説明

インクジェット記録ヘッド、記録素子基板、インクジェット記録ヘッドの製造方法、および記録素子基板の製造方法

【課題】高吐出口密度を有する記録素子基板の接着固定に必要な精度を容易に満足できるインクジェット記録ヘッド、記録素子基板、インクジェット記録ヘッドの製造方法、および記録素子基板の製造方法を提供する。
【解決手段】インクジェット記録ヘッド1は、インクが内部を通るとともに互いに離間して配された複数の流路を有する記録素子基板3を複数備えている。各記録素子基板3は、各流路が開口する複数のインク吐出口7が配された第1の面13と、第1の面13と交差して記録素子基板3の側面を形成するとともに、少なくとも一部がエッチング処理によって形成された第2の面15と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッド、記録素子基板、インクジェット記録ヘッドの製造方法、および記録素子基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフルラインタイプのインクジェット記録ヘッドは、シリコンやガラスなどからなる複数の記録素子基板同士の端面を直線状に突き当てて配列し製造される(特許文献1参照)。しかしながら、この方式でのフルラインタイプのインクジェット記録ヘッドの製造方法では、突き当て製法を用いて記録素子基板同士の配列を行うため、記録素子基板の切断精度バラツキが、そのまま吐出口の配列精度になるという問題を生ずる。
【0003】
そこで、この問題の対策として特許文献2では、記録素子基板の支持部材上に複数の記録素子基板を互いに離間して設けるとともに、この間隔の値を記録素子基板の切断精度バラツキに応じて変更することで対応している。ただし、記録素子基板を切断するダイサーの精度は±15μm程度であるため、インク吐出ノズル壁の幅、吐出口径等を考慮すると、実際に対応可能な吐出口密度は360dpi程度となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2―212162号公報(欧州特許第0376514号明細書)
【特許文献2】特開平8―127127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年の市場からの高速記録化および高画質化の要求に伴い、吐出口は64個から128個、さらには256個等に増え、吐出口密度も300dpiから600dpi等のように高密度化している。すなわち、吐出口間の間隔がますます狭くなってきていることで、各記録素子基板の切断精度のバラツキに応じて各基板間の距離を変えるという従来の方法では対応できなくなりつつある。
【0006】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものである。本発明は、高吐出口密度を有する記録素子基板の接着固定に必要な精度を容易に満足できるインクジェット記録ヘッド、記録素子基板、インクジェット記録ヘッドの製造方法、および記録素子基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様のインクジェット記録ヘッドは、インクが内部を通るとともに互いに離間して配された複数の流路を有する記録素子基板を複数備えたインクジェット記録ヘッドであって、各記録素子基板は、各流路が開口する複数のインク吐出口が配された第1の面と、第1の面と交差して記録素子基板の側面を形成するとともに、少なくとも一部がエッチング処理によって形成された第2の面と、を有する。
【0008】
本発明の一態様の記録素子基板は、インクが内部を通るとともに互いに離間して配された複数の流路を有する記録素子基板であって、各流路が開口する複数のインク吐出口が配された第1の面と、第1の面と交差して記録素子基板の側面を形成するとともに、少なくとも一部がエッチング処理によって形成された第2の面と、を有する。
【0009】
本発明の一態様のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、支持部材上に記録素子基板が形成されたインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、主面にインクを吐出するための圧力を発生する吐出圧力発生素子を備え、主面の側面の少なくとも一部がエッチング処理された記録素子基板を用意するステップと、記録素子基板のエッチング処理された側面を記録素子基板の位置決めのための位置決め部に当接させるステップと、記録素子基板の側面と位置決め部との当接状態を維持した状態で記録素子基板と支持部材とを固定するステップと、を有する。
【0010】
