説明

インクジェット記録へッドの製造方法

【課題】封止不良の発生を抑えることができるインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】エネルギー発生手段と、互いに対向する2辺と、該2辺に挟まれた辺に沿って配された電極部2と、を備える記録素子基板1を用意する。記録素子基板1の対向する2辺と該2辺に挟まれた辺のそれぞれに沿って対向する辺を備えた電気配線テープ10を用意する。電極部2と配線とを接続して対向する2辺の少なくとも1辺に電気接続部12aを形成する。間隙L1を間隙L2よりも大きくし、間隙L1と間隙L2とは電気接続部を間に挟んで相対する位置とする。電気接続部12aを封止する際に、封止材を間隙L1側から電気接続部12aを経て間隙L2側へ向けて封止材を配する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録ヘッドは、近年、プリンタ、複写機、ファクシミリ等の多くのオフィス機器に利用されており、さらに捺染装置等の産業用システムにまで急速に普及しつつある。
【0003】
ここで、インクジェット記録ヘッドの製造方法を簡単に説明する。インクジェット記録ヘッドは、インクの流れる流路部分とインクを吐出させる吐出素子部分とを別々に製作した後、これらの部材を接合することによって得られる(例えば、特許文献1参照)。このようなインクジェット記録ヘッドでは、図7(a)に示すように、発熱抵抗体等が形成された記録素子基板101と、電気配線テープ110と、を接続する部分が記録素子基板101の、吐出口列の長さ方向の両端部側に設けられる。
【0004】
また、図7(b)に示すように、電気配線112と記録素子基板101の電極部102との接続部は、第2の封止材131で覆われる。さらに、電気的接続部分以外の端部は、インクの記録素子基板101の裏面などへの回り込みを防止するため、第1の封止材130などで封止されているのが一般的である。
【0005】
ところで、図7(a)に示されるように、ニードルを用いた第2の封止材131の塗布を容易にするため、記録素子基板101の周りの電気配線テープ110は、電気的接続部分を除く記録素子基板101と該電気配線テープ110との間が大きく離間して形成されている。この離間部分が狭いと、封止材の塗布時に塗布装置のニードルが入らなくなることによる封止材がはみ出るという不具合や、塗布装置のニードルが記録素子基板101の端部に当たり記録素子基板101にクラックを生じさせたりするという可能性が高いからである。
【0006】
上述した従来のインクジェット記録ヘッドは、記録素子基板101と電気配線テープ110との間隙を大きくとっている。そのため、図7(b)に示すように、記録素子基板101と電気配線112が接続する部分を封止する際に、第2の封止材131がその下方にある第1の封止材130側に落ち込んでしまうことがある。この場合には、第2の封止材131が適切に塗布されず、電気配線112が露出してしまうことがある。その結果として、インクによる電気配線112の腐食が生じてしまう。
【0007】
また、第2の封止材131を精度良く塗布できた場合においても、第1と第2の両方の封止材を同時に硬化させた場合、第1の封止材130の硬化収縮により第2の封止材131の両端が下方向に引っ張られてヒビ割れなどが生じてしまう場合がある。その結果、ヒビ割れ部からインクが進入して、先ほどと同じく、インクによる電気配線112の腐食が生じてしまう。そのため、まず第1の封止材130を硬化した後に第2の封止材131を塗布し硬化させる、という工程順番を守る必要があった。このことにより、工数が多くかかり、そのための各種装置を多数準備する必要があるなどの問題が発生してしまう。
【0008】
このような課題に対し、図8(a)及び図8(b)に示すように、第1の封止材230と第2の封止材231の間に電気配線テープ210aが挟まれるように配置されるようにすることで、第1の封止材230の硬化収縮による影響を非常に小さくすることは可能である。この場合、二つの封止材を同時に硬化させた場合においても、ヒビ割れなどの問題は発生しない。
【0009】
しかしながら、新たな問題として図8(c)に示すように、電気配線テープ210と記録素子基板201との段差により、第2の封止材231の一部分にくびれ232を生じてしまうという問題が発生した。この段差は、吐出口が存在している記録素子基板表面と、紙詰まり等の搬送不良を起こした記録媒体と、の接触による記録素子基板表面等の破損を防止するために必要なものである。電気配線テープ210の端から突出して形成されているリード配線と記録素子基板201との接触を防止する観点からも、この段差は必要とされている。
