インクジェット記録ヘッド
【課題】インクジェット記録ヘッドの回復処理時の予備吐出に要する時間を短縮する。
【解決手段】2つの吐出ノズル列112aが、供給口113の長方形状開口部を成す2つの長辺を挟んで配置されている。供給口113の短辺側についても同様に、吐出ノズル列112bが供給口113を挟んで配置されている。そして、2つの吐出ノズル列112aの端部側において、供給口113の長方形状開口部の短辺から中継エリア114を介してインクが供給される複数のインク流路を新設し、吐出ノズル列112bによりインクを吐出可能にした。
【解決手段】2つの吐出ノズル列112aが、供給口113の長方形状開口部を成す2つの長辺を挟んで配置されている。供給口113の短辺側についても同様に、吐出ノズル列112bが供給口113を挟んで配置されている。そして、2つの吐出ノズル列112aの端部側において、供給口113の長方形状開口部の短辺から中継エリア114を介してインクが供給される複数のインク流路を新設し、吐出ノズル列112bによりインクを吐出可能にした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録液を記録媒体へ吐出して記録を行なうインクジェット記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、いわゆるノンインパクト記録方式の記録装置であり、高速な記録と様々な記録メディアに対して記録することが可能であって、記録時における騒音がほとんど生じないといった特徴を有している。この種の液体噴射記録装置で用いられる液体噴射記録方式は、代表的な例としては、吐出エネルギー発生素子として電気熱変換素子を用いた方式がある。この方式を用いた液体噴射記録ヘッドは、電気熱変換素子を加圧室内に設け、その電気熱変換素子に記録信号となる電気パルスを印加する構造である。そして、電気パルスの印加により記録液に熱エネルギーを与え、その時の記録液の相変化により生じる記録液の発泡時(沸騰時)の気泡圧力によって記録液滴を吐出することが可能である。
【0003】
さらに、電気熱変換方式を用いた液体噴射記録ヘッドには、電気熱変換素子が配列された基板に対して平行に記録液を吐出させる方式(エッジシュータ)のものがある。また、電気熱変換素子が配列された基板に対して垂直に記録液を吐出させる方式(サイドシュータ)のものがある。
【0004】
このようなインクジェット記録装置においては、記録速度向上のため、複数の記録素子を集積配列してなるインクジェット記録ヘッドとして、インク吐出口及び液路を複数集積したものを用いた形態が一般的である。さらにカラー記録に対応して、インク色別にインクジェット記録ヘッドを複数個備えた形態も普及している。
【0005】
図5はインクジェット記録ヘッドを用いて記録媒体上に記録を行なうためのインクジェット記録装置主要部の構成を示したものである。インクジェット記録装置は、4色のカラーインク(イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックインク)がそれぞれ貯留されたインクタンク101と、それぞれのインクを記録媒体Pへ吐出するノズルを含むインクジェット記録ヘッド102とを備えている。
【0006】
記録媒体Pは、紙送りローラ103とこれに対向する補助ローラ104とに保持されている。紙送りローラ103を図の矢印の方向に回転することで、記録媒体Pはy方向(副走査方向)に随時搬送可能である。また、インクジェット記録ヘッド102を間に挟んで紙送りローラ103とは反対側に、記録媒体Pを保持して回転することで給紙を行なう一対の給紙ローラ105が設けられている。一対のローラ105は、紙送りローラ103よりもその回転速度を小さくすることによって記録媒体に張力を作用させることができる。
【0007】
インクジェット記録ヘッド102を支持すると共に4つのインクタンク101を搭載するキャリッジ106が、記録媒体Pの搬送方向yと交差するx方向(主走査方向)に移動可能になっている。
【0008】
キャリッジ106は記録ヘッド102による印刷を行っていないとき、あるいは回復装置107によってインクジェット記録ヘッド102の回復処理などを行うときに、図の破線で示した位置のホームポジションhに位置する。
【0009】
図6は図5に示されたインクジェット記録ヘッドの、ノズルを形成する吐出口プレートの上面側から見た模式的な平面透視図である。この図に示すように、複数の記録液吐出ノズル112が列を成すように吐出口プレート111に配置されている。吐出ノズル112は画像形成に必要な1インチ当たりのノズル密度で複数配置されたノズルであり、極小液滴のインクを吐出する事が可能なノズルである。
【0010】
複数の吐出ノズルが列を成したノズル群112cとノズル群112dの位置を千鳥状にずらして配置することで、画像形成時は同色でノズル群の密度より2倍の密度での記録液の吐出が可能となる構成としている。ノズル群112cとノズル群112dは、同じインク色が吐出できるよう両ノズル群に共通する1色のインクを収容する液室113を挟んで配置されている。尚、この共通液室113は、吐出口プレート111を支持する記録素子基板に開けられた貫通穴からなる。
【0011】
この共通液室113を含む一対のノズル群を複数構成することで、複数色のインクを高密度で吐出するインクジェット記録ヘッドを構成することができる。尚、図6に示した構成はイエロー、マゼンタ、シアン、ブラック等、4色のインクを使用できる例である。
【0012】
図5に示したホームポジションhで行なう、インクジェット記録ヘッドの回復処理の1つには、増粘インク、記録ヘッド液室内の気泡、及び混色インクを、インクジェット記録装置内に設置された回復装置107によって吸引排出する吸引回復処理がある。吸引回復処理は通常、回復キャップで記録ヘッドフェイス面(吐出ノズルの開口面)、もしくはその他の部位でキャップし、キャップ内をチューブポンプ、ピストンポンプ等のポンプ手段によって負の圧力を生じさせる。発生した負圧によって記録ヘッド液室内のインクが吸引される。吸引終了直後は、吸引によってキャップ内に排出されたインクは各色が混在した混色インクとなっており、この混色インクが記録ヘッドフェイス面に残留し、記録ヘッド内に逆流してしまう。この記録ヘッドへの逆流によって記録ヘッド液室内は混色インクが混入した状態となる。複数色の記録ヘッドを一つのキャップによって吸引する場合はこの逆流によって混色が生じる。そこで、吸引回復処理を行った後、記録ヘッド液室内の混色インクが排出されるまでキャップにインク吐出を行なう。この処理を予備吐出と呼ぶ。
【0013】
以上の様に吸引回復処理時に記録ヘッド内に混入した混色インクを、予備吐出を行なうことで排出する。これにより、記録媒体へ記録液を着弾させた時、混色インクによる記録画像への弊害が発生しない様にしている。
