説明

インクジェット用水性インクセット及びインクジェット記録方法

【課題】形成した画像を屋外環境に長期間保存した後でも、色バランスが崩れることなく、色再現性に優れた画像を形成することができるインクジェット用水性インクセットとそれを用いたインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】少なくとも、1)銅フタロシアニン顔料を含有するシアンインク、2)キナクリドン顔料を含有するマゼンタインク、及び3)C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー150の互変異性構造体及びC.I.ピグメントイエロー150の水和物から選ばれる少なくとも1種と、水溶性樹脂または水分散性樹脂を含有するイエローインクから構成されることを特徴とするインクジェット用水性インクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の顔料を含有した水性のインクジェットインクより構成したインクジェット用水性インクセットと、それを用いたインクジェット記録方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業用途のインクジェットインクとしては、紙の表面に樹脂やクレーなどを被覆した印刷用コート紙などの水に対する吸水性に乏しい記録媒体や、その表面が樹脂成分で構成されている記録媒体、あるいは樹脂フィルムそのものといった、インク吸収能をほとんど持たない記録媒体に直接印字できるインクジェットインクが開発されている。
【0003】
これらの用途に適用されるインクジェットインクとしては、溶剤系インクジェットインクや、紫外線硬化型インクジェットインクが挙げられる。しかしながら、溶剤系インクジェットインクはVOCが多くなるという課題を抱えており、紫外線硬化型インクジェットインクでは高価な紫外線照射光源をプリンターに組み込むという制約がある。
【0004】
このような背景の中で、環境負荷が少なく、従来から家庭仕様として広く使用されている水系インクジェットインクを用いて、直接、吸水性に乏しい記録媒体にも印字できるインクジェットインクの開発が盛んに行われている。しかしながら、普通紙の他、特に、コート紙や樹脂フィルムのような極めて吸水性に乏しい記録媒体に対してインクジェット記録する場合には、記録媒体への画像の密着性や堅牢性に対する課題を抱えていた。
【0005】
インクジェットインクの記録媒体への密着性や堅牢性等の定着性能を向上させる方法として、バインダー樹脂を含有した水性インクジェットインクが開示されており、バインダー樹脂として、ポリマー粒子を添加した水系インクジェットインクが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載されているバインダー樹脂は、色材を記録媒体に固着させる定着樹脂としての機能を有するものと考えられるが、この開示されている方法では、印字中または印字後に記録媒体を加熱して、インク中の熱可塑性ポリマー粒子をフィルム状に形成させることにより、記録媒体への密着性や堅牢性等の画像耐久性を向上させる試みがなされてはいるが、未だ十分ではなかった。
【0006】
一方、色材として顔料を水性インクジェットインクに用いることは従来から知られていたが、色再現性が良好な顔料、特にイエロー顔料を選択することは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−282822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、形成した画像を屋外環境に長期間保存した後でも、色バランスが崩れることなく、色再現性に優れた画像を形成することができるインクジェット用水性インクセットとそれを用いたインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0010】
1.少なくとも、1)銅フタロシアニン顔料を含有するシアンインク、2)キナクリドン顔料を含有するマゼンタインク、及び3)下記化合物(I)、下記化合物(I)の互変異性構造体及び下記化合物(I)の水和物から選ばれる少なくとも1種と、水溶性樹脂または水分散性樹脂を含有するイエローインクから構成されることを特徴とするインクジェット用水性インクセット。
【0011】
【化1】

【0012】
2.前記銅フタロシアニン顔料が、C.I.ピグメントブルー15:3またはC.I.ピグメントブルー15:4であることを特徴とする前記1に記載のインクジェット用水性インクセット。
【0013】
3.前記キナクリドン顔料が、C.I.ピグメントレッド122であることを特徴とする前記1または2に記載のインクジェット用水性インクセット。
【0014】
4.前記1から3のいずれか1項に記載のインクジェット用水性インクセットを、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体に付与して画像形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、形成した画像を屋外環境に長期間保存した後でも、色バランスが崩れることなく、色再現性に優れた画像を形成することができるインクジェット用水性インクセットとそれを用いたインクジェット記録方法を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、少なくとも、1)銅フタロシアニン顔料を含有するシアンインク、2)キナクリドン顔料を含有するマゼンタインク、及び3)前記化合物(I)、前記化合物(I)の互変異性構造体及び前記化合物(I)の水和物から選ばれる少なくとも1種と、水溶性樹脂または水分散性樹脂を含有するイエローインクから構成されることを特徴とするインクジェット用水性インクセットにより、色再現性が良好であり、特に屋外環境に形成画像を保存した後でも、色バランスが崩れることなく、色再現性に優れた画像を形成することのできる優れたインクジェット用水性インクセットを実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0018】
