説明

インクジェット記録媒体およびその製造方法

【課題】 オフセット印刷用塗工紙の風合いを有し、インクジェット記録を行った際の印字部分の定着性やインク吸収性が良好で、印字品質に優れるインクジェット記録媒体を提供する。
【解決手段】 木材パルプを主成分とする原紙の片面又は両面に、レーザー回折式粒度分布測定において0.4μm以上4.2μm未満の粒子が体積基準の積算値で全体の60%以上となる粒度分布を有するカオリンとコールターカウンター法で測定された平均二次粒子径が0.5μm以上4μm以下である合成非晶質シリカ、及びバインダーを主成分とするインク受容層を有する記録媒体であって、該インク受容層表面にコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理から選択される少なくとも1つの表面処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオフセット印刷用塗工紙の風合いを持つインクジェット記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、フルカラー化が容易なことや印字騒音が少ない事などから、印字性能の急速な向上に伴って多くの用途に利用されてきている。これらの用途としては、例えば、文書作成ソフトからの文書記録、デジタル写真などのデジタル画像の記録、銀塩写真や本などの美麗な印刷体をスキャナーで取り込んだものの複製、比較的少枚数のポスターなどの展示用画像作成が挙げられる。
【0003】
また、これらの用途にそれぞれ適した構成のインクジェット記録媒体が提案されている。例えば、単に文字を記録する場合は、紙上に直接記録する普通紙タイプの媒体が使用され、銀塩写真に匹敵する解像度と色再現性を得たい場合は、塗工層としてインク受容層を設けた塗工紙タイプが使用される。特に高い光沢度が要求される場合、塗工紙タイプの塗工層を、例えばキャスト方式で形成したキャスト紙タイプなどが使用される。また、ポスターや展示用途の場合、塗工層を有するロール状タイプが開発され使用される。
【0004】
インクジェット記録方式の種々の分野への展開の一つとして、印刷分野が挙げられる。従来この分野では、主にオフセット方式が用いられてきたが、この印刷方式は版を必要とし、製版、印刷の工程を経るため、印刷物の完成までにある程度の時間を要する。一方、インクジェット記録方式では、記録媒体に直接、画像を形成するだけで印字物が得られることから非常に効率的であり、安価に印字物を作製可能である。ただし、従来の印刷物の代替となるため、印字物にはオフセット印刷物と同等の風合いが求められる。
【0005】
また、インクジェット記録方式では、同一の情報や図柄を多枚数連続して印字可能であるばかりでなく、一枚毎に情報や図柄を変更して連続印字することも可能である。この特徴を利用して、各種公共料金の請求書や領収書、クレジットカードの利用明細書、ダイレクトメール、テキスト、小冊子、カタログ、書籍等をインクジェットで印字する機会も増えてきている。
【0006】
また、インクジェット記録方式で使用されるインクには、水性や油性、及び染料タイプと顔料タイプがあるが、印字物の耐水性や耐光性向上の点から、印刷分野へ展開される場合、水性顔料インクを使用することが多い。
【0007】
一方、プリンターの解像度は、単位幅(1インチ)あたりのインクドット数(dpi)で表現されるが、近年のプリンターでは、300dpi程度の低解像度のものから5,000dpiを超える高解像度のものまで、多岐に亘っている。
【0008】
ところで、高品質なインクジェット記録画像を印字する場合、画像の色再現性を向上させるに伴い、プリンターから吐出されるインク量が多くなるため、インク受容層の形成が必要となり、このインク受容層には十分なインク吸収性能(速度及び容量)が求められる。このようなことから、インクジェット記録媒体のインク受容層には合成非晶質シリカなどの多孔性物質が用いられる例が多い。しかし、多孔性物質を用いるとインク吸収性は向上するが、光沢度が低く、質感もオフセット印刷物と異なるという問題がある。
【0009】
また、これらのインクジェット記録媒体は高価な原料、例えばシリカ、アルミナ、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニルエマルジョン、インク定着剤(ポリアミン系、DADMAC系、ポリアミジン系等)などを多量に用いているため、一般のオフセット印刷用塗工紙に比べ、製造原価が高い。
【0010】
