説明

インクジェット用インク

【課題】フェイス面が濡れにくく、インクジェット吐出特性が優れたインクジェット用インクを提供する。
【解決手段】フェイス面にフッ素を含有する撥水剤が付与されているインクジェット記録ヘッドに用いられるインクであって、少なくとも、顔料、分散樹脂、水性媒体、ポリエチレングリコール鎖とフッ化アルキル基を有する、フッ素系ノニオン界面活性剤及び重量平均分子量500以上1,500以下のポリエチレングリコールを含んでなり、前記フッ素系界面活性剤の含有量は、インク全質量に対し0.1質量%以上2.0質量%以下であり、前記ポリエチレングリコールの含有量は、インク全質量に対し2質量%以上5質量%以下であることを特徴とするインクジェット用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット用インク(以下、単にインクともいう)を吐出する記録ヘッドの、インク滴を吐出させるための吐出口を有する面(以後、フェイス面ともいう)の状態は、インクを吐出するにつれて変化することが知られている。特に、顔料を樹脂によって分散しているインクを用いた場合、インクを吐出するにつれてインク中の樹脂がフェイス面に吸着していき、フェイス面の表面特性が変化していく(以下、フェイス面の表面特性が変化することを、フェイス濡れともいう)。フェイス濡れが生じた吐出口からインクを吐出すると、インクを付与しようと意図した場所と、実際にインクが付与された場所とがずれて、印字物の画像が乱れてしまう場合があった(以下、印字物の画像が乱れる現象を、着弾ヨレともいう)。
【0003】
フェイス濡れによって生じる着弾ヨレを低減する手段として、フェイス面にフッ素を含有する撥水剤を付与することで、フェイス面とインクとの接触を阻害する技術が知られている。特許文献1では、インク吐出面にフッ素系撥水付与剤を含む撥インク層が積層されたインクジェットヘッドに、フッ素系界面活性剤とアミノプロパン誘導体を含有するインクを用いることで、フェイス濡れを抑制する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−87457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが特許文献1に記載の技術について検討を行ったところ、樹脂の吸着によって生じるヘッドのフェイス濡れを十分に解決するには至っておらず、改善の余地があった。したがって、本発明の目的は、フェイス面にフッ素を含有する撥水剤が付与されているインクジェット記録ヘッドに用いた場合に好適なインクを提供することにある。より具体的には、インク中に含有されている樹脂の吸着によって生じる上記ヘッドのフェイス濡れを低減でき、しかも、インクジェット吐出特性に優れたインクジェット用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、フェイス面にフッ素を含有する撥水剤が付与されているインクジェット記録ヘッドに用いられるインクであって、少なくとも、顔料、分散樹脂、水性媒体、下記式(1)で表される構造のフッ素系界面活性剤及び重量平均分子量500以上1,500以下のポリエチレングリコールを含んでなり、前記フッ素系界面活性剤の含有量は、インク全質量に対し0.1質量%以上2.0質量%以下であり、前記ポリエチレングリコールの含有量は、インク全質量に対し2質量%以上5質量%以下であることを特徴とするインクジェット用インクである。

【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フェイス面がフッ素含有撥水剤により撥水処理された印字ヘッドにおいて、フェイス濡れが生じにくく、しかも、インクジェット吐出特性に優れたインクジェット用インクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態における記録装置を左前方から見た斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における記録装置の縦断面図である。
【図3】本発明の記録ヘッドの一例を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明は、フェイス面にフッ素を含有する撥水剤が付与されているインクジェット記録ヘッドに用いるインクに関する。そして、インクの構成成分として、顔料及び分散樹脂を含み、さらに、下記式(1)の構造を有するフッ素系界面活性剤と、特定のポリエチレングリコールとを特定量含んでなることを特徴とする。本発明によれば、インクジェット吐出特性に優れることは勿論、従来のインクでは十分でなかった撥水処理されたフェイス面にインク中の成分である樹脂が吸着して、フェイス面の撥水性が損なわれることを有効に抑制できる。

