説明

インクジェット記録ヘッド用配線保護封止剤、並びに、それを用いたインクジェット記録ヘッド及びその製造方法

【課題】製造工程やヘッド構造が複雑化せず、1種類の封止剤のみを用いた場合であっても生産性が落ちず、電気接続部の封止に対する信頼性が極めて高いインクジェット記録ヘッド用配線保護封止剤、並びにそれを用いた記録ヘッド及びその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも式1で示されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び光カチオン重合開始剤を含みエポキシ樹脂の総質量を100質量部としたときに該ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂が15〜40質量部含まれるインクジェット記録ヘッド用配線保護封止剤。及び該封止剤を用いた記録ヘッド及びその製造方法。


(nは0以上2以下の整数を表す)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッド用配線保護封止剤、並びに、それを用いたインクジェット記録ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、吐出口から記録紙に対してインクを吐出することにより記録を行なう記録装置であり、通常、吐出口からインクを吐出するインクジェット記録ヘッドと、この記録ヘッドに対してインクを供給する供給部材(供給系)とから構成されている。また、この記録ヘッドは、通常、吐出素子基板と、配線部材と、支持部材とから構成されている。
【0003】
インクジェット記録装置を用いた代表的な記録方法としては、電気熱変換素子を用いた方法があり、この方法は以下のようにして記録紙に記録を行なうものである。吐出素子基板の吐出口付近に設けられた加圧室に電気熱変換素子を設け、これに駆動信号となる電気パルスを印加することによりインクに熱エネルギーを与える。そして、その時のインクの相変化により生じるインクの発泡(沸騰)の圧力を利用して微小な吐出口からインクを吐出させる。上述した電気パルスは外部から配線部材(配線基板)等を用いて印加されるもので、配線基板と吐出素子基板とは、インナーリードボンディング(ILB)等により電気的な接続がされている。このような電気接続部は、吐出時に充満するインクのミスト等による電気的な接続を担う電極及び配線の腐食、ショートを防ぐために、封止剤により封止されている。
【0004】
この種のインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例として以下のものがある。
図1(a)〜(d)は、この一例の記録ヘッドの製造方法を説明するための図である。図1(a)に示すように、先ず、支持部材A(支持板)3aと支持部材B 3bとを互いに接合させて、吐出素子基板及び配線基板を支持するための支持部材(支持基板)3を形成する。次に、図1(b)に示すように、支持部材3に、吐出素子基板2a及び2bを接合する。そして、図1(c)に示すように、開口部を有する配線基板1を、その開口部の内側に吐出素子基板2a及び2bが配置されるように、支持基板3上に接合する。即ち、配線基板1及び支持板3aは、吐出素子基板2a及び2bを囲むように配置される。そして、吐出素子基板の駆動電極(不図示)と、配線基板の接続電極(不図示)とを、インナーリード線等で電気接続する。より具体的には、吐出素子基板のパッド上にめっきあるいはボールバンプを形成し、このめっきあるいはバンプに配線基板側のインナーリード線を接続する。最後に、図1(d)に示すように、吐出素子基板と配線基板1との間の電気接続部に封止剤4a及び4bを塗布することにより、この接続部を封止する。
【0005】
ところで、吐出素子基板と配線基板との間の電気接続部に用いられる封止剤は、通常、インナーリード線を境にして上側(表面側)と下側(支持部材側)で異なる性質を有することが望まれる。具体的には、インナーリード線より下側では、インナーリード線の上側から封止剤を塗布した際に、リード線の隙間を通ってリード線の裏側まで封止剤がまわり込み、その封止剤によって裏側まで良好に封止することが望まれる。このため、リード線より下側では、この条件を満たす低い粘度の封止剤を用いることが好ましい。
一方、インナーリード線より上側に、このような低い粘度の封止剤を用いた場合には、必要以上の封止剤がリード線上から流れ出すことがあり、リード線の上部を十分に封止することが出来ないことがある。このため、インナーリード線より上側では、インナーリード線の上に一定量以上の封止剤が残り、残存した封止剤によってインナーリード線の上側において良好な封止を行うことができる高い粘度の封止剤を用いることが望まれる。また、インナーリード線より上側では、記録ヘッドの吐出口付近のワイピング時に生じる、ブレードによる電気接続部分への擦れに対して耐久性を有することが望まれることから、封止剤はその硬化後に高粘弾性を有していることが望ましい。即ち、リード線より上側では、高い粘度を有し、かつ硬化した後に高弾性率を有する封止剤を用いることが望まれる。
以上のような理由から、従来、2種類の封止剤が用いられている。図1(d)では、インナーリード線の上側に用いる封止剤として封止剤4a、下側に用いる封止剤として封止剤4bを用いている。
【0006】
インナーリード線の上側に用いることができ、低い硬化温度を可能にし、印字品質及び高信頼性が得られる封止剤として、カチオン反応性が良好な脂環式エポキシとオキセタンを含有する光熱併用カチオン硬化性樹脂組成物が特許文献1に開示されている。
【0007】
しかしながら、上述のようなインナーリード線の封止に際して、封止剤の粘度の異なる2種類の封止剤を用いると、封止剤の塗布工程やその後の熱硬化工程などの製造工程が複雑になる傾向がある。特に、性質の異なる封止剤を連続して使用するために、熱硬化の条件もより厳密となる。また、その厳密な条件を満たすことができず硬化状態が不安定な場合には、2種類の封止剤が相溶しあって効果が不十分になることもある。
