説明

インクジェット用クロスメディア

【課題】特殊な搬送装置などを使用せずとも、裏紙なしで搬送することが可能で、かつインクが布帛を通り抜けることなくインクジェットプリントすることが可能な、インクジェット用クロスメディアを提供する。
【解決手段】熱融着糸と非熱融着糸とを製織するか、または、複合繊維からなる熱融着糸を製織した、カバーファクターが1500〜2500である織物を、加熱処理することにより得られるインクジェット用クロスメディアであって、熱融着成分を8〜50質量%含有し、通気度が1.0cc/cm2/sec以下であり、かつ、クラーク剛度が10〜400である、インクジェット用クロスメディア。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリントに用いられるクロスメディアに関するものであり、さらに詳しくは、裏紙を必要としないインクジェット用クロスメディアに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット用のメディア(記録媒体)として、織物に代表される布帛を基材としたものが商品化されている。布帛からなるメディア(クロスメディア)は、紙やフィルムを基材とした従来のメディアに比べて強度や耐久性に優れており、独特の風合いを有する。一方で、クロスメディアは、それのみでインクジェットプリンタに搬送することが難しく、裏紙を使用する必要があった。また、付与したインクが布帛組織の隙間を通り抜けることによって、インクジェットプリンタが汚れるという問題もあり、同じく裏紙を使用する必要があった。しかしながら、裏紙を使用すると、布帛に裏紙を接着する工程が必要となることや、裏紙はインクジェットプリント後に廃棄することから、生産コストが高くなる傾向がある。
【0003】
上記問題を解決する手段として、例えば特許文献1には、裏紙を当てていない布地に低レベルのゆがみでパターンを印刷するための、布地特性決定および張力制御サブシステムを備えた布地印刷システムが開示されている。しかしながら、特許文献1のシステムにより布地にインクジェットプリントを行うには、上記の如き特殊なサブシステムが不可欠であり汎用性に乏しい。
【0004】
また、クロスメディア自体の改良も検討されており、例えば特許文献2には、特定の径および長さを有する繊維を主体とする不織布の一方の面に、インク受理層を設けてなるインクジェット記録シートが、布風な独特の風合い、良好なインクジェット記録適性、屋外での良好な記録画像の保存性を示す旨記載されているが、かかる記録シートはインク受理層が不可欠であること、また、不織布は本質的に耐久性に乏しく、屋外用途や長期使用に関しては自ずと限界があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−277995号公報
【特許文献2】特開2001−010031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、特殊な搬送装置などを使用せずとも、裏紙なしで搬送することが可能で、かつインクが布帛を通り抜けることなくインクジェットプリントすることが可能であり、さらに屋外での使用や長期使用にも良好な耐性を示す、インクジェット用クロスメディアを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、熱融着糸と非熱融着糸とを製織するか、または、複合繊維からなる熱融着糸を製織した、カバーファクターが1500〜2500である織物を、加熱処理することにより得られるインクジェット用クロスメディアであって、熱融着成分を8〜50質量%含有し、通気度が1.0cc/cm2/sec以下であり、かつ、クラーク剛度が10〜400である、インクジェット用クロスメディアである。
【0008】
前記インクジェット用クロスメディアは、経糸方向および緯糸方向の引裂き強度が、ともに0.1kgf/cm以上であることが好ましい。
【0009】
前記複合繊維からなる熱融着糸は、非熱融着成分であるポリエステルと熱融着成分である共重合ポリエステルとが組み合わされた複合繊維からなるものであることが好ましく、前記加熱処理は、ポリエステルの融点より低くかつ共重合ポリエステルの融点より高い温度で行うものであることが好ましい。
【0010】
