、より紙面深くに潜り込み易い。紙面深くに潜り込むことにより、ガスや光といった外部からの刺激を受けにくくなる。このため、優れた耐候性を有している記録物を作成することができる為である。
【0050】
特に好適なヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料としては、下記の一般式(II)で表されるペンタキスアゾ化合物又はその塩である染料、及び下記の一般式(III)で表されるテトラキスアゾ化合物又はその塩である染料が挙げられる。
【0051】
一般式(II)
【0052】
【化3】

【0053】
(上記一般式(II)中、R、Rは水素原子;ヒドロキシル基;アミノ基;スルホ基;炭素数1〜4のアルキル基;炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、R、Rは、水素原子;炭素数1〜4のアルキル基;炭素数1〜4のアルコキシ基;ヒドロキシル基;ヒドロキシル基もしくは炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されても良い炭素数1〜4のアルキル基;ヒドロキシル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、スルホ基で置換されてもよい炭素数1〜4のアルコキシ基;アルキル基もしくはアシル基によって置換されているアミノ基であり、nは0又は1である。)
【0054】
一般式(III)
【0055】
【化4】

【0056】
(上記一般式(III)中、R、R、R、Rは水素原子;ヒドロキシル基;アミノ基;スルホ基;炭素数1〜4のアルキル基;炭素数1〜4のアルコキシ基;ヒドロキシル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、スルホ基で置換されているアルコキシ基;スルホ基でさらに置換されてもよい炭素数1〜4のアルコキシ基;フェニル基、アルキル基、又はアシル基によって置換されているアミノ基であり、nは0又は1である。)
以下に、一般式(II)で示される第1の色材の具体例として例示化合物4〜6を示すが、本発明で使用する色材は、これらに限定されるものではない。又、下記に挙げるような色材を同時に2種類以上用いてもよい。
【0057】
【化5】

【0058】
以下に、一般式(III)で示される第1の色材の具体例として例示化合物7〜9を示すが、本発明で使用する色材は、これらに限定されるものではない。又、下記に挙げるような色材を同時に2種類以上用いてもよい。
【0059】
【化6】

【0060】
本実施態様にかかるインク中に含まれるヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料のインク中における含有量は、インク全量に対して0.5重量%以上10.0重量%以下が好ましい。0.5重量%未満であれば、本発明の効果の1つである耐光性及び耐ガス性が十分には得られず、10.0重量%を超える場合は、記録媒体上で染料が凝集し金属的な光沢を放つ現象(ブロンズ)を引き起こす為である。又、本発明の効果を十分発揮する為に、該染料のインク中における含有量は、インク全量に対して1.0重量%以上、6.0重量%以下の範囲が更に好ましい。
【0061】
又、前述したカルボキシル基を有する染料と、ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料のインク中における重量比率は、1:10〜5:1の重量比率であることが好ましい。カルボキシル基染料の比率が上記範囲外で高い場合には、記録媒体上におけるカルボキシル基染料の凝集密度が非常に高くなりブロンズを引き起こすか、あるいはスルホン基染料の過少により十分な耐候性が得られなくなる。又、スルホン基染料の比率が上記範囲外で高い場合には、記録媒体内のスルホン基染料の密度が非常に高くなりブロンズを引き起こすか、あるいはカルボキシル基染料の過少により十分な光学濃度が得られなくなる為である。
【0062】
尚、本発明で使用される該染料の検証方法であるが、該染料がインク中に含有されるかについては、以下の分析手法によって測定した。
(1)高速液体クロマトグラフィーによるピークの保持時間、
(2)同ピークの極大吸収波長、
(3)同ピークのマススペクトルにおけるM/Z(posi、nega)
を用いる事で検証が可能である。
【0063】
(1)(2)高速液体クロマトグラフィーの分析条件は以下の通り。
約1000倍に純水で希釈したインク溶液に対して、下記の条件で高速液体クロマトグラフィーでの分析を行い、ピークの保持時間(retention time)、及び、ピークの極大吸収波長を測定する。
カラム:Symmetry C18 2.1mm×150mm
移動相
グラジエント条件
【0064】
【表1】

【0065】
流速:0.2ml/min
カラム温度:40℃
PDA:210nm〜700nm
【0066】
(3)マススペクトルの分析条件については以下の通り。
得られたピークに対して、下記の条件でマススペクトルを測定し、最も強く検出されたM/Zをposi、negaそれぞれに対して測定する。
イオン化法
ESI
キャピラリ電圧 3.5kV
脱溶媒ガス 300℃
イオン源温度 120℃
検出器
