説明

インクジェット記録媒体及びその製造方法

【課題】紙支持体を用いた従来の被記録媒体に比べて、より高い画像濃度が得られ、細線描画などの画像再現性に優れたインクジェット記録媒体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】紙支持体と、前記紙支持体上に設けられ、無機粒子、及び少なくとも(メタ)アクリル酸に由来の構成単位(a1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(a2)とを5:95〜60:40の比率(a1:a2)で含むアクリル系共重合体を含む層(A)と、前記層(A)の前記紙支持体が配されていない側に前記層(A)と接して設けられ、気相法シリカ及び湿式法シリカから選ばれる無機粒子、及び媒染剤を含む層(B)と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像を記録する方法としては、近年様々な方法が提案されているが、いずれにおいても画像の再現性や色濃度、風合いなど、記録物の品質に対する要求は高い。
【0003】
例えばインクジェット法を利用した記録方法としては、インクを受容する記録層が多孔質構造に構成されたインクジェット記録媒体を用いた方法が実用化されている。その一例として、無機顔料粒子及び水溶性バインダーを含み、高い空隙率を有する記録層が耐水性の支持体上に設けられたインクジェット記録媒体があり、多孔質構造を有するためにインクの速乾性に優れ、高い光沢を有する等、写真ライクな画像の記録が可能になってきている。
【0004】
一方、インクジェット記録方法は、オフィスプリンター、ホームプリンター等の分野での適用のみならず、近年では、商業印刷分野での応用がなされつつある。そして、使用される被記録媒体として、インク溶媒の浸透を完全に遮断する写真のような表面を持つ支持体を有するものではなく、汎用の印刷紙を用いた媒体の需要が高まっており、このような場合にも、所望濃度を有して画像を良好に再現できることが望まれる。
【0005】
ところが、樹脂で被覆されていない印刷紙などの紙支持体では、インク受容する層を設けるために、紙支持体表面に直接、水系の液を塗布すると、紙支持体に水分が浸み込み、塗布後に表面粗さが大きくなり、光沢度が低いものとなってしまう。また、このような表面にインクを付与して画像形成しようとすると、細線等の画像部分に滲み調のボケが生じやすく、描画性が劣ることがある。
【0006】
上記状況に関連して、紙基材に二酸化チタンとアクリル系重合体等から選ばれるエマルジョン型接着剤とを含有する下塗り層、及びシリカとカチオン性インク定着剤とを含有するインク受容層が設けられたインクジェット記録用紙が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、紙支持体上に、白色顔料と所定粒径のカオリンとアクリル系重合体等から選ばれる接着剤を含有する塗工層の上に、シリカ等の無機顔料を含む記録層が形成されたインクジェット記録用紙が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
上記のほか、インクジェット記録に用いられる用紙として、紙支持体の上に複数の層が設けられたものに関する開示がある(例えば、特許文献3〜7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−280338号公報
【特許文献2】特開2006−21421号公報
【特許文献3】特開2002−292990号公報
【特許文献4】特開平9−66663号公報
【特許文献5】特開2006−224662号公報
【特許文献6】特開平9−267545号公報
【特許文献7】特開2003−112472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、従来から支持体に紙基材を用いその上に複数の層を形成して構成する技術が種々検討されてはいるものの、紙支持体を被覆せずに用いてインク溶媒の吸収能をある程度持たせながら、画像の濃度や細線等の再現性を所望以上に向上させることができるにまでは至っていないのが実情である。
【0010】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、紙支持体を用いた従来の被記録媒体に比べて、より高い画像濃度が得られ、細線描画などの画像再現性に優れたインクジェット記録媒体及びその製造方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 紙支持体と、前記紙支持体上に設けられ、無機粒子、及び少なくとも(メタ)アクリル酸に由来の構成単位(a1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(a2)とを5:95〜60:40の比率(a1:a2;モル比)で含むアクリル系共重合体を含む層(A)と、前記層(A)の前記紙支持体が配されていない側に前記層(A)と接して設けられ、気相法シリカ及び湿式法シリカから選ばれる無機粒子、水溶性樹脂、及び媒染剤を含む層(B)と、を有するインクジェット記録媒体である。
【0012】
<2> 前記層(A)中の前記無機粒子に対する前記アクリル系共重合体の質量比率(アクリル系共重合体/無機粒子)が0.2〜2.0質量%である前記<1>に記載のインクジェット記録媒体である。
【0013】
<3> 前記層(A)は、更に、ポリビニルアルコールを含み、無機粒子に対するポリビニルアルコールの質量比率(ポリビニルアルコール/無機粒子)が5〜20質量%である前記<1>又は前記<2>に記載のインクジェット記録媒体である。
【0014】
<4> 前記層(B)中の前記無機粒子が気相法シリカである前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載のインクジェット記録媒体である。
【0015】
<5> 前記層(A)中の無機粒子が、焼成カオリン及び炭酸カルシウムから選ばれる粒子である前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載のインクジェット記録媒体である。
【0016】
<6> 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アルキル部位が炭素数2〜4のアルキルである前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載のインクジェット記録媒体である。
【0017】
<7> 無機粒子が分散された分散液、及び少なくとも(メタ)アクリル酸に由来の構成単位(a1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(a2)とを5:95〜60:40の比率(a1:a2;モル比)で含むアクリル系共重合体を含有する水溶液又は乳化物を混合して第1の塗布液を調製し、調製した第1の塗布液を紙支持体上に塗布して層(A)を形成する工程と、前記層(A)の表面に、気相法シリカ及び湿式法シリカから選ばれる無機粒子と水溶性樹脂と媒染剤とを含有する第2の塗布液を塗布して層(B)を形成する工程と、を有するインクジェット記録媒体の製造方法である。
【0018】
<8> 前記層(A)を形成する工程は、無機粒子が分散された分散液とポリビニルアルコール水溶液とを混合し、得られた混合液にアクリル系共重合体を含有する水溶液又は乳化物を混合することにより前記塗布液を調製する前記<7>に記載のインクジェット記録媒体の製造方法である。
【0019】
<9> 前記第1の塗布液と前記第2の塗布液とを同時重層塗布することにより前記層(A)及び前記層(B)を形成する前記<7>又は前記<8>に記載のインクジェット記録媒体の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、紙支持体を用いた従来の被記録媒体に比べて、より高い画像濃度が得られ、細線描画などの画像再現性に優れたインクジェット記録媒体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のインクジェット記録媒体及びその製造方法について詳細に説明する。
本発明のインクジェット記録媒体は、紙支持体上に該紙支持体側から順に、無機粒子を含有する層(A)と層(B)とを積層してなるものである。すなわち、
本発明のインクジェット記録媒体は、紙支持体と、紙支持体上に設けられ、無機粒子、及び少なくとも(メタ)アクリル酸に由来の構成単位(a1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(a2)とを5:95〜60:40の比率(a1:a2)で含むアクリル系共重合体を含む層(A)と、層(A)の前記紙支持体が配されていない側に層(A)と接して設けられ、気相法シリカ及び湿式法シリカから選ばれる無機粒子、及び媒染剤を含む層(B)と、を設けて構成されている。
【0022】
紙基材を支持体として備えた構成の場合、紙支持体の表面に直接水系の液の塗布を行なうと、紙支持体に水分が浸み込み、塗布後の表面粗さが大きく、最終的に得られる記録媒体の記録面の光沢度が低いものとなってしまう。また、記録面となる表面の表面粗さが大きいと、細線等の画像を形成したときには滲み調のボケが生じ、画像再現性に劣ることがある。光沢度を高めたり、表面粗さを小さくする手段としては、光沢を与えるための光沢発現層を設ける方法や、鏡面ロールに接触させて塗膜を乾燥させる方法などがあるが、これらの方法ではインクの吸収速度が低下する弊害がある。これは、記録面にある細孔が目詰めされるためと推測される。また、水分が紙支持体まで浸み込むのを防止するため、ポリオレフィンなどの樹脂を紙支持体に被覆する方法もあるが、工程数が増えるほかコストも高くなってしまう。