本発明の一態様の記録素子基板の製造方法は、インクが内部を通るとともに互いに離間して配された複数の流路を有する記録素子基板が、各流路が開口する複数のインク吐出口が配された第1の面と、第1の面と交差して記録素子基板の側面を形成する第2の面と、を有する、記録素子基板の製造方法であって、第2の面の少なくとも一部をエッチング処理するステップを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、複数のインク吐出口が配された第1の面と交差して記録素子基板の側面を形成する第2の面の少なくとも一部がエッチング処理されている。これにより、エッチング処理された第2の面は、防食加工されることで表面精度を保証することができる。このように表面精度が保証された各記録素子基板の第2の面同士を互いに当接させることで、各記録素子基板間の接着固定位置の精度を保証することができる。そのため、各記録素子基板に配された各インク吐出口間の距離の精度についても同様に保証できることで、高吐出口密度の記録素子基板を接着固定する際に必要な精度に対応可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの概略斜視図である。
【図2】図1に示すインクジェット記録ヘッドのA−A断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの記録素子基板の概略を示す斜視図である。
【図4】図3に示す記録素子基板の製造方法を示す断面図である。
【図5】図4に示す方法により製造された記録素子基板が形成されたシリコン基板の概略を示す平面図である。
【図6】図5に示すシリコン基板の拡大図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録ヘッドを組み立てる装置の概略を示す断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの記録素子基板を位置決めする方法の概略を示す斜視図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの組立方法の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
【0014】
図1に本発明の一実施形態に係るインクジェット記録ヘッド1の斜視図を示す。図2に図1に示すインクジェット記録ヘッド1のA−A断面図を示す。インクジェット記録ヘッド1は記録素子基板3を複数備えており、各記録素子基板3は、支持部材5に設けられた凹部内に配されている(図1参照)。さらに、記録素子基板3はインクが流れる流路とインク吐出口7とを備えている(図2参照)。支持部材5に設けられたインク供給口9からインクが供給され、インクは、記録素子基板3の流路を通ってインク吐出口7から被印刷物へ向かって吐出される。また、記録素子基板3と支持部材5との間には両部材を固定するための熱硬化接着剤11が配されている。
【0015】
次に、記録素子基板3の構成を図3を用いて説明する。記録素子基板3は、第1の面13、第2の面15および複数の流路を有する。複数の流路は互いに離間して配されているとともに、その内部をインクが通って吐出口7から吐出される。第1の面13には各流路が開口する複数のインク吐出口7が配されている。第2の面15は、第1の面13と交差して記録素子基板の側面を形成するとともに、少なくとも一部がエッチング処理によって形成されている。このように構成された記録素子基板3は、図3に示すように側面部に切り欠きを有する略直方体状に形成される。
【0016】
この記録素子基板3の製造方法は、図4に示すように行われる。先ず、図4(a)に示すように、シリコン基板3(結晶方位〈100〉、厚さ625μm)からなる基板材料17の表面(主面)に吐出圧力発生素子19を配置し、保護膜として窒化シリコン層21とタンタル層23を形成する。
【0017】
次に、図4(b)に示すように、基板3材料上にインク流路35を形成するため、レジスト25で流路パターンを形成したあと、感光性エポキシ樹脂層からなる流路形成部材27および感光性撥水層29を形成し、パターンニングにより吐出口7を形成する。
続いて、図4(c)に示すように、記録素子基板3の両面にレジスト31を塗布する。その後、裏面のレジスト31はインク供給口9および突き当て部であるエッチング形成面15を形成する位置に開口部33を形成することで、ドライエッチング用のマスクとした。そして、図4(d)に示すように、ドライエッチングにてインク供給口9とエッチング形成面15である第2の面15とを同時に形成する。エッチングにはICP(Inductively-coupled Plasma) 型RIE(Reactive Ion Etching)装置を用い、エッチングガスにはSF6とC2F8を用いることが好適である。
【0018】
最後に、図4(e)に示すように、インク供給口9および突き当て部上の窒化シリコン層21と、基板3材料上にインク流路35を形成しているレジスト25とを除去してインク流路35を形成する。結果的には、図5およびその拡大図である図6に示すように、ダイシングにより記録素子基板3はシリコン基板3から切り出されて形成される。上記方法にて、記録素子基板3のエッチング形成面(第2の面)15は、数μmの精度で形成することができる。なお、吐出圧力発生素子19には、各素子を駆動するための不図示のトランジスタ回路および配線が接続されている。なお、結晶方位〈110〉のシリコン基板3を用いる場合は、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウムといった強アルカリの水溶液を用いる結晶異方性エッチングにて、インク供給口9とエッチング形成面15を形成することも可能である。
