説明

インクジェット用インク

【課題】耐薬品性に優れ、低抵抗の抵抗体を形成することが可能であり、かつ保存安定性に特に優れたインクジェット用インクを提供すること。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)オキセタン化合物、(C)スチレンから誘導される構造単位と、重合性二重結合を有する酸無水物化合物から誘導される構造単位であって、該構造単位中の前記酸無水物化合物由来の酸無水物基がアルコール変性されている構造単位とを有する共重合体、(D)カーボンブラック、および(E)溶媒を含むインクジェット用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性等に優れたインクジェット用インク、該インクを熱硬化させて得られる硬化膜およびその硬化膜の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多層印刷配線板は、エッチングにより回路を形成した片面印刷配線板又は両面印刷配線板を、ガラス織布プリプレグ等の接着層を介して複数枚プレス積層し、得られる積層体にドリル、レーザー等で孔を開け、更に、異なる配線板中の導電層同士をめっき等で電気的に接続することによって製造されている。
【0003】
このような従来の製造方法に代わる多層印刷配線板の製造方法として、近年、例えば、特許文献1では、インクジェット印刷法による配線パターンの形成方法が提案されている。このインクジェット印刷された配線板にさらにインクジェット印刷を行って重ね塗りをすることで、多層印刷配線板が製造される。また、特許文献2では、オフセット印刷法による多層印刷配線板の製造方法が提案されている。また、特許文献3では、基材上に、導体層と、孔のある絶縁層とを印刷法で形成することによって、多層印刷配線板を製造する方法が提案されている。
【0004】
これらの製造方法によれば、プレス設備、めっき設備等の大規模な設備を用いずに、多層印刷配線板を製造することが可能である。また、導体インクや絶縁体インクを必要な箇所にのみ印刷することができるため、材料の使用効率が非常に高いという利点もある。
【0005】
ところで、近年、電子機器の小型化・軽量化の要求に伴って、配線板の薄型化・高密度化の要求が高まっている。また、特に情報通信分野や情報処理分野の電子機器については、高機能化の要求に伴って、基材上において、部品を搭載するのに十分な実装面積を確保する必要性が高まっている。これまで、十分な実装面積を確保するために、表面実装部品の微小化、端子の狭ピッチ化、基材のファインパターン化、部品を基材表面に高密度に実装するSMT(表面実装技術)、それらを高度化したAdvanced SMT等が検討
されてきた。
【0006】
しかしながら、高機能化の要求に伴って電子機器中の能動素子(チップ部品)の数が増
加すると、更に、電気的調整を行う受動素子(キャパシタ、インダクタ、レジスタ等)の数も増加することになった。その結果、受動素子の基材上における実装面積が、全体の半分以上を占める場合もあり、電子機器の小型化及び高機能化の障害となっていた。
【0007】
そこで、受動素子を基材と一体化させる技術の開発が進められている。このような技術には、表面実装部品(能動素子等)と基材との間の電気的接続に使用されていたはんだ接合部がなくなり、接続信頼性が向上すること、回路設計の自由度が増すこと、受動素子を所望の位置に形成し、配線長を短縮することができるので、寄生容量が低減し、電気特性が向上すること、表面実装の必要がなくなり、低コスト化が可能になることなどの効果が期待されている。
【0008】
このような技術として、例えば、特許文献4及び5では、比較的抵抗の高い金属を基材にめっきして、基材上に抵抗体(受動素子である)を形成する技術が提案されている。他方、非特許文献1では、インクジェット印刷法を用いて、めっき、エッチング等の工程を経ずに基材上に抵抗体を形成する技術が提案されている。
【0009】
非特許文献1に記載の、インクジェット印刷法を用いて基材上に抵抗体を形成する技術は、基材と一体化した抵抗体を、めっき、エッチング等の工程を要せず、簡便に形成することが可能であり、また、抵抗体作製の際の環境負荷を低減させることが可能な点で優れている。
【0010】
このようにして形成される抵抗体には、他の実装部品にも求められることであるが、その後の電子部品製造工程で使用される種々の薬品に対して耐性(耐薬品性)を有すること、ならびに基材(基板)との優れた密着性を有することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−80694号公報
【特許文献2】特開平11−58921号公報
【特許文献3】特開2003−110242号公報
【特許文献4】特許1191906号公報
【特許文献5】米国特許第3808576号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】日経エレクトロニクス6/17号、p.67−78(2002)、「機器の小型化の限界をインクジェットで吹き飛ばす」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、耐薬品性および基板との密着性に優れ、低抵抗の抵抗体を形成することが可能なインクジェット用インクを提供することを目的とする。
【0014】
また本発明は、保存安定性に特に優れたインクジェット用インクを提供することをも目的とする。
【0015】
さらに本発明は、遮光性に優れた遮光性材料を形成しうるインクジェット用インクを提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、インクジェット用インクにエポキシ樹脂、オキセタン化合物、特定の共重合体、カーボンブラックおよび溶媒を組合せて用いることによって、上記課題を解決することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。本発明は以下の事項を含む。
【0017】
[1](A)エポキシ樹脂、(B)オキセタン化合物、(C)スチレンから誘導される構造単位と、重合性二重結合を有する酸無水物化合物から誘導される構造単位であって、前記酸無水物化合物由来の酸無水物基がアルコール変性されている構造単位とを有する共重合体、(D)カーボンブラック、および(E)溶媒を含むインクジェット用インク。
【0018】
[2]オキセタン化合物(B)がオキセタンを複数有する、[1]に記載のインクジェット用インク。
【0019】
[3]共重合体(C)が、下記式(2−1)で表される構造単位および/または下記式(2−2)で表される構造単位を有する、[1]または[2]に記載のインクジェット用インク:
【0020】
【化1】

