説明

インクジェット記録ヘッド

【課題】簡単な構成でキャップ当接面を形成しつつインクジェット記録ヘッドに使用されるフレキシブル配線基板の小型化を実現する。
【解決手段】記録素子基板1101と、記録素子基板1101と電気的に接続されたフレキシブル配線基板1301と、それらを保持するインク供給保持部材1501とを有するものである。インク供給保持部材1501は、記録素子基板1101を配するための平坦面1503を有する。フレキシブル配線基板1301の一端が記録素子基板1101と接続され、フレキシブル配線基板1301の他端は、平坦面1503のスリットを貫通して保持されている。さらに、フレキシブル配線基板1301とスリットの間の隙間は封止材1307で塞がれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を吐出して記録動作を行うインクジェット記録装置に用いられるインクジェット記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に搭載されるインクジェット記録ヘッドは、インク滴を吐出するためのインク吐出口と、このインク吐出口にインクを供給する供給系とを有している。そして、インク吐出口に対応して設けられた吐出エネルギー発生素子(例えば電気熱変換素子や電気機械振動変換素子など)に記録信号となる電気信号を供給して吐出圧力を発生させる。このときの発生圧力は、記録媒体に対する記録を行なう微小なインク滴を微小なインク吐出口から吐出させる。
【0003】
このようなインクジェット記録ヘッドを備えた記録装置は低コストで高品位な文字や画像が出力可能であり、今ではプリンタ市場の大半を占めている。特許文献1には、現在、低価格なインクジェット記録装置に使用されるインクジェト記録ヘッドの代表的な構成例が示されている。
【0004】
また、特許文献2及び特許文献3でも示されるように、インクジェット記録へッドは、インク吐出口を備えた記録素子基板を取り囲むようにフレキシブル配線基板が取り付けられ、平坦な面を形成している。記録動作をしばらく行わない時は、インク吐出口からのインクの蒸発を防ぐためにこの平坦な面に記録装置本体のキャップ部材が当接することで、インク吐出口を外部環境から遮断している。
【0005】
図8は、従来よりインクジェット記録装置に使用されるインクジェト記録ヘッドを、記録素子基板の搭載側から見た斜視図である。このインクジェット記録へッド2001は、インク吐出口2103を備えた記録素子基板2101と、フレキシブル配線基板2301と、インクを貯留するインク貯留部2501と、を主要な構成としている。このうち、記録素子基板2101は中でも最も高価な部品で、できる限り小さくなるよう作られている。次に高価な部品であるフレキシブル配線基板2301は、その開口部2302に記録素子基板2101を収容して記録素子基板2101と電気的に接続されている。また、フレキシブル配線基板2301は、非記録時にインク吐出口2103からのインクの蒸発を防ぐために、インク吐出口2103を覆って密閉する、インクジェット記録装置本体側に設けられた弾性を有するキャップ部材との当接面を形成している。図8の点線2310は、キャップ部材の先端がフレキシブル配線基板2301に接触する部位を示すものである。このように、キャップ部材の先端は、フレキシブル配線基板2301に対して、記録素子基板2101の周囲を囲むように接触することで、インク吐出口2103を覆って密閉する。そのため、記録素子基板の小型化や電気配線の高密度化、配線数の低減化が進んでも、フレキシブル配線基板の表面には一定の広さのキャップ当接面が必要であり、フレキシブル配線基板はあまり小さくすることはできない。仮に、フレキシブル配線基板を、点線2310の内側に収まるように小さくすると、インク貯留部2501の側面にある電気接続部にフレキシブル配線基板2301を引き出す際に、フレキシブル配線基板2301と点線2310とが交差する箇所が生じてしまう。この場合、点線2310は、直接インク貯留部2501に接する部位と、フレキシブル配線基板2301と交差して接する部位と、の境界で段差が生じ、この段差からのリークにより、キャップ部材の密閉性が低下してしまう。
【特許文献1】特開2002−254661号公報
【特許文献2】特開2001−63053号公報
【特許文献3】特開2001−63057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記背景技術の課題を解決できるインクジェット記録ヘッドを提供することにある。その目的の一つは、新たな部品を必要とせず簡単な構成でキャップ当接面を形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様は、インク吐出口からインクを吐出するためのエネルギーを発生させるエネルギー発生素子を備える記録素子基板と、前記記録素子基板と電気的に接続された電気配線部材と、前記記録素子基板を搭載する搭載部と、前記搭載部に設けられた開口と、を有し、前記開口が前記電気配線部材を貫通させるインクジェット記録へッドを提供することにある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクジェット記録ヘッドにおいて、新たな部品を必要とせず簡単な構成でキャップ当接面を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0010】
