説明

インクジェット用水系インク及びインクジェット記録方法

【課題】本発明は、非吸収性のメディアにおいて、射出安定性を維持しながら液寄り(白筋やビーディング)を防止し、擦過性を向上させた高品位の画像が得られるインクジェット用水性インク及びインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】水、顔料、有機溶剤及び水溶性樹脂を含有するインクジェット用水系インクにおいて、該水溶性樹脂を少なくとも2種類含み、前記水溶性樹脂の重量平均分子量(Mw)の最大と最小の差が1000〜25000の範囲であり、且つ、前記水溶性樹脂の酸価が50mgKOH/g〜250mgKOH/gであり、該酸価の最大と最小の差が200mgKOH/g以内であることを特徴とするインクジェット用水系インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非吸収性のメディアにおいて、射出安定性を維持しながら液寄り(白筋やビーディング)を防止し、擦過性を向上させた高品位の画像を得るための新規なインクジェット用水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方式は簡便、且つ、安価に画像を作製できるため、写真、各種印刷、マーキング、カラーフィルター等の特殊印刷など、様々な印刷分野に応用されてきている。
【0003】
この様なインクジェット記録方式で用いられるインクジェットインクとしては、水と少量の有機溶剤からなる水性インク、有機溶剤を用い実質的に水を含まない非水系インク、室温では固体のインクを加熱溶融して印字するホットメルトインク、印字後、光等の活性光線により硬化する活性光線硬化性インク等、複数のインクがあり、用途に応じて使い分けられている。
【0004】
一方、長期の耐候性が求められる屋外掲示物や曲面を有する物体への密着性が求められる印字物等、広い用途でポリ塩化ビニル製のシートのような非吸水性の記録媒体が使用されている。
【0005】
非吸水性の記録媒体に印刷する方法は複数あるが、版を作製する必要がなく、仕上がりまでの時間が短く、少量多品種の生産に適する方法として、インクジェット記録方法がある。
【0006】
インク吸収能力の乏しい記録媒体に低解像度で印刷した場合でも、アルコール溶剤と分散剤の組合せにより白筋が発生しないインクジェットインク技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の技術だけでは解像度が高くなってきた場合、色材が定着して埋まる前にインクが凝集を起こしてしまう等の問題点がった。
【0008】
一方、普通紙に適応されている技術で、ビーディング防止手段に水と有機溶媒の組合せによってインク蒸発速度を制御し乾燥時のインク粘度制御を行うことが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、非吸収性の記録媒体に対しては乾燥が遅く画像が定着しないという問題点があった。
【0010】
以上のように、上記特許文献に記載のインクジェットインクだけでは、高精細な画像を得るのが困難であり、特に非吸水性記録媒体を用いた場合、より速いプリント速度と画質の両立が難しく改善が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−007054号公報
【特許文献2】特開2009−019198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、紙に代表される吸水性媒体に加えて非吸水性記録媒体に対しても白筋などが生じない高品位プリント画質が得られ、更に、プリンタで長期に使用したときでもプリンタの破損やインクの変質による目詰まりや印刷画質の劣化が少ない水系のインクジェットインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は下記の構成により達成された。
【0014】
1.水、顔料、水溶性有機溶剤及び水溶性樹脂を含有するインクジェット用水系インクにおいて、
2種以上の水溶性樹脂を含み、該2種以上の水溶性樹脂の中で、重量平均分子量(Mw)の最大と最小の差が1000〜25000の範囲であり、且つ、前記水溶性樹脂の酸価が50mgKOH/g〜250mgKOH/gであり、該酸価の最大と最小の差が200mgKOH/g以内であることを特徴とするインクジェット用水系インク。
【0015】
2.前記水溶性樹脂が、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル及びカルボキシ基を有する不飽和ビニルをモノマー成分として重合した共重合体であることを特徴とする前記1に記載のインクジェット用水系インク。
【0016】
3.前記1または2に記載のインクジェット用水系インクを吐出して画像形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
【0017】
4.前記画像形成が、非吸水性記録媒体を用いて行われ、且つ、該非吸水性媒体の記録表面温度が40℃〜90℃の範囲に調整されていることを特徴とする前記3に記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、擦過性、光沢、液寄り及び吐出性の全ての特性が優れたインクジェット用水系インク及びインクジェット記録方法を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のインクジェット用水系インクは、請求項1に記載される構成により、擦過性、光沢、液寄り及び吐出性の全ての特性が優れたインクジェット用水系インクを提供することができた。併せて、該インクジェット用水系インクを吐出して画像形成するインクジェット記録方法を提供することができた。
