説明

インクジェット用インクの製造方法

【課題】 吐出安定性、発色性及び耐擦過性に優れるインクジェット用インクの製造方法の提供
【解決手段】 本発明は、水不溶性色材、界面活性剤及び水を含む水不溶性色材分散液と、疎水性モノマー、ハイドロホーブ、水及び重合体を含むモノマーエマルションを混合した後に分散することにより分散液を得る分散工程と、前記分散工程によって得られた分散液に含まれる前記疎水性モノマーを重合することによりマイクロカプセルを得るマイクロカプセル化工程とを有するインクジェット用インクの製造方法であって、前記重合体の重量平均分子量が1000以上20000以下であり、酸価が10mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることを特徴とするインクジェット用インクの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット用インク(以下、単にインクともいう)に、色材がコアで、樹脂がシェルである微粒子(以下、マイクロカプセルともいう)を添加することによって、耐水性や耐擦過性の向上を図ることが提案されている。かかるマイクロカプセルの製造方法の1つとして、乳化重合が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、アルキレンオキサイド基を含むモノマーと顔料とを用い、乳化重合を行うことでマイクロカプセルを得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−155818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術について本発明者等が検討したところ、吐出安定性を一定のレベルで得ることができた。しかしながら、近年の更なる高画質化に伴い、吐出安定性のより高いインクが求められている。
【0006】
よって、本発明は上述した従来技術の課題を鑑み、吐出安定性、発色性及び耐擦過性に優れるインクジェット用インクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の発明によって達成される。即ち、本発明は、水不溶性色材、界面活性剤及び水を含む水不溶性色材分散液と、疎水性モノマー、ハイドロホーブ、水及び重合体を含むモノマーエマルションを混合した後に分散することにより分散液を得る分散工程と、前記分散工程によって得られた分散液に含まれる前記疎水性モノマーを重合することによりマイクロカプセルを得るマイクロカプセル化工程とを有するインクジェット用インクの製造方法であって、前記重合体の重量平均分子量が1000以上20000以下であり、酸価が10mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることを特徴とするインクジェット用インクの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクジェット用インクに用いた際に吐出安定性、発色性及び耐擦過性に優れるインクジェット用インク及びインクジェット用インクの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
【0010】
<インクジェット用インクの製造方法>
本発明のインクジェット用インクの製造方法は、分散工程及びマイクロカプセル化工程を有する。以下、分散工程、マイクロカプセル化工程について詳細に説明する。
【0011】
[分散工程]
本発明において分散工程とは、水不溶性色材、界面活性剤及び水を含む溶液を混合することで得られる分散液と、疎水性モノマー、ハイドロホーブ、水及び重合体を含む溶液を混合することで得られる分散液とを混合して得られる混合物を分散することで、水不溶性色材、疎水性モノマー、界面活性剤、ハイドロホーブ及び重合体が水に分散された分散液を得る工程である。
【0012】
以下、水不溶性色材と界面活性剤と水とを含む溶液を水不溶性色材分散液ともいい、特に色材として顔料を用いている場合、顔料分散液ともいう。また、疎水性モノマーとハイドロホーブと水と重合体とを含む溶液を、モノマーエマルションともいう。水不溶性色材分散液は、各成分を混合した後に、超音波照射を行うことが好ましい。モノマーエマルションにおいても、各成分を混合した後に、超音波照射を行うことが好ましい。
【0013】
[マイクロカプセル化工程]