【0010】
くびれ232は、特に第2の封止材231を塗布するニードルが、高い方(電気配線テープ面)から低い方(記録素子基板面)へ向かって段差を通過するときに顕著に発生する傾向がある。このくびれ232により電気配線212が露出してしまった場合には、インクによる電気配線の腐食が生じてしまう。このくびれ232を無くすために、第2の封止材231の塗布量を多くした場合には、塗布された第2の封止材231の高さがより一層高くなるため、吐出口203と記録媒体との接触を避けるために両者の距離を大きくしなければならない。このことは、吐出されたインク滴の記録媒体への着弾精度の低下につながり、画像品位の低下を招くものとなる。
【0011】
また、第2の封止材231の粘度を下げる方法も考えられるが、この場合には塗布領域(封止領域)が広がってしまい、第2の封止材231が吐出口203まで流れ込んで、吐出口を塞いでしまうおそれがある。
【0012】
また、粘度を下げると、第2の封止材231の厚さが薄くなることにより封止性能の低下を招来し、電気接続部へのインクの侵入による電気配線212の腐食等が発生するおそれがある。
【0013】
このほか、図8(d)に示すように、くびれ232が発生する部分に対し、矢印bの様にニードルの塗布軌道を設定することで、塗布量が多くなるように設定することも考えられる。この場合、ある程度はくびれ232の発生を抑えることができるが、第2の封止材231の塗布量やその塗布軌道の管理が難しく、実際の生産ラインに適用することを想定したところ、無視できない稼働時間のロスが発生することが分かった。
【0014】
なお、特許文献2には、図9に示すような構成が記載されている。ここでは、電気配線テープ(フレキシブルフィルム基板)302の開口部に形成された凹部304の中に記録素子基板301が配置されている。その記録素子基板301の電気接続部の電極リード303の配列方向両端において、記録素子基板301と電気配線テープ(フレキシブルフィルム基板)302との間の間隙が異なっている。そして、間隙の小さい側から大きい側へ向かってニードルを移動させて封止材を塗布することが記載されている。しかしながら、このような記録素子基板への封止材塗布方法では、上述したくびれ232の発生を防止することはできない。
【特許文献1】特開平10−44442号公報
【特許文献2】特開2006−167972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述した従来のインクジェット記録ヘッドは、記録素子基板101と電気配線テープ110との間隙を大きくとっている。そのため、図7(b)に示すように、記録素子基板101と電気配線112が接続する部分を封止する際に、第2の封止材131がその下方にある第1の封止材130側に落ち込んでしまうことがある。この場合には、第2の封止材131が適切に塗布されず、電気配線112が露出してしまうことがある。その結果として、インクによる電気配線112の腐食が生じてしまう。
【0016】
また、第2の封止材131を精度良く塗布できた場合においても、第1と第2の両方の封止材を同時に硬化させた場合、第1の封止材130の硬化収縮により第2の封止材131の両端が下方向に引っ張られてヒビ割れなどが生じてしまう場合がある。その結果、ヒビ割れ部からインクが進入して、先ほどと同じく、インクによる電気配線112の腐食が生じてしまう。そのため、まず第1の封止材130を硬化した後に第2の封止材131を塗布し硬化させる、という工程順番を守る必要があった。このことにより、工数が多くかかり、そのための各種装置を多数準備する必要があるなどの問題が発生してしまう。
【0017】
このような課題に対し、図8(a)及び図8(b)に示すように、第1の封止材230と第2の封止材231の間に電気配線テープ210aが挟まれるように配置されるようにすることで、第1の封止材230の硬化収縮による影響を非常に小さくすることは可能である。この場合、二つの封止材を同時に硬化させた場合においても、ヒビ割れなどの問題は発生しない。
【0018】
しかしながら、新たな問題として図8(c)に示すように、電気配線テープ210と記録素子基板201との段差により、第2の封止材231の一部分にくびれ232を生じてしまうという問題が発生した。この段差は、吐出口が存在している記録素子基板表面と、紙詰まり等の搬送不良を起こした記録媒体と、の接触による記録素子基板表面等の破損を防止するために必要なものである。電気配線テープ210の端から突出して形成されているリード配線と記録素子基板201との接触を防止する観点からも、この段差は必要とされている。