《インクジェット用水性インクセット》
はじめに、本発明のインクジェット用水性インクセット(以下、本発明のインクセットともいう)について、その詳細を説明する。
【0019】
本発明のインクセットは、1)銅フタロシアニン顔料を含有するシアンインクと、2)キナクリドン顔料を含有するマゼンタインクと、3)化合物(I)、化合物(I)の互変異性構造体及び化合物(I)の水和物から選ばれる少なくとも1種と、水溶性樹脂または水分散性樹脂を含有するイエローインクから構成されている。
【0020】
〔有機顔料〕
本発明に係るイエローインクが含有する有機顔料は、下記化合物(I)、下記化合物(I)の互変異性構造体及び下記化合物(I)の水和物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0021】
【化2】

【0022】
上記で示す本発明に係る化合物(I)は、通常は「C.I.ピグメントイエロー150」と称されるイエロー顔料であり、例えば、『Yellow Pigment E4GN』、『Yellow Pigment E4GN−GT』、『FANCHON FAST Yellow Y−5688』、『BAYPLAST Yellow 5GN−01』、『Levascreen Yellow G01』(以上、Lanxess社製)、『Cromophtal Yellow 448』、『クロモファインイエロー6255』(以上、大日精化工業社製)、などの商品名で市販されている。
【0023】
これらの上記イエロー顔料の中でも、大日精化工業社製の『Levascreen Yellow G01』、『クロモファインイエロー6255』を用いることが、分散安定性及び保存安定性の観点からより好ましい。
【0024】
また、本発明に係る有機顔料が含有するCl塩およびK塩の総量は、2000ppm以下であることが、分散安定性、保存安定性の観点からより好ましい。Cl塩およびK塩の総量を上記で規定する範囲にするため、有機顔料中の無機塩を除去する方法としては、フィルタ濾過やイオン交換など公知の方法を用いることができ、例えば、特開平11−222573号公報などに記載の方法を参照することができる。
【0025】
本発明に係る有機顔料である化合物(I)は、イエローインク全質量の0.5〜10質量%の範囲で用いることが、吐出安定性の観点から好ましい。
【0026】
次に、銅フタロシアニン顔料について説明する。
【0027】
本発明のインクセットにおいては、本発明に係るシアンインクが有機顔料として銅フタロシアニン顔料を含有することを特徴の一つとする。
【0028】
本発明に係る銅フタロシアニン顔料は、色調に優れ鮮明で、耐光性が高く、堅牢な顔料であり、銅フタロシアニンはフタロシアニンブルー、フタロシアニン青と称されている。青色の銅フタロシアニンのColour Index Generic Nameは、C.I.ピグメントブルー15である。銅フタロシアニンのβ結晶がC.I.ピグメントブルー15:3(市販品:Fastogen Blue TGR、DIC社製)であり、これの分散性能を高めたものが、C.I.ピグメントブルー15:4である。また、ポリクロロ銅フタロシアニン顔料としてはC.I.ピグメントブルー7(市販品:Fastogen Green S、DIC社製)が挙げられる。
【0029】
上記説明した銅フタロシアニン顔料の中でも、本発明に適用する銅フタロシアニン顔料としては、C.I.ピグメントブルー15:3またはC.I.ピグメントブルー15:4であることが好ましい。
【0030】
次に、キナクリドン顔料について説明する。
【0031】
本発明のインクセットにおいては、本発明に係るマゼンタインクが有機顔料としてキナクリドン顔料を含有することを特徴の一つとする。
【0032】
本発明に適用可能なキナクリドン顔料としては、特に限定されるものではなく、例えば、ジメチルキナクリドン顔料(例えば、C.I.ピグメントレッド122等)、ジクロロキナクリドン顔料(例えば、C.I.ピグメントレッド202やC.I.ピグメントレッドレッド209等)、無置換キナクリドン顔料(例えば、C.I.ピグメントバイオレット19等)を挙げることができるが、上記キナクリドン顔料の中でも、C.I.ピグメントレッド122が好ましい。また、使用するキナクリドン顔料は、粉末状や顆粒状あるいはバルク状といった乾燥状態のものや、ウエットケーキあるいはスラリーの様な含水状態のものでよい。
【0033】
〔顔料分散体〕
上記説明した本発明に係る顔料は、インクジェット水性インク中で安定な分散状態を保つために、各種の加工がなされ、顔料分散体が調製される。
【0034】
この顔料分散体は、水系で安定に分散できるものであればよく、高分子の分散樹脂(高分子分散剤)により分散した顔料分散体、水不溶性樹脂で被覆されたカプセル顔料、顔料表面を修飾し分散樹脂を用いなくても分散可能な自己分散顔料等から選択することができる。
【0035】
高分子の分散樹脂により分散した顔料分散体を用いる場合、樹脂としては水溶性のものを用いることができる。水溶性樹脂として好ましく用いられるのは、例えば、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等のような水溶性樹脂である。
【0036】
顔料の分散方法としては、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等の各種分散手段を用いることができる。
【0037】
調製した顔料分散体の粗粒分を除去する目的で、遠心分離装置を使用すること、あるいはフィルタを使用することも好ましく用いられる。
【0038】
また、顔料として水不溶性樹脂で被覆されたカプセル顔料を用いても良い。水不溶性樹脂とは、弱酸性ないし弱塩基性の範囲の水に対して不溶な樹脂であり、例えば、アクリル系、スチレン−アクリル系、アクリロニトリル−アクリル系、酢酸ビニル系、酢酸ビニル−アクリル系、酢酸ビニル−塩化ビニル系、ポリウレタン系、シリコン−アクリル系、アクリルシリコン系、ポリエステル系、エポキシ系の各樹脂を挙げることができる。
【0039】
