説明

インクジェット記録ヘッド、インクジェット記録ヘッドを備えるインクジェットカートリッジ、及びインクジェットカートリッジへのインク充填方法

【課題】高速かつ高画質の画像形成が可能なインクジェット記録ヘッドを提供する。
【解決手段】3色のインクを吐出可能なインクジェット記録ヘッドにて、記録素子基板H1101の各インク供給口H1102の両側に同色のインクを吐出する吐出口群(ノズル列)がそれぞれ配置されて、ノズル列群が構成されている。第1、第3、及び第5の吐出口群402,405,407は大きなインク滴を吐出する大ノズル列であり、第2、第4、及び第6の吐出口群403,404,406は小さなインク滴を吐出する小ノズル列である。イエローインクよりも明度の低いシアンインクとマゼンタインクを吐出する2つのノズル列群を構成するノズル列は、大ノズル列402、小ノズル列403、小ノズル列404、大ノズル列405の順に並んでおり、小ノズル列403と404が隣接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を吐出して記録動作を行うインクジェット記録ヘッドと、そのインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェットカートリッジと、インクジェットカートリッジへのインク充填方法に関し、具体的には微小な液滴を吐出するインクジェット記録ヘッド及びそれを備えたインクジェットカートリッジと、インクジェットカートリッジへのインク充填方法に関する。
【0002】
なお、本発明のインクジェット記録ヘッドは、一般的なプリント装置のほか、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリント部を有するワードプロセッサ等の装置、あるいは、これらの装置を複合した多機能記録装置等に適用することができる。
【背景技術】
【0003】
インクジェット記録ヘッドを用いて、銀塩写真と同等の高品位カラー記録を達成するためには、被記録媒体上でドットが見えにくい(粒状感が目立たない)程度に小ドット化することが必要である。これを達成するために、インク滴の大きさが約5pl(ピコリットル、10-12リットル)、ドット径が40〜50μm、解像度が600×1200〜1200×1200dpi(dpiは1インチ(2.54cm)当たりのドット数を示す単位)程度になるようなインクジェット記録ヘッドが実用に供されている。
【0004】
しかしながら、カラーフォト画像における中間調やハイライト部での粒状感をさらに軽減させたいとのユーザーニーズに応えるためには、より小ドット、具体的には2pl程度のインク滴の吐出が必要となる。小ドット化はユーザーニーズに応えるために効果的である反面、高解像度を必要としないカラー画像の印刷に関して必要以上の印刷速度の低下を引き起こし、高速プリントの障害ともなりうる。
【0005】
そこで、インク滴を吐出するためのインクジェット記録ヘッドが、複数種類のサイズ、例えば5pl程度と2pl程度のインク滴をそれぞれ吐出可能な構成であり、帳票やグラフなどの比較的高解像度を必要としないカラー画像に関しては比較的大きいサイズのインク滴、例えば5pl程度のインク滴を吐出して高速の画像形成を達成し、デジタルカメラやカラースキャナなどによるデジタル入力機器からのデータに基づくデジタルフォト画像など、高精細のカラーフォト画像に関しては比較的小さいサイズのインク滴、例えば2pl程度のインク滴を吐出させることにより、高画質の画像形成を達成させる手段が提案されている。
【0006】
このように、吐出量の異なる複数のノズルを配置したインクジェット記録ヘッドとしては、次のような構成が知られている。
【0007】
例えば、特許文献1には、大小のサイズのインク滴を吐出させる吐出口を交互に千鳥状に配置したインクジェット記録ヘッドが開示されている。
【0008】
一方、特許文献2には、吐出するインク滴の大きさを変化させることで被記録媒体上において所定範囲内でドット径を変えることのできる第1のノズルと、第1のノズルのドット径可変範囲と一部重複する所定範囲内でドット径を変えることのできる、第1のノズル径とは異なるノズル径の第2のノズルと、を備えたインクジェット記録ヘッドが開示されている。さらに、この特許文献2は、図14に示すように、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色のインクを吐出するために、色ごとに一体化された記録ヘッド部10Y,10M,10C,10Kを、それぞれ複数の小径ノズル12と大径ノズル14とが並列に、かつ主走査方向に交互に並ぶように配置した構成を開示している。
【0009】
その他に、特許文献3は、吐出口にインクを供給するためのインク供給口を複数備えるインクジェット記録ヘッドにおいて、複数のインク供給口の間に、大きな液滴を吐出するための第1のノズルからなる第1のノズル列と、第1のノズルに比べて小さい液滴を吐出するための第2のノズルからなる第2のノズル列と、を有するインクジェット記録ヘッドを開示している。また、特許文献4は、大きな液滴を吐出するための第1のノズルからなる複数の第1のノズル列の間に、第1のノズルに比べて小さい液滴を吐出するための第2のノズルからなる第2のノズル列を有するインクジェット記録ヘッドを開示している。
【特許文献1】米国特許第6137502号明細書
【特許文献2】米国特許第6030065号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003−0214551号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2004−021731号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、図14に示すノズル配置で、小径ノズル12の吐出量が2pl、大径ノズル14の吐出量が5plであるインクジェット記録ヘッドを作成し、それを用いて記録を行った。すると、マゼンタとシアンとの組合せによる小液滴同士の2次色を用いたベタ画像の印刷において、ムラが目立ちやすくなる傾向があることを見出した。これは、インク液滴のサイズが小さくなるに従い、主たるインク液滴(主滴)の大きさと、主滴に追随して発生する極微小なインク液滴(サテライト)の大きさとの差が小さくなることや、インク液滴のサイズが小さくなるに従い、サテライトの発生数が増加する傾向があることが影響していると考えられる。
【0011】
このような課題を解決するには、画像形成する際のパス数(インクジェット記録ヘッドの走査回数)を増やす方法が有効であるが、印刷時間の長時間化に直結するため、高速かつ高画質の画像形成を達成するうえでは好ましくなかった。
【0012】
本発明は、上述した2次色に関する課題を、従来とはまったく異なる方法で解決し、高速かつ高画質の画像形成が可能なインクジェット記録ヘッド、その記録ヘッドを備えたインクジェットカートリッジ、及びインクジェットカートリッジへのインク充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、ムラの発生メカニズムを検討した上で、2次色を形成する色の組合せという、従来にはない新たな視点から検討した結果、小さい液滴を吐出するためのノズルの配置により上述の課題を解決するという、画期的な解決策を見出すに至った。