【0019】
くびれ232は、特に第2の封止材231を塗布するニードルが、高い方(電気配線テープ面)から低い方(記録素子基板面)へ向かって段差を通過するときに顕著に発生する傾向がある。このくびれ232により電気配線212が露出してしまった場合には、インクによる電気配線の腐食が生じてしまう。このくびれ232を無くすために、第2の封止材231の塗布量を多くした場合には、塗布された第2の封止材231の高さがより一層高くなるため、吐出口203と記録媒体との接触を避けるために両者の距離を大きくしなければならない。このことは、吐出されたインク滴の記録媒体への着弾精度の低下につながり、画像品位の低下を招くものとなる。
【0020】
また、第2の封止材231の粘度を下げる方法も考えられるが、この場合には塗布領域(封止領域)が広がってしまい、第2の封止材231が吐出口203まで流れ込んで、吐出口を塞いでしまうおそれがある。
【0021】
また、粘度を下げると、第2の封止材231の厚さが薄くなることにより封止性能の低下を招来し、電気接続部へのインクの侵入による電気配線212の腐食等が発生するおそれがある。
【0022】
このほか、図8(d)に示すように、くびれ232が発生する部分に対し、矢印bの様にニードルの塗布軌道を設定することで、塗布量が多くなるように設定することも考えられる。この場合、ある程度はくびれ232の発生を抑えることができるが、第2の封止材231の塗布量やその塗布軌道の管理が難しく、実際の生産ラインに適用することを想定したところ、無視できない稼働時間のロスが発生することが分かった。
【0023】
なお、特許文献2には、図9に示すような構成が記載されている。ここでは、電気配線テープ(フレキシブルフィルム基板)302の開口部に形成された凹部304の中に記録素子基板301が配置されている。その記録素子基板301の電気接続部の電極リード303の配列方向両端において、記録素子基板301と電気配線テープ(フレキシブルフィルム基板)302との間の間隙が異なっている。そして、間隙の小さい側から大きい側へ向かってニードルを移動させて封止材を塗布することが記載されている。しかしながら、このような記録素子基板への封止材塗布方法では、上述したくびれ232の発生を防止することはできない。
【0024】
そこで、本発明は、封止不良の発生を抑えることができるインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するため本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生手段と、互いに対向する2辺と、該2辺に挟まれた辺に沿ってエネルギー発生手段に電力を供給するために配された電極部と、を備える記録素子基板を用意する工程と、記録素子基板の対向する2辺と該2辺に挟まれた辺のそれぞれに沿って対向する辺を備え、電極部に外部からの電力を供給するための配線を備えた電気配線部材を用意する工程と、電極部と配線とを接続して、対向する2辺の少なくとも1辺に電気接続部を形成する工程と、記録素子基板の対向する2辺のうちの一方の辺と該一方の辺に対向する電気配線部材の辺との間隙L1を、対向する2辺のうちの他方の辺と該他方の辺に対向する記録配線部材の辺との間隙L2よりも大きくし、間隙L1と間隙L2とは、電気接続部を間に挟んで相対する位置とする工程と、電気接続部を封止する際に、封止材を間隙L1側から電気接続部を経て間隙L2側へ向けて封止材を配する工程と、を含むものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、封止不良の発生を抑えることができるインクジェット記録ヘッドの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を用いて本発明に係る実施形態を説明する。
【0028】
図1(a)及び図1(b)は、本発明が適用可能なインクジェット記録ヘッドの外観斜視図である。
【0029】
本発明に係る実施形態のインクジェット記録ヘッド100は、図1に示すようにインクタンク部記録ヘッド部とが一体構成の形態のものである。インクジェット記録ヘッド100は、インクジェット記録装置本体のヘッド搭載部材であるキャリッジの位置決め手段及び電気的接点によって固定支持されるとともに、キャリッジに対して着脱可能となっている。
【0030】