一方、塗工層の顔料としてカオリンや炭酸カルシウムを含有する一般的なオフセット印刷用塗工紙にインクジェットプリンターで印字を行うと、塗工層のインク吸収容量が低いためにフェザーリング(滲み)、ブリード(色境界滲み)、ベタ部の印字ムラ(印字部の濃度ムラ)、コックリング(印字部の波打ち)、コスレ(印字部の擦過キズ)といった現象が起きる。
【0011】
また、顔料インクで印字を行う場合、インク中の顔料は用紙の中に浸透しないで用紙表面に留まるため、用紙との密着性(インクの定着性)が問題となる場合がある。
【0012】
これらの課題を解決するために、インクと用紙の両方の側面から検討が行われている。例えば、インク受容層を形成する顔料としてカオリンを90質量部以上含有し、前記カオリンのうち5〜15質量部のカオリンの平均粒径が1.5μm以上であるインクジェット記録用紙を用い、この用紙に印字するインクとして、顔料と親水性高分子化合物の割合を60/40〜95/5とするインクジェット用水性顔料インクが提案されている(特許文献1)。
【0013】
また、風合いが一般コート紙に近いインクジェット記録媒体として、支持体表面にカオリン及び非晶質合成シリカを主に含有する下層のインク受容層と、気相法アルミナを主な顔料とする上層のインク受容層を設けたものが開示されている(特許文献2)。
【0014】
さらに、顔料インクのみならず染料インクへの適性が優れるインクジェット記録シートとして、インク受容層中にシリカ10〜90質量%と、炭酸カルシウム及び/またはカオリナイト90〜10質量%とを含有するものが開示されている(特許文献3)。
【0015】
また、記録層(インク受容層)中に、平均粒子径0.2〜2.0μmで、かつ1≦L/W≦50(Lは粒子の長径、Wは粒子の短径(厚み)を表す)を満足する顔料を有し、JIS Z 8741による75°光沢度が40%以上であるインクジェット記録用紙が開示されている(特許文献4)。
【0016】
また、水系顔料インクジェットメディアにおいて、最表層の塗工層を形成する顔料として少なくとも軽質炭酸カルシウム、カオリン、ゲル法シリカを含み、これらの顔料の吸油度の平均値が70ml/100g以上120ml/g以下であることを特徴とするインクジェットメディアが開示されている(特許文献5)。
【0017】
また、インク付与面に、濡れ性向上処理を行う工程と該処理面にインクジェット方式により紫外線硬化型インクを付与する工程、及び紫外線を照射する工程を繰り返して行う着色物の製造方法及びインクジェット記録装置が開示されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2004−91627号公報
【特許文献2】特開2005−103827号公報
【特許文献3】特開2005−297473号公報
【特許文献4】特開2004−209965号公報
【特許文献5】特開2009−56615号公報
【特許文献6】特開2008−207528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、上記した特許文献1に開示された顔料インクは、白紙光沢度が低い記録用紙(マット調のインクジェット記録用紙)に印字する場合には、ある程度の印字部定着性を得ることができるが、それ以外の記録用紙に対して定着性が充分ではない。特に白紙光沢度が高い記録用紙(グロス調のインクジェット記録用紙)に記録する場合、特許文献1に開示された顔料インクでは充分な定着性を得ることができない。
【0020】
また、特許文献2記載のインクジェット記録媒体においては、インク受容層の2層化や高価なアルミナを使用するため高コストとなる問題がある。さらに、特許文献3に記載のインクジェット記録シートにおいては、インク吸収性とオフセット印刷用塗工紙並みの光沢度の両立が困難である。同様に、特許文献4記載のインクジェット記録用紙では、光沢度に優れるもののインク吸収性や印字部分の定着性が不足する。また、特許文献5記載のインクジェットメディアでは、十分なインク吸収性が得られないといった問題があった。また、特許文献6記載の着色物の製造方法およびインクジェット記録装置では、装置が煩雑、大型化する課題が残っている。
【0021】
従って、本発明は、オフセット印刷用塗工紙の風合いを有し、顔料インクでインクジェット記録を行った際の印字部分の定着性やインク吸収性が良好で、印字品質に優れるインクジェット記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者等は鋭意検討した結果、原紙上に特定の粒子径と分布を有する特定の顔料とバインダーを主成分とするインク受容層を設けた記録媒体であって、該インク受容層表面にコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理から選択されるいずれかまたは複数の表面処理を施すことによって、上記課題を解決できることを見出した。
