インクジェット記録ヘッドのクリーニング方法およびインクジェット記録装置
【課題】 ヘッドのインク吐出口形成面に付着したインク濃縮残渣等を効率良く除去して清浄化する。
【解決手段】 インクジェット記録ヘッド表面とインクの前進接触角をθa1、ワイピングブレード表面とインクの前進接触角をθa2とする時、
θa1−θa2>13(degree)の条件を満たし、かつ
ヘッド表面とインクの付着エネルギーをE1、ブレード表面とインクの付着エネルギーをE2とする時、
E1−E2>0.7(mJ/m2)の条件を満たす構成とする。
【解決手段】 インクジェット記録ヘッド表面とインクの前進接触角をθa1、ワイピングブレード表面とインクの前進接触角をθa2とする時、
θa1−θa2>13(degree)の条件を満たし、かつ
ヘッド表面とインクの付着エネルギーをE1、ブレード表面とインクの付着エネルギーをE2とする時、
E1−E2>0.7(mJ/m2)の条件を満たす構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッドまたはヘッドとも言う)のクリーニング方法およびインクジェット記録装置に関し、ヘッドのインク吐出口が形成されている面(以下、吐出面とも言う)に付着したインク濃縮残渣等を効率良く除去して清浄化するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、液体であるインクを媒介として入力画像データを出力画像に変換するシステムであるため、インクを吐出する記録ヘッドのクリーニング(清浄化)技術が非常に重要な要素となっている。クリーニングを必要とする主な課題を簡単に説明すると、次の通りである。
【0003】
インク吐出用の記録ヘッドは微細なノズル(以下、特にことわらない限り、吐出口、これに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生するための素子を総称して言う)から記録媒体にインクを直接吐出するものである。
【0004】
従って、吐出したインクが記録媒体に当たって跳ね返ったり、インクを吐出する際に記録に関与する主なインクの他に微小なインク滴(サテライト)が吐出されて雰囲気中に漂ったりすることがある。
【0005】
すると、これらがインクミストとなって、記録ヘッドのインク吐出口の周りに付着することがある。また、空気中を漂っていた塵埃などが付着することもある。すると、吐出される主インク滴をこれらの付着物が引っ張ることで、インク吐出方向がよれること、すなわち主インク滴の直進性が妨げられることがある。
【0006】
そこで、この問題を解決するためのクリーニング技術として、インクジェット記録装置では、所定のタイミングでゴム等の弾性材料でなる払拭部材(ワイピングブレード、以下、ブレードとも言う)でヘッドの吐出面を拭い、付着物を除去するワイピングと呼ばれる方法が採用される。
【0007】
一方近年、記録物の記録濃度、耐水性および耐光性等を向上する目的で、色材として顔料成分を含有するインク(顔料系インク)が使用されることが多くなってきている。顔料系インクは、元来固体である色材を、分散剤や、顔料表面に官能基を導入するなどして水中に分散させてなるものである。
【0008】
従って、吐出面上でインク中の水分が蒸発し乾燥した顔料インクの乾燥物は、色材自体が分子レベルで溶解している染料系インクの乾燥固着物と比べ、吐出面に与えるダメージが大きい。
【0009】
また、顔料を溶剤中に分散させるために用いている高分子化合物が吐出面に対して吸着されやすいという性質が見られる。これは、インクの粘度調整や、耐光性向上その他の目的によりインク中に高分子化合物が存在する場合には、顔料系インク以外でも生じる問題である。
【0010】
これらの問題に対し、記録ヘッドのワイピング時にプリンタ本体内部に貯蔵した不揮発性溶剤のヘッド用液体を吐出面に塗着させることで、ブレードの磨耗を軽減し、記録ヘッドに蓄積した固着物を溶解させることによって蓄積物を除去する技術が開示されている(特許文献1および2)。
【0011】
また、ヘッドのノズルからインク滴を吐出し、ブレードをインクで湿らせながら、ワイピング動作を行っている内容が開示されている(特許文献3および4)。
【0012】
ブレード部材に親水化処理する従来例として、特許文献5が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10−138503号公報
【特許文献2】特開2000−203037号公報
【特許文献3】特開平05−000515号公報
【特許文献4】特開2006−212863号公報
【特許文献5】特開平05−330074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、上記特許文献開示の方式で長期的なクリーニングの効果を検証した。すると、ヘッド用液体供給部材の大型化やインク吐出時のインク消費量やミストの再付着といった新たな問題が生じることを見出した。
【0015】
特許文献1および2では、長期的なクリーニング効果をもたせるためにヘッド用液体貯蔵部材を大きくしなければならず、これによりプリンタ本体の大型化・複雑化を招く課題が生じた。特許文献3および4では、吐出によりブレードを湿らせるため、1回のクリーニングにおいて大量のインクを消費する。また、インク吐出時にインクミストが発生し、ワイピング動作後にミストが付着し、再びインク吐出方向がよれるという課題が生じた。
【0016】
従って本発明は、インクとブレードおよびインクとヘッド表面の前進接触角と付着エネルギーの関係を適切に定めることで、インク濃縮残渣を効率的かつ確実に吐出面より除去でき、上記課題を生じさせることなく吐出面の表面特性の変化を抑制し、ヘッドの持つ初期性能を維持できるインクジェット記録ヘッドクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以上の課題を解決するために、本発明は、インクをノズルより吐出するインクジェット記録ヘッドの表面に付着した付着物をワイピングブレードにより除去するインクジェット記録ヘッドクリーニング方法において、
前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの前進接触角をθa1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの前進接触角をθa2とする時、
θa1−θa2>13 (degree) 式(1)
の条件を満たし、かつ前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの付着エネルギーをE1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの付着エネルギーをE2とする時、
E1−E2>0.7 (mJ/m2) 式(2)
の条件を用いることを特徴とする。
【0018】
また本発明はインクをノズルより吐出するインクジェット記録ヘッドの表面に付着した付着物をワイピングブレードにより除去する手段を備えるインクジェット記録装置において、
前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの前進接触角をθa1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの前進接触角をθa2とする時、
θa1−θa2>13 (degree)の条件を満たし、かつ
前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの付着エネルギーをE1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの付着エネルギーをE2とする時、
E1−E2>0.7 (mJ/m2) の条件を満たす前記インクジェット記録ヘッド、前記インク、前記ワイピングブレードを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、装置の大型化、ミストの発生といった課題を生じさせずにヘッド吐出面のインク濃縮残渣を除去し、安定した画像品位を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】吐出面−インクの前進接触角、ブレード−インクの前進接触角の関係が式(1)を満たす場合において、1枚のワイパブレードでワイピングを行う際の吐出面でのインクの挙動を示す説明図である。
【図2】吐出面−インクの前進接触角、ブレード−インクの前進接触角の関係が式(1)を満たす場合において、1枚のワイパブレードでワイピングを行う際の吐出面でのインクの挙動を示す説明図である。