前記複合繊維は、ポリエステルからなる芯部と、共重合ポリエステルからなる鞘部で構成された芯鞘型複合繊維であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特殊な装置などを使用せずとも、裏紙なしで搬送することが可能で、かつインクが布帛を通り抜けることなくインクジェットプリントすることが可能であり、さらに屋外での使用や長期使用にも良好な耐性を示す、インクジェット用クロスメディアを容易に製造し、提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る織物は、熱融着糸と非熱融着糸とを製織するか、または、複合繊維からなる熱融着糸を製織することにより得られるものである。該織物またはこれを加熱処理して得られる本発明のインクジェット用クロスメディアは、熱融着成分を8質量%以上含むものであることが好ましく、10質量%以上含む場合がより好ましい。一方、該熱融着成分は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。織物における熱融着成分の割合が下限値に満たないと、熱融着糸と非熱融着糸との融着が不十分となり、得られたクロスメディアをインクジェットプリンタにて搬送することが困難となる。また、上限値を超えると、得られたクロスメディアがペーパーライクなものとなり、織物の風合いが損なわれるおそれがある。
【0013】
本発明において熱融着糸とは、熱融着成分を含んでなる糸条をいい、熱融着成分とは、非熱融着成分(加熱処理による溶融・融着を意図しない、通常の糸条(非熱融着糸)を構成する樹脂)の融点や軟化点よりも低い融点や軟化点を有し、加熱処理により溶融・融着せしめることを意図した樹脂をいう。熱融着成分は、加熱により溶融し、非熱融着糸(または非熱融着繊維)を相互に融着させるという、バインダーの役割を果たす。熱融着糸に占める熱融着成分の割合は、製織の際に非熱融着糸をどの程度の割合で使用するかによって変動するが、通常、熱融着性の効果を好適に発揮させる観点から、20〜100質量%であることが好ましく、30〜50質量%であることがより好ましい。
【0014】
また、本発明において、繊維(例えば、熱融着繊維、非熱融着繊維、複合繊維など)は、熱融着糸または非熱融着糸を構成する素材であって、熱融着成分および/または非熱融着成分からなるものであり、短繊維、長繊維のいずれをも含むものである。長繊維は、それ自体で「糸」を構成するものをも含むものである。繊維には、その由来により、例えば、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維などがある。
【0015】
本発明において、複合繊維とは、熱融着成分と非熱融着成分とが組み合わされてなるものをいう。
【0016】
繊維の断面形状は特に限定されるものではなく、通常の丸型であっても、扁平型、楕円型、三角形、中空型、Y型、T型、U型などの異型であってもよい。熱融着糸は、その目的や具体的用途に応じて、長繊維および/または短繊維のいずれからなるものであってもよい。
【0017】
ここで、融点とは、結晶性を有する熱可塑性樹脂の、示差走査熱量測定(DSC測定)における結晶融解温度をいい、軟化点とは、その他の熱可塑性樹脂の、軟化し始める温度をいう。本発明においては、融点は、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製 DSC7)を用い、昇温速度20℃/分で測定するものである。一方、軟化点は、JIS K7196法の「熱可塑性プラスチックフィルム及びシートの熱機械分析による軟化温度試験方法」に従って測定するものである。本明細書において、樹脂について、単に「融点」というときは、他の記載と特に矛盾しない限り、当該樹脂が結晶性を示さない樹脂である場合の「軟化点」をも意味するものである(但し、「軟化点」を意味しないことが、文脈より明らかである場合は、この限りではない)。
【0018】
本発明の熱融着糸は、熱融着成分のみからなる熱融着繊維からなるものであってもよいし、熱融着成分と非熱融着成分とが組み合わされた複合繊維からなるものであってもよい。
【0019】
熱融着糸が複合繊維からなるものである場合、熱融着成分の融点は、非熱融着成分の融点よりも30℃以上低いことが好ましい。融点の差が30℃未満であると、非熱融着成分を劣化させることなく熱融着成分のみを確実に溶融し、熱融着性を発揮させることが困難となるおそれがある。一方、熱融着成分の融点は、130℃以上、より好ましくは150℃以上であることが好ましい。熱融着成分の融点が130℃未満であると、クロスメディアとしての通常の使用において、形態安定性を維持し、染着性を確保することが困難となるおそれがある。
【0020】
例えば、非熱融着成分がポリエステル(本明細書において「ポリエステル」という場合、断りのない限り、ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃、通常、「レギュラーポリエステル」としても知られているもの)をいう。)である場合、これと組み合わせる熱融着成分としては、融点もしくは軟化点が好ましくは130〜210℃、より好ましくは150〜200℃の範囲にある樹脂を選択することができる。非熱融着成分(高融点もしくは高軟化点成分)/熱融着成分(低融点もしくは低軟化点成分)の組み合わせとしては、例えば、ポリエステル/共重合ポリエステル(低融点ポリエステル)、ポリエステル/ナイロン、ポリエステル/ポリエチレン、ポリエステル/ポリプロピレン、ポリエステル/エチレン−プロピレン共重合体、ポリエステル/エチレン−酢酸ビニル系共重合体、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/エチレン−プロピレン共重合体、共重合ポリエステル/エチレン−酢酸ビニル系共重合体などをあげることができる。これらは、その目的や具体的用途に応じて適宜選択される。なかでも、強度の点から、ポリエステル/共重合ポリエステルの組み合わせが好ましい。