次に、これらインクジェット記録ヘッドに関して、さらに詳しく各構成要素毎に説明する。
【0031】
記録素子基板1は、互いに対向する2辺と、その2辺に挟まれた辺に沿ってエネルギー発生手段に電力を供給するために配された電極部と、を備えている。また、記録素子基板1は、液体であるインクが吐出される吐出口3と、インクを吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生手段である電気熱変換体と、その電気熱変換体へ電気信号や発熱用の電力を送るための配線と、を備えている。電気熱変換体と吐出口3とは、互いに対向するように配置されている。
【0032】
また、電気配線部材としての電気配線テープ10は、記録素子基板1の対向する2辺とその2辺に挟まれた辺とのそれぞれに沿って対向する辺を備えている。そして、電気配線テープ10は、外部から記録素子基板1の電極部2に対してインクを吐出するための電力や電気信号を供給する電気経路(配線)を形成するものである。
【0033】
電気配線テープ10には、記録素子基板1を組み込むための開口部11が形成されている。この開口部11の縁付近には、記録素子基板1の電極部2に接続されるリード状の電気配線12が形成されている。さらに電気配線テープ10には、不図示の本体装置からの電気信号を受け取るための外部配線部である外部信号入力端子13が形成されている。電気配線12と外部信号入力端子13とは、連続した銅箔の配線パターンでつながれている。
【0034】
電気配線テープ10と記録素子基板1との電気的接続は、例えば、記録素子基板1の電極部2(図3(a)参照)に形成されたバンプと、記録素子基板1の電極部2に対応する電気配線テープ10の電気配線12と、を熱超音波圧着法による電気接合で行なわれる。
【0035】
あるいは、生産効率向上のため、記録素子基板1の電極部2をメッキし、記録素子基板1の電極部2に対応する電気配線テープ10のリード状の電気配線12を一括接合するギャングボンディング方式により電気接合により電気接合してもよい。
【0036】
(第1の実施形態)
本発明の実施形態1について図2〜図5及び表1〜表3を参照して説明する。
【0037】
図2(a)は、封止材を塗布する前の状態のインクジェット記録ヘッドの電気配線部を示す平面図である。また、図3(a)には電気配線部の一部拡大平面図を、また、図3(b)には図3(a)のA−A位置における断面の一部拡大断面図を示す。
【0038】
まず、図2(a)を用いて、電気配線テープ10の開口部11の形状と、その中に配される記録素子基板1との関係につき、詳述する。
【0039】
電気配線テープ10の開口部11を囲む縁は、対向する2つの辺11aと、その対向する2つの辺11aを結ぶ方向に沿った2つの辺11bと、を有する。
【0040】
辺11aに沿った記録素子基板1の端部には、それぞれ複数の電気配線12からなる電気接続部12aが配置されている。なお、電気接続部12aは2つの辺11aの少なくとも1箇所に対応した記録素子基板1の端部であってもよい。電気配線12は、リード状の導電部材が電気配線テープ10の開口部端の辺11aに沿って列状に複数突出した形態である。また、電気配線12の列状の並びの両端には、ダミー電気配線14が配置されている。このうち、電気接続部12aは、列状に並んだ電気配線12と記録素子基板1の電極部2との接合部であり、辺11aに対向する記録素子基板1の端部に沿って帯状に延在している。
【0041】
辺11bは、記録素子基板11を挟むようにして配置されている。そして、辺11aに沿って帯状に延在する電気接続部12aの両端に対応する位置にある辺11bについて、一方端側の辺11bを辺11b1とし、他方端側の辺11bを辺11b2とする。つまり、開口部11を囲む電気配線テープ10の縁は、対向する2つの辺11aを結ぶ方向に沿った第1の辺11b1と、記録素子基板1をはさんで第1の辺11b1とは反対側に配置され、対向する2つの辺11aを結ぶ方向に沿った第2の辺11b2と、を有することとなる。そして、本実施形態では、第1の辺11b1と第2の辺11b2とは、開口部11の角部近傍に対角線上に配置されていることとなる。
【0042】
さらに、本実施形態では、第1の辺11b1と記録素子基板1との間の間隙L1は、第2の辺11b2と記録素子基板1との間の間隙L2よりも広くなるように設定している。
【0043】
また、電気接続部12aの一方端側と第1の辺11b1との間には封止開始側の開口部15が形成され、電気接続部12aの他方端側と第2の辺11b2との間には、封止終点側の開口部16が形成されている。
【0044】
