説明

インクジェット用水性顔料インキセットおよびこれを用いた印刷方法ならびに印刷物

【課題】
プロセス4色インキを使用してなる従来のオフセット印刷物と同等の色相と濃度を再現することに優れるインクジェット用水性顔料インキセットを提供すること。
【解決手段】
少なくとも水、溶剤、顔料を含む、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラックインキとからなる水性顔料インキセットであって、該マゼンタインキに含まれる顔料が、C.I.Pigment Red31、またはC.I.Pigment Red147、またはC.I.Pigment Red184、またはC.I.Pigment Red269であり、かつ、該イエローインキに含まれる顔料が、C.I.Pigment Yellow12、またはC.I.Pigment Yellow13、またはC.I.Pigment Yellow74、またはC.I.Pigment Yellow185のいずれか1つであり、かつ、該シアンインキに含まれる顔料が、C.I.Pigment Blue15:3、またはC.I.Pigment Blue15:4のいずれか1つであり、かつ、該ブラックインキに含まれる顔料が、カーボンブラックであること、を特徴とする水性顔料インキセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセス4色インキを使用してなる従来のオフセット印刷物と同等の色相と濃度を再現することに優れる、マゼンタインキ、シアンインキ、イエローインキ、ブラックインキからなるインクジェット用水性顔料インキセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インク組成物の小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。この方法は、比較的安価な装置で高解像度、高品位な画像を高速で印刷可能であるという特徴を有する。
【0003】
産業用途においても、インクジェット技術の向上によりデジタル印刷の出力機としての利用が期待され、環境やコスト等の面から水性インキが求められており、特に、発色性、耐光性などの面から、水性顔料インキの登場が強く求められている。
【0004】
また、インクジェット方式による印刷方法は、大きく分けてシリアルパス型とラインパス型に分類される。シリアルパス型とは、インキの吐出を担うヘッドが、印刷基材上を何度か往復し、ヘッドの解像度を稼ぐ方式である。これに対し、ラインパス型とは、ヘッドが印刷機のある箇所に固定され、その下を印刷基材が一方向に流れながら、印刷を連続的に行う方式である。ラインパス型のインクジェット方式は、近年、インクジェットヘッドの高周波数化、高集積化などの技術の向上により、飛躍的に発展し、高速に高解像度のデジタル印刷ができる印刷機が登場している。そのため、ラインパス型のインクジェット方式は、オフセット方式からの印刷方式代替技術としての展開が大いに期待されている。
【0005】
しかしこれまで、マゼンタ、イエロー、シアン、ブラックからなる4色のインクジェットインキセットにより印刷される印刷物は、従来のオフセットインキの、藍、紅、黄、墨からなるプロセス4色のインキセットにより印刷される印刷物と比較して、色相が大きく異なる。また、印刷濃度も大きく低い。そのため、カラーマネージメント処理等により色補正を行う必要があるが、カラーマネージメント処理により色補正を行った印刷物の色相も、オフセット印刷物の色相を完全に再現できていない、また所望の濃度が出せない。といった課題を抱えている。
【0006】
従来のプロセス4色からなるオフセット印刷の印刷濃度および色相は、例えば、商業オフセット印刷に関する国際基準ISO12647-2や、ISO/TC130国内委員会が策定した印刷に関する標準色を定めたジャパンカラーなどにより標準化されている。
【0007】
ジャパンカラーで制定されているベタ標準測色値とは、正確には「JAPANCOLOR SOLID VALUE」であり、ベタ色の標準を示している。これは社団法人日本印刷産業連合会の協力のもと、代表的な印刷会社21社の社内標準濃度を計測する為のベタパッチの測色値を求めたものである。この平均測定値(CIELAB値)を求め、その値を日本の印刷物の平均的ベタ色と考え、ジャパンカラー標準インキ及びジャパンカラー標準用紙を使用して印刷したサンプルがこの平均値に対して色差(ΔE)が最小になるような測色値を求めて、JAPANCOLOR SOLID VALUEとしたもので黄、紅、藍、墨、青、緑、赤の7色に対して測色値が決められている。現在は、2007年に改定された「ジャパンカラー2007ベタ色標準測色値」が標準となっている。
【0008】
インクジェット技術を産業印刷用途に展開する上で、例えば、このジャパンカラーにより定められている印刷に関する標準色を、インクジェット印刷により再現することは非常に重要である。
【0009】
特に大きな問題となるのが、赤色の色相である。従来の産業印刷において、赤色は、強いインパクトを与える色として、数多くのコーポレートカラーや商品カラーの指定色として、非常に重要視されているが、これまでのインクジェット用インキセットでは、このプロセス4色のオフセットインキからなる印刷物の赤色を再現できなかった。
【0010】
その原因として、これまでインクジェット用マゼンタインキの着色剤として、一般的に用いられてきた、C.I.Pigment Red122もしくはC.I.Pigment Violet19などのキナクリドン系赤色顔料の呈す色相が、オフセット紅インキの色相と異なる、発色が弱いなどがあげられる。
【0011】
これに対し、WO1999/005230号公報および特開2009−173853号公報では、シアンインク組成物、マゼンタインク組成物、イエローインク組成物およびブラックインク組成物に加え、オレンジインク組成物および緑インク組成物を組み合せたインクセットとすることにより、また、特開2006−283017号公報には、450nm以上500nm未満の領域に最大吸収波長を有する第1のインクと、500nm以上570nm以下の領域に最大吸収波長を有する第2のインクとを有し、且つ450nm以上570nm以下の領域における、上記第1のインク及び上記第2のインクの吸光度を合算した時の最大吸光度をA、最小吸光度をBとした場合に、B/Aの値が0.7以上1.0以下であるインクセットを用いて画像を形成することにより、良好な色再現性を表現した画像を形成できることが提案されている。
【0012】
しかしながら、これらの印刷システムでは、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラックの4色に加え2次色、3次色用のインクジェットヘッドが必要であり、装置コストの増大を招き、インクジェット技術の産業印刷用途への展開を困難にしている。
【0013】
これを解決するために、特開平11−49998号公報では、これらのキナクリドン系顔料を2種類以上混合したキナクリドン固溶体顔料を用いて、ジャパンカラーの定めるオフセット紅インキ単色の色相を再現する試みがなされているが、この場合、赤色領域の発色が弱く、イエローインキと重ね合わせても、問題となっている従来のオフセットインキの赤色が得られない。
【0014】
また、このキナクリドン系顔料の発色性の低さが、オフセットインキと比べて印刷濃度が低い主な原因にもなっている。
【0015】
また一方、特開2010−195906号公報では、ナフトール系顔料を用いたインクジェットインキに関する報告が、特開2000−186241号公報では、不溶性モノアゾ顔料として、C.I.Pigment Red147、およびC.I.Pigment Red238(なお、C.I.Pigment Red238は、C.I.Pigment Red269と同じ構造を示している)を用いたインクジェット記録用水性顔料インキに関する報告が、また一方、イエローインキに関しても、特開平11−172180では、C.I.Pigment Yellow74およびC.I.Pigment Yellow185を用いたインクジェットインキに関する報告があるが、いずれも、従来のオフセット印刷物の色再現性を得るための、他の色のインキとの組み合わせに関する言及はない。