【図3】吐出面−インクの前進接触角、ブレード−インクの前進接触角の関係が式(1)の関係を満たさない場合において、1枚のワイパブレードでワイピングを行う際の吐出面でのインクの挙動を示す説明図である。
【図4】吐出面−インクの前進接触角、ブレード−インクの前進接触角の関係が式(2)を満たす場合において、1枚のワイパブレードでワイピングを行う際のワイプ後の吐出面の状態を示す説明図である。
【図5】吐出面−インクの前進接触角、ブレード−インクの前進接触角の関係が式(2)を満たさない場合において、1枚のワイパブレードでワイピングを行う際のワイプ後の吐出面の状態を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタの主要部の模式的な斜視図である。
【図7】図5のインクジェットプリンタのキャリッジに搭載可能な記録ヘッドの一構成例を示す斜視図である。
【図8】図6の記録ヘッドの構成要素である記録ヘッドの一構成例を示す分解斜視図である。
【図9】図7の記録ヘッドに適用される記録素子基板において、一色についての吐出口列付近の構造を、部分的に破断して示す斜視図である。
【図10】(a)〜(g)は図8の記録素子基板の製造工程の説明図である。
【図11】図5のプリンタに適用されるクリーニング装置の一例を示す模式的側面図である。
【図12】ワイピングの過程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは上記目的を実現するために、様々な検討を行った。その結果、ワイピング時にノズル内部のインクをワイパーへ引き出し、さらに引き出したインクを吐出面に供給し、吐出面のインク濃縮残渣を溶解させて吐出面より除去しやすくすることで、吐出面の表面特性を維持することが可能であることを見出した。
【0022】
そこで、さらに、ヘッド吐出面とブレードとインクそれぞれの材料、物性等を変化させた様々な組み合わせで検討を行った。その結果、インク/吐出面間の前進接触角および付着エネルギーとインク/ブレード間の前進接触角および付着エネルギーがある関係となる時に本発明の効果が発現することが判明した。
【0023】
以下に、インク/吐出面間およびインク/ブレード間の前進接触角の関係、インク/吐出面間およびインク/ブレード間の付着エネルギーの関係により、本発明の効果が発現することを説明する。
【0024】
まずは、前進接触角について説明する。
【0025】
本発明において、前進接触角とは、滑落法による動的接触角測定により決定される。
【0026】
「動的接触角」とは、洗浄や塗布など、固体表面上を液体が動く状態を想定した動的な接触角の変化として知られている(参考文献を後日記載します)。通常、液滴の界面が前進する際の接触角を前進接触角θaと定義される。滑落法は試料表面に接した液滴を傾けていき、液滴滑落時の液滴前進部の接触角を前進接触角としている。一般に、前進接触角の値が小さいほど動的に濡れ易いといえる。
【0027】
本発明における滑落法による前進接触角は、例えば、固液界面解析装置DropMaster700(協和界面化学株式会社製)により、測定することが可能である。具体的には、まず、上記固液界面解析装置により、試験体上にインクジェット記録用インク25μLを付着させて液滴を形成し、試験体を傾斜させる。そして、滑落認識設定を2dotに設定し、液滴滑落時の液滴前進部の接触角を前進接触角としている。
【0028】
次に、付着エネルギーについて説明する。
【0029】
付着エネルギーは、固体表面と液体との付着性を表しており、下記式(3)により表される(参考文献、村瀬平八、色材, 73, [2] 60-66 (2000))。
【0030】
【数1】
【0031】
一般に、付着エネルギーの値が大きいほど付着力が強いといえる。
【0032】
本発明における滑落法による付着エネルギーは、例えば固液界面解析装置DropMaster700(協和界面化学株式会社製)により、測定することが可能である。
【0033】
具体的には、まず、上記固液界面解析装置により、試験体上にインクジェット記録用インク25μLを付着させて液滴を形成し、試験体を傾斜させる。そして、滑落認識設定を2dotに設定した時の、液滴滑落時の滑落角、着滴半径の測定値から式(3)を用いて算出した値を付着エネルギーとしている。
【0034】
次にインク/吐出面間およびインク/ブレード間の前進接触角の関係について説明する。
【0035】
図1は式(1)の条件を満たす場合のワイピング時の吐出面でのインクの挙動を示している。この条件を満たす時には、吐出面よりもワイピングブレードの方が濡れやすいので、ワイピングブレードがノズルのインクメニスカスに接触するとインクはワイピングブレードに移動し、ノズルに存在するインクを多く引き出す。この効果により図2に示されるように、ヘッドの吐出面に付着しているインク濃縮残渣と引き出されたインクが接触する。
【0036】
これに対し、式(1)の関係を満たさない場合は図3に示したようにワイピングブレードの接触によりノズルからインクを引き出す効果が少ないので、インク濃縮残渣を充分に溶解できない。
【0037】
また、インク濃縮残渣を充分に溶解できるだけのインク量を引き出すには、θa1−θa2>16°の関係を満たすことがより好ましい。θa1−θa2>16°の関係を満たすとノズルからワイパーへのインクの引出し量が多くなり、吐出面に固着したインク濃縮残渣を確実に溶解させることができるからである。
【0038】
図4は式(2)の条件を満たす場合のワイピング後の吐出面でのインクの挙動を示している。この場合には、吐出面にインクが付着しやすいのでワイピングブレードが通過してもインクは吐出面に残りやすい。そのため、吐出面のインク濃縮残渣を充分に溶解させることが可能である。
【0039】
これに対し、式(2)の関係を満たさない場合は図5に示したようにワイピングブレードの移動と共にインクもワイピングブレードへ追随してしまうので、吐出面にインクが残らずインク濃縮残渣を充分に溶解できない。
【0040】
式(1)の条件を満たしても式(2)の条件を満たさない場合はブレードの接触によりインクは引き出されるものの、ブレードの移動によりインクが吐出面に残らないのでインク濃縮残渣を溶解させる効果が少ない。
【0041】
また、式(2)の条件は満たすが式(1)の条件を満たさない場合、ブレードの接触によるインクの引き出し効果が小さいため、吐出面のインク濃縮残渣は溶解しない。
【0042】
式(1)と式(2)の関係を共に満たすようインクに対するヘッドの吐出面とワイピングブレードの前進接触角と付着エネルギーの関係を適切に定めることで吐出面のインク濃縮残渣を溶解するのに充分な効果を得ることができる。
【0043】
即ち、本発明は、インクと吐出面およびインクとワイピングブレードとの相互作用に着目し、その関係を規定することによって初めて実現できるのである。
【0044】
次に、本発明にかかる装置の実施形態についてそれぞれ説明し、本発明を詳細に説明する。
【0045】
(装置の実施形態)
図6は本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタの主要部の模式的な斜視図である。
【0046】
図示のインクジェット記録装置において、キャリッジ100は無端ベルト5に固定され、かつガイドシャフト3に沿って移動可能になっている。無端ベルト5は一対のプーリ503に巻回され、一方のプーリ503にはキャリッジ駆動モーター(不図示)の駆動軸が連結されている。従って、キャリッジ100は、モーターの回転駆動に伴いガイドシャフト3に沿って図の左右方向に往復主走査される。キャリッジ100上には、インクタンク2を着脱可能に保持するカートリッジ形態の記録ヘッド1が搭載されている。
【0047】
図7は図6のキャリッジ100に搭載可能な記録ヘッド1の一構成例を示す斜視図、図8は記録ヘッド1の構成要素であるヘッドユニットの一構成例を示す分解斜視図である。
【0048】
本例に係る記録ヘッド1は、インクを吐出する吐出口の配列を有したヘッドユニット400と、インクを貯蔵し、ヘッドユニット400にインクを供給するインクタンク410とを有している。記録ヘッド1は、ヘッドユニット400に設けられたインク吐出口列が記録媒体としての用紙6と対向し、かつ上記配列方向が主走査方向と異なる方向(例えば記録媒体6の搬送方向である副走査方向)に一致するようにキャリッジ100に搭載される。
【0049】
インク吐出口列およびインクタンク410の組は、使用するインク色に対応した個数を設けることができる。
【0050】
図示の例では6色(例えばブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、淡シアン(PC)および淡マゼンタ(PM))に対応して6組設けられている。