【0014】
上記のような、回復処理時の予備吐出に用いられる方法としていくつか知られている。特許文献1には、回復キャップを吐出ノズル近傍まで移動させ予備吐出する方法が開示されている。また、特許文献2には、複数のインク色を用いた場合に明暗の濃いインク色より明暗の薄いインク色は予備吐出の発数を多くする方法が開示されている。
【特許文献1】特開2003−89213号公報
【特許文献2】特開平7−125263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
インクジェットプリンターは近年、高画質化/高速化が更に求められ、インクジェットプリンター用の記録ヘッドは多ノズル化/高密度化/小液滴化に向かう傾向となっている。このような今後の動向において、とりわけ小液滴化されたインクジェット記録ヘッドでは回復処理の予備吐出時間が長時間化することが予想される。
【0016】
予備吐出によるインク排出方法として、例えば、吸引回復処理後、各色1ノズルあたり7500発、吐出周波数5kHzの予備吐出を行なう。この予備吐出動作によって記録ヘッド液室内の混色インクを排出することができる。そして、この吸引回復処理後の予備吐出動作は、1.5秒の時間が必要となる。
【0017】
この時、吐出量が1/2となった小液滴化インクジェット記録ヘッドでは、各色1ノズルあたり2倍の1,5000発となり同じ周波数で予備吐出した場合、予備吐出動作は、3秒の時間が必要となる。
【0018】
また、予備吐出の1ノズルあたりに必要な発数はノズル列中央部に対し、ノズル列端部の複数のノズルの方を増やしている。例えば、上述の様にノズル列中央部の1ノズルあたりの発数を15,000発とした場合の一例では、ノズル列端部においては1ノズルあたりの発数を20,000発とする。この時の予備吐出動作は4秒の時間が必要となる。なお、「発数」とは、ノズル吐出口から発射されるインク滴の数のことをさす。
【0019】
この様な条件下の一例の場合、ノズル列端部はノズル列中央部と比較し、約1.3倍の予備吐出時間を要することになる。
【0020】
上記に述べた様にノズル列端部はノズル列中央部と比較して、より多くの予備吐出時間が必要であるため、ノズル列端部の予備吐出時間に律速され全体の吸引回復時間が長くなる。
【0021】
ノズル列端部の予備吐出数を増やしている理由としては、記録素子基板の各色の共通液室内の構造による要因が挙げられる。以下にその説明をする。
【0022】
図7は、本願の背景技術となるインクジェット記録ヘッドの模式断面図である。
【0023】
図7に示されるインクジェット記録ヘッドにおいて、記録素子基板110の表面側に設けられている吐出ロプレート111には、記録液を吐出するための複数の画像形成用ノズル112が複数配置されている。記録素子基板110には、記録素子である吐出エネルギー発生素子(例えば、電気熱変換素子)が各ノズル112に対応して複数配置されている。記録素子基板110は支持部材114に支持されている。支持部材114には、記録液を記録素子基板110の液室(供給口とも称す。)113へ供給する流路となる貫通孔が形成されている。さらに、支持部材114は、各色インクタンク101から記録液を支持部材114の流路孔へ供給するインク供給ユニット116に接合されている。このように構成された記録ヘッドの記録素子基板110には、各吐出エネルギー発生素子へ記録液を吐出するための電気パルスを印加する電気配線基板115が電気的に接続されている。
【0024】
記録素子基板110の供給口(液室)113を形成している穴は吐出口プレート111に向かって狭くなる形状となっている。記録素子基板110は半導体部品であるシリコン材(以下、Siと称す。)を使用している。そして、記録液を供給する液室113を形成するため、そのSi材の結晶方位が(100)面であり、異方性エッチングにより液室113を形成することにより、図7のように液室113の断面形状が台形形状となる。
【0025】
図8Aは記録素子基板110及び吐出口プレート111のノズル列端部を模式的に示した平面透視図である。図8Bは図8Aに示す部位を供給口113の側方から見た透視図である。図9は図8Bの透視図でのインク流れを模式的に表した図である。
【0026】
図8A及び図8Bに示すように、記録素子基板110上の吐出口プレート111に配置された画像形成用ノズル列112aより外側の領域201及び、記録素子基板110内の共通液室113となる開口部近傍202は、角部となる形状となっている。すなわち、これらの部位は、共通液室113から吐出ノズルに繋がるインク流路へ向かうインク流れに対してデッドスペースとなる形状となっている。
【0027】
このようなノズル列端部のデッドスペースは、図9に示すように、インク流れ性が悪くインク117が滞留しやすい。予備吐出時、混色インクを排出する時も混色インクがこの領域に滞留してしまうことで、より多くのフレッシュなインクを投じて、滞留した混色インクの排出を実施することが必要になる。そのため、ノズル列端部においては予備吐出発数を増やすことが必要となる。
【0028】
また、記録素子基板110の供給口113は裾広がりな台形形状であるため、液室となる部分の体積はノズル列中央部に対してノズル列端部の方が大きくなっている。このため、混色インクを予備吐出で排出する際は1ノズルあたりの混色インク排出量はノズル列中央部に対して、ノズル列端部の方がより多くの排出量が要求されることになる。
【0029】
従って、予備吐出に必要な発数は、ノズル列中央部に対し、ノズル列端部の予備吐出発数を増やすことが必要となる。
【0030】
以上のように、図7に示した従来のヘッドは、記録素子基板110の液室113の、ノズル列端部に当たる角部にインクが滞留しやすい構造及び、記録素子基板110の供給口113が吐出ノズル部から離れる側に裾広がりな台形形状となっている構造である。そして、この従来構造において、吸引回復処理後に記録ヘッド内に混入した混色インクを予備吐出する方法として、ノズル列中央部に対してノズル列端部の予備吐出の発数を多くする方法を用いている。これにより、記録ヘッド液室内に混入した混色インクを排出する方法をとっている。
【0031】
このようにインクジェット記録ヘッドにおいて、記録素子基板の液室内の構造的な要因により部分的に予備吐出の発数を増やすことが必要である。将来的に更に小液滴化されたインクジェット記録ヘッドにおいては、更に時間を要することとなり、インクジェット記録装置の起動後、記録開始前に、ユーザーに待ち時間を感じさせてしまうこととなる。
【0032】