【0016】
また、特開2011−149015号公報では、C.I.Pigment Red269にキナクリドン系顔料を併用したインクジェット記録用水性顔料インキに関する報告があるが、キナクリドン系顔料を併用すると明らかに赤色の色再現性に影響があり、オフセット印刷物の赤色色相を再現することはできていない。
【0017】
これらの理由から、依然として、従来のオフセット印刷物と同等の濃度と色相を再現することのできる水性顔料インキセットが、強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO1999/005230号公報
【特許文献2】特開2009−173853号公報
【特許文献3】特開2006−283017号公報
【特許文献4】特開平11−49998号公報
【特許文献5】特開2010−195906号公報
【特許文献6】特開2000−186241号公報
【特許文献7】特開2011−149015号公報
【特許文献8】特開平11−172180号公報
【特許文献9】特開2009−173853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って、本発明の目的は、プロセス4色インキを使用してなる従来のオフセット印刷物と同等の色相と濃度を再現することに優れる、マゼンタインキ、シアンインキ、イエローインキ、ブラックインキからなるインクジェット用水性顔料インキセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは鋭意検討の結果、従来のオフセット印刷物の色相と濃度を再現することに優れる顔料の組合せとして、マゼンタインキに、C.I.Pigment Red31、またはC.I.Pigment Red147、またはC.I.Pigment Red184、またはC.I.Pigment Red269、シアンインキに、C.I.Pigment Blue15:3、またはC.I.Pigment Blue15:4、イエローインキに、C.I.Pigment Yellow12、またはC.I.Pigment Yellow13、またはC.I.Pigment Yellow74、またはC.I.Pigment Yellow185、ブラックインキに、カーボンブラック、を使用することが他の顔料を使用することに比べて、優れる事を見出した。
【0021】
即ち、本発明は、少なくとも水、溶剤、顔料を含む、マゼンタインキと、シアンインキと、イエローインキと、ブラックインキとからなる水性顔料インキセットであって、該マゼンタインキに含まれる顔料が、C.I.Pigment Red31、またはC.I.Pigment Red147、またはC.I.Pigment Red184、またはC.I.Pigment Red269であり、かつ、該イエローインキに含まれる顔料が、C.I.Pigment Yellow12、またはC.I.Pigment Yellow13、またはC.I.Pigment Yellow74、またはC.I.Pigment Yellow185のいずれか1つであり、かつ、該シアンインキに含まれる顔料が、C.I.Pigment Blue15:3、またはC.I.Pigment Blue15:4のいずれか1つであり、かつ、該ブラックインキに含まれる顔料が、カーボンブラックであることを特徴とする水性顔料インキセットに関する。
【0022】
また、本発明は、該マゼンタインキに含まれる顔料の総重量が2.5〜6%であること、かつ、該シアンインキに含まれる顔料の総重量が2.5〜6%であること、かつ、該イエローインキに含まれる顔料の総重量が4.5〜8%であること、かつ、該ブラックインキに含まれる顔料の総重量が4.5〜10%であること、を特徴とする水性顔料インキセットに関する。
また、本発明は前記の水性顔料インキセットを用いて、オフセット一般印刷用紙上に、インクジェット方式によって印刷した印刷物に関する。
【0023】
また、本発明は前記の水性顔料インキセットを用いて、インクジェット方式によって印刷を行う記録方法に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、プロセス4色インキを使用してなる従来のオフセット印刷物と同等の色相と濃度を再現することに優れる、マゼンタインキ、シアンインキ、イエローインキ、ブラックインキからなるインクジェット用水性顔料インキセットが提供される。また同時に、本発明によれば、オフセット一般印刷用紙の上質紙において、裏抜けの発生を抑えて印刷することに優れ、また、オフセット一般印刷紙のコート紙において、色ムラの発生を抑えることに優れる、マゼンタインキ、シアンインキ、イエローインキ、ブラックインキからなるインクジェット用水性顔料インキセットが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、プロセス4色インキを使用してなる従来のオフセット印刷物の色相および濃度について説明する。
【0026】
一般にオフセット印刷に用いられるプロセス4色インキは、黄インキ、紅インキ、藍インキ、墨インキからなり、これらのインキにより再現されるオフセット印刷物の色相は、例えば、商業オフセット印刷に関する国際基準ISO12647-2や、ISO/TC130国内委員会が策定した印刷に関する標準色を定めたジャパンカラーにより標準化されている。
【0027】
ジャパンカラーで制定されているベタ標準測色値とは、正確には「JAPANCOLOR SOLID VALUE」であり、ベタ色の標準を示している。これは社団法人日本印刷産業連合会の協力のもと、代表的な印刷会社21社の社内標準濃度を計測する為のベタパッチの測色値を求めたものである。この平均測定値(CIELAB値)を求め、その値を日本の印刷物の平均的ベタ色と考え、ジャパンカラー標準インキ及びジャパンカラー標準用紙を使用して印刷したサンプルがこの平均値に対して色差(ΔE)が最小になるような測色値を求めて、JAPANCOLOR SOLID VALUEとしたもので黄、紅、藍、墨、青、緑、赤の7色に対して測色値が決められている。
【0028】
ここでいうジャパンカラー標準インキとは、一般的なプロセス4色からなるオフセットインキセットのことであり、日本の代表的なオフセットインキメーカーの製造する製品を指す。例えば、東洋インキ(株)のTKハイエコーシリーズ、およびTKハイエコーSOY、DIC(株)のスペースカラージオスG、大日精化工業(株)のヌーベルマキシAFリソレックス、サカタインクス(株)のダイアトーンエコピュアシリーズ、ザ・インクテック(株)のアイリス パン、東京インキ(株)のジップセットセルボシリーズ、(株)T&K TOKAのスーパーテックプラスシリーズ、大阪印刷インキ製造(株)のオピトーン エコー、女神インキ工業(株)のプラウド シリーズ、などが挙げられるが、ジャパンカラーにより定められる測色値は、これらのインキを用いて印刷したものの標準値を用いている。本発明においても、これらのインキを総称して一般的なオフセットインキとする。
【0029】
また、ここでいうジャパンカラー標準用紙とは、一般的なオフセット一般印刷用紙のことであり、日本の代表的なオフセット一般印刷用紙メーカーの製造する製品を指し、これをアート紙、マットコート紙、コート紙、上質紙の4つに分類している。例えば、アート紙としては、王子製紙(株)のOK金藤N、日本製紙(株)のnpi特アート、三菱製紙(株)の特菱アート両面N、マットコート紙としては、王子製紙(株)のOKトップコートマット、日本製紙(株)のユーライト、三菱製紙(株)のニューVマット、コート紙としては、王子製紙(株)のOKトップコートN、日本製紙(株)のnpiコート、三菱製紙(株)のパールコート、上質紙としては、王子製紙(株)のOKプリンス上質、日本製紙(株)のnpi上質、三菱製紙(株)の金菱、などが挙げられるが、ジャパンカラーにより定められる測色値は、これらの用紙を用いて印刷したものの標準値を用いている。本発明においても、これらの用紙を総称してオフセット一般印刷用紙とする。
【0030】