本実施例の記録ヘッドは、図1に示すようにインクタンクに一体にされた構成となっている。図1中の記録ヘッド1001は、液体のカラーインク(シアンインク、マゼンタインク、イエローインク)を保持している。このインクジェット記録ヘッド1001は、インクジェット記録装置本体に載置されているキャリッジの位置決め手段および電気的接点によって固定支持される。そして、インクジェット記録ヘッド1001はキャリッジに対して着脱可能となっており、保持したインクが消費されると交換される。
【0011】
図2の分解斜視図にて、インクジェット記録ヘッドの構成要素を示す。インクジェット記録ヘッド1001は、記録素子基板1101、電気配線部材としての電気配線テープ(フレキシブル電気配線基板)1301、インク貯留部1501等により構成される。
【0012】
図3は記録素子基板1101の構成を説明するために一部破断して示す斜視図であり、記録素子基板には、シアン、マゼンタ、イエロー用の3個のインク供給口1102が並列して形成されている。それぞれのインク供給口1102を挟んでその両側には、複数のエネルギー発生素子としての電気熱変換素子1103と複数のインク吐出口1107とが夫々列状に配置されて形成されている。Si基板1110上には電気熱変換素子1103の他に、電気配線、電気回路、電極部1104などが形成されている。その上に樹脂材料でフォトリソグラフィ技術によってインク流路壁1106やインク吐出口1107が形成されている。電気配線に電力を供給するための電極部1104は四辺形の記録素子基板1101の1辺に沿って位置し、Au等のバンプ1105が形成されている。
【0013】
図2の電気配線テープ1301は、ポリイミドのベース基材上に銅箔の配線パターンを形成することで構成されており、記録素子基板1101に対してインクを吐出するための電気信号を印加する電気信号経路を形成するものである。電気配線テープ1301は、インク貯留部1501の筐体外面に沿って曲げられて約90度折り曲がったL字形状をしており、短辺側の端部には記録素子基板1101の電極部1104に接続される電極端子部1304が形成されている。また、長辺側には本体装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子1302が形成されており、電極端子部1304と外部信号入力端子1302は連続した銅箔の配線パターンでつながれている。
【0014】
図2のインク貯留部1501は、例えばノリル樹脂の樹脂成形により形成されている。
【0015】
図4(A)はインク貯留部1501の側面の一部の模式図であり、図4(B)はインク貯留部1501をインク供給口1201側から見た下面図である。記録素子基板1101を接着して搭載する部位(搭載部)である搭載面1504には、インク供給口1201が開口している。また、インク貯留部1501は、記録素子基板1101を搭載する搭載面1504よりインク吐出方向に向かって突出した当接面1503を有する。この当接面1503は、キャップ部材105の先端105a(図4(C))が直接当接する部位である線状の当接部位1310を有する面であり、記録素子基板1101を搭載する搭載面1504の周囲を囲っている。また、スリット1502が、記録素子基板1101が搭載される搭載面1504に開口している。このスリット1502は、保持面1503に保持される電気配線テープ1301の、外部信号入力端子1302へ向かう配線テープ部1302aが挿入可能な開口部となっている(図2参照)。
【0016】
本実施例では、記録素子基板1101の電極部1104と接続する電気配線テープ1301は、当接部位1310で囲まれた領域から当接部位1310と交差することなく、配線テープ部1302aをインク貯留部1501の筐体外面に案内することができる。スリット1502は、配線テープ部1302aを、当接部位1310で囲まれた領域の外である、インク貯留部1501の筐体外面に案内する案内部となっている。そのため、従来のような、電気配線テープ上にキャップ当接部位を設定する必要がなく、当接面1503自体を、キャップ部材105の密着性を低下させることなく、記録素子基板1101のキャッピングに必要な最小限の広さにまで小さくすることが可能となる。
【0017】