本発明においてマイクロカプセル化工程とは、分散工程によって得られる分散液に含まれる疎水性モノマーを重合し、マイクロカプセルを得る工程である。マイクロカプセル化工程によって、水不溶性色材をコアとし、疎水性モノマーを重合することによって得られる重合体、界面活性剤及びモノマーエマルション中に含まれていた重合体をシェルとしたマイクロカプセルを含むマイクロカプセル分散液を得ることができる。本発明においてシェルは、コアの表面すべてを被覆する必要はなく、コアの表面(水不溶性色材表面)の少なくとも一部を被覆していればよい。
【0014】
本発明のインクジェット用インクの製造方法によって得られるインクが優れた吐出安定性を有する理由について、本発明者等は以下のように推測している。上記した分散工程及びマイクロカプセル化工程を経て得られるマイクロカプセル中の、モノマーエマルション中に含まれていた重合体に由来する重合体の一部は、マイクロカプセルの内部に取り込まれている状態で存在することができる。具体的には、モノマーエマルション中の疎水性モノマーに由来する重合体に編みこまれるようにして存在している。このように、構造の一部が編みこまれるようにして存在するモノマーエマルション中の重合体に由来する重合体は、疎水性相互作用によってシェルの表面に吸着する樹脂に比べて強固に固定されている。そのため、マイクロカプセルから脱離しにくい。従って、インクジェット方式でノズルから吐出する際にマイクロカプセルに加わる剪断力による重合体の脱離を低減することができ、優れた吐出安定性を得ることができる。
【0015】
また、詳細な理由は不明であるが、本発明の分散工程及びマイクロカプセル化工程を用いることで、平均粒子径の比較的小さいマイクロカプセルを得ることができる。具体的には、50nm以上200nm以下の平均粒子径を有するマイクロカプセルを得ることができる。そのため、高い光学濃度を得ることができる。本発明における、マイクロカプセルの平均粒子径は、メジアン径であるD50粒径を測定することで得られる。D50粒径を測定する方法としては、例えば、粒度分布測定機(日機装製 マイクロトラック UPA EX−150)を用いる方法が挙げられる。
【0016】
尚、マイクロカプセルに含まれるモノマーエマルション中の疎水性モノマーに由来する重合体の重量平均分子量は、以下の方法で算出することができる。マイクロカプセル分散液を遠心分離によりマイクロカプセル単体に分離し、マイクロカプセル単体をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解させる。その後、遠心分離機で分離し、上澄み液をろ過し、そのろ液をポリスチレン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(カラム 昭和電工製 Shodex GPC KF−806,K−806L)で測定することで、マイクロカプセルに含まれるモノマーエマルション中の疎水性モノマーに由来する重合体の重量平均分子量を算出することができる。本発明の製造方法によって得られるマイクロカプセルに含まれるモノマーエマルション中の疎水性モノマーに由来する重合体の重量平均分子量は、反応条件等にもよるが、およそ200000以上である。一方、マイクロカプセルに含まれるモノマーエマルション中の重合体に由来する重合体の重量平均分子量は1000以上20000以下である。そのため、モノマーエマルション中の重合体に由来する重合体の重量平均分子量を測定対象から外すように、測定条件を適宜調整することで、モノマーエマルション中の疎水性モノマーに由来する重合体の重量平均分子量とモノマーエマルション中の重合体に由来する重合体の重量平均分子量とを分けて測定することができる。本発明において、マイクロカプセルのシェルを構成する、モノマーエマルション中の疎水性モノマーに由来する重合体の重量平均分子量は、200000以上700000以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明のインクジェット用インクの製造方法によって得られたインクに含まれるマイクロカプセルの酸価は、以下の方法で算出することができる。遠心分離を行い、沈殿物を回収することで、インク中のマイクロカプセルを取り出す。その後、マイクロカプセルを水に分散し、分散体水溶液を作製する。分散体水溶液は、マイクロカプセルの含有量が分散体水溶液全質量に対し0.3質量%となるように調整する。その後、分散体水溶液を7g分取し、238gの純水で希釈し、希釈された分散体水溶液のpHが10となるように水酸化カリウム水溶液で調製する。その後、得られた調製液の電位差を電位差滴定装置AT−510(京都電子株式会社)を用いて測定しつつ、メチルグリコールキトサンN/200を滴下していく。メチルグリコールキトサンN/200を滴下していくにつれ、電位差が変動し、特定の滴下量で電位差の変曲点が現れる。変曲点が現れるまでに用いたメチルグリコールキトサンN/200の滴定量から、マイクロカプセルの酸価を算出する。上記した酸価の測定方法を、以下、コロイド滴定法ともいう。尚、上記コロイド滴定法によって得られるマイクロカプセルの酸価には、モノマーエマルション中に含まれる共重合体に由来する酸価も含まれる。