図2(b)は、封止材を塗布した後の状態のインクジェット記録ヘッドの電気配線部を示す平面図である。
【0045】
第1の封止材30は、電気接続部12aを除く記録素子基板1と開口部11を囲む電気配線テープ10の縁との間を封止するように塗布される。第2の封止材31は、第1の封止材30が塗布された後に、電気接続部12aを封止するために塗布される。なお、第2の封止材31の塗布は、第1の封止材30の硬化を待つことなく開始するものであってもよい。第1の封止材30及び第2の封止材31は、どちらも添加するフィラーの材質と量を調整することにより、硬化収縮量をほぼ同じにすることができるので、硬化の際にもひび割れなどの発生も無く、また、硬化後の硬度も保つことができる。
【0046】
本実施形態では、第2の封止材31は、1本のニードル20(図4参照)から吐出して塗布される。このニードル20は、図2(b)に示すように、第1の辺11b1側から電気接続部12aの上方を経由して第2の辺11b2側に向かう矢印a方向に移動する。つまり、第2の封止材31は、第1の辺11b1の電気配線テープ10の上面から塗布開始され、封止開始側の開口部15を通って電気接続部12aを覆うように塗布され、封止用端部16を経て第2の辺11b2の電気配線テープ10の表面(主面10a)まで塗布される。次いで、同様にして、対向する他方の辺11a側に設けられた他の電気接続部12aへの第2の封止材31を塗布がなされる(図2(b))。
【0047】
このように、本実施形態では、記録素子基板1の対向する2辺のうちの一方の辺とその一辺の辺に対向する電気配線テープ10の辺との間隙L1を、対向する2辺のうちの他方の辺とその他方の辺に対向する電気配線テープ10との間隙L2よりも大きくする。ここで、間隙L1と間隙L2とは、電気接続部12aを間に挟んで相対する位置にある。また、電気接続部は、対向する2辺の少なくとも1辺に形成されている。そして、電極部2と電気配線テープ10の配線との電気接続部を封止する際に、第2の封止材31を間隙L1側から電気接続部12aを経て間隙L2側へ向けて第2の封止材31を配するものである。つまり、間隙L2より大きな間隙L1の封止開始側の開口部15の側から、間隙L2の封止終点側の開口部16側へ向かって、第2の封止材31を塗布するものである。
【0048】
ここで、図3(b)を用いて、電気配線テープ10と記録素子基板1との高さ方向の関係について説明する。
【0049】
吐出口3が形成された記録素子基板1の表面(主面1a)は、開口部11が形成された電気配線テープ10の主面10aよりもインクジェット記録ヘッド100の本体に対して近くなるように配置されている。これにより、記録素子基板1の主面1aと電気配線テープ10の主面10aとの間には段差dが形成されていることとなる。この段差dは、記録媒体との衝突等によって吐出口3にキズなどがつくことを防止するための構成である。このキズによってインク滴がヨレるという現象が発生するので、吐出口3が存在している記録素子基板1の主面1aを、記録中の紙詰まりなど、キズの発生要因から守るために必要なものである。
【0050】
次に、本実施形態のインクジェット記録ヘッド100を用いて、第2の封止材31の塗布に際しての、くびれの発生について検討する。なお、以下の各実験で用いる2種の封止材は、実際に本実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造に適用可能なものである。そして、それぞれ25℃のときの粘度は、150Pa・s以上350Pa・s以下、より好ましくは200Pa・s以上300Pa・s以下のものである。
【0051】
表1は、段差dが0.1mmの場合において、間隙L1を変えていった場合に、どこまで広げれば、くびれの発生が記録素子基板1上に現れなくなるかを検討した結果である。表1における記号「◎」は、第2の封止材31のくびれ発生が記録素子基板1上ではなく、第1の封止材30上に発生したことを示す。記号「○」は、第1の封止材30上にくびれが発生するが、発生場所が記録素子基板1と第1の封止材30の境界に近い場所であることを示す。また、記号「△」は、記録素子基板1上にくびれが発生してしまうことを示す。
【0052】
【表1】

【0053】
間隙L1は、第2の封止材31を吐出するニードル20が、第1の辺11b1を通過してから記録素子基板1に到達する前に、ニードル20から吐出された第2の封止材31の先端が第1の封止材30の表面に到達するときの距離よりも大きい方が好ましい。
【0054】