【0014】
すなわち、本発明のインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出するための複数の吐出口からなる大ノズル列と、大ノズル列に隣接し、大ノズル列を形成する吐出口の開口面積より小さい開口面積を有する複数の吐出口からなる小ノズル列と、から構成されるノズル列群を3つ備え、被記録媒体に対して相対移動する際にそれぞれのノズル列群で互いに異なる3種類のインクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドにおいて、3つのノズル列群のうち、互いに隣接する2つのノズル列群を構成するノズル列が、相対移動する方向に関して、大ノズル列、小ノズル列、小ノズル列、大ノズル列の順に並んでおり、互いに隣接する2つのノズル列群を構成しない残りの1つのノズル列群に、3種類のインクのうち最も明度の高いインクが供給されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のインクジェットカートリッジは、所定量のインクを吐出するための複数の吐出口からなる大ノズル列と、大ノズル列に隣接し、大ノズル列の吐出口から吐出されるインクよりも小液滴のインクを吐出する複数の吐出口からなる小ノズル列と、から構成されるノズル列群を3つ備え、被記録媒体に対して相対移動する際にそれぞれのノズル列群で互いに異なる3種のインクを吐出し記録を行うインクジェット記録ヘッドと、インクジェット記録ヘッドに供給する3種類のインクをそれぞれ収容するインク収容部と、を有しており、3つのノズル列群のうち、互いに隣接する2つのノズル列群を構成するノズル列が、相対移動する方向に関して、大ノズル列、小ノズル列、小ノズル列、大ノズル列の順に並んでおり、互いに隣接する2つのノズル列群を構成しない残りの1つのノズル列群に、インク収容部に収容された3種類のインクのうち最も明度の高いインクが供給されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のインク充填方法は、インクを吐出するインクジェット記録ヘッドと、インクジェット記録ヘッドへ供給するインクを収容するインク収容部と、を備えたインクジェットカートリッジへのインク充填方法であって、所定量のインクを吐出するための複数の吐出口からなる大ノズル列と、大ノズル列に隣接し、大ノズル列の吐出口から吐出されるインクよりも小液滴のインクを吐出する複数の吐出口からなる小ノズル列と、から構成されるノズル列群を3つ備え、被記録媒体に対して相対移動する際にそれぞれのノズル列群でイエローインク、マゼンタインク、及びシアンインクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドであって、3つのノズル列群のうち、互いに隣接する2つのノズル列群を構成するノズル列が、相対移動する方向に関して、大ノズル列、小ノズル列、小ノズル列、大ノズル列の順に並んでいるインクジェット記録ヘッドと、インク収容部と、を備えたインクジェットカートリッジを用意する工程と、インクジェットカートリッジの、互いに隣接する2つのノズル列群を構成しない残りの1つのノズル列群にインクを供給するインク収容部にイエローインクを注入する工程と、
インクジェットカートリッジの、互いに隣接する2つのノズル列群の一方のノズル列群にインクを供給するインク収容部にシアンインクを注入する工程と、
インクジェットカートリッジの、互いに隣接する2つのノズル列群の他方のノズル列群にインクを供給するインク収容部にマゼンタインクを注入する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、2次色のムラを目立たなくすることができ、良好な画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
はじめに、本発明を適用可能なインクジェットカートリッジと、そのインクジェットカートリッジを搭載するインクジェット記録装置について、詳細な説明を行う。
【0020】
(1)インクジェットカートリッジ
本実施形態のインクジェットカートリッジH1001は、図1に示すようにインクを吐出するインクジェット記録ヘッドと、インクジェット記録ヘッドに供給するインクを収容したインクタンクとが一体化された構成であり、インクジェットカートリッジH1001はカラーインク(シアンインク、マゼンタインク、イエローインク)をそれぞれ搭載している。このインクジェットカートリッジH1001は、図5に示すインクジェット記録装置本体に載置されているキャリッジ102に、位置決め手段によって位置決めされ電気的接点によって電気的に接続されて着脱可能に支持されており、搭載したインクが消費されるとそれぞれ交換される。
【0021】
本実施形態におけるインクジェットカートリッジH1001は、電気信号に応じてインクに膜沸騰を生じさせるための熱エネルギを生成する電気熱変換素子を用いた記録ヘッドとインクタンクとが一体になったものであり、その記録ヘッドは、電気熱変換素子と、インク滴を吐出する吐出口とが対向するように配置された、いわゆるサイドシュータ型の記録ヘッドである。
【0022】
インクジェットカートリッジH1001はシアン、マゼンタ、イエロー等のカラーインクを吐出させるためのもので、図2の分解斜視図に示すように、記録素子基板H1101、電気配線テープH1301、インク供給保持部材H1501、フィルタH1701,H1702,H1703、インク吸収体H1601,H1602,H1603、蓋部材H1901、及びシール部材H1801から構成されている。なお、ここでは3種類のインクを吐出する構成を記載するが、本発明の思想に沿うものであれば、これに限定されるものではない。
【0023】
(1−1)記録素子基板
図3は、記録素子基板H1101の構成を説明するために一部破断して示す斜視図である。3つのインク供給口H1102が並列に形成されており、それぞれのインク供給口H1102を挟んでその両側には電気熱変換素子H1103と吐出口H1107とがそれぞれ配置されている。そして記録素子基板H1101上には、電気配線、ヒューズ、電極部H1104などが形成されており、その上に、フォトリソグラフィ技術によって、インク流路壁H1106や吐出口H1107を有する樹脂材料製の構造体が形成されている。電気配線に電力を供給するための電極部H1104にはAu等のバンプH1105が形成されている。
【0024】
(1−2)電気配線テープ