現在は、2007年に改定された「ジャパンカラー2007ベタ色標準測色値」がL*a*b*表色系により定められており、その値は、上質紙では、黄がL*:90、a*:−4、b*:66、紅が、L*:57、a*:56、b*:−5、藍が、L*:63、a*:−28、b*:−36、墨が、L*:40、a*:2、b*:4、青が、L*:42、a*:8、b*:−28、緑が、L*:59、a*:−44、b*:15、赤が、L*:55、a*:53、b*:21、コート紙では、黄がL*:88、a*:−6、b*:92、紅が、L*:46、a*:75、b*:−6、藍が、L*:55、a*:−39、b*:−49、墨が、L*:14、a*:1、b*:1、青が、L*:23、a*:18、b*:−47、緑が、L*:50、a*:−71、b*:24、赤が、L*:46、a*:69、b*:42、マットコート紙では、黄がL*:90、a*:−5、b*:92、紅が、L*:49、a*:73、b*:−6、藍が、L*:56、a*:−36、b*:−48、墨が、L*:21、a*:1、b*:2、青が、L*:27、a*:19、b*:−45、緑が、L*:51、a*:−65、b*:28、赤が、L*:48、a*:67、b*:44、アート紙では、黄がL*:88、a*:−4、b*:95、紅が、L*:47、a*:74、b*:−6、藍が、L*:54、a*:−38、b*:−48、墨が、L*:15、a*:2、b*:2、青が、L*:24、a*:17、b*:−47、緑が、L*:49、a*:−67、b*:26、赤が、L*:47、a*:68、b*:45、と定められている。測定条件は、光源D50、2度視野、測定光学45°/0°、ブラックバキング(ISO13655)に準拠し、許容色差範囲として、ΔE値が6以下と定められている。
【0031】
濃度に関しては、一般的なオフセットインキ(例えば、東洋インキ製造(株)「TKハイユニティ各色」)を、オフセット一般印刷用紙(例えば、上質紙として、日本製紙(株)製「npi上質」/坪量81.4g/m、コート紙として、王子製紙(株)製「OKトップコートN」/坪量104.7g/m、マットコート紙として、日本製紙(株)製「ユーライト」/坪量104.7g/m、アート紙として、三菱製紙(株)製「特菱アート両面N」/坪量104.7g/m)に印刷した場合の黄、紅、藍、及び墨の単色ベタ部の濃度は、上質紙上で、黄0.69、紅0.86、藍0.85、墨0.94、コート紙上で、黄1.04、紅1.47、藍1.50、墨1.76、マットコート紙上で、黄1.01、紅1.29、藍1.32、墨1.48、アート紙上で、黄1.08、紅1.42、藍1.48、墨1.70程度である。
【0032】
ここで、本発明におけるオフセット一般印刷用紙について説明する。
【0033】
まず、本発明におけるオフセット一般印刷用紙と、明確に区別されるものとして、インクジェット専用紙が存在する。インクジェット専用紙とは、インクジェット用水性インキに用いられている色材である染料もしくは顔料を、紙表面上で凝集させる目的で、カチオン剤もしくは凝集剤とよばれる材料を基材表面に塗布した紙、もしくは、裏抜けを防ぐ目的で、インキ受像層とよばれる層を基材表面に形成した紙、または、グロス加工やマット加工など、塗工紙を似せて、表面にインキ受像層とよばれる層を基材表面に形成した紙、いずれかもしくは全てを指す。オフセット一般印刷用紙とは、このインクジェット専用紙を除いた、印刷用途の紙基材全てを示す。
【0034】
一般に、オフセット印刷用途の紙基材は、基材表面の加工を目的とした材料の塗工の有無によって、塗工紙と非塗工紙に分類される。上質紙とは、この非塗工紙を指す。非塗工紙の中には、紙のパルプの種類や再生紙の量などにより、中級紙や低級紙や新聞紙などの分類が存在するが、本発明中では、これらの分類を総称した非塗工紙を、上質紙とし、いずれに限定されるものでもない。また、塗工紙の中には、塗工層の量によって、アート紙、コート紙、微塗工紙などに分類され、またその表面加工状態によって、キャスト紙、グロス紙、マット紙、ダル紙などに分類されるが、本発明中では、これらの分類のうち、表面に40g/m2前後の塗料を塗工し、表面をグロス加工したものをアート紙といい、表面に20〜40g/m2前後の塗料を塗工し、表面をグロス加工したものをコート紙、および表面をマット加工したものをマットコート紙とし、その他いずれに限定されるものでもない。また、本発明においては、塗工紙を総称してコート紙と呼ぶこともあり、その場合コート紙とは、前記のアート紙、コート紙、マットコート紙を含んだ塗工紙全てを指す。
【0035】
次に、坪量について説明する。坪量とは、1平方メートルあたりの紙1枚の重量のことを指す。重量単位にグラムを用い、g/m2と表示するのが一般的である。この坪量が小さいほど、薄紙であることを示す。
【0036】
本発明においては、L*a*b*値などのインキの色再現性および濃度を評価する際に、インキを印刷する用紙として、オフセット一般印刷用紙(例えば、上質紙として、日本製紙(株)製「npi上質」/坪量81.4g/m、コート紙として、王子製紙(株)製「OKトップコートN」/坪量104.7g/m、マットコート紙として、日本製紙(株)製「ユーライト」/坪量104.7g/m、アート紙として、三菱製紙(株)製「特菱アート両面N」/坪量104.7g/m)を用いることができるが、本発明の方法、又は、本発明のインキセット等を用いて、実際にインクジェット印刷を行う際に用いる用紙は、前記のアート紙、コート紙、マットコート紙、上質紙など、オフセット一般印刷用紙全般を用いることができる。また、オフセット一般印刷用紙に限らず、あらゆる基材を用いて印刷することもできる。また、インクジェット専用紙を用いて印刷することもできる。
【0037】
本発明において、濃度とは、基材(例えば、オフセット一般印刷用紙、より具体的な例えは、上質紙として、日本製紙(株)製「npi上質」/坪量81.4g/m、コート紙として、王子製紙(株)製「OKトップコートN」/坪量104.7g/m、マットコート紙として、日本製紙(株)製「ユーライト」/坪量104.7g/m、アート紙として、三菱製紙(株)製「特菱アート両面N」/坪量104.7g/m)に、イエローインキ、マゼンタインキ、シアンインキ、ブラックインキを用いて、100%印字率の画像を印刷し、各色を濃度計(X-rite製X-rite408)にて測定した値をいう。その際、白色は標準白色を基準とし、測定モードはANSI Tで行う。
【0038】
色再現領域の表現方法としては、XYZ表色系(CIE1931表色系)、X10Y10Z10表色系(CIE1964表色系)、L*a*b*表色系(CIE1976)、ハンターLab表色系、マンセル表色系、L*u*v*表色系(CIE1976)等挙げられるが、本発明において、特に断りがない限り、色再現域の表現方法としては、L*a*b*表色系(CIE1976)により定められる方法を用いる。
【0039】
L*a*b*表色系では、色相に関係なく比較できる明るさの度合いとして「明度」をL*で表現し、L*が大きくなるほど色が明るく、小さくなるほど暗くなることを示している。また、各色によって異なる「色相」をa*、b*の値で示し、a*は赤(+)から緑(−)方向、そしてb*は黄(+)から青(−)方向を示し、各方向とも絶対値が大きくなるに従って色鮮やかになり、0に近づくに従ってくすんだ色になることを示している。これによって一つの色を、L*、a*、b*を用いて数値化することが可能となる。L*、a*、b*が限りなく0に近づくと、無彩色且つ暗い色相、つまり理想的な黒になる。
【0040】
さらに、L*a*b*表色系で表された個々の色が持つ数値を利用して、微妙な色の違い(色差)も数値で表すことが可能になる。2つの色の色差(「ΔE」と表現)は、以下の計算式にて求めることができる。
【0041】
【数1】

【0042】
ΔEの絶対値が小さいほど2つの色が近似しており、ΔEの絶対値が大きいほど2つの色が異なっている。
【0043】
次に、なぜ本発明における水性顔料インキセット(以下、インキセットという)がオフセット印刷物の色相および濃度の再現性に優れるのか詳細を挙げて説明する。
【0044】