【0021】
(式(2−1)および(2−2)中、R1は炭素数1〜20のアルコール残基であり、
2およびR3は独立に水素または炭素数1〜5のアルキルである。)。
【0022】
[4]カーボンブラック(D)の含有量が、(A)〜(D)成分の合計100重量%に対して20〜80重量%である、[1]〜[3]のいずれかに記載のインクジェット用インク。
【0023】
[5]エポキシ樹脂(A)が、下記式(1−1)で表される化合物を含む、[1]〜[4]のいずれかに記載のインクジェット用インク:
【0024】
【化2】

【0025】
[6]溶媒(E)が、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートおよび3−メトキシプロピオン酸メチルから選ばれる少なくとも1種である、[1]〜[5]のいずれかに記載のインクジェット用インク。
【0026】
[7]25℃における粘度が50mPa・s以下である、[1]〜[6]のいずれかに記載のインクジェット用インク。
【0027】
[8][1]〜[7]のいずれかに記載のインクジェット用インクを基板上に塗布し、該基板上に形成された前記インクの塗膜を熱硬化させて得られる硬化膜。
【0028】
[9][8]に記載の硬化膜からなり、体積抵抗率が1.0×10-1〜1.0×104
Ω・cmである抵抗体。
【0029】
[10][8]に記載の硬化膜からなり、体積抵抗率が1.0×107〜1.0×1011Ω・cmである絶縁性遮光性材料。
【0030】
[11][8]に記載の硬化膜を備える素子。
【0031】
[12][11]に記載の素子が、配線形成された基板上に形成されてなる配線板。
【0032】
[13][12]に記載の配線板を有する電子部品。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、耐薬品性、基板との密着性および保存安定性に優れ、低抵抗の抵抗体を形成することが可能なインクジェット用インクが提供される。さらに、これを用いて、基板と一体化した低抵抗の硬化膜、この硬化膜を備える素子及び配線板等を提供することができる。
【0034】
また、本発明によれば、遮光性に優れた、液晶表示素子等の表示素子の欠陥の補修用途等に好適な絶縁性の遮光性材料も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[1.本発明のインクジェット用インク]
上述の通り、本発明のインクジェット用インク(以下単に「本発明のインク」ともいう。)は、エポキシ樹脂(A)、オキセタン化合物(B)、特定の共重合体(C)、カーボンブラック(D)および溶媒(E)を含む。本発明のインクは、必要に応じて種々の添加剤を含んでもよい。以下、これら各成分について説明する。
【0036】
<1.1 (A)エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂(A)は、エポキシを2個以上有する化合物またはそれらの混合物であれば、特に限定されない。
【0037】
エポキシ樹脂(A)は一般的な熱硬化成分であり、本発明のインクにおいては、(A)〜(C)成分が熱硬化し、それによって、耐薬品性および基板との密着性に優れた硬化膜が得られる。
【0038】
本発明においては、前記エポキシ樹脂(A)が、下記式(1−1)で表される2−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−2−[4−[1,1−ビス[4−([2,3−エポキシプロポキシ]フェニル)]エチル]フェニル]プロパンを含むことが好ましい。
【0039】
【化3】

【0040】
式(1−1)で表される化合物を含むエポキシ樹脂(A)を使用すると、本発明のインクから得られる硬化膜の基板との密着性および耐薬品性のバランスがよい。
【0041】
また、式(1−1)で表される化合物の製品には、下記式(1−2)で表される1,3−ビス[4−[1−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−1−[4−[1−[4−(2,3−エポキシプロポキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチル]フェノキシ]−2−プロパノールが混入しているものがある。
【0042】
【化4】

