説明

インクジェット記録シート及びその製造方法

【課題】 従来技術の欠点を有さず、インクジェット記録にて得た高精細なハードコピーをファイルに閉じて保存したり、又は、包装時にインクジェット塗工面側に接する面に粘着テープを貼ったりした場合に発生する黄変が改良され、染料、顔料インクでの印字ムラがなく、インク吸収性と塗層接着性に優れるインクジェット記録シートの提供。
【解決手段】 この課題は、支持体上に少なくとも1層のインク受理層を有するインクジェット記録シートにおいて、該インク受理層が、多孔性合成非晶質シリカ、リンゴ酸、塩化アンモニウム、及び少なくとも5員環アミジン構造単位を含有する重合体又はその誘導体、並びに塩化マグネシウムを含有し、該インク受理層中のリンゴ酸と塩化マグネシウムとの含有質量比率が60:40〜40:60であることを特徴とするインクジェット記録シートによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録シート及びその製造方法に関し、染料インク及び顔料インクのいずれのインクを用いた記録方式においても、にじみがなく、印字濃度が高く、印字部の耐水性、印字部均一性、塗工適性に優れ、かつ、白紙部が長期間の掲示及び/又は保存において黄変する現象(以下、白紙黄変という。)の少ないインクジェット記録シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速にハードコピーを作成するインクジェットプリンターの技術進歩によって、鮮明な画像と優れた印字品位を得ることが可能となってきた。これに伴って、印字品位を更に向上させるために、より高度な特性を持つ記録用紙が要求されるようになり、各種記録用紙が開発されている。
【0003】
インクジェットプリンター用水性インクは、染料を用いた染料インクと顔料を用いた顔料インクとに分類され、鮮明性の点から主に染料インクが使用されている。しかし、近年は屋外展示用の大判のポスター用途としても使用されるようになってきたため、染料インクでは長期に展示すると紫外線、オゾンなどによって酸化され、画像が退色し見栄えが悪化して、充分な印字耐光性が得られないという欠点がある。
【0004】
一方、顔料インクは印字部の保存性が優れるという特徴を有する代わりに、染料インクの染料粒子の大きさに比べ、顔料インクの顔料粒子は非常に大きいため、従来の染料インク用のインクジェット記録用紙では、鮮明な印字画像が得られないという問題があった。
【0005】
インクジェットプリンターは、書類等の印字用途からポスター等の広幅広告用途へと拡大している。広告等の印字には、インクジェットプロッターなどと呼ばれる広幅記録用紙に印字可能なものが通常使用されている。これらのインクジェットプロッターは、屋外掲示が多く、印字部の保存性に優れた顔料インクが主に使用され、広告用途であるため遠くからでも画像が鮮明に確認できる必要があり、そのために年々、インク吐出量が多くなる傾向にある。
【0006】
染料インクの染料粒子の大きさと比べ顔料インクの顔料粒子は非常に大きいなど、インクの特性が異なるため、それぞれ専用のインクジェット記録用紙が記録媒体として提供されている。一般に、顔料インク用の記録用紙としては、インク吸収性を高くする設計にされており、一方、染料インク用は顔料インク用よりもインク吸収性が低い代わりにインク定着剤の選択によって対応する設計になっている。これらを誤った組み合わせで記録を行うと、画像濃度、にじみなどの品質が損なわれた記録物でしか得られない。例えば、従来の染料インク用のインクジェット記録用紙に、顔料インクを用いて印字した場合、顔料インクが吸収されず、印字部にムラが生じたり、インク粒子の定着が悪く、指などで印字部を擦るとインクが剥がれたりし、実用上問題が生じている。
【0007】
また、印字部の保存性は顔料インクを用いることで優れた保存性を得ることができるが、白紙部の保存性に関しては、未だ解決されていないのが現状である。具体的には、インクジェット記録物をポリプロピレン樹脂製等のクリアファイル中で長期間保存したり、粘着テープをインク受理層表面に当たるようにワンプで包装したりする場合などに、空気に触れる端の白紙部に黄変が起こり、記録物の品質が著しく損なわれる場合がある。これは、クリアファイル中に含まれる酸化防止剤等がインクジェット記録用シート中に含有される成分と空気存在下で作用した結果起こるものと考えられている。
【0008】
また、固定情報を多量に取り扱うのに適したオフセット印刷と可変情報の取り扱いに適したインクジェット印刷を組合せた用途の場合、片面塗工品で、裏面にオフセット印刷された場合、塗工面と印刷された裏面を重ねて保存したときに、塗工面が、オフセット印刷インキの影響で黄変するという問題が生じている。そこで、優れた印字適性に加えて、優れた白紙部保存性を有するインクジェット記録用紙への要望も高かった。