本発明は、上記のようにインクジェット記録ヘッドの記録素子基板の液室内の構造的な要因により部分的に予備吐出の発数を増やすことが必要になって、予備吐出時間に要する時間が増えてしまう問題を解決するためになされたものである。そして、インクジェット記録ヘッドの回復処理時の予備吐出に要する時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明のインクジェット記録ヘッドは、画像形成用ノズル列と、該ノズル列の各ノズルに繋がる流路と、複数の該流路に接続される中継エリアと、該中継エリアへ液体を供給する液体供給穴とを有する。画像形成用ノズル列、前記流路および前記中継エリアが前記液体供給穴を挟んで配置されたインクジェット記録ヘッドである。
【0034】
このインクジェット記録ヘッドは、画像形成用ノズル列のノズル配置方向に関し液体供給穴を挟んで配置された、液体を吐出する第2ノズルと、液体供給穴の開口部の外側に形成され、第2ノズルに繋がる第2流路と、を備える。これにより、上記の課題が解決される。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、記録ヘッド内に混入した混色インクを予備吐出で排出する場合において、記録ヘッド内に滞留する混色インクを大幅に軽減することができ、画像形成用ノズル列の端部の、予備吐出に要する発数を減らすことができる。これにより、予備吐出時間の短縮が図れる。
【0036】
また、画像形成用ノズル列のノズル配置方向に関して前記液体供給口を挟む位置に、液体を吐出する1又は複数の第2ノズルを備えているので、画像形成用ノズル列の端部の、インクの排出能力が向上する。よって、予備吐出時間は更に短縮が図れる。
【0037】
このように本発明は、インクジェット記録ヘッドの回復処理時の予備吐出に要する時間をトータル的に短縮することができる。
【0038】
また、予備吐出量が減らせることで廃インク量の削減が可能となり、インク使用効率の良いインクジェットプリンタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下に挙げる形態のインクジェット記録ヘッドは、図5を参照して説明したインクジェット記録装置に適用されるものであり、そのヘッドに関連する構造についても、下記の形態を除いて、図6及び図7を参照して説明したものと同じである。よって、ここでは背景技術に対して異なる点を主に説明することとする。
【0040】
(実施形態1)
図1Aは本発明の実施形態1によるインクジェット記録ヘッドの、記録素子基板及び吐出口プレートのノズル列端部を模式的に示した平面透視図である。図1Bは図1Aに示す部位を供給口の側方から見た透視図である。図2は図1Bの透視図でのインク流れを模式的に表した図である。
【0041】
本実施形態のインクジェット記録ヘッドは、背景技術で説明したとおり、記録素子基板110上に吐出口プレート111を接合・支持してなる。記録素子基板110には、記録液を供給する供給口(液室)113となる貫通穴が1又は複数あけられている。この穴は吐出口プレート111に向かって狭くなる側面形状となっている。記録素子基板110の、吐出口プレート111を支持する面では、その穴の開口形状は細長い長方形となっている。この記録素子基板110における吐出口プレート111の支持面には、供給口113の長方形状開口部をなす2つの長辺の各々に沿って複数の吐出エネルギー発生素子(例えば、電気熱変換素子や圧電素子)が列を成すように配置されている。すなわち、2つの吐出エネルギー発生素子列(不図示)が供給口113を挟むように配置されている。さらに、本発明では、供給口113の長方形状開口部をなす2つの短辺側についても同様に、吐出エネルギー発生素子列が配置されている。
【0042】
吐出口プレート111は、記録素子基板110の吐出エネルギー発生素子が形成されている面との接合によって流路を構成する流路構成基板である。この吐出口プレート111は、記録素子基板110との接合面に、各吐出エネルギー発生素子を内包する発泡室とこの発泡室に液体を導くための供給路とからなる複数のインク流路を画成している。さらに、吐出口プレート111は、各発泡室を吐出口プレート111の表面側(記録素子基板110とは反対側)の大気に連通させる複数の吐出ノズル112を有している。
【0043】
複数の吐出ノズル(吐出口)112は、供給口113の長方形状開口部をなす4辺に沿って列を成すように配置されている。すなわち、図1Aに示すように、2つの吐出ノズル列112aが、供給口113の長方形状開口部を成す2つの長辺を挟んで配置されている。また、供給口113の短辺側についても同様に、吐出ノズル列112bが供給口113を挟んで配置されている。
【0044】
吐出口プレート111に形成された複数のインク流路は、供給口113の長方形状開口部をなす2つの長辺の各々に対して直交するインク流路群と、供給口113の長方形状開口部をなす2つの短辺の各々に対して直交するインク流路群とからなる。そして、複数のインク流路及びインク流路間の側壁の、供給口113側の端部と、供給口113の開口部との間に、供給口113内の液体を複数のインク流路に供給する中継エリア114が設けられている。この中継エリア114は、吐出口プレート111の記録素子基板110との接合面に、記録素子基板110の記録素子形成面に開口する供給口113の開口部よりも一回り大きく開口する凹部を形成することで得られる。そして、この凹部から外側に複数の溝を形成することで上記のインク流路を画成している。
【0045】
以上のように本実施形態の記録ヘッドでは、2つの吐出ノズル列112aの端部側において、記録素子基板110における供給口113の開口部110aの外側に、吐出ノズル列112bに繋がる複数のインク流路を形成する流路壁が配置されている。そのため、供給口113から吐出ノズルに向かうインクの流れに対するデットスペースが無い状態となる。
【0046】
つまり、図2に示すように、インク117の流れ方は吐出口プレート111に向かって滞留することなく流れていく。これにより、液室113内に混入した混色インクを排出するための予備吐出時には、液室113内で混色インクが滞留してしまう現象が軽減され、効率の良い混色インクの排出が可能となる。
【0047】
さらに、2つの吐出ノズル列112aの端部側において、供給口113の長方形状開口部の短辺から中継エリア114を介してインクが供給される複数のインク流路及び吐出ノズル列112bを新設し、吐出ノズル列112bによりインクを吐出可能にした。この為、吐出ノズル列112aの端部側において混色インクの排出能力が向上し、混色インクを排出する予備吐出に要する時間の短縮が可能となる。
【0048】
なお、本実施形態を説明する図1Aでは、供給口113の開口部の短辺側における吐出ノズル列112bを4個の吐出ノズルで構成する例を示した。この吐出ノズル列112bを構成する吐出ノズルの数は図に限定されず、ひとつ、または複数個であってもよい。しかし、吐出ノズル列112bを構成する吐出ノズル(供給口113の開口部の短辺側における吐出ノズル)の数が多ければ多いほど、吐出ノズル列112aの端部側において混色インクの排出能力が向上することとなる。