【0023】
すなわち、本発明のインクジェット記録媒体は、木材パルプを主成分とする原紙の片面又は両面に、レーザー回折式粒度分布測定において0.4μm以上4.2μm未満の粒子が体積基準の積算値で全体の60%以上となる粒度分布を有するカオリンとコールターカウンター法で測定された平均二次粒子径が0.5μm以上4μm以下である合成非晶質シリカ、及びバインダーを主成分とするインク受容層を有する記録媒体であって、該インク受容層表面にコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理から選択されるいずれかまたは複数の表面処理を施したことを特徴とするインクジェット記録媒体である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、オフセット印刷用塗工紙の風合いを有し、顔料インクでインクジェット記録を行った際の印字部分の定着性やインク吸収性が良好で、印字品質に優れるインクジェット記録媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下本発明の実施形態について説明する。
(原紙)
原紙は木材パルプを主成分とする。木材パルプとして、化学パルプ(針葉樹の晒または未晒クラフトパルプ、広葉樹の晒または未晒クラフトパルプ等)、機械パルプ(グラウンドパルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ等)、脱墨パルプ等のパルプを単独または任意の割合で混合して使用することができる。
【0026】
原紙の抄紙pHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでも良い。また、原紙中の填料の含有量が増えると、紙の不透明度が向上する傾向があるため、紙中に填料を含有させることが好ましい。填料としては、水和珪酸、ホワイトカーボン、タルク、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、酸化チタン、合成樹脂填料等の公知の填料を使用することができる。さらに原紙には必要に応じて硫酸バンド、サイズ剤、紙力増強剤、歩留まり向上剤、着色剤、染料、消泡剤、pH調整剤等の助剤を含有しても良い。なお原紙の坪量は特に制限されないが、25〜400g/m程度のものが好適に利用できる。
【0027】
上記原紙の片面又は両面に、必要に応じて顔料及びバインダーを主成分とする下塗り層を片面当たり少なくとも一層設けても構わない。インク受容層を両面に設置する場合には、下塗り層も原紙の両面に設けることができる。
【0028】
下塗り層に用いる顔料は、コストの面から炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム又は軽質炭酸カルシウム)が主に用いられるが、その他、カオリン、タルク、サチンホワイト、シリカ、二酸化チタン等を適宜併用することができる。また、下塗り層に用いるバインダーは、例えば酸化澱粉やエーテル化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類;スチレン・ブタジエン共重合体(SB)ラテックスやアクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NB)ラテックス等のラテックス類;ポリビニルアルコール及びその変性物;カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ポリウレタン、酢酸ビニル及び不飽和ポリエステル樹脂等のバインダーの中から1種類又は2種類以上を適宜選択して使用することができる。特に、下塗り層として調製する塗料の流動性や塗工適性の観点から、ラテックス類若しくは澱粉類、またはそれらの混合物をバインダーに用いることが好ましい。
【0029】
また、下塗り層に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて蛍光染料、導電剤、保水剤、耐水化剤、pH調整剤、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、界面活性剤等の助剤を任意の割合で含有させてもよい。
