説明

インクジェット用インク組成物

【課題】水存在下での紫外線照射によるインクの硬化性、カールの発生防止、及び塗膜表面の乾燥性に優れたインクジェット用インク組成物を提供する。
【解決手段】顔料と、水溶性有機溶剤と、ベタイン型化合物及び糖質のうち少なくともいずれかを含有する湿潤剤と、下記一般式(1)で表される、ウレタン(メタ)アクリレートと、ラジカル重合性基を有する化合物と、光ラジカル重合開始剤と、水と、を含むインクジェット用インク組成物であって、前記湿潤剤が、1質量%以上10質量%以下含まれる、インクジェット用インク組成物である。A−O−(CONH−B−NHCOO−C−O)−CONH−B−NH−COO−D…(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水系顔料インクは、インク中に揮発成分を含まず安全性や環境問題の観点から優れているが、上質紙や普通紙に印字した場合に滲みが発生し易く、また、印刷本紙に印字した場合に乾燥が不十分で高速印刷が困難である、という問題が生じる。このような問題を解決するため、従来、様々な、水系且つ顔料系の紫外線硬化型インクが開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、粒径及びゼータ電位を所定範囲とする水系の紫外線硬化型インクジェットインクが開示されている。また、この顔料系のインクジェットインクは、3つ以上の光官能基を持つ光硬化性モノマーまたはオリゴマーを20重量%以上含有し、エマルジョン型光重合性化合物を含有することも開示されている。
【0004】
特許文献2には、特定の紫外線硬化樹脂を水に乳化・分散させて、粘度を下げてなる、インクジェットプリンター用インクが開示されている。
【0005】
特許文献3には、光重合性樹脂と、光重合開始剤と、を含有する光重合型の水性インクにおいて、当該光重合性樹脂が、エマルジョン状態で存在するオリゴマー粒子と、このオリゴマー粒子内に存在するモノマーと、光重合開始剤と、で構成される水性インクが開示されている。
【0006】
特許文献4には、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール等の特定構造を有するカール防止剤を含むインク組成物が開示されている。
【0007】
特許文献5には、特定構造を有する糖質を含むインクジェット記録用インクが開示されている。
【0008】
特許文献6には、光重合性樹脂と、光重合開始剤と、を含有する光重合型の水性インクにおいて、水溶性有機溶剤および界面活性剤を用いることで、10mPa・s以上60mPa・s以下の粘度に調整したインクジェット用インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4411852号明細書
【特許文献2】特許第3659658号明細書
【特許文献3】国際公開第01/057145号
【特許文献4】特開平6−157955号公報
【特許文献5】特開平9−165539号公報
【特許文献6】特開2009−229179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、従来技術のインクにおいては、場合により界面活性剤を用いて光硬化型樹脂を水に乳化・分散させて用いたり、エマルジョン状態のオリゴマー粒子内にモノマー及び光重合開始剤を存在させたりしている。
しかしながら、水存在下での紫外線照射によるインクの硬化性、カールの発生防止、及び塗膜表面の乾燥性の点で、従来のインクには問題が生じる。
【0011】
そこで、本発明は、水存在下での紫外線照射によるインクの硬化性、カールの発生防止、及び塗膜表面の乾燥性に優れたインクジェット用インク組成物を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、顔料と、水溶性有機溶剤と、界面活性剤と、所定の湿潤剤と、所定の構造及び重量平均分子量を有するウレタン(メタ)アクリレートと、ラジカル重合性基を有する化合物と、光ラジカル重合開始剤と、水と、を含むインクジェット用インク組成物により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち、本発明は下記のとおりである。
[1]
顔料と、水溶性有機溶剤と、ベタイン型化合物及び糖質のうち少なくともいずれかを含有する湿潤剤と、下記一般式(1)で表される、重量平均分子量が1,000〜10,000であるウレタン(メタ)アクリレートと、ラジカル重合性基を有する化合物と、光ラジカル重合開始剤と、水と、を含むインクジェット用インク組成物であって、前記湿潤剤が、該インクジェット用インク組成物の総質量に対し、1質量%以上10質量%以下含まれる、インクジェット用インク組成物。
1−O−(CONH−B1−NHCOO−C1−O)n−CONH−B1−NH−COO−D1 …(1)
(式(1)中、nは1〜30の自然数を表し、A1はヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの残基を表し、B1はジイソシアネートの残基を表し、C1は炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールの残基を表し、D1はポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの残基を表す。)
[2]
前記糖質はトレハロースである、[1]に記載のインクジェット用インク組成物。
[3]
前記ベタイン型化合物はトリメチルグリシンである、[1]又は[2]に記載のインクジェット用インク組成物。
[4]
界面活性剤をさらに含む、[1]〜[3]のいずれかに記載のインクジェット用インク組成物。
[5]
前記ウレタン(メタ)アクリレートと、前記光ラジカル重合開始剤と、前記ラジカル重合性基を有する化合物と、が、該インクジェット用インク組成物中で乳化分散している、[1]〜[4]のいずれかに記載のインクジェット用インク組成物。
[6]
前記水溶性有機溶剤は、極性溶媒及び浸透性溶剤を含有する、[1]〜[5]のいずれかに記載のインクジェット用インク組成物。
[7]
前記極性溶媒は複素環式化合物である、[6]に記載のインクジェット用インク組成物。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の光硬化型水性エマルジョンを巨視的に示す模式図である。
【図2】本発明の光硬化型水性エマルジョンを微視的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
【0016】
ここで、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及びそれに対応する「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」及びそれに対応する「メタクリレート」を意味する。「硬化性」とは、光の照射により、光重合開始剤の存在下又は不存在下で重合硬化する性質のことをいう。「乾燥性」とは、被記録媒体上に印字された塗膜部分(インク部分)の乾燥の速さを意味する。「吐出安定性」とは、ノズルの目詰まりがなく常に安定したインク滴をノズルから吐出させる性質をいう。「密着性」とは、インク(インクの塗膜)と被記録媒体とが密着する性質をいう。「分散性」とは、固体粒子を液体中に分散させて安定な縣濁液を形成する性質をいう。「糖質」とは、高分子辞典第3版(社団法人高分子学会編、朝倉書店、2005年6月)に記載されているように、炭素、水素、及び酸素からなる炭素の水和物、即ちCm(H2O)n、の組成を有する物質の総称を意味する。
【0017】
[インクジェット用インク組成物]
本発明の一実施形態はインクジェット用インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)に係る。当該インクジェット用インク組成物は、顔料と、水溶性有機溶剤と、ベタイン型化合物及び糖質のうち少なくともいずれかを含有する湿潤剤と、下記一般式(1)で表される、重量平均分子量が1,000〜10,000であるウレタン(メタ)アクリレートと、光ラジカル重合開始剤と、ラジカル重合性基を有する化合物と、水と、を含み、前記湿潤剤が、当該インクジェット用インク組成物の総質量(100質量%)に対し、1質量%以上10質量%以下含まれる。
1−O−(CONH−B1−NHCOO−C1−O)n−CONH−B1−NH−COO−D1 …(1)
(上記式(1)中、nは1〜30の自然数を表し、A1はヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの残基を表し、B1はジイソシアネートの残基を表し、C1は炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールの残基を表し、D1はポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの残基を表す。)
【0018】
特に上記ウレタン(メタ)アクリレートがエマルジョンタイプである場合、当該ウレタン(メタ)アクリレートに光ラジカル重合開始剤及びラジカル重合性基を有する化合物を内包させることにより、水存在下での紫外線照射によるインクの硬化性が優れたものとなることを本願発明者らは見出した。また、エマルジョン型の上記ウレタン(メタ)アクリレートの分子構造を直鎖型構造にすることにより、インクの低粘度化が実現可能なことを本願発明者らは見出した。
【0019】
以下、インクジェット用インク組成物の各成分を詳細に説明する。
【0020】
〔顔料〕
本実施形態のインク組成物は顔料を含む。この顔料としては、インクジェット用水性顔料インクに通常用いられているものであれば特に制限無く用いることができる。
【0021】
上記顔料として、例えば、アゾ顔料(例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、及びアニリンブラック等の有機顔料、カーボンブラック(例えば、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等)、金属酸化物、金属硫化物、及び金属塩化物等の無機顔料、並びにシリカ、炭酸カルシウム、及びタルク等の体質顔料等を用いることができる。
【0022】
上記顔料の具体例として、C.I.ピグメントイエロー 64、74、93、109、110、128、138、139、150、151、154、155、180、185、C.I.ピグメントレッド 122、202、209、C.I.ピグメントバイオレット 19、C.I.ピグメントブルー 15:3、15:4、60、C.I.ピグメントグリーン 7(フタロシアニングリーン)、10(グリーンゴールド)、36、37、C.I.ピグメントブラウン 3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、34、36、38、64、71が挙げられる。
【0023】
上記顔料は、分散剤により水に分散させて得られる顔料分散液として、あるいは、顔料粒子表面に化学反応を利用して親水性基を導入した自己分散型の表面処理顔料を水に分散させて得られるか、又は、ポリマーで被覆された顔料を水に分散させて得られる顔料分散液として、インクに添加されることが好ましい。
【0024】
前者、即ち分散剤により水に分散させて得られる顔料分散液を調製するのに用いられる分散剤として、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤(にかわ、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、などのタンパク質類、アラビアゴム、トラガントゴムなどの天然ゴム類、サポニンなどのグルコシド類、アルギン酸及びプロピレングリコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン、アルギン酸アンモニウムなどのアルギン酸発酵体メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、エチルヒドロキシセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール類、ポリピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−m−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、などのスチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びそれらの塩など)や界面活性剤(各種アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤など)を使用することができる。