【0009】
また、塗膜強度の向上、乾燥能力の効率化などを目的に、塗工液の高濃度化が増えてきており、通常の塗工装置では、塗工はできるものの、塗りムラ、塗工筋などが発生したりして、塗工適性に難点を抱えている。さらに、塗りムラがあると、インクの吸収性が不均一になり、印字部においてその濃度が不均一になる濃度ムラが発生し易いという難点があり、塗工適性、品質面ともにバランスの取れたインクジェット記録用紙が未だに得られていないのが実状である。
【0010】
以上の事情から、染料インク及び顔料インクのいずれで印字してもインクにじみが無く、印字濃度が高く、印字部の耐水性、印字部均一性に優れ、かつ、白紙黄変の少ないインクジェット記録用紙への要望が高く、そのような要望に応えるための提案も多くなされている。
【0011】
染料インクで印字して優れた耐水性や印字濃度を示すインクジェット記録シートとして、塗工液中に水溶性金属塩又は金属酸化物を含有させる方法(例えば、特許文献1〜9参照。)などが提案されているが、顔料インクで印字した際の発色性が不十分であったり、染料インクで印字した際の発色性や印字保存性(耐水、耐光、耐オゾン)に劣るものであったり、染料インク、顔料インクのどちらで印字しても、共に優れた記録適性を有するインクジェット記録シートは得られなかったりという状況である。
【0012】
また、インクジェット記録用紙の白紙黄変、インク吸収性、印字ムラを解決する方法として、アンモニウム化合物を含有するインク受理層形成用塗工液を塗工する方法。(例えば、特許文献10参照。)、また、画像の耐光性を解決する方法としてインク受理層中に水溶性金属塩を含有せしめたもの(例えば、特許文献11参照。)などが開示されているが、染料インク及び顔料インクのいずれで印字してもインクにじみが無く、印字濃度が高く、印字部の耐水性、印字部均一性に優れ、かつ、白紙黄変改善への適用は効果的ではなかった。
インクジェット記録シートの白紙部の黄変を発生する原因として、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのファイル、テープ粘着剤、糊、ゴム等に含まれる酸化防止剤が、インク受理層を形成する高比面積を有する無機顔料に揮発して吸着され、インクジェット記録シート上で酸化されるためと考えられる。ポリプロピレン、ポリエチレンなどにはブチルヒドロキシトルエン(以下、BHTと略す。)などの分子内にフェノール基を有する酸化防止剤を練り混んでいるものが多く、これらフェノール系酸化防止剤が酸化作用を起こし、キノン構造をとると黄色くなることはよく知られている。また、窒素酸化物によってフェノール系酸化防止剤が着色される可能性もある。これらの問題を解決する為に、合成非晶質シリカの吸油量が50ml/100g以上160ml/100g未満の合成非晶質シリカと、吸油量が200ml/100g以上400ml/100g未満の合成非晶質シリカとの質量比が1:10〜1:1、インク受理層中にヒンダードアミン光安定剤水性物を含有する記録シートが開示されている(例えば、特許文献12参照。)。
【0013】
このようなインクジェット記録シートの白紙の黄変は、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチル−フェノール(以下、BHTと記す。)を含有するクリアファイルに該記録シートを綴じて保管した場合に、クリアファイルから該記録シートのインク受理層にBHTが移行して発生すると推測できる。したがって、BHTに代表されるフェノール系酸化防止剤を含有した身近な物品とインクジェット記録シートが接触すると黄変が進行し、空気中のオゾン、NO、SOや温湿度などの二次的因子によってより促進されると考えられる。
【0014】
ところで、BHTに起因する黄変については、特に繊維、アパレル業界では以前から問題として取り上げられて検討されてきた経緯があり、酸化反応を経てスチルベンキノン構造を有する化合物になることが判明している(例えば、非特許文献1、2、3、4、5参照。)。
【0015】
興味深い提案として、インクジェット記録シートにおいて、[4,4’−メチレン−ビス−2,6−(ジ−tert−ブチルフェノール)](以下、BHT2と記す。)を用いて行うスポット試験によって、インク中の染料が酸素による分解によって多孔質インク受理層の触媒活性を評価する方法が挙げられている。このBHT2スポット試験は、BHT2が酸化され、スチルベンキノン構造を形成した際に黄色く着色することに依るものであり、該試験の結果とインクジェット記録材における印字画像の室内変色に相関性を見いだしている(例えば、特許文献14参照。)。