【0051】
ここに示す記録ヘッド1では、各色独立のインクタンク410が用意されており、それぞれがヘッドユニット400に対して着脱自在となっている。
【0052】
ヘッドユニット400は、図8に示すように、記録素子基板420、第1のプレート430、電気配線基板440、第2のプレート450、タンクホルダ460および流路形成部材470から構成されている。
【0053】
各色インクの吐出口列を有する記録素子基板420は、酸化アルミニウム(Al2O3)を材料とする第1のプレート430上に接着固定されており、ここには記録素子基板420にインクを供給するためのインク供給口431が形成されている。さらに、第1のプレート430には、開口部を有する第2のプレート450が接着固定されている。この第2のプレート450は、インクを吐出するための電気信号を印加する電気配線基板440と記録素子基板420とが電気的に接続されるように電気配線基板440を保持している。
【0054】
一方、インクタンク410を脱着可能に保持するタンクホルダ460には流路形成部材470が超音波溶着され、インクタンク410から第1のプレート430にわたるインク流路(不図示)を形成している。
【0055】
図9は、図8に示す記録素子基板420において、一色についての吐出口列付近の構造を、部分的に破断して示す斜視図である。
【0056】
図7において、421はインクを吐出するために利用されるエネルギーとして、通電に応じインクに膜沸騰を生じさせる熱エネルギを発生する発熱素子(ヒータ)である。また、ヒータ421が実装される基体423上には、ヘッドユニット400の温度を検出する温度センサ428と、当該検出温度に応じてヘッドないしインクを保温するためのサブヒータ(不図示)と、が設けられる。422はインク吐出口、426はインク流路壁である。
【0057】
425は各ヒータに対向した状態でインク吐出口426が形成された吐出口プレートであり、樹脂の被膜層427を介して基体423上に配設される。また、吐出口プレート425の表面(記録媒体と対向する吐出面)には、所望の撥水材が設けられている。
【0058】
本例においては、ヒータ421ないし吐出口422の列が2列配置され、各列間のヒータ421ないし吐出口422同士は配列方向すなわち副走査方向に配列ピッチの1/2だけずれて配置されている。ここで、1列あたり128個のヒータ421ないし吐出口422が600dpiの密度で配列されることで、1色のインクあたり1200dpiの解像度を実現している。そして、上記6色に対応した記録素子基板構成が第1のプレート430上に配置される。
【0059】
図10(a)〜(g)を用い、記録素子基板および吐出面の作成方法について説明する。
【0060】
図10(a)および(b)は、それぞれ、記録素子基板420の模式的斜視図およびそのB−B’線の模式的断面図であり、複数のヒータ421がシリコン等でなる基体1上に配置されている(ヒータに通電を行うための電極等は不図示)。
【0061】
図10(c)は、図10(b)で示した基体423上に、ポジ型レジストによりインク流路パターン形成材433を配置した図である。このインク流路パターン形成材433は、各吐出口へ供給するインクを一時保持するための共通液室と、この共通液室から複数に分岐し、ヒータにより膜沸騰を起こさせるインクの流路を構成するためのパターンに対応している。
【0062】
図10(d)は、図10(c)で示したインク流路パターン形成材433の上にネガ型レジストからなるノズル形成材料434とフッ素およびシロキサン分子を含むネガ型レジストである撥水材料435を形成した状態を示す図である。本実施形態では、これら材料によって吐出口プレート425が形成されることになる。
【0063】
このように撥水材料435を用いることにより、吐出面に撥水性を持たせることが可能となる。あるいは、この工程において、ノズル形成材料に組み合わせる材料を変更することにより、吐出面を所望の表面特性に変化させることが可能である。
【0064】
図10(e)は、図10(d)の状態に対し、フォトリソグラフィ法によりインク吐出口422およびこれに通じるインク路を形成した状態である。さらに図10(f)は、図9(e)の状態に対し、吐出口形成面側等を適切に保護しながら、基体423の裏面側よりシリコンの異方性エッチングによりインク供給口424を形成した状態を示す図である。
【0065】
図10(g)は、図10(f)の状態に対し、インク流路パターン形成材4333を溶出させ、記録素子基板を完成させた状態を示している。そしてこのように完成した記録素子基板420を第1のプレート430上に配置し、さらに各部との接続や電気的実装等を行うことで、図6に示した構成が得られる。
【0066】
再び図6を参照するに、記録媒体6は、キャリッジ100のスキャン方向と直交する方向に間欠的に搬送される。
【0067】
記録媒体6は搬送方向の上流側および下流側にそれぞれ設けた一対のローラユニット(不図示)により支持され、一定の張力を付与されてインク吐出口に対する平坦性を確保した状態で搬送される。そして、キャリッジ100の移動に伴うヘッドユニット1の吐出口の配列幅に対応した幅の記録と、記録媒体6の搬送とを交互に繰り返しながら、記録媒体6全体に対する記録が行われる。また、図示の装置には、キャリッジの主走査方向上の移動位置を検出するなどの目的でリニアエンコーダ4が設けられている。
【0068】
キャリッジ100は、記録開始時または記録中に必要に応じてホームポジションで停止する。ホームポジション付近には、キャップや、図11について後述するクリーニング装置を含むメンテナンス機構7が設置されている。キャップは昇降可能に支持されており、上昇位置では、ヘッドユニット1の吐出面をキャッピングし、非記録動作時等においてその保護を行う、あるいは吸引回復を行うことが可能である。記録動作時にはヘッドユニット1との干渉を避ける下降位置に設定され、また吐出面との対向によって予備吐出を受けることが可能である。
【0069】
図11は本発明に係るクリーニング装置の一例を示す模式的側面図である。
【0070】
ゴム等の弾性部材でなるワイピングブレード9Aおよび9Bがワイパホルダ10に固定されており、ワイパホルダ10は図の左右方向(記録ヘッド1の主走査方向と直交する、インク吐出口が配列された方向)に移動可能である。
【0071】
ワイピングブレード9Aおよび9Bは高さが異なっており、記録ヘッド1の吐出面11との摺接時に、前者は比較的大きく屈曲して側部(腹部)が、後者は比較的小さく屈曲して先端部(エッジ部)が摺接するようになっている。本発明の規定を満たすブレードは9Aのみでも、9Aおよび9Bともにでも構わない。
【0072】
クリーニング動作にあたっては、記録ヘッド1をホームポジションに設定した後、ワイパホルダ10を矢印方向に移動させる。この移動の過程で、まず比較的長いワイピングブレード9Aがまず吐出面11に摺接し、比較的短いワイピングブレード9Bがこれに続くことになる。
【0073】
ワイプホルダ10の移動速度は、実用的な範囲であれば効果の発現は可能である。具体的には20mm/sec〜300mm/secの範囲が好ましい。
【0074】
図12はこの過程の説明図である。ワイピングブレード9Aは比較的大きく屈曲してその側部(腹部)が吐出面11に摺接し、ノズルから吐出面へインクを引き出し、吐出面にインクを残しながら移動する。そしてこの状態でワイピングブレード9Bの先端部(エッジ)が吐出面11に当接することで、インク残渣の溶解物を効率的に掻きとって行き、記録ヘッドのクリーニングが行われる。
【0075】
また本発明における関係式(1)および式(2)を満たすためにブレード表面の特性を制御する一手段として、ワイピングブレードの部材を親水化処理する方法が挙げられる。
【0076】
こうした親水性の表面を形成する方法としては、ブレード部材にシラン系化合物をコーティングし吸着させるシランカップリング法や、ナイロン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール等の親水性のポリマーをブレード部材にコーティング、グラフト化したり、ゴム表面に予めプラズマ処理を行ったり、これに更にモノマー浸漬後、表面にポリマーを成長させたりする、所謂表面改質によって親水化したものが例としてあげられる。
【0077】
ブレード部材に親水化処理する従来例の特許文献5には、水による静的接触角を30°以下ににすることによって、ごみ、ほこり、増粘インクを取り除く回復方法に関する開示がされている。しかし、インクと吐出面、インクとブレードとの関係については記載されていない。