【0020】
以下、本発明のインクジェット用水系インクの構成要素について詳細に説明する。
【0021】
《顔料》
本発明に係る顔料について説明する。
【0022】
本発明に係る顔料としては、従来公知のものを特に制限なく使用でき、水分散性顔料、溶剤分散性顔料等何れも使用可能であり、例えば、不溶性顔料、レーキ顔料等の有機顔料及び、カーボンブラック等の無機顔料を好ましく用いることができる。
【0023】
この顔料は、インク中で分散された状態で存在させ、この分散の方式としては、自己分散、界面活性剤を用いた分散、ポリマー分散、マイクロカプセル分散のいずれでも良いが、マイクロカプセル分散がインクの長期保存安定性の点から特に好ましい。
【0024】
不溶性顔料としては、特に限定するものではないが、例えば、アゾ、アゾメチン、メチン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キナクリドン、アントラキノン、ペリレン、インジゴ、キノフタロン、イソインドリノン、イソインドリン、アジン、オキサジン、チアジン、ジオキサジン、チアゾール、フタロシアニン、ジケトピロロピロール等が好ましい。
【0025】
好ましく用いることのできる具体的顔料としては、以下の顔料が挙げられる。
【0026】
マゼンタまたはレッド用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0027】
オレンジまたはイエロー用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー15:3、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138等が挙げられる。
【0028】
グリーンまたはシアン用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0029】
また、ブラック用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0030】
本発明のインクジェット用水系インクに含有される顔料の分散状態の平均粒子径としては、顔料分散体の安定性やインクの保存安定性向上の観点から、50nm以上、300nm未満であることが好ましい。
【0031】
顔料分散体の粒子径測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることが出来るが、動的光散乱法による測定が簡便でこの粒子径領域の精度が良く多用される。
【0032】
本発明に係る顔料は、分散剤及びその他所望する諸目的に応じて必要な添加物と共に分散機により分散して用いることが好ましい。
【0033】
分散機としては、従来公知のボールミル、サンドミル、ラインミル、高圧ホモジナイザー等が使用できる。
【0034】
中でも、サンドミルによる分散により製造されるインクの粒度分布がシャープであり好ましい。また、サンドミル分散に使用するビーズの材質はビーズ破片やイオン成分のコンタミネーションの点から、ジルコニアまたはジルコンが好ましい。さらに、このビーズ径としては0.3mm〜3mmが好ましい。
【0035】
本発明のインクジェット用水系インクの調製においては、顔料分散体の調製において、高分子分散剤を用いることができる。
【0036】
本発明に用いられる高分子分散剤とは、分子量が5000以上、200000以下の高分子成分を有することが好ましい。
【0037】
高分子分散剤の種類としては、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた2種以上の単量体からなるブロック共重合体、ランダム共重合体及びこれらの塩、ポリオキシアルキレン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等を挙げることができる。
【0038】
酸性の高分子分散剤の場合、中和塩基で中和して添加することが好ましい。ここで中和塩基は特に限定されないが、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン等の有機塩基であることが好ましい。
【0039】
また、本発明において、高分子分散剤の添加量としては、顔料に対し10質量%〜100質量%であることが好ましい。
【0040】
本発明に用いる顔料分散物は、顔料を樹脂で被覆したいわゆるカプセル顔料が特に好ましい。顔料を樹脂で被覆する方法としては公知の種々の方法を用いることができるが、好ましくは、展相乳化法や酸析法の他に、顔料を重合性界面活性剤を用いて分散し、そこへモノマーを供給し、重合しながら被覆する方法から選択することがよい。
【0041】
より好ましい方法としては、水不溶性樹脂をメチルエチルケトンなどの有機溶剤に溶解し、さらに塩基にて樹脂中の酸性基を部分的、もしくは完全に中和後、顔料及びイオン交換水を添加し、分散したのち、有機溶剤を除去、必要に応じて加水し作製する製造方法が好ましい。
【0042】
顔料と樹脂の質量比率は、顔料:樹脂比で100:40から100:150の範囲で選択することができる。特に画像耐久性と射出安定性やインク保存性が良好なのは100:60から100:110の範囲である。