【0010】
上記構成の本発明のインクを用いることで、フェイス面がフッ素系撥水剤によって撥水処理されているヘッドにおいて、インク中の樹脂の吸着によるフェイス濡れが起こりにくくなる理由を、本発明者らは、以下のように推測している。すなわち、フッ素系撥水剤により処理されているフェイス面は、フルオロカーボン鎖が多く存在していると考えられる。このフェイス面に対して本発明のインク滴が接すると、先ず、インク中のフッ素系界面活性剤が該フルオロカーボン鎖に配向するために、樹脂がフェイス面に接することができずに、付着しづらくなったのではないかと考えている。このときに、界面活性剤の中でも、特にフッ素系界面活性剤がよかった理由は、フェイス面上に存在するフルオロカーボン鎖と界面活性剤のフルオロカーボン鎖からなる疎水部分が特に相性がよかったためではないかと考えている。また、フッ素系界面活性剤の中でも、特に、本発明で用いる上記式(1)に示す界面活性剤が良好であった理由については、下記のように考えている。該界面活性剤は、フルオロカーボン鎖からなる疎水部分と、エチレンオキサイド鎖からなる親水部分がブロック形態で存在するために、より強くフェイス面に配向できると考えられる。このため、他のフッ素系界面活性剤に比べて樹脂の吸着をより抑制できたのではないかと考えている。
【0011】
上記構成に加えて、本発明のインクは、ポリエチレンエチレングリコールを含むことを特徴としているが、このインク中のポリエチレングリコールによって、よりいっそう、樹脂のフェイス面への吸着の抑制効果を高めることができた。本発明者らは、この理由を、フェイス面に配向しているフッ素系界面活性剤の親水部分であるエチレンオキサイド鎖と、ポリエチレングリコール中のエチレンオキサイド部とが相互作用を起こすことによると考えている。これによって、さらに樹脂の疎水部分がフェイス面へ吸着するのを抑制しているのではないかと考えている。そのため、このときに、ポリエチレングリコールとフッ素系界面活性剤との相互作用をより効果的に得るために、本発明のインクを構成するポリエチレングリコールは、ある程度の重量平均分子量が必要であると考えられる。本発明者らの検討によれば、重量平均分子量が500以上1,500以下のポリエチレングリコールを使用すればよいことがわかった。
【0012】
以下、本発明のインクの構成成分について、より詳細に説明する。
<顔料インク>
(フッ素系界面活性剤)
本発明のインクは、下記式(1)で表される構造のフッ素系界面活性剤を含む。