顔料と顔料を分散する樹脂の質量比率は、好ましくは顔料/樹脂比で100/150以上、100/30以下の範囲で選択することができる。特に画像耐久性と射出安定性やインク保存性が良好なのは、100/100以上、100/40以下の範囲である。
【0040】
水不溶性樹脂で被覆された顔料粒子の平均粒子径は、80ないし200nm程度がインク保存安定性、発色性の観点から好ましい。
【0041】
顔料を水不溶性樹脂で被覆する方法としては、公知の種々の方法を用いることができるが、好ましくは、水不溶性樹脂をメチルエチルケトンなどの有機溶剤に溶解し、さらに塩基にて樹脂中の酸性基を部分的、もしくは完全に中和した後、顔料およびイオン交換水を添加して分散したのち、有機溶剤を除去し、必要に応じて加水して調製する方法が好ましい。または、顔料を、重合性界面活性剤を用いて分散し、そこへモノマーを供給し、重合しながら被覆する方法も好ましい。
【0042】
また、自己分散顔料として表面処理済みの市販品を用いることもでき、好ましい自己分散顔料としては、例えば、CABO−JET200、CABO−JET300(以上、キャボット社製)、ボンジェットCW1(オリエント化学工業(株)製)等を挙げることができる。
【0043】
本発明に係る有機顔料を分散するに際し、好ましくは、高分子分散剤による分散であって、特に好ましい高分子分散剤は、アミン価と酸価の差が0より大きい(0<アミン価−酸価)ブロック共重合体である。該高分子分散剤では、重量平均分子量が1000以上、200000以下であることが好ましく、より好ましくは5000以上、50000以下であり、更に好ましくは8000以上、50000以下である。
【0044】
本発明に係るイエロー顔料である前記化合物(I)、前記化合物(I)の互変性異性構造体、あるいは前記化合物(I)の水和物を分散するに好ましい高分子分散剤として特に好ましく用いられる具体例としては、EFKA−4585(BASFジャパン社製)、EFKA−7701(BASFジャパン社製)などの市販品、あるいは、特表2008−527130号公報などに記載された合成方法に準じて得ることができる高分子分散剤を挙げることができる。
【0045】
本発明に係る有機顔料を分散するに用いる高分子分散剤は、有機顔料に対して固形分濃度で30〜150質量%の範囲で用いることが分散安定性、保存安定性の観点から好ましく、50〜100質量%の範囲で用いることが特に好ましい。
【0046】
〔水溶性樹脂、水分散性樹脂〕
本発明のインクセットを構成するイエローインクが、水溶性樹脂または水分散性樹脂を含有することを特徴とする。該水溶性樹脂または水分散性樹脂は、塩化ビニルなどの非吸収性記録媒体等との接着性を有し、かつ塗膜の耐擦性や耐水性を向上させる機能を備え、塗膜中で高い透明性を持ち、顔料や顔料分散樹脂との相溶性があるものであれば、特に制限はない。
【0047】
〈水溶性樹脂〉
次に、水溶性樹脂について説明する。水溶性樹脂として好ましく用いることのできるものの具体例は、アクリル系樹脂、ポリスチレン−アクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル−アクリル系樹脂、酢酸ビニル−アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を挙げることができるが、その中でも、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、及びポリウレタン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂であることが好ましく、特にアクリル系の共重合樹脂が好ましい。
【0048】
該水溶性樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、0℃以上、100℃以下が好ましい。0℃以上であれば耐擦性を充たし、また、ブロッキングの発生も抑制することができる。また、100℃以下であれば所望の耐擦性を得ることができる。これは、乾燥後の皮膜が硬くなりすぎて脆くなるのを防止することができるためと考えている。
【0049】
該水溶性樹脂は、顔料を分散する前に添加してもよいし、分散した後に添加してもよいが、分散した後に添加することが好ましい。
【0050】
該水溶性樹脂の添加量は、インク中に、1質量%〜15質量%添加することが好ましい。更に好ましくは、3質量%〜10質量%である。
【0051】
本発明に係る水溶性樹脂の特に好ましいものは、いわゆるアミン中和樹脂である。これは、樹脂に含まれる酸成分の全部あるいは一部を塩基で中和して用いるものである。中和延期としては、アルカリ金属含有塩基(例えば、NaOH、KOH等)、アミン類(例えば、アルカノールアミン、アルキルアミン等)又はアンモニアを用いることができる。
【0052】
中和塩基の添加量としては、該水溶性樹脂に含まれる酸モノマーの量にもよるが、インク全質量の0.2質量%以上であれば、該樹脂の中和による効果を発揮することができる。また、インク全質量の2.0質量%以下であれば画像の耐水性や変色、臭気などの課題を引き起こすこともなく、好ましい量である。
【0053】
〈水分散性樹脂〉
次に、本発明に係る水分散性樹脂について説明する。
【0054】
該水分散性樹脂は記録媒体へのインクの耐擦性、密着性等の画像耐久性や光沢性を向上させる機能をもつものであれば特に制限はない。例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂による水分散性樹脂であることが好ましい。このアクリル系樹脂としては水分散性樹脂を構成しているモノマーにアクリルモノマーが1種類以上含まれているものを表す。
【0055】
アクリル系樹脂としては、オールアクリルエマルジョン、スチレン−アクリルエマルジョン、アクリル−シリコンエマルジョン等、ウレタン系樹脂としては、ウレタンエマルジョン、ウレタン−アクリルエマルジョン等、スチレン系樹脂としては、スチレンエマルジョン、スチレン−ブタジエンエマルジョン、ポリビニル系樹脂としては、酢酸ビニル系エマルジョン、塩化ビニル系エマルジョン等、ポリアミド系樹脂としては、スチレン−アクリルアミドエマルジョン等、ポリエステル系樹脂としては、ポリエステルエマルジョン、アクリル−ポリエステルエマルジョン等、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレンエマルジョン、ポリプロピレンエマルジョンなどの水分散性樹脂が挙げられる。特に、アクリル系樹脂とウレタン系樹脂が、画像の堅牢性や光沢性の点で好ましい。