電気配線テープH1301は、記録素子基板H1101に対してインクを吐出するための電気信号を印加する電気信号経路を形成するものであり、記録素子基板H1101を組み込むための開口部H1303が形成されており、この開口部H1303の縁付近には、記録素子基板H1101の電極部H1104に接続される電極端子H1304が形成されている。また、電気配線テープH1301には、記録装置本体からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1302が形成されており、電極端子H1304と外部信号入力端子H1302は連続した銅箔の配線パターンでつながれている。
【0025】
電気配線テープH1301と記録素子基板H1101の電気的接続は、例えば、記録素子基板H1101の電極部H1104に形成されたバンプH1105と、記録素子基板H1101の電極部H1104に対応する電気配線テープH1301の電極端子H1304とが熱超音波圧着法により電気接合されることでなされている。
【0026】
(1−3)インク供給保持部材
インク供給保持部材H1501は、例えば、樹脂成形により形成されている。樹脂材料には、剛性を向上させるためにガラスフィラーを5〜40%混入した樹脂材料を使用することが望ましい。図2に示すように、インク供給保持部材H1501は、内部に3色のインクを保持し負圧を発生するための吸収体H1601,H1602,H1603をそれぞれ独立して保持するための空間を有することでインクタンクの機能を有し、さらに、記録素子基板H1101の各インク供給口H1102にそれぞれインクを導くための独立したインク流路を形成することでインク供給機能を備えている。インク吸収体H1601,H1602,H1603は、ポリプロピレン繊維(以下、PP繊維)を圧縮したものが使われているが、ウレタン繊維を圧縮したものでもよい。各インク流路の上流部のインク吸収体H1601,H1602,H1603との境界部には、記録素子基板H1101内部にゴミの進入を防ぐためのフィルタH1701,H1702,H1703がそれぞれ溶着により接合されている。各フィルタH1701,H1702,H1703は、SUS(ステンレス)金属メッシュタイプでも良いが、SUS金属繊維焼結タイプのほうが好ましい。
【0027】
インク流路の下流部には、記録素子基板H1101に各インクを供給するためのインク供給口H1201が形成されており、図3に示す記録素子基板H1101の各インク供給口H1102がインク供給保持部材H1501の各インク供給口H1201に連通するように、記録素子基板H1101がインク供給保持部材H1501に対して位置精度良く接着固定される。この接着に用いられる第1の接着剤は、低粘度で硬化温度が低く、短時間で硬化し、硬化後に比較的高い硬度を有し、かつ耐インク性のあるものが望ましい。例えば、第1の接着剤としては、エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化接着剤が用いられ、その際の接着層の厚さは50μm程度が望ましい。
【0028】
また、インク供給口H1201周囲の平面には、電気配線テープH1301の裏面の一部が第2の接着剤により接着固定される。記録素子基板H1101と電気配線テープH1301との電気接続部分は、第1の封止剤H1307及び第2の封止剤H1308(図4参照)により封止され、インクによる腐食や外的衝撃から保護されている。第1の封止剤H1307は、主に電気配線テープH1301の電極端子H1304と記録素子基板のバンプH1105との接続部の裏面側と、記録素子基板の外周部分を封止し、第2の封止剤H1308は、上述の接続部の表側を封止している。そして、電気配線テープH1301の未接着部は折り曲げられ、インク供給保持部材H1501のインク供給口H1201を有する面にほぼ直交した側面に、熱カシメもしくは接着等で固定される。
【0029】
(1−4)蓋部材
図2に示す蓋部材H1901は、インク供給保持部材H1501の上部開口部に溶着されることで、インク供給保持部材H1501内部の独立した空間をそれぞれ閉塞するものである。但し、蓋部材H1901はインク供給保持部材H1501内部の各部屋の圧力変動を逃がすための微細口H1911,H1912,H1913と、それぞれに一端部が連通した微細溝H1921,H1922,H1923を有している。微細溝H1921及びH1922の他端部は微細溝H1923の途中に合流している。さらに、微細口H1911,H1912,H1913と微細溝H1921,H1922,及びH1923のほとんどがシール部材H1801で覆われ、微細溝H1923の他端部のみが開口されて大気連通口を構成している。また、インクジェットカートリッジH1001をインクジェット記録装置に固定するための係合部H1930を有している。
【0030】
(1−5)インクジェットカートリッジのインクジェット記録装置本体への装着
図1に示すように、インクジェットカートリッジH1001には、図5に示すインクジェット記録装置本体のキャリッジ102の装着位置に案内するための装着ガイドH1560、不図示のヘッドセットレバーによりキャリッジ102に装着固定するための係合部H1930、及びキャリッジ102の所定の装着位置に位置決めするためのX方向(キャリッジスキャン方向)の突き当て部H1570、Y方向(被記録媒体搬送方向)の突き当て部H1580、Z方向(インク吐出方向)の突き当て部H1590を備えている。上述した各突き当て部H1570,H1580,H1590により位置決めされることによって、電気配線テープH1301上の外部信号入力端子H1302が、キャリッジ102内に設けられた電気接続部のコンタクトピン(不図示)と正確に接触して電気的接続が行われる。
【0031】
以上、インクタンク一体型のインクジェットカートリッジH1001の構成を説明したが、本発明の技術的思想に沿うものであれば、別の形態、例えば、インクを保持する部分(インクタンク)と記録素子基板を有する部分(インクジェット記録ヘッド)とが分離可能な形態でもよい。なお、H1000はブラックインクのみを収容するインクジェットカートリッジである。
【0032】
(2)インクジェット記録装置
次に、上述したようなカートリッジタイプのインクジェットカートリッジH1001を搭載可能なインクジェット記録装置について説明する。図5は、本発明のインクジェットカートリッジH1001と、ブラックインクのみを収容するインクジェットカートリッジH1000とを搭載可能な記録装置の一例を示す説明図である。
【0033】
図5に示すインクジェット記録装置において、図1に示したインクジェットカートリッジH1001がキャリッジ102に位置決めされて交換可能に搭載されており、キャリッジ102には、インクジェットカートリッジH1000及びH1001上の外部信号入力端子を介して各吐出部に駆動信号等を伝達するための電気接続部が設けられている。
【0034】
キャリッジ102は、装置本体に設置され主走査方向に延びているガイドシャフト103に沿って往復移動可能に案内支持されている。そして、キャリッジ102は、主走査モータ104により、モータプーリ105、従動プーリ106、及びタイミングベルト107等の駆動機構を介して駆動されるとともに、その位置及び移動が制御される。また、ホームポジションセンサ130がキャリッジ102に設けられている。これにより、遮蔽板136の位置をキャリッジ102上のホームポジションセンサ130が通過した際に、キャリッジ102の位置を検知することが可能である。