posi 40V 200−1500amu/0.9sec
nega 40V 200−1500amu/0.9sec
例示化合物(1)及び例示化合物(4)の染料に対しての保持時間、極大吸収波長、M/Z(posi)、M/Z(nega)の値を下記に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
この値に該当する場合は、本発明の染料に該当すると判断ができる。
【0069】
(インクのpH)
本発明のインクは、pHが上記記録媒体のpHよりも高いことを特徴とする。pHが10を超えるとインクが記録媒体上に印字された時に、記録媒体表面上でのカルボキシル基を有する染料の凝集が不十分となり、本発明の効果が十分に発揮されない為である。
【0070】
又、インクのpHは、インクの保存安定性を考慮すると、7以上が好ましい。
【0071】
(水溶性有機溶媒)
本発明にかかるインクジェット記録装置に用いられるインクは、水と水溶性有機溶剤を含む。
【0072】
この水溶性有機溶剤としては、水溶性を示すものであれば特に制限はなく、アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、グリコールエーテル、含窒素極性溶媒、含硫黄極性溶媒、尿素類、糖類など、一般的にインクジェット用インクの溶剤として用いられているものであれば、問題なく使用することができる。これらの溶剤はインクの保湿性維持や染料の溶解性向上、インクの記録紙への浸透剤などの用途として用いられる。又、これらの溶剤は単独でも複数を組み合せて用いることもできる。
【0073】
水溶性有機溶剤の含有量の上限は、インク全体の50重量%以下が好ましく、より好ましくは40重量%以下である。又、下限はインク全体の1重量%以上が好ましく、より好ましくは3重量%以上である。インク中の水の含有量は、染料の溶解性やインクの吐出安定性を良好に保つために、30重量%以上95重量%以下の範囲が好ましい。
【0074】
(添加剤等)
さらに本発明のインクには上記成分以外にも必要に応じて界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、水溶性ポリマー等、種々の添加剤を含有させてもよい。
【0075】
例えば界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類等の陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アセチレンアルコール、アセチレングリコール等の非イオン性界面活性剤があり、これらの1種又は2種以上を適宜選択して使用できる。上記した中でも、特にアセチレンアルコール類や、アセチレングリコール類が普通紙への浸透性に優れた効果を発揮するために好適に用いることができる。その使用量は、分散剤の添加量により異なるが、インク全量に対して、0.01〜5質量%が望ましい。
【0076】
又、この際、インクジェットヘッドのノズル先端の濡れによる印字ヨレ(インク滴の着弾点のズレ)等の発生を有効に抑え、吐出特性を付与するために、インクの25℃における表面張力は10mN/m(dyn/cm)以上が好ましく、より好ましくは20mN/m以上となるように、又表面張力が60mN/m以下となるように活性剤の添加する量を決定することが好ましい。
【0077】
又、インクはインクジェット記録装置で良好な吐出特性を得るために、所望の粘度やpHを有するように調整することが好ましい。
【0078】
(インクジェット記録方法)
本発明のインクを使用して、インクを記録信号に応じてオリフィスから吐出させて記録媒体上に記録を行うインクジェット記録方法を好ましく使用することができ、特に、インクに熱エネルギーを作用させて記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法を更に好ましく使用できる。
【0079】
(記録ユニット)
本発明のインクを用いて記録を行うのに好適な記録ユニットとしては、これらのインクが収容されるインク収容部を有する記録ヘッドを備えた記録ユニットが挙げられ、該ヘッド部が、記録信号に対応した熱エネルギーを与え、該エネルギーによりインク液滴を発生させることを特徴とする記録ユニットが挙げられる。
【0080】
(インクカートリッジ)
本発明のインクを用いて記録を行うのに好適なインクカートリッジとしては、これらのインクが収容されるインク収容部を有するインクカートリッジが挙げられる。
【0081】
(インクジェット記録装置)
本発明のインクを用いて記録を行うのに好適な記録装置としては、これらのインクが収容されるインク収容部を有する記録ヘッドの室内のインクに、記録信号に対応した熱エネルギーを与え、該エネルギーによりインク液滴を発生させる装置が挙げられる。
【0082】
以下に、本実施形態で用いるインクジェット記録装置の機構部の概略構成を説明する。本実施形態における記録装置本体は、各機構の役割から、給紙部、用紙搬送部、キャリッジ部、排紙部、クリーニング部及びこれらを保護し、意匠性を持たす外装部から構成されている。以下、これらの概略を説明していく。
【0083】
図1は、本実施形態で適用する記録装置の斜視図である。又、図2及び図3は、記録装置本体の内部機構を説明するための図であり、図2は右上部からの斜視図、図3は記録装置本体の側断面図をそれぞれ示したものである。