【0056】
更に、ガラス転移温度Tgが−30〜120℃であるアクリル樹脂粒子が印字面のブロッキングを防止するという点で好ましい。また、これらの水分散性樹脂の粒子系は500nm以下が好ましく、より好ましくは10〜300nmである。水分散性樹脂のインクへの添加量としては、0.5質量%以上、10質量%以下であることが好ましく、1.0〜7.0質量%であると、画像の擦過性と射出の安定性との観点からより好ましい。
【0057】
これらの水分散性樹脂は、公知の重合方法により調製してもよく、また市販されているものを入手して使用してもよい。市販品の具体例としては、例えば、アクリル系樹脂としては、ジョンクリルシリーズ(BASFジャパン社製)、ボンコートシリーズ(DIC(株)製)、ニューコートSFKシリーズ(新中村化学工業(株)製)、ウレタン系樹脂としては、スーパーフレックスシリーズ(第一工業製薬社製)、パーマリンシリーズ(三洋化成工業社製)等が挙げられる。
【0058】
これらの水溶性樹脂、水分散性樹脂は、1種類でも複数種併用することもできる。更に、水溶性樹脂と水分散性樹脂とを併用することもできる。
【0059】
〔水溶性有機溶媒〕
本発明のインクジェットインクにおいては、インク中に水溶性有機溶媒を含むことができる。特に、顔料分散時の分散溶媒として水溶性有機溶媒を含有しない場合には、粒径が小さく分散安定性に優れた顔料分散液を得ることができない。
【0060】
本発明に係る水溶性有機溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノアルキルエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等)、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル類(例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル類(例えば、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等)、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等)、ジプロピレンリコールモノアルキルエーテル類(例えば、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等)、トリプロピレンリコールモノアルキルエーテル類(例えば、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、β−アルコキシプロピオンアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド等)、スルホン類(例えば、スルホラン等)、尿素、アセトニトリル、アセトン等が挙げられる。
【0061】
特に、軟質塩化ビニルシートをはじめ種々の疎水性樹脂からなる記録媒体や、印刷本紙などの吸収が遅い紙支持体に対して画像出力を行う場合には、グリコールエーテル類もしくは1,2−アルカンジオール類のような低表面張力の水溶性有機溶媒を添加することが好ましく、具体的には、下記のグリコールエーテル類もしくは1,2−アルカンジオール類を用いることが好ましい。グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0062】
また、1,2−アルカンジオール類としては、例えば、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール等が挙げられる。
【0063】
本発明に係る水溶性有機溶媒は、インクジェットインク全質量の5〜40質量%で用いることが、保存安定性や記録媒体への濡れ性の観点から好ましい。
【0064】
〔界面活性剤〕
次に、本発明に適用することができる界面活性剤について説明する。
【0065】
本発明に用いることができる界面活性剤は、本発明の目的効果を損なうことのないものであれば、特に制限なく用いることができるが、静的な表面張力の低下能が高いフッ素系界面活性剤、あるいはシリコン系界面活性剤を含有することが画質と保存安定性の両立の観点で特に好ましい。
【0066】
また、動的な表面張力の低下能が高い、ジオクチルスルホサクシネートなどのアニオン性活性剤、比較的低分子量のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アセチレングリコール類、プルロニック型界面活性剤、ソルビタン誘導体などのノニオン性界面活性剤が好ましく用いられる。フッ素系および/またはシリコン系活性剤と、前記動的な表面張力の低下能が高い界面活性剤を併用して用いることも好ましい。
【0067】
シリコン系界面活性剤としては、ジメチルポリシロキサンの側鎖または末端をポリエーテル変性したものが好ましく、例えば、信越化学工業株式会社製のKF−351A、KF−642やビックケミー・ジャパン株式会社製のBYK347、BYK348などが挙げられる。
【0068】
フッ素系界面活性剤は、通常の界面活性剤の疎水性基の炭素に結合した水素原子の代わりに、その一部または全部をフッ素原子で置換したものである。この中でも、分子内にパーフルオロアルキル基もしくはパーフルオロアルケニル基を有するフッ素系界面活性剤が好ましい。フッ素系界面活性剤としては、例えば、DIC株式会社製のメガファック(Megafac)F、旭硝子株式会社製のサーフロン(Surflon)、イー・アイ・デュポン・ネメラス・アンド・カンパニー社製のゾニール(Zonyl)、株式会社ネオス製のフタージェントシリーズなどが挙げられる。
【0069】