【0049】
また、本実施形態において、2つの吐出ノズル列112aが画像形成用のノズル列となっており、吐出ノズル列112aのノズル配置方向は、本例の記録ヘッドを図5の記録装置に搭載したときに記録ヘッドの主走査方向に交差する方向となる。さらに、2つの吐出ノズル列112aのノズル位置を千鳥状に互いにずらして配置することで、画像形成時は同色でノズル列の密度より2倍の密度での記録液の吐出が可能となる構成としている。
【0050】
(実施形態2)
図3Aは本発明の実施形態2によるインクジェット記録ヘッドの、記録素子基板及び吐出口プレートのノズル列端部を模式的に示した平面透視図である。図3Bは図3Aの構成の変形例を示す平面透視図である。
【0051】
本実施形態では、実施形態1によるインクジェット記録ヘッドにおいて、図3A及び図3Bに示すように、ひとつの共通液室113の長方形状開口部の2つの長辺を挟んで配置された2つの吐出ノズル列が大/小の異なる径のノズル(吐出口)で構成されている。
【0052】
図3Aに示す形態は、共通液室113の長方形状開口部の2つの長辺を挟んで配置された2つの吐出ノズル列のうち、一方の吐出ノズル列112fを構成するノズルの径を、他方の吐出ノズル列112gを構成するノズルの径よりも大きくしている。つまり、複数の大径ノズルからなる吐出ノズル列112fと複数の小径ノズルからなる吐出ノズル列112gとが、共通液室113の長方形状開口部の2つの長辺を挟んで配置されている。
【0053】
一方、図3Bに示す形態は、共通液室113の長方形状開口部の2つの長辺を挟んで配置された2つの吐出ノズル列のいずれも、大径ノズル112fと小径ノズル112gを交互配置した構成としている。
【0054】
これらの形態において、共通液室113の長方形状開口部の短辺側に配置された吐出ノズル列112bのノズルは、小さいノズル径でも良いが、図のように大きいノズル径にすることで更にインクの排出効率が良い吐出ノズルとなる。したがって、予備吐出に要する時間の短縮が可能となる。
【0055】
(その他の実施形態)
図4は上記インクジェット記録ヘッドの製法例を示しており、以下、その製造方法について図を参照して簡潔に説明する。
【0056】
図4(a)に示される記録素子基板110上には電気熱変換素子あるいは圧電素子等の記録液吐出エネルギー発生素子110bが所望の個数配置される。
【0057】
次いで、図4(b)に示すように、記録液吐出エネルギー発生素子110bを含む記録素子基板110上に、溶解可能な樹脂層110cを形成する。
【0058】
そして、樹脂層110cを図4(c)に示すように、記録液流路パターンとなる形状に形成する。
【0059】
次いで、溶解可能な樹脂層110c上に、図4(d)に示すように被覆樹脂層110dを形成する。
【0060】
そして、図4(e)に示すように、被覆樹脂層110dに記録液吐出口であるノズル112を形成する。ノズル112の形成は従来から行なわれている手法で、O2プラズマによるエッチング、エキシマレーザー穴明け、あるいは紫外線、Deep−UV光などによる露光など、あらゆる手法で形成可能である。
【0061】
次に、図4(f)に示すように、記録素子基板110に記録液供給口113を設ける。記録液供給口113は、基板を化学的にエッチングすることにより形成する。より具体的には、基板としてSi(シリコン)基板を用い、KOH、NaOH、TMAHなどの強アルカリ溶液による異方性エッチングにより形成する。Si基板の結晶方位が(100)面では異方性エッチングの角度はθ=54.7°となる。
【0062】
最後に、図4(g)に示すように、溶解可能な樹脂層110cを溶出することにより、吐出口プレート111及び記録素子基板110からなるインクジェット記録ヘッドが完成する。
【0063】
以上の各実施形態において、記録液滴の吐出方式としてサイドシュータ型(電気熱変換体の形成面に対し垂直に吐出するタイプ)について説明を行ってきた。しかし、本願発明はそれに限定されるものではない。たとえば、エッジシュータ型ヘッドといったタイプ(電気熱変換体の形成面に対し略平行に吐出するタイプ)のインクジェット記録ヘッドについても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1A】本発明の実施形態1によるインクジェット記録ヘッドにおいて記録素子基板及び吐出口プレートのノズル列端部を模式的に示した平面透視図である。
【図1B】図1Aに示す部位を供給口の側方から見た透視図である。
【図2】図1Bの透視図でのインク流れを模式的に表した図である。
【図3A】本発明の実施形態2によるインクジェット記録ヘッドにおいて記録素子基板及び吐出口プレートのノズル列端部を模式的に示した平面透視図である。
【図3B】本発明の実施形態2によるインクジェット記録ヘッドにおいて記録素子基板及び吐出口プレートのノズル列端部を模式的に示した平面透視図である。
【図4】本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す工程図である。
【図5】一般的なインクジェット記録装置の模式図である。
【図6】本願の背景技術となるインクジェット記録ヘッドの、ノズルを形成する吐出口プレートの上面側から見た模式的な平面透視図である。
【図7】本願の背景技術となるインクジェット記録ヘッドの模式断面図である。
【図8A】図6に示した記録ヘッドにおいて記録素子基板及び吐出口プレートのノズル列端部を模式的に示した平面透視図である。
【図8B】図8Aに示す部位を供給口の側方から見た透視図である。
【図9】図8Bの透視図でのインク流れを模式的に表した図である。
【符号の説明】
【0065】
110 記録素子基板
110a 共通液室の開口部
110b 吐出エネルギー発生素子
111 吐出口プレート
112 ノズル(吐出口)
112a 吐出ノズル列(画像形成用)
112b 吐出ノズル列
113 供給口(液室)
117 インク(記録液)
【技術分野】
【0001】
本発明は記録液を記録媒体へ吐出して記録を行なうインクジェット記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、いわゆるノンインパクト記録方式の記録装置であり、高速な記録と様々な記録メディアに対して記録することが可能であって、記録時における騒音がほとんど生じないといった特徴を有している。この種の液体噴射記録装置で用いられる液体噴射記録方式は、代表的な例としては、吐出エネルギー発生素子として電気熱変換素子を用いた方式がある。この方式を用いた液体噴射記録ヘッドは、電気熱変換素子を加圧室内に設け、その電気熱変換素子に記録信号となる電気パルスを印加する構造である。そして、電気パルスの印加により記録液に熱エネルギーを与え、その時の記録液の相変化により生じる記録液の発泡時(沸騰時)の気泡圧力によって記録液滴を吐出することが可能である。