【0084】
本実施形態で適用する記録装置において給紙を行う際には、まず給紙トレイM2060を含む給紙部において記録媒体の所定枚数のみが給紙ローラM2080と分離ローラM2041から構成されるニップ部に送られる。送られた記録媒体はニップ部で分離され、最上位の記録媒体のみが搬送される。用紙搬送部に送られた記録媒体は、ピンチローラホルダM3000及びペーパーガイドフラッパーM3030に案内されて、搬送ローラM3060とピンチローラM3070とのローラ対に送られる。搬送ローラM3060とピンチローラM3070とからなるローラ対は、LFモータE0002の駆動により回転され、この回転により記録媒体がプラテンM3040上を搬送される。
【0085】
キャリッジ部では記録媒体に画像形成する場合、記録ヘッドH1001(図4)を目的の画像形成位置に配置させ、電気基板E0014からの信号に従って、記録媒体に対しインクを吐出する。記録ヘッドH1001についての詳細な構成は後述するが、本実施形態の記録装置においては、記録ヘッドH1001により記録を行いながらキャリッジM4000が列方向に走査する記録主走査と、搬送ローラM3060により記録媒体が行方向に搬送される副走査とを交互に繰り返すことにより、記録媒体上に画像を形成していく構成となっている。
【0086】
最後に画像形成された記録媒体は、排紙部で第1の排紙ローラM3110と拍車M3120とのニップに挟まれ、搬送されて排紙トレイM3160に排出される。
【0087】
尚、クリーニング部において、画像記録前後の記録ヘッドH1001をクリーニングする目的のために、キャップM5010を記録ヘッドH1001のインク吐出口に密着させた状態で、ポンプM5000を作用させると、記録ヘッドH1001から不要なインク等が吸引されるようになっている。又、キャップM5010を開けた状態で、キャップM5010に残っているインクを吸引することにより、残インクによる固着及びその後の弊害が起こらないように配慮されている。
【0088】
(記録ヘッド構成)
以下に本実施形態で適用するヘッドカートリッジH1000の構成について説明する。本実施形態におけるヘッドカートリッジH1000は、記録ヘッドH1001と、インクタンクH1900を搭載する手段、及びインクタンクH1900から記録ヘッドにインクを供給するための手段を有しており、キャリッジM4000に対して着脱可能に搭載される。
【0089】
図4は、本実施形態で適用するヘッドカートリッジH1000に対し、インクタンクH1900を装着する様子を示した図である。本実施形態の記録装置は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、淡マゼンタ、淡シアン、及びグリーンインクによって画像を形成し、従ってインクタンクH1900も7色分が独立に用意されている。上記において、少なくとも一種のインクに、本発明にかかるインクを用いる。そして、図に示すように、それぞれがヘッドカートリッジH1000に対して着脱自在となっている。尚、インクタンクH1900の着脱は、キャリッジM4000にヘッドカートリッジH1000が搭載された状態で行えるようになっている。
【0090】
図5は、ヘッドカートリッジH1000の分解斜視図を示したものである。図において、ヘッドカートリッジH1000は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101、第1のプレートH1200、第2のプレートH1400、電気配線基板H1300、タンクホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700、シールゴムH1800などから構成されている。
【0091】
第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101はSi基板であり、その片面にインクを吐出するための複数の記録素子(ノズル)がフォトリソ技術により形成されている。各記録素子に電力を供給するAl等の電気配線は、成膜技術により形成されており、個々の記録素子に対応した複数のインク流路も又、フォトリソグラフィ技術により形成されている。さらに、複数のインク流路にインクを供給するためのインク供給口が裏面に開口するように形成されている。
【0092】
図6は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101の構成を説明するための正面拡大図である。H2000〜H2600は、それぞれ異なるインク色に対応する記録素子の列(以下ノズル列ともいう)であり、第1の記録素子基板H1100には、イエローインクの供給されるノズル列H2000、マゼンタインクの供給されるノズル列H2100、及びシアンインクの供給されるノズル列H2200の3色分のノズル列が構成されている。第2の記録素子基板H1101には、淡シアンインクの供給されるノズル列H2300、ブラックインクの供給されるノズル列H2400、オレンジインクの供給されるノズル列H2500、及び淡マゼンタインクの供給されるノズル列H2600の4色分のノズル列が構成されている。
【0093】