【0008】
このような現象に対して、以下の工程を有する記録ヘッドの製造方法が特許文献2に開示されている。この工程では、活性エネルギー線硬化性組成物を封止剤に用いて、電気接続部に対して活性エネルギー線硬化性組成物の付与を開始してから終了するまでの間に、活性エネルギー線を照射することで1種類の封止剤で電気接続部の封止を完結している。
【0009】
この工程では、活性エネルギー線硬化性組成物は、活性エネルギー線の照射後、封止剤の硬化が始まるまでに、所定の時間の経過を要するので、その間に封止剤がリード線の下側にまわり込むことができる。その結果、リード線の下側に必要な量の封止剤を付与することができる。その後、活性エネルギー線硬化性組成物は、硬化が始まり徐々に硬化する。これにより、この組成物はリードの下側に流れ込んだり、封止箇所以外に流れ出したりすることなく、リード線の上側に徐々に堆積して十分な厚みの封止剤を付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−331334号公報
【特許文献2】特開2010−000700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した文献1及び2に開示されている樹脂組成物は、現状のインクジェット記録ヘッド構成において、十分な生産性と信頼性を兼備している。しかしながら、今後印字品質の向上(インク着弾精度)を目的とするインク吐出口−メディア間の隙間の縮小や、画像品位向上を目的とする高浸透性インク(極性溶剤変更及び増量等)の使用が想定され、電気接続部の封止にはより高い信頼性が求められている。
【0012】
また、文献2において開示された、1種類の封止剤による封止工程では、封止剤として用いる活性エネルギー線硬化性組成物が以下の性質を有することが望まれている。即ち、活性エネルギー線照射直後は硬化が進まず、リード線下側を埋めた後に徐々に硬化が進み、加熱工程を経た後には、インクに接する環境において電気接続部の信頼性が得られるほどの良好な電気特性を有することが望まれている。すなわち、反応性は遅くしながら(遅延硬化性)、最終硬化物は電気特性が極めて高いという非常に稀な設計が望まれ、このような特性に対して、業界でのニーズは少なく、ましてや材料設計の知見は極めて少ない。
【0013】
そこで本発明の目的は、以下の通りである。製造工程やヘッド構造が複雑化せず、1種類の封止剤のみを用いた場合であっても生産性が落ちず、電気接続部の封止に対する信頼性が極めて高いインクジェット記録ヘッド用配線保護封止剤、並びにそれを用いた記録ヘッド及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成する本発明は、
〔1〕少なくとも以下の式1で示されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂と、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、光カチオン重合開始剤とを含むインクジェット記録ヘッド用配線保護封止剤であって、
該配線保護封止剤に含まれるエポキシ樹脂の総質量を100質量部としたときに、該ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂が15質量部以上40質量部以下含まれることを特徴とする。
【0015】
【化1】

【0016】
(nは、0以上2以下の整数を表す)。
【0017】
〔2〕また、本発明は、少なくとも、インクを吐出する吐出口を有するノズル部と、該吐出口からインクを吐出させるためのエネルギーを発生させるエネルギー発生手段と、該エネルギー発生手段を駆動するための駆動信号を受け取る駆動電極と、該ノズル部にインクを供給するためのインク供給口を備えた基板とを具備する吐出素子基板と、該エネルギー発生手段を駆動するための駆動信号を送るための接続電極を備える配線部材と、該インク供給口にインクを供給するためのインク供給流路を有しかつ該吐出素子基板及び該配線部材を保持固定する支持部材とを具備し、該駆動電極と該接続電極とが互いに電気接続されており、該駆動電極と該接続電極との電気接続部が1種以上の配線保護封止剤によって封止されたインクジェット記録ヘッドであって、
該配線保護封止剤の少なくとも1種が、〔1〕に記載の配線保護封止剤であることを特徴とする。
【0018】
〔3〕さらに、本発明は、少なくとも、インクを吐出する吐出口を有するノズル部と、該吐出口からインクを吐出させるためのエネルギーを発生させるエネルギー発生手段と、該エネルギー発生手段を駆動するための駆動信号を受け取る駆動電極と、該ノズル部にインクを供給するためのインク供給口を備えた基板とを具備する吐出素子基板と、該エネルギー発生手段を駆動するための駆動信号を送るための接続電極を備える配線部材と、該インク供給口にインクを供給するためのインク供給流路を有しかつ該吐出素子基板及び該配線部材を保持固定する支持部材とを具備し、該駆動電極と該接続電極とが互いに電気接続されており、該駆動電極と該接続電極との電気接続部が配線保護封止剤によって封止されたインクジェット記録ヘッドを製造する方法であって、
該電気接続部に、該配線保護封止剤を付与した後、または付与し始めてから終了するまでの間に、該配線保護封止剤に活性エネルギー線を照射する工程を含み、
該配線保護封止剤として、少なくとも〔1〕に記載の配線保護封止剤を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下のものが提供できる。即ち、製造工程やヘッド構造が複雑化せず、1種類の封止剤のみを用いた場合であっても生産性が落ちず、電気接続部の封止に対する信頼性が極めて高いインクジェット記録ヘッド用配線保護封止剤、並びにそれを用いた記録ヘッド及びその製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】インクジェット記録ヘッドの製造方法の一従来例を説明するための図である。