本発明のマゼンタインキに用いられるC.I.Pigment Red31、C.I.Pigment Red147、C.I.Pigment Red184、C.I.Pigment Red269の顔料は、従来のオフセット印刷物と同等の濃度および色相、特に赤色の色を再現するために、非常に重要である。
【0045】
前記のC.I.Pigment Red31、C.I.Pigment Red147、C.I.Pigment Red184、C.I.Pigment Red269は、青味の色相を持ったナフトール系赤色顔料である。ナフトール系赤色顔料は、可視光における600nm以上の赤色領域において、キナクリドン系顔料と比べ、非常にシャープな反射スペクトルを有しており、イエローインキと重ね合わせたときに、非常に鮮明な赤色を示すことができる。しかしながら、多くのナフトール系顔料は黄味の強い赤色の色相を持ち、オフセット紅顔料に使用されるのC.I.Pigment Red 57:1ような青味の強い赤色の色相を持たないため、シアンインキと重ね合わせたときに、逆に青味の色相が非常に弱くなってしまう。
【0046】
一方、キナクリドン系顔料は、この可視光における600nm以上の赤色領域において、若干の吸収があり、かつ、なだらかな肩ピークが550~600nmのオレンジ領域に存在するため、調色などの手法によりマゼンタ単色の色を合わせたとしても、イエローインキとの重ね合わせで、オフセットインキの呈する鮮明な赤色を再現することはできない。また、キナクリドン系顔料は着色力が弱く、これを使用したインクジェットインキでオフセット一般印刷用紙に印刷すると、その印刷濃度が低く、オフセット印刷物の濃度を再現することはできていない。これに対して、一般にナフトール系顔料は、着色力が高く、これをインクジェットインキに使用することで、オフセット一般印刷用紙に高い印刷濃度で印刷することができる。
【0047】
なお、従来のオフセット紅インキで使用される顔料であるC.I.Pigment Red 57:1は、顔料中に結晶水を取り込んだ状態では黄味の強い赤色の色相を呈すため、水性インクジェットインキ中では、黄味の強い赤色となり、オフセット印刷物の色相を再現することはできない。
【0048】
これに対し、本発明のマゼンタインキに用いられるC.I.Pigment Red31、C.I.Pigment Red147、C.I.Pigment Red184、C.I.Pigment Red269の顔料は、ナフトール系顔料の中でも、青味の色相を有する顔料であり、イエローインキとの重ね合わせで鮮明な赤色を再現でき、かつシアンインキとの重ね合わせにおいても鮮明な青色を再現できる、という利点を有する。特に、C.I.Pigment Red269は、従来のオフセット紅インキに用いられるC.I.Pigment Red57:1がオフセットインキ中で呈す色と全く同じ反射スペクトルを、水性インクジェットインキ中で呈することができる顔料であり、オフセット印刷物の色相を再現することに非常に優れている。
【0049】
次に、イエローインキにおいて、顔料の着色力は、従来のオフセット印刷物と同等の濃度および色相を再現することにおいて、重要である。しかしながら、インクジェットに用いることのできる黄色顔料は、様々なものがこれまで知られているが、例えば、C.I.Pigment Yellow151、C.I.Pigment Yellow155、C.I.Pigment Yellow180など、着色力が弱いものが多い。これらの中で、本発明のイエローインキに用いられるC.I.Pigment Yellow12、C.I.Pigment Yellow13、C.I.Pigment Yellow74、およびC.I.Pigment Yellow185は、着色力が高く、これをインクジェットインキに使用することで、オフセット一般印刷用紙に高い印刷濃度で印刷することができる。
【0050】
また、黄色顔料は、可視光における500nm以下の青色領域において、シャープな吸収を有するのが特徴であるが、この吸収領域が高波長側にシフトしていると、シアンインキと重ね合わせたときの緑色の色再現性が極端に狭くなる。例えば、C.I.Pigment Yellow150は、着色力が高いが、吸収波長が500nm以上にシフトしており、シアンインキとの重ね合わせにおいて、オフセットインキの呈する鮮明な緑色が再現できない。これは、一般的にシアンインキに用いられているフタロシアニン系青色顔料が、500〜600nmの緑色領域にかなりの吸収を有しているためであり、この領域にイエローインキの吸収があるとほとんどの緑色の反射光が得られない。そのため、この領域にイエローインキの吸収波長がないことが、鮮明な緑色を最大限に得るために重要である。
【0051】
この点で、本発明のイエローインキに用いられるC.I.Pigment Yellow12、またはC.I.Pigment Yellow13、またはC.I.Pigment Yellow74、またはC.I.Pigment Yellow185の顔料は、500nm以上の領域に吸収を持たないため、シアンインキとの重ね合わせにおいても鮮明な緑色を再現できる、という利点を有する。
【0052】
前記の理由から、本発明のインキセットは、インクジェット印刷によりオフセット印刷物の色相と濃度を再現することに非常に優れている。
【0053】
次に、インクジェット方式によりオフセット一般印刷用紙、特に薄紙の上質紙に、印刷した場合に起こる、裏抜けの課題について説明し、本発明におけるインキセットがなぜこの裏抜けを抑制することに優れるのかに関して説明する。
【0054】
本発明において、裏抜けとは、坪量の低い薄紙、例えば、坪量81.4g/m2以下の上質紙に、インクジェット印刷を行った場合に、その印刷物において、印刷面の裏側にインキが浸透して、印刷面の色が裏に透けて見えてしまうことをいう。
【0055】
産業用デジタル印刷用途のひとつとして、フォーム印刷や新聞印刷などへの展開が期待されている。しかしながら、その印刷の基材対象となる薄い上質紙に対して、従来のインキセットを用いて、インクジェットプリンタにより印刷される印刷物は、従来のオフセット印刷により得られる印刷物と比較して、裏抜け量が大きい。そのため、裏面にも文字が写ってしまって、両面印刷ができないため、厚紙の使用を余儀なくされ、フォーム印刷や新聞印刷などの、薄紙に印刷をするの産業印刷用途に、インクジェット技術を展開することが困難であった。その原因は、インクジェット方式により、オフセット一般印刷紙上に印刷される印刷物の濃度が薄いためであり、これを改善するために、単位面積あたりのインキ量を多くしてしまうために、結果として、基材内部へのインキの浸透量が多くなり、酷いインキの裏抜けを引き起こしている。
【0056】
この課題は、ラインパス型のインクジェット方式において、その解像度がヘッドの解像度に依存するため、シリアルパス型に比べて、顕著である。
【0057】
これに対し、本発明のインキセットは、着色力の高い顔料を用いることにより、インクジェット方式によりオフセット一般印刷用紙上に高い濃度を再現することができる。このため、同じ濃度を表現するために少ないインキ量で印刷することができ、結果的に、基材内部に浸透するインキの量が少なくなるため、裏抜けが抑制される。
【0058】
前記の理由から、本発明のインキセットは、インクジェット方式によりオフセット一般印刷紙、特に薄紙の上質紙上に裏抜けを抑えて印刷することに優れている。
【0059】
次に、インクジェット方式によりオフセット一般印刷用紙上、特にコート紙に、印刷した場合に起こる、色ムラの課題について説明し、本発明におけるインキセットがなぜこの色ムラを抑制することに優れるのかに関して説明する。
【0060】
ここでいうコート紙とは、オフセット一般印刷用紙における、前記のアート紙、マットコート紙、コート紙の分類におけるコート紙を指すものではなく、塗工紙、非塗工紙の分類におけるオフセット一般印刷用紙の塗工紙全般を指すものとする。
【0061】