本発明においては、紙支持体を用いて媒体を構成する場合に、少なくとも(メタ)アクリル酸に由来の構成単位(a1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(a2)とを該構成単位a1、a2の比率a1:a2(モル比)が5:95〜60:40を満たす範囲で含むアクリル系共重合体を、支持体上に複数設けられる無機粒子含有の層のうち最も紙支持体に近い層に含ませることにより、紙支持体の表面に直接、水系塗布液を塗布して層形成しても、記録面における表面粗さが小さく抑えられ、画像形成にあたり画像濃度及び細線描画等の画像再現性に優れたインクジェット記録媒体を得ることができる。
これは、少なくとも(メタ)アクリル酸を単量体として共重合成分に含んだアクリル系共重合体は保液剤(特に保水剤)としても機能しており、その保液効果(特に保水効果)により紙支持体への水の浸透が抑制されていることが影響しているものと推測される。
【0023】
−紙支持体−
本発明のインクジェット記録媒体は、基材として紙製の支持体を設けて構成されている。紙支持体としては、例えば、特開2009−73158号公報の段落番号[0017]〜[0026]に記載の原紙を挙げることができる。
【0024】
具体的な原紙としては、天然パルプ紙、合成パルプ紙、天然パルプと合成パルプの混抄紙、更には各種の抄き合わせ紙を挙げることができる。
この場合、原紙の原料として用いるパルプとしては、原紙の表面平滑性、剛性及び寸法安定性(カール性)を同時にバランスよく、かつ十分なレベルにまで向上させる点から、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)が好ましいが、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)や広葉樹サルファイトパルプ(LBSP)等を使用することもできる。
【0025】
紙支持体の厚みは、30〜500μmが好ましく、より好ましくは50〜300μmであり、さらに好ましくは70〜200μmである。
【0026】
−層(A)−
本発明のインクジェット記録媒体は、紙支持体の表面に又は他の層を介して少なくとも一層の層(A)を有しており、この層(A)は、主としてインク中の色材を受容して画像形成を担う後述の層(B)と基材をなす紙支持体との間に設けられる。層(A)は、層(B)に付与されたインク中の溶媒(以下、インク溶媒ともいう。)を取り込み、インクが層(B)内の幅方向に広がることを抑制するため、画像濃度と細線描画などの再現性を高く維持することができる。
【0027】
層(A)は、少なくとも、無機粒子と、少なくとも(メタ)アクリル酸に由来の構成単位(a1)及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(a2)を、5:95〜60:40の比率(a1:a2)で含むアクリル系共重合体とを含有する。また、層(A)は、必要に応じて、更に他の成分を用いて構成することができる。
【0028】
(無機粒子A)
本発明における層(A)は、無機粒子の少なくとも一種(以下、無機粒子A又は単に無機粒子という。)を含有する。無機粒子は、層形成した際に多孔質構造を形成することができ、インクの吸収性能を向上させるのに有効である。
【0029】
無機粒子Aとしては、例えば、カオリン、クレー、焼成クレー、無定形シリカ(非晶質シリカともいう)又は合成非晶質シリカ等のシリカ粒子、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、アルミナ、コロイダルシリカ、二酸化チタン、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、ゼオライト、合成ゼオライト、カオリナイト、セピオライト、スメクタイト、合成スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、雲母、タルク、珪藻土、ハイドロタルサイト、スチレン系プラスチックピグメント、尿素樹脂系プラスチックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスチックピグメント等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
層(A)に含まれる無機粒子Aは、インク溶媒の吸収性の観点から、焼成カオリン及び炭酸カルシウムから選ばれることが好ましい。中でも、体積平均粒子径が0.30μm〜8.0μmである焼成カオリン及び/又は炭酸カルシウムであることがより好ましく、体積平均粒子径が0.50〜8.0μmである焼成カオリン及び/又は炭酸カルシウムであることがさらに好ましい。
なお、2次粒子の体積平均粒子径は、光散乱法を用いて測定される値である。
【0031】
前記カオリンとしては、特に限定はなく、天然のカオリンクレー(以下、単に「カオリンクレー」ともいう。)の他、カオリンクレーを処理した焼成カオリン、デラミカオリン等を用いることができる。
【0032】
前記焼成カオリンとしては、天然のカオリンクレーを焼成炉にて高温で熱し、結晶水が除去されて非晶質化した無水ケイ酸アルミニウムである。焼成カオリンの例としては、(株)イメリス ミネラルズ・ジャパン製のアルファテックス、オパシテックス等、白石カルシウム(株)製のカオカル等、エンゲルハルト社製のアンシレックス93、竹原化学工業(株)製のグロマックスLL、などを挙げることができる。
【0033】
前記デラミカオリンは、天然に産するカオリンクレー(カオリナイト)に機械的な力を加えて、層間剥離粉砕を行なったものであり、形状としては偏平な板状形状をなしている。カオリナイトは、2八面体型1:1層状ケイ酸塩であり、1:1層の化学的な組成は理想的には、AlSi・(OH)であるが、八面体陽イオンとして、Alを置換して多少のFe3+が含有される場合が多い。したがって、一般的にカオリナイトは板状を示すが、外部より物理的な力が加わると層間の剥離が起こり、さらに偏平なカオリナイトが得られる。この粉砕方法は、層剥離を目的としているため、一般にはデラミネーション粉砕と呼ばれ、この操作により得られたカオリナイトは、デラミカオリン、デラミネーションクレー、デラミネーテッドクレー、デラミクレー等と呼ばれる。本発明におけるデラミカオリンには、特定範囲に粒子径を揃えたエンジニアード・デラミカオリンも含まれる。
また、カオリンのアスペクト比は、一般には15〜20程度であるが、特にエンジニアード・デラミカオリンと呼ばれる、微細化し、均一な粒子径に揃えたものは50を超えるものもある。
【0034】
デラミカオリンとしては、例えば、(株)イメリスミネラルズ・ジャパン製のアストラプレート等、白石カルシウム(株)製のカオホワイトS、カオホワイト、カオホワイトC等、J.M.Huber社製のPolyplate P、Polyplate P01、Polyplate HMT等、エンゲルハルト社製のNuクレー等、及び白石カルシウム(株)製のカオラックスHS、(株)イメリス ミネラルズ・ジャパン製のアストラプラス、コンツアー 1500、コンツアー 2070、コンツアー エクストリーム、カピムDG、カピムNP、カピムCC等のエンジニアード・デラミカオリンなどを挙げることができる。
【0035】
カオリンクレーとしては、例えば、(株)イメリス ミネラルズ・ジャパン製のアストラシーン、アストラグロス、アストラコート、ベータブライト、アストラグレーズ、プレミアLX、プレミア、ケーシーエス等、白石カルシウム社の(商品名)カオグロス90、カオブライト90、カオグロス、カオブライト、カオファイン等、竹原化学工業(株)製のユニオンクレーRC−1等、J.M.Huber社製のHuber35、Huber35B、Huber80、Huber80B、Huber90、Huber90B、HuberHG90、Huber TEK2001、Polygloss90、Lithosperse 7005CS、等を挙げることができる。
【0036】
上記カオリンの中でも、溶媒の吸収性を高く確保する観点からは、焼成カオリン、カオリンクレーが好ましい。
【0037】
前記炭酸カルシウムとしては、上市されている市販品を用いてもよく、例えば白石工業株式会社製のカルライトSA、カルライトKT、奥多摩工業社製のタマパールTP−123などを用いることができる。
【0038】
無機粒子Aの層(A)中における含有量としては、70質量%以上98質量%以下が好ましく、より好ましくは75質量%以上95質量%以下である。無機粒子Aの量が75質量%以上の範囲であると、インク溶媒の吸収性が良好であり、インク吸収性により優れたインクジェット記録媒体を作製することができる。また、無機粒子の量が95質量%以下の範囲であると、塗膜強度の点で有利である。
なお、無機粒子Aの層中における含有量は、層を形成する組成物中の水以外の固形成分に基づいて算出される量である。
【0039】
(アクリル系共重合体)