【図2】本発明のインクジェット記録ヘッドの一実施形態の構成を示す斜視図であり、(a)は分解図、(b)は組立完成図である。
【図3】本発明の製造方法の第一の実施形態における、2種類の封止剤の塗布前の状態を示す図であり、(a)は吐出口側の平面図の部分拡大図、(b)は(a)に示すB−B’断面の部分拡大図である。
【図4】本発明の製造方法の第一の実施形態における、封止剤Bを塗布した後の状態を示す図であり、(a)は吐出口側の平面図の部分拡大図、(b)は(a)に示すB−B’断面の部分拡大図である。
【図5】本発明の製造方法の第一の実施形態における、封止剤Aを塗布した後の状態を示す図であり、(a)は吐出口側の平面図の部分拡大図、(b)は(a)に示すB−B’断面の部分拡大図である。
【図6】本発明の製造方法の第二の実施形態における、封止剤の塗布前の状態を示す図であり、(a)は吐出口側の平面図の部分拡大図、(b)は(a)に示すC−C’断面の部分拡大図である。
【図7】本発明の製造方法の第二の実施形態における、封止剤を塗布した後の状態を示す図であり、(a)は吐出口側の平面図の部分拡大図、(b)は(a)に示すC−C’断面の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<インクジェット記録ヘッド用配線保護封止剤>
本発明のインクジェット記録ヘッド用配線保護封止剤(配線保護封止剤または封止剤と称することもある)は、記録紙に対して記録液(インク)を吐出することにより記録を行うインクジェット記録装置に搭載されるインクジェット記録ヘッドに用いられる。
【0022】
本発明の封止剤は、少なくとも、以下の式1で示されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、及び光カチオン重合開始剤を含む。
【0023】
【化2】

【0024】
(nは、0以上2以下の整数を表す)。
【0025】
以下に、本発明の配線保護封止剤の構成材料について詳しく説明する。
【0026】
(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂)
本発明で用いる上記ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、一般的なエポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂)と比較してエポキシ当量が高い。
【0027】
また、近年、樹脂硬化物の吸湿性について、硬化物中の酸素の割合が少ない程、吸湿が抑制されることが知られている。本発明では、式1に示すエポキシ当量の高いエポキシ樹脂を用いることによって、樹脂硬化物中の酸素割合を従来と比較して少なくすることができ、樹脂硬化物の吸湿を抑制することができる。更に、水分が大半を占めるインクに対しても同様の効果が得られ、吸湿性と同様に吸インク性を抑制することができる。また、封止剤中に前記ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の含有量が多いほど、樹脂硬化物、即ち封止剤硬化物のインク吸収が抑制され、電気特性は有利となる。
【0028】
なお、前記ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、封止剤硬化物の良好な硬化特性(耐吸インク性、接着性等)を得るため、分子構造中にエポキシ基を2つ以上有する、即ち2官能以上であることが好ましい。更には、分子構造中にエポキシ基を3つ以上有する、即ち官能基数の多い3官能以上のタイプであることがより好ましい。
【0029】
前記ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、封止剤に含まれるエポキシ樹脂(エポキシ化合物)の総質量を100質量部としたときに、封止剤中に15質量部以上40質量部以下含まれる。なお、封止剤中のエポキシ樹脂の総質量には、少なくとも式1に示すジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の質量と、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂の質量とが含まれる。また、封止剤中にその他のエポキシ樹脂を添加した場合は、このその他のエポキシ樹脂の質量も含まれる。
【0030】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の含有量が15質量部未満の場合は、期待されるインクの吸収に対する抑制の効果が薄れる。また、40質量部より多い場合は、エポキシ当量が高いエポキシ樹脂を多量に含むことになるため、活性エネルギー線(例えば、紫外線)照射後の硬化が速過ぎて、樹脂の流動性を維持できなくなり、電気接続部の封止に不具合を生じる場合がある。
【0031】
また、封止剤中のエポキシ樹脂の合計含有率は、良好な電気特性を得る観点から60質量%以上とすることが好ましい。
【0032】
(水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂)
本発明に用いる水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、分子構造中に、エポキシ基と、水添ビスフェノールA構造(ビスフェノールAを水素化することにより得られる式3に示す構造)とを有していれば良い。
【0033】
【化3】

【0034】
このように、本発明で用いる水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、ビスフェノールAにおける芳香環の二重結合が水素化されているため、π電子による電子の移動が抑制され、硬化物の抵抗値を高めることができる。