【0043】
本発明においては、エポキシ樹脂(A)は、このような式(1−1)で表される化合物および式(1−2)で表される化合物の混合物を含むこともまた好ましい。
【0044】
式(1−1)で表される化合物の市販品としては、TECHMORE VG3101(商品名;三井化学(株)製)が挙げられ、式(1−1)で表される化合物に式(1−2)で表される化合物が混入して(させて)いる混合物の市販品としては、TECHMORE VG3101L(商品名;三井化学(株)製)が挙げられる。
【0045】
本発明のインクには、エポキシ樹脂(A)として他のエポキシ樹脂が含まれていてもよい。他のエポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(A)全体の50重量%以下となる量で本発明の
インクに含有させることが好ましく、40重量%以下となる量で含有させることがより好ましく、さらに好ましくは30重量%以下である。
【0046】
前記他のエポキシ樹脂の好ましい例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエ−テル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族ポリグリシジルエーテル及び環式脂肪族エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0047】
具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、JER828、1001、1004AF(商品名;三菱化学(株)製)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、JER806、807(商品名;三菱化学(株)製)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、EPPN−201(商品名;日本化薬(株)製)、JER 152、154(商品名;三菱化学(株)製)など、
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、EOCN−102S、103S、104S、1020(商品名;日本化薬(株)製)など、
グリシジルエ−テル型エポキシ樹脂としては、EPPN−501H、502H(商品名;日本化薬(株)製)、JER 1032H60(商品名;三菱化学(株)製)など、
ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂としては、JER 157S65、157S70(商品名;三菱化学(株)製)など、
脂肪族ポリグリシジルエーテルとしては、EX-212L、EX-214L(商品名;ナガセケムテック(株)製)など、
環式脂肪族エポキシ樹脂としては、CEL2021、CEL3000(商品名;ダイセル化学工業(株)製)などを挙げることができる。
【0048】
エポキシ樹脂(A)は、本発明のインク全体(100重量%)の0.1〜40重量%含まれることが好ましく、0.5〜30重量%含まれることがより好ましく、1〜20重量%含まれることがさらに好ましい。エポキシ樹脂(A)の含有量がこの範囲にあると、本発明のインクから得られる硬化膜の耐薬品性や基板との密着性が良好となる。
【0049】
本発明においてエポキシ樹脂(A)は、1種単独の化合物であってもよく、2種以上の化合物の混合物であってもよい。
【0050】
<1.2 (B)オキセタン化合物>
本発明で使用するオキセタン化合物(B)は、オキセタンを有する化合物であれば特に限定されないが、後述する共重合体(C)がオキセタンを有する場合には、その共重合体は本発明において(C)成分に該当し、(B)成分には該当しないものとする。
【0051】
エポキシ樹脂(A)は、一般に重合の開始反応が速いものの、成長反応(架橋や後重合反応ともいう)が遅く、分子量数千程度のオリゴマーしか得られないため、エポキシ樹脂(A)単独からは、堅くてもろい物性の硬化物が得られる。一方オキセタン化合物(B)は、開始反応が遅くすぐには重合を起こさないが、開始種が一定濃度以上になると高速に重合し、分子量数万程度のポリマーが得られる。
【0052】
このため、本発明においては、エポキシ樹脂(A)とオキセタン化合物(B)の特性を活かして組み合わせることで、それぞれの欠点を補っている。すなわち、オキセタン化合物(B)に開始反応の速いエポキシ樹脂(A)を添加することで、オキセタン化合物(B)の高速硬化の実現を可能としている。
【0053】
オキセタン化合物(B)は成長反応性が良いため、硬化は低温で可能であり、また短時
間のうちに硬化が完了する。 これは、オキセタン化合物(B)の反応熱により、重合系
内の温度が上がるためと考えられる。
【0054】
以上説明したように、本発明のインクは、その含有成分であるエポキシ樹脂(A)の性質から高速で開始反応を起こし、またもう一つの含有成分であるオキセタン化合物(B)の良好な成長反応性により、高速で架橋反応が進行するため、本発明のインクからは、高分子としての十分な分子量を有すると共に、伸びや靭性に優れた硬化膜が高速で形成される。そのため、本発明によれば、前記硬化膜の製造工程時間が短縮される。
【0055】
このような開始反応および架橋反応が容易に又は高速で進行する観点からは、オキセタン化合物(B)は、オキセタンを複数有する多官能オキセタンであることが好ましい。なお、本発明においては、オキセタン化合物(B)として2個のオキセタンを有する化合物を使用すると、本発明のインクが、溶剤(E)の使用を最低限に抑えながらも、低粘度で作業性に優れるため、特に好ましい。
【0056】
さらに、本発明のインクは、オキセタン化合物(B)を含むことによって、高い保存安定性を達成することをも本発明者らは見出した。
【0057】
前記2個のオキセタンを有する化合物の一例としては、下記一般式(3)で示される化合物が挙げられる。
【0058】
【化5】

【0059】
一般式(3)において、R4は水素、炭素数1〜6のアルキル、炭素数1〜6のフルオ
ロアルキル、アリル、炭素数6〜10のアリール、フリルまたはチエニルである。
【0060】
また、式(3)において、R5は、直鎖または分岐鎖アルキレン、直鎖または分岐鎖ポ
リ(アルキレンオキシ)、二価の直鎖または分岐鎖不飽和炭化水素、あるいは、カルボニル、カルボキシルもしくはカルバモイルを含む炭素数2〜6のアルキレンである。
【0061】
式(3)において、nは0〜3の整数であり、0であることが好ましい。
【0062】
前記炭素数1〜6のアルキルの例としては、メチル、エチル、プロピルおよびブチルが挙げられる。
【0063】
前記炭素数6〜10のアリールの例としては、フェニル、ベンジル、トリル、o−キシ
リルが挙げられる。
【0064】
前記直鎖または分岐鎖アルキレンの例としては、エチレン、プロピレンおよびブチレンが挙げられる。
【0065】
前記直鎖または分岐鎖ポリ(アルキレンオキシ)の例としては、ポリ(エチレンオキシ)およびポリ(プロピレンオキシ)が挙げられる。
【0066】
前記二価の直鎖または分岐鎖不飽和炭化水素の例としては、プロペニレン、メチルプロペニレンおよびブテニレンが挙げられる。
【0067】
前記カルボニル、カルボキシルもしくはカルバモイルを含む炭素数2〜6のアルキレンの例としては、エチルカルバモイル、プロピルカルバモイル、ブチルカルバモイルが挙げられる。
【0068】
また、一般式(3)におけるR5の例としては、下記一般式(3−1)または(3−2
)で示される二価の基も挙げることができる。
【0069】
【化6】