本発明における層(A)は、少なくとも(メタ)アクリル酸に由来の構成単位(a1)及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(a2)を、5:95〜60:40の比率(a1:a2;モル比)で含むアクリル系共重合体の少なくとも一種を含有する。このアクリル系共重合体が保液剤(特に保水剤)としても機能しており、その保液効果(特に保水効果)により塗布時の紙支持体への液(特に水)の浸透が抑制されていることが表面粗さ、画像濃度、及び細線描画等の画像再現性に影響しているものと推測される。
【0040】
本発明におけるアクリル系共重合体は、分子中に、少なくとも、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位(a1)の少なくとも一種と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成単位(a2)の少なくとも一種とを共重合成分として含んでおり、場合により、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体に由来する構成単位をさらに含んで構成されてもよい。
【0041】
本発明におけるアクリル系共重合体中における、(メタ)アクリル酸に由来の構成単位(a1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(a2)との比率(a1:a2)は、モル比で5:95〜60:40の範囲とする。比率a1:a2が5:95未満、すなわちa2に対してa1が少な過ぎると、高い保液効果(特に保水効果)が得られず、記録面の表面粗さが大きくなり、細線などの描画性が悪化する。また、比率a1:a2が60:40を超える、すなわちa2に対するa1の比が大きくなり過ぎると、記録面の表面粗さが大きくなり細線などの描画性が悪化すると共に、画像濃度も低下傾向を示す。
上記のうち、比率a1:a2としては、10:90〜60:40の範囲が好ましく、15:85〜60:40の範囲がより好ましい。
【0042】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル部位は、炭素数1〜8のアルキルが好ましく、直鎖状でもよいし枝分かれ状でもよい。炭素数が8以下であることにより、保液性(特に保水性)に優れる。炭素数1〜8のアルキルとしては、例えば、メチル、エチル、(イソ)プロピル、(イソ)ブチル、ペンチル、2−メチルブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、オクチル、ヘキシル、2−ヒドロキシヘキシル等が挙げられる。中でも、炭素数1〜5のアルキルが好ましく、より好ましくは炭素数2〜4のアルキルであり、ブチルは特に好ましい。
【0043】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、上記の群より少なくとも1種を選択して用いることができる。
【0044】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単量体全量に対する比率は、30〜85質量%であることが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの比率は、30質量%以上であると、塗布液の粘度が高くなり過ぎるのが抑えられ、塗布適性を良好に維持することができ、また85質量%以下であると、サイズ効果や記録適性の向上効果がより奏される。中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの比率は、45〜85質量%が好ましい。
【0045】
前記共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルあるいはバーサチック酸ビニルなどのビニル単量体、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジアリル(メタ)アクリレートなどの、2個以上の重合性不飽和基を含有する単量体が挙げられる。これらの群から少なくとも1種以上を選択して用いることができる。
これら単量体の比率は、単量体全量に対して33.3質量%以下が好ましい。この比率が33.3質量%以下であると、サイズ効果や記録適性の向上効果がより奏される。
【0046】
アクリル系共重合体の重合方法には、特に限定はなく、公知の重合法、例えば溶液重合法、塊状重合法、水溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等を適用することができる。その中でも、上記した(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸、及び他の共重合可能な単量体を共重合成分として用い、水媒体中で乳化剤の存在下、乳化重合法により得る方法が好ましい。
【0047】
前記乳化剤の例としては、特に限定されないが、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、及び反応性乳化剤を使用することができる。
前記アニオン性乳化剤としては、オレイン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステルなどが挙げられる。また、前記ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。また、前記反応性乳化剤としては、種々の分子量(EO付加モル数の異なる)のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレングリコールのモノマレイン酸エステル及びその誘導体、(メタ)アクリロイルポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルなどが挙げられる。環境衛生、特に環境ホルモンの観点からは、高級アルコール系誘導体の乳化剤を用いることが好ましい。
【0048】
乳化剤の使用量は、通常は単量体成分100質量部に対して0.2〜10質量部程度とすればよく、好ましくは0.5〜5質量部である。乳化剤の使用量がこの範囲にあることによって、凝固物を生じることなく、適度な粒子径のエマルションが得られる。
【0049】
アクリル系共重合体を乳化重合する際に使用可能な重合開始剤としては、一般に用いられるラジカル重合開始剤を挙げることができる。ラジカル重合開始剤は、熱又は還元性物質などによってラジカルを生成してビニル系単量体の付加重合を起こさせるもので、水溶性又は油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス系化合物などがある。具体的には、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などが挙げられ、好ましくは水溶性のものである。
なお、重合速度の促進や低温反応を望む場合には、重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸、ホルムアルデヒドスルホオキシレート塩などの還元剤をラジカル重合開始剤と組み合わせて用いることができる。
前記重合開始剤を用いる場合、その使用量は、単量体成分100質量部に対して、通常は0.02〜3質量部の範囲であり、好ましくは0.05〜1質量部である。
【0050】
乳化重合に際しては、分子量低減のために、連鎖移動剤を単量体成分100質量部当たり0.001〜2質量部程度用いてもよい。連鎖移動剤としては特に限定はないが、例えば、四塩化炭素、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等のハロゲン置換アルカン類;n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、テトラデシルメルカプタン、ヘキサデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;チオグリコール酸ブチル、チオグリコール酸イソオクチル、チオグリコール酸ドデシル等のモノチオグリコール酸アルキル等のチオエステル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;α−メチルスチレンダイマー、ターピノール、テルピネン、ジペンテン等を挙げることができる。
【0051】
乳化重合においては、一括添加法、単量体成分滴下法、プレエマルジョン法等の手段を用いることができる。また、シード重合、コア・シェル重合、パワーフィード重合等の多段重合を行なうと、異相構造を有する重合体粒子を得ることができる。
単量体成分の水媒体中における濃度は、重合終了時に得られるエマルジョンの固形分が60質量%以下となるように調整することが好ましい。固形分が60質量%以下であると、エマルジョンの分散安定性が良好であり、凝集等のトラブルのおそれを回避できる。
乳化重合での反応温度は、特に限定されないが、40〜100℃が好ましく、50〜95℃がより好ましい。反応時間は、用いる単量体成分の組成、乳化剤や重合開始剤の種類等に応じて、重合反応が効率よく完結し得るように適宜設定すればよい。反応時間は、通常は3〜15時間程度である。なお、反応系には、親水性溶媒や添加剤を添加してもよい。
【0052】