コート紙は、上質紙と異なり、無機顔料や樹脂を用いて表面に塗工層が形成されているため、基材表面に水がしみこむ隙間がほとんどない。そのため一般的に、水性インキをコート紙上にインクジェット方式で印刷すると、インキが紙上で局在化するビーディングとよばれる現象がおこり、色ムラが発生する。これは、水性インキが基材中に浸透できないため、インキの定着が非常に遅く、そのため、定着前のインキとノズルから吐出されるインキが接触して、基材上で互いに混ざり合ってしまうために、起こる現象である。そのため、コート紙上に、水性インキを用いて、色ムラを抑えて印刷するためには、ノズルから吐出される1つ1つのインキを、コート紙上でより早く定着させることが重要となるが、互いに混ざり合わないように印刷するための難易度はかなり高い。
【0062】
この課題は、シリアルパス型に比べて、その印刷速度が非常に速いため、ラインパス型のインクジェット方式において、非常に顕著に発生する。
【0063】
本発明者らは、鋭意検討を行い、ノズルから吐出される1つ1つのインキを、コート紙上でより早く定着させるためには、コート紙表面でのインキの濡れ性を高くすることが重要であることを見出した。コート紙上で1つ1つのインキをより大きく濡れ広げて、ドット径を大きくすることで、インキ液滴の表面積が大きくなり、コート紙内部への浸透および空気中への水の蒸発を最大限に加速させることができる。このようにすることで、水性インクジェットインキをコート紙上に色ムラなく印刷することができることを見出した。
【0064】
しかしながら、コート紙は上質紙に比べ、遥かに水性インキの濡れ広がり性が小さく、一般的な水性インキを用いる限りでは、コート紙上にビーディングを抑えて一様にインキを濡れ広がらせることは困難である。
【0065】
これに対し、本発明のインキセットは、後記の、濡れ性の観点から用いる溶剤、および、界面活性剤を用いることにより、コート紙上に大きく濡れ広げて、ドット径を大きくすることができる。
【0066】
前記の理由から、本発明のインキセットは、インクジェット方式によりオフセット一般印刷紙、特にコート紙上に、色ムラを抑えて印刷することに優れている。
【0067】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明のインキセットについて説明する。
【0068】
本発明によるインキセットは、イエローインキとマゼンタインキとシアンインキとブラックインキとを含む4種のインキ組成物を含んでなるインキセットであって、それら各インキに着色剤として特定の顔料が含まれているものである。以下、本発明によるインキセットを構成する各インキについて説明する。
【0069】
マゼンタインキ
本発明によるインキセットに用いられるマゼンタインキは、顔料として、C.I.Pigment Red31、C.I.Pigment Red147、C.I.Pigment Red184、C.I.Pigment Red269からなる群より選ばれる少なくとも1種の顔料を含んでなる。これらの顔料の中でも、特にC.I.Pigment Red269を含んでなることが好ましい。これらの赤顔料を含むマゼンタインキを、後記するイエローインキ、シアンインキ、およびブラックインキと組み合わせて用いることにより、従来のオフセット印刷物と同等の濃度および色相を再現することができる。
【0070】
インキ中の顔料の添加量は、従来のオフセット印刷物と同等の濃度および色相を再現するために、2.5〜6%の範囲で用いることが好ましく、3.5〜5%の範囲で用いることがより好ましい。
上記の顔料添加量を下回ると、適切な濃度が得られず、上回ると、適切な色相が得られない。
【0071】
上記顔料は、公知の方法で製造することができ、とくに制限されない。
【0072】
上記顔料は、分散剤または界面活性剤で水性媒体中に分散させて得られた顔料分散液としてインキに添加することも、顔料表面に親水基を導入させて分散剤なしに水性媒体中に分散される自己分散顔料としてインキに添加することも可能であるが、好ましくは、高分子分散剤を使用して分散された顔料分散液としてインキに添加することができる。
【0073】
高分子分散剤としては、従来既知のものが使用できるが、一般的に、(メタ)アクリル酸共重合物が使用される。好ましい例としては、疎水性基を持つモノマーと親水性基を持つモノマーとの共重合体、および疎水性基と親水基を分子構造中に併せ持ったモノマーからなる重合体、例えばラウリルメタクリレート/スチレン/アクリル酸共重合体またはその塩が挙げらる。
【0074】
本発明において用いられるマゼンタインキは、前記の顔料とともに、少なくとも水、溶剤を含んでなる。
【0075】
水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0076】
本発明における溶剤としては、公知公用のものを用いることができるが、保湿性の観点と濡れ性の観点から2種類以上の溶剤を組み合わせて使用することが好ましい。保湿性の観点から用いる保湿溶剤としては、例えば、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどがあげられる。特に、適度な保湿力と乾燥性を有しているため、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルを用いることが好ましい。これらの保湿性の観点から用いる溶剤の含有量は、インキ全重量の10〜50%の範囲であることが好ましく、より好ましくは15〜45%の範囲である。
【0077】
また一方、濡れ性の観点から用いる濡れ溶剤としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、トリエチレングリコールモノペンチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘプチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘプチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘプチルエーテル、エチレングリコールモノオクチルエーテル、ジエチレングリコールモノオクチルエーテル、トリエチレングリコールモノオクチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる(前記の溶剤はいずれも任意の異性体を含む)。中でも、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルは、紙上への濡れ性に優れ、好ましく用いることができる。特にジエチレングリコールモノヘキシルエーテルは水に難溶性の溶剤であるが、前記の保湿溶剤をインキ全重量の10〜50%含むことによる共溶媒の効果によって、均一にインキ中に溶解させて含むことができ、これによって水性インキの濡れ性を非常に高くすることができる。これらの濡れ性の観点から用いる溶剤の含有量は、インキ全重量の1〜10%の範囲であることが好ましく、より好ましくは2〜5%の範囲である。
【0078】
さらに本発明のインキは、界面活性剤を用いることができる。本発明に用いることのできる界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、インキの動的表面張力を低下させ、前期の溶剤の濡れ性を高める効果を補う目的で使用される。顔料分散の安定性の観点から、ノニオン性界面活性剤(例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、ジメチルポリシロキサン等のポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤、フッ素アルキルエステル等の含フッ素界面活性剤)や、アニオン性界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、フッ素アルキルカルボン酸塩等の含フッ素界面活性剤)が特に好ましい。これらの界面活性剤は、1種または2種以上を併用して用いることもできる。
【0079】