【0003】
さらに、電気熱変換方式を用いた液体噴射記録ヘッドには、電気熱変換素子が配列された基板に対して平行に記録液を吐出させる方式(エッジシュータ)のものがある。また、電気熱変換素子が配列された基板に対して垂直に記録液を吐出させる方式(サイドシュータ)のものがある。
【0004】
このようなインクジェット記録装置においては、記録速度向上のため、複数の記録素子を集積配列してなるインクジェット記録ヘッドとして、インク吐出口及び液路を複数集積したものを用いた形態が一般的である。さらにカラー記録に対応して、インク色別にインクジェット記録ヘッドを複数個備えた形態も普及している。
【0005】
図5はインクジェット記録ヘッドを用いて記録媒体上に記録を行なうためのインクジェット記録装置主要部の構成を示したものである。インクジェット記録装置は、4色のカラーインク(イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックインク)がそれぞれ貯留されたインクタンク101と、それぞれのインクを記録媒体Pへ吐出するノズルを含むインクジェット記録ヘッド102とを備えている。
【0006】
記録媒体Pは、紙送りローラ103とこれに対向する補助ローラ104とに保持されている。紙送りローラ103を図の矢印の方向に回転することで、記録媒体Pはy方向(副走査方向)に随時搬送可能である。また、インクジェット記録ヘッド102を間に挟んで紙送りローラ103とは反対側に、記録媒体Pを保持して回転することで給紙を行なう一対の給紙ローラ105が設けられている。一対のローラ105は、紙送りローラ103よりもその回転速度を小さくすることによって記録媒体に張力を作用させることができる。
【0007】
インクジェット記録ヘッド102を支持すると共に4つのインクタンク101を搭載するキャリッジ106が、記録媒体Pの搬送方向yと交差するx方向(主走査方向)に移動可能になっている。
【0008】
キャリッジ106は記録ヘッド102による印刷を行っていないとき、あるいは回復装置107によってインクジェット記録ヘッド102の回復処理などを行うときに、図の破線で示した位置のホームポジションhに位置する。
【0009】
図6は図5に示されたインクジェット記録ヘッドの、ノズルを形成する吐出口プレートの上面側から見た模式的な平面透視図である。この図に示すように、複数の記録液吐出ノズル112が列を成すように吐出口プレート111に配置されている。吐出ノズル112は画像形成に必要な1インチ当たりのノズル密度で複数配置されたノズルであり、極小液滴のインクを吐出する事が可能なノズルである。
【0010】
複数の吐出ノズルが列を成したノズル群112cとノズル群112dの位置を千鳥状にずらして配置することで、画像形成時は同色でノズル群の密度より2倍の密度での記録液の吐出が可能となる構成としている。ノズル群112cとノズル群112dは、同じインク色が吐出できるよう両ノズル群に共通する1色のインクを収容する液室113を挟んで配置されている。尚、この共通液室113は、吐出口プレート111を支持する記録素子基板に開けられた貫通穴からなる。
【0011】
この共通液室113を含む一対のノズル群を複数構成することで、複数色のインクを高密度で吐出するインクジェット記録ヘッドを構成することができる。尚、図6に示した構成はイエロー、マゼンタ、シアン、ブラック等、4色のインクを使用できる例である。
【0012】
図5に示したホームポジションhで行なう、インクジェット記録ヘッドの回復処理の1つには、増粘インク、記録ヘッド液室内の気泡、及び混色インクを、インクジェット記録装置内に設置された回復装置107によって吸引排出する吸引回復処理がある。吸引回復処理は通常、回復キャップで記録ヘッドフェイス面(吐出ノズルの開口面)、もしくはその他の部位でキャップし、キャップ内をチューブポンプ、ピストンポンプ等のポンプ手段によって負の圧力を生じさせる。発生した負圧によって記録ヘッド液室内のインクが吸引される。吸引終了直後は、吸引によってキャップ内に排出されたインクは各色が混在した混色インクとなっており、この混色インクが記録ヘッドフェイス面に残留し、記録ヘッド内に逆流してしまう。この記録ヘッドへの逆流によって記録ヘッド液室内は混色インクが混入した状態となる。複数色の記録ヘッドを一つのキャップによって吸引する場合はこの逆流によって混色が生じる。そこで、吸引回復処理を行った後、記録ヘッド液室内の混色インクが排出されるまでキャップにインク吐出を行なう。この処理を予備吐出と呼ぶ。
【0013】
以上の様に吸引回復処理時に記録ヘッド内に混入した混色インクを、予備吐出を行なうことで排出する。これにより、記録媒体へ記録液を着弾させた時、混色インクによる記録画像への弊害が発生しない様にしている。
【0014】
上記のような、回復処理時の予備吐出に用いられる方法としていくつか知られている。特許文献1には、回復キャップを吐出ノズル近傍まで移動させ予備吐出する方法が開示されている。また、特許文献2には、複数のインク色を用いた場合に明暗の濃いインク色より明暗の薄いインク色は予備吐出の発数を多くする方法が開示されている。
【特許文献1】特開2003−89213号公報
【特許文献2】特開平7−125263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
インクジェットプリンターは近年、高画質化/高速化が更に求められ、インクジェットプリンター用の記録ヘッドは多ノズル化/高密度化/小液滴化に向かう傾向となっている。このような今後の動向において、とりわけ小液滴化されたインクジェット記録ヘッドでは回復処理の予備吐出時間が長時間化することが予想される。
【0016】
予備吐出によるインク排出方法として、例えば、吸引回復処理後、各色1ノズルあたり7500発、吐出周波数5kHzの予備吐出を行なう。この予備吐出動作によって記録ヘッド液室内の混色インクを排出することができる。そして、この吸引回復処理後の予備吐出動作は、1.5秒の時間が必要となる。
【0017】
この時、吐出量が1/2となった小液滴化インクジェット記録ヘッドでは、各色1ノズルあたり2倍の1,5000発となり同じ周波数で予備吐出した場合、予備吐出動作は、3秒の時間が必要となる。
【0018】
また、予備吐出の1ノズルあたりに必要な発数はノズル列中央部に対し、ノズル列端部の複数のノズルの方を増やしている。例えば、上述の様にノズル列中央部の1ノズルあたりの発数を15,000発とした場合の一例では、ノズル列端部においては1ノズルあたりの発数を20,000発とする。この時の予備吐出動作は4秒の時間が必要となる。なお、「発数」とは、ノズル吐出口から発射されるインク滴の数のことをさす。
