説明

インクジェット用紙の製造における塗工原紙用のバインダーおよび塗工液

本発明の目的は、インクジェット用インクによって比較的高度な色の深みを呈し、そしてその結果として、多くの場合において、インクジェット用印画紙のハイグレードで高価な品質に取って代わることができる安価な高品質のインクジェット用紙の製造を可能にする塗工液のためのバインダーを得ることである。この目的のために、該バインダーは、第一バインダー成分としてゼラチンと、ビニルアルコールのポリマーおよびコポリマーならびに炭水化物およびそれらの誘導体から選択される少なくとも一種の更なるバインダー成分の部分とを含み、かつ、該バインダー中の該ゼラチンの固形分は、該更なるバインダー成分(一種または複数種)の固形分の総量に比べて多いことが提案される。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、塗工液用バインダー、特に、インクジェット用紙の製造において塗工原紙用に使用される水性塗工液用バインダーと、前記バインダーを含む塗工液と、ならびにこのようにして製造されるインクジェット用紙と、そしてインクジェット用紙を製造する方法とに関する。
【0002】
異なる品質および異なる紙用塗料をベースとする多種多様なインクジェット用紙は公知である。印画紙は、特に、インクジェット用紙の開発において特に注目されてきたが、非常に高価であるので、日常のオフィス用途で頻繁に必要とされる「通常の」カラープリントには、コストの理由から不適である。
【0003】
一方、普通紙では、しばしば、インクジェット印刷において色の深みが不充分であり、乾燥時間は極端に長く、かつ/または、満足なパターンエッジ仕上がり度が得られない。
更に、印画紙の坪量は、一般的に、普通のオフィス用途には重過ぎる。
【0004】
インクジェット用インクによって比較的高度の色の深みを呈する安価なインクジェット用紙を製造することができ、そしてその結果として、多くの場合において、よりグレードが高くかつ高価な品質のインクジェット用印画紙の代わりに使用できる塗工液用バインダーを提案することは、本発明の目的である。
【0005】
この目的は、はじめに記載したタイプのバインダーの場合では、第一バインダー成分としてゼラチンと、ビニルアルコールポリマー、炭水化物、および炭水化物誘導体から選択される少なくとも一種の更なるバインダー成分の部分とを含むバインダー[バインダー中のゼラチンの固形分は、更なるバインダー成分(一種または複数種)の固形分の総量に比べて多い]によって、本発明にしたがって達成される。
【0006】
ゼラチンは、多くの場合において、印画紙のインク受容層のために既に使用されてきているが、それらの製造は複雑であり、結果として高価である。
インク受容層におけるバインダーとしてのゼラチンは、優れた色の深みを保証するが、マット紙上でのパターンエッジ仕上がり度は必ずしも満足のいくものではない。
【0007】
同様に、ポリビニルアルコール(PVA)をベースとするインク受容層は、公知であるが、しばしば、色の深みが足りない。
本発明によって提供される、ゼラチンがバインダーの主要素であるバインダーは、色の深みに関して非常に良好な結果を驚くほど示し、また、ゼラチンがバインダーの他の成分と混合されるとき、パターンエッジ仕上がり度が最適化される。
【0008】
それにより、色の深みに関して少なくとも中程度の品質であり、そして、そのために低い塗工量のみを必要とするインクジェット印刷用の安価な紙質を生成し得る塗工液を製造することができる。
【0009】
これは結局、比較的低コストの装置を、紙製造のために使用することができ、そしてそれは、製造される紙に対して更なるコスト的な有利さを与え、また、その結果として、インクジェットカラー印刷においてより広範な用途を与えることになる。
【0010】
主成分のゼラチンと組み合わせる場合、ビニルアルコールのポリマーおよびコポリマーのみならず、炭水化物およびそれらの誘導体も使用して、ゼラチンによって保証される色の深みを結果として著しく損なわずに、塗工液のパターンエッジ仕上がり度と処理挙動を向上させることができる。
【0011】
炭水化物、特に澱粉誘導体を、バインダーの更なる成分として使用するが、ヒドロキシアルキル化澱粉誘導体、例えばヒドロキシプロピル澱粉誘導体が好ましい。
ゼラチンの固形分対更なるバインダー成分の固形分の比は、好ましくは1.1:1〜2.5:1で使用する。
【0012】
一方、塗工液の加工性を最適化するために、すべてのバインダー成分の固形分の割合として炭水化物または炭水化物誘導体(一種または複数種)の分率は、すなわち、バインダー成分ゼラチンは、好ましくは少なくとも5重量%、更に好ましくは、すべてのバインダー成分の固形分の割合として炭水化物および/または炭水化物誘導体の固形分は約8重量%〜11重量%を使用する。
【0013】