この結果より、間隙L1が0.5mm以上になれば、第2の封止材31のくびれ発生が記録素子基板1上ではなく、第1の封止材30上に発生することがわかった。
【0055】
ここで、くびれの発生要因に関して、発明者らの考察を図4(a)及び図4(b)を用いて説明する。
【0056】
図4(a)及び図4(b)は、図3(a)に示すA−A位置における断面であって、封止用開口部15側の断面の一部拡大断面図である。また、図4(a)は、図4(b)に対して間隙L1が長い場合を示している。なお、図4(a)及び図4(b)には、ニードル201〜204が示されているが、これは1本のニードル20が第2の封止材31を吐出しながら矢印aに向けて移動している状況を連続的に示したものである。
【0057】
ニードル201の位置では、ニードル20から吐出された第2の封止材31の先端は、電気配線テープ10の表面(主面10a)に到達している。
【0058】
しかし、電気配線テープ10の第1の辺11b1の位置を通過したニードル202の位置では、第2の封止材31の先端は第1の封止材30の表面に到達していない。ニードル20の先端から電気配線テープ10の主面10aまでの空間に比べて、ニードル20の先端から第1の封止材30の表面までの空間は、段差dの分だけ大きくなっている。この大きくなった分の空間を埋めるように、第2の封止材31が塗布される。このとき、ニードル20は、ニードル202の位置からニードル203の位置へと移動しているので、第2の封止材31が第1の封止材30の表面に到達するまでに移動した範囲では、拡がった分の空間を第2の封止材31で満たすことができない。これが原因となって、くびれが発生すると発明者らは考える。このくびれ発生箇所は、図4(a)では第1の封止材30上であり、図4(b)では記録素子基板1上となる。
【0059】
段差dが0.05mmの場合においても同様の検討を行い、その結果を表2に示す。なお、表2中の「◎」、「○」、「△」の意味は、表1と同じである。
【0060】
【表2】

【0061】
表2に示す結果も表1と同様に、間隙L1を変えていった場合に、どこまで広げればくびれの発生が記録素子基板1上に現れなくなるかを示した結果である。この結果では、間隙L1が0.25mm以上になれば、第2の封止材31のくびれ発生が記録素子基板1上ではなく、第1の封止材30上に発生することがわかった。
【0062】
これら表1及び表2に示す結果から以下のことが確認された。すわなち、間隙L1と記録素子基板1と電気配線テープ10との段差の関係に着目してみると、間隙L1が段差d大きさの5倍以上のとき、くびれは、第1の封止材30上に生じて、記録素子基板1上には封止のくびれが発生しない。
【0063】
さらに検討を進めていく中で、第2の封止材31の塗布終了側に位置する封止終点側の開口部16においても、間隙L2を広げていくとニードル先端に付着した第1の封止材30又は第2の封止材31を電気配線テープ10で削ぎ取ることができなくなることがわかった。
【0064】
表3は、間隙L2を変えていった場合に、どこまで広げれば、ニードル先端に付着した封止材が削ぎとれなくなるかを検討した結果である。なお、表3中の、「◎」はニードル先端に付着した封止材の削ぎ取りが良好であった場合、「○」はやや良好、「△」は削ぎ取り不良を意味する。
【0065】
【表3】

【0066】
この結果より、間隙L2が0.3mmでは、ニードル先端に硬化前の第1の封止材30が若干付着してしまうことがわかった。このように、一方の電気接続部12aの封止工程においてニードル先端に第1の封止材30が付着すると、続く他方の電気接続部12aを封止する封止工程において、塗布開始の部分を汚してしまう場合がある。
【0067】
間隙L2を0.3mmからさらに広げていくと、主に硬化前の第1の封止材30がニードル先端に付着することがわかった。これについて図5(a)及び図5(b)を用いて説明する。
【0068】
図5(a)に示すように、ニードル20は先端から第2の封止材31がはみ出た状態でニードル201の位置からニードル203の位置へと移動していく。その間、硬化前の第1の封止材30で満たされている部分を通過するため、第1の封止材30がニードル20の先端部に付着してしまうと考えられる。その状態で他方の電気接続部12aへの塗布を開始すると、第2の封止材31の塗布形状が乱れてしまう。
【0069】
一方、図5(b)に示すように、間隙L2を狭くすると、電気配線テープ10がニードル20の先端部から第2の封止材31を削ぎとってくれる。このため、第1の封止材30が付着した状態で他方の電気接続部12aへの塗布が開始されることがなくなり、きれいな状態での塗布が可能になる。