乳化重合により得られたエマルジョン中のアクリル系共重合体粒子の平均粒子径は、特に制限はなく、10nm〜1μmが好ましく、20nm〜500nmがより好ましい。平均粒子径が10nm以上であると、得られるエマルジョンの粘度を高くなり過ぎないように保ち、分散安定性を良好に維持することができる。また、平均粒子径が1μm以下であると、塗布欠陥の発生をより回避することができる。
【0053】
アクリル系共重合体の重量平均分子量は、900,000〜8,000,000の範囲が好ましく、1,000,000〜6,000,000の範囲がより好ましい。重量平均分子量は、900,000以上であると保液性(特に保水性)が良好であり、8,000,000以下であると高速での塗布が可能である。重量平均分子量は、1,000,000〜4,000,000の範囲がより好ましい。
【0054】
アクリル系共重合体の層(A)中における含有量は、特に制限はないが、層(A)の全固形分に対して0.1〜4.0質量%が好ましい。含有量が0.1質量%以上であると、所望の保液性を持つ層(A)が得られ、水系の液を塗布したときには表面粗さを低く維持でき、画像形成したときには細線などの画像の描画性の向上効果が高い。また、含有量が4.0質量%以下であると、スジなどの塗布故障による細線描画性の悪化を防止する点で有利である。中でも、上記同様の理由から、アクリル系共重合体の層(A)中における含有量は、0.2〜2.0質量%がより好ましい。
また、アクリル系共重合体には、従来公知の添加剤として、分散剤、消泡剤、防黴剤、抗菌剤等が添加されていてもよい。
【0055】
無機粒子に対する前記アクリル系共重合体の質量比率(アクリル系共重合体/無機粒子)としては、0.2〜2.0質量%の範囲であることが好ましい。アクリル系共重合体/無機粒子比は、0.2質量%以上であると、記録面の表面粗さを小さく抑え、細線等の画像の描画性(画像再現性)をより高めるのに効果的であり、また2.0質量%以下であると、特に細線等の画像の描画性(画像再現性)がより高められる。
上記のうち、アクリル系共重合体/無機粒子比は、0.2〜1.5質量%の範囲が好ましく、0.2〜1.2質量%の範囲がより好ましい。
【0056】
(ポリビニルアルコール)
本発明における層(A)は、ポリビニルアルコールの少なくとも一種を含有していることが好ましい。本発明では、ポリビニルアルコールを含むことにより、前記アクリル系共重合体がポリビニルアルコール中に存在し、無機粒子間等にある水分が取り込まれ易くなる。
【0057】
ポリビニルアルコールの例としては、いわゆるポリビニルアルコール(PVA)のほか、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、及びその他ポリビニルアルコールの誘導体が含まれる。
【0058】
前記無機粒子に対するポリビニルアルコールの質量比率(ポリビニルアルコール/無機粒子)としては、5〜20質量%の範囲が好ましい。ポリビニルアルコール/無機粒子比は、5質量%以上であると、塗膜強度の点で有利であり、20質量%以下であると、インク吸収性を高める点で有利である。
上記の中でも、上記同様の理由から、ポリビニルアルコール/無機粒子比は、7〜20質量%の範囲がより好ましく、7〜15質量%の範囲が特に好ましい。
【0059】
(他の成分)
本発明における層(A)には、上記成分以外に、必要に応じて、ポリビニルアルコール以外の水溶性樹脂や、硼素化合物等の架橋剤、界面活性剤、有機溶剤等、並びに紫外線吸収剤、酸化防止剤、一重項酸素クエンチャー等の褪色防止剤などのその他添加剤などの他の成分をさらに含有することができる。
前記架橋剤、界面活性剤、有機溶剤、及びその他添加剤等の詳細については、後述の層(B)の項において略説する。
【0060】
−層(B)−
本発明のインクジェット記録媒体は、紙支持体上に設けられた前記層(A)に直接、すなわち層(A)の表面に、気相法シリカ及び湿式法シリカから選ばれる無機粒子、水溶性樹脂、及び媒染剤を含む層(B)の少なくとも一層を設けて構成されている。層(B)は、主としてインク中の色材を受容して画像形成を担う。
【0061】
(無機粒子B)
本発明における層(B)は、無機粒子として、気相法シリカ及び/又は湿式法シリカ(以下、無機粒子Bともいう。)を含有する。気相法シリカ及び湿式法シリカは、層形成した際に多孔質構造を形成しやすく、インクが付与されたときのインク吸収性を向上させる役割を持つ。
【0062】
シリカは、通常その製造法により湿式法粒子と乾式法(気相法)粒子とに大別される。
湿式法では、ケイ酸塩の酸分解により活性シリカを生成し、これを適度に重合させ凝集沈降させて含水シリカを得る方法が主流であるのに対し、気相法では、ハロゲン化珪素の高温気相加水分解による方法(火炎加水分解法)、ケイ砂とコークスとを電気炉中でアークによって加熱還元気化し、これを空気で酸化する方法(アーク法)によって無水シリカを得る方法が主流である。気相法シリカは、気相法によって得られた無水シリカの粒子であり、湿式法シリカは湿式法により得られた含水シリカの粒子である。
【0063】
気相法シリカは、含水シリカと表面のシラノール基の密度、空孔の有無等に相違があることで異なった性質を示し、空隙率の高い三次元構造を形成するのに適している。この理由は明らかではないが、含水シリカでは微粒子表面におけるシラノール基の密度が5〜8個/nmで多く、シリカ微粒子が密に凝集(アグリゲート)し易い一方、気相法シリカの場合には、微粒子表面におけるシラノール基の密度が2〜3個/nmであり少ないことから疎な軟凝集(フロキュレート)となり、結果として空隙率の高い構造になるものと推定される。
【0064】
気相法シリカは、比表面積が特に大きいので、インクの吸収性、保持の効率が高く、また、屈折率が低いので、適切な粒子径まで分散を行なえば層に透明性を付与することができ、高い色濃度と良好な発色性が得られる。層が透明であることは、OHPなど透明性が必要とされる用途のみならず、フォト光沢紙等に適用する場合でも、高い色濃度と良好な発色性、光沢が得られる。
【0065】
層(B)に含まれる気相法シリカは、1次粒子の平均粒子径が5nm〜30nmであって2次粒子の体積平均粒子径が0.05μm〜0.20μmの粒子であることが好ましく、1次粒子の平均粒子径が5nm〜20nmであって2次粒子の体積平均粒子径が0.07μm〜0.18μmの粒子であることがさらに好ましい。
【0066】
さらに、層(B)中に含まれる無機粒子Bが、1次粒子の平均粒子径が5nm〜30nmかつ2次粒子の体積平均粒子径が0.05μm〜0.20μmである気相法シリカ又は湿式法シリカであって、前記層(A)中に含まれる無機粒子Aが、体積平均粒子径が0.30μm〜8.0μmである焼成カオリン又は炭酸カルシウムであることが好ましい。また更には、層(B)中に含まれる無機粒子Bが、1次粒子の平均粒子径が5nm〜20nmかつ2次粒子の体積平均粒子径が0.07μm〜0.18μmである気相法シリカであって、前記層(A)中に含まれる無機粒子Aが、体積平均粒子径が0.50μm〜8.0μmである焼成カオリン又は炭酸カルシウムであることがより好ましい。
前記態様に構成されることにより、細線などの画像の描画性及び光沢度がより効果的に向上する。
【0067】
本発明における層(B)中における気相法シリカ及び/又は湿式法シリカの含有量としては、75〜95質量%の範囲が好ましく、より好ましくは80〜92質量%の範囲である。該含有量が75質量%以上であると、良好な多孔質構造を形成することが可能であり、インク吸収性により優れたインクジェット記録媒体が得られる。また、含有量が95質量%以下であると、塗膜強度の点で有利である。
【0068】
なお、気相法シリカ、湿式法シリカの層中における含有量は、層形成する組成物中の水以外の固形成分に基づいて算出される量である。
また、気相法シリカ、湿式法シリカについて、1次粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡を用いて測定される1次粒子100個の算術平均として算出され、また2次粒子の体積平均粒子径は、光散乱法を用いて測定される値である。
【0069】
本発明における層(B)は、本発明の効果を損なわない範囲において、無機粒子Bとして前記気相法シリカ及び湿式法シリカ以外の他の無機粒子を含んでもよい。他の無機粒子の例としては、二酸化チタン、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、ゼオライト、カオリナイト、ハロイサイト、雲母、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、ベーマイト、擬ベーマイト等を挙げることができる。
【0070】
(媒染剤)
本発明における層(B)は、媒染剤の少なくとも一種を含有する。媒染剤としては、有機媒染剤及び無機媒染剤のいずれも用いることができる。
【0071】
有機媒染剤としては、第1級〜第3級アミノ基、又は第4級アンモニウム塩基をカチオン性基として含むポリマー媒染剤が好適である。また、カチオン性の非ポリマー媒染剤を用いてもよい。また、前記無機媒染剤としては、水溶性金属化合物などが好適である。
【0072】
前記ポリマー媒染剤としては、第1級〜第3級アミノ基及びその塩、又は第4級アンモニウム塩基を有する単量体(媒染モノマー)の単独重合体や、該媒染モノマーと他のモノマー(非媒染モノマー)との共重合体又は縮重合体として得られるものが好ましい。また、これらのポリマー媒染剤は、水溶性ポリマー、又は水分散性ラテックス粒子等のいずれの形態でも使用できる。
【0073】