【0016】
また、該提案では、BHT2スポット試験において黄変が少ない、好ましいコート層、すなわちインク受理層の形態として、Mg、Ca、Zn、Baの群から選ばれた金属を0.1質量%以上含む含ケイ素系顔料を記録面、すなわちインク受理層中に含有するものであるとしているが、画像濃度が低下するという副作用を伴うと記されている。この副作用を改良すべく、カチオン性物質を併用することも提案されているが、今度は耐光性が低下するといった旨が記されており、インクジェット記録シートにおける画像の保存安定性の問題については、BHTに代表されるフェノール系酸化防止剤が関係していることが兼ねてから知られていた。
【0017】
さらに、インク受理層に移行したBHTが黄変する場合、その度合いは該インクジェット記録シートの素材、構成などによって変化するが、特に、インク受理層を構成する顔料、コロイド粒子などによって大きく影響されることは、前記の提案に述べられていることで判る。
【0018】
また、前記したような顔料インクを用いた場合では、画像の定着性に劣る問題もあった。特に後者の問題では、画像部分を軽く指触した程度で顔料インクが擦り取られてしまうこともあり、ハードコピー用途の使用に耐えない場合もあった。
【0019】
これらの提案では、染料インク、顔料インクの両方に優れた印字適性と、白紙黄変とを満たすことは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特公昭63−11158号公報
【特許文献2】特開昭58−94491号公報
【特許文献3】特開昭60−67190号公報
【特許文献4】特開昭61−74880号公報
【特許文献5】特開平7−149037号公報
【特許文献6】特開平9−99630号公報
【特許文献7】特開平9−267546号公報
【特許文献8】特開平4−201594号公報
【特許文献9】特開平7−32725号公報
【特許文献10】特開2003−285533号公報
【特許文献11】特開平11−321090号公報
【特許文献12】特開2000−141879号公報
【特許文献13】特開2001−270219号公報
【特許文献14】特開平1−222987号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Polymer Degradationand Stability 50(1995)313〜317
【非特許文献2】Textil PraxisInternational October(1980)1213〜1215
【非特許文献3】Textil PraxisInternational Marz(1983) 261〜264
【非特許文献4】Textile Chemistand Colorist April(1983)Vol.15 No4 52〜56
【非特許文献5】Text.Progr.15(1987)16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の課題は、従来技術の欠点を有さず、インクジェット記録にて得た高精細なハードコピーをファイルに閉じて保存したり、又は、包装時にインクジェット塗工面側に接する面に粘着テープを貼ったりした場合に発生する黄変が改良され、染料、顔料インクでの印字ムラがなく、インク吸収性と塗層接着性に優れるインクジェット記録シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は、前記の課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、支持体上に少なくとも1層のインク受理層を有するインクジェット記録シートにおいて、該インク受理層が、多孔性合成非晶質シリカ、リンゴ酸、塩化アンモニウム、及び少なくとも5員環アミジン構造単位を含有する重合体又はその誘導体、並びに塩化マグネシウムを含有し、該インク受理層中のリンゴ酸と塩化マグネシウムとの含有質量比率が60:40〜40:60であることを特徴としたものである。
【0024】