【0019】
この様な条件下の一例の場合、ノズル列端部はノズル列中央部と比較し、約1.3倍の予備吐出時間を要することになる。
【0020】
上記に述べた様にノズル列端部はノズル列中央部と比較して、より多くの予備吐出時間が必要であるため、ノズル列端部の予備吐出時間に律速され全体の吸引回復時間が長くなる。
【0021】
ノズル列端部の予備吐出数を増やしている理由としては、記録素子基板の各色の共通液室内の構造による要因が挙げられる。以下にその説明をする。
【0022】
図7は、本願の背景技術となるインクジェット記録ヘッドの模式断面図である。
【0023】
図7に示されるインクジェット記録ヘッドにおいて、記録素子基板110の表面側に設けられている吐出ロプレート111には、記録液を吐出するための複数の画像形成用ノズル112が複数配置されている。記録素子基板110には、記録素子である吐出エネルギー発生素子(例えば、電気熱変換素子)が各ノズル112に対応して複数配置されている。記録素子基板110は支持部材114に支持されている。支持部材114には、記録液を記録素子基板110の液室(供給口とも称す。)113へ供給する流路となる貫通孔が形成されている。さらに、支持部材114は、各色インクタンク101から記録液を支持部材114の流路孔へ供給するインク供給ユニット116に接合されている。このように構成された記録ヘッドの記録素子基板110には、各吐出エネルギー発生素子へ記録液を吐出するための電気パルスを印加する電気配線基板115が電気的に接続されている。
【0024】
記録素子基板110の供給口(液室)113を形成している穴は吐出口プレート111に向かって狭くなる形状となっている。記録素子基板110は半導体部品であるシリコン材(以下、Siと称す。)を使用している。そして、記録液を供給する液室113を形成するため、そのSi材の結晶方位が(100)面であり、異方性エッチングにより液室113を形成することにより、図7のように液室113の断面形状が台形形状となる。
【0025】
図8Aは記録素子基板110及び吐出口プレート111のノズル列端部を模式的に示した平面透視図である。図8Bは図8Aに示す部位を供給口113の側方から見た透視図である。図9は図8Bの透視図でのインク流れを模式的に表した図である。
【0026】
図8A及び図8Bに示すように、記録素子基板110上の吐出口プレート111に配置された画像形成用ノズル列112aより外側の領域201及び、記録素子基板110内の共通液室113となる開口部近傍202は、角部となる形状となっている。すなわち、これらの部位は、共通液室113から吐出ノズルに繋がるインク流路へ向かうインク流れに対してデッドスペースとなる形状となっている。
【0027】
このようなノズル列端部のデッドスペースは、図9に示すように、インク流れ性が悪くインク117が滞留しやすい。予備吐出時、混色インクを排出する時も混色インクがこの領域に滞留してしまうことで、より多くのフレッシュなインクを投じて、滞留した混色インクの排出を実施することが必要になる。そのため、ノズル列端部においては予備吐出発数を増やすことが必要となる。
【0028】
また、記録素子基板110の供給口113は裾広がりな台形形状であるため、液室となる部分の体積はノズル列中央部に対してノズル列端部の方が大きくなっている。このため、混色インクを予備吐出で排出する際は1ノズルあたりの混色インク排出量はノズル列中央部に対して、ノズル列端部の方がより多くの排出量が要求されることになる。
【0029】
従って、予備吐出に必要な発数は、ノズル列中央部に対し、ノズル列端部の予備吐出発数を増やすことが必要となる。
【0030】
以上のように、図7に示した従来のヘッドは、記録素子基板110の液室113の、ノズル列端部に当たる角部にインクが滞留しやすい構造及び、記録素子基板110の供給口113が吐出ノズル部から離れる側に裾広がりな台形形状となっている構造である。そして、この従来構造において、吸引回復処理後に記録ヘッド内に混入した混色インクを予備吐出する方法として、ノズル列中央部に対してノズル列端部の予備吐出の発数を多くする方法を用いている。これにより、記録ヘッド液室内に混入した混色インクを排出する方法をとっている。
【0031】
このようにインクジェット記録ヘッドにおいて、記録素子基板の液室内の構造的な要因により部分的に予備吐出の発数を増やすことが必要である。将来的に更に小液滴化されたインクジェット記録ヘッドにおいては、更に時間を要することとなり、インクジェット記録装置の起動後、記録開始前に、ユーザーに待ち時間を感じさせてしまうこととなる。
【0032】
本発明は、上記のようにインクジェット記録ヘッドの記録素子基板の液室内の構造的な要因により部分的に予備吐出の発数を増やすことが必要になって、予備吐出時間に要する時間が増えてしまう問題を解決するためになされたものである。そして、インクジェット記録ヘッドの回復処理時の予備吐出に要する時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明のインクジェット記録ヘッドは、画像形成用ノズル列と、該ノズル列の各ノズルに繋がる流路と、複数の該流路に接続される中継エリアと、該中継エリアへ液体を供給する液体供給穴とを有する。画像形成用ノズル列、前記流路および前記中継エリアが前記液体供給穴を挟んで配置されたインクジェット記録ヘッドである。
【0034】
このインクジェット記録ヘッドは、画像形成用ノズル列のノズル配置方向に関し液体供給穴を挟んで配置された、液体を吐出する第2ノズルと、液体供給穴の開口部の外側に形成され、第2ノズルに繋がる第2流路と、を備える。これにより、上記の課題が解決される。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、記録ヘッド内に混入した混色インクを予備吐出で排出する場合において、記録ヘッド内に滞留する混色インクを大幅に軽減することができ、画像形成用ノズル列の端部の、予備吐出に要する発数を減らすことができる。これにより、予備吐出時間の短縮が図れる。
【0036】
また、画像形成用ノズル列のノズル配置方向に関して前記液体供給口を挟む位置に、液体を吐出する1又は複数の第2ノズルを備えているので、画像形成用ノズル列の端部の、インクの排出能力が向上する。よって、予備吐出時間は更に短縮が図れる。
【0037】
このように本発明は、インクジェット記録ヘッドの回復処理時の予備吐出に要する時間をトータル的に短縮することができる。
【0038】