【0043】
《水溶性有機溶剤》
本発明に係る水溶性有機溶剤について説明する。
【0044】
本発明に係る水溶性有機溶剤としては、本発明のインクジェット用水系インクに、ポリ塩化ビニル製記録媒体など疎水的な媒体にも良好な濡れ性を付与する観点から、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1、2−アルカンジオールまたは1、3−プロパンジオールから選ばれる水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。
【0045】
ここで、本発明に係る水溶性有機溶剤の『水溶性』とは、20℃での水への溶解度(水100gに対する溶媒の量)が3g以上であることを表し、好ましくは、10g以上の溶解度を示すことが好ましい。
【0046】
水溶性有機溶剤を用いることにより、画像形成において、インクはじきのない良好な画質を示す画像を得ることができる。
【0047】
また、加えて本発明の目的である低湿環境下での吐出安定性にも効果があることがわかった。
【0048】
この効果については、これら水溶性有機溶剤が比較的疎水的なため、曇点を有する界面活性剤の疎水部分との親和性が高く、結果として、インク表面への配向速度が速くヘッドノズル口でのインク乾燥をより有効に防止できるものと推察している。
【0049】
前記、1、2−アルカンジオールとしては、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオールなどが挙げられ、1,2−ヘキサンジオールが得に吐出安定性において好ましい。
【0050】
また、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1、2−アルカンジオールまたは1、3−プロパンジオールから選ばれる水溶性有機溶剤の総添加量としては、記録媒体への良好な濡れ性と、低湿環境下においても特に安定したインク吐出性を得る観点から、7質量%〜30質量%の範囲が好ましく、更に好ましくは10質量%〜20質量%の範囲である。
【0051】
本発明のインクジェット用水系インクには、グリコールエーテルもしくは1、2−アルカンジオール以外にも溶剤を添加することができる。
【0052】
具体的には、本発明に係る水溶性有機溶剤のその他の例としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)等が挙げられる。
【0053】
《水溶性樹脂》
本発明に係る水溶性樹脂について説明する。
【0054】
本発明のインクジェット用水系インクを用いるインクジェット記録方法において、インク皮膜の耐擦性を得る観点から、インクジェット用水系インク中に含有される水溶性樹脂の遊離ポリマーとしての含有量は、0.5質量%〜10.0質量%の範囲が好ましく、更に、インク被膜の擦過性の向上と、インクの吐出性安定性の向上の両方の観点から、1.0質量%〜5.0質量%の範囲が好ましい。
【0055】
ここで、『遊離ポリマー』とは、インク中において顔料などの分散物に吸着していない水溶性樹脂(水溶性ポリマーともいう)を示し、水溶性染料を用いたインクなど分散物をインク中に含まない場合は、インク中に添加した水溶性ポリマーの全量が遊離ポリマーとして存在する。
【0056】
遊離ポリマーの含有濃度は、インクを30000rpmで2時間遠心分離した上澄液を用い、GPCにより遊離ポリマー量を測定することができる。
【0057】
水溶性樹脂が遊離ポリマー状態で存在することにより、乾燥段階において広がった分子鎖間の接触確率が高く皮膜形成能に優れる結果、高いインク皮膜の耐擦性が得られるものと推察している。
【0058】
本発明に係る水溶性樹脂の好ましい態様としては、高湿環境下や水分が付着した場合でも画像の耐擦性が得られる観点で疎水モノマーを重合成分として有する水溶性共重合物である。
【0059】
疎水モノマーを重合成分として有する水溶性共重合物(以下、水溶性共重合物と略記)は、インク中では安定に溶解しているが、記録媒体上での乾燥後は耐水性が付与される樹脂がより好ましい。
【0060】
このような樹脂としては、樹脂中に疎水性成分と親水性成分を有するものを設計して用いる。この際、親水性成分としては、イオン性のもの、ノニオン性のものどちらを用いても良いが、より好ましくはイオン性のものであり、更に好ましくはアニオン性のものである。
【0061】
特にアニオン性のものを揮発可能な塩基成分で中和することで水溶性を付与したものが好ましい。
【0062】
(酸価)
本発明に係る水溶性樹脂の酸価について説明する。
【0063】
本発明のインクジェット用水系インクは、従来公知のインクに比べて、擦過性、光沢、液寄り及び吐出性の全ての特性が優れているが、このような特性を示すためは、本発明に係る水溶性樹脂の酸価は、50mgKOH〜250mgKOHの範囲であり、且つ、本発明のインクジェット用水系インクは、少なくとも2種の水溶性樹脂を含有するが、該水溶性樹脂の酸価の最大と最小の差が200mgKOH/g以内であることが必要である。
【0064】
ここで、本発明に係る水溶性樹脂の酸価の測定は以下のようにして行われる。
【0065】
(酸価の測定方法)
樹脂10gを300mlの三角フラスコに秤量し、エタノール:ベンゼン=1:2の混合溶媒約50ml加えて樹脂を溶解した。次いで、フェノールフタレイン指示薬を用い、あらかじめ標定された0.1mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、滴定に用いた水酸化カリウムエタノール溶液の量から、下記計算式(1)で酸価(mgKOH/g)を求めた。
