説明

インクジェット用インク組成物

【課題】紫外線照射による硬化性、ドット抜けや飛行曲がり等の吐出安定性、長期放置後のノズル目詰まり回復性、インクの保存安定性に優れた、インクジェット用インク組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも、水と、ウレタン(メタ)アクリレートと20℃の水100gへの溶解度が1g以上である第1のラジカル重合性化合物と、20℃の水100gへの溶解度が1g未満である第2のラジカル重合性化合物と、光重合開始剤とを含むインクジェット用インク組成物であって、前記第1のラジカル重合性化合物が、前記インク組成物の総質量に対し、1〜30質量%含む、インクジェット用インク組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷方法は、ノズルからインクの小滴を吐出して紙面等の被印字面に付着させた後、この付着したインクから溶媒を乾燥させて色材を被印字面に固着させることにより印字を行う方法である。この方法によれば、高解像度、高品位な画像を高速で印刷することができる。
インクジェット印刷で使用される水系インクは、インク中に揮発成分を含まず安全性や環境問題の観点から優れているが、上質紙や普通紙に印字した場合に滲みが発生し易く、また、印刷本紙に印字した場合に乾燥が不十分で高速印刷が困難である、さらにインクを吸収しない被記録媒体、例えば、高分子樹脂フィルム、陶器、ガラス基板上では、印字したインクを定着できない、という問題が生じる。このような問題を解決するため、従来、様々な、水系の紫外線硬化型インクが開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、粒径及びゼータ電位を所定範囲とする水系の紫外線硬化型インクジェットインクが開示されている。また、このインクジェットインクは、3つ以上の光官能基を持つ光硬化性モノマーまたはオリゴマーを20質量%以上含有し、エマルション型光重合性化合物を含有することも開示されている。
【0004】
例えば、特許文献2には、特定の紫外線硬化樹脂を水に乳化・分散させて、粘度を下げてなる、インクジェットプリンター用インクが開示されている。
【0005】
例えば、特許文献3には、光重合性樹脂と、光重合開始剤と、を含有する光重合型の水性インクにおいて、当該光重合性樹脂が、エマルション状態で存在するオリゴマー粒子と、このオリゴマー粒子内に存在するモノマーと、光重合開始剤と、で構成される水性インクが開示されている。
【0006】
例えば、特許文献4には、光重合性樹脂と、光重合開始剤と、を含有する光重合型の水性インクにおいて、水溶性有機溶剤および界面活性剤を用いることで、10mPa・s以上60mPa・s以下の粘度に調整したインクジェット用インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4411852号明細書
【特許文献2】特許第3659658号明細書
【特許文献3】国際公開第01/057145号パンフレット
【特許文献4】特開2010−229179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来技術のインクにおいては、場合により界面活性剤を用いて光硬化型樹脂を水に乳化・分散させて用いたり、エマルション状態のオリゴマー粒子内にモノマー及び光重合開始剤を存在させたりしているが、ドット抜けや飛行曲がり等の吐出安定性、長期放置によるノズル詰まり回復性、インクの保存安定性等のインクジェット適性を確保するため、一般に水溶性有機溶剤を含有させている。
【0009】
しかしながら、上述のような従来技術のインクでは、紫外線照射によりインクを硬化させる際に、インク中の水溶性有機溶剤が、光硬化型樹脂の硬化を阻害するため、硬化性の点で問題が生じる。
【0010】
そこで、本発明は、ドット抜けや飛行曲がり等の吐出安定性、長期放置後のノズル詰まり回復性、インクの保存安定性に優れ、かつ、紫外線照射による硬化性が良好な、インクジェット用インク組成物を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、少なくとも、水と、ウレタン(メタ)アクリレートと第1のラジカル重合性化合物と、第2のラジカル重合性化合物と、光重合開始剤とを含むインクジェット用インク組成物により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は下記のとおりである。
【0012】
[適用例1]
少なくとも、水と、ウレタン(メタ)アクリレートと、20℃の水100gへの溶解度が1g以上である第1のラジカル重合性化合物と、20℃の水100gへの溶解度が1g未満である第2のラジカル重合性化合物と、光重合開始剤とを含むインクジェット用インク組成物であって、前記第1のラジカル重合性化合物が、前記インク組成物の総質量に対し、1〜30質量%含む、インクジェット用インク組成物。
【0013】
[適用例2]
前記第1のラジカル重合性化合物が、平均付加モル数が4〜20のエチレンオキサイド付加物である、請求項1に記載のインクジェット用インク組成物。
【0014】
[適用例3]
前記ウレタン(メタ)アクリレートは、重量平均分子量が1,000〜10,000であって、下記一般式(1)〜(4)で表される化合物の少なくとも1種である、請求項1または請求項2に記載のインクジェット用インク組成物。
【0015】
【化1】

【0016】
[適用例4]
前記ウレタン(メタ)アクリレートは、前記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートと、前記ジイソシアネートと、前記炭素数6〜20(拡張)である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールと、前記ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、を反応させて得られるものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
【0017】
[適用例5]
前記ジイソシアネートが、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
【0018】
[適用例6]
前記炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールが、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,20−エイコサンジオール、ビフェニル−4,4’−ジオール、1,4−ベンゼンジオール、ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、1,4−シクロヘキサンジオール、及びトリシクロデカンジメタノールからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
【0019】
[適用例7]
前記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートが、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
【0020】
[適用例8]
前記ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルが、下記一般式(5)で表される、請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
HO−(CH2CH2O)m−R …(5)
(式(5)中、Rはアルキル基であり、mは9〜90の自然数を表す。)
【0021】
[適用例9]
前記ウレタン(メタ)アクリレートと、前記第2のラジカル重合性化合物と、光重合開始剤と、が、該インクジェット用インク組成物中で乳化分散している、請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
【0022】
[適用例10]
前記第2のラジカル重合性基を有する化合物が、分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の光硬化型水性エマルションを巨視的に示す模式図である。
【図2】本発明の光硬化型水性エマルションを微視的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の好適な実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0025】
本明細書において、「硬化性」とは、光に感応して硬化する性質をいう。「吐出安定性」とは、ドット抜けや飛行曲がりがなく常に安定したインク滴をノズルから吐出させる性質をいう。「分散性」とは、固体粒子を液体中に分散させて安定な縣濁液を長期に亘り形成する性質をいう。
【0026】
本明細書において、「記録物」とは、被記録媒体上にインクが記録されて硬化物が形成されたものをいう。なお、本明細書における硬化物は、硬化膜や塗膜を含む、硬化された物質を意味する。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味する。
【0027】
[インクジェット用インク組成物]
本発明の一実施形態はインクジェット用インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)に係る。当該インク組成物は、少なくとも、水と、ウレタン(メタ)アクリレートと水に難溶なラジカル重合性化合物と、水に可溶なラジカル重合性化合物と、光重合開始剤とを含むインクジェット用インク組成物であって、前記水に可溶なラジカル重合性化合物が、前記インク組成物の総量に対し、1〜30質量%含むものである。
【0028】
以下、インクジェット用インク組成物に含まれるか又は含まれ得る成分を詳細に説明する。
【0029】
〔水〕
本実施形態のインク組成物に用いられる水、即ち主溶媒である水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。
【0030】
〔第1のラジカル重合性化合物〕
