説明

インクジェット記録ヘッドのインク充填方法

【課題】 予備吐出やワイピングを必要としない、なお且つインク吸引能力も必要としないで廃インクが発生しないインクジェット記録ヘッドのインク充填方法を提供すること。
【解決手段】 インク貯留部内のインク液面が鉛直方向に関して前記記録ヘッドの吐出口より高い位置であって、吐出口のインクのメニスカス保持力を越えず、吐出口外部へ流出しない範囲に設定し、インク貯留部から記録ヘッドに対して水頭差と、配管、インク流路を含むインク経路の毛管力とを利用してインクを充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録ヘッドのインク吐出状態を検査する際に記録ヘッドにインクを充填するインクジェット記録ヘッドのインク充填方法に関し、インクジェット記録ヘッドの吐出口内やインク流路内に気泡を発生させず且つ吐出口面にインクが付着しないインクジェット記録ヘッドのインク充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に搭載されるインクジェット記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドとも称する。)は出荷前に印字検査を行なっている。印字検査工程では、記録ヘッドのインク流路内にインク(印字の使用されるインクと同種のインク)を充填している。インクの充填に当たっては、インク貯留部と記録ヘッドとを配管で連結し、記録ヘッドの吐出口面をキャップ部材で覆いポンプによって吸引するといった、いわゆるキャップ部材を介した記録装置内で行なわれている本体回復動作と同様な操作を行っていた。
【0003】
本体回復動作では、キャップ部材を記録ヘッドから外した際には吐出口面にインク滴が多数残留する。このインク滴が吐出口面に残ったままでは、吐出インクの吐出方向曲がりが発生してしまうので、キャップを分離した後にへら状のブレードを吐出口面に押し当てて吐出口列方向に走査させ、吐出口面に付着したインク滴を清掃している。(例えば特許文献1参照)
ただし、単一のキャップで複数の色の吐出口群を吸引している場合は、この清掃動作によりインク滴が吐出口面の広範囲に拡げられ、一部は吐出口内に侵入して更に混色を発生してしまうことがある。また、インク充填操作によって記録ヘッド内に気泡が発生してしまう場合もある。そのため、一定量の吐出動作を行い吐出口内に侵入した気泡や別色のインクを排出させる予備吐出を行っている。(例えば特許文献2参照)
また、上述した方法以外の手法が特許文献3に開示されている。特許文献3に記載されたインク充填では、所定の吐出口を密閉する手段を吐出口列方向に走査させることで、従来の吐出口面全体を密閉して吸引する方式に比較して、吸引効率を向上させ吸引時間と吸引インク量を削減している。しかしながら吸引効率向上は達成しているものの吸引動作の他に図4に示す通り大気開放動作、吐出口面のブレード動作を必要とし、またそれらの機構が存在する。また吐出口面ブレード動作後には前述した予備吐出動作を行っている。
【特許文献1】特開昭62−113559公報
【特許文献2】特開平11−157102公報
【特許文献3】特開2002−347260公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェット記録ヘッドの印字検査では、記録ヘッドにインク充填を行いインク充填された記録ヘッドで印字動作をし、その印字物を目視検査して当該記録ヘッドの良否を判定している。
【0005】
検査工程のインク充填方法は、上述の通り本体回復動作と同様な操作方法を使用している。ここで、印字検査工程におけるインク充填のために行なわれる操作と記録装置本体で行なわれている操作とでは、インクを供給する形態が違う。そのためにポンプによる吸引圧力の条件が違ってくる。記録装置本体で行なわれる操作ではインクタンクからインク充填をおこなうため吸引圧力は小さくてすむので泡の発生が押えられているので問題は発生していない。
【0006】