【0070】
式(3−1)において、R6は水素、炭素数1〜4のアルキル、炭素数1〜4のアルコ
キシ、ハロゲン、ニトロ、シアノ、メルカプト、低級アルキルカルボキシル、カルボキシルまたはカルバモイルである。
【0071】
前記炭素数1〜4のアルキルの例としては、メチル、エチル、プロピルおよびブチルが挙げられる。
【0072】
前記炭素数1〜4のアルコキシの例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシおよびブトキシが挙げられる。
【0073】
前記ハロゲンの例としては、塩素および臭素が挙げられる。
【0074】
さらに、前記低級アルキルカルボキシルにおける「低級」とは、炭素数が1〜6個ということである。
【0075】
式(3−2)において、R7は酸素、硫黄、メチレン、−NH−、−SO−、−SO2−、−C(CF32−または−C(CH32−を表す。
【0076】
以上説明したオキセタン化合物(B)は、本発明のインク全体(100重量%)の1〜60重量%含まれることが好ましく、3〜50重量%含まれることがより好ましく、5〜30重量%含まれることがさらに好ましい。オキセタン化合物(B)の含有量がこの範囲にあると、本発明のインクの保存安定性が優れ、しかも該インクから得られる硬化膜の基板との密着性が良好となる。
【0077】
本発明に用いるオキセタン化合物(B)は、1種単独の化合物であってもよく、または2種以上の化合物の混合物であってもよい。また、オキセタン化合物(B)は広く市販されており、公知の方法によって容易に合成することもできる。
【0078】
<1.3 (C)共重合体>
上記特定の共重合体(C)は、スチレンから誘導される構造単位と、重合性二重結合を有する酸無水物化合物から誘導される構造単位であって、前記酸無水物化合物由来の酸無水物基がアルコール変性されている構造単位(以下単に「酸無水物化合物由来の構造単位」ともいう)とを有する。前記共重合体(C)は、これらの構造単位を有していれば特に限定されず、共重合体中に、スチレンから誘導される構造単位および酸無水物化合物由来の構造単位以外の他の構造単位(他のラジカル重合性モノマーから誘導される構造単位)を含んでいてもよい。
【0079】
前記共重合体(C)は、エポキシ樹脂(A)の硬化剤として機能する。この硬化反応は、上記オキセタン化合物(B)の反応熱によって加速され、(A)〜(C)成分が硬化することにより、本発明のインクから耐薬品性および基板との密着性に優れた硬化膜が得られる。
【0080】
(1.3.1 重合性二重結合を有する酸無水物化合物)
上記重合性二重結合を有する酸無水物化合物としては、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物およびシトラコン酸無水物などを挙げることができる。これらの酸無水物化合物が有する重合性二重結合が、スチレンの重合性二重結合とラジカル重合反応を起こす。
【0081】
特に、共重合体(C)の製造にあたって、重合性二重結合を有する酸無水物化合物としてマレイン酸無水物を使用すると、そのような共重合体(C)を含む本発明のインクから得られる硬化膜の耐熱性が高いので好ましい。
【0082】
本発明に用いる重合性二重結合を有する酸無水物化合物は、1種単独の化合物であってもよく、また2種以上の化合物の混合物であってもよい。
【0083】
(1.3.2 他のラジカル重合性モノマー)
上記他の構造単位となる他のラジカル重合性モノマーとしては、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、α−クロルアクリル酸、けい皮酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、ω−カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、コハク酸モノ[2−(メタ)アクリロイロキシエチル]、マレイン酸モノ[2−(メタ)アクリロイロキシエチル]、シクロヘキセン−3,4−ジカルボン酸モノ[2−(メタ)アクリロイロキシエチル]、トリシクロ[5.2.1.02,6]デ
カニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ビニルトルエン、(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ポリスチレンマクロモノマー、ポリメチルメタクリレートマクロモノマー、N−アクリロイルモルホリン、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−オキシランシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−(メタ)アクリロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(メタ)アクリロキシメチルオキセタン、3−メチル−3−(メタ)アクリロキシエチルオキセタンおよび3−エチル−3−(メタ)アクリロキシエチルオキセタン等を挙げることができる。
【0084】
これらの中でも、本発明のインクから得られる硬化膜の耐熱性の観点から、メチル(メタ)アクリレートおよびブチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0085】
本発明に用いる他のラジカル重合性モノマーは、1種単独の化合物であってもよく、また2種以上の化合物の混合物であってもよい。
【0086】
(1.3.3 共重合体(C)の製造方法)
共重合体(C)を得るためには、まずスチレンおよび上記重合性二重結合を有する酸無水物化合物、さらに必要に応じて上記他のラジカル重合性モノマーを共重合させる。この共重合反応においては、一般的な共重合反応の条件が採用可能である。
【0087】
前記共重合により得られる共重合体中の、スチレンから誘導される構造単位と酸無水物化合物由来の構造単位との組成比(モル比)は、本発明のインクから得られる硬化膜の耐熱性の観点から、5:1〜1:5であることが好ましく、3:1〜1:1であることがより好ましい。
【0088】
また、前記他のラジカル重合性モノマーを共重合させる場合には、前記共重合体中の前記ラジカル重合性モノマーから誘導される構造単位(他の構造単位)の割合は、前記共重合体(C)1モルに対して好ましくは0.01〜0.2モルである。
【0089】
このようにして得られた共重合体をアルコール変性することにより、本発明に用いる共重合体(C)が得られる。
【0090】
上記の酸無水物化合物由来の酸無水物基の変性に使用するアルコールとしては、1価アルコールが好ましく、その例として具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、シクロヘキシルアルコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルおよび3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン等を挙げることができる。
【0091】
これらの中でも、共重合体(C)の各種溶媒への溶解性が高くなることから、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、シクロヘキシルアルコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンが好ましい。これらの中でも特に、本発明のインクから得られる硬化膜の耐熱性が特に優れたものとなるシクロヘキシルアルコールが好ましい。
【0092】
アルコール変性を行うことにより、酸無水物化合物由来の構造単位における酸無水物化合物由来の酸無水物基の少なくとも一部、本発明のインクから得られる硬化膜の耐熱性の観点から好ましくは50〜100モル%、より好ましくは70〜100モル%がアルコールと反応して開環する。酸無水物基とアルコールとが反応する割合は、アルコールの使用量により調整することができる。
【0093】
このようにして前記アルコール変性により酸無水物基が開環し、例えば、下記一般式(2−1)および(2−2)で表される構造単位が形成される。
【0094】
【化7】