【0025】
一方、後者のうち上記の親水性基を導入した自己分散型の表面処理顔料は、顔料の表面にカルボキシル基及びその塩が直接結合するような表面処理により、分散剤なしに水に分散又は溶解が可能とされたものである。具体的には、真空プラズマなどの物理的処理や次亜塩素酸ナトリウムやオゾン等の酸化剤を用いた化学的処理により、官能基または官能基を含んだ分子を顔料の表面にグラフトさせることによって得ることができる。一つの顔料粒子にグラフトされる官能基は単一でも複数種であってもよい。グラフトされる官能基の種類及びその程度は、インク中での分散安定性、色濃度、及びインクジェットヘッド前面での乾燥性等を考慮しながら適宜決定されてよい。
【0026】
また、後者のうち上記のポリマーで被覆された顔料は、特に限定されないが、例えば、重合性基を有する分散剤を用いて顔料を分散させた後、その分散剤と共重合可能なモノマー(共重合性モノマー)と、光ラジカル重合開始剤と、を用いて水中で乳化重合を行うことにより、得ることができる。このポリマーの中でも、二重結合としてアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、及びアリル基のうち少なくともいずれかを有するモノマーやオリゴマーが、光ラジカル重合開始剤を使用する公知の重合法に従って重合されたものが、好適に使用可能である。上記の乳化重合は、一般的な方法を用いることができ、重合は乳化剤の存在下で水溶性の光ラジカル重合開始剤の熱分解で発生するフリーラジカルにより進行する。
【0027】
上記顔料分散液を構成する顔料及び分散剤は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
顔料分散液は、色々な種類の被記録媒体上での鮮明な画像形成という有利な効果が得られるため、固形分換算で、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、0.05〜25質量%含まれることが好ましく、0.1〜20質量%含まれることがより好ましい。
【0029】
〔水溶性有機溶剤〕
本実施形態のインク組成物は水溶性有機溶剤を含む。インク組成物が水溶性有機溶剤を含むことにより、インクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まり防止やインクの被記録媒体への浸透性や滲みを適度に制御したり、インクの乾燥性を付与したりすることができる。
【0030】
水溶性有機溶剤は、ドット抜けのない安定した吐出安定性や、広範囲な被記録媒体上での適切な濡れ広がりという有利な効果が得られるため、極性溶媒(極性溶剤)及び浸透性溶剤のうち少なくともいずれかを含有することが好ましい。
【0031】
極性溶媒として、特に限定されないが、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、ε−カプロラクタム、ジメチルスルホキシド、スルホラン、モルホリン、N−エチルモルホリン、及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが挙げられる。極性溶媒を添加することにより、インク組成物中におけるカプセル化顔料粒子の分散性が向上するという効果が得られ、インクの吐出安定性を良好にすることができる。
【0032】
極性溶媒は、複素環式化合物であることが好ましく、これらの中でも2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、2H−ピラン、4H−ピランが好ましく、2−ピロリドンがより好ましい。
【0033】
また、浸透性溶剤として、特に限定されないが、1,2−アルカンジオール、アセチレングリコール、アルキレングリコール、アルキレングリコールアルキルエーテル、及びグリコールエーテルが挙げられる。これらの中でも1,2−アルカンジオールを用いることにより印刷本紙及びプラスチックフィルム等のインクを吸収し難いか、又は吸収しない被記録媒体に印字したときに、他の浸透性溶剤を用いたときよりも記録物の凝集ムラを低減させることができる。1,2−アルカンジオールの中でも、特に1,2−ヘキサンジオールにおいて、かかる効果は顕著である。
【0034】
また、水溶性有機溶剤は、2−ピロリドン、グリコールエーテル、1,2−アルカンジオール、アルキレングリコール、アルキレングリコールアルキルエーテルからなる群より選択される1種以上を含有することが好ましい。
【0035】
1,2−アルカンジオールの具体例としては、特に限定されないが、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、及び4−メチル−1,2−ペンタンジオールが挙げられる。
【0036】
アルキレングリコールの具体例としては、特に限定されないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、及びジプロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。
【0037】
また、常温常圧下で液体であるアルキレングリコールアルキルエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、メチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、ヘキシル、及び2−エチルヘキシルの脂肪族、並びに二重結合を有するアリル及びフェニルの各基をベースとするエチレングリコール系エーテルとプロピレングリコール系エーテルとが挙げられる。これらは、無色で臭いも少なく、分子内にエーテル基とヒドロキシル基とを有しているので、アルコール類及びエーテル類の両方の特性を備えた、常温で液体の成分である。また、片方のヒドロキシル基だけを置換したモノアルキルエーテル型と両方のヒドロキシル基を置換したジアルキルエーテル型があり、これらを複数種組み合わせて用いることができる。
【0038】
上記アルキレングリコールアルキルエーテルの具体例としては、特に限定されないが、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGmBE)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、並びに、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、及びポリエチレングリコールジメチルエーテル等のアルキレングリコールジアルキルエーテルが挙げられる。
【0039】
また、それらの誘導体として、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートも使用可能である。上記アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエーテルアセテート、ジプロピレンモノエチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0040】
水溶性有機溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
水溶性有機溶剤は、インクの適正な物性値(粘度等)、印刷品質、及び信頼性を確保するため、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、1〜40質量%含まれることが好ましく、2〜30質量%がより好ましい。
【0042】
〔湿潤剤〕
本実施形態のインク組成物は、ベタイン型化合物及び糖質のうち少なくともいずれかを含有する湿潤剤を含む。インク組成物が当該湿潤剤を含有することにより、被記録媒体に印字する際に発生し得るカールを防止できる。
【0043】
(ベタイン型化合物)
ベタイン型化合物は両性界面活性剤に属する化合物である。このベタイン型化合物として、以下に限定されないが、例えば下記一般式(2)で表される、分子内に4級アンモニウム塩のカチオン部分とカルボン酸塩のアニオン部分とを有するものが挙げられる。
123−N+−CH2COO- ・・・(2)
(上記式(2)中、R1は炭素数が8〜30のアルキル基、又は当該アルキル基の水素原子が水酸基もしくはカルボキシル基で置換された基を表し、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子、炭素数が1〜5のアルキル基、又はこのアルキル基の水素原子が水酸基もしくはカルボキシル基に置換された基を表す。)
【0044】
4級アンモニウム塩に結合するアルキル基R1は、炭素数8〜30が好ましく、炭素数12〜18がより好ましい。R1の炭素数が上記範囲内であると、疎水性部分の分子量の低下を抑えられるため耐久親水性が良好であり、かつ、コストの点で実用に適したものとなる。また、R1のアルキル基の水素原子は、水酸基やカルボキシル基等その他の官能基で任意に置換されていてもよい。また、4級アンモニウム塩に結合する基、即ちR2及びR3は、それぞれ独立して水素原子、炭素数が1〜5のアルキル基、又は当該アルキル基の水素原子が水酸基もしくはカルボキシル基に置換された基であり、中でもR2及びR3は、コストの点で実用に適したものとなるため、炭素数1〜5のアルキル基がより好ましい。また、R2及びR3は水素であってもよいが、安定性に優れるため炭素数1〜5のアルキル基である方がより好ましい。さらに、R2及びR3のアルキル基の水素原子は、水酸基やカルボキシル基等その他の官能基で任意に置換されていてもよい。
【0045】
上記ベタイン型化合物の中でも、カール及びコックリングを抑制できるため、トリメチルグリシン、γ−ブチロベタイン、ホマリン、トリゴネリン、カルニチン、ホモセリンベタイン、バリンベタイン、リジンベタイン、オルニチンベタイン、アラニンベタイン、スタキドリン、グルタミン酸ベタイン等のアミノ酸のN−トリアルキル置換体であるベタイン類がより好ましく、中でもトリメチルグリシンがさらに好ましい。ベタイン型化合物は常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。市販品としては、例えば、アミノコート(登録商標、旭化成ケミカルズ社(Asahi Kasei Chemicals Corporation)製のトリメチルグリシン)が挙げられる。
【0046】
また、インク組成物がベタイン型化合物を含有することにより、カール低減効果が発揮される理由は、カール発生のメカニズムが十分解明されていないものの次のように推測される。つまり、被記録媒体のセルロース繊維間の水素結合がインク中の水により一旦切れ、水が蒸発した際、切れた水素結合が再結合する。この場合、切れる前と同じ位置で再結合が行われれば問題はないが、別の位置で再結合すると、繊維の伸縮が生じてカールやコックリング(カックル)が生じると考えられる。そこで、ベタイン型化合物をインク組成物中に含有させることにより、ベタイン型化合物の正電荷がセルロースの水酸基と静電気的に結合し、水とセルロースの繊維との間の接触面積を減らせるため、セルロース繊維間の水素結合を切れにくくしていると考えられる。
【0047】
(糖質)
糖質としては、糖又は糖アルコールが好ましい。湿潤剤として糖又は糖アルコールを用いることで、印字した時のカール及びコックリングの発生を一層効果的に防止することができる。
【0048】