しかし、印字検査工程における操作ではインクタンクを使用すると交換回数が多くなるので、インクタンクを使用せずにインクタンクの変わりにインク供給するための治具(以下充填ノズルと言う)などが記録ヘッドに取り付けられる。このとき記録ヘッドに取り付けられる充填ノズルにはインク貯蔵部までの配管が取り付けられてあり、インクを貯蔵している所から記録ヘッドの吐出口面までインクを吸引しなければならない。吐出口面からインクを吸引するには記録装置本体で行なわれる吸引圧力よりも高い吸引圧で引き込まなければ吐出口面までインクを充填することができない。吸引圧力が高いとインク流速が早くなる。インク流速が速くなるとフィルタ通過時や流路形状で泡が発生し易くなる。発生した泡が吐出口内に入ると泡の抱き込みによる不吐が発生する。そのような泡を抱きこんだ記録ヘッドによって印字された印字物は、良品と判断されない結果、記録ヘッドが不良品と判断されてしまう。すなわち、良品記録ヘッドでありながら、泡の存在によって不良品と判断してしまい記録ヘッドの製造歩留りの低下を招く事態を招いてしまう虞がある。
【0007】
上述のような検査工程のインク吸引条件では、キャップ部材で記録ヘッドの吐出口列全域を密閉し吸引することでインク流速が大きくなりインク流路、吐出口内に泡が発生し吐出口に泡を抱き込み初期印字不良の原因を引き起こしたりする。また、吐出口全域に負圧をかけるため、個々の吐出口にかかる負圧は分散され弱いものとなる。個々の吐出口には流抵抗に差があり、例えば吐出口に泡がいるような場合は正常な吐出口より流抵抗が大きくなる。このような状態で吐出口全域を均等な圧力で吸引を行った場合、流抵抗の少ないほうへインクが流れ易くなり、結果として吐出口にいる泡を排出することが困難になってしまう。同様に、吐出口径の異なる吐出口が同一液室に配置されている場合についても相対的に流抵抗の少ない吐出口径の大きい吐出口へインクが流れ易くなる。
【0008】
また、図7で示す通り、吐出口ユニット4内のインク流路はインク供給口5から放射状に形成される。そのためインク供給口5に近い部分は吸引時のインクの流れが層流になるのに対し、供給口5から遠い部分はインクの流れの少ない淀みとなり、インクの吸引、排出効率が低下する。
【0009】
吸引動作によって生じる吐出口面7のインク滴付着を解決するために図5に示すブレード20によるワイピング機構を必要とする。このブレード20清掃動作によりインク滴が吐出口面7の広範囲に拡げられ、一部は吐出口8内に侵入して更に混色を促進してしまう。更に吐出口8内の気泡と混色を解決するために図6に示す予備吐出が必要である。しかし、この吐出動作は気泡およびインクの排出機能を短時間で発揮させるために通常の印字における吐出動作より多くの吐出を行っており、このような吐出の下では吐出されたインク滴のミストが吐出口面7に付着し易くなる。
【0010】
場合によっては吐出口8近傍に付着して、印字動作時のインク滴着弾位置精度を著しく低下させ吐出口8自体をミストがふさいでしまい不吐出になる場合がある。また、これら、キャップ吸引、ワイピング、予備吐出はシリーズ動作となるため、インク充填に要する時間は必要以上に長くなる。
【0011】
上述から明らかな通り、流路3や吐出口8内の泡を吸引し排出を達成させるためにはより多くの(無駄な)インクを吸引する必要があり、廃インクの浪費によるコストの増大を招く。また、多くの吸引時間を要することになる。
【0012】
本発明はインク充填方法に対し更に改良を加えたものである。予備吐出やワイピングを必要としない、なお且つインク吸引能力も必要としないので廃インクが発生しないインクジェット記録ヘッドのインク充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成させるための本発明は以下の手段により達成される。
【0014】
すなわち、インクを吐出する吐出口と、該吐出口にインクを導くインク流路と、該インク流路のインク導入個所に配されたフィルタと、を備えたインクジェット記録ヘッドのインク吐出状態を検査するに際し、検査に用いられるインクを貯留したインク貯留部から前記記録ヘッドに対してインクの充填を、前記インク貯留部と前記フィルタとを連絡する配管を経由して行うインクジェット記録ヘッドのインク充填方法において、
前記インク貯留部内のインク液面が鉛直方向に関して前記記録ヘッドの吐出口より高い位置であって、前記吐出口のインクのメニスカス保持力を越えず前記吐出口外部へ流出しない範囲に設定し、前記インク貯留部から前記記録ヘッドに対して水頭差と、前記配管、前記インク流路を含むインク経路の毛管力と、を利用してインクを充填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