【0013】
上記式(1)を満たすフッ素系界面活性剤としては、具体的には、ゾニールFS−300、FSN、FSN−100、FSO、FSO−100(デュポン社製)などが挙げられる。これらは、単独若しくは二種以上を混合して用いることも可能である。フッ素系界面活性剤のインク中への添加量としては、上記した本発明のフェイス面への樹脂の吸着抑制効果及びインクジェット適正に鑑みて、0.1質量%以上2.0質量%以下の範囲とする。0.1質量%未満の添加量では、樹脂の吸着抑制効果が少ない。一方、2.0質量%より多く添加することは活性剤の溶解度を考慮すると、インクの保存安定性の観点から見て好ましくない。
【0014】
(ポリエチレングリコール)
本発明のインクに用いられるポリエチレングリコールは、前記したような理由から、重量平均分子量500以上1,500以下のものを使用する。また、添加量は、2質量%以上5質量%以下の範囲とする。重量平均分子量が500未満のものは、上記したフッ素系界面活性剤との相互作用を得るのに十分な量のエチレンオキサイド鎖を有しておらず、本発明のフェイス面への樹脂の吸着抑制効果が発現しない。一方、重量平均分子量が1,500より大きいのものでは、本発明のフェイス面への樹脂の吸着抑制効果を得ることができるものの、インクジェット適性、特に間欠吐出安定性が劣ってしまう。また、添加量が2質量%未満であると、少な過ぎて上記した本発明の効果が得られない。また、5質量%より多く添加してしまうと、本発明のフェイス面への樹脂の吸着抑制効果を得ることができるものの、間欠吐出安定性が劣ってしまう。本発明のポリエチレングリコールの重量平均分子量は、ポリエチレングリコールを水で希釈し、希釈液をプルラン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(カラム 昭和電工製 Shodex Sb−802 HQ)で測定し求めることができる。
【0015】
(顔料)
本発明のインクに用いる顔料としては、特に限定されず、公知の黒色顔料や、公知の有機顔料を用いることができる。具体的にはC.I.(カラーインデックス)ナンバーであらわされる顔料を用いることができる。また、黒色顔料としては、カーボンブラックを用いることが好ましい。
【0016】
(分散樹脂)
本発明は、前記したように、フェイス面への樹脂の吸着抑制効果を得ることを目的としており、本発明のインクには、上記した顔料を分散させるための分散樹脂が含有されている。分散樹脂としては、アニオン性基の作用によって上記の顔料を水性媒体に安定に分散させることのできるものが好適に用いられる。分散樹脂は、スチレン−アクリル酸共重合体などの、疎水性モノマーとアニオン性モノマーから得られる共重合体であることが好ましい。また、分散樹脂は、重量平均分子量が1,000以上30,000以下の範囲のものが好ましく、特には3,000以上15,000以下の範囲のものが好ましい。
【0017】
(水性媒体)
本発明のインクに用いる水性媒体の例としては、前記した本発明で必須とするポリエチレングリコールのほかに、例えば、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、インクの乾燥防止効果を有するものが特に好ましい。水溶性有機溶剤としては、インクジェット用インクに適用できる水溶性有機溶剤であれば、いずれも用いることができる。本発明のインク中に含有される水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、インク全質量に対して、好ましくは3質量%以上50質量%以下の範囲が好適である。また、インクに含有される水の含有量はインク全質量に対して、好ましくは、50質量%以上95質量%以下の範囲である。さらに上記の成分のほかに必要に応じて所望の物性値を持つ反応液とするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤などを添加することができる。
【0018】
(フェイス面の撥水処理剤(撥水剤))
本発明のインクは、フェイス面にフッ素を含有する撥水剤が付与されているインクジェット記録ヘッド用として開発したものである。以下、本発明のインクの使用対象となるインクジェット記録ヘッドに付与される撥水剤について説明する。該撥水剤は、フッ素を含有するが、先述した通り、フッ素を含有する撥水剤をインクジェット記録ヘッドの吐出口を有する面(フェイス面)に付与することで、フェイス面の撥水性を向上させることができる。フッ素を含有する撥水剤としては、具体的には、フルオロカーボン、シリコーン、炭化水素基などの疎水基を有する化合物が挙げられる。中でも、フルオロカーボンは、フェイス面に高い撥水性を付与できるため、好ましい。
【0019】