【0078】
特許文献5には、水による静的接触角を30°以下ににすることによって、ごみ、ほこり、増粘インクを取り除く回復方法に関する開示がされている。しかし、インクと吐出面、インクとブレードとの関係については記載されていない。
【0079】
さらに、本発明者らによる検証の結果、ただブレードを親水化するだけでは、インクによっては不必要にノズルからインクが引き出されるため、回復装置周りへのインク汚染およびインク消費量の増大が引き起こされることがわかった。本発明の範囲内であれば、このような弊害を生じさせずに充分なクリーニング効果を得ることができる。
【実施例1】
【0080】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。尚、文中「部」又は「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
インク
分散体1の調製
比表面積が220m2/gでDBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラックカーボンブラック10部、スチレン−アクリル酸共重合体ポリマー(酸価200mgKOH/g、重量平均分子量9,000、固形分20%の水溶液、中和剤:水酸化カリウム)30部、純水60部を混合した。次に、これをバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズを200部充填し、水冷しつつ、5時間分散処理を行った。得られた分散液を遠心分離機にかけ粗大粒子を除去し、顔料濃度10%の分散体1を得た。
分散体2の調製
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で4−アミノフタル酸1.5gを加えた。次に、この溶液が入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かした溶液を加えた。この溶液を更に15分間撹拌後、比表面積が220m2/gでDBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。その後、更に15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、自己分散型カーボンブラックを調製した。更に、上記で得られた自己分散型カーボンブラックに水を加えて顔料濃度が10質量%となるように調製し、分散体2を得た。
インク1〜7の調製
上記分散体1および2を用いて、下記表1に示す組成のインク1〜7を作製した。
【0081】
具体的な調製方法としては、下記成分を混合し、十分攪拌後、ポアサイズ3μmのミクロフィルター(アドバンテック製 C300A)にて加圧濾過をすることによりインクを調製した。水溶性有機溶剤としてはグリセリンおよびエチレングリコールを、界面活性剤としては、アセチノールE100(商品名:川研ファインケミカル製)およびZonyl FSO−100(商品名:デュポン社製)を使用した。(「アセチレノール」は登録商標)
【0082】
【表1】
【0083】
評価用ヘッド
評価に使用した記録ヘッドはキヤノン株式会社製のインクジェットプリンタ「PIXUS Pro9500」に搭載されているものを用いた。(「PIXUS」は登録商標)
ワイピングブレード
本実施例では、下記物性のブレードをプラズマ処理装置にて親水化処理を行いブレードAとした。
【0084】
材質:ポリエーテルウレタン、厚み0.5mm、幅9mm、硬度75°
また、親水化処理しない上記物性のブレードをブレードBとした。
【0085】
【表2】
【0086】
前進接触角・付着エネルギーの測定
上記の方法により作製したインク・ワイピングブレードと評価用ヘッドを用いて、ワイピングブレードのインクに対する前進接触角とヘッド吐出面のインクに対する前進接触角およびワイピングブレードのインクに対する付着エネルギーとヘッド吐出面のインクに対する付着エネルギーをそれぞれ測定した。前進接触角・付着エネルギーの測定は、固液界面解析装置DropMaster700(協和界面化学製)を用い測定した。結果を表2に示す。温度23℃、湿度55%の環境下において、液滴サイズを25μL、滑落認識設定を2dotに設定し滑落法による前進接触角と付着エネルギーを測定した。
評価用プリンタ本体
評価に使用したプリンタ本体は、キヤノン株式会社製のインクジェットプリンタ「PIXUS Pro9500」の回復系を改造し、ワイプ後のヘッド吐出面を観察できるようにした。
【0087】
上記実施例インク1〜6を評価用プリンタ本体の記録ヘッドのタンク位置に、さらに親水化処理を行ったブレードAを評価用プリンタ本体に装着し評価に使用した。装着したワイピングブレードの自由長と侵入量は下記の条件とした。ここで、自由長とはワイピングブレードとブレード支持部の境界からブレード先端までの長さであり、侵入量とは吐出面の位置からワイピングブレード先端までの高さである。
ワイピングブレード Aの装着条件
自由長:5mm、侵入量:1.75mm(ワイパー腹部が摺接するよう調整)
比較例
比較例として上記表2のインクとワイピングブレードの組み合わせにより、実施例と同じ装着条件で評価を行った。この比較例は式(1)と式(2)の両方の条件、あるいは式(1)、式(2)のいずれかの条件を満たしていない。
【0088】
【表3】
【0089】
評価結果
評価は温度条件25℃におけるワイプ前後でのヘッド吐出面を観察することで行った。実施例および比較例の試験結果を表3に示す。なお、評価は次の3段階とした。
【0090】
AA:ノズル周囲にインクが充分存在し、インク濃縮残渣が溶解されている。
【0091】
A:ノズル周囲にインクが存在し、インク濃縮残渣が一部溶解されている。
【0092】
B:ノズル周囲のインク濃縮残渣が溶解されずに吐出面に残っている。
【0093】
式(1)および式(2)を満たす実施例1〜6ではインク濃縮残渣が溶解されていることが確認できた。また、θa1−θa2>16°および式(2)を満たす実施例2〜5ではさらに充分量のインク濃縮残渣が溶解されていることが確認された。
【0094】
実施例1〜6、および比較例1〜8のインクとワイピングブレードの組み合わせにおいて、PIXUS Pro9500(キヤノン(株)製)に搭載し5000枚印字を行った後の印刷画質を評価したところ、比較例1〜8よりも実施例1〜6の方が画像品位は良好であった。
【符号の説明】
【0095】
1 インクジェット記録ヘッド
2 インクタンク
3 ガイド軸
4 リニアエンコーダ
5 ベルト
6 記録媒体
9、9A、9B ワイパブレード
10 ワイパホルダ
11 吐出面
12 ヘッド用液体供給装置
14 ヘッド用液体補充装置
100 キャリッジ
400 ヘッドユニット
410 インクタンク
420 記録素子基板
421 ヒータ
422 吐出口
425 吐出口プレート
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッドまたはヘッドとも言う)のクリーニング方法およびインクジェット記録装置に関し、ヘッドのインク吐出口が形成されている面(以下、吐出面とも言う)に付着したインク濃縮残渣等を効率良く除去して清浄化するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、液体であるインクを媒介として入力画像データを出力画像に変換するシステムであるため、インクを吐出する記録ヘッドのクリーニング(清浄化)技術が非常に重要な要素となっている。クリーニングを必要とする主な課題を簡単に説明すると、次の通りである。
【0003】
インク吐出用の記録ヘッドは微細なノズル(以下、特にことわらない限り、吐出口、これに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生するための素子を総称して言う)から記録媒体にインクを直接吐出するものである。
【0004】
従って、吐出したインクが記録媒体に当たって跳ね返ったり、インクを吐出する際に記録に関与する主なインクの他に微小なインク滴(サテライト)が吐出されて雰囲気中に漂ったりすることがある。
【0005】
すると、これらがインクミストとなって、記録ヘッドのインク吐出口の周りに付着することがある。また、空気中を漂っていた塵埃などが付着することもある。すると、吐出される主インク滴をこれらの付着物が引っ張ることで、インク吐出方向がよれること、すなわち主インク滴の直進性が妨げられることがある。
【0006】
そこで、この問題を解決するためのクリーニング技術として、インクジェット記録装置では、所定のタイミングでゴム等の弾性材料でなる払拭部材(ワイピングブレード、以下、ブレードとも言う)でヘッドの吐出面を拭い、付着物を除去するワイピングと呼ばれる方法が採用される。