【0030】
下塗り層を設ける方法については特に制限されないが、原紙の抄紙マシンに、2ロール式サイズプレス、フィルムトランスファー方式のゲートロールコーターやブレード、ロッドメタリングサイズプレス、又はブレードコーターを設置し、これらの装置で下塗り層を設けることが好ましい。
【0031】
下塗り層の塗工量は特に制限を設けないが、原紙の抄紙マシンに設置した上記装置で設ける場合には、原紙の片面あたり1g/m以上10g/m未満であることが好ましく、特に原紙の片面あたり3g/m以上7g/m未満であることが好ましい。下塗り層の塗工量が片面あたり1g/m未満の場合、原紙を充分に被覆することができず、下塗り層の塗工量が10g/m以上の場合には、塗料の乾燥負荷が大きくなるために操業性が低下することがある。
【0032】
(インク受容層)
インク受容層は原紙または下塗り層の表面に設けられ、以下のカオリン、合成非晶質シリカ、及びバインダーを主成分とする。ここで、「カオリン、合成非晶質シリカ、及びバインダーを主成分とする」とは、インク受容層に含まれる全成分に対し、カオリン、合成非晶質シリカ、及びバインダーの割合が50質量%を超えていることをいう。
【0033】
(インク受容層の顔料)
インク受容層に使用する顔料は、レーザー回折式粒度分布測定において、0.4μm以上4.2μm未満の粒子が体積基準の積算値で全体の60%以上となる粒度分布を有するカオリンを主体とする。カオリンはカオリナイト、ハロイサイト、ディッカイト、ナックライトといったカオリン鉱物を少なくとも1種類以上含む粘土のことであり、一般的なオフセット印刷用塗工紙に使用される公知のカオリンであればいかなるものを用いてよい。カオリンとしては、例えばジョージア産、ブラジル産、中国産等の産地や、1級、2級、デラミ等のグレードに限定されず、1種類または2種類以上のカオリンを混合したものを適宜選択して使用することができる。前記粒度分布は、純水中に試料スラリーを滴下混合して均一分散体とし、レーザー法粒度測定機(使用機器:マルバーン社製マスターサイザーS型)にて測定した値を使用する。
【0034】
上記した粒度分布を有するカオリンは、一般のカオリンと比較して粒度分布がシャープで、粒子径が揃っており、顔料粒子の充填密度が低く、ポーラスで嵩高なインク受容層を形成する。ポーラスなインク受容層は、顔料の充填が密なインク受容層と比較して平均空隙径が大きいためインク吸収性に優れる。カオリンの粒度分布がシャープであるほどポーラスなインク受容層を形成しやすく、特に、レーザー回折式粒度分布測定において0.4μm以上4.2μm未満の粒子が体積基準の積算値で全体の65%以上となる粒度分布を有することが好ましい。
【0035】
上記した粒度分布を持つカオリンに代えて、レーザー回折式粒度分布測定において0.4μm以上4.2μm未満の粒子が体積基準の積算値で全体の60%未満となる粒度分布を有するカオリンであって、0.4μm未満の粒子径の粒子を多く含むカオリンを使用した場合、インク受容層が密となるためインク吸収性が低下する。又、レーザー回折式粒度分布測定において0.4μm以上4.2μm未満の粒子が体積基準の積算値で全体の60%未満となる粒度分布を有するカオリンであって、4.2μmを超える粒子径の粒子を多く含むカオリンを使用した場合もインク受容層が密となることに加えて、インク受容層表面に存在する顔料粒子の隙間も少なくなるためインク吸収性が低下する。
【0036】
また、インク受容層は上記のカオリンの他に、コールターカウンター法で測定した平均二次粒子径が0.5μm以上4μm以下の合成非晶質シリカを含む。合成非晶質シリカの平均二次粒子径が4μmを超えると、得られるインクジェット記録媒体の平滑性や光沢感がオフセット印刷用塗工紙と異なると共に、インクの浸透が過剰となって発色性が悪化したり、印字ムラが発生したりする。合成非晶質シリカの平均二次粒子径が0.5μm未満の場合には、インク吸収性が低下するほか、顔料を分散する際に塗料粘度が増大して塗料の分散性が悪化する。特に、合成非晶質シリカの平均二次粒子径が0.6μm以上3μm以下であることが好ましい。
【0037】
合成非晶質シリカの吸油量については特に制限を設けないが、150ml/100g以上500ml/100g以下であることが好ましい。吸油量が150ml/100g未満であると、インク受容層のインク保持能力が充分ではなく、印字部の定着性やインク吸収性が劣る場合がある。吸油量が500ml/100gを超えると、顔料を分散する際、塗料粘度が増大して塗料の分散性が悪化する場合がある。合成非晶質シリカの吸油量は200ml/100g以上400ml/100g以下であることがより好ましい。なお、吸油量の測定はJIS K 5101に定められた方法で行うことができる。