前記糖としては、特に限定されないが、例えば、単糖類、二糖類、オリゴ糖(三糖類及び四糖類を含む)及び多糖類が挙げられ、好ましくはグルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオースが挙げられる。
【0049】
前記糖アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、トレイトール、エリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、リキシトール、ソルビトール(グルシトール)、マンニトール、イジトール、グリトール、タリトール、ガラクチトール、アリトール、アルトリトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、ツラニトールが挙げられる。
【0050】
これらの中でも、カール及びコックリングを抑制できるため、トレハロースがより好ましい。
【0051】
(その他)
湿潤剤として、上記以外の化合物をさらに使用してもよい。特に、インク組成物に保水性と湿潤性を付与するため、沸点が180℃以上、好ましくは200℃以上の高沸点湿潤剤を用いることが好ましい。高沸点湿潤剤の具体例としては、特に限定されないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、グリセリン、メソエリスリトール、ペンタエリスリトールが挙げられる。
【0052】
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。インク組成物に高沸点湿潤剤を添加することにより、開放状態(室温でインクが空気に触れている状態)で放置しても、流動性と再分散性とを長時間維持できるインクジェット用インクを得ることができる。さらに、このようなインク組成物は、インクジェットプリンターを用いての印字中もしくは印字中断後の再起動時に、インクジェットノズルの目詰まりが生じにくくなるため、インクジェットノズルからの吐出安定性に優れたインク組成物が得られる。
【0053】
湿潤剤は、当該インクジェット用インク組成物の総質量(100質量%)に対し、1質量%以上10質量%以下含まれる。含有量が1質量%以上であると、カール及びコックリングをより効果的に抑制できる一方、含有量が10質量%以下であると、硬化性に悪影響を与えない。また、湿潤剤は、当該インクジェット用インク組成物の総質量(100質量%)に対し、2質量%〜8質量%含まれることが好ましい。
【0054】
また、インク組成物に含まれる湿潤剤中、ベタイン型化合物は、1質量%〜10質量%含まれることが好ましく、2質量%〜8質量%含まれることがより好ましい。上記範囲内の場合、カール及びコックリングをより効果的に抑制できる。他方、インク組成物に含まれる湿潤剤中、糖質は、1質量%〜10質量%含まれることが好ましく、2質量%〜8質量%含まれることがより好ましい。上記範囲内の場合、カール及びコックリングをより効果的に抑制できる。
【0055】
〔ウレタン(メタ)アクリレート〕
本実施形態のインク組成物は、所定の構造及び重量平均分子量を有するウレタン(メタ)アクリレートを含む。このウレタン(メタ)アクリレートは、自己乳化能及び乳化性に優れるという特徴を有する。
【0056】
<ウレタン(メタ)アクリレートの構成>
上記ウレタン(メタ)アクリレートとして、例えば、下記一般式(1)で表される構造を有するものが挙げられる。
1−O−(CONH−B1−NHCOO−C1−O)n−CONH−B1−NH−COO−D1 …(1)
(上記式(1)中、nは1〜30の自然数を表し、A1はヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの残基を表し、B1のジイソシアネートの残基を表し、C1は炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールの残基を表し、D1はポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの残基を表す。)
【0057】
ここで、残基とは上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの原料の構造において、ウレタン結合を形成する官能基を除いた部分のことであり、具体的には、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートではヒドロキシル基を除いた部分(A1で表される。)、ジイソシアネートではイソシアネート基を除いた部分(B1)、炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールではヒドロキシル基を除いた部分(C1)、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルではヒドロキシル基を除いた部分(D1)である。
【0058】
上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分子量分布を測定することによって算出することができる。本明細書における重量平均分子量とは、標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量のことであり、GPC(HLC−8220〔商品名〕、東ソー社(TOSOH CORPORATION)製)に、カラム:TSK−gel SuperHZM−M(排除限界分子量:4×106、分子量分画範囲:266〜4×106、理論段数:16,000段/本、充填剤材質:スチレン系共重合体、充填剤粒径:3μm)を3本直列として用いることにより測定される。
【0059】
上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、1,000〜10,000であり、好ましくは2,000〜8,000である。重量平均分子量が上記範囲内である場合、ミセルを形成しやすく自己乳化性に優れたものとなり、さらに、疎水性物質をミセル内に内包しやすくなるという有利な効果が得られる。これは、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートとしたことで、親水性と疎水性との良好なバランスが得られたためであると考えられる。
【0060】
上記一般式(1)中、nは1〜30の自然数を表す。なお、nの具体的な数値は、上記の重量平均分子量を調整することにより決まる。
【0061】
ここで、上記ウレタン(メタ)アクリレートは、エマルジョンタイプ、より詳しく言えば両親媒性直鎖型ウレタン(メタ)アクリレートのエマルジョンであることが好ましい。この両親媒性直鎖型ウレタン(メタ)アクリレートは、光ラジカル重合性を示すものである。ここで、「光ラジカル重合性」とは、紫外線を照射することで、光重合開始剤が活性なラジカルを生成し、このラジカルが紫外線硬化型樹脂、即ち本実施形態における両親媒性直鎖型ウレタン(メタ)アクリレートのエマルジョンをアタックすることで、反応が進行することを意味する。当該反応は一般的に下記のように表される。
【0062】
【化1】

【0063】
前記インクジェット用インク組成物の使用例としては、以下に限定されないが、インク組成物を被記録媒体上に着弾させた後、紫外線を照射することによって記録を行う。こうすることで、両親媒性直鎖型ウレタン(メタ)アクリレートのエマルジョンを含有していない水系インクと比べて、乾燥が速く、十分な印刷特性が瞬時に得られることから、高速印刷が可能となる。
【0064】
また、一般的な紫外線硬化型インク組成物には、紫外線硬化型モノマーが用いられている。しかし、紫外線硬化型モノマーは印刷本紙、上質紙、及び普通紙といった吸収性の被記録媒体に対しては浸透してしまい、印字後、紫外線照射しても紙内部に未反応物が残存してしまう。紫外線硬化型モノマーは皮膚刺激性があり、未反応のまま被記録媒体中に残存した場合、記録物の取り扱いにおいて安全性に問題が生じる。これに対し、モノマーよりも分子量の大きいオリゴマーやポリマーであれば紙表面に紫外線硬化化合物を残すことができ、印字後、紫外線照射することで未反応物のない記録物を得ることができると考えられる。
【0065】
さらに、本実施形態における両親媒性直鎖型ウレタン(メタ)アクリレートに相当する紫外線硬化樹脂を水中でエマルジョン化することにより、安全性に一層優れたインク組成物が得られる。
以下、上記一般式(1)についてさらに詳細に説明する。
【0066】
(ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート)
上記のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、上記一般式(1)におけるA1の構造を与える化合物である。ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、上記一般式(1)への重合性基の導入のために用いられる。具体的にいえば、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基を1個以上有し、かつ、ヒドロキシル基を1個有する化合物であって、このヒドロキシル基がジイソシアネートのうちの一個のイソシアネート基とウレタン化反応することによって(メタ)アクリロイル基がウレタン(メタ)アクリレートの主鎖の片末端に導入される。少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基の導入によって光重合(光硬化)が可能となり、さらに、2個以上の(メタ)アクリロイル基の導入によって光重合速度が高まるとともに、硬化物の硬度が高まるという有利な効果が得られる。
【0067】
単官能であるモノヒドロキシモノ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0068】
2官能であるモノヒドロキシジ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0069】
3官能以上であるモノヒドロキシポリ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0070】
これらの中でも、特に低粘度を有する乳化物を得られるため、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましく、ポリプロピレングリコールモノアクリレートがより好ましい。一方、特に硬化性に優れた乳化物を得られるため、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとして、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかが好ましい。
【0071】
上記のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
(ジイソシアネート)
上記のジイソシアネートは、上記一般式(1)におけるB1の構造を与える化合物である。当該ジイソシアネートは、一分子内に反応性のイソシアネート基を2個有する有機ジイソシアネートを指す。
【0073】
分子中にイソシアネート基を3個以上有する有機ポリイソシアネートを用いて合成されたウレタン(メタ)アクリレートは、高分子量となりやすく、粘度が高くなる傾向にある。これらのウレタン(メタ)アクリレートで3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートを主骨格にして少なくとも1個の親水性基を有する分子鎖と少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する分子鎖が分岐した構造の分子中に親水性部を持ったものを水に乳化させた乳化物(水性エマルジョン)も、粘度が高くなる傾向がある。
【0074】