各ノズル列は、記録媒体の搬送方向に1200dpi(dot/inch;参考値)の間隔で並ぶ768個のノズルによって構成され、約2ピコリットルのインク滴を吐出させる。各ノズル吐出口における開口面積は、およそ100平方μm2に設定されている。又、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101は第1のプレートH1200に接着固定されており、ここには、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101にインクを供給するためのインク供給口H1201が形成されている。
【0094】
さらに、第1のプレートH1200には、開口部を有する第2のプレートH1400が接着固定されており、この第2のプレートH1400は、電気配線基板H1300と第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101とが電気的に接続されるように、電気配線基板H1300を保持している。
【0095】
電気配線基板H1300は、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101に形成されている各ノズルからインクを吐出するための電気信号を印加するものであり、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101に対応する電気配線と、この電気配線端部に位置し記録装置本体からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1301とを有している。外部信号入力端子H1301は、タンクホルダーH1500の背面側に位置決め固定されている。
【0096】
一方、インクタンクH1900を保持するタンクホルダーH1500には、流路形成部材H1600が例えば超音波溶着により固定され、インクタンクH1900から第1のプレートH1200に通じるインク流路H1501を形成している。
【0097】
インクタンクH1900と係合するインク流路H1501のインクタンク側端部には、フィルターH1700が設けられており、外部からの塵埃の侵入を防止し得るようになっている。又、インクタンクH1900との係合部にはシールゴムH1800が装着され、係合部からのインクの蒸発を防止し得るようになっている。
【0098】
さらに、前述のようにタンクホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700及びシールゴムH1800から構成されるタンクホルダー部と、第1の記録素子基板H1100及び第2の記録素子基板H1101、第1のプレートH1200、電気配線基板H1300及び第2のプレートH1400から構成される記録ヘッド部H1001とを、接着等で結合することにより、ヘッドカートリッジH1000が構成されている。
【0099】
尚、ここでは記録ヘッドの一形態として、電気信号に応じて膜沸騰をインクに対して生じさせるための熱エネルギーを生成する電気熱変換体(記録素子)を用いて記録を行うバブルジェット(登録商標)方式の記録ヘッドについて一例を挙げて述べた。
【0100】
この代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4,723,129号明細書、同第4,740,796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は、所謂オンデマンド型、コンティニュアス型の何れにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、液体(インク)が保持されているシートや液流路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を超える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応した液体(インク)内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介して液体(インク)を吐出させて、少なくとも一つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長・収縮が行われるので、特に応答性に優れた液体(インク)の吐出が達成でき、より好ましいといえる。
【0101】
又、第二の力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の形態として、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。
【0102】
又、インクジェット記録装置としては、上述のようにヘッドとインクタンクとが別体となったものに限らず、それらが分離不能に一体になったものを用いるものでもよい。又、インクタンクとしてはヘッドに対し分離可能又は分離不能に一体化されてキャリッジに搭載されるもののほか、装置の固定部位に設けられて、インク供給部材、例えばチューブを介して記録ヘッドにインクを供給する形態のものでもよい。さらに、記録ヘッドに対し好ましい負圧を作用させるための構成をインクタンクに設ける場合には、インクタンクのインク収納部に吸収体を配置した形態、あるいは可撓性のインク収容袋とこれに対しその内容積を拡張する方向の付勢力を作用するばね部とを有した形態などを採用することができる。又、記録装置としては、上述のようにシリアル記録方式を採るもののほか、記録媒体の全幅に対応した範囲にわたって記録素子を整列させてなるラインプリンタの形態をとるものであってもよい。