【0038】
合成非晶質シリカはゲル法シリカであることが好ましい。ゲル法シリカとは、ケイ酸ナトリウムと鉱酸(通常は硫酸)の中和反応を酸性のpH領域で進行させることにより、一次粒子の成長を抑えた状態で凝集を起こして得られる、湿式法合成非晶質シリカ微粒子をいう。ゲル法シリカは沈降法シリカ(ケイ酸ナトリウムと鉱酸の中和反応をアルカリ性のpH領域で進行させて製造)に比較して、凝集後の反応時間が長く、一次粒子間結合が強く、また、細孔容積が大きくなる傾向にある。このためインク吸収性と定着性能に優れ、好ましく用いられる。
【0039】
なお、インク受容層における上述したカオリンと合成非晶質シリカの質量配合比(カオリン/合成非晶質シリカ)は95/5〜50/50であることが好ましい。シリカの配合割合が少ないと、目的とするインク吸収性や定着性が得られにくい。また、シリカの配合割合が多すぎると、インク受容層表面にクラックが発生し、インクの浸透が過剰となり、発色性が悪化したり、ムラが発生したりすることがある。さらにシリカの配合割合が多くなるにつれて、オフセット印刷用紙の風合いから遠ざかる傾向にあるうえ、光沢度の発現性が得られにくくなるため、グロス調の記録用紙を得ることが困難となる場合がある。
【0040】
インク受容層には、カオリン及び合成非晶質シリカ以外に、他の無機顔料を含有させることができる。これらの他の無機顔料としては、一般的なオフセット印刷用塗工紙に使用される公知の顔料であればいかなるものも用いて良い。上記した他の無機顔料として、上記した粒度分布を有するカオリン以外のカオリン、上記した平均二次粒子径の合成非晶質シリカ以外の重質炭酸カルシウム及び軽質炭酸カルシウム、シリカ、シリカ複合炭酸カルシウム、タルク、焼成カオリン、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト及びスメクタイト等の無機顔料の中から1種類又は2種類以上を適宜選択して使用することができる。これら無機顔料の配合量は、インク受容層中の上記カオリン及び合成非晶質シリカの合計量に対して40質量%以下であることが望ましい。
【0041】
本発明においては、インク受容層表面の白紙光沢度を向上させるために、インク受容層に適宜プラスチックピグメント等の有機顔料を含有することが好ましい。有機顔料の配合割合は無機顔料(カオリン及び合成非晶質シリカを含むインク受容層中の全無機顔料の合計量)100質量部に対して0〜40質量部、より好ましくは0〜30質量部、更に好ましくは1〜25質量部とすることができる。
【0042】
インク受容層に有機顔料を全く配合しない場合、本発明におけるマット調インクジェット記録媒体を製造することに関しては問題が無いが、グロス調インクジェット用紙を製造するときには光沢度発現性は十分ではないことがある。特に、本発明で使用する合成非晶質シリカの配合割合が増えるのに反比例して、インク受容層の光沢度発現性は低下するため、グロス調インクジェット用紙を製造するためには、合成非晶質シリカの配合割合が増えるのに比例して有機顔料の配合量を増やす必要がある。また、有機顔料を40質量部より多く配合すると、高温に加熱されたカレンダーを通紙する際に有機顔料が溶融して金属ロールに貼り付き、裂けや断紙トラブル等が発生する。なお、マット調インクジェット用紙を製造するときの有機顔料の配合量は特に制限されない。
【0043】
インク受容層に用いる有機顔料は、密実型、中空型、または、コア−シェル型等を必要に応じて単独または2種類以上混合して使用することができる。有機顔料の構成重合体成分としては、好ましくは、スチレン及び/または、メチルメタアクリレート等のモノマーを主成分として、必要に応じてこれらと共重合可能な他のモノマーが用いられる。この共重合可能なモノマーとしては、例えば、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ジメチルスチレン等のオレフィン系芳香族系モノマー、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリロニトリル等のモノオレフィン系モノマー及び酢酸ビニル等のモノマーがある。また、必要に応じて、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸等のオレフィン系不飽和カルボン酸モノマー類;ヒドロキシエチル、メタアクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸ヒドロキシプロピル等のオレフィン系不飽和ヒドロキシモノマー類;アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド等のオレフィン系不飽和アミドモノマー類;ジビニルベンゼン等の二量体ビニルモノマー等を一種または二種以上の組み合わせで用いることができる。これらのモノマーは例示であり、このほかにも共重合可能なモノマーがあれば使用することができる。