これに対して、一分子中にイソシアネート基を2個有するジイソシアネートを用いて合成されたウレタン(メタ)アクリレートは、ジイソシアネートに由来する構造とジオールに由来する構造が直線上に配列する直鎖構造となり、上記一般式(1)に表したように片末端にポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル由来の親水性部があり、もう一方の末端に1個以上の(メタ)アクリロイル基と1個のヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート由来の構造に分子内に2個のヒドロキシル基を有する炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオール由来の構造がジイソシアネートを介してウレタン結合で結合された疎水部が配置した構造であることから、水への乳化性が特に優れたものとなり、乳化物(水性エマルジョン)の粘度を上記の従来のウレタン(メタ)アクリレートの乳化物に比べ大幅に下げることができる。
【0075】
ジイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式炭化水素骨格を有するジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族炭化水素骨格を有するジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、及びジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族炭化水素骨格を有するジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどの水素添加芳香族炭化水素骨格を有するジイソシアネートが挙げられる。
【0076】
これらの中でも、ウレタン(メタ)アクリレートの硬化物が日光(紫外線)によって黄変しにくくなるという有利な効果が得られるため、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群より選択される一種以上が好ましい。
【0077】
上記のジイソシアネートは、一分子内及び分子間において、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
(炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオール)
上記の炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールは、上記一般式(1)におけるC1の構造を与える化合物である。当該ジオールは、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの疎水部の疎水性の度合いを調整するために導入される。上記ジオールは良好な疎水性を得られるものが選択される。具体例としては、一分子内に2個のヒドロキシル基を有する脂肪族、脂環族、及び芳香族のジオールからなる群より選ばれる1種以上のジオールが好ましく用いられ、中でも良好な疎水性を示すジオールがより好ましい。
また、上記ジオールは、使用目的や使用用途に応じて、当該ウレタン(メタ)アクリレートの剛直性又は柔軟性を制御するのに適するもので、かつ、良好な疎水性を示すものを選択することもできる。
【0079】
上記の脂肪族ジオールとしては、分子中に芳香族構造及び脂環族構造を有しないジオールであれば、特に限定されず公知のものを使用できる。具体例として、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,20−エイコサンジオール、ポリプロピレングリコール(例えば、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール)、脂肪族ポリカーボネートポリオール、脂肪族ポリエステルポリオール、脂肪族ポリカプロラクトンジオールなどが挙げられる。
【0080】
上記の芳香族ジオールとしては、分子中に芳香族構造を有するものであれば、特に限定されず公知のものを使用できる。具体例として、ビフェニル−4,4’−ジオール、1,4−ベンゼンジオール、ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA、芳香族ポリカーボネートポリオール、芳香族ポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0081】
上記の脂環族ジオールとしては、分子中に脂環族構造を有するものであれば、特に限定されず公知のものを使用できる。具体例として、水素添加ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、1,4−シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジメタノール、脂環族ポリカーボネートポリオール、脂環族ポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0082】
これらの中でも、水への乳化が良好になり、かつ、ウレタン(メタ)アクリレートの硬化物が日光(紫外線)によって黄変しにくくなるため、脂肪族ジオール及び脂環族ジオールが好ましい。脂肪族ジオールの中では、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、及び1,20−エイコサンジオールからなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。また、脂環族ジオールの中では、水素添加ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、1,4−シクロヘキサンジオール、及びトリシクロデカンジメタノールからなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。
【0083】
上記のジオールは、一分子内及び分子間において、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
(ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル)
上記のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、上記一般式(1)におけるD1の構造を与える化合物である。ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、ポリオキシアルキレングリコールの1つのヒドロキシル基がアルキル基で封鎖された化合物であって、下記一般式(3)で表される。
HO−(CH2CH2O)m−R …(3)
(上記式(3)中、Rはアルキル基であり、mは9〜90の自然数を表す。)
【0085】
なお、上記のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、上記一般式(1)におけるD1の構造を与える化合物である。
【0086】
このヒドロキシル基がジイソシアネートのうちの一個のイソシアネート基とウレタン化反応によってウレタン(メタ)アクリレートの主鎖の片末端に導入される。これによって、ウレタン(メタ)アクリレートは直鎖状の主鎖の片末端に親水性部を持ち、もう一方の末端に1個以上の重合性基である(メタ)アクリロイル基と疎水性基とから構成される疎水部が配置する両親媒性物質の構造となるため、水への乳化性が特に優れたものとなる。
【0087】
また、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、親水性を自由に調整できるという有利な効果が得られるため、分子内にポリオキシエチレン構造を含むことが好ましい。
【0088】
ポリオキシエチレン構造はオキシエチレン基の繰り返し構造である。オキシエチレン基の平均の繰り返し数、すなわち上記一般式(3)におけるmは、ウレタン(メタ)アクリレートの水への乳化が良好となるように親疎水のバランスを調整して決定され、9〜90の自然数が好ましく、9〜30の自然数がより好ましい。
【0089】
ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。
【0090】
また、ポリオキシエチレン構造に加えて他のポリオキシアルキレン構造も分子内に含むポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルも使用可能である。その際、末端アルキル基側にポリオキシエチレン構造が位置していることが、乳化にとって好ましい。この場合にポリオキシエチレン構造とともに使用できるポリオキシアルキレン構造には、ポリオキシプロピレン構造、ポリオキシテトラメチレン構造が挙げられる。ポリオキシエチレン構造とともに使用するポリオキシアルキレン構造のオキシアルキレン基の繰り返し数は当該ウレタン(メタ)アクリレートの親疎水バランスを考慮して適宜決定される。
【0091】
ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの末端アルキル基、すなわち上記一般式(3)のRとしては、炭素数の少ないアルキル基ほど疎水性が一層低下し乳化性に一層優れるため、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0092】
上記のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
また、ウレタン(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
ウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、インク組成物として用いる場合に、塗膜を形成でき、かつ、良好な膜強度や密着性等の塗膜性能を得るため、インク組成物の総質量(100質量%)に対して、5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。
【0095】
〔ウレタン(メタ)アクリレートの製造方法〕
以下、上記ウレタン(メタ)アクリレートの製造方法を説明する。ウレタン(メタ)アクリレートは、前記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートと、前記ジイソシアネートと、前記炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールと、前記ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、を反応させることで得られる。より詳細にいえば、ウレタン(メタ)アクリレートの製造方法は、第1の工程と第2の工程と第3の工程とを含む。
【0096】
第1の工程では、前記ジイソシアネートと、前記炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールと、を反応させ下記一般式(1a):
OCN−(B1−NHCOO−C1−O)n−CONH−B1−NCO …(1a)
で表される、ウレタン結合を有する第1の反応物を得る。この第1の工程において、上記ジイソシアネートと、上記炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールと、のモル比は、好ましくは5:1〜5:4であり、より好ましくは5:2〜5:3である。
【0097】
第2の工程では、前記第1の反応物と、前記ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、を反応させ下記一般式(1b):
OCN−(B1−NHCOO−C1−O)n−CONH−B1−NH−COO−D1…(1b)
で表される第2の反応物を得る。この第2の工程において、上記第1の反応物と、上記ポリオキシアルキレングリコールと、のモル比は、水への乳化が良好となるため、好ましくは1:0.5〜1:1である。
【0098】
第3の工程では、前記第2の反応物と、前記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートと、を反応させる。この第3の工程において、上記第2の反応物と、上記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートと、のモル比は、好ましくは1:1.5〜1:1であり、より好ましくは1:1.4〜1:1.2である。