【0035】
印刷用紙やプラスチック薄板等の被記録媒体108は、給紙モータ135がギアを介してピックアップローラ131を回転させることにより、オートシートフィーダ(ASF)132から一枚ずつ分離給紙される。さらに搬送ローラ109の回転により、インクジェットカートリッジH1000及びH1001の各インクジェット記録ヘッドの吐出口面と対向する位置(プリント部)を通って搬送(副走査)される。搬送ローラ109はLF(ラインフィード)モータ134の回転によりギアを介して駆動される。その際、給紙されたかどうかの判定と給紙時の頭出し位置の確定は、ペーパエンドセンサ133を被記録媒体108が通過した時点で行われる。さらに、ペーパエンドセンサ133は、被記録媒体108の後端が実際にどこに有るかを検知し、実際の後端位置から現在の記録位置を最終的に割り出すためにも使用される。
【0036】
なお、被記録媒体108は、プリント部においてプリント面が平坦に位置するように、裏面をプラテン(不図示)により支持される。この場合、キャリッジ102に搭載されたインクジェットカートリッジH1000及びH1001は、それらのインクジェット記録ヘッドの吐出口面がキャリッジ102から下方へ突出して、2組の搬送ローラ対の間で被記録媒体108と平行になるように保持されている。
【0037】
インクジェットカートリッジH1000及びH1001は、インクジェット記録ヘッドの吐出口H1107の並び方向がキャリッジ102の主走査方向(被記録媒体に対する相対移動方向)に対して交差するようにキャリッジ102に搭載され、これらの吐出口H1107からインクを吐出して記録を行う。
【0038】
以上、本発明のインクジェットカートリッジ及びインクジェット記録装置の基本構成について説明したが、本発明の特徴部分について、いくつかの実施形態を比較例と対比させて詳細に説明する。
【0039】
[比較例]
図6(a)には、上述したインクジェットカートリッジH1001と同様の方法で作製された、比較例のインクジェットカートリッジH1002が示され、図6(b)にはこのインクジェットカートリッジH1002に搭載されている記録素子基板H1202を、図6(a)の矢印の方向に観察したときの吐出口群の配置図が示されている。なお、吐出口はノズルの一端部を構成しており、以下の比較例及び各実施形態の説明においては、吐出口はノズルと実質的に同義であり、吐出口群はノズル列と実質的に同義である。
【0040】
第1の吐出口群(第1のノズル列)302と第2の吐出口群(第2のノズル列)303、第3の吐出口群(第3のノズル列)304と第4の吐出口群(第4のノズル列)305、第5の吐出口群(第5のノズル列)306と第6の吐出口群(第6のノズル列)307はそれぞれインク供給口308を挟んで対向する位置に設けられており、それぞれノズル列群を構成している。この構成では3つのインク供給口308からそれぞれ異なる種類のインクを供給可能である。第1、第3、及び第5の吐出口群(大ノズル列)302,304,306を構成する各吐出口は、5plのインク滴を吐出可能な開口面積に形成され、各吐出口に連通するインク流路や電気熱変換素子の寸法も、それに合わせて調整されている。一方、第2、第4、及び第6の吐出口群(小ノズル列)303,305,307を構成する各吐出口は、2plのインク滴を吐出可能な開口面積に形成され、各吐出口に連通するインク流路や電気熱変換素子の寸法も、それに合わせて調整されている。なお、本明細書中の説明では、1つのインク供給口から同じ色のインクが供給される大ノズル列と小ノズル列の組合せを、ノズル列群と称する。
【0041】
ここで、インク滴を吐出させる吐出口群(ノズル列)302〜307の位置とムラ発生状況の相関関係を確認するために、それぞれのインク吐出口から吐出するインクを、図8に示すように設定し、イエロー(以下、Y)、シアン(以下、C)、マゼンタ(以下、M)のうちの2色を用いて記録を行い、その結果を図8に示している。この記録は、小液滴用の2つの吐出口群(小ノズル列)から互いに異なる色のインクを吐出して、2色が混合した色(2次色)のベタ画像を形成しており、図8には、記録に使用した2つの吐出口群(ノズル列)と吐出した2種類のインクの色をそれぞれ示している。なお、図示しないが、大液滴同士からなる2次色のベタ画像を形成した場合には、主滴がサテライトに比べてはるかに大きく、しかもサテライトの発生数が少ないことから、ムラは殆ど生じず問題にならない。そのため、本比較例及び以下の各実施形態では、小液滴同士からなる2次色のベタ画像を形成した場合についてのみ説明する。
【0042】
具体的には、デューティ(duty)50%に間引いたベタ画像を、被記録媒体(キヤノン株式会社製PR-101)に1方向への1回の走査で記録した後、被記録媒体をスキャナ(キヤノン株式会社CanoScan LiDE80)で読み込み、画像ソフト(アドビシステムズ株式会社製Photoshop7.0.1)を用いてグレースケール化した。そしてその記録結果を、以下に記載する観点から3段階に判定した。まず、図7(a)に示すようにムラがほとんど確認できないものは、○判定とした。次に、図7(b)に示すように比較的程度の軽いムラが確認されるものは、△判定とした。最後に、図7(c)に示すようにムラがはっきりと確認できるものは、×判定とした。
【0043】
なお、第4の吐出口群305と第6の吐出口群307との距離d1(第4の吐出口群305を構成する吐出口の中心と、第6の吐出口群307を構成する吐出口の中心とを結んだ直線の走査方向に平行な成分)は、第2の吐出口群303と第4の吐出口群305との距離と等しく、2.371mmであり、第2の吐出口群303と第6の吐出口群306との距離d2は4.742mmであった。
【0044】
この記録の結果、明度が高いイエローと他の色との組合せでは殆ど差が見られなかったが、明度の低いシアンとマゼンタとの組合せではいずれもムラが観測され、さらに、使用する吐出口群間の距離が長くなるにつれて、ムラが発生しやすい傾向があることがわかった。これは、使用する吐出口群間の距離が長い場合には、各々の吐出口群から発生したサテライトが、インク滴を吐出するための吐出口と被記録媒体との間に存在する空間に発生する気体の不安定な流れに乗ってムラを発生させるからである。これに対して、使用する吐出口群間の距離が短い場合は、各々の吐出口群から発生するサテライトの量は前述の場合とほぼ同量であるが、気体の不安定な流れに乗る割合を減少させるような効果を発揮しているものと予想され、結果的にムラが発生しにくくなっていると考えられる。
【0045】
なお、イエローインクを含む組合せにおいては、発生するサテライトの量はほぼ同量であっても、比較的明度の高いイエローインクがムラを目立ちにくくさせる効果を発揮しているものと予想される。
【0046】
また、このような現象は印字dutyが25〜75%の範囲で顕著となるものであった。
【0047】