本実施例のインクジェット記録ヘッドを製造するには、まず、インク貯留部1501、電気配線テープ1301及び記録素子基板1101を準備する。そして、記録素子基板1101の端部の電極部1104と電気配線テープ1301の一端の電極端子部1304とが電気的に接続される。その電気的接続部は、封止剤1307により封止されることで(図5参照)、電気的接続部をインクによる腐食や外的衝撃から保護される。つまり、封止材1307は保護部材の役割も兼ねる。その後、電気配線テープ1301は約90度折り曲げられる。この状態で、記録素子基板1101の各インク供給口1102がインク貯留部1501の各インク供給口1201に連通するよう位置精度良く接着固定される。この接着に用いられる接着剤1307としては、エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化接着剤が用いられている。この時、電気配線テープ1301の他端がインク貯留部1501に設けられたスリット1502に挿入されて、電気配線テープ1301の外部信号入力端子1302を有する長辺部分はスリット1502を貫通している。そして、電気配線テープ1301とスリット1502との隙間は封止剤1307で埋められている。なお、電気配線テープ1301をスリット(開口)1502に挿入した状態において、電気配線テープ1301とスリット1502との隙間が、実質的に空気の通過が無視できる程度であるならば、封止剤1307による隙間の埋め込みは不要である。ここで、「空気の通過が無視できる」とは、当接面1503へのキャップ部材105の先端105a当接後において、スリット1502を介した空気の漏れが、吸引回復動作に支障のない程度に無視できる程度のことをいう。
【0018】
また、電気配線テープ1301はインク貯留部1501のインク供給口1201を有する面にほぼ直交した側面に熱カシメもしくは接着等で固定される(図1参照)。
【0019】
別の製造方法としては、記録素子基板1101のインク貯留部1501への接着固定前に電気配線テープ1301を曲げなくてもよい。つまり、記録素子基板1101と接続された電気配線テープ1301を、スリット1502に貫通させながら約90度曲げ、記録素子基板1101をインク貯留部1501に位置決めし接着しても良い。
【0020】
更に別の製造方法としては、記録素子基板1101をインク貯留部1501上に位置決め接着した後、約90度折り曲げられた電気配線テープ1301をスリット1502に挿入しつつ記録素子基板1101に位置決めし電気接続しても良い。
【0021】
図1に示したように、インクジェット記録ヘッド1001には、インクジェット記録装置本体のキャリッジの装着位置に案内するための装着ガイド1560と、キャリッジに装着固定するための係合部1930とを有する。また、キャリッジの所定の装着位置に位置決めするためのX方向(キャリッジスキャン方向)の突き当て部1570、Y方向(記録媒体搬送方向)の突き当て部1580、Z方向(インク吐出方向)の突き当て部1590を備えている。この突き当て部により位置決めされることで、電気配線テープ1301上の外部信号入力端子1302がキャリッジに設けられた電気接続部のコンタクトピンと正確に電気的接触を行う。また、インクジェット記録本体の回復ユニット104のキャップ部材105が当接するための当接面1503を有している。回復ユニット104は、インク吐出口1107が開口する側をキャップ部材で覆った状態でインク吐出口1107からインクを吸引することで、インク吐出口1107に連通する流路内のインク詰まり等を解消し、インクの吐出を正常状態に回復させるものである。
【0022】
また、電気配線テープの他の形態を用いたときのインクジェット記録へッドの記録素子基板の搭載側を見た形態を図6に示す。この形態では、電気配線テープ1301が当接部位1310の内側に収まる範囲内の大きさであって、記録素子基板1101をその内側に収める大きさの開口1301bを有している。この構成では、電気配線テープ1301の2つの電極端子部1304と記録素子基板1101の対向する短辺それぞれに設けた2つの電極部1104とが、それぞれ電気接続して2組の電気接続部を形成する。これにより、記録素子基板1101の2箇所で電気接続を行なうことができるので、1つあたりの電極部1104を余裕を持って電極形成することができる。この場合であっても、電気配線テープ1301を、当接部位1310を交差することなく、スリット1502を通ってインク貯留部1501の筐体側面に引き出すことが可能である。
【0023】
なお、インクジェット記録ヘッド1001は、記録素子基板1101とインク貯留部1501との間に、アルミナ製の支持部材を配する構成としてもよい。この場合、支持部材は、スリット1502と連通し、スリット1502に挿入されるフレキシブル配線テープ1301を通すスリット状の開口を備える。支持部材は、低い線膨脹率や高い熱伝導率等の優れた温度特性を備え、シリコン基板である記録素子基板1101と、樹脂製のインク貯留部1501筐体と、の間の温度特性を備える部材である。これにより、インク貯留部1501への記録素子基板1101の安定した搭載が実現できる。
【0024】
図7は、本発明のインクジェット記録ヘッドを搭載可能なインクジェット記録装置の一例を示す説明図である。キャリッジ102には、図1に示したインクジェット記録ヘッド1001が位置決めして交換可能に搭載されている。キャリッジ102には、インクジェット記録ヘッド1000に設けられた外部信号入力端子を介して、夫々の電気熱変換素子1103に駆動信号等を伝達するための電気接続部が設けられている。
【0025】