【0035】
前記水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、市販の水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることができる。しかし、粘度調整のために通常用いられる反応性希釈剤の含有量を抑える観点から、以下の式2で示される液状の水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0036】
【化4】

【0037】
(mは、0または1を表す)。
【0038】
封止剤中の水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂の含有量は、封止剤に含まれるエポキシ樹脂の総質量を100質量部としたときに、35質量部以上であることが好ましく、80質量部以下であることが好ましい。35質量部以上であると、その他のエポキシ樹脂(例えば、反応性希釈剤等)の含有量が非常に多くなることを容易に防ぐことができ、所望の硬化特性を容易に得ることができる。80質量部以下であれば、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂のインク吸収に対する抑制効果を容易に得ることが出来る。
【0039】
(光カチオン重合開始剤)
本発明に用いる光カチオン重合開始剤の具体例としては、芳香族オニウム塩[J.POLYMER SCI:Symposium No. 56 383−395(1976)参照]、チバガイギー社より上市されているイルガキュアー261(登録商標)、ADEKA(旧旭電化工業)より上市されているSP−150(商品名)、SP−170(商品名)、日本シーベルヘグナーより上市されているトリアジンA(商品名)、トリアジンPMS(商品名)、トリアジンPP(商品名)、トリアジンB(商品名)、ローディアジャパンより上市されているPhotoiniciator 2074(商品名)等が挙げられる。この他にも、インクジェット記録ヘッドの分野で公知の光カチオン重合開始剤を適宜使用することができる。
【0040】
封止剤中の光カチオン重合開始剤の含有量は、硬化後、十分な電気特性を得るという観点から0.5質量%以上、活性エネルギー線照射直後は流動性を維持するという観点から5.0質量%以下とすることが好ましい。
【0041】
(その他のエポキシ樹脂及び添加剤)
封止剤には、上述した2種類のエポキシ樹脂及び光カチオン重合開始剤の他に、以下のエポキシ樹脂や添加剤を含むことができる。
【0042】
例えば、封止剤の粘度調整のために、本発明の効果を妨げない範囲でエポキシ樹脂等の反応性希釈剤を添加しても良い。反応性希釈剤としては、例えば、エポキシ樹脂である、商品名:デナコールEX−121(ナガセケムテックス社製)や商品名:ED509−S(ADEKA社製)等を好適に用いることができる。
【0043】
また、封止剤には、光カチオン重合開始剤の他に、熱カチオン重合開始剤を含むこともできる。熱カチオン重合開始剤の具体例としては、三新化学工業より上市されているサンエイドSI−60L(商品名)、サンエイドSI−80L(商品名)、サンエイドSI−100L(商品名)、ADEKA(旧旭電化工業)より上市されているCP−66(商品名)、CP−77(商品名)等を挙げることができる。また、芳香族オニウム塩と還元剤とを併用することもできる(特開昭54−102394号公報、J.POLYMER SCI:Polymer Chemical Edition Vo1121,97−109(1983)参照)。
【0044】
また、本発明の封止剤には、反応性希釈剤や熱カチオン重合開始剤の他にも様々な添加剤を必要に応じて用いることができる。例えば、密着性向上剤としてのシランカップリング剤や、粘度調整のためのフィラー等が挙げられる。
シランカップリング剤の具体例としては、A−186、A−187(いずれも商品名、日本ユニカー社製)等が好適に用いられる。
【0045】
更に、本発明では、必要に応じて、粘度調整のために石英などの微細フィラーを添加しても良い。
【0046】
しかしながら、本発明の封止剤は、グリシジルエーテル型ではないカチオン反応性の高い脂環式エポキシ基を2官能以上有する脂環式エポキシ樹脂を含まないことが好ましい。封止剤中にカチオン反応性が非常に高いこの脂環式エポキシ樹脂を含まなければ、重合反応の開始による樹脂の流動性の急激な低下を容易に防ぐことができる。その結果、電気接続部を封止剤で封止する際に、気泡の抱き込みや完全に被覆が出来ない等の不具合の発生を容易に防ぐことができる。さらに、本発明の封止剤は、エポキシ樹脂として、分子構造中にグリシジルエーテル型エポキシ基のみを有するエポキシ樹脂のみを含むことがより好ましい。グリシジルエーテル型エポキシのみを含むことで電気接続部を封止する際の不具合の発生を容易に抑えることができる。
【0047】
本発明の封止剤は、エポキシ樹脂として、少なくとも水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、特定量の上記ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂とを含有する為、樹脂中の酸素の割合を低く抑えることができ、硬化物の吸インク性を極めて高いレベルで抑制できる。その結果、インクジェット記録ヘッドの電気接続部にこの封止剤を用いた場合に、インクの吸収(吸インク性)を抑制することができ、さらに、電気特性の低下や封止剤の膨潤による剥れ等を抑制することができる。
【0048】
<インクジェット記録ヘッド>
本発明のインクジェット記録ヘッドは、1種以上の封止剤によって、電極部(電気接続部)が保護(封止)される。そして、その封止剤の少なくとも1種として、本発明の封止剤が用いられる。即ち、本発明のインクジェット記録ヘッドは、電極部の少なくとも一部が本発明の封止剤で封止されることになる。
【0049】