また、フッ素系界面活性剤は、アニオン性のフッ素系界面活性剤、ノニオン性のフッ素系界面活性剤、両性のフッ素系界面活性剤などがあり、いずれも好ましく用いることができる。アニオン型のフッ素系界面活性剤としては、ネオス製のフタージェント100、同150を挙げることができ、ノニオン性のフッ素系界面活性剤としては、例えば、DIC株式会社製のメガファックスF470、旭硝子株式会社製のサーフロンS−141、同145等を挙げることができる。また、両性フッ素系界面活性剤としては、例えば、旭硝子株式会社製のサーフロンS−131、同132等を挙げることができる。
【0070】
界面活性剤の添加量としては、インクに対して0.1質量%以上、2質量%未満が好ましい。
【0071】
〔その他のインク添加剤〕
本発明に係るインクには、上記説明した以外にも、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防黴剤、防錆剤、pH調整剤等、を適宜選択して用いることができ、例えば、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコンオイル等の油滴微粒子、特開昭57−74193号、同57−87988号及び同62−261476号の各公報等に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号、同60−72785号、同61−146591号、特開平1−95091号及び同3−13376号の各公報等に記載の退色防止剤、特開昭59−42993号、同59−52689号、同62−280069号、同61−242871号及び特開平4−219266号の各公報等に記載される蛍光増白剤等を挙げることができる。
【0072】
インクの防腐剤・防黴剤としては、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(例えば、PROXEL GXL)などが挙げられる。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
《非吸水性記録媒体》
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインクセットを用いて、低吸収性記録媒体または非吸水性記録媒体上に印字することを特徴とする。
【0074】
以下、本発明に係る低吸収性記録媒体及び非吸水性記録媒体について説明する。
【0075】
本発明のインクセットは、本発明の目的である塩化ビニルシートなどの非吸水性記録媒体へのプリントはもとより、コート紙、インクジェット専用紙などの低吸水性記録媒体へのプリントにも適している。
【0076】
本発明に適用可能な非吸水性記録媒体としては、例えば、高分子シート、ボード(軟質塩化ビニル、硬質塩化ビニル、アクリル板、ポリオレフィン系など)、ガラス、タイル、ゴム、合成紙などが挙げられる。
【0077】
また、本発明に適用可能な低吸収記録媒体としては、例えば、コート紙、アート紙、インクジェット専用紙、インクジェット光沢紙などが挙げられる。
【0078】
特に、良好な画像と高い画像堅牢性が得られる好ましい非吸水性記録媒体は、記録面側に少なくともポリ塩化ビニルを有する記録媒体であることが好ましい。
【0079】
ポリ塩化ビニルから構成される非吸収性記録媒体の具体例としては、SOL−371G、SOL−373M、SOL−4701(以上、ビッグテクノス株式会社製)、光沢塩化ビニル(株式会社システムグラフィ社製)、KSM−VS、KSM−VST、KSM−VT(以上、株式会社きもと製)、J−CAL−HGX、J−CAL−YHG、J−CAL−WWWG(以上、株式会社共ショウ大阪製)、BUS MARK V400 F vinyl、LITEcal V−600F vinyl(以上、Flexcon社製)、FR2(Hanwha社製)LLBAU13713、LLSP20133(以上、桜井株式会社製)、P−370B、P−400M(以上、カンボウプラス株式会社製)、S02P、S12P、S13P、S14P、S22P、S24P、S34P、S27P(以上、Grafityp社製)、P−223RW、P−224RW、P−249ZW、P−284ZC(以上、リンテック株式会社製)、LKG−19、LPA−70、LPE−248、LPM−45、LTG−11、LTG−21(以上、株式会社新星社製)、MPI3023(株式会社トーヨーコーポレーション社製)、ナポレオングロス 光沢塩化ビニル(株式会社二樹エレクトロニクス社製)、JV−610、Y−114(以上、アイケーシー株式会社製)、NIJ−CAPVC、NIJ−SPVCGT(以上、ニチエ株式会社製)、3101/H12/P4、3104/H12/P4、3104/H12/P4S、9800/H12/P4、3100/H12/R2、3101/H12/R2、3104/H12/R2、1445/H14/P3、1438/One Way Vision(以上、Intercoat社製)、JT5129PM、JT5728P、JT5822P、JT5829P、JT5829R、JT5829PM、JT5829RM、JT5929PM(以上、Mactac社製)、MPI1005、MPI1900、MPI2000、MPI2001、MPI2002、MPI3000、MPI3021、MPI3500、MPI3501(以上、Avery社製)、AM−101G、AM−501G(以上、銀一株式会社製)、FR2(ハンファ・ジャパン株式会社製)、AY−15P、AY−60P、AY−80P、DBSP137GGH、DBSP137GGL(以上、株式会社インサイト社製)、SJT−V200F、SJT−V400F−1(以上、平岡織染株式会社製)、SPS−98、SPSM−98、SPSH−98、SVGL−137、SVGS−137、MD3−200、MD3−301M、MD5−100、MD5−101M、MD5−105(以上、Metamark社製)、640M、641G、641M、3105M、3105SG、3162G、3164G、3164M、3164XG、3164XM、3165G、3165SG、3165M、3169M、3451SG、3551G、3551M、3631、3641M、3651G、3651M、3651SG、3951G、3641M(以上、Orafol社製)、SVTL−HQ130(株式会社ラミーコーポレーション製)、SP300 