さらに、本願発明は、支持体上に少なくとも1層のインク受理層を有するインクジェット記録シートの製造方法において、多孔性合成非晶質シリカ、リンゴ酸、塩化アンモニウム、及び少なくとも5員環アミジン構造単位を含有する重合体又はその誘導体、並びに塩化マグネシウムを含有するインク受理層形成用塗工液をインク受理層として塗工し、該インク受理層形成用塗工液中のリンゴ酸と塩化マグネシウムの含有質量比率を60:40〜40:60とすることを特徴とした製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、白紙黄変が少なく、染料、顔料インクでの印字ムラがなく、インク吸収性と塗層接着性に優れるインクジェット記録シートの提供を可能とした。本発明のインクジェット記録シートを使用すれば、染料インク及び顔料インクのいずれのインクを用いた記録方式においても、にじみがなく、印字濃度が高く、印字部の耐水性、印字部均一性、塗工適性に優れ、かつ、白紙黄変が少ない。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に本発明のインクジェット記録シート及びその製造方法について詳細に説明する。本発明のインクジェット記録シートの製造方法は、支持体上に、多孔性合成非晶質シリカ、リンゴ酸と、塩化アンモニウム、及び少なくとも5員環アミジン構造単位を含有する重合体又はその誘導体、並びに塩化マグネシウムを含有するインク受理層形成用塗工液を塗工して形成することによって黄変、染料、顔料インク吸収性、塗層接着性が改良される。
顔料インクでの印字では、良好なベタ均一性を達成するためには、リンゴ酸と塩化マグネシウムとの質量比率が60:40〜40:60である場合が有利である。
【0027】
本発明のインクジェット記録シートの製造方法では、インク受理層形成用塗工液中に多孔性合成非晶質シリカ、リンゴ酸、塩化アンモニウム、及び少なくとも5員環アミジン構造単位を含有する重合体又はその誘導体、並びに塩化マグネシウムを含有することが必須である。従来、インク受理層形成用塗工液中には、インク吸収性を高める顔料が含有されており、特にそのインク吸収性が優れているものとして多孔性合成非晶質シリカが多くの発明で用いられているが、本発明でも使用されている。
【0028】
本発明の支持体に使用される木材繊維としては、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等の化学パルプ、グランドパルプ、加圧式砕木パルプ、リファイナー砕木パルプ、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミメカニカルパルプ、ケミグランドパルプ等の機械パルプ、脱墨パルプ等の古紙パルプ等の木材パルプを含む。フレッシュな晒パルプの場合は、環境を考慮し、ECFパルプかTCFパルプが望ましい。白色度等の品質面を考慮すると、ECFパルプが最適である。また、必要に応じて従来公知の填料、バインダー、サイズ剤、定着剤、歩留まり向上剤、紙力増強剤等の各種添加剤を1種類以上用いて混合し、長網抄紙機、円網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機等の各種抄紙機にて紙匹を形成し、その後乾燥させた後で得ることができる。特に、インク吸収性に優れた支持体を使用することが望ましい。
【0029】
支持体の構造としては、単層と多層のどちらでもよいが、多層の方が望ましい。多層構造は、インク受理層の面とその反対面(裏面)側で、それぞれの要求特性に対応させるような、非対称構造を形成させることが可能である。すなわち、2面において、薬品配合やパルプ種類の変更が可能であり、また、3層以上の構造であれば、表層以外の中層に比較的安価なパルプを適用することができ、経済的にも有利である。また、その中層に用いるパルプは、古紙パルプである場合、環境対応品としても優良な商品となり得る。
【0030】
本発明において、インク受理層形成用塗工液に用いられる顔料としては多孔性合成非晶質シリカが必須成分であるが、その他の公知の白色顔料を1種以上用いることもできる。例えば、多孔性無機顔料、多孔性炭酸マグネシウム、多孔性アルミナなども、細孔容積が大きいので有効であるが、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの白色無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂などの有機顔料などを用いることができる。
【0031】
また、バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレン酢酸ビニル、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、澱粉、変性澱粉(物理的構造変性のバイオラテックスを含む。)