【0018】
上記コロイド滴定法によって得られるマイクロカプセルの酸価は、色材1gに対し50μmol以上5000μmol以下であることが好ましく100μmol以上1000μmol以下であることがより好ましい。
【0019】
本発明のインクジェット用インクの製造方法に好適に用いることのできる材料について、以下、詳細に説明する。
【0020】
[水不溶性色材分散液]
(水不溶性色材)
水不溶性色材分散液に含まれる色材は、常温、常圧の環境下において水に対し不溶である。本発明の水不溶性色材としては、具体的には、公知の顔料や、公知の油性染料を用いることができる。分散工程において添加する水不溶性色材の量は、顔料分散液とモノマーエマルションとの総量を基準として、0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。また、本発明のインクジェット用インクに含まれる水不溶性色材の量は、インク全質量を基準として0.5質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0021】
(界面活性剤)
本発明において、水不溶性色材分散液は界面活性剤を含む。界面活性剤は水不溶性色材を安定な分散状態に保つことができるため、粒径が小さく、且つ、粒径のばらつきが少ないマイクロカプセルを得ることができる。本発明に好適に用いることのできる界面活性剤としては、具体的には、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等のノニオン性界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤の含有量は、水不溶性色材分散液全質量を基準として、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。水不溶性色材分散液に含まれる水は、脱イオン水であることが好ましい。
【0022】
[モノマーエマルション]
(疎水性モノマー)
本発明において、モノマーエマルションは疎水性モノマーを含む。疎水性モノマーとしては特に限定されず、公知の疎水性モノマーを用いることができる。好ましい疎水性モノマーとしては、具体的にはスチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。特には、n−ブチルメタクリレートまたはスチレンを用いることが好ましい。また、本発明においては、複数種の疎水性モノマーを用いて分散工程、マイクロカプセル化工程を行ってもよい。即ち、マイクロカプセルのシェルを構成する疎水性モノマーに由来する樹脂は、1種の疎水性モノマーから得られる単重合体であっても、2種以上の疎水性モノマーから得られる共重合体であってもよい。分散工程において添加する疎水性モノマーの量は、水不溶性色材全質量を基準として、5質量%以上150質量%以下であることが好ましい。
【0023】
(その他のモノマー)
本発明においては、分散工程時にモノマーエマルションが上記した疎水性モノマーを含んでいればよいが、疎水性モノマーに加え、更に別のモノマーを加えてもよい。そのため、マイクロカプセルのシェルを構成する樹脂は、疎水性モノマーとその他のモノマーとの共重合体であってもよい。疎水性モノマー以外のその他のモノマーとしては、特に限定されず、いずれのモノマーを用いてもよい。その他のモノマーとしては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸等が挙げられる。分散工程において添加するその他のモノマーの量は、疎水性モノマー全質量を基準として、1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0024】
(ハイドロホーブ)
本発明において、モノマーエマルションはハイドロホーブを含む。ハイドロホーブは、モノマーエマルション中で分散して存在している疎水性モノマーを、安定した分散状態に保つことができる。本発明において、ハイドロホーブとは、水に対する溶解度(常温、常圧環境下)が、水100gに対し1g以下である疎水性の化合物を指す。本発明のハイドロホーブとしては、具体的には、ヘキサデカン、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、クロロベンゼン、ドデシルメルカプタン更にはオリーブ油、青色染料(Blue70)、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリル酸等が挙げられる。分散工程において添加するハイドロホーブの量は、モノマーエマルションに含まれる疎水性モノマー全質量を基準として、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0025】