【0021】
好ましい共重合ポリエステルとしては、テレフタル酸またはそのエステル(酸成分)とエチレングリコール(グリコール成分)とを重合反応せしめて得られるポリエチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とする共重合ポリエステルであり、他に、酸成分としてシュウ酸、マロン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバチン酸等の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類およびヘキサヒドロテレフタル酸等の脂環族ジカルボン酸から選ばれる1種または2種以上を、グリコール成分としてジエチルグリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサンジオール、パラキシレングリコール、ビスヒドロキシエトキシフェニルプロパン等の脂肪族、脂環族および芳香族系ジオール類等のグリコールから選ばれる1種、もしくは2種以上を所望割合で含有し、所望に応じてパラヒドロキシ安息香酸等のオキシ酸類を50モル%以下の割合で含有する共重合ポリエステルが好適である。
【0022】
そして、上記のなかでも、特に、テレフタル酸とエチレングリコールにイソフタル酸を添加して共重合させたポリエステルが好適である。そして、このようなイソフタル酸共重合ポリエステルでは、イソフタル酸成分を10〜35モル%共重合させたものが、融着固定および製織のしやすさの観点から好ましい。なお、上記成分モノマーの共重合比率を変えることにより、所望の軟化点となるよう調整することができる。
【0023】
複合繊維は、熱融着糸、これを製織して得られる織物、およびさらに加熱処理して得られるクロスメディアの機械的特性を保持する上では、長繊維であることが好ましい。
複合繊維の形態は、熱融着成分が繊維表面の少なくとも一部に露出するように配されることが好ましく、さらには複合繊維の表面積のうち50%以上露出していることが好ましい。このとき熱融着成分が繊維表面に露出していないと,製織した織物において、加熱により融着部を形成せしめることができなくなるためである。
複合繊維の構成としては、非熱融着成分からなる芯部と熱融着成分からなる鞘部で構成された芯鞘型、サイドバイサイド型、海島型、多層貼合型、放射状貼合型などをあげることができる。なかでも、熱融着成分を繊維表面の全部に露出させることが可能で、熱融着性を有効に利用することもできるという観点からは、芯鞘型が好ましい。
【0024】
本発明において、熱融着成分と非熱融着成分(繊維形成成分)とが組み合わされてなる複合繊維(好ましくは、芯鞘型のもの)からなる熱融着糸を使用して、織物を構成する場合、複合繊維に占める熱融着成分の割合は、通常、20〜50質量%であることが好ましく、30〜40質量%であることがより好ましい。熱融着成分の割合が下限値に満たないと、融着が不十分となり、得られたクロスメディアをインクジェットプリンタにて搬送することが困難となる傾向があり、また、上限値を超えると繊維の強度が弱くなるため、実用的でなくなる傾向がある。
【0025】
一方、本発明の熱融着糸が、熱融着成分(繊維)のみからなるものである場合、該熱融着成分としては、上記したものをいずれも好適に使用することができる。この場合には、本発明に係る織物またはクロスメディアにおける熱融着成分の割合が所定の範囲内となるように、熱融着糸のみならず非熱融着糸をも用いて、織物を製織することが必要となる。
【0026】
熱融着糸には、必要に応じて撚りをかけてもよいし、仮撚加工や流体撹乱処理などにより、捲縮性や伸縮性、嵩高性を付与してもよい。
【0027】
熱融着糸について、単繊度は、2〜35dtexであることが、適度な強度と風合いを得る点で好ましく、3〜20dtexであることがさらに好ましい。
【0028】
熱融着糸について、糸条としての総繊度は、20〜330dtexであることが好ましく、80〜280dtexであることがより好ましい。この範囲にすることで、インクジェットメディアとして適度な強度と風合いを得ることができる。
【0029】
なお、上記総繊度を有する糸条は、1本の繊維で構成されていてもよく、複数本(2本以上、好ましくは約10〜約30本)の繊維で構成されていてもよい。
【0030】