、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸エチル、アルギン酸ソーダ、ポリスチレンスルホン酸ソーダ、カゼイン、ゼラチン、テルペン等の水溶性バインダー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリビスクロロメチルオキサシクロブタン、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルフォン、ポリ−P−キシリレン、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、変性スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル−メタアクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−アクリル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル共重合体等のエマルジョン型バインダー又はエマルジョン型であるウレタン樹脂バインダーを例示することができる。これらのバインダーの重合度、ケン化度、Tg(ガラス転移温度)、MFT(最低造膜温度)などは、限定されない。また、これらの分子鎖中に架橋性の官能基を付加することも可能である。また、前述の顔料は2種類以上ブレンドして使用してもよいし、各種ポリマーやモノマーを物理的に混ぜるだけでなく、化学的に組み合わせて使用してもよい。また、官能基の修飾の他に、電磁波(放射線、光、音波含む。)、電気エネルギー、熱エネルギー、機械的エネルギー、磁気や生物による改質がなされても構わない。さらに、目的に応じて、各種エネルギーに応答するようなエンジニアリングポリマーや、生体高分子、イオン交換樹脂等を適宜適用しても構わない。そして、前記のバインダーは、合成法も特に制限されるものではない。ただし、本発明では、インク吸収性や接着能力を考慮して、ポリビニルアルコールとエチレン酢酸ビニル系樹脂が好適に使用される。
【0032】
本発明のインクジェットのインク受理層には、インクジェットインクの定着性と発色性を向上させるために、インク定着剤を含有させる。インク定着剤としては、少なくとも5員環アミジン構造単位を含有する重合体又はその誘導体がよい。この樹脂の質量平均分子量は、4万〜40万が、印字適性、保存性には好ましい。この樹脂は、5員環アミジン構造単位を含んでいれば特に高分子の形状や共重合単位の種類を限定しない。塗料に対するインク定着剤の混合比率は、多孔性合成非晶質シリカ100質量部に対して5.0〜20.0質量部程度、更に好ましくは、10.0〜15.0質量部であるとよい。塗工液中のインク定着剤が5.0質量部未満であると、耐水性の効果が十分得られない。また、20.0質量部を超えると、更なる耐水性向上の効果は認められない。
【0033】
画像の定着性や色調調整、各種品質調整の為に、変色が悪くならない程度に5員環アミジン構造単位を含有する重合体又はその誘導体の他にカチオン性化合物を混合して用いてもよい。
【0034】
本発明におけるリンゴ酸の混合比率は、多孔性合成非晶質シリカ100質量部に対して1.0〜5.0質量部程度、更に好ましくは、2.0〜5.0質量部であるとよい。2.0質量%に満たない場合は、黄変化抑制効果が不十分である。5.0質量%を超えると、塗工層強度が低下する。さらに、他の特性(印字濃度、インク吸収性)に悪影響を与えることがある。
【0035】
本発明における塩化アンモニウムの混合比率は、多孔性合成非晶質シリカ100質量部に対して1.0〜5.0質量部程度、更に好ましくは、2.0〜5.0質量部であるとよい。
【0036】
本発明における塩化マグネシウムの混合比率は、多孔性合成非晶質シリカ100質量部に対して1.0〜5.0質量部程度、更に好ましくは、2.0〜5.0質量部であるとよい。含有量が1.0質量%未満では、画像の耐光性及び諸特性への効果が確認されるけれども十分でない。また、5.0質量%を超える量を添加しても、耐光性及び他の諸特性は十分改良されるものの、それ以上には向上せず、耐水性及び耐湿性が低下したり、インク受理層の塗膜強度が損なわれたりするおそれがある。また、インクジェット記録の印刷品質とのバランスをとることが難しくなる。これらの好適な含有量範囲は、顔料に対しては鮮明な印字画像を達成するために、3.0質量%が好ましく、更には3.0〜4.0質量%が好適である
【0037】
本発明では、インク受理層に、インクを定着させる目的のため、カチオン性インク定着剤としての少なくとも5員環アミジン構造単位を含有する重合体又はその誘導体とリンゴ酸、塩化アンモニウム、水溶性の塩化マグネシウムとを配合する。塩化マグネシウムは、水などに溶解して電離した際、2価のマグネシウムイオンを生じる。顔料インクで印字した場合、インク受理層中のリンゴ酸と塩化マグネシウムとの含有質量比率が60:40〜40:60であるときに、特に良好なベタ均一性が達成される。特に、50:50であることが好ましい。この範囲を超えると、顔料インクでのベタ均一性が劣る結果となる。
【0038】