また、予備吐出量が減らせることで廃インク量の削減が可能となり、インク使用効率の良いインクジェットプリンタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下に挙げる形態のインクジェット記録ヘッドは、図5を参照して説明したインクジェット記録装置に適用されるものであり、そのヘッドに関連する構造についても、下記の形態を除いて、図6及び図7を参照して説明したものと同じである。よって、ここでは背景技術に対して異なる点を主に説明することとする。
【0040】
(実施形態1)
図1Aは本発明の実施形態1によるインクジェット記録ヘッドの、記録素子基板及び吐出口プレートのノズル列端部を模式的に示した平面透視図である。図1Bは図1Aに示す部位を供給口の側方から見た透視図である。図2は図1Bの透視図でのインク流れを模式的に表した図である。
【0041】
本実施形態のインクジェット記録ヘッドは、背景技術で説明したとおり、記録素子基板110上に吐出口プレート111を接合・支持してなる。記録素子基板110には、記録液を供給する供給口(液室)113となる貫通穴が1又は複数あけられている。この穴は吐出口プレート111に向かって狭くなる側面形状となっている。記録素子基板110の、吐出口プレート111を支持する面では、その穴の開口形状は細長い長方形となっている。この記録素子基板110における吐出口プレート111の支持面には、供給口113の長方形状開口部をなす2つの長辺の各々に沿って複数の吐出エネルギー発生素子(例えば、電気熱変換素子や圧電素子)が列を成すように配置されている。すなわち、2つの吐出エネルギー発生素子列(不図示)が供給口113を挟むように配置されている。さらに、本発明では、供給口113の長方形状開口部をなす2つの短辺側についても同様に、吐出エネルギー発生素子列が配置されている。
【0042】
吐出口プレート111は、記録素子基板110の吐出エネルギー発生素子が形成されている面との接合によって流路を構成する流路構成基板である。この吐出口プレート111は、記録素子基板110との接合面に、各吐出エネルギー発生素子を内包する発泡室とこの発泡室に液体を導くための供給路とからなる複数のインク流路を画成している。さらに、吐出口プレート111は、各発泡室を吐出口プレート111の表面側(記録素子基板110とは反対側)の大気に連通させる複数の吐出ノズル112を有している。
【0043】
複数の吐出ノズル(吐出口)112は、供給口113の長方形状開口部をなす4辺に沿って列を成すように配置されている。すなわち、図1Aに示すように、2つの吐出ノズル列112aが、供給口113の長方形状開口部を成す2つの長辺を挟んで配置されている。また、供給口113の短辺側についても同様に、吐出ノズル列112bが供給口113を挟んで配置されている。
【0044】
吐出口プレート111に形成された複数のインク流路は、供給口113の長方形状開口部をなす2つの長辺の各々に対して直交するインク流路群と、供給口113の長方形状開口部をなす2つの短辺の各々に対して直交するインク流路群とからなる。そして、複数のインク流路及びインク流路間の側壁の、供給口113側の端部と、供給口113の開口部との間に、供給口113内の液体を複数のインク流路に供給する中継エリア114が設けられている。この中継エリア114は、吐出口プレート111の記録素子基板110との接合面に、記録素子基板110の記録素子形成面に開口する供給口113の開口部よりも一回り大きく開口する凹部を形成することで得られる。そして、この凹部から外側に複数の溝を形成することで上記のインク流路を画成している。
【0045】
以上のように本実施形態の記録ヘッドでは、2つの吐出ノズル列112aの端部側において、記録素子基板110における供給口113の開口部110aの外側に、吐出ノズル列112bに繋がる複数のインク流路を形成する流路壁が配置されている。そのため、供給口113から吐出ノズルに向かうインクの流れに対するデットスペースが無い状態となる。
【0046】
つまり、図2に示すように、インク117の流れ方は吐出口プレート111に向かって滞留することなく流れていく。これにより、液室113内に混入した混色インクを排出するための予備吐出時には、液室113内で混色インクが滞留してしまう現象が軽減され、効率の良い混色インクの排出が可能となる。
【0047】
さらに、2つの吐出ノズル列112aの端部側において、供給口113の長方形状開口部の短辺から中継エリア114を介してインクが供給される複数のインク流路及び吐出ノズル列112bを新設し、吐出ノズル列112bによりインクを吐出可能にした。この為、吐出ノズル列112aの端部側において混色インクの排出能力が向上し、混色インクを排出する予備吐出に要する時間の短縮が可能となる。
【0048】
なお、本実施形態を説明する図1Aでは、供給口113の開口部の短辺側における吐出ノズル列112bを4個の吐出ノズルで構成する例を示した。この吐出ノズル列112bを構成する吐出ノズルの数は図に限定されず、ひとつ、または複数個であってもよい。しかし、吐出ノズル列112bを構成する吐出ノズル(供給口113の開口部の短辺側における吐出ノズル)の数が多ければ多いほど、吐出ノズル列112aの端部側において混色インクの排出能力が向上することとなる。
【0049】
また、本実施形態において、2つの吐出ノズル列112aが画像形成用のノズル列となっており、吐出ノズル列112aのノズル配置方向は、本例の記録ヘッドを図5の記録装置に搭載したときに記録ヘッドの主走査方向に交差する方向となる。さらに、2つの吐出ノズル列112aのノズル位置を千鳥状に互いにずらして配置することで、画像形成時は同色でノズル列の密度より2倍の密度での記録液の吐出が可能となる構成としている。
【0050】
(実施形態2)
図3Aは本発明の実施形態2によるインクジェット記録ヘッドの、記録素子基板及び吐出口プレートのノズル列端部を模式的に示した平面透視図である。図3Bは図3Aの構成の変形例を示す平面透視図である。
【0051】
本実施形態では、実施形態1によるインクジェット記録ヘッドにおいて、図3A及び図3Bに示すように、ひとつの共通液室113の長方形状開口部の2つの長辺を挟んで配置された2つの吐出ノズル列が大/小の異なる径のノズル(吐出口)で構成されている。
【0052】
図3Aに示す形態は、共通液室113の長方形状開口部の2つの長辺を挟んで配置された2つの吐出ノズル列のうち、一方の吐出ノズル列112fを構成するノズルの径を、他方の吐出ノズル列112gを構成するノズルの径よりも大きくしている。つまり、複数の大径ノズルからなる吐出ノズル列112fと複数の小径ノズルからなる吐出ノズル列112gとが、共通液室113の長方形状開口部の2つの長辺を挟んで配置されている。
【0053】
一方、図3Bに示す形態は、共通液室113の長方形状開口部の2つの長辺を挟んで配置された2つの吐出ノズル列のいずれも、大径ノズル112fと小径ノズル112gを交互配置した構成としている。