【0095】
式(2−1)および(2−2)中、R1は炭素数1〜20のアルコール残基であり、R2およびR3はそれぞれ独立に水素または炭素数1〜5のアルキルである。前記アルコール残
基とは、アルコールからOHを除いた構造であり、アルコールをX−OHで表すとすれば、X−がアルコール残基にあたる。
【0096】
1は、好ましくは炭素数2〜15のアルコール残基であり、より好ましくは炭素数3
〜12のアルコール残基であり、さらに好ましくは炭素数3〜8のアルコール残基である。前記アルコール残基として具体的には、イソプロピルアルコール残基、ベンジルアルコール残基、シクロヘキシルアルコール残基、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート残基および3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン残基などが挙げられる。
【0097】
また、前記炭素数1〜5のアルキルとしては、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチルおよびヘプチルなどが挙げられる。
【0098】
(1.3.4 共重合体(C)の特性)
本発明のインクジェット用インクの必須成分である共重合体(C)の重量平均分子量は、1,000〜50,000の範囲であることが、本発明のインクから得られる硬化膜の耐熱性、および後述するカーボンブラック(D)の本発明のインク中における良好な分散に基づく平坦性の観点から好ましく、1,000〜40,000であることがより好ましく、1,000〜30,000であることがさらに好ましい。なお、本明細書において重量平均分子量とは、GPCにより測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0099】
また共重合体(C)の酸価は、本発明のインクから得られる硬化膜の硬度の観点から、20〜500mg KOH/gの範囲にあることが好ましく、50〜400mg KOH/gの範囲にあることがより好ましく、100〜300mg KOH/gの範囲にあることがさらに好ましい。
【0100】
以上説明した共重合体(C)は、本発明のインク全体(100重量%)の0.1〜40重量%含まれることが好ましく、0.5〜30重量%含まれることがより好ましく、1〜20重量%含まれることがさらに好ましい。共重合体(C)の含有量が上記範囲であると、本発明のインクから得られる硬化膜の耐薬品性、基板との密着性および平坦性が良好となる。本発明に用いる共重合体(C)は、1種単独の化合物であってもよく、2種以上の化合物の混合物であってもよい。
【0101】
<1.4 (D)カーボンブラック>
本発明のインクジェット用インクは、カーボンブラック(D)を含む。カーボンブラックは導電性の材料であり、これによって、本発明のインクから得られる硬化膜は導電性を
有し、低抵抗の抵抗体として使用可能である。
【0102】
本発明のインクにおいて、前記カーボンブラック(D)の含有量は、本発明のインクに含まれる(A)〜(D)成分の合計100重量%に対して通常20〜80重量%である。
【0103】
なお、カーボンブラック(D)は、本発明のインクから得られる硬化膜を低抵抗の抵抗体として使用する場合には、その含有量は、本発明のインクに含まれる(A)〜(D)成分の合計100重量%に対して通常40〜80重量%である。
【0104】
インクジェットにおける印字の安定性及び抵抗体の強度の観点から、カーボンブラック(D)の含有量は、本発明のインクに含まれる(A)〜(D)成分の合計100重量%に対して40〜70重量%であることがより好ましく、50〜60重量%であることがさらに好ましい。
【0105】
また、カーボンブラック(D)の含有量が、本発明のインクに含まれる(A)〜(D)成分の合計100重量%に対して20重量%以上40重量%未満であると、そのようなインクから、遮光することができる程度に黒色であり、かつ絶縁性の硬化膜を得ることができる。前記硬化膜は絶縁性遮光性材料用途に使用可能であるが、詳細は後述する。
【0106】
次に、カーボンブラック(D)の粒径について説明する。
【0107】
印字性及び抵抗性発現の安定性の低下を抑制するために、カーボンブラック(D)の粒子径は、大塚電子(株)ゼータ電位・粒径測定システムELS−Zseriesを使用して測定した一次粒子径として、100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることが更に好ましい。また、同様の観点から、前記装置で測定したカーボンブラック(D)の平均分散粒径は、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましい。さらに、同様の観点から、前記装置で測定したカーボンブラック(D)の最大分散粒径は、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。
【0108】
カーボンブラック(D)は、それ単独で本発明のインクの調製に供してもよいが、カーボンブラックが溶媒中に分散した分散液の状態で前記インクの調製に供すると、他の成分と均一に混合されるので好ましい。ここでカーボンブラック(D)の分散液に使用する溶媒は、本発明のインクにおいては、後記の溶媒(E)の一部とみなすものとする。
【0109】
<1.5 (E)溶媒>
本発明のインクジェット用インクには、各種基板への塗布性(インクジェットにおける印字性)を確保するために、溶媒(E)を含有させる。
【0110】
前記溶媒の具体例としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、乳酸エチル、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドンおよびN,N−ジメチルアセトアミドを挙げることができる。
【0111】
これらの中でも、溶媒(E)としてジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエ
チレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートまたは3−メトキシプロピオン酸メチルを使用すると、本発明のインクの塗布均一性が高いので好ましい。
【0112】
本発明に用いられる溶媒(E)は、1種単独の溶媒であってもよいし、または2種以上
の混合溶媒であってもよい。
【0113】
溶媒(E)は、本発明のインクの塗布均一性の観点から、本発明のインク全体(100重量%)の40〜90重量%含まれることが好ましく、50〜85重量%含まれることがより好ましく、60〜80重量%含まれることがさらに好ましい。
【0114】
<1.6 その他の添加剤>
本発明のインクジェット用インクは、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて上記以外の他の成分を含んでもよい。このような他の成分として、カップリング剤、界面活性剤および酸化防止剤などが挙げられる。
【0115】
本発明に用いるその他の添加剤は、1種単独であってもよく、2種以上を混合して用いてもよい。すなわち、添加剤がカップリング剤だけであってもよいし、カップリング剤および界面活性剤を併用してもよい。また、それぞれの添加剤は、1種単独の化合物であってもよく、また2種以上の化合物の混合物であってもよい。
【0116】
前記カップリング剤は、例えば、本発明のインクの下地基板との密着性を向上させるために使用するものであり、本発明のインクの固形分(該インクから溶媒(E)を除いた残りの成分)100重量部に対し通常10重量部以下の量を添加して用いられる。
【0117】
カップリング剤としては、シラン系、アルミニウム系及びチタネート系の化合物を用いることができる。具体的には、3−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランおよび3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのシラン系カップリング剤、
アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートなどのアルミニウム系カップリング剤、並びに
テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネートなどのチタネート系カップリング剤を挙げることができる。
【0118】
これらのなかでも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが、密着性を向上させる効果が大きいため好ましい。
【0119】
上記界面活性剤は、例えば、本発明のインクの下地基板への濡れ性、レベリング性、または塗布性を向上させるために使用するものであり、本発明のインク100重量部に対し、通常0.01〜1重量部添加して用いられる。
【0120】
界面活性剤としては、シリコン系界面活性剤、アクリル系界面活性剤、又はフッ素系界面活性剤などが用いられる。
【0121】
具体的には、Byk−300、Byk−306、Byk−335、Byk−310、Byk−341、Byk−344およびByk−370(商品名;ビック・ケミー(株)製)などのシリコン系界面活性剤、
Byk−354、ByK−358およびByk−361(商品名;ビック・ケミー(株)製)などのアクリル系界面活性剤、
DFX−18、フタージェント250およびフタージェント251(商品名;ネオス(株
)製)などのフッ素系界面活性剤を挙げることができる。
【0122】
上記酸化防止剤は、例えば、本発明のインクから得られる硬化膜の透明性の向上、硬化膜が高温にさらされた場合の変色を防止するために使用するものであり、前記インクの固形分(該インクから溶媒(E)を除いた残りの成分)100重量部に対し0.1〜3重量部添加して用いられる。
【0123】
前記酸化防止剤としては、ヒンダードアミン系又はヒンダードフェノール系などの酸化防止剤が用いられる。具体的には、IRGAFOS XP40、IRGAFOS XP60、IRGANOX 1010、IRGANOX 1035、IRGANOX 1076、I
RGANOX 1135、又はIRGANOX 1520L(商品名;チバ・ジャパン(株)製)などを挙げることができる。
【0124】
<1.7 インクジェット用インクの粘度>
本発明のインクジェット用インクの、25℃における粘度は、50mPa・s以下であると、インクジェット塗布方法によるジェッティング精度が向上する点で好ましい。また、前記ジェッティング精度の観点から、本発明のインクの25℃における粘度は、より好ましくは5〜20mPa・sであり、さらに好ましくは8〜15mPa・sである。
【0125】
<1.8 インクジェット用インクの保存>
本発明のインクジェット用インクは、上記オキセタン化合物(B)を含んでいるため、保存安定性に特に優れており、常温(23℃)で2週間保存しても、粘度の変化率は5%
未満である。
【0126】
また、本発明のインクは、−20〜10℃で保存すると粘度変化が特に小さく、保存安定性が非常に良好である。
【0127】
<1.9 インクジェット用インクの調製>
本発明のインクジェット用インクは、以上説明したエポキシ樹脂(A)、オキセタン化合物(B)、特定の共重合体(C)、カーボンブラック(D)、および溶媒(E)を混合し、目的とする特性によっては、さらにカップリング剤、界面活性剤、及び酸化防止剤などを必要により選択して添加し、それらを均一に混合溶解することにより得ることができる。
【0128】
[2.インクジェット用インクから得られる硬化膜]
例えば上記のようにして調製された本発明のインクジェット用インクを、基板上に塗布した後、例えば加熱などにより溶媒を乾燥除去すると、基板上に前記インクの塗膜を形成することができる。
【0129】
前記基板としては、例えば、白板ガラス、青板ガラス、シリカコート青板ガラス等の透明ガラス基板、
ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、アクリル重合体、塩化ビニール重合体、芳香族ポリアミド重合体、ポリアミドイミド、ポリイミド等の合成重合体製のシ−ト、フィルム又は基板、
アルミニウム板、銅板、ニッケル板、ステンレス板等の金属基板、
その他セラミック板、光電変換素子を有する半導体基板が挙げられる。
【0130】
前記インクの塗膜はホットプレート、またはオーブンなどで加熱(プリベーク)される。加熱条件は本発明のインクにおける各成分の種類及び配合割合によって異なるが、通常70〜120℃で、オーブンなら5〜15分間、ホットプレートなら1〜5分間である。
このプリベークにより、本発明のインク中の溶媒(E)が揮発し、流動性のない膜が得られる。
【0131】
その後、前記塗膜を熱硬化させるために80〜230℃、好ましくは120〜200℃で、オーブンなら30〜90分間、ホットプレートなら5〜30分間加熱処理することによって、本発明の硬化膜を得ることができる。
【0132】
本発明のインクにおけるカーボンブラック(D)の含有量が、本発明のインクに含まれる(A)〜(D)成分の合計100重量%に対して40〜80重量%の場合には、該インクから得られる硬化膜の体積抵抗率は、通常1.0×10-1〜1.0×104Ω・cm、
好ましくは1.0×10-1〜1.0×101Ω・cmである。そのため、このような硬化
膜は低抵抗の抵抗体として有用である。
【0133】
前記抵抗体は、本発明のインクから形成されているため、プレス処理による欠け、剥離、クラックが起こりにくく、また湿度による抵抗値の変化が少ない。したがって、本発明の抵抗体は、種々の素子の構成部品として有用である。前記素子の例としては、導電回路と組み合わせた抵抗体素子、スイッチ回路、多層配線板、半導体パッケージおよび受動素子が挙げられる。また、本発明のインクは、前記のように基板との密着性に優れた硬化膜を形成することができるため、実装固定用接着剤として用いると効果的である。
【0134】
そして、このような素子を、配線形成された基板上に形成することによって、受動素子などの種々の素子と基板とが一体化した配線板を製造することができる。このような配線板は、液晶表示素子および固体撮像素子などの電子部品の製造に有用である。
【0135】
さらに、本発明のインクにおけるカーボンブラック(D)の含有量が、本発明のインクに含まれる(A)〜(D)成分の合計100重量%に対して20重量%以上40重量%未満であると、前述のように、そのようなインクを熱硬化させることで、絶縁性遮光性材料を得ることができる。このような絶縁性遮光性材料の体積抵抗率は、通常1.0×107
〜1.0×1011Ω・cm、好ましくは1.0×109〜1.0×1011Ω・cmである