本発明のインク受理層形成用塗工液の塗工方式としては、エアーナイフコーター、ロールコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、バーコーター、コンマコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターなどを用いて塗工し、乾燥する方法を採用することができる。
【0039】
本発明のインクジェット記録シートの製造方法では、インク受理層形成用塗工液中に含有されるものとしては、インク吸収のために用いる顔料、接着剤、カチオン性樹脂、その他これらに添加剤として、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、界面活性剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤などを適宜配合することもできる。
【0040】
インク受理層の塗工量は、基材の表面を覆い、かつ、十分なインク吸収性が得られる範囲で任意に調整することができるが、発色性及びインク吸収性を両立させる観点から乾燥塗工量で5〜20g/mである。特に、8〜15g/mであることが好ましい。乾燥塗工量が5g/mに満たないと、インク受理層である塗工層が支持体表面を完全に覆うことが難しく、塗工層によるインクの吸収性が十分でない為、吸収ムラが発生する。乾燥塗工量が20g/mを超えると、インク受理層と支持体間の接着強度が実用に耐えられないレベルとなり、粉落ちと呼ばれる支持体からの塗工層の剥離などが発生し、重大な問題が生じる。また、基材とインク受理層の間にインク吸収層、接着性、その他機能を有するアンダーコート層を設けてもよい。さらに、インク受理層を設けた反対側の基材面にインク吸収性、筆記性、プリンター適性、その他各種機能を有するバックコート層を更に設けてもよい。
【0041】
次に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例・比較例において「部」、「%」とあるのは、特に明示しない限りそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0042】
<白紙黄変>
[粘着テープ試験1]
インクジェット記録シート50枚を包装紙で包装する。この包装紙全周に粘着テープ(ニチバン社製CT−15N)を貼る。23℃、50%RHで 1ケ月放置後、インクジェットインク受理層である塗工面側の黄変度合を評価する。該塗工面の黄変度合を目視評価した:
◎:塗工面の黄変がほとんどない。
○:塗工面の黄変がややあるが、実用レベルにある。
△:塗工面の黄変があり、実用に耐えない。
×:塗工面の黄変激しく、実用に耐えない。
【0043】
[粘着テープ試験2]
インクジェット記録シート50枚を包装紙で包装する。この包装紙全周に粘着テープ(ニチバン社製CT−15N)を貼る。70℃で 1週間放置後、インクジェットインク受理層である塗工面側の黄変度合を評価する。該塗工面の黄変度合を目視評価した:
◎:塗工面の黄変がほとんどない。
○:塗工面の黄変がややあるが、実用レベルにある。
△:塗工面の黄変があり、実用に耐えない。
×:塗工面の黄変激しく、実用に耐えない。
【0044】
<印刷後黄変:オフセット印刷用インキによる変色>
RI印刷試験機を使用し、オフセット印刷用インキ(東洋インキ製造社製TKハイユニティSOY金赤)0.6mlを、インクジェット記録シートの裏面に印刷する。5分後に印刷した面とインクジェットインク受理層である塗工面とを重ね合わせ、23℃、50%RHで1週間放置後、該塗工面の変色度合いを目視評価した。
◎:塗工面の黄変がほとんどない。
○:塗工面の黄変がややあるが、実用レベルにある。
△:塗工面の黄変があり、実用に耐えない。
×:塗工面の黄変激しく、実用に耐えない。
【0045】
<プリンター印字>
染料インクのインクジェットプリンターであるエプソン社製のPM−A950と顔料インクのインクジェットプリンターであるエプソン社製PM−4000PXで記録を行い評価した。
【0046】
<印字濃度>
黒ベタ部の印字濃度を反射濃度計(グレタグマクベス社製、RD―19I)にて測定した。
【0047】
<滲み>
印字画像の滲みを目視評価した。
◎:混色印字部の滲みがほとんどなく、非常に明瞭に文字が読み取れる。
○:混色印字部の滲みが少なく、明瞭に文字が読み取れ、実用レベルにある。
△:混色印字部の滲みがややあり、少し文字が読み取りにくく、実用に耐えない。
×:混色印字部の滲みがあり、文字が読み取りにくく、実用に耐えない。
【0048】
<耐水性>
印字画像の耐水性を評価した。
◎:優れている。
○:やや優れている(実用レベル)。