なお、図3〜図5は、2種類の封止剤を用いて電気接続部を封止する場合を説明するための図であり、図6〜7は、1種類の封止剤のみを用いて電気接続部を封止する場合を説明するための図である。また、図3及び6は、封止剤の塗布前の状態を示す図であり、図5及び7は、封止剤によって電気接続部を封止した後の状態を示す図である。
【0050】
本発明の記録ヘッドは、図3に示すように、少なくとも配線部材(配線基板)1と、吐出素子基板2と、支持部材3とを具備する。また、図2では、吐出素子基板2及び配線部材1をそれぞれ複数、即ち、吐出素子基板2a〜c及び配線部材1a〜cを有する記録ヘッドが記載されている。なお、図2は、本発明のインクジェット記録ヘッドの実施形態の一例を示す斜視図であり、(a)は分解図、(b)は組立完成図である。この記録ヘッドには、配線基板1a〜cに対する電気信号をまとめる配線統合基板5が設けられている。
【0051】
図3に示すように、吐出素子基板2は、TAB(Tape Automated Bonding)実装によって、配線基板1と支持部材3aの開口部に組み込まれ、吐出素子基板の駆動電極11と、配線基板の接続電極10とがリード線6によって互いに電気的に接続(電気接続)されている。そして、このリード線を含む電気接続部を記録液(インク)による腐食や外部から作用する力による断線から保護するために、図5では2種類の封止剤4a及び4bによって、図2及び7では1種類の封止剤4によって電気接続部を封止している。電気接続部は、リード線6、駆動電極11及び接続電極10からなることができる。
【0052】
また、図3に示すように、吐出素子基板2は、インクを吐出する吐出口7を有するノズル部12と、記録素子(エネルギー発生手段)(不図示)と、駆動電極11と、ノズル部12にインクを供給するためのインク供給口9aを備えた基板13とを具備する。エネルギー発生手段は、吐出口から記録液を吐出するためのエネルギーを発生させる手段であり、例えば、電気熱変換素子を挙げることができる。図2〜7に示す記録ヘッドでは、各吐出素子基板にエネルギー発生手段(不図示)が複数配列されている。また、駆動電極11は、このエネルギー発生手段を駆動するための駆動信号を受け取る電極である。
【0053】
なお、図3(b)は、図3(a)に示すB−B’断面の部分拡大図であるが、図3(b)に示す吐出口7は、このB−B’断面に吐出口7が存在することを意味するものではない。
【0054】
また、図3に示すように、配線基板1は、エネルギー発生手段を駆動するための駆動信号を送るための接続電極10を備える。駆動電極及び接続電極は、リード線6を介して駆動信号の授受を行うことができる。
さらに、2つの支持部材(3a及び3b)からなる支持部材3は、インク供給口9aにインクを供給するためのインク供給流路9bを有し、かつ、吐出素子基板2及び配線部材1を保持固定する。より具体的には、吐出素子基板2が、配線基板1及び支持板3aの開口部の内側に配され、接着剤8aによって支持部材3bに接着されている。さらに、配線基板1は支持部材3aに接着剤8bにより固定されている。
【0055】
なお、配線基板1の開口部と、支持板3aの開口部とは、大きさがほぼ等しく、両者とも吐出素子基板2よりも若干大きく形成されている。図5や7では、接着剤による接着及びリード線による電気接続後に、吐出素子基板と配線基板との間に形成される隙間、及び吐出素子基板と支持板3aとの間に形成される隙間が、封止剤によって封止されている。すなわち、支持板3aの開口部のうち、吐出素子基板が設けられていない部分が、封止剤によって封止されている。
【0056】
<インクジェット記録ヘッドの製造方法>
本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、以下の工程を含むことができる。
電気接続部を封止剤で封止する前のインクジェット記録ヘッドを用意する工程。
この記録ヘッドに封止剤を塗布する塗布工程。
封止剤に活性エネルギー線を照射する照射工程。
封止剤を加熱する加熱工程。
【0057】
なお、封止剤に活性エネルギー線を照射するタイミングは適宜選択することができ、例えば、塗布工程の後に照射工程を行っても良いし、塗布工程と照射工程とを同時、即ち封止剤の付与中に活性エネルギー線の照射を行っても良い。また、封止剤の付与中及び付与(塗布)後の両者において活性エネルギー線の照射を行っても良い。
【0058】
また、本発明の製造方法では、電気接続部を保護する封止剤として、少なくとも本発明の封止剤を用いる。即ち、封止剤として本発明の封止剤のみを用いても良いし、本発明の封止剤と他の封止剤とを併用しても良い。封止剤を併用、即ち、本発明の封止剤を含む複数種類の封止剤を用いる際は、各封止剤に対して塗布工程、照射工程及び加熱工程を行うことができ、全ての封止剤を塗布した後にまとめて照射工程や加熱工程を行うこともできる。また、各封止剤に用いた原料(例えば樹脂)の性質に応じて、上記照射工程や加熱工程を省略することもできる。なお、封止剤に対する活性エネルギー線の照射条件や、封止剤の加熱条件は適宜設定することができる。
【0059】
なお、封止剤として本発明の封止剤のみを用いた場合は、塗布工程と照射工程とを同時に行うことが好ましい。即ち、電気接続部に封止剤を付与し始めてから(封止剤と電気接続部の接触が開始されてから)終了するまでの間に活性エネルギー線を封止剤に照射することが好ましい。この間(封止剤の付与中)にエネルギー線を照射することにより、電気接続部への封止剤の塗布が完了した後のみにエネルギー線を照射した場合と比べて、リード線の下側に入り込む量が非常に多くなること、及び上側に残る量が非常に少なくなることを容易に防ぐことができる。また、全ての封止剤にエネルギー線を照射した後に塗布を行う場合と比べて、照射後に封止剤が硬化するまでの時間が長くなり、リード線の下側に十分な量の封止剤を容易に入り込ませることができる。
【0060】