【0099】
〔ラジカル重合性基を有する化合物〕
本実施形態のインク組成物は、ラジカル重合性基を有する化合物を含む。このラジカル重合性基を有する化合物は、特定の波長(域)の光照射により発生した後述の開始剤ラジカルの攻撃を受けて連鎖的に反応する。同時に、これらと同じ均一場に存在する上記ウレタン(メタ)アクリレートのアクリロイル基も同様に連鎖的に反応する。こうして、インク組成物は被記録媒体上で硬化膜を形成する。
【0100】
上記のラジカル重合性基を有する化合物におけるラジカル重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、ビニルエーテル基、メルカプト基等が挙げられる。
【0101】
インク組成物に含有されるラジカル重合性基を有する化合物においては、特に(メタ)アクリロイル基をその構造中に1個以上有するものが好ましく、アクリロイル基をその構造中に有するものがさらに好ましい。ラジカル重合性基を有する化合物は、分子量が数百程度の単量体から、二量体から数量体で分子量が数千程度までのオリゴマー、分子量が数万以下のポリマーを含む。
【0102】
(メタ)アクリロイル基を分子内に1個有するラジカル重合性基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0103】
(メタ)アクリロイル基を分子内に2個有するラジカル重合性基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0104】
これらの中でも、ラジカル重合性基を有する化合物としては、光重合性に優れるため、分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物がより好ましい。
【0105】
(メタ)アクリロイル基を分子内に3個以上有するラジカル重合性基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、グリセリンエトキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、エピクロルヒドリン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート、ポリペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、及びカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0106】
また、上記した分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート(ただし、上述のウレタン(メタ)アクリレートを除く。)、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、オリゴ(メタ)アクリレート、アルキド(メタ)アクリレート、及びポリオール(メタ)アクリレート等の分子量が数千程度までのオリゴマーで(メタ)アクリロイル基を3個以上有するもの、分子中に3個以上のアクリロイル基を有する分子量が数千程度までのオリゴマー又は分子量が数万程度までのポリマー、デンドリマータイプの(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0107】
上記のラジカル重合性基を有する化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0108】
また、ラジカル重合性基を有する化合物は、インク組成物に優れた光重合性(硬化性)を付与するため、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、1〜60質量%含まれることが好ましく、5〜50質量%含まれることがより好ましい。
【0109】
〔光ラジカル重合開始剤〕
本実施形態のインク組成物は、光ラジカル重合開始剤を含む。この光ラジカル重合開始剤は、紫外線等の活性エネルギー線が照射されることによる光開裂や水素引抜き等によって、ラジカル(光ラジカル重合開始剤ラジカル)が生成し、ウレタン(メタ)アクリレート及びラジカル重合性基を有する化合物(好ましくはラジカル重合性(メタ)アクリレート)を攻撃することで光ラジカル重合を引き起こす。
【0110】
光ラジカル重合開始剤は、ウレタン(メタ)アクリレートにより水中に乳化分散される際、良好な乳化分散性を示すため、疎水性光重合開始剤であることが好ましい。
【0111】
疎水性の光ラジカル重合開始剤の具体例としては、特に限定されないが、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p’−ジクロロベンゾフェノン、p,p’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンジルメチルケタール、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}2−メチルプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)ブタン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]2−モルフォリノプロパン−1−オン、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、メチルベンゾフィルフォーメート、アゾビスイソブチリロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、及びジ−tert−ブチルペルオキシドが挙げられる。
【0112】
光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド)、Speedcure TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、BASF社製)、DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製)、及びユベクリルP36(UCB社製)等が挙げられる。
【0113】
色材として顔料を使用する本実施形態のインク組成物においては、360〜410nmの長波長側の紫外線を使用することで塗膜の深部まで十分に硬化することができるため、この波長域に吸収のあるアシルホスフィンオキサイド系化合物が好ましく用いられる。具体的には、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(DAROCUR TPO、BASF社製)、Speedcure TPO(Lambson Group Ltd製)、及びビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(IRGACURE 819、BASF社製)が挙げられる。
【0114】
光ラジカル重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。光ラジカル重合開始剤は、インク組成物の総質量(100質量%)に対して、0.1〜10質量%含まれることが好ましく、0.5〜8質量%含まれることがより好ましい。上記の範囲内である場合、硬化性が良好なものとなる。
【0115】
〔水〕
本実施形態のインク組成物に用いられる水としては特に制限されないが、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。
【0116】
〔界面活性剤〕
本実施形態のインク組成物は、被記録媒体上でドットが広がりやすくなるため、界面活性剤(ただし、上述のベタイン型化合物を除く。)をさらに含むことが好ましい。この界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤として、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが特に好ましい。具体例としては、BYK−331、BYK−333、BYK−375、BYK−347、BYK−348、BYK−UV3500、3510、3530、3570(以上、ビックケミー・ジャパン社(BYK Japan KK)製)を挙げることができる。
【0117】
界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0118】
界面活性剤は、被記録媒体上でドットがさらに広がりやすくなるため、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、0.01〜3質量%含まれることが好ましく、0.02〜2質量%含まれることが好ましい。
〔その他の添加剤〕
【0119】
本実施形態のインク組成物は、上記した添加剤以外の添加剤を含んでもよい。その他の添加剤として、特に限定されないが、例えば、防黴剤、防腐剤、防錆剤、酸化防止剤、増粘剤、pH調整剤、(定着)樹脂、及び表面張力調整剤が挙げられる。
【0120】
本実施形態のインク組成物は、ウレタン(メタ)アクリレート(好ましくは両親媒性直鎖型ウレタン(メタ)アクリレートのエマルジョン)と、光ラジカル重合開始剤と、ラジカル重合性基を有する化合物と、が、当該インク組成物中で乳化分散していると好ましい。上記インク組成物は、上記ウレタン(メタ)アクリレートのエマルジョン粒子内に光ラジカル重合開始剤とラジカル重合性基を有する化合物とが内包されているものであると、一層好ましい。この場合、水や溶媒存在下での紫外線照射による硬化性に優れ、かつ、臭いを効果的に抑制することができる。
【0121】
両親媒性直鎖型ウレタン(メタ)アクリレートのエマルジョンに光ラジカル重合開始剤及びラジカル重合性基を有する化合物を内包させることにより、硬化性が優れたものとなることを本発明者らは見出した。上記ウレタン(メタ)アクリレートは両親媒性物質であることから、その分子構造を直鎖型構造にすることにより、安定で分散性に優れ、かつ、低粘度となるという有利な効果を奏する光硬化型水性エマルジョンを得ることが可能となる。
【0122】
上記の光硬化型水性エマルジョンに起因した上述の効果は、以下の理由によってもたらされたものと考えられる。
【0123】
図1は、光硬化型水性エマルジョンの紫外線硬化型水性エマルジョンを巨視的に説明する示す模式図であり、図2は、光硬化型水性エマルジョンの紫外線硬化型水性エマルジョンを微視的に示す説明する模式図である。ウレタン(メタ)アクリレートは図1及び図2に示すように水中で疎水性部をコアに向け親水性部を水相に向けてシェル層を成してミセルを形成し、水中でラジカル重合性基を有する化合物(好ましくはラジカル重合性(メタ)アクリレート)と光ラジカル重合開始剤とを内包したミセルを形成することができると考えられる。
【0124】
これは、上記ウレタン(メタ)アクリレートの分子構造に起因するものと考えられる。つまり、ミセル形成時において、ウレタン(メタ)アクリレートの分子構造は、主鎖が分岐している場合、又は主鎖の両末端に疎水部をもつ場合と比較して、立体障害が小さく、屈曲したコンフォメーションをとることもないと考えられる。そのため、親水性部を水相に向けて規則正しく密に配向することが可能となると考えられる。したがって、密に配向したミセルであれば、ウレタン結合間の水素結合が有効に働いてミセルの形成強度(パッキング性)が増大するため、ミセルの安定性及び分散性に寄与すると考えられる。
【0125】
よって、光硬化型水性エマルジョンは、ラジカル重合性基を有する化合物(好ましくはラジカル重合性(メタ)アクリレート)と光ラジカル重合開始剤とをミセル中に含む場合にも、安定性に優れ、良好な光重合性が得られると考えられる。
【0126】
また、光硬化型水性エマルジョンは、本技術分野に属する当業者であれば、後記の実施例欄で行った方法を適宜改良・変更することにより、適当な方法を選択することができ、乳化重合法、高圧乳化法、転相乳化法等、公知の方法を採用すればよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種公知の乳化剤、分散剤を用いてもよい。