△:普通(実用許容範囲レベル)。
×:劣っている(実用的でない。)。
【0049】
<均一性>
ベタ部の均一性評価した。
◎:優れている。
○:やや優れている(実用レベル)。
△:普通(実用許容範囲レベル)。
×:劣っている(実用的でない。)。
【0050】
<耐光性>
印字サンプルを 東洋精機社製アトラスウェザーメーター キセノンランプ340nm 0.50W/m 40℃ ブラックパネル温度60℃、50%RH 24時間照射。印字濃度の低下具合を目視で行った。
◎:優れている。
○:やや優れている(実用レベル)。
△:普通(実用許容範囲レベル)。
×:劣っている(実用的でない。)。
【0051】
<学振式摩擦堅牢度>
学振式摩擦堅牢度用試料としてインクジェットインク受理層である塗工面と表面強度に優れた黒色の色紙(商品名:やよいカラー紙、北越紀州製紙社製)とを密着させ、学振式摩擦堅牢度試験機にて、荷重300gの条件で20往復摩擦によっての粉落ち具合を目視観察にて行った。
◎:優れている。
○:やや優れている(実用レベル)。
△:普通(実用許容範囲レベル)。
×:劣っている(実用的でない。)。
【0052】
<RI印刷強度>
RI印刷試験機を使用し、T.V=15の前記オフセット印刷用インキによって、インクジェットインク受理層である塗工面の表面強度を測定した。ゴム製のブランケット汚れとその汚れをオフセット印刷適性に優れるグロスタイプのA2コート(商品名:μコート、北越紀州製紙社製)に転写させ、その転写パターンと共に評価した。
◎:優れている。
○:やや優れている(実用レベル)。
△:普通(実用許容範囲レベル)。
×:劣っている(実用的でない。)。
【0053】
次に、本発明のインクジェット記録シートに関する実施例及び比較例を示す。
【実施例1】
【0054】
<支持体の作製>
LBKP(濾水度550ml:カナダ標準ろ水度)100部と、タルク(商品名:Tライト83、太平タルク社製)とカオリン(商品名:ハイドラスパース、シールカオリン社製)との質量比率が1:1の顔料5部と、硫酸バンド3部と、ロジンサイズ剤(商品名:AL−120、星光PMC社製)0.25部と、カチオン化澱粉(商品名:マーメイドC−50、敷島スターチ社製)1.0部とを添加し調製後、長網抄紙機で抄造し、更にサイズプレス装置で酸化デンプン(商品名:王子エースA、王子コーンスターチ社製)を片面の乾燥塗布量が1.0g/mとなるように両面塗布し、その後マシンカレンダーにて比容積が1.2cm3/gとなるようにカレンダー処理を行い、坪量100g/mの支持体を得た。
【0055】
<インク受理層塗工液の配合>
多孔性合成非晶質シリカ(商品名:サイロジェットP409、グレース社製)100部、
ポリビニルアルコール(商品名:PVA−117、クラレ社製)15.0部、
リンゴ酸(商品名:リンゴ酸フソウ、扶桑化学社製)3.0部、
塩化アンモニウム(商品名:塩化アンモニウム、東信化学工業社製)3.0部、
塩化マグネシウム(商品名:マグランド、赤穂化成社製、塩化マグネシウム無水物分で使用)3.0部、
ポリエチレン酢酸ビニル(商品名:ポリゾールEVA AD−10、昭和高分子社製)30.0部、
インク定着剤(5員環アミジン構造を有するアクリルアミド・アクリロニトリル・N−ビニルアクリルアミジン塩酸塩・N-ビニルホルムアミド共重合物:商品名:SC700L、ハイモ社製)15.0部を添加・攪拌し、更に水を添加し、固形分濃度が20%の塗工液を得た。
【0056】
得られた支持体の片面に、前記のインク受理層塗工液を乾燥塗工量が10g/mとなるようにエアーナイフコーターで塗工し、水分含有量が6.5%になるように乾燥し、カレンダーを用いて表面平滑化処理を行った。
【実施例2】
【0057】
実施例1のインク受理層塗工液中のリンゴ酸を3.5部、塩化アンモニウムを2.5部とした以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録シートを得た。
【実施例3】
【0058】
実施例1のインク受理層塗工液中のリンゴ酸を2.5部、塩化アンモニウムを3.5部とした以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録シートを得た。
【実施例4】
【0059】
実施例1のインク受理層塗工液中のリンゴ酸を4.5部、塩化アンモニウムを5.0部とした以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録シートを得た。
【実施例5】
【0060】
実施例1のインク受理層塗工液中の塩化マグネシウムを2.0部とした以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録シートを得た。