GWF、SPCLEARAD vinyl(以上、Catalina社製)、RM−SJR(菱洋商事株式会社製)、Hi Lucky、New Lucky PVC(以上、LG社製)、SIY−110、SIY−310、SIY−320(以上、積水化学工業株式会社製)、PRINT MI Frontlit、PRINT XL Light weight banner(以上、Endutex社製)、RIJET 100、RIJET 145、RIJET165(以上、Ritrama社製)、NM−SG、NM−SM(日栄化工株式会社製)、LTO3GS(株式会社ルキオ社製)、イージープリント80、パフォーマンスプリント80(以上、ジェットグラフ株式会社製)、DSE 550、DSB 550、DSE 800G、DSE 802/137、V250WG、V300WG、V350WG(以上、Hexis社製)、Digital White 6005PE、6010PE(以上、Multifix社製)等が挙げられる。
【0080】
《インクジェット記録方法》
本発明のインクジェット記録方法においては、より高品位で画像耐久性が高い画像を形成するため、及びより高速の印字条件にも対応できるようにするために、記録媒体の記録面側を加熱して記録することが好ましい。記録媒体を加熱しておくことにより、記録媒体へのインク付与後、インクの乾燥性及び増粘速度が向上し、高画質が得られ、加えて、画像の成膜性が改善され、耐久性に優れた画像を得ることができる。
【0081】
加熱温度としては、記録面側の表面温度を35℃以上、90℃以下になるように温調、加熱することが好ましい。記録媒体の記録面を35℃以上、90℃以下に温調することで、高画質と、十分な画像耐久性が得やすいことに加え、乾燥に時間の短縮、インク射出に大きな影響を与えずに、安定にプリントすることができる。より好ましくは、記録媒体の記録面温度を40℃以上、60℃以下である。
【0082】
加熱方法としては、記録媒体搬送系またはプラテン部材に発熱ヒーターを組み込み、記録媒体下方より接触式で加熱する方法や、ランプ等により下方、または上方から非接触で加熱方法を選択することができる。
【0083】
更に、本発明のインクジェット記録方法では、画像形成後に不要な有機溶媒等を除去する目的で、乾燥手段を用いることが好ましい。インクの乾燥手段としては、特に制限はないが、例えば、記録媒体の裏面を加熱ローラあるいはフラットヒータ等に接触させて乾燥させる方法や印字面にドライヤー等で温風を吹き付ける手段、あるいは減圧処理により揮発成分を除去する方法等を適宜選択あるいは組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0085】
《顔料分散液の調製》
〔イエロー顔料分散液の調製〕
(イエロー顔料分散液Y1の調製:本発明)
ブチルアクリレート:メトキシ−ポリエチレングリコール(550)モノアクリレート:4−ビニルピリジン=13:83:4(単量体構成モル比)から構成される組成で、酸価が0mgKOH/g、アミン価が20mgKOH/gである高分子分散剤1を用いて、C.I.ピグメントイエロー150(LevascreenYellowG01、化合物(I)に相当、Lanxess社製)を含む顔料分散液Y1を、下記の順序に従って調製した。
【0086】
顔料分散液Y1の構成成分としては、C.I.ピグメントイエロー150を10部、上記高分子分散剤1を5.0部、1,2−ヘキサンジオールの8.0部を、順次添加、混合、撹拌し、イオン交換水で総量を100部に仕上げた後、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて、6時間振蓋分散を行った後、ジルコニアビーズを取り除いて、顔料濃度が10質量%の顔料分散液Y1を調製した。
【0087】
(イエロー顔料分散液Y2の調製:比較例)
上記顔料分散液Y1の調製において、イエロー顔料として、C.I.ピグメントイエロー150(化合物(I))に代えて、C.I.ピグメントイエロー74を用いた以外が同様にして、顔料濃度が10質量%の顔料分散液Y2を調製した。
【0088】
〔マゼンタ顔料分散液の調製〕
(マゼンタ顔料分散液M1の調製)
高分子分散剤2としてジョンクリル501(スチレン−アクリル酸樹脂、ジョンソンポリマー社製)を用いて、キナクリドン顔料であるC.I.ピグメントレッド122(マゼンタ顔料)を含むマゼンタ顔料分散液M1を調製した。
【0089】
顔料分散液M1の調製は、C.I.ピグメントレッド122を10部、高分子分散剤2を5.0部、1,2−ヘキサンジオールの8部を混合、撹拌し、イオン交換水で全量を100部に仕上げた後、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて、6時間振蓋分散を行った後、ビーズを取り除いて、顔料濃度が10質量%のマゼンタ顔料分散液M1を調製した。
【0090】
〔シアン顔料分散液の調製〕
(シアン顔料分散液C1の調製)
上記マゼンタ顔料分散液M1の調製において、キナクリドン顔料であるC.I.ピグメントレッド122に代えて、銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:4(シアン顔料)を用いた以外は同様にして、顔料濃度が10質量%のシアン顔料分散液C1を調製した。
【0091】
(シアン顔料分散液C2の調製)
上記マゼンタ顔料分散液M1の調製において、キナクリドン顔料であるC.I.ピグメントレッド122に代えて、銅フタロシアニン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:3(シアン顔料)を用いた以外は同様にして、顔料濃度が10質量%のシアン顔料分散液C2を調製した。
【0092】
〔ブラック顔料分散液の調製〕
(ブラック顔料分散液Bk1の調製)
上記マゼンタ顔料分散液M1の調製において、キナクリドン顔料であるC.I.ピグメントレッド122に代えて、ブラック顔料であるC.I.ピグメントブラック7を用いた以外は同様にして、顔料濃度が10質量%のブラック顔料分散液Bk1を調製した。