本発明において非熱融着糸とは、非熱融着成分のみからなる、いわゆる通常の糸条をいう。かかる非熱融着糸としては、熱融着糸に含まれる熱融着成分の融点よりも高い融点を有する非熱融着成分からなるものである限り特に限定されず、該非熱融着成分としては、上記したものをいずれも好適に使用することができる。該非熱融着糸としては、これら非熱融着成分からなる繊維(例えば、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維など)から構成されるものをあげることができ、その目的や具体的用途に応じて適宜選択すればよい。なかでも、強度や耐熱性、耐光性などの点から、合成繊維からなるものが好ましく、該合成繊維としては、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃、通常、「レギュラーポリエステル」としても知られているもの))繊維が好ましい。
【0031】
非熱融着糸は、その目的や具体的用途に応じて、長繊維および/または短繊維のいずれからなるものであってもよい。繊維の断面形状は、特に限定されるものではなく、通常の丸型であっても、扁平型、楕円型、三角形、中空型、Y型、T型、U型などの異型であってもよい。
【0032】
また、非熱融着糸には、必要に応じて撚りをかけてもよいし、仮撚加工や流体撹乱処理などにより、捲縮性や伸縮性、嵩高性を付与してもよい。
【0033】
非熱融着糸について、単繊度は、2〜35dtexであることが好ましく、3〜20dtexであることがより好ましい。単繊度が2dtexに満たないと、インクジェット用クロスメディアとして強度が低下するおそれがある。単繊度が35dtexを超えると、織物を構成した際に、目寄れ(縦方向や横方向の力が働いて糸ずれが起こる現象)などが発生するおそれがある。
【0034】
非熱融着糸について、糸条としての総繊度は、20〜330dtexであることが好ましく、84〜280dtexであることがより好ましい。繊度が20dtexに満たないと、インクジェット用クロスメディアとして強度が低下するおそれがある。繊度が330dtexを超えると、織物を構成した際に目寄れなどが発生するおそれがある。
【0035】
なお、上記総繊度を有する糸条は、1本の繊維からなるものであってもよく、複数本(2本以上、好ましくは約10〜約30本)の繊維からなるものであってもよい。
【0036】
本発明に係る織物は、前記熱融着糸と非熱融着糸を製織するか、または、前記複合繊維からなる熱融着糸を製織して得ることができる。熱融着糸と非熱融着糸とを製織する場合、熱融着成分と非熱融着成分について、その融点、好ましいそれぞれの具体例や組合せ、含有割合などは、既に上述したとおりである。この場合において、本発明に係る織物は、熱融着糸と非熱融着糸との交織織物である。
【0037】
織組織は特に限定されるものではないが、例えば、平織、朱子織、綾織などをあげることができる。なかでも、高密度に設計しやすく、インクを表面に留めやすく高濃度の表現が可能であるという点から、平織が好ましい。
【0038】
織物の密度は、経糸、緯糸ともに製織可能な密度範囲であって、かつ、後述するカバーファクター(CF)を満たすものであれば特に限定されるものではない。製織可能な密度範囲としては、経糸、緯糸ともに、10〜300本/2.54cmの範囲から選定することができる。
【0039】
本発明に係る、熱融着糸と非熱融着糸とを製織した、または、複合繊維からなる熱融着糸を製織した織物のカバーファクター(CF)は、1500〜2500であり、1800〜2100であることが好ましい。カバーファクターが1500未満であると、インクが織物組織の隙間を通り抜けることによって、プリンタが汚れるおそれがある。また、2500を超えると、クロスメディアの風合いが硬くなり、インクジェットプリンタへの搬送が困難になるおそれがある。本発明におけるカバーファクター(CF)は、下記式により算出される。

CF=(D1)1/2×(M1)+(D2)1/2×(M2)
(D1) : 経糸の繊度[dtex]
(D2) : 緯糸の繊度[dtex]
(M1) : 経糸の密度[本/2.54cm]
(M2) : 緯糸の密度[本/2.54cm]
【0040】
本発明の上述した織物は、加熱処理に付される。加熱処理により、前記熱融着成分が溶融もしくは軟化し、経糸と緯糸とで形成される隙間を埋めるように作用する。これにより、インクジェットプリント時に生じるインクの通り抜けを防止することができ、裏紙を使用せずともインクジェットプリントを行うことが可能となる。
【0041】
前記加熱処理は、熱融着成分の融点もしくは軟化点より高い温度、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上高い温度で行うことが好ましく、かつ、非熱融着成分の融点もしくは軟化点より低い温度、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上低い温度で行うことが好ましい。
【0042】