前記媒染モノマーの具体例としては、特開2002−274024号公報の段落番号[0069]〜[0075]に記載されている化合物を挙げることができる。
【0074】
更に、ポリマー媒染剤として、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリメタクリロイルオキシエチル−β−ヒドロキシエチルジメチルアンモニウムクロライド、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアミド−ポリアミン樹脂、カチオン化澱粉、ジシアンジアミドホルマリン縮合物、ジメチル−2−ヒドロキシプロピルアンモニウム塩重合物等も好ましい。
【0075】
中でも、滲み抑制の観点から、カチオン性ポリウレタン、特開2004−167784号公報等に記載のカチオン性ポリアクリレートが好ましく、カチオン性ポリウレタンがより好ましい。カチオン性ポリウレタンとしては、市販品として例えば、第一工業製薬(株)製の「スーパーフレックス650」、「F−8564D」、「F−8570D」、日華化学(株)製の「ネオフィックスIJ−150」などを挙げることができる。
【0076】
ポリマー媒染剤の分子量としては、重量平均分子量で2000〜300000が好ましい。分子量が前記範囲内であると、耐水性及び耐経時滲みが向上する。
【0077】
また、前記無機媒染剤としては、水溶性多価金属化合物が好適である。
水溶性多価金属化合物としては、例えば、カルシウム、バリウム、マンガン、銅、コバルト、ニッケル、アルミニウム、鉄、亜鉛、ジルコニウム、クロム、タングステン、モリブデンから選ばれる金属の水溶性塩が挙げられる。なお、水溶性金属化合物の「水溶性」は、20℃の水に1質量%以上が溶解することをいう。
【0078】
水溶性金属化合物の中でも、3価以上の多価金属化合物が好ましく、アルミニウム化合物又は周期律表4A族金属(例えばジルコニウム、チタン)を含む化合物が好ましく、アルミニウム化合物がより好ましく、特に好ましくは水溶性アルミニウム化合物である。
【0079】
前記水溶性アルミニウム化合物としては、例えば、塩化アルミニウム又はその水和物(例:塩化アルミニウム六水和物)、硫酸アルミニウム又はその水和物、アンモニウムミョウバン、亜硫酸アルミニウム、チオ硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム九水和物、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩基性チオグリコール酸アルミニウム等が知られている。さらに、無機系の含アルミニウムカチオンポリマーである塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物(以下、「塩基性ポリ塩化アルミニウム」、「ポリ塩化アルミニウム」ともいう。)が知られており、好ましく用いられる。塩基性ポリ水酸化アルミニウム化合物とは、主成分が下記式1、式2又は式3で表され、例えば、[Al(OH)153+、[Al(OH)204+、[Al13(OH)345+、[Al21(OH)603+、等の、塩基性で高分子の多核縮合イオンを安定に含む水溶性のポリ水酸化アルミニウムである。
[Al(OH)Cl6−n ・・・式1
[Al(OH)AlCl ・・・式2
Al(OH)Cl(3n−m)〔0<m<3n〕・・・式3
これらは、多木化学(株)よりポリ塩化アルミニウム(PAC)の名称で水処理剤として、浅田化学(株)よりポリ水酸化アルミニウム(Paho)の名称で、また、(株)理研グリーンよりHAP−25の名称で、大明化学(株)よりアルファイン83の名称で、さらに他のメーカーからも同様の目的で上市されており、各種グレードの物が容易に入手できる。
【0080】
媒染剤の層(B)中における含有量としては、層(B)の全質量に対して、1〜20質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましい。媒染剤の含有量が前記範囲内であると、インクの吸収、透過が阻害されるのを効果的に防ぐことができる。
本発明における層(B)を、(1)層(B)形成用の塗布液の塗布と同時、又は(2)該塗布によって形成された塗布層の乾燥途中であって該塗布層が減率乾燥を示す前、のいずれかのときに、前記塗布層に塩基性化合物を含む塩基性溶液を付与する方法により形成する場合には、層(B)形成用の塗布液中に含まれる媒染剤の量が、最終的に得られる層(B)中に含まれる全媒染剤量の95質量%以上を占めることが好ましい。該塗布液中に含まれる媒染剤の量が前記範囲内であると、ブロンジングを効果的に防ぐことができる。
【0081】
(水溶性樹脂)
本発明における層(B)は、水溶性樹脂の少なくとも一種を含有する。
水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール、セルロース系樹脂〔メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等〕、キチン類、キトサン類、デンプン;エーテル結合を有する樹脂である、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル(PVE);アミド基又はアミド結合を有する樹脂であるポリアクリルアミド(PAAM)、ポリビニルピロリドン(PVP)、並びに、解離性基としてカルボキシル基を有する、ポリアクリル酸塩、マレイン酸樹脂、アルギン酸塩、ゼラチン類等が挙げられる。これらの水溶性樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0082】
中でも、ポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコールと他の水溶性樹脂とを併用する場合、全水溶性樹脂中におけるポリビニルアルコールの含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0083】
ポリビニルアルコールとしては、例えば、ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、及びその他ポリビニルアルコールの誘導体が含まれる。
【0084】
ポリビニルアルコールは、その構造単位に水酸基を有するが、この水酸基とシリカ微粒子表面のシラノール基とが水素結合を形成して、シリカ微粒子の2次粒子を鎖単位とする三次元網目構造を形成しやすくする。このように三次元網目構造が形成されることにより、空隙率の高い多孔質構造の層(B)が形成されるものと考えられる。このように形成された多孔質の層(B)は、毛細管現象によって急速にインクを吸収し、インク滲みの発生を抑えて真円性の良好なドットを形成することができる。
【0085】
水溶性樹脂の層(B)中における含有量としては、該含有量の過少による、膜強度の低下や乾燥時のひび割れを防止するとともに、該含有量の過多により、該空隙が樹脂によって塞がれやすくなり、空隙率が減少することでインク吸収性が低下するのを防止する観点から、層(B)の全固形分に対して、9〜40質量%が好ましく、12〜33質量%がさらに好ましい。
【0086】
水溶性樹脂は、層(B)のひび割れ防止の観点から、数平均重合度が1800以上であるものが好ましく、2000以上であるものがより好ましい。中でも、光沢度や画像濃度の観点から、鹸化度88%以上のPVAが好ましく、鹸化度89〜97.5%のPVAがより好ましく、鹸化度91〜96%のPVAが特に好ましい。
【0087】
本発明における層(B)において、無機粒子(例えば気相法シリカ;p)と水溶性樹脂(例えばPVA;b)との含有比〔PB比(p:b)、水溶性樹脂1質量部に対する無機粒子の質量〕は、層(B)の膜構造にも大きな影響を与える。すなわち、PB比が大きくなると、空隙率、細孔容積、表面積(単位質量当り)が大きくなる。具体的には、PB比(p:b)としては、該PB比が大きすぎることに起因する膜強度の低下や、乾燥時のひび割れを防止し、さらに、該PB比が小さすぎることによって、該空隙が水溶性樹脂によってふさがれやすくなり、空隙率が減少することでインク吸収性が低下するのを防止する観点から、1.5:1〜10:1が好ましい。
【0088】
(他の成分)
本発明における層(B)は、上記成分以外に、硼素化合物等の架橋剤や、界面活性剤、有機溶剤などの他の成分を含有することができる。
【0089】
前記架橋剤としては、例えば、特開2006−321176号公報の段落番号[0125]〜[0129]に記載のものを挙げることができ、好ましい態様も同様である。
【0090】
前記界面活性剤としては、例えば、特開2006−321176号公報の段落番号[0149]〜[0154]に記載ものを挙げることができ、好ましい態様も同様である。
【0091】
前記有機溶剤としては、例えば、特開2006−321176号公報の段落番号[0155]に記載ものを挙げることができ、好ましい態様も同様である。
【0092】
さらに本発明における層(B)は、必要に応じて、各種の紫外線吸収剤、酸化防止剤、一重項酸素クエンチャー等の褪色防止剤などのその他添加剤を含有することができる。なお、これらの添加剤の詳細については、特開2007−98657号公報の段落[0081]〜[0090]の記載を参照することができる。
【0093】
以下、本発明のインクジェット記録媒体の製造方法について詳述する。