【0127】
なお、乳化重合法とは、界面活性剤のような両親媒性物質を水相中に添加しておき、そこに油相を加える方法である。高圧乳化法とは、水相、油相及び界面活性剤のような両親媒性物質を予備混合し、ホモジナイザー等の高圧乳化機にて乳化し水性エマルジョンを得る方法である。転相乳化法とは、界面活性剤のような両親媒性物質を油相中に溶解・分散させ、そこに水相を添加してO/W型エマルジョンを得るという方法である。乳化の途中で連続相が水から油へと変化(転相)するので、転相乳化と呼ばれる。
【0128】
このように、ウレタン(メタ)アクリレートを用いた光硬化型水性エマルジョンを含有するインク組成物は、粘度が低く、硬化性に優れ、水の存在下でも光硬化可能で、かつ、耐加水分解性に優れる。特に、上記のウレタン(メタ)アクリレートが形成するミセル中にラジカル重合性基を有する化合物と光ラジカル重合開始剤とを含む形態において、優れた硬化性と、所定濃度の水の存在下においても光硬化するという従来の光硬化型水性エマルジョンにはない性能と、を得ることができる。また、光硬化型水性エマルジョンのミセルを形成するウレタン(メタ)アクリレートは、その構造から密に配向でき、さらに、その構造の疎水性部分にウレタン結合(ウレタン基)を有することから、配列したウレタン(メタ)アクリレート間に水素結合による強い結合力が働くと考えられる。そのため、ミセルの内包物が漏出し難く、加水分解し難い安定な乳化物が得られたと考えられる。
【0129】
また、光硬化型水性エマルジョンが、光重合性(硬化性)に優れる上、所定の濃度の水の存在下においても光で重合(硬化)する理由は明らかとはなっていないが、以下のように推察している。光硬化型水性エマルジョンは上述したように水中で上記のウレタン(メタ)アクリレートがコアにラジカル重合性基を有する化合物と光ラジカル重合開始剤とを内包して球状ミセルを形成した状態であり、この状態では光を照射しても重合(硬化)はしない。光硬化型水性エマルジョンを被記録媒体に塗布して乾燥して所定の濃度にすると、水が残存した状態でも光照射によって重合(硬化)することができ、被記録媒体に対しても良好な密着性が得られる。これは、水の濃度が低下することで、上記の球状ミセルがラジカル重合性基を有する化合物と光ラジカル重合開始剤を内部に保持した状態でラメラ状の層構造体を形成する。そして、この層構造体に光が照射されることで層構造体内部の光ラジカル重合開始剤が開始剤ラジカルとなり、この開始剤ラジカルが均一場内にあるラジカル重合性基を有する化合物と上記ウレタン(メタ)アクリレートのアクリロイル基とを攻撃して連鎖反応を引き起こしたことによるものと推察する。なお、上記の推察は、光硬化性水性エマルジョンの硬化性を説明するために行ったものであって、本実施形態における光硬化性水性エマルジョンを限定するものではない。
【0130】
[インクジェット用インク組成物の製造方法]
本発明のインク組成物は、少なくとも、顔料と、水溶性有機溶剤と、所定の湿潤剤と、所定のウレタン(メタ)アクリレートと、光ラジカル重合開始剤と、ラジカル重合性基を有する化合物と、水と、を混合することによって得ることができる。
【0131】
このように、本実施形態によれば、高速印刷及び低粘度を実現し、かつ、安全性、被記録媒体への対応性、水存在下での紫外線照射による硬化性、カール発生防止、及び塗膜表面の乾燥性に優れた、インクジェット用インク組成物が得られる。
【0132】
また、本実施形態のインク組成物は、所定のウレタン(メタ)アクリレートを含有することに起因して、水存在下での紫外線照射によるインクの硬化性が良好となる。さらに、当該インク組成物は、所定の湿潤剤を含有することに起因して、カールの発生が効果的に防止される。さらにまた、当該インク組成物は、水溶性有機溶剤を含有することに起因して、塗膜表面の乾燥性も良好となる。
【0133】
[記録物]
本発明の一実施形態は、記録物に係る。当該記録物は、上記実施形態のインク組成物が被記録媒体に記録されたものであり、被記録媒体と、その被記録媒体に記録された上記インク組成物の硬化物と、を備える。上記記録物は、耐擦過性及び耐ガス性に優れるという特徴を有する。
【0134】
[インクジェット記録方法]
本発明の一実施形態は、インクジェット記録方法に係る。当該インクジェット記録方法は、上記実施形態のインク組成物を被記録媒体上に吐出する吐出工程と、上記吐出工程により吐出されたインク組成物に、所定範囲に発光ピーク波長を有する活性放射線を照射して、当該インク組成物を硬化する硬化工程と、を含むものである。このようにして、被記録媒体上で硬化したインク組成物により、硬化膜(塗膜)が形成される。以下、上記の各工程を詳細に説明する。
【0135】
〔吐出工程〕
上記吐出工程においては、従来公知のインクジェット記録装置を用いることができる。インク組成物の吐出の際は、インク組成物の粘度を、30mPa・s以下とするのが好ましく、2〜25mPa・sとするのがより好ましい。インク組成物の粘度が上記範囲内であると、良好な吐出安定性が実現される。
【0136】
〔硬化工程〕
次に、上記硬化工程においては、被記録媒体上に吐出されたインク組成物が、放射線(光)の照射によって硬化する。
具体的には、放射線の照射によって、重合性化合物の重合反応が開始する。また、インク組成物に含まれる光ラジカル重合開始剤が放射線の照射により分解して、ラジカル、酸、及び塩基などの開始種を発生し、重合性化合物の重合反応が、その開始種の機能によって促進される。このとき、インク組成物において光ラジカル重合開始剤と共に増感色素が存在すると、系中の増感色素が活性放射線を吸収して励起状態となり、光ラジカル重合開始剤と接触することによって光ラジカル重合開始剤の分解を促進させ、より高感度の硬化反応を達成させることができる。
【0137】
光源(放射線源)としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、光硬化型インクジェット用インク組成物の硬化に使用される光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。その一方で、現在環境保護の観点から水銀フリー化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用である。さらに、紫外線発光ダイオード(UV−LED)及び紫外線レーザーダイオード(UV−LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、光硬化型インクジェット用光源として期待されている。これらの中でも、UV−LEDが好ましい。
【0138】
ここで、発光ピーク波長が、好ましくは360〜420nmの範囲にある放射線を照射することにより硬化可能であるようなインク組成物を用いる。また、照射エネルギーは、500mJ/cm2以下が好ましい。
【0139】
上記の場合、上記実施形態のインク組成物の組成に起因して低エネルギー且つ高速での硬化が可能となる。照射エネルギーは、照射時間に照射強度を乗じて算出される。上記実施形態のインク組成物の組成によって照射時間を短縮することができ、この場合、記録速度が増大する。他方、上記実施形態のインク組成物の組成によって照射強度を減少させることもでき、この場合、装置の小型化やコストの低下が実現する。その際の放射線照射には、UV−LEDを用いることが好ましい。このようなインク組成物は、上記波長範囲の放射線照射により分解する光ラジカル重合開始剤、及び上記波長範囲の放射線照射により重合を開始する重合性化合物を含むことにより得られる。なお、発光ピーク波長は、上記の波長範囲内に1つあってもよいし複数あってもよい。複数ある場合であっても上記発光ピーク波長を有する放射線の全体の照射エネルギーを上記の照射エネルギーとする。
【実施例】
【0140】
以下、本発明の実施形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明の実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0141】
[使用材料]
〔ウレタンアクリレートの合成材料〕
(A:ヒドロキシル基含有アクリレート)
・重量平均分子量が400のポリプロピレングリコールモノアクリレート(ブレンマーAP400〔商品名〕、日油社製)(以下、「PPGアクリレート」という。)
・ペンタエリスリトールトリアクリレート(アロニックスM−305〔商品名〕、東亞合成社製)
・ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(アロニックスM−403〔商品名〕、東亞合成社製、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとして50〜60質量%)
(B:ジイソシアネート)
・イソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」という。)
(C:炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオール)
・1,12−ドデカンジオール
(D:ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル)
・重量平均分子量が400のポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メトキシPEG400〔商品名〕、東邦化学工業社(TOHO Chemical Industry Co.,Ltd.)製)(以下、「メトキシPEG400」という。)
・重量平均分子量が1000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メトキシPEG1000〔商品名〕、東邦化学工業社製)(以下、「メトキシPEG1000」という。)
【0142】
〔ラジカル重合性基を有する化合物〕
・ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(アロニックスM−403〔商品名〕、東亞合成社製;ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとして50〜60質量%)
・ポリペンタエリスリトールポリアクリレート(ビスコート802〔商品名〕、大阪有機化学工業社(OSAKA ORGANIC CHEMICAL IND.,LTD.)製)
・デンドリマーアクリレート(ビスコート1000〔商品名〕、大阪有機化学工業社(OSAKA ORGANIC CHEMICAL IND.,LTD.)製)
・10官能ウレタンアクリレート(KU−DPU〔商品名〕、荒川化学工業社製)
〔顔料分散液〕
・Cab−o−jet−260M(自己分散顔料分散液、固形分濃度9.96質量%、Cabot Corporation製)
〔水溶性有機溶剤〕
・2−ピロリドン
・トリエチレングリコール
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル(以下、「TEGmBE」ともいう。)
〔界面活性剤〕
・BYK−348(ビックケミー・ジャパン社(BYK Japan KK)製)
〔光ラジカル重合開始剤〕
・アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤(DAROCUR TPO〔商品名〕、BASF社製、以下、「TPO」ともいう。)
〔湿潤剤〕
・トレハロース(トレハ〔商品名〕、林原商事社(HAYASHIBARA SHOJI,INC.)製)
・アミノコート(登録商標、ベタイン、旭化成ケミカルズ社製)
【0143】
[ウレタンアクリレートの構造及び合成]
〔ウレタンアクリレートの構造〕
下記の実施例及び比較例において使用したウレタンアクリレートは、その構造が上記一般式(1)並びに下記一般式(4)、(5)、及び(6)で各々表されるウレタンアクリレートを使用した。
1−O−(CONH−B1−NHCOO−C1−O)n−CONH−B1−NH−COO−A1 …(4)

…(5)