前記加熱処理手段としては、上述した温度での加熱が可能であれば特に限定するものではなく、公知の熱処理手段から適宜選定することができる。本発明で使用する織物が加熱によって収縮する場合、収縮によるシワの発生を防止するために、拡布状態で加熱処理することが好ましい。また、加熱処理後に織物が再収縮することを防止するため、織物が15%以上収縮するまで加熱することが好ましく、15〜20%程度収縮させることがより好ましい。加熱手段の具体例としては、例えば、ピンテンター型ヒートセッターを用いて行うなどすればよい。
【0043】
前記加熱処理は、織物の製造で一般的に行われる精練、セット、染色、仕上げなどの工程中、どの段階で実施してもよいが、織物の取扱性を考慮した場合、仕上げ工程の前後もしくは仕上げ工程にて実施することが好ましい。
【0044】
このようにして得られたインクジェット用クロスメディアは、JIS L1096で規定される通気度が1.0cc/cm2/sec以下であることが望ましい。通気度が前記範囲よりも大きいと、織物の経糸と緯糸とで形成される隙間が十分に埋められておらず、インクが通り抜けてしまうおそれがある。また、通気度が前記値以下である限り、特に支障はない。
【0045】
また、前記インクジェット用クロスメディアは、前記通気度を満たしているとともに、JIS P 8143−1996にて規定されるクラーク剛度が10〜400であることが好ましい。クラーク剛度が10未満であると、クロスメディアが柔らかすぎてインクジェットプリンタでの搬送が困難となる傾向がある。また、クラーク剛度が400を超えると、クロスメディアが非常に硬いものとなり、やはりインクジェットプリンタでの搬送が困難となる傾向がある。さらに、剛度が高くなるにつれて風合いに乏しいものとなる。
【0046】
前記インクジェット用クロスメディアは、経糸方向および緯糸方向の引裂き強度が、ともに0.1kgf/cm以上であることが好ましい。経糸方向および緯糸方向の引裂き強度が一方でも0.1kgf/cm未満であると、クロスメディアが破れやすくなるため好ましくない。引裂き強度が前記値以上である限り、特に支障はない。
【0047】
なお、本発明のインクジェット用クロスメディアは、必要に応じてインク受容層を有するものであってもよい。ここでいうインク受容層とは、インクジェットプリンタによってインクが付与された場合に、ノズルから吐出されたインクを瞬時に受け止めて保持する役割を果たすものであり、インク滲みを防止する効果がある。
【0048】
インク受容層は、加熱処理前の織物または加熱処理後のクロスメディアを、処理液で処理することによって形成することができる。
【0049】
前記処理液は、合成微粒シリカなどの無機顔料、ポリエチレンイミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミン樹脂、低分子量多官能アミンとエピハロヒドリンなどの多官能性化合物との反応生成物、アクリルアミン共重合樹脂(第4級アンモニウム塩ポリマー)、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂、あるいはこれらの樹脂の変成物などといった、インク定着能を有する樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、カルボキシル化スチレン/ブタジエン共重合樹脂、ポリエステル樹脂などといった、バインダー樹脂から選択される1種または2種以上の樹脂を含んでなるものである。
【0050】
前記処理液には、その他、糊剤、水溶性有機溶媒、分散剤、架橋剤、帯電防止剤、浸透剤、紫外線吸収剤、還元防止剤、酸化防止剤、造膜剤、柔軟剤、湿潤剤、消泡剤、レベリング剤、粘度調整剤、pH調整剤、表面張力調整剤、防炎剤、防腐剤などといった各種添加剤が含有されていてもよい。
【0051】
前記処理液で処理する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、ディップニップ法、ロータリースクリーン法、ナイフコーター法、キスロールコーター法、グラビアロールコーター法などがあげられる。なかでも、織物の一方の表面だけでなく、織物内部や他方面に対しても、前記処理液を付与することができる点で、ディップニップ法が好ましい。
【0052】
前記処理液で処理した後、該処理液は乾燥させるが、乾燥手段は特に限定するものではなく、公知の乾燥手段から適宜選定すればよい。乾燥条件については、乾燥条件織物の構成や厚み、処理液の付与量にもよるが、一般には、90〜180℃で60〜300秒程度行う。
【0053】
なお、上述したインク受容層の付与は、加熱処理(熱融着処理工程)前の織物に対して行うことが好ましい。熱融着処理工程よりも後であると、処理液を付与する際や、乾燥時に、織物に熱が加わることで織物にシワが発生するおそれがある。また、熱融着処理工程よりも前に行うことによって、織物の内部にまで処理液が浸透しやすく、クロスメディアの耐水性や耐磨耗性といった物性の向上も見込める。
【0054】