本実施形態のインク組成物は、水に可溶な第1のラジカル重合性化合物を含む。本発明における「水に可溶な」とは、20℃の水100gに対する溶解量が、1g以上であるものを指す。この、第1のラジカル重合性化合物は、紫外線照射により発生した後述の開始剤ラジカルの攻撃を受けて、連鎖的に反応する。こうして、インク組成物は被記録媒体上で硬化膜を形成する。一方、紫外線照射される前は、水と溶解した状態で存在するため、ノズル近傍のインクの増粘を防止し、ノズルの目詰まりを抑制する働きがある。
【0031】
上記の第1のラジカル重合性化合物におけるラジカル重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、ビニルエーテル基、メルカプト基等が挙げられる。
【0032】
インク組成物に含有される第1のラジカル重合性化合物においては、特に(メタ)アクリロイル基をその構造中に1個以上有するものが好ましく、アクリロイル基をその構造中に有するものがさらに好ましい。ラジカル重合性化合物は、分子量が数百程度の単量体から、二量体から数量体で分子量が数千程度までのオリゴマー、分子量が数万以下のポリマーを含む。
【0033】
(メタ)アクリロイル基を分子内に1個以上有する水に可溶なラジカル重合性化合物としては、特に限定されないが、例えば、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、グリセリンエトキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0034】
これらの中でも、第1のラジカル重合性化合物としては、ノズル詰まり回復性に優れるため、平均付加モル数が4〜20のエチレンオキサイド付加物であることが好ましく、平均付加モル数が9〜14のエチレオンオキサイド付加物であることがより好ましい。
【0035】
上記のラジカル重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
また、第1のラジカル重合性化合物は、インク組成物に優れた光重合性(硬化性)を付与するため、インク組成物の総量(100質量%)に対し、1〜30質量%含まれることが好ましく、2〜10質量%含まれることがより好ましい。
【0037】
〔第2のラジカル重合性化合物〕
本実施形態のインク組成物は、水に難溶な第2のラジカル重合性化合物を含む。本発明における「水に難溶な」とは、20℃の水100gに対する溶解量が、1g未満であるものを指す。このラジカル重合性化合物は、紫外線照射により発生した後述の開始剤ラジカルの攻撃を受けて連鎖的に反応する。同時に、これらと同じ均一場に存在する上記ウレタン(メタ)アクリレートのアクリロイル基も同様に連鎖的に反応する。こうして、インク組成物は被記録媒体上で硬化膜を形成する。
【0038】
上記の第2のラジカル重合性化合物におけるラジカル重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、ビニルエーテル基、メルカプト基等が挙げられる。
【0039】
インク組成物に含有される第2のラジカル重合性化合物においては、特に(メタ)アクリロイル基をその構造中に1個以上有するものが好ましく、アクリロイル基をその構造中に有するものがさらに好ましい。ラジカル重合性化合物は、分子量が数百程度の単量体から、二量体から数量体で分子量が数千程度までのオリゴマー、分子量が数万以下のポリマーを含む。
【0040】
(メタ)アクリロイル基を分子内に1個有するラジカル重合性化合物としては、特に限定されないが、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0041】
(メタ)アクリロイル基を分子内に2個有するラジカル重合性化合物としては、特に限定されないが、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0042】
これらの中でも、ラジカル重合性化合物としては、光重合性に優れるため、分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物がより好ましい。
【0043】
(メタ)アクリロイル基を分子内に3個以上有するラジカル重合性基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、エピクロルヒドリン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート、ポリペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、及びカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0044】
また、上記した分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート(ただし、上述のウレタン(メタ)アクリレートを除く。)、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、オリゴ(メタ)アクリレート、アルキド(メタ)アクリレート、及びポリオール(メタ)アクリレート等の分子量が数千程度までのオリゴマーで(メタ)アクリロイル基を3個以上有するもの、分子中に3個以上のアクリロイル基を有する分子量が数千程度までのオリゴマー又は分子量が数万程度までのポリマー、デンドリマータイプの(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
上記のラジカル重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
また、第2のラジカル重合性化合物は、インク組成物に優れた光重合性(硬化性)を付与するため、インク組成物の総量(100質量%)に対し、1〜60質量%含まれることが好ましく、2〜30質量%含まれることがより好ましい。
【0047】
〔ウレタン(メタ)アクリレート〕
本実施形態のインク組成物は、所定の構造及び重量平均分子量を有するウレタン(メタ)アクリレートを含む。このウレタン(メタ)アクリレートは、自己乳化能及び乳化性に優れるという特徴を有する。
【0048】
<ウレタン(メタ)アクリレートの構成>
本実施形態にかかるウレタン(メタ)アクリレートは、特に限定されるものではないが、例えば、重量平均分子量が1,000〜10,000であって、下記一般式(1)〜(4)で表される化合物の少なくとも1種とすることができる。
【0049】
【化2】

【0050】
ここで、残基とは上記一般式(1)〜(4)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの原料の構造において、ウレタン結合を形成する官能基を除いた部分のことであり、具体的には、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートではヒドロキシル基を除いた部分(A1で表される。)、ジイソシアネートではイソシアネート基を除いた部分(B1)、炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールではヒドロキシル基を除いた部分(C1)、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルではヒドロキシル基を除いた部分(D1)である。
【0051】
上記一般式(1)〜(4)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分子量分布を測定することによって算出することができる。本明細書における重量平均分子量とは、標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量のことであり、GPC(HLC−8220〔商品名〕、東ソー社(TOSOH CORPORATION)製)に、カラム:TSK−gel SuperHZM−M(排除限界分子量:4×106、分子量分画範囲:266〜4×106、理論段数:16,000段/本、充填剤材質:スチレン系共重合体、充填剤粒径:3μm)を3本直列として用いることにより測定される。
【0052】
上記一般式(1)で〜(4)表されるウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、1,000〜10,000であり、好ましくは2,000〜8,000である。重量平均分子量が上記範囲内である場合、ミセルを形成しやすく自己乳化性に優れたものとなり、さらに、疎水性物質をミセル内に内包しやすくなるという有利な効果が得られる。これは、上記一般式(1)〜(4)で表されるウレタン(メタ)アクリレートとしたことで、親水性と疎水性との良好なバランスが得られたためであると考えられる。
【0053】
上記一般式(1)〜(4)中、nは1〜30の自然数を表す。なお、nの具体的な数値は、上記の重量平均分子量を調整することにより決まる。
【0054】
(ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート)
上記のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、上記一般式(1)〜(4)におけるA1の構造を与える化合物である。ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、上記一般式(1)への重合性基の導入のために用いられる。具体的にいえば、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基を1個以上有し、かつ、ヒドロキシル基を1個有する化合物であって、このヒドロキシル基がジイソシアネートのうちの一個のイソシアネート基とウレタン化反応することによって(メタ)アクリロイル基がウレタン(メタ)アクリレートの主鎖の片末端に導入される。少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基の導入によって光重合(光硬化)が可能となり、さらに、2個以上の(メタ)アクリロイル基の導入によって光重合速度が高まるとともに、硬化物の硬度が高まるという有利な効果が得られる。
【0055】
単官能であるモノヒドロキシモノ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0056】