【0093】
《インクの調製》
〔イエローインクの調製〕
(イエローインクY1−1の調製:本発明)
下記に示す各構成成分を、順次混合、撹拌した後、孔径が5μmのフィルタを用いて濾過を行って、イエローインクY1−1を調製した。
【0094】
イエロー顔料分散液Y1 顔料固形分換算2.5部
定着樹脂(水溶性樹脂):ジョンクリルJDX−6500(BASFジャパン社製、アクリル樹脂、固形分29.5%) 固形分換算6.0部
有機溶媒1:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル 10.0部
有機溶媒2:2−ピロリドン 10.0部
界面活性剤:フタージェント100(アニオン性フッ素系界面活性剤、ネオス社)
0.5部
イオン交換水で、全量を100部となるように仕上げた。
【0095】
(イエローインクY1−2の調製:本発明)
インクY1−1の調製において、水溶性樹脂である定着樹脂:ジョンクリルJDX−6500に代えて、水分散性樹脂である定着樹脂:ジョンクリル538J(固形分45%、BASFジャパン社製)を固形分換算6.0部となるように用いた以外は同様にして、イエローインクY1−2を調製した。
【0096】
(イエローインクY1−3の調製:本発明)
インクY1−1の調製において、定着樹脂(水溶性樹脂)であるジョンクリルJDX−6500を除いた以外は同様にして、イエローインクY1−3を調製した。
【0097】
(イエローインクY2−1〜2−3の調製:比較例)
上記イエローインクY1−1〜Y1−3の調製において、それぞれイエロー顔料分散液Y1(C.I.ピグメントイエロー150、化合物(I))に代えて、イエロー顔料分散液Y2(C.I.ピグメントイエロー74)を用いた以外は同様にして、イエローインクY2−1〜2−3を調製した。
【0098】
〔マゼンタインクの調製〕
(マゼンタインクM1−1の調製)
上記イエローインクY1−1(水溶性樹脂使用)の調製において、イエロー顔料分散液Y1に代えて、マゼンタ顔料分散液M1を用いた以外は同様にして、マゼンタインクM1−1を調製した。
【0099】
(マゼンタインクM1−2の調製)
上記イエローインクY1−2(水分散性樹脂使用)の調製において、イエロー顔料分散液Y1に代えて、マゼンタ顔料分散液M1を用いた以外は同様にして、マゼンタインクM1−2を調製した。
【0100】
(マゼンタインクM1−3の調製)
上記イエローインクY1−3(樹脂未使用)の調製において、イエロー顔料分散液Y1に代えて、マゼンタ顔料分散液M1を用いた以外は同様にして、マゼンタインクM1−3を調製した。
【0101】
〔シアンインクの調製〕
(シアンインクC1−1の調製)
上記イエローインクY1−1(水溶性樹脂使用)の調製において、イエロー顔料分散液Y1に代えて、シアン顔料分散液C1を用いた以外は同様にして、シアンインクC1−1を調製した。
【0102】
(シアンインクC1−2の調製)
上記イエローインクY1−2(水分散性樹脂使用)の調製において、イエロー顔料分散液Y1に代えて、シアン顔料分散液C1を用いた以外は同様にして、シアンインクC1−2を調製した。
【0103】
(シアンインクC1−3の調製)
上記イエローインクY1−3(樹脂未使用)の調製において、イエロー顔料分散液Y1に代えて、シアン顔料分散液C1を用いた以外は同様にして、シアンインクC1−3を調製した。
【0104】
(シアンインクC1−4の調製)
上記イエローインクY1−1(水溶性樹脂使用)の調製において、イエロー顔料分散液Y1に代えて、シアン顔料分散液C2を用いた以外は同様にして、シアンインクC1−4を調製した。
【0105】
〔ブラックインクの調製〕
(ブラックインクBk1−1の調製)
上記イエローインクY1−1(水溶性樹脂使用)の調製において、イエロー顔料分散液Y1に代えて、ブラック顔料分散液Bk1を用いた以外は同様にして、ブラックインクBk1−1を調製した。
【0106】
(ブラックインクBk1−2の調製)
上記イエローインクY1−2(水分散性樹脂使用)の調製において、イエロー顔料分散液Y1に代えて、ブラック顔料分散液Bk1を用いた以外は同様にして、ブラックインクBk1−2を調製した。
【0107】
(ブラックインクBk1−3の調製)
上記イエローインクY1−3(樹脂未使用)の調製において、イエロー顔料分散液Y1に代えて、ブラック顔料分散液Bk1を用いた以外は同様にして、ブラックインクBk1−3を調製した。
【0108】
《インクセットの構成》
上記調製したイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを、表1に記載の組み合わせで編成し、インクセット1〜7を構成した。
【0109】
【表1】

【0110】
《画像形成》
ピエゾ型のインクジェットヘッド(インク液滴量20pl)4基を並列に配置した4色のプリントが可能なインクジェットプリンタを用いて評価を行った。解像度は720dpi×720dpi(以下、本発明でいうdpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す)に設定した。
【0111】
このインクジェットプリンタは、記録媒体を下方より接触式ヒーターにて任意の温度に加温できる加熱機能を備え、インクジェットヘッドの格納ポジションには、インクの空打ちポジションとブレードワイプ式のメンテナンスユニットを備え、任意の頻度でヘッドクリーニングができる機構を備えている。
【0112】
上記インクジェットプリンタのイエローインク用インクジェットヘッドに、調製したイエローインクを導入し、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクについても同様に各々のインクジェットヘッドに導入した。
【0113】
尚、プリント時には、記録媒体の下方から、接触ヒーターにて、記録媒体として用いる軟質塩化ビニルシートのインク受容面側の表面温度が55℃になるように加熱しながら印字した。画像形成後、更に後乾燥工程として60℃で3分間の加熱処理を施した。
【0114】
《評価用画像の作成》