【0066】
尚、樹脂によって、エタノール:ベンゼン=1:2の混合溶媒約50mlに溶解しないものは、エタノール50ml、あるいは、エタノール/純水=1:1の混合溶媒約50mlのどちらか溶解するほうを選択して、他は同じ操作にて滴定を行った。
【0067】
計算式(1)
A=(B×f×5.611)/S
式中、Aは樹脂の酸価(mgKOH/g)、Bは滴定に用いた0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、fは0.1mol/リットル水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、Sは、樹脂の質量(g)、5.611は、水酸化カリウムの式量(56.11/10)である。
【0068】
(水溶性樹脂の水溶性)
本発明に係る水溶性樹脂の水溶性とは、20℃での、水(具体的にはイオン交換水)への溶解度(イオン交換水100gに対する溶質の量)が、3g以上であることを意味し、更に、10g以上の溶解度を示すことが好ましい。
【0069】
(水溶性樹脂の構成成分(重合体の構成成分ともいう)
本発明に係る水溶性樹脂の少なくとも1種は、カルボキシ基を有する不飽和ビニルを少なくともモノマー成分として重合した共重合体であることが好ましい。
【0070】
前記共重合体の疎水性モノマーは、アクリル酸エステル(アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなど)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジルなど)、スチレンなどが上げられる。
【0071】
親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミドなどが上げられ、アクリル酸のような酸性基を有するものは、重合後に部分的あるいは完全に塩基成分で中和することが好ましい。
【0072】
この場合の中和塩基としては、アルカリ金属含有塩基、例えば、水酸化Na,K等や、アミン類(アンモニア、アルカノールアミン、アルキルアミン等を用いることができる)を用いることができる。特に、沸点が200℃未満のアミン類で中和することは、画像堅牢性向上の観点から特に好ましい。
【0073】
(水溶性樹脂の重量平均分子量)
本発明のインクジェット用水系インクは、少なくとも2種の水溶性樹脂を含有するが本発明に記載の効果(擦過性、光沢、液寄り、吐出性の向上)を得るためには、該水溶性樹脂の重量平均分子量(Mw)の最大と最小の差が、1000〜25000の範囲であることが必要である。
【0074】
本発明のインクジェット用水系インクに含有される少なくとも2種の水溶性樹脂の重量平均分子量(Mw)の最大と最小の差が1000〜25000の範囲に調整することが必要であることについて、本発明者等は以下のように推定している。
【0075】
水溶性樹脂の重量平均分子量の最大と最小のMwの差が1000〜25000の範囲であれば、周囲の溶媒によって樹脂が広がる場合や縮小する場合の体積が似通っておりインク中で樹脂が均一に存在できるものと考えている。
【0076】
1000より小さいと樹脂同士の絡み合いの作用が発現しないため粘度の上昇が抑えられてしまい、25000より大きいと局所的に大きな分子と小さな分子のムラが発生するために、粘度が不安定になり、インクの射出が不安定になりやすく、その結果として、インクにより形成されるインク膜の密着性も低下すると思われる。
【0077】
また酸価の差が200mgKOH/g以内であれば、樹脂の溶解量もおおよそ同じ挙動となり、複数の樹脂であっても安定に溶解しているものと思われる。
【0078】
差が200mgKOH/gを超えると、一部の樹脂が析出しやすくなり、射出安定性が保てなくなってくると考えられる。
【0079】
また、本発明に係る水溶性樹脂の重量平均分子量としては、3000〜100000の範囲のものが好ましく、更に好ましくは、7000〜20000の範囲である。
【0080】
尚、本発明に係る水溶性樹脂の重量平均分子量は、GPC(Gel Permiation Chromatography)により測定できる。
【0081】
以下に、GPC測定条件を示す。
【0082】
(GPC測定条件)
GPC(Gel Permiation Chromatography)による重量平均分子量測定方法は、試料固形分濃度が0.8質量%となるようにTHFを用いて希釈し、カラム温度25℃で、以下の条件により測定を行う。
【0083】
カラム:東ソー製TSKgel G40000+2500+2000HXL、40℃
溶離液:THF 1.0(ml/min)
注入量:100μl
検 出:RI
較正曲線:標準ポリスチレン(13種の標準ポリスチレンを用いて作成)
(インクジェット用水系インクの粘度)
本発明のインクジェット用水系インクの粘度としては、25℃で4mPa・s〜40mPa・sであることが好ましく、より好ましくは5mPa・s〜40mPa・sであり、更に好ましくは8mPa・s〜20mPa・sである。
【0084】
本発明のインクジェット用水系インクの粘度が上記の範囲に調整することが好ましい理由としては、本発明者等は下記のように推定している。
【0085】