本発明のインクジェット記録媒体は、既述のように、紙支持体上に層(A)を設け、該層(A)の表面に層(B)を形成することができる方法であれば、いずれの方法で形成されてもよい。本発明のインクジェット記録媒体は、好ましくは、無機粒子が分散された分散液と「少なくとも(メタ)アクリル酸に由来の構成単位(a1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(a2)とを5:95〜60:40の比率(a1:a2;モル比)で含むアクリル系共重合体」を含有する水溶液又は乳化物とを混合して第1の塗布液を調製し、調製した第1の塗布液を紙支持体上に塗布して層(A)を形成する工程(以下、「A層形成工程」ともいう。)と、層(A)の表面に、気相法シリカ及び湿式法シリカから選ばれる無機粒子と水溶性樹脂と媒染剤とを含有する第2の塗布液を塗布して層(B)を形成する工程(以下、「B層形成工程」ともいう。)と、を設けた製造方法(本発明のインクジェット記録媒体の製造方法)により作製される。
なお、前記製造方法におけるアクリル系共重合体、水溶性樹脂、媒染剤等の各成分の詳細については、既述のインクジェット記録媒体の項で説明した通りである。
【0094】
本発明において、A層形成工程で調製される塗布液は、まず無機粒子が分散された分散液とポリビニルアルコール水溶液とを混合し、得られた混合液にアクリル系共重合体を含有する水溶液又は乳化物を混合することにより調製される態様が好ましい。このように、アクリル系共重合体の混合前に予め、無機粒子の分散液とPVA水溶液とを混合しておくようにすると、アクリル系共重合体の保液効果(特に保水効果)を高める点で有利である。
【0095】
A層形成工程において、塗布液の調製に用いる「無機粒子が分散された分散液」は、無機粒子の分散液中での体積平均粒子径が0.3〜8.0μmであることが好ましく、0.5〜5.0μmであることがより好ましい。
体積平均粒子径は、LA−920(株式会社堀場製作所製)を用い、レーザー回折/散乱式により測定される。
【0096】
B層形成工程において、層(B)形成用の塗布液に含有される無機粒子の分散は、無機粒子と共にカチオン性樹脂を添加しておき、無機粒子がカチオン性樹脂で分散された形態とするのが好ましい。
カチオン性樹脂には、特に制限はないが、水溶性又は水性エマルションタイプ等を好適に用いることができる。カチオン性樹脂としては、例えば、ジシアンジアミド−ホルマリン重縮合物に代表されるジシアン系カチオン樹脂、ジシアンアミド−ジエチレントリアミン重縮合物に代表されるポリアミン系カチオン樹脂、エピクロルヒドリン−ジメチルアミン付加重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド−SO共重合物、ジアリルアミン塩−SO共重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、アリルアミン塩の重合物、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩重合物、アクリルアミド−ジアリルアミン塩共重合体等のポリカチオン系カチオン樹脂などが挙げられ、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、モノメチルジアリルアンモニウムクロライド及びポリアミジンが好ましく、耐水性の点で、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、及びモノメチルジアリルアンモニウムクロライドが特に好ましい。カチオン性樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0097】
カチオン樹脂の層(B)中における含有量は、無機粒子100質量部に対して、1〜30質量部が好ましく、より好ましくは3〜20質量部である。カチオン樹脂の添加態様としては、粉砕分散前に少量添加して、所望の粒径になるまで粉砕分散した後、さらに添加してもよい。
【0098】
本発明のインクジェット記録媒体は、層(A)形成用の第1の塗布液と層(B)形成用の第2の塗布液とを、紙支持体の側からこの順に、紙支持体上に同時重層塗布し、(1)該塗布と同時、又は(2)該塗布によって形成された塗布層の乾燥途中であって該塗布層が減率乾燥を示す前、のいずれかのときに、前記塗布層に塩基性化合物を含む塩基性溶液を付与し、前記塗布液及び前記塩基性溶液の少なくとも一方に架橋剤を含ませて、架橋硬化された層を形成する工程を設けた方法により製造されたものであることが好ましい。
【0099】
層(A)又は層(B)形成用の塗布液に含有される成分、具体的には無機粒子、PVA又はそれ以外の水溶性樹脂、媒染剤、及び必要により架橋剤等の他の成分の詳細については、既述の通りである。
【0100】
第1の塗布液は、例えば、焼成カオリン又は炭酸カルシウム(無機粒子)とポリビニルアルコールとノニオン性もしくは両性界面活性剤とを含むものが挙げられる。また、第2の塗布液は、気相法シリカ又は湿式シリカとPVA(水溶性樹脂)と媒染剤とノニオン性もしくは両性界面活性剤とを含むものが挙げられる。
ここでは、上記第2の塗布液を一例に調製方法を示す。具体的には、
まず水中に、気相法シリカ(又は湿式シリカ)を添加し、さらに媒染剤を加えた後、高圧ホモジナイザーやサンドミル等で分散する。その後、これにPVA水溶液(例えば、気相法シリカの1/3程度の質量のPVAとなるように)を加え、さらにノニオン性もしくは両性界面活性剤を添加し、攪拌することで調製することができる。得られた塗布液は、均一ゾルであり、これを下記塗布方法で支持体上に塗布することにより、三次元網目構造を有する多孔質層を形成することができる。
【0101】
層(A)形成用の塗布液のpHは、8.0以上が好ましく、8.3以上がより好ましく、8.5以上が更に好ましい。
層(B)形成用の塗布液は、酸性溶液であることが好ましく、そのpHとしては5.0以下が好ましく、4.5以下がより好ましく、4.0以下が更に好ましい。pHは、媒染剤の種類や量を選定することで調整できる。また、有機又は無機の酸を添加して調整してもよい。pHが5.0以下であることにより、硼素化合物等の架橋剤による水溶性樹脂の架橋反応を抑制することができる。
【0102】
第1の塗布液と第2の塗布液とは、各液を紙支持体上に逐次塗布してもよいし、紙支持体上に同時重層塗布されてもよい。本発明では、同時重層塗布によることが好ましい。
同時重層塗布は、例えば、エクストルージョンダイコーター、カーテンフローコーターを用いた塗布方法により行なえる。同時重層塗布の後、形成された塗布層は乾燥されるが、この場合の乾燥は一般に塗布層を40℃〜150℃で0.5分間〜10分間加熱することにより行なわれ、好ましくは40℃〜100℃で0.5〜5分間加熱することにより行なわれる。硼素化合物を用いる場合、60℃〜100℃で5分間〜20分間加熱することが好ましい。
【0103】
第1の塗布液及び第2の塗布液の塗布量は、それぞれ10〜200g/mが好ましく、15〜180g/mがより好ましい。また、第1の塗布液及び第2の塗布液の合計塗布量は、10〜200g/mが好ましく、15〜180g/mがより好ましい。
【0104】
塩基性溶液は、pHが7.1以上の溶液であることが好ましく、pH7.5以上の溶液あることがより好ましい。pHが7.1以上であると、層を架橋硬化させる場合の硬膜反応が良好になり、傷の発生が生じ難くなる。塩基性溶液のpHは、塩基性物質を添加することにより調整できる。塩基性物質としては、分子量700以下のアミン系化合物などが挙げられ、例えば、アンモニア、第一級アミン(エチルアミン等)、第二級アミン(ジメチルアミン等)、第三級アミン(N−エチル−N−メチルブチルアミン、トリエチルアミン等)、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物及び/又はその塩(好ましくはアンモニウム塩)が挙げられる。また、その他のエチレンジアミン等の多価アミンを添加することもできる。
【0105】
塩基性物質の中でも、層の耐傷性、湿熱滲み、保存性などの性能向上の点で、アンモニア、分子量700以下の第一級〜第三級アミンから選択される少なくとも1種が好ましく、更にはアンモニア、分子量700以下のアンモニウム塩が好ましい。
【0106】
塩基性溶液は、硼素化合物などの架橋剤を含んでもよい。また、塩基性溶液は、画像の耐水性、耐経時滲みの更なる向上を図るために、カチオン性媒染剤などの媒染剤成分を含有してもよい。架橋剤、媒染剤成分の詳細については、既述の通りである。
【0107】
「塗布層が減率乾燥を示す前」とは、通常は塗布液の塗布直後から数分間をさし、この間においては塗布された塗布層中の溶剤の含有量が時間に比例して減少する現象である恒率乾燥を示す。この恒率乾燥を示す時間については、化学工学便覧(pp.707〜712、丸善(株)発行、昭和55年10月25日)に記載されている。
【0108】
塗布形成された塗布層は、減率乾燥を示すようになるまで乾燥されるが、このときの乾燥は一般に40℃〜180℃で0.5分間〜10分間(好ましくは、0.5分間〜5分間)行なわれる。また、乾燥時間としては、当然塗布量により異なるが上記範囲が適当である。
【0109】