ノズル口径25μm、駆動周波数12kHz、ノズル数128、ノズル密度180dpiであるピエゾ型のインクジェットヘッドを備え、最大記録密度720dpi×720dpiのオンデマンド型の上記インクジェットプリンタ(コニカミノルタIJ社製)を用い、表1に記載の各インクセットをそれぞれのインクジェットヘッドに装填し、非吸収性記録媒体として軟質塩化ビニルシートを用い、出射量10ml/mで形成したY、M、C、Bkの各単色ベタ画像と、2次色画像としてブルーベタ画像(マゼンタ、シアンの各インクを出射量5ml/mで出射して、ブルーベタ画像を形成)、グリーンベタ画像(イエロー、シアンの各インクを出射量5ml/mで出射して、グリーンベタ画像を形成)、レッドベタ画像(マゼンタ、イエローの各インクを出射量5ml/mで出射して、レッドベタ画像)を印字した。
【0115】
《色再現性の評価》
イエロー、レッド、マゼンタ、ブルー、シアン、グリーンのパッチを測色(X−Rite938、X−Rite.Incorporated)したaのCIE色度座標上の点を結んだ六角形の色再現空間グラフを作成し、イエロー単色画像、レッドベタ画像及びグリーンベタ画像の色再現性について評価し、インクセット5(比較例)により得られた画像を比較基準画像とし、下記の基準に従って、色再現性を評価した。
【0116】
◎:比較のインクセット5の画像に対し、イエロー単色画像、レッドベタ画像及びグリーンベタ画像共に、極めて良好な色再現性を有する画像である
○:比較のインクセット5の画像に対し、イエロー単色画像、レッドベタ画像及びグリーンベタ画像共に、ほぼ良好な色再現性を有する画像である
△:比較のインクセット5の画像に対し、イエロー単色画像、レッドベタ画像及びグリーンベタ画像共に、同等の色再現性である
×:比較のインクセット5に比較し、イエロー単色画像、レッドベタ画像及びグリーンベタ画像共、色再現性に乏しい画像である
《耐候性の評価》
上記方法により形成した各単色画像及び各2次色画像に対し、キセノンフェードメーター(スガ試験機(株)製、WEL−6X−HC−Ec)を用いて、下記の条件で強制劣化処理を施した。
【0117】
条件1)ランプ照射条件70,000lxのみ、60℃、55%RH環境下で16時間照射
条件2)ランプ照射条件70,000lx+水シャワー、60℃、95%RH環境で、水シャワーを与えながら20分間照射
条件3)ランプ照射無し、60℃、95%RHの環境で40分間保存
上記各条件において、{条件1+条件2+条件3}×4を1サイクル(17時間)として、510時間(30サイクル)まで繰り返して、強制劣化処理を施した試料を作成した。
【0118】
上記作成した強制劣化処理試料の各色パッチについて、上記色再現性の評価と同様の方法で測色して色再現空間グラフを作成し、強制劣化処理前と強制劣化処理後での色再現空間グラフを比較し、下記の基準に従って耐候性の評価を行った。
【0119】
◎:強制劣化処理前試料と強制劣化処理後試料間での各色の色再現空間の変化は全くなく、強制劣化処理による色再現性変化はない
○:強制劣化処理前試料の色再現空間に対し、強制劣化処理後試料の色再現空間は、各色ともほぼ同等である
△:強制劣化処理前試料の色再現空間に対し、強制劣化処理後試料の色再現空間は狭くなっており、強制劣化処理により各色の色再現性が低下している
×:強制劣化処理前試料の色再現空間に対し、強制劣化処理後試料の色再現空間はかなり狭くなっており、強制劣化処理により各色の色再現性が大きく低下している
以上により得られた結果を、表2に示す。
【0120】
【表2】

【0121】
表2に記載の結果より明らかなように、色再現性としては、本発明に係る化合物(I)及び水溶性樹脂または水分散性樹脂を含有するイエローインクを用いて構成した本発明のインクセットでは、イエロー画像が関与するイエロー単色ベタ画像、2次色であるレッドベタ画像及びグリーンベタ画像において、比較にインクセットにより形成した画像に対し、いずれの画像も色再現性に優れていることを確認することができた。
【0122】
また、耐候性としても、本発明に係る化合物(I)及び水溶性樹脂または水分散性樹脂を含有するイエローインクを用いて構成したイエロー単色ベタ画像、2次色であるレッドベタ画像及びグリーンベタ画像は、キセノンランプによる光照射、水シャワーの付与等の屋外環境を想定した環境下で保存した後でも、優れた色再現性を維持し、耐候性に優れた特性を備えていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、1)銅フタロシアニン顔料を含有するシアンインク、2)キナクリドン顔料を含有するマゼンタインク、及び3)下記化合物(I)、下記化合物(I)の互変異性構造体及び下記化合物(I)の水和物から選ばれる少なくとも1種と、水溶性樹脂または水分散性樹脂を含有するイエローインクから構成されることを特徴とするインクジェット用水性インクセット。
【化1】

【請求項2】
前記銅フタロシアニン顔料が、C.I.ピグメントブルー15:3またはC.I.ピグメントブルー15:4であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用水性インクセット。
【請求項3】
前記キナクリドン顔料が、C.I.ピグメントレッド122であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット用水性インクセット。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット用水性インクセットを、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体に付与して画像形成することを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2013−1746(P2013−1746A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131973(P2011−131973)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】