なお、この間(封止剤の付与)中、活性エネルギー線を封止剤に照射し続けても良いし、この間の一時にのみ、封止剤に活性エネルギーを照射しても良い。即ち、この間に少なくとも一度活性エネルギー線が封止剤に照射されれば良く、そのタイミングや照射時間等は、封止剤の硬化状況等に応じて適宜調整することができる。また、封止剤の付与後、即ち塗布工程の後に、引き続き活性エネルギー線の照射を行っても良い。
【0061】
以下、本発明の製造方法の2つの実施形態に着目して説明を行う。
【0062】
[第一の実施形態]
第一の実施形態では、本発明の封止剤と他の封止剤とを併用する。以下に、図3〜5を用いて、この第一の実施形態の一例を詳細に説明する。この一例では、本発明の封止剤を含む2種類の封止剤を用いて、記録ヘッドの電極部を封止(被覆)する。なお、図3〜5中の(a)は、インクジェット記録ヘッドの吐出素子基板近傍をインク吐出口上面より眺めた際の拡大図であり、(b)は(a)に示すB−B’断面の部分拡大図である。
【0063】
まず、図3に示す記録ヘッドを用意する。図3は、封止剤を付与する前の状態を示す図であり、吐出素子基板の駆動電極と、配線基板の接続電極とが互いにリード線によって電気的に接続されている。
【0064】
次に、図4(a)及び(b)に示すように、以下の部分が埋まるように、例えばリード線6の上側(表面側)から封止剤B 4bを塗布する(封止剤Bの塗布工程)。即ち、支持板3a及び吐出素子基板2の間の隙間(吐出素子基板2の外周部分)と、基板1及び2の電気接続部のリード線より下側(支持部材側)の部分とが埋まるように封止剤Bを塗布する。塗布後、例えば100℃で30分間、加熱を行ない、封止剤Bの表面を硬化させる(封止剤Bの加熱工程)。封止剤Bには、低粘度な樹脂が用いられ、例えば、熱硬化型または光熱併用型のエポキシ樹脂を用いることができる。封止剤Bに光熱併用型のエポキシ樹脂を用いた場合は、上述した封止材B塗布後の加熱工程を行なわず、活性エネルギー線として例えば紫外線を照射して封止材Bの表面(表層)を硬化させる(封止剤Bの照射工程)。これにより後述する封止剤Aの塗布及びエネルギー線照射の後に加熱操作を行うことで、封止剤の加熱工程を一度で済ますことができる。
【0065】
続いて、図5に示すように、封止剤A 4aとして、上述した本発明の封止剤を吐出素子基板と配線基板の電気接続部のリード線の上側(表面側)に塗布する(封止剤Aの塗布工程)。そして、封止剤Aの塗布後、若しくは、塗布と同時(封止剤の付与中)に、封止剤Aの表面を硬化できるように十分に紫外線等の活性エネルギー線を照射する(封止剤Aの照射工程)。本発明の封止剤は紫外線照射直後でも流動性を持つため、封止剤Bとの界面及びリード線との界面に気泡を抱き込まずに硬化させることができる。そして、紫外線照射終了後、2種類の封止剤をまとめて加熱し(加熱工程)、これらの封止剤を内部まで完全に硬化させる。以上より、電気接続部(リード線、駆動電極及び接続電極)が2種類の封止剤(4a及び4b)によって封止されたインクジェット記録ヘッドを得ることができる。
【0066】
なお、図3〜5では、リード線を境界として上側と下側とで異なる封止剤を用いたが、電気接続部を封止(被覆)することができ、かつ本発明の効果が得られる範囲で、この境界の位置は適宜移動することができる。
【0067】
[第二の実施形態]
第二の実施形態では、封止剤A及びBの2種類の封止剤を用いた図3〜5に示す第一の実施形態と異なり、本発明の封止剤のみを用いて電極部を封止する。この第二の実施形態を図6及び7を用いて詳細に説明する。なお、図6及び7中の(a)はインクジェット記録ヘッドにおける吐出素子基板近傍をインク吐出口上面より眺めた際の拡大図であり、(b)は(a)に示すC−C’断面の部分拡大図である。
【0068】
まず、吐出素子基板2と配線基板1とが互いにリード線6によって電気的に接続された図6に示す記録ヘッド(図3に示す記録ヘッドと同じ)を用意する。そして、図7に示すように、封止剤4として本発明の封止剤を用いて、この封止剤をリード線6の上側に塗布すると同時(封止剤の付与中)に、光源14より活性エネルギー線(例えば紫外線)を照射する。本発明の封止剤は、紫外線照射直後でも流動性を持つため、封止剤4がリード線6の隙間に流れ込みながら、リード線6の下側を封止する。更に、本発明の封止剤は徐々に硬化が進み、流動性が落ちていくため、リード線6を完全に封止(被覆)した状態で、固化する。そのまま、リード線6の上側に十分な封止厚みが得られるように塗布しながら紫外線照射を続ける。封止剤の厚みが所望の厚みとなり、かつその封止剤の表面が硬化したら(塗布工程及び照射工程)、加熱し(加熱工程)、その封止剤を内部まで完全に硬化させる。以上より、電気接続部が本発明の封止剤によって封止されたインクジェット記録ヘッドを得ることができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例、及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下において、「部」は「質量部」を意味する。
【0070】
<実施例1〜9及び比較例1〜3>
まず、実施例1〜9及び比較例1〜3について、表1に示す組成の封止剤を調製した。そして、これらの封止剤ついて、後述する紫外線照射後の流動性評価と、質量変化率の評価を行った。その評価結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
なお、表1中の化合物(樹脂)、開始剤及び添加剤は以下のものを示す。
ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物 商品名:HP7200H(大日本インキ社製)
水添ビスフェノールA型エポキシ化合物1 商品名:EP−4080S(ADEKA社製)
水添ビスフェノールA型エポキシ化合物2 商品名:YX8034(JER社製)
脂環式エポキシ化合物 商品名:セロキサイド2021P(ダイセル化学社製)
反応性希釈剤1(エポキシ化合物) 商品名:デナコールEX−121(ナガセケムテックス社製)