さらに好ましい界面活性剤の例としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのポリアルコキシレートなどのアセチレングリコール系界面活性剤が挙げられる。このようなアセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、AirProductsandChemicals Inc.製サーフィノール104、420、440、465、485が挙げられる。一般にノニオン性界面活性剤は、その水への親和性をHLB値によって表され、このHLB値が低いものほど水への溶解性が低い。本発明に用いることのできるノニオン性界面活性剤は、このHLB値が低いものほど、濡れ性を高める効果が高く、HLB値13以下のものを用いることが好ましい。また、より好ましくはHLB値8以下のもの、さらに好ましくはHLB値4以下のものを用いる。特にHLB値8以下のものは水に難溶性のノニオン性界面活性剤であるが、前記の保湿溶剤をインキ全重量の10〜50%含むことによる共溶媒の効果によって、均一にインキ中に溶解させて含むことができ、これによって水性インキの濡れ性を非常に高くすることができる。これらノニオン性界面活性剤の含有量は、インキ全体に対して0.5〜5%の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜3%の範囲である。
【0080】
さらに本発明のインキは、水分散性樹脂微粒子を用いることができる。水分散性樹脂微粒子を含有することで、粘度はあまり上昇させずに、印刷物の濃度と耐性を同時に向上させることができる。これは、水分散性樹脂微粒子が、紙の中では、隙間を埋める目止め剤の効果として働き、インキ塗膜表面では、樹脂膜を形成する皮膜の効果として同時に働くためである。これにより、顔料の紙内部への浸透が抑えられ、顔料が紙表面に留まるため、高い印刷濃度が得ることができ、また、紙表面の顔料は樹脂皮膜により保護されるため、耐水性、耐溶剤性、耐擦過性などが向上する。水溶性の樹脂を添加しても、ある程度、濃度と耐性の向上は期待できるが、粘度が上昇してしまう傾向にある。インクジェットインキの場合、ノズルからインキを吐出できる粘度にはある範囲があり、あまり粘度が高いとインキを吐出することができなくなることがあるため、粘度の上昇を抑えることは重要である。この水分散性樹脂微粒子のインキ中における含有量は、固形分で、インキの重量の1〜10%の範囲であり、好ましくは2.5〜7.5%の範囲である。
【0081】
また、本発明のインキは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインキとするために、任意の、水分散性ワックス、表面調整剤、消泡剤、防腐剤などを適宜に使用することができる。
【0082】
イエローインキ
本発明によるインキセットに用いられるイエローインキは、着色剤としてC.I.Pigment Yellow12、またはC.I.Pigment Yellow13、またはC.I.Pigment Yellow74、またはC.I.Pigment Yellow185からなる群より選ばれる少なくとも1種の顔料を含んでなる。これらの顔料の中でも、特にC.I.Pigment Yellow74を含んでなることが好ましい。これらのイエロー顔料を含むイエローインキを、前記のマゼンタインキ、および後記するシアンインキ、およびブラックインキと組み合わせて用いることにより、従来のオフセット印刷物と同等の濃度および色相を再現することができる。
【0083】
インキ中の顔料の添加量は、従来のオフセット印刷物と同等の濃度および色相を再現するために、4.5〜8%の範囲で用いることが好ましく、5〜7%の範囲で用いることがより好ましい。
上記の顔料添加量を下回ると、適切な濃度が得られず、上回ると、適切な色相が得られない。
【0084】
上記顔料は、公知の方法で製造することができ、とくに制限されない。
【0085】
上記顔料は、前記マゼンタインキと同様に、分散剤または界面活性剤で水性媒体中に分散させて得られた顔料分散液としてインキに添加することも、顔料表面に親水基を導入させて分散剤なしに水性媒体中に分散される自己分散顔料としてインキに添加することも可能であり、好ましくは、従来既知の高分子分散剤を使用して分散された顔料分散液としてインキに添加することができる。
【0086】
本発明によるインキセットを構成する前記イエローインキは、前記顔料とともに、少なくとも水と溶剤とを含んでなり、また、前記マゼンタインキと同様に、溶剤として親水性の高い水溶性溶剤と疎水性の高い水溶性もしくは水に難溶性の溶剤とを併用することができ、また、界面活性剤、水分散性樹脂微粒子、水分散性ワックス、表面調整剤、消泡剤、防腐剤等を使用することができる。これらの具体例およびその添加量は、前記マゼンタインキの場合と同様であってよい。
【0087】
シアンインキ
本発明によるインキセットに用いられるシアンインキは、着色剤としてC.I.Pigment Blue15:3、またはC.I.Pigment Blue15:4からなる群より選ばれる少なくとも1種の顔料を含んでなる。これらの顔料の中でも、特にC.I.Pigment Blue15:3を含んでなることが好ましい。これらの顔料を含むシアンインキを、前記のマゼンタインキ、およびイエローインキ、および後記するブラックインキと組み合わせて用いることにより、従来のオフセット印刷物と同等の濃度および色相を再現することができる。
【0088】
また本発明のシアンインキは、前記の青色顔料に加え、調色を目的に、C.I.Pigment Green7またはC.I.Pigment.Green36などのフタロシアニン系緑色顔料を、混合してもよい。その場合、重量比(青色:緑色)が、95:5〜80:20の範囲で混合することができる。
【0089】
イ ンキ中の顔料の添加量は、従来のオフセット印刷物と同等の濃度および色相を再現するために、2.5〜6%の範囲で用いることが好ましく、3〜5%の範囲で用いることがより好ましい。
上記の顔料添加量を下回ると、適切な濃度が得られず、上回ると、適切な色相が得られない。
【0090】
上記顔料は、公知の方法で製造することができ、とくに制限されない。
【0091】
上記顔料は、前記マゼンタインキと同様に、分散剤または界面活性剤で水性媒体中に分散させて得られた顔料分散液としてインキに添加することも、顔料表面に親水基を導入させて分散剤なしに水性媒体中に分散される自己分散顔料としてインキに添加することも可能であり、好ましくは、従来既知の高分子分散剤を使用して分散された顔料分散液としてインキに添加することができる。
【0092】
本発明によるインキセットを構成する前記シアンインキは、前記顔料とともに、少なくとも水と溶剤とを含んでなり、また、前記マゼンタインキと同様に、溶剤として親水性の高い水溶性溶剤と疎水性の高い水溶性もしくは水に難溶性の溶剤とを併用することができ、また、界面活性剤、水分散性樹脂微粒子、水分散性ワックス、表面調整剤、消泡剤、防腐剤等を使用することができる。これらの具体例およびその添加量は、前記マゼンタインキの場合と同様であってよい。
【0093】
ブラックインキ
本発明によるインキセットに用いられるシアンインキは、着色剤としてカーボンブラックからなる群より選ばれる少なくとも1種の顔料を含んでなる。これらの顔料の中でも、特にC.I.Pigment Blue15:3を含んでなることが好ましい。これらの顔料を含むシアンインキを、前記のマゼンタインキ、およびイエローインキ、およびシアンインキと組み合わせて用いることにより、ジャパンカラーの定める従来のオフセット印刷物と同等の濃度および色相を再現することができる。
【0094】
インキ中の顔料の添加量は、従来のオフセット印刷物と同等の濃度および色相を再現するために、4.5〜10%の範囲で用いることが好ましく、5〜9%の範囲で用いることがより好ましい。
上記の顔料添加量を下回ると、適切な濃度が得られず、上回ると、適切な色相が得られない。
【0095】