キャリッジ102は、主走査方向に延在して装置本体に設置されたガイドシャフト103に沿って往復移動可能に案内支持されている。ホームポジションにはインクジェット記録ヘッド1000のインク吐出口1107を覆うキャップ部材105を備える回復ユニット104がある。回復ユニット104は、キャップ部材105を介して、インク吐出口1107からのインクの吸引やインク吐出口1107からのインクの蒸発を防ぐためのキャッピング等を行う。
【0026】
用紙やプラスチック薄板等の記録媒体101は搬送ローラ106の回転により、インクジェット記録ヘッド1000インク吐出口1107と対向する位置を通って搬送(副走査)される。
【0027】
以上の実施例によるインクジェット記録ヘッドは、電気配線テープ(フレキシブル電気配線基板)の面上にキャップ部材の当接面を形成できないくらいに小型化された形態であっても、インク貯留部に、キャップ部材が当接する当接面を形成することができる。その結果、インクジェット記録ヘッドの信頼性を維持しながら更なるコストダウンが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例に係るインクジェット記録ヘッドの記録素子基板の搭載側を見た斜視図である。
【図2】本発明の実施例に係るインクジェット記録ヘッドについて記録素子基板の搭載側から見た分解斜視図である。
【図3】実施例に係るインクジェット記録ヘッドの記録素子基板を一部破断して表した斜視図である。
【図4】(A)はインク貯留部の側面の一部の模式図、(B)はインク貯留部をインク供給口側から見た下面図、(C)はキャップ部材の模式的斜視図である。
【図5】実施例のインクジェット記録ヘッドの一部断面図である。
【図6】電気配線テープの他の形態を用いたときのインクジェット記録へッドの記録素子基板の搭載側を見た斜視図である。
【図7】本発明のインクジェット記録ヘッドを適用するインクジェット記録装置を示す模式的平面図である。
【図8】従来のインクジェット記録へッドの記録素子基板の搭載側を見た斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1000、1001 記録ヘッド
1101 記録素子基板
1103 電気熱変換素子
1107 吐出口
1300 電気配線テープ
1307 封止材
1401 支持部材
1501 インク供給部材
1502 スリット
1503 平坦面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク吐出口からインクを吐出するためのエネルギーを発生させるエネルギー発生素子を備える記録素子基板と、
前記記録素子基板と電気的に接続された電気配線部材と、
前記記録素子基板を搭載する搭載部であって前記電気配線部材を貫通させる開口が設けられた搭載部と、を有するインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記搭載部よりインク吐出方向へ突出した、前記インク吐出口を覆うキャップ部材との当接面を有する、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記開口は、前記当接面と前記キャップ部材との当接部位で囲まれた領域の内側に位置する、請求項2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記電気配線部材と前記開口との間の隙間は、前記記録素子基板と前記電気配線部材との電気的接続部を封止する封止材で封止されている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
インク吐出口からインクを吐出するためのエネルギーを発生させるエネルギー発生素子を備える記録素子基板と、
前記記録素子基板と電気的に接続された電気配線部材と、
前記記録素子基板を搭載する搭載部と、
前記搭載部よりインク吐出方向へ突出した、前記インク吐出口を覆うキャップ部材との当接面であって前記キャップ部材との当接部位を有する当接面と、
前記当接部位で囲まれた領域の内から当該領域の外へ、前記電気配線部材を前記当接部位と交差させることなく案内する案内部であって前記領域内の前記搭載部に設けられている案内部と、を有するインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記案内部は、スリット状の開口である、請求項5に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
前記電気配線部材と前記開口との間の隙間は、前記記録素子基板と前記電気配線部材との電気的接続部を封止する封止材で封止されている、請求項6に記載のインクジェット記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−173958(P2008−173958A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272677(P2007−272677)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】