1−O−CONH−B1−NH−COO−D1 …(6)
【0144】
ここで、A1は1個以上のアクリロイル基を有するヒドロキシル基含有アクリレート由来の構造を表し、B1はジイソシアネート由来の構造を表し、C1はジオール由来の構造を表し、D1は上記一般式(3)で表されるもののうちポリオキシエチレングリコールモノメチルエーテル由来の構造を表す。
【0145】
〔ウレタンアクリレートの合成〕
(合成例1:両親媒性ウレタンアクリレート(a)の合成)
撹拌装置、冷却管、滴下ロート、及び空気導入管を備えた反応容器に、444.6質量部のIPDIと202.3質量部の1,12−ドデカンジオールとを仕込み、攪拌を行いながら、0.26質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた。その後、200.0質量部のメトキシPEG400、200.0質量部のメトキシPEG1000、及び0.42質量部のオクチル酸スズを加え、さらに1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、634.3質量部のPPGアクリレート、0.84質量部のメトキノン(ヒドロキノンモノメチルエーテル)、及び0.67質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた。その後、冷却して、上記一般式(1)で表される両親媒性ウレタンアクリレート(a)を得た。このウレタンアクリレート(a)の重量平均分子量は3,200であった。
【0146】
(合成例2:両親媒性ウレタンアクリレート(b)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、444.6質量部のIPDI及び202.3質量部の1,12−ドデカンジオールを仕込み、攪拌を行いながら、0.26質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた。その後、200.0質量部のメトキシPEG400、200.0質量部のメトキシPEG1000、及び0.42質量部のオクチル酸スズを加え、さらに1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、594.4質量部のペンタエリスリトールトリアクリレート、0.82質量部のメトキノン、及び0.66質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた。その後、冷却して、上記一般式(1)で表される両親媒性ウレタンアクリレート(b)を得た。このウレタンアクリレート(b)の重量平均分子量は3,800であった。
【0147】
(合成例3:両親媒性ウレタンアクリレート(c)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、444.6質量部のIPDI及び202.3質量部の1,12−ドデカンジオールを仕込み、攪拌を行いながら、0.26質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた。その後、200.0質量部のメトキシPEG400、200.0質量部のメトキシPEG1000、及び0.42質量部のオクチル酸スズを加え、さらに1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、1300.0質量部のジペンタエリスリトールペンタアクリレート、1.17質量部のメトキノン、及び0.94質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた。その後、冷却して、上記一般式(1)で表される両親媒性ウレタンアクリレート(c)を得た。このウレタンアクリレート(c)の重量平均分子量は5,300であった。
【0148】
(合成例4:両親媒性ウレタンアクリレート(d)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、444.6質量部のIPDI及び202.3質量部の1,12−ドデカンジオールを仕込み、攪拌を行いながら、0.26質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた。その後、700.0質量部のメトキシPEG1000及び0.54質量部のオクチル酸スズを加え、さらに1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、1300.0質量部のジペンタエリスリトールペンタアクリレート、1.32質量部のメトキノン、及び1.06質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた後、冷却して、上記一般式(1)で表される両親媒性ウレタンアクリレート(d)を得た。このウレタンアクリレート(d)の重量平均分子量は5,600であった。
【0149】
(合成例5:ウレタンアクリレート(p)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、444.6質量部のIPDI及び1000.0質量部のポリエチレングリコール(PEG1000、日油社製)を仕込み、攪拌を行いながら、0.58質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、2400.0質量部のジペンタエリスリトールペンタアクリレート、1.92質量部のメトキノン、及び1.54質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた後、冷却して、ウレタンアクリレート(p)を得た。なお、このウレタンアクリレート(p)は、両末端がアクリロイル基であるウレタンアクリレートであり、上記一般式(4)で表される。このウレタンアクリレート(p)の重量平均分子量は10,500であった。
【0150】
(合成例6:ウレタンアクリレート(q)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、578.0質量部のHMDIの3量体(コロネートHXR、日本ポリウレタン社製)、200.0質量部のメトキシPEG400、及び200.0質量部のメトキシPEG1000を仕込み、攪拌を行いながら、0.39質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を75℃まで昇温し、1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、1051.6質量部のペンタエリスリトールトリアクリレート、1.01質量部のメトキノン、及び0.81質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を80℃まで昇温し、2時間反応させた後、冷却して、ウレタンアクリレート(q)を得た。なお、このウレタンアクリレート(q)は、片末端がアクリロイル基で、かつ、3官能のイソシアネートを用いたウレタンアクリレートであり、上記一般式(5)で表される。このウレタンアクリレート(q)の重量平均分子量は7,400であった。
【0151】
(合成例7:ウレタンアクリレート(s)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、444.6質量部のIPDI(2モル)と62.1質量部のエチレングリコール(1モル)を仕込み、攪拌を行いながら、0.20質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた後、700.0質量部のメトキシPEG1000(1モル)及び0.48質量部のオクチル酸スズを加え、さらに1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、634.3質量部のPPGアクリレート(1.6モル)、0.92質量部のメトキノン、及び0.68質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた後、冷却して、上記一般式(1)で表される構造に類似したウレタンアクリレート(s)を得た。具体的にいえば、このウレタンアクリレート(s)は、上記一般式(1)における「C1」の炭素数が2であるウレタンアクリレートである点で、上記一般式(1)で表される構造に類似しているが一般式(1)で表される構造そのものを有していない。このウレタンアクリレート(s)の重量平均分子量は3,000であった。
【0152】
(合成例8:ウレタンアクリレート(t)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、222.3質量部のIPDI(1モル)及び700.0質量部のメトキシPEG1000(0.7モル)を仕込み、攪拌を行いながら、0.48質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、634.3質量部のPPGアクリレート(1.6モル)、0.78質量部のメトキノン、及び0.62質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた後、冷却して、上記一般式(6)で表されるウレタンアクリレート(t)を得た。なお、このウレタンアクリレート(t)は、ジオール残基のないウレタンアクリレートである。このウレタンアクリレート(t)の重量平均分子量は2,300であった。
【0153】
[光硬化型水性エマルションの調製]
光硬化型水性エマルションの調製方法を以下に示す。
【0154】
〔合成例9:光硬化型水性エマルション(a−1)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(a)28.5質量部、アロニックスM−403を9.5質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)2.0質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(a)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、及び光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(a−1)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0155】
〔合成例10:光硬化型水性エマルション(b−1)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(b)36.7質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(b)及び光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(b−1)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0156】
〔合成例11:光硬化型水性エマルション(c−1)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(c)36.7質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(c)及び光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(c−1)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0157】
(合成例12:光硬化型水性エマルション(d−1)の調製)
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(d)27.5質量部、アロニックスM−403を9.2質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(d)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、及び光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(d−1)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0158】