【0136】
例えばディスプレイの製造時に画素に何らかの異常があると、光源から発光してディスプレイ表示したときに、その異常がある画素に対応するディスプレイの部分の表示がうまくいかないため、そのディスプレイは破棄処分とされてしまう。そこで、前記画素に異常がある部分に対応するディスプレイの部分を、肉眼では感知できない大きさの遮光性の材料で覆う(隠す)ことにより、ディスプレイの補修をし、破棄処分を免れることができる。
【0137】
本発明の絶縁性遮光性材料は、カーボンブラック(D)を一定量含んでいるために十分に黒色であり、かつ絶縁性であるため、異常がある画素に対応するディスプレイの部分の表示を隠しつつ、かつディスプレイの配線等に影響を与えない。そのため、本発明の絶縁性遮光性材料は、ディスプレイの補修用途に好適である。
【実施例】
【0138】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下に、実施例及び比較例に使用する化合物とその略号を示す。
【0139】
<(A)エポキシ樹脂:三井化学(株)製>
(式(1−1)で表される化合物と式(1−2)で表される化合物との混合物)
VG:TECHMORE VG3101L
式(1−1)で表される化合物の分子量:592.7。
【0140】
<(B)オキセタン化合物:東亞合成(株)製(多官能オキセタン化合物)>
OXT1:アロンオキセタンOXT−121
1、4−ビス{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}ベンゼン
分子量:334.3
OXT2:アロンオキセタンOXT−221
3−エチル−3−{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン分子量:214.3。
【0141】
<(C)共重合体:川原油化(株)製 (スチレンと酸無水物基を有する重合性モノマーとの共重合体のアルコール変性物)>
SMA1:SMA1440(下記式参照)
アルコール変性されたスチレン・無水マレイン酸共重合体アルキルエステル
重量平均分子量:7000、酸価:165−205mg KOH/g
【0142】
【化8】