2官能であるモノヒドロキシジ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0057】
3官能以上であるモノヒドロキシポリ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0058】
これらの中でも、特に低粘度を有する乳化物を得られるため、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましく、ポリプロピレングリコールモノアクリレートがより好ましい。一方、特に硬化性に優れた乳化物を得られるため、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとして、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかが好ましい。
【0059】
上記のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
(ジイソシアネート)
上記のジイソシアネートは、上記一般式(1)〜(4)におけるB1の構造を与える化合物である。当該ジイソシアネートは、一分子内に反応性のイソシアネート基を2個有する有機ジイソシアネートを指す。
【0061】
ジイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式炭化水素骨格を有するジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族炭化水素骨格を有するジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、及びジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族炭化水素骨格を有するジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどの水素添加芳香族炭化水素骨格を有するジイソシアネートが挙げられる。
【0062】
これらの中でも、ウレタン(メタ)アクリレートの硬化物が日光(紫外線)によって黄変しにくくなるという有利な効果が得られるため、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群より選択される一種以上が好ましい。
【0063】
上記のジイソシアネートは、一分子内及び分子間において、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
(炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオール)
上記の炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールは、上記一般式(1)〜(2)におけるC1の構造を与える化合物である。当該ジオールは、上記一般式(1)〜(2)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの疎水部の疎水性の度合いを調整するために導入される。上記ジオールは良好な疎水性を得られるものが選択される。具体例としては、一分子内に2個のヒドロキシル基を有する脂肪族、脂環族、及び芳香族のジオールからなる群より選ばれる1種以上のジオールが好ましく用いられ、中でも良好な疎水性を示すジオールがより好ましい。
【0065】
また、上記ジオールは、使用目的や使用用途に応じて、当該ウレタン(メタ)アクリレートの剛直性又は柔軟性を制御するのに適するもので、かつ、良好な疎水性を示すものを選択することもできる。
【0066】
上記の脂肪族ジオールとしては、分子中に芳香族構造及び脂環族構造を有しないジオールであれば、特に限定されず公知のものを使用できる。具体例として、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,20−エイコサンジオール、ポリプロピレングリコール(例えば、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール)、脂肪族ポリカーボネートポリオール、脂肪族ポリエステルポリオール、脂肪族ポリカプロラクトンジオールなどが挙げられる。
【0067】
上記の芳香族ジオールとしては、分子中に芳香族構造を有するものであれば、特に限定されず公知のものを使用できる。具体例として、ビフェニル−4,4’−ジオール、1,4−ベンゼンジオール、ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA、芳香族ポリカーボネートポリオール、芳香族ポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0068】
上記の脂環族ジオールとしては、分子中に脂環族構造を有するものであれば、特に限定されず公知のものを使用できる。具体例として、水素添加ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、1,4−シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジメタノール、脂環族ポリカーボネートポリオール、脂環族ポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0069】
これらの中でも、水への乳化が良好になり、かつ、ウレタン(メタ)アクリレートの硬化物が日光(紫外線)によって黄変しにくくなるため、脂肪族ジオール及び脂環族ジオールが好ましい。脂肪族ジオールの中では、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、及び1,20−エイコサンジオールからなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。また、脂環族ジオールの中では、水素添加ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、1,4−シクロヘキサンジオール、及びトリシクロデカンジメタノールからなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。
【0070】
上記のジオールは、一分子内及び分子間において、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
(ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル)
上記のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、上記一般式(1)〜(4)におけるD1の構造を与える化合物である。ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、ポリオキシアルキレングリコールの1つのヒドロキシル基がアルキル基で封鎖された化合物であって、下記一般式(5)で表される。
HO−(CH2CH2O)m−R …(5)
(式(5)中、Rはアルキル基であり、mは9〜90の自然数を表す。)
【0072】
このヒドロキシル基がジイソシアネートのうちの一個のイソシアネート基とウレタン化反応によってウレタン(メタ)アクリレートの主鎖の片末端に導入される。これによって、ウレタン(メタ)アクリレートは直鎖状の主鎖の片末端に親水性部を持ち、もう一方の末端に1個以上の重合性基である(メタ)アクリロイル基と疎水性基とから構成される疎水部が配置する両親媒性物質の構造となるため、水への乳化性が特に優れたものとなる。
【0073】
また、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、親水性を自由に調整できるという有利な効果が得られるため、分子内にポリオキシエチレン構造を含むことが好ましい。
【0074】
ポリオキシエチレン構造はオキシエチレン基の繰り返し構造である。オキシエチレン基の平均の繰り返し数、すなわち上記一般式(5)におけるmは、ウレタン(メタ)アクリレートの水への乳化が良好となるように親疎水のバランスを調整して決定され、9〜90の自然数が好ましく、9〜30の自然数がより好ましい。
【0075】
ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコールモノメトキシエーテル、ポリエチレングリコールモノエトキシエーテル等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。
【0076】
また、ポリオキシエチレン構造に加えて他のポリオキシアルキレン構造も分子内に含むポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルも使用可能である。その際、末端アルキル基側にポリオキシエチレン構造が位置していることが、乳化にとって好ましい。この場合にポリオキシエチレン構造とともに使用できるポリオキシアルキレン構造には、ポリオキシプロピレン構造、ポリオキシテトラメチレン構造が挙げられる。ポリオキシエチレン構造とともに使用するポリオキシアルキレン構造のオキシアルキレン基の繰り返し数は当該ウレタン(メタ)アクリレートの親疎水バランスを考慮して適宜決定される。
【0077】
ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの末端アルキル基、すなわち上記一般式(5)のRとしては、炭素数の少ないアルキル基ほど疎水性が一層低下し乳化性に一層優れるため、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0078】
上記のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
また、ウレタン(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
ウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、インク組成物として用いる場合に、塗膜を形成でき、かつ、良好な膜強度や密着性等の塗膜性能を得るため、インク組成物の総量(100質量%)に対して、5〜50質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。