【0070】
これらの傾向は、段差dが0.1mm及び0.05mmのどちらの場合においても同様であった。これは第1の封止材30が記録素子基板1と電気配線テープ10との間をつなぐように存在するため、間隙L2が0.1mmより大きい場合には、硬化前の第1の封止材30が先端部に付着してしまう為と考えられる。
【0071】
また、本実施形態では、第2の封止材31の塗布は、第1の封止材30の硬化を待つことなく開始することが可能である。しかしながら、第1の封止材30の硬化前に、その上の第2の封止材31を塗布すると、第1の封止材30の中に第2の封止材31が落ち込むことになる。よって、第1の封止材30及び第2の封止材31は、いずれも硬化収縮がほぼ同じで、硬化後は紙詰まり等の際の記録媒体との接触によっても、封止材の形状にへこみが生じることのない硬度を保つことを可能とするフィラー入りの材料を使用する方が望ましい。
【0072】
以上説明したように、本実施形態のインクジェット記録ヘッド100は、電気接続部12aの端部において、記録素子基板1の対角線上に間隙L1を有する封止開始側の開口部15、間隙L2を有する封止終点側の開口部16がそれぞれ形成されている。そして、封止材の塗布開始側の間隙L1を段差dの5倍以上とすることで塗布開始時のくびれ発生を防止している。また、塗布終了側における間隙L2を0.1mm以下にすることで、他方の電気接続部12aへの塗布を開始に際して、きれいな塗布形状を維持することができる。
【0073】
以上、本実施形態によれば、第2の封止材31の封止時に電気配線テープ10と記録素子基板1の段差dが原因で発生していた部分的なくびれ発生位置を、記録素子基板1から離すことができる。そのためくびれは記録素子基板1上には生じることなく、安定して第2の封止材31を塗布することができる。また塗布終り側では、電気配線テープ10によりニードル先端に付着した第2の封止材31を削ぎ取ることができるため、他方の電気接続部12aへの塗布や繰り返し塗布時においても毎回きれいに塗布することができる。
【0074】
その結果、適当な箇所に精度よく封止材を塗布することが可能な信頼性の高いインクジェット記録ヘッド及びその製造方法を提供することが可能となる。
【0075】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態について図6(a)〜図6(c)を参照して説明する。図6Aは、封止材を塗布する前のインクジェット記録ヘッドの電気配線部の状態を示す。図6(b)は、封止材の塗布後の状態を示す。また、図6(c)は、本実施形態で使用するニードルの一例を示している。
【0076】
本実施形態は、記録素子基板1や電気配線テープ10の基本的構成は第1の実施形態と同じであり、ここではその説明を省略する。また、第1の実施形態と同じ構成要素に関しては第1の実施形態で用いた符号を用いて説明する。
【0077】
第1の実施形態では、間隙L1を有する封止開始側の開口部15と、間隙L2を有する封止終点側の開口部16とが、開口部11の対角線上に配置されていた。
【0078】
これに対して、本実施形態では、図6(a)に示すように、間隙L1を有する封止開始側の開口部15と、間隙L2を有する封止終点側の開口部16とが、それぞれ記録素子基板1の同じ側に設けてある。これは図6(c)に示すツインニードル21等により、各辺11aの双方に設けられた電気接続部12aに対して同時に第2の封止材31を塗布するためには必須の構成である。
【0079】
従来例では図8(d)に示すように、くびれを小さくするために塗布工程でのニードルの移動軌道が直線的ではなかったため、本実施形態のようなツインニードル21を使用することは不可能であった。本実施形態では、ニードル軌道が直線的であっても記録素子基板1上にはくびれの発生が無いため、ツインニードル21などによる両側同時塗布が可能になった。この構成にすることにより、一度の動きで塗布が完了できるため、タクトを短縮することができる。ツインニードル21を使用した場合においても、第2の封止材31を塗布するときの封止開始側の開口部15の効果、は第1の実施形態と同様である。
【0080】
また、本実施形態では、塗布の際のツインニードル21の一度移動で2箇所の塗布が完了するため、ニードル先端部に第1の封止材30が付着した場合でも、次のワークに塗布するまでにクリーニングを行うことも可能なので、封止終点側の開口部16の間隙L2は、自由に設定することができる。もちろん、第1の実施形態と同様の間隙L2が設定されている場合には、ツインニードル21においても同じ効果を得ることが可能であるため、クリーニング不要とすることもできる。