本発明のインクジェット用水系インクは、上記のように少なくとも2種の水溶性樹脂を含有している。
【0086】
ここで、インクジェット用水系インクの初期粘度が高いと、メディアに着弾したインクの流動が抑えられ、その結果、液寄りを防ぐことができると思われる。
【0087】
インクの初期粘度を上げるには、固形分濃度を上げればよいが、ただそれだけでは射出時にノズル面でのインクの乾燥が速まり、ノズルが詰まってしまうデキャップ現象が起きやすくなる。
【0088】
このため射出安定性が劣り画像の欠落が起こるため、固形分濃度は安易には上げられないという問題点がある。
【0089】
そこで、本発明者等は、『似た樹脂』を併用することで、固形分濃度を上げずに効率よく粘度を上げる手段を見出した。
【0090】
ここでいう似た樹脂とは、インクへの溶解状態が似ているものとして考えており、上記の重量平均分子量(Mw)と酸価がその指標となっていると考えている。
【0091】
似た樹脂を併用することでインク中の樹脂の分布状態(濃度・広がり)を均一にし、分子間の相互作用で固形分濃度の効果以上に粘度が上がり、また、樹脂の均一化により射出時のインク滴の切れも安定になり、固形分濃度も高くならないのでデキャップを抑えられ、着弾後のインクはメディア上で互いに凝集することもなく樹脂が均一な皮膜を作るために膜が密着し耐擦過性の高い画像を得られるものと推測している。
【0092】
(粘度の測定)
粘度は回転粘度計と恒温槽(東機産業社製:VISCOMETER TV−33、VISCOMATE VM−150III)を用いて測定した。恒温槽で25℃に設定し測定開始1分後の粘度を測定した。
【0093】
(水溶性樹脂のTg(ガラス転移点))
本発明に係る水溶性ポリマーのTgは、−30℃〜120℃程度のものを用いることができ、より好ましいTgの範囲は−10℃〜80℃である。
【0094】
《インクジェット用水系インクの表面張力》
本発明のインクジェット用水系インクの表面張力としては、記録媒体への濡れ性を高める観点から、30mN/m以下が好ましく、更に好ましくは28mN/m以下に調整することである。
【0095】
この表面張力に調整するためには種々界面活性剤を単独もしくは併用して好ましく用いることができる。
【0096】
(界面活性剤)
本発明のインクジェット用水系インクに用いることのできる好ましい界面活性剤としては、例えば、シリコン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤及びパーフルオロアルケニル基を有するフッ素系界面活性剤である。これらの界面活性剤を用いることにより、ポリ塩化ビニル製の記録媒体などの表面エネルギーが低い媒体に対する十分な濡れを付与することができる。
【0097】
シリコン系界面活性剤とはジメチルポリシロキ酸の側鎖または末端をポリエーテル変性したものであり、例えば、信越化学工業製のKF−351A、KF−642やビッグケミー製のBYK347、BYK348などが市販されている。
【0098】
アセチレングリコール系界面活性剤とは、分子中に三重結合を有し、その隣接炭素原子に水酸基及びアルキル基を有し、三重結合に対して左右対称構造であるものが好ましくい。本発明で用いられるアセチレングリコール化合物、アセチレンアルコール化合物は市販品として入手することができ、例えば、日信化学工業(株)製のサーフィノール、オルフィン、川研ファインケミカル社製のアセチレノールが挙げられる。
【0099】
パーフルオロアルケニル基を有するフッ素系界面活性剤とは、4−フッ化エチレンやヘキサフルオロプロピレンをアニオン的に重合した2量体、3量体あるいは5量体に親水基を導入して合成することができ、親水基にポリオキシエチレンエーテルを有するノニオン型、スルホン酸やカルボン酸を有するアニオン型、4級アンモニウム塩とカルボン酸を有するベタイン型のいずれも好ましく用いることができ、株式会社ネオス製のフタージェントシリーズとして市販されている。
【0100】
本発明のインクには、シリコン系界面活性剤またはパーフルオロアルケニル基を有するフッ素系界面活性剤以外の界面活性剤を使用することもできる。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン縮合物、ソルビタン誘導体などのノニオン性界面活性剤、アルキルスルホコハク酸、燐酸エステル類などのアニオン活性剤、アルキルポリアミノエチルグリシン塩、アミドベタイン類などの両性界面活性剤などが挙げられる。
【0101】
本発明のインクジェット用水系インクでは、上記説明した以外に、必要に応じて、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、多糖類、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防黴剤、防錆剤等を適宜選択して用いることができ、例えば、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコンオイル等の油滴微粒子、特開昭57−74193号公報、同57−87988号公報及び同62−261476号公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号公報、同57−87989号公報、同60−72785号公報、同61−146591号公報、特開平1−95091号公報及び同3−13376号公報等に記載されている退色防止剤、特開昭59−42993号公報、同59−52689号公報、同62−280069号公報、同61−242871号公報及び特開平4−219266号公報等に記載されている蛍光増白剤、防黴剤としてプロキセルGXL(アーチケミカルズ社製)等を挙げることができる。