【0081】
<ウレタン(メタ)アクリレートの製造方法>
以下、上記ウレタン(メタ)アクリレートの製造方法を説明する。ウレタン(メタ)アクリレートは、前記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートと、前記ジイソシアネートと、前記炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールと、前記ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、を反応させることで得られる。より詳細にいえば、ウレタン(メタ)アクリレートの製造方法は、第1の工程と第2の工程と第3の工程とを含む。
【0082】
第1の工程では、前記ジイソシアネートと、前記炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールと、を反応させ、ウレタン結合を有する第1の反応物を得る。この第1の工程において、上記ジイソシアネートと、上記炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールと、のモル比は、好ましくは5:1〜5:4であり、より好ましくは5:2〜5:3である。
【0083】
第2の工程では、前記第1の反応物と、前記ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、を反応させ、第2の反応物を得る。この第2の工程において、上記第1の反応物と、上記ポリオキシアルキレングリコールと、のモル比は、水への乳化が良好となるため、好ましくは1:0.5〜1:1である。
【0084】
第3の工程では、前記第2の反応物と、前記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートと、を反応させる。この第3の工程において、上記第2の反応物と、上記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートと、のモル比は、好ましくは1:1.5〜1:1であり、より好ましくは1:1.4〜1:1.2である。
【0085】
〔光ラジカル重合開始剤〕
本実施形態のインク組成物は、光ラジカル重合開始剤を含む。この光ラジカル重合開始剤は、紫外線等の活性エネルギー線が照射されることによる光開裂や水素引抜き等によって、ラジカル(開始剤ラジカル)が生成し、ラジカル重合性化合物を攻撃することでラジカル重合を引き起こす。
【0086】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、特に限定されないが、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p’−ジクロロベンゾフェノン、p,p’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンジルメチルケタール、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}2−メチルプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)ブタン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]2−モルフォリノプロパン−1−オン、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、メチルベンゾフィルフォーメート、アゾビスイソブチリロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、及びジ−tert−ブチルペルオキシドが挙げられる。
【0087】
光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、Speedcure TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、BASF社製)、DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製)、及びユベクリルP36(UCB社製)等が挙げられる。
【0088】
本実施の形態に係る光硬化型組成物を紫外線LEDにより硬化させる場合には、350nm以上430nm以下の波長領域に極大吸収波長を有する光重合開始剤を用いることが好ましい。具体的には、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(DAROCUR TPO、BASF社製)、Speedcure TPO(Lambson Group Ltd製)、及びビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニル−フォスフィンオキサイド(IRGACURE 819、BASF社製)が挙げられる。
【0089】
光ラジカル重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。光ラジカル重合開始剤は、インク組成物の総量(100質量%)に対して、0.1〜10質量%含まれることが好ましく、0.5〜8質量%含まれることがより好ましい。上記の範囲内である場合、硬化性が良好なものとなる。
【0090】
[光硬化型水性エマルション]
本実施形態のインク組成物中で、光硬化型水性エマルションは、ウレタン(メタ)アクリレートと、ラジカル重合性化合物及び光ラジカル重合開始剤と、から構成され得る。この場合、水や溶媒存在下での紫外線照射による硬化性に優れ、かつ、臭いを効果的に抑制することができる。
【0091】
後述する両親媒性直鎖型ウレタン(メタ)アクリレートのエマルションに光ラジカル重合開始剤及びラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物を内包させることにより、硬化性が優れたものとなる。上記ウレタン(メタ)アクリレートは両親媒性物質であることから、その分子構造を直鎖型構造にすることにより、安定で分散性に優れ、かつ、低粘度となるという有利な効果を奏する光硬化型水性エマルションを得ることが可能となる。
【0092】
光硬化型水性エマルションに起因した上述の効果は、以下の理由によってもたらされたものと考えられる。
【0093】
図1は、光硬化型水性エマルションの紫外線硬化型水性エマルションを巨視的に説明する示す模式図であり、図2は、光硬化型水性エマルションの紫外線硬化型水性エマルションを微視的に示す説明する模式図である。ウレタン(メタ)アクリレートは図1及び図2に示すように水中で疎水性部をコアに向け親水性部を水相に向けてシェル層を成してミセルを形成し、水中でラジカル重合性化合物(好ましくはラジカル重合性(メタ)アクリレート)と光ラジカル重合開始剤とを内包したミセルを形成することができると考えられる。
【0094】
これは、上記ウレタン(メタ)アクリレートの分子構造に起因するものと考えられる。つまり、ミセル形成時において、ウレタン(メタ)アクリレートの分子構造は、主鎖が分岐している場合、又は主鎖の両末端に疎水部をもつ場合と比較して、立体障害が小さく、屈曲したコンフォメーションをとることもないと考えられる。そのため、親水性部を水相に向けて規則正しく密に配向することが可能となると考えられる。したがって、密に配向したミセルであれば、ウレタン結合間の水素結合が有効に働いてミセルの形成強度(パッキング性)が増大するため、ミセルの安定性及び分散性に寄与すると考えられる。
【0095】
よって、光硬化型水性エマルションは、ラジカル重合性化合物(好ましくはラジカル重合性(メタ)アクリレート)と光ラジカル重合開始剤とをミセル中に含む場合にも、安定性に優れ、良好な光重合性が得られると考えられる。
【0096】
また、光硬化型水性エマルションは、本技術分野に属する当業者であれば、後記の実施例欄で行った方法を適宜改良・変更することにより、適当な方法を選択することができ、乳化重合法、高圧乳化法、転相乳化法等、公知の方法を採用すればよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種公知の乳化剤、分散剤を用いてもよい。
【0097】
なお、乳化重合法とは、界面活性剤のような両親媒性物質を水相中に添加しておき、そこに油相を加える方法である。高圧乳化法とは、水相、油相及び界面活性剤のような両親媒性物質を予備混合し、ホモジナイザー等の高圧乳化機にて乳化し水性エマルションを得る方法である。転相乳化法とは、界面活性剤のような両親媒性物質を油相中に溶解・分散させ、そこに水相を添加してO/W型エマルションを得るという方法である。乳化の途中で連続相が水から油へと変化(転相)するので、転相乳化と呼ばれる。
【0098】
このように、ウレタン(メタ)アクリレートを用いた光硬化型水性エマルションを含有するインク組成物は、粘度が低く、硬化性に優れ、水の存在下でも光硬化可能で、かつ、耐加水分解性に優れる。特に、上記のウレタン(メタ)アクリレートが形成するミセル中にラジカル重合性基を有する化合物と光ラジカル重合開始剤とを含む形態において、優れた硬化性と、所定濃度の水の存在下においても光硬化するという従来の光硬化型水性エマルションにはない性能と、を得ることができる。また、光硬化型水性エマルションのミセルを形成するウレタン(メタ)アクリレートは、その構造から密に配向でき、さらに、その構造の疎水性部分にウレタン結合(ウレタン基)を有することから、配列したウレタン(メタ)アクリレート間に水素結合による強い結合力が働くと考えられる。そのため、ミセルの内包物が漏出し難く、加水分解し難い安定な乳化物が得られたと考えられる。
この推察は、光硬化性水性エマルションの硬化性を説明するために行ったものであって、本実施形態における光硬化性水性エマルションを限定するものではない。
【0099】
(水溶性有機溶剤)
本実施形態のインク組成物は水溶性有機溶剤を含んでもよい。インク組成物が水溶性有機溶剤を含むことにより、開放状態(室温でインクが空気に触れている状態)で放置しても、流動性と再分散性とを長時間維持できるインクジェット用インクを得ることができる。さらに、このようなインク組成物は、インクジェットプリンターを用いての印字中もしくは印字中断後の再起動時に、インクジェットノズルの目詰まりが生じにくくなるため、インクジェットノズルからの吐出安定性に優れたインク組成物が得られる。