また、本発明においては、インクジェット記録ヘッドに撥水剤を付与することで、インクジェット記録ヘッドのフェイス面におけるフッ素元素の含有率を12atom%以上とすることが好ましい。インクジェット記録ヘッドのフェイス面におけるフッ素元素の含有率は、X線光電子分析分光法(ESCA、XPS)を用いて求めることができる。具体的には、まず、X線光電子分析装置を用いてインクジェット記録ヘッドのフェイス面に対する光電子取り出し角度を45°としたときのX線光電子分光スペクトルを測定する。そして、得られたスペクトルから炭素、フッ素、酸素、硫黄の4元素を定量し、4元素に占めるフッ素の割合を算出することで、インクジェット記録ヘッドのフェイス面におけるフッ素元素の含有率を求めることができる。X線光電子分析装置としては、例えば、ULVAC PHI製、Quantum2000を用いることができる。本発明において、インクジェット記録ヘッドのフェイス面におけるフッ素元素の含有率の上限は特に限定されるものではないが、製造の容易さを考慮すると、該フッ素元素の含有率が50atom%以下であることが好ましい。
【0020】
<インクジェット記録装置>
以下、図面を参照して本発明のインクを用いることのできる記録装置の一例について説明する。図1は、該記録装置を左前方から見た斜視図である。図2は記録装置の縦断面図である。図示した記録装置は、給送部1、搬送部2、キャリッジ部4、排紙部5、及び制御基板9を備えている。以下、画像情報に基づいて、記録ヘッド7の吐出口から、シートPへインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置を例に挙げて説明する。本発明のインクは、この記録ヘッド7のフェイス面にフッ素を含有する撥水剤が付与されている記録装置に適用した場合に、前記した本発明の効果を発揮することができる。該記録ヘッド7には、記録ヘッドに供給する本発明のインクを収容するインクタンクが交換可能に装着される。
【0021】
給送部1は、シートPを積載する圧板21、シートを給送する給送ローラ28、シートを分離する分離ローラ241などを給送ベース20に取り付けて構成されている。給送部1の動作について説明する。待機状態では、圧板21及び分離ローラ241はリリースされる。次に、圧板21が給送ローラ28に当接する。その後、給送ローラ28によってシートが搬送部2に向けて給送される。搬送ローラ36には、従動回転する複数のピンチローラ37が当接して設けられている。各ピンチローラ37は、ピンチローラばねによって搬送ローラ36に圧接されることでシートの搬送力を生み出している。搬送部2に送られてきたシートは、搬送ローラ36及びピンチローラ37に挟持されてプラテン34の上面に沿って搬送される。
【0022】
キャリッジ部3は、記録ヘッド7を搭載して往復移動するキャリッジ50を有する。記録ヘッド7は、キャリッジ50に回動可能に軸支されたヘッドセットレバー51によりキャリッジ50に位置決め固定される。記録ヘッド7は、記録データに基づいて各吐出口内のヒータ(発熱素子)を駆動することにより、各吐出口からインクを吐出して、シートに画像を記録する。
【0023】
記録ヘッド7について、図3を用いてより詳細に説明する。図3は、記録ヘッドの構成の一例である。図3は記録ヘッド7の一例を示す模式的斜視図である。図3に示されるように、インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子100が複数設けられた基板101の上に、エネルギー発生素子100と対応した吐出口102を備えた吐出口部材103が設けられている。吐出口部材103は吐出口と連通した液体の流路104を形成する流路形成部材としても機能している。また、基板101を貫通して液体の供給口105が設けられている。また、吐出口部材103の吐出口102が形成された面106が、記録ヘッド7のフェイス面である。
【0024】
キャリッジ基板には、記録ヘッド7と電気的な接続を行うためのコンタクトも設けられている。キャリッジ基板と装置本体側の制御基板9とは、記録ヘッド7へヘッド信号を伝えるためのフレキシブル基板で接続されている。上記構成において画像を記録するときは、先ず搬送ローラ36を駆動して記録する行位置にシートを搬送する。そして、キャリッジ50を移動させ、キャリッジの移動に同期して記録ヘッド7を記録情報に基づいて駆動し、記録ヘッド7の吐出口からインクを吐出することにより画像を記録する。排紙部4には、プラテン34に取り付けられた2本の排紙ローラ40、41が設けられている。各排紙ローラ40、41を搬送ローラ36と同期回転させることにより、記録されたシートを装置本体外へ排出する。
【0025】