【0054】
これらの形態において、共通液室113の長方形状開口部の短辺側に配置された吐出ノズル列112bのノズルは、小さいノズル径でも良いが、図のように大きいノズル径にすることで更にインクの排出効率が良い吐出ノズルとなる。したがって、予備吐出に要する時間の短縮が可能となる。
【0055】
(その他の実施形態)
図4は上記インクジェット記録ヘッドの製法例を示しており、以下、その製造方法について図を参照して簡潔に説明する。
【0056】
図4(a)に示される記録素子基板110上には電気熱変換素子あるいは圧電素子等の記録液吐出エネルギー発生素子110bが所望の個数配置される。
【0057】
次いで、図4(b)に示すように、記録液吐出エネルギー発生素子110bを含む記録素子基板110上に、溶解可能な樹脂層110cを形成する。
【0058】
そして、樹脂層110cを図4(c)に示すように、記録液流路パターンとなる形状に形成する。
【0059】
次いで、溶解可能な樹脂層110c上に、図4(d)に示すように被覆樹脂層110dを形成する。
【0060】
そして、図4(e)に示すように、被覆樹脂層110dに記録液吐出口であるノズル112を形成する。ノズル112の形成は従来から行なわれている手法で、O2プラズマによるエッチング、エキシマレーザー穴明け、あるいは紫外線、Deep−UV光などによる露光など、あらゆる手法で形成可能である。
【0061】
次に、図4(f)に示すように、記録素子基板110に記録液供給口113を設ける。記録液供給口113は、基板を化学的にエッチングすることにより形成する。より具体的には、基板としてSi(シリコン)基板を用い、KOH、NaOH、TMAHなどの強アルカリ溶液による異方性エッチングにより形成する。Si基板の結晶方位が(100)面では異方性エッチングの角度はθ=54.7°となる。
【0062】
最後に、図4(g)に示すように、溶解可能な樹脂層110cを溶出することにより、吐出口プレート111及び記録素子基板110からなるインクジェット記録ヘッドが完成する。
【0063】
以上の各実施形態において、記録液滴の吐出方式としてサイドシュータ型(電気熱変換体の形成面に対し垂直に吐出するタイプ)について説明を行ってきた。しかし、本願発明はそれに限定されるものではない。たとえば、エッジシュータ型ヘッドといったタイプ(電気熱変換体の形成面に対し略平行に吐出するタイプ)のインクジェット記録ヘッドについても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1A】本発明の実施形態1によるインクジェット記録ヘッドにおいて記録素子基板及び吐出口プレートのノズル列端部を模式的に示した平面透視図である。
【図1B】図1Aに示す部位を供給口の側方から見た透視図である。
【図2】図1Bの透視図でのインク流れを模式的に表した図である。
【図3A】本発明の実施形態2によるインクジェット記録ヘッドにおいて記録素子基板及び吐出口プレートのノズル列端部を模式的に示した平面透視図である。
【図3B】本発明の実施形態2によるインクジェット記録ヘッドにおいて記録素子基板及び吐出口プレートのノズル列端部を模式的に示した平面透視図である。
【図4】本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す工程図である。
【図5】一般的なインクジェット記録装置の模式図である。
【図6】本願の背景技術となるインクジェット記録ヘッドの、ノズルを形成する吐出口プレートの上面側から見た模式的な平面透視図である。
【図7】本願の背景技術となるインクジェット記録ヘッドの模式断面図である。
【図8A】図6に示した記録ヘッドにおいて記録素子基板及び吐出口プレートのノズル列端部を模式的に示した平面透視図である。
【図8B】図8Aに示す部位を供給口の側方から見た透視図である。
【図9】図8Bの透視図でのインク流れを模式的に表した図である。
【符号の説明】
【0065】
110 記録素子基板
110a 共通液室の開口部
110b 吐出エネルギー発生素子
111 吐出口プレート
112 ノズル(吐出口)
112a 吐出ノズル列(画像形成用)
112b 吐出ノズル列
113 供給口(液室)
117 インク(記録液)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する複数のノズルからなる画像形成用ノズル列と、該ノズルの各々に繋がる流路と、複数の該流路に接続される中継エリアと、該中継エリアへ液体を供給する液体供給穴とを有し、前記画像形成用ノズル列、前記流路および前記中継エリアが前記液体供給穴を挟んで配置されたインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記画像形成用ノズル列のノズル配置方向に関し前記液体供給穴を挟んで配置された、液体を吐出する第2ノズルと、
前記液体供給穴の開口部の外側に形成され、前記第2ノズルに繋がる第2流路と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記第2流路と前記液体供給穴を中継する中継エリアをさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項1】
液滴を吐出する複数のノズルからなる画像形成用ノズル列と、該ノズルの各々に繋がる流路と、複数の該流路に接続される中継エリアと、該中継エリアへ液体を供給する液体供給穴とを有し、前記画像形成用ノズル列、前記流路および前記中継エリアが前記液体供給穴を挟んで配置されたインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記画像形成用ノズル列のノズル配置方向に関し前記液体供給穴を挟んで配置された、液体を吐出する第2ノズルと、
前記液体供給穴の開口部の外側に形成され、前記第2ノズルに繋がる第2流路と、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記第2流路と前記液体供給穴を中継する中継エリアをさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図1B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【公開番号】特開2008−68557(P2008−68557A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250609(P2006−250609)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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