【実施例】
【0103】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。尚、特に指定のない限り、実施例、比較例のインク成分は「重量部」を意味する。
【0104】
表3に示した各成分を混合し、十分攪拌して溶解後、0.20μmフィルターにて加圧濾過を行い、実施例1〜6、比較例1〜6のインクを夫々調製した。
【0105】
記録媒体は次のようにpH調整を行った。ワイヤーバーによって、光沢紙(PR−101;キヤノン製)上に0.5N硝酸水溶液を塗布した後、120℃のオーブンで2分乾燥させた。この記録媒体を、紙面用pH測定セット(共立理化学研究所製)を用いて紙面pHを測定したところ、pHが4.0に調整されていた。この方法と同様の方法で硝酸水溶液の濃度を調整することにより、pH2.5、3.0、5.0、5.5のpHとなるように記録媒体を調製した。
【0106】
尚、pH調整をしない状態の上記光沢紙のpHは6.0であった。
【0107】
【表3】

【0108】
<インクの評価>
上記で得られた本発明の実施例1〜12、及び比較例1〜6の各インクをインクジェットプリンタ(商品名:PIXUS950i;キヤノン製)にそれぞれ搭載し、以下の(1)、(2)、(3)及び(4)について下記の方法及び基準に従って評価した。表4に、これらのインクを用いて得られた評価結果を示した。
【0109】
(1)光学濃度
上記各実施例若しくは比較例のインクをセットし、上記記録媒体に夫々100%DUTYのベタ部を印字した印字物を得た。得られた夫々の印字物を24時間自然乾燥させ、そのパッチの光学濃度をGretag Spectrolino(グレタグマクベス製)で測定し下記基準にて評価した。
○:光学濃度が2.40以上
△:光学濃度が2.30〜2.39
×:光学濃度が2.29以下
【0110】
(2)耐ガス性
上記各実施例若しくは比較例のインクをセットし、上記記録媒体に夫々100%DUTYのベタ部を印字した印字物を得たその後、印字物を24時間自然乾燥させ、オゾンフェードメーターにて、槽内温度40℃、相対湿度55%、3ppmのオゾン雰囲気下の条件で、2時間印字物を投入した。試験前後での印字物のベタ部をGretag Spectrolino(グレタグマクベス製)で測定することにより算出したL*a*b*より、試験前後での色差ΔEを求め、下記基準にて耐ガス性の評価とした。
○:ΔEが5.0未満
△:ΔEが5.0以上10.0未満
×:ΔEが10.0以上
【0111】
(3)耐光性
上記各実施例若しくは比較例のインクをセットし、上記記録媒体に夫々100%DUTYのベタ部を印字した印字物を得た。その後、印字物を24時間自然乾燥させ、アトラスフェードメーターCi35(アトラス製)にて、槽内温度50℃、相対湿度70%の条件下で、照度0.39W/m2で30時間曝露照射した。試験前後での印字物のベタ部をGretag Spectrolino(グレタグマクベス製)で測定することにより算出したL*a*b*より、試験前後での色差ΔEを求め、下記基準にて耐光性の評価とした。
○:ΔEが1.0未満
△:ΔEが1.0以上5.0未満
×:ΔEが5.0以上
【0112】
(4)ブロンズ性
上記各実施例若しくは比較例のインクをセットし、上記記録媒体に夫々100%DUTYのベタ部を印字した印字物を得た。このベタ部について、目視で、下記の基準にてブロンズ性の評価をした。尚、下記の基準において、○、○’、△は、実使用できるレベルであると判断した。
○ :ブロンズの発生が見られない
○‘:微小のブロンズが発生した
△ :多少のブロンズが発生した
× :ブロンズの発生がひどかった
【0113】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施形態における記録装置の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における記録装置の機構部の斜視図である。
【図3】本発明の実施形態における記録装置の断面図である。
【図4】本発明の実施形態で適用したヘッドカートリッジにインクタンクを装着する状態示した斜視図である。
【図5】本発明の実施形態で適用したヘッドカートリッジの分解斜視図である。
【図6】本発明の実施形態で適用したヘッドカートリッジにおける記録素子基板を示す正面図である。
【符号の説明】
【0115】
M2041 分離ローラ
M2060 給紙トレイ
M2080 給紙ローラ
M3000 ピンチローラホルダ
M3030 ペーパーガイドフラッパー
M3040 プラテン
M3060 搬送ローラ
M3070 ピンチローラ
M3110 排紙ローラ
M3120 拍車
M3160 排紙トレイ
M4000 キャリッジ
M5000 ポンプ
M5010 キャップ
E0002 LFモータ
E0014 電気基板
H1000 ヘッドカートリッジ
H1001 記録ヘッド
H1100 第1の記録素子基板