【0102】
《インクジェット記録方法》
本発明のインクジェット記録方法について説明する。
【0103】
本発明のインクジェット記録方法は、インクを吐出して画像形成を行う際に、使用するインクジェットヘッドはオンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。又吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)等など何れの吐出方式を用いても構わない。
【0104】
また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)等など何れの吐出方式を用いても構わない。
【0105】
本発明のインクジェット記録方法では、インクの吐出の際に、記録媒体(記録メディア)を加熱してプリントすることが好ましい。
【0106】
記録媒体(記録メディア)を加熱することで、インクの乾燥増粘速度が著しく向上し、高画質が得られるようになる。また、画像の耐久性も向上する。
【0107】
加熱温度としては、十分な画質、十分な画像耐久性を得る観点から、更に、インク吐出後の乾燥を短時間で処理可能にする観点から、更にまた、安定にプリントするための観点から、記録媒体(記録メディア)の記録表面温度を40℃〜90℃の範囲に調整することが好ましく、更に好ましくは40℃〜60℃の範囲である。
【0108】
加熱方法としては、メディア搬送系もしくはプラテン部材に発熱ヒーターを組み込み、記録メディア下方より接触式で加熱する方法や、ランプ等により下方、もしくは上方から非接触で加熱方法を選択することができる。
【0109】
《非吸水性記録媒体》
本発明に係わる非吸水性記録媒体について説明する。
【0110】
本発明のインクジェット用水系インクは、普通紙、コート紙、インクジェット専用紙など吸水性の記録媒体はもとより、ポリ塩化ビニルシートなどの非吸収性媒体へのプリントに適している。
【0111】
非吸水性記録媒体としては、高分子シート、ボード(軟質塩ビ、硬質塩ビ、アクリル板、ポリオレフィン系など)、ガラス、タイル、ゴム、合成紙などが挙げられる。
【0112】
ポリ塩化ビニルからなる記録媒体の具体例としては、SOL−371G、SOL−373M、SOL−4701(以上、ビッグテクノス株式会社製)、光沢塩ビ(株式会社システムグラフィ社製)、KSM−VS、KSM−VST、KSM−VT(以上、株式会社きもと製)、J−CAL−HGX、J−CAL−YHG、J−CAL−WWWG(以上、株式会社共ショウ大阪製)、BUS MARK V400 F vinyl、LITEcal V−600F vinyl(以上、Flexcon社製)、FR2(Hanwha社製)LLBAU13713、LLSP20133(以上、桜井株式会社製)、P−370B、P−400M(以上、カンボウプラス株式会社製)、S02P、S12P、S13P、S14P、S22P、S24P、S34P、S27P(以上、Grafityp社製)、P−223RW、P−224RW、P−249ZW、P−284ZC(以上、リンテック株式会社製)、LKG−19、LPA−70、LPE−248、LPM−45、LTG−11、LTG−21(以上、株式会社新星社製)、MPI3023(株式会社トーヨーコーポレーション社製)、ナポレオングロス 光沢塩ビ(株式会社二樹エレクトロニクス社製)、JV−610、Y−114(以上、アイケーシー株式会社製)、NIJ−CAPVC、NIJ−SPVCGT(以上、ニチエ株式会社製)、3101/H12/P4、3104/H12/P4、3104/H12/P4S、9800/H12/P4、3100/H12/R2、3101/H12/R2、3104/H12/R2、1445/H14/P3、1438/One Way Vision(以上、Inetrcoat社製)、JT5129PM、JT5728P、JT5822P、JT5829P、JT5829R、JT5829PM、JT5829RM、JT5929PM(以上、Mactac社製)、MPI1005、MPI1900、MPI2000、MPI2001、MPI2002、MPI3000、MPI3021、MPI3500、MPI3501(以上、Avery社製)、AM−101G、AM−501G(以上、銀一株式会社製)、FR2(ハンファ・ジャパン株式会社製)、AY−15P、AY−60P、AY−80P、DBSP137GGH、DBSP137GGL(以上、株式会社インサイト社製)、SJT−V200F、SJT−V400F−1(以上、平岡織染株式会社製)、SPS−98、SPSM−98、SPSH−98、SVGL−137、SVGS−137、MD3−200、MD3−301M、MD5−100、MD5−101M、MD5−105(以上、Metamark社製)、640M、641G、641M、3105M、3105SG、3162G、3164G、3164M、3164XG、3164XM、3165G、3165SG、3165M、3169M、3451SG、3551G、3551M、3631、3641M、3651G、3651M、3651SG、3951G、3641M(以上、Orafol社製)、SVTL−HQ130(株式会社ラミーコーポレーション製)、SP300 GWF、SPCLEARAD vinyl(以上、Catalina社製)、RM−SJR(菱洋商事株式会社製)、Hi Lucky、New