【0044】
(インク受容層のバインダー)
インク受容層に用いるバインダーは、一般的なオフセット印刷用塗工紙に使用される公知のバインダーであればいかなるものを用いて良い。バインダーとして、例えば酸化澱粉やエーテル化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類;スチレン・ブタジエン共重合体(SB)ラテックスやアクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NB)ラテックス等のラテックス類;ポリビニルアルコール及びその変性物;カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ポリウレタン、酢酸ビニル及び不飽和ポリエステル樹脂等のバインダーの中から1種類ないし2種類以上を適宜選択して使用することができるが、インク受容層として調製する塗料の流動性や塗工適性の観点から、ラテックス類若しくは澱粉類、またはそれらの混合物を用いることが好ましい。
【0045】
インク受容層に含まれる全ての無機顔料の合計100質量部に対するバインダーの割合は4質量部以上35質量部以下であることが好ましい。バインダーの含有量が4質量部未満の場合、インク受容層の強度が不足する傾向にある。一方、バインダーの含有量が35質量部を超えるとインク受容層中に存在する空隙がバインダーによって満たされ、インクの吸収容量が少なくなるため、良好な印字品質を得ることが困難となる傾向にある。
【0046】
無機顔料の合計100質量部に対するバインダーの割合が5質量部以上30質量部未満であることがさらに好ましい。
【0047】
(その他の成分)
インク受容層には、その他必要に応じて、顔料分散剤、増粘剤、保水剤、滑剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料、防腐剤、耐水化剤、界面活性剤、pH調整剤等の助剤を適宜添加することができる。
(インク受容層の塗工量)
インク受容層の塗工量は特に制限を設けないが、片面あたり1g/m以上40g/m未満であることが好ましく、特に片面あたり4g/m以上30g/m未満であることが好ましい。塗工量が多いほどインク受容層の空隙量も多くなるため、インク吸収性が良好となる。インク受容層の塗工量が片面あたり1g/m未満の場合、基材となる原紙を充分に被覆することができないため、塗工紙表面にガサつきが残り、非塗工紙に似た風合いを帯びる。そして、この場合には、本発明が所望する白紙光沢度を得ることが困難となり、目的としたオフセット印刷用塗工紙の風合いを持つインクジェット記録媒体を得ることができない。また、塗工量が片面あたり1g/m未満の場合、インク受容層の吸収容量も充分ではないため、フェザーリングやブリードといった印字不良を起こしやすい。一方、インク受容層の塗工量が片面あたり40g/m以上となると、塗工時の乾燥負荷が大きいため、作業性が劣り、またコスト増となる。
【0048】
インク受容層を設ける方法として、一般的な塗工装置である、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーター、ゲートロールコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、フレキソグラビアコーター、スプレーコーター、サイズプレス等の各種装置を、オンマシンまたはオフマシンで使用することができる。また、インク受容層は原紙の片面又は両面に設けて良く、一層又は二層以上設けても良い。本発明においてはインク受容層が一層であっても充分な性能が得られるため、コストを下げるという観点から一層のみ設けることが好ましい。
【0049】
(表面処理)
本発明では、上記インク受容層表面にコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理から選択される少なくとも1つの表面処理を施すことが必要である。
【0050】