既にはじめに記載したように、本発明は、インクジェット用紙の製造における塗工原紙用の塗工液にも関するものであり、そしてその塗工液は、本発明のバインダーと、一種以上の無機顔料とを含む。
【0014】
バインダー/顔料の比は、好ましくは1:1〜1:3であり、特に1:1.3〜1:2.5である。
色止めを更に向上させるために、塗工液は、カチオン化剤を含むこともできる。
【0015】
既に明瞭な色止めは、バインダー中で高分子電解質となるゼラチンを単独で使用することによって得られているので、究極の最適化は、カチオン化剤によって更に達成できる。
カチオン化剤は、好ましくは、カチオン性ポリアクリレート、キトサン生成物およびキトサンの誘導体、ポリ−DADMAC、ポリアミン、ゼラチン以外のポリアミド、およびポリイミンから選択する。
【0016】
塗工液おいて、カチオン化剤は、好ましくは、塗工液の固形分を基準として、2〜17重量%の量で使用する。
塗工液の複雑な調製ができない塗工装置の使用を可能にするために、バインダー中で無機顔料(一種または複数種)を安定化させるための薬剤を好ましくは塗工液に加える。これによって、バインダーにおける顔料の懸濁液が安定化する。それを行う一つの方法は、単に、わずかな炭水化物または炭水化物誘導体による方法である。バインダー中顔料懸濁液を安定化させるための特定の安定剤は、好ましくは、プロピレンオキシド/エチレンオキシドブロックコポリマーおよびポリビニルピロリドンから選択する。
【0017】
顔料分を基準として約0.5〜2重量%が、顔料懸濁液を安定化させるのに一般的に充分である。
顔料それら自体は、好ましくは、ケイ酸アルミニウム、非晶質シリカ、炭酸カルシウム、ベントナイト、ゼオライト、タルク、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、サチンホワイト、水酸化アルミニウムおよびカオリン(粘土)から選択する。
また、本発明は、本発明による塗工液が原紙の一面または両面に塗布されているインクジェット用紙にも関する。一面あたり最高15g/mまでかそれを上回る塗工量が可能であるが、より安価な市場区分で目指される品質のためには、紙の両側では、最高7g/mまでの塗工量、特に最高6g/mまでの塗工量で充分である。
【0018】
本発明の塗工液は、約25〜50重量%の固形分を有する水性系である。これらの値を下回る偏差および上回る偏差も容易に可能である。粘度は、好ましくは700〜2500mPasで設定する。この範囲を下回る偏差および上回る偏差は特に重要ではない。
【0019】
本発明は、ゼラチンが、インクジェット塗工液の製造に非常に良く適合するバインダーであることを示す。
再生原料として生態学的な要求条件を満たす、完全に生分解可能な有機バインダーとしてのゼラチンの特殊な特性は、カラー印刷において少なくとも中程度の品質を生み出すことができる改良オフィス用紙製造のための低コストインクジェット塗工液を製造する可能性を提供する。
【0020】
この場合、ゼラチンの二つの異なる特徴は、特別の役割を演ずる。すなわち、ゲル形成への顕著な傾向と、紙の表面上での塗工液およびインクジェット印刷用インクの得られる固定化により、例えば沈降炭酸カルシウムまたはゼオライトのような低コスト顔料の使用が可能になり、良好な結果が得られる。そのような極めて安価な顔料は、インクジェット用紙の製造では、特に、インクジェットプリンタによって印刷できる印画紙の製造では、従来、うまく使用されてこなかった。
【0021】
塗工量が多くなると、紙の品質レベルは、高品質の従来のインクジェット用紙に相当する品質まで有意に更に上げることができる。
最後に、本発明は、インクジェット用紙を製造する方法に関する。本発明による塗工液を塗工原紙(の片側または両側)に単に塗布することによって、少なくとも中程度品質の印刷を供給することができる。
【0022】
更に、本発明による塗工液は、いわゆるフィルムプレスによって紙に塗布することができ、結果として、直接にまた必要ならば両側に最高7g/mまでの塗工量で原紙製造後に原紙を被覆できる製造法を達成できる。それにより、ブレードによるコーティングの塗布に比べて、追加の作業工程および追加の乾燥工程が省略され、両側が被覆された紙の場合、実際に更なる追加のコーティング工程および乾燥工程が省略される。同様に、サイズプレスによって紙の処理を省略することも可能である。
【0023】
フィルムプレスにおけるコーティングは、一般的に、ゼラチンがゲル化しない約60℃の温度で行う。それにより、本発明によるゼラチンベースの塗工液の塗布コンセプトは更に単純化される。
【0024】
同程度に低コストで高品質の印刷は、他のバインダー、例えばポリビニルアルコールまたはゼラチン単独では不可能である。
本発明のこれらの利点および更なる利点を、以下の実施例に基づいて更に詳細に説明する。
【0025】