上記顔料は、公知の方法で製造することができ、とくに制限されないが、例えば、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックが挙げられる。例えば、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11〜40mμm(nm)、BET法による比表面積が50〜400m2/g、揮発分が0.5〜10質量%、pH値が2乃至10等の特性を有するものが好適である。このような特性を有する市販品としては下記のものが挙げられる。例えば、No.33、40、45、52、900、2200B、2300、MA7、MA8、MCF88(以上、三菱化学製)、RAVEN1255(コロンビア製)、REGAL330R、400R、660R、MOGULL(以上、キャボット製)、Nipex 160IQ、Nipex 170IQ、Nipex 75、Printex 85、Printex 95、Printex 90、Printex 35、Printex U(以上、デグサ製)等があり、何れも好ましく使用することができる。
【0096】
上記顔料は、前記マゼンタインキと同様に、分散剤または界面活性剤で水性媒体中に分散させて得られた顔料分散液としてインキに添加することも、顔料表面に親水基を導入させて分散剤なしに水性媒体中に分散される自己分散顔料としてインキに添加することも可能であり、好ましくは、従来既知の高分子分散剤を使用して分散された顔料分散液としてインキに添加することができる。
【0097】
本発明によるインキセットを構成する前記ブラックインキは、前記顔料とともに、少なくとも水と溶剤とを含んでなり、また、前記マゼンタインキと同様に、溶剤として親水性の高い水溶性溶剤と疎水性の高い水溶性もしくは水に難溶性の溶剤とを併用することができ、また、界面活性剤、水分散性樹脂微粒子、水分散性ワックス、表面調整剤、消泡剤、防腐剤等を使用することができる。これらの具体例およびその添加量は、前記マゼンタインキの場合と同様であってよい。
【0098】
上記したような成分からなる本発明のインキの作製方法としては、下記のような方法が挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。先ず初めに、顔料分散樹脂と、水とが少なくとも混合された水性媒体に顔料を添加し、混合撹拌した後、後述の分散手段を用いて分散処理を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って所望の顔料分散液を得る。次に、必要に応じてこの顔料分散液に、水溶性溶剤、或いは、上記で挙げたような適宜に選択された添加剤成分を加え、撹拌、必要に応じて濾過して本発明のインキとする。
【0099】
本発明のインキの作製方法においては、上記で述べたように、インキの調製に分散処理を行って得られる顔料分散液を使用するが、顔料分散液の調製の際に行う分散処理の前に、プレミキシングを行うのが効果的である。即ち、プレミキシングは、少なくとも顔料分散樹脂と水とが混合された水性媒体に顔料を加えて行えばよい。このようなプレミキシング操作は、顔料表面の濡れ性を改善し、顔料表面への分散剤の吸着を促進することができるため、好ましい。
【0100】
上記した顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機なら、如何なるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル及びナノマイザー等が挙げられる。その中でも、ビーズミルが好ましく使用される。このようなものとしては、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミル(何れも商品名)等が挙げられる。
【0101】
さらに、上記した顔料のプレミキシング及び分散処理において、顔料分散樹脂は水のみに溶解もしくは分散した場合であっても、水溶性溶剤と水の混合溶媒に溶解もしくは分散した場合であっても良い。
【0102】
本発明のインキは、インクジェット記録用であるので、顔料としては、最適な粒度分布を有するものを用いることが好ましい。即ち、顔料粒子を含有するインキをインクジェット記録方法に好適に使用できるようにするためには、ノズルの耐目詰り性等の要請から、最適な粒度分布を有する顔料を用いることが好ましい。所望の粒度分布を有する顔料を得る方法としては、下記の方法が挙げられる。先に挙げたような分散機の粉砕メディアのサイズを小さくすること、粉砕メディアの充填率を大きくすること、処理時間を長くすること、粉砕後フィルタや遠心分離機等で分級すること、及びこれらの手法の組み合わせ等の手法がある。
【0103】
以下に製造例、実施例および比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、以下の文章中、「部」は、「重量部」を、「%」は、「重量%」を、それぞれ表す。
【0104】
(顔料分散樹脂1の製造例)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、トリエチレングリコールモノメチルエーテル93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、ラウリルメタクリレート35.0部、スチレン35.0部、アクリル酸30.0部、およびV−601(和光純薬製)6.0部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601(和光純薬製)0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けて、顔料分散樹脂1の溶液を得た。顔料分散樹脂1の重量平均分子量は約16000であった。
さらに、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール37.1部添加し中和した。これは、アクリル酸を100%中和する量である。さらに、水を200部添加し、水性化した。これを1gサンプリングして、180℃20分加熱乾燥して不揮発分を測定し、先に水性化した樹脂溶液の不揮発分が20%になるように水を加えた。これより、顔料分散樹脂1の不揮発分20%の水性化溶液を得た。
【0105】
(水分散性樹脂微粒子1の製造例)
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水40部と界面活性剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)0.2部とを仕込み、別途、2−エチルヘキシルアクリレート40部、メチルメタクリレート50部、スチレン7部、ジメチルアクリルアミド2部、メタクリル酸1部、イオン交換水53部および界面活性剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)1.8部をあらかじめ混合しておいたプレエマルジョンのうちの1%をさらに加えた。内温を60℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液10部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液20部の10%を添加し重合を開始した。反応系内を60℃で5分間保持した後、内温を60℃に保ちながらプレエマルジョンの残りと過硫酸カリウムの5%水溶液、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液の残りを1.5時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌を継続した。固形分測定にて転化率が98%超えたことを確認後、温度を30℃まで冷却した。ジエチルアミノエタノールを添加して、pHを8.5とし、さらにイオン交換水で固形分を40%に調整して水分散性樹脂微粒子1の水分散体を得た。なお、固形分は、150℃20分焼き付け残分により求めた。
【0106】
(顔料分散体1の製造例)
顔料としてC.I.Pigment Yellow12を20部、顔料分散樹脂1の水溶化溶液を42.9部、水37.1部をバットに仕込み、ディスパーで予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ250部を分散メディアとして仕込み、ダイノミルにて分散を行い、顔料分散体1を得た。このとき、顔料と顔料分散樹脂1の不揮発分の比率は、顔料/分散樹脂(不揮発分)=7/3となっている。
【0107】
(顔料分散体2〜11の製造例)
表1に記載した組成に従い、上記顔料分散体1と同様に製造し、顔料分散体2〜11を得た。