【0143】
(上記式において、mは1〜3の整数であり、nは6〜8の整数であり、Rはアルコール残基である。なお、SMA1440を構成する構造単位について、上記式では、右側の−CH−CO−O−にRが結合した構造を記載したが、左側の−CH−CO−O−にRが結合しているか、または右側の−CH−CO−O−にRが結合しているかはランダムである。)。
【0144】
SMA2:SMA17352(下記式参照)
アルコール変性されたスチレン・無水マレイン酸共重合体アルキルエステル
重量平均分子量:7000、酸価:255−285mg KOH/g
【0145】
【化9】

【0146】
(上記式において、pは1〜3の整数であり、qは6〜8の整数であり、Rはアルコール残基である。なお、SMA17352を構成する構造単位について、上記式では、右側の−CH−CO−O−にRが結合した構造を記載したが、左側の−CH−CO−O−にRが結合しているか、または右側の−CH−CO−O−にRが結合しているかはランダムである。)。
【0147】
<(D)カーボンブラック>
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DB)40gに、ルーブリゾール(株)製ソルスパース32000を6g溶解し、得られた溶液にカーボンブラック20gを加えて3本ロールミルで混練した。その後、混練物に溶媒としてDBを34gと直径0.5mmのジルコニアビーズ400gとを加えて、サンドミルで20時間攪拌した。得られた混合液をテフロン(登録商標)製メンブレンフィルター(1μm)で濾過してカーボンブラックの分散液を得た(カーボンブラック濃度:20重量%)。
【0148】
カーボンブラック(D)の粒子径を、大塚電子(株)ゼータ電位・粒径測定システムELS−Zseriesを使用して測定した。カーボンブラックの一次粒子径:30〜100nm。
【0149】
<(E)溶媒>
DB:ジエチレングリコールモノブチルエーテル(東邦化学工業(株)製)
DEGBEA: ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート((株)ゴードー製)。
【0150】
<インクジェット用インクの調製>
下記表1の組成に基づいて、各成分を均一に混合溶解することにより、実施例1〜4及び比較例1〜3に係るインクジェット用インクを調製した。なお、表1において、数値の単位はg(グラム)であり、CBは上記カーボンブラックの分散液を表す。
【0151】
【表1】

【0152】
実施例1〜4および比較例1〜3のインクジェット用インクを以下の方法で評価し、結果を表2に示した。
【0153】
<印刷性の評価方法>
上記インクを、FUJIFILM Dimatix Inc.製のDMP−2831型インクジェット装置にて、10pl用のヘッドDMP−11610を用いて、吐出電圧が16V、30℃の温度下で、ガラス基板上に塗布し、ドットパターンを形成した。ジェッティング時のインクの液柱が垂直方向に吐出され、サテライトが発生しなかった場合を○、液柱が隣の液柱と接触する、またはサテライトが発生した場合を×とした。
【0154】
<保存安定性の評価方法>
上記インクの粘度を、東機産業(株)製E型粘度計(商品名;TVE−22L)を使用して25℃で測定した。また、インクを23℃で2週間保存して、その保存前後でのイン
クの粘度変化率を保存安定性として調べた。
【0155】
以上の評価結果を下記表2に示す。
【0156】
【表2】