実施例
表1にまとめてある例示的実施態様1〜4は、従来の一般用オフィス紙(モノクロ用途のためのフォトコピー/レーザーおよびインクジェット用の印刷用紙)と比較して、原紙に対する本発明による低コストコーティングによって、有意に優れたインクジェット印刷が達成できることを示している。
【0026】
【表1】

【0027】
普通紙に比べて、以下の特性、特に:
− 色濃度およびパターンエッジ仕上がり度(edge definition);
− 耐折強さ
が改善される。
【0028】
これらの利点は、比較実施例として本明細書で示している中程度品質の特別な従来のインクジェット用紙(例えば、PVAバインダーで被覆された紙)との比較においても見出される。
【0029】
本明細書の実施例では、同時に、これらの結果は、コーティング中、非晶質沈降シリカ(例えばSipernat 570)形態または酸化アルミニウム分を有する二酸化ケイ素(例えばAerosil Mox 170)形態のハイグレード顔料によってだけでなく、非常に安価な顔料、例えば沈降Caカーボネート、ベントナイト(例えばJetsil SK 50)およびゼオライト(例えばゼオライト4A)によっても達成できることを示す。
【0030】
実施例1〜14のすべてにおいて、低ブルームゼラチン(Gelita(登録商標)imagel NP)をゼオライトとして使用し、化工馬鈴薯澱粉エーテルEmsol K55(低粘度)を澱粉または澱粉誘導体として使用し、そしてMoviol 4−98をPVAバインダー成分として使用した。
【0031】
上記ゼラチンは、骨材料から得られる低ブルームのタイプBゼラチンである。他の低ブルームゼラチンタイプも同様に使用できるが、高ブルームゼラチンタイプを使用する場合は、少し処方(濃度;粘度)を適合させることが推奨される。
【0032】
Lumiten PR 8540、すなわちポリビニルピロリドンは、湿潤剤および安定剤として使用した。
使用されるカチオン化剤は、カチオン性ポリアクリレートであるCatiofast CS またはInduquat ECR 69Lである。
【0033】
色濃度は、デンシトメーター(Getrag SPM 50)で測定した。
耐光性は、24時間にわたって、温度23℃および相対湿度50%において、いわゆるキセノンテスター(照度1154W/m)で劣化を促進した後に、試験した。
【0034】
しかしながら、いくつかの用途では、表1の実施例の配合を使用するときには、毛羽立ちする極めて顕著な傾向が見出され、そしてそれは、表面上の顔料が、バインダーマトリックスによって充分に結合されていないことを示している。
【0035】
表2にまとめてある実施例は、その毛羽立ちが重大な意味を持つ用途でも、塗工紙によって補償できる程度まで、それらの配合によって毛羽立ちを抑制している。それを助けるためには極少量の澱粉調製物、例えばEmsol K115(中粘度の馬鈴薯澱粉エーテル)で充分である。
【0036】
【表2】

【0037】
表1の実施例で既に達成された有利な特性は、添加剤によってまったく損なわれないことが分かった。
表2に実施例として記載してある配合を使用している紙を様々な特性について試験し、PVA普通紙(比較紙)と、非常にハイグレードなマットインクジェット用紙である基準紙(Cham Paper Groupによって作られた866 INKJET PAPER DT PLOT,100〜120g/m)と比較した。試験結果は表3にまとめてある。
【0038】
同様に、表1の基礎的配合に基づいて、フィルムプレスによって原紙に塗布するのに適する配合を開発した。これらの更なる実施例の配合は表4にまとめてある。
ドクターブレードの代わりにフィルムプレスでコーティングを塗布すると、いくつかの利点がある。すなわち、特に、製造直後の原紙に対して、所望ならば、一つの作業工程で両側に対してコーティングを塗布できるという点で、より効率的に製造を実施することが可能である。それにより、各作業工程間で行う面倒な紙の繰り返し処理が不要となり、また同様に、複数の乾燥工程およびサイズプレスが省略される。
【0039】
表4の実施例の配合によって製造される紙については、表5にまとめてある試験値が得られる。
フィルムプレスによって達成できる塗工量は、非常にコスト的に効率良く製造できる非常にハイグレードなインクジェット用紙を得るのに一般的に完全に充分である。表5から分かるように、結果としてとにかく印刷品質は損なわれず、それどころか、ハイグレードな基準紙に比べてほんのわずかに低品質の紙を得ることが可能である。塗工量が増えると、品質は更に向上する。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