第1及び第2の塗布液を塗布して形成した塗布層が、減率乾燥を示すようになる前に塩基性溶液を付与する方法としては、(i)塩基性溶液を塗布液の塗布により形成された塗布層上に更に塗布する方法、(ii)スプレー等の方法によって塩基性溶液を噴霧する方法、(iii)塩基性溶液中に、第1及び第2の塗布液が塗布されて塗布層が形成された支持体を浸漬する方法、等が挙げられる。なお、方法(i)において塗布する方法としては、例えば、カーテンフローコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等の公知の塗布方法が挙げられる。中でも、エクストルージョンダイコーター、カーテンフローコーター等の既設の塗布層にコーターが接触しない方法が好ましい。
【0110】
塩基性溶液の付与量としては、0.1〜40g/mが好ましく、0.5〜30g/mがより好ましい。
【0111】
また、塩基性溶液の付与を塗布液の塗布と同時に行なう場合、塗布液及び塩基性溶液を、塗布液が支持体と接触する積層順にて支持体の上に同時重層塗布し、乾燥硬化させることができる。
【0112】
本発明における層(A)及び層(B)の形成は、塗布後の塗布層を、塗布時の塗布液の温度に対して5℃以上低下するように冷却する工程と、冷却された塗布層を乾燥させて所望の層とする工程とを有する形態(セット乾燥法)により行なってもよい。
【0113】
塗布層を冷却する方法としては、塗布層が形成された支持体を0〜10℃に保たれた冷却ゾーンで5〜30秒間、冷却させる方法が好適である。冷却する工程においては、0〜10℃低下するように冷却することが好ましく、0〜5℃以上低下するように冷却することがより好ましい。塗布層の温度は、膜面の温度を測定することにより測定される。
【実施例】
【0114】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0115】
(実施例1)
−支持体の作製−
LBKP100部からなる木材パルプをダブルディスクリファイナーによりカナディアンフリーネス300mlまで叩解し、エポキシ化ベヘン酸アミド0.5部、アニオンポリアクリルアミド1.0部、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン0.1部、カチオンポリアクリルアミド0.5部を、いずれもパルプに対する絶乾質量比で添加し、長網抄紙機により秤量し170g/mの原紙を抄造した。
【0116】
得られた原紙の表面サイズを調整するため、ポリビニルアルコール4質量%水溶液に蛍光増白剤(住友化学工業(株)製の「Whitex BB」)を0.04質量%添加し、これを絶乾重量換算で0.5g/mとなるように原紙に含浸させた。乾燥後、更にキャレンダー処理を施し、密度1.05g/cmに調整した基紙を得て、支持体とした。
【0117】
−インク受容層の形成−
(インク受容層形成用塗布液A−1の調製)
下記組成中の(1)イオン交換水36.7kgを攪拌しながら、(2)ポリビニルアルコール水溶液を加え、これに更に(3)無機粒子分散液C−1、及び(4)ポリオキシエチレンラウリルエーテル水溶液を加えた。その後、10分間攪拌を行ない、(5)水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを8.5に調整した。さらに(6)メタクリル酸/アクリル酸ブチルエステル共重合体を加えた後、(7)水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを8.5に調整した。さらに(8)イオン交換水を加えて全量を100.0kgに調整することにより、インク受容層形成用塗布液A−1を調製した。
なお、下記組成中、焼成カオリン(無機粒子)に対するメタクリル酸/アクリル酸ブチルエステル共重合体(アクリル系共重合体)の質量比率は0.3質量%であり、また焼成カオリン(無機粒子)に対するポリビニルアルコールの質量比率は10質量%である。
【0118】
<インク受容層形成用塗布液A−1の組成>
(1)イオン交換水 ・・・36.7kg
(2)ポリビニルアルコール水溶液(5質量%) ・・・28.0kg
(PVA−145、鹸化度99mol%以上、重合度4500、(株)クラレ製)
(3)下記無機粒子分散液C−1(無機粒子固形分:40質量%)・・・35.0kg
(4)ポリオキシエチレンラウリルエーテル水溶液(10質量%)・・・0.20kg
(エマルゲン109P、花王(株)製;ノニオン系界面活性剤)
(5)水酸化ナトリウム水溶液(0.4質量%) ・・・pH8.5となるように添加
(6)メタクリル酸/アクリル酸ブチルエステル(共重合比(モル比)=45/55、重量平均分子量:2,000,000)共重合体の30質量%乳化液
・・・0.14kg
(7)水酸化ナトリウム水溶液(0.4質量%)・・・pH8.5となるように添加
(8)イオン交換水 ・・・全量が100.0kgとなる残量
【0119】
(無機粒子分散液C−1の調製)
下記組成中のイオン交換水にポリアクリル酸ナトリウム及び焼成カオリンを混合し、超音波分散機((株)エスエムテー製)を用いて分散させ、無機粒子分散液C−1を調製した。得られた無機粒子分散液の体積平均粒子径は1.5μmであった。
<無機粒子分散液C−1の組成>
・イオン交換水 ・・・590.7kg
・ポリアクリル酸ナトリウム(40質量%)・・・9.3kg
(アロンT−50、東亜合成社製)
・焼成カオリン ・・・400.0kg
(カオカル、体積平均粒子径:2.3μm、白石カルシウム(株)製)
なお、体積平均粒子径は、LA−920(株式会社堀場製作所製)により求められる。
【0120】
(インク受容層形成用塗布液B−1の調製)
下記組成中の(1)イオン交換水400kgに(2)気相法シリカ微粒子を混合し、これに(3)シャロールDC−902Pを混合し、ナノマイザーLA31(ナノマイザー(株)製)を用いて500kg/mの圧力で2回処理を行なった。得られたシリカ分散液の2次粒子の体積平均粒子径は、0.12μmであった。
その後、60分間攪拌を行ない、撹拌しながら(4)ZA−30を添加した。これに更に、(5)ポリビニルアルコール水溶液を攪拌しながら加え、さらに(6)ポリオキシエチレンラウリルエーテル水溶液と(7)ジエチレングリコールモノブチルエーテルとを加えた。さらに(8)イオン交換水を加え、全量を1000.0kgに調整することにより、インク受容層形成用塗布液B−1を調製した。
なお、気相法シリカ(無機粒子)とポリビニルアルコール(水溶性樹脂)との質量比(無機微粒子:水溶性樹脂)は、4.9:1であった。
【0121】
<インク受容層形成用塗布液B−1の組成>
(1)イオン交換水 ・・・400.0kg
(2)気相法シリカ微粒子(無機粒子) ・・・86.0kg
(アエロジル300、1次粒子の平均粒子径7nm、エボニックデグッサ(株)製)
(3)シャロールDC−902P(51.5質量%) ・・・7.0kg
(カチオン性樹脂、媒染剤、第一工業製薬(株)製)
(4)ZA−30 ・・・5.0kg
(媒染剤、酢酸ジルコニル、第一稀元素化学工業(株)製)
(5)ポリビニルアルコール水溶液(5質量%) ・・・353.0kg
(JM−33、鹸化度94.3mol%、重合度3300、日本酢ビ・ポバール社製)
(6)ポリオキシエチレンラウリルエーテル水溶液(10質量%)・・・10.4kg
(エマルゲン109P、花王(株)製;ノニオン系界面活性剤)
(7)ジエチレングリコールモノブチルエーテル ・・・3.0kg
(DEGmBE;高沸点有機溶剤)
(8)イオン交換水 ・・・全量が1000.0kgとなる残量
【0122】
(インク受容層の形成)
上記で得られた支持体のオモテ面にコロナ放電処理を施し、このコロナ放電処理面に支持体に近い側から順次、前記インク受容層形成用塗布液A−1を85g/mと、前記インク受容層形成用塗布液B−1を60g/mとを互いに隣接するようにエクストルージョンダイコーターにて同時重層塗布した。次いで、塗布形成された塗布層を熱風乾燥機にて80℃(風速3〜8m/sec)で、前記インク受容層形成用塗布液A−1、B−1で形成された各層の固形分濃度がそれぞれ20質量%になるまで乾燥させた。この間、インク受容層形成用塗布液A−1及びインク受容層形成用塗布液B−1により形成された塗布層は、いずれも恒率乾燥を示した。その直後、これらの塗布層を下記組成の塩基性溶液に30秒浸漬し、前記インク受容層形成用塗布液B−1で形成された塗布層の上に塩基性溶液15g/m(湿潤塗布量)を付着させた。
その後、更に80℃下で10分間、乾燥させ、紙支持体上に2層が積層されてなるインクジェット記録媒体を作製した。
【0123】
<塩基性溶液の組成>
・イオン交換水 ・・・70.0kg
・ホウ酸 ・・・0.65kg
・ポリオキシエチレンラウリルエーテルの水溶液(10質量%)・・・5.0kg
(ノニオン系界面活性剤、エマルゲン109P、花王(株)製)
・炭酸アンモニウム ・・・pH7.8となるように添加
・イオン交換水 ・・・全量が100.0kgとなる残量
【0124】
(実施例2〜3)
実施例1のインク受容層形成用塗布液A−1の調製において、メタクリル酸/アクリル酸ブチルエステル共重合体の共重合比45:55を、下記表1に示す共重合比に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録媒体を作製した。
なお、各共重合体の重量平均分子量は、実施例1と同様に2,000,000とした。
【0125】
(実施例4〜6)