印字検査工程で行なわれる本発明にかかるインクジェット記録ヘッドのインク充填方法によれば、不必要に速いインク充填が行なわれず、インク充填速度を遅くすることになり、記録ヘッド内の空気を押し出しながらインク充填されることになるため記録ヘッド、特に吐出口内に気泡が存在することが無くなる。そのため、泡の抱きこみが原因で印字不良と判断されてしまっていたような記録ヘッドが無くなり初期印字不良と判断される記録ヘッドの削減につながり歩留りが向上する。更に、吐出口に形成されるインクのメニスカスを破壊しない程度にインク貯留部と記録ヘッドとの水頭差を設定することで、フェイス面にインクが付着することがなく吐出方向曲がりの発生がなくなる。これにより、印字不良と判断されてしまう記録ヘッドが少なくなると共に、従来方式のようなブレード機構が不要になり、インク充填装置の構造が簡略になるという効果がある。
【0016】
従来機構で行なわれていたインク吸引動作→ブレード動作→予備吐動作というインク充填にかかわる連続動作が、水頭差と毛管力でインク充填され、ブレード動作→予備吐動作等の動作が省けるのでインク充填にかかる時間を大幅に短縮することができる。また、水頭差と毛管力でインク充填されるので吸引キャップや吸引をするポンプ、ブレード、予備吐出受け、廃インク回収機構等が不要になる。これにより、印字検査装置のインク充填機構の簡略化による装置の小型化やインク消費量の低減や廃インクが発生しないことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は本発明の実施形態であり記録ヘッド内にはインクが充填されていない状態からインク充填方法を示す概略図である。
【0019】
図1に示すように着脱可能なインクタンクが取り付けられるインクジェット記録ヘッド1内、インク流路3には水頭差と毛管力でインク(記録に用いられるインクと同種のインクを使用しているので以下では記録インクと称する)が浸透し充填される。溶着部隙間やインク流路3形状でできる淀みにも記録インク9が充填され毛管力で記録インク9が浸透することで大気が押し出され記録ヘッド1内に残らず充填される。このとき、各色での流路溶着部隙間による毛管力の差や流路長さの違があると、水頭差による押し出し充填完了タイミングは異なるが、全ての吐出口8に記録インク9は充填される。また、水頭差は吐出口8先端から記録インク貯蔵槽10水面までの高さhになる。水頭差の設定範囲は吐出口メニスカスを破壊しない最大水頭差hは700mm(7kPa)以下であり、最低水頭差はフィルタ24、インク流路15、装置配管の圧損を0にする高さhは20mm(0.2kPa)以上が望ましい。この実施例においては記録インクは染料系で実施しており記録インク貯蔵槽10から記録ヘッド01フィルタ24までの配管の長さは800mm、内径2mmである。また、フィルタ24は不織布フィルタ24で直径寸法は4.4mm、厚さ0.27mmであり、吐出口08の直径は16.5μmと10.5μmがそれぞれ256個配列している。
【0020】
更に、図2に示す表は水頭差の高さ位置を移動し記録インクに充填したときに液室内に気泡が発生するかの実験結果であり、水頭差200mmまでが記録インクを充填しても液室内に気泡を発生させないことが確認できた。また、水頭差高さhを20mmにするとインク充填に要する時間が1分以上と長くなるので50mm以上(30秒以内)に設定する。以上により好適な条件水頭差は50〜200mm程度である。また、記録インクを顔料系にし同じ条件で実施しており、実験結果は染料系記録インクと同じ結果になった。
【実施例2】
【0021】
次にフィルタ24を変更し記録インクは染料系と顔料系で実施しており記録インク貯蔵槽10から記録ヘッド01フィルタ24までの配管の長さは800mm、内径7mmである。また、フィルタ24はメッシュフィルタ24で直径寸法は8.4mm、厚さ0.09mmであり、吐出口8の直径は25μmが320個配列している。このような条件で実施した結果、染料系、顔料系共に吐出口メニスカスを破壊しない最大水頭差hは200mm(2kPa)以下である。最低水頭差はフィルタ24、インク流路15、装置配管の圧損を0にする高さhは10mm(0.1kPa)以上が望ましい。但し、水頭差高さhを10mmにするとインク充填に要する時間が長くなるので50mm以上に設定する。また、液室内に気泡が発生しない水頭差は200mmであり、好適な条件水頭差は50〜200mm程度である。