【0007】
一方近年、記録物の記録濃度、耐水性および耐光性等を向上する目的で、色材として顔料成分を含有するインク(顔料系インク)が使用されることが多くなってきている。顔料系インクは、元来固体である色材を、分散剤や、顔料表面に官能基を導入するなどして水中に分散させてなるものである。
【0008】
従って、吐出面上でインク中の水分が蒸発し乾燥した顔料インクの乾燥物は、色材自体が分子レベルで溶解している染料系インクの乾燥固着物と比べ、吐出面に与えるダメージが大きい。
【0009】
また、顔料を溶剤中に分散させるために用いている高分子化合物が吐出面に対して吸着されやすいという性質が見られる。これは、インクの粘度調整や、耐光性向上その他の目的によりインク中に高分子化合物が存在する場合には、顔料系インク以外でも生じる問題である。
【0010】
これらの問題に対し、記録ヘッドのワイピング時にプリンタ本体内部に貯蔵した不揮発性溶剤のヘッド用液体を吐出面に塗着させることで、ブレードの磨耗を軽減し、記録ヘッドに蓄積した固着物を溶解させることによって蓄積物を除去する技術が開示されている(特許文献1および2)。
【0011】
また、ヘッドのノズルからインク滴を吐出し、ブレードをインクで湿らせながら、ワイピング動作を行っている内容が開示されている(特許文献3および4)。
【0012】
ブレード部材に親水化処理する従来例として、特許文献5が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10−138503号公報
【特許文献2】特開2000−203037号公報
【特許文献3】特開平05−000515号公報
【特許文献4】特開2006−212863号公報
【特許文献5】特開平05−330074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、上記特許文献開示の方式で長期的なクリーニングの効果を検証した。すると、ヘッド用液体供給部材の大型化やインク吐出時のインク消費量やミストの再付着といった新たな問題が生じることを見出した。
【0015】
特許文献1および2では、長期的なクリーニング効果をもたせるためにヘッド用液体貯蔵部材を大きくしなければならず、これによりプリンタ本体の大型化・複雑化を招く課題が生じた。特許文献3および4では、吐出によりブレードを湿らせるため、1回のクリーニングにおいて大量のインクを消費する。また、インク吐出時にインクミストが発生し、ワイピング動作後にミストが付着し、再びインク吐出方向がよれるという課題が生じた。
【0016】
従って本発明は、インクとブレードおよびインクとヘッド表面の前進接触角と付着エネルギーの関係を適切に定めることで、インク濃縮残渣を効率的かつ確実に吐出面より除去でき、上記課題を生じさせることなく吐出面の表面特性の変化を抑制し、ヘッドの持つ初期性能を維持できるインクジェット記録ヘッドクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以上の課題を解決するために、本発明は、インクをノズルより吐出するインクジェット記録ヘッドの表面に付着した付着物をワイピングブレードにより除去するインクジェット記録ヘッドクリーニング方法において、
前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの前進接触角をθa1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの前進接触角をθa2とする時、
θa1−θa2>13 (degree) 式(1)
の条件を満たし、かつ前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの付着エネルギーをE1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの付着エネルギーをE2とする時、
E1−E2>0.7 (mJ/m2) 式(2)
の条件を用いることを特徴とする。
【0018】
また本発明はインクをノズルより吐出するインクジェット記録ヘッドの表面に付着した付着物をワイピングブレードにより除去する手段を備えるインクジェット記録装置において、
前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの前進接触角をθa1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの前進接触角をθa2とする時、
θa1−θa2>13 (degree)の条件を満たし、かつ
前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの付着エネルギーをE1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの付着エネルギーをE2とする時、
E1−E2>0.7 (mJ/m2) の条件を満たす前記インクジェット記録ヘッド、前記インク、前記ワイピングブレードを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、装置の大型化、ミストの発生といった課題を生じさせずにヘッド吐出面のインク濃縮残渣を除去し、安定した画像品位を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】吐出面−インクの前進接触角、ブレード−インクの前進接触角の関係が式(1)を満たす場合において、1枚のワイパブレードでワイピングを行う際の吐出面でのインクの挙動を示す説明図である。
【図2】吐出面−インクの前進接触角、ブレード−インクの前進接触角の関係が式(1)を満たす場合において、1枚のワイパブレードでワイピングを行う際の吐出面でのインクの挙動を示す説明図である。
【図3】吐出面−インクの前進接触角、ブレード−インクの前進接触角の関係が式(1)の関係を満たさない場合において、1枚のワイパブレードでワイピングを行う際の吐出面でのインクの挙動を示す説明図である。
【図4】吐出面−インクの前進接触角、ブレード−インクの前進接触角の関係が式(2)を満たす場合において、1枚のワイパブレードでワイピングを行う際のワイプ後の吐出面の状態を示す説明図である。
【図5】吐出面−インクの前進接触角、ブレード−インクの前進接触角の関係が式(2)を満たさない場合において、1枚のワイパブレードでワイピングを行う際のワイプ後の吐出面の状態を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタの主要部の模式的な斜視図である。
【図7】図5のインクジェットプリンタのキャリッジに搭載可能な記録ヘッドの一構成例を示す斜視図である。
【図8】図6の記録ヘッドの構成要素である記録ヘッドの一構成例を示す分解斜視図である。
【図9】図7の記録ヘッドに適用される記録素子基板において、一色についての吐出口列付近の構造を、部分的に破断して示す斜視図である。
【図10】(a)〜(g)は図8の記録素子基板の製造工程の説明図である。
【図11】図5のプリンタに適用されるクリーニング装置の一例を示す模式的側面図である。
【図12】ワイピングの過程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは上記目的を実現するために、様々な検討を行った。その結果、ワイピング時にノズル内部のインクをワイパーへ引き出し、さらに引き出したインクを吐出面に供給し、吐出面のインク濃縮残渣を溶解させて吐出面より除去しやすくすることで、吐出面の表面特性を維持することが可能であることを見出した。
【0022】
そこで、さらに、ヘッド吐出面とブレードとインクそれぞれの材料、物性等を変化させた様々な組み合わせで検討を行った。その結果、インク/吐出面間の前進接触角および付着エネルギーとインク/ブレード間の前進接触角および付着エネルギーがある関係となる時に本発明の効果が発現することが判明した。
【0023】
以下に、インク/吐出面間およびインク/ブレード間の前進接触角の関係、インク/吐出面間およびインク/ブレード間の付着エネルギーの関係により、本発明の効果が発現することを説明する。
【0024】
まずは、前進接触角について説明する。
【0025】
本発明において、前進接触角とは、滑落法による動的接触角測定により決定される。
【0026】
「動的接触角」とは、洗浄や塗布など、固体表面上を液体が動く状態を想定した動的な接触角の変化として知られている(参考文献を後日記載します)。通常、液滴の界面が前進する際の接触角を前進接触角θaと定義される。滑落法は試料表面に接した液滴を傾けていき、液滴滑落時の液滴前進部の接触角を前進接触角としている。一般に、前進接触角の値が小さいほど動的に濡れ易いといえる。