【0019】
以上のように製造された記録素子基板3を用いたインクジェット記録ヘッド1は、以下の方法により製造される。
【0020】
先ず、図7に示す組み立て装置41上の位置決め用の治具43に記録素子基板3をセットする。位置決め用の治具43は、記録素子基板3の位置精度を出すためのX,Y基準をもつ。記録素子基板3の位置精度出しは、記録素子基板3のエッチング形成面15と位置決め用の治具43のX,Y基準を突き当てピンで突き当てることにより行われる。
【0021】
次に、図8に示すように、位置精度出しが終了した記録素子基板3を用意しオートハンド45によって支持部材側に移動させて、記録素子基板3を支持部材5の上に熱硬化接着剤11を介して配置する。なお、オートハンド45の移動距離は絶えず所定距離を移動する。この際、各記録素子基板3は、第2の面同士が当接するように記録素子基板3を支持する支持部材5上に配置されている。これらの第2の面15は、各記録素子基板3間の位置決め基準面として機能する。そして、この当接状態を維持した状態で接着剤に熱を加えることにより熱硬化接着剤11を硬化させ、記録素子基板3を支持部材5に固定する。
【0022】
また、位置決め方法の別形態として、支持部材5上に設けられた位置決め基準に記録素子基板3のエッチング形成面15を当接させて所定の位置に配置する方法も採用できる。さらに、複数の記録素子基板3を支持部材5上に配置する際は、互いの記録素子基板3のエッチング形成面15を当接させることにより、所定の位置に配置する方法でもよい。残りの記録素子基板3は、上記手順を繰り返すことにより支持部材5上に接着固定することで、インクジェット記録ヘッド1を製造する。
【0023】
このように製造されたインクジェット記録ヘッド1によれば、複数のインク吐出口7が配された第1の面13と交差して記録素子基板3の側面を形成する第2の面15の少なくとも一部がエッチング処理されている。これにより、エッチング処理された第2の面15は、防食加工されることで表面精度を保証することができる。このように表面精度が保証された各記録素子基板3の第2の面同士を互いに当接させることで、各記録素子基板間の接着固定位置の精度を保証することができる。そのため、各記録素子基板に配された各インク吐出口間の距離の精度についても同様に保証できることで、高吐出口密度の記録素子基板を接着固定する際に必要な精度に対応可能となる。したがって、記録素子基板の固定位置精度のバラツキは、従来と比較して格段に向上させることができる。また、各記録素子基板3の接着固定位置精度が画像処理システムを使用せずに満足するため、インクジェット記録ヘッドを容易に作成できる。さらに、図5および図6に示すように、隣接する記録素子基板3のエッチング形成面15間にはエッチング開口部33が形成されることで、各記録素子基板3の分離の際にはダイサーによる切断が不要となる。これにより、切断ステップのタクト短縮やダイサーなどの切断手段の寿命向上を図ることができる。
【0024】
上記実施形態における記録素子基板3を支持部材5に固定する方法の変形例として次のような形態を採ることができる。すなわち、支持部材5上に位置決め部を設け、各記録素子基板3の第2の面15を位置決め部に当接するように配置してもよい。これにより、支持部材を基準に複数の記録素子基板を位置決めできるので、各々の記録素子基板同士を当接させることなく記録素子基板の支持部材上における固定位置を保証することができる。また上記実施形態においては、複数の記録素子基板を備えるフルラインタイプ用の記録ヘッドについて説明したが、これに限られるものではない。例えば支持部材に対して単一の記録素子基板を支持部材の位置決め部に当接させて位置決めを行う記録ヘッドについても適用可能である。
【0025】
さらに、記録素子基板3の位置精度を出す方法として次のような形態を採用できる。すなわち、図9に示すように、支持部材5に接着固定された記録素子基板3のエッチング形成面15に次の記録素子基板3のエッチング形成面15を突き当てピンを用いて互いに突き当て、記録素子基板3の位置精度を出す。そして、記録素子基板3は熱硬化接着剤11を介して支持部材5に配置され、熱を加えることにより熱硬化接着剤11を硬化させて、記録素子基板3を固定する。このように形成したインクジェット記録ヘッド1の記録素子基板3の固定位置精度は従来と比較し良好となり、記録素子基板3同士を突き当てながら配置するため、インクジェット記録ヘッドのサイズを小さくすることが可能になる。
【符号の説明】
【0026】
1 インクジェット記録ヘッド
3 記録素子基板
5 支持部材
7 インク吐出口
9 インク供給口
13 第1の面
15 第2の面
35 インク流路
43 位置決め用の治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが内部を通るとともに互いに離間して配された複数の流路を有する記録素子基板を複数備えたインクジェット記録ヘッドであって、