そこで、これらの知見をもとにした、本発明に係るいくつかの実施形態のインクジェットカートリッジのノズル(吐出口)の配置について、以下に詳細に説明する。なお、以下の各実施形態では、同様の機能を有する部位には同じ符号をつけて説明する。
【0048】
[第1の実施形態]
本実施形態では、上述した比較例での結果を考慮して、2plのインク滴を吐出するシアンとマゼンタの吐出口群同士ができるだけ近い位置に配置された、複数種類のサイズのインク滴、具体的には5pl及び2plのインク滴を吐出可能なインクジェット記録ヘッドを有するインクジェットカートリッジを形成した。このとき各吐出口群を構成する吐出口から吐出するインク滴の大きさが、それぞれすべて5pl及び2plである必要はなく、各吐出口群が、実質的にそれぞれ5pl及び2pl程度の大きさのインク滴を吐出できればよい。吐出量を異ならせる具体的な方法としては、公知の種々の方法を利用可能であるが、吐出口の開口面積を異ならせることにより可能であり、吐出口形状が円形の場合、吐出口径を変えることで実現できる。ここで、2plのインク滴を吐出する各吐出口群(小ノズル列)へ供給するカラーインクの種類の違いがムラの見え方に与える影響を確認する。
【0049】
図9(a)には、本実施形態における、上述したインクジェットカートリッジH1001の記録素子基板H1101を、図1(a)及び図2(a)の矢印方向に観察したときの吐出口群(ノズル列)の配置図が示されている。ここでは、前記した吐出口H1107からなる吐出口群H1108を、各列毎に、第1の吐出口群402、第2の吐出口群403、第3の吐出口群405、第4の吐出口群404、第5の吐出口群407、第6の吐出口群406とし、各吐出口群の距離間の距離は、第2の吐出口群403と第4の吐出口群404との距離が2.138mm、第4の吐出口群404と第6の吐出口群406との距離が前述の比較例と同様に2.371mm、第2の吐出口群403と第6の吐出口群406との距離が4.509mmである。そして、第1の吐出口群402と第2の吐出口群403、第3の吐出口群405と第4の吐出口群404、第5の吐出口群407と第6の吐出口群406が、それぞれインク供給口H1102を介して対向する位置に設けられており、それぞれノズル列群を構成している。各吐出口群402〜406は全て平行である。
【0050】
この構成では3つのインク供給口H1102からそれぞれ異なる種類のインクを供給可能である。そして、各吐出口群の間に位置する各インク供給口H1102から、その両側に位置する吐出口群(ノズル列)に同色のインクを供給する。従って、第1の吐出口群402と第2の吐出口群403、第3の吐出口群405と第4の吐出口群404、第5の吐出口群407と第6の吐出口群406は、それぞれ同色のインクを吐出する吐出口群の組合せ(ノズル列群)である。なお、第1、第3、及び第5の吐出口群(大ノズル列)402,405,407を構成する各吐出口は、5plのインク滴を吐出可能な開口面積に形成され、各吐出口に連通するインク流路や電気熱変換素子の寸法も、それに合わせて調整されている。一方、第2、第4、及び第6の吐出口群(小ノズル列)403,404,406を構成する各吐出口は、2plのインク滴を吐出可能な開口面積に形成され、各吐出口に連通するインク流路や電気熱変換素子の寸法も、それに合わせて調整されている。
【0051】
このようなインクジェットカートリッジのインクジェット記録ヘッドにおいて、それぞれのインク吐出口から吐出するインクを図9(b)に示すように設定し、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)のうちの2色を用いて前述の比較例と同様の記録を行った際の記録結果を図9(b)に示している。この結果、比較例に比べ、本発明の第1の実施形態は、マゼンタとシアンの組合せにおいても図7(b),(c)に示すようなムラは発生せず、良好な画像を得ることができた。
【0052】
なお、図9(a)に示す構成で、吐出口群の距離を、それぞれ第2の吐出口群403と第4の吐出口群404との距離が1.135mm、第4の吐出口群404と第6の吐出口群406との距離が1.397mm、第2の吐出口群403と第6の吐出口群406との距離が2.532mmにした場合にも、上述の実施形態と同様に、マゼンタとシアンの組合せにおいても図7(b)、(c)に示すようなムラは発生せず、良好な画像を得ることができた。
【0053】
本実施形態では、イエローの小液滴を吐出する第6の吐出口群(小ノズル列)406と、他の色(マゼンタ及びシアン)の小液滴を吐出する第2及び第4の吐出口群(小ノズル列)403,404との間隔が比較的短いため好ましい。なお、前記した通り大液滴同士からなる2次色のベタ画像にはムラは殆ど生じないので、大ノズル列同士の間隔は長くても短くても構わない。
【0054】
また、図5に示すインクジェット記録装置においてキャリッジ102を主走査して記録を行う際に、往復両方向の走査時に記録を行うのではなく、往方向一方向の走査時のみに記録を行う場合、記録時のキャリッジ102の主走査(被記録媒体に対する相対移動)に関して、上流方向に位置する(走査方向の先端部側に位置する)吐出口群ほど気体の不安定な流れの影響を受けにくいと考えられる。そのため、インクジェットカートリッジのインクジェット記録ヘッドの吐出口と被記録媒体との間に存在する空間に発生する気体の不安定な流れにより誘発されるムラを防止するためには、複数種類のインクを使用する場合に最もムラが目立ちやすいインクであると思われる、最も明度が低いインクを、記録時のキャリッジの走査方向に対して最上流位置(走査方向の最も先端部側の位置)に配置することが好ましい。シアンとマゼンタは、イエローに比べればどちらも明度は極めて低いが、両者を比較するとややシアンの方がマゼンタよりも明度が低い。そこで、本実施形態において、第1及び第2の吐出口群402,403に最も濃度の低いシアンインクを、第3及び第4の吐出口群405,404にマゼンタインクを、第5及び第6の吐出口群407,406にイエローインクをそれぞれ供給すると、最も優れた配置構成になる。
【0055】
[第2の実施形態]
図10(a)には、本発明の第2の実施形態における、上述したインクジェットカートリッジH1001の記録素子基板H1101を、図1(a)及び図2(a)の矢印方向に観察したときの吐出口群(ノズル列)の配置図が示されている。
【0056】
本実施形態では、前述した第1の実施形態のノズル配置に対し、明度の高いイエローインクを吐出する吐出口群、すなわち第5及び第6の吐出口群(第5及び第6のノズル列)407,406を、図5に示すインクジェット記録装置において使用される際の、キャリッジの走査方向の最も先端部側の位置、すなわち第1の吐出口群(第1のノズル列)より図面左側に配置した点が異なっている。
【0057】