Lucky PVC(以上、LG社製)、SIY−110、SIY−310、SIY−320(以上、積水化学工業株式会社製)、PRINT MI Frontlit、PRINT XL Light weight banner(以上、Endutex社製)、RIJET 100、RIJET 145、RIJET165(以上、Ritrama社製)、NM−SG、NM−SM(日栄化工株式会社製)、LTO3GS(株式会社ルキオ社製)、イージープリント80、パフォーマンスプリント80(以上、ジェットグラフ株式会社製)、DSE 550、DSB 550、DSE 800G、DSE 802/137、V250WG、V300WG、V350WG(以上、Hexis社製)、Digital White 6005PE、6010PE(以上、Multifix社製)等が挙げられる。
【実施例】
【0113】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0114】
尚、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0115】
実施例1
以下に示すように、顔料分散体の調製、水溶性樹脂R−1〜R−8の合成を行い、ついで、インクジェット用水系インク1〜9を各々作製した。
【0116】
《顔料分散体の調製》
顔料分散剤としてスチレン−アクリル酸共重合体(ジョンクリル678、分子量8500、酸価215)3質量部、ジメチルアミノエタノール1.3部、イオン交換水80.7部を70℃で攪拌混合して溶液を調製した。
【0117】
次いで、前記溶液にC.I.ピグメントブルー15:3を15部添加しプレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、シアン顔料の含有量が15質量%の顔料分散体を調製した。
【0118】
この顔料分散体に含まれる顔料粒子の平均粒子径は122nmであった。なお、粒径測定はマルバーン社製ゼータサイザ1000HSにより行った。
【0119】
《水溶性樹脂の合成》
(水溶性樹脂R−1の合成)
滴下ロート、窒素導入官、還流冷却官、温度計及び攪拌装置を備えたフラスコにメチルエチルケトン50gを加え、窒素バブリングしながら、75℃に加温した。
【0120】
そこへ、表1記載のモノマー(メタクリル酸9質量部、メタクリル酸メチル78質量部、アクリル酸n−ブチル6.5質量部及びアクリル酸2−エチルヘキシル6.5質量部)と、メチルエチルケトン50g、開始剤(AIBN(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル))500mgの混合物を滴下ロートより3時間かけ滴下した。滴下後さらに6時間、加熱還流した。放冷後、減圧下加熱しメチルエチルケトンを留去した。
【0121】
イオン交換水450mlに対して、モノマーとして添加したアクリル酸の1.05倍モル相当のジメチルアミノエタノールを溶解した液に上記重合物残渣を溶解した。
【0122】
イオン交換水で調整し固形分20%の、疎水モノマーを重合成分として有する水溶性樹脂水溶液を得た。
【0123】
(水溶性樹脂R−2〜R−8の合成)
水溶性樹脂R−1の合成において、表1に記載のモノマー構成を各々R−2〜R−8の合成に用いるモノマー構成に変更した以外は同様にして、水溶性樹脂R−2〜R−8を各々合成した。
【0124】
但し、開始剤量や反応条件については適宜調整を行った。
【0125】
得られた水溶性樹脂R1〜R8の組成、各樹脂の酸価、Mw(重量平均分子量)等を下記の表1に示す。尚、水溶性樹脂の酸価、Mw(重量平均分子量)の測定は上記に記載の方法を用いて行った。
【0126】
【表1】

【0127】
《インクジェット用水系インクの調製》
(インクジェット用水系インク1の調製)
前記、顔料分散体の26.7部を攪拌しながら前記合成した水溶性樹脂水溶液を添加し、次いで、下記に示す化合物を順に添加してインク組成物を作製後、0.8μmのフィルターによりろ過してインク1を得た。
【0128】
顔料分散体 26.7部
水溶性樹脂水溶液R−1 20.0部
水溶性樹脂水溶液R−2 20.0部
ジエチレングリコールジエチルエーテル 3.0部
2−メチル−1,3−プロパンジオール 10.0部
2−ピロリドン 10.0部
フッ素系界面活性剤(株式会社ネオス製、フタージェント215M) 0.5部
イオン交換水 9.8部
(インクジェット用水系インク2〜9の調製)
インクジェット用水系インク1の調製において、使用した水溶性樹脂R−1、R−2の代わりに、表2に記載の水溶性樹脂の構成に変更した以外は同様にしてインクジェット用水系インク2〜9を調製した。
【0129】
(インクジェット用水系インク10の調製)
前記、顔料分散体の26.7部を攪拌しながら前記合成した水溶性樹脂水溶液を添加し、次いで、下記に示す化合物を順に添加してインク組成物を作製後、0.8μmのフィルターによりろ過してインク1を得た。
【0130】
顔料分散体 26.7部
水溶性樹脂水溶液R−1 13.3部
水溶性樹脂水溶液R−2 13.3部
水溶性樹脂水溶液R−4 13.3部
ジエチレングリコールジエチルエーテル 3.0部
2−メチル−1,3−プロパンジオール 10.0部
2−ピロリドン 10.0部
フッ素系界面活性剤(株式会社ネオス製、フタージェント215M) 0.5部
イオン交換水 9.8部
(インクジェット用水系インク11の調製)