(重合体)
本発明において、モノマーエマルションは重量平均分子量が1000以上20000以下であり、酸価が10mgKOH/g以上300mgKOH/g以下である重合体を含む。重合体としては、1種のモノマーから得られる単重合体であっても、2種以上のモノマーから得られる共重合体であってもよい。重合体を得るために用いることのできるモノマーとしては、特に限定されず、公知の疎水性モノマーや親水性モノマーを用いることができる。疎水性モノマーとしては、具体的にはスチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等が挙げられる。重合体の重量平均分子量は5000以上17000以下であることが好ましく、10000以上15000以下であることがより好ましい。また、重合体の酸価は30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることが好ましく、100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることがより好ましい。重合体の酸価は、重合体1gを中和するのに必要な水酸化カリウムの量を、酸塩基滴定法を用いて測定することで求めることができる。重合体の重量平均分子量が1000未満の場合、十分な吐出安定性が得られない。一方、重合体の重量平均分子量が20000より大きい場合、十分な発色性が得られない。また、重合体の酸価が10mgKOH/g未満の場合、十分な吐出安定性が得られない。一方、重合体の酸価が300mgKOH/gより大きい場合、十分な吐出安定性及び耐擦過性が得られない。分散工程において添加する重合体の量は、モノマーエマルションに含まれる疎水性モノマー全質量を基準として、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0026】
(重合開始剤)
本発明においては、マイクロカプセル化工程時に疎水性モノマーを重合するために、モノマーエマルションは重合開始剤を含んでもよい。重合開始剤としては、特に限定されず、公知の水溶性、油溶性の重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、具体的には、過硫酸カリウム、2、2’アゾビス(2−イソブチロニトリル)、2、2’アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等が挙げられる。分散工程において添加する重合開始剤の量は、疎水性モノマー全質量を基準として、1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0027】
(界面活性剤)
本発明において、モノマーエマルションは界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、特に限定されず、水不溶性色材分散液に加えることのできる界面活性剤を、いずれも好適に用いることができる。モノマーエマルションにも界面活性剤を加える場合、モノマーエマルション中の界面活性剤と、水不溶性色材分散液中の界面活性剤との総量は、水不溶性色材分散液とモノマーエマルションの全質量を基準として、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。モノマーエマルションに含まれる水は、脱イオン水であることが好ましい。
【0028】
<インクジェット用インク>
上述したとおり、マイクロカプセル化工程後には、マイクロカプセルを含むマイクロカプセル分散液を得ることができる。本発明においては、このマイクロカプセル分散液をインクジェット用インクとしてそのまま用いてもよいが、マイクロカプセル分散液に後述する水溶性有機溶剤等の成分を加えてインクジェット用インクを調製することが好ましい。
【0029】
以下、本発明のインクジェット用インクに用いることのできる各成分について、詳細に説明する。
【0030】
(水溶性有機溶剤)