【0157】
表2に示した結果から明らかなように、実施例1〜4は2週間を経過しても、粘度変化
率が5%未満であった。一方オキセタン化合物(B)を含まないインクジェット用インクである比較例1は、保存二日目から粘度が上昇し、2週間経過すると粘度は11%上昇した。実施例1〜4で得られたインクは、インクジェットヘッドの目詰まりを生じることなく、良好に印刷することができた。これに対して、比較例2および3では、液柱が隣の液柱と接触する、またはサテライトが発生するなどの不具合が生じた。
【0158】
次に、実施例1〜4および比較例1〜3のインクを用いて、以下の方法で硬化膜を作製し、下記に示す種々の評価を行った。
【0159】
<硬化膜の作成>
上記インクをガラス基板上に600rpmで10秒間スピンコートした後、ホットプレート上で80℃で3分間プリベークして塗膜を形成させた。その後、オーブンで、200℃で60分間加熱することにより塗膜を硬化させ、膜厚2μmの硬化膜を得た。
【0160】
このようにして得られた硬化膜について、基板との密着性、体積抵抗率、耐薬品性、膜厚及び遮光性について、以下の方法で、各特性を評価(測定)した。
【0161】
<密着性の評価方法>
得られた硬化膜付きガラス基板のテープ剥離によるゴバン目試験(JIS K5600)を行い、碁盤目の残存率(%)を密着性の評価とした。
【0162】
<体積抵抗率の測定方法>
得られた硬化膜の体積抵抗率は、25℃において、三菱化学(株)製ロレスタGPを用いて測定した。体積抵抗率の単位はΩ・cmである。
【0163】
<耐薬品性の評価方法>
得られた硬化膜を、イソプロピルアルコール中に25℃で浸漬し、超音波を10分間か
ける処理を施した後、処理前の膜厚に対する処理後の残膜率(膜厚の比率)を耐薬品性の評価とした。
【0164】
<膜厚の測定方法>
得られた硬化膜の膜厚測定は、KLA TENCOR(株)製段差・表面粗さ・微細形状測定装置(商品名:P−15「highly sensitive surface profiler」)を用いて行っ
た。
【0165】
<遮光性の評価方法>
得られた硬化膜の遮光性は、日本分光(株)製紫外可視分光光度計V−670を用いて測定した硬化膜の光学濃度(OD値)で評価した。OD値は、下式のようにして求めた。
【0166】
OD=−log(T/100) (Tは硬化膜の400nmの光透過率(%)である。)
以上の評価(測定)結果を下記表3に示す。
【0167】
【表3】

【0168】
表3に示した結果から明らかなように、実施例1〜4の硬化膜は、密着性、耐薬品性、体積抵抗率、および、遮光性の全ての点においてバランスがとれていることが分かる。一方、比較例1〜3は、密着性、耐薬品性、体積抵抗率および遮光性のうち、いずれかが劣っていた。
【0169】
[実施例5]
(A)〜(C)成分の使用重量は変更せず、カーボンブラック(D)としての上記カーボンブラック分散液の使用重量を変更することで、該成分(D)の含有量を(A)〜(D)成分の合計100重量%に対して30重量%にし、また、(E)成分の溶媒のDBの重量を13.44gにした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット用インクを調製した。
【0170】
このインクの印刷性および保存安定性を実施例1と同様の条件で評価したところ、このインクは印刷性および保存安定性ともに、実施例1と同様に優れていた。
【0171】
また、前記インクから実施例1と同様にして形成した硬化膜について密着性、体積抵抗率、耐薬品性および遮光性について評価したところ、前記硬化膜は前記体積抵抗率が1.0×1010で絶縁性であり、OD値(光学濃度)は4.1で十分な遮光性を有しており、基板との密着性及び耐薬品性の点においてもバランスがとれていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明のインクジェット用インクより得られる硬化膜は、抵抗体、抵抗体素子、ならび
に、エレクトロニクス分野における配線板等に利用することができる。また、この硬化膜は絶縁性遮光性材料として、液晶パネル等の表示素子、微細着色パターン欠陥等の修復に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、
(B)オキセタン化合物、
(C)スチレンから誘導される構造単位と、重合性二重結合を有する酸無水物化合物から誘導される構造単位であって、前記酸無水物化合物由来の酸無水物基がアルコール変性されている構造単位とを有する共重合体、
(D)カーボンブラック、および
(E)溶媒
を含むインクジェット用インク。
【請求項2】
オキセタン化合物(B)がオキセタンを複数有する、請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
共重合体(C)が、下記式(2−1)で表される構造単位および/または下記式(2−2)で表される構造単位を有する、請求項1または2に記載のインクジェット用インク:
【化1】

(式(2−1)および(2−2)中、R1は炭素数1〜20のアルコール残基であり、
2およびR3は独立に水素または炭素数1〜5のアルキルである。)。
【請求項4】
カーボンブラック(D)の含有量が、(A)〜(D)成分の合計100重量%に対して20〜80重量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項5】
エポキシ樹脂(A)が、下記式(1−1)で表される化合物を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット用インク:
【化2】

【請求項6】
溶媒(E)が、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートおよび3−メトキシプロピオン酸メチルから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項7】
25℃における粘度が50mPa・s以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット用インク。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のインクジェット用インクを基板上に塗布し、該基板上に形成された前記インクの塗膜を熱硬化させて得られる硬化膜。
【請求項9】
請求項8に記載の硬化膜からなり、体積抵抗率が1.0×10-1〜1.0×104Ω・
cmである抵抗体。
【請求項10】
請求項8に記載の硬化膜からなり、体積抵抗率が1.0×107〜1.0×1011Ω・
cmである絶縁性遮光性材料。
【請求項11】
請求項8に記載の硬化膜を備える素子。
【請求項12】
請求項11に記載の素子が、配線形成された基板上に形成されてなる配線板。
【請求項13】
請求項12に記載の配線板を有する電子部品。

【公開番号】特開2011−231247(P2011−231247A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103981(P2010−103981)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】