【0100】
この水溶性有機溶剤としては、この種のインク組成物に用いられるものは特に制限無く使用できる。特に、インク組成物に保水性と湿潤性を付与するため、沸点が180℃以上、好ましくは200℃以上の高沸点湿潤剤を用いることが好ましい。高沸点湿潤剤の具体例としては、特に限定されないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、グリセリン、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、2−ピロリドン等が挙げられる。
【0101】
水溶性有機溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
前述したように、これらの水溶性有機溶剤は、インクの硬化反応を阻害してしまうため、インクの信頼性および良好な硬化性を両立するには、インク組成物の総量(100質量%)に対し、1〜30質量%含まれることが好ましく、1〜10質量%がより好ましい。
【0103】
〔色材〕
本実施形態のインク組成物は、色材をさらに含んでもよい。色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。
【0104】
(顔料)
本実施形態において、色材として顔料を用いることにより、インク組成物の耐光性を向上させることができる。この顔料としては、インクジェット用水性顔料インクに通常用いられているものであれば特に制限無く用いることができる。
【0105】
上記顔料として、例えば、アゾ顔料(例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等の有機顔料;カーボンブラック(例えば、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等)、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等の無機顔料;シリカ、炭酸カルシウム、タルク等の体質顔料等を用いることができる。
【0106】
上記顔料の具体例として、C.I.ピグメントイエロー 64、74、93、109、110、128、138、139、150、151、154、155、180、185、C.I.ピグメントレッド 122、202、209、C.I.ピグメントバイオレット 19、C.I.ピグメントブルー 15:3、15:4、60、C.I.ピグメントグリーン 7(フタロシアニングリーン)、10(グリーンゴールド)、36、37、C.I.ピグメントブラウン 3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、34、36、38、64、71等が挙げられる。
【0107】
上記顔料は、分散剤により水に分散させて得られる顔料分散液として、あるいは、顔料粒子表面に化学反応を利用して親水性基を導入した自己分散型の表面処理顔料を水に分散させて得られるか、又は、ポリマーで被覆された顔料を水に分散させて得られる顔料分散液として、インクに添加されることが好ましい。
【0108】
前者、即ち分散剤により水に分散させて得られる顔料分散液を調製するのに用いられる分散剤として、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤(にかわ、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、などのタンパク質類、アラビアゴム、トラガントゴムなどの天然ゴム類、サポニンなどのグルコシド類、アルギン酸及びプロピレングリコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン、アルギン酸アンモニウムなどのアルギン酸発酵体メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、エチルヒドロキシセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール類、ポリピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−m−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、などのスチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びそれらの塩など)や界面活性剤(各種アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤など)を使用することができる。
【0109】
一方、後者のうち上記の親水性基を導入した自己分散型の表面処理顔料は、顔料の表面にカルボキシル基及びその塩が直接結合するような表面処理により、分散剤なしに水に分散又は溶解が可能とされたものである。具体的には、真空プラズマなどの物理的処理や次亜塩素酸ナトリウムやオゾン等の酸化剤を用いた化学的処理により、官能基または官能基を含んだ分子を顔料の表面にグラフトさせることによって得ることができる。一つの顔料粒子にグラフトされる官能基は単一でも複数種であってもよい。グラフトされる官能基の種類及びその程度は、インク中での分散安定性、色濃度、及びインクジェットヘッド前面での乾燥性等を考慮しながら適宜決定されてよい。
【0110】
また、後者のうち上記のポリマーで被覆された顔料は、特に限定されないが、例えば、重合性基を有する分散剤を用いて顔料を分散させた後、その分散剤と共重合可能なモノマー(共重合性モノマー)と、光ラジカル重合開始剤と、を用いて水中で乳化重合を行うことにより、得ることができる。このポリマーの中でも、二重結合としてアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、及びアリル基のうち少なくともいずれかを有するモノマーやオリゴマーが、光ラジカル重合開始剤を使用する公知の重合法に従って重合されたものが、好適に使用可能である。上記の乳化重合は、一般的な方法を用いることができ、重合は乳化剤の存在下で水溶性の光ラジカル重合開始剤の熱分解で発生するフリーラジカルにより進行する。
【0111】
上記顔料分散液を構成する顔料及び分散剤は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0112】
顔料分散液は、色々な種類のメディア上での鮮明な画像形成という有利な効果が得られるため、固形分換算で、インク組成物の総量(100質量%)に対し、0.05〜25質量%含まれることが好ましく、0.1〜20質量%含まれることがより好ましい。
【0113】
〔その他の添加剤〕
本実施形態のインク組成物は、上記した添加剤以外の添加剤を含んでもよい。その他の添加剤として、特に限定されないが、例えば、浸透溶剤、防黴剤、防腐剤、防錆剤、酸化防止剤、増粘剤、pH調整剤、(定着)樹脂、及び界面活性剤が挙げられる。
【0114】
上記インク組成物は浸透溶剤を含んでもよい。浸透溶剤を含むことにより、広範囲なメディア上での適切な濡れ広がりという有利な効果が得られる、この浸透性溶剤として、特に限定されないが、1,2−アルカンジオール、アセチレングリコール、アルキレングリコール、アルキレングリコールアルキルエーテル、及びグリコールエーテルが挙げられる。これらの中でも1,2−アルカンジオールを用いることにより印刷本紙及びプラスチックフィルム等のインクを吸収し難いか、又は吸収しない被記録媒体に印字したときに、他の浸透性溶剤を用いたときよりも記録物の凝集ムラを低減させることができる。
【0115】
1,2−アルカンジオールの具体例としては、特に限定されないが、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、及び4−メチル−1,2−ペンタンジオールが挙げられる。
【0116】
また、上記インク組成物は界面活性剤を含んでもよい。この界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤として、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが特に好ましい。具体例としては、BYK−331、BYK−333、BYK−375、BYK−347、BYK−348、BYK−UV3500、3510、3530、3570(以上、ビックケミー・ジャパン社(BYK Japan KK)製)を挙げることができる。
【0117】
界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0118】
[インクジェット用インク組成物の製造方法]
本実施形態のインク組成物は、少なくとも、水と、ウレタン(メタ)アクリレートと第1のラジカル重合性化合物と、第2のラジカル重合性化合物と、光重合開始剤と、を混合することによって得ることができる。
【0119】
このように、本実施形態によれば、紫外線照射による硬化性、ドット抜けや飛行曲がり等の吐出安定性、長期放置後のノズル詰まり回復性、インクの保存安定性に優れたインクジェット用インク組成物が得られる。さらにいえば、このインクジェット用インク組成物は、高速印刷及び低粘度を実現し、かつ、安全性及び被記録媒体への対応性にも優れる。
【0120】
[記録物]
本発明の一実施形態は、記録物に係る。当該記録物は、上記実施形態のインク組成物が、被記録媒体に記録されたものであり、被記録媒体と、その被記録媒体に記録された上記インク組成物の硬化物とを備える。上記記録物は、耐擦過性及び耐ガス性に優れるという特徴を有する。
【0121】
[インクジェット記録方法]
本発明の一実施形態は、インクジェット記録方法に係る。当該インクジェット記録方法は、上記実施形態のインク組成物を被記録媒体上に吐出する吐出工程と、上記吐出工程により吐出されたインク組成物に、活性エネルギー線を照射して、当該インク組成物を硬化する硬化工程と、を含むものである。このようにして、被記録媒体上で硬化したインク組成物により、硬化膜(塗膜)が形成される。以下、上記の各工程を詳細に説明する。
【0122】
〔吐出工程〕
上記吐出工程においては、従来公知のインクジェット記録装置を用いることができる。インク組成物の吐出の際は、インク組成物の粘度を、30mPa・s以下とするのが好ましく、2〜20mPa・sとするのがより好ましい。インク組成物の粘度が上記範囲内であると、良好な吐出安定性が実現される。