本発明のインクに好適に用いることのできる水溶性有機溶剤としては、特に限定されず、公知の水溶性有機溶剤をいずれも用いることができる。水溶性有機溶剤としては、具体的には、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、2−ピロリドン、グリセリン等が挙げられる。また、インク中の水溶性有機溶剤の含有量は、インク全質量を基準として5質量%以上40質量%以下であることがこのましい。また、本発明の水は、脱イオン水であることが好ましい。また、インク中の水の含有量は、インク全質量を基準として、40質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
【0031】
(界面活性剤)
本発明のインクには、分散工程で用いる界面活性剤以外の界面活性剤を別途添加してもよい。インクに添加することのできる好適な界面活性剤としては、具体的には、アセチレノ−ルEH(川研ファインケミカル社製)等が挙げられる。インク中の界面活性剤の量は、インク全質量を基準として0.01質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0032】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。尚、文中「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0033】
[重合体A]
n−ブチルメタクリレート(BMA)18部とメタクリル酸(MAA)2部とをメチルエチルケトン120部に溶解した。得られた溶液に2、2’アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.5部を添加し、70℃で8時間加熱することで重合反応を行った。重合反応後に得られた溶液を蒸発乾燥し、BMAおよびMAAの重合体Aを得た。重合体Aの重量平均分子量は15000であり、酸価は60mgKOH/gであった。
【0034】
[重合体B]
n−ブチルメタクリレート14部とメタクリル酸6部とをメチルエチルケトン120部に溶解した。得られた溶液に2、2’アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.5部を添加し、70℃で8時間加熱することで重合反応を行った。重合反応後に得られた溶液を蒸発乾燥し、BMAおよびMAAの重合体Bを得た。重合体Bの重量平均分子量は14,000であり、酸価は200mgKOH/gであった。
【0035】
[顔料分散液]
カーボンブラックFW18(エボニック デグサ ジャパン社製)10部、ドデシル硫酸ナトリウムの3部を110部の水に加えた後、15分間超音波照射を行い顔料分散液を得た。
【0036】
(実施例1)
n−ブチルメタクリレート9部、重合体A1部、ヘキサデカン1部、2、2’アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.5部を70部の水に加えた後、1分間超音波照射を行って混合物を乳化し、モノマーエマルションAを得た。その後、顔料分散液50部とモノマーエマルションA40部とを混合し、超音波照射機で4分間乳化し、窒素雰囲気下で70℃、8時間重合し、マイクロカプセル分散液1を得た。得られたマイクロカプセル分散液1中のマイクロカプセルのD50粒径を、粒度分布測定機(日機装製 マイクロトラック UPA EX−150)を用いて測定したところ、140nmであった。
【0037】
次に、pHを8.5に調製したマイクロカプセル分散液1を100部分取し、グリセリン5部、2−ピロリドン5部、ポリエチレングリコール5部と混合し、混合物を2時間攪拌した後、ろ過することでインク1を得た。
【0038】
(実施例2)
n−ブチルメタクリレート8部、メタクリル酸1部、重合体A1部、ヘキサデカン1部、2、2’アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.5gを70gの水に加えた後、1分間超音波照射を行って混合物を乳化し、モノマーエマルションBを得た。その後、顔料分散液50部とモノマーエマルションB40部とを混合し、超音波照射機で4分間乳化し、窒素雰囲気下で70℃、8時間重合し、マイクロカプセル分散液2を得た。得られたマイクロカプセル分散液2中のマイクロカプセルのD50粒径を、粒度分布測定機(日機装製 マイクロトラック UPA EX−150)を用いて測定したところ、150nmであった。
【0039】
次に、pHを8.5に調製したマイクロカプセル分散液2を100部分取し、グリセリン5部、2−ピロリドン5部、ポリエチレングリコール5部と混合し、混合物を2時間攪拌した後、ろ過することでインク2を得た。
【0040】
(実施例3)