(合成例13:光硬化型水性エマルション(d−2)の調製)
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(d)27.5質量部、ビスコート802を9.2質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(d)、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート、及び光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(d−2)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0159】
(合成例14:光硬化型水性エマルション(d−3)の調製)
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(d)27.5質量部、ビスコート1000を9.2質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(d)、デンドリマーアクリレート、及び光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(d−3)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0160】
(合成例15:光硬化型水性エマルション(d−4)の調製)
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(d)27.5質量部、KU−DPUを9.2質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(d)、10官能ウレタンアクリレート、及び光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(d−4)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0161】
(合成例16:光硬化型水性エマルション(p−1)の調製)
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られたウレタンアクリレート(p)38.0質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)2.0質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(ウレタンアクリレート(p)及び光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(p−1)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0162】
(合成例17:光硬化型水性エマルション(q−1)の調製)
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られたウレタンアクリレート(q)38.0質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)2.0質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(ウレタンアクリレート(q)及び光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(q−1)を得た。なお、組成表を下記表1に示す。
【0163】
(合成例18:光硬化型水性エマルション(q−2)の調製)
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られたウレタンアクリレート(q)27.5質量部、ビスコート802を9.2質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(ウレタンアクリレート(q)、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート、及び光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(q−2)を得た。
【0164】
(合成例19:光硬化型水性エマルション(s−1)の調製)
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られたウレタンアクリレート(s)38.0質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)2.0質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(ウレタンアクリレート(s)及び光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(s−1)を得た。
【0165】
(合成例20:光硬化型水性エマルション(t−1)の調製)
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られたウレタンアクリレート(t)38.0質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)2.0質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(ウレタンアクリレート(t)及び光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(t−1)を得た。
【0166】
【表1】

【0167】
[実施例1〜16、比較例1〜6]
上記の材料、及び上記合成例9〜20で得られた光硬化型水性エマルションを用いて、下記表2及び表3に示す組成(質量部)に従い、各インク組成物を調製した。ここで、表中の「%」は質量%を意味する。
【0168】
【表2】

【0169】
【表3】

【0170】
[評価方法・基準]
〔インクの粘度〕
山一電機社製デジタル粘度計VM−100を用いて測定し、以下の基準に従い評価した。なお、表中「−」は、測定不能であったことを示す。
A:25mPa・s未満、
B:25mPa・s以上35mPa・s未満、
C:35mPa・s以上。
【0171】
〔インクの吐出安定性〕
インクジェットプリンターEM−930C(セイコーエプソン社製商品名)のブラックインクカートリッジにインクを充填し、キャラクターパターンを連続でA4サイズに100枚印刷した。その際に生じた、ドット抜け及びインクの飛び散りの有無を観察した。
評価基準は以下のとおりである。なお、表中「−」は、測定不能(吐出不能)であったことを示す。
A:ドット抜け及びインクの飛び散り回数が30回以下であり、ドット抜け及びインクの飛び散りがクリーニングで回復した。
B:ドット抜け及びインクの飛び散り回数が31〜49回であり、ドット抜け及びインクの飛び散りがクリーニングで回復した。
C:ドット抜け及びインクの飛び散り回数が50回以上であり、ドット抜け及びインクの飛び散りがクリーニングで回復しなかった。
【0172】
〔インクの保存安定性〕
インクを40℃で静置して、状態変化を観察した。観察した結果を、以下の評価基準に分けて評価した。
A:1週間以上の放置でも、相分離や沈殿物の発生がなく、初期の状態と変わらなかった。
B:1週間の放置で相分離又は沈殿物の発生が認められた。
C:調製直後で相分離又は沈殿物の発生があった。
【0173】
〔硬化性〕
インクジェットプリンターを用いて、A4被記録媒体(ゼロックス P)に260×190mmの大きさにベタ印字した。その際、紫外線照射ランプとしてLEDランプ(波長395nm)を用いた。紫外線照射後の印字面を綿棒で擦り、着色がないときのエネルギーを測定した。評価基準は下記のとおりである。なお、表中「−」は、測定不能であったことを示す。
A:300mJ/cm2未満であった。
B:300mJ/cm2以上1,000mJ/cm2未満であった。
C:1,000mJ/cm2以上であった。
【0174】
〔カール性〕
インクジェットプリンターを用いて、A4被記録媒体(ゼロックス P)に260×190mmの大きさにベタ印字した。その際、紫外線照射ランプとしてLEDランプ(波長395nm、照射エネルギー1,000mJ/cm2)を用いた。得られた画像について、下記の基準により評価を行った。上記被記録媒体において、それぞれ、机から被記録媒体の各四隅までの反り返りを測定し平均値を算出した。
得られた記録媒体の反り返りの平均値を評価の指標とし、以下の基準を以って判定を行った。なお、表中「−」は、測定不能であったことを示す。
A:前記平均値が、0mm以上15mm未満であった。
B:前記平均値が、15mm以上30mm未満であった。
C:前記平均値が、30mm以上であった。
【0175】
評価結果を下記の表4及び表5に示す。
【0176】
【表4】

【0177】
【表5】

【0178】
表4及び表5に示すように、実施例1〜16のインク組成物は、比較例1〜6のインク組成物と比較して、カール発生防止、水存在下での優れた硬化性、及び塗膜表面の乾燥性のバランスに優れていることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、水溶性有機溶剤と、ベタイン型化合物及び糖質のうち少なくともいずれかを含有する湿潤剤と、下記一般式(1)で表される、重量平均分子量が1,000〜10,000であるウレタン(メタ)アクリレートと、ラジカル重合性基を有する化合物と、光ラジカル重合開始剤と、水と、を含むインクジェット用インク組成物であって、
前記湿潤剤が、該インクジェット用インク組成物の総質量に対し、1質量%以上10質量%以下含まれる、インクジェット用インク組成物。
1−O−(CONH−B1−NHCOO−C1−O)n−CONH−B1−NH−COO−D1 …(1)
(式(1)中、nは1〜30の自然数を表し、A1はヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの残基を表し、B1はジイソシアネートの残基を表し、C1は炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールの残基を表し、D1はポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの残基を表す。)
【請求項2】
前記糖質はトレハロースである、請求項1に記載のインクジェット用インク組成物。
【請求項3】
前記ベタイン型化合物はトリメチルグリシンである、請求項1又は2に記載のインクジェット用インク組成物。
【請求項4】
界面活性剤をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
【請求項5】
前記ウレタン(メタ)アクリレートと、前記光ラジカル重合開始剤と、前記ラジカル重合性基を有する化合物と、が、該インクジェット用インク組成物中で乳化分散している、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
【請求項6】
前記水溶性有機溶剤は、極性溶媒及び浸透性溶剤を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット用インク組成物。
【請求項7】
前記極性溶媒は複素環式化合物である、請求項6に記載のインクジェット用インク組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−6924(P2013−6924A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139366(P2011−139366)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】