【0061】
<比較例1>
実施例1の塩化アンモニウム、塩化マグネシウムを除いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録シートを得た。
【0062】
<比較例2>
実施例1のリンゴ酸、塩化マグネシウムを除いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録シートを得た。
【0063】
<比較例3>
実施例1のリンゴ酸、塩化アンモニウムを除いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録シートを得た。
【0064】
<比較例4>
実施例1のリンゴ酸を5.0部、塩化アンモニウムを2.0部、塩化マグネシウムを3.0部に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録シートを得た。
【0065】
<比較例5>
実施例1のリンゴ酸を2.0部、塩化アンモニウムを4.0部、塩化マグネシウムを5.0部に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録シートを得た。
【0066】
<比較例6>
実施例1のリンゴ酸を6.0部、塩化アンモニウムを3.0部、塩化マグネシウムを0部に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録シートを得た。
【0067】
<比較例7>
実施例1のリンゴ酸を3.0部、塩化アンモニウムを6.0部、塩化マグネシウムを0部に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録シートを得た。
【0068】
<比較例8>
実施例1のインク定着剤を(カチオン性アクリルアミド−ジアリルアミン塩共重合物 商品名:SR1001、住友化学社製)に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録シートを得た。
【0069】
<比較例9>
実施例1のインク定着剤を(ポリアリルアミン 商品名:PAA−15C、日東紡社製)に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録シートを得た。
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
前記結果から明らかなように、本発明に係る実施例で得られたインクジェット記録シートは、インクジェット記録にて得た高精細なハードコピーをファイルに閉じて保存したり、又は、包装時にインクジェット塗工面側に接する面に粘着テープを貼ったりした場合に発生する黄変が改良され、染料、顔料インクでの印字ムラがなく、インク吸収性と塗層接着性に優れたものであった。リンゴ酸と塩化マグネシウムとの質量比率が60:40〜40:60の範囲から外れる比較例4及び5の場合には、白紙黄変現象が見られ、そして顔料インキを使用した場合には印字濃度Cが低いだけでなく、リンゴ酸過多の比較例4の場合に滲みが顕著であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に少なくとも1層のインク受理層を有するインクジェット記録シートにおいて、該インク受理層が、多孔性合成非晶質シリカ、リンゴ酸、塩化アンモニウム、及び少なくとも5員環アミジン構造単位を含有する重合体又はその誘導体、並びに塩化マグネシウムを含有し、該インク受理層中のリンゴ酸と塩化マグネシウムとの含有質量比率が60:40〜40:60であることを特徴とするインクジェット記録シート。
【請求項2】
支持体上に少なくとも1層のインク受理層を有するインクジェット記録シートの製造方法において、多孔性合成非晶質シリカ、リンゴ酸、塩化アンモニウム、及び少なくとも5員環アミジン構造単位を含有する重合体又はその誘導体、並びに塩化マグネシウムを含有するインク受理層形成用塗工液をインク受理層として塗工し、該インク受理層形成用塗工液中のリンゴ酸と塩化マグネシウムとの含有質量比率を60:40〜40:60とすることを特徴とする、インクジェット記録シートの製造方法。

【公開番号】特開2012−192674(P2012−192674A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59193(P2011−59193)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000241810)北越紀州製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】