なお、ここでは記録ヘッドの一形態として、記録データに基いてインクの吐出を行うサーマルジェット方式の記録ヘッドについて述べたが、本発明のインクを適用する記録方式はこれに限定されない。具体的には、圧電素子を用いてインクを吐出する、ピエゾジェット方式の記録ヘッドを搭載した記録装置を用いてもよい。また、上記では記録ヘッドに対してインクタンクが交換可能に装着される記録ユニットを用いた記録装置について述べたが、記録ヘッドとインクタンクとが一体となり、記録ヘッドとインクタンクとを同時に交換可能な記録ユニットを用いた記録装置であってもよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、以下の記載で「部」或いは「%」とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。また、残部とは、全体を100部とし、各成分を差し引いた残りをいう。
次の略号は、それぞれ以下の化合物を示す。
・PEG300;ポリエチレングリコール(重量平均分子量300)
・PEG600;ポリエチレングリコール(重量平均分子量600)
・PEG1000;ポリエチレングリコール(重量平均分子量1,000)
・PEG2000;ポリエチレングリコール(重量平均分子量2,000)
・Zonyl−FSO−100(デュポン社製フッ素系ノニオン界面活性剤);式(1)のフッ素系界面活性剤、x=1〜7、y=1〜16の混合物
・アセチレノールA−E100(川研ファインケミカル社製ノニオン界面活性剤);アルキレングリコールのEO付加物であるフッ素含有しない界面活性剤
・NOVEC FC−4430,FC−4432(住友スリーエム社製フッ素系界面活性剤);2−(N−パーフルオロブチルスルホニル−N−メチルアミノ)エチルアクリレート、ポリ(オキシアルキレングリコール)アクリレート及びポリ(オキシアルキレングリコール)ジアクリレートの共重合体
・ユニダイン DS−401,DS−403(ダイキン工業社製フッ素系界面活性剤);パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート及びポリ(オキシアルキレングリコール)(メタ)アクリレートの共重合体
なお、ポリエチレングリコールの重量平均分子量は、ポリエチレングリコールを水で希釈し、希釈液をプルラン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(カラム 昭和電工製 Shodex Sb−802 HQ)で測定することで求めた。
【0027】
(Bk顔料分散体の作製)
以下に示す組成で、顔料、分散樹脂及び水を混合し、バッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズを150部充填し、水冷しつつ、2時間分散処理を行った。この分散液を遠心分離機にかけて粗大粒子を除去した後、最終調整物の固形分が10%、平均粒径が105nmのブラック分散液(Bk分散液)を得た。顔料には、DBP吸油量112ml/100g、BET法比表面積220m2/gの、キャボット社製のカーボンブラック(製品名:BLACK PEARLS 880)を用いた。また、分散樹脂には、スチレン−アクリル酸ブチル−アクリル酸共重合体を、固形分10%の水溶液(アニオン系高分子水溶液)として用いた。該共重合体は、酸価120mgKOH/g、重量平均分子量7,400であり、中和剤には水酸化カリウムを用いた。
・カーボンブラック 10部
・アニオン系高分子水溶液 50部
・純水 40部
【0028】
(インクの調製)
下記表1〜表5に示す成分をそれぞれ混合し、十分に攪拌して溶解した後、ポアサイズ1.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過し、実施例及び比較例の各インクを調製した。なお、表1に、式(1)のフッ素系界面活性剤を含有してなる実施例1のインクと、これを含有させない比較例1〜5のインクの組成を示した。また、表2に、式(1)のフッ素系界面活性剤を規定量含有してなる実施例1及び2のインクと、該フッ素系界面活性剤の含有量を規定量以下にした比較例6のインクの組成を示した。さらに、表3には、ポリエチレングリコールを規定量含有してなる実施例1及び3のインクと、ポリエチレングリコールの含有量を規定量外にした比較例7〜10のインクの組成を示した。表4には、重量平均分子量が規定範囲内のポリエチレングリコールを含有してなる実施例1、3及び4のインクと、重量平均分子量が規定範囲外のポリエチレングリコールを含有してなる比較例11〜12のインクの組成を示した。表5には、他の有機溶剤を含有してなる実施例A及びBのインクの組成を示した。また比較例として、表5には、式(1)のフッ素系界面活性剤、ポリエチレングリコールの含有量をそれぞれ規定量外にした比較例A及びBのインクの組成と、重量平均分子量が規定範囲外のポリエチレングリコールを含有してなる比較例Cのインクの組成を示した。
【0029】