【0123】
〔硬化工程〕
次に、上記硬化工程においては、被記録媒体上に吐出されたインク組成物が、活性エネルギー線の照射によって硬化する。
【0124】
具体的には、活性エネルギー線の照射によって、重合性化合物の重合反応が開始する。また、インク組成物に含まれる光ラジカル重合開始剤が活性エネルギー線の照射により分解して、ラジカル、酸、及び塩基などの開始種を発生し、重合性化合物の重合反応が、その開始種の機能によって促進される。このとき、インク組成物において光ラジカル重合開始剤と共に増感色素が存在すると、系中の増感色素が活性エネルギー線を吸収して励起状態となり、光ラジカル重合開始剤と接触することによって光ラジカル重合開始剤の分解を促進させ、より高感度の硬化反応を達成させることができる。
【0125】
光源(活性エネルギー線源)としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、光硬化型インクジェット用インク組成物の硬化に使用される光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。その一方で、現在環境保護の観点から水銀フリー化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用である。さらに、紫外線発光ダイオード(UV−LED)及び紫外線レーザーダイオード(UV−LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、光硬化型インクジェット用光源として期待されている。これらの中でも、UV−LEDが好ましい。
【0126】
ここで、活性エネルギー線は、第1または第2のラジカル重合性化合物の硬化に好適な発光ピーク波長を有することができる。本実施形態においては、発光ピーク波長が、好ましくは360〜420nmの範囲にある放射線を照射することにより硬化可能であるようなインク組成物を用いる。また、照射エネルギーは、500mJ/cm2以下が好ましい。
【0127】
上記の場合、上記実施形態のインク組成物の組成に起因して低エネルギー且つ高速での硬化が可能となる。照射エネルギーは、照射時間に照射強度を乗じて算出される。上記実施形態のインク組成物の組成によって照射時間を短縮することができ、この場合、記録速度が増大する。他方、上記実施形態のインク組成物の組成によって照射強度を減少させることもでき、この場合、装置の小型化やコストの低下が実現する。その際の放射線照射には、UV−LEDを用いることが好ましい。このようなインク組成物は、上記波長範囲の放射線照射により分解する光ラジカル重合開始剤、及び上記波長範囲の放射線照射により重合を開始する重合性化合物を含むことにより得られる。なお、発光ピーク波長は、上記の波長範囲内に1つあってもよいし複数あってもよい。複数ある場合であっても上記発光ピーク波長を有する放射線の全体の照射エネルギーを上記の照射エネルギーとする。
【0128】
このように、本実施形態によれば、活性エネルギー線照射による硬化性及びドット抜けや飛行曲がり等の吐出安定性、ノズル詰まり回復性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。
【実施例】
【0129】
以下、本発明の実施形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明の実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0130】
[使用材料]
〔ウレタンアクリレートの合成材料〕
(A:ヒドロキシル基含有アクリレート)
・重量平均分子量が400のポリプロピレングリコールモノアクリレート(ブレンマーAP400〔商品名〕、日油社製)(以下、「PPGアクリレート」という。)
・ペンタエリスリトールトリアクリレート(アロニックスM−305〔商品名〕、東亞合成社製)
・ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(アロニックスM−403〔商品名〕、東亞合成社製;ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとして50〜60質量%)
【0131】
(B:ジイソシアネート)
・イソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」という。)
【0132】
(C:炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオール)
・1,12−ドデカンジオール
【0133】
(D:ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル)
・重量平均分子量が400のポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メトキシPEG400〔商品名〕、東邦化学工業社(TOHO Chemical Industry Co.,Ltd.)製)(以下、「メトキシPEG400」という。)
・重量平均分子量が1000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メトキシPEG1000〔商品名〕、東邦化学工業社製)(以下、「メトキシPEG1000」という。)
【0134】
〔第2のラジカル重合性化合物〕
・ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(アロニックスM−403〔商品名〕、東亞合成社製;ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとして50〜60質量%)
・ポリペンタエリスリトールポリアクリレート(ビスコート802〔商品名〕、大阪有機化学工業社製)
【0135】
〔第1のラジカル重合性化合物〕
・ポリエチレングリコールジアクリレート(〔商品名〕ライトアクリレート9EG−A(EO付加モル数9)、共栄社化学株式会社製、以下、「PEG(9)」という)
・2−ヒドロキシエチルアクリレート(〔商品名〕HEA、大阪有機化学工業株式会社製、以下、「HEA」という。)
・4−ヒドロキシブチルアクリレート(〔商品名〕4−HBA、大阪有機化学工業株式会社製、以下、「4−HBA」という。)
・ポリエチレングリコールジアクリレート(〔商品名〕ビスコート335HP(EO付加モル数4)、大阪有機化学工業株式会社製、以下、「PEG(4)」という。)
・エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(〔商品名〕SR415(EO付加モル数20)、SARTOMER USA,LLC社製、以下、eTMPTA(4))という。)
・ポリエチレングリコールジアクリレート(〔商品名〕NKエステル A−1000(EO付加モル数23)、新中村化学株式会社製、以下、「PEG(23)」という。)
【0136】
〔光ラジカル重合開始剤〕
・アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(DAROCUR TPO〔商品名〕、BASF社製、以下、「TPO」ともいう。)
【0137】
〔顔料分散液〕
・Cab−o−jet−260M(自己分散顔料分散液、固形分濃度9.96質量%、Cabot Corporation製)
【0138】
〔水溶性有機溶剤〕
・2−ピロリドン
・トリエチレングリコール(以下、「TEG」ともいう。)
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル(以下、「TEGmBE」ともいう。)
【0139】
〔界面活性剤〕
・BYK−348(ビックケミー・ジャパン社(BYK Japan KK)製)
【0140】
[ウレタンアクリレートの構造及び合成]
〔ウレタンアクリレートの構造〕
下記の実施例及び比較例において使用したウレタンアクリレートは、その構造が上記一般式(1)〜(4)で各々表されるウレタンアクリレートを使用した。
【0141】
〔両親媒性ウレタンアクリレートの合成〕
(合成例1:両親媒性ウレタンアクリレート(a)の合成)
撹拌装置、冷却管、滴下ロート、及び空気導入管を備えた反応容器に、444.6質量部のIPDIと202.3質量部の1,12−ドデカンジオールを仕込み、攪拌を行いながら、0.26質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた。その後、200.0質量部のメトキシPEG400と200.0質量部のメトキシPEG1000及び0.42質量部のオクチル酸スズを加え、さらに1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、634.3質量部のPPGアクリレート、0.84質量部のメトキノン(ヒドロキノンモノメチルエーテル)及び0.67質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた。その後、冷却して、上記一般式(1)で表される両親媒性ウレタンアクリレート(a)を得た。このウレタンアクリレート(a)の重量平均分子量は3,200であった。
【0142】
(合成例2:両親媒性ウレタンアクリレート(b)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、444.6質量部のIPDI及び202.3質量部の1,12−ドデカンジオールを仕込み、攪拌を行いながら、0.26質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた。その後、200.0質量部のメトキシPEG400と200.0質量部のメトキシPEG1000と0.42質量部のオクチル酸スズとを加え、さらに1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、594.4質量部のペンタエリスリトールトリアクリレート、0.82質量部のメトキノン、及び0.66質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた。その後、冷却して、上記一般式(1)で表される両親媒性ウレタンアクリレート(b)を得た。このウレタンアクリレート(b)の重量平均分子量は3,800であった。