このようなインクジェットカートリッジのインクジェット記録ヘッドにおいて、それぞれのインク吐出口から吐出するインクを図10(b)に示すように設定し、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)のうちの2色を用いて前述の比較例と同様の記録を行った際の記録結果を図10(b)に示している。この結果、比較例に比べ、本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態と同様に、マゼンタとシアンの組合せにおいても図7(b),(c)に示すようなムラは発生せず、良好な画像を得ることができた。このように、本実施形態でも第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0058】
[第3の実施形態]
本実施形態では、2plのインク滴を吐出させる吐出口群を構成する各吐出口が正確には一直線に並んでいない構成において、同様に2plのインク滴を吐出する各吐出口群へ供給するカラーインクの種類の違いがムラの見え方に与える影響を確認する。
【0059】
図11(a)には上述したインクジェットカートリッジH1001と同様の方法で作製したインクジェットカートリッジH1005が示されており、図11(b)にはそのインクジェットカートリッジH1005に搭載されている記録素子基板H1105を、図11(a)の矢印方向に観察したときの吐出口群(ノズル列)の配置図が示されている。
【0060】
第1の吐出口群602と第2の吐出口群603、第3の吐出口群605と第4の吐出口群604、第5の吐出口群607と第6の吐出口群606が、それぞれインク供給口608を介して対向する位置に設けられており、それぞれノズル列群を構成している。この構成では3つのインク供給口608からそれぞれ異なる種類のインクを供給可能である。第1、第3、及び第5の吐出口群(大ノズル列)602,605,607を構成する各吐出口は、5plのインク滴を吐出可能な開口面積に形成され、各吐出口に連通するインク流路や電気熱変換素子の寸法も、それに合わせて調整されている。一方、第2、第4、及び第6の吐出口群(小ノズル列)603,604,606を構成する各吐出口は、2plのインク滴を吐出可能な開口面積に形成され、各吐出口に連通するインク流路や電気熱変換素子の寸法も、それに合わせて調整されている。
【0061】
ただし、本実施形態では、第1〜2の実施形態のインクジェットカートリッジとは異なり、小滴用の吐出口群(小ノズル列)603,604,606をそれぞれ構成する各吐出口が、正確に一直線には並んでおらず、吐出口が4つずつ主走査方向及び副走査方向に対して斜めに並んで、全体として僅かに蛇行するような形態に配列されている。すなわち、吐出口群603,604,606は、所定の個数(4つ)ずつ主走査方向及び副走査方向に対して斜めに並んでいる吐出口の集合が、複数連なった構成である。
【0062】
記録を行う際に電気熱変換素子を時分割駆動すると、全ての電気熱変換素子に同じタイミングで電流が印加されないため、ピーク電流値を下げられる等の利点がある。しかし、第1及び第2の実施形態のように、吐出口群を構成する各吐出口が1列に並んでいる構成では、時分割駆動を行うと長い直線を記録しにくく、例えば、きれいな表や罫線を形成するのが難しいという問題点がある。これに対して、図11(b)に示す本実施形態のように、吐出口群603,604,606を構成する各吐出口が1列に並んでいない構成は、罫線を直線で記録するのに効果的だと考えられる。
【0063】
上述した3つのインク供給口608からそれぞれシアンインク、マゼンタインク、イエローインクが供給され、第2の吐出口群603、第4の吐出口群604、第6の吐出口群606からシアン、マゼンタ、イエローの2plのインク滴をそれぞれ吐出した場合の、各吐出口群へ振り分けられた色の組合せによるムラの見え方を比較した。記録方法は第1の実施形態と同様である。
【0064】
その結果について述べると、第2の吐出口群603と第4の吐出口群604のいずれか一方からシアンの2plのインク滴が吐出され、他方からマゼンタの2plのインク滴が吐出される構成においては、ムラはほとんど確認できないレベルであった。2plのインク滴によって長い直線(罫線)を記録した場合に、第1の実施形態と比較して、より直線的な記録がなされた。
【0065】
このように、本発明のインクジェットカートリッジのインクジェット記録ヘッドにおいては、吐出口群(ノズル列)は正確に一直線状に並ぶ形態のみではなく、本実施形態のように所定の個数ずつ斜めに並んでいる吐出口の集合が複数連なった構成や、吐出口の配列密度を上げるために、吐出口を千鳥状に交互にずらして配置する構成をも含むものである。
【0066】
[各実施形態の変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に沿うものであれば、様々な変更が可能である。
【0067】
図12(a),(b)は、それぞれ本発明の実施形態の変形例のインクジェットカートリッジについて、図1(a)及び図2(a)の矢印方向に観察したときの吐出口群(ノズル列)の配置図を示している。
【0068】
図12(a)に示す例では、前述した第1の実施形態のインクジェットカートリッジのインクジェット記録ヘッドに、記録時のキャリッジ102の走査方向に対して最上流位置(走査方向の最も先端部側の位置)にさらに2つの吐出口群(ノズル列)を追加して配置した形状となっている。第1、第3、第5、及び第7の吐出口群(大ノズル列)700,702,705,707を構成する各吐出口は、5plのインク滴を吐出可能な開口面積に形成され、各吐出口に連通するインク流路や電気熱変換素子の寸法も、それに合わせて調整されている。一方、第2、第4、第6、及び第8の吐出口群(小ノズル列)701,703,704,706を構成する各吐出口は、2plのインク滴を吐出可能な開口面積に形成され、各吐出口に連通するインク流路や電気熱変換素子の寸法も、それに合わせて調整されている。インク供給口708a,708b,708c,708dはそれぞれ、互いに異なる種類のインクを供給可能である。
【0069】
本変形例において、第1及び第2の吐出口群700,701からブラックインクを、第3及び第4の吐出口群702,703からシアンインクを、第5及び第6の吐出口群705,704からマゼンタインクを、第7及び第8の吐出口群707,706からイエローインクをそれぞれ吐出するようにすることで、前述の第1の実施形態と同様に、2次色のムラを抑制することができる。
【0070】
図12(b)は、さらなる変形例であり、図12(a)に示す構成に、さらに5plのインク滴を吐出可能な開口面積に形成された第9の吐出口群710と、2plのインク滴を吐出可能な開口面積に形成された第10の吐出口群709を追加したものである。なお、インク供給口708a,708b,708c,708d,708eはそれぞれ、互いに異なる種類のインクを供給可能である。
【0071】
この変形例でも、第1、第2、第9、及び第10の吐出口群700,701,710,709からブラックインクを、第3及び第4の吐出口群702,703からシアンインクを、第5及び第6の吐出口群705,704からマゼンタインクを、第7及び第8の吐出口群707,706からイエローインクをそれぞれ吐出するようにすることで、前述の第1の実施形態と同様に、2次色のムラを抑制することができる。
【0072】