実施例1のインク受容層形成用塗布液A−1の調製において、メタクリル酸/アクリル酸ブチルエステル共重合体の含有量(0.14kg)を、0.047kg、0.47kg、1.4kgに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録媒体を作製した。湿式シリカに対するメタクリル酸/アクリル酸ブチルエステル共重合体のモル比率を下記表1に示す。
【0126】
(実施例7)
実施例1のインク受容層形成用塗布液A−1の調製において、(6)メタクリル酸/アクリル酸ブチルエステル共重合体の30質量%乳化液を、メタクリル酸/アクリル酸エチルエステル(共重合比(モル比)=45/55、重量平均分子量:3,000,000)共重合体の30質量%乳化液に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録媒体を作製した。
【0127】
(実施例8)
実施例1のインク受容層形成用塗布液A−1の調製において、無機粒子分散液C−1の組成中の焼成カオリンを炭酸カルシウム(カルライトKT、平均粒子径2.3μm、白石工業株式会社製)に代えた(無機粒子分散液の体積平均粒子径は2.2μmとなった)こと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録媒体を作製した。
【0128】
(実施例9)
実施例1において、インク受容層形成用塗布液A−1の調製に用いた無機粒子分散液C−1の組成中の焼成カオリンを炭酸カルシウム(カルライトKT、平均粒子径2.3μm、白石工業株式会社製)に代え(無機粒子分散液の体積平均粒子径:2.2μm)、さらにインク受容層形成用塗布液B−1の組成中の気相法シリカ微粒子(無機粒子)を湿式法シリカ(ミズカシルP−705、2次粒子の平均粒子径:3.0μm、水沢化学工業社製)に代えた(無機粒子分散液の体積平均粒子径は3.1μmとなった)こと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録媒体を作製した。
【0129】
(実施例10)
実施例1のインク受容層形成用塗布液A−1の調製において、無機粒子分散液C−1の組成中の焼成カオリンをカオリン(ASP−400P、平均粒子径 4.8μm、林化成株式会社製)に代えた(無機粒子分散液の体積平均粒子径は4.6μmとなった)こと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録媒体を作製した。
【0130】
(比較例1)
実施例1のインク受容層形成用塗布液A−1の調製において、メタクリル酸/アクリル酸ブチルエステル共重合体の共重合比45:55を、下記表1に示す共重合比に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録媒体を作製した。
【0131】
(比較例2〜3)
実施例1のインク受容層形成用塗布液A−1の調製において、メタクリル酸/アクリル酸ブチルエステル共重合体の共重合比45:55を、下記表1に示す共重合比に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録媒体を作製した。
【0132】
(比較例4)
実施例1のインク受容層形成用塗布液A−1の調製において、メタクリル酸/アクリル酸ブチルエステル共重合体を含有しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、インクジェット記録媒体を作製した。
【0133】
(評価)
−1.表面粗さ(SRa)−
インクジェット記録媒体の記録面となる表面のSRaを、塗布方向をX方向、塗布方向と垂直な方向をY方向として、下記条件により測定し、下記評価基準にしたがって評価を行なった。
<測定条件>
・使用機器:黒田精工株式会社製の表面形状測定装置ナノメトロ110F
・走査方向:サンプルのY方向
・測定長さ:X方向:50mm、Y方向:30mm
・測定ピッチ:X方向:0.1mm、Y方向:0.1mm
・走査速度:20mm/sec
・バンドパスフィルター:2.5〜3mm
<評価基準>
AA:SRaが0.65未満であり、紙の凹凸感がなく大変良好であった。
A :SRaが0.65以上0.70未満であり、紙の凹凸感がなく良好であった。
B :SRaが0.70以上0.85未満であり、紙の凹凸感が僅かに見られるが、気にならない程度で実用上許容可能な範囲であった。
C :SRaが0.85以上であり、紙の凹凸感が目立ち、実用上許容できない範囲であった。
【0134】
−2.画像濃度−
純正インクセットを装填したインクジェットプリンタ(セイコーエプソン(株)製、EP−801A)を用いて、各インクジェット記録用媒体上に黒のベタ画像をそれぞれ記録し、23℃、50%RHの環境下で24時間、乾燥させた。その後、各インクジェット記録媒体について、黒のベタ画像部分の濃度を反射濃度計(X−rite社製、Xrite310TR)にて測定した。その後、インクジェット記録媒体の画像濃度を下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:2.5以上
B:2.3以上2.5未満
C:2.3未満
【0135】
−3.細線描画性−
インクジェット記録媒体に市販のインクジェットプリンタ(セイコーエプソン(株)製、EP−801A)を用いて、レッド、グリーン、ブルーの各細線(線幅0.5mm)を記録した後、目視25倍のルーペで観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:細線に滲みがなかった。
B:細線に僅かに滲みが認められた。
C:細線が著しく滲んでいた。
【0136】
【表1】

【0137】
前記表1に示すように、実施例では、表面粗さが低く抑えられ、形成された画像は濃度が高く描画性に優れたものであった。これに対し、比較例では、表面粗さが大きく、細線等の画像の描画性(画像再現性)に劣っており、実施例と同等の画像再現性を得ることができなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙支持体と、
前記紙支持体上に設けられ、無機粒子、及び少なくとも(メタ)アクリル酸に由来の構成単位(a1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(a2)とを5:95〜60:40の比率(a1:a2;モル比)で含むアクリル系共重合体を含む層(A)と、
前記層(A)の前記紙支持体が配されていない側に前記層(A)と接して設けられ、気相法シリカ及び湿式法シリカから選ばれる無機粒子、水溶性樹脂、及び媒染剤を含む層(B)と、
を有するインクジェット記録媒体。
【請求項2】
前記層(A)中の前記無機粒子に対する前記アクリル系共重合体の質量比率(アクリル系共重合体/無機粒子)が0.2〜2.0質量%である請求項1に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項3】
前記層(A)は、更に、ポリビニルアルコールを含み、無機粒子に対するポリビニルアルコールの質量比率(ポリビニルアルコール/無機粒子)が5〜20質量%である請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項4】
前記層(B)中の前記無機粒子が気相法シリカである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項5】
前記層(A)中の無機粒子が、焼成カオリン及び炭酸カルシウムから選ばれる粒子である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アルキル部位が炭素数2〜4のアルキルである請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインクジェット記録媒体。
【請求項7】
無機粒子が分散された分散液、及び少なくとも(メタ)アクリル酸に由来の構成単位(a1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来の構成単位(a2)とを5:95〜60:40の比率(a1:a2;モル比)で含むアクリル系共重合体を含有する水溶液又は乳化物を混合して第1の塗布液を調製し、調製した第1の塗布液を紙支持体上に塗布して層(A)を形成する工程と、
前記層(A)の表面に、気相法シリカ及び湿式法シリカから選ばれる無機粒子と水溶性樹脂と媒染剤とを含有する第2の塗布液を塗布して層(B)を形成する工程と、
を有するインクジェット記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記層(A)を形成する工程は、無機粒子が分散された分散液とポリビニルアルコール水溶液とを混合し、得られた混合液にアクリル系共重合体を含有する水溶液又は乳化物を混合することにより前記塗布液を調製する請求項7に記載のインクジェット記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記第1の塗布液と前記第2の塗布液とを同時重層塗布することにより前記層(A)及び前記層(B)を形成する請求項7又は請求項8に記載のインクジェット記録媒体の製造方法。


【公開番号】特開2012−76319(P2012−76319A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222426(P2010−222426)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】