コロナ処理とは、高周波、高電圧のコロナ放電照射によって用紙表面を処理することで行われる。また、フレーム処理は、天然ガスやプロパンガス等の可燃性ガスに酸素を吹き込みながら燃焼させたときに生じる火炎で表面を処理することで行われる。また、プラズマ処理は、アルゴン、ヘリウム、ネオン、水素、酸素、空気等の単体又は混合気体の分子を、高周波を用いて電界を加えることで電離せしめ、これを表面に吹き付けることにより行われる。
【0051】
前記表面処理は、表面処理前のインク受容層表面のJIS R 3257 静滴法に準じて測定した蒸留水との接触角に対して、前記インク受容層表面に表面処理を施した後に測定した接触角が10〜60°低下するように処理条件を設定して行うことが好ましい。
【0052】
(白紙光沢度)
本発明におけるグロス調のインクジェット記録媒体のインク受容層表面のJIS Z 8741による光入射角75度の好ましい白紙光沢度は35〜80%である。白紙光沢度が35%未満の場合には、オフセット印刷用紙の風合いが得られず、白紙光沢度が80%を超える場合には、高い光沢度を得るためのカレンダー処理の条件が過度になるためインク受容層の空隙が減少し、良好なインク吸収性が得られない。
一方、本発明におけるマット調インクジェット記録媒体の場合は、白紙光沢度が35%未満でも特に問題ない。
【0053】
白紙光沢度は、インク受容層を設けた後にマシンカレンダー、マットカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー、シューカレンダー等のカレンダー装置を用い、処理温度、処理速度、処理線圧、処理段数およびロールの径、材質等の条件を適宜調整あるいは選択して表面処理することにより調整することができる。
【0054】
本発明のインクジェット記録媒体は、インクジェット方式のプリンター、特に水性顔料インク搭載のプリンターで印字した際に優れた性能を発揮する。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は、特に明示しない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
又、カオリンの粒度分布は、純水中にカオリンを含む試料スラリーを滴下混合して均一分散体とし、レーザー法粒度測定機(使用機器:マルバーン社製マスターサイザーS型)にて測定した値を採用した。
合成非晶質シリカの平均二次粒子径は、コールターカウンター法(使用機器:ベックマン・コールター社製マルチサイザー3)で測定した。
【0056】
[実施例1]
広葉樹漂白クラフトパルプ(カナダ標準濾水度400ml)100質量%に対し、カチオン化澱粉を対パルプ0.5質量%、アルキルケテンダイマーを対パルプ0.05質量%、硫酸バンドを対パルプ0.5質量%、炭酸カルシウムを対パルプ15質量%となるように添加して紙料とした。この紙料を用いて長網抄紙機で紙匹を形成し、ウェットプレスの後にシリンダードライヤーにて乾燥し、更に、ゲートロールコーターにて10質量%濃度の酸化澱粉水溶液を両面で固形分として3g/m塗布し、再び乾燥し、マシンカレンダー処理して坪量80g/mの原紙を得た。
次いで、カオリン(製品名:Capim DG、リオカピム社製、体積基準の粒度分布における粒子径0.4μm以上4.2μm未満の割合:71%)80部、合成非晶質シリカ(製品名:NIPGEL AY−200、東ソー・シリカ社製、平均二次粒子径1.8μm)20部、有機顔料(製品名:P8900、旭化成ケミカルズ社製)20部、バインダーとなるSBラテックス(ガラス転移温度15℃)10部、水酸化ナトリウム0.2部、分散剤としてポリアクリル酸ソーダ0.2部及び希釈水を混合して固形分40%のインク受容層用塗料を調製した。この塗料を、ブレードコーターを用いて片面あたり塗工量12g/mとなるように上記の原紙上に両面塗工し、紙中水分率5%となるまで乾燥し、JIS Z 8741に基づく光入射角75度の白紙光沢度が64%となるようにスーパーカレンダー処理し、インク受容層を設けた。
さらに、このインク受容層表面に、23℃、50%R.H.の環境下で調湿した後に測定したインク受容層表面と蒸留水との接触角が66°となるようにコロナ処理を行い、本願発明のインクジェット記録媒体を得た。
【0057】
[比較例1]
インク受容層の表面処理(コロナ処理)を行わないこと以外は実施例1と同様にして、インクジェット記録媒体を得た。なお、このインクジェット記録媒体のインク受容層表面の蒸留水との接触角は82°であった。
【0058】
<評価方法>
1.白紙品質
1−1.白紙光沢度