このように、イエロー、シアン、及びマゼンタ以外の色のインクを、同じ記録ヘッドから吐出する場合には、シアンの小液滴を吐出するための第4の吐出口群(小ノズル列)703と、マゼンタの小液滴を吐出するための第6の吐出口群(小ノズル列)704が隣接する状態を維持し、それらの外側に、他のインクを吐出する吐出口群を配置することが望ましい。
【0073】
さらに,本変形例のように、追加するインクがブラックインクなど、一般的に2次色の形成に使用されないインクの場合には、イエローインク、マゼンタインク、及びシアンインクを吐出する吐出口群(ノズル列)の配置構成を維持したまま、それらの外側に、追加するインクを吐出するための吐出口群を形成することが望ましい。さらに、前述したように、最も明度が低いインクを、記録時のキャリッジの走査方向に対して最上流位置(走査方向の最も先端部側の位置)に配置することが好ましいという観点から、図12(a)に示すように最も明度の低いブラックインクを吐出する第1及び第2の吐出口群700,701を、記録時のキャリッジの走査方向に対して最上流位置(走査方向の最も先端部側の位置)に配置することが好ましい。
【0074】
また、本発明が適用されるインクジェットカートリッジのインクジェット記録ヘッドに用いられるインクの組合せとしては、イエローインク、マゼンタインク、及びシアンインクの組合せだけでなく、イエローインク、レッドインク、及びマゼンタインクの組合せ(イエローの明度がレッド及びマゼンタに対して高い)や、イエローインク、グリーンインク、及びシアンインクの組合せ(イエローの明度がグリーン及びシアンに対して高い)等であってもよい。すなわち、3色の異なる色のインクの組合せで、1色の明度が他の2色に比べて大幅に高い場合,本発明を適用することが有効である。
【0075】
図13は、本発明のインクジェットカートリッジへのインク充填方法を説明するためのフロー図である。はじめに、図9(a)や図9(b)等に示すように、二つのインク供給口の間に、小液滴を吐出するための吐出口群(小ノズル列)403,404を2つ備えるとともに、それらの供給口群の外側に、大液滴を吐出するための吐出口群(大ノズル列)402,405をそれぞれ備え、それとは別に、インク供給口を挟んで、小液滴を吐出するための吐出口群(小ノズル列)406と、大液滴を吐出するための吐出口群(大ノズル列)407を備えた記録ヘッドが設けられたインクジェットカートリッジH1001を用意する(ステップS100)。このインクジェットカートリッジH1001には、吐出口群406,407にインクを供給するためのインク収容室Aと、吐出口群402,403にインクを供給するためのインク収容室Bと、吐出口群404,405にインクを収容するためのインク収容室Cとを備えている。
【0076】
次に、インク収容室Aにイエローインクを注入する(ステップS200)。その後、インク収容室BまたはCのいずれか一方にシアンインクを注入し(ステップS300)、他方にマゼンタインクを注入する(ステップS400)。ステップS200〜S400については、この順でインクを注入する必要はなく、任意の順番で実施してもよい。また、インクの注入方法としては、加圧による方法や減圧による方法など、周知の様々な方法を採用することができる。
【0077】
このようにインクを注入することで、吐出口群(ノズル列)406,407からなるノズル列群からイエローインクを、吐出口群(ノズル列)402,403からなるノズル列群と吐出口群(ノズル列)404,405からなるノズル列群の一方からシアンインクを、他方からマゼンタインクをそれぞれ吐出することができるインクジェットカートリッジを得ることができる。なお、一度使用したインクジェットカートリッジを再度使用する場合には、以前収容されていたインクと同じ種類のインクを同じインク収容室に注入することが望ましい。
【0078】
以上説明した本発明のインクジェット記録ヘッド、インクジェットカートリッジ、及びインク充填方法によれば、例えば3色のインクがイエローインク、マゼンタインク、シアンインクである場合に、イエローインクよりも相対的に明度の低いシアンインクとマゼンタインクの小滴を吐出する吐出口群間の距離を短くすることができるため、2次色のムラを目立たなくすることができ、良好な画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】(a)は本発明のインクジェットカートリッジを示す斜視図、(b)は異なる方向から見た斜視図である。
【図2】(a)は図1に示すインクジェットカートリッジの分解斜視図、(b)は異なる方向から見た分解斜視図である。
【図3】図1に示すインクジェットカートリッジの第2の記録素子基板の一部破断斜視図である。
【図4】本発明のインクジェットカートリッジのインクジェット記録ヘッドの一部拡大断面図である。
【図5】図1に示すインクジェットカートリッジを搭載したインクジェット記録装置の概略図である。
【図6】(a)は比較例のインクジェットカートリッジの斜視図、(b)はそれに搭載されている記録素子基板の吐出口群の配置を示す概略図である。
【図7】(a)〜(c)はムラ発生の状態を示す図である。
【図8】比較例におけるムラ発生結果を比較して示す説明図である。
【図9】(a)は本発明の第1の実施形態の吐出口群の配置を示す概略図、(b)は本発明の第1の実施形態におけるムラ発生結果を比較して示す説明図である。
【図10】(a)は本発明の第2の実施形態の吐出口群の配置を示す概略図、(b)は本発明の第2の実施形態におけるムラ発生結果を比較して示す説明図である。
【図11】(a)は本発明の第3の実施形態のインクジェットカートリッジの斜視図、(b)はそれに搭載されている記録素子基板の吐出口群の配置を示す概略図である。
【図12】(a)、(b)はそれぞれ本発明の各実施形態の変形例のインクジェットカートリッジに搭載されている記録素子基板の吐出口群の配置を示す概略図である。
【図13】本発明のインクジェットカートリッジへのインク注入方法を説明するためのフロー図である。
【図14】従来のインクジェットカートリッジのインクジェット記録ヘッドの吐出口群の配置の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0080】
102 キャリッジ
108 被記録媒体
402,405,407 吐出口群(大ノズル列)
403,404,406 吐出口群(小ノズル列)
602,605,607 吐出口群(大ノズル列)
603,604,606 吐出口群(小ノズル列)
608 インク供給口
700,702,705,707,710 吐出口群(大ノズル列)
701,703,704,706,709 吐出口群(小ノズル列)
708a,708b,708c,708d,708e インク供給口
H1001,H1005 インクジェットカートリッジ
H1101 記録素子基板
H1102 インク供給口
H1107 吐出口