n−ブチルメタクリレート9部、重合体B1部、ヘキサデカン1部、2、2’アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.5gを70gの水に加えた後、1分間超音波照射を行って混合物を乳化し、モノマーエマルションCを得た。その後、顔料分散液50部とモノマーエマルションC40部とを混合し、超音波照射機で4分間乳化し、窒素雰囲気下で70℃、8時間重合し、マイクロカプセル分散液3を得た。得られたマイクロカプセル分散液3中のマイクロカプセルのD50粒径を、粒度分布測定機(日機装製 マイクロトラック UPA EX−150)を用いて測定したところ、140nmであった。
【0041】
次に、pHを8.5に調製したマイクロカプセル分散液3を100部分取し、グリセリン5部、2−ピロリドン5部、ポリエチレングリコール5部と混合し、混合物を2時間攪拌した後、ろ過することでインク3を得た。
【0042】
(比較例1)
n−ブチルメタクリレート10部、ヘキサデカン1部、2、2’アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.5gを70gの水に加えた後、1分間超音波照射を行って混合物を乳化し、モノマーエマルションDを得た。その後、顔料分散液50部とモノマーエマルションD40部とを混合し、超音波照射機で4分間乳化し、窒素雰囲気下で70℃、8時間重合し、マイクロカプセル分散液4を得た。得られたマイクロカプセル分散液4中のマイクロカプセルのD50粒径を、粒度分布測定機(日機装製 マイクロトラック UPA EX−150)を用いて測定したところ、190nmであった。
【0043】
次に、pHを8.5に調製したマイクロカプセル分散液4を100部分取し、グリセリン5部、2−ピロリドン5部、ポリエチレングリコール5部と混合し、混合物を2時間攪拌した後、ろ過することでインク4を得た。
【0044】
(比較例2)
n−ブチルメタクリレート9部、ラウリン酸(分子量200、酸価200mgKOH/gの化合物)1部、ヘキサデカン1部、2、2’アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.5gを70gの水に加えた後、1分間超音波照射を行って混合物を乳化し、モノマーエマルションEを得た。その後、顔料分散液50部とモノマーエマルションE40部とを混合し、超音波照射機で4分間乳化し、窒素雰囲気下で70℃、8時間重合し、マイクロカプセル分散液5を得た。得られたマイクロカプセル分散液5中のマイクロカプセルのD50粒径を、粒度分布測定機(日機装製 マイクロトラック UPA EX−150)を用いて測定したところ、180nmであった。
【0045】
次に、pHを8.5に調製したマイクロカプセル分散液5を100部分取し、グリセリン5部、2−ピロリドン5部、ポリエチレングリコール5部と混合し、混合物を2時間攪拌した後、ろ過することでインク5を得た。
【0046】
(酸価の測定)
実施例及び比較例のインクを遠心分離し、沈殿物を回収することで、各インク中のマイクロカプセルを取り出した。その後、マイクロカプセルを水に分散し、分散体水溶液を作製した。分散体水溶液は、マイクロカプセルの含有量が分散体水溶液全質量に対し0.3質量%となるように調整した。その後、分散体水溶液を7g分取し、238gの純水で希釈し、希釈された分散体水溶液のpHが10となるように水酸化カリウム水溶液で調製した。その後、得られた調製液の電位差を電位差滴定装置AT−510(京都電子株式会社)を用いて測定しつつ、メチルグリコールキトサンN/200を滴下した。変曲点が現れるまでに用いたメチルグリコールキトサンN/200の滴定量から、色材1gあたりのマイクロカプセルの酸価を算出した。結果を表1に示す。
【0047】
(モノマーエマルション中の疎水性モノマーに由来する重合体の重量平均分子量の測定)
実施例及び比較例のインクを遠心分離することでインク中のマイクロカプセルのみを取り出し、マイクロカプセル単体をTHFに溶解した。その後、遠心分離機で更にマイクロカプセルのコアである顔料とシェルである重合体とを分離し、上澄み液をろ過し、ろ液をポリスチレン換算のGPC(カラム 昭和電工製 Shodex GPC KF−806,K−806L)で測定することで、マイクロカプセルのシェルを構成する、モノマーエマルション中の疎水性モノマーに由来する重合体の重量平均分子量を算出した。本発明においては、シェル中に含まれるモノマーエマルション中に含まれていた重合体に由来する重合体の分子量は、モノマーエマルション中の疎水性モノマーに由来する重合体の重量平均分子量に比べて極めて小さいため、係る重合体が測定対象にならないよう、50000以下の分子量ピークをノイズとして除去した。結果を表1に示す。