【0143】
(合成例3:両親媒性ウレタンアクリレート(c)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、444.6質量部のIPDI及び202.3質量部の1,12−ドデカンジオールを仕込み、攪拌を行いながら、0.26質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた。その後、200.0質量部のメトキシPEG400と200.0質量部のメトキシPEG1000と0.42質量部のオクチル酸スズとを加え、さらに1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、1300.0質量部のジペンタエリスリトールペンタアクリレート、1.17質量部のメトキノン、及び0.94質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた。その後、冷却して、上記一般式(1)で表される両親媒性ウレタンアクリレート(c)を得た。このウレタンアクリレート(c)の重量平均分子量は5,300であった。
【0144】
(合成例4:両親媒性ウレタンアクリレート(d)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、444.6質量部のIPDI及び202.3質量部の1,12−ドデカンジオールを仕込み、攪拌を行いながら、0.26質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた。その後、700.0質量部のメトキシPEG1000と0.54質量部のオクチル酸スズとを加え、さらに1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、1300.0質量部のジペンタエリスリトールペンタアクリレート、1.32質量部のメトキノン、及び1.06質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた後、冷却して、上記一般式(1)で表される両親媒性ウレタンアクリレート(d)を得た。このウレタンアクリレート(d)の重量平均分子量は5,600であった。
【0145】
(合成例5:ウレタンアクリレート(p)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、444.6質量部のIPDI及び1000.0質量部のポリエチレングリコール(PEG1000、日油社製)を仕込み、攪拌を行いながら、0.58質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、2400.0質量部のジペンタエリスリトールペンタアクリレート、1.92質量部のメトキノン、及び1.54質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた後、冷却して、ウレタンアクリレート(p)を得た。なお、このウレタンアクリレート(p)は、両末端がアクリロイル基であるウレタンアクリレートであり、上記一般式(3)で表される。このウレタンアクリレート(p)の重量平均分子量は10,500であった。
【0146】
(合成例6:ウレタンアクリレート(q)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、578.0質量部のHMDI 3量体(コロネートHXR、日本ポリウレタン社製)、200.0質量部のメトキシPEG400、及び200.0質量部のメトキシPEG1000を仕込み、攪拌を行いながら、0.39質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を75℃まで昇温し、1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、1051.6質量部のペンタエリスリトールトリアクリレート、1.01質量部のメトキノン、及び0.81質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を80℃まで昇温し、2時間反応させた後、冷却して、ウレタンアクリレート(q)を得た。なお、このウレタンアクリレート(q)は、片末端がアクリロイル基で、かつ、3官能のイソシアネートを用いたウレタンアクリレートであり、上記一般式(4)で表される。このウレタンアクリレート(q)の重量平均分子量は7,400であった。
【0147】
(合成例7:ウレタンアクリレート(s)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、444.6質量部のIPDI(2モル)と62.1質量部のエチレングリコール(1モル)を仕込み、攪拌を行いながら、0.20質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた後、700.0質量部のメトキシPEG1000(1モル)、0.48質量部のオクチル酸スズを加え、さらに1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、634.3質量部のPPGアクリレート(1.6モル)、0.92質量部のメトキノンおよび0.68質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた後、冷却して、上記一般式(1)で表される構造に類似したウレタンアクリレート(s)を得た。具体的にいえば、このウレタンアクリレート(s)は、上記一般式(1)における「C1」の炭素数が2であるウレタンアクリレートである点で、上記一般式(1)で表される構造に類似しているが一般式(1)で表される構造そのものを有していない。このウレタンアクリレート(s)の重量平均分子量は3,000であった。
【0148】
(合成例8:ウレタンアクリレート(t)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、222.3質量部のIPDI(1モル)と700.0質量部のメトキシPEG1000(0.7モル)を仕込み、攪拌を行いながら、0.48質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、634.3質量部のPPGアクリレート(1.6モル)、0.78質量部のメトキノンおよび0.62質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた後、冷却して、上記一般式(5)で表されるウレタンアクリレート(t)を得た。なお、このウレタンアクリレート(t)は、ジオール残基のないウレタンアクリレートである。このウレタンアクリレート(t)の重量平均分子量は2,300であった。
【0149】
[光硬化型水性エマルションの調製]
光硬化型水性エマルションの調製方法を以下に示す。
【0150】
〔合成例9:光硬化型水性エマルション(a−1)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(a)27.5質量部、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート9.2質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(a)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(a−1)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0151】
〔合成例10:光硬化型水性エマルション(b−1)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(b)27.5質量部、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート9.2質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(b)、光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(b−1)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0152】
〔合成例11:光硬化型水性エマルション(c−1)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(c)27.5質量部、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート9.2質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(c)、光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(c−1)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0153】
〔合成例12:光硬化型水性エマルション(c−1)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(c)36.7質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(c)、光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(c−2)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0154】
〔合成例13:光硬化型水性エマルション(d−1)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(d)27.5質量部、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート9.2質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(d)、光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(d−1)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0155】