H1108 吐出口群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するための複数の吐出口からなる大ノズル列と、該大ノズル列に隣接し、該大ノズル列を形成する前記吐出口の開口面積より小さい開口面積を有する複数の吐出口からなる小ノズル列と、から構成されるノズル列群を3つ備え、被記録媒体に対して相対移動する際にそれぞれのノズル列群で互いに異なる3種類のインクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記3つのノズル列群のうち、互いに隣接する2つのノズル列群を構成するノズル列が、前記相対移動する方向に関して、大ノズル列、小ノズル列、小ノズル列、大ノズル列の順に並んでおり、
前記互いに隣接する2つのノズル列群を構成しない残りの1つのノズル列群に、前記3種類のインクのうち最も明度の高いインクが供給されることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記3種類のインクは、イエローインク、マゼンタインク、及びシアンインクであり、前記互いに隣接する2つのノズル列群の一方のノズル列群にシアンインク、他方のノズル列群にマゼンタインク、前記互いに隣接する2つのノズル列群を構成しない残りの1つのノズル列群にイエローインクが供給される、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記各ノズル列群は、前記大ノズル列と前記小ノズル列との間に、前記ノズル列群から吐出されるインクを供給するためのインク供給口を備えている、請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記3つのノズル列群の前記インク供給口は、共通の基板に形成されている、請求項3に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記3つのノズル列群を構成するノズル列は、記録時に前記相対移動する方向の先端部側からみて、大ノズル列、小ノズル列、小ノズル列、大ノズル列、小ノズル列、大ノズル列の順に並んでいる、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
ブラックインクを吐出するためのノズル列群をさらに備え、該ブラックインクを吐出するためのノズル列群は、前記3つのノズル列群の外側に設けられている、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
前記ブラックインクを吐出するためのノズル列群を2つ備え、該2つのブラックインクを吐出するためのノズル列群に、前記3つのノズル列群が挟まれている、請求項6に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項8】
所定量のインクを吐出するための複数の吐出口からなる大ノズル列と、該大ノズル列に隣接し、前記大ノズル列の前記吐出口から吐出されるインクよりも小液滴のインクを吐出する複数の吐出口からなる小ノズル列と、から構成されるノズル列群を3つ備え、被記録媒体に対して相対移動する際にそれぞれのノズル列群でイエローインク、マゼンタインク、及びシアンインクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記3つのノズル列群のうち、互いに隣接する2つのノズル列群を構成するノズル列が、前記相対移動する方向に関して、大ノズル列、小ノズル列、小ノズル列、大ノズル列の順に並んでおり、
前記互いに隣接する2つのノズル列群の一方のノズル列群からシアンインクを吐出し、他方のノズル列群からマゼンタインクを吐出し、前記互いに隣接する2つのノズル列群を構成しない残りの1つのノズル列群からイエローインクを吐出することを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項9】
所定量のインクを吐出するための複数の吐出口からなる大ノズル列と、該大ノズル列に隣接し、該大ノズル列の前記吐出口から吐出されるインクよりも小液滴のインクを吐出する複数の吐出口からなる小ノズル列と、から構成されるノズル列群を3つ備え、被記録媒体に対して相対移動する際にそれぞれのノズル列群で互いに異なる3種類のインクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドと、
前記インクジェット記録ヘッドに供給する前記3種類のインクをそれぞれ収容するインク収容部と、を有するインクジェットカートリッジにおいて、
前記3つのノズル列群のうち、互いに隣接する2つのノズル列群を構成するノズル列が、前記相対移動する方向に関して、大ノズル列、小ノズル列、小ノズル列、大ノズル列の順に並んでおり、
前記互いに隣接する2つのノズル列群を構成しない残りの1つのノズル列群に、前記インク収容部に収容された前記3種類のインクのうち最も明度の高いインクが供給される、ことを特徴とするインクジェットカートリッジ。
【請求項10】
インクを吐出するインクジェット記録ヘッドと、該インクジェット記録ヘッドへ供給するインクを収容するインク収容部と、を備えたインクジェットカートリッジへのインク充填方法において、
所定量のインクを吐出するための複数の吐出口からなる大ノズル列と、該大ノズル列に隣接し、該大ノズル列の前記吐出口から吐出されるインクよりも小液滴のインクを吐出する複数の吐出口からなる小ノズル列と、から構成されるノズル列群を3つ備え、被記録媒体に対して相対移動する際にそれぞれのノズル列群でイエローインク、マゼンタインク、及びシアンインクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドであって、前記3つのノズル列群のうち、互いに隣接する2つのノズル列群を構成するノズル列が、前記相対移動する方向に関して、大ノズル列、小ノズル列、小ノズル列、大ノズル列の順に並んでいるインクジェット記録ヘッドと、インク収容部と、を備えたインクジェットカートリッジを用意する工程と、
前記インクジェットカートリッジの、前記互いに隣接する2つのノズル列群を構成しない残りの1つのノズル列群にインクを供給するインク収容部にイエローインクを注入する工程と、
前記インクジェットカートリッジの、前記互いに隣接する2つのノズル列群の一方のノズル列群にインクを供給するインク収容部にシアンインクを注入する工程と、
前記インクジェットカートリッジの、前記互いに隣接する2つのノズル列群の他方のノズル列群にインクを供給するインク収容部にマゼンタインクを注入する工程と、を含むことを特徴とするインク充填方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドと、該インクジェット記録ヘッドを走査させるキャリッジとを備えることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−15735(P2006−15735A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144032(P2005−144032)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】