上記実施例は、すべて、インクジェット印刷に適する同じ原紙で製造した。他の原紙を使用して達成された結果と比較すると、一定の違いを示すが、常に同じ傾向を示しており、その結果として、代替の原紙を使用する場合、配合をわずかに改良することによって他の原紙の異なる特性に適合させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一バインダー成分としてゼラチンと、ビニルアルコールのポリマーおよびコポリマーならびに炭水化物およびそれらの誘導体から選択される少なくとも一種の更なるバインダー成分の部分とを含み、かつ、該バインダー中の該ゼラチンの固形分が、該更なるバインダー成分(一種または複数種)の固形分の総量に比べて多いことを特徴とする、インクジェット用紙製造において原紙を被覆するために使用される水性塗工液のためのバインダー。
【請求項2】
該ビニルアルコールポリマーを、ポリビニルアルコール(PVA)および(部分的に)加水分解されたポリビニルアルコールから選択することを特徴とする請求項1記載のバインダー。
【請求項3】
該ビニルアルコールコポリマーを、ポリビニルアルコール/ポリアルキレンオキシドコポリマーから選択することを特徴とする請求項1または2記載のバインダー。
【請求項4】
該炭水化物およびそれらの誘導体を、澱粉および澱粉誘導体、特にヒドロキシアルキル化澱粉から選択することを特徴とする請求項1〜3のうちの一つに記載のバインダー。
【請求項5】
該ゼラチンの固形分対該更なるバインダー成分の固形分の比が1.1:1〜2.5:1であることを特徴とする請求項1〜4のうちの一つに記載のバインダー。
【請求項6】
すべてのバインダー成分の固形分の割合としての炭水化物(一種または複数種)または炭水化物誘導体(一種または複数種)の分率が、少なくとも5重量%であることを特徴とする請求項1〜5のうちの一つに記載のバインダー。
【請求項7】
請求項1〜6のうちの一つに記載のバインダーと、一種以上の無機顔料とを含む、インクジェット用紙製造における塗工原紙のための塗工液。
【請求項8】
該塗工液が、カチオン化剤も含むことを特徴とする請求項7記載の塗工液。
【請求項9】
該塗工液が、該バインダー中で無機顔料(一種または複数種)を安定化させるための薬剤も含むことを特徴とする請求項7または8記載の塗工液。
【請求項10】
該顔料を、ケイ酸アルミニウム、非晶質シリカ、炭酸カルシウム、ベントナイト、ゼオライト、タルク、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、サチンホワイト、水酸化アルミニウムおよびカオリン(粘土)から選択することを特徴とする請求項7〜9のうちの一つに記載の塗工液。
【請求項11】
該カチオン化剤を、カチオン性ポリアクリレート、キトサンとキトサン誘導体、ポリ−DADMAC、ポリアミン、ゼラチン以外のポリアミド、およびポリイミンから選択することを特徴とする請求項7〜10のうちの一つに記載の塗工液。
【請求項12】
該安定剤を、プロピレンオキシド/エチレンオキシドブロックコポリマーおよびポリビニルピロリドンから選択することを特徴とする請求項7〜11のうちの一つに記載の塗工液。
【請求項13】
請求項7〜12のうちの一つに記載の塗工液のコーティングを有する原紙から製造されるインクジェット用紙。
【請求項14】
該塗工液による該原紙のコーティングが、各表面上で最高15g/mまでであることを特徴とする請求項13記載のインクジェット用紙。
【請求項15】
該塗工液による該原紙のコーティングが、各表面上で多くても7g/mであることを特徴とする請求項13または14記載のインクジェット用紙。
【請求項16】
請求項7〜12のうちの一つに記載の塗工液で、原紙の片面上または両面上を一度被覆する工程を含むインクジェット用紙を製造する方法。
【請求項17】
該原紙のコーティングを、フィルムプレスで行うことを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項18】
該原紙を、該原紙の両側上を該塗工液で同時に被覆することを特徴とする請求項17記載の方法。
【請求項19】
該塗工液を、該原紙製造直後に、フィルムプレスによって該原紙に塗布することを特徴とする請求項17または18記載の方法。

【公表番号】特表2007−531646(P2007−531646A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506670(P2007−506670)
【出願日】平成17年1月22日(2005.1.22)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000630
【国際公開番号】WO2005/097513
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(502084056)ゲリタ アクチェンゲゼルシャフト (25)
【Fターム(参考)】