JIS Z8741に準じて、各インクジェット記録媒体の表面の光入射角75度の白紙光沢度を光沢度計(村上色彩技術研究所製、True GLOSS GM−26PRO)を用いて測定した。
【0059】
1−2.接触角
JIS R3257、静滴法に準じて、インクジェット記録媒体表面と蒸留水との滴下0.02秒後の接触角を、接触角計(FIBRO社製 1100DAT)を用いて測定した。
2.インクジェット印字品質
下記の市販の水性顔料インクジェットプリンターで各インクジェット記録媒体に印字を行い、以下の評価方法に準じて印字品質を評価した。
評価用プリンター:セイコーエプソン社製、PX−V630(横方向:5,760dpi×通紙方向:1,440dpi)
【0060】
2−1.インク乾燥性(インク吸収性)
評価用プリンターを用い、写真用紙/きれいモードで1.5ポイントの太さの黒色直線を印字し、印字10分後に指で擦り、以下の基準で乾燥性を評価した。
◎:指で擦っても印字部が全く伸びず、インク吸収性が極めて早い。
○:指で擦っても印字部が殆ど延びず、インク吸収速度が速く、良好なレベルである。
△:指で擦ると印字部が若干延び、ややインク吸収速度が遅いが、実用上問題の無いレベルである。
×:指で擦ると印字部が延び、インク吸収速度が遅く、実用に耐えないレベルである。
【0061】
2−2.印字部の定着性
評価用プリンターを用い、普通紙/きれいモードで1cm×1cmの黒ベタパターンを印字し、印字5時間後に印字部にメンディングテープ(Scotchメンディングテープ、住友スリーエム社製)を貼り付けた後に剥がし、メンディングテープに取られたインク及び記録媒体上に残ったインクの様子を観察して評価した。
○:取られが無いかまたは僅かで、インクが記録媒体上にほとんど残っている。
△:取られが認められるが、記録媒体上にも残っていることから、実用に耐えるが、改善が好ましい。
×:テープにインクがほとんど取られて、記録媒体上に残ったインクが少なく、定着性が劣り、実用に耐えない。
【0062】
【表1】

【0063】
表1から明らかなように、コロナ処理を行わない比較例1に比べて、コロナ処理を施した実施例1では極めて優れたインク乾燥性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材パルプを主成分とする原紙の片面又は両面に、レーザー回折式粒度分布測定において0.4μm以上4.2μm未満の粒子が体積基準の積算値で全体の60%以上となる粒度分布を有するカオリンとコールターカウンター法で測定された平均二次粒子径が0.5μm以上4μm以下である合成非晶質シリカ、及びバインダーを主成分とするインク受容層を有する記録媒体であって、該インク受容層表面にコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理から選択される少なくとも1つの表面処理を施したことを特徴とするインクジェット記録媒体。
【請求項2】
木材パルプを主成分とする原紙の片面又は両面に、レーザー回折式粒度分布測定において0.4μm以上4.2μm未満の粒子が体積基準の積算値で全体の60%以上となる粒度分布を有するカオリンとコールターカウンター法で測定された平均二次粒子径が0.5μm以上4μm以下である合成非晶質シリカ、及びバインダーを主成分とするインク受容層を有する記録媒体の製造方法であって、該インク受容層表面にコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理から選択される少なくとも1つの表面処理を施すことを特徴とするインクジェット記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記表面処理前のインク受容層表面のJIS R 3257 静滴法に準じて測定した蒸留水との接触角に対して、前記インク受容層表面にコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理から選択される少なくとも1つの表面処理を施した後に測定した接触角が10〜60°低下していることを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2012−71501(P2012−71501A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218441(P2010−218441)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】