【0027】
本発明における滑落法による前進接触角は、例えば、固液界面解析装置DropMaster700(協和界面化学株式会社製)により、測定することが可能である。具体的には、まず、上記固液界面解析装置により、試験体上にインクジェット記録用インク25μLを付着させて液滴を形成し、試験体を傾斜させる。そして、滑落認識設定を2dotに設定し、液滴滑落時の液滴前進部の接触角を前進接触角としている。
【0028】
次に、付着エネルギーについて説明する。
【0029】
付着エネルギーは、固体表面と液体との付着性を表しており、下記式(3)により表される(参考文献、村瀬平八、色材, 73, [2] 60-66 (2000))。
【0030】
【数1】
【0031】
一般に、付着エネルギーの値が大きいほど付着力が強いといえる。
【0032】
本発明における滑落法による付着エネルギーは、例えば固液界面解析装置DropMaster700(協和界面化学株式会社製)により、測定することが可能である。
【0033】
具体的には、まず、上記固液界面解析装置により、試験体上にインクジェット記録用インク25μLを付着させて液滴を形成し、試験体を傾斜させる。そして、滑落認識設定を2dotに設定した時の、液滴滑落時の滑落角、着滴半径の測定値から式(3)を用いて算出した値を付着エネルギーとしている。
【0034】
次にインク/吐出面間およびインク/ブレード間の前進接触角の関係について説明する。
【0035】
図1は式(1)の条件を満たす場合のワイピング時の吐出面でのインクの挙動を示している。この条件を満たす時には、吐出面よりもワイピングブレードの方が濡れやすいので、ワイピングブレードがノズルのインクメニスカスに接触するとインクはワイピングブレードに移動し、ノズルに存在するインクを多く引き出す。この効果により図2に示されるように、ヘッドの吐出面に付着しているインク濃縮残渣と引き出されたインクが接触する。
【0036】
これに対し、式(1)の関係を満たさない場合は図3に示したようにワイピングブレードの接触によりノズルからインクを引き出す効果が少ないので、インク濃縮残渣を充分に溶解できない。
【0037】
また、インク濃縮残渣を充分に溶解できるだけのインク量を引き出すには、θa1−θa2>16°の関係を満たすことがより好ましい。θa1−θa2>16°の関係を満たすとノズルからワイパーへのインクの引出し量が多くなり、吐出面に固着したインク濃縮残渣を確実に溶解させることができるからである。
【0038】
図4は式(2)の条件を満たす場合のワイピング後の吐出面でのインクの挙動を示している。この場合には、吐出面にインクが付着しやすいのでワイピングブレードが通過してもインクは吐出面に残りやすい。そのため、吐出面のインク濃縮残渣を充分に溶解させることが可能である。
【0039】
これに対し、式(2)の関係を満たさない場合は図5に示したようにワイピングブレードの移動と共にインクもワイピングブレードへ追随してしまうので、吐出面にインクが残らずインク濃縮残渣を充分に溶解できない。
【0040】
式(1)の条件を満たしても式(2)の条件を満たさない場合はブレードの接触によりインクは引き出されるものの、ブレードの移動によりインクが吐出面に残らないのでインク濃縮残渣を溶解させる効果が少ない。
【0041】
また、式(2)の条件は満たすが式(1)の条件を満たさない場合、ブレードの接触によるインクの引き出し効果が小さいため、吐出面のインク濃縮残渣は溶解しない。
【0042】
式(1)と式(2)の関係を共に満たすようインクに対するヘッドの吐出面とワイピングブレードの前進接触角と付着エネルギーの関係を適切に定めることで吐出面のインク濃縮残渣を溶解するのに充分な効果を得ることができる。
【0043】
即ち、本発明は、インクと吐出面およびインクとワイピングブレードとの相互作用に着目し、その関係を規定することによって初めて実現できるのである。
【0044】
次に、本発明にかかる装置の実施形態についてそれぞれ説明し、本発明を詳細に説明する。
【0045】
(装置の実施形態)
図6は本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタの主要部の模式的な斜視図である。
【0046】
図示のインクジェット記録装置において、キャリッジ100は無端ベルト5に固定され、かつガイドシャフト3に沿って移動可能になっている。無端ベルト5は一対のプーリ503に巻回され、一方のプーリ503にはキャリッジ駆動モーター(不図示)の駆動軸が連結されている。従って、キャリッジ100は、モーターの回転駆動に伴いガイドシャフト3に沿って図の左右方向に往復主走査される。キャリッジ100上には、インクタンク2を着脱可能に保持するカートリッジ形態の記録ヘッド1が搭載されている。
【0047】
図7は図6のキャリッジ100に搭載可能な記録ヘッド1の一構成例を示す斜視図、図8は記録ヘッド1の構成要素であるヘッドユニットの一構成例を示す分解斜視図である。
【0048】
本例に係る記録ヘッド1は、インクを吐出する吐出口の配列を有したヘッドユニット400と、インクを貯蔵し、ヘッドユニット400にインクを供給するインクタンク410とを有している。記録ヘッド1は、ヘッドユニット400に設けられたインク吐出口列が記録媒体としての用紙6と対向し、かつ上記配列方向が主走査方向と異なる方向(例えば記録媒体6の搬送方向である副走査方向)に一致するようにキャリッジ100に搭載される。
【0049】
インク吐出口列およびインクタンク410の組は、使用するインク色に対応した個数を設けることができる。
【0050】
図示の例では6色(例えばブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、淡シアン(PC)および淡マゼンタ(PM))に対応して6組設けられている。
【0051】
ここに示す記録ヘッド1では、各色独立のインクタンク410が用意されており、それぞれがヘッドユニット400に対して着脱自在となっている。
【0052】
ヘッドユニット400は、図8に示すように、記録素子基板420、第1のプレート430、電気配線基板440、第2のプレート450、タンクホルダ460および流路形成部材470から構成されている。
【0053】
各色インクの吐出口列を有する記録素子基板420は、酸化アルミニウム(Al2O3)を材料とする第1のプレート430上に接着固定されており、ここには記録素子基板420にインクを供給するためのインク供給口431が形成されている。さらに、第1のプレート430には、開口部を有する第2のプレート450が接着固定されている。この第2のプレート450は、インクを吐出するための電気信号を印加する電気配線基板440と記録素子基板420とが電気的に接続されるように電気配線基板440を保持している。
【0054】
一方、インクタンク410を脱着可能に保持するタンクホルダ460には流路形成部材470が超音波溶着され、インクタンク410から第1のプレート430にわたるインク流路(不図示)を形成している。
【0055】
図9は、図8に示す記録素子基板420において、一色についての吐出口列付近の構造を、部分的に破断して示す斜視図である。
【0056】
図7において、421はインクを吐出するために利用されるエネルギーとして、通電に応じインクに膜沸騰を生じさせる熱エネルギを発生する発熱素子(ヒータ)である。また、ヒータ421が実装される基体423上には、ヘッドユニット400の温度を検出する温度センサ428と、当該検出温度に応じてヘッドないしインクを保温するためのサブヒータ(不図示)と、が設けられる。422はインク吐出口、426はインク流路壁である。
【0057】
425は各ヒータに対向した状態でインク吐出口426が形成された吐出口プレートであり、樹脂の被膜層427を介して基体423上に配設される。また、吐出口プレート425の表面(記録媒体と対向する吐出面)には、所望の撥水材が設けられている。
【0058】
本例においては、ヒータ421ないし吐出口422の列が2列配置され、各列間のヒータ421ないし吐出口422同士は配列方向すなわち副走査方向に配列ピッチの1/2だけずれて配置されている。ここで、1列あたり128個のヒータ421ないし吐出口422が600dpiの密度で配列されることで、1色のインクあたり1200dpiの解像度を実現している。そして、上記6色に対応した記録素子基板構成が第1のプレート430上に配置される。
【0059】
図10(a)〜(g)を用い、記録素子基板および吐出面の作成方法について説明する。