反応性希釈剤2(エポキシ化合物) 商品名:ED509−S(ADEKA社製)
カチオン重合開始剤1(光カチオン重合開始剤) 商品名:SP−170(ADEKA社製)
カチオン重合開始剤2(熱カチオン重合開始剤) 商品名:CP−66(ADEKA社製)
シランカップリング剤 商品名:A−186(日本ユニカー製)
以下に上記実施例及び比較例にて調製した封止剤の特性を評価する評価方法を示す。
【0073】
<紫外線照射後の流動性評価>
各実施例及び比較例で調製した封止剤をガラス板上に0.2g塗布し、150mW/cm2×4秒間紫外線を照射する。照射後、すぐにガラス板を45度に傾けて静置し、封止剤が流動している時間を測定する。このときの時間が長い程、電気接続部に塗布した際の封止剤の回り込みが良化する。そして、以下の基準に基づき、封止剤の紫外線照射後の流動性評価を行った。
◎:封止剤が流動し、1分以上流動し続ける。
○:封止剤が流動し、30秒以上1分未満の間、流動し続ける。
×:封止剤が流動しない、または30秒未満の間、流動し続ける。
【0074】
<インク浸漬保存前後の質量変化率の評価>
各実施例及び比較例で調製した封止剤を、20mm×20mm×厚み0.15mmの形状に形成したテフロンの型上に塗布し、150mW/cm2×4秒間紫外線を照射する。照射後、100℃で90分間加熱し、サンプル(封止剤)を完全硬化させる。得られた硬化サンプルを、純水/グリセリン/ダイレクトブラック154(水溶性黒色染料)=65/30/5(質量比)からなるインクに浸漬し、60℃で1週間放置する。取出し後、サンプルのインク浸漬保存前後の質量変化率(吸インク率)を測定し、以下の基準に基づき吸インク率を評価した。なお、この値が小さいほど封止剤硬化物へのインクの吸収が抑制されている。
◎:質量変化率が2質量%未満。
○:質量変化率が2質量%以上、3質量%未満。
×:質量変化率が3質量%以上。
【0075】
紫外線照射後の流動性評価では、比較例1及び3は、紫外線照射後に速硬化して流動しなかった。実施例1〜9及び比較例2では、紫外線照射後にも流動が見られた。特に、封止剤中の前記ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物の含有量が低い方が流動し続ける時間は長い傾向が見られた。
【0076】
また、インク浸漬保存前後の質量変化率評価では、比較例1及び2は、3質量%を超える高い質量変化率となった。これに対し、実施例1〜9及び比較例3においては3質量%未満を達成した。さらに、実施例1〜2及び4〜9では2質量%未満という結果となり、インク吸収を極めて高いレベルで抑制できた。
【0077】
実施例1〜9の封止剤は、紫外線照射後にも流動性を持ち(遅延硬化性)、且つその硬化物はインクを吸収し難く、インクジェット記録ヘッドの配線保護封止剤にとって重要な2つの特性を両方とも有していた。
【0078】
続いて、以下の実施例において、インクジェット記録ヘッドに本発明の封止剤を用いた場合の電気信頼性を確認した。
【0079】
<実施例10〜18>
先に説明した図3〜5に示す第一の実施形態に従い、実施例10〜18のインクジェット記録ヘッドを作製した。なお、実施例10〜18では、リード線の上側を封止する封止剤4aとして、表1に示す実施例1〜9の封止剤をそれぞれ用いた。また、リード線の下側を封止する封止剤4bとして、商品名:CV5362(パナソニック電工社製)を用いた。
これらの実施例では、配線基板上面からの厚さが全て同じ厚さ(400μm)になるように封止剤を塗布した。リード線の上側と下側の封止剤はそれぞれ、塗布後すぐに紫外線照射を実施した。紫外線照射条件はいずれも150mW/cm2×20秒間とした。そして、リード線の上側の封止剤の表面が硬化されているのを確認した後、150℃3時間の加熱を行なった。
【0080】
<信頼性評価>
実施例10〜18にて作製したインクジェット記録ヘッドの接着信頼性及び電気的な接続信頼性を評価する為に、以下の印字評価を行った。具体的には、各インクジェット記録ヘッドに、純水/グリセリン/ダイレクトブラック154(水溶性黒色染料)=65/30/5(質量比)からなるインクを充填し、60℃で2ヶ月保存後、インクジェット記録装置(商品名:MP600、キヤノン社製)に装着し、A4版の1万枚の印字評価を行った。そして、実施例10〜18にて作製したインクジェット記録ヘッドに対する信頼性を以下の基準に基づき評価した。評価結果を表2に示す。
○:かすれ、色抜けが発生しない。
×:かすれ、色抜けが発生。
【0081】
【表2】

【0082】
実施例10〜18では、1万枚の印字終了後も印字品位に問題は無く、安定した印字が可能であった。また、印字後のインクジェット記録ヘッドを取出し、電気実装部を金属顕微鏡にて観察しても、封止剤の削れや剥れ等は見られなかった。
【0083】
<実施例19〜27及び比較例4〜6>
続いて、先に説明した図6及び7に示す第二の実施形態に従い、実施例19〜27及び比較例4〜6のインクジェット記録ヘッドを作製した。なお、実施例19〜27及び比較例4〜6では、封止剤4として、それぞれ表1に示す実施例1〜9及び比較例1〜3の封止剤を用いた。これらの実施例及び比較例において、電極部(リード線)上側からの封止剤の塗布と同時、即ち封止剤の付与中に、塗布された(電極部に接触した)封止剤に対して300mW/cm2の照度で紫外線照射を行なった。紫外線照射された封止剤は、リードの隙間から徐々に吐出素子基板と支持板の隙間に流れ込みながら、電極接続部を完全に封止するまで流動し、硬化した。なお、各実施例及び比較例において、最終的にリード上側の封止剤の厚みは同じにした。そして、封止剤の表面の硬化を確認後、150℃、3時間の加熱を行ない、完全に硬化させた。
【0084】
実施例19〜27及び比較例5にて作製したインクジェット記録ヘッドに対して、上記信頼性評価を行なった結果を表3に示す。
【0085】