〔合成例14:光硬化型水性エマルション(p−1)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(p)27.5質量部、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート9.2質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(p)、光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(p−1)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0156】
〔合成例15:光硬化型水性エマルション(q−1)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(q)27.5質量部、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート9.2質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(q)、光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(q−1)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0157】
〔合成例16:光硬化型水性エマルション(s−1)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(s)27.5質量部、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート9.2質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(s)、光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(s−1)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0158】
〔合成例17:光硬化型水性エマルション(t−1)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(t)27.5質量部、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート9.2質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(t)、光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(t−1)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0159】
【表1】

【0160】
[実施例1〜15、比較例1〜3]
上記の材料、及び上記合成例9〜17で得られた光硬化型水性エマルションを用いて、下記表2〜3に示す組成(質量部)に従い、各インク組成物を調製した。ここで、表中の「%」は質量%を意味する。
【0161】
【表2】

【0162】
【表3】

【0163】
[測定項目・評価項目]
〔インクの吐出安定性〕
インクジェットプリンター EM−930C(セイコーエプソン社製商品名)のブラックインクカートリッジにインクを充填し、キャラクターパターンを連続でA4サイズに100枚印刷した。その際に生じた、ドット抜け及びインクの飛び散りの有無を観察した。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記表4および5に示す。
A:ドット抜け及びインクの飛び散り回数が30以下であり、ドット抜け及びインクの飛び散りがクリーニングで回復した。
B:ドット抜け及びインクの飛び散り回数が31〜49回であり、ドット抜け及びインクの飛び散りがクリーニングで回復した。
C:ドット抜け及びインクの飛び散り回数が50以上であり、ドット抜け及びインクの飛び散りがクリーニングで回復しなかった。
【0164】
〔インクのノズル詰まり回復性〕
インクを上述のインクジェット記録装置EM−930Cに充填し、全ノズルよりインク組成物が吐出していることを確認した後、インクカートリッジがない状態で、且つホームポジション外の位置(ヘッドがプリンターに備えたキャップの位置からずれており、ヘッドにキャップがされていない状態)で40℃の環境下に1週間放置した。放置後、再び全ノズルよりインク組成物が吐出し、初期と同等の印字が可能となるまでに必要とされたクリーニングの回数を計測し、結果を以下の基準に基づいて判定した。
A;3回以下のクリーニングで初期と同等の印字が得られる場合。
B;4回以上6回以下のクリーニングで初期と同等の印字が得られる場合。
C;7回以上10回以下のクリーニングで初期と同等の印字が得られる場合。
D;10回以上のクリーニングによっても初期と同等の印字が不可能な場合。
【0165】
〔インクの保存安定性〕
インクを40℃で静置して、状態変化を観察した。観察した結果を、以下の評価基準に分けて評価した。結果を下記表4および5に示す。
A:1週間以上の放置でも、相分離、沈殿物の発生がなく、初期の状態と変わらない。
B:1週間の放置で相分離または沈殿物の発生が認められた。
C:調製直後で相分離または沈殿物の発生があった。
【0166】
〔インクの硬化性〕
綿棒加重タック性評価を行った。具体的には、まず、PETフィルム上にバーコーターNo,6を用いて、上記で調製したインク組成物をそれぞれ塗布し、60秒後に紫外線照射した。その際、紫外線照射ランプとしてLEDランプを用いた。その後、塗膜表面を綿棒で擦り、着色のない照射エネルギーを硬化エネルギーとして評価した。硬化エネルギーが低いほど硬化性に優れていることを示す。
評価結果を下記表4および表5に示す。なお、表4および表5中の単位は「mJ/cm2」である。
【0167】
【表4】

【0168】
【表5】

【0169】
表3に示すように、実施例1〜15のインク組成物は、比較例1〜4のインク組成物と比較して、インクの吐出安定性、ノズル詰まり回復性、保存安定性、及び硬化性にいずれも優れることが分かった。
【0170】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水と、ウレタン(メタ)アクリレートと、20℃の水100gへの溶解度が1g以上である第1のラジカル重合性化合物と、20℃の水100gへの溶解度が1g未満である第2のラジカル重合性化合物と、光重合開始剤とを含むインクジェット用インク組成物であって、前記第1のラジカル重合性化合物が、前記インク組成物の総質量に対し、1〜30質量%含む、インクジェット用インク組成物。
【請求項2】
前記第1のラジカル重合性化合物が、平均付加モル数が4〜20のエチレンオキサイド付加物である、請求項1に記載のインクジェット用インク組成物。
【請求項3】
前記ウレタン(メタ)アクリレートは、重量平均分子量が1,000〜10,000であって、下記一般式(1)〜(4)で表される化合物の少なくとも1種である、請求項1または請求項2に記載のインクジェット用インク組成物。
【化1】

【請求項4】
前記ウレタン(メタ)アクリレートは、前記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートと、前記ジイソシアネートと、前記炭素数6〜20(拡張)である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールと、前記ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、を反応させて得られるものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
【請求項5】
前記ジイソシアネートが、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
【請求項6】
前記炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールが、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,20−エイコサンジオール、ビフェニル−4,4’−ジオール、1,4−ベンゼンジオール、ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、1,4−シクロヘキサンジオール、及びトリシクロデカンジメタノールからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
【請求項7】
前記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートが、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
【請求項8】
前記ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルが、下記一般式(5)で表される、請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
HO−(CH2CH2O)m−R …(5)
(式(5)中、Rはアルキル基であり、mは9〜90の自然数を表す。)
【請求項9】
前記ウレタン(メタ)アクリレートと、前記第2のラジカル重合性化合物と、光重合開始剤と、が、該インクジェット用インク組成物中で乳化分散している、請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
【請求項10】
前記第2のラジカル重合性基を有する化合物が、分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−18823(P2013−18823A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151535(P2011−151535)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】