インクジェット用水系インク10の調製において、使用した水溶性樹脂R−1、R−2、R−4の代わりに、表2に記載の水溶性樹脂の構成に変更した以外は同様にしてインクジェット用水系インク11を調製した。
【0131】
尚、各インクジェット用水系インクにおける溶剤の添加量は、インクジェット用水系インク1に対する粘度の値が±10%の範囲になるように調整した。
【0132】
尚、インクジェット用水系インク1〜11の表面張力(プレート法で測定)は、いずれも、26mN/m〜28mN/mの範囲であった。
【0133】
得られたインクジェット用水系インク1〜11の各々について、以下のようにして画像形成を行った。
【0134】
《画像形成》
ドロップオンデマンドピエゾ方式のインクジェットヘッド(ノズル数512(256×2列)、ノズル口径39μm、ノズル間隔70.5μm(141μm×2列))を搭載したインクジェットプリンタを用意し、上記で得たインクジェット用水系インク1〜11の各々を装填した。
【0135】
次いで、ヘッド走査速度500mm/秒、インク液滴体積42pl、記録密度360×360dpi(dpiとは1インチ、即ち2.54cm当たりのドット数を表す)の条件で、記録媒体上に35×35mmのベタ画像を1走査で記録した。
【0136】
但し、記録画像に斑の発生が見られた場合はヘッド走査速度を400mm/秒に変更して同様に記録した。
【0137】
尚、プリント開始から画像形成後3分間、記録媒体を裏面からヒーター加熱して、記録媒体の表面温度を45±2℃に制御した。
【0138】
記録媒体の表面温度は、非接触温度計(IT−530N形 (株)堀場製作所社製)を用いて測定した。
【0139】
記録媒体には、ポリ塩化ビニル製の記録媒体であるJT5929PM(Mactac社製)を用いた
《記録画像の評価》
上記の画像形成により得られた記録画像について、下記のようにして、擦過性、光沢、液寄り、吐出性の評価を行った。
【0140】
(擦過性の評価)
得られた記録画像を乾いた木綿(カナキン3号)で擦り、下記のように擦過性についてランク評価を行った。
【0141】
◎:50回以上擦っても画像はほとんど変化しない
○:50回擦った段階でわずかに傷が残るが画像濃度にはほとんど影響しない
△:20〜50回擦る間に、画像濃度が低下する
×:20回未満擦る間に、画像濃度が低下する
(光沢(光沢性ともいう)の評価)
記録画像の表面の様子を目視観察し、下記のようにランク評価を行った。
【0142】
○:画像表面に曇りがなく光沢がある
△:画像表面がうっすら白く見える
×:白濁してつやや光沢がない
(液寄りの評価)
記録画像上の白筋の様子を目視で観察し、下記のようにランク評価を行った。
【0143】
○:画像上に白筋は見られず画像が埋まっている
△:画像の一部分に白筋が見える
×:画像全体にはっきりとした白筋が見られる
(吐出性(吐出安定性ともいう)の評価)
ピエゾ型ヘッド(720 dpi,液適量16 pl)を持つプリント装置を用い、1つのヘッドに上記で調製したインクジェット用水系インク1〜9の各々を導入し、A4サイズを連続10枚作成後、60分間隔を置いて再度画像作成を行い目視で観察し、下記のようにランク評価を行った。
【0144】
○:画像の書き出し部も含め画像欠陥は見られない。
【0145】
△:画像欠陥はほとんど無いが、かすれが見られ、ドットにサテライトが見られた。
【0146】
×:画像欠陥が見られる
上記の評価により得られた結果を表2に示す。
【0147】
【表2】

【0148】
表2から、比較のインクジェット用水系インク5〜9、11に比べて、本発明のインクジェット用水系インク1〜4、10は、擦過性、光沢、液寄り及び吐出性のいずれの評価項目においても、優れた特性を示していることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、顔料、水溶性有機溶剤及び水溶性樹脂を含有するインクジェット用水系インクにおいて、
2種以上の水溶性樹脂を含み、該2種以上の水溶性樹脂の中で、重量平均分子量(Mw)の最大と最小の差が1000〜25000の範囲であり、且つ、前記水溶性樹脂の酸価が50mgKOH/g〜250mgKOH/gであり、該酸価の最大と最小の差が200mgKOH/g以内であることを特徴とするインクジェット用水系インク。
【請求項2】
前記水溶性樹脂が、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル及びカルボキシ基を有する不飽和ビニルをモノマー成分として重合した共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用水系インク。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインクジェット用水系インクを吐出して画像形成することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記画像形成が、非吸水性記録媒体を用いて行われ、且つ、該非吸水性記録媒体の記録表面温度が40℃〜90℃の範囲に調整されていることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2012−1611(P2012−1611A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136980(P2010−136980)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】