【0030】

【0031】

【0032】

【0033】

【0034】
<評価>
上記表1〜表4で示す組成の実施例及び比較例のインクを用いてそれぞれの評価を行った。
【0035】
<フェイス濡れの評価>
(撥水処理基板Aの作製)
メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン1mol及びメチルトリエトキシシラン1molを水の存在下、加水分解、縮合を行った。次いで1H,1H,2H,2H−パーフルオロドデシルトリエトキシシラン0.05molを添加し、さらに加水分解、縮合を行わせ、原液を得た。その後、非揮発成分の濃度が10%になるようにエタノールで希釈を行い、光重合開始剤としてIrgacure165(チバガイギー社製)を、1.5%添加し最後にポアサイズ1.0μmのフィルターを通して濾過を行い、調整液を得た。この調整液を、シリコンウエハ上にスピンコートした。調整液の溶媒を乾燥後、UV硬化炉にてUV照射を行い、さらに90℃/10min加熱することで撥水層の硬化を行い、撥水処理基板Aを作製した。なお、撥水処理基板Aの調整液がスピンコートされた面におけるフッ素元素の含有率は36.7atom%である。
【0036】
(撥水処理基板Bの作製)
メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン1mol及びメチルトリエトキシシラン1molを水の存在下、加水分解、縮合を行った。次いで1H,1H,2H,2H,−パーフルオロオクチルトリエトキシシラン0.1molを添加しさらに加水分解、縮合を行わせ、原液を得た。その後、非揮発成分の濃度が10%になるようにエタノールで希釈を行い、光重合開始剤としてIrgacure165(チバガイギー社製)を、1.5%添加し最後にポアサイズ1.0μmのフィルターを通して濾過を行い、調整液を得た。この調整液を、シリコンウエハ上にスピンコートした。調整液の溶媒を乾燥後、UV硬化炉にてUV照射を行いさらに90℃/10min加熱することで撥水層の硬化を行い、撥水処理基板Bを作製した。なお、撥水処理基板Bの調整液がスピンコートされた面におけるフッ素元素の含有率は17atom%である。
【0037】
(基板Cの作製)
光硬化性エポキシ樹脂(EPON SU−8 米国マイクロリソグラフィーコーポレーション製)をシリコンウエハ上にスピンコートし、UV照射を行うことで、試験用基板Cを作成した。なお、該樹脂中にフッ素は含有されない。
【0038】
(フェイス面の濡れの評価)
上記基板A〜Cを各インク16gに温度35℃にて密閉浸漬した。20時間後に取出し、基板を純水で1分間流水洗浄後、純水の後退接触角を測定し、浸漬前後の後退接触角の差からフェイス濡れを評価した。後退接触角は、協和界面化学製DropMaster700を用い測定した。結果を表6〜表9に示した。なお、評価基準は、それぞれ以下のとおりである。インクに浸漬する前と後の後退接触角の差は、基板表面の表面特性の差を表している。そのため、後退接触角の差が大きいとは、基板表面の表面特性の変化が大きい(フェイス濡れが発生している)ことを指し、後退接触角の差が小さいとは、基板表面の表面特性の変化が小さい(フェイス濡れが抑制されている)ことを指す。したがって、本発明においては、インクに浸漬する前と後との基板の後退接触角の差が少ないインクほど、フェイス濡れを抑制できるインクである、と判断した。
◎:後退接触角差3°未満
○:後退接触角差3°以上5°未満
△:後退接触角差5°以上10°未満
×:後退接触角差10°以上
【0039】
(間欠吐出安定性評価方法及び評価基準)
表5に記載の実施例及び比較例のインクを用いて、間欠吐出安定性の評価を行った。評価は、キヤノン製PIXUS Pro9500を用いて行った。先ず、温度15℃、湿度10%の環境下で、ある一定の吐出休止時間の間隔で縦罫線を印字し、一定の休止時間を設けた後、最初に吐出されて形成される縦罫線を目視にて下記の基準で評価した。結果を表10に示した。
○:縦罫線に乱れがなく正常に印字できる
△:縦罫線に目視で確認できる程度の若干の乱れが確認される
×:縦罫線に明らかに乱れが確認される
【0040】

【0041】

【0042】

【0043】

【0044】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェイス面にフッ素を含有する撥水剤が付与されているインクジェット記録ヘッドに用いられるインクであって、少なくとも、顔料、分散樹脂、水性媒体、下記式(1)で表される構造のフッ素系界面活性剤及び重量平均分子量500以上1,500以下のポリエチレングリコールを含んでなり、前記フッ素系界面活性剤の含有量は、インク全質量に対し0.1質量%以上2.0質量%以下であり、前記ポリエチレングリコールの含有量は、インク全質量に対し2質量%以上5質量%以下であることを特徴とするインクジェット用インク。

【請求項2】
前記インクジェット記録ヘッドのフェイス面におけるフッ素元素の含有率が、12atom%以上である請求項1に記載のインクジェット用インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−162581(P2011−162581A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23291(P2010−23291)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】