【0081】
以上、説明したように、本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得られる他、タクトの短縮と同時に安定して適当な箇所に精度よく封止材を塗布することが可能な信頼性の高いインクジェット記録ヘッド及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明が適用可能なインクジェット記録ヘッドの外観斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態における封止材を塗布する前及び後のインクジェット記録ヘッドの電気配線部を示す平面図である。
【図3】電気配線部の一部拡大平面図及び一部拡大断面図である。
【図4】封止用開口部側における封止材の塗布状況を説明する図である。
【図5】封止用端部側における封止材の塗布状況を説明する図である。
【図6】本発明の第2の実施形態における封止材を塗布する前及び後のインクジェット記録ヘッドの電気配線部を示す平面図である。
【図7】従来のインクジェット記録ヘッドの一例の電気配線部の概略説明図である。
【図8】従来のインクジェット記録ヘッドの一例の電気配線部の概略説明図である。
【図9】従来のインクジェット記録ヘッドの一例の電気配線部の概略説明図である。
【符号の説明】
【0083】
1 記録素子基板
2 電極部
3 吐出口
10 電気配線テープ
11a、11b 辺
12 電気配線
12a 電気接続部
13 外部入力端子
30 第1の封止材
31 第2の封止材
100 インクジェット記録ヘッド
1、L2 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生手段と、互いに対向する2辺と、該2辺に挟まれた辺に沿って前記エネルギー発生手段に電力を供給するために配された電極部と、を備える記録素子基板を用意する工程と、
前記記録素子基板の前記対向する2辺と該2辺に挟まれた辺のそれぞれに沿って対向する辺を備え、前記電極部に外部からの電力を供給するための配線を備えた電気配線部材を用意する工程と、
前記電極部と前記配線とを接続して、前記対向する2辺の少なくとも1辺に電気接続部を形成する工程と、
前記記録素子基板の前記対向する2辺のうちの一方の辺と該一方の辺に対向する前記電気配線部材の辺との間隙L1を、前記対向する2辺のうちの他方の辺と該他方の辺に対向する前記記録配線部材の辺との間隙L2よりも大きくし、前記間隙L1と前記間隙L2とは、前記電気接続部を間に挟んで相対する位置とする工程と、
前記電気接続部を封止する際に、封止材を前記間隙L1側から前記電気接続部を経て前記間隙L2側へ向けて封止材を配する工程と、を含むインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項2】
インクを吐出する吐出口が形成された前記記録素子基板の主面が、前記電気配線テープの主面よりも前記インクジェット記録ヘッドの本体に対して近くなるように配置することで、前記記録素子基板の主面と前記電気配線テープの主面との間に段差dを形成し、前記間隙L1を前記段差dの5倍以上とする、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記段差dが0.1mmの場合、前記間隙L1が0.5mm以上である、請求項2に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記段差dが0.05mmの場合、前記間隙L1が0.3mm以上である、請求項2に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記段差dが0.1mm以下の場合、前記間隙L2が0.1mm以下である、請求項2に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記電気接続部が前記対向する2辺の双方に位置している場合、前記封止材の塗布は、双方の前記電気接続部に対して同時に行われる、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−296574(P2008−296574A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105613(P2008−105613)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】