【0022】
次に、本実施形態について図1と図3を参照して説明する。
【0023】
記録インク9が充填されていない記録ヘッド01をインク充填機構装置の所定の位置に設置し充填ノズル21を記録ヘッド1に装着する(ステップSP1)。充填ノズル21には可撓性チューブ26が取り付けられており、その先には記録インク9が収納された容器(記録インク貯蔵槽あるいはインク貯留部)10が設置されている。また、充填ノズル21先端には液タレ防止でスポンジ23等を取り付けてもよい。充填ノズル21に取り付けられるチューブ26は接液性があり、充填ノズル21上には記録インク09を濾過する濾過フィルタ25および記録インク09を供給するインク供給弁22が設置されている。
【0024】
記録ヘッド01とインクタンク02が所定の位置にセットされたら、インク供給弁22が開き記録インク9が水頭差と毛管力で記録ヘッド1内に浸透し記録インク9が充填される(ステップSP2)。記録インク9が吐出口8まで充填されると吐出口8のメニスカス保持力で記録インク9の流れが止まる。この時の記録インク9が充填される時間をタイマーに設定しておきタイムUPしたらインク供給弁を閉じる。そして、充填ノズルを取り外し、検査工程に移行する。
【0025】
その後検査パターンを印字し(ステップ3)、印字物を目視検査する(ステップ4)。
【0026】
このようなインク充填方法を用いることにより、少量の記録インク9で充填できることから、インク使用量の大幅な削減、廃液量の削減につながりコストダウンが図れる。また、加圧や吸引機構を必要としないことから安価で製作できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のインク充填方法に使用されるインク充填機構を示す概略図である。
【図2】水頭差を変化させてインクを充填した結果を示す表である。
【図3】インク充填方法を示すフロー図である。
【図4】従来のインク充填機構の構成を示す概略図である。
【図5】従来のインク充填機構におけるブレード動作を示す概略図である。
【図6】従来のインク充填機構における予備吐出動作を示す概略図である。
【図7】従来のインク充填機構における吸引動作時のインク流動を示す概略図である。
【符号の説明】
【0028】
1 記録ヘッド
2 インクタンク
3 インク供給部材
5 インク供給口
6 共通液室
7 吐出口面
8 吐出口
9 記録インク
10 記録インク貯蔵槽
15 インク流路
21 充填ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する吐出口と、該吐出口にインクを導くインク流路と、該インク流路のインク導入個所に配されたフィルタと、を備えたインクジェット記録ヘッドのインク吐出状態を検査するに際し、検査に用いられるインクを貯留したインク貯留部から前記記録ヘッドに対してインクの充填を、前記インク貯留部と前記フィルタとを連絡する配管を経由して行うインクジェット記録ヘッドのインク充填方法において、
前記インク貯留部内のインク液面が鉛直方向に関して前記記録ヘッドの吐出口より高い位置であって、前記吐出口のインクのメニスカス保持力を越えず前記吐出口外部へ流出しない範囲に設定し、前記インク貯留部から前記記録ヘッドに対して水頭差と、前記配管、前記インク流路を含むインク経路の毛管力と、を利用してインクを充填することを特徴とするインクジェット記録ヘッドのインク充填方法。
【請求項2】
前記水頭差は、50mm以上200mm以下が好ましい範囲であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドのインク充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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