(比較顔料分散体1〜10の製造例)
表1に記載した組成に従い、上記顔料分散体1と同様に製造し、比較顔料分散体1〜10を得た。
【0108】
(イエローインキ1の製造例)
得られた顔料分散体1を30部、水分散性樹脂微粒子1の水分散体を13部、サーフィノール465(AirProductsandChemicals Inc.製)を1部、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを5部、プロピレングリコールを30部、水を21部、を混合し、10μmのメンブランフィルターでろ過することで、イエローインキ1を作製した。このとき、インキ100部の中に、顔料が6部、顔料分散樹脂1が2.6部、水分散性樹脂微粒子1が5.2部が含まれている。
【0109】
(マゼンタインキ1の製造例)
得られた顔料分散体8を20部、水分散性樹脂微粒子1の水分散体を13部、サーフィノール465(AirProductsandChemicals Inc.製)を1部、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを5部、プロピレングリコールを30部、水を31部、を混合し、10μmのメンブランフィルターでろ過することで、マゼンタインキ1を作製した。このとき、インキ100部の中に、顔料が4部、顔料分散樹脂1が1.7部、水分散性樹脂微粒子1が5.2部が含まれている。
【0110】
(シアンインキ1の製造例)
得られた顔料分散体9を20部、水分散性樹脂微粒子1の水分散体を13部、サーフィノール465(AirProductsandChemicals Inc.製)を1部、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを5部、プロピレングリコールを30部、水を31部、を混合し、10μmのメンブランフィルターでろ過することで、シアンインキ1を作製した。このとき、インキ100部の中に、顔料が4部、顔料分散樹脂1が1.7部、水分散性樹脂微粒子1が5.2部が含まれている。
【0111】
(ブラックインキ1の製造例)
得られた顔料分散体11を38部、水分散性樹脂微粒子1の水分散体を13部、サーフィノール465(AirProductsandChemicals Inc.製)を1部、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを5部、プロピレングリコールを30部、水を13部、を混合し、10μmのメンブランフィルターでろ過することで、ブラックインキ1を作製した。このとき、インキ100部の中に、顔料が7.6部、顔料分散樹脂1が3.3部、水分散性樹脂微粒子1が5.2部が含まれている。
【0112】
(印刷物の製造例)
幅方向の解像度600dpi、最大吐出周波数30kHzのインクジェットヘッド(京セラ社製「KJ4Bシリーズ」)を用いたラインパス型のインクジェットプリンターにて、得られたイエローインキ1、マゼンタインキ1、シアンインキ1、ブラックインキ1をそれぞれのヘッドに充填して、上質紙(日本製紙(株)製npi上質、坪量64.0g/m2)、および、コート紙(王子製紙(株)製OKトップコートN、坪量104.7g/m2)に、600x600dpiの解像度で、カラーチャート画像(X-rite製ProfileMaker用チャート画像「TC3.5 CMYK i1_iO」)を印刷し、評価用印刷物を作成した。
【0113】
(実施例1〜25)
表2に記載した組成に従い、上記製造例と同様にしてインキの作製、評価用印刷物を作成した。
(比較例1〜11)
表3に記載した組成に従い、上記製造例と同様にして、インキの作製、評価用印刷物を作成した。
表4に、印刷物の色再現性、濃度、裏抜け、色ムラの評価結果を示す。
以下に具体的な評価方法を説明する。
【0114】
(印刷物の色再現性)
得られた評価用印刷物のカラーチャート部を、分光光度計(X-rite製i1 iO Pro)および測色ツール(X-rite製MesurementToolおよびProfileMaker)を用いて測色し、L*a*b*色空間における色再現領域をプロットし評価した。但し、測定条件は、光源D50、2度視野、測定光学45°/0°で行った。枚用印刷用ジャパンカラー2007によって定められている、L*a*b*色空間における色再現領域と比較し、ジャパンカラー2007の色再現領域を全て内包するものを◎、同等のものを○、若干内包されない部分を含むものを△、大きく内包されない部分があるものを×とした。
【0115】
(印刷物の濃度)
得られた評価用印刷物の印字率100%の各色のベタ印刷部を、濃度計(X-rite製X-rite938)を用いて、濃度(光学濃度)を測定し評価した。枚用印刷用ジャパンカラー2007の標準印刷色特性値によって定められている濃度(上質紙:C/M/Y/K=0.85/0.86/0.69/0.94、コート紙C/M/Y/K=1.50/1.47/1.04/1.76)よりも高いものを◎、同等のものを○、低いものを×とした。
【0116】
(印刷物の裏抜け)
上質紙上に得られた評価用印刷物の印刷面の裏側において、目視で、ほとんど表の印刷面の色が見えないものを◎、若干表の印刷面の色が見えるものを○、明らかに表の印刷面の色が見えるものを×とした。
【0117】
(印刷物の色ムラ)
コート紙上に得られた評価用印刷物の印字率100%の画像部において、目視で、色ムラがなく均一なインキ面が得られているものを◎、若干の色ムラが発生しているがある程度均一なインキ面が得られているものを○、明らかに色ムラが発生しているものを×とした。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

【0120】
【表3】

【0121】
【表4】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水、溶剤、顔料を含む、マゼンタインキと、シアンインキと、イエローインキと、ブラックインキとからなる水性顔料インキセットであって、該マゼンタインキに含まれる顔料が、C.I.Pigment Red31、C.I.Pigment Red147、C.I.Pigment Red184、またはC.I.Pigment Red269から選ばれるいずれか1つ以上であり、かつ、該イエローインキに含まれる顔料が、C.I.Pigment Yellow12、またはC.I.Pigment Yellow13、またはC.I.Pigment Yellow74、またはC.I.Pigment Yellow185から選ばれるいずれか1つ以上であり、かつ、該シアンインキに含まれる顔料が、C.I.Pigment Blue15:3、またはC.I.Pigment Blue15:4のから選ばれるいずれか1つ以上であり、かつ、該ブラックインキに含まれる顔料が、カーボンブラックであることを特徴とする水性顔料インキセット。
【請求項2】
該マゼンタインキに含まれる顔料の総重量が2.5〜6%であること、かつ、該シアンインキに含まれる顔料の総重量が2.5〜6%であること、かつ、該イエローインキに含まれる顔料の総重量が4.5〜8%であること、かつ、該ブラックインキに含まれる顔料の総重量が4.5〜10%であること、を特徴とする請求項1記載の水性顔料インキセット。
【請求項3】
請求項1または2記載の水性顔料インキセットを用いて、オフセット一般印刷用紙上に、インクジェット方式によって印刷した印刷物。
【請求項4】
請求項1または2記載の水性顔料インキセットを用いて、インクジェット方式によって印刷を行う記録方法。

【公開番号】特開2013−107951(P2013−107951A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252484(P2011−252484)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【特許番号】特許第5156964号(P5156964)
【特許公報発行日】平成25年3月6日(2013.3.6)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】