【0060】
図10(a)および(b)は、それぞれ、記録素子基板420の模式的斜視図およびそのB−B’線の模式的断面図であり、複数のヒータ421がシリコン等でなる基体1上に配置されている(ヒータに通電を行うための電極等は不図示)。
【0061】
図10(c)は、図10(b)で示した基体423上に、ポジ型レジストによりインク流路パターン形成材433を配置した図である。このインク流路パターン形成材433は、各吐出口へ供給するインクを一時保持するための共通液室と、この共通液室から複数に分岐し、ヒータにより膜沸騰を起こさせるインクの流路を構成するためのパターンに対応している。
【0062】
図10(d)は、図10(c)で示したインク流路パターン形成材433の上にネガ型レジストからなるノズル形成材料434とフッ素およびシロキサン分子を含むネガ型レジストである撥水材料435を形成した状態を示す図である。本実施形態では、これら材料によって吐出口プレート425が形成されることになる。
【0063】
このように撥水材料435を用いることにより、吐出面に撥水性を持たせることが可能となる。あるいは、この工程において、ノズル形成材料に組み合わせる材料を変更することにより、吐出面を所望の表面特性に変化させることが可能である。
【0064】
図10(e)は、図10(d)の状態に対し、フォトリソグラフィ法によりインク吐出口422およびこれに通じるインク路を形成した状態である。さらに図10(f)は、図9(e)の状態に対し、吐出口形成面側等を適切に保護しながら、基体423の裏面側よりシリコンの異方性エッチングによりインク供給口424を形成した状態を示す図である。
【0065】
図10(g)は、図10(f)の状態に対し、インク流路パターン形成材4333を溶出させ、記録素子基板を完成させた状態を示している。そしてこのように完成した記録素子基板420を第1のプレート430上に配置し、さらに各部との接続や電気的実装等を行うことで、図6に示した構成が得られる。
【0066】
再び図6を参照するに、記録媒体6は、キャリッジ100のスキャン方向と直交する方向に間欠的に搬送される。
【0067】
記録媒体6は搬送方向の上流側および下流側にそれぞれ設けた一対のローラユニット(不図示)により支持され、一定の張力を付与されてインク吐出口に対する平坦性を確保した状態で搬送される。そして、キャリッジ100の移動に伴うヘッドユニット1の吐出口の配列幅に対応した幅の記録と、記録媒体6の搬送とを交互に繰り返しながら、記録媒体6全体に対する記録が行われる。また、図示の装置には、キャリッジの主走査方向上の移動位置を検出するなどの目的でリニアエンコーダ4が設けられている。
【0068】
キャリッジ100は、記録開始時または記録中に必要に応じてホームポジションで停止する。ホームポジション付近には、キャップや、図11について後述するクリーニング装置を含むメンテナンス機構7が設置されている。キャップは昇降可能に支持されており、上昇位置では、ヘッドユニット1の吐出面をキャッピングし、非記録動作時等においてその保護を行う、あるいは吸引回復を行うことが可能である。記録動作時にはヘッドユニット1との干渉を避ける下降位置に設定され、また吐出面との対向によって予備吐出を受けることが可能である。
【0069】
図11は本発明に係るクリーニング装置の一例を示す模式的側面図である。
【0070】
ゴム等の弾性部材でなるワイピングブレード9Aおよび9Bがワイパホルダ10に固定されており、ワイパホルダ10は図の左右方向(記録ヘッド1の主走査方向と直交する、インク吐出口が配列された方向)に移動可能である。
【0071】
ワイピングブレード9Aおよび9Bは高さが異なっており、記録ヘッド1の吐出面11との摺接時に、前者は比較的大きく屈曲して側部(腹部)が、後者は比較的小さく屈曲して先端部(エッジ部)が摺接するようになっている。本発明の規定を満たすブレードは9Aのみでも、9Aおよび9Bともにでも構わない。
【0072】
クリーニング動作にあたっては、記録ヘッド1をホームポジションに設定した後、ワイパホルダ10を矢印方向に移動させる。この移動の過程で、まず比較的長いワイピングブレード9Aがまず吐出面11に摺接し、比較的短いワイピングブレード9Bがこれに続くことになる。
【0073】
ワイプホルダ10の移動速度は、実用的な範囲であれば効果の発現は可能である。具体的には20mm/sec〜300mm/secの範囲が好ましい。
【0074】
図12はこの過程の説明図である。ワイピングブレード9Aは比較的大きく屈曲してその側部(腹部)が吐出面11に摺接し、ノズルから吐出面へインクを引き出し、吐出面にインクを残しながら移動する。そしてこの状態でワイピングブレード9Bの先端部(エッジ)が吐出面11に当接することで、インク残渣の溶解物を効率的に掻きとって行き、記録ヘッドのクリーニングが行われる。
【0075】
また本発明における関係式(1)および式(2)を満たすためにブレード表面の特性を制御する一手段として、ワイピングブレードの部材を親水化処理する方法が挙げられる。
【0076】
こうした親水性の表面を形成する方法としては、ブレード部材にシラン系化合物をコーティングし吸着させるシランカップリング法や、ナイロン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール等の親水性のポリマーをブレード部材にコーティング、グラフト化したり、ゴム表面に予めプラズマ処理を行ったり、これに更にモノマー浸漬後、表面にポリマーを成長させたりする、所謂表面改質によって親水化したものが例としてあげられる。
【0077】
ブレード部材に親水化処理する従来例の特許文献5には、水による静的接触角を30°以下ににすることによって、ごみ、ほこり、増粘インクを取り除く回復方法に関する開示がされている。しかし、インクと吐出面、インクとブレードとの関係については記載されていない。
【0078】
特許文献5には、水による静的接触角を30°以下ににすることによって、ごみ、ほこり、増粘インクを取り除く回復方法に関する開示がされている。しかし、インクと吐出面、インクとブレードとの関係については記載されていない。
【0079】
さらに、本発明者らによる検証の結果、ただブレードを親水化するだけでは、インクによっては不必要にノズルからインクが引き出されるため、回復装置周りへのインク汚染およびインク消費量の増大が引き起こされることがわかった。本発明の範囲内であれば、このような弊害を生じさせずに充分なクリーニング効果を得ることができる。
【実施例1】
【0080】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。尚、文中「部」又は「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
インク
分散体1の調製
比表面積が220m2/gでDBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラックカーボンブラック10部、スチレン−アクリル酸共重合体ポリマー(酸価200mgKOH/g、重量平均分子量9,000、固形分20%の水溶液、中和剤:水酸化カリウム)30部、純水60部を混合した。次に、これをバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズを200部充填し、水冷しつつ、5時間分散処理を行った。得られた分散液を遠心分離機にかけ粗大粒子を除去し、顔料濃度10%の分散体1を得た。
分散体2の調製
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で4−アミノフタル酸1.5gを加えた。次に、この溶液が入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かした溶液を加えた。この溶液を更に15分間撹拌後、比表面積が220m2/gでDBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。その後、更に15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、自己分散型カーボンブラックを調製した。更に、上記で得られた自己分散型カーボンブラックに水を加えて顔料濃度が10質量%となるように調製し、分散体2を得た。
インク1〜7の調製
上記分散体1および2を用いて、下記表1に示す組成のインク1〜7を作製した。
【0081】