尚、比較例4及び6では紫外線の照射と同時に塗布された封止剤の流動性が著しく落ち、リード下に流れ込む前に硬化してしまい、電気接続部を完全に封止することはできなかった。
【0086】
【表3】

【0087】
比較例5では、印字開始から7千枚未満で印字が止まった。これに対し、実施例19〜27では、1万枚の印字終了後も印字品位に問題は無く、良好な印字品位で安定した印字が可能であった。
【0088】
比較例5では、印字中にインクを吸湿し、且つ電圧の印加された状態でマイグレーションが進行した、若しくは、インク保存により封止剤の接着性が低下し、封止剤が剥れた等の理由によりショートしたと推測される。
【0089】
以上のように、本発明の封止剤を用いれば、気泡の抱き込みを抑えて電気接続部を完全に封止し、インクに接する環境にあっても、極めて高い電気信頼性を有するインクジェット記録ヘッドを提供することができる。
【0090】
更には、電気接続部の封止に1種類の封止剤のみを用いた場合でも、封止剤の流動性と硬化性がシビアに制御されることで、生産性を落とすことなく、電気信頼性の極めて高いインクジェット記録ヘッドを提供することができる。
【符号の説明】
【0091】
1、1a〜1c 配線部材(配線基板)
2、2a〜2c 吐出素子基板
3 支持部材(支持基板)
3a 支持部材A(支持板)
3b 支持部材B
4 封止剤
4a 封止剤A
4b 封止剤B
5 配線統合基板
6 リード線
7 吐出口
8a 接着剤A
8b 接着剤B
9a インク供給口
9b インク供給流路
10 接続電極
11 駆動電極
12 ノズル部
13 インク供給口を有する基板
14 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも
以下の式1で示されるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂と、
水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、
光カチオン重合開始剤と
を含むインクジェット記録ヘッド用配線保護封止剤であって、
該配線保護封止剤に含まれるエポキシ樹脂の総質量を100質量部としたときに、該ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂が15質量部以上40質量部以下含まれることを特徴とするインクジェット記録ヘッド用配線保護封止剤:
【化1】

(nは、0以上2以下の整数を表す)。
【請求項2】
前記水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂が、以下の式2で示されるエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用配線保護封止剤:
【化2】

(mは、0または1を表す)。
【請求項3】
少なくとも、
インクを吐出する吐出口を有するノズル部と、該吐出口からインクを吐出させるためのエネルギーを発生させるエネルギー発生手段と、該エネルギー発生手段を駆動するための駆動信号を受け取る駆動電極と、該ノズル部にインクを供給するためのインク供給口を備えた基板とを具備する吐出素子基板と、
該エネルギー発生手段を駆動するための駆動信号を送るための接続電極を備える配線部材と、
該インク供給口にインクを供給するためのインク供給流路を有しかつ該吐出素子基板及び該配線部材を保持固定する支持部材と
を具備し、
該駆動電極と該接続電極とが互いに電気接続されており、該駆動電極と該接続電極との電気接続部が1種以上の配線保護封止剤によって封止されたインクジェット記録ヘッドであって、
該配線保護封止剤の少なくとも1種が、請求項1または2に記載の配線保護封止剤であることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記電気接続部が1種の配線保護封止剤によって封止されており、
該1種の配線保護封止剤が、請求項1または2に記載の配線保護封止剤である請求項3に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
少なくとも、
インクを吐出する吐出口を有するノズル部と、該吐出口からインクを吐出させるためのエネルギーを発生させるエネルギー発生手段と、該エネルギー発生手段を駆動するための駆動信号を受け取る駆動電極と、該ノズル部にインクを供給するためのインク供給口を備えた基板とを具備する吐出素子基板と、
該エネルギー発生手段を駆動するための駆動信号を送るための接続電極を備える配線部材と、
該インク供給口にインクを供給するためのインク供給流路を有しかつ該吐出素子基板及び該配線部材を保持固定する支持部材と
を具備し、
該駆動電極と該接続電極とが互いに電気接続されており、該駆動電極と該接続電極との電気接続部が配線保護封止剤によって封止されたインクジェット記録ヘッドを製造する方法であって、
該電気接続部に、該配線保護封止剤を付与した後、または付与し始めてから終了するまでの間に、該配線保護封止剤に活性エネルギー線を照射する工程を含み、
該配線保護封止剤として、少なくとも請求項1または2に記載の配線保護封止剤を用いることを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記配線保護封止剤として、請求項1または2に記載の配線保護封止剤のみを用いて、
前記活性エネルギー線を照射する工程において、前記電気接続部に、該配線保護封止剤を付与し始めてから終了するまでの間に、該配線保護封止剤に活性エネルギー線を照射する請求項5に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−91202(P2013−91202A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233737(P2011−233737)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】