H1101 第2の記録素子基板
H1200 第1のプレート
H1201 インク供給口
H1300 電気配線基板
H1301 外部信号入力端子
H1400 第2のプレート
H1500 タンクホルダー
H1501 インク流路
H1600 流路形成部材
H1700 フィルター
H1800 シールゴム
H1900 インクタンク
H2000 イエローノズル列
H2100 マゼンタノズル列
H2200 シアンノズル列
H2300 淡シアンノズル列
H2400 ブラックノズル列
H2500 グリーンノズル列
H2600 淡マゼンタノズル列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上にインクを受容するための多孔体を備えた表面pHが3.0以上5.0以下の記録媒体上に記録するインクジェット用ブラックインクにおいて、該インクが少なくとも、カルボキシル基を有する染料及びヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料を有し、pHが上記記録媒体のpHよりも高いことを特徴とするインクジェット用ブラックインク。
【請求項2】
上記カルボキシル基を有する染料が下記の一般式(I)で表される染料である請求項1に記載のインクジェット用ブラックインク。
一般式(I)
【化1】

(上記一般式I中、R、Rは各々独立に置換もしくは未置換の炭素数1乃至4に何れかのアルキル基を表し、少なくともR、Rのうちいずれかは1つの水酸基を有する。Rは水素原子もしくは、置換もしくは未置換のフェニル基を表す。mは0又は1を表し、nは1又は2を表す。Mは対イオンであり、アルカリ金属、アンモニウム或いは有機アンモニウムのいずれかを表す。)
【請求項3】
上記ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料が下記の一般式(II)で表されるペンタキスアゾ化合物又はその塩である染料、又は、一般式(III)で表されるテトラキスアゾ化合物又はその塩である染料、である請求項1又は2に記載のインクジェット用ブラックインク。
一般式(II)
【化2】

(上記一般式(II)中、R、Rは、水素原子;ヒドロキシル基;アミノ基;スルホ基;炭素数1乃至4の何れかのアルキル基;炭素数1乃至4の何れかのアルコキシ基を表し、R、Rは、水素原子;炭素数1乃至4の何れかのアルキル基;炭素数1乃至4の何れかのアルコキシ基;ヒドロキシル基;ヒドロキシル基もしくは炭素数1乃至4の何れかのアルコキシ基で置換されても良い炭素数1乃至4の何れかのアルキル基;ヒドロキシル基、炭素数1乃至4の何れかのアルコキシ基、スルホ基で置換されてもよい炭素数1乃至4の何れかのアルコキシ基;アルキル基もしくはアシル基によって置換されているアミノ基であり、nは0又は1である。)
一般式(III)
【化3】

(上記一般式(III)中、R、R、R、Rは、水素原子;ヒドロキシル基;アミノ基;スルホ基;炭素数1乃至4の何れかのアルキル基;炭素数1乃至4の何れかのアルコキシ基;ヒドロキシル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、スルホ基で置換されているアルコキシ基;スルホ基でさらに置換されてもよい炭素数1乃至4の何れかのアルコキシ基;フェニル基、アルキル基、又はアシル基によって置換されているアミノ基であり、nは0又は1である。)
【請求項4】
上記ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料を0.5重量%以上10.0重量%以下含有する請求項1乃至3の何れか一項に記載のインクジェット用ブラックインク。
【請求項5】
上記ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料を1.0重量%以上含有する請求項4に記載のインクジェット用ブラックインク。
【請求項6】
上記ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料を6.0重量%以下含有する請求項4又は5に記載のインクジェット用ブラックインク。
【請求項7】
上記カルボキシル基を有する染料と上記ヒドロキシル基を除く酸性の可溶化基としてスルホン基のみを有する染料が重量比率で1:10〜5:1の比率で含有する請求項1乃至6の何れか一項に記載のインクジェット用ブラックインク。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載のインクジェット用ブラックインクを使用するインクジェット記録方法。
【請求項9】
請求項8に記載のインクジェット記録方法によって得られるインクジェット記録物。
【請求項10】
請求項1乃至7の何れか一項に記載のインクジェット用ブラックインクを使用するインクカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−37010(P2006−37010A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221835(P2004−221835)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】