各記録素子基板は、
各流路が開口する複数のインク吐出口が配された第1の面と、
前記第1の面と交差して前記記録素子基板の側面を形成するとともに、少なくとも一部がエッチング処理によって形成された第2の面と、を有する、
インクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
各記録素子基板は、前記第2の面同士が互いに当接するように配置されている、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記第2の面は、各記録素子基板間の位置決め基準面として機能する、請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記記録素子基板を支持する支持部材を有し、
各記録素子基板は、前記第2の面同士が当接するように前記支持部材上に配置されている、請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記支持部材は位置決め部を有し、
各記録素子基板は、前記位置決め部に前記第2の面が当接するように配置されている、請求項4に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記第2の面はドライエッチングにより形成されている、請求項1から5のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
インクが内部を通るとともに互いに離間して配された複数の流路を有する記録素子基板であって、
各流路が開口する複数のインク吐出口が配された第1の面と、
前記第1の面と交差して前記記録素子基板の側面を形成するとともに、少なくとも一部がエッチング処理によって形成された第2の面と、を有する、
記録素子基板。
【請求項8】
支持部材上に記録素子基板が形成されたインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、
主面にインクを吐出するための圧力を発生する吐出圧力発生素子を備え、前記主面と交差する側面の少なくとも一部がエッチング処理された前記記録素子基板を用意するステップと、
前記記録素子基板の前記エッチング処理された側面を前記記録素子基板の位置決めのための位置決め部に当接させるステップと、
前記記録素子基板の前記側面と前記位置決め部との当接状態を維持した状態で前記記録素子基板と前記支持部材とを固定するステップと、を有する、
インクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記主面と交差する前記側面の少なくとも一部をエッチングするとともに、前記吐出圧力発生素子にインクを供給するためのインク供給口を前記記録素子基板をエッチングにより形成する、請求項8に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記位置決め部は前記支持部材に形成され、該位置決め部に前記記録素子基板の前記エッチング処理された側面を突き当てる、請求項8または9に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記記録素子基板の前記エッチング処理された側面を位置決め用の治具の位置決め基準に突き当て、該記録素子基板を位置決めするステップと、
位置決めされた前記記録素子基板を前記支持部材側へ移動するステップと、
前記記録素子基板を前記支持部材上に配置するステップと、を有する、
請求項10に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記エッチング処理された側面は、ドライエッチングにより形成される、請求項8から11のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項13】
インクが内部を通るとともに互いに離間して配された複数の流路を有する記録素子基板であって、該記録素子基板は、各流路が開口する複数のインク吐出口が配された第1の面と、該第1の面と交差して該記録素子基板の側面を形成する第2の面と、を有する、記録素子基板の製造方法であって、
前記第2の面の少なくとも一部をエッチング処理するステップを有する、記録素子基板の製造方法。
【請求項14】
前記第2の面は、各記録素子基板間の位置決め基準面として機能する、請求項13に記載の記録素子基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−254646(P2012−254646A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−219390(P2012−219390)
【出願日】平成24年10月1日(2012.10.1)
【分割の表示】特願2009−256960(P2009−256960)の分割
【原出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】