具体的な調製方法としては、下記成分を混合し、十分攪拌後、ポアサイズ3μmのミクロフィルター(アドバンテック製 C300A)にて加圧濾過をすることによりインクを調製した。水溶性有機溶剤としてはグリセリンおよびエチレングリコールを、界面活性剤としては、アセチノールE100(商品名:川研ファインケミカル製)およびZonyl FSO−100(商品名:デュポン社製)を使用した。(「アセチレノール」は登録商標)
【0082】
【表1】
【0083】
評価用ヘッド
評価に使用した記録ヘッドはキヤノン株式会社製のインクジェットプリンタ「PIXUS Pro9500」に搭載されているものを用いた。(「PIXUS」は登録商標)
ワイピングブレード
本実施例では、下記物性のブレードをプラズマ処理装置にて親水化処理を行いブレードAとした。
【0084】
材質:ポリエーテルウレタン、厚み0.5mm、幅9mm、硬度75°
また、親水化処理しない上記物性のブレードをブレードBとした。
【0085】
【表2】
【0086】
前進接触角・付着エネルギーの測定
上記の方法により作製したインク・ワイピングブレードと評価用ヘッドを用いて、ワイピングブレードのインクに対する前進接触角とヘッド吐出面のインクに対する前進接触角およびワイピングブレードのインクに対する付着エネルギーとヘッド吐出面のインクに対する付着エネルギーをそれぞれ測定した。前進接触角・付着エネルギーの測定は、固液界面解析装置DropMaster700(協和界面化学製)を用い測定した。結果を表2に示す。温度23℃、湿度55%の環境下において、液滴サイズを25μL、滑落認識設定を2dotに設定し滑落法による前進接触角と付着エネルギーを測定した。
評価用プリンタ本体
評価に使用したプリンタ本体は、キヤノン株式会社製のインクジェットプリンタ「PIXUS Pro9500」の回復系を改造し、ワイプ後のヘッド吐出面を観察できるようにした。
【0087】
上記実施例インク1〜6を評価用プリンタ本体の記録ヘッドのタンク位置に、さらに親水化処理を行ったブレードAを評価用プリンタ本体に装着し評価に使用した。装着したワイピングブレードの自由長と侵入量は下記の条件とした。ここで、自由長とはワイピングブレードとブレード支持部の境界からブレード先端までの長さであり、侵入量とは吐出面の位置からワイピングブレード先端までの高さである。
ワイピングブレード Aの装着条件
自由長:5mm、侵入量:1.75mm(ワイパー腹部が摺接するよう調整)
比較例
比較例として上記表2のインクとワイピングブレードの組み合わせにより、実施例と同じ装着条件で評価を行った。この比較例は式(1)と式(2)の両方の条件、あるいは式(1)、式(2)のいずれかの条件を満たしていない。
【0088】
【表3】
【0089】
評価結果
評価は温度条件25℃におけるワイプ前後でのヘッド吐出面を観察することで行った。実施例および比較例の試験結果を表3に示す。なお、評価は次の3段階とした。
【0090】
AA:ノズル周囲にインクが充分存在し、インク濃縮残渣が溶解されている。
【0091】
A:ノズル周囲にインクが存在し、インク濃縮残渣が一部溶解されている。
【0092】
B:ノズル周囲のインク濃縮残渣が溶解されずに吐出面に残っている。
【0093】
式(1)および式(2)を満たす実施例1〜6ではインク濃縮残渣が溶解されていることが確認できた。また、θa1−θa2>16°および式(2)を満たす実施例2〜5ではさらに充分量のインク濃縮残渣が溶解されていることが確認された。
【0094】
実施例1〜6、および比較例1〜8のインクとワイピングブレードの組み合わせにおいて、PIXUS Pro9500(キヤノン(株)製)に搭載し5000枚印字を行った後の印刷画質を評価したところ、比較例1〜8よりも実施例1〜6の方が画像品位は良好であった。
【符号の説明】
【0095】
1 インクジェット記録ヘッド
2 インクタンク
3 ガイド軸
4 リニアエンコーダ
5 ベルト
6 記録媒体
9、9A、9B ワイパブレード
10 ワイパホルダ
11 吐出面
12 ヘッド用液体供給装置
14 ヘッド用液体補充装置
100 キャリッジ
400 ヘッドユニット
410 インクタンク
420 記録素子基板
421 ヒータ
422 吐出口
425 吐出口プレート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクをノズルより吐出するインクジェット記録ヘッドの表面に付着した付着物をワイピングブレードにより除去するインクジェット記録ヘッドクリーニング方法において、
前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの前進接触角をθa1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの前進接触角をθa2とする時、θa1−θa2>13 (degree) の条件を満たし、かつ
前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの付着エネルギーをE1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの付着エネルギーをE2とする時、E1−E2>0.7 (mJ/m2) の条件を満たすことを特徴とするインクジェット記録ヘッドクリーニング方法。
【請求項2】
インクをノズルより吐出するインクジェット記録ヘッドの表面に付着した付着物をワイピングブレードにより除去する手段を備え、
前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの前進接触角をθa1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの前進接触角をθa2とする時、θa1−θa2>13 (degree) の条件を満たし、かつ
前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの付着エネルギーをE1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの付着エネルギーをE2とする時、E1−E2>0.7 (mJ/m2) の条件を満たす前記インクジェット記録ヘッド、前記インク、前記ワイピングブレードを用いることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項1】
インクをノズルより吐出するインクジェット記録ヘッドの表面に付着した付着物をワイピングブレードにより除去するインクジェット記録ヘッドクリーニング方法において、
前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの前進接触角をθa1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの前進接触角をθa2とする時、θa1−θa2>13 (degree) の条件を満たし、かつ
前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの付着エネルギーをE1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの付着エネルギーをE2とする時、E1−E2>0.7 (mJ/m2) の条件を満たすことを特徴とするインクジェット記録ヘッドクリーニング方法。
【請求項2】
インクをノズルより吐出するインクジェット記録ヘッドの表面に付着した付着物をワイピングブレードにより除去する手段を備え、
前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの前進接触角をθa1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの前進接触角をθa2とする時、θa1−θa2>13 (degree) の条件を満たし、かつ
前記インクジェット記録ヘッド表面と前記インクの付着エネルギーをE1、前記ワイピングブレード表面と前記インクの付着エネルギーをE2とする時、E1−E2>0.7 (mJ/m2) の条件を満たす前記インクジェット記録ヘッド、前記インク、前記ワイピングブレードを用いることを特徴とするインクジェット記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−284918(P2010−284918A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141357(P2009−141357)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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