本発明のインクジェット用クロスメディアは、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式、インクミスト方式などの連動方式、ピエゾ方式、バブルジェット(登録商標)方式、静電吸引方式などのオン・デマンド方式、などといった、各種インクジェットプリンタにてプリントすることができる。
【0055】
本発明のインクジェット用クロスメディアに印刷することが可能なインクについては、特に限定するものではなく、水系インク、溶剤系インク、ラテックスなどのいずれでもよい。また、インク中の含有成分についても特に限定するものではなく、用途によって適宜選定すればよい。
【0056】
本発明において、「メディア」とは、インクジェットプリントに用いられる記録媒体のことをいい、「クロスメディア」とは、布帛からなるメディア(記録媒体)のことをいう。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート(融点260℃)を芯部に、イソフタル酸共重合ポリエステル(融点185℃、イソフタル酸比率20モル%)を鞘部に、それぞれ用い、鞘部の割合が33質量%である、芯鞘型複合繊維からなる熱融着糸(84dtex/24f)を用いて、経糸密度142本/2.54cm、緯糸密度80本/2.54cm、幅125cmの平織物を製織した。その後、ピンテンター型ヒートセッターを用いて200℃で2分間、加熱処理し、幅100cmで仕上げ、実施例1のインクジェット用クロスメディアを得た。
【0059】
[比較例1]
加熱処理時のヒートセット温度を130℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1のインクジェット用クロスメディアを得た。
【0060】
[比較例2]
ポリエチレンテレフタレート(融点260℃)を芯部に、イソフタル酸共重合ポリエステル(融点185℃、イソフタル酸比率20モル%)を鞘部に、それぞれ用い、鞘部の割合が33質量%である、芯鞘型複合繊維からなる熱融着糸(84dtex/24f)を用いて、経糸密度70本/2.54cm、緯糸密度40本/2.54cm、幅125cmの平織物を製織した。その後、ピンテンター型ヒートセッターを用いて200℃で2分間、加熱処理し、幅100cmで仕上げ、比較例2のインクジェット用クロスメディアを得た。
【0061】
[比較例3]
経糸および緯糸の全てに、84dtex/24fのポリエステル糸(融点:260℃)を使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例3のインクジェット用クロスメディアを得た。
【0062】
得られたインクジェット用クロスメディアの評価は、次のようにして行った。
[搬送性]
インクジェットプリンタ(ミマキ社製、JV−33)を使用し、得られたインクジェット用クロスメディアに対しプリントを実施した際の搬送性を目視で確認し、下記基準により評価した。
○:搬送性が良好である
×:搬送性に問題がある
【0063】
[インク通り抜け防止性]
インクジェットプリンタ(ミマキ社製、JV−33)を使用し、得られたインクジェット用クロスメディアに対しプリントを実施した際の、インク通り抜け防止性を目視で確認し、下記基準により評価した。
○:インク通り抜けが見られない
×:インクがクロスメディアを通り抜け、インクジェットプリンタ汚れが見られる
【0064】
実施例および比較例のインクジェット用クロスメディアについて、各々の物性および評価結果を、表1に示す。
【0065】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱融着糸と非熱融着糸とを製織するか、または、複合繊維からなる熱融着糸を製織した、カバーファクターが1500〜2500である織物を、加熱処理することにより得られるインクジェット用クロスメディアであって、熱融着成分を8〜50質量%含有し、通気度が1.0cc/cm2/sec以下であり、かつ、クラーク剛度が10〜400である、インクジェット用クロスメディア。
【請求項2】
経糸方向および緯糸方向の引裂き強度が、ともに0.1kgf/cm以上である、請求項1記載のインクジェット用クロスメディア。
【請求項3】
前記複合繊維からなる熱融着糸が、非熱融着成分であるポリエステルと熱融着成分である共重合ポリエステルとが組み合わされた複合繊維からなるものであり、前記加熱処理が、ポリエステルの融点より低くかつ共重合ポリエステルの融点より高い温度で行うものである、請求項1または2記載のインクジェット用クロスメディア。
【請求項4】
前記複合繊維が、ポリエステルからなる芯部と、共重合ポリエステルからなる鞘部で構成された芯鞘型複合繊維である、請求項3記載のインクジェット用クロスメディア。

【公開番号】特開2013−49231(P2013−49231A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189471(P2011−189471)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】