【0048】
<インクジェット用インクの評価>
[吐出安定性の評価]
インクジェットプリンタPIXUS iP4300(キヤノン(株)製)を用い、インクジェットプリンタのインクカートリッジに実施例及び比較例のインクをそれぞれ搭載し、印字を行った。
【0049】
インクジェットプリンタPIXUS iP4300(キヤノン(株)製)を用い、まず1ドットの縦線を記録用紙に印字した。その後、インクカートリッジ中のインクをノズルから吐出することでインクを消費し、インクがなくなる直前に、再び1ドットの縦線を使い始めに縦線を印字した記録用紙とは別の記録用紙に印字した。尚、記録用紙としては、プロフェッショナルフォトペーパー(キヤノン製)を用いた。その後、使い始めに縦線を印字した記録用紙と、インクを使い終わる直前に縦線を印字した記録用紙とを並べ、25cm離れた距離から目視にて観察し、下記基準によって印字物を評価することで、吐出安定性の評価を行った。本発明においては、下記評価基準においてAであれば、十分な吐出安定性を有するとした。結果を表1に示す。
A:使い始めに記録された縦線と使い終わり直前に記録された縦線にほとんど差異がない
B:使い終わり直前に記録された縦線の一部が使い始めに記録された縦線からずれている(ドット着弾ズレが認められる)ものの、直線として認識できる
C:使い終わり直前に記録された縦線が使い始めに記録された縦線から明らかにずれており(ドット着弾ズレがはっきりと認められ)、直線として認識できない。
【0050】
[発色性の評価]
実施例及び比較例のインクをそれぞれ搭載したインクカートリッジを用いて、記録媒体の縁から20mmを除いた領域にベタ画像を形成した。インクジェット記録装置としては、PIXUS iP4300(キヤノン(株)製)を用い、記録媒体としては、プロフェッショナルフォトペーパー PR−101(キヤノン(株)製)を用いた。得られた印字物の光学濃度を反射濃度計RD−19I(Gretag Macbeth製)を用いて測定し、下記評価基準によって印字物を評価することで、発色性の評価を行った。本発明においては、下記評価基準における評価結果がAであれば、十分な発色性を有するとした。結果を表1に示す。
A:光学濃度>2.0
B:2.0≧光学濃度>1.9
C:1.9≧光学濃度
【0051】
[耐擦過性の評価]
実施例及び比較例のインクをそれぞれ搭載したインクカートリッジを用いて、記録媒体の縁から20mmを除いた領域にベタ画像を形成した。インクジェット記録装置としては、PIXUS iP4300(キヤノン(株)製)を用い、記録媒体としては、プロフェッショナルフォトペーパー PR−101(キヤノン(株)製)を用いた。得られた印字物を4時間放置した後、印字物の上にシルボン紙を載せ、更にその上に一辺が5cm、重さ1kgの錘を載せた後、シルボン紙を引っ張った。シルボン紙を引っ張ったときに、記録紙の縁(白地部)及びシルボン紙に汚れが生じるか否かを目視にて観察することで、各インクの耐擦過性を評価した。尚、本発明においては、評価結果がAであれば十分な耐擦過性を有するとした。結果を表1に示す。
A:白地部及びシルボン紙に汚れが認められなかった
B:シルボン紙のみに汚れが認められた
C:白地部及びシルボン紙の双方に汚れが認められた
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性色材、界面活性剤及び水を含む水不溶性色材分散液と、疎水性モノマー、ハイドロホーブ、水及び重合体を含むモノマーエマルションを混合した後に分散することにより分散液を得る分散工程と、
前記分散工程によって得られた分散液に含まれる前記疎水性モノマーを重合することによりマイクロカプセルを得るマイクロカプセル化工程とを有するインクジェット用インクの製造方法であって、
前記重合体の重量平均分子量が1000以上20000以下であり、酸価が10mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることを特徴とするインクジェット用インクの製造方法。
【請求項2】
前記マイクロカプセルのコロイド滴定法によって求められる酸価が、前記マイクロカプセル中の色材1gに対し、50μmol以上5000μmol以下である請求項1に記載のインクジェット用インクの製造方法。

【公開番号】特開2012−117021(P2012−117021A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270775(P2010−270775)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】